説明

水素化分解生成物の製造方法、プラスチックの処理方法及びベンゼン類の製造方法

【課題】塩素を含むプラスチックから塩素を含まずベンゼン類を含む水素化分解生成物を得ることができ、更に、前記プラスチックや用いる溶剤等が窒素や硫黄を含む場合であっても、これらを含まない前記水素化分解生成物を得ることができる水素化分解生成物の製造方法の提供。
【解決手段】塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱して前記プラスチックを溶解し、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、前記プラスチック溶解物を第1触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解反応を行い、第1水素化分解生成物を得る第1水素化分解工程と、前記第1水素化分解生成物が含有する塩素を塩素固定手段及び/又は塩素除去手段によって固定及び/又は除去する塩素分固定・除去工程と、第2触媒の存在下で水素と反応させ、塩素を含まない第2水素化分解生成物を得る第2水素化分解工程とを具備する、水素化分解生成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゼン類を含む水素化分解生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物系プラスチックに代表される塩素を含むプラスチック(塩素を化学的に結合したプラスチックに限らず、塩素含有物質を物理的に含むプラスチックの集合も含む。以下同じ。)を水素化分解して、ベンゼン類(ベンゼン及び/又はベンゼン誘導体を意味する。以下同じ。)を得る従来法として、例えば特許文献1に記載の方法が挙げられる。
特許文献1には、加熱されて液化された廃プラスチックを含む液状の単環又は多環系芳香族化合物に水素を加えて水素化分解反応(水添分解反応)させるとともに、該反応生成物を環化触媒の存在下で反応させてベンゼン等を生成させることを特徴とする廃プラスチックの処理方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−321682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような従来法においては、塩素を含むプラスチックから、塩素を含まずベンゼン類を含む水素化分解生成物を得ることが困難であった。これは水素化分解生成物中に芳香族塩素化合物が含まれ、これを取り除くことが困難なためである。
このような塩素を含む水素化分解生成物を蒸留等すればベンゼン類、軽質留分、重質留分等が得られるが、これらにも塩素が含まれるので、例えば軽質留分や重質留分であれば、そのまま燃料油やカーボンブラック油として利用することはできなかった。
【0004】
また、塩素を含むプラスチックやこれを水素化分解する際に用いる溶剤、又はその他の混入物等が窒素や硫黄を含んでいる場合がある。例えば、一般廃棄物系プラスチックや溶剤としてコールタールを用いると、通常、これらは窒素や硫黄を含んでいる。そして、このようなものを用いて従来法により水素化分解すると、得られる水素化分解生成物にも窒素や硫黄が含まれる。従って、このような水素化分解生成物を例えば蒸留して得られる油分を燃料に利用すると、窒素や硫黄の影響で刺激臭を発生するので取り扱い難い。更に、利用時に窒素酸化物や硫黄酸化物を発生し、環境汚染を招くという問題があった。
【0005】
また、塩素を含むプラスチック等を水素化分解する際に用いる溶剤を、処理するプラスチックの量に併せて使用する必要があった。つまり、多量のプラスチックを処理するならば多量の溶剤が必要であった。この場合、溶剤を多量に調達できないために、プラスチックの処理量を低減しなければならない場合があった。また、溶剤を調達可能な場所に設備を建設しなければならず制限を受ける場合があった。また、多量の溶剤を貯蔵するために、設備の大規模化及びそれに伴う設備建設費の増加が問題となっていた。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、塩素を含むプラスチックから塩素を含まずベンゼン類を含む水素化分解生成物を得ることができ、更に、前記プラスチックや用いる溶剤等が窒素や硫黄を含む場合であっても、これらを含まない前記水素化分解生成物を得ることができる、水素化分解生成物の製造方法及びプラスチックの処理方法、並びにその水素化分解生成物から更にベンゼン類を得るベンゼン類の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、溶剤の使用量を低減でき、更にベンゼン類の回収率を改善した水素化分解生成物の製造方法及びプラスチックの処理方法、並びにその水素化分解生成物から更にベンゼン類を得るベンゼン類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討を重ね、以下の(1)〜(9)が上記課題を解決することを見出した。
(1)塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱して前記プラスチックを溶解し、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、前記プラスチック溶解物を第1触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解反応を行い、第1水素化分解生成物を得る第1水素化分解工程と、前記第1水素化分解生成物が含有する塩素を塩素固定手段及び/又は塩素除去手段によって固定及び/又は除去する塩素分固定・除去工程と、前記塩素分固定・除去工程で得られた塩素を固定及び/又は除去した第1水素化分解生成物を第2触媒の存在下で水素と反応させ、塩素を含まない第2水素化分解生成物を得る第2水素化分解工程とを具備する、水素化分解生成物の製造方法。
(2)前記塩素固定手段が、前記第1水素化分解生成物への塩素固定剤の添加である、上記(1)に記載の水素化分解生成物の製造方法。
(3)前記塩素固定剤が炭酸ナトリウムを含有する、上記(2)に記載の水素化分解生成物の製造方法。
(4)前記塩素除去手段が、前記第1水素化分解生成物の蒸留及び/又は遠心分離である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水素化分解生成物の製造方法。
