説明

水溶性高分子皮膜形成剤並びに水溶性高分子皮膜形成剤の製造方法並びにタブリード並びにタブリードの製造方法

【課題】タブリードの耐電解液性、耐腐食性、耐湿性を確保し得る皮膜を形成し、この皮膜の厚さを容易に制御することで導電性を良好にし、更に、環境にやさしく、安全性に優れた水溶性高分子皮膜形成剤を提供することを目的とする。
【解決手段】カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとから成る水溶性高分子皮膜形成剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、リチウムイオン二次電池の正極及び負極から外部に電気を取り出すための端子であるタブリードとなる金属基材の表面に塗布し、タブリードの耐電解液性、耐腐食性を確保する水溶性高分子皮膜形成剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリン自動車の代替えとして、電気自動車の開発が急速に発達してきている。この電気自動車を普及する際の最も重要な課題のひとつとなっているのが電源となる電池である。この電池にはリチウムイオン二次電池が採用されているが、このリチウムイオン二次電池を電気自動車に採用するには10〜15年の保証が必要といわれ、そのため、高品質・高信頼性が要求されている。
【0003】
このリチウムイオン二次電池とは、正極・負極・セパレータ・電解液を金属ケース内或いはラミネート型のセル構造に収納して密閉構造としたものである。このリチウムイオン電池には、微量の水分でも悪影響を及ぼすため、完全密閉化は絶対条件となっている。また、安全性確保のため、その内部若しくは外部に安全弁を始め各種の保護機能を一体装備しているものが多い。
【0004】
また、このリチウムイオン電池には、正極及び負極から外部に電気を取り出すためのタブリードと呼ばれる端子が付設している。このタブリードは、一般的には、正極にはアルミニウム、負極にはニッケルめっきを施した銅が用いられているが、これらの導体にはPPフィルムなどの絶縁フィルムを溶着して絶縁機能を発揮させる必要がある。しかし、万が一、リチウムイオン二次電池内部の電解液からフッ化水素が発生した際には、タブリードを形成する金属基材と絶縁フィルムとが剥がれ易い状態となり、この金属基材と絶縁フィルムとが完全に剥がれてしまった場合には電解液漏れによる重大な事故につながってしまう可能性がある。また、タブリードの腐食・溶解反応があれば、リチウムイオン二次電池自体の耐久性が低下してしまうという問題も生じる。そのため、金属基材と絶縁フィルムとの剥がれ対策やタブリード自体の耐腐食性の向上が重要となっている。
【0005】
そのため、例えば、特開2001−307715号、特開2006−128096号、特許第3958536号及び特許第4081276号に示されるように、金属基材の表面に皮膜を形成して絶縁フィルムとの密着性の向上及び耐腐食性の向上を図ったタブリードの表面処理技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−307715号公報
【特許文献2】特開2006−128096号公報
【特許文献3】特許第3958536号公報
【特許文献4】特許第4081276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の表面処理では、金属基材の表面に形成した皮膜が厚すぎて、タブリードの導電性を低下させたり、皮膜自体に歪が生じこの歪によって皮膜が持つ本来の耐性を低下させたり、或いは表面処理を行った際に極めて毒性の高い生成物が生じるなど、様々な問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記タブリードの問題を解決するために、耐電解液性、耐腐食性、耐湿性を確保し得る皮膜を形成し、この皮膜の厚さを容易に制御することで導電性を良好にし、更に、環境にやさしく、安全性に優れた水溶性高分子皮膜形成剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0010】
カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとから成ることを特徴とする水溶性高分子皮膜形成剤に係るものである。
【0011】
また、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかと、VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物とから成ることを特徴とする水溶性高分子皮膜形成剤に係るものである。
【0012】
また、前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールは、重合度が50〜2000であることを特徴とする1,2のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤に係るものである。
【0013】
また、前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールは、ケン化度が80モル%〜98.5モル%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤に係るものである。
【0014】
また、前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールに対する前記ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかの固形分濃度比を0.4〜1.4としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤に係るものである。
【0015】
また、前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールに対する前記ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかの固形分濃度比を0.4〜1.4とする前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと前記ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとの混合物に、前記VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物を固形分濃度比で0.8〜2.5混合したことを特徴とする請求項2記載の水溶性高分子皮膜形成剤に係るものである。
