説明

洗濯機の制振装置

【課題】洗濯槽重量のアンバランスに応じた最適な制振制御を、リニアモータのベクトル
制御を用いることでリアルタイムに行うことができる制振装置を提供する。
【解決手段】洗濯槽と筐体の間に配置されたリニアモータおよび弾性体と、前記リニアモ
ータの巻線に通電される電流を検出し、電流信号を出力する電流検出手段と、前記リニア
モータの可動子の相対位置を検出して前記可動子の移動距離を演算する位置演算部と、前
記洗濯槽または前記筐体の加速度を検出し、加速度信号を出力する加速度センサと、前記
移動距離、前記加速度信号および前記弾性体の弾性定数に基づき、加振力信号を演算する
加振力演算部と、前記加振力信号と目標振動値との差分に基づき、指令q軸電流値を出力
するトルク制御部と、前記電流信号と、前記指令q軸電流値に基づいて、前記巻線に対す
る通電を制御する通電制御手段とを有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、洗濯機について生じる振動を抑制する洗濯機の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、洗濯物を回転させる洗濯槽を収容して筐体に対して支持される
受け筒の姿勢を保って支持する支持手段を空気アクチュエータもしくは、粘性流体を用い
て、制御駆動する振動制御手段を複数有する洗濯機が開示されている。上記システムでは
、洗濯槽に収納される洗濯物のアンバランス量により、複数の支持手段の空気圧、もしく
は、粘性力をそれぞれ異なった特性に変化させることで、洗濯槽の振動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-183297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の制御駆動する振動制御手段では、空気アクチュエータもし
くは、粘性流体を用いるため、応答速度が遅い。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、洗濯槽内の洗濯物や水が
偏ることにより生じる洗濯槽重量のアンバランスに応じた最適な制振制御を、リニアモー
タのベクトル制御を用いることでリアルタイムに行うことができる制振装置を提供するこ
とにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1の洗濯機の制振装置は、洗濯機の筐体と洗濯槽との間に配置され、3相
巻線を備える固定子と、永久磁石を備える可動子とを有し、前記固定子と前記可動子との
何れか一方が前記筐体に固定され、他方が前記洗濯槽に固定されるリニアモータと、前記
リニアモータと並列または直列に接続された弾性体と、前記巻線に通電される電流を検出
し、電流信号を出力する電流検出手段と、前記可動子の相対位置を検出し、前記可動子の
移動距離を演算する位置演算部と、前記洗濯槽または前記筐体の加速度を検出し、加速度
信号を出力する加速度センサと、前記移動距離、前記加速度信号および前記弾性体の弾性
定数に基づき、加振力信号を演算する加振力演算部と、前記加振力信号と目標振動値との
差分に基づき、指令q軸電流値を出力するトルク制御部と、前記電流信号と、前記指令q
軸電流値に基づいて、前記巻線に対する通電を制御する通電制御手段とで構成されること
を特徴とする。
【0007】
請求項4の洗濯機の制振装置は、洗濯機の筐体と洗濯槽との間に配置され、3相巻線を
備える固定子と、永久磁石を備える可動子とを有し、前記固定子と前記可動子との何れか
一方が前記筐体に固定され、他方が前記洗濯槽に固定されるリニアモータと、前記リニア
モータと並列または直列に接続された弾性体と、前記弾性体に隣接して配置され、前記弾
性体にかかる荷重を電圧に変換する圧電素子と、前記巻線に通電される電流を検出し、電
流信号を出力する電流検出手段と、前記移動距離、前記加速度信号および前記弾性体の弾
性定数に基づき、加振力信号を演算する加振力演算部と、前記圧電素子からの電圧と目標
振動値との差分に基づき、指令q軸電流値を出力するトルク制御部と、前記電流信号と、
前記指令q軸電流値に基づいて、前記巻線に対する通電を制御する通電制御手段とを有す
ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の洗濯機の制振装置によれば、洗濯槽内の洗濯物や水が偏ることにより生じる洗濯
