説明

水溶性メタルアルコラート誘導体及びこれを配合してなる固体ゲル状外用剤

【課題】 温度変化や添加物質に対する形態安定性に優れ、且つ使用性に優れた固体ゲル状外用剤を調製することのできる化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示される水溶性メタルアルコラート誘導体。
−(OR (1)
(式中、MはSi,Ti,Zr,Zn,又はAl原子、Rは多価アルコール残基であり、MがSi,Ti又はZr原子である場合にnは4、MがZn原子である場合にnは2、MがAl原子である場合にnは3である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性メタルアルコラート誘導体及びこれを配合してなる固体ゲル状外用剤、特に形態安定性及び使用性の改善された固体ゲル状外用剤の調製に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や医薬品等の外用剤基剤においては、製品の剤型を保持するために種々の増粘剤やゲル化剤が用いられている。従来、水系基剤の増粘・ゲル化剤としては、例えば、寒天、ゼラチン等の天然水溶性高分子、ポリエチレングリコール、アクリル酸系ポリマー等の合成水溶性高分子等が、それぞれの目的や効果に応じて適宜選択して用いられている。
【0003】
これらのうち、寒天等の天然水溶性高分子は、高温時に離水が生じてしまう等、広い温度範囲での形態安定性に乏しく、さらには指どれや塗布時の広がりが悪い等の使用性の問題があった。また、ポリエチレングリコール等の合成水溶性高分子は、そもそも流動性の粘性ゲルであるため、基剤を十分に固化することができず、さらには電解質の共存やpH変化による粘度低下が著しく、配合成分や製造工程が制限されてしまうという問題があった。
【0004】
一方で、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランは、アルコキシ基の加水分解によりシラノール基を生成し、さらにその脱水縮合によってシリカゲルを形成することが知られている。しかしながら、従来用いられているアルコキシシランのほとんどは水に不溶であるため、水中に添加してもそのままでは加水分解反応は進行せず、別途添加物を用いる必要があり、水性基剤のゲル化には適していない。なお、近年、多価アルコールを置換した水溶性のシラン誘導体の単純混合水溶液が、モノリス状の固体シリカゲルを生成することが見出されており、例えば、クロマトグフィー用シリカゲルの前駆体、あるいは酵素等の生体成分を固定化したバイオセンサー等への応用についての報告がなされている(例えば、特許文献1,及び非特許文献1〜4参照)。しかしながら、このような多価アルコールを置換したシラン誘導体において、外用剤の水性ゲル化剤としての使用は未だ試みられていない。
【0005】
【特許文献1】PCT国際公開WO03/102001号公報
【非特許文献1】サトラー(Sattler)ら、ベリヒテ デア ブンゼンゲゼルシャフト:フィジカリシェ ヒェミー(Ber. Bunsenges.Phys.Chem)、1998年、第102巻、p.1544〜1547
【非特許文献2】メイヤー(Mayer)ら、ジャーナル オブ フィジカル ケミストリー B(J.Phys.Chem.B)、2002年、第106巻、p.1528〜1533
【非特許文献3】シプノフ(Schipunov)、Jジャーナル オブ コロイド アンド インターフェース サイエンス(.Colloid and Interface Sci)、2003年、第268巻、68〜76頁
【非特許文献4】シプノフ(Schipunov)ら、ジャーナル オブ バイオケミカル アンド バイオフィジカル メソッド(J.Biochem. Biophys. Methods)、2004年、第58巻、25〜38頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みて行なわれたものであり、その目的は、温度変化や添加物質に対する形態安定性に優れ、且つ使用性に優れた固体ゲル状外用剤を調製することのできる化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来技術の課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、多価アルコールを置換した水溶性メタルアルコラート誘導体を調製し、これを水系の外用剤処方中に配合することにより、水中での加水分解・脱水縮合反応によって基剤を十分に固化することができ、得られた固体ゲル状の基剤は、温度変化や添加物質に対する形態安定性にも優れ、さらに使用時に容易に崩壊するため、指どれや塗布時の広がりといった使用性の点にも優れていることを見出した。また、水溶性メタルアルコラート誘導体の固化反応時に処方中でメソスケールの金属酸化物ゲル及び多価アルコールを生成することにより、外用剤として特に優れた使用感触が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかる水溶性メタルアルコラート誘導体は、下記一般式(1)で示されるものである。
