説明

水素エンジンの制御装置

【課題】検出された吸気量に見合った分量の水素をエンジンに供給する水素エンジンの制御装置において、過早着火が連続的に起こってバックファイヤに至るのを抑制する。
【解決手段】水素を燃料とする車両1に設けられ、検出された吸気量に見合った分量の水素をエンジン5に供給する水素エンジン5の制御装置である。PCM3は、吸気行程中の過早着火の発生を検出したときに、目標空燃比をリーン側に補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を燃料とする車両に設けられ、検出された吸気量に見合った分量の水素をエンジンに供給する水素エンジンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、吸気通路に例えば熱線式の吸気流量センサを設け、当該吸気流量センサの出力に基づいてインジェクタからの噴射燃料量を制御するようにしたエンジンの制御装置が知られている。
【0003】
ところで、この種の制御装置を水素エンジンに用いた場合には、以下のような問題がある。すなわち、水素は着火性が高いことから、吸気行程中に着火してしまう所謂過早着火が起こりやすくなる。このような過早着火が起こると、空気が吸気側に吹き替えされ、吸気通路を逆流する空気によって吸気流量センサの熱線が冷やされ、吸気量が増えたと誤検出されるおそれがある。
【0004】
そうして、このような誤検出が生じると、誤検出された吸気量に見合った分量の水素がエンジンに供給されることから、すなわち、エンジンに供給される水素燃料が増えることから、過早着火が連続的に起こり、バックファイヤに至るおそれがある。
【0005】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1では、複数の気筒毎に水素を供給する複数の水素供給手段を備えた水素エンジンの燃料制御装置おいて、過早着火の空燃比リッチ限界が低い気筒の空燃比が、過早着火の空燃比リッチ限界が高い気筒の空燃比よりリーンになるように当該水素供給手段による水素供給量を制御することで、過早着火の発生を抑制するようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−71087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、過早着火の空燃比リッチ限界は、気筒が複数あれば気筒毎に異なる上、水素エンジンの種類によっても異なることから、上記特許文献1に記載のもののように、気筒別に空燃比リッチ限界を設定するものでは、水素エンジンの種類に合わせて空燃比リッチ限界の設定値を変更しなければならず、その設定が煩雑になるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、検出された吸気量に見合った分量の水素をエンジンに供給する水素エンジンの制御装置において、水素エンジンの種類によらず、吸気行程中に過早着火が連続的に起こってバックファイヤに至るのを抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明では、空燃比リッチ限界を予め設定するのではなく、過早着火の発生が検出されたときの空燃比をその都度リーン側に補正するようにしている。
【0010】
第1の発明は、水素を燃料とする車両に設けられ、検出された吸気量に見合った分量の水素をエンジンに供給する水素エンジンの制御装置であって、吸気行程中の過早着火の発生を検出する過早着火検出手段と、上記過早着火検出手段が過早着火の発生を検出したときに、目標空燃比をリーン側に補正する目標空燃比補正手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
第1の発明によれば、目標空燃比補正手段は、過早着火検出手段が吸気行程中の過早着火の発生を検出したときに、目標空燃比をリーン側に補正するので、過早着火が連続的に発生し難くなる。これにより、水素エンジンの種類によらず、吸気行程中に過早着火が連続的に起こってバックファイヤに至るのを抑制することができる。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記車両は、少なくともバッテリの電力により駆動される走行用モータを有するハイブリッド車両であり、上記目標空燃比補正手段により目標空燃比がリーン側に補正されたときに、上記エンジンの駆動力を補うように、上記バッテリの電力によって上記走行用モータを駆動させるモータ制御手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0013】
ところで、過早着火の空燃比リッチ限界は、上述の如く、気筒が複数あれば気筒毎に異なる上、エンジンの種類によっても異なることから、水素エンジンの種類によらず過早着火を抑えるには、空燃比リッチ限界をある程度余裕を持った設定値にせざるを得ない。このため、気筒別に空燃比リッチ限界を設定するものでは、エンジンの高い出力トルクを確保し難いという問題がある。
【0014】
ここで、第2の発明によれば、モータ制御手段は、目標空燃比補正手段により目標空燃比がリーン側に補正されたときに、エンジンの駆動力を補うようにバッテリの電力によって走行用モータを駆動させる、所謂駆動力アシストを行わせるので、エンジンの高い出力トルクを確保することができる。
【0015】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記バッテリのSOCを検出するSOC検出手段と、上記エンジンの運転状態を変更する運転状態変更手段と、をさらに備え、上記車両は、上記エンジンの駆動力により発電する発電機を備え、当該発電機の電力により上記走行用モータを駆動可能なシリーズ式ハイブリット車両であり、上記目標空燃比補正手段は、上記SOC検出手段により検出されたSOCが、所定の基準値以上のときは、目標空燃比をリーン側に補正する一方、所定の基準値未満のときは、目標空燃比をリーン側に補正しないものであり、上記運転状態変更手段は、上記SOCが所定の基準値未満のときに、エンジンの出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ移行させることを特徴とするものである。
