説明

洗浄物洗浄方法及び洗浄装置

【課題】 洗浄物の洗浄効率の向上及び洗浄による清浄度の向上を図ること。
【解決手段】 洗浄物を洗浄する溶剤が充填された洗浄槽内に洗浄物を浸漬して、洗浄を行う洗浄物洗浄方法であって、洗浄槽内にマイクロバブルを発生させて、当該マイクロバブルにて洗浄物を洗浄する。そして、上記マイクロバブルは、微小なゴミを吸着する性質を有し、数μm〜十数μmという気泡径を有する微細気泡である。また、上記マイクロバブルを、洗浄槽内に浸漬した洗浄物の下方で発生させる。さらには、洗浄物を配置した洗浄物保持具を、洗浄物が下側を向くよう配置して洗浄槽内に浸漬し、マイクロバブルを洗浄物の下方で発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品や微細部品などの洗浄物を洗浄する洗浄物洗浄方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップにて構成される電子部品やサイズの小さい精密部品などは、その用途によっては高い清浄度が求められ、製造された後に製品として出荷あるいは装置に組み込まれる前に洗浄が行われる。特に、磁気ディスクに対して低浮上化が要求されている磁気ヘッドスライダは、磁気ディスク装置に組み込まれることから高い清浄度が要求されており、さらに、その位置決め精度も高度に要求される部品であるため、より確実な洗浄が要求される。
【0003】
かかる部品を洗浄する方法の一例が特許文献1に開示されている。この特許文献1においては、磁気ヘッドスライダを保持器にて保持した状態で洗浄槽内に浸し、かかる状態で超音波洗浄を行うというものである。そして、上記保持器は、磁気ヘッドスライダを収納する格子状の貫通孔を形成してその下端開口を覆う網を備えた部材と、当該貫通孔の上端開口を覆う網を備えた部材と、により構成されている。これにより、貫通孔に磁気ヘッドスライダを収納し、当該貫通孔の壁面と、貫通孔の両端開口を覆う一対の網と、によって囲むことで、洗浄物が外部に飛び出すことを抑制している。さらには、貫通孔の開口寸法及び厚みは磁気ヘッドスライダの縦、横寸法及び厚みよりも1.1〜2.5倍に設定されており、かかる貫通孔内を磁気ヘッドスライダが自由に移動可能な状態となり、これにより洗浄槽内において超音波洗浄が効果的に行われる。
【0004】
【特許文献1】特開平6−103511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1における保持器を用いた部品の洗浄においては、以下のような不都合が生じる。まず、磁気ヘッドスライダの最も重要であり高い清浄度が要求される素子部やABS面に接触するよう網が設けられていることから、かかる網が洗浄の妨げとなって清浄度が低下する、という問題が生じる。また、洗浄物が壁面に囲まれていることから、洗浄終了時に洗浄液の溶剤が洗浄物から取り除かれにくく、特に四隅(角部)においては残留し易くシミが生じうる、という問題が生じる。また、洗浄物の両面を網にて保持していることから、ESD破壊が発生しやすいという問題が生じる。さらに、網による保持により、かかる保持が安定しないことから、超音波振動などによる洗浄中に洗浄物が移動することによって壁面に衝突し、その衝撃によって洗浄物にヒビや欠けなどが生じ破損する、という問題が生じうる。
【0006】
このため、本発明では、上記従来例に有する不都合を改善し、特に、洗浄物の洗浄効率の向上及び洗浄による清浄度の向上を図る洗浄物洗浄方法、及び、洗浄装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明の一形態である洗浄物洗浄方法は、洗浄物を洗浄する溶剤が充填された洗浄槽内に洗浄物を浸漬して、洗浄を行う洗浄物洗浄方法であって、洗浄槽内にマイクロバブルを発生させて、当該マイクロバブルにて洗浄物を洗浄する、という構成を採っている。そして、上記マイクロバブルは、微小なゴミを吸着する性質を有し、数μm〜十数μmという気泡径を有する微細気泡である。
【0008】
また、本発明では、上記マイクロバブルを、洗浄槽内に浸漬した洗浄物の下方で発生させる、という構成を採る。また、本発明では、洗浄物を配置した洗浄物保持具を、洗浄物が下側を向くよう配置して洗浄槽内に浸漬し、マイクロバブルを洗浄物の下方で発生させる、という構成を採る。
【0009】
さらに、本発明では、少なくとも洗浄時に、洗浄物保持具に配置された洗浄物を、その洗浄物配置箇所に洗浄物保持具を貫通して形成された吸引孔から吸引する、という構成を採る。そして、本発明では、洗浄時に、吸引孔から吸引した洗浄槽内の溶剤を当該洗浄槽内に戻すよう循環する、という構成を採る。また、本発明では、上記循環時に溶剤を浄化する、という構成を採る。
【0010】
また、本発明の他の形態である洗浄装置は、洗浄物を配置する洗浄物保持具と、洗浄物を洗浄する溶剤が充填され、洗浄物保持具を浸漬する洗浄槽と、この洗浄槽内で洗浄物を洗浄する洗浄手段と、を備え、この洗浄手段は、洗浄槽内にマイクロバブルを発生させるマイクロバブル洗浄装置である、という構成を採る。
【0011】
上記発明によると、洗浄物保持具の下方に配置したマイクロバブル発生装置にてマイクロバブルを発生させることにより、当該マイクロバブルは水中をゆっくりと浮上し、下方に向けて保持された洗浄物である磁気ヘッドスライダに接触する。このとき、上述した洗浄物保持具にて磁気ヘッドスライダが保持されているため、露出面が広く、マイクロバブルが多く接触する。すると、マイクロバブルは微細気泡であるため、磁気ヘッドスライダに付着している汚れと接触する面積が広くなり、表面張力により汚れを吸着して水面に浮上させ、これにより、洗浄を行う。
【0012】
従って、超音波洗浄とは異なり振動が生じないことから、洗浄物がトレイなどと擦れることを抑制することができ、また、ブラシ洗浄とは異なりブラシの接触あるいはブラッシング時における洗浄物とトレイとが擦れることを抑制することができる。従って、洗浄物の損傷を抑制して洗浄を行うことができ、より清浄度の向上を図ることができる。
【0013】
また、マイクロバブルは溶剤に対して吸収されやすいため、溶剤中にて収縮して消滅する性質を有している。従って、気泡のまま吸引装置や浄化装置に流入されることが抑制されるため、装置への悪影響を抑制することができる。
【0014】
なお、上記マイクロバブル洗浄に、超音波洗浄を併用してもよい。あるいは、上記マイクロバブル洗浄に、ブラシ洗浄を併用してもよい。
【0015】
また、本発明の他の態様である洗浄物保持具は、
少なくとも1つの洗浄物を保持し、洗浄槽に浸漬される洗浄物保持具であって、
洗浄物を配置するトレイを備え、
