説明

流体吐出装置および流体吐出方法

【課題】 ノズル孔径の微細化を図るとともに、高速吐出が可能で、長時間目詰まりなく安定して一定濃度の吐出液を吐出できる流体吐出方法を提供する。
【解決手段】 ノズル4内のインク2に対して静電界を印加するための静電界印加用電極9と、記録媒体8に電圧を印加する対向電極7とを備え、インク2と記録媒体8との間に発生する電界により、インク2をインク吐出孔4bから記録媒体8に吐出させる静電吸引型流体吐出装置において、ノズル4(ノズル吐出孔4b)の孔径をφ0.01μm〜φ25μmとするとともに、インク2として導電率が10−7(S/m)以上のものを使用し、静電界印加用電極9に印加される駆動電圧として正負両極性に反転する両極性電圧を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の流体を帯電させ、その流体をノズルから基板や記録媒体などの対象物上に静電吸引方式で吐出する流体吐出装置および流体吐出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インク等の流体を対象物(例えば記録媒体)上に吐出する流体ジェット方式には、インクジェットプリンタとして実用化されているピエゾ方式やサーマル方式などの方式がある。また、その他の方式として、吐出する流体に電界を印加してノズルから吐出させる静電吸引方式がある。
【0003】
このような静電吸引方式の流体吐出装置(以下、静電吸引型流体吐出装置と称する)の特徴としては、例えば特許文献1に記載されているように、含有粒子を電気泳動により吐出口へ集中させて排出することにより、吐出液に高濃度で粒子を含有させることができる点が挙げられる。また、特許文献1には、吐出液を記録体へ飛翔させる際に、上記含有粒子を電気泳動によって吐出口へ集中させるための電極に対する稼動電圧を予め低減制御することにより、飛翔する粒子の安定化を図り、印字速度を向上させる技術が記載されている。
【0004】
また、他の特徴としては、例えば特許文献2に開示されているように、ノズル径を小さくすることにより、1plを下回るような微小量の流体の吐出も可能である点が挙げられる。
【特許文献1】特開平8−174815号公報(1996年7月9日公開)
【特許文献2】特開2004−165587号公報(2004年6月10日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示されている流体吐出装置(超微細流体ジェット装置)には、周波数応答性が悪いという問題点がある。つまり、特許文献2では、ノズル径約2μmのガラス製ノズルからハリマ化成(株)製の銀ナノペーストを吐出させているが、この場合、peak to peakで600Vを吐出印加電圧として用いると、1kHzではOFF状態(吐出ができない状態)となってしまう。
【0006】
ところで、特許文献2の開示内容によれば、周波数応答性は、流体の帯電に関する時間応答、すなわち誘電応答と関係しており、誘電緩和時間をτ、流体の誘電率をε、流体の導電率をσとすると、τ=ε/σで表わされる。そして、特許文献2には、高応答化するためには、流体の誘電率を下げること、流体の導電率を高めることが有効であると記載されている。
【0007】
しかしながら、物性としての導電率の向上は、誘電率の上昇を伴うのが一般的であり、流体の誘電率を下げ、流体の導電率を高めるための具体策がないのが現状である。
【0008】
そこで、特許文献1のように、吐出流体中に含まれる含有粒子を電気泳動によって吐出口へ集中させる構成とし、吐出液を記録体へ飛翔させる際に、含有粒子を電気泳動させるための電極に対する稼動電圧を予め低減制御することにより、飛翔する粒子の安定化を図り、応答性(応答速度)を向上させることが考えられる。
【0009】
しかしながら、この技術を、特許文献2のように、先端径がφ0.01μm〜φ25μmといった小ノズル径のノズルを用いる構成に適用する場合、粒子を電気泳動させるための電極に対する稼動電圧を予め低減制御するだけでは、ノズル先端部における粒子の濃度変化あるいは凝集を長時間にわたって適切に防止することができないという問題がある。すなわち、吐出液に含まれる含有粒子のノズル先端部方向への電気泳動が一方向にのみ生じるので、各含有粒子の移動量が累積的に増大して絶対移動量が大きくなる結果、ノズル先端部における含有粒子の濃度が変化し、また、含有粒子が過多の状態となって凝集を発生させてしまう。このため、一定濃度の吐出液を吐出することができず、また、ノズル先端部に詰まりが発生するために連続吐出ができない。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、ノズル(流体吐出孔)孔径の微細化を図るとともに、吐出液(流体)の高速吐出が可能で、長時間目詰まりなく安定して一定濃度の吐出液を吐出できる流体吐出装置および流体吐出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の流体吐出装置は、上記の課題を解決するために、流体を吐出する流体吐出孔と、上記流体に電荷を供給する電極と、上記流体に電荷を供給するための上記電極に印加する電圧を制御する電圧制御手段とを備え、上記流体に電荷を供給することによって上記流体中に含有されている微粒子を上記流体吐出孔方向に電気泳動させ、上記流体を上記流体吐出孔から吐出させる流体吐出装置であって、上記電極に印加する電圧として、正負両極性に反転する両極性電圧を用いることを特徴としている。
【0012】
上記流体に上記微粒子の帯電極性と同極性の電圧のみを印加した場合、上記流体吐出孔では、上記微粒子の濃度が増大し、上記微粒子の凝集が生じるので、吐出応答性が低下する。また、上記微粒子の凝集が進行すると、上記流体吐出孔の目詰まりが生じ、吐出不可能な状態となる。特に、上記流体吐出孔の孔径が小さい場合には、このような問題が顕著になる。
【0013】
これに対して、上記の構成によれば、上記電極に印加する電圧として、正負両極性に反転する両極性電圧を用いている。このように、上記電極に印加する電圧として正負両極性に反転する両極性電圧を用いることで、上記微粒子の移動方向を交互に変更し、上記微粒子の絶対移動距離を小さくすることができる。これにより、上記流体噴出孔における上記微粒子の濃度の増大、および、それによる凝集の発生や目詰まりを防止でき、吐出応答性の低下や、吐出不可能な状態となることを回避できる。したがって、流体噴出孔の孔径の微細化を図るとともに、流体の高速吐出が可能で、長時間目詰まりなく安定して一定濃度の流体を吐出できる流体吐出装置を実現できる。
【0014】
なお、上記流体噴出孔の孔径は、φ0.01μm〜φ25μmであってもよい。上記の構成によれば、このように流体噴出孔の孔径を微細化した場合でも、流体の高速吐出が可能であり、また、長時間目詰まりなく安定して一定濃度の流体を吐出することができる。
【0015】
また、上記電極に印加する電圧として、上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値が、上記流体に含有されている微粒子が凝集する電圧である凝集電圧の絶対値よりも小さい両極性電圧を用いる構成としてもよい。
【0016】
上記電極に、上記微粒子を上記流体吐出孔方向に電気泳動させるための電圧である、上記微粒子の帯電極性と同極性の電圧を印加する際、当該電圧の絶対値が上記凝集電圧の絶対値よりも大きくなると、上記流体吐出孔では上記微粒子が過多の状態となり、凝集が発生する。そして、一度凝集してしまえばその後再分散する可能性は低く、この凝集粒子が詰まりの原因となってしまう。
【0017】
これに対して、上記の構成によれば、上記電極に印加する電圧として、上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値が、上記流体に含有されている微粒子が凝集する電圧である凝集電圧の絶対値よりも小さい両極性電圧を用いている。これにより、上記流体吐出孔に上記微粒子が凝集して再分散できない状態となり、上記流体吐出孔に詰まりが生じること防止できる。したがって、長時間にわたって安定した吐出を行うことができる。
