波長ロッカー集積型半導体レーザ素子
【課題】更なる小型化を可能にする波長ロッカー集積型半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子1Aは、半導体基板3上に並んで設けられた半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20を備える。半導体レーザ領域10は、利得導波路を含む第1の光導波路と、第1の光導波路の光軸と交差することにより第1の光導波路の反射端面を構成する一対の膜137a,137bとを有する。波長モニタ領域20は、一対の膜137a,137bを介して第1の光導波路と光学的に結合された光導波路21を有する。光導波路21は3本の光導波路211〜213に分岐しており、2本の光導波路211,213は、波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なるリング共振器をそれぞれ構成している。各光導波路211〜213は、3つのフォトダイオード構造22のそれぞれと光学的に結合されている。
【解決手段】半導体レーザ素子1Aは、半導体基板3上に並んで設けられた半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20を備える。半導体レーザ領域10は、利得導波路を含む第1の光導波路と、第1の光導波路の光軸と交差することにより第1の光導波路の反射端面を構成する一対の膜137a,137bとを有する。波長モニタ領域20は、一対の膜137a,137bを介して第1の光導波路と光学的に結合された光導波路21を有する。光導波路21は3本の光導波路211〜213に分岐しており、2本の光導波路211,213は、波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なるリング共振器をそれぞれ構成している。各光導波路211〜213は、3つのフォトダイオード構造22のそれぞれと光学的に結合されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、光通信システムに使用されるレーザ素子が開示されている。特許文献1に記載されたレーザ素子は、互いに光路長が異なる複数のリング共振器が連結された多重リング共振器と、この多重リング共振器にレーザ光を入力し、且つ取り出す光入出力手段とを備えている。そして、多重リング共振器の複数のリング共振器毎に光透過率の共振周波数間隔(FSR;Free Spectral Range)が異なっており、そのバーニア効果を利用して共振波長を制限している。また、リング共振器のスルーポートにおける光量を検出することにより共振波長をモニタし、そのモニタ結果に基づいて多重リング共振器の共振波長を制御している。
【0003】
また、特許文献2に記載されたレーザ素子では、利得領域の前後にリング共振器が結合されている。これらのリング共振器はFSRが互いに異なっており、バーニア効果を利用して共振波長を制限している。
【0004】
非特許文献1には、波長可変型のDFBレーザ素子と波長ロッカーとを一つのパッケージ内に収めた構成を有するレーザモジュールが開示されている。このレーザモジュールが備える波長ロッカーは、DFBレーザ素子の背面光を二つに分岐し、その一方をフォトダイオードにより検出し、他方をエタロンフィルタを介して別のフォトダイオードにより検出し、これらの検出信号に基づいてDFBレーザ素子の出力波長を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−245346号公報
【特許文献2】特開2008−066318号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】木本ほか7名,「高信頼性,波長ロッカー内蔵40mW,25GHz×20ch,波長可変DFBレーザモジュール」,古河電工時報,第112号,平成15年7月,p.1−4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、光通信システムの分野においては、増大する伝送量に対応するために、波長が相互に異なる複数の信号光を用いた波長分割多重(WDM)伝送システムが構築されている。そして、伝送量を更に増大するために、信号光同士の波長間隔をより狭めることが望まれている。現在実用化されているWDM伝送システムでは、互いに出力波長が異なる複数の半導体レーザ素子が送信器に用いられているが、各半導体レーザ素子の出力波長は素子温度や経年変化によって変動する。このような出力波長の変動を抑え、信号光の波長間隔をより狭めるために、半導体レーザ素子の出力波長をモニタして、そのモニタ結果に基づいて出力波長を一定に制御する、いわゆる波長ロッカーが用いられている。
【0008】
一方、光通信システムに使用される送信器には、更なる小型化が要請されている。しかしながら、例えば非特許文献1に記載された波長ロッカーでは、DFBレーザ素子、エタロンフィルタ及びフォトダイオードをそれぞれ個別に配置し、集光レンズ等を介してこれらを光学的に結合する必要があるので、モジュールが大型化してしまう。また、特許文献1に記載された波長ロッカーでは、多重リング共振器が形成されたPLC基板にレーザ素子やフォトダイオードを取り付ける必要があるので、小型化が制限される。
【0009】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、更なる小型化を可能にできる波長ロッカー集積型半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明による波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、半導体基板と、半導体基板上に設けられ、利得導波路を含む第1の光導波路、及び第1の光導波路の屈折率より小さい屈折率を有し、第1の光導波路の光軸と交差することにより第1の光導波路の反射端面を構成する一対の膜を有する半導体レーザ領域と、半導体光素子領域と並んで半導体基板上に設けられ、一対の膜を介して第1の光導波路と光学的に結合された第2の光導波路を有する波長モニタ領域とを備え、波長モニタ領域において、第2の光導波路が3本以上の光導波路に分岐しており、3本以上の光導波路のうち少なくとも2本の光導波路が、波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なる第1のリング共振器をそれぞれ構成しており、波長モニタ領域が、光吸収層を有する3つ以上のフォトダイオード構造を含んでおり、3本以上の光導波路のそれぞれが、3つ以上のフォトダイオード構造のそれぞれと光学的に結合されていることを特徴とする。
【0011】
この波長ロッカー集積型半導体レーザ素子では、光反射機能を有する一対の膜によって半導体レーザ領域と波長モニタ領域とが区分されている。そして、半導体レーザ領域の利得導波路において発生した光が、第1の光導波路を伝搬して一対の膜によって反射されることにより、第1の光導波路内を共振し、一対の膜とは反対側の第1の光導波路の端面からレーザ光として出力される。また、この一対の膜に到達した光の一部は、一対の膜を透過して波長モニタ領域に達する。この光は、3本以上の光導波路にそれぞれ分岐され、うち少なくとも2本の光導波路を伝搬した光は、該少なくとも2本の光導波路それぞれに設けられた第1のリング共振器を通過し、フォトダイオード構造により検出される。
【0012】
ここで、少なくとも2本の光導波路それぞれに設けられた第1のリング共振器は、波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なっており、且つ、これらの光導波路のそれぞれにフォトダイオード構造が設けられている。従って、例えばモードホップや経年劣化により、或る第1のリング共振器のFSRに相当する波長分だけ出力波長が変動した場合であっても、別の第1のリング共振器を通過した光の強度をモニタすることによって、当該事実を認識し、波長の変動分を修正することができる。すなわち、上述した波長ロッカー集積型半導体レーザ素子によれば、出力波長の変動が大きくなる場合であっても、出力波長を精度良くロックできる。
【0013】
また、上述した波長ロッカー集積型半導体レーザ素子では、半導体レーザ領域及び波長モニタ領域が共通の半導体基板上に設けられている。したがって、従来の波長ロッカーの構造と比較して、更なる小型化が可能となる。
【0014】
また、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、少なくとも2本の光導波路によって構成される各第1のリング共振器のうち一の第1のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期が、他の一の第1のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期の2倍より長いことを特徴としてもよい。これにより、他の一の第1のリング共振器のFSRに相当する波長分だけ出力波長が変動した場合であっても、一の第1のリング共振器を通過した光の強度をモニタすることによって、当該事実を容易に認識できる。
【0015】
また、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、半導体レーザ領域が、格子間隔が第1の光導波路の光導波方向に変化しており第1の光導波路に沿って形成された回折格子、及び第1の光導波路の光導波方向に並設された複数の電極を有し、利得導波路の一端側に設けられた光反射部と、利得導波路の他端側に設けられ、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を有する光透過部と、第1の光導波路の光路長を能動的に制御するための位相調整部とを有することを特徴としてもよい。これにより、半導体レーザ領域を波長可変型のレーザ構造にできるので、伝送量が増大する近年のWDM伝送システムにおいて、更に効率的なシステム運用を可能にできる。
【0016】
また、この場合、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、光透過部が、第1の光導波路によって構成された第2のリング共振器を含むことを特徴としてもよい。これにより、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を好適に実現できる。
【0017】
また、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、半導体レーザ領域が分布帰還型レーザ構造を有することを特徴としてもよい。
【0018】
また、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、一対の膜が、SiO2、SiN、及びベンゾシクロブテン樹脂のうち少なくとも一つを含むことを特徴としてもよい。これらの材料は半導体より屈折率が小さいので、光導波路の屈折率より小さい屈折率を有する一対の膜を好適に実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、更なる小型化を可能にする波長ロッカー集積型半導体レーザ素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る波長ロッカー集積型半導体レーザ素子1Aの構成を示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示した半導体レーザ素子1AのII−II線に沿った側断面図である。
【図3】図3(a)は、図2に示す半導体レーザ領域10のIIIa−IIIa線に沿った断面図であり、利得領域10a及び増幅領域10cの構造を示している。図3(b)は、図2に示す半導体レーザ領域10のIIIb−IIIb線に沿った断面図であり、可変DBR領域10bの構造を示している。
【図4】図4(a)は、利得領域10aの発光スペクトルの一例を示すグラフである。図4(b)は、複数のアノード電極124の一つから光導波層120及び回折格子層121へ電流を供給した場合における、可変DBR領域10bの反射スペクトルの一例を示すグラフである。
【図5】図5(a)は、半導体レーザ領域10のVa−Va線に沿った断面図であり、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eの構造を示している。図5(b)は、リング共振器領域10dの透過スペクトルの一例を示すグラフである。
【図6】図6(a)は、図2に示された反射端面領域10fを拡大して示す側断面図である。図6(b)は、図6(a)に示された反射端面領域10fのVIb−VIb線に沿った断面図である。
【図7】図7は、一対の膜137a及び137bから成る膜構造が上記寸法および屈折率を有する場合における、波長−反射率特性の理論値を示すグラフである。
【図8】図8(a)は、波長モニタ領域20の構成を示す平面図である。図8(b)は、図8(a)に示した波長モニタ領域20のVIIIb−VIIIb線に沿った断面図であり、波長モニタ領域20が有する複数のフォトダイオード構造22のうち一つの構成を示している。図8(c)は、リング共振器の寸法例を示す図である。
【図9】図9は、光導波路211,213によって構成される各リング共振器を上記寸法で設計した場合における、透過スペクトルの一例を示すグラフである。
【図10】図10は、半導体レーザ素子1Aから出力されるレーザ光の波長を制御するための制御系統を概略的に示すブロック図である。
【図11】図11は、制御回路17における処理の概要を説明するための図である。
【図12】図12は、本発明の第2実施形態に係る波長ロッカー集積型半導体レーザ素子1Bの構成を示す平面図である。
【図13】図13は、図12に示した半導体レーザ素子1BのXIII−XIII線に沿った側断面図である。
【図14】図14は、半導体レーザ素子1Bから出力されるレーザ光の波長を制御するための制御系統を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明による波長ロッカー集積型半導体レーザ素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
(第1の実施の形態)
本発明に係る波長ロッカー集積型半導体レーザ素子(以下、半導体レーザ素子)の第1実施形態について説明する。図1及び図2を参照すると、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aは、半導体レーザ領域10と、波長モニタ領域20とを備えている。半導体レーザ領域10は、波長可変型の半導体レーザ構造を有しており、利得領域10a、可変DBR領域10b、増幅領域10c、リング共振器領域10d、位相調整領域(位相調整部)10e、及び反射端面領域10fによって構成されている。波長モニタ領域20は、半導体レーザ領域10の反射端面領域10fを透過した背面光の強度を、リング共振器を介して、又はそのまま検出する。この波長モニタ領域20から得られた検出結果は、半導体レーザ領域10の出力波長の制御に使用される。
