説明

水ジェット推進艇

【課題】 バッテリの消費電力を低減して、バッテリの小型化および長寿命化ができるとともに、低コスト化が図れる水ジェット推進艇を提供すること。
【解決手段】 水ジェット推進艇10に、電気制御装置40の制御により駆動して燃料タンク20内の燃料を燃料配管38を介してエンジン14に供給する燃料ポンプ33と、燃料ポンプ33の駆動によってエンジン14に供給される燃料の圧力を検出する燃料圧力センサ35とを設けた。そして、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力の値が設定値未満のときには、燃料ポンプ33が駆動し、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力の値が設定値以上のときには、燃料ポンプ33の駆動が停止するようにした。また、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力値が異常しきい値以下になったときに、燃料ポンプ33およびエンジン14の双方または一方の駆動を停止させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ポンプの駆動により、燃料タンクからエンジンに供給される燃料の圧力を検出する燃料圧力検出装置を備えた水ジェット推進艇に関する。
【背景技術】
【0002】
水ジェット推進艇の中には、燃料ポンプの駆動により、燃料タンクからエンジンに供給される燃料の圧力を検出する燃料圧力検出装置が備わったものがある(例えば、特許文献1参照)。この水ジェット推進艇では、艇体のエンジンルームに設けられた燃料タンクの内部に燃料ポンプが搭載され、エンジンの電装系が起動することにより燃料ポンプが駆動して燃料タンク内の燃料をエンジンに圧送する。また、燃料タンクとエンジンとを結ぶ配管に、燃料圧力を検出する燃圧センサが設けられ、燃料タンクには、燃料タンクからエンジンに送られる燃料の圧力を一定にするための圧力調整弁が設けられている。このため、燃料タンクの燃料を圧力調整弁で一定の圧力にしてエンジンに送ることができ、そのエンジンに送られる燃料の圧力は燃圧センサで検出される。
【特許文献1】特開2002−161800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述した従来の水ジェット推進艇では、エンジンの駆動中は、燃料ポンプが常時駆動して燃料をエンジンに圧送し続け、エンジンの駆動停止により燃料ポンプも駆動を停止する。このように、エンジンの駆動中に、常時燃料ポンプが駆動するため、消費電力が多くなり、大型のバッテリが必要になるとともに、燃料ポンプの寿命が短くなる。また、燃料タンクからエンジンに送られる燃料の圧力を一定にするための圧力調整弁も備わっているため、コストが高くつくという問題もある。さらに、水ジェット推進艇が転覆した際には、燃料ポンプにおける燃料吸入口が上方に位置するため、燃料ポンプの駆動によりエンジン側に空気が入り続ける。その結果、エンジンの再始動性が悪化するため、転覆した場合に、燃料ポンプの駆動が継続することは好ましくない。
【0004】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、バッテリの消費電力を低減して、バッテリの小型化および長寿命化ができるとともに、燃料の圧力を一定にするための圧力調整弁を不要にすることにより低コスト化が図れる水ジェット推進艇を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述した目的を達成するため、本発明に係る水ジェット推進艇の構成上の特徴は、制御装置の制御によってエンジンが駆動してジェットポンプを作動させることにより推進する水ジェット推進艇であって、水ジェット推進艇の艇体内に設置された燃料タンクと、燃料タンクからエンジンに延びる燃料配管と、制御装置の制御により駆動して燃料タンク内の燃料を燃料配管を介してエンジンに供給する燃料ポンプと、燃料ポンプの駆動によってエンジンに供給される燃料の圧力を検出する燃料圧力検出装置とを備え、燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値が、所定の設定値未満のときには、制御装置の制御により、燃料ポンプは駆動し、燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値が設定値以上のときには、制御装置の制御により、燃料ポンプは駆動を停止するようにしたことにある。
【0006】