【0016】
第3の発明によれば、目標空燃比補正手段は、SOC検出手段により検出されたSOCが所定の基準値以上のときは、目標空燃比をリーン側に補正する。そうして、目標空燃比がリーン側に補正されると、モータ制御手段がバッテリの電力によって駆動力アシストを行わせるので、過早着火が連続的に起こるのを抑えつつエンジンの高い出力トルクを確保することができる。
【0017】
一方、SOC検出手段により検出されたSOCが所定の基準値未満のときは、換言すると、バッテリの電力による駆動力アシストが行い難いときは、目標空燃比補正手段は目標空燃比をリーン側に補正しないが、運転状態変更手段がエンジンの出力を所定出力に維持しつつ運転状態を高回転低負荷側へ移行させる。このように、運転状態変更手段が、運転状態を高回転側へ移行させることで、エンジンの出力を所定出力に維持することができるとともに、運転状態を低負荷側へ移行させることで、過早着火の連続的な発生が抑えることができる。
【0018】
以上により、バッテリのSOCが所定の基準値以上のときも所定の基準値未満のときも共に、過早着火が連続的に起こるのを抑えつつエンジンの高い出力トルクを確保することができる。
【0019】
第4の発明は、上記第2又は第3の発明において、上記エンジンには、各気筒内に直接燃料を噴射する直噴インジェクタが設けられ、上記過早着火の発生が検出されたときに、噴射終了時期を上記気筒の圧縮行程後半まで遅角させるインジェクタ制御手段をさらに備え、上記目標空燃比補正手段は、上記インジェクタ制御手段による遅角量が大きいほど、上記目標空燃比のリーン側への補正量を小さくするものであり、上記モータ制御手段は、上記インジェクタ制御手段による遅角量が大きいほど、上記バッテリ電力による走行用モータの駆動力を小さくすることを特徴とするものである。
【0020】
第4の発明によれば、インジェクタ制御手段は、過早着火の発生を検出したときに、噴射終了時期を気筒の圧縮行程後半まで遅角させるので、吸気行程中に噴射される水素燃料の分量が減ることから、過早着火が起き難くなる。
【0021】
また、目標空燃比補正手段は、インジェクタ制御手段による遅角量が大きいほど、目標空燃比のリーン側への補正量を小さくするので、出力トルクの低下が抑えられるとともに、モータ制御手段は、インジェクタ制御手段による遅角量が大きいほど、バッテリ電力による走行用モータの駆動力を小さくするので、バッテリ電力の消費を抑制することができる。
【0022】
第5の発明は、上記第3の発明において、上記エンジンには、各気筒内に直接燃料を噴射する直噴インジェクタが設けられ、上記過早着火の発生が検出され、且つ、上記SOCが所定の基準値未満のときに、噴射終了時期を上記気筒の圧縮行程後半まで遅角させるインジェクタ制御手段をさらに備え、上記運転状態変更手段は、上記過早着火の発生が検出され、且つ、上記SOCが所定の基準値未満のときに、エンジンの出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ移行させるものであって、当該運転状態の高回転低負荷側への移行量を、上記インジェクタ制御手段による遅角量が大きいほど小さくすることを特徴とするものである。
【0023】
第5の発明によれば、運転状態変更手段は、過早着火の発生が検出され、且つ、SOCが所定の基準値未満のときに、エンジンの出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ移行させるので、バッテリの電力による駆動力アシストが行い難いときも、エンジンの高い出力トルクを確保することができる。
【0024】
また、インジェクタ制御手段が噴射終了時期を気筒の圧縮行程後半まで遅角させると、吸気行程中に噴射される水素燃料の分量が減ることから、過早着火が起き難くなるとともに、運転状態変更手段は、運転状態の高回転低負荷側への移行量(負荷の低下量)を、遅角量が大きいほど小さくするので、低負荷時の燃焼効率の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る水素エンジンの制御装置によれば、目標空燃比補正手段は、過早着火検出手段により過早着火の発生が検出されたときに、目標空燃比をリーン側に補正するので、過早着火が連続的に発生し難くなることから、バックファイヤに至るのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る水素エンジンの制御装置を搭載したハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】エンジンの運転領域を設定したエンジン制御マップの一例を示す図である。
【図3】エンジンの制御装置の概略構成図である。
【図4】SOCが所定の基準値以上のときのエンジン制御のタイムチャートであり、同図(a)は空燃比の時間変化を、同図(b)は充填効率の時間変化を、同図(c)はエンジン回転数の時間変化を、同図(d)はスロットル開度の時間変化を、同図(e)はエンジン出力の時間変化を、同図(f)はバッテリ電力アシスト量の時間変化を、同図(g)は要求駆動力の時間変化をそれぞれ示す図である。
【図5】噴射時期遅角量とリーン補正量との関係を示す図である。
