説明

波面測定方法、波面測定装置および顕微鏡

【課題】焦点面近傍の散乱体の密度が低い場合であっても、精度よく波面を測定する。
【解決手段】散乱体を含む試料内の焦点面からの戻り光と参照光とを干渉させて発生した試料各部に対応する干渉パターンのコントラストを測定するコントラスト測定ステップS2と、コントラスト測定ステップS2により測定されたコントラストが所定の閾値以上である高コントラスト領域を抽出する領域抽出ステップS3と、領域抽出ステップS3により抽出された高コントラスト領域について、高コントラスト領域に対応する干渉パターンを波面データに変換する波面算出ステップS4とを含む波面測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波面測定方法、波面測定装置および顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、散乱体を含む試料内の焦点面からの戻り光を用いて干渉パターンを生成し、戻り光の波面を測定する波面測定方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この波面測定方法においては、試料を複数の領域に区分し、その一領域内の複数箇所において求めた複数の干渉パターンから求められた波面を平均することにより、当該領域の波面を測定することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0033933号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、試料内の焦点面近傍に散乱体の数が少ない場合には、焦点面から戻る戻り光の強度が弱くなって鮮明な干渉パターンが得られなくなり、不鮮明な干渉パターンから求められる波面の測定値がばらつくという問題がある。そして、ばらつきの大きな測定値を平均して得られた波面は真値から大きくずれてしまうことになる。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、焦点面近傍の散乱体の密度が低い場合であっても、精度よく波面を測定することができる波面測定方法、波面測定装置および顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、散乱体を含む試料内の焦点面からの戻り光と参照光とを干渉させて発生した前記試料各部に対応する干渉パターンのコントラストを測定するコントラスト測定ステップと、該コントラスト測定ステップにより測定されたコントラストが所定の閾値以上である高コントラスト領域を抽出する領域抽出ステップと、該領域抽出ステップにより抽出された前記高コントラスト領域について、該高コントラスト領域に対応する干渉パターンを波面データに変換する波面算出ステップとを含む波面測定方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、コントラスト測定ステップによって、試料各部に対応する干渉パターンのコントラストが測定され、領域抽出ステップによって、所定の閾値以上のコントラストを有する高コントラスト領域が抽出される。そして、波面算出ステップによって、高コントラスト領域に対応する干渉パターンが波面データに変換されることにより、試料の各部に対応する波面が測定される。
【0008】
高コントラスト領域は、焦点面近傍に存在する散乱体の密度が高い領域であり、得られる干渉パターンのばらつきが少ないことから、これらの高コントラスト領域について得られた干渉パターンを用いることにより、真値により近い波面を精度よく測定することができる。すなわち、試料内に存在する散乱体の密度が低い領域について取得されたばらつきの多い干渉パターンを波面の測定に使用しないので、測定精度を向上することができる。
【0009】
上記発明においては、前記領域抽出ステップにより抽出された前記高コントラスト領域内においてコントラストが最大となる地点を抽出する最大コントラスト抽出ステップを含み、前記波面算出ステップが、前記最大コントラスト抽出ステップにより抽出された前記地点に対応する干渉パターンを波面データに変換し、得られた波面データを前記高コントラスト領域全体における波面データとして設定してもよい。
【0010】
