説明

油圧ショベルの油圧回路

【課題】外部に弁を追加することなく、空中でアーム引き操作を行ってもキャビテーションを防止でき、良好な微操作性を維持し、軽掘削時においても再生効果が得られる。
【解決手段】コントロールバルブからの戻り油をシリンダの供給側に完全再生する再生手段を備えて、シリンダの伸張時、ロッド側からの戻り油はシリンダの1速用コントロールバルブからのみ戻る機構とし、前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧受圧部に作用せしめるパイロット圧を、シリンダに供給される圧油の圧力に応じて減圧する減圧手段を設けたことにより、空中でアーム引き操作を行った場合、コントロールバルブのスプールのストロークを適切に規制し、スプールの戻り通路の開口面積を調節して、キャビテーションを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械の油圧回路に関わり、特に油圧シリンダの再生回路において、全量再生する再生手段を備えると共に、キャビテーションを防止する油圧ショベルの油圧回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の油圧ショベルは、アーム用コントロールバルブにおいて、アーム引きの操作をしたときにロッド側からの戻り油を絞るようにしていた。これはコントロールバルブの戻り通路の開口面積をコントロールバルブのスプールがフルストロークの状態でも小さく抑えて絞っていた。これにより、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作を行ってもキャビテーションをおこし途中で停止することを防止することが出来た。しかし、エンジン回転を高速にして掘削作業をする場合にはこの戻り側の絞りが圧力損失を発生させ、掘削スピードが遅くなると同時に絞りに依る熱発生を起こし、省エネの観点からは改善が望まれていた。
【0003】
これに対して、コントロールバルブの戻り通路の開口面積を大きくしておき、アーム引きの操作をしたときのロッド側からの戻り油を絞るために、アームシリンダとアーム用コントロールバルブの間にパイロット切換弁を設け、これにより、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作を行ってキャビテーションが発生する恐れのあるときのみ、パイロット切換弁を作動させて絞り効果を出し、掘削時には絞りの副作用を防止したものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、アーム引きの操作をしたときのロッド側からの戻り油を絞るために、アームシリンダとアーム用コントロールバルブの間に再生弁と絞り弁を設け、これにより、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、再生弁により油の流量を増やすと同時に、絞り弁により複合操作でアーム引き操作を行ってキャビテーションが発生する恐れのあるときのみ、絞り弁を作動させて絞り効果を出し、掘削時には絞りの副作用を抑えたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−187409号公報
【特許文献2】特開2002−97674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の発明は、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作を行ったときに、キャビテーションをおこし途中で停止することを防止する効果はあった。しかし、余分にパイロット開閉弁を設定する必要があり、コスト的には高くなってしまい不利となった。また、パイロット切換弁を余分に追加した為に、アーム引きの微操作時にアーム用コントロールバルブとパイロット切換弁の2個の制御が作動し、操作性の低下を招く恐れがあった。
【0007】
また、特許文献2記載の発明も、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、複合操作でアーム引き操作を行ったときに、キャビテーションをおこし途中で停止することを防止する狙いであった。しかし、絞りの制御はポンプ吐出流量等、全て演算にて行われ、実際にキャビテーションが起こる可能性のあるシリンダボトム側の圧力で直接に制御されていないので、演算と実際に差異が出る恐れがあった。なお、余分に絞り弁を設定する必要があり、コスト的には高くなってしまう点、絞り弁を余分に追加した為に、アーム引きの微操作時にアーム用コントロールバルブと絞り弁の2個の制御が作動し、操作性の低下を招く恐れがある点は特許文献1記載の発明と同様であった。また、再生弁は、キャビテーションが起こりそうな状況での流量増加には効果を出しているが、軽掘削時等の中圧時には効果が無く、せっかく再生弁を設定しながら十分に活用されていない。
