説明

水系顔料分散物及びそれを含有する皮膚外用剤

【課題】強力な粉砕機を用いることなく調製でき、分散性が高く、経時的に凝集を起こさず、分散安定性に優れ、あるいは沈降したとしても再分散性の良好な水系顔料分散物と、これを配合した、分散性、分散安定性に優れた皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】水系顔料分散物を、1)無機顔料、2)非イオン性界面活性剤、3)酸及び4)アルカリを含有してなり、前記酸及びアルカリのうちのいずれか一方を添加して無機顔料を分散させた後、酸及びアルカリのうちの他方を添加したするものとし、皮膚外用剤をこの水系顔料分散物を含有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系顔料分散物及びそれを含有する皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の水系顔料分散物としては、無機金属酸化物粉体を化粧料用等顔料として用いたものが、ファンデーション、アイシャドー、ほお紅等のメイクアップ化粧料や、サンスクリーン化粧料、乳液、クリーム等の基礎化粧料、又は医薬品等の皮膚外用剤として使用されている。しかし、これらは顔料が水中で凝集沈降し易く、水系での分散性が悪いという問題点を有していた。
【0003】
このような問題点を解決するために、例えば、二酸化チタン粒子をポリカルボン酸系分散剤の存在下で分散させて水性分散体を得る方法が提案されている(特開平02−212315号公報)。また、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤で分散する方法(特開平07−247119号公報)が開示されている。
【特許文献1】特開平02−212315号公報
【特許文献2】特開平07−247119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開平02−212315号公報に記載のようにポリカルボン酸系分散剤で分散させた場合には、固形分濃度の低いものしか得られず、また、電解質の存在する系では凝集を起こしやすく、再分散性が悪いという問題があった。
【0005】
また、特開平07−247119号公報に開示されたポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤で分散する方法では、顔料を疎水化処理する必要があり、本来油分散性の疎水化顔料を水系に分散させているため、分散安定性に問題があった。
【0006】
また、いずれの場合にも分散物を得るために、ハンマーミル、サンドミルなどの粉砕機を用いて粉砕する必要があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みて、分散性が高く、経時的に凝集を起こさず、分散安定性に優れ、あるいは沈降したとしても再分散性の良好な水系顔料分散物であって、強力な粉砕機を用いることなく調製できる水系顔料分散物を提供することを目的とする。また、分散性、分散安定性に優れた皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水系顔料分散物は、上記の課題を解決するために、1)無機顔料、2)非イオン性界面活性剤、3)酸及び4)アルカリを含有してなり、前記酸及びアルカリのうちのいずれか一方を添加して無機顔料を分散させた後、酸及びアルカリのうちの他方を添加したものとする。
【0009】
非イオン性界面活性剤は、ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。
【0010】
本発明の皮膚外用剤は、上記本発明の水系顔料分散物を含有してなるものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水系顔料分散物は、分散性が高く、経時的に凝集を起こさず、分散安定性に優れ、あるいは沈降したとしても再分散性の良好なものとなる。また、強力な粉砕機を用いることなく得ることができる。本発明の水系顔料分散物を配合することにより、分散性、分散安定性に優れた皮膚外用剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水系顔料分散物及び皮膚外用剤に使用する成分等について以下に説明する。
【0013】
[非イオン性界面活性剤]
本発明で用いる非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0014】
非イオン性界面活性剤のHLBは限定されないが、水系であるため、活性剤全体としてHLB9以上であることが望ましい。一般に非イオン性界面活性剤はイオン性界面活性剤に比べて安全性に優れるが、中でもショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが特に好ましい。
【0015】
配合量は無機顔料に対して1〜50wt%が好ましく、より好ましくは5〜20wt%である。1wt%未満では十分な分散安定性が得られず、一方、50wt%を超えても効果の変化は見られず、界面活性剤により系の粘度が高くなりすぎることがある。