このようにすることで、高コントラスト領域全体における波面データを、最もコントラストの高い地点に対応する干渉パターンから得られた波面データによって代表させるので、高コントラスト領域の各部について個別に波面データを算出せずに済み、波面の測定を簡易に行うことができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記領域抽出ステップにより抽出された前記領域の面積を算出する面積算出ステップと、該面積算出ステップにおいて算出された面積が所定の閾値以上であるか否かを判定する判定ステップと、該判定ステップにおいて所定の閾値以上の面積があると判定された領域を複数の小領域に分割する領域分割ステップとを含み、前記波面算出ステップは、前記領域分割ステップにより分割生成された小領域について、該小領域に対応する干渉パターンを波面データに変換してもよい。
【0012】
このようにすることで、高コントラスト領域が広い範囲にわたって連続している場合においても、高コントラスト領域を複数に分割生成した小領域について波面データを生成することで、高コントラスト領域内において異なる測定値を有する波面を精度よく測定することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記コントラスト測定ステップが、前記干渉パターンを2次元フーリエ変換して該干渉パターンのコントラストを測定してもよい。
このようにすることで、特定の周波数における強度の大小によってコントラストを簡易に測定することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記コントラスト測定ステップが、前記干渉パターンのラインプロファイルに基づいて該干渉パターンのコントラストを測定してもよい。
このようにすることで、簡易に計算できるラインプロファイルによって、コントラストを簡易に測定することができる。
【0015】
また、本発明は、散乱体を含む試料内の焦点面からの戻り光と参照光とを干渉させて発生した前記試料各部に対応する干渉パターンのコントラストを測定するコントラスト測定部と、該コントラスト測定部により測定されたコントラストが所定の閾値以上である高コントラスト領域を抽出する領域抽出部と、該領域抽出部により抽出された前記高コントラスト領域について、該高コントラスト領域に対応する干渉パターンを波面データに変換する波面算出部とを備える波面測定装置を提供する。
【0016】
本発明によれば、コントラスト測定部によって、試料各部に対応する干渉パターンのコントラストが測定され、領域抽出部によって、所定の閾値以上のコントラストを有する高コントラスト領域が抽出される。そして、波面算出部によって、高コントラスト領域に対応する干渉パターンが波面データに変換されることにより、試料の各部に対応する波面が測定される。
試料内に存在する散乱体の密度が低い領域について取得されたばらつきの多い干渉パターンを波面の測定に使用しないので、高い精度で波面を測定することができる。
【0017】
また、本発明は、光源からの光を照明光と参照光とに分岐する分岐部と、該分岐部により分岐された照明光を散乱体を含む試料に集光するとともに、試料内の焦点面から戻る戻り光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより集光された戻り光と前記参照光とを干渉させて干渉パターンを発生させる干渉部と、上記波面測定装置と、該波面測定装置により算出された波面データに基づいて、前記光源からの光の波面を変調する空間光変調素子とを備える顕微鏡を提供する。
【0018】
本発明によれば、分岐部によって分岐された照明光と参照光の内、照明光が対物レンズによって試料に集光され、試料の焦点面から戻り、対物レンズによって集光された戻り光が干渉部において参照光と干渉させられることにより干渉パターンが発生する。この干渉パターンの内、高コントラスト領域に対応する干渉パターンが波面データに変換され、制度の高い波面を得ることができる。そして、波面測定装置によって得られた波面が得られるように設定された空間光変調素子に照明光を入射させることにより、照明光の波面が変調される。波面が変調された照明光は、干渉パターンのコントラストの測定に用いた戻り光と同一の光路を試料に向けて進むことにより、戻り光が発生した試料内の焦点面に精度よく集光させることができる。これにより、試料の鮮明な観察像を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、焦点面近傍の散乱体の密度が低い場合であっても、精度よく波面を測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡を示す全体構成図である。