【0016】
また、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとを混合して溶媒で溶解することを特徴とする水溶性高分子皮膜形成剤の製造方法に係るものである。
【0017】
また、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかと、VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物とを混合し溶媒中で溶解することを特徴とする水溶性高分子皮膜形成剤の製造方法に係るものである。
【0018】
また、前記溶媒は、純水であることを特徴とする請求項7,8のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤の製造方法に係るものである。
【0019】
また、前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤からなる水溶性高分子皮膜1を表面に被覆していることを特徴とするタブリードに係るものである。
【0020】
また、前記水溶性高分子皮膜1は、表面層にフッ素成分を含有することを特徴とする請求項10記載のタブリードに係るものである。
【0021】
また、前記水溶性高分子皮膜1は、バナジウム,亜鉛,クロム,コバルト,ニッケル,銅の群から選択される金属成分を0.59mg/m〜9.10mg/m含有することを特徴とする請求項10,11のいずれか1項に記載のタブリードに係るものである。
【0022】
また、金属基材2に、前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤を塗布し、この水溶性高分子皮膜形成剤を塗布した前記金属基材2を160℃以上で加熱し、乾燥して前記金属基材2の表面に塗布した水溶性高分子皮膜形成剤を脱水縮合して、前記金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成することを特徴とするタブリードの製造方法に係るものである。
【0023】
また、前記金属基材2は、アルミニウム,銅,ニッケル,又は、前記アルミニウム若しく前記銅にニッケルめっき又はスズめっきを施したものから選択されることを特徴とする請求項13記載のタブリードの製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上述のように構成したから、この水溶性高分子皮膜形成剤を、例えば、リチウムイオン電池のタブリードの表面処理剤として用いた場合は、タブリード表面に水溶性高分子皮膜を形成することができ、この水溶性高分子皮膜によって、耐電解液性、耐腐食性、耐湿性に優れたタブリードを形成することが可能となり、更に、この水溶性高分子皮膜は、従来の皮膜に比べて非常に薄い状態でタブリード表面に形成することができるので、タブリード表面を被覆した状態において、皮膜自体に歪が生じず、更に従来のタブリードよりも導電性の良いタブリードとなるので、リチウムイオン電池の性能を十分に発揮することができる耐久性、信頼性に優れた画期的なタブリード表面処理剤として用いることができる水溶性高分子皮膜形成剤となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施例のタブリード試験片を示す説明平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】実施例1〜実施例15及び比較例1〜比較例3の構成条件一覧表である。
【図4】実施例1〜実施例15及び比較例1〜比較例3の試験結果一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0027】
本発明は、水溶性高分子のアニオン変性ポリビニルアルコール(以下、アニオン変性PVA)に、架橋剤としての飽和脂肪族を加えたことで、アニオン変性PVAのみでは煮沸水に対して耐水性が非常に悪いものであったが、煮沸水に対しても優れた耐水性を有する水溶性高分子皮膜形成剤となる。
【0028】
即ち、例えば、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとを純水中で溶解した混合溶液を、例えば、金属基材2に塗布して加熱することで、脱水縮合反応を起こし、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAをエステル結合化し、このカルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAは、カルボニル化合物が生成した水溶性高分子皮膜1となる。即ち、付加反応が起こらない飽和脂肪族カルボン酸であるブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかで誘導し、水溶性高分子のカルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAをエステル結合化し、カルボニル化合物を作ることで優れた耐水性或いは耐湿性を有する水溶性高分子皮膜形成剤となる。
【0029】
特に、この水溶性高分子皮膜形成剤は、例えば、金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した際は、この水溶性高分子皮膜1にカルボニル基が出現し、更に、この表面に絶縁フィルム3のポリプロピレン(PP)を溶着した場合は、この絶縁フィルム3と水溶性高分子皮膜1との密着層にカルボニル基の分極基を付加することとなり、水溶性高分子皮膜1と絶縁フィルム3とが、ファンデルワールス力、或いは水素結合などの化学的に非常に強固な結合状態となる。
【0030】
また、例えば、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとを純水中で溶解した混合溶液に、水溶性フッ化水和物(例えば、VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物)を加えれば、耐腐食性が向上することとなる。
【0031】
