説明

油圧駆動制御装置およびそれを具備する油圧ショベル

目標とする出力トルク点においてエンジンを安定的に運転させることができるとともに、軽負荷時における作業速度の低下を防止することができ、また低燃費化をも図ることのできる油圧駆動制御装置およびそれを具備する油圧ショベルを提供する。 エンジン制御装置23はエンジン16の出力特性がマッチング点Mに対応するエンジン回転数Nを含む所定のエンジン回転数領域(N〜N)で等馬力特性または略等馬力特性となるようにエンジン16の出力を制御するとともに、油圧ポンプ吸収トルク制御装置27は、エンジン回転数の増減に伴い油圧ポンプ17の吸収トルクを増減させてマッチング点Mに対応するエンジン16の出力トルクTと油圧ポンプ17の吸収トルクとを一致させるように油圧ポンプ17の吸収トルクを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の油圧駆動系を制御する油圧駆動制御装置およびそれを具備する油圧ショベルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンにより駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出される圧油により作動される油圧アクチュエータとを備え、作業モードに応じてエンジンの出力特性を設定し、かつその設定されたエンジン出力特性に対応させて油圧ポンプの特性を制御するように構成される油圧駆動制御装置およびそれを具備する油圧ショベルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。ここで、この特許文献1にて提案されている油圧駆動制御装置においては、ポンプ負荷によるエンジン回転数変動を、エンジン回転数センサからの実エンジン回転数信号と、燃料ダイヤルに付設のポテンショメータからのスロットル信号とで検出し、コントローラがそれら信号を受けて演算し、その結果をTVC(トルク・バリアブル・コントロール)弁へ信号として送り、かかるTVC弁による油圧ポンプの吐出油量の制御により、エンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとを常に最適にマッチングさせるようにされている。また、ポンプ負荷が過大になり、エンジン回転数が低下すると、所謂エンジン回転センシング制御によって油圧ポンプの吐出油量を減少させることにより、定格出力点に対応するエンジン回転数に実エンジン回転数を瞬時に復帰させて、油圧ポンプがエンジンの最大馬力を安定的に吸収して高効率で作業が行えるようにされている。
【0003】
【特許文献1】特開平2−38630号公報
【0004】
この種の従来の油圧駆動制御装置において、例えば、スピードとパワーの両方が必要とされる作業に対応させるべく設定されたアクティブモードでは、図8に示されるように、エンジンの設定エンジン回転数(無負荷最高回転数)がNに設定され、これにより、レギュレーションラインRを有するエンジン出力トルク特性ラインELが設定される。このアクティブモードにおいては、エンジンの出力が最大となる出力トルク点M(以下、「マッチング点M」と称する。)での出力トルク値Tを油圧ポンプが吸収するように油圧ポンプ吸収トルク特性ラインPLが設定され、これにより、エンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとをマッチング点Mにおいて一致させるようにされている。一方、燃費の低減を図りつつ通常の掘削作業に対応させるべく設定されたエコノミーモードでは、同図に示されるように、設定エンジン回転数(無負荷最高回転数)がアクティブモードにおける設定エンジン回転数Nよりも所定回転数だけ低いエンジン回転数Nに設定され、これにより、前記レギュレーションラインRよりも低速側に設定されるレギュレーションラインR50を有するエンジン出力トルク特性ラインEL50が設定される。このエコノミーモードでは、エンジンの燃費効率が比較的高い、言い換えればエンジンの燃料消費率(g/kw・h)が比較的低い出力トルク点M(以下、「マッチング点M」と称する。)