【0018】
また、上記電極に印加する電圧として、上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値が、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値の最大値よりも小さい両極性電圧を用いる構成としてもよい。
【0019】
上記の構成によれば、例えば、上記凝集電圧の絶対値が、上記流体を上記流体吐出孔から吐出させるために必要な電圧の絶対値よりも小さい場合であっても、上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値を上記凝集電圧の絶対値よりも小さくすることで、上記流体吐出孔に上記微粒子が凝集して再分散できない状態となることを防止するとともに、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値の最大値を上記流体を上記流体吐出孔から吐出させるために必要な電圧の絶対値よりも大きくすることで、上記流体を適切に吐出させることができる。
【0020】
また、上記電極に印加する電圧として、上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の累積印加量が、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の累積印加量と略等しい両極性電圧を用いる構成としてもよい。ここで、上記累積印加量は、各極性における電圧印加時間と印加する電圧の絶対値との積である。
【0021】
上記の構成によれば、上記微粒子の帯電極性と逆極性の電圧を印加した時の上記微粒子の移動距離と、上記微粒子の帯電極性と同極性の電圧を印加した時の上記微粒子の移動距離とが逆方向でかつ略等しい距離となり、絶対移動距離をほぼ0にすることができる。したがって、上記流体吐出孔における、上記微粒子の電気泳動による濃度変化、および、上記微粒子の凝集による詰まりを確実に防止し、上記流体を長時間安定して吐出することができる。
【0022】
また、上記電極に印加する電圧として、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値が上記流体を上記流体吐出孔から吐出させるための電圧以下となる期間が、上記流体の上記流体吐出孔における乾燥時間以下となる周波数の両極性信号を用いてもよい。ここで、上記乾燥時間とは、上記流体が吐出されていない場合に、上記ノズル孔において上記流体が乾燥して変性し詰まりの原因となるまでの時間である。
【0023】
上記の構成によれば、上記流体を吐出しない期間が上記流体の乾燥時間以上となることを防止し、上記流体が乾燥することによって硬化し、上記流体吐出孔に目詰まりが生じることを防止できる。
【0024】
また、上記電圧制御手段は、正負同振幅の両極性電圧に直流電圧を加えることにより、上記電極に印加する電圧を制御する構成としてもよい。この場合、上記電極に印加する電圧を容易かつ適切に制御することができる。
【0025】
本発明の流体吐出方法は、上記の課題を解決するために、微粒子を含有する流体に電荷を供給することにより、当該流体を流体吐出孔方向に電気泳動させ、当該流体吐出孔から吐出させる流体吐出方法であって、正負両極性に反転する両極性電圧を用いて上記流体に電荷を供給することを特徴としている。
【0026】
上記の方法によれば、正負両極性に反転する両極性電圧を用いて、上記流体に電荷を供給する。このように、正負両極性に反転する両極性電圧を用いることで、上記微粒子の移動方向を交互に変更し、上記微粒子の絶対移動距離を小さくすることができる。これにより、上記流体吐出孔における上記微粒子の濃度の増大、および、それによる凝集の発生や目詰まりを防止でき、吐出応答性の低下や、吐出不可能な状態となることを回避できる。したがって、上記流体吐出孔の孔径の微細化を図ることができる。また、流体の高速吐出が可能であるとともに、長時間目詰まりなく安定して一定濃度の流体を吐出することができる。
【0027】
また、上記流体として、導電率が1×10−7S/m以上の流体を用いてもよい。これにより、導電率の増加による吐出応答性の向上を図ることができる。
【0028】
また、上記両極性電圧として、上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値が、上記微粒子が凝集する電圧である凝集電圧の絶対値よりも小さい両極性電圧を用いてもよい。
【0029】
上記の方法によれば、上記流体吐出孔に上記微粒子が凝集して再分散できない状態となり、上記流体吐出孔に詰まりが生じること防止できる。したがって、長時間にわたって安定した吐出を行うことができる。
【0030】
また、上記両極性電圧として、上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値が、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値の最大値よりも小さい両極性電圧を用いてもよい。
【0031】
上記の方法によれば、例えば、上記凝集電圧の絶対値が、上記流体を上記流体吐出孔から吐出させるために必要な電圧の絶対値よりも小さい場合であっても、上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値を上記凝集電圧の絶対値よりも小さくすることで、上記流体吐出孔に上記微粒子が凝集して再分散できない状態となることを防止するとともに、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値の最大値を上記流体を上記流体吐出孔から吐出させるために必要な電圧の絶対値よりも大きくすることで、上記流体を適切に吐出させることができる。
【0032】
また、上記両極性電圧として、上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の累積印加量が、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の累積印加量と略等しい両極性電圧を用いてもよい。すなわち、上記両極性電圧の各極性における電圧印加時間と振幅との積を略等しくしてもよい。
【0033】
上記の方法によれば、上記微粒子の帯電極性と逆極性の電圧を印加した時の上記微粒子の移動距離と、上記微粒子の帯電極性と同極性の電圧を印加した時の上記微粒子の移動距離とが逆方向でかつ略等しい距離となり、絶対移動距離をほぼ0にすることができる。したがって、上記流体吐出孔における、上記微粒子の電気泳動による濃度変化、および、上記微粒子の凝集による詰まりを確実に防止し、上記流体を長時間安定して吐出することができる。
【0034】
また、上記両極性電圧として、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値が、上記流体を上記流体吐出孔から吐出させるための電圧以下となる期間が、上記流体の上記流体吐出孔における乾燥時間以下となる周波数の両極性電圧を用いてもよい。
【0035】
上記の方法によれば、上記流体を吐出しない期間が上記流体の乾燥時間以上となることを防止し、上記流体の硬化によって上記ノズル孔に目詰まりが生じることを防止できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の流体吐出装置は、以上のように、上記電極に印加する電圧として、正負両極性に反転する両極性電圧を用いている。
【0037】
それゆえ、上記流体吐出孔における上記微粒子の濃度の増大、および、それによる凝集の発生や目詰まりを防止でき、吐出応答性の低下や、吐出不可能な状態となることを回避できる。したがって、流体吐出孔の孔径の微細化を図るとともに、流体の高速吐出が可能で、長時間目詰まりなく安定して一定濃度の流体を吐出できる流体吐出装置を実現できる。