(5)前記第1触媒が鉄触媒、前記第2触媒が貴金属系触媒である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水素化分解生成物の製造方法。
(6)前記第2水素化分解生成物の少なくとも一部を、前記溶解工程において前記溶剤として用いる、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水素化分解生成物の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の水素化分解生成物の製造方法によって製造した前記第2水素化分解生成物を、更に環化反応してベンゼン類を得る環化反応工程を具備する、ベンゼン類の製造方法。
(8)塩素と、ポリスチレンと、溶剤とを含有する混合物を加熱して前記ポリスチレンを溶解し、ポリスチレン溶解物を得る溶解工程と、前記ポリスチレン溶解物を第1触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解反応を行い、第1水素化分解生成物を得る第1水素化分解工程と、前記第1水素化分解生成物が含有する塩素を塩素固定手段及び/又は塩素除去手段によって固定及び/又は除去する塩素分固定・除去工程と、前記塩素分固定・除去工程で得られた塩素を固定及び/又は除去した第1水素化分解生成物を第2触媒の存在下で水素と反応させ、塩素を含まずベンゼン類を含む第2水素化分解生成物を得る第2水素化分解工程と、前記第2水素化分解生成物からベンゼン類を分離し回収する分離回収工程とを具備する、ベンゼン類の製造方法。
(9)塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱して前記プラスチックを溶解し、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、前記プラスチック溶解物を第1触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解反応を行い、第1水素化分解生成物を得る第1水素化分解工程と、前記第1水素化分解生成物が含有する塩素を塩素固定手段及び/又は塩素除去手段によって固定及び/又は除去する塩素分固定・除去工程と、前記塩素分固定・除去工程で得られた塩素を固定及び/又は除去した第1水素化分解生成物を第2触媒の存在下で水素と反応させる第2水素化分解工程とを具備する、プラスチックの処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塩素を含むプラスチックから塩素を含まずベンゼン類を含む水素化分解生成物を得ることができ、更に、前記プラスチックや用いる溶剤等が窒素や硫黄を含む場合であっても、これらを含まない前記水素化分解生成物を得ることができる、水素化分解生成物の製造方法及びプラスチックの処理方法、並びにその水素化分解生成物から更にベンゼン類を得るベンゼン類の製造方法を提供することができる。
【0010】
また、本発明は前記水素化分解生成物の少なくとも一部を溶解工程において前記溶剤として用いることが好ましく、この場合、前記溶剤の使用量を低減でき、更にベンゼン類の回収率を改善できる水素化分解生成物の製造方法及びプラスチックの処理方法、並びにその水素化分解生成物から更にベンゼン類を得るベンゼン類の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明の水素化分解生成物の製造方法及びプラスチックの処理方法は、同様の溶解工程、第1水素化分解工程、塩素分固定・除去工程及び第2水素化分解工程とを具備する。また、本発明のベンゼン類の製造方法は、2つの態様があり、第1の態様はこれらと同様の溶解工程、第1水素化分解工程、塩素分固定・除去工程及び第2水素化分解工程に加えて分離回収工程を具備し、更に用いるプラスチックをポリスチレンとした製造方法であり、第2の態様は、これらと同様の溶解工程、第1水素化分解工程、塩素分固定・除去工程及び第2水素化分解工程に加えて環化反応工程を具備する製造方法である。
つまり、溶解工程、第1水素化分解工程、塩素分固定・除去工程及び第2水素化分解工程は共通するので、以下では、本発明の水素化分解生成物の製造方法、プラスチックの処理方法及びベンゼン類の製造方法(以下ではこれらを合わせて「本発明」ともいう。)を合わせて説明する。
【0012】
初めに、本発明の溶解工程について説明する。
本発明の溶解工程は、塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱して前記プラスチックを溶解し、プラスチック溶解物を得る工程である。
【0013】
ここで、前記混合物中において塩素は後に説明するプラスチックや溶剤と化学的に結合して存在していてもよいし、塩素含有物質(無機化合物や有機化合物等)として存在していてもよい。また、塩素単独(原子、イオン、分子等)として存在してもよい。
前記混合物中におけるこのような塩素の含有率は特に限定されないものの、通常、0.01〜10質量%である。
【0014】
前記混合物が含有するプラスチックの種類は特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンが挙げられる。前記混合物は2種類以上のプラスチックを含有してもよい。
また、プラスチックは、塩化ビニル樹脂等、塩素を化学的に結合したプラスチックであってもよく、塩素含有物質を物理的に含むプラスチックの集合であってもよい。このような塩素を含むプラスチックとしては、例えば、都市ごみや産業廃棄物の廃プラスチックが挙げられる。
【0015】
このようなプラスチックの粒度は特に限定されないが、数ミリ以下であると、後に説明するこのプラスチックの溶解がより容易になり、処理時間を比較的短くできるので好ましい。このプラスチックの粒度が比較的大きい場合や処理時間をより短くしたい場合等では、前記プラスチックを予め粗砕することが好ましい。
【0016】
前記混合物中における前記プラスチックの含有率は特に限定されないものの、通常、4〜40質量%であり、20〜35質量%であることが好ましく、25〜30質量%であることがより好ましい。
【0017】
前記混合物が含有する溶剤は、前記プラスチックを溶解(流動化)することができるものであれば特に限定されない。更に、生成するベンゼン類と分離しない、即ち複数の相を形成しないものであることが好ましい。