−(OR (1)
(式中、MはSi,Ti,Zr,Zn,又はAl原子、Rは多価アルコール残基であり、MがSi,Ti又はZr原子である場合にnは4、MがZn原子である場合にnは2、MがAl原子である場合にnは3である。)
【0009】
また、前記水溶性メタルアルコラート誘導体において、式(1)中のMがSi,又はTi原子であることが好適である。また、前記水溶性メタルアルコラート誘導体において、式(1)中のRがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基のいずれかであることが好適である。
【0010】
また、本発明にかかる固体ゲル状外用剤は、前記水溶性メタルアルコラート誘導体と、水とを配合してなることを特徴とする。
また、前記固体ゲル状外用剤において、さらに薬剤成分を配合することが好適である。
【0011】
また、本発明にかかる固体ゲル状外用剤の製造方法は、前記水溶性メタルアルコラート誘導体を、水を含む外用剤処方中に添加することを特徴とするものである。
また、本発明にかかる固体ゲル状外用剤の製造方法は、前記水溶性メタルアルコラート誘導体と水とを混合して固体ゲルを調製し、得られた固体ゲルを外用剤処方中に添加することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる水溶性メタルアルコラート誘導体を水系の外用剤処方中に配合して調製した固体ゲル状外用剤は、温度変化や添加物質に対する形態の安定性に優れ、また、使用時に容易に崩壊するため、指どれや塗布時の広がりといった使用性の点にも優れている。また、さらに水溶性メタルアルコラート誘導体の固化反応時に生成するメソスケールの金属酸化物ゲル及び多価アルコールによって、外用剤として優れた使用感触が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明にかかる水溶性メタルアルコラート誘導体は、下記一般式(1)で示されるものである。
−(OR (1)
(式中、MはSi,Ti,Zr,Zn,又はAl原子、Rは多価アルコール残基であり、MがSi,Ti又はZr原子である場合にnは4、MがZn原子である場合にnは2、MがAl原子である場合にnは3である。)
【0014】
本発明に用いられる上記一般式(1)に示される水溶性メタルアルコラート誘導体において、MはSi,Ti,Zr,Zn,又はAl原子である。なお、前記水溶性メタルアルコラート誘導体は、通常、1価アルコールによる金属アルコキシドと多価アルコールとの置換反応により調製することができ、Mは使用する金属アルコキシドの種類によって異なるが、外用剤としての使用感触の点から、MがSi、又はTi原子であることが好ましく、特にSi原子であることが好ましい。
【0015】
本発明に用いられる上記一般式(1)に示される水溶性メタルアルコラート誘導体において、Rは多価アルコールの残基であり、多価アルコールにおける1つの水酸基が除かれた形として示される。なお、前述したように、前記水溶性メタルアルコラート誘導体は、通常、金属アルコキシドと多価アルコールとの置換反応により調製することができ、Rは、使用する多価アルコールの種類によって異なるが、例えば、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いた場合、Rは−CH−CH−OHとなる。
【0016】
上記一般式(1)におけるRとしては、例えば、エチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ポリエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、ポリプロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、ヘキシレングリコール残基、グリセリン残基、ジグリセリン残基、ポリグリセリン残基、ネオペンチルグリコール残基、トリメチロールプロパン残基、ペンタエリスリトール残基、マルチトール残基等が挙げられる。これらのうち、外用剤としての使用感触の点から、Rがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基のいずれかであることが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる水溶性メタルアルコラート誘導体としては、より具体的には、Si−(O−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CHOH−CH、Si−(O−CH−CHOH−CH−OH)等が挙げられる。