【0038】
本発明の流体吐出方法は、正負両極性に反転する両極性電圧を用いて上記流体に電荷を供給する。
【0039】
それゆえ、上記流体吐出孔における上記微粒子の濃度の増大、および、それによる凝集の発生や目詰まりを防止でき、吐出応答性の低下や、吐出不可能な状態となることを回避できる。したがって、流体吐出孔の孔径の微細化を図ることができる。また、流体の高速吐出が可能であるとともに、長時間目詰まりなく安定して一定濃度の流体を吐出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本実施形態では、吐出流体(流体)としてインクを吐出する、静電吸引型のインクジェット装置(流体吐出装置)について説明する。
【0041】
図1は、本実施形態に係るインクジェット装置100の概略構成図である。この図に示すように、インクジェット装置100は、インク室1、ノズル4、パッキン5、静電界印加用電極9、静電界制御部10、対向電極7、対向電位制御部11を備えている。
【0042】
インク室1は、吐出流体であるインク2を貯蔵するものである。なお、インク2の詳細については後述する。
【0043】
ノズル4は、インク室1に貯蔵されているインク2を吐出するものであり、インク室1に対してパッキン5を介して連結されている。すなわち、インク室1内のインク2が、ノズル4とインク室1との連結部分から外部に漏れないように、パッキン5によって封止されている。
【0044】
また、ノズル4は、インク室1との連結部側から、その反対側、すなわちインクの吐出側となる先端部4aに向かって、内径が小さくなるように絞り込まれた形状となっている。ノズル4の先端部4aにおけるインク吐出孔(流体吐出孔)4bの内径(以下、ノズル径と称する)は、例えば、ノズル4から曳き糸状(細長い円筒状、あるいは吐出方向が先細りとなるテーパー状)に吐出されるインク2の径(曳き糸径)を考慮して設定される。本実施形態では、ノズル径をφ1μmとしている。なお、ノズル4から吐出されたインク2と、インク室1に貯蔵されているインク2とを区別するために、以降、ノズル4から吐出されたインク2を吐出インク3と称する(図1参照)。
【0045】
静電界印加用電極9は、インク2に対して静電界(駆動電圧)を印加するための電極であり、ノズル4の内部に設けられている。なお、静電界印加用電極9は、静電界制御部10に接続されており、この静電界制御部10によって、静電界印加用電極9に印加される電界強度が制御されるようになっている。なお、詳細については後述するが、本実施形態では、静電界印加用電極9に印加される駆動電圧として正負両極性に反転する両極性電圧を用いている。
【0046】
静電界制御部(プロセス制御部)10は、図示しない駆動回路からの印加電圧を制御して静電界印加用電極9に供給することにより、静電界印加用電極9の電界強度を制御する。すなわち、静電界制御部10は、静電界印加用電極9を介してインク2に印加する電圧を制御する印加電圧制御手段として機能する。このように、静電界制御部10が静電界印加用電極9の電界強度を制御することで、ノズル4からの吐出インク3の吐出量が調整される。
【0047】
対向電極7は、ノズル4のインク吐出孔4bの対向面側(吐出インク3の吐出方向)における、インク吐出孔4bから所定の距離離れた位置に配設されている。この対向電極7は、ノズル4と対向電極7との間に搬送される記録媒体8の表面を、ノズル4のインク吐出孔4bから吐出されるインク2(吐出インク3)の帯電電位に対して逆極性の電位に帯電させるものである。これにより、ノズル4のインク吐出孔4bから吐出される吐出インク3を、記録媒体8の表面に安定して適切に着弾させる。なお、対向電極9は、対向電位制御部11に接続されており、この対向電位制御部11から記録媒体8の表面を帯電させるための電位が供給されているようになっている。
【0048】
対向電位制御部(プロセス制御部)11は、図示しない駆動回路からの印加電圧を制御して対向電極7に供給することにより、対向電極7の電位を制御する。
【0049】
なお、上記のように、吐出インク3は帯電している必要があるので、ノズル4の少なくとも先端部4aのインク吐出面は絶縁部材で形成されていることが望ましい。また、超微細液体(超微細な径の吐出インク3)を吐出可能とするために、インク吐出孔4bの内径を微細に形成する必要があり、また、低コンダクタンスの流路がノズル4の内部(または近傍)に設けられているか、もしくはノズル4自身が低コンダクタンスのものとなっていることが好ましい。そこで、本実施形態では、ノズル4としてガラス製のキャピラリーチューブ(毛細管)を使用している。なお、上記した各条件を満たすために、ノズル4は、ガラス製キャピラリーチューブが好適であるが、これに限らず、例えば、導電性物質に絶縁材でコーティングしたものを用いてもよい。
【0050】
ただし、ノズル4をガラス製とする場合には、
(a)容易に数μm程度のノズル孔を形成できる、
(b)ノズル孔の閉塞時にはノズル端を破砕することにより新しいノズル端を再生できる、
(c)ガラスノズルの場合、テーパー角をつけることにより、不要な溶液が表面張力によって上方(図1のように、ノズル孔4bが下方に位置するようにノズル4を配置した場合における、ノズル孔4b側とは反対側)へと移動し、ノズル端にインク2が滞留せず、ノズル詰まりの原因にならない、
(d)ノズル4が適度な柔軟性を持つため、可動ノズルの形成が容易である、
等の利点がある。
【0051】
なお、本実施形態では、ノズル4として、具体的には、芯入りガラス管(株式会社ナリシゲ製、商品名:GD−1)を用い、キャピラリープラーにより作製したものを用いている。このように、芯入りガラス管を用いる場合には、
(1)芯側ガラスがインク2に対し濡れやすいために、インク2の充填が容易になる、
(2)芯側ガラスが親水性で、外側ガラスが疎水的であるためにノズル端部において、インク2の存在領域が芯側のガラスの内径程度に限られ、電界の集中効果がより顕著となる、
(3)微細ノズル化が可能となる、
(4)十分な機械的強度が得られる、
といった利点がある。
【0052】
また、ノズル4は、キャピラリーチューブに限るものではない。例えば、微細加工によりプレート上に形成されるノズルのような2次元配列ノズルでもかまわない。
【0053】
また、本実施形態では、ノズル4を成形性に優れたガラス製としているので、ノズル4を電極として利用することはできない。このため、ノズル4内には、金属線(例えばタングステン線)等からなる静電界印加用電極9を挿入している。ただし、これに限らず、例えば、ノズル4内にメッキにて静電界印加用電極9を形成してもいい。あるいは、ガラス製のノズル4に代えて、導電性物質からなるノズルを用い、ノズル4自体を静電界印加用電極9として機能させてもよい。なお、ノズル4自体を導電性物質で形成する場合には、その表面(外面)に絶縁材をコーティングすることが好ましい。
【0054】
また、本実施形態では、ノズル4のノズル径をφ1μmとしているが、これに限るものではない。ただし、ノズル4のノズル径は、製作上の都合から0.01μm以上であることが好ましい。また、特許文献2に開示されたように、静電的な力が表面張力を上回る時のノズル径の上限が25μmであること、および、局所的な電界強度によって吐出条件を満たす場合のノズル径の上限が25μmであることから、ノズル径は25μm以下であることが好ましい。
【0055】
また、このように、ノズル4のノズル径が微小である場合、メニスカス(インク液面)先端部の曲率半径を、ほぼ一定と見なすことができる。すなわち、従来の様にノズル径が大きい場合には、表面電荷の集中によってメニスカス先端部の曲率半径が除々に小さく変化していくが、ノズル径が微小である場合にはこのような変化は生じず、メニスカス先端部の曲率半径をほぼ一定と見なすことができる。
【0056】