このトレイの洗浄物配置箇所に、当該トレイを貫通し、洗浄物配置箇所の反対側から洗浄物を吸引する吸引孔を設けた、ことを特徴としている。
【0016】
また、吸引孔を、トレイに配置される洗浄物によって覆われる位置及び大きさに形成した、ことを特徴としている。
【0017】
上記発明によると、トレイに形成された吸引孔上に洗浄物を配置し、その反対側から吸引することで、洗浄物がトレイに引き寄せられ、かかる吸引力によって洗浄物がトレイに保持される。これにより、洗浄物の一方の面を上方から保持部材によって押さえることなく、トレイに保持させることができるため、洗浄時に洗浄物の表面を保持部材が覆うことがない。従って、洗浄物の表面を溶剤に広く露出させることができ、洗浄効率の向上及び清浄度の向上を図ることができる。このとき、吸引孔が洗浄物にて覆われることで、より洗浄物とトレイとの吸着力を高めることができ、洗浄時の洗浄物の保持の安定化を図ることができる。
【0018】
また、トレイの洗浄物配置面に、洗浄物の周囲に立設する囲い部材を備えた、ことを特徴としている。また、囲い部材に、洗浄物に対して洗浄槽内の溶剤を流出入させる開口部を形成した、ことを特徴としている。このとき、洗浄物が、磁気ヘッド素子部を有する磁気ヘッドスライダである場合には、開口部を、トレイに配置される磁気ヘッドスライダの磁気ヘッド素子部に隣接する位置に形成すると望ましい。
【0019】
これにより、囲い部材にて洗浄物の周囲が囲まれているため、トレイ面に沿った洗浄物の移動を抑制することができ、上述したトレイへの吸引力と協働して、より安定して保持することができる。このとき、洗浄物の周囲を囲う囲い部材には開口部が形成されているため、トレイの洗浄物配置面に対して水平方向(X−Y方向)にも溶剤が流出入される。これにより、かかる開口部から囲い部材に囲まれた洗浄物に対する溶剤の循環が促進され、洗浄が効率よく行われると共に、洗浄後に洗浄槽から取り出した際にも溶剤を迅速にトレイ上から排出できる。従って、洗浄後の洗浄物への溶剤の残留を抑制して、シミなどの発生を抑制することができ、清浄度の向上をも図ることができる。さらに、洗浄物が磁気ヘッドスライダである場合に、その磁気ヘッド素子部に隣接する位置には囲い部材が存在しないために溶剤が効率よく循環され、高い清浄度が要求される部分をより効果的に洗浄することができる。特に、ブラシ洗浄である場合には、囲い部材が磁気ヘッド素子部の洗浄の妨げとなることが抑制され、さらなる清浄度の向上を図ることができる。
【0020】
また、トレイの洗浄物配置箇所以外に、当該トレイを貫通する貫通孔を設けた、ことを特徴としている。これにより、洗浄物の配置箇所以外においてもトレイの裏面側に貫通孔から溶剤が流出入するため、溶剤の循環を促進でき、また、洗浄終了後の溶剤の残留を抑制することができる。
【0021】
また、トレイに吸引孔を複数形成すると共に、当該トレイを洗浄物配置面とは反対側の面で支持する支持部材を備え、この支持部材に、トレイに形成された複数の吸引孔に対して支持部材側から吸引力を付勢する吸引口を設けた、ことを特徴としている。このとき、吸引口を、トレイの形状又は大きさに対応して形成した、ことを特徴としている。
【0022】
これにより、支持部材に設けられた吸引口から吸引を行うことにより、複数の吸引孔に対してまとめて吸引力を付勢することができるため、かかる吸引力による洗浄物の保持の容易化及び構造の簡略化を図ることができる。特に、吸引口をトレイの形状や大きさに対応させて形成することで、各吸引孔に対してより均一かつ適度な吸引力を付勢することができ、洗浄物の保持の安定化を図ることができる。
【0023】
また、上記構成に加え、洗浄物保持具を洗浄槽に浸漬する際に装備され、洗浄物がトレイから離間して離脱することを規制する離脱規制部材を備えた、ことを特徴としている。これにより、浸漬時にトレイに対する洗浄物の保持を安定させ、その後の洗浄のさらなる安定化を図ることができる。
【0024】
また、本発明の他の形態である洗浄物保持装置は、
上述した洗浄物保持具と、当該洗浄物保持具を構成するトレイに設けられた吸引孔から吸引を行う吸引手段と、を備えたことを特徴としている。あるいは、上記洗浄物保持具と、当該洗浄物保持具を構成する支持部材に設けられた吸引口から吸引を行う吸引手段と、を備えたことを特徴としている。
【0025】
さらに、洗浄物保持装置は、吸引手段にて吸引した洗浄槽内の溶剤を当該洗浄槽に戻す循環手段を備えた、ことを特徴としている。このとき、循環手段に、溶剤を浄化する浄化手段を備えると望ましい。
【0026】
これにより、吸引手段にて吸引された溶剤が循環手段にて洗浄槽に戻されるため、洗浄を行う溶剤の循環が促進され、洗浄効率の向上を図ることができる。このとき、循環中の溶剤を浄化手段にて浄化することにより、常に清浄度の高い溶剤が供給されるため、さらなる洗浄効率の向上を図ることができる。
【0027】
また、吸引手段は、気体を吸引する気体吸引手段と、液体を吸引可能な液体吸引手段と、を備えると共に、洗浄物保持具の洗浄槽への浸漬状態に応じて気体吸引手段と液体吸引手段との利用を切り換える切換手段を備えた、ことを特徴としている。このとき、切換手段は、洗浄物保持具が洗浄槽に浸漬されていないときには気体吸引手段を用い、洗浄物保持具が洗浄槽に浸漬されているときには液体吸引手段を用いて、それぞれ吸引を行うよう切り換える、ことを特徴としている。
【0028】
これにより、洗浄槽に浸漬する前には空気吸引により洗浄物をトレイ上に保持しておき、洗浄槽内では液体吸引手段に切り換えて溶剤を吸引して洗浄物を保持することができる。従って、吸引する媒体に応じて吸引手段を切り換えることができるため、当該各吸引手段を適切に使用することができ、適度な吸引力にて保持することができる。
【0029】
また、本発明の他の形態である洗浄物洗浄方法は、
洗浄物を配置した洗浄物保持具を洗浄槽内に浸漬して、洗浄を行う洗浄物洗浄方法であって、
少なくとも洗浄時に、洗浄物保持具に配置された洗浄物を、その洗浄物配置箇所に洗浄物保持具を貫通して形成された吸引孔から吸引する、ことを特徴としている。
【0030】
そして、洗浄物保持具を洗浄槽内に浸漬するときに、洗浄物が洗浄物保持具から離脱しないよう押さえる、ことを特徴としている。また、洗浄時に、吸引孔から吸引した洗浄槽内の溶剤を当該洗浄槽内に戻すよう循環する、ことを特徴としている。さらに、循環時に溶剤を浄化する、ことを特徴としている。
【0031】
また、他の形態の洗浄物洗浄方法は、
洗浄物を保持する洗浄物保持工程と、保持した洗浄物を洗浄槽内の溶剤に浸漬する浸漬工程と、洗浄物を溶剤中で洗浄する洗浄工程と、洗浄物の溶剤を取り除く工程と、を備えた洗浄物洗浄方法であって、洗浄物保持工程から洗浄工程は、上述した洗浄物保持装置を用いる、ことを特徴としている。そして、さらに、洗浄工程は、超音波洗浄、マイクロバブル洗浄又はブラシ洗浄であることを特徴としている。
