流体動圧軸受装置および該流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータ並びに記録ディスク駆動装置
【課題】 キャピラリーシール部を装置単独で構成することができるとともに、装置の小型化、装置汚染の防止、および装置の長寿命化を図ることができる流体動圧軸受装置を提供する。
【解決手段】 軸受部材20の外周面とシール部材30の内周面との間には第1キャピラリーシール部50が形成され、軸部材10の外周面とシール部材30突出孔31aの内周面との間には第2キャピラリーシール部60が形成されている。円筒部32の略中間部には通気孔32aが形成され、シール部材30の底部31の内側面と軸受部材20の上端面との間には潤滑油保持隙間73が形成されている。潤滑油80は、キャピラリーシール部50、60の作用により外部漏出が防止され、その液面が第1キャピラリーシール部50に位置することにより、余裕分の潤滑油80が第1キャピラリーシール部50と潤滑流体保持隙間73に充填されている。
【解決手段】 軸受部材20の外周面とシール部材30の内周面との間には第1キャピラリーシール部50が形成され、軸部材10の外周面とシール部材30突出孔31aの内周面との間には第2キャピラリーシール部60が形成されている。円筒部32の略中間部には通気孔32aが形成され、シール部材30の底部31の内側面と軸受部材20の上端面との間には潤滑油保持隙間73が形成されている。潤滑油80は、キャピラリーシール部50、60の作用により外部漏出が防止され、その液面が第1キャピラリーシール部50に位置することにより、余裕分の潤滑油80が第1キャピラリーシール部50と潤滑流体保持隙間73に充填されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油(潤滑流体)の動圧を利用して軸受部材により軸部材を相対回転自在に支承する流体動圧軸受装置およびこの流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータ並びに記録ディスク駆動装置に係り、特に潤滑油の毛細管現象を利用して、流体動圧軸受装置に充填された潤滑油の外部漏出を防止するキャピラリーシール部の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータに使用されている磁気ディスクや光ディスク等の記録ディスク駆動装置では、小型化、薄型化、および軽量化に加えて、高密度化への要求が強いことから、ディスク回転に使用されるスピンドルモータの回転数の高速化や回転動作の高精度化が要請されている。このような要請に応えるために、スピンドルモータ用の軸受装置として、従来のボールベアリングに代わって、潤滑油の流体動圧を利用して回転軸を軸受部材により回転自在に支承する流体動圧軸受装置が使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、流体動圧軸受装置では、温度変化による潤滑油の膨張収縮や、回転軸や軸受部材等の部品寸法の膨張変位等の体積変化、回転動作の始動・停止時のポンプ作用等による内部移動、回転時の遠心力や動圧作用等の原因によって、回転軸と軸受部材との間に保持された潤滑油は、回転軸と軸受部材の上端部により形成された開口面へ向かって上昇し、そこから漏出するという問題があった。潤滑油量が減少すると必要な流体動圧が発生しないため、回転軸の支持力が低下し、ひいては回転軸と軸受部材とが接触して焼付きが生じる虞があった。また、漏出した潤滑油により記録ディスク駆動装置が汚染され、ひいては故障や記録の消失などの虞があった。さらに、たとえ外部への漏出が起きなくとも、自然蒸発によって潤滑油量が徐々に減少すれば、最終的には焼付きを起こしてしまうので、軸受隙間を満たすための潤滑油量に加えて、余裕分として軸受装置内部に充填可能な潤滑油の保持量は、流体動圧軸受装置の寿命を左右する要素の一つであった。このため、小型でありながらも、潤滑油の保持量を多くすることができて、潤滑油が蒸発し難く、かつ外部へ漏出し難い構造の流体動圧軸受装置が望まれていた。
【0004】
このような課題を解決するために、外部に連通する隙間の断面をテーパ状に形成することにより、余裕分の潤滑油を多く保持できるとともに、毛細管現象を利用して潤滑油の外部漏出を防止するためのキャピラリーシール部を設けた流体動圧軸受装置が提案されている。
【0005】
たとえば、図16(A)、(B)に示すような流体動圧軸受装置では、回転軸501と軸受部材502との間の隙間の開口面において、軸方向上側に向かって所定の傾斜角で拡開するテーパ面502aを軸受部材502の内周面に形成することにより、余裕分の潤滑油が保持可能なキャピラリーシール部500を構成している(たとえば特許文献1参照)。
【0006】
また、図17に示すような流体動圧軸受装置では、互いに対向する軸受部材601の上端面601aと薄板602との間に、半径方向外側に向かって拡開する断面テーパ状の隙間を形成することにより、余裕分の潤滑油が保持可能なキャピラリーシール部600を構成している(たとえば特許文献2参照)。
【0007】
さらに、図18に示すような流体動圧軸受装置では、軸受部材704の上端面とロータハブ703の上壁部703a下面との間にスラスト軸受部701を形成することにより、スラスト方向の荷重を支持する従来の手段であるスラストプレートを用いない構造とし、ロータハブ703の上壁部703aから垂下する環状突起703bの内周面と軸受部材704の外周面との間に、軸線方向下側に向かって拡開するテーパ状の隙間を形成することにより、余裕分の潤滑油が保持可能なキャピラリーシール部700を構成している(たとえば特許文献3参照)。なお、図中符号703cおよび704cは、それぞれスラスト動圧発生溝およびラジアル動圧発生溝である。
【0008】
【特許文献1】特許2937833号(図1)
【特許文献2】特開平8−331796号(図1,図3,要約)
【特許文献3】特開2000−197309号(図2,要約)
【0009】
しかしながら、上記のような従来のキャピラリーシール部には、以下のような問題があった。すなわち、図16(A),(B)に示すキャピラリーシール部500は、軸方向に形成された開口面で拡開する構成であるため、そこから潤滑油が蒸発しやすく、かつゴミや埃が潤滑油に混入しやすいから、流体動圧軸受装置の寿命低下や潤滑油の機能の低下が生じる。また、衝撃等で潤滑油の急激な移動が生じた場合、潤滑油を塞き止めて外部へ漏出させないための手段を持たない。さらに、キャピラリーシール部500が軸方向に形成された構成であるため、キャピラリーシール部500における潤滑油の保持量を多くするためには、キャピラリーシール部500を軸方向に長くしなければならず、その分だけ流体動圧軸受装置の全長が大きくなり、該軸受装置の小型化を図ることが困難になる。一方、流体動圧軸受装置の全長を大きくせずに潤滑油の保持量を多くしようとした場合、キャピラリーシール部500を軸方向に長くした分だけラジアル動圧溝503の長さを短くすることが考えられるが、この場合、ラジアル方向の動圧力が小さくなるため、軸受剛性が低下する。
【0010】
図17に示すキャピラリーシール部600では、潤滑油の保持空間が軸受部材601の上端面601a側のテーパ状隙間に限られるため、流体動圧軸受装置の小型化によって、軸受部材601の直径を小さくしたとき、潤滑油の保持量が少なくなる。また、薄板602の外周面のほぼ全周に亘って隙間が開口しているため、潤滑油が蒸発しやすい。また、本願発明に際して種々の確認試験を行った結果、軸受部材の上端面側のテーパ状隙間内に液面を形成して潤滑油を保持すると、液面が安定して均一に形成されず、流体動圧軸受装置の寿命に悪影響を及ぼす虞があることが判った。
【0011】
図18に示すキャピラリーシール部700では、軸受部材704の上端面側の隙間はスラスト軸受部をなしているので、余裕分の潤滑油を保持する隙間は軸受部材704の外周面側の隙間に限られる。さらに、図18に示すキャピラリーシール部700は、モータの部品であるロータハブ703を含んで構成されているため、流体動圧軸受装置単独で完成品とならず、モータの組立て前に、流体動圧軸受装置単独で品質検査を行うことができない。しかしながら、流体動圧軸受装置の回転トルク値と、その流体動圧軸受装置を用いたスピンドルモータの消費電流値は比例していることから、流体動圧軸受装置をモータに組み付ける前に回転トルク値を測定し、所望のトルク値であることが確認できると好都合である。
【0012】
また、ロータハブはスラストプレートと比較して高価な部品であるから、モータの組立て前に流体動圧軸受装置の品質検査が実施できないと、不良が発生した場合、廃棄に伴うコストが大きい。さらに、ロータハブ703の上壁部703aの下面は、スラスト動圧軸受部701を構成する一方の面であることから、ロータハブ703の上壁部703a全体を高剛性とする必要があるため、ロータハブ703の薄型化が困難である。
【0013】
加えて、キャピラリーシール部700を備えた流体動圧軸受装置を記録ディスク装置に適用した場合、次のような問題が生じる。すなわち、流体動圧軸受装置の記録ディスク装置への実装では、一般的にセンターピン型の構成が用いられ、流体動圧軸受装置の回転軸に雌ネジ孔を設け、この雌ネジ孔に雄ネジを締結して記録ディスク装置のクランプ部材とロータハブと流体動圧軸受装置を一体的に固定している。しかしながら、センターピン型の構成では、ロータハブの材質や厚み方向の寸法などによっては、ディスクの実装時におけるクランプ部材の磁気ディスクに対する押圧力により、ロータハブが変形することがある。このような変形が起きると、ロータハブが撓み、スラスト軸受部に規定される微小隙間の軸方向の寸法が径方向に不均一となり、スラスト軸受部において安定した軸支持力を得ることが困難になる。このため、モータの回転精度が悪化するだけでなく、スラスト軸受部を構成するロータハブの下面と軸受部材の上端面とが接触することによって、軸受面の摩耗や損傷あるいは焼付き等の障害が発生し、モータの耐久性および信頼性の低下の虞がある。
【0014】
一方、流体動圧軸受装置を備えたモータにより回転駆動される磁気ディスクの材料として、アルミ合金や、ガラス、樹脂などが用いられるが、これら材料のなかでは、ガラスよりも安価であるアルミ合金がよく用いられている。磁気ディスクを載置して一体的に回転するハブの材料として、温度変化による磁気ディスクの反りを防止するために磁気ディスク材料とほぼ同等の熱膨張係数を有する材料を用いる必要があることからも、アルミ合金製磁気ディスクの場合は、同じ材料であるアルミ合金が用いられている。しかしながら、アルミ合金製磁気ディスクに適合するアルミ合金製ロータハブは比較的柔らかいため、スラスト方向の動圧が発生しない回転静止時にロータハブの下面と軸受部材の上端面とが接触することによる軸受面の損傷や摩耗が起きやすい。
【0015】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、キャピラリーシール部を流体動圧軸受装置単独で構成することができるばかりではなく、小型化、記録ディスク駆動装置内の汚染防止および潤滑油の外部漏出防止と余裕分の潤滑油の保持量増大との相乗効果による長寿命化を図ることができる流体動圧軸受装置およびこの流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータ並びに記録ディスク駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の流体動圧軸受装置は、下端部にフランジ部を有する軸部材と、軸部材を相対回転自在に支承する中空略円筒状の軸受部材と、軸部材の上端部が突出する突出孔を底部に有し、軸受部材の上端部を覆うようにして設けられた有底円筒状のシール部材と、軸受部材の下端部を閉塞する閉塞部材と、軸部材と軸受部材との間、および軸部材と閉塞部材との間の、それぞれに形成された動圧溝を含む軸受隙間と、を備え、軸部材の外周面と軸受部材の内周面とのいずれか一方には、ラジアル方向の荷重を受ける動圧を発生させるためのラジアル動圧溝が形成され、フランジ部の下面と閉塞部材の上面とのいずれか一方には、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させるための第1スラスト動圧溝が形成され、軸受部材の上端面とシール部材の底部の内側面との間に潤滑流体保持隙間が形成され、軸受部材の外周面とシール部材の内周面との間には、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした第1キャピラリーシール部が形成され、軸部材の外周面と突出孔の内周面との間には、第2キャピラリーシール部が形成され、軸受部材の端面には、軸受隙間と潤滑流体保持隙間を連通する連通孔が軸受部材を軸方向に貫通して形成され、互いに連通する軸受隙間、第2キャピラリーシール部、連通孔、潤滑流体保持隙間、および第1キャピラリーシール部には、連続的に潤滑流体が充填されており、シール部材の円筒部には、第1キャピラリーシール部に充填されている潤滑流体の液面よりも軸方向下側に位置している通気孔が形成されていることを特徴としている。
【0017】
本発明の流体動圧軸受装置では、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした第1キャピラリーシール部を、潤滑流体保持隙間と連通して軸受部材の外周面とシール部材との互いの対向面の間に形成したので、第1キャピラリーシール部内の潤滑流体には、毛細管現象によって、軸方向上側に吸引される力が作用するから、流体動圧軸受装置外部への潤滑流体の漏出を防止することができる。したがって、潤滑流体の保持量の低下を防止することができるとともに、該流体動圧軸受装置を備えた記録ディスク駆動装置の装置内汚染を防止することができる。また、潤滑流体の液面を第1キャピラリーシール部内に位置させたので、潤滑油を充填する工程において、潤滑流体の界面が安定して均一に形成され、これにより第1キャピラリーシール部と潤滑流体保持隙間に充填された余裕分の潤滑流体を軸受部に確実に供給することができる。
【0018】
さらに、第1キャピラリーシール部は、従来のようなスピンドルモータのロータハブを用いた形態とは異なり、流体動圧軸受装置単独で構成することができるので、従来のロータハブを用いた流体動圧軸受装置で生じていた問題を解消することができる。加えて、潤滑流体保持隙間を、軸受部材の上端面とシール部材の互いの対向面の間に形成したので、第1キャピラリーシール部ばかりではなく、軸受部材の上端面全体をも潤滑流体保持空間として用いることが可能となり、従来のような軸部材の外周面と軸受部材の内周面との間の隙間の開口面に形成されたキャピラリーシール部と異なり、キャピラリーシール部を軸方向に長くすることなく、かつ従来のような薄板と軸受部材の上端面の間に形成されたキャピラリーシール部と異なり、軸受部材の直径を大きくすることなく、潤滑流体の保持量を大幅に増加させることができる。したがって、流体動圧装置の長寿命化および小型化を図ることができる。
【0019】
加えて、第1キャピラリーシール部は、大気と連通する開口部として通気孔を用いることができるので、従来よりもキャピラリーシール部の開口面積を小さくすることができ、これにより潤滑流体の蒸発や漏出、異物混入を抑制することができる。したがって、潤滑流体の保持量の低下および該流体動圧軸受装置を備えた記録ディスク駆動装置の装置内汚染をさらに防止することができる。
【0020】
ここで、本発明の流体動圧軸受装置の潤滑流体保持機能を向上させるために種々の構成を用いることができる。たとえば、第2キャピラリーシール部は、軸方向上側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしているのが好適である。このような態様では、第2キャピラリーシール部内の潤滑流体には、毛細管現象によって、軸方向下側に吸引される力が作用するから、装置外部への潤滑流体の漏出をさらに防止することができる。
【0021】
上記態様では、シール部材の底部に、外部へ突出する環状突起部を突出孔の内周縁部に沿って形成するのが好適であり、第2キャピラリーシール部は、シール部材の突出孔および環状突起部の内周面と軸部材の外周面との互いの対向面の間に形成される。このような態様では、第2キャピラリーシール部内の潤滑油の軸方向への移動をさらに許容することができるので、潤滑油の外部漏出をさらに防止することができる。
【0022】
上記潤滑流体保持隙間は、半径方向外側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしているのが好適である。このような態様では、潤滑流体保持隙間内の潤滑流体に、毛細管現象によって、半径方向内側に吸引される力が作用するので、潤滑流体保持隙間に連通する第1キャピラリーシール部内の潤滑流体に軸方向上側に吸引される力がさらに作用することになるから、装置外部への潤滑流体の漏出をさらに防止することができる。
【0023】
また、シール部材の底部の内側面に3個以上の突起部を形成し、この突起部を軸受部材の上端面に当接させることによって、シール部材の軸方向の位置決めを行うことができる。このような態様では、上記潤滑流体保持隙間の大きさの面内方向でのばらつきの発生を防止することができるので、潤滑流体保持量をさらに安定させることができる。
【0024】
