説明

油溶性物質含有可溶化組成物の製造方法

【課題】飲食品や化粧品中で均質で安定な可溶化状態を保持し得る耐熱性、耐酸性に優れた油溶性物質含有可溶化組成物を提供すること。
【解決手段】 油溶性物質と、
(1)HLB10以上で炭素数14以下の脂肪酸と重合度3以上のポリグリセリンとのエステルから構成される乳化剤E1、
(2)HLB10以上で炭素数14以下の脂肪酸とショ糖とのエステルから構成される乳化剤E2、および
(3)リン脂質含量に対するホスファチジルコリンの割合が50%以上占めるレシチンおよび/またはリゾホスファチジルコリンの割合が50%以上占めるリゾレシチンから構成される乳化剤E3
から選択される2種または3種の乳化剤とを、(a)エタノール、または(b)エタノールと、アセトン、へキサンおよび酢酸エチルから選択される1種または2種以上との混合溶媒に透明に溶解せしめた後、前記溶媒を留去せしめることを特徴とする耐酸および耐熱性を有する油溶性物質含有可溶化組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸および耐熱性を有する油溶性物質含有可溶化組成物の製造方法、並びにその製造方法により製剤される組成物、該組成物を含有することを特徴とする飲食品および化粧品に関する。詳しくは飲食品、化粧品に添加し、長期保存しても油溶性物質が析出または浮上しないで均質で安定な可溶化状態を保持し得るうえ、飲食品に添加する際に必要とされる耐熱性、耐酸性に優れた油溶性物質含有可溶化組成物の製造方法並びにその製造方法により製造される組成物、該組成物を含有する飲食品および化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より飲食品や化粧品分野において、常温で液状を呈する各種の商品には、着色料、着香料、油脂類、脂溶性ビタミン類、各種生理活性物質、調味料、酸化防止剤、保存料などの油溶性物質が配合されている。しかし、飲食品や化粧品などの液剤は、水溶性のものが少なくなく、これら飲食品や化粧品に油溶性物質を配合するために、種々の組成物やその製造方法が知られている。その一つは油溶性物質と水性媒体とのエマルションである。例えば、水性の飲食品の着色に使用できる食品用カロチノイド系色素可溶化液製剤(特許文献1参照)、ショ糖脂肪酸エステルと、炭素数4〜20の1価のアルコール類、油性成分、および水とよりなる特定重量比の組成物(特許文献2、3参照)、油脂と、重合度4〜10のポリグリセリンとカプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸またはリノール酸とのモノエステルおよび酵素分解レシチンの中から選ばれた少なくとも1種とを含有する低級アルコール溶液と水または糖アルコール水溶液とを混合し、次いで低級アルコールを除去することにより、油脂を均一に乳化または可溶化させた油脂含有水溶性組成物(特許文献4参照)、重合度10以上のポリグリセリンと炭素数8〜18の脂肪酸とのモノエステルの中から選ばれる少なくとも1種のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖と脂肪酸とのモノエステルを90%以上含有するショ糖脂肪酸エステル、および油脂と残部が水とからなり、乳化または可溶化状態であることを特徴とする油脂含有水溶性組成物(特許文献5参照)、平均重合度6〜10のポリグリセリンと炭素数12〜14の飽和脂肪酸とのモノエステルから選ばれる少なくとも1種のポリグリセリン脂肪酸モノエステルを0.003〜50重量%、油脂を0.05〜20重量%を含有し、残余部が水および食品添加物からなることを特徴とする油脂可溶化組成物(特許文献6参照)、平均重合度5以上のポリグリセリンと、ミリスチン酸またはオレイン酸とのモノエステルからなるポリグリセリン脂肪酸モノエステル0.01〜30重量%、多価アルコール40〜80重量%および油溶性物質0.01〜20重量%を含有し、残余部が水からなることを特徴とする油溶性物質可溶化組成物(特許文献7参照)、(A)油溶性物質0.05〜30重量%、(B)平均重合度6〜15のポリグリセリンと炭素数12〜18の飽和脂肪酸またはモノ不飽和脂肪酸とから得られたポリグリセリン脂肪酸モノエステル0.003〜50重量%、(C)レシチン0.0001〜1重量%および水を含有することを特徴とする油溶性物質可溶化組成物(特許文献8参照)などが挙げられる。しかし、これら組成物の製造方法はいずれも油溶性物質を水性媒体と乳化した後、例えば強力な剪断力を与える乳化機や高圧ホモジナイザーなどを用いて油溶性物質をナノサイズまで細分する方法が用いられているが、これらの方法により製造される組成物が配合される化粧品や飲食品などは、溶解性、透明性、安定性、耐熱性や特に耐酸性において十分に満足できるものではなかった。また、該組成物は水性媒体とのエマルションであるため各種商品の組成上、該組成物の添加量の制限もうける。
【0003】
また、油溶性物質と乳化剤とを加熱などにより予め均一体としておき、そのものを水性媒体に添加して製造される油溶性物質可溶化組成物の製造方法も知られている(特許文献9〜11参照)。しかし、これらの方法で製造される組成物も、水性媒体に添加される際、溶解性、透明性、安定性、耐熱性、耐酸性において満足できるものではない。
【特許文献1】特開平10−120933号公報
【特許文献2】特開平10−43573号公報
【特許文献3】特開平10−66860号公報
【特許文献4】特開平7−147899号公報
【特許文献5】特開平08−205771号公報
【特許文献6】特開平09−168369号公報
【特許文献7】特開平10−084887号公報
【特許文献8】特開平11−332463号公報
【特許文献9】特開平7−100355号公報
【特許文献10】特開平10−182493号公報
【特許文献11】特開2004−339086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水性の飲食品や化粧品などの水性媒体(以下、単に水性媒体と略記することもある。)に添加する際、強力な剪断力を与える乳化機や高圧ホモジナイザーを用いずとも油溶性物質が、水性媒体中で容易に安定した可溶化状態を保持し得る耐熱性、耐酸性に優れた油溶性物質含有可溶化組成物の製造方法およびその製造方法により製造される組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、油溶性物質と、(1)特定のポリグリセリン脂肪酸エステル(乳化剤E1)、(2)特定のショ糖脂肪酸エステル(乳化剤E2)、および(3)ホスファチジルコリンおよび/またはリゾホスファチジルコリン含量を高めた特定のレシチン類(乳化剤E3)のうち2種以上の乳化剤とをエタノールに透明に溶解せしめた後、エタノールを留去すると耐酸、耐熱性も具備した可溶化組成物を得ることができることを見出した。本発明者らはさらに研究を重ね、本発明を完成するにいたった。