【0023】
半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20は、図2に示すように互いに共通の半導体基板3上に形成されており、光導波方向に並んで設けられている。光導波方向における半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20の好適な長さは、それぞれ1500 [μm]、及び1000[μm]である。なお、半導体基板3は、例えばn型InPから成り、半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20において下部クラッドとして機能する。
【0024】
また、半導体基板3の裏面側には、後述するカソード電極9を挟んで冷却構造物30が設けられている。冷却構造物30は、例えばヒートシンクとして機能する一対の金属板と、該一対の金属板間に設けられて熱の移動を行うペルチェ素子とを含んで構成され、半導体基板3及びその主面上の積層構造の温度を一定に維持する。
【0025】
まず、図1,図2及び図3を参照して、半導体レーザ領域10が有する利得領域10a、可変DBR領域10b、及び増幅領域10cの構成について説明する。図3(a)は、図2に示す半導体レーザ領域10のIIIa−IIIa線に沿った断面図であり、利得領域10a及び増幅領域10cの構造を示している。また、図3(b)は、図2に示す半導体レーザ領域10のIIIb−IIIb線に沿った断面図であり、可変DBR領域10bの構造を示している。なお、図3(a)及び図3(b)では、冷却構造物30(図2)の図示を省略している。
【0026】
利得領域10a及び増幅領域10cは、半導体基板3上に設けられた光導波層110と、光導波層110上に設けられた上部クラッド層112及びコンタクト層113とを備えている。光導波層110は、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成しており、特に利得領域10aの光導波層110は、本実施形態における利得導波路に相当する。光導波層110は、半導体基板3よりバンドギャップ波長が長い(すなわちバンドギャップが小さい)半導体によって構成され、半導体基板3の主面に沿った光導波方向に延在している。光導波層110は、例えば半導体基板3上に設けられた下部光閉じ込め層と、下部光閉じ込め層上に設けられた活性層と、活性層上に設けられた上部光閉じ込め層とを含んで構成される。
【0027】
一実施例では、下部光閉じ込め層及び上部光閉じ込め層はアンドープGaInAsPから成り、活性層はGaInAsP多重量子井戸(MQW)構造を有する。活性層の組成は、例えば1.52[μm]〜1.57[μm]の光を発生(または増幅)するように調整される。ここで、図4(a)は、利得領域10aの発光スペクトルの一例を示すグラフである。図4(a)において、縦軸は光強度を示し、横軸は波長を示している。図4(a)に示すように、利得領域10aは比較的広い波長域にわたって光を発生させる。光導波層110の厚さは、例えば0.3[μm]である。
【0028】
また、上部クラッド層112はp型InPから成り、コンタクト層113はp型GaInAsから成る。上部クラッド層112及びコンタクト層113の厚さは、例えばそれぞれ2[μm]及び0.2[μm]である。
【0029】
光導波層110、上部クラッド層112及びコンタクト層113は、半導体基板3上において、光導波に適した幅にエッチングされて所定の光導波方向に延びるストライプメサ構造を呈している(図3(a)を参照)。光導波方向と交差する方向におけるストライプメサ構造の横幅は、例えば1.5[μm]である。そして、このストライプメサ構造の両側面には、半絶縁性領域102が設けられている。半絶縁性領域102は、半絶縁性(高抵抗)の半導体、例えばFeがドープされたInPから成る。半絶縁性領域102は、半導体基板3のうち上記ストライプメサ構造を除いた領域上に設けられており、上記ストライプメサ構造の両側面を埋め込んでいる。
【0030】
利得領域10aのコンタクト層113上にはアノード電極114が設けられており、増幅領域10cのコンタクト層113上にはアノード電極115が設けられている。アノード電極114及び115は、例えばTi/Pt/Auによって構成され、コンタクト層113との間でオーミック接触を実現する。また、半導体基板3の裏面上には、カソード電極9が設けられている。カソード電極9は、例えばAuGeを含んで構成され、半導体基板3との間でオーミック接触を実現する。アノード電極114及び115とカソード電極9とは、互いに協働して光導波層110に電流を注入する。なお、利得領域10a及び増幅領域10cの上面のうちアノード電極114,115を除く領域は、例えばSiO2から成る絶縁膜4によって保護されている。
【0031】
また、図1及び図2に示すように、光導波方向における増幅領域10cの端面(すなわち半導体レーザ領域10の端面)には、反射防止(AR:Anti Reflection)膜105が設けられている。このAR膜105の反射率は、例えば0.1%である。
【0032】
可変DBR領域10bは、本実施形態における光反射部を構成する。可変DBR領域10bは、利得領域10aの光導波層110の一端側に設けられており、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−反射率特性を有する。
【0033】
可変DBR領域10bは、半導体基板3上に設けられた光導波層120と、光導波層120上に設けられた回折格子層121、上部クラッド層122及びコンタクト層123とを備えている。光導波層120は、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成する。光導波層120のバンドギャップ波長は、利得領域10aの活性層のバンドギャップ波長より短く、例えば1.3[μm]以下である。この光導波層120は、後述するカソード電極9及びアノード電極124との間に注入される電流の大きさに応じて、その屈折率が変化する。光導波層120は、半導体基板3よりバンドギャップ波長が長い半導体によって構成され、半導体基板3の主面に沿った光導波方向に延在し、その一端は利得領域10aの光導波層110に結合され、他端は増幅領域10cの光導波層110に結合されている。
【0034】
回折格子層121は、光導波層120に沿って設けられる。本実施形態では、回折格子層121は光導波層120の直上に設けられている。光導波層120を中心として光を効果的に閉じ込める為に、回折格子層121のバンドギャップ波長は、光導波層120のバンドギャップ波長より短いことが好ましく、例えば1.2[μm]である。
【0035】
回折格子層121と上部クラッド層122との界面には、回折格子121a(図2を参照)が形成されている。回折格子121aは、光導波層120に沿って形成されており、その格子間隔が光導波層120の光導波方向に変化する、いわゆるチャープ回折格子である。
【0036】
一実施例では、光導波層120及び回折格子層121はアンドープGaInAsPから成り、光導波層120及び回折格子層121の厚さは、例えばそれぞれ0.3[μm]、50[nm]である。また、上部クラッド層122はp型InPから成り、コンタクト層123はp型GaInAsから成る。上部クラッド層122及びコンタクト層123の厚さは、例えばそれぞれ2[μm]及び0.2[μm]である。
【0037】
光導波層120、上部クラッド層122及びコンタクト層123は、利得領域10a及び増幅領域10cの光導波層110等と同様、半導体基板3上において、光導波に適した幅にエッチングされて所定の光導波方向に延びるストライプメサ構造を呈している(図3(b)を参照)。光導波方向と交差する方向におけるストライプメサ構造の横幅は、利得領域10a及び増幅領域10cのストライプメサ構造と同じである。そして、このストライプメサ構造の両側面は、利得領域10a及び増幅領域10cと共通の半絶縁性領域102によって埋め込まれている。
【0038】
コンタクト層123上には、複数のアノード電極124が設けられている。複数のアノード電極124は、コンタクト層123上において、互いに所定の間隔をあけて光導波方向に並設されている。複数のアノード電極124は、例えばTi/Pt/Auによって構成され、コンタクト層123との間でオーミック接触を実現する。各アノード電極124は、半導体基板3の裏面上に設けられたカソード電極9と協働して、各アノード電極124に対応する光導波層120の部分に電流を注入する。なお、可変DBR領域10bの上面のうち複数のアノード電極124を除く領域は、利得領域10a及び増幅領域10cと共通の絶縁膜4によって保護されている。
【0039】
図4(b)に示すグラフG1は、複数のアノード電極124の一つから光導波層120及び回折格子層121へ電流を供給した場合における、可変DBR領域10bの反射スペクトルの一例を示すグラフである。図4(b)の縦軸は反射率、横軸は波長である。なお、図4(b)に破線で表されたグラフG2は、複数のアノード電極124の何れにも電流が供給されない場合を示している。
【0040】
複数のアノード電極124の一つに電流が供給されると、当該アノード電極124の直下における光導波層120及び回折格子層121の屈折率が変化し、回折格子121aが有効に作用する。また、屈折率が変化しない他の部分では、回折格子121aは殆ど作用しない。したがって、図4(b)に示すように、可変DBR領域10bの反射スペクトルにおいては、電流が供給されたアノード電極124の直下に位置する回折格子121aの格子間隔に対応する波長域(図中のA部分)の反射率が選択的に高くなる。本実施形態では複数のアノード電極124のそれぞれに独立して電流を流すことができるので、任意の一つのアノード電極124に電流を流すことにより、所望の波長域での反射率を高め、レーザ発振波長を当該波長域内に制限することができる。なお、同時に電流が供給されるアノード電極124は一つとは限らず、二つ以上のアノード電極124に電流が供給されてもよい。
【0041】
続いて、図1,図2及び図5(a)を参照して、半導体レーザ領域10が有するリング共振器領域10d及び位相調整領域10eの構成について説明する。図5(a)は、半導体レーザ領域10のVa−Va線に沿った断面図であり、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eの構造を示している。なお、図5(a)においても、冷却構造物30(図2)の図示を省略している。
【0042】
リング共振器領域10dは、本実施形態における光透過部を構成する。すなわち、リング共振器領域10dは、利得領域10aの光導波層110の他端側に設けられており、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を有する。位相調整領域10eは、半導体レーザ領域10における光導波路の光路長を能動的に制御するための領域であり、その断面構成はリング共振器領域10dと同様である。
【0043】
リング共振器領域10d及び位相調整領域10eは、図5(a)に示すように、半導体基板3上に順に積層された、光導波層131、上部クラッド層132、及びコンタクト層133を有する。更に、リング共振器領域10dはアノード電極134を有し、位相調整領域10eはアノード電極135を有する。なお、半導体基板3の裏面上に設けられたカソード電極9は、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eのカソード電極としても使用される。また、光導波層131と上部クラッド層132との間には、可変DBR領域10bの回折格子層121と同じ組成の半導体層136が存在しているが、この半導体層136と上部クラッド層132との界面は平坦であり、回折格子は形成されていない。
【0044】
光導波層131は、半導体基板3の主面上に設けられ、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eにおける光導波路として機能し、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成している。リング共振器領域10dの光導波層131の一端は、利得領域10aの光導波層110と光学的に結合されている。また、位相調整領域10eの光導波層131の一端は、リング共振器領域10dの光導波層131の他端と光学的に結合されている。これらの光導波層131は、カソード電極9とアノード電極134(135)との間に注入される電流の大きさに応じて、その屈折率が変化する。
【0045】
一実施例では、光導波層131及び半導体層136はアンドープGaInAsPから成り、これらの厚さは、例えばそれぞれ0.3[μm]、50[nm]である。光導波層131のバンドギャップ波長は、利得領域10aの活性層のバンドギャップ波長より短く、例えば1.3[μm]以下である。また、上部クラッド層132はp型InPから成り、コンタクト層133はp型GaInAsから成る。上部クラッド層132及びコンタクト層133の厚さは、例えばそれぞれ2[μm]及び0.2[μm]である。
【0046】
光導波層131、上部クラッド層132、及びコンタクト層133は、光導波に適した幅にエッチングされてメサ構造を呈している。そして、その上面及び両側面は、例えばSiO2から成る絶縁膜13によって保護されている。絶縁膜13は、このメサ構造の両側面から半導体基板3の主面上にわたって設けられている。絶縁膜13の膜厚は、例えば0.3[μm]である。
【0047】
絶縁膜13上には、メサ構造の両側面に沿って樹脂層15が設けられている。樹脂層15は、例えばベンゾシクロブテン(BCB)樹脂から成り、その層厚は例えば1[μm]〜2[μm]である。
【0048】
アノード電極134及び135は、コンタクト層133上に設けられており、例えばAuZnを含んで構成され、コンタクト層133との間でオーミック接触を実現する。アノード電極134及び135は、カソード電極9と協働して、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eの各光導波層131に電流を注入する。
【0049】
リング共振器領域10dの光導波層131は、図1に示すように、利得領域10aのレーザ光軸上に延設された導波路部分131aと、該導波路部分131aと多モード干渉型(MMI)カプラによって結合されたリング状部分131bと、該リング状部分131bとMMIカプラによって結合された導波路部分131cとを含む。導波路部分131cの一端(すなわちリング共振器の他端)は、位相調整領域10eの光導波層131と光学的に結合されている。
【0050】
このように、光導波層131がリング共振器(すなわち、本実施形態における第2のリング共振器)を構成することによって、透過スペクトルが所定の波長間隔でもって周期的に変化し、離散的な透過率ピーク波長を有する波長−透過率特性が実現される。ここで、図5(b)は、リング共振器領域10dの透過スペクトルの一例を示すグラフである。図5(b)において、縦軸は光透過率を示し、横軸は波長を示している。図5(b)に示すように、リング共振器領域10dの透過スペクトルは透過ピークPを複数有しており、その間隔は例えば4.5[nm]である。また、各透過ピークPのピーク透過率は例えば40%以上85%以下である。