【0032】
また、本発明の他の形態である洗浄装置は、
洗浄物を配置するトレイを有し、このトレイの洗浄物配置箇所に当該トレイを貫通し洗浄物配置箇所の反対側から洗浄物を吸引する吸引孔が形成された洗浄物保持具と、
トレイに設けられた吸引孔から吸引を行う吸引手段と、
洗浄物を洗浄する溶剤が充填され、吸引手段による吸引にて少なくとも1つの洗浄物を保持する洗浄物保持具を浸漬する洗浄槽と、
この洗浄槽内で洗浄物を洗浄する洗浄手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0033】
また、上記吸引手段にて吸引した洗浄槽内の溶剤を当該洗浄槽に戻す循環手段を備えた、ことを特徴としている。そして、この循環手段に、溶剤を浄化する浄化手段を備えた、ことを特徴としている。
【0034】
また、吸引手段は、気体を吸引する気体吸引手段と、液体を吸引可能な液体吸引手段とを備えると共に、洗浄物保持具の洗浄槽への浸漬状態に応じて気体吸引手段と液体吸引手段との利用を切り換える切換手段を備えた、ことを特徴としている。そして、この切換手段は、洗浄物保持具が洗浄槽に浸漬されていないときには気体吸引手段を用い、洗浄物保持具が洗浄槽に浸漬されているときには液体吸引手段を用いて、それぞれ吸引を行うよう切り換える、ことを特徴としている。
【0035】
また、他の形態の洗浄装置は、
少なくとも1つの洗浄物を保持する上述した洗浄物保持装置と、洗浄物を洗浄する溶剤が充填され洗浄物保持装置を構成する洗浄物保持具を浸漬する洗浄槽と、この洗浄槽内で洗浄物を洗浄する洗浄手段と、を備えたことを特徴としている。
【0036】
さらに、上記洗浄装置において、洗浄手段は、超音波洗浄装置、マイクロバブル洗浄装置又はブラシ洗浄装置であることを特徴としている。
【0037】
このように、上記構成の洗浄物洗浄方法、又は、洗浄装置であっても、上述した洗浄物保持具あるいは洗浄物保持装置と同様に作用するため、上記本発明の目的を達成することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、以上のように構成され機能するので、これによると、洗浄物の損傷を抑制して洗浄を行うことができ、より清浄度の向上を図ることができる。また、マイクロバブルは溶剤に対して吸収されやすいため、溶剤中にて収縮して消滅する性質を有しており、気泡のまま吸引装置や浄化装置に流入されることが抑制されるため、装置への悪影響を抑制することができる、という従来にない優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、洗浄物として、磁気ディスク装置に搭載される磁気ヘッドスライダを一例に挙げ、洗浄物洗浄保持具、洗浄物保持装置、洗浄装置の具体的な構成、及び、動作を説明する。但し、本発明における洗浄物は、磁気ヘッドスライダに限定されず、他の電子部品やそれ以外の物であってもよい。
【実施例1】
【0040】
本発明の第1の実施例を、図1乃至9を参照して説明する。図1乃至図2は、洗浄物を洗浄する洗浄装置の構成の概略を示す図である。図3乃至図7は、洗浄物保持具の構成を示す図である。図8乃至図9は、洗浄装置の動作を示す図である。
【0041】
[構成]
<洗浄装置>
図1を参照して、洗浄物を洗浄する洗浄装置の全体構成について説明する。洗浄装置は、洗浄物5を洗浄する溶剤102が充填された洗浄槽100と、洗浄物である磁気ヘッドスライダ5を保持する洗浄物保持装置(1,2等)と、溶剤102を循環させる循環装置(3,4等)(循環手段)と、洗浄物5を洗浄槽100内で洗浄する洗浄手段101と、により構成されている。まず、かかる構成について簡単に説明した後に、各構成について詳述する。なお、図1では、各構成を模式的に図示している。
【0042】
上記洗浄槽100内には、後述する洗浄物保持具1が浸るほどの深さを形成するよう溶剤102が充填されており、この溶剤102の中には洗浄手段である超音波振動子101(超音波洗浄装置)が備えられている。この超音波振動子101は、溶剤102中に超音波振動を発生させるものであり、溶剤102の中に洗浄物が保持された洗浄物保持具1を浸漬して超音波振動を発生させることで、洗浄物の超音波洗浄を実現することができる。なお、図示するように、超音波振動子101は、洗浄物5の上方に位置するよう洗浄槽100に配置される。例えば、洗浄槽100内に装備された支持機構(図示せず)にて支持されている。ここで、洗浄手段は、後述するように超音波振動子101に限定されず、マイクロバブル洗浄装置やブラシ洗浄装置であってもよい(他の実施例参照)。
【0043】
なお、洗浄槽100に充填されている溶剤102は、例えば、純水(DI)、イソプロピルアルコール(IPA)、グレーコールフタレート(ワックス)、中性洗剤(約0.5%)から成る。
【0044】
また、洗浄物保持装置は、洗浄物である磁気ヘッドスライダ5を実際に保持する洗浄物保持具1と、洗浄物保持具1にて磁気ヘッドスライダ5を保持するための吸引力を付勢するための吸引装置2と、により構成されている。
【0045】
さらに、循環装置(3,4等)は、上記吸引装置2にて吸引した溶剤102を循環させるためのものであるため、吸引装置2と協働して循環動作を実現する。従って、以下では、循環装置(3,4等)を吸引装置2に含めて説明する。以下、各構成について詳述する。
【0046】
<吸引装置>
吸引装置2は、後述する洗浄物保持具1に連結し、吸引力を付勢するものである。具体的には、吸引装置2は、循環装置である吸引管路3上に備えられており、当該吸引管路3の一端部に形成された吸引管連結部材31が洗浄物保持具1に連結することにより、吸引装置2が洗浄物保持具1に対して吸引力を付勢することが可能となっている。なお、この吸引管連結部材31は、図1では洗浄物保持具1の下面側に一体的に連結するよう図示されているが、後述する洗浄物保持具1に形成された吸引口16bに連結する管状に形成されていてもよい(図5(b)参照)。また、吸引管路3の他端部は、洗浄槽100内へと導かれており、上記吸引装置2の作用により、洗浄槽100内の溶剤102を循環するよう構成されている。
【0047】
さらに吸引管路3上には、吸引管路3を流れる溶剤102を浄化する浄化装置4(浄化手段)であるフィルタが備えられている。これにより、洗浄により汚れた溶剤102を浄化することができ、当該浄化された溶剤102を再度洗浄槽100に戻すことができる。
【0048】
