説明

油圧変速機制御装置

【課題】油圧変速機を備えるトラクタなどの作業車両が転倒した場合に、運転者が操作レバーを操作できない状況であっても、作業車両の駆動輪の回転を停止させること。
【解決手段】危険信号検出センサからの出力信号(危険信号)に基づき、異常が発生していると判断された場合に(S160:Y)、HSTが中立状態ではないと判定されたときには、制御回路が、モータを制御して、トラニオン軸をニュートラル位置とし、HSTを中立状態に切り替える(S170)。このことにより、例えば万が一作業車両が転倒した場合などの異常発生時に、作業車両の駆動輪に動力が伝達しないようにすることができる。したがって、作業車両が転倒した場合などの異常発生時において、運転者が操作レバーを操作できない状況であっても、作業車両の動きを止めるために作業車両の駆動輪の回転を停止させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧変速機を備える作業車両が転倒した場合に、運転者が操作レバーを操作できない状況であっても作業車両の駆動輪の回転を停止させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農作業に用いられる農業用トラクタ(以下、トラクタ)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
このようなトラクタの中には、ギア式の前後進切替機構とギア式の変速装置を備え、ハンドル下方に備えるいわゆるシャトル式前後進切替レバーにて前後進切替機構を操作するとともに、操縦席側方に備える変速レバーにて変速装置を操作するよう構成されたトラクタがある。このように、ギア式変速装置を備え、前後進切替レバーと変速レバーにて車速を操作する農業用トラクタは、主に前後進を繰り返す高負荷作業、例えばローダ作業等に利用される。
【0003】
また、上述のトラクタの中には、変速装置を油圧変速機(HST)にて構成し、単一の操作レバー(いわゆるHSTレバー)にて車両の前後進と車速とを制御するよう構成されたトラクタがある。このように、変速装置としてHSTを備えるトラクタでは、主に細かな車速調整が要望される芝刈作業などに利用される。そして、トラクタを運転する運転者が、トラクタの操作レバーを操作することでHSTをニュートラルから前進または後進に変更され、エンジンの駆動力をHSTを介して駆動輪に伝達してトラクタを前進または後進させる。
【特許文献1】特開2007−64394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のようなHSTを備えるトラクタにおいては、例えば走行中のトラクタが万が一転倒した場合には、トラクタを停止させた方が好ましい状況であるにも拘らず、運転者が自らの身体を守る必要性から操作レバーを操作することに意識を向けることができなくなり、トラクタを停止させるために操作レバーの位置を前進または後進からニュートラルに移動させることが困難となるという問題があった。なお、走行中のトラクタが転倒した場合、そのトラクタの駆動輪は回転し続けることとなり、仮に駆動輪の何れかが接地している場合には、その接地する駆動輪を中心としてトラクタが予想不能な方向に動き回って好ましくない。
【0005】
本発明は、このような不具合に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、油圧変速機を備えるトラクタなどの作業車両が万が一転倒した場合に、運転者が操作レバーを操作できない状況であっても、作業車両の動きを止めるために作業車両の駆動輪の回転を停止させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る油圧変速機制御装置は、トラニオン軸に連動する操作レバーの位置に応じて中立状態、前進状態または後進状態の何れかに切り替わり、中立状態である場合には駆動源の駆動力を駆動輪に伝達せず、前進状態である場合には前記駆動源の駆動力を順方向に伝達することで前記駆動輪を前進方向に回転させ、後進状態位置である場合には前記駆動源の駆動力を逆方向に伝達することで前記駆動輪を後進方向に回転させる油圧変速機を搭載する作業車両に異常が発生したことを示す異常発生信号を受信可能な異常発生信号受信手段と、前記油圧変速機が中立状態、前進状態または後進状態の何れの状態にあるかを検出する状態検出手段と、前記油圧変速機を中立状態、前進状態または後進状態の何れかの状態にあることを許容する移動許容状態と前記油圧変速機を中立状態としてそれ以外の状態への移行を許容しない移動不許容状態との間で切り替え可能なクラッチ機構と、前記クラッチ機構を移動許容状態と移動不許容状態との間で切り替え可能な状態切替手段と、前記異常発生信号受信手段が異常発生信号を受信した際に、前記油圧変速機が中立状態ではないと前記状態検出手段によって検出された場合には、前記状態切替手段を制御して前記クラッチ機構を移動許容状態から移動不許容状態へ切り替えることで前記油圧変速機を中立状態に切り替える制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このように構成された本発明の油圧変速機制御装置によれば、クラッチ機構が、油圧変速機を中立状態、前進状態または後進状態の何れかの状態にあることを許容する「移動許容状態」と油圧変速機を中立状態としてそれ以外の状態への移行を許容しない「移動不許容状態」との間で切り替え可能であり、油圧変速機を搭載する作業車両に異常が発生したことを示す異常発生信号を異常発生信号受信手段が受信した際に、油圧変速機が中立状態ではないと状態検出手段によって検出された場合には、制御手段が、状態切替手段を制御してクラッチ機構を移動許容状態から移動不許容状態へ切り替えることで油圧変速機を中立状態に切り替える。なお、「作業車両に異常が発生する場合」とは、作業車両が転倒した場合など作業車両が通常の走行を続行できなくなった場合を云う。また、「油圧変速機が中立状態ではない場合」とは、操作レバーの位置が、前進状態に対応する前進位置、後進状態に対応する後進位置、中立状態に対応する中立位置と前進位置との中間、または中立位置と後進位置との中間の何れかに位置する場合を示す。このことにより、例えば作業車両が転倒した場合などの異常発生時に、作業車両の駆動輪に動力が伝達しないようにすることができる。したがって、作業車両が転倒した場合などの異常発生時において、運転者が操作レバーを操作できない状況であっても、作業車両の動きを止めるために作業車両の駆動輪の回転を停止させることができる。
