説明

流体噴射ヘッドの製造方法、流体噴射装置の製造方法、及びシリコン基板のエッチング方法

【課題】シリコンからなる基板に対して形状ばらつきの少ない凹部を形成可能とする。
【解決手段】第1の酸化膜エッチング工程において、第1の酸化膜エッチング工程(ステップS4)において、エッチングによって酸化膜301に形成される凹部304の側壁部305は、等方性エッチングによって得られる傾斜角αを有する傾斜部307を備え、かつ、該傾斜部307の酸化膜エッチングによる深さ距離L1が、第2の酸化膜エッチング工程(ステップS6)にてエッチングされる酸化膜の深さ距離よりも大きな深さ距離となるようにエッチングされることによって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射ヘッドの製造方法、流体噴射装置の製造方法、及びシリコン基板のエッチング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置として、流体噴射ヘッドに形成されたノズル開口より記録媒体(対象物)にインク(流体)を噴射するインクジェット式記録装置が知られている。
このようなインクジェット式記録装置を含む流体噴射装置においては、流体噴射ヘッドがノズル開口に連通する圧力室を備えており、圧力室を容積変動させることにより圧力室内部の流体をノズル開口から外部に噴射する。
【0003】
例えば、上述のように圧力室を容積変動させる方式の一つとして静電駆動方式が提案されている。この静電駆動方式は、電極に電圧を印加することによって生じる静電気力によって圧力室の壁面を変位させ、これによって圧力室の容積を変動させる方式である(特許文献1参照)。
【0004】
そして、静電駆動方式のインクジェット式記録装置に用いられる流体噴射ヘッドのノズルは、特許文献1に示すように、相対的に大きな凹部(第1凹部)と、該凹部の底部に形成される相対的に小さな凹部(第2凹部)とから構成されており、開口端(ノズル開口)とされた小さな凹部の底部から流体を噴射する。
このようなノズルは、まずノズルが形成されるベースとなるノズル基板(シリコン基板)の表層に酸化膜を形成し、当該酸化膜をエッチング液によるウェットエッチングによってエッチングした後、当該酸化膜をマスクとしてノズル基板をドライエッチングすることによって形成される。
【特許文献1】特開平11−28820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように酸化膜をウェットエッチングする場合には、酸化膜の表面にレジスト膜を配置し、当該レジスト膜をパターニングして開口を形成し、開口が形成されたレジストをマスクとして行われる。
しかしながら、ウェットエッチングの際には、レジスト膜と酸化膜との間にエッチング液が浸入し、この浸入したエッチング液による酸化膜のエッチングが進行してしまう。そして、レジスト膜と酸化膜との間に浸入したエッチング液によって酸化膜のエッチングが進行すると、レジスト膜に形成された開口を起点とする等方性のエッチングに影響を与えて、所望する形状の凹部が得られない場合がある。具体的には、レジスト膜と酸化膜との間へのエッチング液の浸入量に応じて酸化膜に形成される凹部の側壁部のノズル基板の表面に対する角度が変化してしまう。
レジスト膜と酸化膜との間へのエッチング液の浸入量は、不特定の条件によって変化するため、実際には、ウェットエッチングによって得られる酸化膜の凹部形状にばらつきが生じることとなる。
このようにウェットエッチングによって得られる酸化膜の凹部形状にばらつきが生じるということは、当然ながらノズル基板に形成される凹部の形状にもばらつきが生じるため、ノズル形状がばらつき安定した噴射特性が得られないという問題が生じる。
【0006】
なお、上述の問題は、シリコン基板の表面に酸化膜を形成し、当該酸化膜をウェットエッチングした後にシリコン基板をドライエッチングすることによってシリコン基板に凹部を形成するエッチング方法の全般に生じる問題である。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、シリコンからなる基板(ノズル基板)に対して形状ばらつきの少ない凹部(ノズル)を形成可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の流体噴射ヘッドの製造方法は、ノズル基板に対して、相対的に大きな第1凹部と該第1凹部に対応して形成される相対的に小さな第2凹部とを有するノズルを形成するノズル形成工程を有し、該ノズル形成工程を経て形成されたノズル基板と、キャビティ基板と、電極基板とを組み立てることによって流体噴射ヘッドを組み立てる流体噴射ヘッドの製造方法であって、上記ノズル形成工程が、上記ノズル基板の表層に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、上記酸化膜上にレジスト膜を配置するレジスト膜配置工程と、上記レジスト膜に上記第2凹部に応じた開口を形成する第1のレジスト膜パターニング工程と、該第1のレジスト膜パターニング工程の後に上記レジスト膜をマスクとしてエッチング液による上記酸化膜のエッチングを行う第1の酸化膜エッチング工程と、該第1の酸化膜エッチング工程の後に上記レジスト膜の開口を上記第1凹部に応じた開口に拡げる第2のレジスト膜パターニング工程と、該第2のレジスト膜パターニング工程の後に上記レジスト膜をマスクとして上記エッチング液による上記酸化膜のエッチングを行う第2の酸化膜エッチング工程と、該第2の酸化膜エッチング工程の後に上記酸化膜をマスクとして上記ノズル基板をドライエッチングすることによって上記第1凹部及び上記第2凹部を形成するドライエッチング工程とを有し、上記第1の酸化膜エッチング工程において、上記エッチングによって上記酸化膜に形成される凹部の側壁部は、等方性エッチングによって得られる傾斜角を有する傾斜部を備え、かつ、該傾斜部の上記酸化膜エッチングによる深さ距離が、上記第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる上記酸化膜の深さ距離よりも大きな深さ距離となるようにエッチングされることによって形成されることを特徴とする。
【0009】
このような特徴を有する本発明の流体噴射ヘッドの製造方法によれば、第1の酸化膜エッチング工程におけるエッチングの処理時間が、エッチングによって酸化膜に形成される凹部の側壁部が等方性エッチングによって得られる傾斜角でかつ第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる酸化膜の深さ距離よりも大きな深さ距離の傾斜部を有するように設定される。
ウェットエッチングにおいて、等方性エッチングによって得られる傾斜角とされる部位(すなわち傾斜部)は、レジスト膜と酸化膜との間に浸入するエッチング液の量の影響を受けていない部位であるため、常に安定した形状となる。
そして、傾斜部の高さは第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる酸化膜の深さ距離よりも大きな深さ距離とされている。このため、第2の酸化膜エッチング工程にて酸化膜に対して傾斜部に応じた部位がなくなることがない。
したがって、ドライエッチング工程において、形状ばらつきのない傾斜部に応じた酸化膜の部位をマスクとしてノズル基板のエッチングを行うことができるため、ノズル基板に対して形状ばらつきのない第2凹部を形成することができる。