このように構成した本発明に係る水ジェット推進艇では、燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値がエンジンの駆動に十分な値である場合には、燃料ポンプの駆動を停止し、燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値が、所定の設定値未満の場合、例えばエンジンを駆動させるための必要最小限の値よりも多少大きいだけの小さな値である場合のみ燃料ポンプを駆動させるようにしている。このため、燃料ポンプを駆動させるために消費される電力が少なくなり、省電力化が図れる。
【0007】
この結果、バッテリを小型化することができ、これによって低コスト化が可能になる。また、燃料ポンプを必要最低限しか駆動させないため、燃料ポンプの長寿命化が図れる。さらに、燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値に応じて、燃料ポンプの駆動を制御して燃料圧力を調整するため、圧力調整弁が不要になる。なお、本発明における設定値は、適宜、任意の値に設定することができるが、エンジンの駆動に必要な燃料圧力の範囲内の中央の値よりも小さい値にすることが好ましい。
【0008】
また、本発明に係る水ジェット推進艇の他の構成上の特徴は、燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値が設定値よりも小さな異常しきい値以下になったときに、制御装置の制御により、燃料ポンプおよびエンジンの双方または一方の駆動を停止させるようにしたことにある。
【0009】
これによると、水ジェット推進艇の転覆等により、燃料ポンプが空気を吸い込んで、燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力が異常に低下した場合には、燃料ポンプおよびエンジンの双方または一方の駆動が停止する。このため、燃料ポンプに吸い込まれた空気が、燃料ポンプを通過してエンジン側に侵入することを素早く防止できる。この結果、エンジンの駆動を停止させ、再度エンジンを始動させる際には、エンジンはスムーズに始動するようになる。
【0010】
また、通常、水ジェット推進艇は、転覆を検出する転倒センサを備えているが、本発明によると、燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力が異常しきい値以下になることで、水ジェット推進艇が転覆している可能性があると判定できるため、転倒センサが不要になる。これによっても、低コスト化が可能になる。なお、異常しきい値としては、正常なエンジンの駆動が可能な燃料圧力の値の下限よりも著しく低く、燃料ポンプが空気を吸い込んでいることを示す値に設定することが望ましい。
【0011】
また、本発明に係る水ジェット推進艇のさらに他の構成上の特徴は、燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値が異常しきい値以下である状態が所定時間以上続いたときに、制御装置の制御により、燃料ポンプおよびエンジンの双方または一方の駆動を停止させるようにしたことにある。
【0012】
例えば、水ジェット推進艇が一時的に転覆しても、その後すぐに水ジェット推進艇が正常な状態に戻って航走する場合には、燃料ポンプやエンジンが停止することは好ましくない。また、水ジェット推進艇が転覆状態ではなく、正常に航走している場合でも、燃料の残量が少量であるときに、艇体が振動したりして燃料ポンプが空気を吸い込むこともあるが、水ジェット推進艇が正常に航走していれば、燃料ポンプやエンジンが停止することは好ましくない。なぜなら、水ジェット推進艇が正常に航走していれば、燃料ポンプが連続的に空気を吸い込むことは考えられず、この場合、僅かな量の空気を一時的に吸い込んでもエンジンに対する影響が軽微であるからである。
【0013】
したがって、燃料圧力検出装置が検出した検出値が異常しきい値以下であり、その状態が、例えば、異常が発生したと判定できる時間として予め設定された所定時間以上継続した場合にのみ、燃料ポンプおよびエンジンの双方または一方の駆動を停止させることにより、燃料ポンプやエンジンの駆動の無用な停止を避けることができる。また、本発明によると、燃料圧力の値が異常しきい値以下になった状態を所定時間以上検出することで、転倒センサを用いることなく水ジェット推進艇の転覆を検知したり、燃料がなくなったことを検知したりすることができる。
【0014】