【0006】
すなわち本発明は
[1] 油溶性物質と、
(1)HLB10以上で炭素数14以下の脂肪酸と重合度3以上のポリグリセリンとのエステルから構成される乳化剤E1、
(2)HLB10以上で炭素数14以下の脂肪酸とショ糖とのエステルから構成される乳化剤E2、および
(3)リン脂質含量に対するホスファチジルコリンの割合が50%以上占めるレシチンおよび/またはリゾホスファチジルコリンの割合が50%以上占めるリゾレシチンから構成される乳化剤E3
から選択される2種または3種の乳化剤とを、(a)エタノール、または(b)エタノールと、アセトン、へキサンおよび酢酸エチルから選択される1種または2種以上との混合溶媒に透明に溶解せしめた後、前記溶媒を留去せしめることを特徴とする耐酸および耐熱性を有する油溶性物質含有可溶化組成物の製造方法、
[2] 溶媒が、エタノール/アセトン(100〜50/0〜50(V/V)%)またはエタノール/ヘキサン(100〜50/0〜50(V/V)%)であることを特徴とする前記[1]に記載の製造方法、
[3] 乳化剤が、乳化剤E1、E2およびE3であり、それぞれの含有割合が、油溶性物質1質量部に対し、
乳化剤E1が0.1〜50質量部、
乳化剤E2が0.1〜30質量部、および
乳化剤E3が0.1〜20質量部
であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の製造方法、
[4] 透明に溶解せしめた溶液に、さらに油溶性物質1質量部に対して50質量部以下の多価アルコールを添加せしめた後、溶媒を留去せしめることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法、
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする耐酸および耐熱性を有する油溶性物質含有可溶化組成物、
[6] さらに、エタノールを含有し、エタノールの含有割合が油溶性物質1質量部に対して50質量部以下であることを特徴とする前記[5]に記載の組成物、
[7] 前記[5]または[6]に記載の組成物を含んでなることを特徴とする飲食品、および
[8] 前記[5]に記載の組成物を含んでなることを特徴とする化粧品、
に関する。
【0007】
本発明の油溶性物質含有可溶化組成物の製造方法は、以下の工程1および2を含む。
工程1:油溶性物質と、乳化剤E1、E2およびE3から選択される2種または3種の乳化剤とを以下の(a)または(b)の溶媒に透明に溶解せしめる工程。
(a)エタノール;
(b)エタノールと、アセトン、へキサンおよび酢酸エチルから選択される1種または2種以上との混合溶媒。
工程2:工程1における溶媒を留去する工程。
【0008】
上記工程1において、用いられる油溶性物質としては、水に不溶性または難溶性でかつ油に溶解し易い物質が挙げられ、このような性質をもつものであれば特に制限されないが、例えば着色料、着香料、油脂類、脂溶性ビタミン類、各種生理活性物質、調味料、酸化防止剤、保存料などの油溶性物質が挙げられる。着色料としては、例えばカロチン、フラボノイド、ウコン、アナトー、アントシアニンまたはタール色素などが挙げられ、着香料としては、例えばオレオレジンまたは精油などの天然香料素材やそれらのエステル、ケトンまたはラクトンなどの合成香料素材などが挙げられる。油脂類としては、例えば各種動植物性油脂や微生物由来の油脂または中鎖トリアシルグリセロールなどといった合成油脂などが挙げられる。脂溶性ビタミン類としては、例えばビタミンA、D、EまたはKなどが挙げられる。各種生理活性物質としては、例えばコエンザイムQ10、α−リポ酸、アスタキサンチン、アントシアニン、リコピン、オクタコサノール、γ−オリザノール、ウコン(クルクミン)、植物ステロールまたはルテインなどが挙げられる。調味料としては、例えば唐辛子エキスなどの動植物性エキスなどが挙げられ、酸化防止剤としては、例えばトコフェロール、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)または天然抽出抗酸化剤などが挙げられる。保存料としては、例えばパラオキシ安息香酸エステルまたは安息香酸などが挙げられる。
【0009】
乳化剤E1としては、炭素数14以下の脂肪酸と重合度3以上のポリグリセリンとのエステルから構成され、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)が10以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。炭素数15以上の飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸とポリグリセリンとから得られるポリグリセリン脂肪酸モノエステル(特開平10−84887号公報、特開平11−332463号公報)では、水性媒体に該ポリグリセリン脂肪酸モノエステルを添加した時、安定な溶液となり難い。炭素数14以下の脂肪酸は、炭素数8〜14の飽和または不飽和脂肪酸が好ましい。炭素数8〜14の飽和または不飽和脂肪酸としては、例えばカプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸またはウンデシレン酸などが挙げられ、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸またはミリスチン酸がより好ましい。炭素数14以下の脂肪酸は、1種単独でもよく2種以上の混合物であってもよい。重合度3以上のポリグリセリンは、重合度3〜10のポリグリセリンが好ましい。ポリグリセリンは1種単独でもよく2種以上の混合物であってもよい。
HLBは、乳化剤の水と油溶性物質との親和性の程度を表すもので、乳化剤E1のHLBは10以上で、10未満であると、製造される油溶性物質含有可溶化組成物を水性媒体に添加したとき、水性媒体への組成物の溶解性が抑制される。
【0010】
乳化剤E1の好ましい上市品としては、例えばデカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノカプリン酸エステルまたはデカグリセリンモノカプリル酸エステルなどが挙げられる。
乳化剤E1は1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0011】
なお、本発明でポリグリセリンの重合度は、水酸基価の測定による下式から求めることができる。
【0012】
【数1】

【0013】