【0051】
また、このリング共振器の透過率ピーク波長は、カソード電極9とアノード電極134との間に流れる電流の大きさに応じて光導波層131の屈折率が変化することによってシフトする。このリング共振器の作用により、利得領域10aからリング共振器領域10dへ到達した光のうち上記透過ピークPに相当する波長成分が、位相調整領域10eへ向けて選択的に透過され、当該波長成分のみがレーザ発振に寄与することとなる。
【0052】
また、位相調整領域10eの光導波層131は、カソード電極9とアノード電極135との間に注入される電流の大きさに応じて、その屈折率が変化する。この光導波層131の屈折率変化により、位相調整領域10eにおける光路長が変化し、ひいては当該半導体レーザ領域10の共振器長が変化する。したがって、位相調整領域10eの光導波層131への電流注入量を調節することで、半導体レーザ領域10の縦モードを調整することができる。
【0053】
続いて、図6を参照して、半導体レーザ領域10が有する反射端面領域10fの構成について説明する。図6(a)は、図2に示された反射端面領域10fを拡大して示す側断面図である。また、図6(b)は、図6(a)に示された反射端面領域10fのVIb−VIb線に沿った断面図である。反射端面領域10fは、後述する一対の膜137a及び137bを有することによって、半導体レーザ領域10の反射端面を構成する。
【0054】
図6(a)に示すように、反射端面領域10fは、半導体基板3上に順に積層された、光導波層131、半導体層136、上部クラッド層132、及びコンタクト層133を有する。なお、これらの層の構成は、既述した位相調整領域10eと同様である。また、光導波層131、上部クラッド層132、及びコンタクト層133がメサ構造を呈しており、その両側面が絶縁膜13によって保護され、メサ構造の両側面に沿って樹脂層15が設けられている点も位相調整領域10eと同様である。光導波層131は、反射端面領域10fにおける光導波路として機能し、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成している。光導波層131の一端は、位相調整領域10eの光導波層131の他端と光学的に結合されている。
【0055】
反射端面領域10fは、光導波層131を遮るように設けられた一対の膜137a及び137bを有する。一対の膜137a及び137bは、光導波層131と交差するように、光導波層131の光軸に垂直な面方向に延在している。一対の膜137a及び137bは、光軸方向に所定の間隔をあけて形成され、互いに対向している。一対の膜137a及び137bは、光導波層131の屈折率より小さい屈折率を有する膜材料であって光導波層131を伝搬する光(波長1.5〜1.6[μm])を吸収しないもの、例えばSiO2、SiN、及びBCB樹脂のうち少なくとも一つを含んで構成される。このような一対の膜137a及び137bが光導波層131の光軸と交差することにより、一対の膜137a及び137bは、光導波層131を含む第1の光導波路の反射端面を構成する。
【0056】
一対の膜137a及び137bの反射率は、光軸方向における膜137a及び137bの厚さtと、膜137a及び137bを構成する材料の屈折率とによって決定される。なお、膜137a及び137bの厚さtが小さすぎるとその形成が難しくなり、大きすぎると光の損失が増してしまう。
【0057】
光軸方向における一対の膜137a及び137bの厚さtは、例えば807.3[nm]である。また、光軸方向と直交する面内での一対の膜137a及び137bの幅Wは例えば5[μm]であり、半導体基板3の主面に垂直な方向の高さHは例えば5[μm]である。一対の膜137a及び137b同士の間隔Dは、光の波長が1.55[μm]帯である場合、間隔は例えば325.6[nm]である。なお、一対の膜137a及び137bがSiO2から成る場合、波長1.55[μm]の光に対する屈折率は1.444となる。なお、同波長の光に対する光導波層131の実効屈折率は、例えば3.57である。
【0058】
図7は、一対の膜137a及び137bから成る膜構造が上記寸法および屈折率を有する場合における、波長−反射率特性の理論値を示すグラフである。図7に示すように、膜137a及び137bから成る膜構造は、広い波長範囲にわたって反射率が高い波長−反射率特性を有しており、第1の光導波路を伝搬する光に対して高い反射率を有するHR(High Reflection)膜として機能する。この一対の膜137a及び137bの作用によって、光反射端面を有する光共振器が好適に実現される。
【0059】
続いて、図1,図2及び図8を参照して、波長モニタ領域20の構成について説明する。図8(a)は、波長モニタ領域20の構成を示す平面図である。図8(b)は、図8(a)に示した波長モニタ領域20のVIIIb−VIIIb線に沿った断面図であり、波長モニタ領域20が有する複数のフォトダイオード構造22のうち一つの構成を示している。なお、図8(b)においても、冷却構造物30(図2)の図示を省略している。
【0060】
波長モニタ領域20は、光導波路21と、複数のフォトダイオード構造22を有する。光導波路21は本実施形態における第2の光導波路であり、上述した一対の膜137a,137bを介して半導体レーザ領域10の第1の光導波路(光導波層110,120,及び131)と光学的に結合されている。なお、光導波路21の光軸に垂直な断面での波長モニタ領域20の構成は、既述したリング共振器領域10d(図5(a)を参照。光導波層131が光導波路21に相当)と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0061】
図8(a)に示すように、光導波路21は3本の光導波路211〜213に分岐している。そして、光導波路211〜213のうち2本の光導波路211及び213は、直線状の導波路部分211a及び213aと、該導波路部分211a及び213aと多モード干渉型(MMI)カプラによって結合されたリング状部分211b及び213bとを含んでいる。これにより、光導波路211及び213はそれぞれ別個のリング共振器を構成する。なお、導波路部分211a及び213aの他端は、それぞれ別のフォトダイオード構造22に結合されている。また、リング共振器を構成しない光導波路212の他端は、更に別のフォトダイオード構造22に結合されている。
【0062】
このように、光導波路211及び213がそれぞれリング共振器(すなわち、本実施形態における第1のリング共振器)を構成することにより、各光導波路211及び213において、透過スペクトルが所定の波長間隔でもって周期的に変化し、離散的な透過率ピーク波長を有する波長−透過率特性が実現される。ここで、図8(c)にリング共振器のモデルを示す。図8(c)に示すリング共振器のMMI長L及び曲げ半径Rに関し、光導波路211では例えばそれぞれ50[μm]及び250[μm]と設定し、光導波路213ではそれぞれ50[μm]及び10[μm]と設定する。
【0063】
図9は、光導波路211,213によって構成される各リング共振器を上記寸法で設計した場合における、透過スペクトルの一例を示すグラフである。図9において、縦軸は光透過率を示し、横軸は波長を示している。図9に示すように、光導波路211によって構成されるリング共振器の透過スペクトル特性(グラフG3)では、透過ピークP1が周期的に繰り返されている。その繰り返し周期はWDM伝送システムにおける波長グリッドに応じた周期(好ましくは、波長グリッドと同じか又はその半分)であり、例えば周波数換算で50[GHz]である。また、光導波路213によって構成されるリング共振器の透過スペクトル特性(グラフG4)においても、透過ピークP2が周期的に繰り返されている。その繰り返し周期はWDM伝送システムにおける波長グリッドより広い周期(好ましくは、波長グリッドの2倍以上)であり、例えば周波数換算で518[GHz]である。このように、各リング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期は互いに異なるように設定され、一のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期は、他の一のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期の2倍より長いことが好ましい。
【0064】
フォトダイオード構造22は、図8(b)に示すように、半導体基板3上に設けられた光導波路220と、光導波路220上に設けられた光吸収層221と、光吸収層221上に設けられたクラッド層222及びコンタクト層223とを備えている。なお、これらの層の構成は、光吸収層221を除いて、既述した位相調整領域10e(図5(a)を参照)の光導波層131、上部クラッド層132、及びコンタクト層133と同様である。また、光導波路220、光吸収層221、クラッド層222、及びコンタクト層223がストライプメサ構造を呈しており、その両側面が絶縁膜13によって保護され、ストライプメサ構造の両側面に沿って樹脂層15が設けられている点でも位相調整領域10eと同様である。光導波路220の一端は、対応する光導波路211〜213のいずれかと光学的に結合されている。
【0065】
光吸収層221は、光導波路220とクラッド層222との間に設けられる。一実施例では、光吸収層221はp型InGaAsから成る。光吸収層221の組成は、半導体レーザ領域10における発振波長、例えば1.55[μm]波長帯の光を吸収するように調整される。光吸収層221の厚さは、例えば50[nm]である。
【0066】
コンタクト層223上には、アノード電極224が設けられている。アノード電極224は、例えばTi/Pt/Auによって構成され、コンタクト層223との間でオーミック接触を実現する。アノード電極224は、カソード電極9と協働して、光吸収層221において発生したキャリアを光電流として取り出す。
【0067】
以上の構成を備える半導体レーザ素子1Aの作用(動作)及び効果について説明する。この半導体レーザ素子1Aでは、光反射機能を有する一対の膜137a,137bによって半導体レーザ領域10と波長モニタ領域20とが区分されている。そして、半導体レーザ領域10の利得導波路(利得領域10aの光導波層110)において発生した光が、半導体レーザ領域10内の光導波路を伝搬して一対の膜137a,137bによって反射されることにより、該光導波路内を共振し、一対の膜137a,137bとは反対側の光導波路の端面からAR膜105を通ってレーザ光として出力される。また、この一対の膜137a,137bに到達した光の一部は、一対の膜137a,137bを透過して波長モニタ領域20に達する。この光は、3本の光導波路211〜213にそれぞれ分岐され、うち2本の光導波路211及び213を伝搬した光は、光導波路211及び213それぞれに設けられたリング共振器を通過し、フォトダイオード構造22により検出される。また、他の光導波路212を伝搬した光は、そのままフォトダイオード構造22により検出される。
【0068】
図10は、半導体レーザ素子1Aから出力されるレーザ光の波長を制御するための制御系統を概略的に示すブロック図である。図10に示すように、3つのフォトダイオード構造22から取り出された光電流は、制御回路17に提供される。制御回路17は所定の演算を行い、利得領域10a、可変DBR領域10b、増幅領域10c、リング共振器領域10d、及び位相調整領域10eそれぞれの電極に供給する電流Ia〜Ieを決定し、該電流Ia〜Ieを出力する。制御回路17から出力された電流Iaは利得領域10aのアノード電極114に供給され、電流Ibはスイッチ回路19を介して可変DBR領域10bの複数のアノード電極124の何れかに選択的に供給され、電流Icは増幅領域10cのアノード電極115に供給され、電流Idはリング共振器領域10dのアノード電極134に供給され、電流Ieは位相調整領域10eのアノード電極135に供給される。
【0069】
図11は、制御回路17における処理の概要を説明するための図である。図11の縦軸は光透過率を示しており、横軸は波長を示している。また、図中のグラフG3は波長モニタ領域20の光導波路211の光透過特性を示しており、グラフG4は光導波路213の光透過特性を示している。いま、半導体レーザ領域10の共振波長を、或る波長λ1に合わせることを考える。制御回路17は、予め記憶しているルックアップテーブルを参照して、共振波長が波長λ1に近づくように各電流Ia〜Ieを設定する。このとき、半導体レーザ領域10の共振波長は、例えば波長λ1の近傍の波長λaとなる。微調整が必要な場合には、光導波路211を透過してフォトダイオード構造22に達する光の透過率(光導波路211及び212を介して検出された光の強度比に基づいて算出される)が波長λ1に対応する値(図11では、約0.69)に近づくように、電流Ia〜Ieを更に調整する。
【0070】
ここで、半導体レーザ領域10の共振器長が1[mm]である場合、縦モード(FPモード)の波長間隔は周波数換算で42[GHz]である。したがって、モードホップが発生すると42[GHz]だけ離れた波長(例えば、図11の波長λb)でレーザ発振を開始することになる。このようなモードホップによる発振波長の変動幅が、グラフG3に示された光導波路211の光透過特性の半周期より大きくなった場合、波長λ1に対応する透過率0.69に近づくように電流Ia〜Ieを調整すると、発振波長が波長λ1とは異なる波長λ2に近づいてしまうことになる。
【0071】
このような場合、光導波路213を透過してフォトダイオード構造22に達する光の透過率(グラフG4)を併せて参照することで、発振波長を波長λ1に好適に近づけることが可能となる。すなわち、図11において波長λ1に対応する光導波路213の透過率は約0.23であり、波長λ2に対応する光導波路213の透過率は約0.08であるから、制御回路17は、光導波路213の透過率が0.23に近づくように、電流Ia〜Ieを調整するとよい。つまり、制御回路17は、光導波路211及び213の透過率がそれぞれ所定の値に近づくように電流Ia〜Ieを調整することで、モードホップが生じた際にも半導体レーザ領域10の発振波長を精度良く制御することができる。
【0072】
このように、本実施形態の半導体レーザ素子1Aでは、光導波路211及び213それぞれに設けられたリング共振器の波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なっているので、モードホップや経年劣化により、或るリング共振器のFSRに相当する波長分だけ出力波長が変動した場合であっても、別のリング共振器を通過した光の強度をモニタすることによって、波長の変動分を修正することができる。すなわち、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aによれば、出力波長の変動が大きくなる場合であっても、出力波長を精度良くロックできる。
【0073】