【0018】
本発明に用いられる前記水溶性メタルアルコラート誘導体は、例えば、金属アルコキシドと多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることにより調製することができる。
【0019】
金属アルコキシドは、Si,Ti,Zr,Zn,又はAl原子のいずれかの金属原子にアルコキシ基が結合したものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラエトキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、ジエトキシ亜鉛、トリエトキシアルミニウム等が挙げられる。これらのうち、入手のし易さ、及び反応副生成物の安全性の点から、テトラエトキシシランを好適に用いることができる。
【0020】
なお、金属アルコキシドの代替化合物として、モノ、ジ、トリ、ハロゲン化金属(アルコキシド)、例えばモノクロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、モノブロモトリエトキシシラン、テトラクロロシラン等を用いる事も考えられるが、これらの化合物は、多価アルコールとの反応において、塩化水素、臭化水素などの強酸を生成するため、反応装置の腐食が生じたり、さらには反応後の分離除去が困難であるため、実用的であるとは言い難い。
【0021】
多価アルコールは、分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、マルチトール等が挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンのいずれかを用いるのが好ましい。
【0022】
固体触媒は、用いられる原料成分、反応溶媒、及び反応生成物に対して不溶な固体状の触媒であり、ケイ素原子上の置換基交換反応に対して活性を有する酸点及び/又は塩基点を有する固体であればよい。本発明に用いられる固体触媒としては、例えば、イオン交換樹脂、及び各種無機固体酸/塩基触媒が挙げられる。
【0023】
固体触媒として用いられるイオン交換樹脂としては、例えば、酸性陽イオン交換樹脂及び塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのイオン交換樹脂の基体をなす樹脂としてはスチレン系、アクリル系、メタクリル系樹脂等が挙げられ、また、触媒活性を示す官能基としてはスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、4級アンモニウム、3級アミン、1,2級ポリアミン等が挙げられる。また、イオン交換樹脂の基体構造としては、ゲル型、ポーラス型、バイポーラス型等から、目的に応じて選択することができる。
【0024】
酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC76、FPC3500、IRC748、IRB120B Na、IR124 Na、200CT Na(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SK1B、PK208(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア650C、マラソンC、HCR−S、マラソンMSC(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。また、塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA400J CL、IRA402BL CL、IRA410J CL、IRA411 CL、IRA458RF CL、IRA900J CL、IRA910CT CL、IRA67、IRA96SB(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SA10A、SAF11AL、SAF12A、PAF308L(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア550A、マラソンA、マラソンA2、マラソンMSA(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。