【図6】SOCが所定の基準値未満のときのエンジン制御のタイムチャートであり、同図(a)は空燃比の時間変化を、同図(b)は充填効率の時間変化を、同図(c)はエンジン回転数の時間変化を、同図(d)はスロットル開度の時間変化を、同図(e)はエンジン出力の時間変化を、同図(f)はバッテリ電力アシスト量の時間変化を、同図(g)は要求駆動力の時間変化をそれぞれ示す図である。
【図7】制御ラインを求めるためのエンジン制御マップを示す図である。
【図8】噴射時期遅角量と運転領域移行量との関係を示す図である。
【図9】PCMの制御フローチャートである。
【図10】異常燃焼認識サブルーチンの制御内容を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る水素エンジンの制御装置を搭載したハイブリッド車両の概略構成図である。この車両1は、エンジン5並びに第1及び第2モータ7,9を動力源として備え、このエンジン5は発電にのみ使用して、車両1が動くための動力は全てモータ7,9に頼る所謂シリーズハイブリッド車両である。車両1は、エンジン5並びに第1及び第2モータ7,9の他に、パワートレインコントロールモジュール(PCM)3と、電流及び電圧センサ61が設けられ、第1モータ(発電機)7及び第2モータ(走行用モータ)9による発電電力を充放電可能なバッテリ11と、当該バッテリ11と第1モータ7とに接続されている第1インバータ17と、当該第1インバータ17とバッテリ11と第2モータ9とに接続されている第2インバータ19とを備えている。
【0029】
このエンジン5は、ロータリーエンジンであるとともに、使用燃料をガソリンと、ガソリンに比べて触媒未活性時における排気エミッションが少ない水素との間で選択的に切り替えて駆動可能なデュアルフューエルエンジンとされている。そうして、燃料切換スイッチ63(図3参照)の操作によって水素が選択されると、水素タンク13内の水素が水素噴射用のインジェクタ33(図3参照)に供給される一方、ガソリンが選択されると、ガソリンタンク15内のガソリンがガソリン噴射用のインジェクタ35に供給される。なお、排気エミッションとは、触媒通過後の排ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx等)のことをいう。
【0030】
エンジン5の出力軸は第1モータ7の出力軸と連結されており、第1モータ7は、エンジン5により回転駆動されて発電する。第1モータ7にて発電された交流発電電力は、第1インバータ17で直流電力に変換されてバッテリ11に充電されたり、第2インバータ19に供給されたりする。
【0031】
一方、第2インバータ19は、バッテリ11の放電により供給された直流電力や第1インバータ17から供給された直流電力を交流電力に変換して、第2モータ9へ供給するとともに、第2モータ9からの回生電力をバッテリ11に充電する。
【0032】
第2モータ9は、前後左右の4つの車輪21a,21a,21b,21bのうち左右の前輪(駆動輪)21a,21aにディファレンシャルギア23を介して連結されていて、図2に示す制御マップに従ってPCM3により制御される。すなわち、第2モータ9は、車両1の定速運転時等のように当該第2モータ9に要求される出力トルクが低い低トルク運転時や車両始動時にはバッテリ11から供給される電力により駆動され(図2の領域A)、中トルク運転時にはエンジン5により駆動される第1モータ7から供給される電力によって駆動され(図2の領域B)、急加速時等の出力トルクが高い高トルク運転時には当該第1モータ7及びバッテリ11の双方から供給される電力により駆動される(図2の領域C)。
【0033】
上記エンジン5は、図3に示すように、トロコイド内周面を有する繭状のロータハウジングとサイドハウジングとに囲まれたロータ収容室(気筒)25,25に概略三角形状のロータ27,27が収容されて構成されており、その外周側には3つの作動室が区画されている。このエンジン5は、図示は省略するが、2つのロータハウジングを3つのサイドハウジングの間に挟み込むようにして一体化し、その間に形成される2つの気筒25,25にそれぞれロータ27,27を収容した2ロータタイプのものであり、図3では、その2つの気筒25,25を展開した状態で図示している。
【0034】
ロータ27は、外周の3つの頂部にそれぞれ配設されたシール部が各々ロータハウジングのトロコイド内周面に当接した状態でエキセントリックシャフト29の周りを自転しながら、当該エキセントリックシャフト29の軸心の周りに公転する。そして、ロータ27が1回転する間に、当該ロータ27の各頂部間にそれぞれ形成された作動室が周方向に移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程を行い、これにより発生する回転力がロータ27を介してエキセントリックシャフト29から出力される。
【0035】
エンジン5の各気筒25,25には、2つの点火プラグ31,31が設けられており、この2つの点火プラグ31,31はそれぞれ、ロータハウジングの短軸近傍に配設されている一方、各気筒25,25には、水素タンク13から供給された水素を筒内に直接噴射する、2つの水素噴射用のインジェクタ(直噴インジェクタ)33が設けられており(図3では各気筒に1つのみ示す)、2つの水素噴射用インジェクタ33はそれぞれ、ロータハウジングの長軸近傍に、エキセントリックシャフト29の軸方向に並んで配置されている。
【0036】
また、各気筒25,25には、吸気行程にある作動室に連通するように吸気通路37が連通しているとともに、排気行程にある作動室に連通するように排気通路39が連通している。これら吸気通路37と排気通路39とは、EGR通路41で接続されており、当該EGR通路41に設けられたEGR弁43の開度を制御するEGR弁アクチュエータ45の操作により、排気通路39の排気ガスの一部が吸気通路37に還流されるようになっている。
【0037】