に対応する出力トルク値Tを油圧ポンプが吸収してエンジンを効率良く運転させるために、その油圧ポンプの吸収トルクを等馬力特性ラインPL50に沿って制御するようにされ、エンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとをマッチング点Mにおいて一致させることができるようにされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の油圧駆動制御装置では、アクティブモードからエコノミーモードに切り替えることで省燃費化を図ることができるものの、かかるモードの切り替えにより設定エンジン回転数がNからNに低下するために、軽負荷作業時において油圧ポンプの吐出油量がその低下した設定エンジン回転数の差分(N−N)に比例して減少してしまい、作業速度が遅くなるという問題点がある。また、急激な負荷変動があった場合、エンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとがマッチング点Mにおいて安定的に一致するまでに、等馬力特性ラインPL50とエンジン出力トルク特性ラインEL50とで囲まれる部分(図8中においてハッチングで示される部分)の面積に相当するエンジン出力が余分に出力されるため、無駄な燃料消費がなされるという問題点がある。また、特にマッチング点M近傍のエンジン回転数領域において、等馬力特性ラインPL50およびエンジン出力トルク特性ラインEL50が、エンジン回転数の増減変化に対し油圧ポンプの吸収トルクおよびエンジンの出力トルクをそれぞれ減増させるといった具合に、互いに同特性となっているために、油圧ポンプの吸収トルクを等馬力特性ラインPL50に沿うように制御しても、かかる制御ではエンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとをマッチング点Mにおいて一致させる上での精度および安定性に問題があり、このため、目標とする出力トルク点、つまりマッチング点Mにおいてエンジンを安定的に運転させることが難しいという問題点がある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたもので、目標とする出力トルク点においてエンジンを安定的に運転させることができるとともに、軽負荷時における作業速度の低下を防止することができ、また低燃費化をも図ることのできる油圧駆動制御装置およびそれを具備する油圧ショベルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、第1発明による油圧駆動制御装置は、
エンジンと、このエンジンにより駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出される圧油により作動される油圧アクチュエータと、前記エンジンの出力を制御するエンジン制御手段と、前記油圧ポンプの吸収トルクを制御する油圧ポンプ吸収トルク制御手段とを備える油圧駆動制御装置において、
前記エンジンの出力トルクと前記油圧ポンプの吸収トルクとを一致させるマッチング点を作業内容に応じて予め定め、前記エンジン制御手段は、前記エンジンの出力特性が、前記マッチング点に対応するエンジン回転数を含む所定のエンジン回転数領域で等馬力特性または略等馬力特性となるように前記エンジンの出力を制御するとともに、前記油圧ポンプ吸収トルク制御手段は、エンジン回転数の増減に伴い前記油圧ポンプの吸収トルクを増減させて前記マッチング点に対応する前記エンジンの出力トルクと前記油圧ポンプの吸収トルクとを一致させるように前記油圧ポンプの吸収トルクを制御することを特徴とするものである。
【0008】
第1発明において、前記エンジンの出力トルクとエンジン回転数との関係を記憶する記憶手段と、前記エンジンの実エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段とが設けられ、前記エンジン制御手段は、前記記憶手段に記憶されている前記エンジンの出力トルクとエンジン回転数との関係と、前記エンジン回転数検出手段により検出される実エンジン回転数とから、前記エンジンに出力させるべきトルク値を求め、この求められたトルク値に基づいて前記エンジンの出力を制御するのが好ましい(第2発明)。
【0009】
次に、第3発明による油圧ショベルは、
第1発明または第2発明に係る油圧駆動制御装置を具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