これらの中でも、相溶性があるという点で単環、二環、三環程度の芳香族化合物(各種誘導体も含む)又はこれらの中の2以上を含むものであることが好ましい。
更に、これらの中でも、コールタール及びそれを蒸留して得られるコールタール留分がより好ましい。後述するように前記混合物が熱硬化性樹脂や紙類を含有する場合であってもこれらを流動化できるため、溶解工程で得られたプラスチック溶解物を次工程へポンプ移送することが可能となるからである。
コールタール留分としては、例えば、通常用いられるコールタール蒸留プラントで製造することができるクレオソート油留分、アントラセン油留分等が挙げられる。また、コールタールやその留分はコールタールピッチを含有していてもよい。
【0018】
前記混合物中における前記溶剤の含有率は特に限定されないものの、通常、40〜95質量%であり、55〜75質量%であることが好ましく、60〜72質量%であることがより好ましい。
【0019】
本発明の溶解工程において混合物は、このような塩素と、プラスチック(本発明のベンゼン類の製造方法においてはポリスチレン)と、溶剤とを含有するものであるが、その他の成分、例えば熱硬化性樹脂や紙類等を含有してもよい。このようなその他の成分の前記混合物中における含有率は特に限定されないが、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明の溶解工程は、このような混合物を加熱して前記プラスチックを溶解し、プラスチック溶解物を得る工程である。
ここで、前記混合物を加熱する方法は特に限定されない。例えば従来公知の方法でよい。加熱した際の混合物の温度は、含有する前記プラスチックの少なくとも一部を溶解することができる温度であればよく、その種類や粒度等によって変わる。概ね、150〜400℃程度であることが好ましい。この温度よりも低すぎると溶解速度が遅くなる場合がある。そして、溶解するために用いる設備(例えば溶解槽)の大型化が必要になる場合がある。この温度よりも高すぎると前記プラスチック又はコールタール等の溶剤に含有される化合物が重縮合して、ピッチ留分等となる反応が顕著となり操業上不都合となる場合がある。250℃超で溶解する場合は、揮発分が多くなる場合があるので、密閉容器の中で溶解するのが好ましい。
【0021】
このような溶解工程により、プラスチック溶解物を得ることができる。
尚、本発明のベンゼン類の製造方法においては、前記プラスチックとしてポリスチレンを含む前記混合物を加熱して、このポリスチレンを溶解し、ポリスチレン溶解物を得るが、このポリスチレン溶解物は前記プラスチック溶解物の一態様であり、他の種類のプラスチックを用いた場合と処理方法、条件等は同様でよい。従って、以下ではプラスチック溶解物についてのみ説明する。
【0022】
次に本発明の第1水素化分解工程について説明する。
本発明の第1水素化分解工程は、上記のような溶解工程で得られた前記プラスチック溶解物を第1触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解反応を行い、第1水素化分解生成物を得る工程である。
【0023】
本発明の第1水素化分解工程では、前記プラスチック溶解物に後述する第1触媒を添加等した後に、通常の水素化分解反応で適用される温度及び圧力等の条件にて水素を加えて、例えば密閉容器内で水素化分解反応をさせることで、ベンゼン類を含む水素化分解生成物(第1水素化分解生成物)を得ることができる。
水素化分解反応を行う反応条件は通常の範囲であれば特に限定されない。例えば反応条件として、反応温度は300〜500℃程度とすることができ、400〜450℃程度が好ましい。容器内圧力は1.0〜20.3MPa(10〜200気圧)程度とすることができ、5.1〜10.1MPa(50〜100気圧)程度が好ましい。反応時間は10分〜10時間程度とすることができる。水素化分解反応は液相、気相のいずれで行ってよく、流動床、固定床、スラリー床等のいずれの反応形式で行ってもよい。
【0024】
本発明の第1水素化分解工程で用いる第1触媒は、上記のような水素化分解反応によって前記プラスチック溶解物と水素とからベンゼン類を生成させる反応を促進する触媒としての作用を有するものであれば特に限定されない。
例えば、Co−Mo系触媒、Ni−Mo系触媒、Ni−W系触媒、鉄触媒(鉄含有物質であり、例えば、酸化鉄、硫化鉄、硫酸鉄、塩化鉄及びそれらの焼成物)が挙げられる。複数の種類の触媒を混合して用いてもよい。また、これらの触媒は、必要によりアルミナ(Al)、シリカ(SiO)、ゼオライト等の担体に担持させて用いることができる。
【0025】
このような第1触媒の中でも鉄触媒が好ましく、粒子状の酸化鉄(例えば、製鋼での転炉吹錬で発生する転炉ダスト)がより好ましい。鉄触媒は塩素と反応し、塩素を固定する作用をも奏し、かつ、塩素を固定した(塩素と反応した)後であっても前記プラスチック溶解物と水素とからベンゼン類を生成させる反応を促進する触媒としての作用を有するからである。前記混合物中に塩素を多く含む場合、第1触媒として鉄触媒を用いると特に好ましい。鉄触媒が前記水素化分解生成物中の塩素の少なくとも一部を固定するので、次の工程である第2水素化分解工程において塩素固定剤の作用により、第2水素化分解生成物中の脱塩素をより高度に達成することができるからである。更に、第2水素化分解生成物中に残存する塩素の濃度が低いほど脱窒素・脱硫反応が良好に進行する傾向にあるので好ましい。
【0026】
第1触媒の性状は特に限定されないが粒子状で用いることが好ましく、0.01〜10mm程度の平均粒径を有する粉体であることがより好ましい。第1触媒をスラリー状とした後に前記プラスチック溶解物に添加等して用いてもよい。
更に、前記第1触媒が粒子状の鉄触媒であると、比重差を利用して、後の分離回収工程等において第1触媒と有用成分とを容易に分離することができるので好ましい。
【0027】
このような第1水素化分解工程によりベンゼン類を含む第1水素化分解生成物を得ることができる。
【0028】
次に本発明の塩素分固定・除去工程について説明する。
本発明の塩素分固定・除去工程は、前記第1水素化分解生成物が含有する塩素を、塩素固定手段及び/又は塩素除去手段によって固定及び/又は除去する工程である。
前記塩素固定手段とは、第1水素化分解工程で発生する腐食性のある塩化水素、或いは塩素を、特に腐食性のない塩素含有物質に変換する手段を意味する。具体的には、例えば、塩素固定剤を添加して塩素と塩素固定剤とを反応させ、粒子状の塩素含有物質として塩素を固定する方法が挙げられる。