【0016】
[無機顔料]
無機顔料は、従来から化粧料、医薬品等の皮膚外用剤に用いられるものが特に制限なく用いられ、例として、酸化チタン、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、群青、亜鉛華、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、マイカ、セリサイト、タルク、シリカ、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化クロム、ケイ酸マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、チタン被覆雲母等が挙げられる。配合量は分散物中に60wt%以下が好ましい。60wt%を超えると分散媒の量が少なく、均一化することが困難になる。下限は特になく、目的に応じて定めればよい。
【0017】
[酸、アルカリ]
本発明における酸及びアルカリは、無機顔料の分散を容易にするために必須である。分散のために酸またはアルカリの一方を添加し、分散後に系のpHを調整するため他方を添加し、最終的には両方の添加が必要である。
【0018】
酸は特に限定されないが、皮膚外用剤に使用することを考慮すると有機酸であることが好ましい。有機酸の例としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸などが挙げられる。
【0019】
アルカリも皮膚外用剤に使用できるものであれば特に限定されない。NaOH、KOH、トリエタノールアミン等のアミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸が挙げられる。
【0020】
配合量は、酸、アルカリの種類により異なるが、分散物中に各々0.005〜10wt%が好ましく、より好ましくは0.01〜2wt%である。配合量が少ないと顔料の分散性が悪く、10wt%を超えて配合しても分散性の改善効果は見られない。
【0021】
[水溶性高分子]
本発明の水系顔料分散物は、水溶性高分子をさらに含有することが好ましい。水溶性高分子を用いることにより顔料の経時的分散安定性が改善される。
【0022】
水溶性高分子としては特に限定されるものではなく、デキストリン、キサンタンガム等の微生物系多糖類、デンプン、グアーガム、カラギーナン、寒天、マンナン等の植物系多糖類、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系蛋白質などの天然高分子、また、半合成高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化セルロース等のセルロース系、可溶性デンプン、メチルデンプン等のデンプン系、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系が挙げられる。水溶性合成高分子の例としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリビニルメチルエーテル等が挙げられる。
【0023】
水溶性高分子の配合量は分散物中に0.01〜10wt%が好ましく、より好ましくは0.05〜5wt%である。0.01wt%以下では所望の安定化効果が得られず、10wt%を超えると系の増粘が著しく好ましくない。
【0024】
[その他の成分]
本発明の水系顔料分散物及びこれを用いた皮膚外用剤には、本発明の趣旨を損なわない範囲内で、従来から同種の製品に用いられている添加物を必要に応じて添加することができる。例えば、流動パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ホホバ油、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン、オリーブ油、ヤシ油、高級アルコール、脂肪酸、高級アルコールと脂肪酸のエステル、シリコーン油等の油性成分、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の保湿剤、ベントナイト等の粘土鉱物、各種ビタミン及びその誘導体、アラントイン、グリチルリチン酸及びその誘導体、各種動植物抽出物等の薬効成分、エタノール、紫外線吸収剤、色素、防腐剤、顔料、粉体、pH調整剤、抗酸化剤、香料等を適宜配合することができる。
【0025】
[調製方法]
本発明の水系顔料分散物は、例えば次の方法により調製することができる。
【0026】
まず水に無機顔料と酸(又はアルカリ)を加えて均一に分散する。次に非イオン性界面活性剤を加え、必要であれば加熱して均一化する。その後、アルカリ(又は酸)を加えてpHを調整して水系顔料分散物を得る。水溶性高分子を加える場合は、pHを調整する以前に加えておくことが好ましい。
【0027】
[皮膚外用剤]
本発明でいう皮膚外用剤とは、ファンデーション、アイシャドー、ほお紅等のメイクアップ化粧料や、サンスクリーン化粧料、乳液、クリーム等の基礎化粧料、又は医薬品等の顔料を含有する皮膚塗布剤である。
【0028】