第1発明においては、エンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとを一致させるマッチング点が作業内容に応じて予め設定される。また、エンジンの出力トルク特性は、エンジン制御手段によるエンジンの出力制御により、マッチング点に対応するエンジン回転数を含む所定のエンジン回転数領域においてエンジン回転数の増加/減少に伴いエンジンの出力トルクを等馬力特性または略等馬力特性に従って減少/増加させる特性とされる。一方、油圧ポンプの吸収トルク特性は、油圧ポンプ吸収トルク制御手段による油圧ポンプの吸収トルク制御により、マッチング点に対応するエンジンの出力トルクと、油圧ポンプの吸収トルクとを一致させ、かつエンジン回転数の増減に伴い油圧ポンプの吸収トルクを増減させる特性とされる。したがって、エンジンの出力トルク特性と油圧ポンプの吸収トルク特性とがマッチング点において交差されることになる。このように、エンジン回転数の変化に感応し、かつそのエンジン回転数の変化に対して互いに逆特性を成すエンジン出力トルク特性および油圧ポンプ吸収トルク特性がマッチング点において交差されることにより、作業負荷の高まりに応じてエンジンの出力トルクがマッチング点に向けて増加傾向にある場合、マッチング点に対応するエンジン回転数にエンジンの実回転数が収束されることになる。この際、エンジンの出力トルクはエンジンそれ自身の等馬力特性または略等馬力特性に従って変化されるので、エンジン回転数の変動に対してエンジンの出力トルクの変動が緩やかなものになる。したがって、エンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとがマッチング点において正確かつ安定的に一致されるので、目標とする出力トルク点、つまりマッチング点においてエンジンを安定的に運転させることができる。さらに、マッチング点に対応するエンジン回転数に実エンジン回転数が収束される際には、エンジンの出力がそのマッチング点において必要とされるエンジン出力に保たれるから、エンジンが出力過剰に陥ることはない。したがって、低燃費化を図ることができる。
【0011】
また、第1発明においては、エンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとがマッチング点で一致されている状態で作業負荷が減少傾向に転じると、実エンジン回転数は一旦エンジンそれ自身の等馬力特性または略等馬力特性に従って増加され、更に作業負荷が減少すると、実エンジン回転数は無負荷最高回転数(設定エンジン回転数)に向けて上昇される。このため、等馬力特性または略等馬力特性によるエンジン回転数の増分を見込んで設定エンジン回転数を比較的高く設定することが可能になるので、軽負荷時における作業速度の低下を防止することができる。
【0012】
第2発明の構成を採用することにより、エンジンの出力制御の自由度を向上させることができる。
【0013】
第3発明によれば、目標とする出力トルク点、つまりマッチング点においてエンジンを安定的に運転させることができるとともに、軽負荷時における作業速度の低下を防止することができ、また低燃費化をも図ることのできる油圧ショベルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの側面図である。
【図2】図2は本実施形態における油圧駆動制御装置の概略システム構成図である。
【図3】図3はアクティブモード時におけるエンジン出力トルク特性マップである。
【図4】図4はエコノミーモード時におけるエンジン出力トルク特性マップである。
【図5】図5は油圧ポンプ吸収トルク特性マップである。
【図6】図6はアクティブモード時におけるエンジン出力トルク特性と油圧ポンプ吸収トルク特性との関係を表わす図である。
【図7】図7はエコノミーモード時におけるエンジン出力トルク特性と油圧ポンプ吸収トルク特性との関係を表わす図である。
【図8】図8は従来の油圧駆動制御装置に係るエンジン出力トルク特性と油圧ポンプ吸収トルク特性との関係を表わす図である。
【符号の説明】
【0015】
1 油圧ショベル
2a 走行用油圧モータ
2b 走行装置
3 旋回装置
3a 旋回用油圧モータ
5 作業機
10 ブームシリンダ
11 アームシリンダ
12 バケットシリンダ
15 油圧駆動制御装置
16 エンジン
17 油圧ポンプ
19 燃料噴射装置
20 コントローラ
20a 記憶装置
21 燃料ダイヤル
21a ポテンショメータ
22 エンジン回転数センサ
23 エンジン制御装置
27 油圧ポンプ吸収トルク制御装置
マッチング点(エコノミーモード)
マッチング点(アクティブモード)
