説明

波動歯車減速機の潤滑方法および回転テーブル装置

【課題】装置ケースに内蔵の波動歯車減速機の潤滑部分に対して外部から潤滑オイルを確実に供給することのできる波動歯車減速機の潤滑方法を提案すること。
【解決手段】回転テーブル装置1の装置ケース2の内部には波動歯車減速機5が配置されている。装置ケース2に形成したオイル供給路22からカップ形状の可撓性外歯歯車12に形成したオイル供給穴22に潤滑オイルを噴射し、ここを介して内側のウエーブベアリング19を潤滑する。可撓性外歯歯車12の内部に入り込んだ潤滑オイルを、装置ケース2に形成したオイル回収路23を介して外部に強制吸引して回収することにより、高速回転に伴う可撓性外歯歯車内部の負圧状態に起因するオイル吸上げ現象を防止して、ウエーブベアリング19の部位を確実に潤滑できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は装置ケースに内蔵されている波動歯車減速機の潤滑対象部分に外部から潤滑オイルを供給する潤滑方法、および、当該潤滑方法を採用した回転テーブル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯切り盤用回転テーブル装置などの各種工作機械には、部品点数が少なく、高精度の位置決めを行うことのできる波動歯車減速機が用いられている。波動歯車減速機としては、円環状の剛性内歯歯車と、この内側に配置されたカップ形状の可撓性外歯歯車と、この内側に嵌め込まれた波動発生器を備えたカップ型のものが知られている。カップ形状の可撓性外歯歯車は、円筒状胴部と、この一方の端を封鎖しているダイヤフラムおよびボスと、円筒状胴部の他方の開口端の外周面部分に形成した外歯とを備えており、波動発生器は、外歯が形成されている開口端に嵌め込まれている。
【0003】
波動歯車減速機の潤滑機構としては特許文献1〜3に開示のものが知られている。
【特許文献1】特開平09−250610号公報
【特許文献2】特開平09−250609号公報
【特許文献3】特開平09−250611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、この構造の波動歯車減速機を高速回転にて使用する場合には、一般的にオイルバス潤滑を用いている。この場合、潤滑オイルの粘性抵抗によりモータ負荷が増加するという問題がある。また、モータによって高速回転する波動発生器により、可撓性外歯歯車の内部が負圧状態になり潤滑オイルが吸い上げられ、波動発生器のベアリング部分に十分に供給されない潤滑オイル吸上げ現象が発生するという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、内蔵の波動歯車減速機における潤滑が必要な部分に対して外部から潤滑オイルを確実に供給することのできる波動歯車減速機の潤滑方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は装置ケース内に配置されている波動歯車減速機におけるカップ形状の可撓性外歯歯車の内側に嵌め込まれた波動発生器のベアリング部分、および、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車の噛み合い部分に潤滑オイルを供給する波動歯車減速機の潤滑方法であって、可撓性外歯歯車の円筒状胴部、および、その底面部分を規定しているダイヤフラムの少なくとも一方の部位にオイル供給穴を形成し、装置ケースの外側から導入した潤滑オイルを、潤滑油供給穴が形成されている可撓性外歯歯車の部位に向けて噴射し、当該オイル供給穴を介して可撓性外歯歯車の内側に潤滑オイルを強制的に導入し、可撓性外歯歯車の内側に強制導入した潤滑オイルを当該可撓性外歯歯車の開口端部に嵌め込まれている波動発生器のベアリング部分に供給することを特徴としている。
【0007】
ここで、装置ケース内に導入された潤滑オイルを可撓性外歯歯車の開口端の側に強制吸引して、可撓性外歯歯車の内側の潤滑オイルを波動発生器のベアリング部分に強制的に供給すると共に、オイル供給穴から可撓性外歯歯車の内側に入らなかった潤滑オイルを、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車の噛み合い部分に強制的に供給し、これらベアリング部分および噛み合い部分を経由して強制吸引した潤滑オイルを装置ケースの外部に回収することが望ましい。