【図2】図1の顕微鏡に備えられた本発明の一実施形態に係る波面測定部を示すブロック図である。
【図3】図2の波面測定部に備えられるコントラスト測定部によりコントラストを測定する際に使用される干渉パターンのラインプロファイルの一例を示す図である。
【図4】図1の顕微鏡により実施される本発明の一実施形態に係る波面測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る波面測定方法、波面測定部(波面測定装置)および顕微鏡について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡1は、図1に示されるように、レーザ光を発生するレーザ光源2と、該レーザ光源2から発せられたレーザ光をコリメート光に変換するコリメータレンズ3とを備えている。
また、顕微鏡1は、スライドガラスに載置された試料Aを搭載するステージ4と、コリメータレンズ3により変換されたコリメート光からなるレーザ光を照明光と参照光とに分岐する分岐部5とを備えている。
【0022】
さらに、顕微鏡1は、分岐部5により分岐された照明光の通過する照明光路6に配置され、照明光の波面を変調する波面変調部7と、リレーレンズ8,10と、レーザ光を走査するスキャナ9と、該スキャナ9により走査されたレーザ光を試料Aに集光する一方、試料Aからの戻り光を集光する対物レンズ11と、該対物レンズ11により集光された戻り光を検出する検出部12とを備えている。
また、顕微鏡1は、試料Aからの戻り光と参照光とを干渉させて干渉パターンを発生させる干渉部13と、発生した干渉パターンから戻り光の波面を測定し、その波面データを波面変調部7に出力する波面測定部(波面測定装置)14とを備えている。
【0023】
分岐部5は、コリメータレンズ3によって平行光に変換されたレーザ光の偏光方向を任意の角度で回転させる波長板15と、波長板15を透過して偏光方向が設定されたレーザ光を参照光と照明光とに分岐する偏光ビームスプリッタ16とを備えている。
波長板15は、偏光ビームスプリッタ16においてレーザ光を参照光と照明光とに所定の光量の割合で分岐できるように、レーザ光の偏光方向を回転させるようになっている。
【0024】
参照光が通過する参照光路17には、光軸に沿って移動可能に設けられ光路長を調整する光路長調整プリズム18と、群速度分散を補償する分散補償板19と、後述する偏光ビームスプリッタ20に入射される参照光の偏光方向を90°回転させるλ/2板21とが配置されている。符号22はミラーである。
【0025】
干渉部13は、照明光の通過する照明光路6に設けられた波面変調部7の後段に配置され、照明光の試料Aからの戻り光と参照光路17を通過してきた参照光とを合波する偏光ビームスプリッタ20と、偏光ビームスプリッタ20を透過したレーザ光(照明光)を円偏光に変換するかまたは45°回転させる波長板23と、偏光ビームスプリッタ20により合波された参照光および戻り光を検出する検出光路24とを備えている。
また、波長板23は、偏光ビームスプリッタ20を透過した照明光が試料Aに集光され、さらに試料Aからの戻り光が偏光ビームスプリッタ20に再度入射するまでの間に、偏光方向を90°回転させるように配置されている。
【0026】
検出光路24には、波長板23を透過した戻り光およびλ/2板21を透過した参照光をそれぞれ所定の光量の割合で透過させる偏光板25と、瞳をリレーするリレーレンズ26と、戻り光と参照光とが合波されることにより発生した干渉光を検出する干渉光検出部27とが配置されている。
【0027】
ここで、波長板23を透過した戻り光とλ/2板21を透過した参照光との偏光方向が互いに略直交するので、偏光板25は、それぞれの光の偏光方向に対して0より大きい角度となるような透過軸を有している。これにより、偏光板25は、戻り光と参照光のうち所定の軸に沿う成分のみを透過させている。
また、干渉光検出部27は、後述する空間光変調素子28および対物レンズ11の入射瞳位置と光学的に共役な位置関係に配置されている。
【0028】
波面変調部7は、照明光となるレーザ光を反射するプリズム29と、該プリズム29により反射されたレーザ光を反射し、その際に、その表面形状に従う形態にレーザ光の波面を変調してプリズム29に戻す反射型の空間光変調素子28とを備えている。
【0029】
空間光変調素子28は、プリズム29により反射されたレーザ光を同じプリズム29に戻るように光路を折り返し、レーザ光源2からのレーザ光と同軸の光路に戻すように構成されている。
