説明

流体加熱装置及び該流体加熱装置を用いた蒸気洗浄装置

【課題】 簡易の構造であって廉価にて構築可能な流体加熱装置を提供する。
【解決手段】 流体加熱装置の構造を、流体の流入口と流出口をと有する流体通路、加熱源、流体通路と加熱源とを内部に包含するヒータケース、該ヒータケース内に充填されて加熱源の発する熱を流体通路に伝達する熱伝導小片と、を有するものとし、熱伝導小片は、加熱源と流体通とを覆うように充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水等の液体を急速に昇温させるための流体加熱装置、及び当該流体加熱装置を用いて得られる高温高圧蒸気を用いて物品の洗浄を行う蒸気洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を急速に昇温させる方式には、高周波誘導加熱方式によるもの、ヒータ加熱方式によるもの、或いはアークプラズマを用いる方式によるもの、等が存在する。高周波誘導加熱方式による加熱装置では、例えば特許文献1に示されるように、液体の流路周囲にコイルを形成し、当該コイルに高周波を印加することで流路内の液体を直接加熱することとしている。また、熱伝動効率を考慮して、流路となる金属性パイプを所謂スパイラル形状としている。
【0003】
ヒータ加熱方式では、例えば特許文献2に示されるように、液体流路の周囲にヒータを配置し、熱伝導によって該流路内の液体を加熱している。従って、ヒータと流路との間を熱伝導率の高い物質で充填することが望ましい。なお、熱伝導により流路内の液体を加熱するという観点からは、直流放電により得られるアークプラズマの発生熱を用いて液体の急速加熱を実現する方式もこれに含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−290960号公報
【特許文献2】特開2002−090077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される装置では、装置本体が高温にならず、取り扱いは容易である。しかし、高周波電源を用いること、流路の導電性を好適に維持すること等の観点から溶接やロウ付けといった工程が必要となり装置の構築に大きなコストを要する。また、特許文献2等に開示される装置では、ヒータと流路との間を例えば鋳込み等によって充填する必要があり製作工程が煩雑となる。また、設計上各構成部材の熱膨張を考慮する必要があり、製作難易度が高いという問題もあった。このことから、熱伝導によって流路内の液体を加熱する方式からなる装置であっても、実際の装置構築には大きなコストを要していた。
【0006】
本発明は以上の状況に鑑みて為されたものであって、製作に要するコストが小さく、且つ製作の容易な構造からなる、流体を急速に加熱可能な流体加熱装置を提供することを目的とする。また、本発明は、更に当該流体加熱装置を用いることによって高圧蒸気を容易に提供することが可能となる、高圧蒸気の吹き付けのみによって種々の被洗浄物の洗浄を可能とする高圧蒸気洗浄装置の提供をも目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る流体加熱装置は、流体の流入口と流出口とを有する流体通路を有し、流体通路を通過する流体を加熱する流体加熱装置であって、加熱源と、流体通路と加熱源とを内部に包含するヒータケースと、ヒータケース内に充填されて加熱源の発する熱を流体通路に伝達する熱伝導小片と、を有し、熱伝導小片は、ヒータケースの内部の加熱源と流体通とを覆うように充填されることを特徴としている。
【0008】