【0008】
次に、本発明は上記の記載の潤滑方法を採用するために用いる波動歯車減速機の可撓性外歯歯車であって、円筒状胴部と、円筒状胴部の一方の端から半径方向の内側に延びているダイヤフラムと、円筒状胴部の他方の開口端の外周面部分に形成された外歯とを備え、前記円筒状胴部および前記ダイヤフラムの少なくとも一方の部位には、オイル供給用の貫通穴が形成されていることを特徴としている。
【0009】
一方、本発明の回転テーブル装置は、
装置ケースと、
この装置ケースに回転自在の状態で支持されている回転テーブルと、
前記装置ケースおよび前記回転テーブルによって囲まれる内部空間に配置され、当該回転テーブルを回転駆動する波動歯車装置とを有し、
前記波動歯車装置は、前記装置ケースに固定された剛性内歯歯車と、前記回転テーブルに同軸状に連結されているカップ形状の可撓性外歯歯車と、この可撓性外歯歯車の開口端部に嵌め込まれている波動発生器とを備えており、
前記可撓性外歯歯車は、その円筒状胴部、および、その底面部分を規定しているダイヤフラムの少なくとも一方の部位に形成したオイル供給穴を備えており、
前記装置ケースは、外部から潤滑オイルを導入して前記オイル供給穴が形成されている可撓性外歯歯車の部位に向けて当該潤滑オイルを噴射するためのオイル供給路と、前記可撓性外歯歯車の開口端の側に潤滑オイルを強制吸引して当該装置ケース外に回収するためのオイル回収路とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、装置ケースの外部から導入された潤滑オイルが、内蔵の波動歯車減速機の可撓性外歯歯車のオイル供給穴に向けて噴射される。可撓性外歯歯車は回転しており、そこに形成したオイル供給穴も回転しているが、当該オイル供給穴に向けて噴射された潤滑オイルの一部は当該オイル供給穴を介して可撓性外歯歯車の内側に強制的に導入される。可撓性外歯歯車の内側に導入された潤滑オイルによって、可撓性外歯歯車の内側に嵌め込まれている波動発生器のベアリング部分が潤滑される。また、オイル供給穴に入らなかった潤滑オイルは、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車の噛み合い部分に供給され、ここを潤滑する。
【0011】
さらに、可撓性外歯歯車の開口端の側に潤滑オイルを強制吸引することにより、潤滑オイルが強制的にベアリング部および噛み合い部を通って吸引されて装置ケースの外側に回収される。潤滑オイルを可撓性外歯歯車の内側から強制吸引することにより、回転に伴って当該可撓性外歯歯車の内側が負圧状態になることに起因して発生する潤滑オイル吸い上げ現象を防止できる。
【0012】
また、波動歯車減速機の使用開始時にはその機構部から初期摩耗粉が発生するが、潤滑オイルを循環させて外部に回収することにより、発生した摩耗粉を潤滑オイルにより洗い流して外部に回収できる。よって、摩耗粉に起因して、波動歯車減速機の摺動部分、軸受け部分などに損傷が発生することを防止することができる。
【0013】
本発明の潤滑方法は、高速回転にて波動歯車減速機が使用される回転テーブル装置に採用すれば、高速回転に伴って発生する可撓性外歯歯車の内部の負圧状態に起因する潤滑オイル吸い上げ現象を効果的に防止できる。よって、オイルバス潤滑を用いる場合に比べて、波動歯車減速機の潤滑対象部分に対して潤滑オイルを確実、かつ十分に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照して本発明を適用した回転テーブル装置の実施の形態を説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は本実施の形態1に係る回転テーブル装置を示す縦断面図である。回転テーブル装置1は、装置ケース2と、この上に同軸状態で回転自在の状態で支持されている回転テーブル3と、回転テーブル3を回転自在の状態で装置ケース2に支持するために、これらの間に配置されている軸受機構4と、回転テーブル3を中心軸線1a回りに回転駆動するための波動歯車減速機5とを備えている。波動歯車減速機5にはモータなどの回転駆動源(図示せず)が連結されている。