【0008】
ところで、上述のように状態切替手段がトラニオン軸を回転させるためには、状態切替手段とトラニオン軸とを連動させる必要があるが、このように状態切替手段とトラニオン軸とを連動させると、トラニオン軸と連動する操作レバーを操作する際に状態切替手段が負荷となり、操作レバーを操作するための操作力が大きくなる。
【0009】
そこで、次のようなクラッチ機構を備えることが考えられる。すなわち、請求項2のように、クラッチ機構は、状態切替手段と連動して移動可能な第一連動部材とトラニオン軸と連動して中立状態に対応する中立位置、前進状態に対応する前進位置または後進状態に対応する後進位置の間で移動可能な第二連動部材とを有し、第二連動部材は被当接部を有するとともに第一連動部材は第二連動部材の被当接部に当接可能な当接部を有し、第一連動部材は、当接部が被当接部に当接せずに第二連動部材が前進位置、後進位置または中立位置の何れかに位置することを許容する「移動許容位置」と、当接部が被当接部に当接することで第二連動部材を中立位置としてそれ以外への移動を許容しない「移動不許容位置」との間で移動可能である。そして、制御手段が、油圧変速機を中立状態に変更させる場合には、状態切替手段を制御して、クラッチ機構の第一連結部材を移動許容位置から移動不許容位置へ移動させることでクラッチ機構の第二連動部材を中立位置とするとともにクラッチ機構を移動許容状態から移動不許容状態へ切り替える。
【0010】
このように構成すれば、クラッチ機構の第一連結部材が移動許容位置にある場合には、第二連動部材が前進位置、後進位置または中立位置の何れかに位置することを許容し、第二連動部材の位置に関わらず第一連結部材の位置は変わらずに一定であるため、第二連動部材に連結する操作レバーによる操作力を、第一連結部材と連結する状態切替手段には伝達しない。一方、クラッチ機構の第一連結部材が移動不許容位置にある場合には、第二連動部材を中立位置としてそれ以外への移動を許容しない。このことにより、状態切替手段を、異常が発生していないときには作動させず、異常発生信号取得手段が異常発生信号を取得した異常発生時にのみ作動させることができ、したがって、装置全体を小型化することができる。
【0011】
この場合、請求項3のように、制御手段が、状態切替手段を制御して第一連結部材の位置を移動許容位置から移動不許容位置へ移動させることで第二連動部材を中立位置へ移動させ、その後第一連結部材を移動許容位置へ移動させることで第二連動部材を中立位置から移動可能な状態とすることが考えられる。このように構成すれば、第二連動部材がどの位置にあっても、第二連動部材を確実に中立位置に移動させることができる。
【0012】
なお、上述の第一連動部材および第二連動部材については同軸上で回転可能に構成することが考えられる。具体的には、請求項4のように、第一連動部材と第二連動部材とが同軸上で回転可能であり、当接部が第二連動部材に伴って回転する被当接部の軌跡上に位置されていることが考えられる。このように構成すれば、第一連動部材および第二連動部材が直線上を移動するよう構成する場合に比べて、クラッチ機構をさらに小型化することできる。
【0013】
ところで、例えば作業車両が転倒した場合には、運転席の傍に配置される操作レバーを操作することが困難である場合がある。そこで、請求項5のように、作業者による操作力をクラッチ機構の第二連動部材に伝達することにより、第二連動部材を中立位置、前進位置または後進位置の間で変更させる手動操作手段を備えることが考えられる。このように構成すれば、運転者が操作レバーを操作できない状況であっても、操作レバーとは別に設定された手動操作手段を運転者やその他の人が操作可能であれば、手動操作手段を操作することで第二連動部材を中立位置に変更し、油圧変速機を中立状態に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。なお、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、様々な態様にて実施することが可能である。
[第一実施形態]
図1は、農業用トラクタなどの作業車両に搭載される油圧変速機(HST)およびHSTのポジションを制御する油圧変速機制御装置の概略構成図である。また、図2は油圧変速機制御装置の概略構成図である。
【0015】
農業用トラクタなどの作業車両(図示省略)は、車体のボンネット内にエンジン(図示省略)を搭載し、そのエンジンの出力軸には油圧変速機(以下HST)1が取り付けられている。このHST1は、図1に示すように、作業車両のエンジンから出力された回転動力が入力されると、図示しない操作レバーに連結されるトラニオン軸3の操作角度に応じてその回転動力を左右の前輪(図示省略)と左右の後輪(図示省略)へ伝達する。すなわち、HST1は、操作レバーの位置が中立位置である場合にはエンジンの回転動力を左右の前輪および左右の後輪に伝達しない中立状態となり、操作レバーの位置が前進位置である場合にはエンジンの回転動力を順方向に伝達することで左右の前輪および左右の後輪を前進方向に回転させる前進状態となり、操作レバーの位置が後進位置である場合にはエンジンの回転動力を逆方向に伝達することで左右の前輪および左右の後輪を後進方向に回転させる後進状態となる。
【0016】
なお、HST1のその他の構成については公知技術に従っているのでその詳細な説明は省略する。また、トラニオン軸3の構成についても公知技術に従っているのでその詳細な説明は省略する。
【0017】
[油圧変速機制御装置10の構成の説明]
油圧変速機制御装置10は、ブラケット20と、クラッチユニット30と、モータ40と、リミットスイッチ51、ポテンションメータ52および制御回路53からなる制御系50と、を備え、HST1を制御してエンジンの回転動力の伝達機能を制御する機能を有する。以下順に説明する。
【0018】
[ブラケット20の構成の説明]