第2凹部は、ノズルの先端部(流体を噴射する端部)として機能するものであるため、本発明の流体噴射ヘッドの製造方法によれば、ノズルの先端部の形状ばらつきがない流体噴射ヘッドを製造することができる。
すなわち、本発明の流体噴射ヘッドの製造方法によれば、シリコンからなる基板(ノズル基板)に対して形状ばらつきの少ない凹部(ノズル)を形成することが可能となる。
【0010】
また、本発明の流体噴射ヘッドの製造方法においては、上記第1の酸化膜エッチング工程において、上記レジスト膜と上記酸化膜との間に浸入した上記エッチング液による上記酸化膜のエッチング領域の深さ距離が、上記第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる上記酸化膜の深さ距離よりも小さいという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、レジスト膜と酸化膜との間に浸入したエッチング液によってエッチングされた酸化膜の部位を、第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングすることができ、酸化膜に形成する凹部に、レジスト膜と酸化膜との間に浸入したエッチング液による影響を残さないようにすることができる。
したがって、本構成によれば、第1凹部を含めてノズルの形状を安定して形成することが可能となる。
【0011】
次に、本発明の流体噴射装置の製造方法は、対象物に向けて流体を噴射する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置の製造方法であって、本発明の流体噴射ヘッドの製造方法にて上記流体噴射ヘッドを製造するという特徴を有する。
本発明の流体噴射ヘッドの製造方法によれば、ノズルの先端部の形状ばらつきがない流体噴射ヘッドを製造することができる。このため、本発明の流体噴射装置の製造方法によれば、ノズルの先端部の形状ばらつきがない流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置を製造することができる。
したがって、本発明の流体噴射装置の製造方法によれば、噴射特性に優れた流体噴射装置を製造することが可能となる。
【0012】
次に、本発明のシリコン基板のエッチング方法は、シリコンからなる基板に対して、凹部を形成するシリコン基板のエッチング方法であって、上記シリコン基板の表層に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、上記酸化シリコン膜上にレジスト膜を配置するレジスト膜配置工程と、上記レジスト膜に上記凹部に応じた開口を形成するレジスト膜パターニング工程と、該レジスト膜パターニング工程の後に上記レジスト膜をマスクとしてエッチング液による上記酸化膜のエッチングを行う酸化膜エッチング工程と、該酸化膜エッチング工程の後に上記酸化膜をマスクとして上記シリコン基板をドライエッチングすることによって上記凹部を形成するドライエッチング工程とを有し、上記酸化膜エッチング工程において、上記エッチングによって上記酸化膜に形成される凹部の側壁部が、等方性エッチングによって得られる傾斜角の傾斜部を有するように、上記エッチングの処理時間を設定することを特徴とする。
【0013】
このような特徴を有する本発明のシリコン基板のエッチング方法によれば、酸化膜エッチング工程におけるエッチングの処理時間が、エッチングによって酸化膜に形成される凹部の側壁部が等方性エッチングによって得られる傾斜角となるように設定される。
ウェットエッチングにおいて、等方性エッチングによって得られる傾斜角とされる部位(すなわち傾斜部)は、レジスト膜と酸化膜との間に浸入するエッチング液の量の影響を受けていない部位であるため、常に安定した形状となる。
したがって、ドライエッチング工程において、形状ばらつきのない傾斜部をマスクとしてシリコン基板のエッチングを行うことができるため、シリコン基板に対して形状ばらつきのない凹部を形成することができる。
すなわち、本発明のシリコン基板のエッチング方法によれば、シリコンからなる基板(ノズル基板)に対して形状ばらつきの少ない凹部(ノズル)を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る流体噴射ヘッドの製造方法、流体噴射装置の製造方法、及びシリコン基板のエッチング方法の一実施形態について説明する。なお、以下の説明においては、本発明に係る流体噴射ヘッドの一例として静電駆動方式によりインク(流体)を噴射するインクジェットヘッドについて説明し、さらに本発明の流体噴射装置の一例として上記インクジェットヘッドを備えるインクジェット式記録装置(以下、インクジェットプリンタと称する)について説明する。また、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
(流体噴射ヘッドの製造方法及び流体噴射装置の製造方法)
【0016】
図1及び図2は、インクジェットヘッド1の概略構成を示す図である。なお、図1及び図2において、ノズル列の延在方向をX方向、該X方向と水平に直交する方向をY方向、該X方向及びY方向と直交する方向(高さ方向)をZ方向とする。
そして、図1は、インクジェットヘッド1をY方向に切断すると共に分解した分解斜視図である。また、図2は、インクジェットヘッド1をY方向に切断した断面図である。なお、説明の便宜上、図1における切断面と図2における切断面とは、X方向にずらしてある。
【0017】
図1に示すように、インクジェットヘッド1は、電極基板10と、キャビティ基板20と、ノズル基板30とを備えている。
そして、インクジェットヘッド1は、図2に示すように、これらの電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30がZ方向に積層されて接合されることによって構成されている。
【0018】
電極基板10は、キャビティ基板20及びノズル基板30の形成材料であるシリコン単結晶基板と近い熱膨張率を有する材料によって形成される基板であり、例えばホウ珪酸ガラス等のガラス基板からなるものである。
【0019】
電極基板10の上面11には、複数の溝部12(図2参照)がX方向に配列されて形成されている。そして、各溝部12の底面上に静電気力を発生するための個別電極13が形成されている。すなわち、個別電極13は、電極基板10上において、X方向に配列されて複数形成されている。なお、本実施形態においては、個別電極13は、2列に亘って配列されている。
このような個別電極13は、図1に示すように、同じく電極基板10上に形成された配線14を介して電極基板10の縁部に形成された端子15と接続されている。そして、個別電極13には、端子15を介して電圧が印加される。
なお、個別電極13、配線14及び端子15は、例えばインジウム酸化スズ(ITO: Indium Tin Oxide)によって形成される。
【0020】
また、電極基板10には、上記溝部12、個別電極13、配線14及び端子15を避けてZ方向に貫通されるインク注入口51が形成されている。
インク注入口51は、電極基板10と、キャビティ基板20と、ノズル基板30とが接合されることによって形成されるインク流路50の一部であり、同じくインク流路50の一部であると共にキャビティ基板20とノズル基板30とによって形成される共通インク室52に対して外部からインクを供給するための流路である。
【0021】
キャビティ基板20は、例えば面方位(100)または(110)のシリコン単結晶基板から形成されている。