また、前記塩素除去手段とは、第1水素化分解工程において生成した第1水素化分解生成物から前記塩素含有物質を分離・除去する手段を意味する。具体的には、例えば、塩素と反応する物質を添加し、固体状の塩素含有物質を前記第1水素化分解生成物中に生成させ、それを遠心分離等の方法により分離する方法が挙げられる。また、例えば、前記第1水素化分解生成物を蒸留することで、塩素を分離する方法が挙げられる。
【0029】
ここで、前記塩素固定手段が、前記第1水素化分解生成物への塩素固定剤の添加であることが好ましい。理由は第1水素化分解反応工程における水素化分解反応において用いる触媒、とりわけ鉄触媒には塩素固定作用があり、塩素の一部が固定されているため、塩素固定手段において少量の塩素固定剤を前記第1水素化分解生成物へ添加すれば、前記塩素固定手段の目的を達成できるからである。
【0030】
前記塩素固定剤は、前記第1水素化分解生成物中の塩素を固定することができるものであれば特に限定されない。例えば鉄、酸化鉄、炭酸ナトリウム(NaCO)が挙げられる。これらの中でも炭酸ナトリウムが好ましい。
このような塩素固定剤を前記第1水素化分解生成物に添加すると、前記第1水素化分解生成物中の塩素を固定することができる。例えば前記塩素固定剤が鉄(Fe)の場合であれば、塩素と反応し塩化鉄(FeCl)を形成して塩素を固定することができる。
【0031】
このような塩素固定剤を前記第1水素化分解生成物に添加する方法は特に限定されない。例えば前記第1水素化分解生成物を水素化分解反応器等に投入した後、粉体状(反応性の点から平均粒径0.01〜1mm程度が好ましい。)の塩素固定剤を、水素ガスに同伴させて水素化分解反応器等に投入する方法が挙げられる。また、このような水素化分解反応器等へ塩素固定剤をスラリー状(例えばコールタールとのスラリー)として添加してもよい。更に、前記溶解工程から水素化分解反応器等までの間の配管等に、スラリー状とした塩素固定剤を、例えばポンプ等を用いて注入することもできる。
【0032】
この塩素固定剤の前記第1水素化分解生成物への添加量は特に限定されないものの、通常、前記第1水素化分解生成物の100質量部に対して、0.05〜3.0質量部であり、0.1〜1.0質量部であることが好ましく、0.2〜0.5質量部であることがより好ましい。
【0033】
このような塩素分固定・除去工程により、塩素分を固定及び/又は除去した第1水素化分解生成物を得ることができる。
【0034】
次に本発明の第2水素化分解工程について説明する。
本発明の第2水素化分解工程は、前記塩素分固定・除去工程で得られた塩素を固定及び/又は除去した第1水素化分解生成物を第2触媒の存在下で水素と反応させ、塩素を含まずベンゼン類を含む第2水素化分解生成物を得る工程である。
【0035】
本発明の第2水素化分解工程では、前記塩素分固定・除去工程で得られた塩素を固定及び/又は除去した第1水素化分解生成物を、後述する第2触媒の存在下で、前記第1水素化分解工程で適用した方法と同様の方法、反応条件、反応形式等で水素化分解反応を行い、水素化分解生成物(第2水素化分解生成物)を得ることができる。
【0036】
このようにして得た第2水素化分解生成物の少なくとも一部を、前記溶解工程において前記溶剤として用いることが好ましい。この場合、新たに用いる溶剤の使用量を低減できるので、従来の問題点であった、溶剤を多量に調達できないためにプラスチックの処理量を減少させなければならないこと等を解決できる。
また、この場合、ベンゼン類の回収率を改善することができる。これは、第2水素化分解生成物を溶剤として用いた場合、前記第1水素化分解工程において、溶剤として用いた第2水素化分解生成物から前記プラスチックへの水素の移動による水素化分解が生じることに起因すると、本発明者等は想像している。
【0037】
本発明の第2水素化分解工程で用いる第2触媒としては、前記第1触媒と同性状を有するものを同様に用いることができるが、なかでも、貴金属触媒(例えば、Ni−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−W系触媒及び固体超強酸触媒(例えば、硫酸鉄などを800℃くらいの高温で焼成した金属酸化物))が好ましく、なかでもNi−Mo系触媒とCo−Mo系触媒とを併用、Ni−W系触媒とCo−Mo系触媒とを併用、又はNi−Mo系触媒とNi−W系触媒とCo−Mo系触媒とを併用するのが好ましい。Ni−Mo系触媒及びNi−W系触媒は脱窒素に効果が高く、Co−Mo系触媒は脱硫に効果が高いからである。
ここでNi−Mo系触媒とCo−Mo系触媒とを併用した場合におけるこれらの比は、2:1〜1:1であることが好ましく、2:1程度であることがより好ましい。
また、ここでNi−W系触媒とCo−Mo系触媒とを併用した場合におけるこれらの比は、2:1〜1:1であることが好ましく、2:1程度であることがより好ましい。
これは同じ反応条件では脱窒素の方が進み難い傾向があるからである。
また、ここでNi−Mo系触媒とNi−W系触媒とCo−Mo系触媒とを併用した場合におけるこれらの比は、1:1:1程度であることが好ましい。
【0038】
この第2触媒は前記第1触媒と同様に粒子状で用いることが好ましく、0.01〜10mm程度の平均粒径を有する粉体であることがより好ましい。反応形式としては固定床等で構わないが、前記第1触媒と同様にスラリー状とした後に前記第1水素化分解生成物に添加等して用いてもよい。
【0039】
このような第2水素化分解工程により塩素を含まずベンゼン類を含む第2水素化分解生成物を得ることができる。
尚、本発明において「塩素を含まず」又はこれと同様の文言(「塩素を含まない」等)は、塩素を全く含まないもののみならず、塩素をほとんど含まないものも含む概念である。「塩素をほとんど含まない」とは、塩素の含有率が概ね0.01質量%以下であることを意味する。
【0040】
本発明の水素化分解生成物の製造方法及びプラスチック処理方法は、上記に説明した溶解工程と第1水素化分解工程と塩素分固定・除去工程と第2水素化分解工程とを具備する製造方法及び処理方法である。
【0041】
次に本発明のベンゼン類の製造方法について説明する。