また、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aでは、半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20が共通の半導体基板3上に設けられている。したがって、従来の波長ロッカーの構造と比較して、更なる小型化が可能となる。
【0074】
また、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aでは、半導体レーザ領域10が、格子間隔が光導波方向に変化する回折格子121a、及び光導波方向に並設された複数のアノード電極124を有するDBR領域10bと、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を有するリング共振器領域10dと、位相調整領域10eとを有する。これにより、半導体レーザ領域10を波長可変型のレーザ構造にできるので、伝送量が増大する近年のWDM伝送システムにおいて、更に効率的なシステム運用を可能にできる。
【0075】
ここで、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aの作製方法について説明する。まず、半導体基板3となるn型InP等の半導体ウェハ上に、光導波層120及び131、並びに光導波路21及び220となる半導体層と、回折格子層121及び半導体層136となる半導体層とをMOCVD法によりエピタキシャル成長させる。次に、電子ビーム露光によりレジストに回折格子パターンを描画し、このレジストをマスクとして回折格子層121の表面にドライエッチングを施すことにより、回折格子121aを形成する。レジストを除去した後、MOCVD法によりp型InP層を回折格子121aを埋め込むように成長させて、上部クラッド層122及び132の一部(約200nm程度の厚さ)を形成する。
【0076】
続いて、利得領域10aとなる領域上、及び増幅領域10cとなる領域上に成長した半導体層をドライエッチングにより除去する。そして、半導体層が除去された半導体ウェハの領域上に、下部光閉じ込め層、多重量子井戸構造による活性層、及び上部光閉じ込め層から成る光導波層110と、上部クラッド層112の一部(約200nm程度の厚さ)とをバットジョイント法によって成長させる。
【0077】
続いて、フォトダイオード構造22となる領域に成長した半導体層(光導波路220となる層を除く)をドライエッチングにより除去する。そして、当該領域に、光吸収層221及びクラッド層222の一部を成長させる。
【0078】
続いて、残りの上部クラッド層112,122、132および222を一度に形成し、引き続きコンタクト層113,123,133,及び223となる半導体層をMOCVD法により成長させる。その後、アノード電極と接触する部分だけ残してコンタクト層を除去し、各領域を電気的に分離する。
【0079】
続いて、リング共振器領域10d、位相調整領域10e、反射端面領域10f、及び波長モニタ領域20に相当する領域をマスクで覆い、利得領域10a、DBR領域10b、及び増幅領域10cに相当する領域に対し、光導波路となる部分だけ残して半導体ウェハに達する深さまでドライエッチングを施し、メサ構造を形成する。その後、このメサ構造の両側面を半絶縁性領域102で埋め込み、マスクを除去する。
【0080】
続いて、利得領域10a、DBR領域10b、及び増幅領域10cに相当する領域をマスクで覆い、リング共振器領域10d、位相調整領域10e、反射端面領域10f、及び波長モニタ領域20に相当する領域に対し、光導波路となる部分だけ残して半導体ウェハに達する深さまでドライエッチングを施し、メサ構造を形成する。同時に、反射端面領域10fとなる領域において、メサ構造の光導波路を横切るように一対の溝を形成する。その後、このメサ構造の両側面、及び一対の溝の内部にSiO2といった絶縁材料をCVDにより堆積して絶縁膜13及び一対の膜137a,137bを形成したのち、その上からBCB樹脂をスピンコートで塗布・硬化させて樹脂層15を形成し、マスクを除去する。
【0081】
続いて、アノード電極が配置される部分の絶縁膜13及び樹脂層15を除去し、アノード電極114,115,124,134,135,及び224をリフトオフ法により形成する。このとき、素子上の配線および電極パッドを併せて形成する。また、半導体ウェハの裏面上にカソード電極9を蒸着する。
【0082】
最後に、半導体ウェハを棒状に劈開し、その劈開面の一方にAR膜105をコーティングし、これをチップ状に分割して冷却構造物30上に実装する。こうして、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aが完成する。
【0083】
なお、一対の膜137a,137bの構成材料をSiO2ではなくSiNとする場合には、絶縁材料としてSiO2に代えてSiNを堆積するとよい。また、一対の膜137a,137bの構成材料をBCB樹脂とする場合には、絶縁材料の堆積工程を省略してBCB樹脂を塗布・硬化させるとよい。
【0084】
(第2の実施の形態)
次に、本発明に係る波長ロッカー集積型半導体レーザ素子の第2実施形態について説明する。図12及び図13を参照すると、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Bは、半導体レーザ領域40と、波長モニタ領域20とを備えている。半導体レーザ領域40は、分布帰還型の半導体レーザ構造を有しており、DFBレーザ領域40a及び反射端面領域40bによって構成されている。このうち、反射端面領域40bの構成及び機能は、第1実施形態の反射端面領域10fと同様である。また、波長モニタ領域20の構成及び機能は、第1実施形態のものと同様である。
【0085】
半導体レーザ領域40及び波長モニタ領域20は、図13に示すように互いに共通の半導体基板3上に形成されており、光導波方向に並んで設けられている。なお、半導体基板3は、半導体レーザ領域40及び波長モニタ領域20において下部クラッドとして機能する。
【0086】
また、半導体基板3の裏面側には、カソード電極9を挟んで冷却構造物51及び52が設けられている。冷却構造物51,52は、例えばヒートシンクとして機能する一対の金属板と、該一対の金属板間に設けられて熱の移動を行うペルチェ素子とを含んで構成される。冷却構造物51はDFBレーザ領域40aの直下に配置され、冷却構造物52は波長モニタ領域20の直下に配置され、それぞれDFBレーザ領域40a及び波長モニタ領域20の温度を独立して制御する。すなわち、冷却構造物51はDFBレーザ領域40aの温度を任意に変化させることによって出力波長を調整し、冷却構造物52は波長モニタ領域20の温度を一定に維持する。
【0087】
図13に示すように、DFBレーザ領域40aは、半導体基板3上に設けられた光導波層140と、光導波層140上に順に積層された回折格子層141、上部クラッド層142及びコンタクト層143とを備えている。光導波層140は、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成する利得導波路である。光導波層140は、例えば半導体基板3上に設けられた下部光閉じ込め層と、下部光閉じ込め層上に設けられた活性層と、活性層上に設けられた上部光閉じ込め層とを含んで構成される。光導波層140は、半導体基板3よりバンドギャップ波長が長い半導体によって構成され、半導体基板3の主面に沿った光導波方向に延在し、その一端は半導体レーザ素子1Bの端面に設けられたAR膜105に結合され、他端は反射端面領域40bの光導波層(図6(a)に示した光導波層131に相当)に結合されている。
【0088】
回折格子層141は、光導波層140に沿って設けられる。本実施形態では、回折格子層141は光導波層140の直上に設けられている。回折格子層141と上部クラッド層142との界面には、回折格子141aが形成されている。回折格子141aは、光導波層140に沿って形成されており、その格子間隔は一定である。
【0089】
一実施例では、光導波層140及び回折格子層141はアンドープGaInAsPから成り、光導波層140及び回折格子層141の厚さは、例えばそれぞれ0.3[μm]、50[nm]である。また、上部クラッド層142はp型InPから成り、コンタクト層143はp型GaInAsから成る。上部クラッド層142及びコンタクト層143の厚さは、例えばそれぞれ2[μm]及び0.2[μm]である。
【0090】
なお、第1実施形態の利得領域10aと同様に、本実施形態のDFBレーザ領域40aは、光導波に適した幅にエッチングされて所定の光導波方向に延びるストライプメサ構造を呈している。光導波方向と交差する方向におけるストライプメサ構造の横幅は、例えば1.5[μm]である。そして、このストライプメサ構造の両側面には、例えばFeがドープされたInPから成る半絶縁性領域が設けられている。
【0091】
コンタクト層143上にはアノード電極144が設けられている。アノード電極144は、例えばTi/Pt/Auによって構成され、コンタクト層143との間でオーミック接触を実現する。また、第1実施形態と同様に、半導体基板3の裏面上にはカソード電極9が設けられている。アノード電極144とカソード電極9とは、互いに協働して光導波層140に電流を注入する。
【0092】
図14は、半導体レーザ素子1Bから出力されるレーザ光の波長を制御するための制御系統を概略的に示すブロック図である。図14に示すように、3つのフォトダイオード構造22から取り出された光電流は、制御回路18に提供される。制御回路18は所定の演算を行い、冷却構造物51に供給する電流Ifを決定し、該電流Ifを出力する。冷却構造物51は、制御回路18から提供された電流Ifに応じた冷却能力を発揮し、DFBレーザ領域40aの温度を変化させる。これにより、光導波層140及び回折格子層141の屈折率が変化し、回折格子141aの格子間隔が実質的に変化することで、DFBレーザ領域40aからの出力波長が制御されるので、経年変化等によるDFBレーザ領域40aの出力波長の変動を抑えることができる。なお、制御回路18における演算は、第1実施形態の制御回路17と同様(図11参照)であるため、詳細な説明を省略する。
【0093】
本実施形態の半導体レーザ素子1Bによれば、第1実施形態の半導体レーザ素子1Aと同様の効果が得られる。すなわち、半導体レーザ素子1Bは、第1実施形態と同じ波長モニタ領域20を備えているので、モードホップや経年劣化により、或るリング共振器のFSRに相当する波長分だけ出力波長が変動した場合であっても、別のリング共振器を通過した光の強度をモニタすることによって、波長の変動分を修正することができる。したがって、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Bによれば、出力波長の変動が大きくなる場合であっても、出力波長を精度良くロックできる。また、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Bでは、半導体レーザ領域40及び波長モニタ領域20が共通の半導体基板3上に設けられているので、従来の波長ロッカーの構造と比較して、更なる小型化が可能となる。
【0094】
本発明による波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記各実施形態では半導体基板及び各半導体層としてInP系化合物半導体を例示したが、他のIII−V族化合物半導体や、その他の半導体であっても本発明の構成を好適に実現できる。また、上記各実施形態では第1及び第2の光導波路の構成としてメサストライプ構造のものを例示したが、リッジ型等、他の構造の光導波路であっても本発明の効果を好適に得ることができる。
【0095】
また、上記各実施形態では、波長モニタ領域において第2の光導波路が3本に分岐され、うち2本の光導波路が第1のリング共振器を構成しているものを例示したが、第2の光導波路の分岐数は3本以上であれば特に制限されず、うち少なくとも2本の光導波路が第1のリング共振器を構成することによって、本発明の効果を好適に得ることができる。
【符号の説明】
【0096】
1A,1B…(波長ロッカー集積型)半導体レーザ素子、3…半導体基板、4…絶縁膜、9…カソード電極、10,40…半導体レーザ領域、10a…利得領域、10b…DBR領域、10c…増幅領域、10d…リング共振器領域、10e…位相調整領域、10f,40b…反射端面領域、13…絶縁膜、15…樹脂層、17,18…制御回路、19…スイッチ回路、20…波長モニタ領域、21,211〜213…光導波路、22…フォトダイオード構造、30,51,52…冷却構造物、40a…DFBレーザ領域、102…半絶縁性領域、105…AR膜、110,120,131,140…光導波層、112,122,132,142,222…上部クラッド層、113,123,133,143,223…コンタクト層、114,115,124,134,135,144,224…アノード電極、121,141…回折格子層、121a,141a…回折格子、131b,211b,213b…リング状部分、137a,137b…膜、220…光導波路、221…光吸収層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、光通信システムに使用されるレーザ素子が開示されている。特許文献1に記載されたレーザ素子は、互いに光路長が異なる複数のリング共振器が連結された多重リング共振器と、この多重リング共振器にレーザ光を入力し、且つ取り出す光入出力手段とを備えている。そして、多重リング共振器の複数のリング共振器毎に光透過率の共振周波数間隔(FSR;Free Spectral Range)が異なっており、そのバーニア効果を利用して共振波長を制限している。また、リング共振器のスルーポートにおける光量を検出することにより共振波長をモニタし、そのモニタ結果に基づいて多重リング共振器の共振波長を制御している。
【0003】
また、特許文献2に記載されたレーザ素子では、利得領域の前後にリング共振器が結合されている。これらのリング共振器はFSRが互いに異なっており、バーニア効果を利用して共振波長を制限している。
【0004】
非特許文献1には、波長可変型のDFBレーザ素子と波長ロッカーとを一つのパッケージ内に収めた構成を有するレーザモジュールが開示されている。このレーザモジュールが備える波長ロッカーは、DFBレーザ素子の背面光を二つに分岐し、その一方をフォトダイオードにより検出し、他方をエタロンフィルタを介して別のフォトダイオードにより検出し、これらの検出信号に基づいてDFBレーザ素子の出力波長を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−245346号公報
