説明

永久磁石およびその製造方法

【課題】 NdFe14B系磁石よりも温度特性に優れ、SmFe17ボンド磁石よりも飽和磁化の高い、磁気特性に優れた永久磁石および、その製造方法とそれに用いられる永久磁石材料を提供すること。
【解決手段】 永久磁石は、MnBi粉末とSmFe17−x系磁石粉末(但し、MはMn,Co,Zr,Al,Ga,Ta,Nb,Tiの内から選ばれる、少なくとも一種類以上,x=0〜3,y=1〜4)を含み、前記MnBiの含有量が総重量の8質量%以上、50質量%以下の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石とその製造方法に関し、詳しくは、永久磁石粉末に結合剤を含有させて成形することによって得られる永久磁石とその製造方法とそれに用いられる永久磁石粉末である永久磁石材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、希土類磁石の中で最も生産金額が大きく、最も高特性なのはNdFe14B系磁石であるが、この磁石は熱的に不安定であり、温度の上昇に伴い、磁気特性が劣化するという欠点を持つ。そのため最大使用温度は約150℃程度となり、高温状態になる環境での使用はできない。
【0003】
そのため150℃以上の高温環境では、Co系磁石(SmCo17系磁石、SmCo系磁石、FeCrCo系磁石)やSmFe17系ボンド磁石しか選択肢が無いのが現状である。この中でCo系磁石は磁気特性に劣り高価であり、また、脆性を有するため、欠けや割れなどもおきやすいという欠点を持つ。また、SmFe172〜3は磁気特性は高いが約500℃以上で不均化反応を起こし、SmN+αFeに分解してしまうという欠点がある。そのため一般に焼結体の作製は不可能である。そのため、SmFe17系磁石は、製品としてはボンド磁石のみであり、一般に高価で、焼結体に比べ特性が低いという欠点を持つ。
【0004】
また、特許文献1などでは、希土類磁石粉末にフェライト磁性粉末を混合するハイブリッド磁石について述べられているが、このフェライトを混合するという手法では、飽和磁化が小さく、大きな磁気特性の向上は望めないのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開2003−59706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の技術的課題は、NdFe14B系磁石よりも温度特性に優れ、SmFe17ボンド磁石よりも飽和磁化の高い、磁気特性に優れた永久磁石および、その製造方法とそれに用いられる永久磁石材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、MnBi粉末とSmFe17−x系磁石粉末(但し、MはMn,Co,Zr,Al,Ga,Ta,Nb,Tiの内から選ばれる、少なくとも一種類以上,x=0〜3,y=1〜4)を含み、前記MnBiの含有量が総重量の8質量%以上、50質量%以下の範囲であることを特徴とした永久磁石が得られる。
【0008】
また、本発明によれば、前記永久磁石材料において、前記SmFe17−x系磁石粉末(但し、MはMn,Co,Zr,Al,Ga,Ta,Nb,Tiから選ばれる、少なくとも一種類以上,x=0〜3,y=1〜4)の95質量%以下(0を含まない)を、強磁性体で置換したことを特徴とする永久磁石材料が得られる。
【0009】
また、本発明によれば、前記永久磁石材料において、前記強磁性体は、50質量%以上のFeと、Co、Cr、Ni、V、Mo、Mn、W、Al、Zn、C、Si、B、及びYのうちから選ばれる、少なくとも一種類以上の元素を含む第一の強磁性体、または、Coを50質量%以上含有し、Fe、Cr、Ni、V、Mo、Mn、W、Al、Cu、Zn、Si、C、B、Yから少なくとも一種類以上の元素を含む第二の強磁性体の、少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項2記載の永久磁石材料が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