説明

水浄化装置及び水浄化方法

【課題】イオン透過膜を用いて水和性アニオンを回収し、該水和性アニオンを脱水して水を得ることで、浄化対象水への脱水和アニオンの漏れ出し及び塩の析出を防止でき、浄化水を効率よく回収することができる水浄化装置等の提供。
【解決手段】浄化対象水と、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液とを半透過膜を介して接触させ、半透過膜により浄化対象水から分離された水でイオン含有水溶液を希釈する希釈手段と、希釈手段により希釈されたイオン含有水溶液から、イオン交換膜を介して水和性アニオンと非揮発性カチオンを分離する分離手段と、分離された水和性アニオンを脱水和し、揮発することにより、脱水和アニオンが除去回収された浄化水を得る揮発手段と、揮発手段により回収除去された脱水和アニオンを、少なくとも非揮発性カチオンを含む水溶液に溶解させる溶解手段とを有する水浄化装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液を用いる順浸透法を適用した水浄化装置及び水浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浸透圧差のある2種の水溶液間で水を選択的に分離し移動させる方法として、外部圧力を用いた逆浸透(RO)法と、浸透圧を利用して低エネルギーで分離を行う順浸透(FO)法が知られている。
前記順浸透法の一つとして、揮発性アニオン及び揮発性カチオンを含む揮発性イオン含有水溶液を用いる方法がある。例えば、図1に示すように、浄化対象水を、揮発性アニオン及び揮発性カチオンを含む揮発性イオン含有水溶液と半透過膜1を介して接触させ、該半透過膜1により前記浄化対象水から分離された水で前記揮発性イオン含有水溶液を希釈する希釈手段11と、
希釈された揮発性イオン含有水溶液から、前記揮発性アニオン及び前記揮発性カチオンを揮発させて、浄化水を得る蒸留塔7を含む分離手段15と、
気化分離したアニオンガス及びカチオンガスを、前記希釈された揮発性イオン含有水溶液に戻し、溶解するガス吸収器6を含む溶解手段14と、を有する水浄化装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、前記提案の図1に示す水浄化装置では、揮発性カチオンとしてアンモニアを利用しているため、アンモニアが前記半透過膜1から前記浄化対象水に漏れ出すという問題がある。アンモニアは分子サイズなどの物性が水と非常に近いため、本発明で用いる半透膜のような水を選択的に透過する膜において、アンモニアの透過を抑制することは非常に困難である。結果として大幅なカチオンの補充が必要になるだけでなく、処理後の浄化対象水を介して大量のアンモニアが環境に放出されてしまうため、その改善が望まれている。
【0004】
また、前記図1に示す水浄化装置では、前記分離手段15を用いた分離工程において、二酸化炭素と水とアンモニアが接触して、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、アンモニウムカルバメート等の塩が蒸留カラム、蒸留カラム中の充填物、トレイ、配管などに析出して、浄水化処理の効率が低下したり、詰りが発生してしまうという問題がある。
【0005】
また、非揮発性カチオンと揮発性アニオンを含むイオン含有水溶液を用いた水浄化システムが提案されている(特許文献2参照)。この提案の水浄化システムによれば、揮発性カチオンであるアンモニアを用いた場合に比べて、非揮発性カチオンの半透過膜から浄化対象水への漏れ出し速度は遅く抑えることが可能である。しかし、前記特許文献2の水浄化システムは、溶質の一部を非溶解成分として取り扱うため、そのハンドリング性が著しく悪いという問題がある。例えば非溶解成分をフィルターで除去する場合には、目詰まりによって除去性能を維持することが非常に困難になる上、フィルター上に残った非溶解成分を充分に回収することは困難である。また、非溶解成分を沈殿させる場合には、大幅な時間が必要となる上に安定的に取り扱うことができない。更に、遠心機等の大掛かりな設備が必要となる。
【0006】
したがって、上述したような非溶解成分を取り扱う必要がなく、浄化水を効率よく回収することができる水浄化システムの速やかな提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開2005/0145568号明細書