槽重量のアンバランスに応じた最適な制振制御を、リニアモータのベクトル制御を用いる
ことでリアルタイムに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施例であり、リニアモータをベクトル制御する制御装置の電気的構成を示す機能ブロック図
【図2】リニアモータの構成を、一部を透過させて示す斜視図
【図3】電磁式サスペンションの構成を示す正面図
【図4】ドラム式洗濯乾燥機の縦断側面図
【図5】ドラム式洗濯乾燥機の一部を破断して示す斜視図
【図6】本発明の第2実施例であり、リニアモータをベクトル制御する制御装置の電気的構成を示す機能ブロック図
【図7】本発明の第3実施例であり、リニアモータをベクトル制御する制御装置の電気的構成を示す機能ブロック図
【図8】洗濯槽の変位量の時間変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1について図1乃至図5を参照して説明する。図2は、リニアモ
ータの構成を、一部を透過させて示す斜視図である。リニアモータ1は、シャフト2と、
そのシャフト2にN極,S極が交互に並ぶように配置される永久磁石3(N,S)とで構
成される可動子4と、内部にU,V,W相の巻線5を有し、直方体状の本体6を備えてな
る固定子7とで構成されている。また、本体6には、可動子4の相対的な変位位置を出力
する位置センサ8が配置されている。
【0011】
そして、図3乃至図5に示すように、本実施例では、リニアモータ1とスプリング15
とを組み合わせることで、ドラム式洗濯乾燥機21(以下、単に洗濯機21と称する)の
洗濯槽14を支持するための電磁式サスペンション11を構成する。図3は、電磁式サス
ペンション11の構成を示す正面図である。洗濯機21の底面側に配置される基部12に
は支持部材13が立設されており、その支持部材13が、リニアモータ1の固定子7を下
方側より支持している。リニアモータ1の可動子4の上端は、洗濯機21の洗濯槽14の
一部であるシャフト固定部14aに固定されており、シャフト固定部14aと固定子7の
上端側との間には、スプリング(弾性体)15が配置されている。したがって、電磁式サ
スペンション11が洗濯機21に配置された状態では、固定子7が固定側となり、可動子
4が可動側となっている。なお、スプリング15は、リニアモータ1と直列的に接続され
ていても、並列的に接続されていてもよい。
【0012】
図4は洗濯機21の縦断側面図であり、図5は、同一部を破断して示す斜視図である。
洗濯機21の外殻を形成する筐体22は、前面に円形状に開口する洗濯物出入口23を有
しており、この洗濯物出入口23は、ドア24により開閉されるようになっている。筐体
22の内部には、背面が閉鎖された有底円筒状の洗濯槽14が配置されており、この洗濯
槽14の背面中央部には洗濯用モータとしての永久磁石モータ25の固定子がねじ止めに
より固着されている。そして、洗濯槽14は、上述した電磁式サスペンション11により
基部12上に支持されている。尚、電磁式サスペンション11は、図4では点線で示して
いる。また、電磁式サスペンション11は、実際には正面から見て洗濯槽14の左右に2
つ配置されているが、図示しているのは一方のみである。
【0013】
永久磁石モータ25の回転軸26は、後端部(図4では右側の端部)が永久磁石モータ2
5の回転子に固定されており、前端部(図4では左側の端部)が洗濯槽14内に突出して
いる。回転軸26の前端部には、背面が閉鎖された有底円筒状のドラム27が洗濯槽14
に対して同軸状となるように固定されており、このドラム27は、永久磁石モータ25の
駆動により回転軸26と一体的に回転する。なお、ドラム27には、空気および水を流通
可能な複数の流通孔28と、ドラム27内の洗濯物の掻き上げやほぐしを行うための複数
のバッフル29が設けられている。
【0014】
洗濯槽14には給水弁30が接続されており、当該給水弁30が開放されると、洗濯槽
14内に給水されるようになっている。また、洗濯槽14には排水弁31を有する排水ホ
ース32が接続されており、当該排水弁31が開放されると、洗濯槽14内の水が排出さ
れるようになっている。
【0015】
洗濯槽14の下方には、前後方向へ延びる通風ダクト33が設けられている。この通風
ダクト33の前端部は前部ダクト34を介して洗濯槽14内に接続されており、後端部は
後部ダクト35を介して洗濯槽14内に接続されている。通風ダクト33の後端部には、
送風ファン36が設けられており、この送風ファン36の送風作用により、洗濯槽14内