、前記永久磁石材料において、前記強磁性体の形状が粉末であり、その粉末の平均粒径が30nm以上、200μm以下の範囲であることを特徴とする永久磁石材料が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの永久磁石材料において、前記強磁性体の少なくとも一部の形状が細線形状、即ち、ワイヤー形状を有し、その細線の平均線径が20nm以上、50μm以下、長さが5mm以下の範囲であることを特徴とする永久磁石材料が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、前記永久磁石材料において、前記強磁性体は、一部の形状が粉末であり、その粉末の平均粒径が30nm以上、200μm以下の範囲であり、前記強磁性体は、残部の形状が細線形状、即ち、ワイヤー形状を有し、その細線の平均線径が20nm以上、50μm以下、長さが5mm以下の範囲であることを特徴とする永久磁石材料が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記永久磁石材料において、前記強磁性体は、一部の形状が粉末であり、その粉末の平均粒径が30nm以上、200μm以下の範囲であり、前記強磁性体は、残部の形状が細線形状、即ち、ワイヤー形状を有し、その細線の平均線径が20nm以上、50μm以下、長さが5mm以下の範囲であり、前記磁性体の残部は、50質量%以上のFeと、Co、Cr、Ni、V、Mo、Mn、W、Al、Zn、C、Si、B、及びYのうちから選ばれる、少なくとも一種類以上の元素を含む第一の強磁性体、または、Coを50質量%以上含有し、Fe、Cr、Ni、V、Mo、Mn、W、Al、Cu、Zn、Si、C、B、Yから少なくとも一種類以上の元素を含む第二の強磁性体の、少なくともいずれかを含むことを特徴とする永久磁石材料が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの永久磁石材料において、前記SmFe17−x系磁石粉末(但し、MはMn,Co,Zr,Al,Ga,Ta,Nb,Tiの内の一つ、又はいずれか2つ以上,x=0〜3,y=1〜4)の表面に融点が500℃以下の金属被覆層、または酸処理による酸化物層の少なくともいずれかが形成されていることを特徴とする永久磁石材料が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの永久磁石材料の成形体を、真空中または非酸化性雰囲気で500℃以下の温度域で熱処理してなることを特徴とする永久磁石材料が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの永久磁石材料を成形した成形体からなることを特徴とする永久磁石が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの永久磁石材料を成形して成形体を得る工程と、前記成形体を、真空中または非酸化性雰囲気で500℃以下の温度域で熱処理することを特徴とする永久磁石の製造方法が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの永久磁石材料を、真空中または非酸化性雰囲気において500℃以下の温度域で成形して成形体を得る工程を有することを特徴とする永久磁石の製造方法が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの永久磁石の製造方法において、前記成形体を得る工程は、磁場中で行われることを特徴とする永久磁石の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、既存磁石の飽和磁化の高いFe、またはCo、またはFe系合金、Co系合金などの軟磁性合金、または半硬磁性合金をSmFe17系磁石粉末、MnBi系磁石粉末と混ぜ合わせることにより、混合前のSmFe17、MnBi系磁石粉末よりも高飽和磁化を備えた永久磁石およびその製造方法とを提供することができる。
【0021】
