説明

洗浄用の泡及び該泡を生じせしめるための水性洗浄料

【課題】 洗浄料における刺激発現の機序を明らかにし、刺激発現の蓋然性を低減した洗浄料を提供する。
【解決手段】 水性洗浄料を泡立てて得られる、皮膚を洗浄するための泡であって、体積1mlあたりの脂肪酸量が0.01g以下であるものを洗浄用に選択する。前記泡は、敏感肌を洗浄するためのものであることが好ましく、洗浄行為における角層バリア機能の低下が抑制されている特徴を有する。平均的な使用態様において、泡立て手段を構成として水性洗浄料に含ませることにより前記泡は得られる。前記泡立て手段は、泡立てネット、ポンプフォーマー又は気体成分による泡沫エアゾールが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性洗浄料、水性洗浄料より生じる泡、該泡を指標とする水性洗浄料の評価法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性洗浄料は、脂肪酸石鹸などの親水性界面活性剤を利用して泡を生成せしめ、この泡と流水により汚れを除去する化粧料であり、剤形としては、固形石鹸、クリーム状石鹸組成物、親水性界面活性剤の水溶液の形態である液状洗浄料などが存する。かかる水性洗浄料は、皮膚科学の面では刺激を発現しやすいとされている化粧料であり、該刺激の原因は洗浄料中の脂肪酸石鹸にあるとされている。特に、脂肪酸の中でもラウリン酸含量が多く、ラウリン酸が皮膚上に残存しやすい洗浄料は、刺激発現の蓋然性も高いと言われている(例えば、非特許文献1を参照)。この様な情報をもとに、残存脂肪酸量の少ない水性洗浄料の開発検討が行われてきた(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)。この様な手段により、パッチテストなどの安全性テストの結果は著しく向上したが、実使用における刺激発現などの好ましくない事例の出現は安全性テストほどには向上していないのが現状であった。これより、洗浄料の刺激発現にはラウリン酸の含有量以外の因子が存することが推測されるが、その詳細については明らかになっていないのが現状である。
【0003】
一方、洗顔などの水性洗浄料を用いた洗浄行為において、汚れの落ち具合、刺激感の発現の仕方など、泡の寄与は少なくなく、泡立てを容易にするための工夫も考案されている(例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7を参照)。これらは何れも泡の性状については述べているが、化学的組成についての論究は殆ど為されていない。又、刺激の発現の蓋然性と泡の化学的組成に言及した研究も全く為されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平10−316553号公報
【特許文献2】特開平10−182419号公報
【特許文献3】特開2004−224726号公報
【特許文献4】特開2005−239588号公報
【特許文献5】特開2006−43390号公報
【特許文献6】特開2005−621号公報
【特許文献7】特開2003−63948号公報
【非特許文献1】van Ruissen F. et.al. , J Invest Dermatol. 1998 ;110(4):358-63
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、洗浄料における刺激発現の機序を明らかにし、刺激発現の蓋然性を低減した洗浄料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、洗浄料における刺激発現の機序を明らかにし、刺激発現の蓋然性を低減した洗浄料を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、洗浄料より生じる泡の脂肪酸量をコントロールすることにより、この様な刺激発現の蓋然性を低減できることを見いだし、発明を完成させた。即ち、本発明は、以下に示すとおりである。
(1)水性洗浄料を泡立てて得られる、皮膚を洗浄するための泡であって、体積1mlあたりの脂肪酸量が0.01g以下であることを特徴とする、洗浄用の泡。
(2)敏感肌を洗浄するためのものであることを特徴とする、(1)に記載の洗浄用の泡。
(3)洗浄行為における角層バリア機能の低下が抑制されていることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の泡。
(4)平均的な使用態様において、洗浄行為の途上に(1)〜(3)何れか1項に記載の泡を生じる、水性洗浄料。
(5)平均的な使用態様が、泡立て手段を構成として含むことを特徴とする、(4)に記載の水性洗浄料。