したがって、インクの物性値が一定であれば、吐出インク3の分離時の表面張力は、電圧印加による吐出状態に応じてほぼ一定であり、また、集中可能な表面電荷の量については、インク2の表面張力を超える値、すなわちレイリー分裂値以下であることから最大量を一義的に定義できる。
【0057】
なお、本実施形態にかかるインクジェット装置100では、ノズル径が微小であるため、電界強度はメニスカス部12のごく近傍のみ非常に強い値となる。このように極小領域における高い電場での放電破壊強度は非常に高い値となるため、インクジェット装置100では放電破壊については問題とならない。
【0058】
本実施形態にかかるインクジェット装置100では、インク2として、金属を分散させる溶媒としてカルビトール系の極性溶媒を含むインク(金属ペースト、ペースト)を用いている。極性溶媒を使用する理由は、電離により電荷の担い手となり得るイオンが多数存在し、導電率の向上が期待できるからである。
【0059】
上記したように、流体の吐出にかかる周波数応答性は、流体の帯電に関する時間応答、すなわち誘電応答と関係しており、
τ=ε/σ (式1)
で表わされる。ここで、τは誘電緩和時間、εは流体の誘電率、σは流体の導電率である。
【0060】
一般的に、非極性溶媒(例えば上記テトラデガン)は誘電率εの低い溶媒であり、それ以上誘電率εを下げる効果はあまり期待できない。そこで、周波数応答特性(誘電緩和時間τ)を高めるためには、吐出流体の導電率σを高めることが考えられる。
【0061】
電解質溶液における電気伝導の起こりやすさは、電解質の解離度、電解質濃度に依存しており、解離度が高いほうが、また濃度(電解質濃度)が濃いほうが、電気伝導度が高い。したがって、流体(吐出流体)の導電率を高めるためには、電解質の解離度、あるいは、電解質濃度を高めて、流体中に発生する正・負の電荷の担い手を増やせばよい。
【0062】
なお、特許文献2の実施例で使用されているハリマ化成(株)製の銀ナノペーストは、粒子含有率が非常に高く、電解質モデルでいえば、電解質濃度が非常に濃いことに相当する。このため、この銀ナノペーストの応答性が悪いのは、解離度が非常に悪く、正・負の電荷の担い手が少ないためと考えられる。したがって、この銀ナノペーストの導電率を高めるためには、電解質の解離度を高め、流体中に発生する正・負の電荷の担い手を増やせばよい。
【0063】
ここで、電解質の解離度を上げるためには、それに適した溶媒を選択する必要がある。より詳細には、電解質溶媒として使用される水などの極性溶媒を用いるとともに、含有粒子表面あるいはその保護コロイドが極性溶媒中で安定分散するように、含有粒子の表面処理あるいはコロイド(保護コロイド)の変更を行うことが好ましい。
【0064】
そこで、本実施形態では、インク2として、溶媒を非極性であるテトラデカンからカルビトール系の極性溶媒に変更し、新たに作製した銀ナノペーストを用いている。
【0065】
なお、溶媒を非極性溶媒から極性溶媒に変更することにより、流体の誘電率が増加してしまい、応答性が向上しないことが懸念されるが、上記の溶媒変更による導電率変化は、誘電率変化よりも大きいので、応答性は導電率により大きく依存して向上する。
【0066】
下記表1は、本実施形態で使用したインク(ペースト)2の導電率と、特許文献2の実施例で使用されているインク(ペースト)の導電率とを比較した結果を示している。
【0067】
【表1】

【0068】
この表に示すように、特許文献2で使用されているインクの導電率が5.1×10−8(S/m)であるのに対して、本実施形態で使用したインクの導電率は5.3×10−5(S/m)となっており、導電率が3桁(約1000倍)向上した。これに対して、誘電率の変化(増大)は1〜2桁であった。したがって、テトラデカン(非極性溶媒)からカルビトール系(極性溶媒)へ溶媒を変更した場合、誘電率の増加量よりも導電率の増加量の方が大きいので、応答性は向上する。
【0069】
なお、本実施形態では、上記のようにインク2としてカルビトール系の極性溶媒を含むインク2を用いたが、これに限るものではない。純水を含め染料系インクおよび微粒子を含有したインクなどを用いてもよい。また、インクの主溶媒としては、例えば、水、アルコール系、カルビトール系等の極性溶媒を使用できる。なお、テトラデカンから水への溶媒変更による誘電率および導電率の変化を測定したところ、カルビトール系の極性溶媒を用いる場合と同様、誘電率の増加は1〜2桁であるのに対し、導電率の増加は3桁であった。したがって、非極性溶媒から、カルビトール系の極性溶媒に限らず、他の極性溶媒に変更する場合にも、誘電率変化よりも導電率変化のほうが大きく、応答性は導電率に依存して向上する。
【0070】
また、インクジェット装置100では、ノズル径が従来と比較して非常に小さいため、目詰まりの発生を防止するために、インク2に含有される微粒子の粒径も小さくする必要がある。より詳細には、微粒子の粒径は、ノズル径の1/20倍から1/100倍程度であることが好ましい。すなわち、本実施形態ではノズル径がφ1μmのノズルを用いているので、この場合、微粒子の径は0.05μm〜0.01μmであることが好ましい。
【0071】
次に、本実施形態にかかるインクジェット装置100における動作原理について説明する。まず、ノズル4からの微細液体(吐出インク3)の吐出原理について説明する。
【0072】
インクジェット装置100では、駆動回路(図示せず)からの駆動電圧が静電界制御部10によって電圧を制御されて静電界印加用電極9に印加され、インク2に電荷が供給される。この電荷は、ノズル4内部のインク2を通じて、ノズル4の先端部に形成された、静電容量を有するメニスカス12に移動する。そして、メニスカス12の電荷量が所定量に達すると、ノズル4から記録媒体8へのインク2(吐出インク3)の吐出が行われる。
【0073】
次に、インクジェット装置100において、ノズル4からインク2を吐出して記録媒体8に所望のパターンを形成する場合の動作について説明する。
【0074】
ノズル4は、3次元ロボット等の図示しない駆動装置により、所望のパターニングデータに応じて、記録媒体8における記録面に平行な面内において互いに直交するX軸方向およびY軸方向に2次元駆動される。また、この際、ノズル4は、ノズル4の先端と記録媒体8との距離(ギャップ)が常に30μm〜200μmの範囲内となるように、記録媒体8における記録面に垂直なZ軸方向の位置を制御される。なお、ノズル4の先端と記録媒体8とのギャップを測定するギャップ測定手段は、特に限定されるものではないが、例えば、レーザを利用した変位計あるいはレーザを利用したギャップ測長計などを利用すればよい。
【0075】
また、上記移動に伴うノズル4の位置と所望のパターニングデータとに応じて、静電界制御部10は、静電界印加用電極9に印加する電圧を制御する。すなわち、静電界制御部10が静電界印加用電極9に印加すると、ノズル4内のインク2において、ノズル4の先端方向に向けた電荷の移動が始まる。そして、ノズル4の先端部においてインク2により形成されるメニスカス12に電荷が蓄積され、その周辺部の電界強度が上昇する。その後、電界強度がノズル4からインク2を吐出させるための臨界点を超えると、ノズル4からインク2が吐出され、記録媒体8上に着弾する。これを続けることで、記録媒体8に所望のパターンを形成することができる。
【0076】
なお、本実施形態では、パターン形成のためにノズル4を移動させているが、これに限るものではない。記録媒体8に所望のパターンを描画するためには、記録媒体8とノズル4とが相対移動すればよく、ノズル4と記録媒体8との少なくとも一方を移動させる構成であればよい。
【0077】
次に、インクジェット装置100おける駆動電圧(静電界印加用電極9に印加する電圧)の波形について説明する。
【0078】
図2は、静電界印加用電極9に印加する印加電圧の波形の一例と、その電圧を静電界印加用電極9に印加した場合の、インク2に含有される含有粒子13の動きとを模式的に示した説明図である。
【0079】