次に、ブラケット20の構成を説明する。なお、図3(a)はブラケット20の平面図であり、図3(b)はブラケット20の側面図(1)であり、図3(c)はブラケットの側面図(2)である。
【0019】
図3(a)に示すように、ブラケット20は鉄などの鋼板からなる金属製であり、略長方形の板状のブラケット本体21と、ブラケット本体21の長手方向の端部の一方から延出する板状の壁部22と、ブラケット本体21の長手方向と直交する方向の端部の一方から延出する略長方形の板状の壁部23とから構成されている。
【0020】
このうち壁部22は、ブラケット本体21の長手方向の端部の一方から延出する板状の部分を、ブラケット本体21のクラッチユニット30が取り付けられる側(図2の手前側)へ向けて略垂直に折り曲げることで形成されている。
【0021】
また、壁部23は、ブラケット本体21の長手方向と直交する方向の端部のうち、壁部22を手前側としてブラケット本体21の長手方向を見た場合の左側の端部から延出する略長方形の板状の部分を、壁部22と同じくブラケット本体21のクラッチユニット30が取り付けられる側へ向けて略垂直に折り曲げることで形成されている。なお、壁部23の壁部22に面する端部からは略方形の板状の取付部23aが延出しており、この取付部23aは壁部22に溶接によって接合されている。
【0022】
なお、壁部22のブラケット本体21からの高さ寸法については、壁部23に近い部分22aの高さ寸法が、壁部23の高さ寸法とほぼ同一に設定されており(図3(b)参照)、壁部23から遠い部分22bの高さ寸法が、壁部23に近い部分22aの高さ寸法よりも大きく設定されている(図3(c)参照)。
【0023】
また、壁部22には、後述するクラッチユニット30の手動操作レバー33が内挿されて水平方向に回動するための長孔22cが、ブラケット本体21のクラッチユニット30が取り付けられる面21aに沿って細長く形成されている(図3(b)参照)。また、壁部22のうち壁部23から遠い部分22bには、ブラケット20をHST1に取り付けるための取付孔22dが形成されている。なお、取付孔22dは、油圧変速機制御装置10をHST1に取り付けるために、後述するクラッチユニット30が備えるクラッチ軸A32の貫通孔32cの上端側貫通孔32dにトラニオン軸3の先端部を挿入した際に、HST1の上部に形成された取付孔(図示省略)と連通するように設定されている。したがって、油圧変速機制御装置10は、このブラケット20の取付孔22dを貫通させたボルトを、HST1の上部に形成された取付孔(図示省略)に取り付けることにより、HST1に取り付けられる。
【0024】
また、ブラケット本体21には、ポテンションメータ52の一端が挿入される貫通孔21bが形成されている。この貫通孔21bは、ブラケット本体21の中央部よりも長手方向に沿って一方に寄った位置に配置され、且つその中心がブラケット本体21の長手方向の中心線上に位置するよう形成されている。
【0025】
また、ブラケット本体21の中央部には、後述するギア35のレバー35bがその内部に位置して回動するための開口部21cが形成されている。この開口部21cは、貫通孔21bの中心を同じく中心とする円弧状に形成され、ブラケット本体21の長手方向の中心線に対して左右対称となり、且つその両端開口線(B)がブラケット本体21の長手方向の中心線(A)とそれぞれ45度の角度をなすように形成されている。また、開口部21cの外周縁側には、後述するモータ40の出力歯車41がその内部に位置して回転するための略半円形の開口部21dが開口部21cに連続して形成されている。この開口部21dは、その円弧中心がブラケット本体21の長手方向の中心線(A)上に位置するよう形成されている。
【0026】
また、ブラケット本体21には、クラッチユニット30のクラッチケース31をブラケット20に取り付けるための四つの取付孔21eが形成されている。これら四つの取付孔21eは、ブラケット本体21の長手方向の中心線(A)の両側に二つずつ配置され、各取付孔21eの中心が貫通孔21bの同心円上にそれぞれ配置され、且つ貫通孔21bの中心と各取付孔21eの中心とを結ぶ線分(C)それぞれがブラケット本体21の長手方向の中心線(A)に直交する線分(D)に対して30度の角度をなすよう形成されている。
【0027】
また、ブラケット本体21には、ポテンションメータ52を取り付けるための二つの取付孔21fが形成されている。これら二つの取付孔21fは、貫通孔21b近傍に配置され、その中心が、貫通孔21bの中心に対する同心円とブラケット本体21の長手方向の中心線(A)に直交する線分(D)との二つの交点上に位置するよう形成されている。
【0028】
また、ブラケット本体21には、モータ40をブラケット20に取り付けるための三つの取付孔21gが形成されている。具体的には、三つの取付孔21gは、ブラケット20に取り付けられたクラッチユニット30のギア35の歯車35dとその出力歯車41が噛み合うモータ40の三つの取付孔(図示省略)に連通する位置に設定されている。そして、ブラケット本体21には、切り欠き21hが形成されている。この切り欠き21hは、ブラケット本体21に取り付けられたモータ40の外形に沿って形成されている。なお、三つの取付孔21gのうちの二つは、ブラケット本体21の切り欠き21hの両端近傍に形成され、一方、残り一つは、ブラケット本体21の壁部23近傍に形成されている。
【0029】
このように形成されたブラケット20の一方の面(図2の手前側)における長手方向の一方の貫通孔21b側の端部付近には、後述するクラッチユニット30が取り付けられ、ブラケット20の他方の面における長手方向の他方の取付孔21g側の端部にはモータ40が取り付けられている。また、ブラケット20の他方の面(図2の裏側)における長手方向の一方の貫通孔21b側の端部付近には、ポテンションメータ52が取り付けられている。
【0030】
[クラッチユニット30の構成の説明]
次に、クラッチユニット30の構成を説明する。
図2に示すように、クラッチユニット30は、クラッチケース31と、クラッチ軸A32と、手動操作レバー33と、クラッチ軸B34と、ギア35と、軸受A36と、二つの軸受けB37と、備えている。なお、図4はクラッチケース31の構成図であり、図5はクラッチ軸A32の構成図であり、図6はクラッチ軸B34、ギア35、および手動操作レバー33の構成図である。以下順に説明する。