(6)前記泡立て手段は、泡立てネット、ポンプフォーマー又は気体成分による泡沫エアゾールであることを特徴とする、(4)又は(5)に記載の水性洗浄料。
(7)水性洗浄料の評価方法であって、選抜された平均的なパネラー群において、想定される使用態様で洗浄のための泡を作成し、該泡の体積と脂肪酸の含有量を計測し、体積1mlあたりの脂肪酸量を算出し、該体積1mlあたりの脂肪酸量が0.01g以下であった場合に刺激発現性の低い水性洗浄料であると判別することを特徴とする、水性洗浄料の評価法。
(8)(4)〜(6)に記載の水性洗浄料の使用態様の説明の表示であって、該洗浄料を泡立てて生じせしめた、洗浄に用いる泡が、泡体積1mlあたり0.01g以下の脂肪酸を含有するように教示してなる、水性洗浄料の使用態様の説明の表示。
(9)洗浄料の単位数量の表示と、洗浄用の泡の単位数量の表示とを有することを特徴とする、(8)に記載の水性洗浄料の使用態様の説明の表示。
(10)商品カタログ又は電子媒体における商品説明用のものであることを特徴とする(8)又は(9)に記載の水性洗浄料の使用態様の説明の表示。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、洗浄料における刺激発現の機序を明らかにし、刺激発現の蓋然性を低減した洗浄料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の泡は、洗浄料を用いて泡立てられる、洗浄のための泡であって、体積1mlあたりの脂肪酸量が0.01g以下、より好ましくは、0.005g以下であることを特徴とする。これまで、洗浄料においては、洗浄料を水とともに泡立てて、この泡を用いて洗浄することにより、汚れ落としの作用に優れると同時に、洗浄後にヒリヒリ感、炎症などの肌トラブルが生じる確率を低減できることが知られている。しかしながら、本発明者らの検討では、この様に泡立てられた洗浄用の泡であっても、刺激発現可能性は異なることを見いだした。同じような性状の泡であっても刺激発現可能性がことなり、かかる刺激発現可能性が、泡における脂肪酸量に依存することを見いだし、肌トラブルを生じさせにくい泡の特性を明らかにしたものである。
【0009】
通常、洗浄料の刺激感などの肌トラブルと因果関係のある性状値としては、脂肪酸の種類などが挙げられ、例えば、一次刺激値の高いラウリン酸の使用を控えることにより、安全性が向上するなどと考えられたりしてきたが、本発明の主旨では、ラウリン酸の配合によって、泡立ち性が向上し、以て、泡における脂肪酸量が減少するものであれば、ラウリン酸の配合を排除するものではない。その逆にラウリン酸などを含有しない洗浄料であっても、生じる泡における脂肪酸量が多いものは、本発明の泡には属さない。
【0010】
前記体積1mlあたりの脂肪酸量が0.01g以下、より好ましくは、0.005g以下である泡は、通常市販されている洗浄料を、小道具無しで泡立てることによっては、美容技術に精通した人でなければ、得られがたく、美容技術に精通していない人の場合、例えば、泡立てネットなどを利用して、洗浄料を泡立てて作成することが好ましい。又、ポンプフォーマーを利用することも可能であるが、ポンプフォーマーは泡立てネットに比して、処方適合性の考慮を加えなければならない点で、泡立て能に欠くところが存するので、泡立てネットを利用することが好ましい。勿論、処方上脂肪酸石鹸量などを調整し、本願発明の脂肪酸量に属する泡沫を吐出するポンプフォーマーは、前記処方との組合せにおいて、好ましい使用態様である。
【0011】
前記の如くに、洗浄料の泡立てによって、体積1mlあたりの脂肪酸量が0.01g以下の泡を得るためには、小道具による補助以外に、洗浄料の組成についても、泡を維持しやすい成分を含有させることが好ましい。この様な泡を維持する作用に優れる成分としては、例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸グリセリル、ポリグリセリンポリオキシブチレンアルキルエーテルなどのグリセリン骨格とポリアルキレングリコール骨格とをともに有する非イオン界面活性剤や、ショ糖脂肪酸エステルなどが好適に例示できる。前記グリセリン骨格とポリアルキレングリコール骨格とをともに有する非イオン界面活性剤の好ましい含有量は0.5〜5質量%であり、より好ましくは1〜3質量%である。ショ糖脂肪酸エステルの好ましい含有量は、0.1〜5質量%であり、より好ましくは0.2〜2質量%である。
【0012】