即ち、この水溶性フッ化水和物に含有するフッ素は、電気陰性度が最大の原子であり、酸化剤でもある。また、水溶性フッ化水和物中の金属成分と常にイオン結合した状態で存在する。このため、水溶性高分子皮膜1形成前の金属基材2の表面には必ず酸素イオンが存在し、この水溶性高分子皮膜形成剤を塗布し、加熱・乾燥することで酸素イオンがこのフッ素イオンに引き寄せられ、フッ素と結合している金属との間で活性化された微小な金属酸化物が形成され、この水溶性高分子皮膜1と金属基材2との密着性を向上させることとなり、これによって、耐腐食性が向上することとなる。
【0032】
従って、例えば、本発明の水溶性高分子皮膜形成剤を金属基材2の表面に塗布して水溶性高分子皮膜1を形成した場合、非常に厚さの薄い皮膜を形成することができるので皮膜に歪が生じない良好な水溶性高分子皮膜1となる。従って、例えば、この水溶性高分子皮膜形成剤をリチウムイオン電池のタブリード表面処理剤として用いた場合は、耐腐食性、耐湿性が向上し、前述した絶縁フィルム3との密着層、及び金属基材2との界面での微小な金属酸化物を形成することで総合的に改善され、耐電解液、耐フッ化水素酸などの信頼性が向上する。
【0033】
また、従来の表面処理されたタブリードに比べて、表面の導電性の低下もなく、リチウムイオン電池の性能を十分に発揮することができる耐久性、信頼性に優れた画期的なタブリード表面処理剤として用いることができる水溶性高分子皮膜形成剤となる。
【実施例】
【0034】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0035】
本実施例は、水溶性高分子と、架橋剤である飽和脂肪族カルボン酸と、水溶性フッ化水和物とからなる水溶性高分子皮膜形成剤を金属基材2に塗布して形成したタブリードである。
【0036】
具体的には、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかと、VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物とを純水中で混合、溶解した水溶性高分子皮膜形成剤を金属基材2に塗布し、この金属基材2を加熱、乾燥することで前記水溶性高分子皮膜形成剤が脱水縮合を起こして、この金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成したタブリードである。
【0037】
更に詳しく説明すると、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン性PVAは、重合度50〜2000、ケン化度80モル%〜98.5モル%のものが好ましい。この重合度は、低すぎると水に溶け易くなり、また、高くなるに連れて皮膜強度は強くなるが、高くなりすぎると皮膜の歪が大きくなり、耐電解液性が低下してしまう。
【0038】
また、ケン化度は、表面張力との関係があり、ケン化度が小さくなると表面張力は低下し、濡れ性が低下してしまう。
【0039】
そこで、本実施例では、本実施例では、重合度70〜1000、ケン化度87モル%〜96モル%のものを採用し、タブリード表面処理液としての性能を発揮できる構成としている。
【0040】
また、このように構成したカルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAと、その架橋剤となるブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかと、VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物とを固形分濃度比を調整して純水中で混合、溶解する。
【0041】
具体的な固形分濃度比の調整量は、架橋剤にブタンテトラカルボン酸(1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸)を選択した場合は、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVA(A)に対するブタンテトラカルボン酸(B)の固形分濃度比(B/A)を0.6〜1.4となるように混合し、また、アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体(B)を選択した場合は、固形分濃度比(B/A)を0.4〜1.2となるように混合している。
【0042】
また、水溶性フッ化水和物(C)であるVF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択したものを採用し、上述した固形分濃度比で混合した混合液(A+B)に対する水溶性フッ化水和物(C)の固形分濃度比(C/(A+B))を0.8〜2.5となるように混合している。
【0043】
このようにして、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかと、VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物とを、純水中で混合、溶解して水溶性高分子皮膜形成剤を形成し、これを金属基材2に塗布して、加熱乾燥することで金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1が形成される。
【0044】
更に、詳しく説明すると、タブリードに用いる金属基材2は、アルミニウム,銅,ニッケル、又は、前記アルミニウム若しく前記銅にニッケルめっき又はスズめっきを施したものを採用し、本実施例では、一般的なリチウムイオン電池の正極用として用いられるアルミ基材、負極用として用いられるニッケルめっきを施した銅基材の二種類の金属基材2を用いて、これらに前処理を施してから上述した水溶性高分子皮膜形成剤を塗布し、表面に水溶性高分子皮膜1を形成している。
【0045】
具体的には、前記金属基材2をアルカリ処理+純水洗浄で脱脂洗浄を行い、次いで、酸処理+純水洗浄で表面を浄化し、エアブローで水分を飛ばして表面を乾燥させた状態の金属基材2を水溶性高分子皮膜形成剤の中に浸漬させて、この水溶性高分子皮膜形成剤を表面に付着させ、160℃以上に設定した乾燥炉に入れて4分〜10分間加熱して乾燥させる。尚、この乾燥炉の加熱温度は、選択した成分や固形分濃度比によって適宜最適な温度を選択するものである。
【0046】
また、このようにして金属基材2の表面に形成した水溶性高分子皮膜1中のVF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物に含有する金属成分の含有量は、0.59mg/m〜9.10mg/mとなるように構成することが好ましく、本実施例においては、0.59mg/m〜6.10mg/mの範囲で設定した。