ここで、吸引装置2について、図2のブロック図を参照してさらに詳述する。なお、この図においては、矢印で表された各線は吸引管路3を表すものとする。この図に示すように、吸引装置2は、空気(気体)を吸引する空気吸引装置21(気体吸引手段)と、溶剤102(液体)を吸引する性能を有する溶剤吸引装置22(液体吸引手段)と、により構成されている。そして、両吸引装置21,22共に洗浄物保持具1に連結しており、吸引管路3上に配置されたバルブ32によっていずれかの吸引装置21,22に連結されるよう構成されている。具体的には、後述するように、洗浄物保持具1の洗浄槽100への浸漬状態に応じて、すなわち、洗浄物保持具1が洗浄槽100に浸漬されていないときには空気吸引装置21を用いて吸引するようバルブ32を切り換え、洗浄物保持具1が洗浄槽100に浸漬されているときには溶剤吸引装置22を用いて吸引するようバルブ32を切り換える。従って、バルブ32は、各吸引装置21,22を切り換える切換手段として機能する。なお、かかる切り換えは、手動によって行われてもよく、あるいは、洗浄物保持具1の浸漬状態を管理するコントローラ(図示せず)にてバルブ32を制御することによって行われてもよい。
【0049】
上記各吸引装置21,22についてさらに詳述する。まず、空気吸引装置21は、上述したように空気を吸引して、その吸引力によって洗浄物保持具1であるトレイ10に洗浄物である磁気ヘッドスライダ5を吸着させて保持する。従って、洗浄槽100に浸漬前における保持に利用することで有効である。なお、洗浄物保持具1を介しての吸引だけでは正常な作動を実現するための空気量を吸引できないおそれがあるため、別途、空気を吸引する構成になっている(図2参照)。また、溶剤吸引装置22は、上述したように溶剤102を吸引して、その吸引力によってトレイ10に磁気ヘッドスライダ5を吸着させて保持する。従って、洗浄槽100に浸漬させた後に溶剤102を吸引して、磁気ヘッドスライダ5を保持する。このように、吸引する媒体に応じて適切な吸引性能を有する吸引装置21,22を用いることで、洗浄物保持具1に適度な吸引力を付勢することができ、洗浄物5の保持の安定化を図ることができる。なお、洗浄物5の保持動作については後述する。
【0050】
また、上記溶剤吸引装置22には、ポンプ22aとタンク22bとが連結されている。これは、洗浄物保持具1を介しての吸引だけでは正常な作動を実現するための液体量を吸引できないおそれがあるため、別途、洗浄槽100から溶剤102をタンク22bに引き、かかるタンク22b内の溶剤102も吸引して循環させる構成を採っている(図2参照、図1には図示せず)。
【0051】
さらに、上述したように、溶剤吸引装置22に連結された吸引管路3上には溶剤102を浄化するフィルタ4(浄化装置)が装備されている。この図2では、2つのフィルタ4が装備されているが、その数は任意である。これにより、洗浄に用いられ汚れた溶剤102がフィルタ4を通過して循環されることとなるため、常に清浄な溶剤102にて洗浄を実行することができる。
【0052】
ここで、上記では、吸引装置2として、2つの吸引装置21,22を装備し、これを切り換えて利用する場合を例示したが、1つの吸引装置であってもよい。但し、かかる場合には、少なくとも洗浄槽100に浸漬されている状態で溶剤102を吸引して、後述するように洗浄物5をトレイ10に吸着させる吸引力を発揮できるものである必要がある。
【0053】
<洗浄物保持具>
次に、洗浄物保持具1について詳述する。洗浄物保持具1は、洗浄物である磁気ヘッドスライダ5を保持し、洗浄槽100の溶剤102内に浸漬される保持具であって、磁気ヘッドスライダ5を配置するトレイ10と、これを支持する支持部材15と、により構成されている(図3参照)。
【0054】
そして、この洗浄物保持具1には上述した吸引管連結部材31が連結した状態になっており、図1に示すように、洗浄槽100の底面に配置された基台103上に載置され、洗浄槽100に浸漬される。なお、図1では、洗浄物保持具1を断面図にて模式的に図示している。また、洗浄物保持具1に連結する吸引管連結部材31も、断面図にて模式的に図示している。以下、洗浄物保持具1を構成するトレイ10と支持部材15について詳述する。
【0055】
まず、支持部材15について、図3乃至図5を参照して詳述する。なお、図3は、支持部材15を表面側(後述するようにトレイ10を配置する側)から見た図であり、図4は裏面側から見た図である。また、図5は、図3に示すA−A部分の断面図である。
【0056】
図3に示すように、支持部材15は、厚みのある略正方形状の本体部16と、この本体部16の表面を覆うカバー部17と、支持部材15自体を把持するための把持部18と、により構成されている。
【0057】
そして、本体部16の表面には、トレイ10を配置するトレイ配置部16aが4つ形成されており、当該トレイ10の形状に対応した略正方形状の凹部にて構成されている。また、このトレイ配置部16aの内底面のほぼ中央には、裏面側へと貫通する円形の吸引口16bが形成されている。なお、かかる部分の断面図(A−A断面図)を図5(a)に示すが、吸引口16bは、凹状であるトレイ配置部16aの内底面から裏面側に向かって途中まで径が徐々に小さくなる逆錘形となっており、裏面に近づくにつれて略円柱形状になり、さらに、裏面端部付近では略四角形状になっている(図4参照)。
【0058】
また、本体部16の一対の側面には、当該本体部16の表面を覆うよう開閉自在に支持されたカバー部17がそれぞれ備えられている。そして、このカバー部17には、当該カバー部17が閉じたときにトレイ配置部16aに配置されるトレイ10の表面を覆うメッシュ部17aが形成されている。このメッシュ部17aには、多くの孔が形成されている。そして、このカバー部17は、後述するように、溶剤102に浸漬される際にのみ被せられるものであるが、被せられることにより、トレイ10上に載置された磁気ヘッドスライダ5の浮力などによってトレイ10から離脱することを抑制する離脱規制部材としての作用を有する。なお、洗浄時にはカバー部17は開かれて、トレイ10上を覆うことはない。
【0059】
さらに、上記カバー部17の下部であって本体部16の一対の側面には、当該側面から突出する把持部18がそれぞれ備えられている。これは、支持部材15を持ち運ぶ際に把持されたり、洗浄槽100内に配置する際に支持されるよう利用される。
【0060】
なお、図3においては、左下に位置するトレイ配置部16aにトレイ10が配置されている状態を図示している。一方、図5(b)では、図3のA−A断面部分において、いずれのトレイ配置部16aにもトレイ10が配置されている状態、及び、吸引口16bに吸引管路3の吸引管連結部材31が連結されている様子を示している。なお、この図では、吸引管連結部材31は、図1に図示した形状とは異なり、吸引口16bの円柱形上部分に直接嵌合されるよう管状に形成されているものを図示している。
