説明

油圧バルブ用の制御特性曲線を学習する方法

【課題】
電気制御される1つ以上のアナログ式油圧バルブ設備を補正する本発明の方法及びコンピュータプログラムは、制御される車両ブレーキシステム内に精確な制御特性曲線を備える。このため、少なくとも1つ又は個々の制御特性曲線が、制御装置の作動中にプリセットされる。このプリセットされた制御特性曲線は、車両の運転中に、特にアンチロック制御の操作中に学習方法を使用して補正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の油圧バルブ用の制御特性曲線を学習する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特にアンチロック機能(ABS)を有する電子制御可能な車両ブレーキでは、制御の向上した特性が絶え間なく益々要求される。これによって、安全性が改善されるほかに、制御の快適さも向上できる。確かにこのことは、大抵は経費がかかり、その結果コストのかかる油圧設備を必要とする。これらの油圧設備は、追加の要素(圧力センサ,制御バルブ,切替オリフィス等)を備え付ける必要がある。
【0003】
アンチロック制御時の制御サイクルの基本原理が、ヨーロッパ特許出願公開第0 876 270 号明細書に記されている。ここに記されている方法によれば、先行するブレーキ圧力上昇フェーズ中のブレーキ圧力上昇の勾配が、実際のブレーキ圧力上昇フェーズ中の制御過程の間のブレーキ圧力上昇を制御するために考慮される。
【0004】
異なる圧力勾配を提供して快適さを向上させるため、機械的な勾配切替部(切替オリフィス)を設けることがさらに公知である。しかしながらこのことは、コストの観点から欠点を招く。
【特許文献1】ヨーロッパ特許出願公開第 0 876 270号明細書
【特許文献2】ドイツ連邦共和国特許出願公開第197 37 779号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アナログ式に作動する電気制御可能な油圧バルブは柔軟に使用され得るので、これらの油圧バルブは、切替オリフィスに比べて改良されている。アナログ式に使用可能な油圧バルブを提供するため、バルブコイルの磁場及び希望の圧力勾配を形成するタペット位置(Stoesselposition)をコイル電流によって可能な限り精確に決定することがいろいろ試みられている。この場合、このタペット位置は、特に実際の圧力比及びバルブに固有の製造許容誤差に直接敏感に依存する。本発明の目的は、アナログ式に操作可能なバルブの制御時の精度を向上させることにある。その結果、希望の圧力勾配が、決定されたコイル電流によって再現可能に調整され得る。製造許容誤差によって引き起こされる不精確に加えて、バルブの領域内に配置された圧力センサからの直接のフィードバックがコストの理由から得られない場合、差圧制御の制度をアナログ制御時に同様に十分高くする必要があるという問題がさらにある。上述した製造技術上の許容誤差によって引き起こされるバルブ電流とタペット位置との間の偏差を排除するためには、構成されたブレーキシステム内のバルブを製造した後の個々のバルブ特性の経費のかかる測定が、一般にバルブの補正に対して必要である。このため、確かに、製造された各ブレーキ制御装置を試験台に接続する必要がある。このことは、希望しない大きい影響を製造コストに及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この説明した問題は、本発明により、請求項1に記載の補正方法によって解決される。
【0007】
本発明の方法によれば、1つの制御特性曲線が、ブレーキ装置の作動の間、すなわち車両の走行の間に最初にプリセットされる。このプリセットされている制御特性曲線は、例えば工場で記憶されているか又はブレーキ制御装置の起動時に追加の補正ルーチンによって独立して設定される。このとき、この制御特性曲線は、電子ブレーキ制御過程の間(例えば、ABS制御ESP制御の間)に新たに計算又は補正される。学習方法が、補正に対して実施される。この学習方法の場合、制御特性曲線が新たに計算されるか、又は、好ましくは補正値が設定される。プリセットされている制御特性曲線が、これらの補正値によって補正される。