【0025】
固体触媒として用いられる無機固体酸/塩基触媒としては、特に限定されるものではない。無機固体酸触媒としては、Al、SiO、ZrO、TiO、ZnO、MgO、Cr等の単元系金属酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−ZrO、ZnO−Al、Cr−AlO3、SiO−MgO、ZnO−SiO等の複合系金属酸化物、NiSO、FeSO等の金属硫酸塩、FePO等の金属リン酸塩、HSO/SiO等の固定化硫酸、HPO/SiO等の固定化リン酸、HBO/SiO等の固定化ホウ酸、活性白土、ゼオライト、カオリン、モンモリロナイト等の天然鉱物又は層状化合物、AlPO−ゼオライト等の合成ゼオライト、HPW1240・5HO、HPW1240等のヘテロポリ酸等が挙げられる。また、無機固体塩基触媒としては、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、La、ZrO、ThO等の単元系金属酸化物、NaCO、KCO、KHCO、KNaCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、NaWO・2HO、KCN等の金属塩、Na−Al、K−SiO等のアルカリ金属担持金属酸化物、Na−モルデナイト等のアルカリ金属担持ゼオライト、SiO−MgO、SiO−CaO、SiO−SrO、SiO−ZnO、SiO−Al、SiO−ThO、SiO−TiO、SiO−ZrO、SiO−MoO、SiO−WO、Al−MgO、Al−ThO、Al−TiO、Al−ZrO、ZrO−ZnO、ZrO−TiO、TiO−MgO、ZrO−SnO等の複合系金属酸化物等が挙げられる。
【0026】
固体触媒は、反応終了後にろ過あるいはデカンテーション等の処理を行なうことによって、容易に生成物と分離することができる。
【0027】
また、反応の際の温度条件は特に限定されるものではないが、5〜90℃の温度条件下で行なうことが好ましい。90℃を超える温度条件下で反応を行なう場合、反応装置の耐久性等の実使用上の問題があり、さらに反応溶媒として高沸点溶媒を用いる必要があり、溶媒の完全な分離除去が困難となる。また、常温条件下、すなわち5〜35℃の温度条件下で反応を行なうことがより好適である。ここで、常温条件下で反応を行なう場合には、多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールのいずれかを用いることが好ましい。その他の多価アルコール、例えば、グリセリンを用いた場合には、常温条件下では反応生成物を生じない場合がある。
【0028】
反応時には溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて各種溶媒を用いても構わない。反応に用いる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、セロソルブ、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエステル、エーテル、ケトン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、さらにはクロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。ここで、原料として用いるテトラアルコキシシランの加水分解縮合反応を抑制するため、溶媒は予め脱水しておくことが好ましい。また、これらのうちで、反応時に副生成するエタノール等のアルコールと共沸混合物を形成して系外へと除去することで反応を促進することのできるアセトニトリル、トルエン等を用いることが好ましい。
【0029】
本発明にかかる固体ゲル状外用剤においては、上記一般式(1)に示される水溶性メタルアルコラート誘導体から選択される2種以上のものを組み合わせて配合してもよい。前記水溶性メタルアルコラート誘導体の含有量は基剤を固化し得る量であれば特に制限はないが、外用剤全量中5〜60質量%であることが好ましく、さらに好ましくは10〜30%である。前記水溶性メタルアルコラート誘導体の含有量が5質量%未満では系が十分に固化されず、また60質量%を超えると硬くなりすぎてしまい、塗布しにくくなる場合がある。
【0030】