【0047】
この金属成分の含有量の調整は、金属基材2に形成される水溶性高分子皮膜1の厚さにも関係する。この水溶性高分子皮膜1の厚さのコントロールは、水溶性高分子皮膜形成剤の希釈度、即ち、水溶液粘度の調整、及び金属成分含有量などによって行うものである。
【0048】
このように加熱乾燥することによって、金属基材2の表面に付着した水溶性高分子皮膜形成剤が脱水縮合反応を起こし、この脱水縮合反応によってエステル結合が生じてカルボニル化合物を生成することで耐水性、及び絶縁フィルム3との密着性にも優れた性質を有するものとなる。
【0049】
また、本実施例の構成要件で構成した実施例1〜実施例15及び本実施例の構成要件以外の条件を設定した比較例1〜比較例3を以下に示す。
【0050】
<実施例1>
実施例1における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が1.09となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化バナジウム水和物(VF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が0.91となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、160℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0051】
<実施例2>
実施例2における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.61となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化亜鉛水和物(ZnF2・4H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.52となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、200℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0052】
<実施例3>
実施例3における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が1.10となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化クロム水和物(CrF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.45となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、180℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0053】
<実施例4>
実施例4における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.72となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化コバルト水和物(CoF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が0.87となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、190℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0054】
<実施例5>
実施例5における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.60となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化ニッケル水和物(NiF2・4H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.33となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、170℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0055】
<実施例6>
実施例6における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が1.38となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化銅水和物(CuF2・2H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が2.10となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、220℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0056】
<実施例7>
実施例7における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、5−アミノ−n−吉草酸(アミノカルボン酸)(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.41となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化バナジウム水和物(VF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.71となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、190℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0057】
<実施例8>
実施例8における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、5−アミノ−n−吉草酸(アミノカルボン酸)(B)とを、固形分濃度比(B/A)が1.01となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化クロム水和物(CrF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.22となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、190℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0058】