軸受部材の外周面とシール部材の内周面のそれぞれに、互いに対向する周溝が形成され、周溝は、第1キャピラリーシール部における潤滑流体の液面より軸方向下側で、かつシール部材の通気孔より軸方向上側に位置するのが好適である。この場合、軸受部材の外周面とシール部材の内周面のいずれにも、周溝より軸方向下側に撥油剤を塗布することができる。このような態様では、周溝と撥油剤とによって、通気孔からの潤滑流体の漏出をさらに防止することができる。また、周溝を目印にして、撥油剤の塗布箇所を確実に判別し、撥油剤の塗布作業を容易に行うことができる。
【0025】
上記通気孔は、シール部材の円筒部の下端面まで軸方向下側に延在して形成された切欠であるとともに、潤滑流体の液面位置を視認するための視認窓の機能を兼ね備えているのが好適である。このような態様では、通気孔を通じて潤滑流体の充填量を目視確認することができる。
【0026】
全長が軸受部材よりも短い中空円筒状のケース部材を備えているのが好適であり、上記軸受部材を、その上端部を突出させてケース部材の内周面に嵌着することができる。このような態様では、ケース部材に軸受部材と閉塞部材を嵌着する構成とすることで、それぞれの部材の形状が単純化されて加工が容易になるとともに、それぞれの部材を標準化して予めストックしておくことによって種々の組み合わせが可能となり、軸受装置の設計変更があっても迅速に対応することができる。これにより、生産コストが低減できる。
【0027】
上記態様では、軸受部材の上端部の外周面に嵌着されたシール部材をケース部材の上端面に当接させることによって、シール部材の軸方向の位置決めを行うことができる。あるいは、ケース部材の上端部外周面には段部を形成し、ケース部材の上端部外周面に嵌着されたシール部材の円筒部の下端面を段部に当接させることによって、シール部材の軸方向の位置決めを行うことができる。このような態様では、上記潤滑流体保持隙間の大きさの面内方向でのばらつきの発生をさらに防止することができるので、潤滑流体保持量をさらに安定させることができる。
【0028】
また、シール部材を軸受部材の上端部外周面に嵌着する場合、軸受部材の外周面とケース部材の上端部内周面との間には、接着剤の第1溜まり部を形成し、軸受部材の外周面とシール部材の下端部内周面との間には、接着剤の第2溜まり部を形成し、第1溜まり部と第2溜まり部のそれぞれには接着剤を充填することにより、ケース部材とシール部材のそれぞれを、接着剤によって軸受部材に固定するのが好適である。
【0029】
上記態様では、シール部材およびケース部材を軸受部材に嵌着して接着剤を充填するときに、軸受部材の内周面への接着剤の浸入を防止することができるのはもちろんのこと、所定の充填部位以外への接着剤の付着や流出を防止することができる。
【0030】
ここで、軸受部材の外周面には、接着剤溜まり部用周溝を形成することにより、接着剤溜まり部用周溝とケース部材の上端部内周面との間に上記第1溜まり部を形成し、接着剤溜まり部用周溝とシール部材の下端部内周面との間に上記第2溜まり部を形成することができる。
【0031】
上記態様では、上述した効果に加えて、接着剤の充填部位を簡単な構成とすることができ、第1溜まり部および第2溜まり部を互いに近接して形成することができる。さらに、接着剤の充填を一度で行うことができるので、充填作業が容易となる。
【0032】
上記ケース部材は、閉塞部材と一体的に形成された有底円筒状部材とすることができる。また、ケース部材は、絞り加工あるいは伸管加工により形成することができる。さらに、軸受部材と閉塞部材の間には、軸部材のフランジ部が係合する係合隙間を形成するためのスペーサ部材を設けることができる。このような態様では、スペーサも標準化して予めストックしておくことによって、迅速に設計変更への対応を行うことができる。
【0033】
互いに対向する軸受部材の下端面およびフランジ部上端面のいずれか一方に、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させる第2スラスト動圧溝を形成することができる。このような形態では、フランジ部の上面で発生するスラスト方向の動圧によってフランジ部の下面で発生するスラスト方向の動圧がバランスされるので、軸部材が過浮上なく安定して回転できる。
【0034】
本発明のスピンドルモータは、基台と、基台に固定されたステータと、ロータハブと、このロータハブに嵌着されるとともにステータと協働して回転磁界を発生するロータマグネットとを有するとともに、基台に対して相対回転自在に設けられたロータと、このロータを磁気力で吸引する機能を有し、ロータの回転を支持する流体動圧軸受装置と、を備え、この流体動圧軸受装置は、上記第1スラスト溝を備えた上記流体動圧軸受装置であり、ロータは、流体動圧軸受装置内の第1スラスト動圧溝で発生するスラスト動圧が作用する方向に対して反対側の軸方向に磁気力によって吸引されている。
【0035】
また、本発明のスピンドルモータは、上記流体動圧軸受装置が上記第2スラスト動圧溝を備える場合には、ロータを磁気力によって吸引することは不要となる。
【0036】
本発明の記録ディスク駆動装置は、記録ディスクと、記録ディスクに情報を書き込みおよび/または読み出しするための記録ヘッドと、この記録ディスクを回転駆動するための上記スピンドルモータとを備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
(A)流体動圧軸受装置
(1)第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置1の概略構成を表し、図1(A)は流体動圧軸受装置1の側断面図、図1(B)は、図1(A)の矢視方向Aから見た流体動圧軸受装置1の側面図である。
【0038】
まず、流体動圧軸受装置1の全体構成の概略について説明する。流体動圧軸受装置1は、回転軸(軸部材)10を回転自在に支承する中空略円筒状の軸受部材20を備えている。軸受部材20には、その上端部を覆うようにして有底円筒状のシール部材30が嵌着されている。シール部材30は、底部31と、底部31と一体的に形成された円筒部32とを有する。シール部材30の底部31には、回転軸10の上端部が突出する突出孔31aが形成され、シール部材30の円筒部32には通気孔32aが形成されている。軸受部材20の下側開口部21には、閉塞部材40が嵌着されている。
【0039】
円筒部32の内周面と軸受部材20との間には、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状の第1キャピラリーシール部50が形成されている。シール部材30の突出孔31aの円筒状内周面と回転軸10の後述するテーパ面11aとの間には、軸方向上側に向かうに従って拡開する断面テーパ状の第2キャピラリーシール部60が形成されている。軸受部材20の内周面にはラジアル動圧溝20aが形成され、閉塞部材40の上面にはスラスト動圧溝40a(第1スラスト動圧溝)が形成されている。さらに、軸受部材20の両端面を軸方向に貫通するようにして連通孔20bが形成されている。
【0040】
回転軸10と軸受部材20との間にはラジアル軸受隙間71が形成されている。回転軸10と閉塞部材40との間にはスラスト軸受隙間72が形成されている。軸受隙間71、72は、微少隙間である。シール部材30の底部31の内側面と軸受部材20の上端面との間には、半径方向外側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした潤滑油保持隙間73が形成されている。連通孔20b、ラジアル軸受隙間71、スラスト軸受隙間72、潤滑油保持隙間73、第1キャピラリーシール部50、第2キャピラリーシール部60は互いに連通し、潤滑油80(潤滑流体)が連続的に充填されている。また、毛細管現象により潤滑油が吸引されて、潤滑油保持隙間73を介して、第1キャピラリーシール部50から軸受隙間内へ確実に供給されるために、第1キャピラリーシール部50における半径方向の隙間寸法は、潤滑油保持隙間73における軸方向の隙間寸法よりも小さくされている。
【0041】
第1実施形態の流体動圧軸受装置には、次のような充填方法を用いて潤滑油が充填される。すなわち、シール部材30以外の部材を組立てた状態の、半完成の流体動圧軸受装置の軸受部材20内部の隙間を真空に近い状態にし、次いで、ディスペンサーを用いて、軸受部材20の上端面に潤滑油80を規定量供給し、ラジアル軸受隙間71の開口部22と連通孔20bとを潤滑油で覆った後、軸受部材20の外部を大気圧に戻すと、外部と軸受部材20内部との気圧差により、軸受隙間71、72内と連通孔20b内に潤滑油80が連続的に充填される。この段階では、まだ、第1キャピラリーシール部50、潤滑油保持隙間73および第2キャピラリーシール部60を充填するために必要な量の潤滑油80が、表面張力により、液面が盛り上がった状態で軸受部材20の上端面に保持されている。ここで、シール部材30を軸受部材20に嵌着して押し下げていくと、シール部材30の底部31の内側面と軸受部材20の上端面との間の隙間が小さくなるにつれて、軸受部材20の上端面に保持されている潤滑油80は押されて半径方向に広がってゆき、やがては第1キャピラリーシール部50へ液面が移動する。そして、シール部材30が軸方向に位置決めされた状態では、第1キャピラリーシール部50の全周に亘って、軸方向の同じ位置に液面が形成されている状態となる。このようにして、安定して均一な潤滑油80の液面を形成することができる。また、この充填方法は、後述する他の実施形態においても同様な効果を奏する。
【0042】
次に、流体動圧軸受装置1の各部位について説明する。回転軸10は、軸本体部11と、軸本体部11の下面に形成されたフランジ部12とを有している。軸本体部11は、下側から順に、大径円筒部13とテーパ部14と小径円筒部15とを有し、これら部位13〜15は一体的に形成されている。テーパ部14には、軸方向上側に向かうに従って縮径するテーパ面11aが形成され、テーパ面11aの下端は大径円筒部13の上端と接続している。また、テーパ面11aの上端の直径は、小径円筒部15の直径よりも大きくされている。
【0043】
軸受部材20は、中空略円筒状をなしている。軸受部材20の下側には、閉塞部材40が嵌着される下側開口部21が形成され、軸受部材20の上側には回転軸10の小径円筒部15およびテーパ部14が突出する上側開口部22が形成されている。軸受部材20の内周面には、ラジアル動圧溝20aが形成されている。軸受部材20の両端面には、軸受部材20を軸方向に貫通する連通孔20bが形成されている。連通孔20bは、軸回転時に各軸受隙間内と軸受部材上端部の潤滑油保持隙間73の間に生じる内圧差を解消するための潤滑油循環用の孔である。軸受部材20の内周面と回転軸10との間には、軸本体部11の大径円筒部13の外周面に対応した形状をなしたラジアル軸受隙間71が形成されている。ラジアル動圧溝20a、ラジアル軸受隙間71、およびラジアル軸受隙間71に充填されている潤滑油80によりラジアル軸受部が構成されている。ラジアル軸受部では、ラジアル動圧溝20aの作用により、ラジアル方向の荷重を受ける潤滑油の動圧が発生する。
【0044】
軸受部材20の外周面の上部には、上端縁から軸方向下側に向かうに従って縮径するテーパ面20cが形成されている。シール部材30の円筒部32の内周面と軸受部材20との間に形成されている第1キャピラリーシール部50は、テーパ面20cによって断面テーパ状をなしている。軸受部材20の上端面には、突出孔31aから半径方向外側に向かうに従って、軸方向に下がるテーパ面20dが形成されている。シール部材30の底部31の内側面と軸受部材20の上端面との間に形成されている潤滑油保持隙間73は、テーパ面20dによって断面テーパ状をなしている。潤滑油80は、その液面が第1キャピラリーシール部50に位置するように充填されているので、液面が安定して均一に形成され、第1キャピラリーシール部50および潤滑油保持隙間73には、十分な量の潤滑油80が連続的に保持されている。
【0045】
図10は、図1に図示されているシール部材30の概略構成を示している。以下においては、図1と図10で互いに対応する部分には同一の符号を付して説明を行う。図10(A)は、シール部材30の底部31の上面図、図10(B)は、図10(A)のA−A線断面図である。シール部材30は、絞り加工により形成され、底部31と円筒部32が一体となった有底円筒状をなしている。底部31は、中心に突出孔31aが形成され、内側面に軸受部材20の上端面に当接する3個の突起部31bが形成されている。突起部31bは、軸受部材20の上端面に当接することにより、シール部材30の軸方向の位置決めを行う機能を有する。これにより、第1キャピラリーシール部50および潤滑油保持隙間73が、ばらつきなく、所定の寸法どおりに形成される。円筒部32の略中間部には、第1キャピラリーシール部50における潤滑油80の液面を大気と連通させるための通気孔32aが形成されている。
【0046】
上記のシール部材30は、底部31の内側面を軸受部材20の上端面に対向させて、突出孔31aから回転軸10の小径円筒部15およびテーパ部14の上端部を貫通させるとともに、通気孔32aを軸受部材20の上端面よりも下に位置させて、軸受部材20の上端部を覆うようにして軸受部材20に嵌合させ、接着剤33で固定している。
【0047】
閉塞部材40は、軸受部材20の下側開口部21に嵌着されている。閉塞部材40の上面には、回転軸10のフランジ部12の下面に対向してスラスト動圧溝40aが形成されている。閉塞部材40の上面と回転軸10のフランジ部12の下面との間には、スラスト軸受隙間72が形成されている。そして、これらスラスト動圧溝40aとスラスト軸受隙間72、およびスラスト軸受隙間72に充填されている潤滑油80によりスラスト軸受部が構成されている。スラスト軸受部では、回転軸10が回転すると、スラスト動圧溝40aの作用により、スラスト方向の荷重を受ける潤滑油の動圧が発生する。
【0048】
第1キャピラリーシール部50は、潤滑油保持隙間73に連通し、軸受部材20の外周面上側のテーパ面20cと、これに対向するシール部材30の内周面との間に形成されている。第1キャピラリーシール部50は、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状の毛細管構造をなしている。第1キャピラリーシール部50における潤滑油80の液面は、円筒部32の通気孔32aよりも軸方向上側に位置している。
【0049】
第2キャピラリーシール部60は、ラジアル軸受隙間71および潤滑油保持隙間73のそれぞれに連通し、シール部材20の突出孔31aの円筒状内周面と回転軸10のテーパ面11aとの間に形成されている。第2キャピラリーシール部60は、軸方向上側に向かうに従って拡開する断面テーパ状の毛細管構造をなしている。
【0050】
潤滑油80は、互いに連通している連通孔20b、ラジアル軸受隙間71、スラスト軸受隙間72、潤滑油保持隙間73、第1キャピラリーシール部50、および第2キャピラリーシール部60に充填されている。潤滑油80は、連通孔20bを通じて、ラジアル軸受隙間71およびスラスト軸受隙間72から潤滑油保持隙間73へ循環する。第1キャピラリーシール部50では、毛細管現象によって、軸方向上側に吸引される力が潤滑油80に作用する。特に、第1キャピラリーシール部50では、通気孔32aを通じて、潤滑油80の表面張力と大気圧がバランスすることにより、潤滑油80の液面位置が通気孔32aよりも軸方向上側に保持されている。このような第1キャピラリーシール部50の作用によって、潤滑油80の外部漏出が防止されている。また、第2キャピラリーシール部60では、毛細管現象によって、軸方向下側に吸引される力が潤滑油80に作用している。このような第2キャピラリーシール部60の作用によって、潤滑油80の外部漏出が防止されている。
【0051】
上記のような第1実施形態の流体動圧軸受装置1では、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした第1キャピラリーシール部50を、潤滑流体保持隙間73と連通して軸受部材20の外周面とシール部材30の内周面との間に形成したので、第1キャピラリーシール部50内の潤滑油80には、毛細管現象によって、軸方向上側に吸引する力が作用し、流体動圧軸受装置外部への潤滑油80の漏出を防止することができる。したがって、潤滑油80の保持量の低下を防止することができるとともに、該流体動圧軸受装置1を備えた記録ディスク駆動装置の装置内汚染を防止することができる。また、潤滑油80の液面を第1キャピラリーシール部50内に位置させることができるので、潤滑油80の液面を安定して均一に形成することができ、これにより第1キャピラリーシール部50および潤滑油保持隙間73に保持された余裕分の潤滑油80をラジアル軸受部やスラスト軸受部に確実に供給することができる。
【0052】
さらに、第1実施形態によれば、第1キャピラリーシール部50は、従来のようなスピンドルモータのロータハブを用いることなく、軸受装置単独で構成されるので、従来のようにロータハブを用いた軸受装置で生じていた問題を解消することができる。加えて、潤滑油保持隙間73を第1キャピラリーシール部50と連通させて、軸受部材20の上端面とシール部材30の底部31の内側面との間に形成したので、第1キャピラリーシール部50と軸受部材20の上端面全体を潤滑油保持空間として用いることができる。その結果、従来のような回転軸の外周面と軸受部材の内周面との間の隙間の開口面に形成されたキャピラリーシール部と異なり、キャピラリーシール部を軸方向に長くすることなく、かつ従来のような薄板と軸受部材の上端面の間に形成されたキャピラリーシール部と異なり、軸受部材の直径を大きくすることなく、余裕分の潤滑油80の保持量を増加させることができる。余裕分の潤滑油80の保持量が増えると、潤滑油の自然蒸発による潤滑油不足で軸受寿命が尽きるまでの時間が延びる。したがって、流体動圧軸受装置1の長寿命化および小型化を図ることができる。