キャビティ基板20の上面21には、インク流路50の一部である圧力室53に対応する溝部22と、同じくインク流路50の一部である共通インク室52に対応する溝部23が形成されている。
【0022】
圧力室53に対応する溝部22は、図1に示すように、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30が接合された場合において、各個別電極13の上方に圧力室53が配置されるように、電極基板10の個別電極13に対応してX方向に複数配列されて形成されている。すなわち、圧力室53に対応する溝部22は、電極基板10の個別電極13と同数形成されている。
この圧力室53に対応する溝部22の底部は、可撓性を有する程度に薄く形成されており、振動板24(図2参照)として構成されている。この振動板24は、個別電極13に電圧が印加されることによって静電気力が発生した場合に、当該静電気力によって引き寄せられることによって下方に変位し、静電気力が解放された場合に元の平板形状に復帰する。
【0023】
共通インク室52に対応する溝部23は、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30が接合された場合に、圧力室53の側方に共通インク室52が配置されるように、キャビティ基板20の縁部にX方向に延在して形成されている(図1参照)。
なお、共通インク室52は、X方向に配列される圧力室53の一列ごとに一つ形成される。このため、共通インク室52に対応する溝部23は、圧力室53に対応する溝部22の一列に対して一つ形成されており、本実施形態においては二つ形成されている。
また、共通インク室52に対応する溝部23の底部には、電極基板10及びキャビティ基板20が接合された場合に、電極基板10に形成されたインク注入口51と連通される貫通孔54が形成されている。この貫通孔54は、インク注入口51を介して外部から供給されるインクを共通インク室52に導入するためのものであり、インク注入口51等の同様に、インク流路50の一部を構成するものである。
【0024】
また、キャビティ基板20の上面21には、圧力室53に対応する溝部22及び共通インク室52に対応する溝部23を避けて共通電極25が形成されている。そして、キャビティ基板20には、共通電極25を介して電圧が印加される。
なお、共通電極25は、例えばプラチナ(Pt)によって形成される。
【0025】
そして、キャビティ基板20は、電極基板10とキャビティ基板20とが接合されることによって、図2に示すように、電極基板10の溝部12とキャビティ基板20の下面26とによって、振動板24が変位可能な空間(以下、振動板変位室70と称する)が形成される。
また、振動板変位室70への異物の侵入を防止するため、振動板変位室70は、封止材60によって外部空間と隔離された密閉状態とされている。
なお、振動板変位室70の高さ(すなわち、個別電極13と振動板24との離間距離)は、例えば180nm程度とされる。
【0026】
ノズル基板30は、キャビティ基板20と同様に、面方位(100)または(110)のシリコン単結晶基板から形成されている。
ノズル基板30の下面31には、インク流路50の一部であるインク供給口55に対応する溝部32と、上記共通インク室52に対応する溝部33と、インクを噴射するためのノズル開口34に対応する溝部35とが形成されている。
【0027】
インク供給口55に対応する溝部32は、キャビティ基板20とノズル基板30とが接合された場合に、各圧力室53と共通インク室52とが接続されるように形成されている。すなわち、インク供給口55に対応する溝部32は、圧力室53と同数形成されている。
【0028】
共通インク室52に対応する溝部33は、キャビティ基板20とノズル基板30とが接合された場合に、キャビティ基板20の溝部23と共に共通インク室52を構成するものであり、キャビティ基板20の溝部23と同様に、ノズル基板30の縁部にX方向に延在して形成されている。
【0029】
ノズル開口34に対応する溝部35は、円柱形状の溝であり、ノズル(以下の説明においてノズル35と称する)として機能するものである。このノズル35は、キャビティ基板20とノズル基板30とが接合された場合に、キャビティ基板20の溝部22の一端と接続される大径部35a(相対的に大きな第1凹部)と、該大径部35aの底部に形成されると共にノズル基板30の上面36まで貫通する小径部35b(相対的に小さな第2凹部)とから構成されている。
【0030】
また、ノズル基板30の上面36には、共通インク室52に対応する凹部37と、ノズル開口34に対応する凹部38とが形成されている。
【0031】
共通インク室52に対応する凹部37は、ノズル基板30の下面31に形成された溝部33の反対側に形成されている。そして、溝部33と凹部37とによって挟まれた壁部は、可撓性を有する程度に薄く形成されており、ダイアフラム39として構成されている。このダイアフラム39は、共通インク室52内のインクの振動(振動波)に伴って振動し、これによって共通インク室52内の振動波を減衰させるものである。そして、本実施形態においてダイアフラム39は、ノズル基板30の上面36側において、凹部37の内部にて変位する。
【0032】
ノズル開口34に対応する凹部38は、その底部に溝部35の小径部35bの開口端であるノズル開口34が露出されるものであり、全てのノズル開口34の形成領域全体に形成されている。
【0033】
そして、上記電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30が接合されることによって、電極基板10に形成されたインク注入口51からノズル基板30に形成されたノズル開口34まで連通するインク流路50が形成される。
より詳細には、キャビティ基板20の上面21に形成された溝部23と、ノズル基板30の下面31に形成された溝部33とによって共通インク室52が形成される。また、キャビティ基板20の上面に21に形成された溝部22と、ノズル基板30の下面31とによって圧力室53が形成される。また、ノズル基板30の下面31に形成された溝部32と、キャビティ基板20の上面21とによってインク供給口55が形成される。
すなわち、インクジェットヘッド1においては、ノズル基板30にはノズル開口34と該ノズル開口34に連通するインク流路50の一部が形成され、キャビティ基板20にはインク流路50の残部が形成され、これらのノズル基板30とキャビティ基板20とが接着剤を介して接合されている。
【0034】
共通インク室52は、インク注入口51及び貫通孔54を介して外部から供給されるインクを一旦貯留するものであり、一列分の圧力室53に対して一つ設けられている。
圧力室53は、振動板24の変位によって容積変動を生じるものであり、各ノズル開口34に対して設けられている。そして、圧力室53は、一端がノズル35と接続されると共に他端がインク供給口55と接続される。
【0035】
インク供給口55は、共通インク室52から各圧力室53に対してインクを導入するための入口として機能するものであり、一端が圧力室53と接続されると共に他端が共通インク室52と接続される。
【0036】
このようなインクジェットヘッド1によってインクを噴射する場合には、インク注入口51及び貫通孔54を介して共通インク室52にインクが供給され、共通インク室52に供給されたインクがインク供給口55を介して各圧力室53供給され、各圧力室53に供給されたインクが各ノズル35に供給される。
