説明

水系プライマー組成物および積層体

【課題】特に紫外線硬化型インキに対して良好な密着性を有し、比較的低温・短時間で乾燥できる水系のプライマー組成物を提供する。
【解決手段】ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B)3〜60質量部およびイソシアネート化合物(C)10〜100質量部を含有する水系プライマー組成物。特に紫外線硬化型インキ用の前記プライマー組成物。また、前記プライマー組成物から得られる塗膜を熱可塑性樹脂基材に形成してなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インキの密着性が良好な水系プライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の熱可塑性樹脂フィルムは、商品包装その他の用途においては一般に印刷を施されて使用されている。印刷用のインキとしては、使用が容易で模様や色彩等の意匠性に富んだ紫外線硬化型インキ(以下、UVインキ)が用いられている。UVインキには硬化時に収縮しやすい性質があるため、PETやポリオレフィン樹脂などの熱可塑性樹脂基材表面に直接使用すると、インキ層の密着が不十分であるという問題がある。そこで、樹脂基材表面に様々なプライマー層を設けることでインキ密着性を向上させることが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリカーボネートポリウレタン樹脂とイソシアネート化合物を主体とする成分をメチルエチルケトンに溶解したプライマー組成物が開示されており、UVインキとの密着性に優れることが示されている。また、特許文献2には、芳香族系ポリエステルポリウレタンとメラミン樹脂を含有する、耐湿熱性・耐ボイルレトルト性に優れた水系のプライマーコート剤組成物が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−316394号公報
【特許文献2】特開2000−026798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載のプライマー組成物は、有機溶剤を使用するプライマーであるため、近年の職場の環境衛生の観点から必ずしも好まれるものではない。
【0006】
また、特許文献2記載のプライマーは、メラミン樹脂を架橋剤として使用しているため、塗工時の乾燥条件としてより高温・長時間の条件が必要とされていた。
【0007】
上記の課題に対して本発明者らは、水系のプライマーであって特にUVインキに対して良好な密着性を有し、比較的低温・短時間で乾燥できるプライマー組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ウレタン樹脂に対して、エポキシ化合物とイソシアネート化合物を特定の割合で含有させることで、上記課題が解決されると同時に、さらに、この組成物は薄塗りが可能であって、透明性、耐スクラッチ性(キズが付きにくい性質)、耐ブロッキング性などの優れた特性をも具備することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリウレタン樹脂(A)100質量部、エポキシ化合物(B)3〜60質量部およびイソシアネート化合物(C)10〜100質量部を含有する水系プライマー組成物。
(2)熱可塑性樹脂基材に(1)記載の水系プライマー組成物から得られる塗膜を形成してなる積層体。
(3)(2)記載の積層体の塗膜面に紫外線硬化型インキにより印刷がなされている積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系プライマー組成物は、水系であるため安全で環境への負荷も小さい。また、薄塗りが可能であり、比較的低温・短時間で乾燥できるため作業性に優れる。
【0011】
形成される塗膜は、様々な熱可塑性樹脂フィルム基材への接着性に優れている。また、塗膜表面のインキ密着性、特に密着性が困難なUVインキ密着性に優れているとともに、塗膜の透明性、耐スクラッチ性も良好である。
【0012】
また、塗膜の基材密着性、塗工面同士の耐ブロッキング性が維持されているため、ロールで巻き取ったり、積載して保存することができる。
【0013】
基材への接着性とインキ密着性(特にUVインキとの密着性)の特性はいずれも長期間持続するので、長期の保管後や船便での輸出後にも良好に使用できる。
【0014】
塗膜は、接着剤との接着性に優れるため、塗膜を設けた積層体を組み立てて接着することで、クリアケースやクリアボックスとして使用できる。このような用途に用いれば、透明性と耐スクラッチ性に優れているため、表面にキズが付き難く長期間にわたって内容物が透視でき、商品価値や美観の低下が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明で用いるポリウレタン樹脂(A)とは、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子であり、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものである。
【0017】