【0031】
[クラッチケース31の構成の説明]
図4(d)に示すように、クラッチケース31は鉄などの金属製であり、その一方が開口する略円柱形の筒形状に形成されている。つまり、クラッチケース31の円筒軸方向の一端には開口部31aが形成されている。また、クラッチケース31の底部31bの中央部には、挿通孔31cが形成されている。
【0032】
また、クラッチケース31の側面における開口部31a付近には、クラッチケース31内に収納されて周方向に回動する手動操作レバー33のレバー本体33bを挿通可能な切り欠き31dが形成されている。また、クラッチケース31側面の切り欠き31dと対向する部分には、クラッチケース31内に収納されて周方向に回動するギア35のレバー35bを挿通可能な切り欠き31eが形成されている。
【0033】
また、クラッチケース31の切り欠き31dと切り欠き31eとに挟まれた部分の縁部からは、円弧状の鍔部31fが径方向へ向けてそれぞれ延出している。これら二つの鍔部31fはそれぞれ、鍔部31fを等分に分割する線分(E)と、切り欠き31dの空間部の中心と切り欠き31eの空間部の中心とを結ぶ線分(F)とが直交し、且つ鍔部31fを等分に分割する線分(E)と鍔部31fの両端線(G)とが45度の角度をなすように形成されている。また、二つの鍔部31fには、クラッチユニット30をブラケット20へ取り付けるための取付孔31gがそれぞれに二つずつ形成されている。これら四つの取付孔31gは、二つの鍔部31fそれぞれを等分に分割する線分の両側に二つずつ配置され、その中心が挿通孔31cの中心に対する同心円上に配置され、且つクラッチケース31の軸心と各取付孔31gの中心とを結ぶ線分が二つの鍔部31fそれぞれを等分に分割する線分(H)に対して30度の角度をなし、クラッチユニット30がブラケット20に取り付ける際には、四つの取付孔31gがブラケット20の四つの取付孔21eとそれぞれ連通するよう形成されている。
【0034】
[手動操作レバー33の構成の説明]
図6(e)および図6(f)に示すように、手動操作レバー33は、金属材料によって構成され、円板状の取付部33aと、取付部33aから径方向に延出する細長い板状のレバー本体33bと、から構成されている。なお、レバー本体33bの先端部は円弧状に形成されている。この取付部33aの中央部には、その厚み方向に貫通する貫通孔33cが形成されている。なお、取付部33aの貫通孔33cの内径寸法は、クラッチ軸A32の軸部32aの外径寸法よりも若干大きく設定されている。
【0035】
また、取付部33aには、手動操作レバー33をクラッチ軸A32に取り付けるための二つの取付孔33dが形成されている。これら二つの取付孔33dは、その中心が貫通孔33cの同心円上に配置され、これら二つの取付孔33dの中心同士を結ぶ線分(I)上に貫通孔33cの中心が位置し、且つこれら二つの取付孔33dの中心同士を結ぶ線分(I)とレバー本体33bの長手方向に沿う中心線(J)とが直交するよう設定されている。なお、これら二つの取付孔33dには、手動操作レバー33がクラッチ軸A32に取り付けられる際にクラッチ軸A32と当接する面とは反対側の面から座繰(ざぐり)がそれぞれ形成されている。
【0036】
また、レバー本体33bの端部には、その厚み方向に貫通する貫通孔33eが形成されている。
[クラッチ軸A32の構成の説明]
図5に示すように、クラッチ軸A32は金属材料によって構成され、円筒形状に形成された軸部32aと、軸部32aの中央部から径方向に円盤状に延出する円盤部32bとから構成される。また、このクラッチ軸A32の軸部32aには、その軸中心方向に貫通する三種の形状からなる貫通孔32cが形成されている。なお、以下の説明では、軸部32aの一端側を上端側とし、他端側を下端側とする(図5(b)参照)。
【0037】
具体的には、貫通孔32cは、上端側の上端側貫通孔32d、中央部の中央貫通孔32e、下端側の下端側貫通孔32fから構成される。このうち、貫通孔32cの上端側貫通孔32dは、対向する一組の平面(二面巾)がクラッチ軸A32の軸方向に沿って形成されている。また、貫通孔32cの中央貫通孔32eは、その内径寸法が上端側貫通孔32dの内径寸法よりも小さく形成され、且つ一つの平面がクラッチ軸A32の軸方向に沿って形成されている。なお、上端側貫通孔32dの平面と中央貫通孔32eの平面とは、互いに平行に形成されている。また、貫通孔32cの下端側貫通孔32fは、その内径寸法が貫通孔32cの上端側貫通孔32dの内径寸法よりも大きく形成されている。
【0038】
また、円盤部32bの外縁からは、二つの突起部32gが下端側へ向けて延出するよう形成されている。これら二つの突起部32gは、軸部32aの中心軸(K)をその中心とする円弧状に形成され、突起部32gを等分に分割する線分(L)と突起部32gの両端面の線分(M)とが45度の角度をなすように形成されている(図5(c)参照)。なお、突起部32gは特許請求の範囲における被当接部に該当する。
【0039】
また、円盤部32bには、二つの取付孔32hが形成されている。これら二つの取付孔32hは、その中心が軸部32aの中心軸(K)と同心円上に配置されている。また、二つの取付孔32hは、軸部32aの中心軸(K)と直交する平面上での二つの取付孔32hの中心点同士を結ぶ線分(L)上に軸部32aの中心軸(K)が通り、同線分(L)と貫通孔32cの下端側貫通孔32fの端末面とが互いに平行となり、且つ同線分(L)と二つの突起部32gの円弧面の中心線(L)とが一致するよう設定されている。
【0040】
なお、クラッチ軸A32における円盤部32bの根元から上端部側の長さ寸法(Y)は、手動操作レバー33の厚み寸法と軸受けB37の高さ寸法とを合計した寸法と同じに設定されている。また、円盤部32bの外径寸法は、クラッチケース31の内径寸法よりも小さく形成されている。
【0041】
[クラッチ軸B34の構成の説明]
図6(a)および図6(b)に示すように、クラッチ軸B34は円板状に形成された金属材料によって構成されている。このクラッチ軸B34の中央部には、その厚み方向に貫通する貫通孔34aが形成されている。
【0042】