【0061】
このように洗浄物保持具1を構成し、吸引管路3を連結することで、トレイ10の磁気ヘッドスライダ5が配置されていない裏面側から吸引を行う。また、この図においては、カバー部17が被せられた状態を図示しているが、これは洗浄槽100に浸漬されるときだけであって、洗浄時には外される。
【0062】
ここで、上記では、吸引管連結部材31が連結される吸引口16bの形状は円形である場合を図示したが、これは一例であってかかる形状に限定されない。例えば、吸引口16bをトレイ10の形状や大きさに対応させて四角形に成形してもよい。かかる場合には、吸引口16bの形状に合わせて吸引管連結部材31も成形する。さらには、トレイ10全面を吸引可能なよう当該トレイ10の大きさの吸引口16bに形成するとよい。これにより、トレイ10全面に対して均一な吸引力を付勢することができるため、洗浄物5の保持効率の向上を図ることができる。
【0063】
次に、トレイ10の形状について、図6乃至図7を参照して詳述する。図6は、トレイの全体形状を示す図であり、図7は、トレイの詳細な形状を示す部分拡大図である。
【0064】
まず、図6に示すように、トレイ10は所定の厚みを有する一枚の板状部材にて構成されており、略正方形状である。また、その大きさは、上述した支持部材15の本体部16表面に形成されたトレイ配置部16aとほぼ同一の大きさとなっている。そして、トレイ10の一面には、多数の突起12,13(囲い部材)と貫通孔11が形成されており、磁気ヘッドスライダ5を配置する洗浄物配置面を構成している。この洗浄物配置面の構成について、図7を参照して説明する。
【0065】
図7(a)は、トレイ10の洗浄物配置面の一部の拡大図である。また、図7(b)は、図7(a)おけるB−B部分の断面図である。この図7(a)に示す構成が、トレイ10全面にほぼ一様に形成されている。
【0066】
さらに詳述すると、トレイ10に形成されている上記貫通孔11は、磁気ヘッドスライダ5の配置箇所の反対側から当該磁気ヘッドスライダ5を吸引するための吸引孔11である。そして、この吸引孔11は、磁気ヘッドスライダ5が配置される位置に、当該磁気ヘッドスライダ5の配置面積よりも小さい大きさに形成されている。換言すると、吸引孔11は、各突起12,13にて囲まれる領域のほぼ中央に、磁気ヘッドスライダ5にて塞がれる大きさに形成されている。
【0067】
また、上記突起12,13は、略長方形状の突起12と、略楕円形状の突起13と、2種類ある。そして、略長方形状の突起12は、図7(a)の縦方向にわずかな間隔をあけて列を成しており、かかる列が図7(a)の横方向に略長方形状である磁気ヘッドスライダ5の長辺とほぼ同一の間隔(厳密には、長辺よりは長い間隔)をあけて、複数列に設けられている。また、その列の間には、略楕円形状の突起13が同様に列を形成して設けられている(図7(a)の縦方向)。そして、この突起13の縦方向における同一列上の形成間隔は、磁気ヘッドスライダ5の短辺とほぼ同一の間隔(実際には、短辺よりも長い間隔)で、かつ、上記略長方形場の突起12と同一の配置パターンにて、形成されている。さらに、この列を成している略楕円形状の突起13の間には、上記吸引孔11が形成されている。
【0068】
これにより、図7(a)に示すように、各突起12,13の間であって、吸引孔11上に洗浄物である磁気ヘッドスライダ5が配置可能なよう形成されている。すなわち、磁気ヘッドスライダ5の四角を含む両短辺は、4つの略長方形状の突起12によって囲まれ、また、両長辺はそれぞれ略楕円形状の突起13によって囲まれる。従って、各突起12,13により、磁気ヘッドスライダ5のトレイ面に沿った移動は抑制される。
【0069】
なお、図7(b)では、略長方形状の突起12は磁気ヘッドスライダ5の厚みよりも高く形成されているように図示しているが、かかる高さに限定されない。また、略楕円形状の突起13も同様にその高さは図7(b)に示すものに限定されない。
【0070】
また、このとき、上記各突起12,13を所定の間隔をあけて配置したことにより、トレイ10上に配置された磁気ヘッドスライダ5の周囲側は、開口部が形成された状態になっている。すなわち、図7(a)に示すトレイ10上の突起12,13の配置では、磁気ヘッドスライダ5の短辺の中央部分と、長辺の中央部分を除いた他の部分とが、洗浄時に溶剤102に対して露出した状態になっている。従って、後述するように、トレイ10の洗浄物配置面に対して水平方向(X−Y方向)にも溶剤を流出入できるので、当該磁気ヘッドスライダ5に対する溶剤102の循環が促進される。さらに言うと、洗浄槽100から取り出した際には、スライダ5の側面が露出しているため、溶剤102を迅速にトレイ10上から排出することができる。
【0071】
なお、図7(a)に示すトレイ10では、洗浄物を保持するための吸引孔11、すなわち、洗浄物配置箇所以外に貫通孔を形成していないが、他の貫通孔を形成してもよい。なお、以下では、磁気ヘッドスライダ5が配置されていない箇所の吸引孔11を、その他の貫通孔として説明する。
【0072】
ここで、上記トレイ10は、ESD問題に対応するためのPeek樹脂(ポリアリーレンエーテルケトン系樹脂)とカーボンの混合樹脂にて形成されている。但し、かかる材料は一例であって、これに限定されず、例えば、耐ESD及び耐溶剤性のある熱可塑性プラスチックでもよい。
【0073】
[保持動作]
次に、上述した洗浄物保持装置(1,2等)による洗浄時の洗浄物である磁気ヘッドスライダ5を保持する動作を、図8を参照して説明する。この図においては、図7(b)に示すように、トレイ10上の所定箇所に磁気ヘッドスライダ5が配置されている例を図示している。なお、この図においては、トレイ10を支持する支持部材15や吸引装置2などを図示していないが、図1や他の図に示すように装備されているものとする。また、トレイ10上に設けられた各突起12,13の図示も省略しているが、もちろん設けられている。そして、洗浄物保持具1が洗浄槽100に浸漬されたときの洗浄物5の保持の様子を説明するが、浸漬前の空気中における保持動作も吸引媒体が空気となるだけで同様である。
【0074】