ポリウレタン樹脂を構成するポリオール成分としては、特に限定されず、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの低分子量ポリオール類、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド単位を有するポリオール化合物、ポリエーテルジオール類、ポリエステルジオール類などの高分子量ジオール類、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのビスフェノール類、ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基に転化したダイマージオール等が挙げられる。
【0018】
また、ポリイソシアネート成分としては、芳香族、脂肪族および脂環族の公知ジイソシアネート類の1種または2種以上の混合物を用いることができる。ジイソシアネート類の具体例としては、トリレンジジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、およびこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などが挙げられる。また、ジイソシアネート類にはトリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネート類を用いてもよい。
【0019】
本発明におけるポリウレタン樹脂は、水性媒体への分散性の点から陰イオン性基を有していることが好ましい。陰イオン性基とは水性媒体中で陰イオンとなる官能基のことであり、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基などである。この中でも、後述するエポキシ化合物やイソシアネート化合物との反応性からカルボキシル基を有していることが好ましい。
【0020】
ポリウレタン樹脂に陰イオン性基を導入するには、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基などを有するポリオール成分を用いればよく、カルボキシル基を有するポリオール化合物としては、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシプロピル)プロピオン酸、ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸、N,N−ジヒドロキシエチルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−カルボキシル−プロピオンアミド等が挙げられる。
【0021】
ポリウレタン樹脂の分子量は、鎖長延長剤を用いて適宜を調整することができる。こうした化合物としては、イソシアネート基と反応することができるアミノ基や水酸基などの活性水素を2個以上有する化合物が挙げられ、例えば、ジアミン化合物、ジヒドラジド化合物、グリコール類を用いることができる。
【0022】
ポリウレタンの鎖長延長剤として用いられる化合物として、ジアミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチルテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4´−ジアミンなどが挙げられる。その他、N−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N−3−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン類およびダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等も挙げられる。更に、グルタミン酸、アスパラギン、リジン、ジアミノプロピオン酸、オルニチン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゼンスルホン酸等のジアミン型アミノ酸類も挙げられる。また、ジヒドラジド化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシンジヒドラジドなどの2〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪族ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジドなどの不飽和ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、チオカルボジヒドラジドなどが挙げられる。グリコール類としては、前述のポリオール類から適宜選択して用いることができる。
【0023】
市販のポリウレタン樹脂として、本発明に適した水系のものとしては、三井武田社製のタケラックシリーズ(W−615、W−6010、W−511など)、旭電化工業社製のアデカボンタイターシリーズ(HUX−232、HUX−320、HUX−380、HUX−401など)、第一工業製薬社製のスーパーフレックスシリーズ(500、550、610、650など)、大日本インキ化学工業社製のハイドランシリーズ(HW−311、HW−350、HW−150など)等が挙げられる。
【0024】
本発明の水系プライマー組成物においては、ウレタン樹脂(A)に対して、エポキシ化合物(B)とイソシアネート化合物(C)とを併用することが特に重要であり、(B)、(C)いずれの成分を欠いてもUVインキ密着性、耐スクラッチ性を得ることができない。