本実施形態におけるインク2に含有される含有粒子13は−(負)に帯電している。このため、図2に示すように、+(正)の電圧(含有粒子13と逆極性の電圧)を静電界印加用電極9に印加すると、含有粒子13は静電界印加用電極9側に電気泳動し、−の電圧(含有粒子13と同極性の電圧)を静電界印加用電極9に印加すると、含有粒子13はノズル4先端部方向へ電気泳動する。
【0080】
したがって、静電界印加用電極9に+電圧を印加し続けると、含有粒子13の静電界印加用電極9側への電気泳動によりノズル4先端部の粒子濃度(含有粒子13の濃度)が希薄となり、最終的に吐出後のインク3に含有粒子13が含まれない状態となる。一方で、−電圧を印加し続けると、含有粒子13のノズル4先端部方向への電気泳動により、ノズル4先端部において含有粒子13が過多の状態となり、凝集を発生させる。この凝集により、ノズル4先端部に目詰まりが発生し、結果として吐出不可能の状態となる。
【0081】
インクジェット装置100では、このような電気泳動によるノズル4先端部の含有粒子13の濃度変化を最小限に抑えるため、図2に示すように、駆動電圧として正負両極性に反転する両極性電圧を用いている。両極性電圧を用いることで、含有粒子13の移動方向を交互に変更し、含有粒子13の絶対移動距離を小さくすることができる。
【0082】
一方、−の電圧を印加する際、過剰に電圧を与えれば、ノズル4先端部が粒子(含有粒子13)過多の状態となり、凝集を発生させることに注意しなければならない。一度凝集してしまえばその後再分散する可能性は低く、この凝集粒子(凝集した含有粒子13)が詰まりの原因となってしまうからである。そのため、詰まりを発生させる凝集粒子の生成を抑制する必要があり、具体策として、−の電圧を印加する電圧印加時間を短くするか、印加電圧値(印加電圧の絶対値)を小さくする必要がある。
【0083】
そこで、本実施形態では、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧として同振幅、周期200μs、デューティー(duty)50%の両極性パルス電圧(両極性電圧)を使用し、インク2の含有粒子13の帯電極性と逆極性のDCバイアス電圧(直流電圧)を印加する(図3参照)。すなわち、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧として、+側と−側とが同振幅の両極性電圧に、直流電圧を加えたものを用いる。また、駆動パルス電圧の−側電圧値(V)が
−300V < V< 0V (式2)
の範囲になるように上記DCバイアス電圧のバイアス電圧値を調整する。すなわち、駆動パルス電圧における含有粒子13の帯電極性と同極性側の電圧値の絶対値が300V以下となるように、上記DCバイアス電圧のバイアス電圧値を調整する。
【0084】
ここで、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧を上記式(2)のように設定した理由について説明する。図4は、インクジェット装置100において、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧値を変化させた場合の、インク2の吐出の有無を示すグラフである。この図において、横軸は駆動電圧の+側の印加電圧値、縦軸は−側の印加電圧値を示している。また、図中、「●」印はインク2(吐出インク3)が吐出されたことを示し、「×」印はインク2(吐出インク3)が吐出されなかったこと(不吐出)を表す。
【0085】
本実施形態で使用したインク2の場合、吐出に必要な最低電圧は300Vである。すなわち、静電界印加用電極9に印加する両極性電圧の少なくとも一つの極性の振幅が300Vを越えない限り、吐出は起こらない。一方で、−側の印加電圧値が−300V以下の領域では、吐出は起こらなかった(不吐出であった)。これは、−300V以下の電圧値が印加される際に、ノズル4先端部に凝集した含有粒子13が再分散できない状態となり、ノズル4の吐出口よりも大きな凝集粒子となり、ノズル4内の流路に固着するためである。実際に、−300V以下の電圧を印加した後のノズル4先端部を観察した結果、含有粒子13の凝集による詰まりが観測された。本実施形態では、このような粒子を凝集させる電圧を以後、凝集電圧(V)と定義する。本実施形態で使用したインク2の凝集電圧は−300Vである。
【0086】
そのため、駆動パルス電圧の−側電圧値を−300Vより大きく設定する必要があるが、含有粒子13の電気泳動によるノズル4先端部におけるインク2の濃度変化を抑えるためにも、駆動電圧は両極性電圧であることが必要である。
【0087】
このとき、+側の印加電圧値が300V未満では吐出が起こらないため、+側の印加電圧値は300V以上とすることが必要である。
【0088】
実際に、駆動電圧としての両極性パルスの電圧をV=400V、V=−100V、周波数5kHzとし、インク2を連続吐出させる実験を行ったところ、DC+電圧400V印加の条件では2分程度で吐出後の吐出インク3に含有粒子13が含まれなくなったのに対し、20分以上連続して含有粒子13を含む吐出インク3を吐出できることを確認した。同様に、両極性パルス電圧がV=500V、V=−200V、周波数5kHzでも、20分以上連続して吐出できることを確認した。
【0089】
以上のように、本実施形態にかかるインクジェット装置100では、吐出流体であるインク2の溶媒として極性溶媒を使用している。これにより、インク2の導電率が増加し、インク2の吐出応答性を向上させることができる。なお、極性溶媒を用いることにより、誘電率も増加するが、誘電率の増加量よりも導電率の増加量の方が大きいので、インク2の吐出応答性は導電率に依存して向上する。
【0090】
また、インクジェット装置100では、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧として正負両極性に反転する両極性電圧を用いている。より詳細には、同振幅、duty50%の両極性パルス電圧を使用し、インク2の含有粒子13の帯電極性と逆極性のDCバイアス電圧をインク2に印加している。
【0091】
このように、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧として正負両極性に反転する両極性電圧を用いることで、含有粒子13の移動方向を交互に変更し、含有粒子13の絶対移動距離を小さくすることができる。これにより、静電界印加用電極9に+電圧を印加した場合に生じるノズル4先端部における粒子濃度の変化(希薄化)、および、−電圧を印加した場合に生じるノズル4先端部における粒子過多(粒子濃度の変化(増大))による凝集の発生を防止できる。したがって、ノズル4先端部における粒子濃度の希薄化や、ノズル4先端部における粒子濃度の増大に伴う凝集の発生による目詰まりを防止し、吐出応答性の低下、あるいは、吐出不可能の状態となることを回避できる。
【0092】
また、本実施形態では、インク2として極性溶媒を含むインクを用いており、静電界印加用電極9に印加する駆動パルス電圧の−側(含有粒子13と同極性側)電圧値(V)が上記式(2)の範囲になるように、上記バイアス電圧値を調整している。
【0093】
上記したように、静電界印加用電極9に−の電圧を印加する際、過剰に電圧(過剰な絶対値の−電圧)を与えれば、ノズル4先端部が粒子過多の状態となり、凝集が発生する。そして、一度凝集してしまえばその後再分散する可能性は低く、この凝集粒子が詰まりの原因となってしまう。
【0094】
そこで、静電界印加用電極9に印加する駆動パルス電圧の−側電圧値(V)を上記式(2)の範囲に調整することにより、ノズル4先端部で含有粒子13の凝集、詰まりを発生しないように、弱い静電力でノズル4先端部に含有粒子13を集めることができる。すなわち、ノズル4先端部に凝集した含有粒子13が再分散できない状態となることによってノズル4の吐出口よりも大きな凝集粒子となり、ノズル4内の流路に固着することを防止できる。したがって、長時間にわたって安定したインクの吐出を行うことができる。