【特許文献2】米国特許第6391205号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、膜の透過性が高い揮発性のアンモニアを使用せず非揮発性カチオンを使用して、イオン透過膜を用いることで水和性アニオンを回収し、該水和性アニオンを脱水して水を得ることで、浄化対象水へのカチオンの漏れ出し及び塩の析出を防止でき、浄化水を効率よく回収することができる水浄化装置及び水浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 浄化対象水と、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液とを半透過膜を介して接触させ、該半透過膜により前記浄化対象水から分離された水で前記イオン含有水溶液を希釈する希釈手段と、
前記希釈手段により希釈されたイオン含有水溶液から、イオン交換膜を介して前記水和性アニオンと前記非揮発性カチオンを分離する分離手段と、
前記分離された水和性アニオンを脱水和し、揮発することにより、脱水和アニオンが除去回収された浄化水を得る揮発手段と、
前記揮発手段により回収除去された脱水和アニオンを、少なくとも非揮発性カチオンを含む水溶液に溶解させる溶解手段と、
を有することを特徴とする水浄化装置である。
該<1>に記載の水浄化装置においては、希釈手段と、分離手段と、揮発手段と、溶解手段とを有する。
前記希釈手段により浄化対象水と、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液とを半透過膜を介して接触させ、該半透過膜により前記浄化対象水から分離された水で前記イオン含有水溶液を希釈する。
前記分離手段により前記希釈手段により希釈されたイオン含有水溶液から、イオン交換膜を介して前記水和性アニオンと前記非揮発性カチオンを分離する。
前記揮発手段により前記分離された水和性アニオンを脱水和し、揮発することにより、脱水和アニオンが除去回収された浄化水を得ることができる。
前記溶解手段により前記揮発手段により回収除去された脱水和アニオンを、少なくとも非揮発性カチオンを含む水溶液に溶解させる。その結果、膜の透過性が高い揮発性のアンモニアを使用せず非揮発性カチオンを使用して、イオン透過膜を用いることで水和性アニオンを回収し、該水和性アニオンを脱水して水を得ることで、浄化対象水へのカチオンの漏れ出し及び塩の析出を防止でき、浄化水を効率よく回収することができる。
<2> 水和性アニオンが、炭酸(HCO)及び亜硫酸(HSO)のいずれかである前記<1>に記載の水浄化装置である。
<3> 非揮発性カチオン源が、分子量50以上500以下の化合物である前記<1>から<2>のいずれかに記載の水浄化装置である。
<4> 非揮発性カチオン源が、4級アンモニウム化合物である前記<1>から<3>のいずれかに記載の水浄化装置である。
<5> 分離手段が、イオン交換膜を用いた拡散透析、イオン交換膜を用いた電気透析、及びイオン選択的膜蒸留のいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の水浄化装置である。
<6> 揮発手段が、膜プロセスユニットである前記<1>から<5>のいずれかに記載の水浄化装置である。
<7> 溶解手段の少なくとも一部が、分離手段と結合している前記<1>から<6>のいずれかに記載の水浄化装置である。
<8> 半透過膜が、水を選択的に透過する順浸透半透過膜である前記<1>から<7>のいずれかに記載の水浄化装置である。
<9> 浄化対象水が、海水である前記<1>から<8>のいずれかに記載の水浄化装置である。
<10> 浄化対象水と、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液とを半透過膜を介して接触させ、該半透過膜により前記浄化対象水から分離された水で前記イオン含有水溶液を希釈する希釈工程と、
前記希釈工程で希釈されたイオン含有水溶液から、イオン交換膜を介して前記水和性アニオンと前記非揮発性カチオンを分離する分離工程と、
前記分離された水和性アニオンを脱水和し、揮発することにより、脱水和アニオンが除去回収された浄化水を得る揮発工程と、
前記揮発工程で回収除去された脱水和アニオンを、少なくとも非揮発性カチオンを含む水溶液に溶解させる溶解工程と、
を含むことを特徴とする水浄化方法である。
該<10>に記載の水浄化方法においては、希釈工程と、分離工程と、揮発工程と、溶解工程とを含んでいる。
前記希釈工程で、浄化対象水と、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液とを半透過膜を介して接触させ、該半透過膜により前記浄化対象水から分離された水で前記イオン含有水溶液を希釈する。