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明による油圧駆動制御装置およびそれを具備する油圧ショベルの具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1には、本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの側面図が示されている。また、図2には、本実施形態における油圧駆動制御装置の概略システム構成図が示されている。
【0018】
本実施形態の油圧ショベル1は、図1に示されるように、走行用油圧モータ2aにより駆動される走行装置2bを備えてなる下部走行体2と、旋回用油圧モータ3aにより駆動される旋回装置3と、この旋回装置3を介して前記下部走行体2上に配される上部旋回体4と、この上部旋回体4の前部中央位置に取着される作業機5と、その上部旋回体4の前部左方位置に設けられる運転室6を備えて構成されている。前記作業機5は、上部旋回体4側から順にブーム7、アーム8およびバケット9がそれぞれ回動可能に連結されてなり、これらブーム7、アーム8およびバケット9のそれぞれに対応するように油圧シリンダ(ブームシリンダ10、アームシリンダ11およびバケットシリンダ12)が配置されている。
【0019】
この油圧ショベル1に具備される油圧駆動制御装置15は、図2に示されるように、ディーゼル式のエンジン16と、このエンジン16により駆動される油圧ポンプ(可変容量型斜板式ピストンポンプ)17と、前記運転室6内に設置されるモニタパネル18を備えている。
【0020】
前記エンジン16には、蓄圧(コモンレール)式の燃料噴射装置19が付設されている。この燃料噴射装置19は、それ自体公知のものであって、図示による説明は省略するが、燃料圧送ポンプによりコモンレール室に燃料を蓄圧し、電磁弁の開閉によりインジェクタから燃料を噴射する方式のものであり、コントローラ20から前記電磁弁への駆動信号(指令電流)により燃料噴射特性が決定され、エンジン16の低速域から高速域まで任意の噴射特性を得ることができるようにされている。本実施形態では、燃料噴射装置19、コントローラ20および各種センサ類を含む機器にて所謂電子制御噴射システムが構築されており、かかる電子制御噴射システムでは、目標噴射特性をデジタル値でマップ化することにより、図3および図4のそれぞれに示されるようなエンジン出力トルク特性を得ることができるようにされている。
【0021】
ここで、エンジン16のスロットル量を設定するために燃料ダイヤル21が設けられ、この燃料ダイヤル21に付設されるポテンショメータ21aからのスロットル信号はコントローラ20に入力される。また、エンジン16の実エンジン回転数はエンジン回転数センサ(本発明における「エンジン回転数検出手段」に相当する。)22にて検出され、その検出信号はコントローラ20に入力される。また、図3において記号ELのラインで示されるエンジン出力トルク特性では、設定エンジン回転数(無負荷最高回転数)がNとされ、エンジン回転数Nと出力トルク値Tとで特定される出力トルク点Mにおいてエンジン16の出力(馬力)が最大となり、エンジン回転数がNのときに最大出力トルク値Tとなり、エンジン回転数Nをやや超えてから設定エンジン回転数Nまでの間のエンジン回転数領域おいてレギュレーションラインRが設定されている。一方、図4において記号ELのラインで示されるエンジン出力トルク特性では、設定エンジン回転数(無負荷最高回転数)がNとされ、エンジン回転数がNのときの出力トルク値がTとされ、エンジン回転数Nを含む所定のエンジン回転数領域(N〜N)においてエンジン回転数の変化に対しエンジン出力を略一定に保つようにエンジン出力トルクを変化させる特性の等馬力特性ラインTLが設定され、エンジン回転数Nから設定エンジン回転数Nまでの間のエンジン回転数領域において前記レギュレーションラインRと基本的に同様のレギュレーションラインR′が設定されている。なお、ここで、燃料噴射装置19、コントローラ20、ポテンショメータ21aおよびエンジン回転数センサ22を含んでなるエンジン制御装置23が本発明における「エンジン制御手段」に相当する。
【0022】
前記油圧ポンプ17は、図2に示されるように、コントロールバルブ24を介して各油圧アクチュエータ(走行用油圧モータ2a、旋回用油圧モータ3a、ブームシリンダ10、アームシリンダ11およびバケットシリンダ12)25に接続されている。また、このコントロールバルブ24においては、運転室6内に配される各種操作レバー26の操作により所定の油路切換動作が行われるようにされており、運転者によるそれら操作レバー26の所定の操作にて下部走行体2の走行動作や、上部旋回体4の旋回動作、作業機5の屈曲起伏動作が行われるようになっている。