空間光変調素子28は、その表面形状を任意に変化させることができるセグメントタイプのMEMSによって構成されている。空間光変調素子28は、波面測定部14によって測定された波面に対応する波面データを入力されることにより、波面データに対応する形態に表面形状を変化させ、入射されるコリメート光からなる照明光を、測定された波面を有する照明光に変換するようになっている。空間光変調素子28と対物レンズ11の入射瞳位置とは光学的に共役な位置関係に配置されている。
【0030】
スキャナ9は、相互に交差する方向に配置された軸線回りに揺動可能な2枚のガルバノミラー9a,9bを近接して配置した、いわゆる近接ガルバノミラーであり、入射されるレーザ光を2次元的に走査することができるようになっている。
【0031】
検出部12は、対物レンズ11により照明光が集光されることにより試料Aにおいて発生した蛍光を照明光路から分岐するダイクロイックミラー30と、該ダイクロイックミラー30によって分岐された蛍光から照明光を除去するバリアフィルタ31と、蛍光を集光する集光レンズ32と、検出する光電子増倍管からなる光検出器33とを備えている。対物レンズ11は、ステージ4との間の光軸方向の距離を変更可能に設けられている。
【0032】
空間光変調素子28における表面形状を平坦な反射面形状に設定しておくことにより、平面波からなる波面を有するレーザ光を対物レンズ11の入射瞳位置に入射させることができる。これによって、対物レンズ11の焦点面にレーザ光を集光させることができるようになっている。
【0033】
レーザ光源2からレーザ光を出射させ、スキャナ9を駆動して、試料A内の焦点面に集光しているレーザ光を2次元的に走査させつつ、各集光位置において発生した蛍光を光検出器33によって検出することにより、対物レンズ11の焦点面に沿って広がる試料Aの2次元的な蛍光像を取得することができるようになっている。
【0034】
そして、対物レンズ11とステージ4との距離を相対的に移動させて、対物レンズ11の焦点面の位置を変化させながら2次元的な蛍光像(スライス画像)を複数取得していくことにより、試料Aの3次元的な蛍光像を取得することができるようになっている。
【0035】
本実施形態に係る波面測定部14は、図2に示されるように、干渉光検出部27により検出された参照光と戻り光との干渉パターンのコントラストを測定するコントラスト測定部34と、該コントラスト測定部34により測定されたコントラストが所定の閾値以上である高コントラスト領域を抽出する領域抽出部35と、該領域抽出部35により抽出された高コントラスト領域について、該高コントラスト領域に対応する干渉パターンを波面データに変換する波面算出部36とを備えている。
【0036】
コントラスト測定部34は、図3に示されるように、干渉光検出部27により検出された参照光と戻り光との干渉パターンを所定の切断線に沿う輝度変化であるラインプロファイルBを抽出し、このラインプロファイルBに示される輝度の極大値B1の平均値と輝度の極小値B2の平均値との差分としてコントラストを測定するようになっている。
【0037】
波面算出部36は、領域抽出部35により抽出された高コントラスト領域内の干渉パターンのみを用いて高コントラスト領域内の散乱体から発せられる戻り光の波面データを算出するようになっている。高コントラスト領域以外の領域における干渉パターンは存在していたとしても多くのノイズを含むため、これを使用しないこととしている。
【0038】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡1を用いた波面測定方法および観察方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡1を用いた試料の観察は、まず、対物レンズ11の焦点面に存在する散乱体からの戻り光の波面を測定し、次いで、測定された波面をコリメート光から生成するように空間光変調素子28を設定し、最後に、空間光変調素子28に対してコリメート光を入射して空間光変調素子28によって変調された照明光を試料Aに照射することにより、試料Aの蛍光画像を取得することにより行う。
【0039】
本実施形態に係る顕微鏡1を用いた波面測定方法は、図4に示されるように、試料A各部の干渉パターンを取得する干渉ステップS1と、取得された干渉パターンからコントラスト測定部34によりコントラストを測定するコントラスト測定ステップS2と、測定されたコントラストが所定の閾値以上である高コントラスト領域を領域抽出部35により抽出する領域抽出ステップS3と、抽出された高コントラスト領域内の干渉パターンから波面算出部36により波面データを生成する波面算出ステップS4とを含んでいる。