吸気通路37の上流側には、吸気量を検出するエアフローセンサ65とステッピングモータ等のアクチュエータ49により駆動されて吸気通路37の断面積を調節するスロットル弁47とが配設されているとともに、吸気通路37の下流側には、ガソリンタンク15から供給されるガソリンを吸気通路37内に噴射するためのガソリン噴射用のインジェクタ35が配設されている。また、排気通路39には、排気を浄化するための排気浄化触媒としての三元触媒51が配設されている。
【0038】
この三元触媒51の上流側には排気ガス中の酸素濃度を検出するリニア空燃比センサ53が配設されている。このリニア空燃比センサ53にはヒータ53bが備えられており、このヒータ53bにより素子53aを加熱して所定温度に維持するように構成されている。
【0039】
これら点火プラグ31,31、EGR弁アクチュエータ45、スロットル弁47のアクチュエータ49、水素及びガソリン噴射用の各インジェクタ33,35、第1及び第2モータ7,9、第1及び第2インバータ17,19、リニア空燃比センサ53等は、制御手段としてのPCM3によって作動制御される。
【0040】
このPCM3には、本実施形態に係る制御に必要な信号として、少なくとも、車両1の速度を検出する車速センサ55、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ57、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ59、上記電流センサ61a及び電圧センサ61b、上記燃料切換スイッチ63、上記エアフローセンサ65、並びに、上記リニア空燃比センサ53の各出力信号が入力される。
【0041】
本実施形態における水素エンジンの制御装置においては、PCM3の制御により、水素使用時は水素噴射用インジェクタ33から水素が、ガソリン使用時はガソリン噴射用インジェクタ35からガソリンが、エンジン5に対し供給されて当該エンジン5が駆動される。また、水素使用時及びガソリン使用時のそれぞれにおいて、PCM3により空燃比制御が実行される。つまり、リニア空燃比センサ53からの出力信号に基づいて、三元触媒51の上流側の空燃比が目標空燃比となるように、スロットル開度及びエンジン回転数を制御するフィードバック制御が実行される。
【0042】
また、PCM3は、エアフローセンサ65により検出された吸気量に見合った分量の水素をエンジン5に供給するように構成されている。より詳しくは、エアフローセンサ65は、ホットワイヤ式のものであり、吸気通路37を通る空気によって冷やされる熱線の冷え具合に基づいて、吸気量を検出するようになっている。そうして、PCM3は、エアフローセンサ65からの出力信号に基づいて、空気充填効率を算出し、この充填効率に対応した基本燃料噴射量を決定して、水素噴射用インジェクタ33から水素を噴射させる。
【0043】
ここで、水素は着火性が高いことから、吸気行程中に着火してしまう所謂過早着火が起こるおそれがある。このような過早着火が起こると、空気が吸気側に吹き替えされ、吸気通路37を逆流する空気によってエアフローセンサ65の熱線が冷やされ、吸気量が増えたと誤検出されるおそれがある。そうして、このような誤検出が生じると、エンジン5に供給される水素燃料が増えることから、過早着火が連続的に起こり、バックファイヤに至るおそれがある。
【0044】
このような過早着火が連続的に発生するのを抑えるために、本実施形態の水素エンジンの制御装置においては、PCM3は、過早着火の発生を検出した場合、検出されたバッテリ11のSOC(State Of Charge)が、45%以上のときは、目標空燃比をリーン側に補正する一方、45%未満のときは、エンジン5の出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ移行させる。
【0045】
以下、過早着火の発生の検出手順を説明した後、過早着火の発生を検出した場合における、バッテリ11のSOCが45%以上のとき及び45%未満のときの制御をタイムチャート等を用いて説明する。なお、SOCとはバッテリ11の充電状態を表す量であり、満充電状態をSOCが100%と表す一方、充電量がゼロの状態をSOCが0%とを表す。また、バッテリ11の開放電圧(無負荷時の電圧)とバッテリ11のSOCとは一対一の対応関係にあることから、バッテリ11の電圧及び電流を計測することによりSOCを求めることができる。そして、PCM3は、検出されたバッテリ11の電流及び電圧値に基づいて、バッテリ11のSOCを算出する。このことで、PCM3は、電流センサ61a及び電圧センサ61bと共に、バッテリのSOCを検出するSOC検出手段を構成することになる。
【0046】
−過早着火の発生の検出手順−
過早着火の発生を検出するに当たり、PCM3は、先ず、エアフローセンサ65、リニア空燃比センサ53、アクセル開度センサ57及びエンジン回転数センサ59からの出力信号を読み取る。次いで、PCM3は、エアフローセンサ65により検出された吸気量が増えたか否かを判定する。ここで、吸気量が増えていないと判定した場合には、PCM3は過早着火の発生を認識しない。
【0047】
一方、吸気量が増えていると判定した場合には、リニア空燃比センサ53により検出された空燃比が所定値以上リッチ側に変動したか否かを判定する。このように、空燃比が所定値以上リッチ側に変動したか否かを判定するのは、過早着火が起こると、吸気通路37を逆流する空気によって見かけの吸気量が増えるため、空燃比が過渡的にリッチ側に変動するからである。そこで、空燃比が所定値以上リッチ側に変動していないと判定した場合には、PCM3は過早着火の発生を認識しない。
【0048】
一方、空燃比が所定値以上リッチ側に変動したと判定した場合には、アクセル開度センサ57により検出されたアクセル開度Accが所定値Acc1を超えているか否かを判定する。このように、アクセル開度Accが所定値Acc1を超えているか否かを判定するのは、アクセルが踏み込まれていない低負荷の場合には、過早着火が発生しないからである。このため、アクセル開度Accが所定値Acc1以下と判定した場合には、PCM3は過早着火の発生を認識しない。