上記一般式(1)に示される水溶性メタルアルコラート誘導体は、水中での加水分解・脱水縮合反応により、メソスケールの金属酸化物ゲルと多価アルコールとを生成する。このため、本発明においては、前記水溶性メタルアルコラート誘導体を、水を含む外用剤処方中に添加するだけで、容易に基剤を固化することができ、固体ゲル状の外用剤を調製することができる。また、本発明においては、前記水溶性メタルアルコラート誘導体と水とを混合することにより、予め固体ゲルを調製し、得られた固体ゲルを外用剤処方中に添加することによって、固体ゲル状外用剤を調製することも可能である。この場合、予め調製した固体ゲルは、そのままで、あるいは公知の分散機等を用いて適当な大きさに解砕した後、外用剤処方中に添加することができる。なお、予め調製した固体ゲルを外用剤処方中に添加する場合には、水溶性メタルアルコラート誘導体の固化に要する水分を外用剤処方中に配合する必要は無い。しかしながら、予め調製した固体ゲルにおいては、通常、多量の水が残存しているため、水系の処方中、あるいは乳化系処方の水相成分として添加されることが好ましい。
【0031】
以上のようにして得られる本発明の固体ゲル状外用剤は、従来、水系基剤の増粘・ゲル化剤として用いられてきた天然又は合成の水溶性高分子を用いた場合と比較して、温度変化や添加物質に対する基剤の形態安定性に優れている。また、使用時に容易に崩壊するため、指どれや塗布時の広がりといった使用性の点でも優れている。さらに、前記水溶性メタルアルコラート誘導体は、水との反応時に金属酸化物ゲルと多価アルコールを処方中に生成するため、例えば、洗顔スクラブとして使用した場合には、塗布時に生成した金属酸化物ゲルによるスクラブ効果が得られ、また、化粧料の保湿成分として汎用されている多価アルコールの保湿効果により、使用後のしっとりした感触が得られる。
【0032】
また、通常の外用剤基剤中において、例えば、酵素のような薬剤成分は、外環境の影響あるいは経時により失活してしまうため、基剤中での活性の保持が困難であるという問題があった。このような薬剤成分を本発明にかかる固体ゲル状外用剤中に配合した場合、当該薬剤成分がゲル構造中に包摂されることによって、構造の安定化による長期間の活性保持が可能となる。また、通常の外用剤基剤では、経皮吸収性の薬剤を配合した場合、皮膚に塗擦後の組成変化によって短時間で溶出あるいは経皮吸収されてしまい、薬効を長期間にわたって持続させることが難しいという問題があった。そして、このような薬剤成分を本発明にかかる固体ゲル状外用剤中に配合した場合、当該薬剤成分がゲル構造中に包摂されることによって、ゲル構造の崩壊に伴って薬剤成分が徐々に放出され、薬効を長時間持続させる事が可能となる。このため、本発明にかかる固体ゲル状外用剤においては、薬剤成分を好適に配合することができる。
【0033】
本発明にかかる固体ゲル状外用剤においては、必須成分である上記一般式(1)に示される水溶性メタルアルコラート誘導体と水の他に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で適宜他の成分を配合することができる。配合し得る他の成分としては、通常、化粧品、医薬品等の外用剤の基剤成分あるいは添加剤成分として用いられている液状油分、固形油分、各種界面活性剤、保湿剤、前記水溶性メタルアルコラート誘導体以外のゲル化剤、水溶性高分子、低級アルコール、多価アルコール、糖類、紫外線吸収剤、アミノ酸類、ビタミン類、薬剤、植物抽出物、有機酸、有機アミン、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、抗菌剤、防腐剤、清涼剤、香料、エモリエント剤、色素等が挙げられる。また、化粧品等に機能性を賦与する目的で用いられる美白剤、抗しわ剤、抗老化剤、抗炎症剤、発毛剤、育毛促進剤、タンパク質分解酵素などの薬剤、および外用薬の薬効成分としてのステロイド剤、非ステロイド剤を含む抗炎症剤、免疫抑制剤、鎮痛消炎剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗腫瘍剤、抗潰瘍・褥瘡剤、創傷被覆剤、循環改善剤、止痒剤、局所麻酔剤、酔い止め剤、ニコチン剤、女性ホルモン剤等を配合してもよい。
【0034】
なお、本発明にかかる固体ゲル状外用剤において「固体ゲル状」とは、当該外用剤が常温で流動性の無い状態であることをいう。より具体的には、外用剤サンプルを試験管に充填したものを、常温で45℃に傾けたときにサンプルが直ちに流動しないものである。
【0035】
本発明にかかる固体ゲル状外用剤の使用用途は、通常、人体あるいは動物に対して使用する外用剤であれば、特に限定されるものではないが、例えば、洗顔スクラブ、保湿スクラブ、酵素配合スクラブ、ファンデーション下地、美容液、乳液、クリーム、メークアップなどの化粧料、及びパップ剤、経皮吸収薬剤含有製剤等の他、種々の製品に応用することが可能である。