【0040】
干渉ステップS1においては、まず、参照光路17の光路長と照明光路6の光路長とを一致させることが行われる。光路長の調節は、光路長調節プリズム18の位置を調節して、偏光ビームスプリッタ16,20間の参照光路17の光路長を調節することにより、偏光ビームスプリッタ16から対物レンズ11の焦点面において折り返され偏光ビームスプリッタ20まで戻る照明光路6の光路長と精度良く一致させることにより行われる。次いで、空間光変調素子28を平坦な反射面形状となる位相パターンに設定する。
【0041】
この状態で、レーザ光源2からレーザ光を発生させる。レーザ光源2から発せられた、例えば、縦偏光面を有するレーザ光は、波長板15を通過させられることにより、その偏光方向を所定の角度で回転させられて、偏光ビームスプリッタ16に入射される。偏光ビームスプリッタ16においては、縦偏光成分と横偏光成分とに2分割され、その内の一方、例えば、縦偏光成分が参照光として参照光路17に入射され、他方が照明光として照明光路6に入射される。
【0042】
参照光路17に指向された参照光は、分散補償板19を通過させられる際に分散補償され、光路長調整プリズム18において折り返された後、λ/2板21によって偏光方向を90°回転させられて横偏光成分となる。横偏光成分となった参照光は、偏光ビームスプリッタ20を透過させられて、検出光路24に入射させられる。
【0043】
一方、偏光ビームスプリッタ16を透過した照明光は、照明光路6に入射されて、プリズム29および空間光変調素子28において反射された後、偏光ビームスプリッタ20を透過して、波長板23を通過させられる。これにより、円偏光に変換されまたは偏光方向が45°回転させられた照明光は、リレーレンズ8を通過した後、スキャナ9によって所望の集光点に指向させられるための角度を付与される。そして、リレーレンズ10を透過した後、ダイクロイックミラー30によって反射され、対物レンズ11によって試料Aに集光される。
【0044】
試料A内の集光点近傍に存在する散乱体において反射した照明光の戻り光は、対物レンズ11によって受光された後、ダイクロイックミラー30によって反射され、リレーレンズ10、スキャナ9およびリレーレンズ8を介して戻り、波長板23によって縦偏光成分に変換されて偏光ビームスプリッタ20に入射される。
【0045】
偏光ビームスプリッタ20に入射された縦偏光成分からなる戻り光は、偏光ビームスプリッタ20によって反射されて検出光路24に入射される。この際に、縦偏光成分からなる戻り光は、参照光路17を通過してきた横偏光成分からなる参照光と合波される。そして、試料Aからの戻り光である縦偏光成分および参照光である横偏光成分は、偏光板25において、偏光板25の透過軸に沿う成分のみが透過させられ、リレーレンズ26を介して干渉光検出部27に入射される。ここで、偏光板25を透過した戻り光と参照光の偏光方向は一致しているので、戻り光と参照光との干渉が可能となっている。また、光路長調整プリズム18によって、参照光路17の光路長と焦点面までの照明光路6の光路長とが一致させられているので、焦点面から戻る戻り光のみが参照光と干渉する。
【0046】
これにより、干渉光検出部27においては、レーザ光源2から発せられたレーザ光の波面と、焦点面からの戻り光であるレーザ光の波面との差分が、干渉パターンとして検出される。
照明光を試料A上において2次元的に走査することにより、試料Aにおける観察範囲全体の各部から戻る戻り光と参照光との干渉パターンを取得することができる。
【0047】
次いで、コントラスト測定ステップS2により、干渉ステップS1において取得された試料A各部の干渉パターンのコントラストが測定される。コントラスト測定ステップS2において測定されたコントラストは、領域抽出ステップS3において、所定の閾値と比較され、所定の閾値より高いコントラストを有する高コントラスト領域が抽出される。
【0048】
最後に、波面測定ステップS4により、高コントラスト領域内の各部の干渉パターンが、それぞれ対応する位置の観察を行う際の空間光変調素子28において用いられる波面データに変換される。空間光変調素子28に対して波面データが入力されることにより、入射される平面波からなる照明光が空間光変調素子28によって、測定された波面を有する照明光に変調される。高コントラスト領域外の各位置を観察する際には、空間光変調素子28に対して入力する波面データは任意のものでよい。例えば、波面を変調せず、平面波からなる照明光を照射できるような波面データを空間光変調素子28に入力することとしてもよいし、観察する位置の近傍にある高コントラスト領域と同じ波面データを空間光変調素子28に入力することとしてもよい。