【0049】
一方、アクセル開度Accが所定値Acc1を超えていると判定した場合には、アクセル開度センサ57及びエンジン回転数センサ59からの出力信号に基づいて算出したアクセル開度変化量ΔAcc及びエンジン回転数変化量ΔNが、それぞれ基準アクセル開度変化量ΔAcc1及び基準エンジン回転数変化量ΔN1未満か否かを判定する。ここで、基準アクセル開度変化量ΔAcc1及び基準エンジン回転数変化量ΔN1は共に十分小さな値に設定されており、これら以上でなければアクセル開度及びエンジン回転数は変化していないとみなす基準になるものである。
【0050】
このように、アクセル開度及びエンジン回転数が変化しているか否かを判定するのは以下の理由による。すなわち、アクセル開度Accが所定値Acc1を超える高負荷状態で、空燃比がリッチ側に変動するという現象は、リーン空燃比によるリーン運転時にアクセルを踏み込んだ場合にも検出され得る。そこで、乗員がアクセルを踏み込んだ状態と過早着火の発生とを区別するために、アクセル開度及びエンジン回転数が変化していない状態で、空燃比が所定値よりもリッチ側に増えたか否かで、過早着火による異常燃焼か否かを判定するためである。
【0051】
このため、アクセル開度変化量ΔAccが基準アクセル開度変化量ΔAcc1未満で、且つ、エンジン回転数変化量ΔNが基準エンジン回転数変化量ΔN1未満と判定した場合には、PCM3は過早着火が発生していると認識するようになっている。このことで、PCM3は、エアフローセンサ65、リニア空燃比センサ53、アクセル開度センサ57及びエンジン回転数センサ59と共に、吸気行程中の過早着火の発生を検出する過早着火検出手段を構成することになる。
【0052】
−SOCが45%以上のときの制御−
PCM3は、図4(a)に示すように、空燃比が所定値よりもリッチ側に増えることで過早着火の発生を判定したときは、吸気行程中に過早着火が連続的に起こるのを抑制するために、目標空燃比をリーン側に補正する。より詳しくは、PCM3は、検出されたSOCが、45%(所定の基準値)以上のときは、目標空燃比をリーン側に補正する。このことで、PCM3は、過早着火の発生が検出されたときに、目標空燃比をリーン側に補正する目標空燃比補正手段を構成することになる。
【0053】
このとき、図4(b)〜(d)に示すように、充填効率、エンジン回転数N及びスロットル開度は変化しない。
【0054】
一方、過早着火の抑制を優先させて目標空燃比をリーン側に補正することにより、図4(e)に示すように、エンジン出力は低下するが、PCM3は、エンジン5の高い出力トルクを確保するために、図4(f)に示すように、バッテリ11の電力によって第2モータ9を駆動させて車両1に駆動力を付与する駆動力アシスト(バッテリ電力アシスト)を行わせる。このことで、PCM3は、目標空燃比がリーン側に補正されたときに、エンジン5の駆動力を補うように、バッテリ11の電力によって走行用モータ9を駆動させるモータ制御手段を構成することになる。これにより、図4(g)に示すように、要求駆動力が満足されることになる。
【0055】
さらに、本実施形態における水素エンジンの制御装置においては、バッテリ電力の消費を抑えるために、PCM3は、吸気行程中に過早着火の発生が検出されたときに、水素燃料の噴射終了時期を気筒25の圧縮行程後半まで遅角させる。このことで、PCM3は、過早着火の発生が検出されたときに、噴射終了時期を気筒25の圧縮行程後半まで遅角させるインジェクタ制御手段をも構成することになる。このように、水素燃料の噴射終了時期を気筒25の圧縮行程後半まで遅角させると、吸気行程中に噴射される水素燃料の分量が減ることから、過早着火が起き難くなる。
【0056】
このため、PCM3は、図5に示すように、遅角量が大きいほど、リーン空燃比側への補正量を小さくするとともに、バッテリ電力による第2モータ9の駆動力(バッテリ電力アシスト量)を小さくするようになっている。このように、遅角量が大きいほど、リーン空燃比側への補正量を小さくするので、出力トルクの低下が抑えられるとともに、遅角量が大きいほど、バッテリ電力アシスト量を小さくするので、バッテリ電力の消費が抑制される。
【0057】
−SOCが45%未満のときの制御−
一方、検出されたSOCが、45%未満の場合は、PCM3は、図6(a)に示すように、目標空燃比をリーン側に補正しないように構成されている。
【0058】
図7は、PCM3がエンジン5の出力制御に用いる制御ラインを求めるエンジン制御マップである。このエンジン制御マップにおいて、縦軸に示す釣り合いトルクは、エンジン5のトルクと第2モータ9のトルクとが釣り合うトルクである。符号Pで示したラインは、第2モータ9の等出力ラインである。符号Qで示したラインは、エンジン5の最大トルクラインである。また、ほぼ円形で示すラインが等効率ラインであり、中心に近づくほど、より効率の高い領域となる。さらに、実線かつ符号Lで示すラインが、高効率制御用の制御ラインである。
【0059】
PCM3は、過早着火の発生を判定したときは、図7に示す制御マップに従って、エンジン5の出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ(図7のXからYへ)移行させる。このことで、PCM3は、SOCが所定の基準値未満のときに、エンジン5の出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ移行させる運転状態変更手段をも構成することになる。このとき、図6(b)〜(d)に示すように、エンジン回転数Nは上昇する一方、充填効率及びスロットル開度は低下する。このように、運転状態を高回転側へ移行させることで、図6(e)に示すように、エンジン5の出力が所定出力に維持されるとともに、運転状態を低負荷側へ移行させることで、過早着火の連続的な発生が抑えられる。そうして、エンジン5の出力が所定出力に維持されることから、図6(f)に示すように、バッテリ11の電力によって第2モータ9を駆動させなくても、図6(g)に示すように、要求駆動力が満足されることになる。