【0037】
そして、このようにしてインク流路50の全てにインクが供給された状態において、電極基板10の端子15とキャビティ基板20の上面21に形成された共通電極25とに外部の制御部140(図16参照)から駆動電圧が印加されると、電極基板10の個別電極13とキャビティ基板20の振動板24との間に電位差が生じ、静電気力が発生する。
【0038】
この結果、図3に示すように、振動板24が上記静電気力によって下方に引き寄せられることで振動板変位室70内において変位し、圧力室53の容積が増加する。そして、圧力室53の容積の増加分に応じた量のインクが共通インク室52からインク供給口55を介して圧力室53に供給される。
【0039】
その後、駆動電圧の印加を停止することによって上記静電気力が消失し、当該性電気力によって変位された振動板24が元の形状(平板状)に復帰する。この結果、図4に示すように、圧力室53の容積が減少し、容積の増加時に圧力室53に供給されたインクと同量のインクLが、ノズル開口34を介して外部に噴射される。
【0040】
なお、振動板24が元の形状に復帰する場合には、振動板24の変位によってインク流路50内においてインクの逆流が生じる。すなわち、ノズル開口34からインクを噴射する際に、インク流路50内には、圧力室53から共通インク室52へ向かうインクの振動波が生じる。
そして、このようなインクの振動波は、共通インク室52に到達した後、ダイアフラム39を振動させる。この結果、インクの振動波は減衰される。すなわち、ノズル開口34からインクを噴射する際に生じたインクの振動は、ダイアフラム39によって吸収される。このため、所定のノズル開口34からインクを噴射することによって生じたインク流路50内部のインクの振動波が、他のノズル開口34に対応する圧力室53に伝達されることが抑止され、他のノズル開口34におけるインクの噴射特性に影響を与えることが抑止される。
【0041】
続いて、このようなインクジェットヘッド1の製造方法について説明する。なお、本実施形態においては、ノズルの形成方法に特徴があるため、インクジェットヘッド1の製造方法の説明にあたり、ノズルの形成方法(ノズル形成工程)について詳説する。
【0042】
本実施形態におけるノズル形成工程は、図5のフローチャートに示すように、酸化膜形成工程(ステップS1)と、レジスト膜配置工程(ステップS2)と、第1のレジスト膜パターニング工程(ステップS3)と、第1の酸化膜エッチング工程(ステップS4)と、第2のレジスト膜パターニング工程(ステップS5)と、第2の酸化膜エッチング工程(ステップS6)と、ドライエッチング工程(ステップS7)とを有する。
【0043】
酸化膜形成工程(ステップS1)は、図6に示すように、ノズル基板20のベースとなるシリコン基板300の表層に酸化膜301を形成する工程である。具体的には、本酸化膜形成工程においては、厚さが180μmのシリコン基板300を熱酸化させて、その表層に例えば1.2μm以上の厚みの酸化シリコン膜(酸化膜301)を形成する。
【0044】
レジスト膜配置工程(ステップS2)は、図7に示すように、シリコン基板300の表層に形成された酸化膜301上にレジスト膜302を配置する工程である。本レジスト膜配置工程において、レジスト膜302は、例えば、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法等の周知の方法によって酸化膜301上に配置される。
【0045】
第1のレジスト膜パターニング工程は(ステップS3)、図8に示すように、レジスト膜302に小径部35b(第2の凹部)に応じた開口303を形成する工程である。本第1のレジスト膜パターニング工程においては、マスクを介してレジスト膜302を露光し、その後現像液にてレジスト膜302を洗うことによってレジスト膜302を所望の形状にパターニングする。
【0046】
第1の酸化膜エッチング工程(ステップS4)は、図9に示すように、上記第1のレジスト膜パターニング工程の後にレジスト膜302をマスクとしてエッチング液による酸化膜301のエッチングを行う工程である。すなわち、第1の酸化膜エッチング工程は、レジスト膜302をマスクとして酸化膜301をウェットエッチングする工程である。
このような第1の酸化膜エッチング工程に用いられるエッチング液としては、例えば、バッファードフッ酸(HF:NHF=880ml:5610ml)が用いられる。
このような第1の酸化膜エッチング工程(ステップS4)によって、酸化膜301に凹部304が形成される。
【0047】
図10〜図12は、第1のレジスト膜パターニング工程においてウェットエッチングを続けたと仮定した場合における酸化膜301に対するエッチングの進行状態を示した図である。
ウェットエッチングは、等方性エッチングであるため、エッチング開始直後においては、図10に示すように、酸化膜301は、開口303を起点として等方にエッチングされる。このため、エッチング開始直後において酸化膜301に形成される凹部304の側壁部305は、シリコン基板300の表面306に対して、等方性エッチングによって得られる傾斜角αとなる。
しかしながら、エッチングを開始してしばらくすると、レジスト膜302と酸化膜301との間にエッチング液が浸入し、この浸入したエッチング液による酸化膜のエッチングが進行してしまう。この結果、図11に示すように、レジスト膜302と酸化膜301との間に浸入したエッチング液によってエッチングされる領域Aが出現する。当該領域Aにおける側壁部305は、シリコン基板300の表面306に対して、等方性エッチングによって得られる傾斜角αよりも小さな傾斜角βとなる。
そして、さらにウェットエッチングを続けると、図12に示すように、側壁部305は、シリコン基板300の表面306に対して、傾斜角βとなる。
【0048】
傾斜角αが等方性エッチングによって規定される安定して得られる角度であるのに対して、傾斜角βは、条件等によって変動するエッチング液の浸入量によって規定される角度であり安定して得られる角度ではない。すなわち、レジスト膜302と酸化膜301との間に浸入したエッチング液によってエッチングされる領域Aの形状は、ばらつきが大きい。よって、仮に傾斜角βの側壁部305からなる凹部304をマスクとしてシリコン基板300をエッチングした場合には、シリコン基板300に対して形成される凹部の形状がばらつく。
また、酸化膜301に形成される凹部304の側壁部305が、シリコン基板300の表面に対して傾斜角βを有している場合には、側壁部305が傾斜角αを有している場合よりも厚みが薄くなる。よって、傾斜角βを有する酸化膜301の凹部304をマスクとしてシリコン基板300をエッチングした場合には、後のドライエッチング工程において側壁部305が消失しやすくなり、マスクとして安定した機能を発揮できない場合がある。このため、仮に傾斜角βの側壁部305からなる凹部304をマスクとしてシリコン基板300をエッチングした場合には、シリコン基板300に対して形成される凹部の形状がばらつく。
【0049】
このように、仮に傾斜角βの側壁部305からなる凹部304をマスクとしてシリコン基板300をエッチングした場合には、シリコン基板300に対して形成される凹部の形状がばらつく。後の第2の酸化膜エッチング工程において酸化膜301に形成される凹部(シリコン基板300をドライエッチングする場合に実際にマスクとして機能する部分)の形状は、第1の酸化膜エッチング工程にて形成された凹部304の形状に依存する。すなわち、凹部304の側壁部305が傾斜角βである場合には、後の第2の酸化膜エッチング工程において酸化膜301に形成される凹部の側壁部も凡そ傾斜角βとなり、これによってシリコン基板300に対して形成される凹部の形状がばらつくこととなる。