【0049】
すなわち、本実施形態に係る波面測定部14および波面測定方法によれば、試料Aの焦点面からの戻り光と参照光とを干渉させて得られた干渉パターンの内、コントラストが所定の閾値より高い高コントラスト領域内の干渉パターンのみを用いて波面を測定するので、散乱体が少ない領域からの誤差を多く含む干渉パターンによる波面の測定をなくして、高い精度で波面を測定することができるという利点がある。
すなわち、散乱体の濃度が低い領域からの戻り光により生成される干渉パターンについても波面を求めるために使用していた従来の測定方法と比較して、より真値に近い波面を精度良く測定することができる。
【0050】
そして、本実施形態に係る顕微鏡1においては、このようにして測定された波面データを用いて、試料Aの各位置を観察する際に試料Aに入射させる照明光の波面を調節するので、照明光を対物レンズ11の焦点面に精度よく集光させることができる。
顕微鏡1が多光子励起型顕微鏡である場合には、焦点面に配される極めて小さな集光点において光子密度を十分に高めて蛍光を発生させ、対物レンズ11によって集光した蛍光を光検出器33によって検出することにより、空間分解能の高い蛍光画像を取得することができるという利点がある。
【0051】
なお、本実施形態においては、高コントラスト領域について、試料Aの各位置を観察する際に試料Aに入射させるべき照明光の波面を測定したが、これに代えて、以下の手段を採用することにしてもよい。
【0052】
すなわち、高コントラスト領域について、各位置毎に波面を測定することに代えて、高コントラスト領域中の最もコントラストの高い位置の干渉パターンを抽出し(最大コントラスト抽出ステップ)、抽出された干渉パターンを当該高コントラスト領域全体の干渉パターンとして代表させることとしてもよい。この場合、波面算出ステップS4においては、コントラストが最大となる地点に対応するものとして抽出された干渉パターンが波面データに変換され、得られた波面データが高コントラスト領域全体における波面データとして設定される。また、その高コントラスト領域内の任意の位置に入射させる照明光としては、その代表的な干渉パターンに基づいて算出された波面データのみが使用される。このようにすることで、波面を測定するための計算量を大幅に削減することができるという利点がある。
【0053】
また、最大コントラストを有する位置の干渉パターンで代表させることに代えて、高コントラスト領域の各位置の干渉パターンを平均して、当該高コントラスト領域全体の干渉パターンとして代表させることにしてもよい。コントラストの高い干渉パターンに基づく波面データには含まれる誤差が少ないので、高コントラスト領域全体の干渉パターンとして干渉パターンの平均値を使用しても、従来のような誤差を発生させるものではない。そして、干渉パターンの平均値によって高コントラスト領域全体の干渉パターンを代表させることにより、最大コントラストを有する位置の干渉パターンで代表させた場合と比較して、その領域内で干渉パターンが分布していても、領域全体の適正な波面データを得ることができるという利点がある。
【0054】
また、高コントラスト領域が広い場合には、各部の干渉パターンが大きく異なる場合もあり、そのような場合に、高コントラスト領域の各位置の干渉パターンを平均することとしても、領域全体に対して適正な波面データを得ることができない。このような場合には、高コントラスト領域の面積を算出し(面積算出ステップ)、面積が所定の大きさ(閾値)より大きいか否かを判定し(判定ステップ)、大きい場合に、その大きさより小さな面積となるように高コントラスト領域を小領域に分割する(領域分割ステップ)こととすればよい。これにより、分割された各小領域について、干渉ステップS1において干渉パターンが取得され、コントラスト測定ステップS2、領域抽出ステップS3を経て、波面算出ステップS4において、各小領域に対応する干渉パターンが波面データに変換される。
【0055】
また、コントラスト測定ステップS2として、所定の切断線に沿うラインプロファイルに基づいてコントラストを測定することとしたが、これに代えて、干渉パターンを2次元フーリエ変換し、所定の波長について得られた輝度の大きさによってコントラストを測定することにしてもよい。