【0060】
さらに、図7に示す制御マップでは、等効率ラインの中心に近い程より効率の高い領域となることから、本実施形態における水素エンジンの制御装置においてPCM3は、低負荷時の燃焼効率の低下を抑制するために、換言すると、運転状態の高回転低負荷側への移行量を小さくするために、過早着火の発生が検出されたときに、水素燃料の噴射終了時期を気筒25の圧縮行程後半まで遅角させるとともに、図7及び図8に示すように、運転状態の高回転低負荷側への移行量を、水素燃料の噴射終了時期の遅角量が大きいほど小さくする(図7のXからZへ移行させる)ようになっている。このように、水素燃料の噴射終了時期を気筒気筒25の圧縮行程後半まで遅角させると、吸気行程中に噴射される水素燃料の分量が減ることから、過早着火が起き難くなる。これにより、運転状態の高回転低負荷側への移行量を小さくすることが可能となるので、運転状態が等効率ラインの中心に近づき、低負荷時の燃焼効率の低下が抑制される。
【0061】
−制御装置の処理動作−
ここで、制御装置の処理動作について、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0062】
先ず、最初のステップSA1では、燃料切換スイッチ63の操作によって選択された燃料と、車速センサ55により検出された車速と、アクセル開度センサ57により検出されたアクセル開度と、エンジン回転数センサ59により検出されたエンジン回転数Nと、電流センサ61aにより検出されたバッテリ11の電流及び電圧センサ61bにより検出されたバッテリ11の電圧値と、をPCM3が読み込み、しかる後にステップSA2に進む。
【0063】
次のステップSA2では、PCM3が、ステップSA1で読み込まれたバッテリ11の電流及び電圧値に基づいて、バッテリ11のSOCを算出し、しかる後にステップSA3に進む。次のステップSA3では、運転状態がエンジン運転領域か否かを判定する。より詳しくは、運転状態が、中トルク運転時などエンジン5により駆動される第1モータ7から供給される電力によって駆動される領域(図2の領域B)、又は、高トルク運転時などエンジン5により駆動される第1モータ7及びバッテリ11の双方から供給される電力により駆動される領域(図2の領域C)に属するか否かを判定する。このステップSA3の判定がNOであるとき、すなわち、運転状態が、低トルク運転時や車両始動時などバッテリ11から供給される電力により駆動される領域(図2の領域A)に属すると判定されたときは、ステップSA4に進む。
【0064】
次のステップSA4では、バッテリ11から供給される電力により第2モータ9を駆動させて走行するモータ走行制御を行う。モータ走行制御においては、過早着火が発生することはないので、そのままリターンする。一方、ステップSA3の判定がYESであるときは、ステップSA5に進む。
【0065】
次のステップSA5では、燃料切換スイッチ63の操作によって水素が選択されたか否かを判定する。このステップSA5の判定がNOであるときは、ステップSA6に進み、燃料としてガソリンを選択し、そのままリターンする。一方、ステップSA5の判定がYESであるときは、ステップSA7に進む。
【0066】
次のステップSA7では、燃料として水素を選択し、しかる後にステップSA8に進み、後述する異常燃焼認識を行った後、ステップSA9に進む。次のステップSA9では、ステップSA8の認識結果に基づいて異常燃焼(過早着火)が生じたか否かを判定する。このステップSA9の判定がNOであるとき、すなわち、異常燃焼が発生していないと判定したときは、そのままリターンする。一方、ステップSA9の判定がYESであるときは、ステップSA10に進む。
【0067】
次のステップSA10では、PCM3が、吸気行程中の過早着火の発生を抑えるべく、吸気行程中に噴射される水素燃料の量を減少させるために、水素噴射用インジェクタ33からの水素燃料の噴射終了時期を気筒25の圧縮行程後半まで遅角させる燃料噴射時期遅角制御を行い、しかる後にステップSA11に進む。
【0068】
次のステップSA11では、ステップSA2で算出されたバッテリ11のSOCが45%未満か否かを判定する。このステップSA10の判定がYESであるときは、ステップSA12に進む。
【0069】
次のステップSA12では、ステップSA10の燃料噴射時期遅角制御による遅角量が大きいか否かを判定する。このステップSA12の判定がNOであるとき、すなわち、燃料噴射時期遅角制御による遅角量が小さいときは、ステップSA14に進み、スロットル開度の閉補正量を大きく設定し、次のステップSA15でエンジン回転数Nの増補正量を大きく設定する。一方、ステップSA12の判定がYESであるとき、すなわち、燃料噴射時期遅角制御による遅角量が大きいときは、ステップSA17に進み、スロットル開度の閉補正量を小さく設定し、次のステップSA18でエンジン回転数Nの増補正量を小さく設定する。このように、遅角量が小さいときは、ステップSA14及びSA15で、運転状態を高回転低負荷側へ大きく移行させる一方、遅角量が大きいときは、ステップSA17及びSA18で、運転状態を高回転低負荷側へ小さく移行させ、しかる後にステップSA16に進む。
【0070】
次のステップSA16では、所定時間を経過したか否かを判定し、このステップSA16の判定がYESであるときは、そのままリターンする一方、このステップSA16の判定がNOであるときは、所定時間が経過するまでステップSA16の判定を繰り返し、しかる後にリターンする。