また、本発明によれば、SmFe17系磁石粉末の異方性磁界・保磁力が大きいため、これらの軟磁性合金、または半硬磁性合金を混ぜたことによる保磁力の減少も比較的少なく、磁石として用いるのに必要な保磁力は確保できる。この成形体を熱処理することにより、または熱間成形することにより、優れた磁石を得ることができる永久磁石およびその製造方法を提供することができる。
【0022】
また、本発明によれば、投入する強磁性粉末の種類と粒径を選択することにより、またSmFe17系磁石粉末とMnBi系磁石粉末と強磁性合金粉末の比率を調整することにより、飽和磁化と保磁力の大きさを任意に調整でき、製品に必要とされる磁気特性に柔軟に変化させることができる永久磁石およびその製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明について更に詳細に説明する。
【0024】
本発明においては、ワイヤー、または粉末状で、かつ飽和磁化の高いFe、またはCo、またはFe系合金、Co系合金、の強磁性体を、SmFe17系磁石粉末とMnBi系磁石粉末と混ぜ合わせ、その混合粉を磁場中、もしくは無磁場中で圧縮成形、または押し出し成形、または射出成形により成形し、その後、または形成中に熱処理することにより作製を行う。
【0025】
ここで、Fe系合金、Co系合金としては、Fe−Co系合金、Fe−Co−Ni系合金、Fe−Cr−Co系合金(鉄−クロム磁石)、Fe−Cr−Co−Mo−V合金、Fe−Al−Ni−Co−Cu−Nb−Ti合金(アルニコ磁石)、Fe−Co−Y合金、Co−Zn合金、Fe−Si系合金、Fe−Si−Bアモルファス合金、Fe−Co−Zr−Ti−Nb−Si−Gaアモルファス合金などで調査を行ったが、良好な特性を得られた。これらの元素の組み合わせによっても、良好な特性が出ることは容易に推測できる。
【0026】
本発明の永久磁石の構成物質として、上記に書かれている、FeまたはCo、またはFe系合金、またはCo系合金、またはこれらの混合粉(以下、強磁性体と呼ぶ)とSmFe17系合金とMnBiからなり、その構成比率として、上記の強磁性体とSmFe17(X=1〜4)系磁石の2つの重量比の関係を(強磁性体:SmFe17)=(a:b)とすると、0≦a≦95,5≦b≦100,a+b=100の関係式を満たすことを特徴とし、上記の強磁性体平均粒径が20nm〜200μmの粉末、または、平均線径が20nm〜100μm、長さが5mm以下である細線、即ち、ワイヤーである時、すぐれた硬質磁性を示す磁石が得られる。強磁性体の粒径や線径がこれより大きくなると、保磁力・角型等の磁気特性の劣化を起こし、これ以下だと密度が上がらなくなり、飽和磁化、残留磁化等の磁気特性が劣化したり、作製が困難となる。MnBiの組成範囲についても、総重量の8質量%以下だと、成形性が悪くなり、50質量%以上になると、磁気特性が劣り、従来の磁石に比べ優位性がない。
【0027】
よってMnBiの比率は総重量の8質量%〜50質量%の範囲である必要がある。
【0028】
製法としては、プレス、押し出し成形、射出成形を行った後に熱処理する方法と、ホットプレス等の熱間成形で作る方法がある。その際、SmFe17が不均化反応しないように、熱処理、または熱間成形の温度は500℃以下に抑える必要がある。熱処理、または熱間成形を行う際の雰囲気は、酸化を防止するため、真空または、Ar、N、He等の不活性雰囲気、またはHなどの還元雰囲気、または不活性ガスと還元ガスの混合雰囲気などで行う必要がある。
【0029】
また、耐蝕処理に用いる金属被覆も500℃以下で行う必要があるため、その被覆に使う金属の融点は500℃以下であるか、もしくは、熱処理を用いない酸処理等による酸化物層を施す必要がある。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0031】
(実施例1)
MnとBiをそれぞれ48.6g、151.4gを電子天秤で量り取り、それをAr雰囲気中でアーク溶解を行い、MnBiインゴットを得た。そのインゴットを、Ar雰囲気中で300℃×10h熱処理を施した。冷却後、そのインゴットをディスクミルで粉砕し、150μm以下に分級した。