次に、前記分離工程で、前記希釈工程で希釈されたイオン含有水溶液から、イオン交換膜を介して前記水和性アニオンと前記非揮発性カチオンを分離する。
次に、前記揮発工手で、前記分離された水和性アニオンを脱水和し、揮発することにより、脱水和アニオンが除去回収された浄化水を得る。
次に、前記溶解工程で、前記揮発工程で回収除去された脱水和アニオンを、少なくとも非揮発性カチオンを含む水溶液に溶解させる。
その結果、膜の透過性が高い揮発性のアンモニアを使用せず非揮発性カチオンを使用して、イオン透過膜を用いることで水和性アニオンを回収し、該水和性アニオンを脱水して水を得ることで、浄化対象水へのカチオンの漏れ出し及び塩の析出を防止でき、浄化水を効率よく回収することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来の前記諸問題を解決することができ、膜の透過性が高い揮発性のアンモニアを使用せず非揮発性カチオンを使用して、イオン透過膜を用いることで水和性アニオンを回収し、該水和性アニオンを脱水して水を得ることで、浄化対象水へのカチオンの漏れ出し及び塩の析出を防止でき、浄化水を効率よく回収することができる水浄化装置及び水浄化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、従来の水浄化装置の一例を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の水浄化装置の一例を示す概略図である。
【図3】図3は、分離手段としてのイオン交換膜を用いた拡散透析を示す概略図である。
【図4】図4は、分離手段としてのイオン交換膜を用いた電気透析を示す概略図である。
【図5】図5は、分離手段としてのイオン選択的膜蒸留を示す概略図である。
【図6】図6は、本発明の水浄化装置の他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(水浄化装置及び水浄化方法)
本発明の水浄化装置は、希釈手段と、分離手段と、揮発手段と、溶解手段とを有し、更に必要に応じてその他の手段を有してなる。
本発明の水浄化方法は、希釈工程と、分離工程と、揮発工程と、溶解工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0013】
本発明の水浄化方法は、本発明の水浄化装置により好適に実施することができ、前記希釈工程は前記希釈手段により行うことができ、前記分離工程は前記分離手段により行うことができ、前記揮発工程は前記揮発手段により行うことができ、前記溶解工程は前記溶解手段により行うことができ、前記その他の工程は前記その他の手段により行うことができる。
【0014】
<希釈手段及び希釈工程>
前記希釈工程は、浄化対象水と、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液とを半透過膜を介して接触させ、該半透過膜により前記浄化対象水から分離された水で前記イオン含有水溶液を希釈する工程であり、希釈手段により実施することができる。
【0015】
<<浄化対象水>>
前記浄化対象水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば海水、ブラキッシュウォーター、河川、湖、沼、池等の自然界から得られる水、工場や各種工業施設から排出される工業廃水、家庭や一般施設から排出される一般廃水などが挙げられる。これらの中でも、安定かつ大量に得られる入手容易性と、浄化の必要性の点で海水が特に好ましい。
本発明において、前記浄化水とは、塩等の不純物含有量が少ない水溶液を意味する。不純物含有量はその浄化水の使用する目的と不純物の種類によって適宜調整することができる。
【0016】
<<イオン含有水溶液>>
前記イオン含有水溶液は、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含む。
【0017】
−水和性アニオン−
前記水和性アニオンとしては、脱水和して揮発性となるアニオン化合物が選択される。
ここで、前記揮発性とは、少なくとも特定の温度で水よりも揮発性が高い物質が選択される。前記揮発性の指標としては、物質の各温度におけるヘンリー定数や飽和蒸気圧が水の飽和蒸気圧より大きいことが挙げられる。前記ヘンリー定数とは、物質が大量の溶媒に溶けている溶液における、物質のモル分率と飽和蒸気分圧の関係を示す物性値であり、これが大きいほどその溶液中において揮発性が高いことを示してあり、書籍「化学便覧、丸善株式会社発行」や書籍「増補 ガス吸収、化学工業株式会社発行」などに記載されている。