【0053】
また、第1実施形態の流体動圧軸受装置1では、第2キャピラリーシール部60内の潤滑油80には、毛細管現象によって、軸方向下側に吸引される力が作用するから、装置外部への潤滑流体の漏出をさらに防止することができる。
【0054】
また、第1キャピラリーシール部50は、大気と連通する開口部として通気孔32aを用いることができるので、従来よりもキャピラリーシール部の開口面積を小さくすることができ、これにより潤滑油80の蒸発や漏出、異物混入を抑制することができる。したがって、潤滑油80の保持量の低下および流体動圧軸受装置1を備えた記録ディスク駆動装置の装置内汚染をさらに防止することができる。
【0055】
さらに、潤滑流体保持隙間73は、半径方向外側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしているため、潤滑油保持隙間73内の潤滑油80に、毛細管現象によって、半径方向内側に吸引される力が作用し、潤滑油保持隙間73に連通する第1キャピラリーシール部50内の潤滑油80には軸方向上側に吸引される力がさらに作用することになるから、装置外部への潤滑油80の漏出をより効果的に防止できる。
【0056】
加えて、突起部31bを軸受部材20の上端面に当接させてシール部材30の軸方向の位置決めを行うことによって、第1キャピラリーシール部50および潤滑油保持隙間73を、ばらつきなく、所定の寸法どおりに形成することができる。
【0057】
(2)第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について図2を参照して説明する。図2は、本発明の第2実施形態に係る流体動圧軸受装置2の概略構成を表し、図2(A)は流体動圧軸受装置2の側断面図、図2(B)は、図2(A)の矢視方向Aから見た流体動圧軸受装置2の側面図である。なお、以下の第2実施形態〜第11実施形態では、第1実施形態と同様な構成要素には同符号を付して、その構成・作用の説明は省略する。第2実施形態の流体動圧軸受装置2では、第1実施形態の通気孔32aの代わりに、切欠32bが形成されている。切欠32bは、円筒部32の端部に形成され、その上端位置が第1実施形態の通気孔32aと一致している。第2実施形態では、切欠32bを通じて、潤滑油80の充填量を目視確認することができる。
【0058】
(3)第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態について図3を参照して説明する。図3は、本発明の第3実施形態に係る流体動圧軸受装置3の概略構成を表す側断面図である。第3実施形態の流体動圧軸受装置3では、軸本体部11が小径円筒部15と大径円筒部16とのみからなり、第1実施形態のテーパ部14が省略されている。すなわち、第3実施形態では軸本体部11の大径円筒部16は、上端位置が第1実施形態のテーパ部14の上端位置と一致するような形状をなしている。このようにすることで、テーパ部14の研磨加工がなくなり、回転軸11の加工が容易になる。
【0059】
(4)第4実施形態
次に、本発明の第4実施形態について図4を参照して説明する。図4は、本発明の第4実施形態に係る流体動圧軸受装置4の概略構成を表す側断面図である。第4実施形態では、第1実施形態のシール部材30に、突出孔31aの内周縁に沿って上方へ突出する環状突起部31cが形成されている。これにより、第2キャピラリーシール部60内の潤滑油80の軸方向への移動をさらに許容することができるので、潤滑油80の外部漏出をさらに防止することができる。
【0060】
(5)第5実施形態
次に、本発明の第5実施形態について図5を参照して説明する。図5は、本発明の第5実施形態に係る流体動圧軸受装置5の概略構成を表す側断面図である。第5実施形態の流体動圧軸受装置5は、軸受部材20を内周面に嵌着する中空略円筒状のケース部材90を備えている。ケース部材90は、切削加工により形成されている。閉塞部材40は、ケース部材90の下側開口部91に嵌着され、その上端面はフランジ部12の下面に対向している。ケース部材90の外周面の上端部にはシール部材30が嵌着され、段部92にシール部材30の円筒部32の下端面を当接させることにより、シール部材30の軸方向の位置決めがなされる。このようにして軸方向の位置決めを行うことによって、第1実施形態の突起部31bを形成する手間が省けるので、シール部材30の軸方向の位置決め精度を損なわずに、シール部材30の加工を容易にすることができる。また、ケース部材90に軸受部材20と閉塞部材40を嵌着する構成とすることで、それぞれの部材の形状が単純化されて加工が容易になるとともに、それぞれの部材を標準化して予めストックしておくことによって種々の組み合わせが可能となり、軸受装置の設計変更があっても迅速に対応することができる。これにより、生産コストが低減できる。
【0061】
(6)第6実施形態
次に、本発明の第6実施形態について図6を参照して説明する。図6は、本発明の第6実施形態に係る流体動圧軸受装置6の概略構成を表す側断面図である。第6実施形態は、第5実施形態の変形例である。第6実施形態の流体動圧軸受装置6では、第5実施形態のケース部材90の段部92を省略して、軸受部材20の外周にシール部材30を嵌着するとともに、ケース部材90の上端面90aにシール部材30の円筒部32の下端面を当接させることにより、シール部材30の軸方向の位置決めを行っている。これにより、シール部材30の軸方向の位置決め精度を損なわずに、第5実施形態のケース部材90の段部92を形成する手間が省けるので、ケース部材90の加工を容易にすることができる。
【0062】
(7)第7実施形態
次に、本発明の第7実施形態について図7を参照して説明する。図7は、本発明の第7実施形態に係る流体動圧軸受装置7の概略構成を表す側断面図である。第7実施形態は、第5実施形態の変形例である。第7実施形態の流体動圧軸受装置7は、有底円筒状のケース部材90を備えている。ケース部材90は、第5実施形態の閉塞部材40とケース部材90とが一体的に形成された部材である。また、流体動圧軸受装置7は、軸受部材20の下端面とケース部材90の底部の上側面との間に、回転軸10のフランジ部12が係合する係合隙間101が形成されるように、スペーサ100(スペーサ部材)を備えている。また、流体動圧軸受装置7では、第1実施形態の軸受部材20の上端面に形成されたテーパ面20dの代わりに、シール部材30の底部31の内側面に、突出孔31aから半径方向外側に向かうに従って軸方向に上がっていくテーパ面31dが形成されている。さらに、第1実施形態の軸受部材20の外周面上側に形成されたテーパ面20cの代わりに、シール部材30の円筒部32の内側面に、テーパ面31dから軸方向下側に向かうに従って拡径するテーパ面32bが形成されている。また、ケース部材90の外周面の上端部に嵌着される円筒部32の下端部の内側には、テーパ面31dと接続する円筒面が形成されている。このような構成によって、軸受部材20のテーパ面や段部が省略され、外周面がストレートな円筒となるので、さらに加工が容易となる。また、第5実施形態と同様にして、ケース部材90や軸受部材20に加えてスペーサ100も標準化して予めストックしておくことによって、さらに迅速に設計変更への対応を行うことができる。
【0063】
(8)第8実施形態
次に、本発明の第8実施形態について図8を参照して説明する。図8は、本発明の第8実施形態に係る流体動圧軸受装置8の概略構成を表す側断面図である。第8実施形態は、第1実施形態の変形例である。第8実施形態では、第1実施形態における回転軸10のフランジ部12の上面に対向する軸受部材20の下端面に、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させるスラスト動圧溝20eが形成されている。このような形態では、フランジ部12の上面で発生するスラスト方向の動圧によってフランジ部12の下面で発生するスラスト方向の動圧がバランスされるので、回転軸10が過浮上なく安定して回転できる。
【0064】
(9)第9実施形態
次に、本発明の第9実施形態について図9を参照して説明する。図9は、本発明の第9実施形態に係る流体動圧軸受装置9の概略構成を表す側断面図である。流体動圧軸受装置9は、軸受部材20を内周面に嵌着する中空円筒状のケース部材90を備えている。ケース部材90は、絞り加工あるいは伸管加工によって形成されているので、第5実施形態のケース部材よりも安価である。閉塞部材40は、ケース部材90の下側開口部91に嵌着され、その上端面は回転軸10のフランジ部12の下面に対向している。そして、軸受部材20の下端面と閉塞部材40の上端面との間には、フランジ部12が係合するための係合隙間101が形成されるように、スペーサ100が設けられている。
【0065】
また、軸受部材20の外周面とシール部材30の内周面に、互いに対向する周溝20f、32cが形成されている。周溝20f、32cは、第1キャピラリーシール部50の液面よりも下方で、かつシール部材30の通気孔32aよりも上方に位置している。周溝20fよりも下方に位置する軸受部材20の外周面と、周溝32cよりも下方に位置するシール部材30の内周面には、撥油剤110が塗布されている。撥油剤110は、たとえばフッ素系材料からなる。
【0066】
軸受部材20の外周面には溜まり部用周溝111(接着剤溜まり部用周溝)が形成されている。溜まり部用周溝111の上端部外周面とシール部材30の円筒部32の端部内周面との間には、接着剤の第1溜まり部121が形成されている。周溝111の下端部外周面とケース部材90の上端部内周面との間には、接着剤の第2溜まり部122が形成されている。シール部材30は、第1溜まり部121に充填された接着剤により、軸受部材20に固定されている。ケース部材90は、第2溜まり部122に充填された接着剤により、軸受部材20に固定されている。
【0067】
第9実施形態では、外部からの衝撃や振動により、第1キャピラリーシール部50の潤滑油80の液面が下方へ急激に移動しても、周溝20f、32cと撥油剤110によって有効的に塞き止められ、通気孔32aからの潤滑油80の漏出をさらに防止することができる。また、周溝20f、32cは、そればかりではなく、撥油剤110を塗布する際に、その塗布位置の目印の役割をも果たしている。また、第1溜まり部121および第2溜まり部122を互いに近接して、軸受部材20の開口部22から離れた外周面に形成することができるので、接着剤充填時に、接着剤が所定の充填部位以外に付着して、軸受部材20の開口部22から内周面へ接着剤が浸入することを効果的に防止することができる。また、接着剤の充填部位を簡単な構成とすることができる。さらに、接着剤の充填を一度で行うことができるので、充填作業が容易となる。
【0068】
(10)第10実施形態
(B)スピンドルモータ
次に、第1実施形態〜第9実施形態の流体動圧軸受装置1〜9が適用されたスピンドルモータについて説明する。図11は、第1実施形態の流体動圧軸受装置1が適用された第10実施形態のスピンドルモータ200の概略構成を表す側断面図である。なお、スピンドルモータ200には、第1実施形態の流体動圧軸受装置1に限らず、第2実施形態〜第9実施形態の流体動圧軸受装置2〜9も適用することができるのは言うまでもない。
【0069】
スピンドルモータ200は、基台210を備えている。基台210の底部には、上方に突出するボス部302が形成され、その外周部には、ステータコア221にコイル222が捲回されてなるステータ220が固定されている。また、ボス部302の内周面には流体動圧軸受装置1が嵌着され、この流体動圧軸受装置1によって、ロータ230がステータ220に対して相対回転自在に支持されている。ロータ230は、ロータハブ231と、ロータハブ231に嵌着されるとともにステータ220と協働して回転磁界を発生するロータマグネット232とを有する。ロータハブ231は、回転軸10の小径部円筒部15に嵌着され、テーパ部14の端面に当接されることによって、軸方向に位置決めされている。基台210には、わずかな軸方向隙間を介してロータマグネット232の下端部に対向する、環状の吸引板240が固定されている。吸引板240はロータ230全体を磁気力で吸引する機能を有している。
【0070】
また、回転軸10の上端部の内部には、詳細には図示されないが、ねじ孔が形成されており、記録ディスクを固定するクランプ部材がこのねじ孔によってねじ止めされる。さらに、基台210の下面には、フレキシブル配線基板が固着されており、この配線基板の出力端より制御電流がステータ220に供給されることにより、ロータハブ231、ロータマグネット232、回転軸10等からなるロータ組立体がステータ220に対して回転を始める。
【0071】
上記のようなスピンドルモータ200では、ロータ組立体は、回転軸10が回転するにしたがって、流体動圧軸受装置1内のスラスト動圧溝40aで発生するスラスト動圧力が作用する方向とは反対側の軸方向に磁気力で吸引され、スラスト動圧溝40aで発生するスラスト動圧力が上記磁気力と重力との合力とバランスすることによって、過浮上なく安定的に支持されている。
【0072】
なお、第1実施形態の流体動圧軸受装置1の代わりに、第8実施形態の流体動圧軸受装置8をスピンドルモータ200に適用した場合、流体動圧軸受装置8は互いにバランスし合う1対のスラスト動圧軸受20e,40aを有するから、ロータ230を磁気力で吸引するための吸引板240を設ける必要がない。したがって、部品点数が少なくて済む。
【0073】
(11)第11実施形態
(C)記録ディスク駆動装置
次に、第10実施形態のスピンドルモータ200が適用された記録ディスク駆動装置としての磁気ディスク駆動装置300について説明する。図12は、第11実施形態の記録ディスク駆動装置300の概略構成を表す側断面図である。磁気ディスク駆動装置300には、第10実施形態のスピンドルモータ200の基台210内を密閉して塵・埃等が極度に少ないクリーンな空間を形成するカバー部材301が設けられている。カバー部材301と基台210とにより、磁気ディスク駆動装置300の筐体が形成される。したがって、基台210はスピンドルモータ200の一部と磁気ディスク駆動装置300の筐体の一部を兼ねている。このようにして、スピンドルモータ200のステータ220やロータ230を含むスピンドルモータ200の本体部は、磁気ディスク駆動装置300の筐体内部に収容される。
【0074】
ロータハブ231の外周面には、磁気ディスク304(記録ディスク)が二段に装着されている。磁気ディスク304は、回転軸10の小径円筒部15の軸方向に加工されたねじ孔にセンターピン305を螺合してクランプ部材303を固定することにより、ロータハブ231に固定されている。これにより、磁気ディスク304は、ロータハブ231とともに回転する。なお、第11実施形態では、磁気ディスク304がロータハブ231に2枚装着されているが、磁気ディスクの枚数はこれに限定されるものではない。
【0075】
また、磁気ディスク駆動装置300は、磁気ディスク304に対して情報の書込みおよび/または読出しを実行する磁気ヘッド306(記録ヘッド)と、磁気ヘッド306を支持するアーム307と、磁気ヘッド306およびアーム307を所要の位置に移動させるボイスコイルモータ308とを備えている。ボイスコイルモータ308は、コイル309と、コイル309に対向して設けられたマグネット310を有している。
【0076】
上記の磁気ヘッド306は、基台210の適宜箇所に、旋回自在に支持されたアーム307に固定されたヘッド・スタック・アッセンブリ311の先端部に取り付けられている。磁気ヘッド306は、一枚の磁気ディスク304に対して、磁気ディスク304を挟むように上下一対配置され、磁気ディスク304の両面に対して情報の書き込みおよび/または読み出しを行うことができる。なお、第11実施形態では磁気ディスク304が2枚の構成となっているため、記録ヘッド306は2対設けられている。また、第11実施形態では、スピンドルモータ200を磁気ディスク駆動装置300に適用したが、これに限定されるものではない。たとえば、スピンドルモータ200を、CDやDVD等の記録ディスクを駆動する記録ディスク駆動装置に適用してもよい。
【実施例】
【0077】
以下、具体的な実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【0078】
(1)軸受部材上端面における潤滑油の液面状態の評価
[実施例1]
実施例1は、液面状態の観察が可能なように透明な樹脂製シール部材が装着された、本発明の第1実施形態と同じシール構造を有する、観察用流体動圧軸受装置である。したがって、実施例1の観察用流体動圧軸受装置には、第1実施形態で説明した充填方法に従って潤滑油を充填した。すなわち、樹脂製シール部材以外の部材を全て組立てた状態の、半完成の観察用流体動圧軸受装置の軸受部材内部を真空に近い状態にし、ディスペンサーを用いて軸受部材上端面に潤滑油を規定量だけ供給し、軸受隙間の開口部と連通孔とを潤滑油で覆うようにした後、軸受部材の外部を大気圧に戻し、外圧と内圧の差により軸受隙間内と連通孔内に潤滑油を連続的に充填した。この段階では、まだ、第1キャピラリーシール部、潤滑油保持隙間および第2キャピラリーシール部を充填するために必要な量の潤滑油が、表面張力によって液面が盛り上がった状態で軸受部材の上端面に保持されている。次いで、シール部材を軸受部材に嵌着して、軸方向の位置決めを行い、第1キャピラリーシール部の所定の位置に液面を形成した。その結果を図13に示す。図13は、実施例1の観察用流体動圧軸受装置の側面の写真であり、軸受部材とシール部材との間の潤滑油の液面を示している。図13で示すように、実施例1では、第1キャピラリーシール部の全周に亘って、軸方向の同じ位置に潤滑油の液面が形成されていることが確認できた。このような確認を複数回行ったが、いずれも同じ結果が得られた。すなわち、実施例1では、第1キャピラリーシール部の全周にわたって、安定して均一な潤滑油の液面を形成することができた。