また、クラッチ軸B34の外縁からは、二つの突起部34bが径方向へ延出するよう形成されている。これら二つの突起部34bは、貫通孔34aの中心をその中心とする円弧状に形成され、突起部34bを等分に分割する線分(N)と突起部34bの両端面の線分(O)とが30度の角度をなすように形成されている。なお、突起部34bは特許請求の範囲における当接部に該当する。
【0043】
また、クラッチ軸B34には、二つの取付孔34cが形成されている。これら二つの取付孔34cは、その中心が貫通孔34aの中心線(P)と同心円上に配置されている。また、二つの取付孔34cは、貫通孔34aの中心線(P)と直交する平面上での二つの取付孔34cの中心点同士を結ぶ線分(N)上に貫通孔34aの中心点が位置し、且つ同線分(N)と突起部34bを等分に分割する線分(N)とが一致するよう設定されている。
【0044】
なお、クラッチ軸B34の貫通孔34aの内径寸法はクラッチ軸A32の軸部32aの下端側の外径寸法よりも大きく設定されている。また、クラッチ軸B34の突起部34bを含めた外径寸法は、クラッチ軸A32の円盤部32bの外径寸法とほぼ等しく設定されている。また、クラッチ軸B34の突起部34bを除いた部分の外径寸法は、クラッチ軸A32の突起部32gの内縁側の内径寸法よりも若干小さく形成されている。
【0045】
[ギア35の構成の説明]
図6(c)および図6(d)に示すように、ギア35は、金属材料によって構成され、円板状の取付部35aと、取付部35aから径方向に延出する板状のレバー35bと、から構成されている。なお、取付部35aの外径寸法は、クラッチ軸B34の突起部34bを含めた外径寸法とほぼ等しく設定されている。この取付部35aの中心部には、その厚み方向に貫通する貫通孔35cが形成されている。なお、取付部35aの貫通孔35cの内径寸法は、クラッチ軸B34の貫通孔34aの内径寸法とほぼ等しく設定されている。
【0046】
また、レバー35bは、貫通孔35cの中心をその中心とする円弧状面で形成されるとともに、レバー35bを等分に分割する線分(Q)とレバー35bの両端面の線分(R)とが25度の角度をなすように形成されている。また、レバー35bは、その先端部の延出方向が取付部35aの上面と平行となるようにその中央部から先端側が板厚方向へクランク状に折れ曲がっている。また、レバー35bの先端には、モータ40の出力歯車41と噛み合う歯車35dが形成されている。
【0047】
また、取付部35aには、二つの取付孔35eが形成されている。これら二つの取付孔35eは、その中心が貫通孔35cの中心に対する同心円上に配置されている。また、二つの取付孔35eは、取付部35aの平面上での二つの取付孔35eの中心点同士を結ぶ線分(Q)上に貫通孔35cの中心が位置し、且つ同線分(Q)とレバー35bを等分に分割する線分(Q)とが一致するよう設定されている。なお、これら二つの取付孔35eには、ギア35がクラッチ軸B34に取り付けられる際にクラッチ軸B34と当接する面とは反対側の面から座繰(ざぐり)がそれぞれ形成されている。
【0048】
なお、クラッチユニット30はクラッチ機構に該当する。また、クラッチ軸B34は第一連動部材に該当する。クラッチ軸A32は第二連動部材に該当する。また、手動操作レバー33は手動操作手段に該当する。
【0049】
[クラッチケース31への構成部品の組み付け手順の説明]
次に、クラッチケース31への構成部品の組み付け手順を説明する。
まず、クラッチ軸A32の上端部に手動操作レバー33を取り付ける。具体的には、クラッチ軸A32の上端部を手動操作レバー33の貫通孔33cに挿入し、手動操作レバー33の二つの取付孔33dそれぞれを座繰(ざぐり)のある側から挿通した二つのビス(図示省略)を、クラッチ軸A32の二つの取付孔32hにそれぞれ取り付ける。続いて、上述のように手動操作レバー33が取り付けられた状態のクラッチ軸A32の上端部を、クラッチケース31の底部31bの挿通孔31cに、フランジを有する円筒形状の軸受けB37を介して挿入させる。このことにより、クラッチ軸A32が、軸受けB37を介してクラッチケース31に対して回転可能となる。このとき、手動操作レバー33のレバー本体33bが、クラッチケース31の切り欠き31dに挿通された状態となる。
【0050】
さらに、クラッチ軸B34の下面にギア35を取り付ける。具体的には、ギア35の取付部35aの二つの取付孔35eそれぞれを座繰(ざぐり)のある側から挿通した二つのビスを、クラッチ軸B34の二つの取付孔34cにそれぞれ取り付ける。続いて、上述のようにギア35が取り付けられた状態のクラッチ軸B34を、クラッチ軸A32の下端部に円筒形状の軸受けA36を介して外挿させる。このとき、クラッチ軸A32の円盤部32bから延出する二つの突起部32gとクラッチ軸B34の径方向に延出する二つの突起部34bとが、クラッチ軸A32の中心軸に直交する平面内に共に位置する。このことにより、クラッチ軸B34は、その突起部34bがクラッチ軸A32の突起部32gに当接するまで、軸受けA36を介してクラッチ軸A32に対して回転可能となる。また、ギア35のレバー35bは切り欠き31eに挿通された状態となる。
【0051】
そして、上述のようにクラッチ軸A32などを内包した状態のクラッチケース31を、ブラケット20のブラケット本体21に取り付ける。具体的には、クラッチケース31の二つの鍔部31fに形成された四つの取付孔31gにそれぞれ挿通させた四つのビスを、ブラケット20のブラケット本体21に形成された四つの取付孔21eにそれぞれ取り付ける。このとき、クラッチ軸A32の下端部を、ブラケット本体21の貫通孔21bに軸受けB37を介して挿入させる。このことにより、クラッチ軸A32が、軸受けB37を介してブラケット本体21に対して回転可能となる。また、ギア35の歯車35dが、ブラケット本体21の開口部21cの内部に位置する。
【0052】
[モータ40の構成の説明]
モータ40は、ブラケット20のブラケット本体21に取り付けられている。具体的には、モータ40に形成された三つの取付孔(図示省略)にそれぞれ挿通した三つのビスを、ブラケット本体21に形成された三つの取付孔21gにそれぞれ取り付ける。このとき、モータ40の出力軸に連結された出力歯車41が、ブラケット本体21の開口部21dの内部に位置し、ブラケット本体21の開口部21cの内部に位置するギア35の歯車35dと噛み合う。このことにより、モータ40の出力歯車41が回転することにより、ギア35の歯車35dを介してクラッチ軸A32を回転させることができる。