この図に示すように、トレイ10上に磁気ヘッドスライダ5を配置し、かかる状態でトレイ10の裏面側から吸引装置2による吸引を開始する。すると、トレイ10の洗浄物配置面側に位置する溶剤102が、吸引孔11を通過して裏面側に流動する。このとき、磁気ヘッドスライダ5が配置されている箇所においては、磁気ヘッドスライダ5とトレイ10とのわずかな隙間を溶剤102が通過し吸引孔11に導かれ、磁気ヘッドスライダ5に吸引力が付勢される(矢印Y1参照)。そして、磁気ヘッドスライダ5がトレイ10に密着している場合には溶剤102が吸引孔11を通過しないが、かかる場合であっても磁気ヘッドスライダ5は吸引孔11の裏面側から吸引された状態になっており(矢印Y1参照)、吸引力が付勢され、トレイ10に吸着することとなる。従って、磁気ヘッドスライダ5は、その表面(トレイ10とは反対側の面)を何らかの保持部材にて押さえる必要はなく、トレイ10に保持された状態になる。その結果、洗浄時に洗浄面を溶剤102に対して広く露出させることができ、洗浄効率の向上及び清浄度の向上を図ることができる。
【0075】
このとき、図1や図5に示すように、トレイ10を支持する支持部材15に形成された吸引口16bに吸引管連結部材31が連結されて吸引が行われるため、トレイ10全面を効率よく吸引することができ、複数の洗浄物5を容易に保持することができる。そして、図8の左右に示すように、磁気ヘッドスライダ5が配置されていない吸引孔11に対しても吸引力が付勢されることになるが、かかる吸引孔11では溶剤102が自由にトレイ10の表面側から裏面側へと流動するため、洗浄槽100内における溶剤102の循環を促進させることができる。
【0076】
[洗浄動作]
次に、図9を参照して、上述した洗浄装置による全体的な洗浄動作を説明する。なお、この際に、他の図も参照するが、特に、図1及び図2を参照し、溶剤102の循環の様子を説明する。
【0077】
まず、洗浄物保持具1にて洗浄物を保持する動作を説明する(洗浄物保持工程)。図3に示すように、支持部材15のトレイ配置部16aにトレイ10を配置し(ステップS1)、そのトレイ10上に洗浄物である磁気ヘッドスライダ5を配置する(ステップS2、図7参照)。そして、支持部材15の吸引口16bに吸引管連結部材31を連結し、吸引装置2を用いた循環系に洗浄物保持具1を連結する。そして空気吸引装置21を用いて空気吸引を開始する(ステップS3)。これにより、トレイ10の各吸引孔11に吸引力が付勢されるため、図8に示すように、磁気ヘッドスライダ5はトレイ10に吸引によって保持された状態になる。
【0078】
続いて、磁気ヘッドスライダ5が配置された洗浄物保持具1を洗浄槽100の溶剤102中に浸漬するが(浸漬工程)、このとき、トレイ10上の磁気ヘッドスライダ5が浮力などにより吸引力に逆らってトレイ10から離脱しないよう、カバー部17を被せる(ステップS4)。この状態で、溶剤102中に浸漬させる(ステップS5)。
【0079】
そして、溶剤102中では、吸引装置2を溶剤吸引装置22に切り換える(ステップS6)。すなわち、吸引管路3上の各バルブ32の開閉を操作して、空気吸引から溶剤吸引へと切り換える。すると、洗浄物保持具1の吸引口16bからは溶剤102が吸引されることとなるため、図8に示すように、トレイ10の吸引孔11に吸引力が付勢されることとなり、引き続き磁気ヘッドスライダ5の吸引による保持が継続される。このとき、図1の矢印に示すように、溶剤が洗浄物保持具1の洗浄物配置面側から裏面側へと吸引孔11を通過するよう流動し、吸引管路3へと流れる。
【0080】
その後、上記溶剤吸引を継続しつつ、カバー部17を開いて磁気ヘッドスライダ5上から外す(ステップS7)。そして、かかる状態で、溶剤102中の磁気ヘッドスライダ5の上方に超音波振動子101を配置し、超音波洗浄を行う(ステップS8)。このとき、溶剤吸引による吸引力が付勢されているため、磁気ヘッドスライダ5はトレイ10に保持された状態となっている(図8参照)。そして、磁気ヘッドスライダ5の洗浄面(トレイ10との対向面とは反対側)を覆う部材が存在せず、溶剤102に露出した状態となっているため、超音波による洗浄を効果的に行うことができ、清浄度の向上を図ることができる。特に、高精度の洗浄が要求される磁気ヘッドスライダ5の磁気ヘッド素子部が形成された浮上面をトレイ10とは反対側に向けて配置することで、より効果的に洗浄することができる。
【0081】
また、上記洗浄中においては、磁気ヘッドスライダ5のトレイ10への対向面(当接面)、すなわち、磁気ヘッドスライダ5とトレイ10との隙間にも、周囲から溶剤102が少量ではあるが流入するため(図8参照)、当該磁気ヘッドスライダ5のトレイ10との対向面も洗浄することが可能となる。さらに、磁気ヘッドスライダ5の周囲に立設された各突起12,13間が開口しているため、磁気ヘッドスライダ5の周囲でも溶剤102が流動することが可能となり、周囲面の洗浄も可能となる。なお、磁気ヘッドスライダ5が配置されていないトレイ10上の他の吸引孔11に対しても吸引力が付勢されるため、上述したような溶剤102の流動が促進される(図8参照)。
【0082】
さらに、上記洗浄時には、洗浄物保持具1にて吸引された溶剤102は吸引管路3を通って浄化装置4を通過し、洗浄槽100へと戻される(図1の矢印参照)。従って、洗浄により汚染された溶剤102が浄化されて再度洗浄に用いられるため、さらなる洗浄効率の向上を図ることができる。
【0083】
その後、洗浄が終了すると、洗浄物保持具1を洗浄槽100から引き上げ(ステップS9)、磁気ヘッドスライダ5から溶剤102を取り除く。このとき、トレイ10の吸引孔11や各突起12,13間から溶剤102がトレイ10上から排出されるため、迅速に溶剤102を取り除くことができる。従って、洗浄後の洗浄物への溶剤の残留を抑制して、シミなどの発生を抑制することができ、清浄度の向上をも図ることができる。
【実施例2】
【0084】
次に、本発明の第2の実施例を、図10乃至図11を参照して説明する。図10は、本実施例における洗浄装置の構成を示す概略図であり、図11は、トレイの構成を示す図である。
【0085】
本実施例における洗浄装置は、洗浄手段としてロールブラシ104(ブラシ洗浄装置)を用いており、このロールブラシ104にてトレイ10上に配置された洗浄物である磁気ヘッドスライダ5をブラッシング洗浄する、というものである。すなわち、実施例1にて開示した洗浄装置と同様の構成を備え、超音波振動子101の代わりに、洗浄具としてロールブラシ104を備えた、というものである。
【0086】
具体的には、洗浄装置を模式的に表した図10に示すように、洗浄槽100内に配置された基台103上に、吸引管路3の吸引管連結部31が連結された洗浄物保持具1が配置される。そして、洗浄槽100には、洗浄物保持具1にて保持された磁気ヘッドスライダ5の上部が漬かるほどの溶剤102が充填されている。さらにその上方に、洗浄物を洗浄するロールブラシ104が備え付けられている。また、ロールブラシ104は、ブラシ部分を回転するモータ等の駆動手段や、当該ロールブラシ104の位置を移動する可動手段も備えており、洗浄物保持具1の表面にブラシの先端が接触する位置で回転及び移動し、一方向に沿ったブラッシング洗浄を行うものである。