なお、上述する流体加熱装置において、熱伝導小片はヒータケースの内部に空隙を形成するように所定の充填密度にて充填されることが好ましい。また、熱伝導小片は、大きさ及び形状の少なくとも何れかが異なる2種類以上の形態を所定の比率にて含んでも良い。また、該流体加熱装置は、ヒータケースの内部に配置されてヒータケースの内部温度を測定する温度測定手段と、ヒータケースを覆ってヒータケースの保温を為す断熱材と、を更に有し、流体通路は管状の部材を螺旋状に成型して得られたものであること、が好ましい。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る高圧蒸気洗浄装置は、被洗浄物に対して高圧力の蒸気を噴き付けて被洗浄物の洗浄を実施する高圧蒸気洗浄装置であって、上述した本発明に係る流体加熱装置から得られる高温流体を用いて高圧力の蒸気を生成する高圧蒸気発生ユニットと、高圧蒸気発生ユニットと接続されて高圧力の蒸気を被洗浄物に対して任意の位置及び方向から噴出することが可能なノズルと、特定部に開口する開口部を有して内部に被洗浄物を収容可能な槽構造を有する洗浄槽と、を有し、ノズルにおける蒸気の吹き出し部分は洗浄槽の内部に位置することが可能であり、洗浄槽の内部に位置して被洗浄物に対する高圧力の蒸気の吹き付けを行うこと、を特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設計或いは構成部材の選択が容易であると共に、製作が容易且つ製作に要するコストも小さな流体加熱装置を提供することが可能となる。また、本発明によれば、製造容易且つ安価な流体加熱装置を用いることによって、高温高圧の蒸気を用いた高圧蒸気洗浄装置も安価に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】本発明に係る流体加熱装置の第一の実施形態について、これを上方から見た際の構造を模式的に示す図である。
【図1B】図1Aに示す流体加熱装置を図1Aに示す矢印1B方向から見た際の構造を模式的に示す図である。
【図2】図1Aに示す流体加熱装置の内部の構造を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第二の実施形態について、複数種類の小片を用いた場合を模式的に示す図である。
【図4】本発明の更なる実施形態であって、流体加熱装置を高圧蒸気洗浄装置に用いた場合の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る流体加熱装置の一実施形態について、以下に図面を参照して説明する。図1Aは、本発明の一実施形態である流体加熱装置について、これを上方から見た際の構造を模式的に示し、図1Bは当該流体加熱装置を図1Aに示す矢印1B方向から見た際の構造を模式的に示している。また、図2は、図1Aに示す流体加熱装置を内部の構造を模式的に示す図である。
【0013】
本実施形態の流体加熱装置100は、カートリッジヒータ3、熱電対5、流体通路7、ヒータケース9、熱伝導小片11、ケース受け13、外装15、及び断熱材17を有する。外装15は、薄板から構成された例えば直方体形状を有し、他の諸構成を内部に包含可能な内部空間を有して当該流体加熱装置100の外形状を規定する。ヒータケース9は、円柱或いは中空部9aを有する円筒形状を有している。より詳細には、本実施形態において、該ヒータケース9は、該円柱形状の延在軸に垂直な断面において、中央部に先の中空部9aに対応する空間となる領域が存在し、且つ後述する他の部材を包含可能な厚さを有して該中空部の周りに存在する環状のケース内部9bなる内部空間を規定する。
【0014】
該ヒータケース9は、ケース受け13を介して外装15の内部空間内の所定位置に支持される。断熱材17が外装15の内面とヒータケース9外面との間に配置され、ヒータケース9から外装15への熱の伝達を防止する。また、先のケース受け13についても、ヒータケース9と外装15との熱伝達を防止するように断熱性を有する部材から構成されている。以上の構成により、ヒータケース9及びその内部の保温と、外装15の不必要な加熱の防止とを達成している。
【0015】