【0025】
エポキシ化合物(B)としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAβ−ジメチルグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラヒドロキシフェニルメタンテトラグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クロル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、エポキシウレタン樹脂等のグリシジルエーテル型;p−オキシ安息香酸グリシジルエーテル・エステル等のグリシジルエーテル・エステル型;フタル酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、アクリル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル型;グリシジルアニリン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルアミノフェノール等のグリシジルアミン型;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂;3,4−エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、ジシクロペンタジエンオキサイド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、リモネンジオキサイド等の脂環族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、塗膜の透明性、インキ密着性、UVインキ密着性、耐スクラッチ性等の点から、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0026】
エポキシ化合物(B)の含有量は、ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対して10〜60質量部とする必要があり、耐ブロッキング性と接着性との点から、10〜50質量部が好ましく、10〜40質量部がより好ましく、10〜30質量部がさらに好ましく、10〜20質量が特に好ましい。脂肪酸アミド(B)の含有量が10質量部未満の場合には、スクラッチ性、UVインキ密着性の向上の効果が小さく、60質量部を超える場合には、接着剤適性が低下する傾向がある。
【0027】
市販のエポキシ化合物としては、本発明に適した水系のものとしては、例えば、長瀬ケムテック社製のデナコールシリーズ(EM−150、EM−101など)、旭電化工業社製のアデカレジンシリーズ等が挙げられ、UVインキ密着性や耐スクラッチ性向上の点から多官能エポキシ樹脂エマルションである旭電化社製のアデカレジンEM−0517、EM−0526、EM−11−50B、EM−051Rなどが好ましい。
【0028】
イソシアネート化合物(C)としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン2,4´−又は4,4´−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4−ジイソシアナトブタン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5−ジイソシアナト−2,2−ジメチルペンタン、2,2,4−又は2,4,4−トリメチル−1,6−ジイソシアナトヘキサン、1,10−ジイソシアナトデカン、1,3−又は1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン、1−イソシアナト−3、3、5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサン、4,4´−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、ヘキサヒドロトルエン2,4−又は2,6−ジイソシアネート、ぺルヒドロ−2,4´−又は4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレン―1,5−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等のジイソシアネートや、それらの改変生成物として得られる多官能イソシアネートが挙げられる。中でも、低温の処理でインキ密着性、耐スクラッチ性、耐溶剤性などの性能が向上することから、非ブロック型の多官能イソシアネート化合物、すなわち、非ブロック型のイソシアネート基を1分子中に2個以上含有する化合物が好ましい。ここで「非ブロック型」とは、イソシアネート基がラクタム系やオキシム系の化合物(いわゆるブロック剤)でブロック(「保護」あるいは「マスク」ということもある。)されていないことを示す。改変生成物としては、上記のようなイソシアネート化合物を公知の方法で変性することによって、アロファネート基、ビューレット基、カルボジイミド基、ウレトンイミン基、ウレトジオン基、イソシアヌレート基等のイソシアネートから誘導される官能基を分子中に有する多官能イソシアネート化合物に変性した化合物や、トリメチロールプロパン等の多官能アルコールで変性したアダクト型の多官能イソシアネート化合物を挙げることができる。これらの中でも、イソシアヌレート基を有する多官能イソシアネート化合物を使用することが、インキ密着性、樹脂塗膜の耐溶剤性、耐スクラッチ性を向上させる点で特に好ましい。なお、多官能イソシアネート化合物には、20質量%以内の範囲でモノイソシアネートが含有されていてもよい。上記した多官能イソシアネート化合物の中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートからなる改変生成物を使用することが耐ボイル性、耐レトルト性、樹脂塗膜の耐溶剤性を向上させる点で好ましく、その中でも特にイソシアヌレート基を有するものが好ましい。