【0008】
ASR,GMB,ESP,EBV等のようなその他の制御によって拡張もできる公知のアンチブレーキ制御で本発明の方法を好適に使用する場合、最初に少なくとも1つの車輪シリンダ内の圧力が、車輪の高速回転時に公知の方法で対応する油圧バルブを用いて低下される。いわゆる圧力上昇フェーズが、ABS制御の間にこの圧力低下フェーズに続く。この圧力上昇フェーズの場合、適切な数及び期間を有する多数の圧力上昇パルスが生成される。この過程は、繰り返し連続して進行する(制御サイクル)。
実際の個々の車輪シリンダ圧力pz 及び該当する車輪が不安定になる(ロッキングブレーキレベル)車輪シリンダ圧力pz i は、車輪に固有の圧力センサなしの装置では直接算出され得ない。デジタル式バルブを有する設備でこれらの値を算定する方法が、公知であってヨーロッパ特許出願公開第0 876 270 号明細書(P 8598)及びドイツ連邦共和国特許出願公開第197 37 779号明細書中に詳しく記されている。これらの方法の場合、圧力上昇時間を計算する学習方法が実施される。この場合、平均の圧力上昇勾配が、連続する圧力上昇パルスから得られる。
【0009】
この場合、公知のブレーキ装置とは反対に、1つの一定の圧力上昇勾配が、少なくともそれぞれの運転状況でプリセットされる。その都度制御すべきバルブが特定の圧力上昇勾配で開かれ得る時の電流は、特に算出する必要のある変数である。このとき、バルブに対する勾配が、係数によってこの開口電流から設定され得る。この場合、圧力上昇時間が、ほぼ一定にプリセットされ得る。
【0010】
主に対応する制御サイクルの全圧力差が、圧力上昇に必要な個々のパルスの間の個々の制御間隔の間に生じる圧力上昇の和から得られる。この圧力上昇フェーズの対応する圧力上昇時間又は個々の間隔の圧力要求が、全圧力上昇Pに応じた全圧力上昇時間Tist を各制御サイクルに対する和で示す。この全圧力上昇時間Tist は、ABSアルゴリズムが進行する制御装置内で各圧力上昇フェーズに対して車輪ごとに測定することができる。
【0011】
学習方法は、好ましくはアンチブロック制御の多数のサイクル(学習サイクル)にわたって及ぶ。この場合、プリセットされている特性曲線が、各サイクル又は適切な各サイクル中に帰納式にしたがって実際のサイクルから算出されたパラメータを用いて補正される。本発明の方法によれば、油圧バルブG=f(I,Δp)又は各バルブに対するf′(Δp,G)に対する制御特性曲線が、好ましくは個別に直接又は間接に算出される。この場合、Iは、バルブの制御に使用される電磁コイルに流れる電流である。Gは、バルブが引き起こす圧力勾配である。Δpは、バルブのまだ閉鎖時のこのバルブにかかる圧力差である。開けられたバルブの圧力差が変化するので、関数f又はf′によって算出された値は、専ら近似値を示す。
【0012】
好適な実施形によれば、アンチブロック制御の場合、例えば実験で算出された一定の、例えば約300 bar/s の圧力上昇勾配が、少なくともまさにその時に存在する運転状況で(摩擦係数に依存しうるか)又は全ての運転状況でもプリセットされる。この場合、圧力上昇勾配が、特定の一定なバルブ電流を調整することによって与えられる。次いで、本発明の学習方法を実施するため、制御が、この圧力上昇勾配によって実施される。次いで、ここで説明したこの方法は、存在する補正された特性曲線又は習得された補正値を用いてこれらのプリセットされている圧力上昇勾配に対して最適な個々のバルブ電流を算出する。
【0013】
上述したように、特に好ましくは、プリセットされている圧力上昇勾配が、算出された運転状況に応じて道路の摩擦係数の状況に適合されることが提唱され得る。この場合、プリセットされている一定の圧力上昇勾配及びバルブ電流が、確かに少なくとも現在の制御の終了まで一定に保持される。
【0014】
この方法によれば、補正値kが、特に式