前記水和性アニオンとしては、具体的には、炭酸(HCO)、亜硫酸(HSO)などが挙げられ、それぞれの揮発性の脱水和物として、二酸化炭素(CO)、二酸化硫黄(SO)、などが挙げられる。これらの中でも、脱水和物の揮発性の高さと化学的な安定性から、二酸化炭素(CO)が特に好ましい。
【0018】
−非揮発性カチオン源−
前記非揮発性カチオン源は、アンモニアのような非揮発性カチオン源と比較して、前記半透過膜の透過性が低い傾向があるため、浄化対象水へのカチオンの漏れ出しの問題が解決できる。
前記非揮発性カチオン源としては、少なくとも特定の温度で水よりも揮発性が低い物質が選択される。前記揮発性の指標としては、物質の各温度におけるヘンリー定数や飽和蒸気圧が水の飽和蒸気圧より大きいことが挙げられる。前記ヘンリー定数とは、物質が大量の溶媒に溶けている溶液における、物質のモル分率と飽和蒸気分圧の関係を示す物性値であり、これが大きいほどその溶液中において揮発性が高いことを示し、例えば書籍「化学便覧、丸善株式会社発行」や書籍「増補 ガス吸収、化学工業株式会社発行」などに記載されている。
また、非揮発性カチオン源の分子量(又は原子量)が大きいほど半透過膜の透過性は抑制されるため、好ましい。一方、分子量(又は原子量)が大きすぎると、同じ質量%濃度において、前記希釈手段における希釈速度が遅くなるため、好ましくない。具体的には、分子量(又は原子量)は50以上500以下が好ましく、より好ましくは100以上200以下が好ましい。より具体的には、モノエタノールアミン(分子量61)、エチレンジアミン(分子量60)、ジエタノールアミン(分子量105)、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール(分子量104)、ジエチレントリアミン(分子量103)、トリエチレンテトラミン(分子量146)、トリス(2−アミノエチル)アミン(分子量146)、テトラエチレンペンタミン(分子量189)、低分子ポリエチレンイミン(分子量200〜500)などが挙げられる。また、pHを中性付近に調整でき、かつ水和性アニオンと結合体を形成しない、かつ塩基性が高いという観点から、4級アンモニウム化合物が好ましく選択される。より具体的には、トリ(2−ヒドロキシメチル)メチルアンモニウム(分子量139)、トリ(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム(分子量181)、コリン(2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム)(分子量121)が好ましく選択される。
【0019】
前記半透過膜の揮発性カチオンの漏れ速度に関しては、例えば前記イオン含有水溶液として、炭酸由来成分濃度が300mmol/Lで、揮発性カチオンであるアンモニア濃度が420mmol/L、浄化対象水として2mg/Lフミン酸ナトリウム水溶液、半透過膜として、Hydration Technology Inovations社製Expedition内蔵膜(以下、「HT膜」と称する)を用いた場合、漏れ速度は0.42mol/mhr.と非常に早い。このような速度で漏れが生じると、大量にカチオンの補充が必要になるだけでなく、処理後の浄化対象水を介して大量のアンモニアが環境に放出されてしまうため、実質的に実施不可能である。一方、同様にしてアンモニアの代わりに非揮発性カチオンであるモノエタノールアミンを用いた場合その1/10未満であり、同様にジエタノールアミンを用いた場合その1/15未満、トリ(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムを用いた場合その1/20未満と大幅に抑制される。
【0020】
前記イオン含有水溶液における水和性アニオンの含有量(濃度)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記浄化対象水から水を分離する速度を高める観点から高濃度であることが好ましい。
前記イオン含有水溶液における非揮発性カチオンの含有量(濃度)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記浄化対象水から水を分離する速度を高める観点から高濃度であることが好ましい。ただし、溶液中で塩が析出したり泡が発生したりしてしまうことを抑制するために、適宜濃度を下げてもよい。また、前記イオン含有水溶液が酸性やアルカリ性の場合には、前記半透過膜のような部材を劣化させてしまうため、前記水和性アニオンと前記非揮発性カチオンの比は、適宜調整することが好ましい。
【0021】
−半透過膜−