【0029】
非ブロック型の多官能イソシアネート化合物の中でも、水性(水溶性もしくは水分散性)のものが好ましい。また、好ましい水性の多官能イソシアネート化合物は、多官能イソシアネート化合物と一価又は多価のノニオン性ポリアルキレンエーテルアルコールとを反応させて得ることができる。そのような水性の多官能イソシアネート化合物の市販品としては、BASF社製のバソナート(BASONAT)PLR8878、バソナートHW−100等、住友バイエルウレタン株式会社製のバイヒジュール(Bayhydur)3100、バイヒジュールVPLS2150/1、SBUイソシアネートL801、デスモジュール(Desmodur)N3400、デスモジュールVPLS2102、デスモジュールVPLS2025/1、SBUイソシアネート0772、デスモジュールDN等、武田薬品工業株式会社製のタケネートWD720、タケネートWD725、タケネートWD730等、旭化成工業株式会社製のデュラネートWB40−100、デュラネートWB40−80D、デュラネートWX−1741、日本ポリウレタン社製のコロネートシリーズ等がある。中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートの改変生成物であるバイヒジュール3100、デスモジュールDN、バソナートHW−100が特に好ましい。
【0030】
イソシアネート化合物(C)の含有量は、ポリウレタン樹脂(A)100質量部に対して10〜100質量部とする必要があり、耐ブロッキング性と接着性との点から、10〜90質量部が好ましく、20〜80質量部がより好ましく、30〜70質量部がさらに好ましく、40〜70質量が特に好ましい。イソシアネート化合物(C)の含有量が10質量部未満の場合には、スクラッチ性、UVインキ密着性の向上の効果が小さく、60質量部を超える場合には、接着剤適性が低下する傾向がある。
【0031】
本発明の水系プライマー組成物中には、水以外に親水性の有機溶剤が含まれていても差し支えない。このような有機溶剤として、例えばメチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン等のケトン類、イソプロパノ−ル、ノルマルプロパノール、ブタノ−ル、メタノール、エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフランやジオキサン等の環状エーテル類、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコール誘導体などがある。中でも、イソプロパノール、ノルマルプロパノールが好ましい。また、これらの有機溶剤が溶媒全量に占める量は50質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が最も好ましい。
【0032】
本発明の水系プライマー組成物の製造方法としては、ポリウレタン樹脂(A)とエポキシ化合物(B)とイソシアネート化合物(C)が水性媒体中に均一に混合されて、それらを分散する方法であれば、特に限定されるものではないが、それぞれ予め調製された、ポリウレタン樹脂(A)の水性分散体とエポキシ化合物(B)の水性分散体とイソシアネート化合物(C)の水性分散体とを混合したり、さらに必要に応じて水または親水性溶媒などを添加することで、所望の成分比の水系プライマー組成物を簡単に調製できる。
【0033】
本発明の水系プライマー組成物における固形分の分散粒子径は、特に限定されないが、数平均粒子径として、0.3〜0.005μmの範囲が好ましく、透明性の理由から、0.1〜0.005μmの範囲がより好ましい。また、重量平均粒子径は特に限定されない。
【0034】
本発明の水系プライマー組成物には、目的に応じて、ワックス水性分散体、ポリエステル水性分散体、ポリオレフィン水性分散体、変性ブタジエン水性分散体、ポリ乳酸水性分散体、ポリビニルアルコール、脂肪酸アミド水性分散体、酸化スズ、シリカなどの添加剤を適宜配合することができる。
【0035】