【0016】
装置ケース2は、上下の端が開口している円筒形状のものであり、その上端開口部が回転テーブル3によって封鎖された状態となっており、その下端開口部が円盤状フランジ6によって封鎖されている。これら装置ケース2、回転テーブル3および円盤状フランジ6によって囲まれた内部空間7に、上下方向を向いた状態でカップ型の波動歯車減速機5が配置されている。
【0017】
波動歯車減速機5は、装置ケース2に一体形成されている内歯11と、カップ形状の可撓性外歯歯車12と、波動発生器13とを備えている。可撓性外歯歯車12は、円筒状胴部14と、この上端に連続して半径方向の内側に広がっているダイヤフラム15と、このダイヤフラム15の内周縁に連続して形成されている円環状ボス16と、円筒状胴部14の上端開口部の外周面部分に形成した外歯17とを備えている。
【0018】
波動発生器13は、例えば楕円形輪郭の剛性カム板18と、この外周面に装着されているウエーブベアリング19とを備えている。ウエーブベアリング19は、可撓性の外輪および内輪を備えたボールベアリングである。この波動発生器13は可撓性外歯歯車12の開口端を封鎖する状態で当該可撓性外歯歯車12に嵌め込まれている。波動発生器13によって可撓性外歯歯車12の外歯17が形成されている部分が楕円形に撓められており、楕円形の長軸の両端に位置している外歯17の部分が内歯11の対応する部分に噛み合っている。波動発生器13をモータなどによって回転すると、両歯11、17の噛み合い位置が円周方向に移動し、両歯11、17の歯数差に応じた減速回転が可撓性外歯歯車12から取り出される。可撓性外歯歯車12のボス16は回転テーブル3に同軸状態に連結固定されており、回転テーブル3が可撓性外歯歯車12によって回転駆動される。
【0019】
図2(a)および(b)はカップ形状の可撓性外歯歯車を示す縦断面図および、X−Y線で切断した場合の横断面図である。これらの図も参照して、波動歯車減速機5の潤滑機構を説明する。
【0020】
可撓性外歯歯車12の円筒状胴部14と外歯17の境界部分には、円周方向に一定の角度間隔でオイル供給穴21が形成されている。例えば、45度の角度間隔で8個のオイル供給穴21が形成されている。装置ケース2の側には外部から内部空間7に潤滑オイルを供給するための1本のオイル供給路22が形成されている。このオイル供給路22の内側開口22aは、可撓性外歯歯車12におけるオイル供給穴21が形成されている部位に対峙しており、ここから中心軸線1aに直交する方向に直線状に延びており、その外側開口22bが装置ケース2の外周面に露出している。オイル供給路22を複数本形成することも可能である。
【0021】
一方、内歯11および外歯17の噛み合い部分よりも下側の装置ケース2の内周面部分には、オイル回収路23の内側開口23aが形成されている。この内側開口23aは、オイル供給路22の内側開口22aに対して中心軸線1aを中心として反対側に位置している。また、オイル回収路23は、内側開口23aから中心軸線1aに直交する方向に延びた後に下方に直角に折れ曲がっており、その外側開口23bが装置ケース2の下側端面に露出している。オイル回収路23を複数本形成することも可能である。
【0022】
オイル供給路22には、外部の潤滑オイル供給源から潤滑オイルが圧送される。オイル回収路23は潤滑オイル回収用の吸引ポンプ(図示せず)の吸引ポートに連通しており、当該オイル回収路23を介して潤滑オイルが強制吸引されて回収されるようになっている。
【0023】
潤滑オイル供給源からオイル供給路22に供給される潤滑オイルは、オイル供給路22の内側開口22aから内部に噴射される。噴射された潤滑オイルは、回転している可撓性外歯歯車12におけるオイル供給穴21が形成されている部分に噴き付けられる。この結果、噴き付けられた潤滑オイルの一部がオイル供給穴21から可撓性外歯歯車12の内側に入る。内側に入った潤滑オイルは、波動発生器13のウエーブベアリング19の部分を潤滑する。また、オイル供給穴21に入らなかった潤滑オイルは、内歯11および外歯17の噛み合い部分に供給され、この部分を潤滑することになる。