【0008】
そこで、本発明の主な目的は、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作を行ってもキャビテーションをおこし途中で停止することを防止する為に、絞り弁を追加するのでは無く、アーム用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧受圧部に作用せしめるパイロット圧をアームボトム室側に供給される圧油の圧力に応じて減圧する減圧手段を設け、コントロールバルブのスプールのストロークを規制し、戻り通路の開口面積を小さくして、空中または複合操作時のキャビテーションを防止すると共に、良好な操作性を維持し、流量を増加させるために再生時に戻り油を全量再生する再生手段を備えて、軽掘削時においても再生効果を得られる油圧ショベルの油圧回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる油圧ショベルの油圧回路は、ブーム、アーム、バケット及び前記ブームを駆動するブームシリンダ、前記アームを駆動するアームシリンダ、前記バケットを駆動するバケットシリンダを備え、この各シリンダを含む複数の油圧アクチュエータに対応した複数のコントロールバルブが設けられ、前記油圧アクチュエータを制御するコントロールバルブからの戻り油を前記油圧アクチュエータの供給側に再生する再生手段と、前記油圧アクチュエータに供給される圧油の圧力を検出する検出手段と、機械全体をコントロールするコントローラとを備えた油圧ショベルの油圧回路において、シリンダの伸張時、ロッド側からの戻り油はシリンダの1速用コントロールバルブからのみ戻る機構とし、前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧受圧部に作用せしめるパイロット圧を前記油圧アクチュエータに供給される圧油の圧力に応じて減圧する減圧手段を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
また、この発明にかかる油圧ショベルの油圧回路は、上記の発明において、前記減圧手段は、一端を前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロットラインに絞りを設けた後の流路に、他端をタンクに接続された電磁絞弁を備え、前記検出手段は前記油圧アクチュエータに供給される圧油の圧力を電気信号に変換する圧力センサであり、前記圧力センサから電気信号を受けた前記コントローラは、前記圧油の圧力が予め設定された所定値より小さければ電磁絞弁の制御電流を出力し、前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧を減圧することを特徴とするものである。
【0011】
また、この発明にかかる油圧ショベルの油圧回路は、上記の発明において、前記減圧手段は、前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧受圧部とリモコン弁とを連絡する流路に接続された電磁比例減圧弁を備え、前記検出手段は前記油圧アクチュエータに供給される圧油の圧力を電気信号に変換する圧力センサであり、前記圧力センサから電気信号を受けた前記コントローラは、前記圧油の圧力が予め設定された所定値より小さければ電磁比例減圧弁の制御電流を出力し、前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧を減圧することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明にかかる油圧ショベルの油圧回路は、絞り弁を追加し、コストを増加させることなく、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少なく、空中でアーム引き操作がされたときには、アーム用コントロールバルブのアーム引き込み側のパイロット圧受圧部に作用せしめるパイロット圧をアームシリンダに供給される圧油の圧力に応じて減圧することにより、アーム用コントロールバルブのスプールのストロークを規制し、戻り通路の開口面積が小さく抑えられ、戻り油が絞られる。これにより、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作を行ってもキャビテーションをおこし途中で停止することが防止出来る。
【0013】
また、掘削時にはアーム用コントロールバルブのアーム引き込み側のパイロット圧受圧部に作用せしめるパイロット圧を減圧することなく、アーム用コントロールバルブのスプールのストローク規制を解除し、戻り通路の開口面積を大きくさせる。これにより、タンクへ戻る圧油がアーム用コントロールバルブで絞られる圧力損失を減らすことができる。また、絞り弁の追加に依る操作不良の恐れもなくすことができる。