乳化剤E1の配合量は、可溶化効果および油溶性物質の含有量などを考慮すると、油溶性物質1質量部に対し約0.1〜50質量部が好ましく、約0.2〜40質量部がより好ましい。乳化剤E1が、約0.1質量部未満では油溶性物質を安定に可溶化するのが難しく、50質量部を超えるとその量の割には本願発明効果のさらなる向上は得がたく、むしろ油溶性物質の含量が少なくなるという不都合を生じ得る。
【0014】
乳化剤E2としては、炭素数14以下の脂肪酸とショ糖とのエステルから構成され、HLB10以上のショ糖脂肪酸エステルが挙げられる。炭素数14以下の脂肪酸は、上記乳化剤E1における炭素数14以下の脂肪酸と同様のものが挙げられる。該当するショ糖脂肪酸エステルとしては、特に制限されないが、具体的な上市品ではモノエステル体が50%以上占めるショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖カプリル酸エステルまたはショ糖カプリン酸エステルなどが挙げられる。炭素数14以上の脂肪酸とショ糖とのエステルやHLB10未満のショ糖脂肪酸エステル(特開平10−43573、66860号公報)では水性媒体に組成物を添加した時に安定な溶液となり難い。乳化剤E2のHLBは10以上で、10未満であると、製造される油溶性物質含有可溶化組成物を水性媒体に添加したとき、水性媒体への組成物の溶解性が抑制される。
乳化剤E2は1種単独で用いても良いし、2種以上組合わせて用いても良い。
【0015】
乳化剤E2の配合量は、可溶化および油溶性物質の含有量などを考慮すると、油溶性物質1質量部に対し、約0.1〜30質量部が好ましく、約0.2〜25質量部がより好ましい。0.1質量部未満では油溶性物質を安定に可溶化するのが難しく、30質量部を越えても本願発明の効果のさらなる向上は得がたい。
【0016】
本発明で用いられる乳化剤E3として使用されるホスファチジルコリン(以下、PCと略記する。)の割合が50%以上(以下、PC50%以上と略記する。)占めるレシチンとしては、植物油製造工程の脱ガム工程で得られる通常の例えばナタネレシチンもしくは大豆レシチンなどの植物レシチンをリン脂質含量に対するPCの割合を50%以上に高めた植物性レシチンや卵黄由来のエッグレシチンなどが挙げられる。植物性レシチンは、構成リン脂質としてPC以外にホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールまたはホスファチジン酸などを含有しているのでこれらを除くことが好ましい。PC50%以上の植物レシチン(例えば、大豆レシチン)は、例えば通常の植物レシチンをアセトンで処理し、次いでアセトン不溶解画分をエタノールで処理し、エタノール溶解画分からエタノールを蒸発させるなどしてPC50%以上の植物レシチン(例えば、大豆レシチン)を得ることができる。
【0017】
また、本発明で用いられる乳化剤E3として使用されるリゾホスファチジルコリン(以下、LPCと略記する。)の割合が50%以上占めるリゾレシチンとしては、ナタネレシチンや大豆レシチンなどの植物性レシチンや、卵黄由来のエッグレシチンなどをホスフォリパーゼA1またはA2などで酵素分解したものを溶媒分画などによりリゾリン脂質含量に対するLPCの割合を50%以上に高めたものなどが挙げられる。
該リゾレシチンは、エッグレシチンの場合はそのまま、植物性レシチンは上記PC50%以上の植物性レシチンを酵素分解するか通常の植物レシチンを酵素分解後、エタノール溶解画分から得ることが好ましい。酵素分解の方法は公知の方法に従ってまたは公知の方法に準じて行うことができ、例えば、エッグレシチンまたはPC50%以上の植物性レシチンを含む水溶液を約50〜60℃に加温下、ホスフォリパーゼA1またはA2を作用させて加水分解するなどにより行うことができる。
なお、本発明においてレシチン量はアセトン不溶物であるリン脂質換算の量で表すことができ、該リン脂質量は例えば日本油化学会編「基準油脂分析試験法5.3.3.1−86リン脂質リン組成」などに記載の方法により測定できる。
【0018】
リン脂質含量に対するPCの割合が50%以上であるレシチンまたはLPCの割合が50%以上であるリゾレシチンはそれぞれ単独で用いても良く、レシチンおよびリゾレシチンを併用しても良い。リン脂質含量に対するPCの割合が50%未満であるレシチンまたはLPCの割合が50%未満であるリゾレシチンを用いると、製造される油溶性物質含有可溶化組成物の溶解性や透明性が抑制される。
【0019】
乳化剤E3の配合量は、可溶化効果および油溶性物質の含有量などを考慮すると、油溶性物質1質量部に対し、約0.1〜20質量部が好ましく、約0.2〜15質量部がより好ましい。油溶性物質1質量部に対し、0.1質量部以下では油溶性物質を安定に可溶化するのが難しく、20質量部を越えるとその量の割には本願発明の効果のさらなる向上は得がたく、むしろ油溶性物質の含量が少なくなるという不都合を生じ得る。また、風味を損なう恐れが生じ得る。
【0020】
工程1において、上記した油溶性物質と、乳化剤E1、E2およびE3から選択される2種または3種の乳化剤とを(a)エタノール、または(b)エタノールと、アセトン、へキサンおよび酢酸エチルから選択される1種または2種以上との混合溶媒に透明に溶解せしめることが好ましい。乳化剤E1、E2およびE3から選択される2種または3種の乳化剤の組み合わせとしては、例えば、(i)乳化剤E1と乳化剤E2の組み合わせ、(ii)乳化剤E1と乳化剤E3の組み合わせ、(iii)乳化剤E2と乳化剤E3の組み合わせ、(iv)乳化剤E1、乳化剤E2および乳化剤E3の組み合わせが好ましく挙げられるが、(iv)の組み合わせがとりわけ好ましい。各乳化剤の配合割合は、例えば、上記(iv)の組み合わせの場合、油溶性物質1質量部に対し、乳化剤E1が0.1〜50質量部、乳化剤E2が0.1〜30質量部、および乳化剤E3が0.1〜20質量部が好ましい。
【0021】
工程1において、使用されるエタノールは特に制限はないが、無水エタノール(約99容量%以上)や工業用エタノール(約95容量%以上)などが好ましく挙げられる。エタノールと、アセトン、へキサンおよび酢酸エチルから選択される溶媒との混合溶媒としては、エタノールとアセトンとの混合溶媒、エタノールとヘキサンとの混合溶媒、エタノールと酢酸エチルとの混合溶媒、エタノールとアセトンとヘキサンとの混合溶媒などが好ましく挙げられる。エタノールと他の溶媒との混合割合は、エタノールが約100(V/V)%未満50(V/V)%以上であり、残余が他の溶媒であることが好ましい。これら混合溶媒を使用することにより、油溶性物質の溶解がより容易となり、少ない溶媒量で油溶性物質と乳化剤との透明溶液を作り得る。工程1で用いられる溶媒としては、エタノール、またはエタノールとアセトンとの混合溶媒もしくはエタノールとヘキサンとの混合溶媒がより好ましく、エタノール/アセトン(約100〜50/0〜50(V/V)%)またはエタノール/ヘキサン(約100〜50/0〜50(V/V)%)がさらに好ましい。