【0087】
次に、本実施例におけるトレイ10について、図11を参照して説明する。この図に示すように、トレイ10の形状は上述した実施例1のものとほぼ同一であるが、特に、配置される磁気ヘッドスライダ5の磁気ヘッド素子部51に、上述した各突起12,13に隣接しないよう配置されて形成されている。換言すると、矢印Y2に示すように、洗浄時には略長方形状の突起12間をロールブラシ104が通過するよう設定されるが、かかるブラッシング経路(Y2)上に、磁気ヘッド素子部51が位置するよう磁気ヘッドスライダ5を配置可能な形状となっている。
【0088】
このようにすることにより、突起12,13の存在がブラッシング洗浄の妨げとなることを抑制できる。従って、特に高い清浄度が要求される部分をブラシの通過箇所に配置することで、効果的に洗浄することができる。
【0089】
なお、ブラッシング経路は図示したものに限定されず、他の経路であってもよい。そして、かかる経路上に磁気ヘッド素子部51が位置するよう磁気ヘッドスライダ5を配置可能に、各突起12,13を配置した形状にするとよい。
【実施例3】
【0090】
次に、本発明の第3の実施例を、図12を参照して説明する。図12は、本実施例における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【0091】
[構成]
本実施例における洗浄装置は、洗浄手段としてマイクロバブル発生装置105(マイクロバブル洗浄装置)を用いており、このマイクロバブル発生装置105にて発生するマイクロバブル105aによって洗浄物5を洗浄する、というものである。以下、本実施例の洗浄装置の構成を詳述する。
【0092】
図12に示すように、本実施例における洗浄装置では、洗浄物保持装置1,2すなわち洗浄物保持具1を、上述した向きとは逆向きにして洗浄槽100に浸漬する。換言すると、保持した洗浄物5が下側に向くよう配置して、図示しない支持機構にて洗浄槽100内で支持する。そして、洗浄物保持具1の下方にマイクロバブル発生装置105を配置し、当該マイクロバブル105aを発生させる。なお、マイクロバブル発生装置105を洗浄槽100外に配置して、発生させたマイクロバブル105aを洗浄槽100内の洗浄物5の下方に導いてもよい。
【0093】
ここで、マイクロバブル発生装置105の構成は公知であるが、例えば、キャビテーションポンプの一次側で気体を吸い込ませ、ポンプ吐出口に取り付けた旋回加速器で安定した混合比率で送り出し配管先端に付けた分散器のせん断力でマイクロバブルを発生させることができる。そして、これにより発生するマイクロバブル105aは、数μm〜十数μmという気泡径を有する微細気泡であり、水中をゆっくり浮上し、微小なゴミを吸着して水面に浮上させる性質を有する。
【0094】
[洗浄動作]
次に、上記構成の洗浄装置の動作を説明する。まず、洗浄物保持具1を洗浄槽100に浸漬する前には空気吸引装置21にて吸引を行って、かかる吸引力にて洗浄物5がトレイ10の下面側に吸着するよう保持する。このとき、上述したカバー部17を被せて、洗浄物5がトレイ10から落下することを抑制してもよい。
【0095】
そして、洗浄物保持具1を溶剤102に浸漬させると同時に溶剤吸引装置22による吸引に切り換えて、溶剤を吸引する力によりトレイ10の下面側に洗浄物5を吸着させて保持させる(図12に図示した矢印参照)。なお、溶剤102への浸漬時には、洗浄物5にかかる浮力が当該洗浄物をよりトレイ10に保持させる方向へと働くことにより、上記カバー部17による保持がなくてもよい。
【0096】
その後、洗浄物保持具1の下方に配置したマイクロバブル発生装置105にてマイクロバブル105aを発生させることにより、当該マイクロバブル105aは水中をゆっくりと浮上し、下方に向けて保持された洗浄物である磁気ヘッドスライダ5に接触する。このとき、上述した洗浄物保持具1にて磁気ヘッドスライダ5が保持されているため、露出面が広く、マイクロバブル105aが多く接触する。すると、マイクロバブル105aは微細気泡であるため、磁気ヘッドスライダ5に付着している汚れと接触する面積が広くなり、表面張力により汚れを吸着して水面に浮上させ、これにより、洗浄を行う。
【0097】
以上、本実施例によると、上記実施例1記載の超音波洗浄とは異なり振動が生じないことから、洗浄物5がトレイ10などと擦れることを抑制することができ、また、上記実施例2のブラシ洗浄とは異なりブラシの接触あるいはブラッシング時における洗浄物5とトレイ10とが擦れることを抑制することができる。従って、洗浄物5の損傷を抑制して洗浄を行うことができ、より清浄度の向上を図ることができる。
【0098】
また、マイクロバブル105aは溶剤102に対して吸収されやすいため、溶剤102中にて収縮して消滅する性質を有している。従って、気泡のまま吸引装置2や浄化装置4に流入されることが抑制されるため、装置への悪影響を抑制することができる。
【0099】
ここで、上述したマイクロバブル105aを用いた洗浄装置の洗浄槽100内に、上記実施例1にて開示した超音波振動子101を配置して、溶剤102中に超音波振動を発生させてもよい。このようにマイクロバブル洗浄と超音波洗浄を併用することで、より洗浄効率の向上を図ることができる。
【0100】
なお、上述したマイクロバブル105aを用いた洗浄は、あらゆる洗浄物5の洗浄に用いることが可能である。そして、そのときに使用する洗浄物5を保持する保持具も、上述した吸引によって洗浄物5を保持する洗浄物保持具1を用いることに限定されず、他の構造の洗浄物保持具を用いてもよい。
【実施例4】
【0101】
上記では、洗浄物として磁気ヘッドスライダ5を一例として説明したが、他の電子部品や微細部品であってもよい。そして、このとき、より高精度な洗浄が要求される部分や表面を、トレイ10には対向させずに反対側に向けて配置するとよい。また、実施例2にて説明したように、特に高精度の洗浄を要求する部分に、各突起12,13が接触しないよう当該各突起12,13を配置したトレイ10を使用するとよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、磁気ヘッドスライダなどの電子部品を洗浄する際に清浄度の高い洗浄を実現する洗浄装置に利用することができ、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【図2】洗浄装置の構成を示すブロック図である。
【図3】洗浄物保持具の構成を示す図であり、上方から見た図である。
【図4】洗浄物保持具の構成を示す図であり、下方から見た図である。