【0014】
さらに、この発明にかかる油圧ショベルの油圧回路は、軽掘削でアーム引き操作がされたときは、再生時で、アームシリンダに供給される圧油の圧力が第1の所定値P1以下であり、アームシリンダのロッド側室からの戻り油の全量が再生通路及びチェック弁を介して供給通路へ合流される。このため、タンクへ戻る圧油が再生弁で絞られて熱に変わる絞りロスは皆無となり省エネ効果が出るのと、このロス分のシリンダ速度の低下も解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】油圧ショベルの概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の油圧回路図である。(実施例1)
【図3】第1の油圧回路図でのコントローラの作用を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2の油圧回路図である。(実施例1の一部変形)
【図5】本発明の第3の油圧回路図である。(実施例2)
【図6】第3の油圧回路図でのコントローラの作用を示すフローチャートである。
【図7】シリンダの再生時と、再生解除時を示す模式図である。
【図8】第1の所定値P1、第2の所定値P2と第3の所定値P3示す説明図である。
【図9】本発明に係るアームスプール開口特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、油圧ショベルの概略構成を示す模式図である。図1において、ショベル1は、下部走行体2と、上部旋回体3と、掘削アタッチメント4とから構成されている。下部走行体2は、左右のクローラを回転駆動する左右の走行用モータ(図示せず)を有している。上部旋回体3は、旋回フレーム、キャビン5などから成っている。旋回フレームには、図2以降に示す、動力源(図示せず)に連結された油圧ポンプ21、22と、上部旋回体3を回転させるための旋回モータ12と、ショベル全体の制御を行うコントローラ63と、複数のコントロールバルブとが設置されている。掘削アタッチメント4は、ブーム6と、伸縮作動してブーム6を起伏させるブームシリンダ9と、アーム7と、アーム7を回動させるアームシリンダ10と、バケット8と、バケット8を回動させるバケットシリンダ11とを具備している。
【0018】
実施例1を図2の本発明の第1の油圧回路図に従って詳述する。油圧ショベルの作業アタッチメントはブーム6の上げ/
下げ、アーム7 の押し(上向き回動)/ 引き(下向き回動)、バケット8の掘削(すくい)/ 戻しの各動作によって掘削、積み込み等の各種作業を行うが、各油圧アクチュエータの作動を制御する各々のコントロールバルブと油圧ポンプとの関係を以下に説明する。
【0019】
第1油圧ポンプ21には旋回用コントロールバルブ31、ブーム2速用コントロールバルブ32、アーム1速用コントロールバルブ33が接続され、第2油圧ポンプ22にはバケット用コントロールバルブ34、ブーム1速用コントロールバルブ35、アーム2速用コントロールバルブ36が接続されている。また各コントロールバルブは、油圧ポンプ21、22に対して、それぞれのセンターバイパス通路を直列に接続するタンデム回路41,42と、それぞれのポンプポート同士を並列に接続するパラレル回路43,44とによって接続されている。
【0020】
また、それぞれのセンターバイパス通路41,42の最下流にはネガコン絞り51,52が夫々設けられていると共に、各ネガコン絞り51,52に生じるネガコン圧は、ネガコン圧回路45,46を介してポンプレギュレータ24,25にフィードバックされている。そして、該ポンプレギュレータ24,25は前記ネガコン圧に基づき傾転角を調整することにより、各油圧ポンプ21,22の吐出量を制御するように構成されている。
【0021】
また、62はアーム用のリモコン弁で、このアーム用リモコン弁62によってアーム用コントロールバルブ33,36が制御される。また、パイロットライン47はアーム引き操作時のパイロットラインである。
【0022】
なお、本発明ではアーム引き時の再生に関する事柄を問題としているため、図の簡略化の観点から、主旨と無関係な他のリモコン弁の図示を省略するとともに、アーム用のリモコン弁62についても、アーム引きのパイロットライン47のみを図示している。また、コントロールバルブについても走行用は省略している。
【0023】
再生弁37はアーム1速用コントロールバルブ33の戻り通路に設置されており、再生時にはタンク54への通路を遮断する働きをする弁であり、電磁方向切換弁38に依って制御される。
【0024】
電磁方向切換弁38は、パイロットポンプ23からパイロット圧油の供給を受け、コントローラからの制御電流を受けて、再生弁37へパイロット圧油を送る。これにより、再生弁37はアーム1速用コントロールバルブ33の戻り通路を遮断する。
【0025】