【0050】
このため、本実施形態においては、第1の酸化膜エッチング工程において、エッチングの処理時間を、エッチングによって酸化膜301に形成される凹部304の側壁部305が、等方性エッチングによって得られる傾斜角αの傾斜部307を有するように設定する。すなわち、本実施形態においては、図10あるいは図11に示すような、酸化膜301に形成される凹部304の側壁部305の最もシリコン基板300側の角度が傾斜角αとなるように(すなわち傾斜部307となるように)、エッチングの処理時間が設定される。
なお、酸化膜301は、後の第2の酸化膜エッチング工程にてさらにエッチングされるため、傾斜部307の深さ距離L1(図10あるいは図11参照)は、第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる酸化膜301の深さ距離L2(図14参照)よりも大きく設定される。傾斜部307の高さは、エッチングの処理時間によって制御することが可能である。
【0051】
第2のレジスト膜パターニング工程(ステップS5)は、図13に示すように、第1のレジスト膜パターニング工程の後にレジスト膜302に形成された開口303を大径部35aに応じた開口308に拡げる工程である。本第2のレジスト膜パターニング工程は、上記第1のレジスト膜パターニング工程(ステップS3)と同様に、マスクを介してレジスト膜302を露光し、その後現像液にてレジスト膜302を洗い流すことによってレジスト膜302を所望の形状にパターニングする。
【0052】
第2の酸化膜エッチング工程(ステップS6)では、図14に示すように、上記第2のレジスト膜パターニング工程の後にレジスト膜302をマスクとしてエッチング液による酸化膜301のエッチングを行う工程である。すなわち、第2の酸化膜エッチング工程は、レジスト膜302をマスクとして酸化膜301をウェットエッチングする工程である。このような第2の酸化膜エッチング工程によって酸化膜301に凹部309が形成される。
この第2の酸化膜エッチング工程では、第1の酸化膜エッチング工程にて酸化膜301に形成された凹部304もエッチング液によってエッチングされるが、等方性エッチングであるため、凹部304の形状を維持しながらエッチングが進行することとなる。そして、上記第1の酸化膜エッチング工程にて形成された凹部304の傾斜部307は、第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる酸化膜301の深さ距離L2よりも大きな深さ距離L1に設定されているため、第2の酸化膜エッチング工程にて傾斜部307の形状がなくなることなく、酸化膜301に形成される凹部309の側壁部310の最もシリコン基板300側の角度が傾斜角αとなる。
なお、第2の酸化膜エッチング工程では、第1の酸化膜エッチング工程にて酸化膜301に形成された凹部304の形状がそのまま維持されるものではなく、凹部304の微細な形状は維持されない。このため、例えば、第1の酸化膜エッチング工程にて、レジスト膜302と酸化膜301との間に浸入したエッチング液によってエッチングされる領域Aの深さ距離L3(図11参照)が、第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる酸化膜301の深さ距離L2よりも小さくなるようにウェットエッチングを行うことによって、凹部304に対して図11にて示した領域Aの影響が残ることを防止することができる。なお、レジスト膜302と酸化膜301との間に浸入したエッチング液によってエッチングされる領域Aの深さ距離L3は、第1の酸化膜エッチング工程におけるエッチング処理の時間を制御することによって調整することが可能である。
【0053】
ドライエッチング工程(ステップS7)は、図15に示すように、第2の酸化膜エッチング工程の後に酸化膜301をマスクとしてシリコン基板をドライエッチングすることによって大径部35a及び小径部35bからなるノズル35を形成する工程である。具体的には、例えば、フッ化炭素(CF、CF)、6フッ化硫黄(SF6)をエッチングガスとして用いるICP放電による異方性ドライエッチングを行うことによって大径部35a及び小径部35bからなるノズル35を形成する。なお、上記エッチングガスのうち、フッ化炭素は形成される凹部の側面にエッチングが進行しないように凹部の側壁部を保護するために用いられる。また、上記エッチングガスのうち、6フッ化硫黄は、シリコン基板300に対して垂直のエッチングを進行させるために用いられる。
【0054】
以上のような酸化膜形成工程(ステップS1)、レジスト膜配置工程(ステップS2)、第1のレジスト膜パターニング工程(ステップS3)、第1の酸化膜エッチング工程(ステップS4)、第2のレジスト膜パターニング工程(ステップS5)、第2の酸化膜エッチング工程(ステップS6)、及びドライエッチング工程(ステップS7)を経た後に、酸化膜301を、例えばフッ酸水溶液(例えば、HF:HO=1:5vol,25℃)で洗い流すことによって、ノズル35が形成される。
【0055】
なお、ノズル基板20の形成にあたっては、他の凹部37,38や溝部32,33も、ノズル35の形成工程と同時にエッチングによって形成される。
また、キャビティ基板30も、ノズル基板20と同様に、シリコン基板をエッチングすることによって形成される。
【0056】
そして、電極基板10とキャビティ基板20とが例えば陽極接合によって接合され、キャビティ基板20とノズル基板30とが接着剤を介して接合されることによって、インクジェットヘッド1が製造される。
【0057】
このような本実施形態のインクジェットヘッド1の製造方法によれば、第1の酸化膜エッチング工程(ステップS4)におけるエッチングの処理時間が、エッチングによって酸化膜301に形成される凹部304の側壁部305が等方性エッチングによって得られる傾斜角でかつ第2の酸化膜エッチング工程(ステップS6)にてエッチングされる酸化膜301の深さ距離L2よりも大きな深さ距離L1の傾斜部307を有するように設定される。
ウェットエッチングにおいて、等方性エッチングによって得られる傾斜角とされる部位(すなわち傾斜部307)は、レジスト膜302と酸化膜301との間に浸入するエッチング液の量の影響を受けていない部位であるため、常に安定した形状となる。
そして、傾斜部307の深さ距離L1は第2の酸化膜エッチング工程(ステップS6)にてエッチングされる酸化膜301の深さ距離L2よりも大きくされている。このため、第2の酸化膜エッチング工程にて酸化膜301から傾斜部307に応じた角度(傾斜角α)の部位がなくなることがない。すなわち、傾斜角αとされた、凹部309の側壁部310の最もシリコン基板300側の部位が形成される。
したがって、ドライエッチング工程(ステップS7)において、形状ばらつきのない傾斜部307に応じた酸化膜301の部位(凹部309の側壁部310の最もシリコン基板300側の部位)をマスクとしてシリコン基板300のエッチングを行うことができるため、シリコン基板300に対して形状ばらつきのない小径部35bを形成することができる。