【実施例1】
【0036】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
まず最初に、本発明にかかる水溶性メタルアルコラート誘導体の製造方法について説明する。
【0037】
合成例1:プロピレングリコール置換シラン誘導体
Si−(OCHCHCHOH)
テトラエトキシシラン11.7g(0.085モル)とプロピレングリコール12.09g(0.16モル)とをアセトニトリル100ml中に添加し、透明一層の溶液を得た。これに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)0.8gを添加した後、室温で30時間混合攪拌した。固体触媒をろ過分離し、エタノールとアセトニトリルを減圧下留去して、透明の粘性液体14.5gを得た(収率:95.2%)。
【0038】
合成例2:1,3−ブチレングリコール置換シラン誘導体
Si−(OCHCHCHOHCH
アセトニトリル55gに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.1gを添加し、テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)を溶解した。これに1,3−ブチレングリコール36.2g(0.4モル)を添加した後、室温で75時間攪拌混合した。約5時間経過した後、溶液がやや白濁し、若干の粘度上昇が認められた。75時間反応させた後、固体触媒をろ過分離し、次いでエタノールとアセトニトリルを減圧留去して、透明流動性の液体37.7gを得た(収率:97%)。
【0039】
合成例3:エチレングリコール置換チタンアルコキシド誘導体
チタン酸テトライソプロピル14.21g(0.05モル)と、エチレングリコール12.42g(0.2モル)とを無溶媒、窒素雰囲気下で混合することで白色沈殿を得た。上澄みをNMRで測定し、イソプロパノールであることを確認した。得られた白色の沈殿物をクロロホルム中に添加すると透明均一に溶解した。このクロロホルム溶液を水中に滴下すると白色沈殿を生じ、この沈殿物を減圧乾燥した後にX線回折装置で測定し、酸化チタンであることを確認した。
【0040】
水溶性メタルアルコラート誘導体の外用剤への配合
本発明者らは、上記合成例に準じて各種水溶性メタルアルコラート誘導体を調製し、当該水溶性メタルアルコラート誘導体を配合した外用剤の調製を試みた。
【0041】
実施例1,2(洗顔料)
下記表1の組成に従い、水溶性シラン誘導体、水、及び界面活性剤を平板ガラス瓶中に秤量添加後、振とう攪拌により均一混合し、室温で放置した。
【表1】

【0042】
実施例1,2のいずれにおいても、1〜2時間の静置によって透明固体ゲルが得られた。実施例2では、その後の長時間の放置により不透明体に変化した。いずれの実施例についても、スパチュラを用いて少量を容易にかき取ることが可能であった。得られた塊状物質を手のひらに取ってこすると、速やかに崩壊して、しっとりした練り状粉末となった。また、少量の水を用いてこすると、さらに容易に拡がり、皮膚状に塗布、マッサージすることが可能であった。
【0043】
実施例1においては、少量の水とともに肌に伸ばすことにより、水溶性シラン誘導体の脱水縮合・加水分解により生成したシリカゲルによるスクラブ効果が得られた。また、副生成したプロピレングリコールの保湿効果により、洗顔後のしっとりとした使用感触が得られた。実施例2においては、シリカゲルによるスクラブ効果と併せて、組成中に含まれる界面活性剤(アシルグルタミン酸塩)により適度な泡立ちと洗顔効果が得られ、使用後は実施例1と同様のしっとりとした使用感触が得られた。
【0044】
実施例3〜5(洗顔料)
下記表2の組成に従い、水溶性シラン誘導体、水、及び界面活性剤を平板ガラス瓶中に秤量添加後、振とう攪拌により均一混合し、室温で放置した。
【表2】

【0045】
実施例3では、数時間の静置により透明固体ゲルが得られた。実施例4は、約4時間後に不透明な固体ゲルとなった。実施例5は、約3時間後に白濁固化した。いずれの実施例についても、スパチュラを用いて少量を容易にかき取ることが可能であった。得られた塊状物質を手のひらに取ってこすると、速やかに崩壊して、しっとりした練り状粉末となった。また、少量の水を用いてこすると、さらに容易に拡がり、皮膚状に塗布、マッサージすることが可能であった。
【0046】