40は逆止弁であり、アーム1速用コントロールバルブ33と再生弁37を結ぶ戻り流路とポンプ側流路とを連絡する流路上に設けられ、前記戻り流路の圧力が前記ポンプ側流路の圧力よりも高いときに戻り流路からポンプ側流路への圧油の流入を許容する逆止弁である。
【0026】
また、61はアームシリンダのボトム室側圧力Pcを検出する圧力センサで、この圧力センサ61からの圧力信号がコントローラ63に送られ、このコントローラ63から電磁方向切換弁38に再生を制御するための制御電流が送られる。
【0027】
また、64はアーム用リモコン弁62のアーム引きパイロット圧力Ppを検出する圧力センサで、この圧力センサ64からの圧力信号がコントローラ63に送られる。
【0028】
65は絞り、66は電磁絞り弁であり、コントローラ63からの制御電流がなく、電磁絞り弁66が閉じているときはアーム引きパイロット圧力Ppは減圧されることなく、アーム1速用コントロールバルブ33のアーム引き込み側のパイロット圧受圧部に作用する。
【0029】
また、コントローラ63からの制御電流の電流値が増加するに従い、電磁絞り弁66の絞り通路が開き、アーム引きパイロット圧力Ppがその分減圧されて、アーム1速用コントロールバルブ33のアーム引き込み側のパイロット圧受圧部に作用する。
【0030】
図9は本発明に係るアームスプール開口特性を示すグラフであり、縦軸は開口面積、横軸はストロークである。CTはシリンダからタンクへの開口面積のカーブであるが、Q0はエンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作を行ってもキャビテーションを防止できる開口面積である。
【0031】
従来のCTカーブではフルストロークでも開口面積をQ0に抑えてキャビテーションを防止したが、逆に、掘削時には圧力損失を招いてしまった。これに対し、本考案ではエンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作をした場合は、パイロット圧を減圧することにより、ストロークをS1に規制して開口面積をQ0に抑えながら、掘削時には減圧を解除して、本考案のCTカーブから分かる様にフルストロークでは大きな開口面積を確保した。
【0032】
実際の作業条件の中では、エンジン回転数、バケットの中の負荷等により、減圧が異なり、それによりストロークの規制もS1近辺からSf近辺まで変化する。
【0033】
図3は第1の油圧回路図でのコントローラの作用を示すフローチャートであり、図3に基づいて以下に説明する。図3のS1ステップにおいて、アーム引きパイロット圧力Ppが、パイロット圧の所定値Pp1より大きいか判定される。ここにおいてパイロット圧の所定値Pp1はアーム引き操作がなされたかどうかを判定する値であり、大きければアーム引き操作がなされている。
【0034】
S1ステップにおいて、アーム引きパイロット圧力Ppが、パイロット圧の所定値Pp1より大きければS3ステップとなるが、大きくなければS2ステップとなり、S2ステップにおいては、電磁方向切換弁38と電磁絞り弁66への制御電流出力を停止する。
【0035】
図3のS3ステップにおいて、現在、電磁方向切換弁38に制御電流は出力されているかどうか判定する。出力していればS7ステップへ、出力していなければS4ステップとなる。S4ステップにおいて、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第2の所定値P2より小さいか判定され、小さければS6ステップとなるが、小さくなければS5ステップとなり、S5ステップにおいては、電磁絞り弁66への制御電流出力を停止する。
【0036】
図3のS6ステップにおいては、電磁方向切換弁38が作動すべく電磁方向切換弁38への制御電流が出力されて、S7ステップとなる。S7ステップにおいて、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第3の所定値P3より小さいか判定され、小さくなければS9ステップとなるが、小さければS8ステップとなり、S8ステップにおいては、電磁絞り弁66への制御電流の電流値を△Iだけ増加する。ここにおいて、第3の所定値P3はアーム引き操作がなされたときに、少し余裕を持ったキャビテーションを起こさない圧力である。
【0037】
図3のS9ステップにおいて、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第3の所定値P3に等しいか判定され、等しくなければS11ステップとなるが、等しければS10ステップとなり、S10ステップにおいては、電磁絞り弁66への制御電流の電流値を維持する。
【0038】