小径部35bは、ノズル35の先端部(インクを噴射する端部)として機能するものであるため、本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法によれば、ノズル35の先端部の形状ばらつきがないインクジェットヘッド1を製造することができる。
【0058】
すなわち、本実施形態のインクジェットヘッド1の製造方法によれば、第1の酸化膜エッチング工程(ステップS4)において、エッチングによって酸化膜301に形成される凹部304の側壁部305は、等方性エッチングによって得られる傾斜角αを有する傾斜部307を備え、かつ、該傾斜部307の酸化膜エッチングによる深さ距離L1が、第2の酸化膜エッチング工程(ステップS6)にてエッチングされる酸化膜の深さ距離L2よりも大きな深さ距離となるようにエッチングされることによって形成される。そして、これによってノズル35の先端部の形状ばらつきがないインクジェットヘッド1を製造する。
【0059】
また、本実施形態のインクジェットヘッド1の製造方法においては、第1の酸化膜エッチング工程(ステップS4)において、レジスト膜302と酸化膜301との間に浸入したエッチング液による酸化膜301のエッチング領域Aの深さ距離L3が、第2の酸化膜エッチング工程(ステップS6)にてエッチングされる酸化膜301の深さ距離L1よりも小さくされている。
このため、レジスト膜302と酸化膜301との間に浸入したエッチング液によってエッチングされた酸化膜301の部位を、第2の酸化膜エッチング工程(ステップS6)にてエッチングすることができ、酸化膜301に形成する凹部309に、レジスト膜302と酸化膜301との間に浸入したエッチング液による影響を残さないようにすることができる。
したがって、本実施形態のインクジェットヘッド1の製造方法によれば、大径部35aを含めてノズル35の形状を安定して形成することが可能となる。
【0060】
続いて、図16を参照して、本実施形態のインクジェットヘッド1を備えるインクジェットプリンタ100について説明する。
図16は、インクジェットプリンタ100の内部構造の概略を示す斜視図である。
【0061】
図16に示すように、インクジェットプリンタ100は、給紙ユニット150、搬送ユニット160、キャリッジユニット170、メンテナンスユニット180、及び駆動部190を備えている。
【0062】
給紙ユニット150は、インクジェットプリンタ100に対して印刷用紙(図示せず)を供給するためのものであり、印刷用紙を積層載置することが可能な給紙トレー151、給紙トレー151に載置された印刷用紙をピックアップするためのピックアップローラ等を備えている。
【0063】
搬送ユニット160は、給紙ユニット150によって給紙された印刷用紙を搬送するものであり、キャリッジユニット170よりも給紙側にて印刷用紙を搬送する搬送ローラやキャリッジユニット170よりも排紙側にて印刷用紙を搬送する搬送ローラ等を備えている。
【0064】
キャリッジユニット170は、本実施形態のインクジェットヘッド1が設置されるものであり、インクジェットヘッド1を印刷用紙の搬送方向と直交する方向に移動させるものである。
このキャリッジユニット170は、インクジェットヘッド1と該インクジェットヘッド1に供給するインクを貯留するインクカートリッジ200とが固定されるキャリッジ171等を備える。そして、キャリッジユニット171を移動させることによって、インクジェットヘッド1を移動させる。
なお、インクカートリッジ200は、例えば、4つのカートリッジ(4色のインク(ブラック、イエロー、シアン、マゼンダ)がそれぞれ別個独立に充填された容器)からなり、それぞれが別個独立に交換可能となっている。
【0065】
メンテナンスユニット180は、インクジェットヘッド1のメンテナンスを行うものであり、搬送ユニット160の側方に配置されている。
このメンテナンスユニット180は、不図示のキャップ機構、ポンプ装置、ワイピング機構等を備えている。
【0066】
駆動部190は、インクジェットプリンタ100の駆動源としての駆動モータ191と、該駆動モータ191の駆動力を各機構(給紙ユニット150、搬送ユニット160、キャリッジユニット170及びメンテナンスユニット180)に伝達するための伝達機構(不図示)等を備えている。
【0067】
このような構成を有するインクジェットプリンタ100においては、不図示の制御部によって、駆動部190、給紙ユニット150及び搬送ユニット160が制御されることで印刷用紙が搬送され、制御部によって、キャリッジユニット170が制御されることでインクジェットヘッド1から印刷用紙にインクが噴射され、これによって印刷用紙に画像形成が行われる。
また、このような構成を有するインクジェットプリンタ100においては、不図示の制御部によって、駆動部190、メンテナンスユニット180及びキャリッジユニット170が制御されることでインクジェットヘッド1のメンテナンスが行われる。
【0068】
そして、このようなインクジェットプリンタ100は、上述のようにして製造されたインクジェットヘッド1を含む各種構成物を組み立てることによって製造される。
本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法によれば、ノズル35の先端部(開口端34及び小径部35b)の形状ばらつきがないインクジェットヘッド1を製造することができる。このため、このようなインクジェットヘッドの製造方法を含むインクジェットプリンタの製造方法によれば、ノズル35の先端部の形状ばらつきがないインクジェットヘッド1を備えるインクジェットプリンタ100を製造することができる。
したがって、本実施形態のインクジェットプリンタの製造方法によれば、噴射特性に優れたインクジェットプリンタ100を製造することが可能となる。
【0069】
(シリコン基板のエッチング方法)
次に、シリコン基板のエッチング方法について図17〜図24を参照して説明する。なお、図17は、本実施形態のシリコン基板のエッチング方法のフローチャートである。また、図18〜図24は、本実施形態のシリコン基板のエッチング方法について説明するための説明図である。
【0070】
図17のフローチャートに示すように、本実施形態のシリコン基板のエッチング方法は、酸化膜形成工程(ステップS11)と、レジスト膜配置工程(ステップS12)と、レジスト膜パターニング工程(ステップS13)と、酸化膜エッチング工程(ステップS14)と、ドライエッチング工程(ステップS15)とを有する。
【0071】
酸化膜形成工程(ステップS11)は、図18に示すように、シリコン基板400の表層に酸化膜401を形成する工程である。具体的には、本酸化膜形成工程においては、シリコン基板400を熱酸化させて、その表層に酸化シリコン膜(酸化膜401)を形成する。
【0072】
レジスト膜配置工程(ステップS12)は、図19に示すように、シリコン基板400の表層に形成された酸化膜401上にレジスト膜402を配置する工程である。本レジスト膜配置工程において、レジスト膜402は、例えば、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法等の周知の方法によって酸化膜401上に配置される。
【0073】
レジスト膜パターニング工程は(ステップS13)、図20に示すように、レジスト膜402に、シリコン基板400に形成される凹部に応じた開口403を形成する工程である。本レジスト膜パターニング工程においては、マスクを介してレジスト膜402を露光し、その後現像液にてレジスト膜402を洗うことによってレジスト膜402を所望の形状にパターニングする。