工程1で用いられるエタノールまたは混合溶媒の使用量は油溶性物質と乳化剤の種類により異なるが、油溶性物質1質量部に対し約3〜500質量部の範囲が好ましい。該範囲内であれば、油溶性物質と乳化剤を透明に溶解せしめことができる。
工程1における油溶性物質と乳化剤の溶解は、室温または約50〜60℃の加温下に行うことが好ましい。また、油溶性物質と乳化剤の溶解は、所望により攪拌してもよい。攪拌は、公知の攪拌機、例えば通常のプロペラ攪拌機などを用いて行うことができる。「透明に溶解」としては、油溶性物質と乳化剤E1、E2またはE3が、エタノールまたは上記混合溶媒に、完全に透明に溶解している状態または透明に溶解しているように見える状態が挙げられる。「透明」は、色を呈してもよく、その色調は油溶性物質の種類、量などにより決定され得る。
【0022】
また、工程1において、用いられるエタノールに換えてメタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどの低級アルコールも使用し得る。この場合、エタノールの一部を換えてもよく、また全部を換えてもよい。
また、工程1において用いられる溶媒には、油溶性物質と乳化剤とが透明に溶解し、本発明の目的を逸脱しない範囲で水を含んでいてもよく、このような水を含む溶媒で製造される方法も本発明の範囲内である。
【0023】
本発明の製造方法において、工程1の油溶性物質と乳化剤E1、E2およびE3から選択される2種または3種を上記溶媒に透明に溶解せしめた溶液には、所望によりさらに多価アルコールを添加せしめてもよい。多価アルコールとは、1分子中に2つ以上の水酸基を持つアルコールであって、具体的には例えば、プロピレングリコール、グリセリンの他、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、還元水あめなどの糖アルコールなどが挙げられる。これら多価アルコールは単独であるいは2種以上混合して用いることができる。多価アルコールの添加量は、多価アルコールの種類、並びに製造される油溶性物質含有可溶化組成物の原料となる油溶性物質、乳化剤E1、E2およびE3の種類、配合量などによって異なるが、工程1において透明に溶解せしめた溶液の透明性を保持できる範囲が好ましく、通常、油溶性物質1質量部に対して約50質量部以下が好ましく、約1〜20質量部がより好ましい。多価アルコールは、工程1において用いられる溶媒に添加されてもよく、また油溶性物質と乳化剤とを溶媒に溶解した溶液に添加されてもよい。
多価アルコールを添加して製造される油溶性物質含有可溶化組成物は、取扱いが簡便になり、水性媒体への該組成物の溶解性もより向上し得る。
【0024】
上記工程2における溶媒の留去は、その方法に制限はなく、例えば、約40〜60℃の加温下、約20mmHg以下の減圧によって行うことが好ましい。溶媒が留去された後の組成物は、実質上無溶媒であることが好ましく、油溶性物質と乳化剤E1、E2およびE3から選択される2種または3種を透明に溶解するために使用される上記した全ての溶媒を含まないことが好ましい。溶媒が留去された後の組成物は、(1)油溶性物質と、乳化剤E1、E2およびE3から選択される2種または3種の乳化剤とで構成されるか、(2)油溶性物質と、乳化剤E1、E2およびE3から選択される2種または3種の乳化剤、および所望により添加される多価アルコールとで構成されることが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法により製造される油溶性物質含有可溶化組成物は、水性媒体に添加すると該組成物が水性媒体に容易に溶解や均一に分散される。
本発明の製造方法により製造される油溶性物質含有可溶化組成物は、耐酸性および耐熱性を有し、該油溶性物質含有可溶化組成物が添加された水性媒体においても、耐酸性および耐熱性を保持し得る。「耐酸性」としては、酸性条件下において安定であることが挙げられ、例えば、酸性の水性媒体中において油溶性物質が分離などしないことを含む。酸性の水性媒体としては、例えばpH約3〜5のクエン酸水溶液や各種果汁または酢酸などが挙げられる。「耐熱性」としては、高温条件下において安定であることが挙げられ、例えば、高温殺菌または高温環境下に置かれることなどを含む。高温殺菌としては、通常約100℃以上の加熱殺菌が挙げられ、例えば約120〜125℃のオートクレーブを用いる高圧蒸気殺菌、約130℃〜150℃の多段プレートヒータを利用する湿熱殺菌などが挙げられる。高温環境下は、例えば飲食品が約50〜80℃の保温機に保存される場合などが挙げられる。
【0026】
本発明の製造方法により製造される油溶性物質含有可溶化組成物としては、(i)油溶性物質と、油溶性物質1質量部に対し乳化剤E1を約0.1〜50質量部と乳化剤E2を約0.1〜30質量部とを含む油溶性物質含有可溶化組成物、(ii)油溶性物質と、油溶性物質1質量部に対し乳化剤E1を約0.1〜50質量部および乳化剤E3を約0.1〜20質量部とを含む油溶性物質含有可溶化組成物、(iii)油溶性物質と、油溶性物質1質量部に対し乳化剤E2を約0.1〜30質量部および乳化剤E3を0.1〜20質量部とを含む油溶性物質含有可溶化組成物、または(iv)油溶性物質と、油溶性物質1質量部に対し乳化剤E1を約0.1〜50質量部、乳化剤E2を約0.1〜30質量部および乳化剤E3を約0.1〜20質量部とを含む油溶性物質含有可溶化組成物が好ましく挙げられるが、(iv)の組成物がとりわけ好ましい。
【0027】
本発明の製造方法により製造される油溶性物質含有可溶化組成物は、さらに、エタノールを含有してもよい。この場合、エタノールの含有量は特に制限されるものではないが、油溶性物質1質量部に対して、約50質量部以下であることが好ましい。エタノールが配合されることにより、油溶性物質含有可溶化組成物の取り扱いが容易になり得る。例えばエタノールを含有する油溶性物質含有可溶化組成物を水性媒体に添加すると、該組成物が水性媒体に、より容易に溶解や分散され得る。
本発明の製造方法により製造される油溶性物質含有可溶化組成物がエタノールを含むものである場合、工程2における溶媒の留去で所要量のエタノールを残存させてもよく、工程2における溶媒除去後、所要量のエタノールを添加してもよい。
【0028】
本発明の製造方法により製造される油溶性物質含有可溶化組成物には、上記の乳化剤E1、乳化剤E2または乳化剤E3に加え、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の乳化剤を添加することもできる。その他の乳化剤としては、具体的に例えば、乳化剤E1以外のポリグリセリン脂肪酸エステル、乳化剤E2以外のショ糖脂肪酸エステル、乳化剤E3以外のレシチンやリゾレシチン、その他の有機酸モノグリセリド、ソルビタン酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、サポニン、ステロール、コール酸、デオキシコール酸、ユッカ抽出物などが挙げられる。