また、本発明に係る水ジェット推進艇のさらに他の構成上の特徴は、燃料ポンプを、燃料タンクに設け、燃料圧力検出装置を、燃料タンクにおける燃料ポンプの下流部分に取り付けたことにある。
【0015】
通常、燃料タンクは、エンジンから所定の距離を保った位置に、ゴムマウント等の防振部材を介して艇体に取り付けられている。このため、燃料圧力検出装置を、燃料タンクに設けることで、エンジンの振動や艇体の揺れ等による振動が燃料圧力検出装置に伝わらなくなり、燃料圧力検出装置に検出誤差が生じなくなるとともに、燃料圧力検出装置に破損が生じることを防止して長寿命化することができる。また、燃料圧力検出装置を、燃料ポンプの近傍に設置できるため、燃料ポンプが空気を吸い込んだ場合には、燃料圧力の低下を速やかに検出できる。さらに、防振部材等からなる取付部材を介して、燃料圧力検出装置を、燃料タンクに取り付けることにより、燃料圧力検出装置に振動が伝わることをより確実に防止できる。
【0016】
また、本発明に係る水ジェット推進艇のさらに他の構成上の特徴は、燃料圧力検出装置を前記燃料タンクの内部に取り付けたことにある。これによると、燃料圧力検出装置は、燃料タンク内の燃料(蒸散した燃料を含む)に浸かった状態になるため、海水等に濡れて腐蝕することを防止できる。これによって、燃料圧力検出装置を長寿命化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1および図2は、同実施形態に係る水ジェット推進艇10を示している。この水ジェット推進艇10では、艇体11がデッキ11aとハル11bとで構成されており、その艇体11の上部における中央よりもやや前部側部分に操舵ハンドル12が設けられ、艇体11の上部における中央部にシート13が設けられている。操舵ハンドル12は、艇体11に設けられた操舵軸(図示せず)の上端部に取り付けられており、操舵軸を中心として回転可能になっている。
【0018】
そして、操舵ハンドル12の右側(右舷側)のグリップ12aの近傍には、スロットルレバー(図示せず)が設けられている。スロットルレバーは、操船者の操作により、基部を中心として回転してグリップ12a側に移動するようになっており、解放時には、グリップ12aから離れた状態になる。また、スロットルレバーに接続されたワイヤーには、スロットルレバーの操作量を検出するアクセルポジションセンサ(図示せず)が設けられている。
【0019】
艇体11の内部は、前部から中央部にかけて形成されたエンジンルームERと、後部に形成されたポンプルームPRとで構成されている。そして、エンジンルームERには、燃料タンク20、エンジン14、スロットルバルブ15a等からなる吸気装置15(図6参照)および排気マニホールド16a等からなる排気装置16などが設置され、ポンプルームPRには、ジェットポンプ等からなる推進機17などが設置されている。また、エンジンルームER内における前部側には、外部の空気をエンジンルーム内に導くための空気ダクト15bが設けられている。この空気ダクト15bは、艇体11の上部からエンジンルームERの底部まで上下に延びるように形成され、外部の空気を上端部から吸い込み、下端部からエンジンルームER内に導く構成をとっている。
【0020】
また、燃料タンク20は、エンジンルームERの前部側に、図3および図4に示したようにして設置されている。艇体11の下部を構成するハル11bは二重構造になっており、燃料タンク20は、ハル11bの内部を構成する内壁11cに、複数の振動吸収材21a,21bを介して設置されている。振動吸収材21aは、内壁11cの底面における燃料タンク20の底部を支持する両側2個所の部分に設けられ、振動吸収材21bは、内壁11cの側面における燃料タンク20の後側面を除いた3箇所の側面に対向する部分に設けられている。また、内壁11cにおける燃料タンク20の底部後端に対応する部分に金具22aが固定され、内壁11c(ハル11b)における燃料タンク20の上部前端に対応する部分に金具22bが固定されている。
【0021】
そして、ベルト23が、燃料タンク20の上面を内壁11cの底面に対して押え付けた状態で、金具22aと金具22bとに掛け渡されている。このため、燃料タンク20は、振動吸収材21aによって艇体11の振動が直接伝わらないようにして内壁11cに支持されている。また、燃料タンク20に横ずれが生じた場合には、振動吸収材21bによって、内壁11cから燃料タンク20の側面が受ける衝撃は緩和される。
【0022】