【0053】
なお、モータ40は状態切替手段に該当する。
[油圧変速機制御装置10をHST1に取り付ける手順の説明]
次に、油圧変速機制御装置10をHST1に取り付ける手順を説明する。まず、クラッチユニット30が備えるクラッチ軸A32の上端側貫通孔32dにトラニオン軸3の先端部を挿入する。このとき、ブラケット20のブラケット本体21の取付孔22dが、HST1の上部に形成された取付孔(図示省略)と連通するので、この取付孔22dを貫通させたボルトをHST1の取付孔に取り付ける。なお、クラッチ軸A32の下端側貫通孔32fには、ポテンションメータ52がブラケット本体21の貫通孔21bを介して装着されている。
【0054】
[油圧変速機制御装置10の制御系50の説明]
次に、油圧変速機制御装置10の制御系50を図7のブロック図を参照しながら説明する。この制御系50では、図7に示すように、リミットスイッチ51、ポテンションメータ52、および外部の危険検出センサ54が制御回路53に接続されている。
【0055】
リミットスイッチ51は、ギア35のレバー35bを等分に分割する線分(Q)と、ブラケット本体21の貫通孔21bの中心点と開口部21dの円弧中心点とを結ぶ線分(A)とが一致する状態を基準として、図2の右方向に15度回転したことを検知してその旨を出力するように設定されている。
【0056】
ポテンションメータ52は、HST1のトラニオン軸3上のあり、前進や後進の状態を示すトラニオン軸3の回転角度をアナログ信号として制御回路へ伝達する。なお、ポテンションメータ52は状態検出手段に該当する。
【0057】
危険検出センサ54は、作業車両の運転席などに設置され、作業車両に転倒などの異常が発生して通常の走行を続行できなくなった際にその旨を示す信号を出力する。なお、危険検出センサ54の構成については公知技術に従っているのでその詳細な説明は省略する。
【0058】
制御回路53は、図8に示すように、バッファ53a、CPU53b、EEPROM53c、入力部53d、出力部53eを有する。バッファ53aは、取得したデータを一時的に記憶しておくのに用いられる。また、CPU53bは、制御回路の各部を制御する。また、EEPROM53cは、不揮発性の記憶部であり、取得したデータを比較的長期間記憶しておくのに用いられる。また、入力部53dは、リミットスイッチ51からの出力信号、ポテンションメータ52からの出力信号および危険検出センサ54からの出力信号を受け付ける。また、出力部53eは、CPU53bが生成したモータ40を制御するためのモータ制御信号を出力する。
【0059】
そして、制御回路53は、リミットスイッチ51からの出力信号、ポテンションメータ52からの出力信号および危険検出センサ54からの出力信号に基づき、モータ40を制御するためのモータ制御信号をモータ40へ出力する機能を有する。
【0060】
なお、制御回路53は異常発生信号取得手段および制御手段に該当する。
[油圧変速機制御処理の説明]
次に、油圧変速機制御装置10の制御回路53により実行される油圧変速機制御処理を図9のフローチャートおよび図2を参照して説明する。この処理は、制御回路53の電源が投入された際に繰り返し実行される。
【0061】
まず、本処理が開始されると、制御回路53が例えば2.0秒間待機した後(S110)、HST1の原位置を調整する(S120)。具体的には、制御回路53が、モータ40を図2の左方向へ回転させる旨のモータ制御信号を出力し、モータ40が、そのモータ制御信号に基づき、出力歯車41が取り付けられた出力軸(図示せず)を左方向に回転させる。この際、その出力軸の回転に伴って左方向に回転する出力歯車41がギア35を右方向に回転させる。そして、ギア35がリミットスイッチ51に当接したら、制御回路53が、モータ制御信号の出力を停止してモータ40の回転を停止させ、ギア35の右方向への回転を停止させる。このとき、ギア35と一体になっているクラッチ軸B34が右方向へ回転する。そして、クラッチ軸B34がクラッチ軸A32に当接したのちも、ギア35の右方向への回転が停止するまで、クラッチ軸A32とともに右方向に回転する。このときのクラッチ軸B34の位置が特許請求の範囲における「移動不許容位置」に該当し、クラッチユニット30が「移動不許容状態」になっている。このとき、クラッチ軸A32の回転に伴い、トラニオン軸3がニュートラル位置となる。また、手動レバー33は操作できない状態となっている。続いて、制御回路53が、モータ40を右方向へ回転させる旨のモータ制御信号を所定時間出力し、モータ40が、そのモータ制御信号に基づき、出力歯車41が取り付けられた出力軸(図示せず)を右方向に所定時間回転させる。右方向に回転する出力歯車41がギア35を左方向に回転させ、所定時間後に停止させる(図2(c)参照)。このとき、ギア35と一体になっているクラッチ軸B34が左方向へ回転するが、クラッチ軸A32は回転せず、手動操作レバー33およびトラニオン軸3はニュートラル位置を維持する。このときのクラッチ軸B34の位置が特許請求の範囲における「移動許容位置」に該当し、クラッチユニット30が「移動許容状態」になっている。この状態をHST1の原位置とする。なお、本実施形態では、所定時間を200msに設定している。また、手動レバー33は操作可能な状態となっている。
【0062】
続いて、制御回路53が例えば0.5秒間待機した後(S130)、トラニオン軸3のニュートラル位置を記憶する(S140)。具体的には、制御回路53のCPU53bが、ポテンションメータ52の出力信号に基づいてその出力電圧を計測し、その計測値をEEPROM53cに記憶させる。
【0063】
続いて、制御回路53が待機状態とし、ポテンションメータ52からの出力信号に基づき、その出力電圧をサンプリングする(S150)。なお、作業者が作業車両に搭乗して操作レバーを操作すると、トラニオン軸3がニュートラル位置、前進位置および後進位置の間で回転するため、そのトラニオン軸3の位置に応じて出力電圧も変化する。また、トラニオン軸3の移動に伴ってクラッチ軸A32および手動操作レバー33も回転するが、クラッチ軸B34がクラッチ軸A32とは当接しないため、クラッチ軸B34およびギア35は回転しない。