【0029】
本発明の製造方法により製造される油溶性物質含有可溶化組成物は、そのまま水に溶解して摂取したり、あるいは飲食品や化粧品の配合原料として利用できる。本発明の製造方法により製造される油溶性物質含有可溶化組成物を飲食品や化粧品の配合原料として、水性媒体に添加した際、軽い攪拌のみで該組成物を可溶化できる。前記可溶化は、油溶性物質含有可溶化組成物が水性媒体中に分散して熱力学的に安定な溶液を作ること、またはマイクロエマルションのように系が均一な相を呈することの両者を含む。本発明に係る油溶性物質含有可溶化組成物を水性媒体に添加した後における水性媒体は、透明溶液または透明性は欠くが安定な溶液となり得る。
本発明の製造方法により製造される油溶性物質含有可溶化組成物が飲食品や化粧品の配合原料として用いられる場合には、約30〜5000倍程度に希釈されることが好ましい。
【0030】
本発明に係る飲食品としては、特に限定されず、例えば食塩などのミネラル、酸味料、甘味料、アルコール、ビタミン、フレーバーおよび果汁の中から選ばれた少なくとも1種を含むスポーツ飲料、その他牛乳、豆乳、果汁飲料、黒酢などの酸性飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、アルコール入り飲料、ビタミン、ミネラル、例えばウコンなどの植物抽出物入り栄養飲料などを挙げることができる。また、一般食品としては、例えば、パン、菓子類やヨーグルト、ドレッシング、スープ、味噌汁またはシチューなどの加工食品、あるいは醤油、出汁などの調味料などを挙げることができる。本発明の油脂含有水溶性組成物を飲料に用いた場合にはその飲料は、長期間保存してもクリーミングを生じたり、油溶成分が分離したりすることなく、均一な乳化または可溶化状態を保つことができる。本発明の油溶性物質含有水溶性組成物を含有する飲料は、約90〜120℃程度の温度で殺菌処理を行うことができる。
【0031】
本発明に係る化粧品としては、特に限定されず、例えば洗浄剤、シャンプー、リンス、ヘアートニック、ヘアーローション、アフターシェーブローション、ボディーローション、化粧ローション、クレンジングクリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、エアゾール製品、消臭剤、芳香剤、脱臭剤または入浴剤などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る油溶性物質含有可溶化組成物は、水性の飲食品や化粧品に均一に容易に可溶化させることができる。本発明に係る油溶性物質含有可溶化組成物は、水性媒体に添加されると、強力な剪断力を与える乳化機や高圧ホモジナイザーを用いずとも、軽い攪拌のみで均質に可溶化される。本発明に係る油溶性物質含有可溶化組成物は耐酸性に優れているので、本発明に係る油溶性物質含有可溶化組成物が配合された水性の飲食品や化粧品が、例えばクエン酸などの酸を含む酸性の溶液であっても油溶性物質などが分離せず安定に存在し得る。また、本発明に係る油溶性物質含有可溶化組成物は耐熱性に優れているので、本発明に係る油溶性物質含有可溶化組成物が配合された水性の飲食品や化粧品が、例えば高熱滅菌を必要とするものであり、該水性の飲食品や化粧品を高熱殺菌に付しても油溶性物質が分離せず安定な水性の飲食品や化粧品として存在し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に本発明のいくつかの実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそのような実施例の記載によって何らの制限を受けるものではない。
また、本発明には以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々の変更、修正、改良を加え得るものを含む。なお、実施例中のパーセントは質量%を示す。
また、以下の実施例において乳化剤は、以下を使用した。
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル:グリスターMM−750、阪本薬品工業(株)製(重合度 10、HLB 15.5)
デカグリセリンモノラウリン酸エステル:グリスターML−750、阪本薬品工業(株)製(重合度 10、HLB 14.8)
デカグリセリンモノカプリン酸エステル:グリスターMD−750、阪本薬品工業(株)製(重合度 10、HLB 15.0)
デカグリセリンモノステアリン酸エステル:グリスターMSW−7S、阪本薬品工業(株)製(重合度 10、HLB 13.4)
デカグリセリンモノオレイン酸エステル:グリスターMO−7S、阪本薬品工業(株)製(重合度 10、HLB 12.9)
デカグリセリンモノパルミチン酸エステル:リョートーP−8D、三菱化学フーズ(株)製(重合度 10、HLB 16)
テトラグリセリンモノラウリン酸エステル:グリスターML−310、阪本薬品工業(株)製(重合度 4、HLB 10.3)
ジグリセリンモノミリスチン酸エステル:ポエムDM−100、理研ビタミン(株)製(重合度 2、HLB 8.8)
ショ糖ラウリン酸エステル(モノエステル80%):リョートーL−1695、三菱化学フーズ(株)製(HLB 16)
ショ糖ラウリン酸エステル(モノエステル30%):リョートーL−595、三菱化学フーズ(株)製(HLB 5)
ショ糖ミリスチン酸エステル(モノエステル80%):リョートーM−1695、三菱化学フーズ(株)製(HLB 16)
ショ糖オレイン酸エステル(モノエステル70%):リョートーO−1570、三菱化学フーズ(株)製(HLB 15)
ショ糖パルミチン酸エステル(モノエステル80%):リョートーP−1670、三菱化学フーズ(株)製(HLB 16)
ソルビトールモノラウリン酸エステル:ポエムL−300、理研ビタミン(株)製(HLB 8.0)
ソルビタンモノラウリン酸エステル:エマゾールL−10V、花王(株)製(HLB 8.6)
大豆レシチン:SLP−ペースト、辻製油(株)製[アセトン不溶物(リン脂質含量)62質量%(リン脂質に対するPCの割合:28%)]
大豆分画レシチンPC35:SLP−PC35、辻製油(株)製[アセトン不溶物(リン脂質含量)65質量%(リン脂質に対するPCの割合:70%)]
大豆分画リゾレシチンLPC70:SLP−LPC70、辻製油(株)製[アセトン不溶物(リン脂質含量)98質量%(リゾリン脂質に対するLPCの割合:76%)]
【実施例1】
【0034】
ウコン(CRUCUMIN C3 COMPLEX、SABINSA JAPAN CORPORATION(株)製;純度96.95%;以下、同様) 2.5g