本発明の泡は、泡立てた泡が含有する脂肪酸量によって、特定されるが、この様な構成を採用することにより、水性洗浄による経表皮水分損失(TEWL)の上昇、角層水分量の減量を抑制することが出来る。この様な抑制により、敏感肌の人においても刺激感を感じる蓋然性低く水性洗浄を行うことが出来る。泡における脂肪酸量をコントロールすることにより、前記皮膚バリア機能を表す肌特性値を維持できるので、泡における脂肪酸が水性洗浄において、皮膚バリア機能を損なっていることが考えられる。
【0013】
この様な知見より、生成した洗浄用の泡の脂肪酸含有量により、洗浄に伴う皮膚バリア機能の傷害性を予測して、洗浄料の評価を行うことも出来る。平均的な使用態様における泡が含有する脂肪酸量を定量し、これの多少により、平均的な使用態様における皮膚バリア機能の傷害性を予測することが出来る。かかる平均的な使用態様における泡の含有する脂肪酸量の算定としては、例えば、パネラー10人以上。より好ましくは15人以上を用いて、実際の使用に準じた条件で泡立てを行い、得られた泡の平均脂肪酸含有量を算出ことが好ましく例示できる。即ち、前記条件下、泡の体積と脂肪酸の含有量を計測し、体積1mlあたりの脂肪酸量を算出し、該体積1mlあたりの脂肪酸量が0.01g以下であった場合に刺激発現性の低い水性洗浄料であると判別することが出来る。0.005g以下であった場合には、刺激発現性が極めて低い水性洗浄料であると判別できる。この様な評価の対象となる洗浄料としては、水性洗浄料であれば特段の限定無く、ボディーシャンプー、固形石鹸、洗顔料などが好適に例示できる。皮膚を洗浄するものであることが好ましい。これらの洗浄成分は、脂肪酸石鹸を主たる洗浄成分とするものであることが好ましい。
【0014】
この様な泡に含まれる脂肪酸量の特定は、洗浄料の処方構成と、泡立てに用いた洗浄料の量と、泡立てられた泡の容積によって行えることから、洗浄料について、商品毎に洗浄に用いるべき使用量の洗浄料と、それより得られるべき泡の量を提示して、洗浄料の使用態様を表示、説明することは、皮膚バリア機能の維持の上で好ましい。この様な表示、説明は、商品カタログ、手順書などで写真の形で提示することも出来るし、インターネットのホームページなどの、公衆回線を利用した電子情報としての送信を利用することも出来る。この様に使用態様を明示することにより、洗浄料の適切な使用を促し、洗浄による皮膚バリア機能の低下を抑制することが出来る。
【0015】
以下に、実施例を挙げて、本発明について、更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0016】
無作為に集めた女性パネラー19名を、洗浄料の泡立て技術として洗浄料1gを泡立ててどの程度の体積の泡を生じさせることが出来るか計測して、平均10ml以上を上級、平均5ml以上10ml未満を中級、平均5ml未満を初級とクラス分けした。このパネラーを用いて、ラウリン酸を5質量%含有する洗顔料(標準;表1)と、ラウリン酸を全く含有しない洗顔料(C12フリー;表2)の2種の洗浄料(洗顔料)について、泡立て試験、泡立て試験で立てた泡を用いて、洗浄を行い、皮膚の性状(TEWL、コンダクタンス、キャパシタンス)の変化を計測した。TEWLはSERVO MED社製の「SEVOMED EVAPORRIMETERS EP-1」で、コンダクタンスはアイ・ビィ・エス社製の「SKICON 200EX」、キャパシタンスはCOURGE+Khazaka社製の「Corneometer CM820」で測定した。又、泡立ての程度は、一定体積の泡を採取し、その重量で体積を除して算出し、脂肪酸は一定用量の泡を取り出し、ガスクロマトグラフィー、電位差滴定により求めた。前記ガスクロマトグラフィーの条件は、GC:HP6890、カラム:Ultra ALLOY-1 HT 15m×0.25mmφ×0.15μm、昇温条件:80℃(1min)→(15℃/min)→340℃、注入法:スプリット(スプリット比30:1)、注入口温度:200℃、検出器温度:370℃、注入量:1.0μl、注入回数:2回)である。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
<泡の状況>
泡は、1gの洗浄料を手に取り、両手で適度な水を加えながら、小道具を使用することなく、たててもらった。計測した泡立ての程度を表3に示す。又、これらの泡に含まれる脂肪酸量は表4に示す。皮膚性状を計測し、これらを用いて、洗浄を行った後に再び皮膚性状を計測した結果を図1(キャパシタンス)、図2(コンダクタンス)、図3(TEWL)を示す。これより、ラウリン酸フリーの洗顔料は、キャパシタンスを低下、コンダクタンスを低下、TEWLを上昇させる傾向にあることが分かる。即ち、一次刺激の強いラウリン酸を含んでいないにもかかわらず、皮膚性状に好ましくない影響を与えていることが伺える。この傾向は、泡に含まれる脂肪酸量と泡立てにくさに相関していると思われる。
【0020】
【表3】