の空気が、矢印で示すように、前部ダクト34から通風ダクト33内に送られ、後部ダク
ト35を通して洗濯槽14内に戻されるようになっている。
【0016】
通風ダクト33内部の前端側には蒸発器37が配置されており、後端側には凝縮器38
が配置されている。これら蒸発器37および凝縮器38は、コンプレッサ39や図示しな
い絞り弁とともにヒートポンプ40を構成しており、通風ダクト33内を流れる空気が、
蒸発器37により除湿され凝縮器38により加熱されて、洗濯槽14内に循環されるよう
になっている。洗濯槽14の重心位置の真下に相当する洗濯槽14の外側に洗濯槽14の
加速度を検出する洗濯槽センサ16が取り付けられている。筐体22の内側に筐体22の
加速度を検出する筐体センサ17が取り付けられている。
【0017】
図1は、リニアモータ1をベクトル制御する制御装置41の構成をブロック図で示した
ものである。ベクトル制御では、巻線5に流れる電流を、界磁である永久磁石3の磁束方
向と、それに直交する方向とに分離してそれらを独立に調整し、磁束と発生トルクとを制
御する。電流制御には、リニアモータ1の可動子4の移動ピッチを周期として回転する座
標系、いわゆるd−q座標系で表わした電流値が用いられるが、d軸は永久磁石3の作る
磁束方向であり、q軸はd軸に直交する方向である。巻線5に流れる電流のq軸成分であ
るq軸電流Iqはトルクを発生させる成分であり、d軸成分であるd軸電流Idは磁束を
作る成分である。
【0018】
電流センサ60U,60V,60Wは、モータの各相(U相,V相,W相)に流れる電流
Ia,Ib,Icを検出するセンサである。なお、電流センサ60U,60V,60Wに
替えて、インバータ回路61を構成する下アーム側のスイッチング素子とグランドとの間
に3個のシャント抵抗を配置し、それらの端子電圧に基づいて電流を検出する構成として
もよい。なお、電流センサ60U,60V,60Wは、実際にはインバータ回路61の出
力端子とモータの巻線との間に介挿されている。
【0019】
電流センサ50U,50V,50Wにより検出された電流Ia,Ib,Icは、A/D
変換器42によりA/D変換されて、電流変換部43において2相電流Iα,Iβに変換
された後、更にd軸電流Id,q軸電流Iqに変換される。α,βは、モータの固定子に
固定された2軸座標系の座標軸である。電流変換部43における座標変換の計算には、後
述する可動子4の位置(α軸とd軸との位相差、電気角)θeが用いられる。d軸電流I
d,q軸電流Iqは、電流制御部44に与えられている。
【0020】
リニアモータ1の固定子7に配置されている位置センサ8が出力する位置信号は、A/D
変換器42によりA/D変換されて、制御装置41の位置演算部45に与えられている。位
置演算部45は、上記位置信号を可動子4の移動ピッチの周期とする位置θeに変換して
、電流変換部44、後述する電圧変換部46に出力する。さらに、位置演算部45は、洗
濯槽14が静止している際の位置Lと、洗濯槽14が可動している際の位置L´との差を
演算し、加振力演算部47に与えられる。
【0021】
洗濯槽14に取り付けられた洗濯槽センサ16から出力される加速度信号aは、制御装置
41のA/D変換器42によりA/D変換されて、制御装置41の加振力演算部47へ入
力される。
【0022】
加振力演算部47は、下記の式から、リニアモータ1にかかる加振力Fを演算する。
【0023】
F=K×(L−L´)×a (1)
ここで、Kは制振装置100を構成するスプリング15のばね定数を示す。
【0024】
加振力演算部47で出力された加振力Fは、トルク制御部48に与えられる。トルク制
御部48は、減算器49において、外部から与えられる目標振動値から加振力Fを減算し
、偏差ΔFを算出する。さらに、トルク制御部48は、比例積分器50において、偏差Δ
Fを比例積分演算し、指令d軸電流値Iqrefを生成する。
【0025】
指令d軸電流値Iqrefは、電流制御部44に出力される。また、制振を行う制御で
は、基本的にリニアモータ1は全界磁運転をさせるため、指令d軸電流値Idrefは「
0」を電流制御部44に与える。電流制御部44は、減算器51qにおいて、電流変換部
43から出力されるq軸電流Iqと指令q軸電流値Iqrefとの差ΔIqを演算し、減
算器51dにおいて、電流変換部43から出力されるd軸電流Idと指令d軸電流値Id
refとの差ΔIdを演算する。さらに、電流制御部44は、比例積分器52q,52d