n =1−(1−KFil,n-1 )*√(Tist,n /Tsoll,n

にしたがって生成される。
この場合、
Fil,n-1 =((KFil,n-2 *(n−2))+kn )/(n+1),
nは、学習された値kの数である。Tist,n は、実際に実施された圧力上昇の加算された上昇時間である。Tsoll,nは、希望する圧力差と目標勾配とから計算された目標圧力上昇時間である。この点で、圧力差が、先行する圧力低下から算出されている。
【0015】
好ましくは値Qが、補正値の算出時に一緒に算入される。この値Qは、先行する圧力低下の圧力低下の差ΔPAbbau と実際に上昇した圧力の圧力上昇の差ΔPAufbauとの間の除算である:

Q=APAufbau/APAbbau

この値Qは、好ましくは補正値kと乗算される:

n =kn-1 *Q.

こうして、一般に数パーセントの範囲内にある特性曲線の補正が得られる。
【0016】
補正値kを算出するその他の別の好適な可能性は、絶対補正が、式

n =kn-1 +Q*i

にしたがって実施される点にある。この場合、パラメータiは、値Qに応じて重み付けされる増幅率を示す。この場合、上で定義した値kFil,n-1 の計算が省略できる。
【0017】
好ましくは、先行する制御サイクルが、補正を必要とする時にだけ、補正係数kが計算される。例えば、上昇パルスの数が予測に一致しない時に、補正が必要である。
【0018】
学習方法は、好ましくは各車輪に対して個別に実施される。習得された値は、目的に合わせて点火サイクル(Zuendungslauf) を過ぎて記憶されるか又は各制御に対して新たに計算される。考慮される制御サイクルの数を記憶するカウンタnが、実際の点火サイクルに応じて又は点火サイクルに関係なく出力値に戻される(リセット)。パラメータn
が、目的に合わせて各点火サイクルの開始に対してリセットされる。こうして、制御特性曲線の希望する精度が、より短い時間内に得られる。
【0019】
一サイクルのkI の実際の値が、習得された値に比べて5%未満だけ変化した時に、この学習方法は、特に完了したとみなされる。
全圧力上昇時間Tsollが、任意の方法で多数のパルスに分割され得る。この場合、パルス数に関する最適値が、ブレーキシステムの電気特性及び油圧特性に依存する。このパルス数に対する好ましい範囲は、約3〜4である。本発明の特に好適な実施形では、学習方法の完了後に、制御を改良するため、予測される圧力差に相当する電流が低減される。これによって、I及びΔpに応じた圧力上昇勾配Gの基準値(Vorgabe) が得られる。 本発明のもう1つの好適な実施形では、上述の方法によって補正される一定にプリセットされている制御特性曲線自体が、別の方法で電子制御装置によって例えば最初の動作時に自動的に算出される。特に開口電流特性曲線I=G(Δp)が、第2のさらなる補正方法の間に確定される。この開口電流特性曲線I=G(Δp)は、上で算出した補正係数に結合して本発明による補正された制御特性曲線を導く。
【0020】
以下に、本発明を図1中の実施の形態に基づいてさらに説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1中には、電気制御可能な油圧バルブに対する制御特性曲線G 1が示されている。X軸は、バルブがまだ閉ざされている時のこのバルブに対する圧力差を示す。バルブのコイル電流が、Y軸に沿ってプロットされている。このコイル電流は、特定の圧力差を調整するために必要になる。曲線1は、生成すべき開口電流IOpenに相当する。この開口電流IOpenの場合、バルブが開いている。この場合、この補正すべき制御曲線は、出発点として学習方法の基礎になる。全てのバルブ構造に適している平均的な変化を曲線1に対して確定し、この曲線を装置の制御部の記憶装置内に永久に記憶することが重要である。点2は、ここで観察したブレーキ装置内の1つのバルブの測定値である。点4は、同じブレーキ装置の別のバルブの測定値に相当する。このバルブは、製造許容誤差の理由からここで観察したバルブと異なる開口電流−圧力曲線に関する特性を有する。
【0022】
最初に300 bar/s の「一定の」圧力上昇勾配Gfestがプリセットされる。ブレーキ装置の電子制御部では、上述したように、曲線IOpen=G(Δp)が、各バルブに対する記憶装置内に個々に記憶されている。これらの曲線IOpen=G(Δp)は、該当するバルブが開く時の電流を示す。この最初に記憶された値IOpenは、バルブの製造による許容誤差をまだ完全に考慮していない。したがってこの曲線は、例示した方法によって補正する必要がある。このため、目標圧力上昇時間が、式Tsoll=Δp/GfestにしたがうABSによってプリセットされている圧力差Δpから最初に算出される。0.8 の値が、補正係数k1 に対する開始値としてプリセットされる。ISoll=IOpen*k1 の目標電流が、最初の制御サイクルに対して得られる(図1中の点3)。補正値kに対するその都度の実際の値は、以下の式にしたがって生成される:

n =1−(1−kFil,n-1 )*√(Tist,n /Tsoll,n).

この場合、
Fil,n-1 =((kFil,n-2 *(n−2))+kn )/(n−1).

この場合、nは、習得された値kの数である。Tist は、実際に実施された圧力上昇の加算された上昇時間である。Tsollは、(先行する圧力低下から算出された)希望の圧力差と目標勾配とから計算された目標圧力上昇時間である。
【0023】
このことは、先行する圧力上昇勾配と実施の圧力上昇勾配との間の偏差が油圧バルブの制御特性曲線を帰納的に最適にするために利用され得ることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】電気制御可能な油圧バルブに対する制御特性曲線G 1を示す。
【符号の説明】
【0025】
1 曲線
2 点
3 点
4 点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に制御されるアナログ式に作動可能な1つ又は多数の油圧バルブを補正する方法において、最初に1つの又はそれぞれの制御特性曲線が、ブレーキ装置、特にアンチロック制御部の作動中にプリセットされ、次いでこのプリセットされている制御特性曲線が、学習方法で補正され、この場合、特に補正のため、存在する制御特性曲線を補正する新規の制御特性曲線又は補正値が算出されることを特徴とする方法。
【請求項2】
学習方法は、数nによるアンチロック制御の多数のサイクルを過ぎて実施され、プリセットされている特性曲線が、各サイクル又は適した各サイクル内に帰納的な式にしたがう実際のサイクルから算出されたパラメータによって補正される(学習サイクル)ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
車輪制御の間に必要な圧力上昇時間又は圧力要求が、補正のために加算され、補正された特性曲線又は補正値が、存在する加算された特性曲線又は圧力要求にその都度基づいて計算されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
補正値、特に補正係数kが、バルブに対する学習方法によって生成され、この補正値/この補正係数kは、補正された制御特性曲線を生成するためにプリセットされているバルブの制御特性曲線と結合/乗算されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
プリセットされている制御特性曲線は、基礎となるブレーキ装置内で最初の学習サイクル前に向上側で固定に(例えば、ROMに)又は消去可能に(例えば、RAM,EEPROM等に)記憶されているか又は第2のさらなる補正方法にしたがって算出されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
補正値kは、式

n =1−(1−kFil,n-1 )*√(Tist,n /Tsoll,n).

にしたがって生成され、
この場合、
Fil,n-1 =((kFil,n-2 *(n−2))+kn )/(n−1).

この場合、nは、習得された値kの数である。Tist は、実際に実施された圧力上昇の加算された上昇時間である。Tsollは、希望の圧力差と目標勾配とから計算された目標圧力上昇時間であり、この圧力差は、先行する圧力低下から算出されることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
ブレーキ装置に対して最適とみなされた値が、学習方法の間に圧力上昇勾配に対してプリセットされ、この値は、算出された補正値又は算出された補正制御特性曲線によって少なくとも実際の制御時にこの制御の完了まで変更されないことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
アンチブロック制御のプリセットされている圧力上昇勾配は、特定の運転状況に対して算出された補正値又は算出された補正制御特性曲線を使用していろいろに調整され、この場合、新たにプリセットされる勾配に対する学習方法が、新たにプリセットされる勾配に対して個別に実施されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
演算装置に接続しているコンピュータプログラム製品が、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法を実施するために適することを特徴とするコンピュータプログラム製品。

【図1】
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【公表番号】特表2007−511393(P2007−511393A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530194(P2006−530194)
【出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【国際出願番号】PCT/EP2004/050801
【国際公開番号】WO2004/101339
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】