ヒータケース9における前述したケース内部9b内には、カートリッジヒータ3、熱電対5、流体通路7、及び熱伝導小片11が配置される。流体通路7は、例えば金属管を螺旋状に周回するように成型されて得られた部材から構成され、金属管の両端部が加熱される液体等の流入口7a及び流出口7bとして機能してその内部を該液体等が流れる。該流体通路7は、ヒータケース9の中空部9aを巻き回して、流入口7a及び流出口7bを除いた大部分或いは主要部分がケース内部9b内に包含される。カートリッジヒータ3及び熱電対5は、各々が接触せず且つ更に流体通路7とも接触しない位置となるように、ケース内部9b内に入れられている。なお、カートリッジヒータ3は、ヒータケース9のケース内部9bを均等に加熱するために、該ヒータケース9の延在軸を中心に4本以上等配に配置されることが望ましい。
【0016】
熱伝導小片11としては、例えば径及び長さが1mm以下の円柱形からなる金属小片が用いられる。該熱伝導小片11は、ケース内部9b内のカートリッジヒータ3、熱電対5及び流体通路7の間に形成される空間に対して、所定の密度、或いは所定の状態にて充填される。ここで所定の密度とは、例えば流体加熱装置100に対して振動が与えられた際に、熱伝導小片11の少なくとも一部分が移動可能な密度を定義する。また、所定の状態とは、ケース内部9b内の少なくともカートリッジヒータ3及び流体通路7が、ケース内部9b内に充填された熱伝導小片11によって覆われてケース内部9b内に所定の大きさの余剰空間を形成した状態を定義する。
【0017】
加熱源であるカートリッジヒータ3により供給される熱は、この熱伝導小片11を介して流体通路7に伝達される。なお、カートリッジヒータ3が熱媒体としての熱伝導小片11に熱を伝えることによって、当該熱伝導小片11は熱膨張する。しかし、前述した所定の密度或いは所定の状態を維持することにより、この熱膨張は熱伝導小片11の移動を可能とする空隙等に吸収される。なお、前述した所定の密度は、熱伝導小片11が熱膨張した際の熱膨張量を吸収可能な充填密度と考えても良い。このような所定の密度を維持して熱伝導小片11を熱媒体として用いることにより、特許文献2等で問題視される充填部材の熱膨張を考慮した設計を行う必要がなくなり、装置設計及び作成の容易化と製造コストの削減とを達成することが可能となる。
【0018】
なお、熱伝導小片11について、上述した実施形態では円柱形からなる金属小片を用いた場合を例示したが、本発明は当該形態或いは材料に限定されない。例えば、熱伝導性の良い銅或いは銅系の合金、更には熱伝導性と耐食性とを両立させたアルミ系の合金等、適時選択することが可能である。図3に当該熱伝導小片11の他の形状及び当該熱伝導小片11に関しての本発明の第二の実施形態を示す。図3において左側には第一の実施形態で用いた円柱形の金属小片からなる熱伝導小片11と、その変形例である球形状の金属体からなる熱伝導小片11’を示している。第二の実施形態では、これら熱伝導小片11、11’よりも大きさの小さな第二の熱伝導小片(円柱状)12、(球形状)12’を更に加えた場合の態様を示している。このような第二の熱伝導小片を追加することにより、充填密度の向上、小片同士の接点増加が為され、これらを介しての熱伝導効率が向上する。
【0019】
以上述べたように、本発明に用いる熱伝導小片の大きさはカートリッジヒータ9と流体通路7との間の空間に複数個配置可能なサイズであれば良く、その形状は円柱状、球状に限られず、種々の形状とすることが可能である。また、カートリッジヒータ9から流体通路7に熱を伝達する経路において、最も短い経路において複数の熱伝導小片11の介在が生じる状態が得られるサイズとしても良い。例えば熱伝導及び充填密度の均一性といった観点からは球形状が好ましいが、熱伝導小片の製造コストを勘案すると円柱形状が好ましい。また、サイズに関しても同一である必要はなく、上記複数個の配置が可能なサイズ以下の大きさからなる複数種類の小片を同時に、且つ熱伝導効率等を勘案して任意の比率にて用いることも可能である。但し、この場合、熱膨張を吸収可能とするという観点から、大きなサイズの小片の総体積に対して小さなサイズの小片の総体積を小さくすることが好ましい。これら熱伝導小片が熱膨張を為した際に、その膨張量を吸収可能な空隙を存在させてヒータケース9のケース内部9bに充填することにより、上記本発明の目的が達成可能となる。
【0020】