ラインプロファイルに基づいてコントラストを測定することとすれば、計算が簡素であり測定速度を向上することができるという利点があり、2次元フーリエ変換によれば、干渉パターンのゆらぎやノイズの影響を受けにくいので、より精度良くコントラストを測定することができるという利点がある。
【0056】
また、本実施形態においては、空間光変調素子28として、その表面形状を変化させるセグメントタイプのMEMSミラーを例示したが、これに代えて、他の任意の空間光変調素子13、例えば、液晶素子、デフォーマブルミラー等を採用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
A 試料
B ラインプロファイル
S2 コントラスト測定ステップ
S3 領域抽出ステップ
S4 波面算出ステップ
1 顕微鏡
2 レーザ光源(光源)
5 分岐部
11 対物レンズ
13 干渉部
14 波面測定部(波面測定装置)
28 空間光変調素子
34 コントラスト測定部
35 領域抽出部
36 波面算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱体を含む試料内の焦点面からの戻り光と参照光とを干渉させて発生した前記試料各部に対応する干渉パターンのコントラストを測定するコントラスト測定ステップと、
該コントラスト測定ステップにより測定されたコントラストが所定の閾値以上である高コントラスト領域を抽出する領域抽出ステップと、
該領域抽出ステップにより抽出された前記高コントラスト領域について、該高コントラスト領域に対応する干渉パターンを波面データに変換する波面算出ステップとを含む波面測定方法。
【請求項2】
前記領域抽出ステップにより抽出された前記高コントラスト領域内においてコントラストが最大となる地点を抽出する最大コントラスト抽出ステップを含み、
前記波面算出ステップが、前記最大コントラスト抽出ステップにより抽出された前記地点に対応する干渉パターンを波面データに変換し、得られた波面データを前記高コントラスト領域全体における波面データとして設定する請求項1に記載の波面測定方法。
【請求項3】
前記領域抽出ステップにより抽出された前記高コントラスト領域の面積を算出する面積算出ステップと、
該面積算出ステップにおいて算出された面積が所定の閾値以上であるか否かを判定する判定ステップと、
該判定ステップにおいて所定の閾値以上の面積があると判定された前記高コントラスト領域を複数の小領域に分割する領域分割ステップとを含み、
前記波面算出ステップが、前記領域分割ステップにより分割生成された前記小領域について、該小領域に対応する干渉パターンを波面データに変換する請求項1に記載の波面測定方法。
【請求項4】
前記コントラスト測定ステップが、前記干渉パターンを2次元フーリエ変換して該干渉パターンのコントラストを測定する請求項1から請求項3のいずれかに記載の波面測定方法。
【請求項5】
前記コントラスト測定ステップが、前記干渉パターンのラインプロファイルに基づいて該干渉パターンのコントラストを測定する請求項1から請求項3のいずれかに記載の波面測定方法。
【請求項6】
散乱体を含む試料内の焦点面からの戻り光と参照光とを干渉させて発生した前記試料各部に対応する干渉パターンのコントラストを測定するコントラスト測定部と、
該コントラスト測定部により測定されたコントラストが所定の閾値以上である高コントラスト領域を抽出する領域抽出部と、
該領域抽出部により抽出された前記高コントラスト領域について、該高コントラスト領域に対応する干渉パターンを波面データに変換する波面算出部とを備える波面測定装置。
【請求項7】
光源からの光を照明光と参照光とに分岐する分岐部と、
該分岐部により分岐された照明光を散乱体を含む試料に集光するとともに、試料内の焦点面から戻る戻り光を集光する対物レンズと、
該対物レンズにより集光された戻り光と前記参照光とを干渉させて干渉パターンを発生させる干渉部と、
請求項6に記載の波面測定装置と、
該波面測定装置により算出された波面データに基づいて、前記光源からの光の波面を変調する空間光変調素子とを備える顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−215003(P2011−215003A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83476(P2010−83476)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】