流体物性測定計
【課題】内部に微小寸法の流路が形成されたチップの流路内の流体、特に液体の濃度を効率よく、精度よく、安定して測定する。
【解決手段】光を透過する2枚の平面板により、流路を形成するための貫通溝が形成された厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップ111を保持するためのチップ保持部110を備えている。チップ111の流路に光を照射するための光照射部、及び流路を透過した光を受光するための受光部を支持するための移動機構部材201が設けられている。移動機構部材201とチップ保持部110及びチップ111とを相対的に移動させるためのスライダー202,203を備えている。
【解決手段】光を透過する2枚の平面板により、流路を形成するための貫通溝が形成された厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップ111を保持するためのチップ保持部110を備えている。チップ111の流路に光を照射するための光照射部、及び流路を透過した光を受光するための受光部を支持するための移動機構部材201が設けられている。移動機構部材201とチップ保持部110及びチップ111とを相対的に移動させるためのスライダー202,203を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体物性測定計に関し、特に、マイクロアレイ、微小アナリシスシステム、DNAチップ、マイクロ流体システム、統合型小型分析システム(μTAS)などのチップの流路内の流体の物性を測定するための流体物性測定計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体システムなどのチップ内の流路は、基板にエッチング技術等で形成された溝を他の基板で覆うことによって形成される(例えば特許文献1を参照。)。マイクロ流体システムにおいて、流体のプロセスが予定通り進行しているかどうかの確認は、マイクロ流体システム設計時又は試作段階で行なうのが一般的である。目的のプロセスに応じて、流体の流量、流速、設置温度、バルブ開閉時間などの条件を決定する。その後、できるかぎり同じ物を大量生産して、当初決められた条件で、システムを運用することとなる。
【特許文献1】特表2001−509260号公報
【特許文献2】特開2007−155494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが現実には、マイクロ流体システムの流路寸法はエッチング条件で大きく変化する。もともと、マイクロ流体システムの流路はミクロン領域のサイズであるため、エッチング誤差がミクロンオーダーでも誤差比としてはかなり大きくなる。そのため、流体の流速や流量は製作ロットにより大きく変わる。製作者が同じ物を作製したつもりでも、同一条件で運用しても得られる結果は大きく変わるときがある。
【0004】
また、流体の物理的特性が刻々と変化する場合もある。具体的には液体の粘度変化によって流量が顕著に変わる場合である。液体の粘度は温度に依存するので、マイクロ流体システムが設置されている環境温度変化や流体そのものの温度変化によって液体の粘度、ひいては液体の流量が変化する。また、流体が揮発性液体の場合などは、刻々と溶剤が揮発して濃度が濃くなり、粘度が増加するという場合もある。
【0005】
そのような理由で、マイクロ流体システムで、プロセス最終点で、プロセスが正常に進行しているかどうかの確認としてセンサーを設けている場合もある。しかし、ミクロン化できる精度の良いセンサーというのは限られていることや、それを設置するにはマイクロ流体システム製作工程が複雑になりコストが高価になること、複雑化により故障頻度が上がるなどの信頼性が低下すること、などの問題があった。
【0006】
また、互いに隔離された第1の空間と第2の空間をもつフローセルを用い、光源から発生された光をフローセルに入射し、フローセルを透過した光を受光素子に導く光路の一部である第1端部と第2端部の位置を、フローセルの第1の空間と第2の空間の一方に光を透過する位置から他方に光を透過する位置に移動可能な分光光度計が開示されている(特許文献2参照。)。
【0007】