本発明のベンゼン類の製造方法は2つの態様がある。第1の態様は、用いるプラスチックをポリスチレンとし、前記溶解工程、前記第1水素化分解工程、塩素分固定・除去工程及び前記第2水素化分解工程に加えて、次に説明する分離回収工程を具備する製造方法である。また、第2の態様は、前記溶解工程、前記第1水素化分解工程、塩素分固定・除去工程及び前記第2水素化分解工程に加えて、後述する環化反応工程を具備する製造方法である。
【0042】
第1の態様における分離回収工程について説明する。
【0043】
第1の態様における本発明のベンゼン類の製造方法が具備する分離回収工程は、前記第2水素化分解工程で得られた第2水素化分解生成物からベンゼン類を分離し回収する工程である。
前記第2水素化分解生成物からベンゼン類を分離し回収する方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することができる。従来公知の方法としては、例えば蒸留法が挙げられる。
このように回収したベンゼン類は塩素を含まない。
尚、通常、ベンゼン類と合わせて軽質留分、重質留分、ガス留分等を回収することができる。これらも同様に塩素を含まない。
【0044】
前記プラスチックがポリスチレンを含む場合、上記のような処理を行うことで、ポリスチレンは分子鎖(主鎖)の切断と水素化分解反応が生じ、主にエチルベンゼンが生成する。更には、アルキル鎖の分解・不均化反応でBTX類(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等)やメタン、エタン等が生成する。
通常、熱分解のみではベンゼン環に不飽和のアルケンが付いているスチレンの生成が多い。しかし、水素化分解反応では反応が温和に進むことと、ポリスチレンの主鎖の切断部分に水素原子が供給されることにより、ベンゼン環にアルキル鎖(飽和炭化水素)が付加しているエチルベンゼンが多くなる。ポリエチレンやポリプロピレンが存在する場合は、主鎖の切断が主体となるため前記分離回収工程にて、主にC3〜C4のガス留分を生成する。
前記プラスチックがフェノール樹脂で代表される熱硬化性樹脂、ポリエチレンテレフタレート等を含む場合、前記分離回収工程にて、これらの一部は重質留分(ピッチも含む)となる。一方、コールタール等の溶剤に関しては、ガス中の水素との反応により主として若干の水素化分解が起こることが多いが、ほんの一部は重縮合反応のため前記分離回収工程にてピッチ留分を生成することもある。
【0045】
次に第2態様における環化反応工程について説明する。
第2態様における本発明のベンゼン類の製造方法が具備する環化反応工程は、前記第2水素化分解工程で得られた第2水素化分解生成物を、更に環化反応してベンゼン類を得る工程である。
環化反応工程は、分子の開かれた鎖の一部分が環状構造を形成するために分子の他の部分と結合する化学反応である環化反応を行うことができる工程であれば特に限定されない。例えば従来公知の方法であってよいが、流動床、固定床及びスラリー床から選択した反応器を用いる方法であることが好ましく、固定床反応器を用いる方法であることがより好ましい。
【0046】
このような環化反応工程における処理条件は、温度は350〜700℃とすることができ、400〜550℃とすることが好ましい。また、圧力は0.1〜5MPaとすることができ、0.1〜1MPaとすることが好ましい。
【0047】
このような方法において、前記第2水素化分解生成物をベンゼン類とする環化反応を促進するために、環化反応触媒を用いることが好ましい。この環化反応触媒としては、ZSM−5、ZSM−11、HZSM−5等のゼオライトを担体として、Ga、Zn、Cu等を担持した触媒や、ガリウム−シリケート系触媒、Ni−Mo/Al系触媒等が例示できる。
【0048】
このような環化反応により、通常、処理した前記プラスチックの全質量の75質量%以上のベンゼン類を回収できる。82質量%以上回収できる場合もある。
【0049】
次に、本発明の実施態様について図1、図2及び図3の概略図を用いて説明する。尚、これらは一実施態様であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
図1に示した本発明の一実施態様について説明する。
図1に示した実施態様では、プラスチックとして塩素を含むプラスチックである廃プラスチック11を用い、溶剤としてコールタール12を用いている。そして、これらを溶解槽1に投入し、この中で混合して混合物としている。また、この実施態様では、溶解槽1に第1触媒13を投入している。このように第1触媒は、加熱しプラスチック溶解物とする前の混合物に予め含ませておいてもよい。
そして、第1触媒13を含むこの混合物を溶解槽1において150〜400℃の温度に加熱して廃プラスチック11を溶解してプラスチック溶解物を得ている。
【0051】
次に、得られたプラスチック溶解物及び第1触媒13をポンプにより配管を通じて第1水素化分解反応器3に送液する。
この第1水素化分解反応器3には、水素又は水素を主成分とする水素ガス15を供給する。このとき、図1に示すように、経済性向上を指向して第1水素化分解反応器3から排出されるガスの大部分を循環して、水素濃度を所定濃度に維持するように一部を排ガス21として捨て、水素ガス15をメークアップすることが好ましい。ただし、水素の全量を新たに供給し、第1水素化分解反応器3から排出されるガスの全量を捨てる、このプラントの加熱源とする、あるいはほかの用途等に用いる、ということでもよい。
そして、前述のような反応条件(反応形式、反応温度、反応圧力、反応時間等)にて水素化分解反応を行う。
【0052】
このような水素化分解を行うことで、第1水素化分解反応器3において、第1触媒13の触媒効果により、ベンゼン類を含む第1水素化分解生成物を得ることができる。
【0053】
次に、得られた第1水素化分解生成物をポンプにより配管を通じて第2水素化分解反応器4に送液する。
ここで、コールタールでスラリー化した塩素固定剤14を、配管の途中に注入する(スラリー調製槽は図示していない)。
本発明においてこの塩素固定剤は、第1水素化分解工程(図1においては第1水素化分解反応器3)と第2水素化分解工程(図1においては第2水素化分解反応器4)との間のどこに加えても構わない。
そして、この第2水素化分解反応器4には、粉体状の第2触媒(図示せず)及び水素ガス15を供給する。あるいは、粒子状の第2触媒を予め充填しておく、即ち固定床で反応させてもよい。水素ガス15は、上記の第1水素化分解反応器3と同様に供給している。また、上記と同様に、排ガスを循環させることが好ましい。