【0032】
実験に用いたFe粉末は、その平均粒径が100nmのFe粉末であり、カルボニルFe溶液を超音波で分解、それを採取・乾燥して作製した。
【0033】
上記の方法で得られたFe粉と住友金属鉱山製のSmFe17粉末を用い、この粉末の比率を(SmFe17粉:Fe粉)=A:(100質量%:0質量%:),B:(95質量%:5質量%:),C:(70質量%:30質量%),D:(40質量%:60質量%),E:(5質量%:95質量%),F:(0質量%:100質量%)で、それぞれ電子天秤を用いて量り取り、さらにこれに総重量の25質量%となるように、上記に示したMnBi粉末を加え、アルゴン雰囲気中・乾式ボールミルを用いて30分間、混合・粉砕した。
【0034】
粉砕・混合したそれぞれの粉末を300℃・Ar雰囲気中・98MPaの条件で熱磁場配向プレスを行った。
【0035】
このプレス体をさらにAr雰囲気中で300℃×10h熱処理を行い、BHトレーサーで磁気測定を行った。その結果を図1と下記表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
図1及び表1に示すように、Brは1.11T〜1.62Tと、大きな値を示した。Fe添加量とともにBrは増加傾向で、Fe量95質量%において、最大値1.62Tを示した。一方、SmFe17を含まない、Fe:100%では、Eの(Fe粉:SmFe17粉)=(5質量%:95質量%)に比べ、Brは減少し、磁気特性はすべての面について劣っており、優位性がないことが明らかになった。
【0038】
iHcはFeの添加量に比例して減少するが、EのFe:SmFe17=95:5の組成でも、Br、iHc、(BH)maxにおいて、一般に市販されているFe−Cr−Co磁石の特性を超えており、より優れた磁気特性を示している。
【0039】
また、Feの含有しないFのSmFeN+MnBiの組成でも、Br=1.11TとSmCo系磁石とほぼ同等の磁気特性値を示し、優れた磁石になることが明らかになった。
【0040】
また、MnBi比を変えて、実験をおこなったところMnBi比が8質量%以下だと、成形性が悪くなり、50質量%以上になると、磁気特性が劣り、従来の磁石に比べ優位性がない。
【0041】
以上の結果より、その構成物質の内、FeとSmFe17(X=1〜4)系磁石の2つの重量比の関係が、(Fe:SmFe17Nx)=(a:b)とすると、0≦a≦95,5≦b≦100,a+b=100の関係式を満たす時、良好な特性が得られることが明らかになった。
【0042】
また、MnBiは総重量の8〜50質量%の範囲にある時に成形性と特性の両立が可能であることが分かった。
【0043】
本実施例においては、Fe粉末を用いたが、Co粉末、またはFe−Co系合金粉末、Fe−Co−Ni系合金粉末、Fe−Cr−Co系合金粉末(鉄−クロム磁石粉末)、Fe−Cr−Co−Mo−V合金粉末、Fe−Al−Ni−Co−Cu−Nb−Ti合金粉末(アルニコ磁石粉末)、Fe−Co−W−C系合金粉末(KS鋼)、Fe−Ni−Al系合金(MK鋼)、Fe−Co−Y合金粉末、Co−Zn合金粉末、Fe−Si系合金粉末、Fe−Si−Bアモルファス合金粉末、Fe−Co−Zr−Ti−Nb−Si−Gaアモルファス合金などの強磁性合金粉末でも、同様に良好な特性を示すのを確認済みである。
【0044】
(実施例2)
実験に用いたFe粉末は、その平均粒径が30nm、1μm、12μm、200μm、500μmのFe粉であり、SmFe17粉末は住友金属鉱山製のものを使用した。
【0045】
Fe粉は1〜200μmについては、市販のものを利用し、30μmのFe粉の作製についてはアルゴン雰囲気中でFe(CO)をジフェニルメタン中に溶解し、超音波で分解。その後、Ar中で600℃×5hr熱処理を行い、粉末を得た。
【0046】
MnBiの作製については、MnとBiをそれぞれ48.6g、151.4gを電子天秤で量り取り、それをAr雰囲気中でアーク溶解を行い、MnBiインゴットを得た。そのインゴットを、Ar雰囲気中で300℃×10h熱処理を施した。そのインゴットをディスクミルで粉砕し、150μm以下に分級した。