【0079】
[比較例1、2]
実施例1と同じ観察用軸受装置を用いて、軸受部材の上端面に液面が形成されるよう、実施例1の規定量よりも少ない量の潤滑油を、実施例1と同じ充填方法で充填し、液面の状態を確認した。その結果を図14、15に示す。図14、15は、比較例1,2の流体動圧軸受装置の上面の写真であり、軸受部材の上端面の潤滑油の液面がなす輪郭形状を示している。このような場合、軸受部材の穴中心から半径方向のほぼ同じ位置に液面が形成された状態、すなわち前記輪郭形状が真円に近い形状であれば、均一な潤滑油の液面が形成された、とすることができる。比較例1、2では、いずれも、規定量よりも少ないが、軸受部材の上端面に液面が形成されるために必要な量を充填した。しかしながら、図14、15から判るように、潤滑油の液面が不均一に形成され、上面から見た液面の輪郭はいびつな形状をなし、いつも同じように形成されなかった。図14では、中心孔縁の一部で液面の輪郭が不連続となっている。図15では、図14よりも若干多い量の潤滑油を充填してみたが、連通孔が潤滑油で覆われず、さらに、中心孔縁の一部に気泡が入って、潤滑油が不連続に充填された状態となってしまった。このような状態では、軸部材の回転時に、潤滑油に空気が混入したり、軸受隙間内への潤滑油の十分な供給が損なわれたりして、軸受装置が焼付きを起こす虞がある。
【0080】
以上のように、実施例1は、比較例1、2と比較して、安定して均一な潤滑油の液面を形成することができ、軸受装置内部に保持されている潤滑油の、ラジアル軸受部およびスラスト軸受部への供給を確実に行うことができることが判った。また、潤滑油充填時に軸受部材の上端面に液面が形成される形態では、たとえ軸受装置内部に十分な量の潤滑油が保持されていても、不連続的に充填された状態が発生し、回転時にラジアル軸受部およびスラスト軸受部への空気の混入や潤滑油の供給不足が発生しやすくなり、流体動圧軸受装置の寿命が早期に尽きてしまう可能性があることが判った。したがって、第1キャピラリーシール部に液面が形成されるように潤滑油を充填すると、長寿命化とともに、安定した軸受寿命を得ることができる。
【0081】
(2)スピンドルモータの衝撃試験結果
[実施例2〜19]
本発明の第9実施形態の流体動圧軸受装置9を備えたスピンドルモータで衝撃試験を行った。実施例2〜10では、本発明の第9実施形態のスピンドルモータに対して静止状態で衝撃を与え、実施例11〜19では、本発明の第9実施形態のスピンドルモータに対して回転状態で衝撃を与え、衝撃力に対する潤滑油の飛散流出防止効果を確認した。実施例2〜10の衝撃試験結果を表1、実施例11〜19の衝撃試験結果を表2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
衝撃試験では、試験機として、Endevco社製のSM110式の衝撃試験機を用いた。試験条件としては、スピンドルモータの上記試験機への組付け姿勢を、表1,2に示すように、上向き、下向き、横向きの3方向とした。組付け姿勢が上向き、下向き、横向きとは、流体動圧軸受装置の軸受部材の上側開口部が上向き、下向き、横向きであることを意味している。また、衝撃は、上から下方向に印加されるものとし、衝撃の大きさは、最高加速度の大きさで計り、800Gから1500Gまでを5段階に分けて、試験を行なった。加速度は、印加時間1msの間に加速度ゼロから最高加速度まで増加した後、再び加速度ゼロに戻る半正弦波とした。このような試験方法は、流体動圧軸受装置内の潤滑油の流出移動の大きさが、衝撃の大きさや、衝撃の印加方向に対する流体動圧軸受装置の姿勢などで左右されるものであるから、これらの要因を考慮した方法である。
【0085】
試験品としては、本発明の第9実施形態の流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータを18個(実施例2〜実施例19)用意し、静止状態で9個、回転している状態で9個の試験品を、上向き、下向き、横向きの組付け姿勢でそれぞれ3個ずつに分け、各試験品に対して5つの加速度レベルの衝撃試験を繰り返し行なった。
【0086】
なお、実施例2〜実施例19において、試験は、小さい衝撃(加速度)印加から大きい衝撃(加速度)印加の順序で実施した。これは、この順に、衝撃に対する潤滑油の位置安定性の条件がよりシビアになるからである。また、衝撃試験は、最大1500Gの加速度まで、或いは試験品にオイル漏れが認められるまでの、いずれか早く起きた方まで実施した。
【0087】
試験結果は、表1、2から明らかなように、静止状態では1500Gの衝撃でも潤滑油漏れが認められず、回転している状態でも1400Gの衝撃までは潤滑油漏れが起きなかった。従来、ノートパソコンや携帯端末などに磁気ディスク装置、CD−ROM装置等を搭載する場合、流体動圧軸受装置を具備したスピンドルモータに対する耐衝撃要求は1000G程度であるが、本発明の第9実施形態のシール構造は、それ以上の衝撃を受けた場合においても、優れた潤滑油の飛散流出防止効果を示すものである。尚、表において、「オイル漏れ」の表示は、その試験でオイル漏れが実際に確認されたことを表し、「OK」の表示は、その試験でオイル漏れが生じなかったことを表している。オイル漏れの有無の確認は、顕微鏡による目視検査で行った。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表し、(A)は流体動圧軸受装置の側断面図、(B)は、(A)の矢視方向Aから見た流体動圧軸受装置の側面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表し、(A)は流体動圧軸受装置の側断面図、(B)は、(A)の矢視方向Aから見た流体動圧軸受装置の側面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図6】本発明の第6実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図7】本発明の第7実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図8】本発明の第8実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図9】本発明の第9実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図10】図1の流体動圧軸受装置に設けられたシール部材の概略構成を表し、(A)は、シール部材の底部の上面図、(B)は、(A)のA−A線断面図である。
【図11】図1の流体動圧軸受装置が適用されたスピンドルモータの概略構成を表す側断面図である。
【図12】図11のスピンドルモータが適用された磁気ディスク駆動装置の概略構成を表す側断面図である。
【図13】本発明の実施例1の流体動圧軸受装置の側面の写真であり、潤滑油の液面の形成状態を示している。
【図14】本発明の比較例1の流体動圧軸受装置の上面の写真であり、潤滑油の液面の形成状態を示している。
【図15】本発明の比較例2の流体動圧軸受装置の上面の写真であり、潤滑油の液面の形成状態を示している。
【図16】流体動圧軸受装置のキャピラリーシール部の従来例の概略構成を表す側断面図であり、(A)は流体動圧軸受装置の全体図、(B)は(A)のキャピラリーシール部の部分拡大図である。
【図17】流体動圧軸受装置のキャピラリーシール部の他の従来例の概略構成を表す側断面図である。
【図18】流体動圧軸受装置のキャピラリーシール部の他の従来例の概略構成を表す側断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1〜9…流体動圧軸受装置、10…回転軸(軸部材)、20…軸受部材、20a…ラジアル動圧溝、20e…スラスト動圧溝(第2スラスト動圧溝)、20f,32c…周溝、30…シール部材、31…底部、31a…突出孔、31b…突起部、31c…環状突起部、32…円筒部、32a…通気孔、32b…切欠、40…閉塞部材、40a…スラスト動圧溝(第1スラスト動圧溝)、50…第1キャピラリーシール部、60…第2キャピラリーシール部、71…ラジアル軸受隙間(軸受隙間)、72…スラスト軸受隙間(軸受隙間)、73…潤滑油保持隙間(潤滑流体保持隙間)、80…潤滑油(潤滑流体)、90…ケース部材、92…段部、100…スペーサ(スペーサ部材)、101…係合隙間、110…撥油剤、111…溜まり部用周溝、121…第1溜まり部、122…第1溜まり部、200…スピンドルモータ、210…基台、220…ステータ、230…ロータ、231…ロータハブ、232…ロータマグネット、300…磁気ディスク駆動装置(記録ディスク駆動装置)、304…磁気ディスク(記録ディスク)、306…磁気ヘッド(記録ヘッド)
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油(潤滑流体)の動圧を利用して軸受部材により軸部材を相対回転自在に支承する流体動圧軸受装置およびこの流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータ並びに記録ディスク駆動装置に係り、特に潤滑油の毛細管現象を利用して、流体動圧軸受装置に充填された潤滑油の外部漏出を防止するキャピラリーシール部の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータに使用されている磁気ディスクや光ディスク等の記録ディスク駆動装置では、小型化、薄型化、および軽量化に加えて、高密度化への要求が強いことから、ディスク回転に使用されるスピンドルモータの回転数の高速化や回転動作の高精度化が要請されている。このような要請に応えるために、スピンドルモータ用の軸受装置として、従来のボールベアリングに代わって、潤滑油の流体動圧を利用して回転軸を軸受部材により回転自在に支承する流体動圧軸受装置が使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、流体動圧軸受装置では、温度変化による潤滑油の膨張収縮や、回転軸や軸受部材等の部品寸法の膨張変位等の体積変化、回転動作の始動・停止時のポンプ作用等による内部移動、回転時の遠心力や動圧作用等の原因によって、回転軸と軸受部材との間に保持された潤滑油は、回転軸と軸受部材の上端部により形成された開口面へ向かって上昇し、そこから漏出するという問題があった。潤滑油量が減少すると必要な流体動圧が発生しないため、回転軸の支持力が低下し、ひいては回転軸と軸受部材とが接触して焼付きが生じる虞があった。また、漏出した潤滑油により記録ディスク駆動装置が汚染され、ひいては故障や記録の消失などの虞があった。さらに、たとえ外部への漏出が起きなくとも、自然蒸発によって潤滑油量が徐々に減少すれば、最終的には焼付きを起こしてしまうので、軸受隙間を満たすための潤滑油量に加えて、余裕分として軸受装置内部に充填可能な潤滑油の保持量は、流体動圧軸受装置の寿命を左右する要素の一つであった。このため、小型でありながらも、潤滑油の保持量を多くすることができて、潤滑油が蒸発し難く、かつ外部へ漏出し難い構造の流体動圧軸受装置が望まれていた。
【0004】
このような課題を解決するために、外部に連通する隙間の断面をテーパ状に形成することにより、余裕分の潤滑油を多く保持できるとともに、毛細管現象を利用して潤滑油の外部漏出を防止するためのキャピラリーシール部を設けた流体動圧軸受装置が提案されている。
【0005】
たとえば、図16(A)、(B)に示すような流体動圧軸受装置では、回転軸501と軸受部材502との間の隙間の開口面において、軸方向上側に向かって所定の傾斜角で拡開するテーパ面502aを軸受部材502の内周面に形成することにより、余裕分の潤滑油が保持可能なキャピラリーシール部500を構成している(たとえば特許文献1参照)。
【0006】
また、図17に示すような流体動圧軸受装置では、互いに対向する軸受部材601の上端面601aと薄板602との間に、半径方向外側に向かって拡開する断面テーパ状の隙間を形成することにより、余裕分の潤滑油が保持可能なキャピラリーシール部600を構成している(たとえば特許文献2参照)。
【0007】
さらに、図18に示すような流体動圧軸受装置では、軸受部材704の上端面とロータハブ703の上壁部703a下面との間にスラスト軸受部701を形成することにより、スラスト方向の荷重を支持する従来の手段であるスラストプレートを用いない構造とし、ロータハブ703の上壁部703aから垂下する環状突起703bの内周面と軸受部材704の外周面との間に、軸線方向下側に向かって拡開するテーパ状の隙間を形成することにより、余裕分の潤滑油が保持可能なキャピラリーシール部700を構成している(たとえば特許文献3参照)。なお、図中符号703cおよび704cは、それぞれスラスト動圧発生溝およびラジアル動圧発生溝である。
【0008】
【特許文献1】特許2937833号(図1)
【特許文献2】特開平8−331796号(図1,図3,要約)
【特許文献3】特開2000−197309号(図2,要約)
【0009】
しかしながら、上記のような従来のキャピラリーシール部には、以下のような問題があった。すなわち、図16(A),(B)に示すキャピラリーシール部500は、軸方向に形成された開口面で拡開する構成であるため、そこから潤滑油が蒸発しやすく、かつゴミや埃が潤滑油に混入しやすいから、流体動圧軸受装置の寿命低下や潤滑油の機能の低下が生じる。また、衝撃等で潤滑油の急激な移動が生じた場合、潤滑油を塞き止めて外部へ漏出させないための手段を持たない。さらに、キャピラリーシール部500が軸方向に形成された構成であるため、キャピラリーシール部500における潤滑油の保持量を多くするためには、キャピラリーシール部500を軸方向に長くしなければならず、その分だけ流体動圧軸受装置の全長が大きくなり、該軸受装置の小型化を図ることが困難になる。一方、流体動圧軸受装置の全長を大きくせずに潤滑油の保持量を多くしようとした場合、キャピラリーシール部500を軸方向に長くした分だけラジアル動圧溝503の長さを短くすることが考えられるが、この場合、ラジアル方向の動圧力が小さくなるため、軸受剛性が低下する。
【0010】
図17に示すキャピラリーシール部600では、潤滑油の保持空間が軸受部材601の上端面601a側のテーパ状隙間に限られるため、流体動圧軸受装置の小型化によって、軸受部材601の直径を小さくしたとき、潤滑油の保持量が少なくなる。また、薄板602の外周面のほぼ全周に亘って隙間が開口しているため、潤滑油が蒸発しやすい。また、本願発明に際して種々の確認試験を行った結果、軸受部材の上端面側のテーパ状隙間内に液面を形成して潤滑油を保持すると、液面が安定して均一に形成されず、流体動圧軸受装置の寿命に悪影響を及ぼす虞があることが判った。
【0011】
図18に示すキャピラリーシール部700では、軸受部材704の上端面側の隙間はスラスト軸受部をなしているので、余裕分の潤滑油を保持する隙間は軸受部材704の外周面側の隙間に限られる。さらに、図18に示すキャピラリーシール部700は、モータの部品であるロータハブ703を含んで構成されているため、流体動圧軸受装置単独で完成品とならず、モータの組立て前に、流体動圧軸受装置単独で品質検査を行うことができない。しかしながら、流体動圧軸受装置の回転トルク値と、その流体動圧軸受装置を用いたスピンドルモータの消費電流値は比例していることから、流体動圧軸受装置をモータに組み付ける前に回転トルク値を測定し、所望のトルク値であることが確認できると好都合である。
【0012】
また、ロータハブはスラストプレートと比較して高価な部品であるから、モータの組立て前に流体動圧軸受装置の品質検査が実施できないと、不良が発生した場合、廃棄に伴うコストが大きい。さらに、ロータハブ703の上壁部703aの下面は、スラスト動圧軸受部701を構成する一方の面であることから、ロータハブ703の上壁部703a全体を高剛性とする必要があるため、ロータハブ703の薄型化が困難である。
【0013】
加えて、キャピラリーシール部700を備えた流体動圧軸受装置を記録ディスク装置に適用した場合、次のような問題が生じる。すなわち、流体動圧軸受装置の記録ディスク装置への実装では、一般的にセンターピン型の構成が用いられ、流体動圧軸受装置の回転軸に雌ネジ孔を設け、この雌ネジ孔に雄ネジを締結して記録ディスク装置のクランプ部材とロータハブと流体動圧軸受装置を一体的に固定している。しかしながら、センターピン型の構成では、ロータハブの材質や厚み方向の寸法などによっては、ディスクの実装時におけるクランプ部材の磁気ディスクに対する押圧力により、ロータハブが変形することがある。このような変形が起きると、ロータハブが撓み、スラスト軸受部に規定される微小隙間の軸方向の寸法が径方向に不均一となり、スラスト軸受部において安定した軸支持力を得ることが困難になる。このため、モータの回転精度が悪化するだけでなく、スラスト軸受部を構成するロータハブの下面と軸受部材の上端面とが接触することによって、軸受面の摩耗や損傷あるいは焼付き等の障害が発生し、モータの耐久性および信頼性の低下の虞がある。
【0014】