燃料タンク20は、底面が後部よりも前部が高くなった傾斜面に形成された略矩形の容器で構成されており、上面における左右方向の中央でやや後部側の部分に開口20aが形成されている。また、燃料タンク20の上面前端部には、デッキ11aに形成された給油口から延びてくる給油管24に連通する連結開口部25が形成され、燃料タンク20の上面後端部には、キャップ26によって開閉可能な開口が形成されている。そして、燃料タンク20の内部には、開口20aから上面を露出させた状態で、燃料ポンプモジュール30が設置されている。
【0023】
図5に示したように、燃料ポンプモジュール30は、縦長の矩形の箱体からなる収容箱31の内部を仕切板31aで上下に仕切り、その下方の空間部に、収容部32を介して、燃料ポンプ33、フィルタ34および本発明の燃料圧力検出装置としての燃料圧力センサ35を設置するとともに、上方の空間部に接続配管36を配置させて構成されている。収容部32は、燃料ポンプ33を収容するポンプ収容部32aと、フィルタ34を収容するフィルタ収容部32bとを備えたケース部材で構成されており、中央に円筒状のポンプ収容部32aが形成され、ポンプ収容部32aの外周面における下部側を除いた部分に、環状のフィルタ収容部32bが形成されている。
【0024】
そして、収容部32の上面部32cにおけるポンプ収容部32aの前部(図5の左側)に対応する部分に、ポンプ収容部32aの内部に連通した状態で燃料圧力センサ35が設置されている。また、収容箱31の底面からポンプ収容部32aの底部上面にかけて、燃料ポンプ33の駆動により、燃料タンク20内の燃料を燃料ポンプ33内に吸い込むための吸引口(図示せず)が形成され、ポンプ収容部32aの上部とフィルタ収容部32bとの間には、燃料ポンプ33を介してポンプ収容部32a内に吸い込まれた燃料をフィルタ収容部32b側に吐出させるための吐出口(図示せず)が形成されている。
【0025】
そして、収容部32の上面部32cにおけるフィルタ収容部32bの前部に対応する部分に、フィルタ収容部32bの内部に連通するグロメット36aが燃料圧力センサ35に隣接して設けられている。このグロメット36aに、接続配管36の下端部が接続されている。接続配管36は、仕切板31aを貫通して収容箱31の上方の空間部内に延びており、その上端部に逆止弁36bが設けられている。そして、接続配管36は、逆止弁36bを介して、収容箱31の上面部31bに形成された燃料取出部37に接続されている。燃料取出部37は、収容箱31の上面部31bを貫通して、収容箱31の内部から外部に延びる本体部37aと、本体部37aの上端から屈曲して水平方向後方に延びる接続部37bとで構成されており、接続部37bには、ゴム製の燃料配管38(図6参照)の上流端が接続される。
【0026】
このため、燃料ポンプ33が駆動すると、燃料タンク20内の燃料は、吸引口から燃料ポンプ33を介してポンプ収容部32a内に吸い込まれたのちに、フィルタ収容部32b内に吐出される。その際、吐出口の近傍に位置する燃料圧力センサ35によって燃料の圧力が検出される。そして、フィルタ収容部32b内に吐出された燃料は、フィルタ34によって異物を除去されたのちに、接続配管36および燃料配管38等を通過してエンジン14に送られる。接続配管36から燃料取出部37を介して燃料配管38に送られる燃料は、逆止弁36bによって逆流を防止された状態でエンジン14側に流れていく。
【0027】
エンジン14は、エンジンルームERの後部側(艇体11内の底部中央)に設置されている。エンジン14には、燃料タンク20から供給される燃料と外部から取り込んだ空気との混合気をエンジン14に送り込む吸気装置15と、エンジン14から排出される排気ガスを艇体11の後端部から外部に放出する排気装置16とが接続されている。また、図示は省略しているが、エンジン14は、4サイクル4気筒エンジンからなっており、各気筒を構成する吸気弁と排気弁との開閉駆動により、吸気弁側に設けられた吸気装置15から燃料と空気との混合気を取り込み、排気弁側に設けられた排気装置16に排気ガスを送り出す。
【0028】
その際、吸気弁側からエンジン14内に供給される混合気はエンジン14が備える点火プラグ等からなる点火装置の点火によって爆発し、この爆発によって、エンジン14内に設けられたピストンが上下に移動する。そして、そのピストンの移動によってクランク軸が回転駆動される。このクランク軸はインペラ軸14aに連結されており、エンジン14の回転力をインペラ軸14aに伝達してインペラ軸14aを回転駆動させる。また、インペラ軸14aの後端部は、艇体11の後端部に設置された推進機17のインペラ(図示せず)に連結されており、このインペラの回転によって、水ジェット推進艇10に推進力が生じる。
【0029】