において、差ΔIq,ΔIdを比例積分し、指令電圧Vq,Vdを算出し、電圧変換部4
6へ出力する。
【0026】
電圧変換部46は、電圧指令Vq,Vdをα−β座標系で表した値に変換し、さらにα
β/abc変換して各相電圧指令Va,Vb,Vcを電圧出力部53に出力する。
【0027】
電圧出力部53は、直流電源電圧に基づいて、指令値に一致する電圧を供給するための
パルス幅変調(PWM)されたゲート駆動信号をインバータ回路61に出力する。これら
、電流制御部44、電圧変換部46および電圧出力部53により通電制御手段54が構成
されている。
【0028】
インバータ回路61は、例えばIGBTなどのスイッチング素子を三相ブリッジ接続し
て構成され、直流電源回路により直流電源電圧が供給される。
【0029】
電圧出力部53で形成されたゲート駆動信号(上アーム:u,v,w/下アーム:x,
y,z)は、インバータ回路61を構成する各スイッチング素子のゲートに与えられ、そ
れにより各相電圧指令Va,Vb,Vcに一致する、PWM変調された三相交流電圧が生
成されてリニアモータ1の巻線5に印加される。
【0030】
上記の構成において、減算器51q,51dと比例積分器52q,52dとで、比例積
分(PI)演算による電流ループのフィードバック制御が行なわれ、d軸電流Id、q軸
電流Iqは,それぞれ指令d軸電流値Idref、指令q軸電流値Iqrefに一致する
ように制御される。
【0031】
次に、本実施例の作用について説明する。洗濯機21において洗濯運転が行われる場合
、永久磁石モータ25によりドラム27が回転駆動されると洗濯槽14に振動が発生する
。すると、その振動によって電磁式サスペンション11の可動子4側が変位し、相対的な
変位量が位置センサ8により検出され、位置信号として制御装置41に出力される。
【0032】
制御装置41では、上述したように、位置センサ8からの位置信号に基づき、振動なし
の場合の位置Lと現在の位置L´との差を検出し、この差に基づき、洗濯槽14のアンバ
ランス重量をリアルタイムに検出し、この洗濯槽14のアンバランス重量と洗濯槽センサ
16からの加速度信号とから加振力をリアルタイムに演算する。この加振力と目標振動量
とを減算した値に基づいて、加振力を相殺する相殺トルクが演算されて、指令q軸電流値
Iqrefが出力される。この指令q軸電流値Iqrefと、指令d軸電流値Idref
に基づき電流ループのフィードバック制御が行われ、また、位置信号に基づき得られる電
気角θeによりベクトル演算が行われ、q軸電流およびd軸電流が制御され、インバータ
回路61を介してリニアモータ1が駆動される。
【0033】
本実施例によれば、洗濯槽14内の洗濯物や水が偏ることにより生じる洗濯槽重量のア
ンバランスに応じた最適な制振制御を、リニアモータ1のベクトル制御を用いることでリ
アルタイムに行うことができ、もって洗濯機21の振動を抑えることができる。
【0034】
(実施例2)
本発明の実施例2について図6を参照して説明する。なお、上述した実施例1と同一部
分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0035】
洗濯槽14には洗濯槽14の振動を検知する洗濯槽センサ16が取り付けられており、
筐体22には筐体22の振動を検知する筐体センサ17が取り付けられている。洗濯槽1
4に取り付けられた洗濯槽センサ16から出力される加速度信号aと、筐体22に取り付
けられた筐体センサ17から出力される加速度信号bは、制御装置71のA/D変換器5
2によりA/D変換されて、制御装置71の比較器72に入力される。
【0036】
比較器72は、例えば、加速度信号aの周波数が所定の値以上の場合に加速度信号aの値
を加速度信号αとして加振力演算部47へ出力し、加速度信号aの周波数が所定の値以下
の場合に加速度信号bの値を加速度信号αとして加振力演算部47へ出力する。ここで、
所定の値とは、例えば、加速度信号aの周波数が低い場合は洗濯槽14の横揺れが支配的
になり筐体22の振動が大きくなり、周波数が高い場合は洗濯槽14の縦揺れが支配的に
なり洗濯槽の振動が大きくなるため、横揺れから縦揺れに変化する付近の周波数とするの
が好ましい。本実施例では、2Hzとしている。また、加速度信号aの周波数により判定
を行ったが、加速度信号bの周波数により判定を行ってもよい。また、上記では加速度信
号aか加速度信号bのどちらかを選択するようにしたが、これに限られず、加速度信号a