【0047】
以上のように得られた、Fe粉とSmFe17とMnBiの比率を(Fe粉:SmFe17粉:MnBi粉)=(45質量%:35質量%:20質量%)の比率で、それぞれ電子天秤を用いて測り取り、アルゴン雰囲気中・V型混合機を用いて1時間混合した。
【0048】
粉砕・混合したそれぞれの粉末をAr雰囲気中・198MPaの条件で磁場配向プレスを行った。このプレス体をさらにAr雰囲気中で300℃で、熱間等方加圧焼結(HIP)を行なった。得られた磁石体をBHトレーサーで磁気測定を行った。
【0049】
図2(a)は磁気特性(Ms,Br,SQ)のFe粒径依存性、図2(b)は磁気特性(iHc,SQ)を夫々示す図である。図2(a)および(b)より、Fe粒径の増大とともにMsは上昇した。粒径が増大するにつれMsが上昇した理由としては、Fe粉末の表面酸化の比率が下がったことと、密度の上昇があげられる。
【0050】
また、Brは粒径の増大とともに減少した。これは、第一象限での磁化の減少が大きいことを示している。
【0051】
また、粒径が大きくなるほど減磁曲線が2段化して行き、角形性の指標であるSQ値(=Br×iHcと第2象限の減磁ループの面積比)も大きく減少した。
【0052】
Feの平均粒径500μmの粉末では、Brが1Tを大きく下回り、SmCo磁石に対しても優位性はなく、またiHcも粒径200μmの時に比べ大きく低下、またヒシテリシス曲線が大きく2段になり、磁石として、優位性を見出せない。
【0053】
以上の結果より、その平均粒径(D50)が30nm〜200μmを添加した場合において、優れた磁石になる可能性があることが明らかになった。
【0054】
また、Fe粒径は、上記の結果を元に、コスト、磁気特性、製品のパーミアンス係数などを考慮し、決定されるべきである。
【0055】
また、FeCo粉末についても粒径依存性の実験を行ったが、ほぼ同様の傾向を示した。
【0056】
(実施例3)
実施例3に用いた強磁性体はCoワイヤー(または針状粉末)とFeワイヤー(または針状粉末のほぼ1:1の混合粉であり、その混合粉の平均線径は20nm、200nm、1μm、50μm、200μm、平均線長は50nm〜2mmであった。20nmと200nmの試料はカルボニルFe、カルボニルCoのガスとArガスの混合気体を熱分解させ、それを永久磁石表面に析出させることで得られた。1〜200μmの試料は、市販品を購入して得た。
【0057】
SmFe17粉末は住友金属鉱山製のものを使用した。
【0058】
MnBiの作製については、MnとBiをそれぞれ48.6g、151.4gを電子天秤で量り取り、それをAr雰囲気中でアーク溶解を行った。そのインゴットを、Ar雰囲気中で300℃×10h熱処理を施した。そのインゴットをディスクミルで粉砕し、150μm以下に分級した。
【0059】
これらのそれぞれのFe/CoワイヤーとSmFe17とMnBiの比率を(Fe/Coワイヤー:SmFe17粉:MnBi粉)=(40質量%:40質量%:20質量%)の比率で、それぞれ電子天秤を用いて測り取り、アルゴン雰囲気中・V型混合機を用いて1時間混合した。粉砕・混合したそれぞれの粉末をAr雰囲気中・198MPaの条件で磁場配向プレスを行った。このプレス体をさらにAr雰囲気中で300℃で、HIPを行なった。得られた磁石をBHトレーサーで磁気測定を行った。
【0060】
図3(a)は磁気特性(Ms,Br,SQ)のFe/Co線径依存性、図3(b)は磁気特性(iHc,SQ)のFe/Co線径依存性を夫々示す図である。図3(a)および(b)より、Fe/Co線径の増大とともにMsは上昇した。線径が増大するにつれMsが上昇した理由としては、Fe/Co線の表面酸化の比率が下がったことと、密度の上昇があげられる。
【0061】
また、BrはFe/Co線径の増大とともに減少した。これは、線径の増大とともに、第一象限での磁化の減少が大きいことを示している。
【0062】
また、Fe/Co線径が大きくなるほど減磁曲線が2段化して行き、角型の指標であるSQ値(=Br×iHcとの第2象限の4πI−Hループの面積比)も大きく減少した。