本発明の皮膚外用剤の剤型は特に限定されず、固形状、クリーム状、ペースト状、乳化状、ローション状などの種々の剤型をとり得る。特にメイクアップ化粧料、サンスクリーン剤などに本発明は有用である。
【0029】
本発明の皮膚外用剤における前記無機顔料の配合量は、その化粧料の特質に応じて任意に選択されるものであるが、官能上の特性および効果の発現を考慮すると、0.1〜60wt%とするのが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0031】
1.水系顔料分散物の調製
表1に示す各成分を用いて以下の方法で、水系顔料分散物を調製した。
【0032】
調製方法:成分3に成分8を溶解させ、成分1,2,6,7を加えてホモミキサー(プライミクス株式会社製)で攪拌して均一分散させた。成分4,5を加えて75℃に加温溶解し、さらにホモミキサー(プライミクス株式会社製)で攪拌して均一分散させた。別に75℃に加温した成分9〜12を添加後、成分13を添加して均一に攪拌した。室温まで冷却して水系顔料分散物を得た。
【0033】
各成分の詳細は以下の通りである;
1,3−BG 協和発酵ケミカル株式会社:1,3−ブチレングリコール
グリセリン 第一工業製薬株式会社:濃グリセリン
ステアリン酸スクロース 第一工業製薬株式会社:コスメライクS−110
ポリグリセリン脂肪酸エステル 日光ケミカルズ株式会社:NIKKOL Decaglyn 1−S
微粒子酸化チタン 石原産業株式会社:TTO−V−3
微粒子酸化亜鉛 大阪住友セメント株式会社:ZnO−350
クエン酸一水和物 関東化学株式会社:試薬一級
カルボキシメチルセルロースNa 第一工業製薬株式会社:セロゲンF−SA
キサンタンガム 大日本製薬株式会社:K−OB
ポリビニルピロリドン 第一工業製薬株式会社:クリージャスK−90
水酸化ナトリウム 関東化学株式会社:試薬特級
【0034】
得られた分散物の分散性及び経時安定性を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
【0035】
分散性:試料を100ml円筒管に入れ、一日後の沈降層の比率から評価した;
5:沈降層なし
4:沈降層5%未満
3:沈降層5%以上10%未満
2:沈降層10%以上20%未満
1:沈降層20%以上
【0036】
経時安定性:二週間後の沈降層の比率と、円筒管を5回上下反転させた後の沈降層の有無(再分散性)から評価した;
5:沈降層なし
4:沈降層10%未満かつ再分散可
3:沈降層10%以上20%未満かつ再分散可
2:沈降層20%以上かつ再分散可
1:沈降層20%以上かつ再分散不可
【0037】
【表1】

【0038】
2.サンスクリーン剤の調製
表2に示す各成分を用いて以下の方法でサンスクリーン剤を調製した。
【0039】
調製方法:成分1に成分2、3を分散させ、ホモディスパー(プライミクス株式会社製)で攪拌しながら成分4、5を加えた。成分6〜8を加えて、75℃に加温、溶解させた。成分9〜11を加え、ホモミキサー(プライミクス株式会社製)で攪拌して均一分散させた。成分12を添加後、別に75℃で加温溶解した成分13、14をホモミキサー攪拌しながら添加し、均一に攪拌した。室温まで冷却してサンスクリーン剤を得た。
【0040】
得られたサンスクリーン剤につき分散性及び経時安定性を上記と同様の基準で評価した。結果を表2に示す。
【0041】
なお、各成分のうち上記実施例で用いていないものの詳細は以下の通りであり、それ以外は上記実施例で用いたのと同じものを使用した;
ベントナイト クニミネ工業株式会社:クニピアF
ステアリン酸スクロース1 第一工業製薬株式会社:コスメライクS−160
ステアリン酸スクロース2 第一工業製薬株式会社:コスメライクS−110
ジステアリン酸スクロース 第一工業製薬株式会社:コスメライクS−50
トリオクタノイン 花王株式会社:エキセパールTGO
ココアパウダー 大東カカオ株式会社:Dココアパウダー
【0042】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の水系顔料分散物は、ファンデーション、日焼け止め化粧料や、医薬用の皮膚外用剤として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)無機顔料、2)非イオン性界面活性剤、3)酸及び4)アルカリを含有してなり、
前記酸及びアルカリのうちのいずれか一方を添加して無機顔料を分散させた後、酸及びアルカリのうちの他方を添加した
ことを特徴とする水系顔料分散物。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の水系顔料分散物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水系顔料分散物を含有してなる皮膚外用剤。

【公開番号】特開2007−262229(P2007−262229A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88773(P2006−88773)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】