そして、前述のような反応条件(反応形式、反応温度、反応圧力、反応時間等)にて水素化分解反応を行う。
【0054】
このような水素化分解を行うことで、第2水素化分解反応器4において、第2触媒の触媒効果により、ベンゼン類を含み塩素を含まない第2水素化分解生成物を得ることができる。
【0055】
このようにして生成した第2水素化分解生成物の少なくとも一部を蒸留塔6へ送り、ここで蒸留することで、C3〜C4を主体とするガス留分22、ベンゼン類(BTX類)留分23、クレオソート油・アントラセン油等を軽質化したものに相当する水添タール留分である軽質留分24、及び重質留分25に分留(分離)し、これらを回収することができる。
【0056】
尚、図1では、蒸留塔6は1つであるが、常圧蒸留塔と減圧蒸留塔とを併設して、分留を細分化してもよい。軽質留分24は製品としてもよいが、一部又は全部を溶解槽1へリサイクルして溶剤としてコールタール12に含有させ利用しても構わない。
【0057】
次に、図2に示した本発明の別の一実施態様について説明する。
図2に示す実施態様は、図1で示した実施態様における第1水素化分解反応器3と第2水素化分解反応器4との間に、更に固液分離機(ここでは遠心分離機5)を設けたものである。
【0058】
つまり、本発明の塩素固定・除去工程における前記塩素除去手段が、前記第1水素化分解生成物の遠心分離である態様である。
【0059】
このような固液分離機を設けると、第1水素化分解反応器3で得られた第1水素化分解生成物中の残渣(残渣26)を容易に取り除くことできるので好ましい。残渣を除去すると、とりわけ第2水素化分解反応器の反応形式を固定床としたときに閉塞がなくなるので好ましい。残渣には、第1触媒13、その他未反応物質等が含まれる。
更に、蒸留塔6のボトムを減圧蒸留塔で絞ると、固形分が含まれず、より塩素含有率が低い良質のピッチ(水添ピッチ)を取得することができるので好ましい。
【0060】
次に、図3に示した本発明の別の一実施態様について説明する。
図3に示した実施態様において、用いるプラスチック、溶剤、第1触媒は図1で示した実施態様で用いたものと同様である。また、溶解工程及び第1水素化分解工程も同様であり、ベンゼン類を含む第1水素化分解生成物45を得ることができる。
【0061】
次に、得られた第1水素化分解生成物45をポンプにより配管を通じて蒸留装置30へ送液する。蒸留装置30は塩素分固定・除去工程である。
蒸留装置30では、温度180〜280℃に設定した制御温度の下、第1水素化分解生成物45を蒸留し、制御温度以下の留分である軽質油成分46、制御温度を超え538℃以下の留分である中間留分47、及び538℃超留分の3つに分離する。
ここで、制御温度は180〜280℃であることが好ましく、220℃であることがより好ましい。制御温度がこのような範囲であると、処理するプラスチックの性状や処理量等の変動に対応させるべき運転条件を柔軟に制御し、処理効率を最適化しやすい。また、後述する、循環させる水添溶剤51における必要量の確保に好ましく、前記プラスチック溶解物を得るために用いる前記溶剤の量的安定性が高まり、更にベンゼン類の製造に用いる軽質油成分46が好ましい性状となる傾向がある。
【0062】
そして、温度538℃超留分、第1触媒13、第1触媒13により固定化された塩素分、及び廃プラスチック11の未反応物を含む残渣38を分離除去する。
ここで温度538℃超留分は主にピッチ成分であり、高温状態においても粘度が高いので、水添溶剤51と同様に用いることには適さない。この温度538℃超留分中から塩素分及び第1触媒13を分離すると、例えば高炉原料として用いることができる。
【0063】
制御温度以下の留分である軽質油成分46を、後に説明する環化反応工程である環化反応器34へ供給する。制御温度を超え、温度538℃以下の留分である中間留分47を、次の第2水素化分解工程である第2水素化分解反応器4へ供給する。
【0064】
第2水素化分解反応器4における処理条件、用いる第2触媒及び水素ガス15については、前述した図1で示した実施態様と同様である。そして、供給された中間留分47を水素化分解し、軽質油成分を含む第2水素化分解生成物50を得ることができる。
【0065】
次に、このようにして得た第2水素化分解生成物50を高温分離器32へ供給する。この高温分離器32では気液分離を行う。高温分離器32によって制御温度(180〜280℃程度)以下の低沸点成分である軽質油成分52を環化反応工程である環化反応器34へ供給し、制御温度を超えた高沸点成分である水添溶剤51を溶解工程で用いる溶剤12として循環させることができる。即ち、前記第2水素化分解生成物の一部を、前記溶解工程において前記溶剤として用いることができる。
尚、高温分離器32における制御温度と、前述した蒸留装置30における制御温度とは同程度に設定することが好ましいが、若干相違させることも可能である。この場合、高温分離器32における制御温度を、蒸留装置30における制御温度に対して10〜60℃高めに設定することが好ましい。これは水添溶剤51の水素供与性を増加させることができるからである。また、溶解工程における廃プラスチック11の溶解条件を、常圧下においてより高温とすることができるからである。
【0066】
制御温度を超えた高沸点成分である水添溶剤51は、第2水素化分解反応器4において水添され水素供与性を持つため、溶解工程において溶剤として循環使用すれば、第1水素化分解反応器3及び第2水素化分解反応器4において、水素ガス15を無駄に消費することがない。従って、水素ガス15を廃プラスチック11の水素化分解に効率よく使用し、炭素数1〜3の低級炭化水素ガスの生成を抑制することができる。その結果、水素ガス15の消費量を低減し、かつ廃プラスチック11の水素化分解により軽質油成分46、52の収率を大幅に向上させることができる。
【0067】
ここで、廃プラスチック11の性状、処理量、その他の運転条件の変化により、水添溶剤51の生成量が変動することがあるので、水添溶剤51及び/又は溶剤12を貯留し、水添溶剤51の供給量を適宜調整することが好ましい。
【0068】
環化反応器34では、蒸留装置30から得た軽質油成分46及び高温分離器32から得た軽質油成分52を環化反応させベンゼン類53を生成する。環化反応条件は反応温度350〜700℃、好ましくは400〜550℃、圧力0.1〜5MPa、好ましくは0.1〜1MPaが良い。また、環化触媒はZSM−5、ZSM−11、HZSM−5等のゼオライトを担体としてGa、Zn、Cu等を担持した触媒や、ガリウム−シリケート系触媒、Ni−Mo/Al系触媒などを例示することができる。
