流体噴射装置
【課題】従来のキャッピング装置によらずにノズルの噴射特性を維持可能とする。
【解決手段】噴射ヘッド13に形成されたノズルを介して流体を噴射する流体噴射装置であって、上記噴射ヘッド13を上下方向に回転可能な回転部40と、上記ノズルが上方を向くように上記噴射ヘッドが回転された場合に、上記ノズルの噴射特性を維持するための特性維持流体を上記ノズルの形成領域を含んで貯留可能な貯留部と、上記貯留部に上記特性維持流体を供給する供給部とを備える。
【解決手段】噴射ヘッド13に形成されたノズルを介して流体を噴射する流体噴射装置であって、上記噴射ヘッド13を上下方向に回転可能な回転部40と、上記ノズルが上方を向くように上記噴射ヘッドが回転された場合に、上記ノズルの噴射特性を維持するための特性維持流体を上記ノズルの形成領域を含んで貯留可能な貯留部と、上記貯留部に上記特性維持流体を供給する供給部とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置として、記録ヘッド(噴射ヘッド)に形成されたノズルより記録媒体にインクを噴射するインクジェット式記録装置が知られている。流体噴射装置においては、乾燥等によるノズルの噴射特性の悪化を抑制するために、従来から、ノズルを囲うように記録ヘッドに当接されるキャップ部材を備えるキャッピング装置が設けられている。
【特許文献1】特開2002−11864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、キャップ部材を記録ヘッドに当接させる場合には、キャップ部材を記録ヘッドに対して移動させる必要があり、キャップ部材を移動させるための移動機構をキャッピング装置に備えさせる必要がある。このような移動機構は複数の部品からなっており、複雑であるため、キャッピング装置(すなわち流体噴射装置)の部品点数が増加し、高い組み立て精度を実現することが困難となる。
一方、キャップ部材と記録ヘッドとの当接状態が悪く、キャップ部材と記録ヘッドとの間に隙間が形成されてしまうと、ノズルの乾燥を十分に抑制することができなくなるため、キャップ部材の位置合わせ精度は高い必要がある。
【0004】
このように、従来の流体噴射装置においては、ノズルの噴射特性の維持のために、多数の部品を極めて高い組み立て精度にて組み立てる必要が生じていた。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、従来のキャッピング装置によらずにノズルの噴射特性を維持可能な流体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、噴射ヘッドに形成されたノズルを介して流体を噴射する流体噴射装置であって、上記噴射ヘッドを上下方向に回転可能な回転部と、上記ノズルが上方を向くように上記噴射ヘッドが回転された場合に、上記ノズルの噴射特性を維持するための特性維持流体を上記ノズルの形成領域を含んで貯留可能な貯留部と、上記貯留部に上記特性維持流体を供給する供給部とを備えることを特徴とする。
【0007】
このような特徴を有する本発明によれば、回転部によって、ノズルが上方を向くように噴射ヘッドが回転され、この状態にて、貯留部に特性維持流体を貯留させることによって、ノズルの形成領域(すなわちノズル)が特性維持流体によって覆われる。なお、ここで言う特性維持流体とは、乾燥による流体の凝固等によってノズルの噴射特性が変化するのを抑制するための流体であり、ノズルを覆うことによってノズルの噴射特性に変化が生じることを抑制するものである。
このため、キャップ部材を噴射ヘッドに当接させることなく、ノズルの噴射特性の変化(例えば、乾燥によるインクの凝固を起因とする噴射量の変化)を抑制することが可能となる。
したがって、本発明によれば、従来のキャッピング装置によらずにノズルの噴射特性を維持することができる。
【0008】
また、本発明においては、上記貯留部は、上記噴射ヘッドに形成されると共に上記ノズルの形成領域が底部とされる溝部を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、溝部に特性維持流体を貯留した場合に、ノズルの形成領域を特性維持流体にて覆うことができる。
【0009】
また、本発明においては、上記貯留部は、上記噴射ヘッドに形成されると共に上記ノズルの形成領域を囲う壁部を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、壁部に囲われた空間に特性維持流体を貯留した場合に、ノズルの形成領域を特性維持流体にて覆うことができる。
【0010】
また、本発明においては、上記ノズルを介して噴射される流体がインクである場合に、上記特性維持流体は、上記インクであるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、貯留部に貯留されたインクによってノズルが覆われることとなり、当該インクによってノズルの乾燥を抑制し、ノズルの噴射特性を維持することができる。また、特性維持流体としてノズルから噴射されるインクが用いられるため、特性維持流体がノズルのインク成分に影響を与えることを防止することができる。
【0011】
また、本発明においては、上記ノズルを介して噴射される流体がインクである場合に、上記特性維持流体は、上記インクに用いられる溶媒であるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、貯留部に貯留された溶媒によってノズルが覆われることとなり、当該溶媒によってノズルの乾燥を抑制し、ノズルの噴射特性を維持することができる。また、特性維持流体としてノズルから噴射されるインクに用いられる溶媒が用いられるため、特性維持流体がノズルのインク成分に影響を与えることを抑制することができる。
さらには、例えば、異なる色のインクを噴射可能な単一の噴射ヘッド、あるいは異なる色のインクを噴射する複数の噴射ヘッドを備える場合であっても、各インクに用いられる溶媒が同一であれば、特性維持流体として上記溶媒を用いることによって、全てのノズルに対して同一の特性維持流体を用いることができる。すなわち、各ノズルに対する特性維持流体を共通化することが可能となる。
【0012】
また、本発明においては、上記貯留部に貯留された上記特性維持流体を流動させる流動部を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、貯留部に貯留された特性維持流体が乾燥して凝固することを抑制することができ、再度ノズルから流体を噴射する場合における特性維持流体の排除が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る流体噴射装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本発明に係る流体噴射装置として、インクジェット式プリンタを例示する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェット式プリンタ(以下、インクジェットプリンタ100という)の概略構成を示す模式図である。インクジェットプリンタ100は、記録紙への記録を行う記録部10と、記録部10のメンテナンス処理を行うメンテナンス部50とを備える。
【0015】
記録部10は、インク滴を吐出して流体噴射対象物である記録紙12に画像形成するラインヘッド13(噴射ヘッド)と、記録紙12を搬送する記録紙搬送機構14と、ラインヘッド13に供給するインク(流体)を貯留したインク貯留部15(流体貯留部)と、インク貯留部15に貯留したインクをラインヘッド13に供給する供給ポンプ16とを備えて構成されている。
【0016】
記録紙搬送機構14は、紙送りモータ(不図示)やこの紙送りモータによって回転駆動される紙送りローラ等から構成され、記録(印字・印刷)動作に連動させて、記録紙12をラインヘッド13に対向するように順次送り出す。
【0017】
インク貯留部15は、プリンタ本体17の一側に配置されている。このインク貯留部15は、インクジェットプリンタ100にて用いられる各色(イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K1:染料系)、黒(K2:顔料系))に対応する色のインクを貯蔵するインクタンクを有している。このインク貯留部15に備えられた各インクタンクは、供給ポンプ16が設置されたインク供給流路18を介してラインヘッド13と連通している。そして、各インク供給流路を介してラインヘッド13に各色のインクが供給されることになる。
【0018】
供給ポンプ16は、インク貯留部15に備えられた各インクタンクに貯留されたインクを強制流動させることによって、ラインヘッド13に供給するものである。そして、当該供給ポンプ16の駆動によって、インク貯留部15に貯留されたインクがラインヘッド13に供給される。
【0019】
ラインヘッド13は、図2の平面図に示すように、インクジェットプリンタ100が対象とする最大サイズの記録紙12の少なくとも一辺を越える長さ(最大記録紙幅W)に亘ってノズル19(図3参照)が多数配列されたライン型の記録ヘッドである。本実施形態においては、図3に示す下面図に示すように、少なくとも各色(Y、M、C、K1、K2)に対応した5つのノズル列L1,L2,L3,L4,L5を備えている。ノズル列L1〜L5は、インク滴を吐出するためのノズル19を多数整列配置してなるラインであって、記録紙12の搬送方向に沿って順に配列されている。
【0020】