図3のS11ステップにおいては、電磁絞り弁66への制御電流の電流値を△Iだけ減少して、次のS12ステップとなる。S12ステップにおいては、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第1の所定値P1より大きいか判定され、大きくなければ最初に戻り、大きければS13ステップとなる。S13ステップにおいては、電磁方向切換弁38の作動を止めるべく電磁方向切換弁38への制御電流出力を停止する。
【0039】
なお、前記第2の所定値は前記第1の所定値よりも大幅に小さく、概略、アームシリンダの内径を直径とする円の面積に対するロッド径を直径とする円の面積の比を前記第1の所定値に乗算した値、またはもう少し小さいことを特徴とするものであるが、図7、図8にて以下に説明する。
【0040】
図7はシリンダの再生時と、再生解除時を示す模式図である。A)再生時はアームシリンダの負荷が軽い場合で、水平引き込み掘削や、軽掘削がそれに相当する。この場合にはロッド側の通路は逆止弁を介してポンプ吐出側につながり、理論値として通路等の通過抵抗を無視すれば、この場合のシリンダ推力を発生させる受圧面積A1はロッド径D1を直径とする円である。
【0041】
図7のB)再生解除時はアームシリンダの負荷が重い場合で、重掘削がそれに相当する。この場合にはロッド側の通路はタンクにつながり、理論値として通路等の通過抵抗を無視すれば、この場合のシリンダ推力を発生させる受圧面積A2はシリンダ内径D2を直径とする円である。
【0042】
図7のA)再生時と、B)再生解除時に、シリンダ推力を発生させる受圧面積A1、A2の比は例えば1:2である。この場合、シリンダにかかる負荷が同じであれば、A)再生時に比して、B)再生解除時はシリンダのボトム室側圧力Pcは半分となる。また、ポンプ吐出量が同じであれば、A)再生時に比して、B)再生解除時はシリンダのスピードも半分となる。
【0043】
図8は第1の所定値P1、第2の所定値P2と第3の所定値P3示す説明図である。上段は(A)再生ありの状態で、シリンダのボトム室側圧力Pcが第1の所定値P1より大きいと再生が解除されることを示している。また、下段は(B)再生無し(再生解除)の状態で、シリンダのボトム室側圧力Pcが第2の所定値P2より小さいと再生が開始されることを示している。
【0044】
上記の如き構成において、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作を行った場合と、アームシリンダの負荷が軽掘削の様に比較的軽い場合と、重掘削の如く重い場合において、キャビテーション防止作用はアームシリンダの再生状態と併せて以下の如くとなる。
【0045】
エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作が行われると、図3のS1ステップにおいて、アーム引きパイロット圧力Ppが、パイロット圧の所定値Pp1より大きいかどうか判定される。アーム引き操作ではPpはPp1より大きいので、S3ステップとなる。
【0046】
つぎに、図3のS3ステップで電磁方向切換弁38に制御電流が出力されているか判定され、出力されていなければS4ステップでアームシリンダのボトム室側圧力Pcが第2の所定値P2より小さいか判定される。空中でのアーム引き操作ではPcはP2より小さいので、S6ステップに進み、電磁方向切換弁38に制御電流を出力する。
【0047】
図2において、電磁方向切換弁38は、パイロットポンプ23からパイロット圧油の供給を受け、コントローラからの制御電流を受けて、再生弁37へパイロット圧油を送る。これにより、再生弁37はアーム1速用コントロールバルブ33の戻り通路を遮断する。
【0048】
再生弁37により遮断された戻り油は、全量逆止弁40を経由してアーム1速用コントロールバルブ33のポンプ側へ供給される。
【0049】
上記の如く、図3のS6ステップにおける制御電流の出力により再生状態になって、図3のS7ステップとなる。S7ステップにおいて、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第3の所定値P3より小さいか判定され、小さければS8ステップとなり、S8ステップにおいては、電磁絞り弁66への制御電流の電流値を△Iだけ増加する。
【0050】
電磁絞り弁66への制御電流の電流値を△Iだけ増加すると、電磁絞り弁66の絞り通路が大きくなり、アーム引きパイロット圧力Ppの減圧がその分進んだパイロット圧が、アーム1速用コントロールバルブ33のアーム引き込み側のパイロット圧受圧部に作用する。これによりアーム用コントロールバルブのスプールのストローク規制が進み、戻り通路の開口面積が小さくなり、戻り油がその分絞られる。
【0051】
S8ステップを経て、S1ステップに戻り、S1ステップでは前と同様にYesで、S3ステップとなり、S3ステップでは今度はYesでS7ステップとなる。ここで、先のS8ステップで戻り油が、電流値△I増加の分だけ絞られているので、アームシリンダのボトム室側圧力Pcはその分だけ高くなっている。