一方、流体動圧軸受装置を備えたモータにより回転駆動される磁気ディスクの材料として、アルミ合金や、ガラス、樹脂などが用いられるが、これら材料のなかでは、ガラスよりも安価であるアルミ合金がよく用いられている。磁気ディスクを載置して一体的に回転するハブの材料として、温度変化による磁気ディスクの反りを防止するために磁気ディスク材料とほぼ同等の熱膨張係数を有する材料を用いる必要があることからも、アルミ合金製磁気ディスクの場合は、同じ材料であるアルミ合金が用いられている。しかしながら、アルミ合金製磁気ディスクに適合するアルミ合金製ロータハブは比較的柔らかいため、スラスト方向の動圧が発生しない回転静止時にロータハブの下面と軸受部材の上端面とが接触することによる軸受面の損傷や摩耗が起きやすい。
【0015】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、キャピラリーシール部を流体動圧軸受装置単独で構成することができるばかりではなく、小型化、記録ディスク駆動装置内の汚染防止および潤滑油の外部漏出防止と余裕分の潤滑油の保持量増大との相乗効果による長寿命化を図ることができる流体動圧軸受装置およびこの流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータ並びに記録ディスク駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の流体動圧軸受装置は、下端部にフランジ部を有する軸部材と、軸部材を相対回転自在に支承する中空略円筒状の軸受部材と、軸部材の上端部が突出する突出孔を底部に有し、軸受部材の上端部を覆うようにして設けられた有底円筒状のシール部材と、軸受部材の下端部を閉塞する閉塞部材と、軸部材と軸受部材との間、および軸部材と閉塞部材との間の、それぞれに形成された動圧溝を含む軸受隙間と、を備え、軸部材の外周面と軸受部材の内周面とのいずれか一方には、ラジアル方向の荷重を受ける動圧を発生させるためのラジアル動圧溝が形成され、フランジ部の下面と閉塞部材の上面とのいずれか一方には、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させるための第1スラスト動圧溝が形成され、軸受部材の上端面とシール部材の底部の内側面との間に潤滑流体保持隙間が形成され、軸受部材の外周面とシール部材の内周面との間には、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした第1キャピラリーシール部が形成され、軸部材の外周面と突出孔の内周面との間には、第2キャピラリーシール部が形成され、軸受部材の端面には、軸受隙間と潤滑流体保持隙間を連通する連通孔が軸受部材を軸方向に貫通して形成され、互いに連通する軸受隙間、第2キャピラリーシール部、連通孔、潤滑流体保持隙間、および第1キャピラリーシール部には、連続的に潤滑流体が充填されており、シール部材の円筒部には、第1キャピラリーシール部に充填されている潤滑流体の液面よりも軸方向下側に位置している通気孔が形成されていることを特徴としている。
【0017】
本発明の流体動圧軸受装置では、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした第1キャピラリーシール部を、潤滑流体保持隙間と連通して軸受部材の外周面とシール部材との互いの対向面の間に形成したので、第1キャピラリーシール部内の潤滑流体には、毛細管現象によって、軸方向上側に吸引される力が作用するから、流体動圧軸受装置外部への潤滑流体の漏出を防止することができる。したがって、潤滑流体の保持量の低下を防止することができるとともに、該流体動圧軸受装置を備えた記録ディスク駆動装置の装置内汚染を防止することができる。また、潤滑流体の液面を第1キャピラリーシール部内に位置させたので、潤滑油を充填する工程において、潤滑流体の界面が安定して均一に形成され、これにより第1キャピラリーシール部と潤滑流体保持隙間に充填された余裕分の潤滑流体を軸受部に確実に供給することができる。
【0018】
さらに、第1キャピラリーシール部は、従来のようなスピンドルモータのロータハブを用いた形態とは異なり、流体動圧軸受装置単独で構成することができるので、従来のロータハブを用いた流体動圧軸受装置で生じていた問題を解消することができる。加えて、潤滑流体保持隙間を、軸受部材の上端面とシール部材の互いの対向面の間に形成したので、第1キャピラリーシール部ばかりではなく、軸受部材の上端面全体をも潤滑流体保持空間として用いることが可能となり、従来のような軸部材の外周面と軸受部材の内周面との間の隙間の開口面に形成されたキャピラリーシール部と異なり、キャピラリーシール部を軸方向に長くすることなく、かつ従来のような薄板と軸受部材の上端面の間に形成されたキャピラリーシール部と異なり、軸受部材の直径を大きくすることなく、潤滑流体の保持量を大幅に増加させることができる。したがって、流体動圧装置の長寿命化および小型化を図ることができる。
【0019】
加えて、第1キャピラリーシール部は、大気と連通する開口部として通気孔を用いることができるので、従来よりもキャピラリーシール部の開口面積を小さくすることができ、これにより潤滑流体の蒸発や漏出、異物混入を抑制することができる。したがって、潤滑流体の保持量の低下および該流体動圧軸受装置を備えた記録ディスク駆動装置の装置内汚染をさらに防止することができる。
【0020】
ここで、本発明の流体動圧軸受装置の潤滑流体保持機能を向上させるために種々の構成を用いることができる。たとえば、第2キャピラリーシール部は、軸方向上側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしているのが好適である。このような態様では、第2キャピラリーシール部内の潤滑流体には、毛細管現象によって、軸方向下側に吸引される力が作用するから、装置外部への潤滑流体の漏出をさらに防止することができる。
【0021】
上記態様では、シール部材の底部に、外部へ突出する環状突起部を突出孔の内周縁部に沿って形成するのが好適であり、第2キャピラリーシール部は、シール部材の突出孔および環状突起部の内周面と軸部材の外周面との互いの対向面の間に形成される。このような態様では、第2キャピラリーシール部内の潤滑油の軸方向への移動をさらに許容することができるので、潤滑油の外部漏出をさらに防止することができる。
【0022】
上記潤滑流体保持隙間は、半径方向外側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしているのが好適である。このような態様では、潤滑流体保持隙間内の潤滑流体に、毛細管現象によって、半径方向内側に吸引される力が作用するので、潤滑流体保持隙間に連通する第1キャピラリーシール部内の潤滑流体に軸方向上側に吸引される力がさらに作用することになるから、装置外部への潤滑流体の漏出をさらに防止することができる。
【0023】
また、シール部材の底部の内側面に3個以上の突起部を形成し、この突起部を軸受部材の上端面に当接させることによって、シール部材の軸方向の位置決めを行うことができる。このような態様では、上記潤滑流体保持隙間の大きさの面内方向でのばらつきの発生を防止することができるので、潤滑流体保持量をさらに安定させることができる。
【0024】
軸受部材の外周面とシール部材の内周面のそれぞれに、互いに対向する周溝が形成され、周溝は、第1キャピラリーシール部における潤滑流体の液面より軸方向下側で、かつシール部材の通気孔より軸方向上側に位置するのが好適である。この場合、軸受部材の外周面とシール部材の内周面のいずれにも、周溝より軸方向下側に撥油剤を塗布することができる。このような態様では、周溝と撥油剤とによって、通気孔からの潤滑流体の漏出をさらに防止することができる。また、周溝を目印にして、撥油剤の塗布箇所を確実に判別し、撥油剤の塗布作業を容易に行うことができる。
【0025】
上記通気孔は、シール部材の円筒部の下端面まで軸方向下側に延在して形成された切欠であるとともに、潤滑流体の液面位置を視認するための視認窓の機能を兼ね備えているのが好適である。このような態様では、通気孔を通じて潤滑流体の充填量を目視確認することができる。
【0026】
全長が軸受部材よりも短い中空円筒状のケース部材を備えているのが好適であり、上記軸受部材を、その上端部を突出させてケース部材の内周面に嵌着することができる。このような態様では、ケース部材に軸受部材と閉塞部材を嵌着する構成とすることで、それぞれの部材の形状が単純化されて加工が容易になるとともに、それぞれの部材を標準化して予めストックしておくことによって種々の組み合わせが可能となり、軸受装置の設計変更があっても迅速に対応することができる。これにより、生産コストが低減できる。
【0027】
上記態様では、軸受部材の上端部の外周面に嵌着されたシール部材をケース部材の上端面に当接させることによって、シール部材の軸方向の位置決めを行うことができる。あるいは、ケース部材の上端部外周面には段部を形成し、ケース部材の上端部外周面に嵌着されたシール部材の円筒部の下端面を段部に当接させることによって、シール部材の軸方向の位置決めを行うことができる。このような態様では、上記潤滑流体保持隙間の大きさの面内方向でのばらつきの発生をさらに防止することができるので、潤滑流体保持量をさらに安定させることができる。
【0028】
また、シール部材を軸受部材の上端部外周面に嵌着する場合、軸受部材の外周面とケース部材の上端部内周面との間には、接着剤の第1溜まり部を形成し、軸受部材の外周面とシール部材の下端部内周面との間には、接着剤の第2溜まり部を形成し、第1溜まり部と第2溜まり部のそれぞれには接着剤を充填することにより、ケース部材とシール部材のそれぞれを、接着剤によって軸受部材に固定するのが好適である。
【0029】
上記態様では、シール部材およびケース部材を軸受部材に嵌着して接着剤を充填するときに、軸受部材の内周面への接着剤の浸入を防止することができるのはもちろんのこと、所定の充填部位以外への接着剤の付着や流出を防止することができる。
【0030】
ここで、軸受部材の外周面には、接着剤溜まり部用周溝を形成することにより、接着剤溜まり部用周溝とケース部材の上端部内周面との間に上記第1溜まり部を形成し、接着剤溜まり部用周溝とシール部材の下端部内周面との間に上記第2溜まり部を形成することができる。
【0031】
上記態様では、上述した効果に加えて、接着剤の充填部位を簡単な構成とすることができ、第1溜まり部および第2溜まり部を互いに近接して形成することができる。さらに、接着剤の充填を一度で行うことができるので、充填作業が容易となる。
【0032】
上記ケース部材は、閉塞部材と一体的に形成された有底円筒状部材とすることができる。また、ケース部材は、絞り加工あるいは伸管加工により形成することができる。さらに、軸受部材と閉塞部材の間には、軸部材のフランジ部が係合する係合隙間を形成するためのスペーサ部材を設けることができる。このような態様では、スペーサも標準化して予めストックしておくことによって、迅速に設計変更への対応を行うことができる。
【0033】
互いに対向する軸受部材の下端面およびフランジ部上端面のいずれか一方に、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させる第2スラスト動圧溝を形成することができる。このような形態では、フランジ部の上面で発生するスラスト方向の動圧によってフランジ部の下面で発生するスラスト方向の動圧がバランスされるので、軸部材が過浮上なく安定して回転できる。
【0034】
本発明のスピンドルモータは、基台と、基台に固定されたステータと、ロータハブと、このロータハブに嵌着されるとともにステータと協働して回転磁界を発生するロータマグネットとを有するとともに、基台に対して相対回転自在に設けられたロータと、このロータを磁気力で吸引する機能を有し、ロータの回転を支持する流体動圧軸受装置と、を備え、この流体動圧軸受装置は、上記第1スラスト溝を備えた上記流体動圧軸受装置であり、ロータは、流体動圧軸受装置内の第1スラスト動圧溝で発生するスラスト動圧が作用する方向に対して反対側の軸方向に磁気力によって吸引されている。
【0035】
また、本発明のスピンドルモータは、上記流体動圧軸受装置が上記第2スラスト動圧溝を備える場合には、ロータを磁気力によって吸引することは不要となる。
【0036】
本発明の記録ディスク駆動装置は、記録ディスクと、記録ディスクに情報を書き込みおよび/または読み出しするための記録ヘッドと、この記録ディスクを回転駆動するための上記スピンドルモータとを備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
(A)流体動圧軸受装置
(1)第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置1の概略構成を表し、図1(A)は流体動圧軸受装置1の側断面図、図1(B)は、図1(A)の矢視方向Aから見た流体動圧軸受装置1の側面図である。
【0038】
まず、流体動圧軸受装置1の全体構成の概略について説明する。流体動圧軸受装置1は、回転軸(軸部材)10を回転自在に支承する中空略円筒状の軸受部材20を備えている。軸受部材20には、その上端部を覆うようにして有底円筒状のシール部材30が嵌着されている。シール部材30は、底部31と、底部31と一体的に形成された円筒部32とを有する。シール部材30の底部31には、回転軸10の上端部が突出する突出孔31aが形成され、シール部材30の円筒部32には通気孔32aが形成されている。軸受部材20の下側開口部21には、閉塞部材40が嵌着されている。
【0039】
円筒部32の内周面と軸受部材20との間には、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状の第1キャピラリーシール部50が形成されている。シール部材30の突出孔31aの円筒状内周面と回転軸10の後述するテーパ面11aとの間には、軸方向上側に向かうに従って拡開する断面テーパ状の第2キャピラリーシール部60が形成されている。軸受部材20の内周面にはラジアル動圧溝20aが形成され、閉塞部材40の上面にはスラスト動圧溝40a(第1スラスト動圧溝)が形成されている。さらに、軸受部材20の両端面を軸方向に貫通するようにして連通孔20bが形成されている。
【0040】
回転軸10と軸受部材20との間にはラジアル軸受隙間71が形成されている。回転軸10と閉塞部材40との間にはスラスト軸受隙間72が形成されている。軸受隙間71、72は、微少隙間である。シール部材30の底部31の内側面と軸受部材20の上端面との間には、半径方向外側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした潤滑油保持隙間73が形成されている。連通孔20b、ラジアル軸受隙間71、スラスト軸受隙間72、潤滑油保持隙間73、第1キャピラリーシール部50、第2キャピラリーシール部60は互いに連通し、潤滑油80(潤滑流体)が連続的に充填されている。また、毛細管現象により潤滑油が吸引されて、潤滑油保持隙間73を介して、第1キャピラリーシール部50から軸受隙間内へ確実に供給されるために、第1キャピラリーシール部50における半径方向の隙間寸法は、潤滑油保持隙間73における軸方向の隙間寸法よりも小さくされている。
【0041】
第1実施形態の流体動圧軸受装置には、次のような充填方法を用いて潤滑油が充填される。すなわち、シール部材30以外の部材を組立てた状態の、半完成の流体動圧軸受装置の軸受部材20内部の隙間を真空に近い状態にし、次いで、ディスペンサーを用いて、軸受部材20の上端面に潤滑油80を規定量供給し、ラジアル軸受隙間71の開口部22と連通孔20bとを潤滑油で覆った後、軸受部材20の外部を大気圧に戻すと、外部と軸受部材20内部との気圧差により、軸受隙間71、72内と連通孔20b内に潤滑油80が連続的に充填される。この段階では、まだ、第1キャピラリーシール部50、潤滑油保持隙間73および第2キャピラリーシール部60を充填するために必要な量の潤滑油80が、表面張力により、液面が盛り上がった状態で軸受部材20の上端面に保持されている。ここで、シール部材30を軸受部材20に嵌着して押し下げていくと、シール部材30の底部31の内側面と軸受部材20の上端面との間の隙間が小さくなるにつれて、軸受部材20の上端面に保持されている潤滑油80は押されて半径方向に広がってゆき、やがては第1キャピラリーシール部50へ液面が移動する。そして、シール部材30が軸方向に位置決めされた状態では、第1キャピラリーシール部50の全周に亘って、軸方向の同じ位置に液面が形成されている状態となる。このようにして、安定して均一な潤滑油80の液面を形成することができる。また、この充填方法は、後述する他の実施形態においても同様な効果を奏する。
【0042】
次に、流体動圧軸受装置1の各部位について説明する。回転軸10は、軸本体部11と、軸本体部11の下面に形成されたフランジ部12とを有している。軸本体部11は、下側から順に、大径円筒部13とテーパ部14と小径円筒部15とを有し、これら部位13〜15は一体的に形成されている。テーパ部14には、軸方向上側に向かうに従って縮径するテーパ面11aが形成され、テーパ面11aの下端は大径円筒部13の上端と接続している。また、テーパ面11aの上端の直径は、小径円筒部15の直径よりも大きくされている。
【0043】