【0023】
前記油圧ポンプ17には、油圧ポンプ吸収トルク制御装置(本発明における「油圧ポンプ吸収トルク制御手段」に相当する。)27が付設されている。この油圧ポンプ吸収トルク制御装置27は、油圧ポンプ17の斜板の傾転角を調整するサーボ弁28に対して圧油を供給する油圧回路中に、作業負荷〔油圧作動部(走行装置2b、旋回装置3、作業機5)に係わる負荷〕を感知し吐出油量を制御するロードセンシング弁29(以下、「LS弁29」という。)と、作業負荷がエンジン馬力(ポンプ出力)を超えないように制御するパワーコントロール弁30(以下、「PC弁30」という。)と、コントローラ20からの指令電流を受けてその指令電流に応じたパイロット圧を前記LS弁29に付与して油圧ポンプ17の吐出油量の大きさを決定する電磁比例制御弁31(以下、「LS−EPC弁31」という。)と、コントローラ20からの指令電流を受けてその指令電流に応じたパイロット圧を前記PC弁30に付与して油圧ポンプ17の吸収トルクを制御する電磁比例制御弁32(以下、「PC−EPC弁32」という。)とが組み込まれて構成されている。なお、前記LS−EPC弁31およびPC−EPC弁32には、それぞれ、油圧ポンプ17とコントロールバルブ24との間の流路に介挿される自己圧減圧弁33によって調圧された圧油が供給されるようになっている。
【0024】
ここで、前記LS弁29は、油圧ポンプ17の吐出圧(自己圧)PPとコントロールバルブ24の出口圧力PLSとの差圧ΔPLS(=PP−PLS;以下、「LS差圧」と称する。)により、油圧ポンプ17の吐出油量Qを制御する。このLS弁29には、油圧ポンプ17の吐出圧PP、コントロールバルブ24の出口圧力PLS、およびLS−EPC弁31からのパイロット圧が入力され、LS差圧ΔPLSと吐出油量Qとの関係は、コントローラ20のLS−EPC弁31に対する指令電流値に応じて変化されるようになっている。一方、前記PC弁30は、油圧ポンプ17の吐出圧PPが高いときには、コントロールバルブ24の操作ストロークがいかに増大しても、吐出圧PPに応じて所定の流量以上は流れないように制御して、油圧ポンプ17が吸収している馬力がエンジン16の馬力を超えないように等馬力制御を行う弁である。つまり、作業中負荷が大きくなり油圧ポンプ17の吐出圧PPが上昇すると、油圧ポンプ17の吐出油量Qを減少させる、一方、油圧ポンプ17の吐出圧PPが低下すると、油圧ポンプ17の吐出油量Qを増加させる。この場合、油圧ポンプ17の吐出圧PPと油圧ポンプ17の吐出油量Qとの関係は、コントローラ20からPC−EPC弁32に与えられる指令電流値をパラメータとして変化されるようになっている。
【0025】
また、コントローラ20は、エンジン回転数センサ22により実エンジン回転数をセンシングし、作業負荷の増大により実エンジン回転数が低下すると、油圧ポンプ17の吐出油量を減少させてエンジン回転数を回復させるような機能を持っている。すなわち、作業負荷が増大し実エンジン回転数が設定値よりも低下すると、コントローラ20からのPC−EPC弁32への指令電流がエンジン回転数の低下量に応じて増大し、油圧ポンプ17の斜板角が減少する。要するに、油圧ポンプ吸収トルク制御装置27は、油圧ポンプ17の吸収トルクが所定値に到達し更に増加傾向にある場合に、油圧ポンプ17の吸収トルクをエンジン16の設定エンジン回転数(無負荷最高回転数)と実エンジン回転数との偏差の増加/減少に応じて減少/増加させる、つまり油圧ポンプ17の吸収トルクをエンジン回転数の増加/減少に伴い増加/減少する。
【0026】
こうして、油圧ポンプ吸収トルク制御装置27による油圧ポンプ17の吸収トルクの制御により、油圧ポンプ17の吸収トルク特性が、例えば、後述するマッチング点Mに対応するエンジン16の出力トルクTと、油圧ポンプ17の吸収トルクとを一致させ、かつエンジン回転数の増減に伴い油圧ポンプ17の吸収トルクを増減させる特性とされる(図5中記号PLで示される油圧ポンプ吸収トルク特性ラインを参照)。また、例えば、油圧ポンプ17の吸収トルク特性が、後述するマッチング点Mに対応するエンジン16の出力トルクTと、油圧ポンプ17の吸収トルクとを一致させ、かつエンジン回転数の増減に伴い油圧ポンプ17の吸収トルクを増減させる特性とされる(図5中記号PLで示される油圧ポンプ吸収トルク特性ラインを参照)。
【0027】