本発明は、マイクロアレイ、微小アナリシスシステム、DNAチップ、マイクロ流体システム、統合型小型分析システムなど、内部に微小寸法の流路が形成されたチップの流路内の流体物性測定計、特に液体の濃度を効率よく、精度よく、安定して測定できる液体濃度計を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる流体物性測定計は、少なくとも一方が光を透過する2枚の平面板で厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップと、上記チップの上記流路に光を照射するための光照射部と、上記流路を透過した光を受光するための受光部と、受光部が受光した光強度データに基づいて上記流路内の流体の物性を算出するデータ処理部と、を備えている。
【0009】
本発明の流体物性測定計では、2枚の平面板と、それに挟まれた間仕切り板とから構成されるチップを用いる。チップ内での流体のプロセスを、そのプロセスが進行している流路箇所に光を入射し、流体を通過させ、それを受光し、その光の強度を計測することにより、その点でのプロセス状況を把握する。そのためには、チップの流路における光の通過する距離、すなわち流路の深さ寸法がどこの流路でも同じであることが好ましい。それは、流体の透過光の減衰と流体の濃度または物性と、光通過距離の関係として、ランベルト・ベールの法則が成り立ち、光通過距離(セル長)が一定ならば、透過強度の対数値と流体濃度(下記の媒質のモル濃度に相当)あるいは、流体物性(下記の媒質のモル吸光係数に相当)に比例関係が成り立ち、光の透過強度計測から、その流体の濃度あるいは吸光係数に関連する物性を求めることができるためである。
【0010】
ランベルト・ベールの法則
−log10(I1/I0)=a・b・c
I0:媒質への光の入射強度
I1:媒質からの光の透過強度
a:媒質のモル吸光係数
b:媒質の光通過距離
c:媒質のモル濃度
【0011】
しかし、従来のチップでは、特許文献1のように、エッチング技術により、流体が流れる溝や滞留する空間などを作る。そのため、エッチング処理のばらつきが、溝の深さ、空間の高さ方向のばらつきとなり、正確な距離(セル長)を設けることが難しいという問題があった。さらに、フッ酸(HF)などの薬液を用いたエッチング処理では、表面が粗面になり、光の透過を損なわせるという問題もあった。
【0012】
そこで、セル長を決定する、厚みの均一な間仕切り板を作製して、それを2枚の平面板でサンドイッチのように挟み込むことでチップを作製する。間仕切り板は、正確な平行平面板を用いて作製する。流路や空間になる箇所は、間仕切り板としての複数の平行平面板の組み合わせでその平面形状が流路形状を形成するように配置したり、間仕切り板に貫通溝や貫通穴を設けたりすることによって作製する。そのため、チップのどの箇所でも高さ(セル長)は同じであることが保証される。このようにチップのどの箇所でもよいし、光で測定する箇所だけでもよいが、複数箇所で流体物性、特に流体濃度の光計測を行ない、チップ内のプロセスを精度よく、安定して監視することができる。
【0013】
光を照射及び受光する方法として、光計測したい流路位置に照射光を当て、照射光が流路を通過した光を、その近くに設置している受光素子に集光させる方法がまずある。この場合、複数箇所計測するときは、その数だけの照射部と受光部の機能が必要になり、チップが複雑になる短所がある。照射部機能をひとつにまとめて、受光部だけを個別に設置すれば、複雑化を低減できる。
また、光ファイバーを用いて照射部と受光部をチップから離れたところに設置するようにしてもよい。この方法もチップ近辺を簡素化でき、複雑化を低減できる。
【0014】
光ファイバーを使用する場合、光ファイバーをそれぞれの測定箇所に設置することで複数の測定箇所で測定可能になるが、チップ内の数十点又は数百点の箇所に測定箇所を設ける場合は、光照射側と受光側とで測定箇所の2倍の光ファイバーの設置が必要になり、現実的ではなくなる。
【0015】
そこで、本発明の流体物性測定計において、上記光照射部及び上記受光部と上記チップとを相対的に移動させるための移動機構を備えているようにしてもよい。これにより、任意の箇所に光照射部及び受光部を移動させて効率よく計測できる。複数点の測定を同時にはできないが、流体プロセス時間と、光照射部及び受光部の移動時間で後者の方が高速である場合は、十分な対応ができる。
【0016】
上記移動機構を備えた形態の本発明の流体物性測定計において、上記移動機構は、上記チップの上記平面板の平面に対して平行な平面内で、上記光照射部及び上記受光部と上記チップとを相対的に移動させる例を挙げることができる。