【0024】
ここで、オイル回収路23を介して不図示の吸引ポンプによって潤滑オイルが強制吸引されている。したがって、可撓性外歯歯車12の内側に入った潤滑オイルは、強制的に、波動発生器13のウエーブベアリング19の部分を通って可撓性外歯歯車12の開口端の側に吸引される。同様に、内歯11および外歯17の噛み合い部分に供給された潤滑オイルも、強制的に当該部分を通って可撓性外歯歯車12の開口端の側に吸引される。開口端の下側に吸引された潤滑オイルは、オイル回収路23を通って外部に回収される。
【0025】
このように、潤滑オイルが可撓性外歯歯車12に形成したオイル供給穴21を通って内部に強制的に供給され、ウエーブベアリング19の部分を潤滑する。また、内部に供給された潤滑オイルが強制吸引されて、可撓性外歯歯車12の内側から、その開口端の側に回収される。したがって、可撓性外歯歯車12の内部負圧状態により潤滑オイル吸い上げ現象を防止することができる。さらに、噛み合い部分に対しても潤滑オイルを確実に供給できる。
【0026】
これに加えて、潤滑オイルを強制循環させることにより、使用開始時に機構部から発生する初期摩耗粉などの異物を洗い流して外部に排出できる。よって、摩耗粉に起因する波動歯車減速機の摺動部分、軸受け部分などの損傷も確実に防止できる。
【0027】
なお、本発明の潤滑方法は、回転テーブル装置以外の工作機械に波動歯車減速機を用いる場合にも適用可能である。また、オイル供給穴21を可撓性外歯歯車12の円筒状胴部14に形成しているが、これと共に、ダイヤフラム15に形成してもよい。
【0028】
(実施の形態2)
図3は本発明を適用した実施の形態2に係る回転テーブル装置を示す縦断面図であり、図4(a)および(b)はカップ形状の可撓性外歯歯車の正面図および縦断面図である。
【0029】
実施の形態2の回転テーブル装置101も基本的には実施の形態1の回転テーブル装置1と同様に構成されている。すなわち、回転テーブル装置101は、装置ケース102と、この上に同軸状態で回転自在の状態で支持されている回転テーブル103と、回転テーブル103を回転自在の状態で装置ケース102に支持するために、これらの間に配置されている軸受機構104と、回転テーブル103を中心軸線101a回りに回転駆動するための波動歯車減速機105とを備えている。波動歯車減速機105にはモータなどの回転駆動源(図示せず)が連結されている。
【0030】
装置ケース102は、上下の端が開口している円筒形状のものであり、その上端開口部が回転テーブル103によって封鎖された状態となっており、その下端開口部が円盤状フランジ106によって封鎖されている。これら装置ケース102、回転テーブル103および円盤状フランジ106によって囲まれた内部空間107に、上下方向を向いた状態でカップ型の波動歯車減速機105が配置されている。
【0031】
波動歯車減速機105は、装置ケース102に一体形成されている内歯111と、カップ形状の可撓性外歯歯車112と、波動発生器113とを備えている。可撓性外歯歯車112は、円筒状胴部114と、この上端に連続して半径方向の内側に広がっているダイヤフラム115と、このダイヤフラム115の内周縁に連続して形成されている円環状ボス116と、円筒状胴部114の上端開口部の外周面部分に形成した外歯117とを備えている。
【0032】
波動発生器113は、例えば楕円形輪郭の剛性カム板118と、この外周面に装着されているウエーブベアリング119とを備えている。ウエーブベアリング119は、可撓性の外輪および内輪を備えたボールベアリングである。この波動発生器113は可撓性外歯歯車112の開口端を封鎖する状態で当該可撓性外歯歯車112に嵌め込まれている。
【0033】
波動歯車減速機105の潤滑機構は次のように構成されている。可撓性外歯歯車112のダイヤフラム115には、同心円上に、一定の角度間隔でオイル供給穴121が形成されている。例えば、60度の角度間隔で6個のオイル供給穴121が形成されている。装置ケース102の側には外部から内部空間107に潤滑オイルを供給するための1本のオイル供給路122が形成されている。このオイル供給路122の内側開口122aは、可撓性外歯歯車112におけるダイヤフラム115の外側に位置しており、ここから中心軸線1aに直交する方向に直線状に延び、その外側開口122bが装置ケース2の外周面に露出している。