【0095】
このように、インクジェット装置100では、インク2の溶媒として極性溶媒を使用し、静電界印加用電極9に印加する電圧として両極性パルス電圧を用いるとともに、このときの駆動パルス電圧の−側電圧値(V)が上記式(2)の範囲になるようにバイアス電圧値を調整することにより、吐出応答性を向上させ、インクの濃度変化および目詰まりを抑制し、安定して長時間吐出することが可能となっている。
【0096】
また、本実施形態では、説明の簡単化のために、単一のノズル4を備えたインクジェット装置100について説明したが、これに限定されるものではなく、本発明は複数のノズル4を備えたマルチヘッドのインクジェット装置にも適用可能である。
【0097】
また、静電界印加用電極9に印加する電圧の電圧印加波形は、上記した例に限定されるものではない。例えば、正負両極性に反転する両極性電圧を用いることによって、含有粒子13の一方向のみへの電気泳動によるノズル4先端部における粒子濃度の変化や凝集を防止でき、かつ、含有粒子13と同極性の電圧が過大となってノズル4先端部で含有粒子13の凝集、詰まりを発生しない程度の弱い静電力でノズル先端部に含有粒子13を集めることができるように、電圧印加波形(周波数、−側電圧値(V)、+側電圧値(V))を適宜変更してもよい。
【0098】
また、上記したように、インクジェット装置100によって吐出するインク2として、例えば、純水を含め染料系インクおよび微粒子を含有したインクなどを用いてもよく、また、インクの主溶媒として、例えば、水、アルコール系、カルビトール系等の極性溶媒を使用できる。また、含有粒子表面あるいはその保護コロイドが極性溶媒中で安定分散するように、含有粒子の表面処理あるいはコロイド(保護コロイド)の変更を行ってもよい。なお、導電率の向上による吐出応答性の向上を図るためには、導電率を1×10−7以上にすることが好ましい。この場合、上記式(1)より、導電率σの増加に伴って誘電緩和時間τが吐出応答性の向上を期待できる程度に小さくなる。
【0099】
また、含有粒子13の保護コロイドやインク2の主溶媒など、インク(吐出流体)の組成、物性等により、ノズル4先端部で含有粒子13の凝集、詰まりが発生する電圧値(凝集電圧)が異なることは容易に想像できる。したがって、その凝集電圧を超えないように、静電界印加用電極9に印加する電圧を調整することが好ましい。例えば、正負両極性に反転する両極性電圧に加える、含有粒子13の帯電極性と逆極性のバイアス電圧を調整することで、静電界印加用電極9に印加する電圧を調整してもよい。
【0100】
また、本実施形態では、インク2の含有粒子13は−に帯電しているものとして説明したが、これに限らず、+に帯電している場合においても、すべての印加電圧の極性を上記の説明とは逆にすることで、同様の効果を得ることができる。
【0101】
また、本実施形態では、図1に示したように、対向電極7を備えたインクジェット装置について説明したが、対向電極7とノズル4のインク吐出孔4bとの間の距離(ギャップ)は、記録媒体8とノズル4との間の電界強度にほとんど影響しないため、例えば、記録媒体8とノズル4との間の距離が近く、記録媒体8の表面電位が安定している場合には対向電極7を設けない構成としてもよい。
【0102】
また、本実施形態では、ノズル4と記録媒体8との間の電界を形成するために、静電界制御部10と対向電位制御部11とを備えた構成としているが、上記電界は、ノズル4と記録媒体8との間の電位差によって形成することができるので、対向電位制御部11を省いた構成とすることも可能である。すなわち、対向電極7の電位を一定値としてもよい。
【0103】
また、本実施形態では、駆動電圧である両極性電圧として矩形波を用いているが、これに限るものではなく、正負両極性に反転する両極性電圧であればよい。例えば、正弦波等のようなスルーレートの低い波形であっても利用可能である。
【0104】
また、インクジェット装置100によって吐出する流体は、導電性流体であってもよく、あるいは、非導電性物質であってもよいが、非導電性物質を吐出する際は吐出応答性が低下することに注意しなければならない。非導電性物質としては、例えば、撥水材などを用いることができる。この場合、誘電分極によって吐出が可能になると考えられる。
【0105】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について以下に説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1におけるインクジェット装置100と同じ機能を有する部材については同じ符号を用い、その説明を省略する。
【0106】
本実施形態では、実施形態1におけるインクジェット100において、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧の波形の変更例について説明する。図5は、本実施形態においてインクジェット100の静電界印加用電極9に印加する駆動電圧の波形の一例を示すグラフである。
【0107】
この図に示すように、本実施形態では、静電界印加用電極9の駆動電圧として、同振幅の両極性パルス電圧にインク2に含まれる含有粒子13の帯電極性と逆極性のDCバイアス電圧を加えたものを使用する。このとき、バイアス電圧値はパルス電圧の振幅よりも小さくするとともに、静電界印加用電極9に印加される含有粒子13の帯電極性側の電圧が、凝集電圧(V)以上の電圧にならないように調整する。さらに、含有粒子13と同極性(−)側の電圧時間(同極性側の電圧を印加する時間)が逆極性(+)側(逆極性側の電圧を印加する時間)よりも長くなるようにduty比を調整する。好ましくは、駆動パルス電圧の+側電圧値の絶対値をV、パルス幅をt、駆動パルス電圧の−側電圧値の絶対値をV、パルス幅をtとすると、
(V)×(t) = (V)×(t) (式2)
を満たすように、バイアス電圧値およびduty比を調整するのがよい。すなわち、駆動パルス電圧(両極性電圧)の+側電圧の累積印加量を示す(V)×(t)と、両極性電圧)の−側電圧の累積印加量を示す(V)×(t)とが、互いに等しくなるように、バイアス電圧値およびduty比を調整することが好ましい。
【0108】
この理由について、図7を用いて以下に説明する。図7は、ノズル4内のインク2中の含有粒子13に加わる力を模式的に示した説明図である。なお、ここでは、含有粒子13における電気泳動の傾向の確認を容易にするため、ノズル4内には一様な電界が形成されるものとし、含有粒子13には静電力と液体の粘性抵抗のみがかかっているものとする。
【0109】
ノズル4内の電界強度をE、インク2の粘度をη、含有粒子13の帯電電荷量をq、半径をd、質量をmとし、ある時間tのときの速度をv(t)、加速度をa(t)とすると、含有粒子13に働く力Fに対する運動方程式は、式(3)で表される。
【0110】
F = ma(t) = qE−6πηdv(t) (式3)
これは、時間tに対する二次の微分方程式である。これを解くことにより、ある時間tにおける含有粒子13の電気泳動速度v(t)、および移動距離x(t)が式(4)および式(5)のように求まる。
【0111】
v(t)=qE(1−exp(−6πηdt/m))/6πηd (式4)
x(t)=
qEt/6πηd+qE(exp(−6πηdt/m)−1)/m (式5)
ここで、速度v(t)および移動距離x(t)の時定数Tは(m/6πηd)となることが式(4)および式(5)からわかるが、本実施形態で使用したインク2の物性値を実際に代入して計算すると、式(6)のようになる。
【0112】
T = m/6πηd = 1.46×10−9 [s] (式6)
なお、インク2は粒径5nm(d=2.5[nm])の銀ナノ粒子(密度ρ=10.5[g/cm])を含有したものであり、粘度η=10[mPa・s]である。
【0113】