【0063】
Fe/Co線径200μmのワイヤーでは、Brが1Tを大きく下回り、SmCo磁石に対しても優位性はなく、またiHcもFe/Co線径50μmの時に比べ大きく低下、またヒシテリシス曲線が大きく2段になり、磁石として、優位性を見出せない。
【0064】
以上の結果より、その平均線径(D50)が20nm〜50μmのワイヤーを添加した場合において、優れた磁石になる可能性があることが明らかになった。
【0065】
Fe/Co線径はコスト、磁気特性、製品のパーミアンス係数などを考慮し、決定されるべきだと考えられる。
【0066】
本実施例においては、Fe/Coワイヤーを用いたが、Fe−Co系合金ワイヤー、Fe−Co−Ni系合金針状粉末、Fe−Cr−Co−Mo−V合金針状粉末、Fe−Si−Al(センダスト)系合金扁平粉末、Fe−Si−Bアモルファス合金ワイヤー、Fe−Co−Zr−Ti−Nb−Si−Gaアモルファス合金ワイヤーなどの強磁性合金粉末・ワイヤーについても粒径依存性の実験を行ったが、同様に良好な特性を示すのを確認済みである。
【0067】
また、ワイヤーの平均長さが5mmを超えると、混合時に折れ曲がったり、絡まるなどして配向度が著しく低下するため、磁気特性が大きく劣化し、また形成能も低下することから、ワイヤーの平均長さは5mm以下が適当と考えられる。
【0068】
以上の説明のように、構成物質として、粉末又はワイヤー形状の強磁性体とSmFe17とMnBiからなり、その構成比率として、上記の強磁性体とSmFe17(X=1〜4)系磁石の2つの重量比の関係を(強磁性体:SmFe17)=(a:b)とすると、0≦a≦95,5≦b≦100,a+b=100の関係式を満たすことを特徴とし、上記の軟磁気特性粉末平均粒径が30nm〜200μmの粉末、または、平均線径が20nm〜50μm、長さが5mm以下である細線(ワイヤー)であり、かつ、MnBiの比率が総重量の8質量%〜50質量%の範囲である時、すぐれた硬質磁性を示す磁石が得られる。製法としては、プレス、押し出し成形、射出成形を行った後に熱処理する方法と、ホットプレス、HIP等の熱間成形で作る方法がある。その際、SmFe17が不均化反応しないように、熱処理、またはホットプレスの温度は500℃以下に抑える必要がある。よって、Biの融点近傍の250℃から、不均化反応の起こらない500℃以下で熱処理、または熱間加工をする時、密度・強度に優れた磁石が作製できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の永久磁石とその製造方法と、それに用いる永久磁石粉末は、電気、電子機器の素子用の永久磁石に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施例1による永久磁石の各組成比における4πI−H曲線を示す図である。
【図2】(a)は本発明の実施例2による永久磁石の磁気特性(Ms,Br,SQ)のFe粒径依存性を示す図、(b)は本発明の実施例2による永久磁石の磁気特性(iHc,SQ)のFe粒径依存性を示す図である。
【図3】(a)は本発明の実施例3による永久磁石の磁気特性(Ms,Br,SQ)のFe/Co線径依存性を示す図、(b)は本発明の実施例3による永久磁石の磁気特性(iHc,SQ)のFe/Co線径依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MnBi粉末とSmFe17−x系磁石粉末(但し、MはMn,Co,Zr,Al,Ga,Ta,Nb,Tiの内から選ばれる、少なくとも一種類以上,x=0〜3,y=1〜4)を含み、前記MnBiの含有量が総重量の8質量%以上、50質量%以下の範囲であることを特徴とした永久磁石材料。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁石材料において、前記SmFe17−x系磁石粉末(但し、MはMn,Co,Zr,Al,Ga,Ta,Nb,Tiから選ばれる、少なくとも一種類以上,x=0〜3,y=1〜4)の95質量%以下(0を含まない)を、強磁性体で置換したことを特徴とする永久磁石材料。