<実施例9>
実施例9における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、5−アミノ−n−吉草酸(アミノカルボン酸)(B)とを、固形分濃度比(B/A)が1.20となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化コバルト水和物(CoF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が2.48となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、190℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0059】
<実施例10>
実施例10における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、塩化ジルコニウム化合物アミノカルボン酸(アミノカルボン酸誘導体)(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.76となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化バナジウム水和物(VF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が2.13となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、210℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0060】
<実施例11>
実施例11における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、塩化ジルコニウム化合物アミノカルボン酸(アミノカルボン酸誘導体)(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.68となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化クロム水和物(CrF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.45となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、210℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0061】
<実施例12>
実施例12における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、塩化ジルコニウム化合物アミノカルボン酸(アミノカルボン酸誘導体)(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.71となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化コバルト水和物(CoF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.33となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、210℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0062】
<実施例13>
実施例13における水溶性高分子皮膜形成剤は、スルホ基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.98となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化バナジウム水和物(VF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.22となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、190℃で4分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0063】
<実施例14>
実施例14における水溶性高分子皮膜形成剤は、スルホ基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が1.11となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化クロム水和物(CrF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.36となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、190℃で4分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0064】
<実施例15>
実施例15おける水溶性高分子皮膜形成剤は、スルホ基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が1.05となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化コバルト水和物(CoF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.49となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、190℃で4分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0065】
<比較例1>
比較例1における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が1.01となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化バナジウム水和物(VF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が0.91となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、140℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0066】