【特許文献2】特開2008−066318号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】木本ほか7名,「高信頼性,波長ロッカー内蔵40mW,25GHz×20ch,波長可変DFBレーザモジュール」,古河電工時報,第112号,平成15年7月,p.1−4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、光通信システムの分野においては、増大する伝送量に対応するために、波長が相互に異なる複数の信号光を用いた波長分割多重(WDM)伝送システムが構築されている。そして、伝送量を更に増大するために、信号光同士の波長間隔をより狭めることが望まれている。現在実用化されているWDM伝送システムでは、互いに出力波長が異なる複数の半導体レーザ素子が送信器に用いられているが、各半導体レーザ素子の出力波長は素子温度や経年変化によって変動する。このような出力波長の変動を抑え、信号光の波長間隔をより狭めるために、半導体レーザ素子の出力波長をモニタして、そのモニタ結果に基づいて出力波長を一定に制御する、いわゆる波長ロッカーが用いられている。
【0008】
一方、光通信システムに使用される送信器には、更なる小型化が要請されている。しかしながら、例えば非特許文献1に記載された波長ロッカーでは、DFBレーザ素子、エタロンフィルタ及びフォトダイオードをそれぞれ個別に配置し、集光レンズ等を介してこれらを光学的に結合する必要があるので、モジュールが大型化してしまう。また、特許文献1に記載された波長ロッカーでは、多重リング共振器が形成されたPLC基板にレーザ素子やフォトダイオードを取り付ける必要があるので、小型化が制限される。
【0009】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、更なる小型化を可能にできる波長ロッカー集積型半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明による波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、半導体基板と、半導体基板上に設けられ、利得導波路を含む第1の光導波路、及び第1の光導波路の屈折率より小さい屈折率を有し、第1の光導波路の光軸と交差することにより第1の光導波路の反射端面を構成する一対の膜を有する半導体レーザ領域と、半導体光素子領域と並んで半導体基板上に設けられ、一対の膜を介して第1の光導波路と光学的に結合された第2の光導波路を有する波長モニタ領域とを備え、波長モニタ領域において、第2の光導波路が3本以上の光導波路に分岐しており、3本以上の光導波路のうち少なくとも2本の光導波路が、波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なる第1のリング共振器をそれぞれ構成しており、波長モニタ領域が、光吸収層を有する3つ以上のフォトダイオード構造を含んでおり、3本以上の光導波路のそれぞれが、3つ以上のフォトダイオード構造のそれぞれと光学的に結合されていることを特徴とする。
【0011】
この波長ロッカー集積型半導体レーザ素子では、光反射機能を有する一対の膜によって半導体レーザ領域と波長モニタ領域とが区分されている。そして、半導体レーザ領域の利得導波路において発生した光が、第1の光導波路を伝搬して一対の膜によって反射されることにより、第1の光導波路内を共振し、一対の膜とは反対側の第1の光導波路の端面からレーザ光として出力される。また、この一対の膜に到達した光の一部は、一対の膜を透過して波長モニタ領域に達する。この光は、3本以上の光導波路にそれぞれ分岐され、うち少なくとも2本の光導波路を伝搬した光は、該少なくとも2本の光導波路それぞれに設けられた第1のリング共振器を通過し、フォトダイオード構造により検出される。
【0012】
ここで、少なくとも2本の光導波路それぞれに設けられた第1のリング共振器は、波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なっており、且つ、これらの光導波路のそれぞれにフォトダイオード構造が設けられている。従って、例えばモードホップや経年劣化により、或る第1のリング共振器のFSRに相当する波長分だけ出力波長が変動した場合であっても、別の第1のリング共振器を通過した光の強度をモニタすることによって、当該事実を認識し、波長の変動分を修正することができる。すなわち、上述した波長ロッカー集積型半導体レーザ素子によれば、出力波長の変動が大きくなる場合であっても、出力波長を精度良くロックできる。
【0013】
また、上述した波長ロッカー集積型半導体レーザ素子では、半導体レーザ領域及び波長モニタ領域が共通の半導体基板上に設けられている。したがって、従来の波長ロッカーの構造と比較して、更なる小型化が可能となる。
【0014】
また、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、少なくとも2本の光導波路によって構成される各第1のリング共振器のうち一の第1のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期が、他の一の第1のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期の2倍より長いことを特徴としてもよい。これにより、他の一の第1のリング共振器のFSRに相当する波長分だけ出力波長が変動した場合であっても、一の第1のリング共振器を通過した光の強度をモニタすることによって、当該事実を容易に認識できる。
【0015】
また、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、半導体レーザ領域が、格子間隔が第1の光導波路の光導波方向に変化しており第1の光導波路に沿って形成された回折格子、及び第1の光導波路の光導波方向に並設された複数の電極を有し、利得導波路の一端側に設けられた光反射部と、利得導波路の他端側に設けられ、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を有する光透過部と、第1の光導波路の光路長を能動的に制御するための位相調整部とを有することを特徴としてもよい。これにより、半導体レーザ領域を波長可変型のレーザ構造にできるので、伝送量が増大する近年のWDM伝送システムにおいて、更に効率的なシステム運用を可能にできる。
【0016】
また、この場合、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、光透過部が、第1の光導波路によって構成された第2のリング共振器を含むことを特徴としてもよい。これにより、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を好適に実現できる。
【0017】
また、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、半導体レーザ領域が分布帰還型レーザ構造を有することを特徴としてもよい。
【0018】
また、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、一対の膜が、SiO2、SiN、及びベンゾシクロブテン樹脂のうち少なくとも一つを含むことを特徴としてもよい。これらの材料は半導体より屈折率が小さいので、光導波路の屈折率より小さい屈折率を有する一対の膜を好適に実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、更なる小型化を可能にする波長ロッカー集積型半導体レーザ素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る波長ロッカー集積型半導体レーザ素子1Aの構成を示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示した半導体レーザ素子1AのII−II線に沿った側断面図である。
【図3】図3(a)は、図2に示す半導体レーザ領域10のIIIa−IIIa線に沿った断面図であり、利得領域10a及び増幅領域10cの構造を示している。図3(b)は、図2に示す半導体レーザ領域10のIIIb−IIIb線に沿った断面図であり、可変DBR領域10bの構造を示している。
【図4】図4(a)は、利得領域10aの発光スペクトルの一例を示すグラフである。図4(b)は、複数のアノード電極124の一つから光導波層120及び回折格子層121へ電流を供給した場合における、可変DBR領域10bの反射スペクトルの一例を示すグラフである。
【図5】図5(a)は、半導体レーザ領域10のVa−Va線に沿った断面図であり、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eの構造を示している。図5(b)は、リング共振器領域10dの透過スペクトルの一例を示すグラフである。
【図6】図6(a)は、図2に示された反射端面領域10fを拡大して示す側断面図である。図6(b)は、図6(a)に示された反射端面領域10fのVIb−VIb線に沿った断面図である。
【図7】図7は、一対の膜137a及び137bから成る膜構造が上記寸法および屈折率を有する場合における、波長−反射率特性の理論値を示すグラフである。
【図8】図8(a)は、波長モニタ領域20の構成を示す平面図である。図8(b)は、図8(a)に示した波長モニタ領域20のVIIIb−VIIIb線に沿った断面図であり、波長モニタ領域20が有する複数のフォトダイオード構造22のうち一つの構成を示している。図8(c)は、リング共振器の寸法例を示す図である。
【図9】図9は、光導波路211,213によって構成される各リング共振器を上記寸法で設計した場合における、透過スペクトルの一例を示すグラフである。
【図10】図10は、半導体レーザ素子1Aから出力されるレーザ光の波長を制御するための制御系統を概略的に示すブロック図である。
【図11】図11は、制御回路17における処理の概要を説明するための図である。
【図12】図12は、本発明の第2実施形態に係る波長ロッカー集積型半導体レーザ素子1Bの構成を示す平面図である。
【図13】図13は、図12に示した半導体レーザ素子1BのXIII−XIII線に沿った側断面図である。
【図14】図14は、半導体レーザ素子1Bから出力されるレーザ光の波長を制御するための制御系統を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明による波長ロッカー集積型半導体レーザ素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
(第1の実施の形態)
本発明に係る波長ロッカー集積型半導体レーザ素子(以下、半導体レーザ素子)の第1実施形態について説明する。図1及び図2を参照すると、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aは、半導体レーザ領域10と、波長モニタ領域20とを備えている。半導体レーザ領域10は、波長可変型の半導体レーザ構造を有しており、利得領域10a、可変DBR領域10b、増幅領域10c、リング共振器領域10d、位相調整領域(位相調整部)10e、及び反射端面領域10fによって構成されている。波長モニタ領域20は、半導体レーザ領域10の反射端面領域10fを透過した背面光の強度を、リング共振器を介して、又はそのまま検出する。この波長モニタ領域20から得られた検出結果は、半導体レーザ領域10の出力波長の制御に使用される。
【0023】
半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20は、図2に示すように互いに共通の半導体基板3上に形成されており、光導波方向に並んで設けられている。光導波方向における半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20の好適な長さは、それぞれ1500 [μm]、及び1000[μm]である。なお、半導体基板3は、例えばn型InPから成り、半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20において下部クラッドとして機能する。
【0024】
また、半導体基板3の裏面側には、後述するカソード電極9を挟んで冷却構造物30が設けられている。冷却構造物30は、例えばヒートシンクとして機能する一対の金属板と、該一対の金属板間に設けられて熱の移動を行うペルチェ素子とを含んで構成され、半導体基板3及びその主面上の積層構造の温度を一定に維持する。
【0025】
まず、図1,図2及び図3を参照して、半導体レーザ領域10が有する利得領域10a、可変DBR領域10b、及び増幅領域10cの構成について説明する。図3(a)は、図2に示す半導体レーザ領域10のIIIa−IIIa線に沿った断面図であり、利得領域10a及び増幅領域10cの構造を示している。また、図3(b)は、図2に示す半導体レーザ領域10のIIIb−IIIb線に沿った断面図であり、可変DBR領域10bの構造を示している。なお、図3(a)及び図3(b)では、冷却構造物30(図2)の図示を省略している。
【0026】
利得領域10a及び増幅領域10cは、半導体基板3上に設けられた光導波層110と、光導波層110上に設けられた上部クラッド層112及びコンタクト層113とを備えている。光導波層110は、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成しており、特に利得領域10aの光導波層110は、本実施形態における利得導波路に相当する。光導波層110は、半導体基板3よりバンドギャップ波長が長い(すなわちバンドギャップが小さい)半導体によって構成され、半導体基板3の主面に沿った光導波方向に延在している。光導波層110は、例えば半導体基板3上に設けられた下部光閉じ込め層と、下部光閉じ込め層上に設けられた活性層と、活性層上に設けられた上部光閉じ込め層とを含んで構成される。
【0027】
一実施例では、下部光閉じ込め層及び上部光閉じ込め層はアンドープGaInAsPから成り、活性層はGaInAsP多重量子井戸(MQW)構造を有する。活性層の組成は、例えば1.52[μm]〜1.57[μm]の光を発生(または増幅)するように調整される。ここで、図4(a)は、利得領域10aの発光スペクトルの一例を示すグラフである。図4(a)において、縦軸は光強度を示し、横軸は波長を示している。図4(a)に示すように、利得領域10aは比較的広い波長域にわたって光を発生させる。光導波層110の厚さは、例えば0.3[μm]である。
【0028】
また、上部クラッド層112はp型InPから成り、コンタクト層113はp型GaInAsから成る。上部クラッド層112及びコンタクト層113の厚さは、例えばそれぞれ2[μm]及び0.2[μm]である。
【0029】
光導波層110、上部クラッド層112及びコンタクト層113は、半導体基板3上において、光導波に適した幅にエッチングされて所定の光導波方向に延びるストライプメサ構造を呈している(図3(a)を参照)。光導波方向と交差する方向におけるストライプメサ構造の横幅は、例えば1.5[μm]である。そして、このストライプメサ構造の両側面には、半絶縁性領域102が設けられている。半絶縁性領域102は、半絶縁性(高抵抗)の半導体、例えばFeがドープされたInPから成る。半絶縁性領域102は、半導体基板3のうち上記ストライプメサ構造を除いた領域上に設けられており、上記ストライプメサ構造の両側面を埋め込んでいる。