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を500gのエタノールに加え、60℃の加温下、10分で溶解せしめた。溶解後、減圧下にエタノールを留去せしめてペースト状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例2】
【0035】
実施例1の大豆分画レシチンPC35 5gの代わりに大豆分画リゾレシチンLPC70 5gを用い、実施例1と同様に半固形状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例3】
【0036】
実施例1の大豆分画レシチンPC35 5gの代わりに大豆分画レシチンPC35 2gおよび大豆分画リゾレシチンLPC70 3gを用い、実施例1と同様に半固形状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例4】
【0037】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノラウリン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
ウコンと、デカグリセリンモノラウリン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を500gのエタノールに加え、60℃の加温下、10分で溶解せしめた。溶解後、減圧下にエタノールを留去せしめてペースト状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例5】
【0038】
実施例4の大豆分画レシチンPC35 5gの代わりに大豆分画リゾレシチンLPC70 5gを用い、実施例4と同様に半固形状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例6】
【0039】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノカプリン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
ウコンと、デカグリセリンモノカプリン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を500gのエタノールに加え、60℃の加温下、10分で溶解せしめた。溶解後、減圧下にエタノールを留去せしめてペースト状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例7】
【0040】
実施例6の大豆分画レシチンPC35 5gの代わりに大豆分画リゾレシチンLPC70 5gを用い、実施例6と同様に半固形状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例8】
【0041】
ウコン 2.5g
テトラグリセリンモノラウリン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
ウコンと、テトラグリセリンモノラウリン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を500gのエタノールに加え、60℃の加温下、10分で溶解せしめた。溶解後、減圧下にエタノールを留去せしめてペースト状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例9】
【0042】
実施例8の大豆分画レシチンPC35 5gの代わりに大豆分画リゾレシチンLPC70 5gを用い、実施例8と同様に半固形状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例10】
【0043】
ウコン 2.5g
ショ糖ミリスチン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
ウコンと、ショ糖ミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を500gのエタノールに加え、60℃の加温下、10分で溶解せしめた。溶解後、減圧下にエタノールを留去せしめてペースト状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例11】
【0044】
実施例10の大豆分画レシチンPC35 5gの代わりに大豆分画リゾレシチンLPC70 5gを用い、実施例10と同様に半固形状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例12】
【0045】
ウコン 2.5g
ショ糖ラウリン酸エステル(L−1695) 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
ウコンと、ショ糖ラウリン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を500gのエタノールに加え、60℃の加温下、10分で溶解せしめた。溶解後、減圧下にエタノールを留去せしめてペースト状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例13】
【0046】
実施例12の大豆分画レシチンPC35 5gの代わりに大豆分画リゾレシチンLPC70 5gを用い、実施例12と同様に半固形状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例14】
【0047】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル 92.5g
ショ糖ラウリン酸エステル(L−1695) 5.0g
ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよびショ糖ラウリン酸エステルを500gのエタノールに加え、60℃の加温下、10分で溶解せしめた。溶解後、減圧下にエタノールを留去せしめてペースト状の可溶化組成物100gを得た。
【実施例15】
【0048】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル 90.0g
ショ糖ラウリン酸エステル(L−1695) 5.0g
大豆分画レシチン PC35 2.5g
ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステルおよび大豆分画レシチン PC35を500gのエタノールに加え、60℃の加温下、10分で溶解せしめた。溶解後、減圧下にエタノールを留去せしめて半固形状の可溶化組成物100gを得た。
【0049】