【0064】
続いて、危険検出センサ54からの出力信号(危険検出信号)が入力されたか否かを判断する(S160)。危険信号が入力されていないと判断された場合には(S160:N)、作業車両に転倒などの異常が発生しておらず、正常な状態であると判断して、S150に戻る。一方、危険信号が入力されたと判断された場合には(S160:Y)、作業車両に転倒などの異常が発生していると判断して、トラニオン軸3をニュートラル位置に復帰させる(S170)。具体的には、制御回路53が、サンプリングしたポテンションメータ52の出力電圧値と先に記憶した電圧値とを比較することで現在のポジション位置を電圧値で検出し、検出したポジションに応じてモータ40を回転させる方向を決定する。このとき、その計測値が先に記憶した電圧値と同じ値であるならば、トラニオン軸3がニュートラル位置にあると判断し、一方、その計測値が先に記憶した電圧値と同じ値でないならば、トラニオン軸3がニュートラル位置にはないと判断する。そして、制御回路53が、その決定した方向へモータ40を回転させるためのモータ制御信号を出力してモータ40をその方向に回転させ、出力歯車41およびギア35を介してクラッチ軸A32を出力歯車41とは反対方向に回転させる。このとき、ポテンションメータ52の出力電圧をサンプリングし続け、その計測値が先に記憶した電圧値と同じ値になったら、モータ制御信号の出力を停止してモータ40の回転を停止させ、クラッチ軸A32の回転を停止させる。ここで、クラッチ軸A32の回転に伴って回転したトラニオン軸3がニュートラル位置に復帰する。このとき、HST1は中立状態となる。
【0065】
続いて、制御回路53が例えば2.0秒間待機した後(S180)、先のS120と同様の手順にてHST1の原位置を再度調整する(S190)。そして、待機状態としてポテンションメータ52からの出力信号に基づいてその出力電圧をサンプリングするためにS150に戻る。
【0066】
なお、手動操作レバー33については、トラニオン軸3のニュートラル位置への復帰に同期して、当該手動操作レバー33もニュートラル位置となる。
[第一実施形態の効果]
(1)このように第一実施形態の油圧変速機制御装置10によれば、油圧変速機制御処理において、危険検出センサ54からの出力信号(危険信号)に基づき、異常が発生していると判断された場合に(S160:Y)、HST1が中立状態ではないと判定されたときには、制御回路53が、モータ40を制御して、トラニオン軸3をニュートラル位置とし、HST1を中立状態に切り替える(S170)。このことにより、例えば万が一作業車両が転倒した場合などの異常発生時に、作業車両の駆動輪に動力が伝達しないようにすることができる。したがって、作業車両が転倒した場合などの異常発生時において、運転者が操作レバーを操作できない状況であっても、作業車両の動きを止めるために作業車両の駆動輪の回転を停止させることができる。
【0067】
(2)また、第一実施形態の油圧変速機制御装置によれば、油圧変速機制御処理において、クラッチ軸B34が移動許容位置にある場合には(S150)、クラッチ軸A32が前進位置、後進位置または中立位置の何れかに位置することを許容し、クラッチ軸A32の位置に関わらずクラッチ軸B34の位置は変わらずに一定であるため、クラッチ軸B34に連結する手動操作レバー33による操作力を、クラッチ軸B34と連結するモータ40には伝達せず、一方、クラッチ軸B34が移動不許容位置にある場合には(S120、S170)、クラッチ軸A32を中立位置としてそれ以外への移動を許容しない。すなわち、トラニオン軸3に対して中立位置への移動のみ許容する。このことにより、モータ40を、異常が発生していないときには作動させず、異常が発生していると判断された場合にのみ作動させることができ、したがって、当該油圧変速機制御装置10を小型化することができる。
【0068】
(3)また、第一実施形態の油圧変速機制御装置10によれば、油圧変速機制御処理において、制御回路53が、モータ40を制御してクラッチ軸B34の位置を移動許容位置から移動不許容位置へ移動させることでクラッチ軸A32を中立位置へ移動させ、その後クラッチ軸B34を移動許容位置へ移動させることでクラッチ軸A32を中立位置から移動可能な状態とする(S120)。このことにより、クラッチ軸A32がどの位置にあっても、クラッチ軸A32を確実に中立位置に移動させることができる。
【0069】
(4)また、第一実施形態の油圧変速機制御装置10によれば、クラッチ軸B34およびクラッチ軸A32が同軸上で回転可能であり、当接部としてのクラッチ軸B34の突起部34bが被当接部としてのクラッチ軸A32の突起部32gの軌跡上に位置する。このことにより、クラッチ軸B34およびクラッチ軸A32が直線上を移動するよう構成する場合に比べて、クラッチユニット30をさらに小型化することできる。
【0070】
(5)また、第一実施形態の油圧変速機制御装置10によれば、作業者による操作力をクラッチユニット30のクラッチ軸A32に伝達することにより、クラッチ軸A32を中立位置、前進位置または後進位置の間で変更させる、従来の手動操作と全く変わらない手動操作レバー33を備える。このことにより、運転者が操作レバーを操作できない状況であっても、手動操作レバー33をその他の人が操作可能であれば、手動操作レバー33を操作することでクラッチ軸A32を中立位置に変更し、HST1を中立状態に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】農作業用トラクタなどに用いられる油圧変速機(HST)およびHSTのポジションを制御する油圧変速機制御装置の概略構成図である。
【図2】油圧変速機制御装置の概略構成図である。
【図3】(a)はブラケットの平面図であり、(b)はブラケットの側面図(1)であり、(c)はブラケットの側面図(2)である。
【図4】(a)はクラッチケースの背面図であり、(b)はクラッチケースの側面図であり、(c)はクラッチケースの平面図であり、(d)はクラッチケースの側断面図であり、(e)はクラッチケースの正面図である。
【図5】(a)はクラッチ軸Aの平面図であり、(b)はクラッチ軸Aの側断面図であり、(c)はクラッチ軸Aの下面図である。