このようなラインヘッド13が最大記録紙幅Wに対応する長さ方向を記録紙12の搬送方向と直交する方向に配置されているため、記録紙12を搬送しながら、ラインヘッド13が備える各ノズル列L1〜L5のノズル19からインク滴を記録紙12に噴射することにより記録紙12全体に画像が形成可能とされている。
【0021】
図4は、ラインヘッド13の一部を示す断面図である。この図に示すように、ラインヘッド13は、ヘッド本体20と、振動板21、流路基板22、及びノズル基板23を含む流路形成ユニット24とを備えている。インクを噴射するノズル19はノズル基板23に形成されている。流路形成ユニット24は、振動板21、流路基板22、及びノズル基板23を積層し、接着剤等で接合して一体にしたものである。
【0022】
ラインヘッド13は、ヘッド本体20の内部に形成された収容空間25と、収容空間25に配置された駆動ユニット26とを備えている。駆動ユニット26は、複数の圧電素子27と、圧電素子27の上端を支持する固定部材28と、駆動信号を圧電素子27に供給する柔軟なケーブル29とを備えている。圧電素子27は、複数のノズル19のそれぞれに対応するように設けられている。
【0023】
また、ラインヘッド13は、ヘッド本体20の内部に形成されると共にインク貯留部15からインク供給流路18を介して供給されたインクが流れる内部流路30と、振動板21、流路基板22、及びノズル基板23を含む流路形成ユニット24によって形成されると共に内部流路30と接続された共通インク室31と、流路形成ユニット24によって形成されると共に共通インク室31と接続されたインク供給口32と、流路形成ユニット24によって形成されると共にインク供給口32と接続された圧力室33とを備えている。圧力室33は、複数のノズル19に対応するように複数設けられている。複数のノズル19のそれぞれは、複数の圧力室33のそれぞれに接続されている。
【0024】
ヘッド本体20は、合成樹脂で形成されている。振動板21は、例えばステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工したものである。振動板21の圧力室に対応する部分には、圧電素子27の下端と接合される島部34が形成されている。振動板21の少なくとも一部は、圧電素子27の駆動に応じて弾性変形する。振動板21と内部流路30の下端近傍との間にはコンプライアンス部35が形成されている。
【0025】
流路基板22は、内部流路30の下端とノズル19とを接続する共通インク室31、インク供給口32、及び圧力室33それぞれの空間を形成するための凹部を有する。本実施形態においては、流路基板22は、シリコンを異方性エッチングすることで形成されている。
【0026】
ノズル基板23は、所定方向に所定間隔(ピッチ)で形成された複数のノズル19を有する。本実施形態のノズル基板23は、例えばステンレス鋼等の金属で形成された板状の部材である。
また、ノズル基板23の下面側には、各ノズル19に対応する溝部70が形成されている(図3参照)。当該溝部70は、後述する回転装置40によってノズル19が上方を向くようにラインヘッド13が回転された状態において、インクを貯留可能なものであり、底部71にノズル19が形成されている。すなわち、溝部70は、ノズル19の形成領域を含んでインクを貯留可能なものである。なお、溝部70の底部71は、ノズル19に向けて傾斜されている。
【0027】
各インクタンクから各々のインク供給流路18を介して供給されたインクは、内部流路30の上端に流入する。内部流路30の下端は、共通インク室31に接続されており、インクタンクからインク供給流路18を介して内部流路30の上端に流入したインクは、内部流路30を流れた後、共通インク室31に供給される。共通インク室31に供給されたインクは、インク供給口32を介して、複数の圧力室33のそれぞれに分配されるように供給される。
【0028】
そして、ケーブル29を介して圧電素子27に駆動信号が入力されると、圧電素子27が伸縮する。これにより、振動板21が圧力室に接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。これにより、圧力室33の容積が変化し、インクを収容した圧力室33の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル19から、インクが噴射(吐出)される。
【0029】
このように、本実施形態の圧電素子27(駆動素子)は、ノズル19よりインクを噴射するために、入力される駆動信号に基づいて、ノズル19に接続された圧力室33(空間)の圧力を変動させる。そして、ノズル19から噴射されたインクによって記録紙12に所望の画像が形成される。
【0030】
また、図1及び図2に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタ100は、ラインヘッド13を、当該ラインヘッド13の延在方向を回転軸として上下方向に回転する回転装置40(回転部)を備えている。回転装置40は、図2に示すように、モータ41と、該モータ41によって回転されると共にラインヘッド13に接続される軸部42を備えている。そして、モータ41の駆動によって軸部42に接続されたラインヘッド13が上下方向に回転される。
【0031】
次に、メンテナンス部50の構成について詳述する。
メンテナンス部50は、フラッシング等の動作によってノズルから排出されるインクを受けるトレー部51と、トレー部51に溜まったインクを排出するためのインク排出部52と、インク排出部52によって排出されたインクを回収して貯留する廃インクタンク53等を備えている。
【0032】
図5は、メンテナンス部50の詳細を示す断面図である。
トレー部51は、ラインヘッド13の下方に配置されており、ラインヘッド13による記録動作前等において、増粘したインクLや気泡等を排出するためにインク滴を吐出するフラッシング処理においてインク滴を受ける。このため、トレー部51の内部に、インクを吸収可能(保持可能)なスポンジ状部材や多孔部材等を設けておいてもよい。
【0033】
インク排出部52は、トレー部51に接続してトレー部51内に溜まったインクを排出する排出流路52a、トレー部51に溜まったインクを排出流路52a内に吸引するための吸引ポンプ60等を備えている。
トレー部51の底壁には、トレー部51内に溜まったインクLを排出する排出部54が下方に向かって突設されており、その内部には排出流路52aが形成されている。
排出部54には、上記排出流路52aとして機能する、可撓性材料等からなる排出チューブ55の一端部が接続されており、排出チューブ55の他端部は、廃インクタンク53内に挿入されている。
なお、廃インクタンク53内には、多孔質部材からなる廃インク吸収材56が収容されており、この廃インク吸収材56に回収されたインクLが吸収されるようになっている。
【0034】
トレー部51と廃インクタンク53との間には、チューブポンプ式の吸引ポンプ60が配設されている。吸引ポンプ60は、円筒状のケース61を有しており、このケース61内には平面視で円形状をなすポンプホイル62がケース61の軸心に設けられたホイル軸63を中心に回動可能に収容されている。そして、このケース61内に、排出チューブ55の中間部55aがケース61の内周壁61aに沿うようにして収容されている。
【0035】
ポンプホイル62には、一対の外側に膨らむ円弧状をなすローラ案内溝64,65がホイル軸63を挟んで対向するように形成されている。各ローラ案内溝64,65は、一端がポンプホイル62の外周側に位置しており、他端がポンプホイル62の内周側に位置している。すなわち、両ローラ案内溝64,65は、それらの一端から他端に向かうほど、徐々にポンプホイル62の外周部から遠ざかるように延びている。
両ローラ案内溝64,65内には、押圧手段としての一対のローラ66,67が、それぞれ回動軸66a,67aを介して挿通支持されている。なお、両回動軸66a,67aは、それぞれ両ローラ案内溝64,65内を摺動自在になっている。
【0036】
そして、ポンプホイル62を、正方向(矢印方向)に回動させると、両ローラ66,67が両ローラ案内溝64,65の一端側(ポンプホイル62の外周側)に移動し、排出チューブ55の中間部55aを上流側から下流側へ順次押し潰しながら(押圧しながら)回動するようになっている。この回動により、吸引ポンプ60より上流側の排出チューブ55の内部が減圧されるようになっている。
これにより、トレー部51内に溜まったインクLは、ポンプホイル62の正方向の回動動作により、徐々に廃インクタンク53方向へ排出されるようになっている。
【0037】
なお、ポンプホイル62は、記録紙搬送機構14の紙送りモータによって回転駆動されるようになっている。
【0038】
図6は、インクジェットプリンタ100の電気的な構成を示すブロック図である。
本実施形態におけるインクジェットプリンタ100は、図6に示すように、インクジェットプリンタ100全体の動作を制御する制御装置200を備えている。制御装置200には、インクジェットプリンタ100の動作に関する各種情報を入力する入力装置201と、インクジェットプリンタ100の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置202と、時間の計測を実行可能な計測装置203とが接続されている。また、制御装置200には、上述した記録紙搬送機構14、供給ポンプ16、吸引ポンプ60等が接続されている。また、インクジェットプリンタ100は、圧電素子27を含む駆動ユニット24に入力する駆動信号を発生する駆動信号発生装置204を備えている。駆動信号発生装置204は、制御装置200に接続されている。