【0071】
これに対し、ステップSA11の判定がNOであるとき、すなわち、ステップSA2で算出されたバッテリ11のSOCが45%以上のときは、ステップSA13に進み、ステップSA12と同様に、ステップSA10の燃料噴射時期遅角制御による遅角量が大きいか否かを判定する。このステップSA13の判定がYESであるとき、すなわち、燃料噴射時期遅角制御による遅角量が大きいときは、ステップSA19に進み、目標空燃比のリーン側への補正量を小さく設定し、次のステップSA20でバッテリ電力による駆動アシスト量(バッテリ電力アシスト量)を小さく設定し、しかる後にリターンする。
【0072】
一方、ステップSA13の判定がNOであるとき、すなわち、燃料噴射時期遅角制御による遅角量が小さいときは、ステップSA21に進み、目標空燃比のリーン側への補正量を大きく設定し、次のステップSA22でバッテリ電力アシスト量を大きく設定し、しかる後にリターンする。
【0073】
次に、異常燃焼認識(ステップSA8)サブルーチンについて、図10に示すフローチャートを用いて説明する。
【0074】
先ず、最初のステップSB1では、エアフローセンサ65により検出された吸気量と、リニア空燃比センサ53により検出された酸素濃度と、アクセル開度センサ57により検出されたアクセル開度と、エンジン回転数センサ59により検出されたエンジン回転数Nと、をPCM3が読み込み、しかる後にステップSB2に進む。
【0075】
次のステップSB2では、吸気量が増えたか否かを判定し、このステップSB2の判定がNOであるときは、そのままエンドする一方、このステップSB2の判定がYESであるときは、ステップSB3に進む。
【0076】
次のステップSB3では、空燃比が所定値以上リッチ側に変動したか否かを判定し、このステップSB3の判定がNOであるときは、そのままエンドする一方、このステップSB3の判定がYESであるときは、ステップSB4に進む。
【0077】
次のステップSB4では、アクセル開度Accが所定値Acc1を超えているか否か、すなわち、アクセルが踏み込まれて高負荷になっているか否かを判定し、このステップSB4の判定がNOであるときは、そのままエンドする一方、このステップSB4の判定がYESであるときは、ステップSB5に進む。
【0078】
次のステップSB5では、アクセル開度変化量ΔAccが基準アクセル開度変化量ΔAcc1未満か否か、すなわち、アクセル開度量が変化していないか否かを判定し、このステップSB5の判定がNOであるとき、すなわち、アクセル開度量が変化しているときは、そのままエンドする一方、このステップSB5の判定がYESであるときは、ステップSB6に進む。
【0079】
次のステップSB6では、エンジン回転数変化量ΔNが基準エンジン回転数変化量ΔN1未満か否か、すなわち、エンジン回転数が変化していないか否かを判定し、このステップSB6の判定がNOであるとき、すなわち、エンジン回転数が変化しているときは、そのままエンドする一方、このステップSB6の判定がYESであるときは、ステップSB7に進む。
【0080】
次のステップSB7では、過早着火による以上燃焼が発生していることを認識し、しかる後にエンドする。
【0081】
−効果−
本実施形態によれば、PCM3は、吸気行程中の過早着火の発生を検出したときに、目標空燃比をリーン側に補正するので、過早着火が連続的に発生し難くなる。これにより、水素エンジンの種類によらず、吸気行程中に過早着火が連続的に起こってバックファイヤに至るのを抑制することができる。
【0082】
また、PCM3は、目標空燃比がリーン側に補正されたときに、エンジン5の駆動力を補うようにバッテリ電力アシストを行わせるので、エンジン5の高い出力トルクを確保することができる。
【0083】
さらに、PCM3は、検出されたSOCが45%以上のときは、目標空燃比をリーン側に補正するとともに、バッテリ電力アシストを行わせるので、過早着火が連続的に起こるのを抑えつつエンジン5の高い出力トルクを確保することができる。
【0084】
一方、検出されたSOCが45%未満のときは、換言すると、バッテリ電力アシストが行い難いときは、PCM3は、目標空燃比をリーン側に補正しないが、エンジン5の出力を所定出力に維持しつつ運転状態を高回転低負荷側へ移行させる。このように、運転状態を高回転側へ移行させることで、エンジン5の出力を所定出力に維持することができるとともに、運転状態を低負荷側へ移行させることで、過早着火の連続的な発生を抑えることができる。
【0085】
以上により、バッテリ11のSOCが45%以上のときも45%未満のときも共に、過早着火が連続的に起こるのを抑えつつエンジン5の高い出力トルクを確保することができる。
【0086】
さらに、PCM3は、過早着火の発生を検出したときに、噴射終了時期を気筒25の圧縮行程後半まで遅角させるので、吸気行程中に噴射される水素燃料の分量が減ることから、過早着火が起き難くなる。
【0087】
また、PCM3は、遅角量が大きいほど、目標空燃比のリーン側への補正量を小さくするとともに、バッテリ電力による第2モータ9の駆動力を小さくするので、出力トルクの低下が抑えられるとともにバッテリ電力の消費を抑制することができる。
【0088】
さらに、PCM3は、過早着火の発生を検出し、且つ、検出されたSOCが所定の基準値未満のときに、エンジン5の出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ移行させるので、バッテリ電力アシストが行い難いときも、エンジン5の高い出力トルクを確保することができる。
【0089】
また、噴射終了時期を気筒25の圧縮行程後半まで遅角させると、吸気行程中に噴射される水素燃料の分量が減ることから、過早着火が起き難くなるとともに、PCM3は、運転状態の高回転低負荷側への移行量(負荷の低下量)を、遅角量が大きいほど小さくするので、低負荷時の燃焼効率の低下を抑制することができる。