なお、上述した第一の実施形態では、取り扱いの容易さ、ケース内部9bへの装填の容易さ、及び熱伝導小片11の略均等な加熱が可能であること等から、加熱源としてカートリッジヒータ3を用いることとしている。しかし、ケース内部9bに存在する熱伝導小片11の凡そを均等に加熱可能であれば、その他公知の種々の形態からなる加熱源を用いることも可能である。また、液体の加熱領域の増大と構成のコンパクト化の観点から流体通路7を螺旋状にされた金属管からなる形態を例示しているが、流体の粘度や熱容量、更には熱伝導小片11の形状、充填量等を勘案してその他の形態、或いは材料から構成しても良い。更にケース内部9bの温度の測定には熱電対5を用いることとしているが、用いる流体の加熱温度に応じて当該熱電対5を公知の種々の温度測定手段と置き換えることも可能である。
【0021】
また、本発明ではヒータケース9のケース内部9bは空気(大気)によって満たされていることとしているが、ここを所定の特性を有した気体或いは液体等の熱媒体によって満たす、或いはこのような熱媒体が所定の濃度以上となるように流入出(パージ)することとしても良い。例えば、ヒータケース9に対して窒素等の不活性な気体の供給を可能な構成とし、ケース内部9bに存在する空隙を該窒素によってパージすることにより、酸素濃度を抑制して熱伝導小片11に生じ得る表面酸化等を抑制することが可能となる。例えば該熱伝導小片11に表面酸化が生じた場合にはその酸化膜によって熱伝導効率が変化する恐れがある。窒素等を導入することにより、表面酸化が抑制され、これによって生じ得る熱伝導効率の経時変化の抑制が可能となる。なお、空隙の充填には気体より熱の伝達効率で優れる液体の使用も可能であるが、熱伝導小片11の膨張量を吸収可能な気体を使用することがより好ましい。
【0022】
また、流体通路7に付随する流入口7a及び流出口7bは、装置構成の容易さを勘案して、本実施形態では円筒形状のヒータケース9の両端面に配置することとしている。しかし、本発明の態様はこれに限定されず、例えば流入口7a及び流出口7bの直前まで液体の加熱を可能とするように、これらを円筒形状の端面ではなく外周面に配置することとしても良い。また、当該流体加熱装置100を組み込む例えば後述する高圧蒸気洗浄装置の構成に応じて、その配置を適宜変更することとしても良い。ヒータケース9については、流体通路7の適切な長さと、カートリッジヒータ3及び熱伝導小片11の使用量の適切化の観点から前述した形状としている。しかし、流体通路7の形態に応じてヒータケース9の形態も種々変更が可能である。
【0023】
次に、図4を参照して、前述した流体加熱装置を蒸気発生ユニットに用いた高圧蒸気洗浄装置について、本発明の更なる実施形態として述べる。高圧蒸気洗浄装置200は、主要部の構成として、洗浄槽61、ノズル21、被洗浄物であるワーク30が載置されるワークトレイ31、制御板62、排気開口カバー64高圧蒸気発生ユニット29、及び送気ユニット45及び吸気ユニット47を含むエアカーテン生成ユニット、を有する。洗浄槽61は、上方に開口部を有する所定の広さの洗浄空間63を内部に有した、槽構造を有する。より詳細には、本実施形態において、洗浄空間63は直方体形状を有する。洗浄空間63の下部には、洗浄に寄与した所謂汚水及び洗浄に寄与しなかった蒸気が液化した洗浄水を溜めるトラップ65が存在する。なお、本実施形態ではエアカーテン生成ユニットを用いる構成を例示しているが、これら構成を省いたものとしても良い。
【0024】
また、以下で述べる蒸気とは、全てが気体の状態で構成される「水蒸気」、気体と液体とが混合されてなる「混合流体」、及び高温の微水沫からなる「高温噴霧」を含むものとする。実際の洗浄操作においても、除去対象物、被洗浄物、除去対象物が存在する被洗浄物の表面状態等、状況に応じてこれらを適宜選択することが望ましく、又、蒸気生成条件である後述する高圧蒸気発生ユニット側の条件設定により蒸気の内容が種々変化する。従って、本発明においてノズル21から供給される気体については、上記概念を包含する名称としてこれを単に蒸気と称する。本発明に係る流体加熱装置は、この高温の蒸気或いは微水沫の形成に用いられる。また、本発明における流体には、前述した空気等の気体と純水との混合物等、単なる液体のみならず、液体、気体、及びこれらの混合物が包含される。以上より、本発明において、ノズル21は高圧力の蒸気を供給し、後述するように任意の位置及び方向から被洗浄物に対してこれを吹き付け或いは噴出可能なノズルとして作用する。