【0039】
駆動信号発生装置204には、ラインヘッド13の圧電素子27に入力する駆動パルスの電圧値の変化量を示すデータ、及び駆動パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号が入力される。駆動信号発生装置204は、入力されたデータ及びタイミング信号に基づいて、例えば、図7に示す駆動パルスDPを含む駆動信号を発生する。
【0040】
図7において、駆動パルスDPは、基準電位VMから最高電位VHまで所定の勾配で電位を上昇させる第1充電要素PE1と、最高電位VHを一定時間維持する第1ホールド要素PE2と、最高電位VHから最低電位VLまで所定の勾配で電位を降下させる放電要素PE3と、最低電位VLを短い時間維持する第2ホールド要素PE4と、最低電位VLから基準電位VMまで電位を復帰させる第2充電要素PE5とを含む。ノズル19から噴射されるインクの滴の量が設計値と一致するように、駆動パルスDPのうち、最高電位VHと最低電位VLとの電位差である駆動電圧VDが設定される。なお、図7に示す駆動パルスDPは一例であり、種々の波形のものを用いることができる。
【0041】
駆動信号発生装置204より駆動パルスDPが圧電素子27に入力されると、ノズル19よりインクの滴が吐出される。第1充電要素PE1が供給されると、圧電素子27が収縮して圧力室33が膨張する。この圧力室33の膨張状態が短時間維持された後、放電要素PE3が供給されて圧電素子27が急激に伸長する。これに伴って、圧力室33の容積が基準容積(圧電素子27に基準電位VEを印加したときの圧力室33の容積)以下に収縮し、ノズル19に露出したメニスカスが外側に向けて急激に加圧される。これにより、所定量のインクの滴がノズル19から吐出される。その後、第2ホールド要素PE4、及び第2充電要素PE5が圧電素子27に順次供給され、インクの滴の吐出に伴うメニスカスの振動を短時間で収束させるように、圧力室33が基準容積に復帰する。
【0042】
本実施形態のインクジェットプリンタ100は、メンテナンス部50を用いて、ラインヘッド13に対するメンテナンス処理であるフラッシング動作を行う。ラインヘッド13によるフラッシング動作は、ノズル19からのインクを記録紙に噴射する前等に、ノズル19よりインクをトレー部51に予め噴射する動作である。これにより、使用頻度が低いノズル19付近の粘度が増大したインクが排出され、ノズル19の噴射特性が維持又は回復される。
【0043】
トレー部51にインクLが溜まると、このインクLが溢れる前に、吸引ポンプ60を駆動してインクLを排出するように制御される。上述したように、吸引ポンプ60は、紙送りモータMにより駆動されるため、給紙・排紙を含む記録(印字・印刷)処理を停止して行う必要がある。このため、トレー部51にできるだけ多くのインクLをためて、吸引処理の頻度を抑えることが要求される。
【0044】
次に、上述の構成を有するインクジェットプリンタの休止動作及び始動動作の一例について、主にラインヘッド13の動作を中心として、図8及び図9のフローチャート及び図10〜図14の動作説明図を参照して説明する。
【0045】
まず、休止動作の説明を図8のフローチャートを参照して説明する。なお、ここで言う休止動作とは、記録紙に画像を形成する一連の動作の終了後に、待機状態あるいは電源切断状態へ移行する際に行われる動作である。
まず、制御装置200は、所定のタイミングで、休止動作の開始を指令する。
そして、制御装置200は、回転装置40によって、図10及び図11に示すように、ノズル19が下向きの姿勢とされたラインヘッド13を、ノズル19が上向きの姿勢となるまで回転させる(ステップS11)。
【0046】
続いて、制御装置200は、ラインヘッド13の駆動ユニット26を用いて、各ノズル19からインクLを排出させる(ステップS12)。なお、ここでのノズル19からのインクLの排出は、記録紙への画像形成動作におけるインクLの噴射に対して、十分にインクLの噴射速度を低減させるものとし、ノズル19からインクLが滲み出す程度まで噴射速度を低減させる。また、ここでのノズル19からインクLの排出においては、ノズル19から排出されるインクの量は、各ノズル19に対応して設けられた溝部70の容積以下とする。なお、ノズル19からのインクLの排出は、駆動ユニット26の駆動によらず、供給ポンプ16の駆動によって行っても良い。具体的には、供給ポンプ16によるインクへの加圧量を増加させることによって、ノズル19からインクLを排出することができる。
【0047】
そして、制御装置200は、インクLの排出によって休止動作を終了する。このようにして休止動作が終了すると、図12に示すように、各溝部70にインクLが貯留された状態となる。すなわち、各ノズル19がインクLによって覆われた状態となる。このように溝部70に貯留されたインクLによってノズル19が覆われることで、ノズル19を含めたラインヘッド13内部のインクが乾燥することを抑制することができる。
よって、本実施形態のインクジェットプリンタ100によれば、キャップ部材をラインヘッド13に当接させることなく、ノズル19の特性変化(例えば、乾燥によるインクの凝固を起因とする吐出量変化)を抑制することが可能となる。
したがって、本実施形態のインクジェットプリンタ100によれば、従来のキャッピング装置によらずにノズル19の噴射特性を維持することができる。
【0048】
また、本実施形態のインクジェットプリンタ100においては、溝部70の底部71が、ノズル19に向けて傾斜されている。このため、溝部70に供給されるインクLの量が少量であっても、底部71の傾斜に伴ってインクLがノズル19の位置に集中するため、確実に溝部70に貯留されるインクLによってノズル19を覆うことができる。
【0049】
なお、溝部70に貯留したインクLは、そのままの状態である場合には、徐々に乾燥して凝固してしまう。そこで、溝部70に貯留されたインクLを流動させることによって溝部70の乾燥を抑制することが好ましい。具体的には、例えば、供給ポンプ16の駆動により溝部70に貯留したインクを流動させても良いし、別途、循環装置等を設置し、当該循環装置等によって溝部70に貯留したインクを流動させても良い。
【0050】
次に、開始動作の説明を図9のフローチャートを参照して説明する。制御装置200は、所定のタイミングで、開始動作の開始を指令する。なお、ここで言う開始動作とは、待機状態あるいは電源切断状態から記録紙に画像を形成可能となる状態へ移行する際に行われる動作である。
【0051】
まず、制御装置200は、所定のタイミングで、開始動作の開始を指令する。
そして、制御装置200は、供給ポンプ16をインク供給時と逆駆動することによって、溝部70に貯留されたインクLを回収する(ステップS21)。この際、上述した流動部によって溝部70に貯留されたインクLが流動されている場合には、インクLの凝固が抑制されているため、供給ポンプ16を逆駆動することによって容易に溝部70からインクLを排除することが可能となる。また、溝部70に貯留されたインクLを回収した場合に、回収したインクに含まれる凝固成分が減少されているため、後のフラッシング動作を簡易化あるいは省略することが可能となる。
【0052】
続いて、制御装置200は、回転装置40によって、図13及び図14に示すように、ノズル19が上向きの姿勢とされたラインヘッド13を、ノズル19が下向きの姿勢となるまで回転させる(ステップS22)。
その後、制御装置200は、必要に応じてフラッシング動作を行い、開始動作を終了する。
【0053】
以上の説明のような本実施形態のインクジェットプリンタ100によれば、回転装置40によってラインヘッド13が、ノズル19が上方を向くように回転可能とされている。また、ラインヘッド13が、ノズル19が上方を向くように回転された状態にて、溝部70にインクを貯留することによって、ノズル19をインクにて覆うことができる。このため、ノズル19が乾燥することを抑制することができ、ノズルの噴射特性の変化を抑制することができる。
したがって、本実施形態のインクジェットプリンタ100によれば、従来のキャッピング装置によらずにノズルの噴射特性を維持することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態のインクジェットプリンタ100においては、溝部70の底部71にノズルが形成されている構成を採用した。
このような構成を採用することによって、溝部70にインクを貯留することによって容易にノズルの形成領域をインクにて覆うことが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態のインクジェットプリンタ100においては、ラインヘッド13にて溝部70がノズル19ごとに形成されている構成について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば図15に示すように、ノズル19群をラインヘッド13の長手方向において複数のユニット19a〜19dに分割し、ユニットごとに溝部300を形成する構成を採用しても良い。
このような構成を採用する場合には、溝部300に貯留される流体によって各ユニット19a〜19dに含まれる複数のノズル19が覆われることとなるため、各ユニット19a〜19dに異なる色のインクを噴射するノズルが含まれている場合には、混色を防止する(各インク成分への影響を防止する)ために、溝部300にインクを貯留することができない。したがって、本構成を採用する場合には、混色が生じないような流体(特性維持流体)を溝部300に貯留することとなる。具体的には、各インクに用いられる溶媒を特性維持流体として用いることができる。このように各インクに用いられる溶媒が同一であれば、特性維持流体として上記溶媒を用いることによって、全てのノズル19に対して同一の特性維持流体にて覆うことができる。つまり、各ノズル19に対する特性維持流体を共通化することが可能となる。