さらに、上記移動機構は、上記平面板の平面に対して平行な平面内で互いに交差する2方向に独立に、上記光照射部及び上記受光部と上記チップとを相対的に移動させる例を挙げることができる。
【0017】
また、本発明の流体物性測定計において、上記チップの2枚の上記平面板はともに光を透過するものであり、上記光照射部と上記受光部は上記チップを挟んで配置されている例を挙げることができる。
さらに、上記受光部への光束軸が上記チップの上記平面板の平面に対して垂直である例を挙げることができる。
また、上記光照射部の上記チップに光を照射する部分と上記受光部の上記チップから光を受光する部分の一方又は両方は光ファイバーを備えている例を挙げることができる。
【0018】
また、上記チップの2枚の上記平面板のうち、一方は光を透過するものであり、他方は光を反射するものであり、上記光照射部と上記受光部は上記チップに対して同じ側の位置に配置されているようにしてもよい。
この場合、上記光照射部の上記チップに光を照射する部分と、上記受光部の上記チップから光を受光する部分は1つの光学系で形成されている例を挙げることができる。さらにその光学系の一例は光ファイバーを備えている。
【0019】
また、上記チップの構成材料である上記平面板と上記間仕切り板は、ガラス材、石英、サファイア、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のいずれか又はそれらの組合せからなる例を挙げることができる。
本発明の流体物性測定計において、測定する流体の物性は、流体の吸光度又濃度である例を挙げることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の流体物性測定計では、少なくとも一方が光を透過する2枚の平面板で厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップと、そのチップの流路に光を照射するための光照射部と、流路を透過した光を受光するための受光部と、光受光部が受光した光強度データに基づいて流路内の流体の物性を算出するデータ処理部と、を備えているようにした。
2枚の平面板で厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップを用いるようにしたので、チップにおける流路の深さ寸法、すなわち光路長を均一にすることができ、チップの流路内の流体の物性、例えば吸光度や濃度の測定を精度よく、かつ安定して行なうことができる。
【0021】
本発明の流体物性測定計において、光照射部及び受光部とチップとを相対的に移動させるための移動機構を備えているようにすれば、1組の光照射部及び受光部のみによってチップの複数個所で流路内の流体の物性、例えば吸光度や濃度の測定を効率よく行なうことができる。
【0022】
移動機構を備えた形態の本発明の流体物性測定計において、移動機構は、チップの平面板の平面に対して平行な平面内で、光照射部及び受光部とチップとを相対的に移動させるようにすれば、安定した測定を行なうことができる。
さらに、移動機構は、平面板の平面に対して平行な平面内で互いに交差する2方向に独立に、光照射部及び受光部とチップとを相対的に移動させるようにすれば、チップのどの箇所においても測定を行なうことができるようになる。
【0023】
また、チップの2枚の平面板はともに光を透過するものであり、光照射部と受光部はチップを挟んで配置されているようにすれば、光照射部の光を無駄なく、受光部に集光できる。
さらに、受光部への光束軸がチップの平面板の平面に対して垂直であるようにすれば、チップ内を通過する光の透過距離を最小にすることができるの。これにより、光照射部と受光部を含めたチップサイズを小さくすることができる。
【0024】
また、光照射部のチップに光を照射する部分と受光部のチップから光を受光する部分の一方又は両方は光ファイバーを備えているようにすれば、光ファイバーの先端部と必要な集光光学系だけをチップに近接したところに設置すればよいので、小型化した光の照射部と受光部を構築できる。分光された光を照射する分光部と、受光部での光強度を電気信号に変換するセンサー部とは、チップ側とは反対側の光ファイバー端部に設置すればよいので、チップ部周辺の小型化が可能となる。
【0025】