前記モニタパネル18には、作業内容に応じて設定されるアクティブモードおよびエコノミーモードの各モードに対応するようにアクティブモード選択スイッチ34およびエコノミーモード選択スイッチ35がそれぞれ設けられている。ここで、アクティブモードは、スピードとパワーの両方が必要とされる作業に対応させるべく設定された作業モードであり、一方、エコノミーモードは、燃費の低減を図りつつ通常の掘削作業に対応させるべく設定された作業モードである。
【0028】
前記コントローラ20は、各種センサやスイッチ類からの入力信号を変換・整形する入力インターフェイス(図示省略)と、決められた手順に従って入力データの算術演算または論理演算を行うマイクロコンピュータ(図示省略)と、その演算結果をアクチュエータ駆動信号に変換し更にそのアクチュエータ駆動信号を電力増幅したものを指令電流として出力する出力インターフェイス(図示省略)と、記憶装置(本発明における「記憶手段」に相当する。)20aとを備えて構成されている。前記記憶装置20aは、主に、所定プログラムや各種テーブル、各種マップ等を記憶する読み出し専用メモリ(ROM)と、所定プログラムを実行するに必要なワーキングメモリとしての書き込み可能メモリ(RAM)とより構成されている。この記憶装置20aには、例えば、図3において記号ELのラインで示されるエンジン出力トルク特性のマップデータや、図4において記号ELのラインで示されるエンジン出力トルク特性のマップデータ、図5において記号PLのラインで示される油圧ポンプ吸収トルク特性のマップデータ、図5において記号PLのラインで示される油圧ポンプ吸収トルク特性のマップデータなどが記憶されている。
【0029】
このコントローラ20には、前記各種作業モード選択スイッチ34,35のON操作により出力される各種作業モード選択信号が入力されるようになっている。そして、コントローラ20は、例えば、作業モード選択スイッチ34のON操作によってアクティブモードが選択されるとともに、燃料ダイヤル21によってスロットル量がフルに設定されている場合、記憶装置20aに記憶されている図3に示されるエンジン出力トルク特性マップを読み出し、この図3に示されるエンジン出力トルク特性マップと、エンジン回転数センサ22により検出される実エンジン回転数とから、エンジン16に出力させるべきトルク値を求め、この求められたトルク値に基づいて燃料噴射装置19に噴射させるべき燃料噴射量を求め、この求められた燃料噴射量を満足するような駆動信号(指令電流)を燃料噴射装置19における電磁弁に向けて出力する。また、コントローラ20は、例えば、作業モード選択スイッチ35のON操作によってエコノミーモードが選択されるとともに、燃料ダイヤル21によってスロットル量がフルに設定されている場合、記憶装置20aに記憶されている図4に示されるエンジン出力トルク特性マップを読み出し、この図4に示されるエンジン出力トルク特性マップと、エンジン回転数センサ22により検出される実エンジン回転数とから、エンジン16に出力させるべきトルク値を求め、この求められたトルク値に基づいて燃料噴射装置19に噴射させるべき燃料噴射量を求め、この求められた燃料噴射量を満足するような駆動信号(指令電流)を燃料噴射装置19における電磁弁に向けて出力する。
【0030】
また、コントローラ20は、作業モード選択スイッチ34のON操作によってアクティブモードが選択されると、記憶装置20aに記憶されている図5において記号PLのラインで示される油圧ポンプ吸収トルク特性マップを読み出し、この図5において記号PLのラインで示される油圧ポンプ吸収トルク特性マップと、エンジン回転数センサ22により検出される実エンジン回転数とに基づいて、PC−EPC弁32に対する指令電流を制御して油圧ポンプ17の斜板角を調整する。また、コントローラ20は、作業モード選択スイッチ35のON操作によってエコノミーモードが選択されると、記憶装置20aに記憶されている図5において記号PLのラインで示される油圧ポンプ吸収トルク特性マップを読み出し、この図5において記号PLのラインで示される油圧ポンプ吸収トルク特性マップと、エンジン回転数センサ22により検出される実エンジン回転数とに基づいて、PC−EPC弁32に対する指令電流を制御して油圧ポンプ17の斜板角を調整する。
【0031】
次に、前記各作業モードにおける油圧駆動制御装置15の作動について、図6および図7を用いて以下に説明する。なお、以下の説明では、燃料ダイヤル21によってエンジン16のスロットル量がフルに設定されているものとする。
【0032】
(アクティブモードが選択された場合:図6参照)