【0030】
利得領域10aのコンタクト層113上にはアノード電極114が設けられており、増幅領域10cのコンタクト層113上にはアノード電極115が設けられている。アノード電極114及び115は、例えばTi/Pt/Auによって構成され、コンタクト層113との間でオーミック接触を実現する。また、半導体基板3の裏面上には、カソード電極9が設けられている。カソード電極9は、例えばAuGeを含んで構成され、半導体基板3との間でオーミック接触を実現する。アノード電極114及び115とカソード電極9とは、互いに協働して光導波層110に電流を注入する。なお、利得領域10a及び増幅領域10cの上面のうちアノード電極114,115を除く領域は、例えばSiO2から成る絶縁膜4によって保護されている。
【0031】
また、図1及び図2に示すように、光導波方向における増幅領域10cの端面(すなわち半導体レーザ領域10の端面)には、反射防止(AR:Anti Reflection)膜105が設けられている。このAR膜105の反射率は、例えば0.1%である。
【0032】
可変DBR領域10bは、本実施形態における光反射部を構成する。可変DBR領域10bは、利得領域10aの光導波層110の一端側に設けられており、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−反射率特性を有する。
【0033】
可変DBR領域10bは、半導体基板3上に設けられた光導波層120と、光導波層120上に設けられた回折格子層121、上部クラッド層122及びコンタクト層123とを備えている。光導波層120は、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成する。光導波層120のバンドギャップ波長は、利得領域10aの活性層のバンドギャップ波長より短く、例えば1.3[μm]以下である。この光導波層120は、後述するカソード電極9及びアノード電極124との間に注入される電流の大きさに応じて、その屈折率が変化する。光導波層120は、半導体基板3よりバンドギャップ波長が長い半導体によって構成され、半導体基板3の主面に沿った光導波方向に延在し、その一端は利得領域10aの光導波層110に結合され、他端は増幅領域10cの光導波層110に結合されている。
【0034】
回折格子層121は、光導波層120に沿って設けられる。本実施形態では、回折格子層121は光導波層120の直上に設けられている。光導波層120を中心として光を効果的に閉じ込める為に、回折格子層121のバンドギャップ波長は、光導波層120のバンドギャップ波長より短いことが好ましく、例えば1.2[μm]である。
【0035】
回折格子層121と上部クラッド層122との界面には、回折格子121a(図2を参照)が形成されている。回折格子121aは、光導波層120に沿って形成されており、その格子間隔が光導波層120の光導波方向に変化する、いわゆるチャープ回折格子である。
【0036】
一実施例では、光導波層120及び回折格子層121はアンドープGaInAsPから成り、光導波層120及び回折格子層121の厚さは、例えばそれぞれ0.3[μm]、50[nm]である。また、上部クラッド層122はp型InPから成り、コンタクト層123はp型GaInAsから成る。上部クラッド層122及びコンタクト層123の厚さは、例えばそれぞれ2[μm]及び0.2[μm]である。
【0037】
光導波層120、上部クラッド層122及びコンタクト層123は、利得領域10a及び増幅領域10cの光導波層110等と同様、半導体基板3上において、光導波に適した幅にエッチングされて所定の光導波方向に延びるストライプメサ構造を呈している(図3(b)を参照)。光導波方向と交差する方向におけるストライプメサ構造の横幅は、利得領域10a及び増幅領域10cのストライプメサ構造と同じである。そして、このストライプメサ構造の両側面は、利得領域10a及び増幅領域10cと共通の半絶縁性領域102によって埋め込まれている。
【0038】
コンタクト層123上には、複数のアノード電極124が設けられている。複数のアノード電極124は、コンタクト層123上において、互いに所定の間隔をあけて光導波方向に並設されている。複数のアノード電極124は、例えばTi/Pt/Auによって構成され、コンタクト層123との間でオーミック接触を実現する。各アノード電極124は、半導体基板3の裏面上に設けられたカソード電極9と協働して、各アノード電極124に対応する光導波層120の部分に電流を注入する。なお、可変DBR領域10bの上面のうち複数のアノード電極124を除く領域は、利得領域10a及び増幅領域10cと共通の絶縁膜4によって保護されている。
【0039】
図4(b)に示すグラフG1は、複数のアノード電極124の一つから光導波層120及び回折格子層121へ電流を供給した場合における、可変DBR領域10bの反射スペクトルの一例を示すグラフである。図4(b)の縦軸は反射率、横軸は波長である。なお、図4(b)に破線で表されたグラフG2は、複数のアノード電極124の何れにも電流が供給されない場合を示している。
【0040】
複数のアノード電極124の一つに電流が供給されると、当該アノード電極124の直下における光導波層120及び回折格子層121の屈折率が変化し、回折格子121aが有効に作用する。また、屈折率が変化しない他の部分では、回折格子121aは殆ど作用しない。したがって、図4(b)に示すように、可変DBR領域10bの反射スペクトルにおいては、電流が供給されたアノード電極124の直下に位置する回折格子121aの格子間隔に対応する波長域(図中のA部分)の反射率が選択的に高くなる。本実施形態では複数のアノード電極124のそれぞれに独立して電流を流すことができるので、任意の一つのアノード電極124に電流を流すことにより、所望の波長域での反射率を高め、レーザ発振波長を当該波長域内に制限することができる。なお、同時に電流が供給されるアノード電極124は一つとは限らず、二つ以上のアノード電極124に電流が供給されてもよい。
【0041】
続いて、図1,図2及び図5(a)を参照して、半導体レーザ領域10が有するリング共振器領域10d及び位相調整領域10eの構成について説明する。図5(a)は、半導体レーザ領域10のVa−Va線に沿った断面図であり、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eの構造を示している。なお、図5(a)においても、冷却構造物30(図2)の図示を省略している。
【0042】
リング共振器領域10dは、本実施形態における光透過部を構成する。すなわち、リング共振器領域10dは、利得領域10aの光導波層110の他端側に設けられており、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を有する。位相調整領域10eは、半導体レーザ領域10における光導波路の光路長を能動的に制御するための領域であり、その断面構成はリング共振器領域10dと同様である。
【0043】
リング共振器領域10d及び位相調整領域10eは、図5(a)に示すように、半導体基板3上に順に積層された、光導波層131、上部クラッド層132、及びコンタクト層133を有する。更に、リング共振器領域10dはアノード電極134を有し、位相調整領域10eはアノード電極135を有する。なお、半導体基板3の裏面上に設けられたカソード電極9は、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eのカソード電極としても使用される。また、光導波層131と上部クラッド層132との間には、可変DBR領域10bの回折格子層121と同じ組成の半導体層136が存在しているが、この半導体層136と上部クラッド層132との界面は平坦であり、回折格子は形成されていない。
【0044】
光導波層131は、半導体基板3の主面上に設けられ、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eにおける光導波路として機能し、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成している。リング共振器領域10dの光導波層131の一端は、利得領域10aの光導波層110と光学的に結合されている。また、位相調整領域10eの光導波層131の一端は、リング共振器領域10dの光導波層131の他端と光学的に結合されている。これらの光導波層131は、カソード電極9とアノード電極134(135)との間に注入される電流の大きさに応じて、その屈折率が変化する。
【0045】
一実施例では、光導波層131及び半導体層136はアンドープGaInAsPから成り、これらの厚さは、例えばそれぞれ0.3[μm]、50[nm]である。光導波層131のバンドギャップ波長は、利得領域10aの活性層のバンドギャップ波長より短く、例えば1.3[μm]以下である。また、上部クラッド層132はp型InPから成り、コンタクト層133はp型GaInAsから成る。上部クラッド層132及びコンタクト層133の厚さは、例えばそれぞれ2[μm]及び0.2[μm]である。
【0046】
光導波層131、上部クラッド層132、及びコンタクト層133は、光導波に適した幅にエッチングされてメサ構造を呈している。そして、その上面及び両側面は、例えばSiO2から成る絶縁膜13によって保護されている。絶縁膜13は、このメサ構造の両側面から半導体基板3の主面上にわたって設けられている。絶縁膜13の膜厚は、例えば0.3[μm]である。
【0047】
絶縁膜13上には、メサ構造の両側面に沿って樹脂層15が設けられている。樹脂層15は、例えばベンゾシクロブテン(BCB)樹脂から成り、その層厚は例えば1[μm]〜2[μm]である。
【0048】
アノード電極134及び135は、コンタクト層133上に設けられており、例えばAuZnを含んで構成され、コンタクト層133との間でオーミック接触を実現する。アノード電極134及び135は、カソード電極9と協働して、リング共振器領域10d及び位相調整領域10eの各光導波層131に電流を注入する。
【0049】
リング共振器領域10dの光導波層131は、図1に示すように、利得領域10aのレーザ光軸上に延設された導波路部分131aと、該導波路部分131aと多モード干渉型(MMI)カプラによって結合されたリング状部分131bと、該リング状部分131bとMMIカプラによって結合された導波路部分131cとを含む。導波路部分131cの一端(すなわちリング共振器の他端)は、位相調整領域10eの光導波層131と光学的に結合されている。
【0050】
このように、光導波層131がリング共振器(すなわち、本実施形態における第2のリング共振器)を構成することによって、透過スペクトルが所定の波長間隔でもって周期的に変化し、離散的な透過率ピーク波長を有する波長−透過率特性が実現される。ここで、図5(b)は、リング共振器領域10dの透過スペクトルの一例を示すグラフである。図5(b)において、縦軸は光透過率を示し、横軸は波長を示している。図5(b)に示すように、リング共振器領域10dの透過スペクトルは透過ピークPを複数有しており、その間隔は例えば4.5[nm]である。また、各透過ピークPのピーク透過率は例えば40%以上85%以下である。
【0051】
また、このリング共振器の透過率ピーク波長は、カソード電極9とアノード電極134との間に流れる電流の大きさに応じて光導波層131の屈折率が変化することによってシフトする。このリング共振器の作用により、利得領域10aからリング共振器領域10dへ到達した光のうち上記透過ピークPに相当する波長成分が、位相調整領域10eへ向けて選択的に透過され、当該波長成分のみがレーザ発振に寄与することとなる。
【0052】
また、位相調整領域10eの光導波層131は、カソード電極9とアノード電極135との間に注入される電流の大きさに応じて、その屈折率が変化する。この光導波層131の屈折率変化により、位相調整領域10eにおける光路長が変化し、ひいては当該半導体レーザ領域10の共振器長が変化する。したがって、位相調整領域10eの光導波層131への電流注入量を調節することで、半導体レーザ領域10の縦モードを調整することができる。
【0053】
続いて、図6を参照して、半導体レーザ領域10が有する反射端面領域10fの構成について説明する。図6(a)は、図2に示された反射端面領域10fを拡大して示す側断面図である。また、図6(b)は、図6(a)に示された反射端面領域10fのVIb−VIb線に沿った断面図である。反射端面領域10fは、後述する一対の膜137a及び137bを有することによって、半導体レーザ領域10の反射端面を構成する。
【0054】
図6(a)に示すように、反射端面領域10fは、半導体基板3上に順に積層された、光導波層131、半導体層136、上部クラッド層132、及びコンタクト層133を有する。なお、これらの層の構成は、既述した位相調整領域10eと同様である。また、光導波層131、上部クラッド層132、及びコンタクト層133がメサ構造を呈しており、その両側面が絶縁膜13によって保護され、メサ構造の両側面に沿って樹脂層15が設けられている点も位相調整領域10eと同様である。光導波層131は、反射端面領域10fにおける光導波路として機能し、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成している。光導波層131の一端は、位相調整領域10eの光導波層131の他端と光学的に結合されている。
【0055】
反射端面領域10fは、光導波層131を遮るように設けられた一対の膜137a及び137bを有する。一対の膜137a及び137bは、光導波層131と交差するように、光導波層131の光軸に垂直な面方向に延在している。一対の膜137a及び137bは、光軸方向に所定の間隔をあけて形成され、互いに対向している。一対の膜137a及び137bは、光導波層131の屈折率より小さい屈折率を有する膜材料であって光導波層131を伝搬する光(波長1.5〜1.6[μm])を吸収しないもの、例えばSiO2、SiN、及びBCB樹脂のうち少なくとも一つを含んで構成される。このような一対の膜137a及び137bが光導波層131の光軸と交差することにより、一対の膜137a及び137bは、光導波層131を含む第1の光導波路の反射端面を構成する。
【0056】
一対の膜137a及び137bの反射率は、光軸方向における膜137a及び137bの厚さtと、膜137a及び137bを構成する材料の屈折率とによって決定される。なお、膜137a及び137bの厚さtが小さすぎるとその形成が難しくなり、大きすぎると光の損失が増してしまう。
【0057】
光軸方向における一対の膜137a及び137bの厚さtは、例えば807.3[nm]である。また、光軸方向と直交する面内での一対の膜137a及び137bの幅Wは例えば5[μm]であり、半導体基板3の主面に垂直な方向の高さHは例えば5[μm]である。一対の膜137a及び137b同士の間隔Dは、光の波長が1.55[μm]帯である場合、間隔は例えば325.6[nm]である。なお、一対の膜137a及び137bがSiO2から成る場合、波長1.55[μm]の光に対する屈折率は1.444となる。なお、同波長の光に対する光導波層131の実効屈折率は、例えば3.57である。