なお、通常のラインヘッド13においては、上述のように上記溶媒のみを排出する機能は有していない。このため、溶媒のみを貯留するインクタンクを別途設置し、当該インクタンクから溝部300に溶媒を供給する供給部を別途設置する必要がある。具体的には、上述のノズル19の他に、溶媒のみを排出するノズルを形成し、当該ノズルを介してインクタンクから供給される溶媒を排出する駆動ユニット26を設置すれば良い。
【0056】
また、ノズル19群をラインヘッド13の長手方向において複数のユニット19a〜19dに分割する場合には、図16に示すように、各ユニット19a〜19dが千鳥配置されていても良い。
【0057】
また、上記溶媒(異なる種類のインクに共通して用いられる溶媒)は、本実施形態のように、各ノズル19に対して溝部70が形成されている構成において用いることもできる。ただし、このような構成を採用する場合には、溝部70に溶媒を供給するための供給部を別途備える必要がある。
すなわち、本実施形態のインクジェットプリンタ100のように、特性維持流体としてインクを用いることによって、駆動ユニット26を供給部として用いることができ、別途、特性維持流体を供給する供給部を設置する必要がなくなり、インクジェットプリンタ100を小型化することが可能となる。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0059】
図17は、本実施形態のインクジェットプリンタが備えるラインヘッド13のノズル19近傍を拡大した断面図である。この図に示すように、本実施形態のラインヘッド13においては、上記第1実施形態の溝部70が形成されておらず、溝部70に替わってノズル19の形成領域を囲う壁部400を備えるという構成を採用する。
【0060】
このような構成を採用することによって、図18に示すように、ラインヘッド13が、ノズル19が上方に向くように回転された場合において、壁部400に囲われた空間KにインクLを貯留することができる。そして、空間Kに貯留されたインクによってノズル19をインクにて覆うことができる。
したがって、本実施形態のインクジェットプリンタにおいても、上記第1実施形態のインクジェットプリンタと同様の効果を奏することができる。
【0061】
なお、本実施形態のインクジェットプリンタにおいても、上記第1実施形態のインクジェットプリンタと同様に、各ノズル19を壁部400によって囲う必要はなく、ノズル19群をラインヘッド13の長手方向において複数のユニットに分割し、ユニットごとに壁部で囲む構成を採用しても良い。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
例えば、上記実施形態においては、単一のラインヘッドを備え、当該ラインヘッドから全ての種類のインクが噴射される構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、インクの種類ごとにラインヘッドを設置する構成であっても良い。
また、本発明は、ラインヘッド方式のインクジェットプリンタに限られるものではなく、シリアル方式のインクジェットプリンタに適用することも可能である。
【0064】
また、上記実施形態においては、インクジェット式記録装置がインクジェット式プリンタである場合を例にして説明したが、インクジェット式プリンタに限られず、複写機及びファクシミリ等の記録装置であってもよい。
【0065】
また、上述の各実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の液体(液状体)を噴射する流体噴射装置(液状体噴射装置)である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、液体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体、流体として流して噴射できる固体、及び粉体(トナー等)を含む。
【0066】
また、上述の各実施形態において、流体噴射装置から噴射される液体(液状体)としては、インクのみならず、特定の用途に対応する液体を適用可能である。流体噴射装置に、その特定の用途に対応する液体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する液体を噴射して、その液体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、本発明の流体噴射装置(液状体噴射装置)は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した液体(液状体)を噴射する流体噴射装置に適用可能である。
【0067】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
【0068】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射するトナージェット式記録装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの概略構成を示すものである。
【図2】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタを要部を模式的に示した平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドの下面図である。
【図4】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドの一部を示す断面図
【図5】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるメンテナンス部の詳細を示す断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの電気的な構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタにて用いる駆動パルスの一例を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図11】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図12】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図13】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図14】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図15】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドの変形例を示す図である。
【図16】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドの変形例を示す図である。
【図17】本発明の第2実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドのノズル近傍を拡大した断面図である。
【図18】本発明の第2実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0070】
100……インクジェットプリンタ(流体噴射装置)、13……ラインヘッド(噴射ヘッド)、19……ノズル、40……回転装置(回転部)、70,300……溝部(貯留部)、400……壁部(貯留部)、L……インク(流体,特性維持流体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置として、記録ヘッド(噴射ヘッド)に形成されたノズルより記録媒体にインクを噴射するインクジェット式記録装置が知られている。流体噴射装置においては、乾燥等によるノズルの噴射特性の悪化を抑制するために、従来から、ノズルを囲うように記録ヘッドに当接されるキャップ部材を備えるキャッピング装置が設けられている。
【特許文献1】特開2002−11864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、キャップ部材を記録ヘッドに当接させる場合には、キャップ部材を記録ヘッドに対して移動させる必要があり、キャップ部材を移動させるための移動機構をキャッピング装置に備えさせる必要がある。このような移動機構は複数の部品からなっており、複雑であるため、キャッピング装置(すなわち流体噴射装置)の部品点数が増加し、高い組み立て精度を実現することが困難となる。
一方、キャップ部材と記録ヘッドとの当接状態が悪く、キャップ部材と記録ヘッドとの間に隙間が形成されてしまうと、ノズルの乾燥を十分に抑制することができなくなるため、キャップ部材の位置合わせ精度は高い必要がある。
【0004】