推進機17は、艇体11の底部に開口する水導入口17aと船尾に開口する水噴射口(図示せず)とを備えており、水導入口17aから導入される海水をインペラの回転により水噴射口から噴射させることにより艇体11に推進力を生じさせる。そして、推進機17の後端部には、操舵ハンドル12の操作に応じて、後部側を左右に移動させることにより、水ジェット推進艇10の進行方向を左右に変更させるステアリングノズル18が取り付けられている。
【0030】
吸気装置15は、エンジン14に接続された吸気管や、吸気管に接続されたスロットルボディ等で構成されている。そして、船外の空気を空気ダクト15bおよび吸気ボックス等(図示せず)を介して吸引し、その空気の流量を、スロットルボディ内に設けられたスロットルバルブ15aを開閉操作することにより調節して、エンジン14に供給する。また、その際、エンジン14に供給される空気に、燃料が混合される。この燃料は、図6に示した燃料配管38および金属製の管からなる燃料レール38aを介して、燃料タンク20からエンジン14の各気筒の吸気弁に供給される。
【0031】
また、スロットルバルブ15aは、円板状に形成されており、その中心部(直径方向)に回転軸15cが固定されている。この回転軸15cはスロットルボディ内で回転可能に支持されており、一方の端部にモータが連結されている。このため、スロットルバルブ15aはモータの回転駆動にしたがって回転軸15cを中心として正逆方向に回転してスロットルボディ内の吸気路を開閉する。このスロットル開度の調節は、操舵ハンドル12に設けられたスロットルレバーを回転操作することによって行われる。
【0032】
排気装置16は、エンジン14に接続された屈曲した管からなる排気マニホールド16aや排気マニホールド16aの後端部に接続されたタンク状のウォーターロック16b等で構成されている。排気マニホールド16aは、エンジン14の各気筒における排気弁側から延びて艇体11の右舷側で集合したのちに、エンジン14の前部側部分を囲うようにして艇体11の左舷側に向かって延び、さらにエンジン14の側部近傍を通過して後方に向って延びて、ウォーターロック16bの前部に連通している。また、ウォーターロック16bの後部上面からは、一旦上方に延びたのちに下方後部に延びて艇体11の後端下部に開口する排気管が設けられている。排気装置16は、外部の海水等が、エンジン14側に浸入することを防止した状態で、排気ガスを外部に排出する。
【0033】
また、本実施形態に係る水ジェット推進艇10は、前述した各装置の外に、図7に示した燃料ポンプ駆動制御部41および燃料圧力検出部42を含む本発明の制御装置としての電気制御装置40、燃料ポンプリレー43、バッテリ44、燃料ポンプ33が含む燃料ポンプモータ33aおよびスタートスイッチ等の各種のスイッチやセンサなど水ジェット推進艇10を安全走行させるために必要な各種の装置を備えている。また、電気制御装置40は、CPU、ROM、RAMおよびタイマ等を含んでおり、燃料ポンプ駆動制御部41および燃料圧力検出部42は、このCPU等が実行する各プログラムの一部を実行する装置である。
【0034】
アクセルポジションセンサ、燃料圧力センサ35、燃料ポンプリレー43およびバッテリ44は、それぞれリード線を介して電気制御装置40に接続され、燃料ポンプ33の燃料ポンプモータ33aは、リード線および燃料ポンプリレー43を介して電気制御装置40に接続されている。そして、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力は、信号として燃料圧力検出部42に送信され、燃料圧力検出部42は、この信号に基づいて燃料圧力を判定する。燃料ポンプ駆動制御部41は、燃料圧力検出部42の判定に基づいて、燃料ポンプリレー43の作動を制御する。
【0035】
燃料ポンプリレー43は、ダイオード43a、コイル43bおよび接点43cで構成されており、コイル43bに所定の電流が流れると接点43cが閉じて、接点43cに接続された燃料ポンプモータ33aが回転駆動する。また、コイル43bへの通電が停止すると、接点43cが開いて燃料ポンプモータ33aの回転駆動は停止する。ダイオード43aは、接点43cがオン、オフするときに発生する逆起電力を吸収する。そして、燃料ポンプ33は、ROMに記憶されたプログラムやRAMに記憶された各種のデータに応じた燃料ポンプ駆動制御部41の制御によって、駆動したり駆動を停止したりする。
【0036】