軸受部材20は、中空略円筒状をなしている。軸受部材20の下側には、閉塞部材40が嵌着される下側開口部21が形成され、軸受部材20の上側には回転軸10の小径円筒部15およびテーパ部14が突出する上側開口部22が形成されている。軸受部材20の内周面には、ラジアル動圧溝20aが形成されている。軸受部材20の両端面には、軸受部材20を軸方向に貫通する連通孔20bが形成されている。連通孔20bは、軸回転時に各軸受隙間内と軸受部材上端部の潤滑油保持隙間73の間に生じる内圧差を解消するための潤滑油循環用の孔である。軸受部材20の内周面と回転軸10との間には、軸本体部11の大径円筒部13の外周面に対応した形状をなしたラジアル軸受隙間71が形成されている。ラジアル動圧溝20a、ラジアル軸受隙間71、およびラジアル軸受隙間71に充填されている潤滑油80によりラジアル軸受部が構成されている。ラジアル軸受部では、ラジアル動圧溝20aの作用により、ラジアル方向の荷重を受ける潤滑油の動圧が発生する。
【0044】
軸受部材20の外周面の上部には、上端縁から軸方向下側に向かうに従って縮径するテーパ面20cが形成されている。シール部材30の円筒部32の内周面と軸受部材20との間に形成されている第1キャピラリーシール部50は、テーパ面20cによって断面テーパ状をなしている。軸受部材20の上端面には、突出孔31aから半径方向外側に向かうに従って、軸方向に下がるテーパ面20dが形成されている。シール部材30の底部31の内側面と軸受部材20の上端面との間に形成されている潤滑油保持隙間73は、テーパ面20dによって断面テーパ状をなしている。潤滑油80は、その液面が第1キャピラリーシール部50に位置するように充填されているので、液面が安定して均一に形成され、第1キャピラリーシール部50および潤滑油保持隙間73には、十分な量の潤滑油80が連続的に保持されている。
【0045】
図10は、図1に図示されているシール部材30の概略構成を示している。以下においては、図1と図10で互いに対応する部分には同一の符号を付して説明を行う。図10(A)は、シール部材30の底部31の上面図、図10(B)は、図10(A)のA−A線断面図である。シール部材30は、絞り加工により形成され、底部31と円筒部32が一体となった有底円筒状をなしている。底部31は、中心に突出孔31aが形成され、内側面に軸受部材20の上端面に当接する3個の突起部31bが形成されている。突起部31bは、軸受部材20の上端面に当接することにより、シール部材30の軸方向の位置決めを行う機能を有する。これにより、第1キャピラリーシール部50および潤滑油保持隙間73が、ばらつきなく、所定の寸法どおりに形成される。円筒部32の略中間部には、第1キャピラリーシール部50における潤滑油80の液面を大気と連通させるための通気孔32aが形成されている。
【0046】
上記のシール部材30は、底部31の内側面を軸受部材20の上端面に対向させて、突出孔31aから回転軸10の小径円筒部15およびテーパ部14の上端部を貫通させるとともに、通気孔32aを軸受部材20の上端面よりも下に位置させて、軸受部材20の上端部を覆うようにして軸受部材20に嵌合させ、接着剤33で固定している。
【0047】
閉塞部材40は、軸受部材20の下側開口部21に嵌着されている。閉塞部材40の上面には、回転軸10のフランジ部12の下面に対向してスラスト動圧溝40aが形成されている。閉塞部材40の上面と回転軸10のフランジ部12の下面との間には、スラスト軸受隙間72が形成されている。そして、これらスラスト動圧溝40aとスラスト軸受隙間72、およびスラスト軸受隙間72に充填されている潤滑油80によりスラスト軸受部が構成されている。スラスト軸受部では、回転軸10が回転すると、スラスト動圧溝40aの作用により、スラスト方向の荷重を受ける潤滑油の動圧が発生する。
【0048】
第1キャピラリーシール部50は、潤滑油保持隙間73に連通し、軸受部材20の外周面上側のテーパ面20cと、これに対向するシール部材30の内周面との間に形成されている。第1キャピラリーシール部50は、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状の毛細管構造をなしている。第1キャピラリーシール部50における潤滑油80の液面は、円筒部32の通気孔32aよりも軸方向上側に位置している。
【0049】
第2キャピラリーシール部60は、ラジアル軸受隙間71および潤滑油保持隙間73のそれぞれに連通し、シール部材20の突出孔31aの円筒状内周面と回転軸10のテーパ面11aとの間に形成されている。第2キャピラリーシール部60は、軸方向上側に向かうに従って拡開する断面テーパ状の毛細管構造をなしている。
【0050】
潤滑油80は、互いに連通している連通孔20b、ラジアル軸受隙間71、スラスト軸受隙間72、潤滑油保持隙間73、第1キャピラリーシール部50、および第2キャピラリーシール部60に充填されている。潤滑油80は、連通孔20bを通じて、ラジアル軸受隙間71およびスラスト軸受隙間72から潤滑油保持隙間73へ循環する。第1キャピラリーシール部50では、毛細管現象によって、軸方向上側に吸引される力が潤滑油80に作用する。特に、第1キャピラリーシール部50では、通気孔32aを通じて、潤滑油80の表面張力と大気圧がバランスすることにより、潤滑油80の液面位置が通気孔32aよりも軸方向上側に保持されている。このような第1キャピラリーシール部50の作用によって、潤滑油80の外部漏出が防止されている。また、第2キャピラリーシール部60では、毛細管現象によって、軸方向下側に吸引される力が潤滑油80に作用している。このような第2キャピラリーシール部60の作用によって、潤滑油80の外部漏出が防止されている。
【0051】
上記のような第1実施形態の流体動圧軸受装置1では、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした第1キャピラリーシール部50を、潤滑流体保持隙間73と連通して軸受部材20の外周面とシール部材30の内周面との間に形成したので、第1キャピラリーシール部50内の潤滑油80には、毛細管現象によって、軸方向上側に吸引する力が作用し、流体動圧軸受装置外部への潤滑油80の漏出を防止することができる。したがって、潤滑油80の保持量の低下を防止することができるとともに、該流体動圧軸受装置1を備えた記録ディスク駆動装置の装置内汚染を防止することができる。また、潤滑油80の液面を第1キャピラリーシール部50内に位置させることができるので、潤滑油80の液面を安定して均一に形成することができ、これにより第1キャピラリーシール部50および潤滑油保持隙間73に保持された余裕分の潤滑油80をラジアル軸受部やスラスト軸受部に確実に供給することができる。
【0052】
さらに、第1実施形態によれば、第1キャピラリーシール部50は、従来のようなスピンドルモータのロータハブを用いることなく、軸受装置単独で構成されるので、従来のようにロータハブを用いた軸受装置で生じていた問題を解消することができる。加えて、潤滑油保持隙間73を第1キャピラリーシール部50と連通させて、軸受部材20の上端面とシール部材30の底部31の内側面との間に形成したので、第1キャピラリーシール部50と軸受部材20の上端面全体を潤滑油保持空間として用いることができる。その結果、従来のような回転軸の外周面と軸受部材の内周面との間の隙間の開口面に形成されたキャピラリーシール部と異なり、キャピラリーシール部を軸方向に長くすることなく、かつ従来のような薄板と軸受部材の上端面の間に形成されたキャピラリーシール部と異なり、軸受部材の直径を大きくすることなく、余裕分の潤滑油80の保持量を増加させることができる。余裕分の潤滑油80の保持量が増えると、潤滑油の自然蒸発による潤滑油不足で軸受寿命が尽きるまでの時間が延びる。したがって、流体動圧軸受装置1の長寿命化および小型化を図ることができる。
【0053】
また、第1実施形態の流体動圧軸受装置1では、第2キャピラリーシール部60内の潤滑油80には、毛細管現象によって、軸方向下側に吸引される力が作用するから、装置外部への潤滑流体の漏出をさらに防止することができる。
【0054】
また、第1キャピラリーシール部50は、大気と連通する開口部として通気孔32aを用いることができるので、従来よりもキャピラリーシール部の開口面積を小さくすることができ、これにより潤滑油80の蒸発や漏出、異物混入を抑制することができる。したがって、潤滑油80の保持量の低下および流体動圧軸受装置1を備えた記録ディスク駆動装置の装置内汚染をさらに防止することができる。
【0055】
さらに、潤滑流体保持隙間73は、半径方向外側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしているため、潤滑油保持隙間73内の潤滑油80に、毛細管現象によって、半径方向内側に吸引される力が作用し、潤滑油保持隙間73に連通する第1キャピラリーシール部50内の潤滑油80には軸方向上側に吸引される力がさらに作用することになるから、装置外部への潤滑油80の漏出をより効果的に防止できる。
【0056】
加えて、突起部31bを軸受部材20の上端面に当接させてシール部材30の軸方向の位置決めを行うことによって、第1キャピラリーシール部50および潤滑油保持隙間73を、ばらつきなく、所定の寸法どおりに形成することができる。
【0057】
(2)第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について図2を参照して説明する。図2は、本発明の第2実施形態に係る流体動圧軸受装置2の概略構成を表し、図2(A)は流体動圧軸受装置2の側断面図、図2(B)は、図2(A)の矢視方向Aから見た流体動圧軸受装置2の側面図である。なお、以下の第2実施形態〜第11実施形態では、第1実施形態と同様な構成要素には同符号を付して、その構成・作用の説明は省略する。第2実施形態の流体動圧軸受装置2では、第1実施形態の通気孔32aの代わりに、切欠32bが形成されている。切欠32bは、円筒部32の端部に形成され、その上端位置が第1実施形態の通気孔32aと一致している。第2実施形態では、切欠32bを通じて、潤滑油80の充填量を目視確認することができる。
【0058】
(3)第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態について図3を参照して説明する。図3は、本発明の第3実施形態に係る流体動圧軸受装置3の概略構成を表す側断面図である。第3実施形態の流体動圧軸受装置3では、軸本体部11が小径円筒部15と大径円筒部16とのみからなり、第1実施形態のテーパ部14が省略されている。すなわち、第3実施形態では軸本体部11の大径円筒部16は、上端位置が第1実施形態のテーパ部14の上端位置と一致するような形状をなしている。このようにすることで、テーパ部14の研磨加工がなくなり、回転軸11の加工が容易になる。
【0059】
(4)第4実施形態
次に、本発明の第4実施形態について図4を参照して説明する。図4は、本発明の第4実施形態に係る流体動圧軸受装置4の概略構成を表す側断面図である。第4実施形態では、第1実施形態のシール部材30に、突出孔31aの内周縁に沿って上方へ突出する環状突起部31cが形成されている。これにより、第2キャピラリーシール部60内の潤滑油80の軸方向への移動をさらに許容することができるので、潤滑油80の外部漏出をさらに防止することができる。
【0060】
(5)第5実施形態
次に、本発明の第5実施形態について図5を参照して説明する。図5は、本発明の第5実施形態に係る流体動圧軸受装置5の概略構成を表す側断面図である。第5実施形態の流体動圧軸受装置5は、軸受部材20を内周面に嵌着する中空略円筒状のケース部材90を備えている。ケース部材90は、切削加工により形成されている。閉塞部材40は、ケース部材90の下側開口部91に嵌着され、その上端面はフランジ部12の下面に対向している。ケース部材90の外周面の上端部にはシール部材30が嵌着され、段部92にシール部材30の円筒部32の下端面を当接させることにより、シール部材30の軸方向の位置決めがなされる。このようにして軸方向の位置決めを行うことによって、第1実施形態の突起部31bを形成する手間が省けるので、シール部材30の軸方向の位置決め精度を損なわずに、シール部材30の加工を容易にすることができる。また、ケース部材90に軸受部材20と閉塞部材40を嵌着する構成とすることで、それぞれの部材の形状が単純化されて加工が容易になるとともに、それぞれの部材を標準化して予めストックしておくことによって種々の組み合わせが可能となり、軸受装置の設計変更があっても迅速に対応することができる。これにより、生産コストが低減できる。
【0061】
(6)第6実施形態
次に、本発明の第6実施形態について図6を参照して説明する。図6は、本発明の第6実施形態に係る流体動圧軸受装置6の概略構成を表す側断面図である。第6実施形態は、第5実施形態の変形例である。第6実施形態の流体動圧軸受装置6では、第5実施形態のケース部材90の段部92を省略して、軸受部材20の外周にシール部材30を嵌着するとともに、ケース部材90の上端面90aにシール部材30の円筒部32の下端面を当接させることにより、シール部材30の軸方向の位置決めを行っている。これにより、シール部材30の軸方向の位置決め精度を損なわずに、第5実施形態のケース部材90の段部92を形成する手間が省けるので、ケース部材90の加工を容易にすることができる。
【0062】
(7)第7実施形態
次に、本発明の第7実施形態について図7を参照して説明する。図7は、本発明の第7実施形態に係る流体動圧軸受装置7の概略構成を表す側断面図である。第7実施形態は、第5実施形態の変形例である。第7実施形態の流体動圧軸受装置7は、有底円筒状のケース部材90を備えている。ケース部材90は、第5実施形態の閉塞部材40とケース部材90とが一体的に形成された部材である。また、流体動圧軸受装置7は、軸受部材20の下端面とケース部材90の底部の上側面との間に、回転軸10のフランジ部12が係合する係合隙間101が形成されるように、スペーサ100(スペーサ部材)を備えている。また、流体動圧軸受装置7では、第1実施形態の軸受部材20の上端面に形成されたテーパ面20dの代わりに、シール部材30の底部31の内側面に、突出孔31aから半径方向外側に向かうに従って軸方向に上がっていくテーパ面31dが形成されている。さらに、第1実施形態の軸受部材20の外周面上側に形成されたテーパ面20cの代わりに、シール部材30の円筒部32の内側面に、テーパ面31dから軸方向下側に向かうに従って拡径するテーパ面32bが形成されている。また、ケース部材90の外周面の上端部に嵌着される円筒部32の下端部の内側には、テーパ面31dと接続する円筒面が形成されている。このような構成によって、軸受部材20のテーパ面や段部が省略され、外周面がストレートな円筒となるので、さらに加工が容易となる。また、第5実施形態と同様にして、ケース部材90や軸受部材20に加えてスペーサ100も標準化して予めストックしておくことによって、さらに迅速に設計変更への対応を行うことができる。
【0063】
(8)第8実施形態
次に、本発明の第8実施形態について図8を参照して説明する。図8は、本発明の第8実施形態に係る流体動圧軸受装置8の概略構成を表す側断面図である。第8実施形態は、第1実施形態の変形例である。第8実施形態では、第1実施形態における回転軸10のフランジ部12の上面に対向する軸受部材20の下端面に、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させるスラスト動圧溝20eが形成されている。このような形態では、フランジ部12の上面で発生するスラスト方向の動圧によってフランジ部12の下面で発生するスラスト方向の動圧がバランスされるので、回転軸10が過浮上なく安定して回転できる。
【0064】
(9)第9実施形態
次に、本発明の第9実施形態について図9を参照して説明する。図9は、本発明の第9実施形態に係る流体動圧軸受装置9の概略構成を表す側断面図である。流体動圧軸受装置9は、軸受部材20を内周面に嵌着する中空円筒状のケース部材90を備えている。ケース部材90は、絞り加工あるいは伸管加工によって形成されているので、第5実施形態のケース部材よりも安価である。閉塞部材40は、ケース部材90の下側開口部91に嵌着され、その上端面は回転軸10のフランジ部12の下面に対向している。そして、軸受部材20の下端面と閉塞部材40の上端面との間には、フランジ部12が係合するための係合隙間101が形成されるように、スペーサ100が設けられている。
【0065】
また、軸受部材20の外周面とシール部材30の内周面に、互いに対向する周溝20f、32cが形成されている。周溝20f、32cは、第1キャピラリーシール部50の液面よりも下方で、かつシール部材30の通気孔32aよりも上方に位置している。周溝20fよりも下方に位置する軸受部材20の外周面と、周溝32cよりも下方に位置するシール部材30の内周面には、撥油剤110が塗布されている。撥油剤110は、たとえばフッ素系材料からなる。
【0066】
軸受部材20の外周面には溜まり部用周溝111(接着剤溜まり部用周溝)が形成されている。溜まり部用周溝111の上端部外周面とシール部材30の円筒部32の端部内周面との間には、接着剤の第1溜まり部121が形成されている。周溝111の下端部外周面とケース部材90の上端部内周面との間には、接着剤の第2溜まり部122が形成されている。シール部材30は、第1溜まり部121に充填された接着剤により、軸受部材20に固定されている。ケース部材90は、第2溜まり部122に充填された接着剤により、軸受部材20に固定されている。
【0067】