<比較例2>
比較例2における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、アジピン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.71となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化クロム水和物(CrF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が1.21となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、180℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0067】
<比較例3>
比較例3における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、プロピオン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が0.65となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化クロム水和物(CrF3・3H2O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が0.86となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、180℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。
【0068】
尚、上述した実施例1〜実施例15及び比較例1〜比較例3の構成条件をまとめたものを図3の構成条件一覧表に示す。
【0069】
また、上述した実施例1〜実施例15及び比較例1〜比較例3で作製したタブリード試験片4について、具体的に説明すると、金属基材2となるアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材は、厚さ0.2mmの板材を用いて、60mm×40mmの方形状に切り出したものを使用した。これらの金属基材2を上述した実施例1〜実施例15及び比較例1〜比較例3に示した条件で表面処理を行って、表面に水溶性高分子皮膜1を形成し、図1,図2に示すように、この表面に水溶性高分子皮膜1を形成した金属基材2の上下面に、この基材を挟んで重合状態に絶縁フィルム3(厚さ100μm、幅15mmのものを使用)を両端が5mmずつ突出するようにして架設し、この状態で溶着してタブリード試験片4を作製した。
【0070】
尚、金属基材2は、上記以外に銅,ニッケル,ニッケルめっきを施したアルミ,スズめっきを施したアルミ若しくはスズめっきを施した銅を用いても良い。
【0071】
このように実施例1〜実施例15及び比較例1〜比較例3で表面に水溶性高分子皮膜1を形成した金属基材2に絶縁フィルム3を溶着して作製したタブリード試験片4に対して、以下に示す6項目の試験を行い、水溶性高分子皮膜1を形成するための水溶性高分子皮膜形成剤がタブリード表面処理剤として有効かどうかの確認を行った。
【0072】
本実施例で行った試験内容は、(1)浸透液試験、(2)剥離強度試験、(3)フッ化水素酸浸漬試験、(4)電解液浸漬試験、(5)耐湿試験、(6)塩水噴霧試験の6項目であり、試験の順番は、(1)〜(6)の順番で実施し、また、(1)浸透液試験、(2)剥離強度試験、(3)フッ化水素酸浸漬試験までは全てのタブリード試験片4に対して試験を行い、この(3)フッ化水素酸浸漬試験に合格したものだけを次の試験に進め、以降も同様に合格したものだけを次の試験に進めることとした。以下に試験内容の詳細を説明する。
【0073】
(1)浸透液試験
浸透液試験の目的は、所定の表面処理条件を施した金属基材2に絶縁フィルム3を溶着して形成したタブリード試験片4に問題があるかどうかを外観的に確認するものである。
【0074】
試験内容は、絶縁フィルム3を溶着した部分の四隅に浸透液(脂肪酸エステルや赤色染料など)を滴下し、10分放置した後、洗浄液(n−ヘプタン)で滴下した浸透液を拭き取り、浸透液を滴下した箇所の絶縁フィルム3に浸透液が浸透しているかどうかを目視および顕微鏡などで確認する。
【0075】
試験判定は、浸透が無ければ合格、貫通浸透や部分的な浸透があれば不合格とする。
【0076】
(2)剥離強度試験
剥離強度試験の目的は、所定の表面処理条件を施した金属基材2に絶縁フィルム3を溶着して形成したタブリード試験片4における引張強度、即ち、金属基材2と絶縁フィルム3との密着性を確認するものである。
【0077】
試験内容は、二軸延伸ナイロン(ONy)/アルミ箔(Al)/無延伸ポリプロピレン(CPP)からなる三層ラミネートフィルムを半分に折り、これにタブリード試験片4を挟み込んだ状態で、溶着機を用いてラミネートフィルムとタブリード試験片4を溶着したサンプルを作製する。このサンプルを15mm幅に切断し、引張試験機を用いて10mm/分で引っ張り、溶着部が剥離する際の荷重を測定することで剥離強度を確認する。
【0078】
試験判定は、剥離時の荷重が40N以上であれば合格とし、40Nに満たないものは不合格とする。
【0079】
(3)フッ化水素酸浸漬試験
フッ化水素酸浸漬試験の目的は、電解液に水が混入するとフッ化水素が発生するが、その仮想状態としてタブリード試験片4をフッ化水素酸に浸漬させ、所定の表面処理条件を施した金属基材2と絶縁フィルム3との間に剥がれが生じるかどうかの確認を行うものである。
【0080】
試験内容は、濃度1%のフッ化水素酸を入れた容器内にタブリード試験片4を浸漬させた後、剥がれの有無を確認する。
【0081】
尚、アルミ基材で形成したタブリード試験片4については、フッ化水素酸に容易に溶解してしまうため、このフッ化水素酸浸漬試験は行わないこととした。
【0082】
試験判定は、所定の表面処理条件を施した金属基材2と絶縁フィルム3との間に剥がれが無いこと、若しくは剥がれが1mm以内であれば合格とし、それ以上の剥がれが生じた場合は不合格とする。
【0083】
(4)電解液浸漬試験