【0025】
また、洗浄槽61の上部には、洗浄空間63に対してノズル21が侵入し且つ退避することが可能となる開口部67が形成される。本形態では直方体形状の空間の上面に当該開口部67は配置されているが、洗浄空間63及びこれを規定する洗浄槽61の形状は特に規定されず、開口部67は洗浄槽61の特定部に開口するものとして定義されることが好ましい。なお、開口部67は、被洗浄物であるワーク30が固定保持されるところのワークトレイ31或いはワーク30を洗浄空間63の内部に対して搬入或いは搬出する際の経路としても用いられる。
【0026】
トラップ65には、トラップ65の底面となる面より所定高さ立ち上がった位置に開口する排気開口部69が存在する。排気開口部69は不図示の所謂ブロアを用いてなるブロア排気系に繋がっており、当該ブロアによって洗浄空間63内部の空間を外部空間に排気可能としている。また、トラップ65は、当該トラップ65に溜まった汚水等を外部に排出するためのドレイン口66を有する。ドレイン口66は排気開口部69より鉛直方向下方に配置され、当該ドレイン口66より適宜汚水等を排出することにより、汚水等の液面が排気開口部69を超えることを防止する。なお、トラップ65の配置は、ノズル21及び被洗浄物たるワーク30との関係より、ワーク30の配置に関してノズル21が配置される側とは反対の側として把握されることが好ましい。
【0027】
制御板62は、例えば網状の板、所謂メッシュ板により構成され、ワークトレイ31と排気開口部69及びトラップ65との間に配置されて洗浄空間63を鉛直方向における上部と下部とに分離する。なお、この場合の上部及び下部は厳密な上下の配置を意味するものではなく、便宜上ワークトレイ31が配置される空間と洗浄空間63から排出されるべき状態となった蒸気等を捕集する作用が求められる空間とに対応するものとする。また、制御板62はワーク30或いはワークトレイ31の配置に関してノズル21が配置される側とは反対側に配置され、ノズル21から噴出された蒸気及び該蒸気に起因する液体を透過可能な部材として定義されることが好ましい。
【0028】
本実施形態において、ノズル21は一方の端部に蒸気の吹き出し口或いは部分を有する中空形状を有し、その延在軸方向と一致する方向に該蒸気を噴出している。該ノズル21は他方の端部において、不図示のα調整機構及び該α調整機構を支持するノズル用アームを介して、同様に不図示のノズル駆動機構により支持されている。α調整機構は、ノズル用アームの延在方向に対してノズル21の延在軸が任意の角度となるように、その支持方向を任意に変更し、その位置及び蒸気の噴出角度(α調整機構により調整される角度α)を固定することが可能となっている。
【0029】
エアカーテン生成ユニットでは、開口部67をエアカーテン43によって閉鎖可能となるように、開口部67の一方の内縁に送気ユニット45が、又対向する内縁に吸気ユニット47が配置される。即ち、送気ユニット45から略線状に供給された気体が、当該線状をある程度維持した状態で吸気ユニット47により吸引される。これにより、これらユニット間に気体の流れによる所謂カーテンが生成される。当該エアカーテン43により、洗浄槽61はその内部である洗浄空間63と、外部の空間と、が気体に関して隔置される。本態様にあっては、蒸気の供給系において、実際に洗浄用蒸気の吹き付け操作を行うノズル21の先端部(蒸気の噴き出し部分)がエアカーテン43を超えて洗浄空間63の内部に存在することとしている。エアカーテン43は、ノズル21から噴出され且つワーク30或いはワークトレイ31に弾かれて周囲に飛散する蒸気或いは水滴等の洗浄空間63外への漏出を防止する。従って、ノズル21の駆動系はこれら蒸気等との接触を生じない。