【図5】図5(a)は、図3に示す洗浄物保持具のA−A部分断面図であり、図5(b)は、トレイと吸引管連結部材を装備した様子を示す断面図である。
【図6】トレイの構成を示す平面図である。
【図7】図7(a)はトレイの一部の拡大図であり、図7(b)は図7(a)のB−B部分断面図である。
【図8】洗浄物の保持動作を示す説明図である。
【図9】洗浄を行う際の全体的な動作を示すフローチャートである。
【図10】実施例2における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【図11】実施例2におけるトレイの一部を示す拡大図である。
【図12】実施例3における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0104】
1 洗浄物保持具
2 吸引装置(吸引手段)
3 吸引管路(循環手段)
4 フィルタ、浄化装置(浄化手段)
5 磁気ヘッドスライダ、洗浄物
10 トレイ
11 吸引孔、貫通孔
12 突起(囲い部材)
13 突起(囲い部材)
15 支持部材
16 本体部
17 カバー部(離脱規制部材)
18 把持部
21 空気吸引装置(気体吸引手段)
22 溶剤吸引装置(液体吸引手段)
31 吸引管連結部材
32 バルブ(切換手段)
51 磁気ヘッド素子部
100 洗浄槽
101 超音波振動子(超音波洗浄装置)
102 溶剤
103 基台
104 ロールブラシ(ブラシ洗浄装置)
105 マイクロバブル発生装置(マイクロバブル洗浄装置)
16a トレイ配置部
16b 吸引口
17a メッシュ部
22a ポンプ
22b タンク
105a マイクロバブル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄物を洗浄する溶剤が充填された洗浄槽内に前記洗浄物を浸漬して、洗浄を行う洗浄物洗浄方法であって、
前記洗浄槽内にマイクロバブルを発生させて、当該マイクロバブルにて前記洗浄物を洗浄する、
ことを特徴とする洗浄物洗浄方法。
【請求項2】
前記マイクロバブルは、微小なゴミを吸着する性質を有する微細気泡である、
ことを特徴とする請求項1記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項3】
前記マイクロバブルは、数μm〜十数μmという気泡径を有する微細気泡である、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項4】
前記マイクロバブルを、前記洗浄槽内に浸漬した前記洗浄物の下方で発生させる、
ことを特徴とする請求項1,2又は3記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項5】
前記洗浄物を配置した洗浄物保持具を、前記洗浄物が下側を向くよう配置して前記洗浄槽内に浸漬し、前記マイクロバブルを前記洗浄物の下方で発生させる、
ことを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項6】
少なくとも洗浄時に、前記洗浄物保持具に配置された洗浄物を、その洗浄物配置箇所に前記洗浄物保持具を貫通して形成された吸引孔から吸引する、
ことを特徴とする請求項5記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項7】
前記洗浄時に、前記吸引孔から吸引した前記洗浄槽内の溶剤を当該洗浄槽内に戻すよう循環する、
ことを特徴とする請求項6記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項8】
前記循環時に前記溶剤を浄化する、
ことを特徴とする請求項7記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項9】
前記洗浄槽内に前記マイクロバブルと超音波振動を発生させて、前記マイクロバブルと前記超音波振動にて前記洗浄物を洗浄する、
ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7又は8記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項10】
前記洗浄槽内で、前記マクロバブルにて前記洗浄物を洗浄すると共に、当該洗浄物をブラシ洗浄する、
ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7又は8記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項11】
前記洗浄物は、磁気ヘッドスライダであり、当該磁気ヘッドスライダを洗浄する、
ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9又は10記載の洗浄物洗浄方法。
【請求項12】
洗浄物を配置する洗浄物保持具と、
前記洗浄物を洗浄する溶剤が充填され、前記洗浄物保持具を浸漬する洗浄槽と、
この洗浄槽内で前記洗浄物を洗浄する洗浄手段と、を備え、
前記洗浄手段は、前記洗浄槽内にマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置である、
ことを特徴とする洗浄装置。
【請求項13】
前記洗浄手段は、前記マイクロバブル発生装置、及び、前記洗浄槽内に超音波振動を発生させる超音波洗浄装置である、
ことを特徴とする請求項12記載の洗浄装置。
【請求項14】
前記洗浄手段は、前記マイクロバブル発生装置、及び、前記洗浄物をブラッシング洗浄するブラシ洗浄装置である、
ことを特徴とする請求項12記載の洗浄装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−161867(P2008−161867A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3770(P2008−3770)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【分割の表示】特願2005−6772(P2005−6772)の分割
【原出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(500393893)新科實業有限公司 (361)
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
【住所又は居所原語表記】SAE Technology Centre, 6 Science Park East Avenue, Hong Kong Science Park, Shatin, N.T., Hong Kong
【Fターム(参考)】