【請求項3】
請求項2に記載の永久磁石材料において、前記強磁性体は、50質量%以上のFeと、Co、Cr、Ni、V、Mo、Mn、W、Al、Zn、C、Si、B、及びYのうちから選ばれる、少なくとも一種類以上の元素を含む第一の強磁性体、または、Coを50質量%以上含有し、Fe、Cr、Ni、V、Mo、Mn、W、Al、Cu、Zn、Si、C、B、Yから少なくとも一種類以上の元素を含む第二の強磁性体の、少なくともいずれかを含むことを特徴とする永久磁石材料。
【請求項4】
請求項3に記載の永久磁石材料において、前記強磁性体の形状が粉末であり、その粉末の平均粒径が30nm以上、200μm以下の範囲であることを特徴とする永久磁石材料。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の永久磁石材料において、前記強磁性体の少なくとも一部の形状が細線形状を有し、その細線の平均線径が20nm以上、50μm以下、長さが5mm以下の範囲であることを特徴とする永久磁石材料。
【請求項6】
請求項3に記載の永久磁石材料において、前記強磁性体は、一部の形状が粉末であり、その粉末の平均粒径が30nm以上、200μm以下の範囲であり、前記強磁性体は、残部の形状が細線形状を有し、その細線の平均線径が20nm以上、50μm以下、長さが5mm以下の範囲であることを特徴とする永久磁石材料。
【請求項7】
請求項2に記載の永久磁石材料において、前記強磁性体は、一部の形状が粉末であり、その粉末の平均粒径が30nm以上、200μm以下の範囲であり、前記強磁性体は、残部の形状が細線形状を有し、その細線の平均線径が20nm以上、50μm以下、長さが5mm以下の範囲であり、前記磁性体の残部は、50質量%以上のFeと、Co、Cr、Ni、V、Mo、Mn、W、Al、Zn、C、Si、B、及びYのうちから選ばれる、少なくとも一種類以上の元素を含む第一の強磁性体、または、Coを50質量%以上含有し、Fe、Cr、Ni、V、Mo、Mn、W、Al、Cu、Zn、Si、C、B、Yから少なくとも一種類以上の元素を含む第二の強磁性体の、少なくともいずれかを含むことを特徴とする永久磁石材料。
【請求項8】
請求項1から7の内のいずれか一つに記載の永久磁石材料において、前記SmFe17−x系磁石粉末(但し、MはMn,Co,Zr,Al,Ga,Ta,Nb,Tiの内の一つ、又はいずれか2つ以上,x=0〜3,y=1〜4)の表面に融点が500℃以下の金属被覆層、または酸処理による酸化物層の少なくともいずれかが形成されていることを特徴とする永久磁石材料。
【請求項9】
請求項1から8の内のいずれか一つに記載の永久磁石材料を成形した成形体からなることを特徴とする永久磁石。
【請求項10】
請求項1から8の内のいずれか一つに記載の永久磁石材料を成形した成形体を、真空中または非酸化性雰囲気で500℃以下の温度域で熱処理してなることを特徴とする永久磁石。
【請求項11】
請求項1から8の内のいずれか一つに記載の永久磁石材料を成形して成形体を得る工程と、前記成形体を、真空中または非酸化性雰囲気で500℃以下の温度域で熱処理することを特徴とする永久磁石の製造方法。
【請求項12】
請求項1から8の内のいずれか一つに記載の永久磁石材料を、真空中または非酸化性雰囲気において500℃以下の温度域で成形して成形体を得る工程を有することを特徴とする永久磁石の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の永久磁石の製造方法において、前記成形体を得る工程は、磁場中で行われることを特徴とする永久磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−255436(P2008−255436A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100125(P2007−100125)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】