【0030】
制御板62は、ワーク30の洗浄に寄与しなかった蒸気や、或いは洗浄に寄与して凝集液化した所謂汚水を透過し、制御板62の下部に逃がす機能を有する。また、当該制御板62は、更にノズル21から噴出された蒸気が直接トラップ65に至ることを防止すると共に、蒸気等が洗浄槽61の底面或いは下部内面に反射して舞い上がることを防止する。当該制御板62を配置することによって、洗浄に寄与しなくなった蒸気或いは微小な水滴等を速やかにワークトレイ31の上方空間から退避させること、及び一旦洗浄空間63の下部に至った蒸気等のワークトレイ31の上方空間への循環を防止することが可能となる。
【0031】
排気開口カバー64は、蒸気或いは微小な水滴を多量に含んだ気体が、直接排気開口部69に至ることを防止する。当該排気口カバー64を配置することによって、ノズル21から噴出された蒸気が排気開口部69に至るまでに要する時間を長くし、これら蒸気等が凝集液化してトラップ65に捕集される率を高めることが可能となる。また、前述した制御板62と組み合わせることによって、トラップ65の液体捕集率をより高め、ブロア排気系へ至る液体を低減して、当該ブロア排気系の排気効率を好適に維持することが可能となる。また、ブロア近傍での液体の分離が必要でなくなることから、ブロア排気系に比較的簡易な構成からなるものを使用することが可能となる。
【0032】
次に、ノズル21及びこれに付随する構成、及びエアカーテン生成ユニットに付随する構成について、説明する。ノズル21に対する高温高圧の蒸気の供給は、蒸気供給経路23により為される。蒸気供給経路23は、下流においてノズル21と接続されており、上流において二流体ノズル25と流体加熱装置100とからなる高圧蒸気発生ユニット29と接続されている。また、二流体ノズル25に対しては、純水源22及び高圧空気源24より、純水及び高圧の所謂圧空(圧縮空気)が供給される。二流体ノズル25においてはこれら純水と圧空とが混合され、更に当該混合により得られた流体を流体加熱装置100によって加熱することにより、高温高圧の蒸気を発生させている。高圧蒸気発生ユニット29によって生成された蒸気は、蒸気供給経路23を介してノズル21に送られる。
【0033】
ここで、例えば被洗浄物たるワーク30が軟質材からなり、過度の圧力を付加して蒸気を吹付けた場合に、当該ワーク30に対して何等かのダメージを与える恐れがある場合が考えられる。このような場合、ワーク30にダメージを与えることなく十分な洗浄効果を得るために、吹き付ける蒸気の吹き付け圧(供給圧力)及び温度の最適化を行う必要がある。通常、供給圧力の制御は、二流体ノズル25に供給される圧空の圧力と、流体加熱装置100による流体の加熱の程度を調節することによって行われる。しかし、この供給圧と加熱温度との変化は、高圧蒸気発生ユニット29により生成された蒸気を含んだ気体の体積或いは飽和蒸気圧等を考慮して行う必要がある。このため、実際の圧力制御は非常に複雑なパラメータを考慮する必要があり、事実上圧力固定による洗浄しか現状では為し得ていない。また、上記の温度に関しても、単に粒体加熱装置100の加熱温度を制御するだけでは圧力の変動も伴うことから、蒸気温度の制御も同時に困難であった。
【0034】
本実施形態においては、このようなノズル21に対して供給される蒸気の圧力及び温度の制御を行うために、バイパス経路33を配置することとしている。当該バイパス経路33は、蒸気供給経路23に繋げられて、バイパス連通口37を介して洗浄空間63の下部に或るトラップ65に連通している。バイパス経路33には、バイパス弁35が配置されている。当該バイパス経路33を介して蒸気供給経路23から適当な量の蒸気を分離してこれをトラップ65近傍に直接排出することにより、ノズル21に供給する蒸気の圧力を機械的に制御可能としている。
【0035】