【0021】
【表4】

【0022】
コンダクタンス、キャパシタンス、TEWLについても、パネラーのランク別に集計してみた。結果を表5(キャパシタンス)、表6(コンダクタンス)、表7(TEWL)に示す。ここにおいても、泡の脂肪酸含有量と相関することが裏付けられた。
【0023】
【表5】

【0024】
【表6】

【0025】
【表7】

【実施例2】
【0026】
実施例1の標準の洗顔料を用いて、泡の量の表示効果を調べた。即ち、中級のランクのパネラー5名を用い、等倍の洗顔料1gの写真と、該洗顔料を泡立てて得られる、脂肪酸含有量0.0015質量%の泡の写真を提示して泡立てを支持した場合と、「良く泡立ててください」と言葉のみで指示した場合で、得られた泡の脂肪酸含有量を比較した。結果は写真を提示した場合が0.0013質量%であり、言葉のみの場合は0.0024質量%であり、写真の提示による示唆が有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、洗浄料の設計や評価などに応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1のキャパシタンスの測定結果を示す図である。
【図2】実施例1のコンダクタンスの測定結果を表す図である。
【図3】実施例1のTEWLの測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性洗浄料を泡立てて得られる、皮膚を洗浄するための泡であって、体積1mlあたりの脂肪酸量が0.01g以下であることを特徴とする、洗浄用の泡。
【請求項2】
敏感肌を洗浄するためのものであることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄用の泡。
【請求項3】
洗浄行為における角層バリア機能の低下が抑制されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の泡。
【請求項4】
平均的な使用態様において、洗浄行為の途上に請求項1〜3何れか1項に記載の泡を生じる、水性洗浄料。
【請求項5】
平均的な使用態様が、泡立て手段を構成として含むことを特徴とする、請求項4に記載の水性洗浄料。
【請求項6】
前記泡立て手段は、泡立てネット、ポンプフォーマー又は気体成分による泡沫エアゾールであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の水性洗浄料。
【請求項7】
水性洗浄料の評価方法であって、選抜された平均的なパネラー群において、想定される使用態様で洗浄のための泡を作成し、該泡の体積と脂肪酸の含有量を計測し、体積1mlあたりの脂肪酸量を算出し、該体積1mlあたりの脂肪酸量が0.01g以下であった場合に刺激発現性の低い水性洗浄料であると判別することを特徴とする、水性洗浄料の評価法。
【請求項8】
請求項4〜6に記載の水性洗浄料の使用態様の説明の表示であって、該洗浄料を泡立てて生じせしめた、洗浄に用いる泡が、泡体積1mlあたり0.01g以下の脂肪酸を含有するように教示してなる、水性洗浄料の使用態様の説明の表示。
【請求項9】
洗浄料の単位数量の表示と、洗浄用の泡の単位数量の表示とを有することを特徴とする、請求項8に記載の水性洗浄料の使用態様の説明の表示。
【請求項10】
商品カタログ又は電子媒体における商品説明用のものであることを特徴とする請求項8又は9に記載の水性洗浄料の使用態様の説明の表示。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−303183(P2008−303183A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152555(P2007−152555)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】