前記半透過膜としては、その素材、形状、大きさ、構造などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水を選択的に透過する順浸透半透過膜であることが好ましい。
前記順浸透半透過膜としては、半透膜性を有すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記素材として、例えば酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、芳香族ポリスルホン、ポリベンゾイミダゾール、などが挙げられる。前記形状として、例えば、平膜、平膜を用いたスパイラル型モジュール、中空糸型モジュール、チューブラー型モジュール、などが挙げられる。
【0022】
<分離工程及び分離手段>
前記分離工程は、前記希釈工程で希釈されたイオン含有水溶液から、イオン交換膜を介して前記水和性アニオンと前記非揮発性カチオンを分離する工程であり、分離手段により実施される。
【0023】
前記分離手段としては、水和性アニオンと非揮発性カチオンが少なくとも部分的に分離できれば原理や構成などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換膜を用いた拡散透析、イオン交換膜を用いた電気透析、イオン選択的膜蒸留などが挙げられる。
【0024】
前記イオン交換膜を用いた拡散透析とは、図3に示すように、希釈されたイオン含有水溶液を陰イオン交換膜に接触させ、裏側に純水を接触させることによって、水和性アニオンの濃度勾配に従ってそれを選択的に膜透過させる方法である。この時、水和性アニオンの対イオンとしては、プロトンがそのサイズの小ささから選択的に膜を透過する。
このイオン交換膜を用いた拡散透析は、水和性アニオンの透過が外力を必要とせずに達成されるため、エネルギー的に有利である。また、前記拡散透析は、その陰イオン交換膜において、プロトンと非揮発性カチオン間における高い選択性が求められる。前記半透過膜において透過性の低い非揮発性カチオンは、拡散透析においても陰イオン交換膜でのプロトンとの透過選択性が高くなるため、より好ましく選択される。
【0025】
前記イオン交換膜を用いた電気透析は、図4に示すように、希釈されたイオン含有水溶液を陰イオン交換膜と陽イオン交換膜で挟み、陰イオン交換膜の外側に陽極、陽イオン交換膜の外側に陰極を配置し、両電極間に電圧をかける方法である。より好ましくは、陰イオン交換膜と陽極の間、陽イオン交換膜と陰極の間に、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜の二層膜(以下、単に「二層膜」と称する)をそれぞれ配置する。
前記電気透析では、両電極間に電圧を印加することによって、陽極側(陰イオン交換膜側)に水和性アニオンが、陰極側(陽イオン交換膜側)に非揮発性カチオンが引き寄せられることにより、それぞれの膜を選択的に透過させ分離することができる。この時、水和性アニオンの対イオンとしては、プロトンが二層膜の膜間界面から生じて引き寄せられ、揮発性カチオンの対イオンとしては、ヒドロキシイオンが同じく二層膜の膜間界面から生じて引き寄せられる。
前記電気透析は、前記拡散透析に比べるとエネルギー的な負荷は大きくなるが、拡散透析に比べると、求められる選択性は小さく、またその分離速度も充分に高めることができるので有利である。
【0026】
前記イオン選択的膜蒸留は、図5に示すように、前記拡散透析と同様に希釈されたイオン含有水溶液を陰イオン交換膜に接触させる。この時、裏側には純水ではなく空気を接触させることによって、膜界面において脱水和した水和性アニオンを揮発させる。
【0027】
<揮発工程及び揮発手段>
前記揮発工程は、前記分離された水和性アニオンを脱水和し、揮発することにより、脱水和アニオンが除去回収された浄化水を得る工程であり、揮発手段により実施することができる。
【0028】
前記揮発手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば一般的な蒸留に用いられる蒸留塔、蒸留装置、膜プロセスユニット、マイクロリアクター等の微小流体の制御機構、などが挙げられる。これらの中でも、揮発界面を比較的容易に広く取れ小型化に適している点から膜蒸留ユニットなどの膜プロセスユニットが好ましく、水和性アニオンとして炭酸を用いた際には特に好ましい。
前記蒸留塔としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば棚段塔、充填塔、などが挙げられる。
前記棚段塔としては、例えば、書籍「蒸留技術、化学工学協会編」のp139〜p143、書籍「解説化学工学、培風館発行」のp141〜p142に記載の構造体、具体的には泡鐘(バブルキャップ)トレイ、バルブトレイ、多孔板(シーブ)トレイ、などが挙げられる。