本発明の水系プライマー組成物を適用できる基材としては、紙、合成紙、熱可塑性樹脂フィルム、プラスチック製品、鋼板、アルミ箔等の金属箔、木材、織布、編布、不織布、石膏ボード、木質ボード等が挙げられ、塗工または含浸させて使用できる。中でも、熱可塑性樹脂フィルムに用いることが好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリグリコール酸やポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル樹脂に代表される生分解性樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリピロピレン、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物等の熱可塑性樹脂よりなるフィルムやこれらの積層体が挙げられるが、中でも、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、ポリプロピレンからなるフィルムが好適に使用できる。これらの基材フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、その製法も限定されるものではない。また、基材フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常は1〜500μmの範囲であればよい。
【0037】
本発明の水系プライマー組成物を基材に塗工する方法は特に限定されるものではないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。さらに、未延伸フィルムに本発明の水系プライマー組成物を塗布し、そのコートフィルムを延伸する、いわゆるインラインコートを行ってもよい。水系プライマーの塗布量については、基材によって適宜、選択すればよい。
【0038】
本発明の水系プライマー組成物の乾燥温度は、特に限定されず、基材の耐熱温度等によって適宜選択すればよい。通常、室温(25℃付近)〜150℃の広い範囲で良好に乾燥することができる。50〜100℃がより好ましく、60〜90℃がさらに好ましい。乾燥温度が室温より低い場合には、水性媒体の揮発が不十分となり、インキ密着性が低下することがある。また、乾燥に要する時間は適用する温度によって異なるが、60〜90℃程度の条件であれば、通常、30秒〜3分程度の極めて短時間で乾燥させることができる。
【0039】
本発明の水系プライマー組成物の固形分濃度は、用途等によって適宜選択されるものであり、1〜50質量%の範囲で使用することができるが、乾燥効率や作業性の観点からは2〜30質量%の範囲が好ましい。
【0040】
本発明の水系プライマー組成物を用いて形成される塗膜の塗工量は、その用途によって適宜選択されるものであるが、0.005〜5g/mが好ましく、0.005〜3g/mがより好ましく、0.005〜1g/mがさらに好ましく、0.005〜0.5g/mが特に好ましい。樹脂塗膜の厚さが0.005g/m未満ではUVインキ密着性が悪化する。また、5g/cmを超える場合は、耐スクラッチ性が悪化する傾向にある。
【0041】
こうして得られた積層体は、例えば、クリアケース、クリアボックス等の組立品;包装材料;磁気テープ、磁気ディスク等の磁気記録材料;電子材料;グラフィックフィルム;製版フィルム;OHPフィルム等の用途に使用することができ、特に、クリアケースやクリアボックス等の組立品には好適である。組立品を形成する方法としては、例えば、フィルムやシートの形状の積層体を箱型になるように折り目をつけ、シアノアクリレート系やホットメルト系の接着剤を用いて箱型に形成する。本発明の水系プライマー組成物を積層した積層体はシアノアクリレート系やホットメルト系の接着剤に対する接着剤適性も良好である。さらに、本発明の積層体は透明性が高いため、箱の中の商品を入れ、陳列させて使用すれば、内容物である商品を視認することができる。
【0042】
また、本発明の水系プライマー組成物を塗布した上に種々の塗料やインキが使用できる。例えば、水性化インキ、水系インキ、溶剤インキ、UVインキが挙げられる。UVインキとは、紫外線を照射することにより、UVインキ中の光開始剤が紫外線を吸収してラジカルを生じ、反応性モノマーやオリゴマーの重合反応によって瞬時に硬化し塗膜を形成するインキのことである。UVインキを硬化させるための紫外線の光源としてはメタルハライドランプや高圧水銀ランプが挙げられる。UVインキは市販のものを使用することができ、例えば、T&K TOKA社製の一般UVインキ、特殊UVインキ、UV OPニス、十条ケミカル社製のレイキュアCPO 6300シリーズ(4100、4200、6100、6200など)、東洋インキ社製のFDシリーズ(FD FL、FDニュー、FD TC OPニスVCなど)、セイコーアドバンス社製のUSシリーズ(UV HUG、UV ULAなど)、帝国インキ社製のUVシリーズ(FIL、EXA、PAL、ESE、PAC、OPT、POLなど)が挙げられる。また、水系インキや水性化インキ、溶剤インキは、熱風などで乾燥させ塗膜を形成するインキのことである。市販のものとしては、例えば、大日本インキ社製のマリーンプラスSK(アルティマNT、スナックビュアなど)、東洋インキ社製のPANNECO AM(PANNカラーS、SS16−000、アクワキングHNなど)、帝国インキ社製のアクアPAW(POS、VS、EG)が挙げられる。
【0043】
上記の各種インキの中でも、UVインキは、他のインキよりも本発明の水系プライマー組成物から得られる塗膜との密着性に優れるため、特に好適である。
【実施例】
【0044】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
【0045】
1.プライマー組成物中の固形分の平均粒子径