実施例3においては、少量の水とともに肌に伸ばすことにより、水溶性シラン誘導体の脱水縮合・加水分解により生成したシリカゲルによるスクラブ効果が得られた。また、副生成した1,3−ブチレングリコールの保湿効果により、洗顔後のしっとりとした使用感触が得られた。実施例4,5においては、シリカゲルによるスクラブ効果と併せて、組成中に含まれる界面活性剤(アシルグルタミン酸塩)により適度な泡立ちと洗顔効果が得られ、使用後は実施例3と同様のしっとりとした使用感触が得られた。
【0047】
実施例6(透明美白ジェル)
トラネキサム酸0.2gを脱イオン水7.6gに溶解し、これにプロピレングリコール置換シラン誘導体(Si−(OCHCHCHOH))2.2gを加えて十分に攪拌した後、ジャーに充填した。
室温で放置後、透明固体状のゲルが得られた。極めて透明性が高く、寒天状の固さを有する固体ゲルであるが、匙状アプリケータを用いて容易に適量をかき取ることが可能であった。得られた透明固体状ゲルを肌上でこすると、滑らかに拡がり、肌にしっとりとした感触が得られた。さらにトラネキサム酸の配合による美白効果及び整肌効果が得られた。
【0048】
また、さらに上記組成より、プロピレングリコール置換シラン誘導体の量を2.0gに減量して混合攪拌したところ、やや軟らかい透明ゲル状物質が得られた。これを押し出しポンプ式容器に充填し、室温下、窓際に静置したところ、1ヶ月間経過の後もゲルの形態及び押し出し易さに何ら変化が無く、極めて安定であった。
【0049】
薬剤成分の安定化
つづいて、本発明者らは、多価アルコール置換シラン誘導体を用いて調製した固体ゲル状外用剤基剤中に、薬剤成分を配合した場合の安定化効果について検討を行なった。
実施例7
プロピレングリコール置換シラン誘導体(Si−(OCHCHCHOH))0.2gを水1g中に溶解し、この溶液中にSubtilisin4μg/ml溶液0.2mlを添加混合し、一定時間静置した。得られた個体ゲルをスパチュラで破砕した後、遠心分離し、上静液を一定量採取した。同様にして被験試料を数種準備し、これらを各種温度(0℃,37℃,室温,50℃)に保持し、4時間後及び3日後の試料についてSubtilisinの酵素活性を測定した。酵素活性測定は、Tris−HC1緩衝液に添加したNα−p−トシル−L−アルギニンメチルエステル塩酸塩と各試料とを反応させた後、蛍光分光光度計により測定した。また、比較例として、プロピレングリコール置換シラン誘導体を用いなかった以外は実施例7と同様にして、Subtilisinの酵素活性の測定を行なった。
なお、酵素活性の数値は、比較例の試料を0℃で4時間保存したものの酵素活性を100.0として標準化した。上記酵素活性の測定結果を下記表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例8
プロピレングリコール置換シラン誘導体(Si−(OCHCHCHOH))0.2gを水1g中に溶解し、この溶液中にパパイン4μg/ml溶液0.2mlを添加混合し、96穴プレートに注入し、一定時間静置した。同様にして被験試料を数種準備し、これらを各種温度(0℃,37℃,室温,50℃)に保持し、2時間後及び3日後の試料についてパパインの酵素活性を測定した。酵素活性測定は、酵素の基質であるN−カルボベンゾキシ-フェニルアルギニン−4−メチルクマリンアミド(Z−PheArg−MCA)を直接96穴プレート中に添加し、20分間室温で放置した後、プレートリーダーにて酵素活性を測定した。また、比較例として、プロピレングリコール置換シラン誘導体を用いなかった以外は実施例8と同様にして、パパインの酵素活性の測定を行なった。
なお、酵素活性の数値は、比較例の試料を0℃で2時間保存したものの酵素活性を100.0として標準化した。上記酵素活性の測定結果を下記表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
タンパク分解酵素は、角層剥離促進による肌改善の目的で化粧料に配合されているものの、上記比較例より明らかなように、水溶液中では温度の負荷あるいは経時により失活してしまう。このため、通常の場合は、乾燥状態で粉末製剤化するか、グルタールアルデヒド処理等の特殊な固定化によって含水製剤中での活性維持を図る必要がある。
これに対して、上記実施例7,8に示すように、本発明にかかる固体ゲル状外用剤においては、高温あるいは経時においても高い酵素活性が維持される。このため、通常の化粧品の保存条件において実用レベルの酵素活性を維持することができ、製造時の角質剥離効果が長期間保持される。
【0054】
実施例9:固体ゲル状メーク落とし
【表5】

【0055】
実施例9により得られた固体ゲル状メーク落としは白色ゲルであり、肌上で速やかに崩壊して滑らかに拡がり、また、シリカゲルによるスクラブ効果、及び多価アルコールによるしっとりとした使用感触が得られた。