前記充填塔に詰める充填物としては、規則充填物でも不規則充填物でもよく、例えば書籍「解説化学工学、培風館発行」のp155〜p157、書籍「増補 ガス吸収、化学工業株式会社発行」のp221〜p242に記載されている充填物の中から任意に選択することができる。
前記膜プロセスユニットとしては、例えば学術論文「Journal of Membrane ScienceVol.124,Issue1,p1〜p25」などに記載の膜蒸留ユニットを用いることができる。
前記マイクロリアクターとしては、例えば書籍「マイクロ化学チップの技術と応用、丸善株式会社発行」に記載のマイクロリアクターを用いることができる。
前記分離手段としては、これらの手段を単独で用いてもよく、複数組み合わせても構わない。
【0029】
<溶解工程及び溶解手段>
前記溶解工程は、前記揮発工程で回収除去された脱水和アニオンを、少なくとも非揮発性カチオンを含む水溶液に溶解させる工程であり、溶解手段により実施できる。
【0030】
前記溶解手段としては、特に制限はなく、一般的なガス吸収に用いられている装置を任意に使用することができ、例えば、書籍「増補 ガス吸収、化学工業株式会社発行」のp.49〜p.54、p.83〜p.144に記載されている装置、部品、条件を任意に選択することができる。具体的には、充填塔、棚段塔、スプレー塔、流動充填塔を用いた方式や、液膜十字流接触方式、高速旋回流方式、機械力利用方式などを挙げることができる。また、マイクロリアクターやメンブレンリアクターなどの微小流体の制御機構を利用して薄層気液層を構築して吸収させてもよい。
充填塔に詰める充填物としては、規則充填物でも不規則充填物でもよく、例えば書籍「増補 ガス吸収、化学工業株式会社発行」のp.221〜p.242に記載されている充填物を任意に選択することができる。充填物、塔、ディストリビューター、サポートなどの構成部品材料としては、例えばステンレス鋼、アルミキルド鋼等の鋼鉄系材料、チタン、アルミニウム等の非鉄材料、ガラス、アルミナ等のセラミックス、カーボン、合成ポリマー、ゴムなどの素材を、それぞれ任意に選択して用いることができる。
【0031】
また、本発明で用いられる溶解手段のより好ましい形態としては、前記分離手段と前記溶解手段を、交互もしくは同時に実施できる形態が好ましく選択でき、水の回収効率の観点から、更により好ましくは同時に実施できる形態が選択される。
このような分離と溶解が同時に実施できる形態としては、例えば図2に示すように、希釈されたイオン含有水溶液の片面に分離手段としての陰イオン交換膜21を接触させ、水和性アニオンを透過させると共に、その背面において揮発手段としての膜蒸留形態の膜プロセスユニット22を介して脱水和と続いて揮発した水和性アニオンのガスを溶解手段として膜蒸留形態の膜プロセスユニット23を介して吸収し、溶解させる方法などが挙げられる。
【0032】
−その他の工程及びその他の手段−
前記その他の工程としては、例えば制御工程、駆動工程などが挙げられ、これらは制御手段、駆動手段により実施される。
前記制御手段としては、前記各手段の動きを制御することができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シークエンサー、コンピュータ等の機器が挙げられる。
【0033】
<第1の実施形態>
図2は、本発明の水浄化装置の第1の実施形態を示す概略図である。この図2の水浄化装置においては、水和性アニオンとして炭酸(HCO)、非揮発性カチオンとしてトリ(2−ヒドロキシメチル)メチルアンモニウムを用いている。
また、順浸透半透過膜1として、Hydration Technology Inovations社製Expedition内蔵膜(以下、「HT膜」と称する)を用いている。
分離手段21として、図3に示すイオン交換膜を用いた拡散透析、図4に示すイオン交換膜を用いた電気透析、又は図5に示すイオン選択的膜蒸留を用いることができる。
この図2の水浄化装置では、分離手段として、図3に示すイオン交換膜21を用いた拡散透析が用いられている。また、揮発手段として膜蒸留形態の膜プロセスユニット22を用いている
また、溶解手段として膜蒸留形態の膜プロセスユニット23を用いている。これにより、COの投入量を多くすることができ、浄化水を多く得ることができる。
【0034】
図2に示す水浄化装置においては、浄化対象水と、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液とを半透過膜を介して接触させ、該半透過膜により前記浄化対象水から分離された水で前記イオン含有水溶液を希釈する。