このように、従来の流体噴射装置においては、ノズルの噴射特性の維持のために、多数の部品を極めて高い組み立て精度にて組み立てる必要が生じていた。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、従来のキャッピング装置によらずにノズルの噴射特性を維持可能な流体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、噴射ヘッドに形成されたノズルを介して流体を噴射する流体噴射装置であって、上記噴射ヘッドを上下方向に回転可能な回転部と、上記ノズルが上方を向くように上記噴射ヘッドが回転された場合に、上記ノズルの噴射特性を維持するための特性維持流体を上記ノズルの形成領域を含んで貯留可能な貯留部と、上記貯留部に上記特性維持流体を供給する供給部とを備えることを特徴とする。
【0007】
このような特徴を有する本発明によれば、回転部によって、ノズルが上方を向くように噴射ヘッドが回転され、この状態にて、貯留部に特性維持流体を貯留させることによって、ノズルの形成領域(すなわちノズル)が特性維持流体によって覆われる。なお、ここで言う特性維持流体とは、乾燥による流体の凝固等によってノズルの噴射特性が変化するのを抑制するための流体であり、ノズルを覆うことによってノズルの噴射特性に変化が生じることを抑制するものである。
このため、キャップ部材を噴射ヘッドに当接させることなく、ノズルの噴射特性の変化(例えば、乾燥によるインクの凝固を起因とする噴射量の変化)を抑制することが可能となる。
したがって、本発明によれば、従来のキャッピング装置によらずにノズルの噴射特性を維持することができる。
【0008】
また、本発明においては、上記貯留部は、上記噴射ヘッドに形成されると共に上記ノズルの形成領域が底部とされる溝部を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、溝部に特性維持流体を貯留した場合に、ノズルの形成領域を特性維持流体にて覆うことができる。
【0009】
また、本発明においては、上記貯留部は、上記噴射ヘッドに形成されると共に上記ノズルの形成領域を囲う壁部を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、壁部に囲われた空間に特性維持流体を貯留した場合に、ノズルの形成領域を特性維持流体にて覆うことができる。
【0010】
また、本発明においては、上記ノズルを介して噴射される流体がインクである場合に、上記特性維持流体は、上記インクであるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、貯留部に貯留されたインクによってノズルが覆われることとなり、当該インクによってノズルの乾燥を抑制し、ノズルの噴射特性を維持することができる。また、特性維持流体としてノズルから噴射されるインクが用いられるため、特性維持流体がノズルのインク成分に影響を与えることを防止することができる。
【0011】
また、本発明においては、上記ノズルを介して噴射される流体がインクである場合に、上記特性維持流体は、上記インクに用いられる溶媒であるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、貯留部に貯留された溶媒によってノズルが覆われることとなり、当該溶媒によってノズルの乾燥を抑制し、ノズルの噴射特性を維持することができる。また、特性維持流体としてノズルから噴射されるインクに用いられる溶媒が用いられるため、特性維持流体がノズルのインク成分に影響を与えることを抑制することができる。
さらには、例えば、異なる色のインクを噴射可能な単一の噴射ヘッド、あるいは異なる色のインクを噴射する複数の噴射ヘッドを備える場合であっても、各インクに用いられる溶媒が同一であれば、特性維持流体として上記溶媒を用いることによって、全てのノズルに対して同一の特性維持流体を用いることができる。すなわち、各ノズルに対する特性維持流体を共通化することが可能となる。
【0012】
また、本発明においては、上記貯留部に貯留された上記特性維持流体を流動させる流動部を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、貯留部に貯留された特性維持流体が乾燥して凝固することを抑制することができ、再度ノズルから流体を噴射する場合における特性維持流体の排除が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る流体噴射装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本発明に係る流体噴射装置として、インクジェット式プリンタを例示する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェット式プリンタ(以下、インクジェットプリンタ100という)の概略構成を示す模式図である。インクジェットプリンタ100は、記録紙への記録を行う記録部10と、記録部10のメンテナンス処理を行うメンテナンス部50とを備える。
【0015】
記録部10は、インク滴を吐出して流体噴射対象物である記録紙12に画像形成するラインヘッド13(噴射ヘッド)と、記録紙12を搬送する記録紙搬送機構14と、ラインヘッド13に供給するインク(流体)を貯留したインク貯留部15(流体貯留部)と、インク貯留部15に貯留したインクをラインヘッド13に供給する供給ポンプ16とを備えて構成されている。
【0016】
記録紙搬送機構14は、紙送りモータ(不図示)やこの紙送りモータによって回転駆動される紙送りローラ等から構成され、記録(印字・印刷)動作に連動させて、記録紙12をラインヘッド13に対向するように順次送り出す。
【0017】
インク貯留部15は、プリンタ本体17の一側に配置されている。このインク貯留部15は、インクジェットプリンタ100にて用いられる各色(イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K1:染料系)、黒(K2:顔料系))に対応する色のインクを貯蔵するインクタンクを有している。このインク貯留部15に備えられた各インクタンクは、供給ポンプ16が設置されたインク供給流路18を介してラインヘッド13と連通している。そして、各インク供給流路を介してラインヘッド13に各色のインクが供給されることになる。
【0018】
供給ポンプ16は、インク貯留部15に備えられた各インクタンクに貯留されたインクを強制流動させることによって、ラインヘッド13に供給するものである。そして、当該供給ポンプ16の駆動によって、インク貯留部15に貯留されたインクがラインヘッド13に供給される。
【0019】
ラインヘッド13は、図2の平面図に示すように、インクジェットプリンタ100が対象とする最大サイズの記録紙12の少なくとも一辺を越える長さ(最大記録紙幅W)に亘ってノズル19(図3参照)が多数配列されたライン型の記録ヘッドである。本実施形態においては、図3に示す下面図に示すように、少なくとも各色(Y、M、C、K1、K2)に対応した5つのノズル列L1,L2,L3,L4,L5を備えている。ノズル列L1〜L5は、インク滴を吐出するためのノズル19を多数整列配置してなるラインであって、記録紙12の搬送方向に沿って順に配列されている。
【0020】
このようなラインヘッド13が最大記録紙幅Wに対応する長さ方向を記録紙12の搬送方向と直交する方向に配置されているため、記録紙12を搬送しながら、ラインヘッド13が備える各ノズル列L1〜L5のノズル19からインク滴を記録紙12に噴射することにより記録紙12全体に画像が形成可能とされている。
【0021】
図4は、ラインヘッド13の一部を示す断面図である。この図に示すように、ラインヘッド13は、ヘッド本体20と、振動板21、流路基板22、及びノズル基板23を含む流路形成ユニット24とを備えている。インクを噴射するノズル19はノズル基板23に形成されている。流路形成ユニット24は、振動板21、流路基板22、及びノズル基板23を積層し、接着剤等で接合して一体にしたものである。
【0022】
ラインヘッド13は、ヘッド本体20の内部に形成された収容空間25と、収容空間25に配置された駆動ユニット26とを備えている。駆動ユニット26は、複数の圧電素子27と、圧電素子27の上端を支持する固定部材28と、駆動信号を圧電素子27に供給する柔軟なケーブル29とを備えている。圧電素子27は、複数のノズル19のそれぞれに対応するように設けられている。
【0023】
また、ラインヘッド13は、ヘッド本体20の内部に形成されると共にインク貯留部15からインク供給流路18を介して供給されたインクが流れる内部流路30と、振動板21、流路基板22、及びノズル基板23を含む流路形成ユニット24によって形成されると共に内部流路30と接続された共通インク室31と、流路形成ユニット24によって形成されると共に共通インク室31と接続されたインク供給口32と、流路形成ユニット24によって形成されると共にインク供給口32と接続された圧力室33とを備えている。圧力室33は、複数のノズル19に対応するように複数設けられている。複数のノズル19のそれぞれは、複数の圧力室33のそれぞれに接続されている。
【0024】
ヘッド本体20は、合成樹脂で形成されている。振動板21は、例えばステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工したものである。振動板21の圧力室に対応する部分には、圧電素子27の下端と接合される島部34が形成されている。振動板21の少なくとも一部は、圧電素子27の駆動に応じて弾性変形する。振動板21と内部流路30の下端近傍との間にはコンプライアンス部35が形成されている。
【0025】