【0034】
一方、内歯111および外歯117の噛み合い部分よりも下側の装置ケース102の内周面部分には、オイル回収路123の内側開口123aが形成されている。この内側開口123aは、オイル供給路122の内側開口122aに対して中心軸線101aと同一の側に位置している。また、オイル回収路123は、内側開口123aから中心軸線101aに直交する方向に延びた後に下方に直角に折れ曲がった後に再び中心軸線101aに直交する方向に延び、その外側開口123bが装置ケース2の下端に形成されている大径フランジ102aの外周面に露出している。なお、オイル供給路122およびオイル回収路123を複数本形成することも可能である。
【0035】
ここで、オイル供給路122には、外部の潤滑オイル供給源から潤滑オイルが圧送される。オイル回収路123は潤滑オイル回収用の吸引ポンプ(図示せず)の吸引ポートに連通しており、当該オイル回収路123を介して潤滑オイルが強制吸引されて回収されるようになっている。
【0036】
潤滑オイル供給源からオイル供給路122に供給される潤滑オイルは、オイル供給路122の内側開口122aから内部に噴射される。噴射された潤滑オイルは、回転している可撓性外歯歯車112におけるオイル供給穴121が形成されている部分に向けて噴き付けられる。この結果、噴き付けられた潤滑オイルの一部がオイル供給穴121から可撓性外歯歯車112の内側に入る。内側に入った潤滑オイルは、波動発生器113のウエーブベアリング119の部分を潤滑する。また、オイル供給穴121に入らなかった潤滑オイルは、内歯111および外歯117の噛み合い部分に供給され、この部分を潤滑することになる。
【0037】
一方、オイル回収路123を介して不図示の吸引ポンプによって潤滑オイルが強制吸引されている。したがって、可撓性外歯歯車112の内側に入った潤滑オイルは、強制的に、波動発生器113のウエーブベアリング119の部分を通って可撓性外歯歯車12の開口端の側に吸引される。同様に、内歯111および外歯117の噛み合い部分に供給された潤滑オイルも、強制的に当該部分を通って可撓性外歯歯車112の開口端の側に吸引される。開口端の下側に吸引された潤滑オイルは、オイル回収路123を通って外部に回収される。
【0038】
このように、潤滑オイルが可撓性外歯歯車112に形成したオイル供給穴121を通って内部に強制的に供給され、ウエーブベアリング119の部分を潤滑する。また、内部に供給された潤滑オイルが強制吸引されて、可撓性外歯歯車112の内側から、その開口端の側に回収される。したがって、可撓性外歯歯車112の内部負圧状態により潤滑オイル吸い上げ現象を防止することができる。さらに、噛み合い部分に対しても潤滑オイルを確実に供給できる。これに加えて、潤滑オイルを強制循環させることにより、使用開始時に機構部から発生する初期摩耗粉などの異物を洗い流して外部に排出できる。よって、摩耗粉に起因する波動歯車減速機の摺動部分、軸受け部分などの損傷も確実に防止できる。
【0039】
なお、本例の潤滑方法も、回転テーブル装置以外の工作機械に波動歯車減速機を用いる場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1に係る回転テーブル装置を示す縦断面図である。
【図2】図1の回転テーブル装置に組み込まれている波動歯車減速機の可撓性外歯歯車を示す縦断面図および横断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る回転テーブル装置を示す縦断面図である。
【図4】図3の回転テーブル装置に組み込まれている波動歯車減速機の可撓性外歯歯車を示す正面図および縦断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1、101 回転テーブル装置
1a、101a 中心軸線
2、102 装置ケース
3、103 回転テーブル
4、104 軸受機構
5、105 波動歯車装置
6、106 フランジ