または加速度信号bの周波数に応じて、加速度信号aと加速度信号bの割合を設定し、そ
の割合に基づく加速度信号aと加速度信号bの和を加速度信号αとして出力してもよい。
【0037】
加振力演算部47は、下記の式から、リニアモータにかかる加振力Fを演算する。
【0038】
F=K×(L−L´)×a (1)
ここで、Kは制振装置を構成するスプリング15のばね定数を示す。
【0039】
加振力演算部47で出力された加振力Fは、トルク制御部48に与えられる。
【0040】
次に、本実施例の作用について説明する。洗濯機21において洗濯運転が行われる場合
、永久磁石モータ25によりドラム27が回転駆動されると洗濯槽14に振動が発生する
。すると、その振動によって電磁式サスペンション11の可動子4側が変位し、相対的な
変位量が位置センサ8により検出され、位置信号として制御装置71に出力される。
【0041】
制御装置71では、上述したように、位置センサ8からの位置信号に基づき、振動なし
の場合の位置Lと現在の位置L´との差を検出し、この差に基づき、洗濯槽14のアンバ
ランス重量をリアルタイムに検出する。さらに、比較器72により、洗濯槽センサ16か
らの加速度信号aと筐体センサ17からの加速度信号bに基づき、どちらの振動を抑えた
いか、もしくはどちらの振動をより強く抑えたいかを判定し、その加速度信号を出力する
。この加速度信号とアンバランス重量とから加振力をリアルタイムに演算する。この加振
力と目標振動値とを減算した値に基づいて、加振力を相殺する相殺トルクが演算されて、
指令q軸電流値Iqrefが出力される。この指令q軸電流値Iqrefと、指令d軸電
流値Idrefに基づき電流ループのフィードバック制御が行われ、また、位置信号に基
づき得られる電気角θeによりベクトル演算が行われ、q軸電流およびd軸電流が制御さ
れ、インバータ回路61を介してリニアモータ1が駆動される。
【0042】
本実施例によれば、実施例1と同様、洗濯槽14内の洗濯物や水が偏ることにより生じ
る洗濯槽重量のアンバランスに応じた最適な制振制御を、リニアモータ1のベクトル制御
を用いることでリアルタイムに行うことができ、もって洗濯機21の振動を抑えることが
できる。
【0043】
また、一般的に、洗濯槽14の共振点付近では、洗濯槽14の振動を抑えることができて
も、筐体22に伝わる振動を抑えることができなく、床に振動を伝播することが生じる。
本実施例によれば、比較器72を設けることにより、洗濯槽14と筐体22のどちらの振
動を抑えたいか、もしくはどちらの振動をより強く抑えたいかを判定し、その加速度信号
に応じて制振制御することで、洗濯槽14の振動だけでなく筐体22の振動を抑えること
ができる。
【0044】
(実施例3)
本発明の実施例3について図7を参照して説明する。なお、上述した実施例1と同一部
分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0045】
加速度を検出する洗濯槽センサ16および筐体センサ17はなく、リニアモータ1に、
圧電素子82が配置されている。圧電素子82は、洗濯槽14の振動によりリニアモータ
1にかかった外力を電圧に変換し加重電圧として出力する。
【0046】
圧電素子82から出力された加重電圧は、制御装置81のA/D変換器42に入力され
てA/D変換され、トルク制御部48に入力される。トルク制御部48は、減算器49に
より加重電圧と所定の目標電圧値との差ΔVを比例積分器により指令q軸電流値Iqre
fを出力する。
【0047】
本実施例によれば、実施例1と同様、洗濯槽14内の洗濯物や水が偏ることにより生じ
る洗濯槽重量のアンバランスに応じた最適な制振制御を、リニアモータ1のベクトル制御
を用いることでリアルタイムに行うことができ、もって洗濯機21の振動を抑えることが
できる。
【0048】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のよう
な変形又は拡張が可能である。
【0049】
位置演算部45は、洗濯槽センサ16の出力信号がゼロの時の位置をLとし、洗濯槽14
が可動している際の位置をL´としても演算してもよい。この理由について説明する。永
久磁石モータ25によりドラム27が回転駆動された際の振動量を図8に示す。図8は、
横軸に時間、縦軸に位置センサ8の変位量を示している。図8に示すように、洗濯槽14