【0069】
尚、第1水素化分解反応器3及び第2水素化分解反応器4から排出する排ガス21に含まれる炭素数4以上の炭化水素化合物も、適宜分別して環化反応器34へ供給してベンゼン類を製造するための原料とすることが好ましい。
【実施例】
【0070】
本発明の実施例及び比較例を示す。
<実施例1>
図2に示した態様と同様の処理工程により、本発明を実施した。
まず、ポリスチレン30質量%、ポリエチレン35質量%、ポリプロピレン30質量%及び塩化ビニル5質量%で含むプラスチックを用意した。このプラスチックは都市ごみ系のものを模擬している。
また、溶剤としてアントラセン油、第1触媒として転炉ダスト(Feを主成分とする)、第2触媒としてNi−W系触媒とCo−Mo系触媒とを2:1(質量比)で混合したもの、塩素固定剤としてアントラセン油でスラリー化したソーダ灰(NaCO)(ソーダ灰とアントラセン油との混合比は質量比で1:10)を用意した。
【0071】
次に、これらプラスチック11、溶剤12、第1触媒13を200℃に保持した溶解槽1に供給した。供給量はプラスチックが9.6kg/hr、溶剤が22.4kg/hr、第1触媒が1.5kg/hrとした。
そして、溶解槽1でこれらを0.5hr溶解し(滞留時間が0.5hr)、プラスチック溶解物を得た。
【0072】
次に、得られたプラスチック溶解物を配管を通じて第1水素化分解反応器3へ送液した。そして、プラスチック溶解物を第1水素化分解反応器3にて水素化分解した。ここでの反応温度は450℃、反応圧力は10.1MPa(100気圧)、滞留時間は1hrとした。尚、第1水素化分解反応器3への水素ガス15の供給は2.5Nm/hrとした。
【0073】
次に、得られた第1水素化分解生成物を配管を通じて遠心分離機5へ送り、残渣(固形分)を分離除去した後、ポンプにより配管を通じて第2水素化分解反応器4に送液した。
ここで、スラリー化した塩素固定剤14を、遠心分離機5と第2水素分解反応器4との間の配管の途中に、1.1kg/hrで注入した。
【0074】
次に、予め第2触媒を充填してある第2水素化分解反応器4で水素化分解を行った。ここで反応温度を400℃、反応圧力を8.1MPa(80気圧)、滞留時間を0.5hr)とした。
このようにして第2水素化分解生成物を得た。
【0075】
次に、得られた第2水素化分解生成物を蒸留塔6へ送り、C3〜C4を主体とするガス留分22、沸点が200℃までのBTXを主体とするベンゼン類留分23、水添タール留分(軽質留分)24、及び水添ピッチ留分を主体とする重質留分25に分留した。そして、更に水添タール留分24を、沸点が200〜300℃の留分、300〜400℃の留分、及び400℃以上の留分に分けた(蒸留装置は図示せず)。また、ベンゼン類留分23について、ガスクロマトグラフ装置を用いてベンゼン類、即ちベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の存在を確認した。また、各留分中に含まれる塩素分を定量した。分析結果を第1表に示す。
【0076】
<比較例1>
実施例1における塩素固定剤14を用いなかったこと以外は、全て実施例1と同様とした操作及び分析を行った。分析結果を第1表に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
第1表に示した分析結果から、実施例1に係る水素化分解生成物中の塩素量、窒素量及び硫黄量が低下していることがわかる。
尚、比較例1では安定な状態に固定されていない塩素のため第2触媒が劣化して、脱窒素及び脱硫がほとんど進行しなかったものと推察される。
【0079】
<実施例2>
図3に示した態様と同様の処理工程により、本発明を実施した。
まず、実施例1と同じプラスチック11を用意した。
また、溶剤としてクレオソート油、第1触媒として転炉ダスト(金属鉄および酸化鉄を主成分とする。)を用意した。尚、溶剤はスタートアップ時のみ用い、水添溶剤51が生成された後は、これのみを溶剤として用いた。
【0080】
次に、これらプラスチック11、溶剤12、第1触媒13を溶解槽にて混合した。スタートアップ時において溶剤12としてクレオソート油を用いている間は、溶解槽を200℃に調整し、プラスチック溶解物を得た。また、溶剤として水添溶剤51を用いている間は、約200℃となっている水添溶剤51と混合することでプラスチック溶解物を得た。ここでプラスチック11は0.3kg/hr、第1触媒13は0.006kg/hr、水添溶剤51は0.7kg/hrで供給した。
【0081】
次に、得られたプラスチック溶解物を配管を通じて第1水素化分解反応器3へ送液した。そして、プラスチック溶解物を第1水素化分解反応器3(内容積:1リットル)にて水素化分解した。ここでの反応温度は450℃、反応圧力は10MPa、滞留時間は1hrとした。尚、第1水素化分解反応器3への水素ガス15の供給は1.5Nm/hrとした。第1水素化分解反応器3における水素消費量はプラスチック11の全質量に対して1.2質量%、炭素数1〜3の炭化水素化合物等のガス化率(プラスチック11の全処理量に対する排ガス21中の炭素数1〜3の炭化水素ガス及びCO、COの発生量の百分率)は3.8質量%であった。
このような処理により0.999kg/hrの第1水素化分解生成物45を得て、これを蒸留装置30へ供給した。
【0082】
次に、得られた第1水素化分解生成物45を蒸留装置30にて蒸留した。蒸留は減圧蒸留とし、220℃以下、220℃超538℃以下、及び538℃超の留分に分留した。各々の留分の生成量は、0.247kg/hr、0.722kg/hr、及び0.03kg/hrであった。220℃以下の留分の生成量は、プラスチック11の全処理量に対して82.2質量%であった。
220℃超538℃以下の留分が中間留分47である。この中間留分47を第2水素化分解反応器4へ供給した。
【0083】
第2水素化分解反応器4は、固定床にNiーMo系触媒を充填した内容積約1リットルの反応器を用いた。ここで反応温度を350℃、反応圧力を10MPa、滞留時間を1時間とした。そして、第2水素化分解生成物50を得た。ここで、第2水素化分解反応器4における水素消費量は、プラスチック11の全質量に対して0.6質量%、炭素数1〜3の炭化水素化合物等のガス化率(プラスチック11の全処理量に対する排ガス21中炭素数1〜3の炭化水素ガス及びCO、COの発生量の百分率)は0.1質量%であった。