次に、希釈されたイオン含有水溶液から、イオン交換膜を介して前記水和性アニオンと前記非揮発性カチオンを分離する。
次に、分離された水和性アニオンを脱水和し、揮発することにより、脱水和アニオンが除去回収され、浄化水が得られる。
次に、回収除去された脱水和アニオンを、少なくとも非揮発性カチオンを含む水溶液に溶解させて、イオン含有水溶液が再生される。
【0035】
<第2の実施形態>
図6は、本発明の水浄化装置の第2の実施形態を示す概略図である。この図6の水浄化装置は、溶解手段としてガス吸収塔24を用いたものである。なお、図6の水浄化装置において、図2の水浄化装置と同じものは同符号で示した。
【0036】
本発明の水浄化装置及び水浄化方法は、膜の透過性が高い揮発性のアンモニアを使用せずに、イオン透過膜を用いることで水和性アニオンを回収し、該水和性アニオンを脱水して水を得ることで、浄化対象水へのカチオンの漏れ出し及び塩の析出を防止でき、浄化水を効率よく回収することができるので、各種水の浄化に用いることができ、特に海水の浄水化に好適に用いられる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
以下に示す部材を使用して、図2に示す本発明の水浄化装置を組み立てた。
浄化対象水として、海水のモデルとして3.5質量%塩化ナトリウム水溶液を用いた。
水和性アニオンとして、炭酸(HCO)を用いた。
非揮発性カチオン源として、トリ(2−ヒドロキシメチル)メチルアンモニウムを用いた。
イオン含有水溶液として、炭酸(HCO)を1.8mol/L含有し、非揮発性カチオン源トリ(2−ヒドロキシメチル)メチルアンモニウムを2.5mol/L含有するものを用いた。
順浸透半透過膜1として、HT膜を使用した。
分離手段として、図4に示すイオン交換膜21を用いた電気透析ユニットを使用した。
揮発手段として、(PTFE性多孔性膜(孔径0.2μm、厚み40μm)を用いた膜蒸留ユニット)22を使用した。
溶解手段として、(PTFE性多孔性膜(孔径0.2μm、厚み40μm)を用いた膜蒸留ユニット)23を前記分離手段の下流に配置して使用した。
【0039】
次に、図2の水浄化装置を用いて、以下のようにして、塩の析出、及びカチオンの浄化対象水への漏れ出し量を評価した。結果を表1に示す。
【0040】
<塩の析出の評価方法>
塩の析出の評価方法として、本浄化操作を24時間行った後、揮発手段である膜蒸留ユニットの上部の位置において、揮発したガスが衝突する配管の屈曲部の内側を観察し、塩の析出の有無を確認した。
【0041】
<カチオンの浄化対象水への漏れ出し量>
カチオンの浄化対象水への漏れ出し量測定方法として、本浄化操作を行って得られた濃縮塩化ナトリウム水溶液(半透過膜を介して水が分離されて除かれたために濃縮された塩化ナトリウム水溶液)中に含まれるカチオンの量を定量することで、漏れ出し量を決定し、それを半透過膜面積と膜面通過時間で割ることで単位時間当たり単位面積当たりに漏れ出すカチオンの量を測定した。なお、カチオンの定量方法としては、得られた濃縮塩化ナトリウム水溶液を脱気することで二酸化炭素を除き、その液を塩酸水溶液で滴定することで求めた。
【0042】
(実施例2)
以下に示す部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、図6に示す本発明の水浄化装置を組み立てた。
溶解手段としてガス吸収塔(規則充填物としてスルザーケムテック社製ラボパッキンEX(以下、「ラボパッキンEX」と称する)が詰められたガラス管)24を使用した。
【0043】
次に、図6に示す水浄化装置を用い、実施例1と同様にして、塩の析出、及びカチオンの浄化対象水への漏れ出し量を評価した。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
以下に示す部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、図1に示す従来の水浄化装置を組み立てた。
分離手段15における蒸留塔7として、「ラボパッキンEX」を内蔵した蒸留塔を使用した。
溶解手段14におけるガス吸収器6として、「ラボパッキンEX」を内蔵した吸収塔を使用した。
揮発性アニオン源として、二酸化炭素を用いた。
揮発性カチオン源として、アンモニアを用いた。
揮発性イオン含有水溶液として、二酸化炭素を1.8mol/L含有し、アンモニアを2.5mol/L含有するものを用いた。
【0045】