即ち、バイパス経路33は、蒸気供給経路23に供給された蒸気の一部をノズル21以外に流してノズルに至る蒸気の流量或いは圧力を減ずる役割を有する。また、バイパス弁35の開度を調節することによって、バイパス経路33より排除される蒸気流量を制御し、蒸気供給経路23内の圧力、即ちノズル21に対する供給圧を調整することも可能となる。更に、蒸気温度の制御に関しても、圧力と分離して制御することが可能となり、適宜最適温度にあわせた蒸気を得ることが可能となる。即ち、ノズル21に至る蒸気の流量、或いは圧力の少なくとも何れかをバイパス弁35によって制御し、これによりワーク30に吹き付ける蒸気の圧力を調節することが好ましい。
【0036】
また、本実施形態では、エアカーテン生成ユニット41における送気ユニット45に対して、前述した高圧空気源24から圧空を分岐し、供給している。尚、高圧空気源24と送気ユニット45との間には不図示の流量調整弁が配置されている。送気ユニット45は例えば同一稜線上に任意の小穴を連続的に空けた丸パイプであって、当該丸パイプの両端から圧空を供給する形態が例示できる。即ち、洗浄槽61における例えば矩形状の開口部67の特定の一辺を完全にオーバーラップできるだけの幅を有して、略線状(小穴からの気体の噴出しであっても、小穴開口から所定距離隔てた位置では各々の気流は重なり合い、概ねシート状で断面が線状の気流が生成される)の気流を生成可能であれば良い。
【0037】
吸気ユニット47ついては、前述した送気ユニット45を配置した特定の一辺に対向する一辺に配置され、当該一辺を完全にオーバーラップできる領域で前述した線状の気流を吸引できる構成とされている。具体的には、当該領域に開口する線状或いは細長い矩形の吸引口として設けられる。当該吸引口49は、エアカーテン用排気経路51と繋がっており、不図示のブロア排気系と接続された当該エアカーテン用排気経路51を介して、エアカーテン43を形成する線状に供給される気流を吸引、排気している。なお、エアカーテン43は洗浄空間63側の面において蒸気を多量に含んだ気体と接触している。このため、吸引口49に達したエアカーテン43を生成した気体は、多量の水蒸気を含んだ状態となっている。このような気体をこのままブロア排気系によって排気した場合、ブロアに対して湿度による悪影響が生じる可能性がある。
【0038】
本形態では、このような蒸気を凝集液化させるために、吸引口49の直後であってエアカーテン用排気経路51との間に所謂ラビリンス状空間53を配置している。ラビリンス状空間53は複数の屈曲部を連続的に配した狭窄経路であって、当該狭窄経路を配することによって排気経路の延長化を図り、且つ当該経路を通過する気体を少しでも多くの空間内壁と接触させることを目的としている。当該ラビリンス状空間53を通過する際に、気体に含まれた蒸気は空間内壁に結露し、後段のブロアに至る蒸気の量(包含割合)を減少させることが可能となる。
【0039】
なお、捕集された蒸気を排出するために、実際にラビリンス状空間53の下部には液体排除用の不図示の第二のドレイン口が配置される。即ち、ここで述べるラビリンス状空間53はエアカーテン43に含まれた水分量を低下させる水分低下ユニットとして作用する。なお、本形態は単純に構造のみによってある程度の水分低下機能が見込めることによりこれを採用している。しかし当該構成の形態はこれに限定されず、例えば、温度管理の制御機能等を付加可能であれば、水分を吸着保持するような冷却板等をこれに変えて水分低下ユニットとして用いても良く、種々の形態のものを適用可能である。
【0040】
以上に述べた流体加熱装置100を用いることによって、簡易且つ廉価な構成によって液体の加熱を行うことが可能となる。また、該流体加熱装置を用いて高圧蒸気洗浄装置を構築することにより、当該蒸気洗浄装置を構築するために要するコストも大きく低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