流路基板22は、内部流路30の下端とノズル19とを接続する共通インク室31、インク供給口32、及び圧力室33それぞれの空間を形成するための凹部を有する。本実施形態においては、流路基板22は、シリコンを異方性エッチングすることで形成されている。
【0026】
ノズル基板23は、所定方向に所定間隔(ピッチ)で形成された複数のノズル19を有する。本実施形態のノズル基板23は、例えばステンレス鋼等の金属で形成された板状の部材である。
また、ノズル基板23の下面側には、各ノズル19に対応する溝部70が形成されている(図3参照)。当該溝部70は、後述する回転装置40によってノズル19が上方を向くようにラインヘッド13が回転された状態において、インクを貯留可能なものであり、底部71にノズル19が形成されている。すなわち、溝部70は、ノズル19の形成領域を含んでインクを貯留可能なものである。なお、溝部70の底部71は、ノズル19に向けて傾斜されている。
【0027】
各インクタンクから各々のインク供給流路18を介して供給されたインクは、内部流路30の上端に流入する。内部流路30の下端は、共通インク室31に接続されており、インクタンクからインク供給流路18を介して内部流路30の上端に流入したインクは、内部流路30を流れた後、共通インク室31に供給される。共通インク室31に供給されたインクは、インク供給口32を介して、複数の圧力室33のそれぞれに分配されるように供給される。
【0028】
そして、ケーブル29を介して圧電素子27に駆動信号が入力されると、圧電素子27が伸縮する。これにより、振動板21が圧力室に接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。これにより、圧力室33の容積が変化し、インクを収容した圧力室33の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル19から、インクが噴射(吐出)される。
【0029】
このように、本実施形態の圧電素子27(駆動素子)は、ノズル19よりインクを噴射するために、入力される駆動信号に基づいて、ノズル19に接続された圧力室33(空間)の圧力を変動させる。そして、ノズル19から噴射されたインクによって記録紙12に所望の画像が形成される。
【0030】
また、図1及び図2に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタ100は、ラインヘッド13を、当該ラインヘッド13の延在方向を回転軸として上下方向に回転する回転装置40(回転部)を備えている。回転装置40は、図2に示すように、モータ41と、該モータ41によって回転されると共にラインヘッド13に接続される軸部42を備えている。そして、モータ41の駆動によって軸部42に接続されたラインヘッド13が上下方向に回転される。
【0031】
次に、メンテナンス部50の構成について詳述する。
メンテナンス部50は、フラッシング等の動作によってノズルから排出されるインクを受けるトレー部51と、トレー部51に溜まったインクを排出するためのインク排出部52と、インク排出部52によって排出されたインクを回収して貯留する廃インクタンク53等を備えている。
【0032】
図5は、メンテナンス部50の詳細を示す断面図である。
トレー部51は、ラインヘッド13の下方に配置されており、ラインヘッド13による記録動作前等において、増粘したインクLや気泡等を排出するためにインク滴を吐出するフラッシング処理においてインク滴を受ける。このため、トレー部51の内部に、インクを吸収可能(保持可能)なスポンジ状部材や多孔部材等を設けておいてもよい。
【0033】
インク排出部52は、トレー部51に接続してトレー部51内に溜まったインクを排出する排出流路52a、トレー部51に溜まったインクを排出流路52a内に吸引するための吸引ポンプ60等を備えている。
トレー部51の底壁には、トレー部51内に溜まったインクLを排出する排出部54が下方に向かって突設されており、その内部には排出流路52aが形成されている。
排出部54には、上記排出流路52aとして機能する、可撓性材料等からなる排出チューブ55の一端部が接続されており、排出チューブ55の他端部は、廃インクタンク53内に挿入されている。
なお、廃インクタンク53内には、多孔質部材からなる廃インク吸収材56が収容されており、この廃インク吸収材56に回収されたインクLが吸収されるようになっている。
【0034】
トレー部51と廃インクタンク53との間には、チューブポンプ式の吸引ポンプ60が配設されている。吸引ポンプ60は、円筒状のケース61を有しており、このケース61内には平面視で円形状をなすポンプホイル62がケース61の軸心に設けられたホイル軸63を中心に回動可能に収容されている。そして、このケース61内に、排出チューブ55の中間部55aがケース61の内周壁61aに沿うようにして収容されている。
【0035】
ポンプホイル62には、一対の外側に膨らむ円弧状をなすローラ案内溝64,65がホイル軸63を挟んで対向するように形成されている。各ローラ案内溝64,65は、一端がポンプホイル62の外周側に位置しており、他端がポンプホイル62の内周側に位置している。すなわち、両ローラ案内溝64,65は、それらの一端から他端に向かうほど、徐々にポンプホイル62の外周部から遠ざかるように延びている。
両ローラ案内溝64,65内には、押圧手段としての一対のローラ66,67が、それぞれ回動軸66a,67aを介して挿通支持されている。なお、両回動軸66a,67aは、それぞれ両ローラ案内溝64,65内を摺動自在になっている。
【0036】
そして、ポンプホイル62を、正方向(矢印方向)に回動させると、両ローラ66,67が両ローラ案内溝64,65の一端側(ポンプホイル62の外周側)に移動し、排出チューブ55の中間部55aを上流側から下流側へ順次押し潰しながら(押圧しながら)回動するようになっている。この回動により、吸引ポンプ60より上流側の排出チューブ55の内部が減圧されるようになっている。
これにより、トレー部51内に溜まったインクLは、ポンプホイル62の正方向の回動動作により、徐々に廃インクタンク53方向へ排出されるようになっている。
【0037】
なお、ポンプホイル62は、記録紙搬送機構14の紙送りモータによって回転駆動されるようになっている。
【0038】
図6は、インクジェットプリンタ100の電気的な構成を示すブロック図である。
本実施形態におけるインクジェットプリンタ100は、図6に示すように、インクジェットプリンタ100全体の動作を制御する制御装置200を備えている。制御装置200には、インクジェットプリンタ100の動作に関する各種情報を入力する入力装置201と、インクジェットプリンタ100の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置202と、時間の計測を実行可能な計測装置203とが接続されている。また、制御装置200には、上述した記録紙搬送機構14、供給ポンプ16、吸引ポンプ60等が接続されている。また、インクジェットプリンタ100は、圧電素子27を含む駆動ユニット24に入力する駆動信号を発生する駆動信号発生装置204を備えている。駆動信号発生装置204は、制御装置200に接続されている。
【0039】
駆動信号発生装置204には、ラインヘッド13の圧電素子27に入力する駆動パルスの電圧値の変化量を示すデータ、及び駆動パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号が入力される。駆動信号発生装置204は、入力されたデータ及びタイミング信号に基づいて、例えば、図7に示す駆動パルスDPを含む駆動信号を発生する。
【0040】
図7において、駆動パルスDPは、基準電位VMから最高電位VHまで所定の勾配で電位を上昇させる第1充電要素PE1と、最高電位VHを一定時間維持する第1ホールド要素PE2と、最高電位VHから最低電位VLまで所定の勾配で電位を降下させる放電要素PE3と、最低電位VLを短い時間維持する第2ホールド要素PE4と、最低電位VLから基準電位VMまで電位を復帰させる第2充電要素PE5とを含む。ノズル19から噴射されるインクの滴の量が設計値と一致するように、駆動パルスDPのうち、最高電位VHと最低電位VLとの電位差である駆動電圧VDが設定される。なお、図7に示す駆動パルスDPは一例であり、種々の波形のものを用いることができる。
【0041】
駆動信号発生装置204より駆動パルスDPが圧電素子27に入力されると、ノズル19よりインクの滴が吐出される。第1充電要素PE1が供給されると、圧電素子27が収縮して圧力室33が膨張する。この圧力室33の膨張状態が短時間維持された後、放電要素PE3が供給されて圧電素子27が急激に伸長する。これに伴って、圧力室33の容積が基準容積(圧電素子27に基準電位VEを印加したときの圧力室33の容積)以下に収縮し、ノズル19に露出したメニスカスが外側に向けて急激に加圧される。これにより、所定量のインクの滴がノズル19から吐出される。その後、第2ホールド要素PE4、及び第2充電要素PE5が圧電素子27に順次供給され、インクの滴の吐出に伴うメニスカスの振動を短時間で収束させるように、圧力室33が基準容積に復帰する。
【0042】
本実施形態のインクジェットプリンタ100は、メンテナンス部50を用いて、ラインヘッド13に対するメンテナンス処理であるフラッシング動作を行う。ラインヘッド13によるフラッシング動作は、ノズル19からのインクを記録紙に噴射する前等に、ノズル19よりインクをトレー部51に予め噴射する動作である。これにより、使用頻度が低いノズル19付近の粘度が増大したインクが排出され、ノズル19の噴射特性が維持又は回復される。