【0058】
図7は、一対の膜137a及び137bから成る膜構造が上記寸法および屈折率を有する場合における、波長−反射率特性の理論値を示すグラフである。図7に示すように、膜137a及び137bから成る膜構造は、広い波長範囲にわたって反射率が高い波長−反射率特性を有しており、第1の光導波路を伝搬する光に対して高い反射率を有するHR(High Reflection)膜として機能する。この一対の膜137a及び137bの作用によって、光反射端面を有する光共振器が好適に実現される。
【0059】
続いて、図1,図2及び図8を参照して、波長モニタ領域20の構成について説明する。図8(a)は、波長モニタ領域20の構成を示す平面図である。図8(b)は、図8(a)に示した波長モニタ領域20のVIIIb−VIIIb線に沿った断面図であり、波長モニタ領域20が有する複数のフォトダイオード構造22のうち一つの構成を示している。なお、図8(b)においても、冷却構造物30(図2)の図示を省略している。
【0060】
波長モニタ領域20は、光導波路21と、複数のフォトダイオード構造22を有する。光導波路21は本実施形態における第2の光導波路であり、上述した一対の膜137a,137bを介して半導体レーザ領域10の第1の光導波路(光導波層110,120,及び131)と光学的に結合されている。なお、光導波路21の光軸に垂直な断面での波長モニタ領域20の構成は、既述したリング共振器領域10d(図5(a)を参照。光導波層131が光導波路21に相当)と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0061】
図8(a)に示すように、光導波路21は3本の光導波路211〜213に分岐している。そして、光導波路211〜213のうち2本の光導波路211及び213は、直線状の導波路部分211a及び213aと、該導波路部分211a及び213aと多モード干渉型(MMI)カプラによって結合されたリング状部分211b及び213bとを含んでいる。これにより、光導波路211及び213はそれぞれ別個のリング共振器を構成する。なお、導波路部分211a及び213aの他端は、それぞれ別のフォトダイオード構造22に結合されている。また、リング共振器を構成しない光導波路212の他端は、更に別のフォトダイオード構造22に結合されている。
【0062】
このように、光導波路211及び213がそれぞれリング共振器(すなわち、本実施形態における第1のリング共振器)を構成することにより、各光導波路211及び213において、透過スペクトルが所定の波長間隔でもって周期的に変化し、離散的な透過率ピーク波長を有する波長−透過率特性が実現される。ここで、図8(c)にリング共振器のモデルを示す。図8(c)に示すリング共振器のMMI長L及び曲げ半径Rに関し、光導波路211では例えばそれぞれ50[μm]及び250[μm]と設定し、光導波路213ではそれぞれ50[μm]及び10[μm]と設定する。
【0063】
図9は、光導波路211,213によって構成される各リング共振器を上記寸法で設計した場合における、透過スペクトルの一例を示すグラフである。図9において、縦軸は光透過率を示し、横軸は波長を示している。図9に示すように、光導波路211によって構成されるリング共振器の透過スペクトル特性(グラフG3)では、透過ピークP1が周期的に繰り返されている。その繰り返し周期はWDM伝送システムにおける波長グリッドに応じた周期(好ましくは、波長グリッドと同じか又はその半分)であり、例えば周波数換算で50[GHz]である。また、光導波路213によって構成されるリング共振器の透過スペクトル特性(グラフG4)においても、透過ピークP2が周期的に繰り返されている。その繰り返し周期はWDM伝送システムにおける波長グリッドより広い周期(好ましくは、波長グリッドの2倍以上)であり、例えば周波数換算で518[GHz]である。このように、各リング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期は互いに異なるように設定され、一のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期は、他の一のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期の2倍より長いことが好ましい。
【0064】
フォトダイオード構造22は、図8(b)に示すように、半導体基板3上に設けられた光導波路220と、光導波路220上に設けられた光吸収層221と、光吸収層221上に設けられたクラッド層222及びコンタクト層223とを備えている。なお、これらの層の構成は、光吸収層221を除いて、既述した位相調整領域10e(図5(a)を参照)の光導波層131、上部クラッド層132、及びコンタクト層133と同様である。また、光導波路220、光吸収層221、クラッド層222、及びコンタクト層223がストライプメサ構造を呈しており、その両側面が絶縁膜13によって保護され、ストライプメサ構造の両側面に沿って樹脂層15が設けられている点でも位相調整領域10eと同様である。光導波路220の一端は、対応する光導波路211〜213のいずれかと光学的に結合されている。
【0065】
光吸収層221は、光導波路220とクラッド層222との間に設けられる。一実施例では、光吸収層221はp型InGaAsから成る。光吸収層221の組成は、半導体レーザ領域10における発振波長、例えば1.55[μm]波長帯の光を吸収するように調整される。光吸収層221の厚さは、例えば50[nm]である。
【0066】
コンタクト層223上には、アノード電極224が設けられている。アノード電極224は、例えばTi/Pt/Auによって構成され、コンタクト層223との間でオーミック接触を実現する。アノード電極224は、カソード電極9と協働して、光吸収層221において発生したキャリアを光電流として取り出す。
【0067】
以上の構成を備える半導体レーザ素子1Aの作用(動作)及び効果について説明する。この半導体レーザ素子1Aでは、光反射機能を有する一対の膜137a,137bによって半導体レーザ領域10と波長モニタ領域20とが区分されている。そして、半導体レーザ領域10の利得導波路(利得領域10aの光導波層110)において発生した光が、半導体レーザ領域10内の光導波路を伝搬して一対の膜137a,137bによって反射されることにより、該光導波路内を共振し、一対の膜137a,137bとは反対側の光導波路の端面からAR膜105を通ってレーザ光として出力される。また、この一対の膜137a,137bに到達した光の一部は、一対の膜137a,137bを透過して波長モニタ領域20に達する。この光は、3本の光導波路211〜213にそれぞれ分岐され、うち2本の光導波路211及び213を伝搬した光は、光導波路211及び213それぞれに設けられたリング共振器を通過し、フォトダイオード構造22により検出される。また、他の光導波路212を伝搬した光は、そのままフォトダイオード構造22により検出される。
【0068】
図10は、半導体レーザ素子1Aから出力されるレーザ光の波長を制御するための制御系統を概略的に示すブロック図である。図10に示すように、3つのフォトダイオード構造22から取り出された光電流は、制御回路17に提供される。制御回路17は所定の演算を行い、利得領域10a、可変DBR領域10b、増幅領域10c、リング共振器領域10d、及び位相調整領域10eそれぞれの電極に供給する電流Ia〜Ieを決定し、該電流Ia〜Ieを出力する。制御回路17から出力された電流Iaは利得領域10aのアノード電極114に供給され、電流Ibはスイッチ回路19を介して可変DBR領域10bの複数のアノード電極124の何れかに選択的に供給され、電流Icは増幅領域10cのアノード電極115に供給され、電流Idはリング共振器領域10dのアノード電極134に供給され、電流Ieは位相調整領域10eのアノード電極135に供給される。
【0069】
図11は、制御回路17における処理の概要を説明するための図である。図11の縦軸は光透過率を示しており、横軸は波長を示している。また、図中のグラフG3は波長モニタ領域20の光導波路211の光透過特性を示しており、グラフG4は光導波路213の光透過特性を示している。いま、半導体レーザ領域10の共振波長を、或る波長λ1に合わせることを考える。制御回路17は、予め記憶しているルックアップテーブルを参照して、共振波長が波長λ1に近づくように各電流Ia〜Ieを設定する。このとき、半導体レーザ領域10の共振波長は、例えば波長λ1の近傍の波長λaとなる。微調整が必要な場合には、光導波路211を透過してフォトダイオード構造22に達する光の透過率(光導波路211及び212を介して検出された光の強度比に基づいて算出される)が波長λ1に対応する値(図11では、約0.69)に近づくように、電流Ia〜Ieを更に調整する。
【0070】
ここで、半導体レーザ領域10の共振器長が1[mm]である場合、縦モード(FPモード)の波長間隔は周波数換算で42[GHz]である。したがって、モードホップが発生すると42[GHz]だけ離れた波長(例えば、図11の波長λb)でレーザ発振を開始することになる。このようなモードホップによる発振波長の変動幅が、グラフG3に示された光導波路211の光透過特性の半周期より大きくなった場合、波長λ1に対応する透過率0.69に近づくように電流Ia〜Ieを調整すると、発振波長が波長λ1とは異なる波長λ2に近づいてしまうことになる。
【0071】
このような場合、光導波路213を透過してフォトダイオード構造22に達する光の透過率(グラフG4)を併せて参照することで、発振波長を波長λ1に好適に近づけることが可能となる。すなわち、図11において波長λ1に対応する光導波路213の透過率は約0.23であり、波長λ2に対応する光導波路213の透過率は約0.08であるから、制御回路17は、光導波路213の透過率が0.23に近づくように、電流Ia〜Ieを調整するとよい。つまり、制御回路17は、光導波路211及び213の透過率がそれぞれ所定の値に近づくように電流Ia〜Ieを調整することで、モードホップが生じた際にも半導体レーザ領域10の発振波長を精度良く制御することができる。
【0072】
このように、本実施形態の半導体レーザ素子1Aでは、光導波路211及び213それぞれに設けられたリング共振器の波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なっているので、モードホップや経年劣化により、或るリング共振器のFSRに相当する波長分だけ出力波長が変動した場合であっても、別のリング共振器を通過した光の強度をモニタすることによって、波長の変動分を修正することができる。すなわち、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aによれば、出力波長の変動が大きくなる場合であっても、出力波長を精度良くロックできる。
【0073】
また、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aでは、半導体レーザ領域10及び波長モニタ領域20が共通の半導体基板3上に設けられている。したがって、従来の波長ロッカーの構造と比較して、更なる小型化が可能となる。
【0074】
また、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aでは、半導体レーザ領域10が、格子間隔が光導波方向に変化する回折格子121a、及び光導波方向に並設された複数のアノード電極124を有するDBR領域10bと、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を有するリング共振器領域10dと、位相調整領域10eとを有する。これにより、半導体レーザ領域10を波長可変型のレーザ構造にできるので、伝送量が増大する近年のWDM伝送システムにおいて、更に効率的なシステム運用を可能にできる。
【0075】
ここで、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aの作製方法について説明する。まず、半導体基板3となるn型InP等の半導体ウェハ上に、光導波層120及び131、並びに光導波路21及び220となる半導体層と、回折格子層121及び半導体層136となる半導体層とをMOCVD法によりエピタキシャル成長させる。次に、電子ビーム露光によりレジストに回折格子パターンを描画し、このレジストをマスクとして回折格子層121の表面にドライエッチングを施すことにより、回折格子121aを形成する。レジストを除去した後、MOCVD法によりp型InP層を回折格子121aを埋め込むように成長させて、上部クラッド層122及び132の一部(約200nm程度の厚さ)を形成する。
【0076】
続いて、利得領域10aとなる領域上、及び増幅領域10cとなる領域上に成長した半導体層をドライエッチングにより除去する。そして、半導体層が除去された半導体ウェハの領域上に、下部光閉じ込め層、多重量子井戸構造による活性層、及び上部光閉じ込め層から成る光導波層110と、上部クラッド層112の一部(約200nm程度の厚さ)とをバットジョイント法によって成長させる。
【0077】
続いて、フォトダイオード構造22となる領域に成長した半導体層(光導波路220となる層を除く)をドライエッチングにより除去する。そして、当該領域に、光吸収層221及びクラッド層222の一部を成長させる。
【0078】
続いて、残りの上部クラッド層112,122、132および222を一度に形成し、引き続きコンタクト層113,123,133,及び223となる半導体層をMOCVD法により成長させる。その後、アノード電極と接触する部分だけ残してコンタクト層を除去し、各領域を電気的に分離する。
【0079】
続いて、リング共振器領域10d、位相調整領域10e、反射端面領域10f、及び波長モニタ領域20に相当する領域をマスクで覆い、利得領域10a、DBR領域10b、及び増幅領域10cに相当する領域に対し、光導波路となる部分だけ残して半導体ウェハに達する深さまでドライエッチングを施し、メサ構造を形成する。その後、このメサ構造の両側面を半絶縁性領域102で埋め込み、マスクを除去する。
【0080】
続いて、利得領域10a、DBR領域10b、及び増幅領域10cに相当する領域をマスクで覆い、リング共振器領域10d、位相調整領域10e、反射端面領域10f、及び波長モニタ領域20に相当する領域に対し、光導波路となる部分だけ残して半導体ウェハに達する深さまでドライエッチングを施し、メサ構造を形成する。同時に、反射端面領域10fとなる領域において、メサ構造の光導波路を横切るように一対の溝を形成する。その後、このメサ構造の両側面、及び一対の溝の内部にSiO2といった絶縁材料をCVDにより堆積して絶縁膜13及び一対の膜137a,137bを形成したのち、その上からBCB樹脂をスピンコートで塗布・硬化させて樹脂層15を形成し、マスクを除去する。
【0081】