【0074】
酸化膜エッチング工程(ステップS14)は、図21に示すように、上記レジスト膜パターニング工程の後にレジスト膜402をマスクとしてエッチング液による酸化膜401のエッチングを行う工程である。すなわち、酸化膜エッチング工程は、レジスト膜402をマスクとして酸化膜401をウェットエッチングする工程である。このような酸化膜エッチング工程によって酸化膜401に対して凹部404が形成される。
このような酸化膜エッチング工程に用いられるエッチング液としては、例えば、バッファードフッ酸(HF:NHF=880ml:5610ml)が用いられる。
【0075】
図22は、酸化膜エッチング工程(ステップS14)の際における酸化膜401の拡大図である。この図に示すように、酸化膜エッチング工程においては、エッチングの処理時間を、エッチングによって酸化膜401に形成される凹部404の側壁部405が、等方性エッチングによって得られる、シリコン基板400の表面406に対する角度が傾斜角αである傾斜部407を有するように設定する。すなわち、本実施形態においては、図25に示すような、酸化膜401に形成される凹部404の側壁部405の最もシリコン基板400側の角度が傾斜角αとなるように(すなわち傾斜部407となるように)、エッチングの処理時間が設定される。
【0076】
ドライエッチング工程(ステップS15)は、図23に示すように、酸化膜エッチング工程の後に酸化膜401をマスクとしてシリコン基板をドライエッチングすることによって、シリコン基板400に対して凹部408を形成する工程である。具体的には、例えば、フッ化炭素(CF、CF)、6フッ化硫黄(SF6)をエッチングガスとして用いるICP放電による異方性ドライエッチングを行うことによって凹部408を形成する。なお、上記エッチングガスのうち、フッ化炭素は形成される凹部の側面にエッチングが進行しないように凹部の側壁部を保護するために用いられる。また、上記エッチングガスのうち、6フッ化硫黄は、シリコン基板400に対して垂直のエッチングを進行させるために用いられる。
【0077】
以上のような酸化膜形成工程(ステップS11)、レジスト膜配置工程(ステップS12)、レジスト膜パターニング工程(ステップS13)、酸化膜エッチング工程(ステップS14)、及びドライエッチング工程(ステップS15)を経た後に、酸化膜401を、例えばフッ酸水溶液(例えば、HF:HO=1:5vol,25℃)で洗い流すことによって、図24に示すような凹部408が形成されたシリコン基板400が製造される。すなわち、シリコン基板400は、凹部408が形成されるようにエッチングされる。
【0078】
このような本実施形態のシリコン基板のエッチング方法によれば、酸化膜エッチング工程におけるエッチングの処理時間が、エッチングによって酸化膜401に形成される凹部404の側壁部405が等方性エッチングによって得られる傾斜角αとなるように設定される。
ウェットエッチングにおいて、等方性エッチングによって得られる傾斜角αとされる部位(すなわち傾斜部407)は、レジスト膜402と酸化膜401との間に浸入するエッチング液の量の影響を受けていない部位であるため、常に安定した形状となる。
したがって、ドライエッチング工程において、形状ばらつきのない傾斜部407をマスクとしてシリコン基板400のエッチングを行うことができるため、シリコン基板400に対して形状ばらつきのない凹部408を形成することができる。
すなわち、本実施形態のシリコン基板のエッチング方法によれば、シリコンからなる基板(ノズル基板)に対して形状ばらつきの少ない凹部(ノズル)を形成することが可能となる。
【0079】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0080】
例えば、上記実施形態においては、単一のインクジェットヘッドを備えるインクジェットプリンタについて説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、複数のインクジェットヘッドを備えるインクジェットプリンタの製造方法に適用することも可能である。
また、本発明は、シリアル方式のインクジェットプリンタに限られるものではなく、ラインヘッド方式のインクジェットプリンタの製造方法に適用することも可能である。
【0081】
また、上記実施形態においては、インクジェット式記録装置がインクジェットプリンタである場合を例にして説明したが、インクジェットプリンタに限られず、複写機及びファクシミリ等の記録装置であってもよい。
【0082】
また、上述の各実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の流体を噴射する流体噴射装置(流体噴射装置)である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置の製造方法は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置の製造方法に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、液体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体、流体として流して噴射できる固体、及び粉体(トナー等)を含む。
【0083】
また、上述の各実施形態において、流体噴射装置から噴射される流体としては、インクのみならず、特定の用途に対応する流体を適用可能である。流体噴射装置に、その特定の用途に対応する流体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する流体を噴射して、その流体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、本発明の流体噴射装置(流体噴射装置)は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した流体を噴射する流体噴射装置に適用可能である。
【0084】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
【0085】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射するトナージェット式記録装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置の製造方法に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法にて製造されるインクジェットヘッドの切断分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法にて製造されるインクジェットヘッドの断面図である。
【図3】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法にて製造されるインクジェットヘッドの動作を説明するための説明図である。
【図4】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法にて製造されるインクジェットヘッドの動作を説明するための説明図である。