【0090】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0091】
上記実施形態では、エンジン5を、使用燃料をガソリンと水素との間で選択的に切り替えて駆動可能なデュアルフューエルエンジンとしたが、これに限らず、バッテリ電力アシストを行わないのであれば、単にロータリーエンジンとしてもよい。
【0092】
また、上記各実施形態では、車両1をシリーズ式ハイブリット車両としたが、エンジン5の出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ移行させる制御を行わないのであれば、車両1をパラレル式ハイブリット車両としてもよい。
【0093】
さらに、上記各実施形態では、バッテリ電力アシストを制限するSOCの基準値を45%に設定したが、これに限らず、バッテリ11の容量等に合わせて適宜決定してもよい。
【0094】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明は、水素を燃料とする車両に設けられ、検出された吸気量に見合った分量の水素をエンジンに供給する水素エンジンの制御装置等について有用である。
【符号の説明】
【0096】
1 車両
3 PCM(過早着火検出手段)(目標空燃比補正手段)(モータ制御手段)(運転状態変更手段)(インジェクタ制御手段)(SOC検出手段)
5 エンジン
7 第1モータ(発電機)
9 第2モータ(走行用モータ)
11 バッテリ
25 気筒
33 水素噴射用インジェクタ(直噴インジェクタ)
53 リニア空燃比センサ(過早着火検出手段)
57 アクセル開度センサ(過早着火検出手段)
59 エンジン回転数センサ(過早着火検出手段)
61a 電流センサ(SOC検出手段)
61b 電圧センサ(SOC検出手段)
65 エアフローセンサ(過早着火検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を燃料とする車両に設けられ、検出された吸気量に見合った分量の水素をエンジンに供給する水素エンジンの制御装置であって、
吸気行程中の過早着火の発生を検出する過早着火検出手段と、
上記過早着火検出手段が過早着火の発生を検出したときに、目標空燃比をリーン側に補正する目標空燃比補正手段と、を備えていることを特徴とする水素エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の水素エンジンの制御装置において、
上記車両は、少なくともバッテリの電力により駆動される走行用モータを有するハイブリッド車両であり、
上記目標空燃比補正手段により目標空燃比がリーン側に補正されたときに、上記エンジンの駆動力を補うように、上記バッテリの電力によって上記走行用モータを駆動させるモータ制御手段をさらに備えていることを特徴とする水素エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の水素エンジンの制御装置において、
上記バッテリのSOCを検出するSOC検出手段と、
上記エンジンの運転状態を変更する運転状態変更手段と、をさらに備え、
上記車両は、上記エンジンの駆動力により発電する発電機を備え、当該発電機の電力により上記走行用モータを駆動可能なシリーズ式ハイブリット車両であり、
上記目標空燃比補正手段は、上記SOC検出手段により検出されたSOCが、所定の基準値以上のときは、目標空燃比をリーン側に補正する一方、所定の基準値未満のときは、目標空燃比をリーン側に補正しないものであり、
上記運転状態変更手段は、上記SOCが所定の基準値未満のときに、エンジンの出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ移行させることを特徴とする水素エンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の水素エンジンの制御装置において、
上記エンジンには、各気筒内に直接燃料を噴射する直噴インジェクタが設けられ、
上記過早着火の発生が検出されたときに、噴射終了時期を上記気筒の圧縮行程後半まで遅角させるインジェクタ制御手段をさらに備え、
上記目標空燃比補正手段は、上記インジェクタ制御手段による遅角量が大きいほど、上記目標空燃比のリーン側への補正量を小さくするものであり、
上記モータ制御手段は、上記インジェクタ制御手段による遅角量が大きいほど、上記バッテリ電力による走行用モータの駆動力を小さくすることを特徴とする水素エンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項3記載の水素エンジンの制御装置において、
上記エンジンには、各気筒内に直接燃料を噴射する直噴インジェクタが設けられ、
上記過早着火の発生が検出され、且つ、上記SOCが所定の基準値未満のときに、噴射終了時期を上記気筒の圧縮行程後半まで遅角させるインジェクタ制御手段をさらに備え、
上記運転状態変更手段は、上記過早着火の発生が検出され、且つ、上記SOCが所定の基準値未満のときに、エンジンの出力を所定出力に維持しつつ、運転状態を高回転低負荷側へ移行させるものであって、当該運転状態の高回転低負荷側への移行量を、上記インジェクタ制御手段による遅角量が大きいほど小さくすることを特徴とする水素エンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−47281(P2011−47281A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193987(P2009−193987)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】