本実施形態においては、エンジン14の駆動に必要な燃料圧力の範囲内の中央の値よりも小さい所定の値を設定した設定値のデータ、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力の正常値の範囲から外れた異常しきい値のデータ、異常が生じたと判定する時間等がデータとしてRAMに記憶されている。そして、ROMには、図8に示したプログラムが書き込まれている。また、スロットルバルブ15aは、モータを介して電気制御装置40に接続され、アクセルポジションセンサが検出するスロットルレバーの操作量に応じた電気制御装置40の制御により、エンジン14を駆動させる。
【0037】
以上のように構成された水ジェット推進艇10を航走させるときには、まず、スタートスイッチをオンに操作することによって、エンジン14が始動して水ジェット推進艇10は航走可能な状態になる。そして、シート13に座った運転者が操舵ハンドル12を操舵するとともに、スロットルレバーを操作することにより水ジェット推進艇10は各操作に応じて所定の方向に所定の速度で航走を開始する。この航走の際、燃料ポンプ33は、図8に示したプログラムにしたがって駆動する。
【0038】
まず、ステップ100において、エンジン14が始動すると、プログラムはステップ102に進んで燃料ポンプ33を始動させる。これによって、燃料タンク20内の燃料は燃料ポンプ33に吸い込まれ、フィルタ34を通過して異物を除去されたのちに、接続配管36および燃料配管38等を介してエンジン14に供給される。つぎに、ステップ104において、燃料圧力センサ35が検出した燃料圧力の検出値が、予め設定された設定値未満であるか否かの判定が行なわれる。ここで、燃料圧力値が設定値未満であれば、「Yes」と判定して、プログラムは、ステップ106に進む。
【0039】
ステップ106においては、燃料圧力値が異常しきい値以下であるか否か、すなわち、水ジェット推進艇10が転覆する等により燃料ポンプ33が空気を吸い込んで、燃料圧力値が異常に低下しているか否かの判定が行われる。水ジェット推進艇10が正常に航走しており、燃料圧力値も正常値の範囲内であれば、ステップ106において、「No」と判定してプログラムはステップ104に進む。そして、ステップ104において「Yes」と判定し、ステップ106において「No」と判定する間は、燃料ポンプ33は駆動を継続し、燃料ポンプ駆動制御部41と燃料圧力検出部42とは、ステップ104,106の処理を繰り返し実行する。
【0040】
そして、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力値が設定値以上になって、ステップ104において「No」と判定すると、プログラムはステップ108に進む。ステップ108においては、燃料ポンプ33の駆動を停止させる処理が行われる。これによって、一旦、燃料ポンプ33からエンジン14側への燃料の供給が中断された状態で、エンジン14は駆動を続ける。ついで、ステップ110において、燃料圧力の検出値が、設定値未満であるか否かの判定が行なわれる。ここで、燃料圧力値が設定値以上であれば、「No」と判定して、プログラムは、再度ステップ110の処理を行う。燃料圧力値が設定値以上である間、燃料ポンプ33は駆動を停止した状態に維持される。
【0041】
そして、燃料圧力の検出値が、設定値未満になって、ステップ110において「Yes」と判定すると、プログラムはステップ102に進む。ステップ102においては、燃料ポンプ33を駆動させる処理が行われる。そして、ステップ106において「Yes」と判定するまで、燃料圧力値が、設定値未満である場合には燃料ポンプ33を駆動させ、燃料圧力値が、設定値以上である場合には燃料ポンプ33の駆動を停止させながら、ステップ102〜110の処理が繰り返される。
【0042】
水ジェット推進艇10が転覆したり、燃料残量が減少した燃料タンク20に揺れが生じたりして、燃料ポンプ33が空気を吸い込み、燃料圧力値が異常しきい値以下になって、ステップ106において、「Yes」と判定すると、プログラムはステップ112に進む。ステップ112においては、ステップ106で「Yes」と判定してからの経過時間が、予め設定された所定時間以上であるか否かの判定が行われる。この判定は、燃料圧力値が異常しきい値以下になった状態が瞬時のものであるか、継続するものであるかを判定するものある。また、所定時間としては、水ジェット推進艇10が転覆したために燃料ポンプ33が空気を吸い込み、燃料圧力値が異常しきい値以下になっている状態が継続していると判断できる時間が設定されている。
【0043】