このような処理により0.722kg/hrの第2水素化分解生成物50を得て、これを高温分離器32へ供給した。
【0084】
次に、得られた第2水素化分解生成物50を、高温分離器32において220℃で気液分離した。そして、軽質油成分52及び水添溶剤51を得た。軽質油成分52の生成量は0.022kg/hrであり、これはプラスチック11の全質量に対して7.3質量%であった。また、水添溶剤51の生成量は0.7kg/hrであった。この全量を溶剤12として、溶解工程へ循環させた。
【0085】
次に、蒸留装置30から供給された軽質油成分46及び高温分離器32から供給された軽質油成分52を、内容積が1リットルで、ゼオライト系触媒を固定床に使用した環化反応器34で環化反応処理した。ここで反応温度は500℃、圧力は常圧に設定し、約0.5時間処理した。これによりベンゼン類が0.248kg/hr生成した。これはプラスチック11の全質量に対して82.6質量%に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明の構成を模式的に示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の別の構成を模式的に示す概略図である。
【図3】図3は、本発明の別の構成を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0087】
1・・・溶解槽
3・・・第1水素化分解反応器
4・・・第2水素化分解反応器
5・・・遠心分離機
6・・・蒸留塔
11・・・廃プラスチック(プラスチック)
12・・・コールタール(溶剤)
13・・・第1触媒
14・・・塩素固定剤
15・・・水素ガス
21・・・排ガス
22・・・ガス留分
23・・・ベンゼン類留分
24・・・軽質留分(水添タール留分)
25・・・重質留分
26・・・残渣
30・・・蒸留装置
32・・・高温分離器
34・・・環化反応器
38・・・残渣
45・・・第1水素化分解生成物
46・・・軽質油成分
47・・・中間留分
50・・・第2水素化分解生成物
51・・・水添溶剤
52・・・軽質油成分
53・・・ベンゼン類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱して前記プラスチックを溶解し、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、
前記プラスチック溶解物を第1触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解反応を行い、第1水素化分解生成物を得る第1水素化分解工程と、
前記第1水素化分解生成物が含有する塩素を塩素固定手段及び/又は塩素除去手段によって固定及び/又は除去する塩素分固定・除去工程と、
前記塩素分固定・除去工程で得られた塩素を固定及び/又は除去した第1水素化分解生成物を第2触媒の存在下で水素と反応させ、塩素を含まない第2水素化分解生成物を得る第2水素化分解工程と
を具備する、水素化分解生成物の製造方法。
【請求項2】
前記塩素固定手段が、前記第1水素化分解生成物への塩素固定剤の添加である、請求項1に記載の水素化分解生成物の製造方法。
【請求項3】
前記塩素固定剤が炭酸ナトリウムを含有する、請求項2に記載の水素化分解生成物の製造方法。
【請求項4】
前記塩素除去手段が、前記第1水素化分解生成物の蒸留及び/又は遠心分離である、請求項1〜3のいずれかに記載の水素化分解生成物の製造方法。
【請求項5】
前記第1触媒が鉄触媒、前記第2触媒が貴金属系触媒である、請求項1〜4のいずれかに記載の水素化分解生成物の製造方法。
【請求項6】
前記第2水素化分解生成物の少なくとも一部を、前記溶解工程において前記溶剤として用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の水素化分解生成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水素化分解生成物の製造方法によって製造した前記第2水素化分解生成物を、更に環化反応してベンゼン類を得る環化反応工程を具備する、ベンゼン類の製造方法。
【請求項8】
塩素と、ポリスチレンと、溶剤とを含有する混合物を加熱して前記ポリスチレンを溶解し、ポリスチレン溶解物を得る溶解工程と、
前記ポリスチレン溶解物を第1触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解反応を行い、第1水素化分解生成物を得る第1水素化分解工程と、
前記第1水素化分解生成物が含有する塩素を塩素固定手段及び/又は塩素除去手段によって固定及び/又は除去する塩素分固定・除去工程と、
前記塩素分固定・除去工程で得られた塩素を固定及び/又は除去した第1水素化分解生成物を第2触媒の存在下で水素と反応させ、塩素を含まずベンゼン類を含む第2水素化分解生成物を得る第2水素化分解工程と、
前記第2水素化分解生成物からベンゼン類を分離し回収する分離回収工程と
を具備する、ベンゼン類の製造方法。
【請求項9】
塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱して前記プラスチックを溶解し、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、
前記プラスチック溶解物を第1触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解反応を行い、第1水素化分解生成物を得る第1水素化分解工程と、
前記第1水素化分解生成物が含有する塩素を塩素固定手段及び/又は塩素除去手段によって固定及び/又は除去する塩素分固定・除去工程と、
前記塩素分固定・除去工程で得られた塩素を固定及び/又は除去した第1水素化分解生成物を第2触媒の存在下で水素と反応させる第2水素化分解工程と
を具備する、プラスチックの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−332345(P2007−332345A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294307(P2006−294307)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】