の重量は洗濯物や水の偏りにより周期的に変位する。さらに、洗濯槽14内部の水の減少
により、時間とともに洗濯槽14全体の重量(以下、基準重量と称す。)が変化する。こ
の基準重量は、洗濯槽センサ16の出力信号がゼロのときである。つまり、洗濯槽センサ
16の出力信号がゼロのときの位置をLとして演算することにより、より正確に洗濯槽1
4のアンバランス重量を検出することができる。
【0050】
また、リニアモータ1の永久磁石3はN極,S極が交互に並ぶように配置される構成に
限らず、ハルバッハ配列や、磁石対向型などにしてもよい。
【0051】
また、弾性体はスプリング15に限ることなく、固定側に対して制振対象物を弾性的に
支持する構造であればどのようなものでも良い。
【0052】
洗濯槽14に取り付ける洗濯槽センサ16の位置は、洗濯槽14の重心位置の真下にかか
わらず、洗濯槽14の横や前、後ろなど他の構成でもよい。
【0053】
また、筐体22に取り付けるセンサの位置17は、図の位置にかかわらず、洗濯槽14の
横や前、後ろなど他の構成でもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…リニアモータ、3…永久磁石、4…固定子、5…巻線、7…可動子、8…位置セン
サ、11…電磁式サスペンション、14…洗濯槽、15…スプリング、21…ドラム式洗
濯乾燥機、41,71,81…制御装置、45…位置演算部、47…加振力演算部、48
…トルク制御部、72…比較器、82…圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯機の筐体と洗濯槽との間に配置され、3相巻線を備える固定子と、永久磁石を備え
る可動子とを有し、前記固定子と前記可動子との何れか一方が前記筐体に固定され、他方
が前記洗濯槽に固定されるリニアモータと、
前記リニアモータと並列または直列に接続された弾性体と、
前記巻線に通電される電流を検出し、電流信号を出力する電流検出手段と、
前記可動子の相対位置を検出し、前記可動子の移動距離を演算する位置演算部と、
前記洗濯槽または前記筐体の加速度を検出し、加速度信号を出力する加速度センサと、
前記移動距離、前記加速度信号および前記弾性体の弾性定数に基づき、加振力信号を演算
する加振力演算部と、
前記加振力信号と目標振動値との差分に基づき、指令q軸電流値を出力するトルク制御部
と、
前記電流信号と、前記指令q軸電流値に基づいて、前記巻線に対する通電を制御する通電
制御手段と、
を有することを特徴とする洗濯機の制振装置。
【請求項2】
前記加速度センサは、前記洗濯槽の加速度を検出する第1加速度センサと、前記筐体の
加速度を検出する第2加速度センサであり、
前記第1加速度センサからの加速度信号と、前記第2加速度センサからの加速度信号と
を比較し、前記加振力演算部へ出力する加速度信号を決定する比較器を有することを特徴
とする請求項1記載の洗濯機の制振装置。
【請求項3】
前記比較器は、前記第1加速度センサからの加速度信号と前記第2加速度センサからの
加速度信号の少なくとも一方の周波数に基づいて、前記加振力演算部へ出力する加速度信
号を決定することを特徴とする請求項2記載の洗濯機の制振装置。
【請求項4】
洗濯機の筐体と洗濯槽との間に配置され、3相巻線を備える固定子と、永久磁石を備え
る可動子とを有し、前記固定子と前記可動子との何れか一方が前記筐体に固定され、他方
が前記洗濯槽に固定されるリニアモータと、
前記リニアモータと並列または直列に接続された弾性体と、
前記弾性体に隣接して配置され、前記弾性体にかかる荷重を電圧に変換する圧電素子と、
前記巻線に通電される電流を検出し、電流信号を出力する電流検出手段と、
前記移動距離、前記加速度信号および前記弾性体の弾性定数に基づき、加振力信号を演算
する加振力演算部と、
前記圧電素子からの電圧と目標振動値との差分に基づき、指令q軸電流値を出力するトル
ク制御部と、
前記電流信号と、前記指令q軸電流値に基づいて、前記巻線に対する通電を制御する通電
制御手段と、
を有することを特徴とする洗濯機の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−182934(P2011−182934A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51108(P2010−51108)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】