式(6)より、電圧印加後ナノ秒のオーダーで含有粒子13は等速運動になる。このときの移動距離は極微小なため、電気泳動による粒子の移動距離x(t)は式(5)の第2項以降を省略した、式(7)となる。
【0114】
x(t)=qEt/6πηd (式7)
ある電圧以上になるとメニスカス12からインク2の吐出が行われるとし、その際、メニスカス表面電位は常に一定であるとし、印加電圧をV、メニスカス表面電位をVr、電極とメニスカスとの距離をl、インク2の比誘電率をεとすると、電界強度Eは式(8)で表される。
【0115】
E=(V−Vr)/l・ε (式8)
ここで、式(8)を式(7)に代入することにより、電気泳動による粒子の移動距離x(t)と印加電圧V、時間tとの関係を示した式(9)を得る。
【0116】
x(t)=q(V−Vr)t/6πηd・l・ε (式9)
このことから、移動距離xを+電圧印加時と−電圧印加時において打ち消しあい、絶対移動距離を0にするためには、
(V)×(t)=(V)×(t) (式2)
を満たすようにバイアス電圧値およびduty比を調整すればよいことがわかる。
【0117】
実際に、上記の計算の傾向を基に、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧としての両極性パルスの電圧をV=400V、V=−100V、パルス幅t=10μs、t=40μs(周波数20kHz)として実験を行ったところ、1010個のドットを目詰まりなく連続して吐出形成できること確認した。
【0118】
以上のように、本実施形態では、吐出流体であるインク2の溶媒として極性溶媒を使用している。これにより、インク2の導電率が増加し、インク2の吐出応答性を向上させることができる。
【0119】
また、インクジェット装置100では、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧として、両極性パルス電圧にインク2の含有粒子13の帯電極性と逆極性のDCバイアス電圧を加えたものを使用している。そして、このときの印加バイアス電圧値を印加パルス電圧の振幅よりも小さくするとともに、静電界印加用電極9に印加される電圧が凝集電圧を超えない範囲となるようにバイアス電圧値を調整し、さらに含有粒子13と同極性側の電圧時間を逆極性側よりも長くなるようにduty比を調整している。
【0120】
これにより、含有粒子13の帯電極性と逆極性の電圧を印加した時の含有粒子13の移動距離と、含有粒子13の帯電極性と同極性の電圧を印加した時の含有粒子13の移動距離とが互いに打ち消しあうので、絶対移動距離を小さくできる。すなわち、含有粒子13の移動方向を交互に変更し、含有粒子13の絶対移動距離を小さくすることができる。したがって、吐出応答性が向上するとともに、ノズル4先端部における、含有粒子13の電気泳動によるインク2の濃度変化(希薄化および高濃度化)、および凝集による詰まりを抑制し、インク2を長時間安定して吐出することができる。
【0121】
また、本実施形態では、駆動パルス電圧の+側(含有粒子13と逆極性側)電圧値をV、そのパルス幅をt、駆動パルス電圧の−側(含有粒子13と同極性側)電圧値をV、そのパルス幅をtとした場合に、
(V)×(t) = (V)×(t) (式2)
を満たすように、バイアス電圧値およびduty比を調整する。
【0122】
この場合、含有粒子13の帯電極性と逆極性の電圧を印加した時の含有粒子13の移動距離と、含有粒子13の帯電極性と同極性の電圧を印加した時の含有粒子13の移動距離とが逆方向でかつ等しい距離となり、絶対移動距離を0にすることができる。したがって、吐出応答性が向上するとともに、ノズル4先端部における、含有粒子13の電気泳動によるインク2の濃度変化、および凝集による詰まりをより確実に抑制し、インク2を長時間安定して吐出することができる。
【0123】
なお、上記の説明では、静電界印加用電極9に印加する駆動電圧としての両極性パルスの周波数を20kHzとした場合の実験結果について説明したが、上記両極性パルスの周波数はこれに限るものではない。ただし、上記両極性パルスの周波数fは、0.2Hz以上とすることが好ましい。また、周波数fは、上記式(1)(τ=ε/σ)から求められる誘電緩和時間の逆数1/τと同値、または1/τよりもわずかに小さい値であることがより好ましい。
【0124】
この理由について以下に説明する。インクジェット装置100では、ノズル孔径がφ0.01μm〜φ25μmと極微小であるため、インク2の乾燥が速い。このため、不吐出の期間が続くと、インク2が乾燥して硬化(粘度が変化)し、吐出に必要な最低電圧印加では再吐出できず、目詰まりが発生してしまう。
【0125】
一方で、実施形態1と同様のインク2を使用した場合、吐出に必要な電圧は300V(絶対値300V以上)であるにもかかわらず、−側の振幅を300V未満に設定しないと、凝集電圧に達するのでノズル4先端部で凝集が生じる。
【0126】
このため、−側の電圧がかかっている状態ではノズル4からインク2の吐出は行われていない。つまり、長時間−側の電圧がかかっている状態では、ノズル4の吐出孔付近のインクが乾燥、変性し、詰まりが発生するため、結果的に不吐出となる。このため、−側の電圧がかかっている期間が、インク2の不吐出時にインク2が乾燥して変性し、詰まりの原因となるまでの時間(乾燥時間)を越えないように、上記両極性パルスのdutyまたは周波数を調整することが好ましい。
【0127】
実際、実施形態1と同様のインク2を用いる場合について、最低吐出周波数を測定した結果、図5に示したようなV=300V、V=−200V、パルス幅t=2s、t=3s(周波数0.2Hz)の吐出条件では、吐出可能であったが、これよりも周波数の遅い条件では不吐出であった。したがって、上記両極性パルスの周波数fは、0.2Hz以上とすることが好ましい。あるいは、インクの吐出が行われる期間であるパルス幅tが、インクの乾燥時間よりも短くなるように、上記両極性パルスの周波数fを設定することが好ましい。
【0128】
なお、インク2の材質を変更する場合には、インク2が乾燥して硬化(粘度が変化)する速度も変化することが考えられる。このため、インク2の材質を変更する場合には、ノズル4の吐出孔付近のインクが乾燥、変性し、詰まりが発生することを適切に防止できるように、上記両極性パルスの周波数fの下限値を適宜設定すればよい。
【0129】
また、吐出周波数の上限について、実施形態1と同様のインク2を用い、V=300V、V=−200V、Duty40%(パルス幅比t:t=2:3)として測定した結果、70kHz(t=5.7μs、t=8.5μs)であった。これは、上記式(1)の「τ=ε/σ」から求められる誘電緩和時間τの逆数1/τとほぼ同値である。
【0130】
インクジェット装置100では、より高い吐出周波数で吐出することにより、単位時間当たりに吐出される液滴の数をより大きくできる。このため、常にフレッシュなインクをノズル近傍に供給できるので、乾燥や増粘(粘度の増加)をより効果的に抑制することができ、安定した吐出を行うことができる。したがって、インクジェット装置100では、吐出周波数を誘電緩和時間の逆数1/τに近い値とすることが好ましい。
【0131】
なお、比較のために、特許文献2の銀ナノペーストを用い、パルス電圧300V、バイアス電圧0V、Duty50%、つまり、V+=300V、V−=−300V、パルス幅比t+:t−=1:1の条件で吐出応答速度を測定したところ、この場合の吐出応答速度は200Hzであった。
【0132】
したがって、インクジェット装置100では、静電界印加用電極9の駆動電圧として、同振幅の両極性パルス電圧にインク2の含有粒子13の帯電極性と逆極性のDCバイアス電圧を加えたものを使用し、このときのバイアス電圧値をパルス電圧の振幅よりも小さくするとともに、含有粒子13の帯電極性側の電圧が凝集電圧(V)以上とならないように調整し、さらに、上記式(2)を満たすようにバイアス電圧値およびduty比を調整することにより、吐出応答速度を大幅に(70kHzまで)向上させることができたと言える。