〔比較例1〜11〕
実施例1のデカグリセリンモノカプリン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35の代わりに下記表の乳化剤を使用する以外は、実施例1と同様に比較例1〜11の組成物を調製した。
【表1】

【実施例16】
【0050】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を500gの70%エタノール(30%の水を含む)に加え、60℃で、10分間、加温し、溶解せしめた。透明溶液になったのを確認後、減圧下に70%エタノールを留去せしめて固いペースト状組成物100gを得た。
【0051】
〔比較例12〕
実施例16の70%エタノールの代わりに50%エタノール水溶液を用い、実施例16と同様に60℃で、加温した。加温した溶液は10分では透明溶液とはならず、不透明で少量の不溶物が存在した。さらに加温をつづけ、1時間後に不透明状態のまま、50%エタノール水溶液を減圧下に留去せしめ不均一なペースト状組成物100gを得た。
【実施例17】
【0052】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を100gのアセトンに溶解し、エタノール200gに添加後、攪拌し透明溶液を得た。溶媒を減圧下に留去して固いペースト状組成物100gを得た。
【実施例18】
【0053】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
エタノール 5.0g
ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を500gのエタノールに加え、60℃で、10分間、加温し、溶解せしめた。透明溶液になったのを確認後、減圧下にエタノールを5g残存するまで留去せしめて柔らかいペースト状組成物105gを得た。
【実施例19】
【0054】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
エタノール 50.0g
ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を500gのエタノールに加え、60℃で、10分間、加温し、溶解せしめた。透明溶液になったのを確認後、減圧下にエタノールを50g残存するまで留去せしめて粘ちょう溶液150gを得た。
【実施例20】
【0055】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
グリセリン 5.0g
ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35とを、グリセリンを溶解した500gのエタノールに加え、60℃で、10分間、加温し、溶解せしめた。透明溶液になったのを確認後、減圧下にエタノールを留去せしめて柔らかいペースト状組成物105gを得た。
【実施例21】
【0056】
ウコン 2.5g
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル 92.5g
大豆分画レシチンPC35 5.0g
マルチトール 5.0g
ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35とを、マルチトールを溶解した500gのエタノールに加え、60℃で、10分間、加温し、溶解せしめた。透明溶液になったのを確認後、減圧下にエタノールを留去せしめて固めのペースト状組成物105gを得た。
【0057】
〔比較例13〕
実施例1のウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35をエタノールに溶解せず無溶媒で、100℃、30分間練り合わせ、組成物100gを得た。
【0058】
〔比較例14〕
実施例1のエタノールの代わりに70℃の温水1Lに攪拌しながらウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンを添加し、10分後ディスパーサー(Janke & Kunkel GmbH & Co. KG製)を用い、24000回転で10分間乳化したところ、乳白色の乳化物となった。このものを減圧下濃縮して不均一なペースト状の組成物を得た。
【0059】
〔試験例1〕
実施例1〜15および、比較例1〜11の組成物を5%濃度となるように水中に添加し、通常の軽い撹拌を行った後、水溶液の清澄性を検討した。清澄性の評価は以下の三段階で行なった。結果を表2に記す。
清澄性の評価:
〇:透明に溶解
△:溶解するが不透明
×:不溶物が浮上もしくは沈澱する
【0060】
【表2】

【0061】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、重合度3以上でHLB10以上、かつ炭素数14以下の脂肪酸とのエステルであり、かつPCおよびLPCの割合が50%以上の大豆分画レシチンまたは大豆分画リゾレシチンとウコンとの組成物が水溶液に清澄に溶解した(実施例1〜9)。
【0062】
乳化剤として該ポリグリセリン脂肪酸エステル単独では充分でなく(比較例1)、該ポリグリセリン脂肪酸エステルと通常の大豆レシチンではエタノール溶液中で溶解しないものが認められ、エタノール留去後可溶化物とならなかった(比較例2)。
【0063】
重合度3以上のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルでHLB10以上であっても、脂肪酸が炭素数14を超えるパルミチン酸、オレイン酸またはステアリン酸とのエステルを用いる組成物も可溶化組成物として不適合であった(比較例3〜5)。
また、炭素数14以下の脂肪酸とのエステルであっても、重合度が3未満のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルを用いて製造された組成物では水溶液に清澄に溶解しなかった(比較例6)。
【0064】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、HLB10以上で炭素数14以下の脂肪酸とのエステルであり、PCおよびLPCの割合が50%以上の大豆分画レシチンまたは大豆分画リゾレシチンとウコンとの組成物が水溶液に清澄に溶解した(実施例10〜13)。重合度3以上のポリグリセリンと脂肪酸が炭素数14を超えるパルミチン酸、オレイン酸とのエステルを用いて製造された組成物や、脂肪酸が炭素数14以下のラウリン酸であってもHLBが10未満のものを用いて製造された組成物では水溶液に清澄に溶解しなかった(比較例7〜9)。