【0043】
トレー部51にインクLが溜まると、このインクLが溢れる前に、吸引ポンプ60を駆動してインクLを排出するように制御される。上述したように、吸引ポンプ60は、紙送りモータMにより駆動されるため、給紙・排紙を含む記録(印字・印刷)処理を停止して行う必要がある。このため、トレー部51にできるだけ多くのインクLをためて、吸引処理の頻度を抑えることが要求される。
【0044】
次に、上述の構成を有するインクジェットプリンタの休止動作及び始動動作の一例について、主にラインヘッド13の動作を中心として、図8及び図9のフローチャート及び図10〜図14の動作説明図を参照して説明する。
【0045】
まず、休止動作の説明を図8のフローチャートを参照して説明する。なお、ここで言う休止動作とは、記録紙に画像を形成する一連の動作の終了後に、待機状態あるいは電源切断状態へ移行する際に行われる動作である。
まず、制御装置200は、所定のタイミングで、休止動作の開始を指令する。
そして、制御装置200は、回転装置40によって、図10及び図11に示すように、ノズル19が下向きの姿勢とされたラインヘッド13を、ノズル19が上向きの姿勢となるまで回転させる(ステップS11)。
【0046】
続いて、制御装置200は、ラインヘッド13の駆動ユニット26を用いて、各ノズル19からインクLを排出させる(ステップS12)。なお、ここでのノズル19からのインクLの排出は、記録紙への画像形成動作におけるインクLの噴射に対して、十分にインクLの噴射速度を低減させるものとし、ノズル19からインクLが滲み出す程度まで噴射速度を低減させる。また、ここでのノズル19からインクLの排出においては、ノズル19から排出されるインクの量は、各ノズル19に対応して設けられた溝部70の容積以下とする。なお、ノズル19からのインクLの排出は、駆動ユニット26の駆動によらず、供給ポンプ16の駆動によって行っても良い。具体的には、供給ポンプ16によるインクへの加圧量を増加させることによって、ノズル19からインクLを排出することができる。
【0047】
そして、制御装置200は、インクLの排出によって休止動作を終了する。このようにして休止動作が終了すると、図12に示すように、各溝部70にインクLが貯留された状態となる。すなわち、各ノズル19がインクLによって覆われた状態となる。このように溝部70に貯留されたインクLによってノズル19が覆われることで、ノズル19を含めたラインヘッド13内部のインクが乾燥することを抑制することができる。
よって、本実施形態のインクジェットプリンタ100によれば、キャップ部材をラインヘッド13に当接させることなく、ノズル19の特性変化(例えば、乾燥によるインクの凝固を起因とする吐出量変化)を抑制することが可能となる。
したがって、本実施形態のインクジェットプリンタ100によれば、従来のキャッピング装置によらずにノズル19の噴射特性を維持することができる。
【0048】
また、本実施形態のインクジェットプリンタ100においては、溝部70の底部71が、ノズル19に向けて傾斜されている。このため、溝部70に供給されるインクLの量が少量であっても、底部71の傾斜に伴ってインクLがノズル19の位置に集中するため、確実に溝部70に貯留されるインクLによってノズル19を覆うことができる。
【0049】
なお、溝部70に貯留したインクLは、そのままの状態である場合には、徐々に乾燥して凝固してしまう。そこで、溝部70に貯留されたインクLを流動させることによって溝部70の乾燥を抑制することが好ましい。具体的には、例えば、供給ポンプ16の駆動により溝部70に貯留したインクを流動させても良いし、別途、循環装置等を設置し、当該循環装置等によって溝部70に貯留したインクを流動させても良い。
【0050】
次に、開始動作の説明を図9のフローチャートを参照して説明する。制御装置200は、所定のタイミングで、開始動作の開始を指令する。なお、ここで言う開始動作とは、待機状態あるいは電源切断状態から記録紙に画像を形成可能となる状態へ移行する際に行われる動作である。
【0051】
まず、制御装置200は、所定のタイミングで、開始動作の開始を指令する。
そして、制御装置200は、供給ポンプ16をインク供給時と逆駆動することによって、溝部70に貯留されたインクLを回収する(ステップS21)。この際、上述した流動部によって溝部70に貯留されたインクLが流動されている場合には、インクLの凝固が抑制されているため、供給ポンプ16を逆駆動することによって容易に溝部70からインクLを排除することが可能となる。また、溝部70に貯留されたインクLを回収した場合に、回収したインクに含まれる凝固成分が減少されているため、後のフラッシング動作を簡易化あるいは省略することが可能となる。
【0052】
続いて、制御装置200は、回転装置40によって、図13及び図14に示すように、ノズル19が上向きの姿勢とされたラインヘッド13を、ノズル19が下向きの姿勢となるまで回転させる(ステップS22)。
その後、制御装置200は、必要に応じてフラッシング動作を行い、開始動作を終了する。
【0053】
以上の説明のような本実施形態のインクジェットプリンタ100によれば、回転装置40によってラインヘッド13が、ノズル19が上方を向くように回転可能とされている。また、ラインヘッド13が、ノズル19が上方を向くように回転された状態にて、溝部70にインクを貯留することによって、ノズル19をインクにて覆うことができる。このため、ノズル19が乾燥することを抑制することができ、ノズルの噴射特性の変化を抑制することができる。
したがって、本実施形態のインクジェットプリンタ100によれば、従来のキャッピング装置によらずにノズルの噴射特性を維持することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態のインクジェットプリンタ100においては、溝部70の底部71にノズルが形成されている構成を採用した。
このような構成を採用することによって、溝部70にインクを貯留することによって容易にノズルの形成領域をインクにて覆うことが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態のインクジェットプリンタ100においては、ラインヘッド13にて溝部70がノズル19ごとに形成されている構成について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば図15に示すように、ノズル19群をラインヘッド13の長手方向において複数のユニット19a〜19dに分割し、ユニットごとに溝部300を形成する構成を採用しても良い。
このような構成を採用する場合には、溝部300に貯留される流体によって各ユニット19a〜19dに含まれる複数のノズル19が覆われることとなるため、各ユニット19a〜19dに異なる色のインクを噴射するノズルが含まれている場合には、混色を防止する(各インク成分への影響を防止する)ために、溝部300にインクを貯留することができない。したがって、本構成を採用する場合には、混色が生じないような流体(特性維持流体)を溝部300に貯留することとなる。具体的には、各インクに用いられる溶媒を特性維持流体として用いることができる。このように各インクに用いられる溶媒が同一であれば、特性維持流体として上記溶媒を用いることによって、全てのノズル19に対して同一の特性維持流体にて覆うことができる。つまり、各ノズル19に対する特性維持流体を共通化することが可能となる。
なお、通常のラインヘッド13においては、上述のように上記溶媒のみを排出する機能は有していない。このため、溶媒のみを貯留するインクタンクを別途設置し、当該インクタンクから溝部300に溶媒を供給する供給部を別途設置する必要がある。具体的には、上述のノズル19の他に、溶媒のみを排出するノズルを形成し、当該ノズルを介してインクタンクから供給される溶媒を排出する駆動ユニット26を設置すれば良い。
【0056】
また、ノズル19群をラインヘッド13の長手方向において複数のユニット19a〜19dに分割する場合には、図16に示すように、各ユニット19a〜19dが千鳥配置されていても良い。
【0057】
また、上記溶媒(異なる種類のインクに共通して用いられる溶媒)は、本実施形態のように、各ノズル19に対して溝部70が形成されている構成において用いることもできる。ただし、このような構成を採用する場合には、溝部70に溶媒を供給するための供給部を別途備える必要がある。
すなわち、本実施形態のインクジェットプリンタ100のように、特性維持流体としてインクを用いることによって、駆動ユニット26を供給部として用いることができ、別途、特性維持流体を供給する供給部を設置する必要がなくなり、インクジェットプリンタ100を小型化することが可能となる。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0059】
図17は、本実施形態のインクジェットプリンタが備えるラインヘッド13のノズル19近傍を拡大した断面図である。この図に示すように、本実施形態のラインヘッド13においては、上記第1実施形態の溝部70が形成されておらず、溝部70に替わってノズル19の形成領域を囲う壁部400を備えるという構成を採用する。
【0060】
このような構成を採用することによって、図18に示すように、ラインヘッド13が、ノズル19が上方に向くように回転された場合において、壁部400に囲われた空間KにインクLを貯留することができる。そして、空間Kに貯留されたインクによってノズル19をインクにて覆うことができる。