【0052】
このS7ステップで、まだPcがP3より小さければ、前と同じことを繰り返すことになる。何回か繰り返してPcがP3より小さくなくなれば、S9ステップとなる。S9ステップにおいて、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第3の所定値P3に等しいか判定され、等しければS10ステップとなり、S10ステップにおいては、電磁絞り弁66への制御電流の電流値を維持する。
【0053】
アームの空中の位置によってシリンダを伸ばそうとする負荷が減って、それにより逆にPcがP3より大きくなると、図3のS11ステップとなり、S11ステップにおいては、電磁絞り弁66への制御電流の電流値を△Iだけ減少して、その分減圧を緩め、次のS12ステップとなる。
【0054】
図3のS12ステップにおいては、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第1の所定値P1より大きいか判定され、空中でのアーム引き操作では大きくないので最初に戻る。
【0055】
以上により、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作を行った場合、コントロールバルブのスプールのストロークを適切に規制し、戻り通路の開口面積を調節して、キャビテーションを防止できる。また、本考案は絞り弁の追加費用を抑えて、空中または複合操作時のキャビテーションを防止すると共に、良好な操作性を維持できる。
【0056】
つぎに、アームシリンダの負荷が軽掘削の様に比較的軽い場合、掘削に於いて、アーム引き操作が行われると、図3のS1ステップにおいて、アーム引きパイロット圧力Ppが、パイロット圧の所定値Pp1より大きいかどうか判定される。アーム引き操作ではPpはPp1より大きいので、S3ステップとなる。
【0057】
つぎに、図3のS3ステップで電磁方向切換弁38に制御電流が出力されているか判定され、出力されていなければS4ステップでアームシリンダのボトム室側圧力Pcが第2の所定値P2より小さいか判定される。軽掘削でのアーム引き操作ではPcはP2より小さいので、S6ステップに進み、電磁方向切換弁38に制御電流を出力する。
【0058】
図2において、電磁方向切換弁38は、パイロットポンプ23からパイロット圧油の供給を受け、コントローラからの制御電流を受けて、再生弁37へパイロット圧油を送る。これにより、再生弁37はアーム1速用コントロールバルブ33の戻り通路を遮断する。
【0059】
再生弁37により遮断された戻り油は、全量逆止弁40を経由してアーム1速用コントロールバルブ33のポンプ側へ供給される。
【0060】
上記の如く、図3のS6ステップにおける制御電流の出力により再生状態になって、図3のS7ステップとなる。S7ステップにおいて、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第3の所定値P3より小さいか判定され、軽掘削では小さくないので、S9ステップ、更にS11ステップとなる。
【0061】
図3のS11ステップにおいては、電磁絞り弁66への制御電流の電流値を△Iだけ減少することとなるが、電流値の初期値は0であり減圧はされないので、コントロールバルブのスプールのストローク規制はなされない。つぎのS12ステップにおいては、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第1の所定値P1より大きいか判定され、軽掘削でのアーム引き操作では大きくないので最初に戻る。
【0062】
以上により、アームシリンダの負荷が軽掘削の様に比較的軽い場合、アーム引き操作が行われると、キャビテーション防止のためのコントロールバルブのスプールのストローク規制を完全に解除して、戻り油の絞りの圧力損失を削減できる。また、本考案は流量を増加させるために再生時に戻り油を全量再生する再生手段を備えており、軽掘削時にスピードの速い作業が可能である。
【0063】
つぎに、アームシリンダに依る重掘削が行われると、図3のS1ステップにおいて、アーム引きパイロット圧力Ppが、パイロット圧の所定値Pp1より大きいか判定される。重掘削ではPpはPp1より大きいので、S3ステップとなる。
【0064】
つぎに、図3のS3ステップで電磁方向切換弁38に制御電流が出力されているか判定され、出力されていなければS4ステップでアームシリンダのボトム室側圧力Pcが第2の所定値P2より小さいか判定される。重掘削ではPcはP2より小さくないので、S5ステップを経てS1ステップに戻り、電磁方向切換弁38に制御電流が出力されないままとなる。
【0065】
なお、制御電流が出力されないと、電磁方向切換弁38は作動せず、再生弁37へのパイロット圧油を送らない。これにより再生弁37も作動せず、アーム1速用コントロールバルブ33の戻り通路は遮断されなくて全開となる。