第9実施形態では、外部からの衝撃や振動により、第1キャピラリーシール部50の潤滑油80の液面が下方へ急激に移動しても、周溝20f、32cと撥油剤110によって有効的に塞き止められ、通気孔32aからの潤滑油80の漏出をさらに防止することができる。また、周溝20f、32cは、そればかりではなく、撥油剤110を塗布する際に、その塗布位置の目印の役割をも果たしている。また、第1溜まり部121および第2溜まり部122を互いに近接して、軸受部材20の開口部22から離れた外周面に形成することができるので、接着剤充填時に、接着剤が所定の充填部位以外に付着して、軸受部材20の開口部22から内周面へ接着剤が浸入することを効果的に防止することができる。また、接着剤の充填部位を簡単な構成とすることができる。さらに、接着剤の充填を一度で行うことができるので、充填作業が容易となる。
【0068】
(10)第10実施形態
(B)スピンドルモータ
次に、第1実施形態〜第9実施形態の流体動圧軸受装置1〜9が適用されたスピンドルモータについて説明する。図11は、第1実施形態の流体動圧軸受装置1が適用された第10実施形態のスピンドルモータ200の概略構成を表す側断面図である。なお、スピンドルモータ200には、第1実施形態の流体動圧軸受装置1に限らず、第2実施形態〜第9実施形態の流体動圧軸受装置2〜9も適用することができるのは言うまでもない。
【0069】
スピンドルモータ200は、基台210を備えている。基台210の底部には、上方に突出するボス部302が形成され、その外周部には、ステータコア221にコイル222が捲回されてなるステータ220が固定されている。また、ボス部302の内周面には流体動圧軸受装置1が嵌着され、この流体動圧軸受装置1によって、ロータ230がステータ220に対して相対回転自在に支持されている。ロータ230は、ロータハブ231と、ロータハブ231に嵌着されるとともにステータ220と協働して回転磁界を発生するロータマグネット232とを有する。ロータハブ231は、回転軸10の小径部円筒部15に嵌着され、テーパ部14の端面に当接されることによって、軸方向に位置決めされている。基台210には、わずかな軸方向隙間を介してロータマグネット232の下端部に対向する、環状の吸引板240が固定されている。吸引板240はロータ230全体を磁気力で吸引する機能を有している。
【0070】
また、回転軸10の上端部の内部には、詳細には図示されないが、ねじ孔が形成されており、記録ディスクを固定するクランプ部材がこのねじ孔によってねじ止めされる。さらに、基台210の下面には、フレキシブル配線基板が固着されており、この配線基板の出力端より制御電流がステータ220に供給されることにより、ロータハブ231、ロータマグネット232、回転軸10等からなるロータ組立体がステータ220に対して回転を始める。
【0071】
上記のようなスピンドルモータ200では、ロータ組立体は、回転軸10が回転するにしたがって、流体動圧軸受装置1内のスラスト動圧溝40aで発生するスラスト動圧力が作用する方向とは反対側の軸方向に磁気力で吸引され、スラスト動圧溝40aで発生するスラスト動圧力が上記磁気力と重力との合力とバランスすることによって、過浮上なく安定的に支持されている。
【0072】
なお、第1実施形態の流体動圧軸受装置1の代わりに、第8実施形態の流体動圧軸受装置8をスピンドルモータ200に適用した場合、流体動圧軸受装置8は互いにバランスし合う1対のスラスト動圧軸受20e,40aを有するから、ロータ230を磁気力で吸引するための吸引板240を設ける必要がない。したがって、部品点数が少なくて済む。
【0073】
(11)第11実施形態
(C)記録ディスク駆動装置
次に、第10実施形態のスピンドルモータ200が適用された記録ディスク駆動装置としての磁気ディスク駆動装置300について説明する。図12は、第11実施形態の記録ディスク駆動装置300の概略構成を表す側断面図である。磁気ディスク駆動装置300には、第10実施形態のスピンドルモータ200の基台210内を密閉して塵・埃等が極度に少ないクリーンな空間を形成するカバー部材301が設けられている。カバー部材301と基台210とにより、磁気ディスク駆動装置300の筐体が形成される。したがって、基台210はスピンドルモータ200の一部と磁気ディスク駆動装置300の筐体の一部を兼ねている。このようにして、スピンドルモータ200のステータ220やロータ230を含むスピンドルモータ200の本体部は、磁気ディスク駆動装置300の筐体内部に収容される。
【0074】
ロータハブ231の外周面には、磁気ディスク304(記録ディスク)が二段に装着されている。磁気ディスク304は、回転軸10の小径円筒部15の軸方向に加工されたねじ孔にセンターピン305を螺合してクランプ部材303を固定することにより、ロータハブ231に固定されている。これにより、磁気ディスク304は、ロータハブ231とともに回転する。なお、第11実施形態では、磁気ディスク304がロータハブ231に2枚装着されているが、磁気ディスクの枚数はこれに限定されるものではない。
【0075】
また、磁気ディスク駆動装置300は、磁気ディスク304に対して情報の書込みおよび/または読出しを実行する磁気ヘッド306(記録ヘッド)と、磁気ヘッド306を支持するアーム307と、磁気ヘッド306およびアーム307を所要の位置に移動させるボイスコイルモータ308とを備えている。ボイスコイルモータ308は、コイル309と、コイル309に対向して設けられたマグネット310を有している。
【0076】
上記の磁気ヘッド306は、基台210の適宜箇所に、旋回自在に支持されたアーム307に固定されたヘッド・スタック・アッセンブリ311の先端部に取り付けられている。磁気ヘッド306は、一枚の磁気ディスク304に対して、磁気ディスク304を挟むように上下一対配置され、磁気ディスク304の両面に対して情報の書き込みおよび/または読み出しを行うことができる。なお、第11実施形態では磁気ディスク304が2枚の構成となっているため、記録ヘッド306は2対設けられている。また、第11実施形態では、スピンドルモータ200を磁気ディスク駆動装置300に適用したが、これに限定されるものではない。たとえば、スピンドルモータ200を、CDやDVD等の記録ディスクを駆動する記録ディスク駆動装置に適用してもよい。
【実施例】
【0077】
以下、具体的な実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【0078】
(1)軸受部材上端面における潤滑油の液面状態の評価
[実施例1]
実施例1は、液面状態の観察が可能なように透明な樹脂製シール部材が装着された、本発明の第1実施形態と同じシール構造を有する、観察用流体動圧軸受装置である。したがって、実施例1の観察用流体動圧軸受装置には、第1実施形態で説明した充填方法に従って潤滑油を充填した。すなわち、樹脂製シール部材以外の部材を全て組立てた状態の、半完成の観察用流体動圧軸受装置の軸受部材内部を真空に近い状態にし、ディスペンサーを用いて軸受部材上端面に潤滑油を規定量だけ供給し、軸受隙間の開口部と連通孔とを潤滑油で覆うようにした後、軸受部材の外部を大気圧に戻し、外圧と内圧の差により軸受隙間内と連通孔内に潤滑油を連続的に充填した。この段階では、まだ、第1キャピラリーシール部、潤滑油保持隙間および第2キャピラリーシール部を充填するために必要な量の潤滑油が、表面張力によって液面が盛り上がった状態で軸受部材の上端面に保持されている。次いで、シール部材を軸受部材に嵌着して、軸方向の位置決めを行い、第1キャピラリーシール部の所定の位置に液面を形成した。その結果を図13に示す。図13は、実施例1の観察用流体動圧軸受装置の側面の写真であり、軸受部材とシール部材との間の潤滑油の液面を示している。図13で示すように、実施例1では、第1キャピラリーシール部の全周に亘って、軸方向の同じ位置に潤滑油の液面が形成されていることが確認できた。このような確認を複数回行ったが、いずれも同じ結果が得られた。すなわち、実施例1では、第1キャピラリーシール部の全周にわたって、安定して均一な潤滑油の液面を形成することができた。
【0079】
[比較例1、2]
実施例1と同じ観察用軸受装置を用いて、軸受部材の上端面に液面が形成されるよう、実施例1の規定量よりも少ない量の潤滑油を、実施例1と同じ充填方法で充填し、液面の状態を確認した。その結果を図14、15に示す。図14、15は、比較例1,2の流体動圧軸受装置の上面の写真であり、軸受部材の上端面の潤滑油の液面がなす輪郭形状を示している。このような場合、軸受部材の穴中心から半径方向のほぼ同じ位置に液面が形成された状態、すなわち前記輪郭形状が真円に近い形状であれば、均一な潤滑油の液面が形成された、とすることができる。比較例1、2では、いずれも、規定量よりも少ないが、軸受部材の上端面に液面が形成されるために必要な量を充填した。しかしながら、図14、15から判るように、潤滑油の液面が不均一に形成され、上面から見た液面の輪郭はいびつな形状をなし、いつも同じように形成されなかった。図14では、中心孔縁の一部で液面の輪郭が不連続となっている。図15では、図14よりも若干多い量の潤滑油を充填してみたが、連通孔が潤滑油で覆われず、さらに、中心孔縁の一部に気泡が入って、潤滑油が不連続に充填された状態となってしまった。このような状態では、軸部材の回転時に、潤滑油に空気が混入したり、軸受隙間内への潤滑油の十分な供給が損なわれたりして、軸受装置が焼付きを起こす虞がある。
【0080】
以上のように、実施例1は、比較例1、2と比較して、安定して均一な潤滑油の液面を形成することができ、軸受装置内部に保持されている潤滑油の、ラジアル軸受部およびスラスト軸受部への供給を確実に行うことができることが判った。また、潤滑油充填時に軸受部材の上端面に液面が形成される形態では、たとえ軸受装置内部に十分な量の潤滑油が保持されていても、不連続的に充填された状態が発生し、回転時にラジアル軸受部およびスラスト軸受部への空気の混入や潤滑油の供給不足が発生しやすくなり、流体動圧軸受装置の寿命が早期に尽きてしまう可能性があることが判った。したがって、第1キャピラリーシール部に液面が形成されるように潤滑油を充填すると、長寿命化とともに、安定した軸受寿命を得ることができる。
【0081】
(2)スピンドルモータの衝撃試験結果
[実施例2〜19]
本発明の第9実施形態の流体動圧軸受装置9を備えたスピンドルモータで衝撃試験を行った。実施例2〜10では、本発明の第9実施形態のスピンドルモータに対して静止状態で衝撃を与え、実施例11〜19では、本発明の第9実施形態のスピンドルモータに対して回転状態で衝撃を与え、衝撃力に対する潤滑油の飛散流出防止効果を確認した。実施例2〜10の衝撃試験結果を表1、実施例11〜19の衝撃試験結果を表2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
衝撃試験では、試験機として、Endevco社製のSM110式の衝撃試験機を用いた。試験条件としては、スピンドルモータの上記試験機への組付け姿勢を、表1,2に示すように、上向き、下向き、横向きの3方向とした。組付け姿勢が上向き、下向き、横向きとは、流体動圧軸受装置の軸受部材の上側開口部が上向き、下向き、横向きであることを意味している。また、衝撃は、上から下方向に印加されるものとし、衝撃の大きさは、最高加速度の大きさで計り、800Gから1500Gまでを5段階に分けて、試験を行なった。加速度は、印加時間1msの間に加速度ゼロから最高加速度まで増加した後、再び加速度ゼロに戻る半正弦波とした。このような試験方法は、流体動圧軸受装置内の潤滑油の流出移動の大きさが、衝撃の大きさや、衝撃の印加方向に対する流体動圧軸受装置の姿勢などで左右されるものであるから、これらの要因を考慮した方法である。
【0085】
試験品としては、本発明の第9実施形態の流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータを18個(実施例2〜実施例19)用意し、静止状態で9個、回転している状態で9個の試験品を、上向き、下向き、横向きの組付け姿勢でそれぞれ3個ずつに分け、各試験品に対して5つの加速度レベルの衝撃試験を繰り返し行なった。
【0086】
なお、実施例2〜実施例19において、試験は、小さい衝撃(加速度)印加から大きい衝撃(加速度)印加の順序で実施した。これは、この順に、衝撃に対する潤滑油の位置安定性の条件がよりシビアになるからである。また、衝撃試験は、最大1500Gの加速度まで、或いは試験品にオイル漏れが認められるまでの、いずれか早く起きた方まで実施した。
【0087】
試験結果は、表1、2から明らかなように、静止状態では1500Gの衝撃でも潤滑油漏れが認められず、回転している状態でも1400Gの衝撃までは潤滑油漏れが起きなかった。従来、ノートパソコンや携帯端末などに磁気ディスク装置、CD−ROM装置等を搭載する場合、流体動圧軸受装置を具備したスピンドルモータに対する耐衝撃要求は1000G程度であるが、本発明の第9実施形態のシール構造は、それ以上の衝撃を受けた場合においても、優れた潤滑油の飛散流出防止効果を示すものである。尚、表において、「オイル漏れ」の表示は、その試験でオイル漏れが実際に確認されたことを表し、「OK」の表示は、その試験でオイル漏れが生じなかったことを表している。オイル漏れの有無の確認は、顕微鏡による目視検査で行った。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表し、(A)は流体動圧軸受装置の側断面図、(B)は、(A)の矢視方向Aから見た流体動圧軸受装置の側面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表し、(A)は流体動圧軸受装置の側断面図、(B)は、(A)の矢視方向Aから見た流体動圧軸受装置の側面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図6】本発明の第6実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図7】本発明の第7実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図8】本発明の第8実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図9】本発明の第9実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略構成を表す側断面図である。
【図10】図1の流体動圧軸受装置に設けられたシール部材の概略構成を表し、(A)は、シール部材の底部の上面図、(B)は、(A)のA−A線断面図である。
【図11】図1の流体動圧軸受装置が適用されたスピンドルモータの概略構成を表す側断面図である。
【図12】図11のスピンドルモータが適用された磁気ディスク駆動装置の概略構成を表す側断面図である。
【図13】本発明の実施例1の流体動圧軸受装置の側面の写真であり、潤滑油の液面の形成状態を示している。
【図14】本発明の比較例1の流体動圧軸受装置の上面の写真であり、潤滑油の液面の形成状態を示している。
【図15】本発明の比較例2の流体動圧軸受装置の上面の写真であり、潤滑油の液面の形成状態を示している。
【図16】流体動圧軸受装置のキャピラリーシール部の従来例の概略構成を表す側断面図であり、(A)は流体動圧軸受装置の全体図、(B)は(A)のキャピラリーシール部の部分拡大図である。
【図17】流体動圧軸受装置のキャピラリーシール部の他の従来例の概略構成を表す側断面図である。
【図18】流体動圧軸受装置のキャピラリーシール部の他の従来例の概略構成を表す側断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1〜9…流体動圧軸受装置、10…回転軸(軸部材)、20…軸受部材、20a…ラジアル動圧溝、20e…スラスト動圧溝(第2スラスト動圧溝)、20f,32c…周溝、30…シール部材、31…底部、31a…突出孔、31b…突起部、31c…環状突起部、32…円筒部、32a…通気孔、32b…切欠、40…閉塞部材、40a…スラスト動圧溝(第1スラスト動圧溝)、50…第1キャピラリーシール部、60…第2キャピラリーシール部、71…ラジアル軸受隙間(軸受隙間)、72…スラスト軸受隙間(軸受隙間)、73…潤滑油保持隙間(潤滑流体保持隙間)、80…潤滑油(潤滑流体)、90…ケース部材、92…段部、100…スペーサ(スペーサ部材)、101…係合隙間、110…撥油剤、111…溜まり部用周溝、121…第1溜まり部、122…第1溜まり部、200…スピンドルモータ、210…基台、220…ステータ、230…ロータ、231…ロータハブ、232…ロータマグネット、300…磁気ディスク駆動装置(記録ディスク駆動装置)、304…磁気ディスク(記録ディスク)、306…磁気ヘッド(記録ヘッド)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端部にフランジ部を有する軸部材と、
前記軸部材を相対回転自在に支承する中空略円筒状の軸受部材と、
前記軸部材の上端部が突出する突出孔を底部に有し、前記軸受部材の上端部を覆うようにして設けられた有底円筒状のシール部材と、
前記軸受部材の下端部を閉塞する閉塞部材と、
前記軸部材と前記軸受部材との間、および前記軸部材と前記閉塞部材との間の、それぞれに形成された動圧溝を含む軸受隙間と
を備え、
前記軸部材の外周面と前記軸受部材の内周面とのいずれか一方には、ラジアル方向の荷重を受ける動圧を発生させるためのラジアル動圧溝が形成され、
前記フランジ部の下面と前記閉塞部材の上面とのいずれか一方には、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させるための第1スラスト動圧溝が形成され、