上述したように、本発明に係る流体加熱装置は、簡易な構造を有することから装置の構築が容易且つ廉価であり、種々の流体の加熱、更には蒸気化に用いることが可能である。また該流体加熱装置を用いた本発明に係る洗浄装置は、高温高圧の蒸気を戦場用の媒体として用いることにより、例えば微細電子部品である磁気ヘッドコアにおける切削液等の残渣等、微細な空間に嵌まり込んで従来の洗浄方法では除去困難な汚染物を好適に除去することが可能である。また、本発明に係る流体加熱装置を用いることで、洗浄時の蒸気の吹き付け圧、或いは蒸気温度の制御も容易である。従って、単に微細電子部品の洗浄装置としての態様のみならず、洗浄困難な領域を有する複雑な形状を有する被洗浄物、更には所謂軟質の材料からなる被洗浄物の洗浄装置としても適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
3:カートリッジヒータ、 5:熱電対、 7:流体通路、 7a:流入口、 7b:流出口、 9:ヒータケース、 9a:中空部、 9b:ケース内部、 11熱伝導小片、 13:ケース受け、 15:外装、 17:断熱材、 21:ノズル、 22:純水源、 23:蒸気供給経路、 24:高圧空気源、 25:二流体ノズル、 29:高圧蒸気発生ユニット、 30:ワーク、 31:ワークトレイ、 33:バイパス経路、 35:バイパス弁、 37:バイパス連通口、 43:エアカーテン、 45:送気ユニット、 47:吸気ユニット、 49:吸引口、 51:エアカーテン用排気経路、 53:ラビリンス状空間、 61:洗浄槽、 62:制御板、 63:洗浄空間、 64:排気開口カバー、 65:トラップ、 66:ドレイン口、 67:開口部、 69:排気開口部、 100:流体加熱装置、 200:高圧蒸気洗浄装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流入口と流出口とを有する流体通路を有し、前記流体通路を通過する流体を加熱する流体加熱装置であって、
加熱源と、
前記流体通路と前記加熱源とを内部に包含するヒータケースと、
前記ヒータケース内に充填されて前記加熱源の発する熱を前記流体通路に伝達する熱伝導小片と、を有し、
前記熱伝導小片は、前記ヒータケースの内部の前記加熱源と前記流体通とを覆うように充填されることを特徴とする流体加熱装置。
【請求項2】
前記熱伝導小片は前記ヒータケースの内部に空隙を形成するように所定の充填密度にて充填されることを特徴とする請求項1に記載の流体加熱装置。
【請求項3】
前記熱伝導小片は、大きさ及び形状の少なくとも何れかが異なる2種類以上の形態を所定の比率にて含むことを特徴とする請求項1或いは2の何れかに記載の流体加熱装置。
【請求項4】
前記ヒータケースの内部に配置されて前記ヒータケースの内部温度を測定する温度測定手段と、
前記ヒータケースを覆って前記ヒータケースの保温を為す断熱材と、を更に有し、
前記流体通路は管状の部材を螺旋状に成型して得られたものであること、を特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の流体加熱装置。
【請求項5】
被洗浄物に対して高圧力の蒸気を噴き付けて前記被洗浄物の洗浄を実施する高圧蒸気洗浄装置であって、
請求項1乃至4何れか一項に記載の流体加熱装置から得られる高温流体を用いて前記高圧力の蒸気を生成する高圧蒸気発生ユニットと、
前記高圧蒸気発生ユニットと接続されて前記高圧力の蒸気を前記被洗浄物に対して任意の位置及び方向から噴出することが可能なノズルと、
特定部に開口する開口部を有して内部に前記被洗浄物を収容可能な槽構造を有する洗浄槽と、を有し、
前記ノズルにおける前記蒸気の吹き出し部分は前記洗浄槽の内部に位置することが可能であり、前記洗浄槽の内部に位置して前記被洗浄物に対する前記高圧力の蒸気の吹き付けを行うこと、を特徴とする高圧蒸気洗浄装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−154602(P2012−154602A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16537(P2011−16537)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】