【0066】
なお、図3のS3ステップで電磁方向切換弁38に制御電流が出力されているか判定され、出力されていた場合はS7ステップとなるが、S9ステップ、S11ステップを経て、最終的にS12ステップでアームシリンダのボトム室側圧力Pcが第1の所定値P1より大きいか判定される。重掘削ではPcはP1より大きいので、S13ステップとなる。
【0067】
図3のS13ステップにおいては、電磁方向切換弁38の作動を止めるべく電磁方向切換弁38への制御電流出力を停止する。S13ステップから戻ってS1、S3ステップとなるが、制御電流は出力されていないのでS4ステップとなり、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが第2の所定値P2より小さいか判定される。重掘削ではPcはP2より小さくないので、S5を経て、S1ステップに戻り、出力されないままとなる。これにより、タンクへ戻る圧油が再生弁で少しも絞られることなく、また再生手段のハンチングに依る操作不良も防止できる。
【0068】
以上より、アームシリンダに依る重掘削が行われた場合、キャビテーション防止のためのコントロールバルブのスプールのストローク規制を完全に解除して、戻り油の絞りの圧力損失を削減できる。なお、本考案は絞り弁の追加費用を抑えて、良好な操作性を維持できる。
【0069】
図4は本発明の第2の油圧回路図であるが、実施例1を次の如く一部変形したものである。即ち、パイロット圧の減圧手段として、図2の絞り65と電磁絞り弁66の代わりに図4の電磁比例減圧弁67を設けたものである。他は全て同じであるので詳細説明は省略する。
【実施例2】
【0070】
実施例2は、実施例1のパイロット圧力センサ64の代りにパイロット方向切換弁39を追加して、パイロット方向切換弁39により、アーム引き操作時のみ作動が可能としたものである。図5は本発明の実施例2に係る本発明の第3の油圧回路図であり、図5中、図2に示した部材と同等のものには同じ符号を付している。
【0071】
図5において、39はパイロット方向切換弁であり、アーム引き操作がされると、アーム引きパイロットライン47からのパイロット圧を受けて、パイロットポンプ23からのパイロット圧油を電磁方向切換弁38に供給する。
【0072】
電磁方向切換弁38は、コントローラからの制御電流を受けて、再生弁37へパイロット圧油を送る。これにより、再生弁37はアーム1速用コントロールバルブ33の戻り通路を遮断する。
【0073】
図6は第3の油圧回路図でのコントローラの作用を示すフローチャートであり、図6に従って、実施例1と異なるところを以下に説明する。主な差異は図3のS1ステップが削除されたことである。
【0074】
図6のS21ステップにおいて、現在、電磁方向切換弁38に制御電流は出力されているかどうか判定する。出力していればS25ステップへ、出力していなければS22ステップとなる。S22ステップにおいて、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第2の所定値P2より小さいか判定され、小さければS24ステップとなるが、小さくなければS23ステップとなり、S23ステップにおいては、電磁比例減圧弁67への制御電流出力を停止する。
【0075】
図6のS24ステップにおいては、電磁方向切換弁38が作動すべく電磁方向切換弁38への制御電流が出力されて、S25ステップとなる。S25ステップにおいて、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第3の所定値P3より小さいか判定され、小さくなければS27ステップとなるが、小さければS26ステップとなり、S26ステップにおいては、電磁比例減圧弁67への制御電流の電流値を△Iだけ増加する。ここにおいて、第3の所定値P3はアーム引き操作がなされたときに、少し余裕を持ったキャビテーションを起こさない圧力である。
【0076】
図6のS27ステップにおいて、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第3の所定値P3に等しいか判定され、等しくなければS29ステップとなるが、等しければS28ステップとなり、S28ステップにおいては、電磁比例減圧弁67への制御電流の電流値を維持する。
【0077】
図6のS29ステップにおいては、電磁比例減圧弁67への制御電流の電流値を△Iだけ減少して、次のS30ステップとなる。S30ステップにおいては、アームシリンダのボトム室側圧力Pcが、第1の所定値P1より大きいか判定され、大きくなければ最初に戻り、大きければS31ステップとなる。S31ステップにおいては、電磁方向切換弁38の作動を止めるべく電磁方向切換弁38への制御電流出力を停止する。
【0078】