【図5】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図7】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図8】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図9】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図10】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図11】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図12】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図13】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図14】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図15】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図16】本発明の一実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法にて製造されたインクジェットヘッドを備えるインクジェットプリンタの内部構造の概略を示す斜視図である。
【図17】本発明の一実施形態であるシリコン基板のエッチング方法を説明するためのフローチャートである。
【図18】本発明の一実施形態であるシリコン基板のエッチング方法を説明するための説明図である。
【図19】本発明の一実施形態であるシリコン基板のエッチング方法を説明するための説明図である。
【図20】本発明の一実施形態であるシリコン基板のエッチング方法を説明するための説明図である。
【図21】本発明の一実施形態であるシリコン基板のエッチング方法を説明するための説明図である。
【図22】本発明の一実施形態であるシリコン基板のエッチング方法を説明するための説明図である。
【図23】本発明の一実施形態であるシリコン基板のエッチング方法を説明するための説明図である。
【図24】本発明の一実施形態であるシリコン基板のエッチング方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0087】
1……インクジェットヘッド(流体噴射ヘッド)、10……電極基板、20……キャビティ基板、30……ノズル基板、35……ノズル、35a……大径部(第1凹部)、35b……小径部(第2凹部)、300,400……シリコン基板、301,401……酸化膜、302,402……レジスト膜、304,404……凹部、305,405……側壁部、307,407……傾斜部、100……インクジェットプリンタ(流体噴射装置)、α……傾斜角、L1……傾斜部の酸化膜エッチングによる深さ距離、L2……第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる酸化膜の深さ距離、L3……レジスト膜と酸化膜との間に浸入したエッチング液によってエッチングされる領域の深さ距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル基板に対して、相対的に大きな第1凹部と該第1凹部に対応して形成される相対的に小さな第2凹部とを有するノズルを形成するノズル形成工程を有し、
該ノズル形成工程を経て形成されたノズル基板と、キャビティ基板と、電極基板とを組み立てることによって流体噴射ヘッドを組み立てる流体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記ノズル形成工程は、
前記ノズル基板の表層に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、
前記酸化膜上にレジスト膜を配置するレジスト膜配置工程と、
前記レジスト膜に前記第2凹部に応じた開口を形成する第1のレジスト膜パターニング工程と、
該第1のレジスト膜パターニング工程の後に前記レジスト膜をマスクとしてエッチング液による前記酸化膜のエッチングを行う第1の酸化膜エッチング工程と、
該第1の酸化膜エッチング工程の後に前記レジスト膜の開口を前記第1凹部に応じた開口に拡げる第2のレジスト膜パターニング工程と、
該第2のレジスト膜パターニング工程の後に前記レジスト膜をマスクとして前記エッチング液による前記酸化膜のエッチングを行う第2の酸化膜エッチング工程と、
該第2の酸化膜エッチング工程の後に前記酸化膜をマスクとして前記ノズル基板をドライエッチングすることによって前記第1凹部及び前記第2凹部を形成するドライエッチング工程とを有し、
前記第1の酸化膜エッチング工程において、前記エッチングによって前記酸化膜に形成される凹部の側壁部は、等方性エッチングによって得られる傾斜角を有する傾斜部を備え、かつ、該傾斜部の前記酸化膜エッチングによる深さ距離が、前記第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる前記酸化膜の深さ距離よりも大きな深さ距離となるようにエッチングされることによって形成される
ことを特徴とする流体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記第1の酸化膜エッチング工程において、前記レジスト膜と前記酸化膜との間に浸入した前記エッチング液による前記酸化膜のエッチング領域の深さ距離が、前記第2の酸化膜エッチング工程にてエッチングされる前記酸化膜の深さ距離よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の流体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
対象物に向けて流体を噴射する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置の製造方法であって、
請求項1または2記載の流体噴射ヘッドの製造方法にて前記流体噴射ヘッドを製造することを特徴とする流体噴射装置の製造方法。
【請求項4】
シリコンからなる基板に対して、凹部を形成するシリコン基板のエッチング方法であって、
前記シリコン基板の表層に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、
前記酸化シリコン膜上にレジスト膜を配置するレジスト膜配置工程と、
前記レジスト膜に前記凹部に応じた開口を形成するレジスト膜パターニング工程と、
該レジスト膜パターニング工程の後に前記レジスト膜をマスクとしてエッチング液による前記酸化膜のエッチングを行う酸化膜エッチング工程と、
該酸化膜エッチング工程の後に前記酸化膜をマスクとして前記シリコン基板をドライエッチングすることによって前記凹部を形成するドライエッチング工程とを有し、
前記酸化膜エッチング工程において、前記エッチングによって前記酸化膜に形成される凹部の側壁部が、等方性エッチングによって得られる傾斜角の傾斜部を有するように、前記エッチングの処理時間を設定する
ことを特徴とするシリコン基板のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−66908(P2009−66908A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237640(P2007−237640)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】