【0133】
ところで、吐出周波数の上限については、インク2の導電率が大きく寄与する。そこで、より導電率の高いインク(比誘電率30程度、導電率2.5×10−4)を使用し、上記した条件(V=300V、V=200V)で吐出周波数の上限を測定したところ、1MHzまでの応答を確認できた(1MHzまで吐出可能であった)。すなわち、インクジェット装置100では、静電界印加用電極9の駆動電圧を、上記のように調整するとともに、導電率の高いインク(比誘電率30程度、導電率2.5×10−4)を用いることで、吐出応答速度を1MHzまで向上させることができる。なお、さらに導電率の高いインクを用いれば、吐出応答速度をさらに向上させることもできる。
【0134】
なお、本実施形態では、インクジェット装置100を構成する各部材、およびインク2の組成・物性等について、実施形態1と同様の変更が可能である。
【0135】
また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、ノズルから基板や記録媒体などの対象物上に流体を吐出する静電吸引型の吐出装置全般に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明の一実施形態にかかる静電吸引型流体吐出装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる静電吸引型流体吐出装置における、静電界印加用電極に印加される駆動電圧の一例と、その駆動電圧が印加されたときの含有粒子の動きとを模式的に示した説明図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる静電吸引型流体吐出装置における、静電界印加用電極に印加される駆動電圧の一例を示す波形図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる静電吸引型流体吐出装置における、静電界印加用電極に印加される駆動電圧の駆動電圧値に対する吐出の有無を示すグラフである。
【図5】本発明の他の実施形態にかかる静電吸引型流体吐出装置における、静電界印加用電極に印加される駆動電圧の一例を示す波形図である。
【図6】本発明の他の実施形態にかかる静電吸引型流体吐出装置における、ノズル内のインクに含まれる含有粒子に加わる力を模式的に示した説明図である。
【符号の説明】
【0138】
1 インク室
2 インク(流体)
3 吐出インク(流体)
4 ノズル
4a ノズル先端部
4b インク吐出孔(流体吐出孔)
5 パッキン
7 対向電極
8 記録媒体
9 静電界印加用電極(電極)
10 静電界制御部(電圧制御手段)
11 対向電位制御部
12 メニスカス
13 含有粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吐出する流体吐出孔と、上記流体に電荷を供給する電極と、上記流体に電荷を供給するための上記電極に印加する電圧を制御する電圧制御手段とを備え、上記流体に電荷を供給することによって上記流体中に含有されている微粒子を上記流体吐出孔方向に電気泳動させ、上記流体を上記流体吐出孔から吐出させる流体吐出装置であって、
上記電極に印加する電圧として、正負両極性に反転する両極性電圧を用いることを特徴とする流体吐出装置。
【請求項2】
上記流体吐出孔の孔径は、φ0.01μm〜φ25μmであることを特徴とする請求項1に記載の流体吐出装置。
【請求項3】
上記電極に印加する電圧として、
上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値が、上記流体に含有されている微粒子が凝集する電圧である凝集電圧の絶対値よりも小さい両極性電圧を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の流体吐出装置。
【請求項4】
上記電極に印加する電圧として、
上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値が、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値の最大値よりも小さい両極性電圧を用いることを特徴とする請求項3に記載の流体吐出装置。
【請求項5】
上記電極に印加する電圧として、
上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の累積印加量が、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の累積印加量と略等しい両極性電圧を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の流体吐出装置。
【請求項6】
上記電極に印加する電圧として、
上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値が上記流体を上記流体吐出孔から吐出させるための電圧以下となる期間が、上記流体の上記流体吐出孔における乾燥時間以下となる周波数の両極性信号を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の流体吐出装置。
【請求項7】
上記電圧制御手段は、
正負同振幅の両極性電圧に直流電圧を加えることにより、上記電極に印加する電圧を制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の流体吐出装置。
【請求項8】
微粒子を含有する流体に電荷を供給することにより、当該流体を流体吐出孔方向に電気泳動させ、当該流体吐出孔から吐出させる流体吐出方法であって、
正負両極性に反転する両極性電圧を用いて上記流体に電荷を供給することを特徴とする流体吐出方法。
【請求項9】
上記流体として、導電率が1×10−7S/m以上の流体を用いることを特徴とする請求項8に記載の流体吐出方法。
【請求項10】
上記両極性電圧として、
上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値が、上記微粒子が凝集する電圧である凝集電圧の絶対値よりも小さい両極性電圧を用いることを特徴とする請求項8または9に記載の流体吐出方法。
【請求項11】
上記両極性電圧として、
上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の絶対値の最大値が、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値の最大値よりも小さい両極性電圧を用いることを特徴とする請求項10に記載の流体吐出方法。
【請求項12】
上記両極性電圧として、
上記微粒子の帯電極性と同極性側の電圧の累積印加量が、上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の累積印加量と略等しい両極性電圧を用いることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の流体吐出方法。
【請求項13】
上記両極性電圧として、
上記微粒子の帯電極性と逆極性側の電圧の絶対値が、上記流体を上記流体吐出孔から吐出させるための電圧以下となる期間が、上記流体の上記ノズル孔における乾燥時間以下となる周波数の両極性電圧を用いることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の流体吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−82345(P2006−82345A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268610(P2004−268610)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】