【0056】
実施例10:蛋白分解酵素配合固体ゲル状スクラブ
【表6】

【0057】
実施例10により得られた蛋白分解酵素配合固体ゲル状スクラブは、肌上で速やかに崩壊して滑らかに拡がり、また、シリカゲルによるスクラブ効果、及び多価アルコールによるしっとりとした使用感触が得られた。
【0058】
実施例11:蛋白分解酵素配合固体ゲル状美容料
【表7】

【0059】
実施例11により得られた蛋白分解酵素配合固体ゲル状美容料は、肌上で速やかに崩壊して滑らかに拡がり、また、シリカゲルによるスクラブ効果、及び多価アルコールによるしっとりとした使用感触が得られた。
【0060】
実施例12:固体ゲル状保湿ファンデーション
【表8】

【0061】
実施例12により得られた固体ゲル状保湿ファンデーションは、肌上で速やかに崩壊して滑らかに拡がり、また、多価アルコールによるしっとりとした使用感触が得られた。
【0062】
実施例13:固体ゲル状栄養クリーム
【表9】

【0063】
実施例13により得られた固体ゲル状栄養クリームは、肌上で速やかに崩壊して滑らかに拡がり、また、シリカゲルによるスクラブ効果、及び多価アルコールによるしっとりとした使用感触が得られた。
【0064】
実施例14:固体ゲル状マッサージクリーム
【表10】

【0065】
実施例14により得られた固体ゲル状マッサージクリームは、肌上で速やかに崩壊して滑らかに拡がり、また、シリカゲルによるスクラブ効果、及び多価アルコールによるしっとりとした使用感触が得られた。
【0066】
実施例15(洗顔料)
下記表11の組成に従い、水溶性シラン誘導体、水、及び界面活性剤を平板ガラス瓶中に秤量添加後、振とう攪拌により均一混合し、室温で放置した。
【表11】

【0067】
実施例15では、混合直後に白色固体ゲルが得られた。また実施例15により得られた洗顔料は,スパチュラを用いて少量を容易にかき取り,手のひらに取ってこすると、速やかに崩壊して、しっとりした練り状粉末となった。また、少量の水を用いてこすると、さらに容易に拡がり、皮膚状に塗布、マッサージすることが可能であった。
また、口紅を手の甲に塗布し,実施例15で得られた洗顔料を少量加えてこすると口紅は速やかに消失し,使用後はしっとりした使用感触が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される水溶性メタルアルコラート誘導体。
−(OR (1)
(式中、MはSi,Ti,Zr,Zn,又はAl原子、Rは多価アルコール残基であり、MがSi,Ti又はZr原子である場合にnは4、MがZn原子である場合にnは2、MがAl原子である場合にnは3である。)
【請求項2】
請求項1に記載の水溶性メタルアルコラート誘導体において、式(1)中のMがSi,又はTi原子であることを特徴とする水溶性メタルアルコラート誘導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水溶性メタルアルコラート誘導体において、式(1)中のRがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基のいずれかであることを特徴とする水溶性メタルアルコラート誘導体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の水溶性メタルアルコラート誘導体と、水とを配合してなることを特徴とする固体ゲル状外用剤。
【請求項5】
請求項4に記載の固体ゲル状外用剤において、さらに薬剤成分を配合することを特徴とする固体ゲル状外用剤。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載の水溶性メタルアルコラート誘導体を、水を含む外用剤処方中に添加することを特徴とする固体ゲル状外用剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載の水溶性メタルアルコラート誘導体と、水とを混合して固体ゲルを調製し、得られた固体ゲルを外用剤処方中に添加することを特徴とする固体ゲル状外用剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−70354(P2007−70354A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219901(P2006−219901)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】