電解液浸漬試験の目的は、リチウムイオン電池に使用される電解液によって所定の表面処理条件を施した金属基材2と絶縁フィルム3との間に剥がれが生じるかどうかのタブリードとしての信頼性確認を行うものである。
【0084】
試験内容は、密閉容器(フッ素樹脂製の容器)内にリチウムイオン電池用電解液(本試験では、溶質は六フッ化リン酸リチウムを使用)を入れ、この中にタブリード試験片4を入れて密閉し、アルミ箔で覆い、これを爆発ベント付恒温器に入れて85℃に設定して4週間放置した後、剥がれの有無を確認する。
【0085】
試験判定は、所定の表面処理条件を施した金属基材2と絶縁フィルム3との間に剥がれが無いこと、若しくは剥がれが1mm以内であれば合格とし、それ以上の剥がれが生じた場合は不合格とする。
【0086】
(5)耐湿試験
耐湿試験の目的は、タブリードとしての水分に対する耐腐食性を確認するものである。
【0087】
試験内容は、所定の表面処理条件を施した金属基材2に絶縁フィルム3を溶着したタブリード試験片4を、ステンレストレー上にフッ素樹脂製のバーで挟持して立設状態にして恒温恒湿器に入れ、温度60℃、湿度95%に設定して96時間放置した後、腐食の有無を目視および顕微鏡などで確認する。
【0088】
試験判定は、所定の表面処理条件を施した金属基材2と絶縁フィルム3との境界部で腐食の発生が無く、その他の部分で、水分が部分的に付着した汚れがある程度のものまでは合格とし、腐食が生じているもの、タブリード試験片4の広範囲に水が付着した汚れがあるものは不合格とする。
【0089】
(6)塩水噴霧試験
塩水噴霧試験は、目的はタブリードの塩水に対する耐腐食性を確認するものである。
【0090】
試験内容は、塩水噴霧試験機に、所定の表面処理条件を施した金属基材2に絶縁フィルム3を溶着したタブリード試験片4を傾斜状態にセットし、35℃に設定して5%塩化ナトリウム溶液を噴霧量2ml/H,噴霧圧力0.098MPaの条件で96時間噴霧した後、腐食の有無を目視および顕微鏡などで確認する。
【0091】
試験判定は、所定の表面処理条件を施した金属基材2と絶縁フィルム3との境界部で腐食の発生が無く、その他の部分で、塩水が部分的に付着した汚れがある程度のものまでは合格とし、腐食が生じているもの、タブリード試験片4の広範囲に塩水が付着した汚れがあるものは不合格となる。
【0092】
実施例1〜実施例15及び比較例1〜比較例3を上記6項目の試験を行った結果を以下に示す。
【0093】
浸透液試験の結果は、実施例1〜実施例15においては、アルミ基材及びNiめっきを施した銅基材のいずれの金属基材2も、浸透液の浸透はなく、また、汚れの付着もない結果が得られ、全タブリード試験片4が合格判定であった。また、比較例1〜比較例3においても、同様に全タブリード試験片4が合格判定であった。
【0094】
また、剥離強度試験の結果は、実施例1〜実施例15においては、実施例2及び実施例7以外のアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材のいずれの金属基材2も剥離荷重は50N以上あり、実施例2及び実施例7は、アルミ基材及びNiめっきを施した銅基材のいずれの金属基材2も50N以下であったが、40N以上の剥離荷重は得られたので、全タブリード試験片4が合格判定となった。また、比較例1〜比較例3においては、全タブリード試験片4が剥離荷重50N以上の合格判定であった。
【0095】
また、フッ化水素酸浸漬試験の結果は、実施例1〜実施例15においては、実施例2,実施例5,実施例6,実施例13〜実施例15の6つのタブリード試験片4において、1mm以内の微小な絶縁フィルム3の剥がれが確認され、それ以外のタブリード試験片4は、絶縁フィルム3の剥がれが全く無い結果であり、全タブリード試験片4が合格判定であった。これに対して、比較例1〜比較例3は、比較例1と比較例2は、1mm以上3mm以内の絶縁フィルム3の剥がれが確認され、また、比較例3においては3mm以上の絶縁フィルム3の剥がれが確認された。
【0096】
従って、比較例に関しては、このフッ化水素酸浸漬試験で全てのタブリード試験片4が不合格となり、これより先の試験は行わないこととした。
【0097】
また、電解液浸漬試験の結果は、実施例1〜実施例15においては、実施例1,実施例3,実施例4のアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材のいずれの金属基材2の場合及び実施例8,実施例9のNiめっきを施した銅基材のタブリード試験片4で絶縁フィルム3の剥がれが全く無い結果であり、それ以外のタブリード試験片4は、1mm以内の微小な絶縁フィルム3の剥がれが確認されたが問題の無いレベルであり、全タブリード試験片4が合格判定であった。
【0098】
尚、比較例1〜比較例3は、前のフッ化水素酸浸漬試験において、剥がれの度合いがひどく、不合格判定となったため、この電解液浸漬試験以降は実施していない。
【0099】
また、耐湿性試験の結果は、実施例1〜実施例15においては、アルミ基材及びNiめっきを施した銅基材のいずれの金属基材2の場合も、所定の表面処理条件を施した金属基材2と絶縁フィルム3との境界部で腐食の発生が無く、その他の部分においても、水分がほんの僅かに付着した程度の汚れしかなく、良好な結果が得られ、全タブリード試験片4が合格判定であった。
【0100】
また、塩水噴霧試験結果は、実施例1〜実施例15においては、実施例7,実施例8及び実施例9のNiめっきを施した銅基材のタブリード試験片4で、所定の表面処理条件を施した金属基材2と絶縁フィルム3との境界部で腐食の発生は無いが、その他の部分で、塩水が部分的に付着した汚れがみられたが合格判定レベルであり、その他のタブリード試験片4は、所定の表面処理条件を施した金属基材2と絶縁フィルム3との境界部で腐食の発生が無く、その他の部分においても、塩水がほんの僅かに付着した程度の汚れしかなく、良好な結果が得られ、全タブリード試験片4が合格判定であった。
【0101】
尚、上述した実施例1〜実施例15及び比較例1〜比較例3の試験結果をまとめたものを図4の試験結果一覧表に示す。
【0102】
このように、本実施例の構成要件で構成した実施例1〜実施例15に示した水溶性高分子皮膜形成剤は、全ての試験において全く問題の無い結果であった。
【0103】
また、比較例1〜比較例3の結果が示すように、金属基材2に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させた状態で加熱する温度を160℃未満にした場合は、脱水縮合反応が十分に行われず、形成した水溶性高分子皮膜1中に水分が残り、この水溶性高分子皮膜1と絶縁フィルム3とを溶着した場合、水分を含んだ分子間結合となり、化学的な結合力が低下することで密着性が低下してしまう。