運転者がアクティブモード選択スイッチ34をONすると、図6に示されるように、レギュレーションラインRを有するエンジン出力トルク特性ラインELが設定される。また、エンジン16の出力が最大となる出力トルク点においてエンジン16の出力トルクと油圧ポンプ17の吸収トルクとを一致させるべく図6中記号Mで示されるマッチング点が設定される。また、このマッチング点Mにおいてエンジン16の出力トルクTと油圧ポンプの吸収トルクとを一致させる油圧ポンプ吸収トルク特性ラインPLが設定される。
【0033】
このアクティブモードが選択されている状態において、作業負荷が軽く油圧ポンプ17の吐出圧(負荷圧)が低い間は、エンジン16が、その負荷の大きさに応じてエンジン出力トルク特性ラインELにおけるレギュレーションラインRの線上で運転される。作業負荷が増大し油圧ポンプ17の負荷圧が高まると、遂にはエンジン16の出力が最大となるマッチング点Mにおいてエンジン16の出力トルクTと油圧ポンプ17の吸収トルクとが一致され、油圧ポンプ17がエンジン16の最大馬力を吸収して作業が行われる。こうして、スピードとパワーの両方が必要とされる作業を良好に行うことができる。
【0034】
(エコノミーモードが選択された場合:図7参照)
運転者がエコノミーモード選択スイッチ35をONすると、図7に示されるように、エンジン16の設定エンジン回転数が前述のアクティブモード時と同様にNに設定される。また、エンジン16の出力トルクと油圧ポンプ17の吸収トルクとを一致させるべく図7中記号Mで示されるマッチング点が設定され、このマッチング点Mに対応するエンジン回転数Nを含む所定のエンジン回転数領域(N〜N)において、エンジン回転数の変化に対しエンジン出力を略一定に保つようにエンジン16の出力トルクを変化させる特性の等馬力特性ラインTLが設定される。こうして、エンジン回転数がNからNにおいては等馬力特性ラインTLに従って出力トルクが変化し、エンジン回転数がNからNまでは前記レギュレーションラインRと基本的に同特性のレギュレーションラインR′に従って出力トルクが変化する特性のエンジン出力トルク特性ラインELが設定される。また、このエコノミーモードにおいては、マッチング点Mに対応するエンジン16の出力トルクTと、油圧ポンプ17の吸収トルクとを一致させ、かつエンジン回転数の増減に伴い油圧ポンプ17の吸収トルクを増減させる特性の油圧ポンプ吸収トルク特性ラインPLが設定される。つまり、エンジン回転数の変化に感応し、かつそのエンジン回転数の変化に対して互いに逆特性を成す油圧ポンプ吸収トルク特性ラインPLおよび等馬力特性ラインTLがマッチング点Mにおいて交差される。
【0035】
このエコノミーモードが選択されている状態において、作業負荷が軽く油圧ポンプ17の吐出圧(負荷圧)が低い間は、エンジン16が、その負荷の大きさに応じてエンジン出力トルク特性ラインELにおけるレギュレーションラインR′の線上で運転される。作業負荷が増大し油圧ポンプ17の負荷圧が高まると、エンジン16が、その負荷の大きさに応じてエンジン出力トルク特性ラインELにおける等馬力特性ラインTLの線上で運転される。その後、更に作業負荷が増大して油圧ポンプ17の負荷圧がより高まると、遂にはマッチング点Mにおいてエンジン16の出力トルクと油圧ポンプ17の吸収トルクとが一致され、エンジン回転数Nにおけるエンジン馬力を油圧ポンプ17が吸収して作業が行われる。このマッチング点Mにおいてエンジン16の出力トルクと油圧ポンプ17の吸収トルクとが一致された状態で何らかの外乱により、(1)マッチング点Mに対応するエンジン回転数Nから実エンジン回転数が上昇した場合、エンジン16の出力トルクが減少するので油圧ポンプ17の吸収トルクに負けて実エンジン回転数が低下する、一方、(2)エンジン回転数Nから実エンジン回転数が低下した場合、エンジン16の出力トルクが増加するので油圧ポンプ17の吸収トルクに勝ってエンジン回転数が上昇することになる。このように、常にマッチング点Mに戻ろうとする収束力を効果的に働かせることができるので、作業負荷の高まりによりエンジン16の出力トルクがマッチング点Mに対応する出力トルク値Tに向けて増加傾向にある場合、マッチング点Mに対応するエンジン回転数Nにエンジン16の実エンジン回転数が収束されることになる。この際、エンジン16の出力トルクはエンジン16それ自身の等馬力特性ラインTLに従って変化されるので、エンジン回転数の変動に対してエンジン16の出力トルクの変動が緩やかなものとなる。したがって、エンジン16の出力トルクと油圧ポンプ17の吸収トルクとがマッチング点Mにおいて正確かつ安定的に合致されることになり、目標とする出力トルク点(マッチング点M)においてエンジン16を安定的に運転させることができる。