次に、図1に示す水浄化装置を用い、実施例1と同様にして、塩の析出、及びカチオン(アンモニア)の浄化対象水への漏れ出し量を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
以上、本発明の水浄化装置及び水浄化方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更しても差支えない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の水浄化装置及び水浄化方法は、膜の透過性が高い揮発性のアンモニアを使用せず非揮発性カチオンを使用して、イオン透過膜を用いることで水和性アニオンを回収し、該水和性アニオンを脱水して水を得ることで、浄化対象水へのカチオンの漏れ出し及び塩の析出を防止でき、浄化水を効率よく回収することができるので、各種水の浄化に用いることができ、特に海水の浄水化に好適である。
【符号の説明】
【0049】
1 半透過膜
6 ガス吸収器
7 蒸留塔
11 希釈手段
14 溶解手段
15 分離手段
21 イオン交換膜(分離手段)
22 ガス交換膜(揮発手段)
23 膜プロセスユニット(溶解手段)
24 ガス吸収塔(溶解手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化対象水と、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液とを半透過膜を介して接触させ、該半透過膜により前記浄化対象水から分離された水で前記イオン含有水溶液を希釈する希釈手段と、
前記希釈手段により希釈されたイオン含有水溶液から、イオン交換膜を介して前記水和性アニオンと前記非揮発性カチオンを分離する分離手段と、
前記分離された水和性アニオンを脱水和し、揮発することにより、脱水和アニオンが除去回収された浄化水を得る揮発手段と、
前記揮発手段により回収除去された脱水和アニオンを、少なくとも非揮発性カチオンを含む水溶液に溶解させる溶解手段と、
を有することを特徴とする水浄化装置。
【請求項2】
水和性アニオンが、炭酸(HCO)及び亜硫酸(HSO)のいずれかである請求項1に記載の水浄化装置。
【請求項3】
非揮発性カチオン源が、分子量50以上500以下の化合物である請求項1から2のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項4】
非揮発性カチオン源が、4級アンモニウム化合物である請求項1から3のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項5】
分離手段が、イオン交換膜を用いた拡散透析、イオン交換膜を用いた電気透析、及びイオン選択的膜蒸留のいずれかである請求項1から4のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項6】
揮発手段が、膜プロセスユニットである請求項1から5のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項7】
溶解手段の少なくとも一部が、分離手段と結合している請求項1から6のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項8】
半透過膜が、水を選択的に透過する順浸透半透過膜である請求項1から7のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項9】
浄化対象水が、海水である請求項1から8のいずれかに記載の水浄化装置。
【請求項10】
浄化対象水と、脱水和して揮発性となる水和性アニオン及び非揮発性カチオンを含むイオン含有水溶液とを半透過膜を介して接触させ、該半透過膜により前記浄化対象水から分離された水で前記イオン含有水溶液を希釈する希釈工程と、
前記希釈工程で希釈されたイオン含有水溶液から、イオン交換膜を介して前記水和性アニオンと前記非揮発性カチオンを分離する分離工程と、
前記分離された水和性アニオンを脱水和し、揮発することにより、脱水和アニオンが除去回収された浄化水を得る揮発工程と、
前記揮発工程で回収除去された脱水和アニオンを、少なくとも非揮発性カチオンを含む水溶液に溶解させる溶解工程と、
を含むことを特徴とする水浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−161361(P2011−161361A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26423(P2010−26423)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】