【0104】
また、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体以外の飽和脂肪族を用いた場合は、カルボキシル基の分岐数が少なく、このため架橋不足となることで耐水性が低下し、これらによって水溶性高分子皮膜1中へのフッ化水素酸の侵入が起こり、絶縁フィルム3の剥がれが生じてしまう結果となった。
【0105】
以上の結果より、本実施例で示した実施例1〜実施例15に示した水溶性高分子皮膜形成剤は、リチウムイオン電池に用いるタブリードの耐水性を確保し、耐電解液性、耐腐食性を向上させるための表面処理剤として有効に作用し、従来に比して優れた耐久性及び信頼性を有するタブリードを形成することができる優れた水溶性高分子皮膜形成剤となる。
【0106】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0107】
1 水溶性高分子皮膜
2 金属基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとから成ることを特徴とする水溶性高分子皮膜形成剤。
【請求項2】
カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかと、VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物とから成ることを特徴とする水溶性高分子皮膜形成剤。
【請求項3】
前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールは、重合度が50〜2000であることを特徴とする1,2のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤。
【請求項4】
前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールは、ケン化度が80モル%〜98.5モル%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤。
【請求項5】
前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールに対する前記ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかの固形分濃度比を0.4〜1.4としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤。
【請求項6】
前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールに対する前記ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかの固形分濃度比を0.4〜1.4とする前記カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと前記ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとの混合物に、前記VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物を固形分濃度比で0.8〜2.5混合したことを特徴とする請求項2記載の水溶性高分子皮膜形成剤。
【請求項7】
カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとを混合して溶媒で溶解することを特徴とする水溶性高分子皮膜形成剤の製造方法。
【請求項8】
カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性ポリビニルアルコールと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかと、VF3・3H2O,ZnF2・4H2O,CrF3・3H2O,CoF3・3H2O,NiF2・4H2O,CuF2・2H2Oから選択される水溶性フッ化水和物とを混合し溶媒中で溶解することを特徴とする水溶性高分子皮膜形成剤の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒は、純水であることを特徴とする請求項7,8のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤の製造方法。
【請求項10】
前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤からなる水溶性高分子皮膜を表面に被覆していることを特徴とするタブリード。
【請求項11】
前記水溶性高分子皮膜は、表面層にフッ素成分を含有することを特徴とする請求項10記載のタブリード。
【請求項12】
前記水溶性高分子皮膜は、バナジウム,亜鉛,クロム,コバルト,ニッケル,銅の群から選択される金属成分を0.59mg/m〜9.10mg/m含有することを特徴とする請求項10,11のいずれか1項に記載のタブリード。
【請求項13】
金属基材に、前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の水溶性高分子皮膜形成剤を塗布し、この水溶性高分子皮膜形成剤を塗布した前記金属基材を160℃以上で加熱し、乾燥して前記金属基材の表面に塗布した水溶性高分子皮膜形成剤を脱水縮合して、前記金属基材の表面に水溶性高分子皮膜を形成することを特徴とするタブリードの製造方法。
【請求項14】
前記金属基材は、アルミニウム,銅,ニッケル,又は、前記アルミニウム若しく前記銅にニッケルめっき又はスズめっきを施したものから選択されることを特徴とする請求項13記載のタブリードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−202121(P2011−202121A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73109(P2010−73109)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(506213223)株式会社ネッツ (4)
【Fターム(参考)】