ここで、燃料圧力値が異常しきい値以下になったのが一時的なもので、ステップ112において「No」と判定すると、プログラムはステップ104に進む。そして、再度、ステップ104〜112の処理を実行し、燃料圧力値が、設定値未満である場合には燃料ポンプ33を駆動させ、燃料圧力値が、設定値以上である場合には燃料ポンプ33の駆動を停止させる処理を繰り返す。また、その間、ステップ106において、燃料圧力値が異常しきい値以下になって「Yes」と判定しても、ステップ112において経過時間が、所定時間未満で「No」と判定するかぎり、ステップ104〜112の処理が繰り返される。
【0044】
そして、水ジェット推進艇10が転覆し、かつその状態が継続して、燃料圧力値が異常しきい値以下になった状態が所定時間以上になり、ステップ112において「Yes」と判定すると、プログラムはステップ114に進む。ステップ114においては、燃料ポンプ33の駆動を停止させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ116に進み、ステップ116において、エンジン14の駆動を停止する処理を行ったのちに終了する。再度、エンジン14を始動させた場合には、前述した処理が繰り返される。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る水ジェット推進艇10では、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力値が設定値以上である場合には、燃料ポンプ33の駆動を停止し、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力値が、設定値未満である場合のみ燃料ポンプ33を駆動させるようにしている。このため、燃料ポンプ33を駆動させるために消費される電力が少なくなり、省電力化が図れる。これによって、バッテリ44を小型化することができるとともに、低コスト化が可能になる。また、燃料ポンプ33を必要最低限しか駆動させないため、燃料ポンプ33の長寿命化も図れる。さらに、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力値によって、燃料ポンプ33の駆動を制御して燃料圧力を調整するため、圧力調整弁が不要になる。
【0046】
また、本実施形態に係る水ジェット推進艇10では、水ジェット推進艇10の転覆等により、燃料ポンプ33が空気を吸い込んで、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力値が異常しきい値以下になり、かつその状態が所定時間続いたときに、燃料ポンプ33およびエンジン14の駆動を停止させるようにしている。このため、一時的に、燃料圧力値が異常しきい値以下になり、その後、水ジェット推進艇10が正常な状態で航走している場合に、無用に燃料ポンプ33およびエンジン14の駆動が停止することを避けることができる。また、燃料圧力値が異常しきい値以下になった状態を所定時間以上検出することで、転倒センサを用いることなく水ジェット推進艇10の転覆を検知したり、燃料がなくなったことを検知したりすることができる。
【0047】
また、本実施形態に係る水ジェット推進艇10では、振動吸収材21a,21bを介して艇体11側に支持された燃料タンク20内に、燃料ポンプ33を備えた燃料ポンプモジュール30を設け、燃料ポンプモジュール30内における燃料ポンプ33の下流側部分に、燃料圧力センサ35を取り付けている。このため、エンジン14の振動が燃料圧力センサ35に伝わり難くなり、燃料圧力センサ35に検出誤差が生じなくなるとともに、燃料圧力センサ35に破損が生じることを防止して燃料圧力センサ35を長寿命化することができる。また、燃料圧力センサ35を、燃料ポンプ33の近傍に設置しているため、燃料ポンプ33が空気を吸い込んだ場合には、燃料圧力の低下を速やかに検出できる。さらに、燃料圧力センサ35を燃料タンク20の内部に取り付けたため、燃料圧力センサ35が燃料(蒸散した燃料を含む)に浸かった状態になり、海水等に濡れて腐蝕することを防止できる。
【0048】
また、本発明に係る水ジェット推進艇は、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した、実施形態では、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力値が異常しきい値以下になり、かつその状態が所定時間続いたときに、燃料ポンプ33およびエンジン14の駆動を停止させるようにしているが、所定時間が経過していなくても、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力値が異常しきい値以下になったときに、燃料ポンプ33およびエンジン14の双方の駆動またはどちらか一方の駆動を停止させるようにすることもできる。