日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径を求めた。ここで、粒子径算出に用いる屈折率は1.50とした。
【0046】
2.塗膜の特性
以下の評価においては、熱可塑性樹脂フィルムとして、2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)、塩化ビニル基材(Tatsuta製ドラゴンズベルファンFE−33PHP、厚み200μm)、延伸PPフィルム(東セロ社製、厚み20μm)を用いた。
【0047】
(1)塗膜の密着性
各種熱可塑性樹脂フィルムのコロナ処理面に本発明の水系プライマーをマイヤーバーを用いてコートした後、60℃で1分間、乾燥させた。塗工量は1.0g/mであった。得られたコートフィルムは室温で1日放置後、評価した。コート面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を目視で評価した。
○:全く剥がれなし、△:一部、剥がれた、×:全て剥がれた
【0048】
(2)UVインキ密着性評価:テープ剥離試験
各種熱可塑性樹脂フィルムのコロナ処理面に水系プライマー組成物をマイヤーバーを用いてコートした後、60℃で1分間、乾燥させ、塗膜の塗工量として0.2g/mのコートフィルムを得た。得られたコートフィルムは室温で1日放置後、UVインキを10μmになるように塗布し、積算光量が500mJ/cmの条件でUV照射装置に通し、UVインキ(十条ケミカル社製)を硬化して試験に供した。評価はJIS−K5400 Xカットテープ法を用いて行った。10点満点中7点以上であれば合格とした。
【0049】
(3)透明性
JIS K7105に準じて、日本電色工業社製のNDH2000「濁度、曇り度計」を用いて測定した。
【0050】
(4)耐スクラッチ性
各種熱可塑性樹脂フィルムのコロナ処理面に水系プライマー組成物をマイヤーバーを用いてコートし、60℃で1分間、乾燥させた。塗膜の塗工量は0.2g/mであった。得られたコートフィルムは室温で7日放置後、JIS−K5400鉛筆引っ掻き値試験機法で評価を行った。評価方法としては、5回鉛筆引っ掻き値試験を行いキズついた回数で下記のように評価した。
○:キズなし。
△:1回〜2回キズあり。
×:3回以上キズあり。
【0051】
(5)接着剤適性
各種熱可塑性樹脂フィルムのコロナ処理面に水系プライマー組成物をマイヤーバーを用いてコートし、60℃で1分間、乾燥させた。塗膜の塗工量は0.2g/mであった。得られたコートフィルムを室温で7日放置した。7日放置後に、15cm角に2枚切り、コート面にシアノアクリレート系瞬間接着剤(東亜合成社製)を幅2.0mm、長さ4.0cmに塗り貼り合わせ10分後に手で剥離した。
○:フィルムの貼り合わせ面はほとんどが剥離せず基材破壊した。
△:フィルムの貼り合わせ面は半分まで剥離し、基材破壊した。
×:フィルムの貼り合わせ面は全て剥離した。
【0052】
(6)耐ブロッキング性
アルミニウム箔(三菱アルミニウム社製、厚み15μm)上にプライマー組成物をメイヤーバーでコートした後、90℃で120秒間乾燥し、塗工量が0.2g/m2の積層体を得た。積層体のコート面にアルミニウム箔を重ね合わせた状態で、0.1MPaの負荷をかけ、30℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置後、アルミニウム箔を持ち上げ、そのときの剥離状態により評価した。
○:アルミニウム箔を軽く持ち上げる程度で剥離する。
△:アルミニウム箔を引っ張ることで剥離する。
×:アルミニウム箔が破れる、または塗膜の界面あるいは凝集剥離が認められる。
【0053】
使用した各原料の詳細は次の通りである。
1.ポリウレタン樹脂水性分散体
(1)タケラックW−6010(Tg:90℃ 平均粒子径:0.06μm 固形分濃度:30質量% 三井武田ケミカル製、以下W−6010)
(2)スーパーフレックス550(Tg:−15℃ 平均粒子径:0.13μm 固形分濃度:45質量% 第一工業製薬製、以下550)
【0054】
2.エポキシ化合物水性分散体
(1)デナコールEM−150(エポキシ当量:450g/eq 固形分濃度:50質量% ナガセケムテック社製、以下EM−150)
(2)アデカレジンEM−101−50(エポキシ当量1000g/eq 固形分濃度:50質量% アデカ製、以下EM−101−50)
【0055】
3.イソシアネート化合物
(1)バイヒジュール3100(固形分濃度:100質量% イソシアネート基含有量:17.2質量% 住友バイエル社製、以下3100)
(2)バソナートHW−100(固形分濃度:100質量% イソシアネート基含有量:17.5質量% BASF社製、以下HW−100)
【0056】
実施例1
ポリウレタン樹脂水性分散体W−6010の原液、エポキシ化合物水性分散体EM−150の水希釈液(固形分濃度25質量%)およびイソシアネート化合物水性分散体3100の水希釈液(固形分濃度10質量%)を質量比が50/6/15となるようにメカニカルスターラーを用いて室温で混合・攪拌し、ポリウレタン樹脂、エポキシ化合物、イソシアネート化合物の各固形分質量比が100/10/10の液を得た。この液の固形分濃度は25.4質量%であった。次にこの液を、水/イソプロパノールの混合溶媒(質量比1/3)で希釈して固形分濃度2.0質量%になるように調整し、プライマー組成物J−1を得た。これを用いた塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0057】