続いて、アノード電極が配置される部分の絶縁膜13及び樹脂層15を除去し、アノード電極114,115,124,134,135,及び224をリフトオフ法により形成する。このとき、素子上の配線および電極パッドを併せて形成する。また、半導体ウェハの裏面上にカソード電極9を蒸着する。
【0082】
最後に、半導体ウェハを棒状に劈開し、その劈開面の一方にAR膜105をコーティングし、これをチップ状に分割して冷却構造物30上に実装する。こうして、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Aが完成する。
【0083】
なお、一対の膜137a,137bの構成材料をSiO2ではなくSiNとする場合には、絶縁材料としてSiO2に代えてSiNを堆積するとよい。また、一対の膜137a,137bの構成材料をBCB樹脂とする場合には、絶縁材料の堆積工程を省略してBCB樹脂を塗布・硬化させるとよい。
【0084】
(第2の実施の形態)
次に、本発明に係る波長ロッカー集積型半導体レーザ素子の第2実施形態について説明する。図12及び図13を参照すると、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Bは、半導体レーザ領域40と、波長モニタ領域20とを備えている。半導体レーザ領域40は、分布帰還型の半導体レーザ構造を有しており、DFBレーザ領域40a及び反射端面領域40bによって構成されている。このうち、反射端面領域40bの構成及び機能は、第1実施形態の反射端面領域10fと同様である。また、波長モニタ領域20の構成及び機能は、第1実施形態のものと同様である。
【0085】
半導体レーザ領域40及び波長モニタ領域20は、図13に示すように互いに共通の半導体基板3上に形成されており、光導波方向に並んで設けられている。なお、半導体基板3は、半導体レーザ領域40及び波長モニタ領域20において下部クラッドとして機能する。
【0086】
また、半導体基板3の裏面側には、カソード電極9を挟んで冷却構造物51及び52が設けられている。冷却構造物51,52は、例えばヒートシンクとして機能する一対の金属板と、該一対の金属板間に設けられて熱の移動を行うペルチェ素子とを含んで構成される。冷却構造物51はDFBレーザ領域40aの直下に配置され、冷却構造物52は波長モニタ領域20の直下に配置され、それぞれDFBレーザ領域40a及び波長モニタ領域20の温度を独立して制御する。すなわち、冷却構造物51はDFBレーザ領域40aの温度を任意に変化させることによって出力波長を調整し、冷却構造物52は波長モニタ領域20の温度を一定に維持する。
【0087】
図13に示すように、DFBレーザ領域40aは、半導体基板3上に設けられた光導波層140と、光導波層140上に順に積層された回折格子層141、上部クラッド層142及びコンタクト層143とを備えている。光導波層140は、本実施形態における第1の光導波路の一部を構成する利得導波路である。光導波層140は、例えば半導体基板3上に設けられた下部光閉じ込め層と、下部光閉じ込め層上に設けられた活性層と、活性層上に設けられた上部光閉じ込め層とを含んで構成される。光導波層140は、半導体基板3よりバンドギャップ波長が長い半導体によって構成され、半導体基板3の主面に沿った光導波方向に延在し、その一端は半導体レーザ素子1Bの端面に設けられたAR膜105に結合され、他端は反射端面領域40bの光導波層(図6(a)に示した光導波層131に相当)に結合されている。
【0088】
回折格子層141は、光導波層140に沿って設けられる。本実施形態では、回折格子層141は光導波層140の直上に設けられている。回折格子層141と上部クラッド層142との界面には、回折格子141aが形成されている。回折格子141aは、光導波層140に沿って形成されており、その格子間隔は一定である。
【0089】
一実施例では、光導波層140及び回折格子層141はアンドープGaInAsPから成り、光導波層140及び回折格子層141の厚さは、例えばそれぞれ0.3[μm]、50[nm]である。また、上部クラッド層142はp型InPから成り、コンタクト層143はp型GaInAsから成る。上部クラッド層142及びコンタクト層143の厚さは、例えばそれぞれ2[μm]及び0.2[μm]である。
【0090】
なお、第1実施形態の利得領域10aと同様に、本実施形態のDFBレーザ領域40aは、光導波に適した幅にエッチングされて所定の光導波方向に延びるストライプメサ構造を呈している。光導波方向と交差する方向におけるストライプメサ構造の横幅は、例えば1.5[μm]である。そして、このストライプメサ構造の両側面には、例えばFeがドープされたInPから成る半絶縁性領域が設けられている。
【0091】
コンタクト層143上にはアノード電極144が設けられている。アノード電極144は、例えばTi/Pt/Auによって構成され、コンタクト層143との間でオーミック接触を実現する。また、第1実施形態と同様に、半導体基板3の裏面上にはカソード電極9が設けられている。アノード電極144とカソード電極9とは、互いに協働して光導波層140に電流を注入する。
【0092】
図14は、半導体レーザ素子1Bから出力されるレーザ光の波長を制御するための制御系統を概略的に示すブロック図である。図14に示すように、3つのフォトダイオード構造22から取り出された光電流は、制御回路18に提供される。制御回路18は所定の演算を行い、冷却構造物51に供給する電流Ifを決定し、該電流Ifを出力する。冷却構造物51は、制御回路18から提供された電流Ifに応じた冷却能力を発揮し、DFBレーザ領域40aの温度を変化させる。これにより、光導波層140及び回折格子層141の屈折率が変化し、回折格子141aの格子間隔が実質的に変化することで、DFBレーザ領域40aからの出力波長が制御されるので、経年変化等によるDFBレーザ領域40aの出力波長の変動を抑えることができる。なお、制御回路18における演算は、第1実施形態の制御回路17と同様(図11参照)であるため、詳細な説明を省略する。
【0093】
本実施形態の半導体レーザ素子1Bによれば、第1実施形態の半導体レーザ素子1Aと同様の効果が得られる。すなわち、半導体レーザ素子1Bは、第1実施形態と同じ波長モニタ領域20を備えているので、モードホップや経年劣化により、或るリング共振器のFSRに相当する波長分だけ出力波長が変動した場合であっても、別のリング共振器を通過した光の強度をモニタすることによって、波長の変動分を修正することができる。したがって、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Bによれば、出力波長の変動が大きくなる場合であっても、出力波長を精度良くロックできる。また、本実施形態に係る半導体レーザ素子1Bでは、半導体レーザ領域40及び波長モニタ領域20が共通の半導体基板3上に設けられているので、従来の波長ロッカーの構造と比較して、更なる小型化が可能となる。
【0094】
本発明による波長ロッカー集積型半導体レーザ素子は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記各実施形態では半導体基板及び各半導体層としてInP系化合物半導体を例示したが、他のIII−V族化合物半導体や、その他の半導体であっても本発明の構成を好適に実現できる。また、上記各実施形態では第1及び第2の光導波路の構成としてメサストライプ構造のものを例示したが、リッジ型等、他の構造の光導波路であっても本発明の効果を好適に得ることができる。
【0095】
また、上記各実施形態では、波長モニタ領域において第2の光導波路が3本に分岐され、うち2本の光導波路が第1のリング共振器を構成しているものを例示したが、第2の光導波路の分岐数は3本以上であれば特に制限されず、うち少なくとも2本の光導波路が第1のリング共振器を構成することによって、本発明の効果を好適に得ることができる。
【符号の説明】
【0096】
1A,1B…(波長ロッカー集積型)半導体レーザ素子、3…半導体基板、4…絶縁膜、9…カソード電極、10,40…半導体レーザ領域、10a…利得領域、10b…DBR領域、10c…増幅領域、10d…リング共振器領域、10e…位相調整領域、10f,40b…反射端面領域、13…絶縁膜、15…樹脂層、17,18…制御回路、19…スイッチ回路、20…波長モニタ領域、21,211〜213…光導波路、22…フォトダイオード構造、30,51,52…冷却構造物、40a…DFBレーザ領域、102…半絶縁性領域、105…AR膜、110,120,131,140…光導波層、112,122,132,142,222…上部クラッド層、113,123,133,143,223…コンタクト層、114,115,124,134,135,144,224…アノード電極、121,141…回折格子層、121a,141a…回折格子、131b,211b,213b…リング状部分、137a,137b…膜、220…光導波路、221…光吸収層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられ、利得導波路を含む第1の光導波路、及び前記第1の光導波路の屈折率より小さい屈折率を有し、前記第1の光導波路の光軸と交差することにより前記第1の光導波路の反射端面を構成する一対の膜を有する半導体レーザ領域と、
前記半導体レーザ領域と並んで前記半導体基板上に設けられ、前記一対の膜を介して前記第1の光導波路と光学的に結合された第2の光導波路を有する波長モニタ領域と
を備え、
前記波長モニタ領域において、前記第2の光導波路が3本以上の光導波路に分岐しており、前記3本以上の光導波路のうち少なくとも2本の光導波路が、波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なる第1のリング共振器をそれぞれ構成しており、
前記波長モニタ領域が、光吸収層を有する3つ以上のフォトダイオード構造を含んでおり、
前記3本以上の光導波路のそれぞれが、前記3つ以上のフォトダイオード構造のそれぞれと光学的に結合されていることを特徴とする、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記少なくとも2本の光導波路によって構成される各第1のリング共振器のうち一の第1のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期が、他の一の第1のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期の2倍より長いことを特徴とする、請求項1に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記半導体レーザ領域が、
格子間隔が前記第1の光導波路の光導波方向に変化しており前記第1の光導波路に沿って形成された回折格子、及び前記第1の光導波路の光導波方向に並設された複数の電極を有し、前記利得導波路の一端側に設けられた光反射部と、
前記利得導波路の他端側に設けられ、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を有する光透過部と、
前記第1の光導波路の光路長を能動的に制御するための位相調整部と
を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記光透過部が、前記第1の光導波路によって構成された第2のリング共振器を含むことを特徴とする、請求項3に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記半導体レーザ領域が分布帰還型レーザ構造を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記一対の膜が、SiO2、SiN、及びベンゾシクロブテン樹脂のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられ、利得導波路を含む第1の光導波路、及び前記第1の光導波路の屈折率より小さい屈折率を有し、前記第1の光導波路の光軸と交差することにより前記第1の光導波路の反射端面を構成する一対の膜を有する半導体レーザ領域と、
前記半導体レーザ領域と並んで前記半導体基板上に設けられ、前記一対の膜を介して前記第1の光導波路と光学的に結合された第2の光導波路を有する波長モニタ領域と
を備え、
前記波長モニタ領域において、前記第2の光導波路が3本以上の光導波路に分岐しており、前記3本以上の光導波路のうち少なくとも2本の光導波路が、波長−透過率特性の繰り返し周期が互いに異なる第1のリング共振器をそれぞれ構成しており、
前記波長モニタ領域が、光吸収層を有する3つ以上のフォトダイオード構造を含んでおり、
前記3本以上の光導波路のそれぞれが、前記3つ以上のフォトダイオード構造のそれぞれと光学的に結合されていることを特徴とする、波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記少なくとも2本の光導波路によって構成される各第1のリング共振器のうち一の第1のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期が、他の一の第1のリング共振器における波長−透過率特性の繰り返し周期の2倍より長いことを特徴とする、請求項1に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記半導体レーザ領域が、
格子間隔が前記第1の光導波路の光導波方向に変化しており前記第1の光導波路に沿って形成された回折格子、及び前記第1の光導波路の光導波方向に並設された複数の電極を有し、前記利得導波路の一端側に設けられた光反射部と、
前記利得導波路の他端側に設けられ、所定の波長間隔でもって周期的に変化する波長−透過率特性を有する光透過部と、
前記第1の光導波路の光路長を能動的に制御するための位相調整部と
を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記光透過部が、前記第1の光導波路によって構成された第2のリング共振器を含むことを特徴とする、請求項3に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記半導体レーザ領域が分布帰還型レーザ構造を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記一対の膜が、SiO2、SiN、及びベンゾシクロブテン樹脂のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の波長ロッカー集積型半導体レーザ素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−3591(P2011−3591A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143357(P2009−143357)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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