重合度3以上、HLB10以上で、かつ炭素数14以下の脂肪酸とのエステルであるポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルとウコンとの組成物は、大豆分画レシチン、大豆分画リゾレシチンが存在しなくても水溶液に清澄に溶解した(実施例14)。しかし、大豆分画レシチンおよび大豆分画リゾレシチンが共存すると、溶解性が高く清澄度も高まった(実施例15)。
ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル以外のソルビトール型およびソルビタン型の脂肪酸エステルを用いて製造された組成物では水溶液に清澄に溶解しなかった(比較例10〜11)。
【0065】
〔試験例2〕
可溶化組成物の耐熱、耐酸性試験
実施例2および3の可溶化組成物、並びに比較例1の組成物を水またはpH3のクエン酸緩衝液に5%となるよう添加溶解後、水は120℃で30分、pH3のクエン酸緩衝液は110℃で10分間加熱処理した。また、各加熱処理後の水溶液を40℃で30日間それぞれ保存し、各水溶液の清澄性を調査した。清澄性の評価は、以下の三段階で行った。結果を表3に記す。
清澄性の評価:
〇:透明に溶解
△:溶解するが不透明
×:不溶物が浮上もしくは沈澱する
【0066】
【表3】

【0067】
本発明の実施例2および3の可溶化組成物は溶解時に透明に可溶化するばかりでなく、耐熱性、耐酸性も具備していた。一方、大豆分画レシチンや大豆分画リゾレシチン無添加の比較例1のものでは耐酸、耐熱性で劣った。
【0068】
〔試験例3〕
実施例1、16、17および、比較例12において、ウコンと、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルおよび大豆分画レシチンPC35を溶媒に加えて加温した後における溶媒留去前の溶媒溶液の透明性、実施例1、16、17および、比較例12、13、14について、製造された組成物の性状、製造された組成物を水溶液に5%になるよう添加し、撹拌後の水溶液の清澄性を調べた。清澄性の評価は以下の三段階で行なった。結果を表4に記す。
清澄性の評価:
〇:透明に溶解
△:溶解するが不透明
×:不溶物が浮上もしくは沈澱する
【0069】
【表4】

【0070】
実施例16、17および比較例12〜14で大豆分画レシチンPC35の代りに大豆分画リゾレシチンLPC70を用いても同様の結果が得られた。
【0071】
本発明の油溶性物質可溶化組成物の製造方法において、溶媒としてはエタノール単独、またはエタノールに30%の水もしくはアセトンを含む混合溶媒では溶媒留去前の溶液が透明であり、溶媒留去して得られた組成物を水溶液に添加すると清澄に溶解した(実施例1、16、17)。しかし、溶媒として、50%エタノール水溶液を使用した場合は、溶媒留去前の溶液が不透明であり、溶媒留去して得られた組成物を水溶液に添加しても清澄に溶解しなかった(比較例12)。また、油溶性物質と乳化剤とを無溶媒で単に加熱溶解して得られた組成物や、油溶性物質と乳化剤とを水で乳化液にした後濃縮して得られた組成物を水溶液に添加すると、それら組成物は溶解せず不溶物として浮上もしくは沈澱した(比較例13、14)。これらの結果は、油溶性物質および乳化剤を溶媒中に透明に溶解させた後に溶媒留去して製造される組成物が本発明の効力を表すことを明確にしている。
【0072】
〔試験例4〕
可溶化組成物の物性と溶解性試験
実施例1、18〜21の可溶化組成物の物性と、該組成物を水に5%になるよう添加し、軽く撹拌した際の溶解性と清澄性を調べた。結果を表5に記す。
【0073】
【表5】

【0074】
可溶化組成物にエタノールやグリセリン、マルチトールなどの多価アルコールを含有せしめると、可溶化組成物が柔らかいペースト状または粘ちょう性溶液となり取り扱い易くなる。また、これら可溶化組成物を水に添加すると、3分以内に速やかに清澄に溶解した。このことから、これら可溶化組成物は水に対する溶解性に優れることが判明した(実施例18〜21)。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る油溶性物質含有可溶化組成物は飲食品や化粧品、医薬品などの配合原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油溶性物質と、
(1)HLB10以上で炭素数14以下の脂肪酸と重合度3以上のポリグリセリンとのエステルから構成される乳化剤E1、
(2)HLB10以上で炭素数14以下の脂肪酸とショ糖とのエステルから構成される乳化剤E2、および
(3)リン脂質含量に対するホスファチジルコリンの割合が50%以上占めるレシチンおよび/またはリゾホスファチジルコリンの割合が50%以上占めるリゾレシチンから構成される乳化剤E3
から選択される2種または3種の乳化剤とを、(a)エタノール、または(b)エタノールと、アセトン、へキサンおよび酢酸エチルから選択される1種または2種以上との混合溶媒に透明に溶解せしめた後、前記溶媒を留去せしめることを特徴とする耐酸および耐熱性を有する油溶性物質含有可溶化組成物の製造方法。
【請求項2】
溶媒が、エタノール/アセトン(100〜50/0〜50(V/V)%)またはエタノール/ヘキサン(100〜50/0〜50(V/V)%)であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
乳化剤が、乳化剤E1、E2およびE3であり、それぞれの含有割合が、油溶性物質1質量部に対し、
乳化剤E1が0.1〜50質量部、
乳化剤E2が0.1〜30質量部、および
乳化剤E3が0.1〜20質量部
であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
透明に溶解せしめた溶液に、さらに油溶性物質1質量部に対して50質量部以下の多価アルコールを添加せしめた後、溶媒を留去せしめることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする耐酸および耐熱性を有する油溶性物質含有可溶化組成物。
【請求項6】
さらに、エタノールを含有し、エタノールの含有割合が油溶性物質1質量部に対して50質量部以下であることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項5または6に記載の組成物を含んでなることを特徴とする飲食品。
【請求項8】
請求項5に記載の組成物を含んでなることを特徴とする化粧品。


【公開番号】特開2008−72937(P2008−72937A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255041(P2006−255041)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(591193037)辻製油株式会社 (12)
【Fターム(参考)】