【図6】(a)はクラッチ軸Bの側断面であり、(b)はクラッチ軸Bの平面図であり、(c)はギアの側断面であり、(d)はギアの平面図であり、(e)は手動操作レバーの側断面であり、(f)は手動操作レバーの平面図である。
【図7】油圧変速機制御装置の制御系のブロック図である。
【図8】油圧変速機制御装置の制御回路のブロック図である。
【図9】油圧変速機制御装置の制御回路により実行される油圧変速機制御処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
1…HST、3…トラニオン軸、10…油圧変速機制御装置、20…ブラケット、21…ブラケット本体、21a…ブラケット本体のクラッチユニット30が取り付けられる面、21b…貫通孔、21c,21d…開口部、21e,21f,21g…取付孔、21h…切り欠き、22,23…壁部、22a…壁部22の壁部23に近い部分、22b…壁部22の壁部23に遠い部分、22c…長孔、22d…取付孔、23a…取付部、30…クラッチユニット、31…クラッチケース、31a…開口部、31b…底部、31c…挿通孔、31d,31e…切り欠き、31f…鍔部、31g…取付孔、32…クラッチ軸A、32a…軸部、32b…円盤部、32c…貫通孔、32d…貫通孔の上端側貫通孔、32e…貫通孔の中央貫通孔、32f…貫通孔の下端側貫通孔、32g…突起部、32h…取付孔、33…手動操作レバー、33a…取付部、33b…レバー本体、33c…貫通孔、33d…取付孔、33e…貫通孔、34…クラッチ軸B、34a…貫通孔、34b…突起部、34c…取付孔、35…ギア、35a…取付部、35b…レバー、35c…貫通孔、35d…歯車、35e…取付孔、36…軸受A、37…軸受けB、40…モータ、41…出力歯車、50…制御系、51…リミットスイッチ、52…ポテンションメータ、53…制御回路、53a…バッファ、53c…CPU、53d…入力部、53e…出力部、54…危険検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラニオン軸に連動する操作レバーの位置に応じて中立状態、前進状態または後進状態の何れかに切り替わり、中立状態である場合には駆動源の駆動力を駆動輪に伝達せず、前進状態である場合には前記駆動源の駆動力を順方向に伝達することで前記駆動輪を前進方向に回転させ、後進状態位置である場合には前記駆動源の駆動力を逆方向に伝達することで前記駆動輪を後進方向に回転させる油圧変速機を搭載する作業車両に異常が発生したことを示す異常発生信号を受信可能な異常発生信号受信手段と、
前記油圧変速機が中立状態、前進状態または後進状態の何れの状態にあるかを検出する状態検出手段と、
前記油圧変速機を中立状態、前進状態または後進状態の何れかの状態にあることを許容する移動許容状態と前記油圧変速機を中立状態としてそれ以外の状態への移行を許容しない移動不許容状態との間で切り替え可能なクラッチ機構と、
前記クラッチ機構を移動許容状態と移動不許容状態との間で切り替え可能な状態切替手段と、
前記異常発生信号受信手段が異常発生信号を受信した際に、前記油圧変速機が中立状態ではないと前記状態検出手段によって検出された場合には、前記状態切替手段を制御して前記クラッチ機構を移動許容状態から移動不許容状態へ切り替えることで前記油圧変速機を中立状態に切り替える制御手段と、
を備えることを特徴とする油圧変速機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧変速機制御装置において、
前記クラッチ機構は、前記状態切替手段と連動して移動可能な第一連動部材と前記操作レバーと連動して中立状態に対応する中立位置、前進状態に対応する前進位置または後進状態に対応する後進位置の間で移動可能な第二連動部材とを有し、前記第二連動部材は被当接部を有するとともに前記第一連動部材は、前記第二連動部材の被当接部に当接可能な当接部を有し、前記第一連動部材は、前記当接部が前記被当接部に当接せずに前記第二連動部材が前進位置、後進位置または中立位置の何れかに位置することを許容する移動許容位置と前記当接部が前記被当接部に当接することで前記第二連動部材を中立位置としてそれ以外への移動を許容しない移動不許容位置との間で移動可能であり、
前記制御手段は、前記油圧変速機を中立状態に変更させる場合には、前記状態切替手段を制御して、前記クラッチ機構の第一連結部材を移動許容位置から移動不許容位置へ移動させることで前記クラッチ機構の第二連動部材を中立位置とするとともに前記クラッチ機構を移動許容状態から移動不許容状態へ切り替えることを特徴とする油圧変速機制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の油圧変速機制御装置において、
前記制御手段は、前記状態切替手段を制御して前記第一連結部材の位置を移動許容位置から移動不許容位置へ移動させることで前記第二連動部材を中立位置へ移動させ、その後前記第一連結部材を移動許容位置へ移動させることで前記第二連動部材を中立位置から移動可能な状態とすることを特徴とする油圧変速機制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の油圧変速機制御装置において、
前記第一連動部材と前記第二連動部材とは同軸上で回転可能であり、前記当接部は、前記第二連動部材に伴って回転する前記被当接部の軌跡上に位置されていることを特徴とする油圧変速機制御装置。
【請求項5】
請求項2〜請求項4の何れかに記載の油圧変速機制御装置において、
作業者による操作力を前記クラッチ機構の前記第二連動部材に伝達することにより、前記第二連動部材を中立位置、前進位置または後進位置の間で変更させる手動操作手段を備えることを特徴とする油圧変速機制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−68680(P2009−68680A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241024(P2007−241024)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000210986)中央発條株式会社 (173)
【Fターム(参考)】