前記軸受部材の上端面と前記シール部材の底部の内側面との間に潤滑流体保持隙間が形成され、
前記軸受部材の外周面と前記シール部材の内周面との間には、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした第1キャピラリーシール部が形成され、
前記軸部材の外周面と前記突出孔の内周面との間には、第2キャピラリーシール部が形成され、
前記軸受部材の端面には、前記軸受隙間と前記潤滑流体保持隙間を連通する連通孔が前記軸受部材を軸方向に貫通して形成され、
互いに連通する前記軸受隙間、前記第2キャピラリーシール部、前記連通孔、前記潤滑流体保持隙間、および前記第1キャピラリーシール部には、連続的に潤滑流体が充填されており、
前記シール部材の円筒部には、前記第1キャピラリーシール部に充填されている前記潤滑流体の液面よりも軸方向下側に位置している通気孔が形成されていることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記第2キャピラリーシール部は、軸方向上側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしていることを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記潤滑流体保持隙間は、半径方向外側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしていることを特徴とする請求項1または2に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記突出孔の内周縁部に沿って外部へ突出する環状突起部を形成し、前記第2キャピラリーシール部を軸方向上側に延在させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
前記シール部材の底部の内側面には、3個以上の突起部が形成され、
前記突起部を前記軸受部材の上端面に当接させることによって、前記シール部材の軸方向の位置決めを行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
前記軸受部材の外周面と前記シール部材の内周面のそれぞれに、互いに対向する周溝が形成され、
前記周溝は、前記第1キャピラリーシール部における前記潤滑流体の液面より軸方向下側で、かつ前記シール部材の前記通気孔より軸方向上側に位置していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項7】
前記軸受部材の外周面と前記シール部材の内周面のいずれにも、前記周溝より軸方向下側に撥油剤が塗布されていることを特徴とする請求項6に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項8】
前記通気孔は、前記シール部材の円筒部の下端面まで軸方向下側に延在して形成された切欠であるとともに、前記潤滑流体の液面位置を視認するための視認窓の機能を兼ね備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項9】
全長が前記軸受部材よりも短い中空円筒状のケース部材を備え、
前記軸受部材が、その上端部を突出させて、前記ケース部材の内周面に嵌着されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項10】
前記軸受部材の上端部の外周面に嵌着された前記シール部材を前記ケース部材の上端面に当接させることによって、前記シール部材の軸方向の位置決めを行うことを特徴とする請求項9に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項11】
前記ケース部材の上端部外周面には段部が形成され、
前記ケース部材の上端部外周面に嵌着された前記シール部材の円筒部の下端面を前記段部に当接させることによって、前記シール部材の軸方向の位置決めを行うことを特徴とする請求項9に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項12】
全長が前記軸受部材よりも短い中空円筒状のケース部材を備え、
前記軸受部材が、その上端部を突出させて、前記ケース部材の内周面に嵌着され、
前記シール部材が、前記軸受部材の上端部外周面に嵌着され、
前記軸受部材の外周面と前記ケース部材の上端部内周面との間には、接着剤の第1溜まり部が形成され、
前記軸受部材の外周面と前記シール部材の下端部内周面との間には、接着剤の第2溜まり部が形成され、
前記第1溜まり部と前記第2溜まり部のそれぞれには接着剤が充填され、
前記ケース部材と前記シール部材のそれぞれが、前記接着剤によって前記軸受部材に固定されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項13】
前記軸受部材の外周面には、接着剤溜まり部用周溝が形成され、
前記接着剤溜まり部用周溝と前記ケース部材の上端部内周面との間に前記接着剤の第1溜まり部が形成され、前記接着剤溜まり部用周溝と前記シール部材の下端部内周面との間に前記接着剤の第2溜まり部が形成されていることを特徴とする請求項12に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項14】
前記ケース部材は、前記閉塞部材と一体的に形成された有底円筒状部材からなることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項15】
前記ケース部材は、絞り加工あるいは伸管加工により形成されていることを特徴とする請求項9〜14のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項16】
前記シール部材は、絞り加工により形成されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項17】
前記軸受部材と前記閉塞部材の間には、前記軸部材の前記フランジ部が係合する係合隙間を形成するためのスペーサ部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項18】
互いに対向する前記軸受部材の下端面および前記フランジ部上端面のいずれか一方に、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させる第2スラスト動圧溝が形成されていることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項19】
基台と、
前記基台に固定されたステータと、
ロータハブと、前記ロータハブに嵌着されるとともに前記ステータと協働して回転磁界を発生するロータマグネットとを有するとともに、前記基台に対して相対回転自在に設けられたロータと、
前記ロータの回転を支持する流体動圧軸受装置と、
を備え、
前記流体動圧軸受装置は、請求項1〜17に記載の流体動圧軸受装置であり、
前記ロータは、前記流体動圧軸受装置内の第1スラスト動圧溝で発生するスラスト動圧が作用する方向に対して軸方向反対側に磁気力によって吸引されていることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項20】
基台と、
前記基台に固定されたステータと、
ロータハブと、前記ロータハブに嵌着されるとともに前記ステータと協働して回転磁界を発生するロータマグネットとを有するとともに、前記基台に対して相対回転自在に設けられたロータと、
このロータの回転を支持する流体動圧軸受装置と、
を備え、
前記流体動圧軸受装置は、請求項18に記載の流体動圧軸受装置であることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項21】
記録ディスクと、
前記記録ディスクに情報の書き込みおよび/または読み出しを実行する記録ヘッドと、
前記記録ディスクを回転駆動するためスピンドルモータと、
を備え、
前記スピンドルモータは、請求項19または20に記載のスピンドルモータであることを特徴とする記録ディスク駆動装置。
【請求項1】
下端部にフランジ部を有する軸部材と、
前記軸部材を相対回転自在に支承する中空略円筒状の軸受部材と、
前記軸部材の上端部が突出する突出孔を底部に有し、前記軸受部材の上端部を覆うようにして設けられた有底円筒状のシール部材と、
前記軸受部材の下端部を閉塞する閉塞部材と、
前記軸部材と前記軸受部材との間、および前記軸部材と前記閉塞部材との間の、それぞれに形成された動圧溝を含む軸受隙間と
を備え、
前記軸部材の外周面と前記軸受部材の内周面とのいずれか一方には、ラジアル方向の荷重を受ける動圧を発生させるためのラジアル動圧溝が形成され、
前記フランジ部の下面と前記閉塞部材の上面とのいずれか一方には、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させるための第1スラスト動圧溝が形成され、
前記軸受部材の上端面と前記シール部材の底部の内側面との間に潤滑流体保持隙間が形成され、
前記軸受部材の外周面と前記シール部材の内周面との間には、軸方向下側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなした第1キャピラリーシール部が形成され、
前記軸部材の外周面と前記突出孔の内周面との間には、第2キャピラリーシール部が形成され、
前記軸受部材の端面には、前記軸受隙間と前記潤滑流体保持隙間を連通する連通孔が前記軸受部材を軸方向に貫通して形成され、
互いに連通する前記軸受隙間、前記第2キャピラリーシール部、前記連通孔、前記潤滑流体保持隙間、および前記第1キャピラリーシール部には、連続的に潤滑流体が充填されており、
前記シール部材の円筒部には、前記第1キャピラリーシール部に充填されている前記潤滑流体の液面よりも軸方向下側に位置している通気孔が形成されていることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記第2キャピラリーシール部は、軸方向上側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしていることを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記潤滑流体保持隙間は、半径方向外側に向かうに従って拡開する断面テーパ状をなしていることを特徴とする請求項1または2に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記突出孔の内周縁部に沿って外部へ突出する環状突起部を形成し、前記第2キャピラリーシール部を軸方向上側に延在させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
前記シール部材の底部の内側面には、3個以上の突起部が形成され、
前記突起部を前記軸受部材の上端面に当接させることによって、前記シール部材の軸方向の位置決めを行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
前記軸受部材の外周面と前記シール部材の内周面のそれぞれに、互いに対向する周溝が形成され、
前記周溝は、前記第1キャピラリーシール部における前記潤滑流体の液面より軸方向下側で、かつ前記シール部材の前記通気孔より軸方向上側に位置していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項7】
前記軸受部材の外周面と前記シール部材の内周面のいずれにも、前記周溝より軸方向下側に撥油剤が塗布されていることを特徴とする請求項6に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項8】
前記通気孔は、前記シール部材の円筒部の下端面まで軸方向下側に延在して形成された切欠であるとともに、前記潤滑流体の液面位置を視認するための視認窓の機能を兼ね備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項9】
全長が前記軸受部材よりも短い中空円筒状のケース部材を備え、
前記軸受部材が、その上端部を突出させて、前記ケース部材の内周面に嵌着されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項10】
前記軸受部材の上端部の外周面に嵌着された前記シール部材を前記ケース部材の上端面に当接させることによって、前記シール部材の軸方向の位置決めを行うことを特徴とする請求項9に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項11】
前記ケース部材の上端部外周面には段部が形成され、
前記ケース部材の上端部外周面に嵌着された前記シール部材の円筒部の下端面を前記段部に当接させることによって、前記シール部材の軸方向の位置決めを行うことを特徴とする請求項9に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項12】
全長が前記軸受部材よりも短い中空円筒状のケース部材を備え、
前記軸受部材が、その上端部を突出させて、前記ケース部材の内周面に嵌着され、
前記シール部材が、前記軸受部材の上端部外周面に嵌着され、
前記軸受部材の外周面と前記ケース部材の上端部内周面との間には、接着剤の第1溜まり部が形成され、
前記軸受部材の外周面と前記シール部材の下端部内周面との間には、接着剤の第2溜まり部が形成され、
前記第1溜まり部と前記第2溜まり部のそれぞれには接着剤が充填され、
前記ケース部材と前記シール部材のそれぞれが、前記接着剤によって前記軸受部材に固定されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項13】
前記軸受部材の外周面には、接着剤溜まり部用周溝が形成され、
前記接着剤溜まり部用周溝と前記ケース部材の上端部内周面との間に前記接着剤の第1溜まり部が形成され、前記接着剤溜まり部用周溝と前記シール部材の下端部内周面との間に前記接着剤の第2溜まり部が形成されていることを特徴とする請求項12に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項14】
前記ケース部材は、前記閉塞部材と一体的に形成された有底円筒状部材からなることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項15】
前記ケース部材は、絞り加工あるいは伸管加工により形成されていることを特徴とする請求項9〜14のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項16】
前記シール部材は、絞り加工により形成されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項17】
前記軸受部材と前記閉塞部材の間には、前記軸部材の前記フランジ部が係合する係合隙間を形成するためのスペーサ部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項18】
互いに対向する前記軸受部材の下端面および前記フランジ部上端面のいずれか一方に、スラスト方向の荷重を受ける動圧を発生させる第2スラスト動圧溝が形成されていることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項19】
基台と、
前記基台に固定されたステータと、
ロータハブと、前記ロータハブに嵌着されるとともに前記ステータと協働して回転磁界を発生するロータマグネットとを有するとともに、前記基台に対して相対回転自在に設けられたロータと、
前記ロータの回転を支持する流体動圧軸受装置と、
を備え、
前記流体動圧軸受装置は、請求項1〜17に記載の流体動圧軸受装置であり、
前記ロータは、前記流体動圧軸受装置内の第1スラスト動圧溝で発生するスラスト動圧が作用する方向に対して軸方向反対側に磁気力によって吸引されていることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項20】
基台と、
前記基台に固定されたステータと、
ロータハブと、前記ロータハブに嵌着されるとともに前記ステータと協働して回転磁界を発生するロータマグネットとを有するとともに、前記基台に対して相対回転自在に設けられたロータと、
このロータの回転を支持する流体動圧軸受装置と、
を備え、
前記流体動圧軸受装置は、請求項18に記載の流体動圧軸受装置であることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項21】
記録ディスクと、
前記記録ディスクに情報の書き込みおよび/または読み出しを実行する記録ヘッドと、
前記記録ディスクを回転駆動するためスピンドルモータと、
を備え、
前記スピンドルモータは、請求項19または20に記載のスピンドルモータであることを特徴とする記録ディスク駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−162029(P2006−162029A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358324(P2004−358324)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】
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