7、107 内部空間
11、111 内歯
12、112 可撓性外歯歯車
13、113 波動発生器
14、114 円筒状胴部
15、115 ダイヤフラム
16、116 ボス
17、117 外歯
18、118 剛性カム板
19、119 ウエーブベアリング
21、121 オイル供給穴
22、122 オイル供給路
23、123 オイル回収路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置ケース内に配置されている波動歯車減速機におけるカップ形状の可撓性外歯歯車の内側に嵌め込まれた波動発生器のベアリング部分、および、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車の噛み合い部分に潤滑オイルを供給する波動歯車減速機の潤滑方法であって、
可撓性外歯歯車の円筒状胴部、および、その底面部分を規定しているダイヤフラムの少なくとも一方の部位にオイル供給穴を形成し、
装置ケースの外側から導入した潤滑オイルを、潤滑油供給穴が形成されている可撓性外歯歯車の部位に向けて噴射し、
当該オイル供給穴を介して可撓性外歯歯車の内側に潤滑オイルを強制的に導入し、
可撓性外歯歯車の内側に強制導入した潤滑オイルを当該可撓性外歯歯車の開口端部に嵌め込まれている波動発生器のベアリング部分に供給することを特徴とする波動歯車減速機の潤滑方法。
【請求項2】
請求項1に記載の波動歯車減速機の潤滑方法において、
装置ケース内に導入された潤滑オイルを可撓性外歯歯車の開口端の側に強制吸引して、
可撓性外歯歯車の内側の潤滑オイルを波動発生器のベアリング部分に強制的に供給すると共に、オイル供給穴から可撓性外歯歯車の内側に入らなかった潤滑オイルを、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車の噛み合い部分に強制的に供給し、
これらベアリング部分および噛み合い部分を経由して強制吸引した潤滑オイルを装置ケースの外部に回収することを特徴とする波動歯車減速機の潤滑方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の潤滑方法に用いる波動歯車減速機の可撓性外歯歯車であって、
円筒状胴部と、円筒状胴部の一方の端から半径方向の内側に延びているダイヤフラムと、円筒状胴部の他方の開口端の外周面部分に形成された外歯とを備え、
前記円筒状胴部および前記ダイヤフラムの少なくとも一方の部位には、オイル供給用の貫通穴が形成されていることを特徴とする波動歯車減速機の可撓性外歯歯車。
【請求項4】
装置ケースと、
この装置ケースに回転自在の状態で支持されている回転テーブルと、
前記装置ケースおよび前記回転テーブルによって囲まれる内部空間に配置され、当該回転テーブルを回転駆動する波動歯車装置とを有し、
前記波動歯車装置は、前記装置ケースに固定された剛性内歯歯車と、前記回転テーブルに同軸状に連結されているカップ形状の可撓性外歯歯車と、この可撓性外歯歯車の開口端部に嵌め込まれている波動発生器とを備えており、
前記可撓性外歯歯車は、その円筒状胴部、および、その底面部分を規定しているダイヤフラムの少なくとも一方の部位に形成したオイル供給穴を備えており、
前記装置ケースは、外部から潤滑オイルを導入して前記オイル供給穴が形成されている可撓性外歯歯車の部位に向けて当該潤滑オイルを噴射するためのオイル供給路と、前記可撓性外歯歯車の開口端の側に潤滑オイルを強制吸引して当該装置ケース外に回収するためのオイル回収路とを備えていることを特徴とする回転テーブル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−223800(P2008−223800A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59156(P2007−59156)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(390040051)株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ (91)
【Fターム(参考)】