【0036】
本実施形態におけるエコノミーモードでは、作業負荷が増大してエンジン16の実エンジン回転数がマッチング点Mに対応するエンジン回転数Nに収束される際に、エンジン16が等馬力特性ラインTLの線上で運転され、エンジン16の出力(馬力)がそのマッチング点Mにおいて必要とされるエンジン出力(エンジン馬力)に保たれるので、エンジン16が出力過剰に陥ることはない。したがって、当該エコノミーモードによれば、アクティブモードと比較して総量として燃費低減を図ることができる。
【0037】
また、本実施形態におけるエコノミーモードにおいては、エンジン16の出力トルクと油圧ポンプ17の吸収トルクとがマッチング点Mで一致されている状態で作業負荷が減少傾向に転じると、実エンジン回転数は一旦エンジン16それ自身の等馬力特性ラインTLに従ってNからNにまで増加され、更に作業負荷が減少すると、実エンジン回転数はレギュレーションラインR′に従ってNから設定エンジン回転数Nに向けて上昇される。このため、従来のエコノミーモードでは、設定エンジン回転数がNよりも所定回転数低いNであるのに対し、本実施形態におけるエコノミーモードでは、等馬力特性ラインTLによるエンジン回転数の増分を見込んで、エンジン16の設定エンジン回転数を前述のアクティブモードでのそれと同じNに設定することが可能になり、軽負荷時における作業速度の低下を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
油圧ショベルは勿論のこと、その他、ホイールローダ、農業用トラクタ、産業車両など、エンジンを駆動源とする油圧駆動系を備える作業機械の油圧駆動制御装置として利用することできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、このエンジンにより駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出される圧油により作動される油圧アクチュエータと、前記エンジンの出力を制御するエンジン制御手段と、前記油圧ポンプの吸収トルクを制御する油圧ポンプ吸収トルク制御手段とを備える油圧駆動制御装置において、
前記エンジンの出力トルクと前記油圧ポンプの吸収トルクとを一致させるマッチング点を作業内容に応じて予め定め、前記エンジン制御手段は、前記エンジンの出力特性が、前記マッチング点に対応するエンジン回転数を含む所定のエンジン回転数領域で等馬力特性または略等馬力特性となるように前記エンジンの出力を制御するとともに、前記油圧ポンプ吸収トルク制御手段は、エンジン回転数の増減に伴い前記油圧ポンプの吸収トルクを増減させて前記マッチング点に対応する前記エンジンの出力トルクと前記油圧ポンプの吸収トルクとを一致させるように前記油圧ポンプの吸収トルクを制御することを特徴とする油圧駆動制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの出力トルクとエンジン回転数との関係を記憶する記憶手段と、前記エンジンの実エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段とが設けられ、前記エンジン制御手段は、前記記憶手段に記憶されている前記エンジンの出力トルクとエンジン回転数との関係と、前記エンジン回転数検出手段により検出される実エンジン回転数とから、前記エンジンに出力させるべきトルク値を求め、この求められたトルク値に基づいて前記エンジンの出力を制御する請求項1に記載の油圧駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の油圧駆動制御装置を具備することを特徴とする油圧ショベル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/014990
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512972(P2005−512972)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011353
【国際出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】