実施例2〜9
ポリウレタン樹脂、エポキシ化合物、イソシアネート化合物の各固形分質量比が表1に示す質量比となるように原料の混合比を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行って固形分濃度2.0質量%のプライマー組成物J−2〜J−9を得た。これらを用いた塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0058】
実施例10〜13
表2に示すようにポリウレタン樹脂水性分散体とエポキシ化合物水性分散体とイソシアネート化合物の種類を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行って固形分濃度2.0質量%のプライマー組成物J−10〜J−13を得た。これらを用いた塗膜の性能評価結果を表2に示す。
【0059】
実施例14〜15
実施例2で調製したプライマー組成物J−2を用い、各種熱可塑性樹脂フィルムへの塗工量を1.0g/m、6.0g/mとして評価した。評価結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
比較例1
ポリウレタン樹脂水性分散体W−6010を水で希釈して固形分濃度2.0質量%にしたものを使用した。これを用いた塗膜の性能評価結果を表3に示す。
【0063】
比較例2
ポリウレタン樹脂水性分散体W−6010とエポキシ化合物水性分散体EM−150とをポリウレタン樹脂とエポキシ化合物の質量比が100/10となるように室温にてメカニカルスターラーを用いて混合、攪拌し、水で希釈して固形分濃度2.0質量%のプライマー組成物H−2を得た。これを用いた塗膜の性能評価結果を表3に示す。
【0064】
比較例3
ポリウレタン樹脂水性分散体W−6010とイソシアネート化合物水性分散体3100とを、ポリウレタン樹脂とイソシアネート化合物の固形分質量比が100/50となるように室温にてメカニカルスターラーを用いて混合、攪拌し、水で希釈して固形分濃度2.0質量%のプライマー組成物H−3を得た。これを用いた塗膜の性能評価結果を表3に示す。
【0065】
比較例4〜5
表3に示すように、ポリウレタン樹脂水性分散体W−6010とエポキシ化合物水性分散体EM−150とイソシアネート化合物3100の混合比を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行って固形分濃度2.0質量%のプライマー組成物H−4、H−5を得た。これを用いた塗膜の性能評価結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

実施例1〜13では、基材フィルム、水性分散体の種類に関わらず、塗膜密着性、UVインキ密着性、透明性、耐スクラッチ性、接着剤適性に優れていた。また、塗工量を多くした実施例14〜15では、いずれも塗膜密着性、UVインキ密着性、透明性は良好であった。実施例14は、接着剤適性がやや低下しており、実施例15は、スクラッチ性と接着剤適性がやや低下しているがいずれも実用上問題ない範囲であった。
【0067】
これに対して、比較例1は、ウレタン樹脂を単独で用いたため、UVインキ密着性、透明性、耐スクラッチ性、接着剤適性に劣っていた。比較例2は、イソシアネート化合物が添加されていないため、UVインキ密着性、耐スクラッチ性に劣っていた。比較例3は、エポキシ化合物水性分散体が添加されていないため、UVインキ密着性、耐スクラッチ性に劣っていた。比較例4は、エポキシ化合物とイソシアネート化合物の質量比がポリウレタン樹脂に対して低かったため、UVインキ密着性と耐スクラッチ性に劣っていた。比較例5は、エポキシ化合物とイソシアネート化合物の質量比がポリウレタン樹脂に対して高かったため、UVインキ密着性と接着剤適性に劣っていた。
【0068】
なお、すべての実施例、比較例において、耐ブロッキング性は良好であり、評価は「○」であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂(A)100質量部、エポキシ化合物(B)3〜60質量部およびイソシアネート化合物(C)10〜100質量部を含有する水系プライマー組成物。
【請求項2】
紫外線硬化型インキ用である請求項1記載の水系プライマー組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂基材に請求項1または2記載の水系プライマー組成物から得られる塗膜を形成してなる積層体。
【請求項4】
塗膜の塗工量が0.005〜5g/mである請求項3記載の積層体。
【請求項5】
請求項3または4記載の積層体の塗膜面に紫外線硬化型インキにより印刷がなされている積層体。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の積層体から形成されるクリアケースまたはクリアボックス。


【公開番号】特開2007−153958(P2007−153958A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347928(P2005−347928)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】