したがって、本実施形態のインクジェットプリンタにおいても、上記第1実施形態のインクジェットプリンタと同様の効果を奏することができる。
【0061】
なお、本実施形態のインクジェットプリンタにおいても、上記第1実施形態のインクジェットプリンタと同様に、各ノズル19を壁部400によって囲う必要はなく、ノズル19群をラインヘッド13の長手方向において複数のユニットに分割し、ユニットごとに壁部で囲む構成を採用しても良い。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
例えば、上記実施形態においては、単一のラインヘッドを備え、当該ラインヘッドから全ての種類のインクが噴射される構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、インクの種類ごとにラインヘッドを設置する構成であっても良い。
また、本発明は、ラインヘッド方式のインクジェットプリンタに限られるものではなく、シリアル方式のインクジェットプリンタに適用することも可能である。
【0064】
また、上記実施形態においては、インクジェット式記録装置がインクジェット式プリンタである場合を例にして説明したが、インクジェット式プリンタに限られず、複写機及びファクシミリ等の記録装置であってもよい。
【0065】
また、上述の各実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の液体(液状体)を噴射する流体噴射装置(液状体噴射装置)である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、液体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体、流体として流して噴射できる固体、及び粉体(トナー等)を含む。
【0066】
また、上述の各実施形態において、流体噴射装置から噴射される液体(液状体)としては、インクのみならず、特定の用途に対応する液体を適用可能である。流体噴射装置に、その特定の用途に対応する液体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する液体を噴射して、その液体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、本発明の流体噴射装置(液状体噴射装置)は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した液体(液状体)を噴射する流体噴射装置に適用可能である。
【0067】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
【0068】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射するトナージェット式記録装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの概略構成を示すものである。
【図2】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタを要部を模式的に示した平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドの下面図である。
【図4】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドの一部を示す断面図
【図5】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるメンテナンス部の詳細を示す断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの電気的な構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタにて用いる駆動パルスの一例を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図11】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図12】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図13】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図14】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【図15】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドの変形例を示す図である。
【図16】本発明の第1実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドの変形例を示す図である。
【図17】本発明の第2実施形態であるインクジェットプリンタが備えるラインヘッドのノズル近傍を拡大した断面図である。
【図18】本発明の第2実施形態であるインクジェットプリンタの動作を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0070】
100……インクジェットプリンタ(流体噴射装置)、13……ラインヘッド(噴射ヘッド)、19……ノズル、40……回転装置(回転部)、70,300……溝部(貯留部)、400……壁部(貯留部)、L……インク(流体,特性維持流体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ヘッドに形成されたノズルを介して流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドを上下方向に回転可能な回転部と、
前記ノズルが上方を向くように前記噴射ヘッドが回転された場合に、前記ノズルの噴射特性を維持するための特性維持流体を前記ノズルの形成領域を含んで貯留可能な貯留部と、
前記貯留部に前記特性維持流体を供給する供給部と
を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記貯留部は、前記噴射ヘッドに形成されると共に前記ノズルの形成領域が底部とされる溝部を備えることを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記貯留部は、前記噴射ヘッドに形成されると共に前記ノズルの形成領域を囲う壁部を備えることを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記ノズルを介して噴射される流体がインクである場合に、前記特性維持流体は、前記インクであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記ノズルを介して噴射される流体がインクである場合に、前記特性維持流体は、前記インクに用いられる溶媒であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記貯留部に貯留された前記特性維持流体を流動させる流動部を備えることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項1】
噴射ヘッドに形成されたノズルを介して流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドを上下方向に回転可能な回転部と、
前記ノズルが上方を向くように前記噴射ヘッドが回転された場合に、前記ノズルの噴射特性を維持するための特性維持流体を前記ノズルの形成領域を含んで貯留可能な貯留部と、
前記貯留部に前記特性維持流体を供給する供給部と
を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記貯留部は、前記噴射ヘッドに形成されると共に前記ノズルの形成領域が底部とされる溝部を備えることを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記貯留部は、前記噴射ヘッドに形成されると共に前記ノズルの形成領域を囲う壁部を備えることを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記ノズルを介して噴射される流体がインクである場合に、前記特性維持流体は、前記インクであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記ノズルを介して噴射される流体がインクである場合に、前記特性維持流体は、前記インクに用いられる溶媒であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記貯留部に貯留された前記特性維持流体を流動させる流動部を備えることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の流体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−302655(P2008−302655A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153935(P2007−153935)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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