【0049】
これによると、燃料ポンプ33に吸い込まれた空気が、燃料ポンプ33を通過してエンジン14側に侵入することを防止できる。このため、エンジン14の駆動を停止させ、再度エンジン14を始動させる際には、エンジン14はスムーズに始動する。また、前述した実施形態では、燃料圧力センサ35が検出する燃料圧力値が異常しきい値以下になり、かつその状態が所定時間続いたときに、燃料ポンプ33およびエンジン14の駆動を停止させるようにしているが、この場合、燃料ポンプ33およびエンジン14の双方の駆動でなく、燃料ポンプ33およびエンジン14のどちらか一方の駆動を停止させるようにすることもできる。また、本発明に係る水ジェット推進艇のそれ以外の部分の構成等についても本発明の技術的範囲内で、適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る水ジェット推進艇を示した側面図である。
【図2】図1に示した水ジェット推進艇の平面図である。
【図3】燃料タンクの取り付け構造を側面側から示した断面図である。
【図4】燃料タンクの取り付け構造を正面側から示した断面図である。
【図5】燃料ポンプモジュールを示した断面図である。
【図6】エンジンと燃料レールとの位置関係を示した平面図である。
【図7】燃料ポンプの駆動制御を行うための各装置を示した構成図である。
【図8】燃料ポンプの駆動制御を行うためのプログラムを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
10…水ジェット推進艇、11…艇体、14…エンジン、17…推進機、20…燃料タンク、33…燃料ポンプ、35…燃料圧力センサ、38…燃料配管、40…電気制御装置、41…燃料ポンプ駆動制御部、42…燃料圧力検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置の制御によってエンジンが駆動してジェットポンプを作動させることにより推進する水ジェット推進艇であって、
前記水ジェット推進艇の艇体内に設置された燃料タンクと、
前記燃料タンクから前記エンジンに延びる燃料配管と、
前記制御装置の制御により駆動して前記燃料タンク内の燃料を前記燃料配管を介して前記エンジンに供給する燃料ポンプと、
前記燃料ポンプの駆動によって前記エンジンに供給される燃料の圧力を検出する燃料圧力検出装置とを備え、
前記燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値が、所定の設定値未満のときには、前記制御装置の制御により、前記燃料ポンプは駆動し、前記燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値が前記設定値以上のときには、前記制御装置の制御により、前記燃料ポンプは駆動を停止するようにしたことを特徴とする水ジェット推進艇。
【請求項2】
前記燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値が前記設定値よりも小さな異常しきい値以下になったときに、前記制御装置の制御により、前記燃料ポンプおよび前記エンジンの双方または一方の駆動を停止させるようにした請求項1に記載の水ジェット推進艇。
【請求項3】
前記燃料圧力検出装置が検出する燃料圧力の値が前記異常しきい値以下である状態が所定時間以上続いたときに、前記制御装置の制御により、前記燃料ポンプおよび前記エンジンの双方または一方の駆動を停止させるようにした請求項2に記載の水ジェット推進艇。
【請求項4】
前記燃料ポンプを、前記燃料タンクに設け、前記燃料圧力検出装置を、前記燃料タンクにおける前記燃料ポンプの下流部分に、取り付けた請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇。
【請求項5】
前記燃料圧力検出装置を前記燃料タンクの内部に取り付けた請求項4に記載の水ジェット推進艇。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−103103(P2009−103103A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277847(P2007−277847)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】