上記の如き構成において、エンジン回転が低速でポンプ吐出流量が少ない中で、空中でアーム引き操作を行った場合と、アームシリンダの負荷が軽掘削の様に比較的軽い場合と、重掘削の如く重い場合において、キャビテーション防止作用はアームシリンダの再生状態と併せて、実施例1と同様の働きとなる。
【0079】
以上より、空中でアーム引き操作を行った場合、絞り弁を追加することなく、コントロールバルブのスプールのストロークを適切に規制し、戻り通路の開口面積を調節して、キャビテーションを防止しながら、微操作に於ける良好な操作性を維持できる。また、掘削時にはコントロールバルブのスプールのストローク規制を完全に解除して、戻り油の絞りの圧力損失を削減できる。更に、本考案は流量を増加させるために再生時に戻り油を全量再生する再生手段を備えており、軽掘削時にスピードの速い作業を可能とする。
【符号の説明】
【0080】
1 ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 掘削アタッチメント
5 キャビン
6 ブーム
7 アーム
8 バケット
9 ブームシリンダ
10 アームシリンダ
11 バケットシリンダ
12 旋回モータ
21 第1油圧ポンプ
22 第2油圧ポンプ
23 パイロットポンプ
24、25 ポンプレギュレータ
31 旋回用コントロールバルブ
32 ブーム2速用コントロールバルブ
33 アーム1速用コントロールバルブ
34 バケット用コントロールバルブ
35 ブーム1速用コントロールバルブ
36 アーム2速用コントロールバルブ
37 再生弁
38 電磁方向切換弁
39 パイロット方向切換弁
40 逆止弁
41、41 タンデム回路
43、44 パラレル回路
45、46 ネガコン圧回路
47 アーム引きパイロットライン
51、52 ネガコン絞り
53、54 絞り
61 圧力センサ
62 アーム用リモコン弁
63 コントローラ
64 パイロット圧力センサ
65 絞り
66 電磁絞り弁
67 電磁比例減圧弁








【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブーム、アーム、バケット及び前記ブームを駆動するブームシリンダ、前記アームを駆動するアームシリンダ、前記バケットを駆動するバケットシリンダを備え、この各シリンダを含む複数の油圧アクチュエータに対応した複数のコントロールバルブが設けられ、前記油圧アクチュエータを制御するコントロールバルブからの戻り油を前記油圧アクチュエータの供給側に再生する再生手段と、前記油圧アクチュエータに供給される圧油の圧力を検出する検出手段と、機械全体をコントロールするコントローラとを備えた油圧ショベルの油圧回路において、シリンダの伸張時、ロッド側からの戻り油はシリンダの1速用コントロールバルブからのみ戻る機構とし、前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧受圧部に作用せしめるパイロット圧を前記油圧アクチュエータに供給される圧油の圧力に応じて減圧する減圧手段を設けたことを特徴とする油圧ショベルの油圧回路。
【請求項2】
前記減圧手段は、一端を前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロットラインに絞り設けた後の流路に、他端をタンクに接続された電磁絞弁を備え、前記検出手段は前記油圧アクチュエータに供給される圧油の圧力を電気信号に変換する圧力センサであり、前記圧力センサから電気信号を受けた前記コントローラは、前記圧油の圧力が予め設定された所定値より小さければ電磁絞弁の制御電流を出力し、前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧を減圧することを特徴とする請求項1記載の油圧ショベルの油圧回路。
【請求項3】
前記減圧手段は、前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧受圧部とリモコン弁とを連絡する流路に接続された電磁比例減圧弁を備え、前記検出手段は前記油圧アクチュエータに供給される圧油の圧力を電気信号に変換する圧力センサであり、前記圧力センサから電気信号を受けた前記コントローラは、前記圧油の圧力が予め設定された所定値より小さければ電磁比例減圧弁の制御電流を出力し、前記1速用コントロールバルブのシリンダ伸張側のパイロット圧を減圧することを特徴とする請求項1記載の油圧ショベルの油圧回路。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−36665(P2012−36665A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179091(P2010−179091)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(709006552)
【Fターム(参考)】