また、チップの2枚の平面板のうち、一方は光を透過するものであり、他方は光を反射するものであり、光照射部と受光部はチップに対して同じ側の位置に配置されているようにすれば、チップ面の片方側に光照射部と受光部の両方を配置することができ、よりチップサイズを小型化できる。
【0026】
また、光照射部のチップに光を照射する部分と、受光部のチップから光を受光する部分は1つの光学系で形成されているようにすれば、さらに小型化が可能となる。光の逆進性を利用すれば、照射光学系と受光光学系を1つにできる。光照射のための光源の部分と、受光素子の部分の光路を分けるために、半透明なビームスプリッタなどを用いる必要がある。それらの部分の光学系に光ファイバーを備えている場合は、照射側の光ファイバー及び受光側の光ファイバーとして1つの光ファイバーを使用でき、部品点数の削減によるコスト低減と、装置のサイズ小型化が可能となる。
【0027】
また、チップの平面板と間仕切り板の材料は、例えばガラス材、石英、サファイア、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から選べる。
種々なガラス材ならば、透過させる光に対して透明な材質を適宜選択することが可能である。また、ガラス材の中でも特に石英を使用することは、その材質が限定されることから、酸やアルカリの流体に腐食されないことや、腐食されたとしても、溶け出す材質が限定されているため、金属汚染を嫌う、半導体プロセスで用いることができる。
また、石英はフッ酸に侵されるが、フッ酸を含む流体に関しては、それに対する耐食性のあるサファイアを用いることが好ましい。
PMMAで代表されるアクリル樹脂は、透明性が高いことと、熱可塑性をもつこと、アセトンなどの有機溶媒に可溶なことなどから、鋳型による大量生産と、無機ガラスではできない複雑な形状の加工が可能となる。チップの平面板又は間仕切り板に合わせて、複雑な加工をする場合などに特に有効である。
PDMSは、無色透明で、弾力性に富み、耐熱性と形状転写性に優れているので、マイクロ流体システムでは多用されている。樹脂表面を疎水性にしたり親水性にしたりするなど、用途に応じた表面処理が可能であり、複雑な形状加工も可能である。PDMSを用いる場合も鋳型による大量生産が可能であり、チップの平面板又は間仕切り板に合わせて、複雑な加工をする場合などに特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[実施例1]
図1は、一実施例の測定部を説明するための平面図である。図2は測定部の側面図である。図3は、この実施例の全体の構成を概略的に示す図である。
【0029】
図3に示すように、この実施例の流体物性測定計は、実質的に分光部1と、測定部2と、データ処理部3とで構成されている。
まず、分光部1の具体的な構成を説明する。
【0030】
分光部1には、光源であるタングステンランプ4と、凸レンズ5と、8個の干渉フィルタ6を備えた回転円板7と、凸レンズ8と、凸レンズ11と、受光素子12とが設けられている。タングステンランプ4から放射された光は、凸レンズ5によって集光され、干渉フィルタ6を通過する。ここで、回転円板7に保持された干渉フィルタ6は、光を、2000〜2600nm(ナノメートル)の範囲内の所定の波長の光に分光する。
干渉フィルタ6によって分光された光は、凸レンズ8によって集光され、投光側光ファイバー9の入射端面9aに照射される。投光側光ファイバー9は測定部2につながっている。
【0031】
図1及び図2を参照して測定部について説明する。
測定部2の符号103は調液部である。調液部103は、内部に流路が形成されたチップ111と、チップ111を支持するための金属製の枠部110と、チューブ104,105,108をチップ111に接続するための継ぎ手112,113,114を備えている。チューブ104,105,108は例えばPTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)やPFA(tetra fluoro ethylene-PerFluoro Alkylvinyl ether copolymer)などの樹脂によって形成されている。調液部103及び送液機構についての詳細な説明は後述する。
【0032】
測定部2は、測定位置を移動させるための移動機構を備え、図1に示したX軸とY軸方向に独立に測定位置を移動できる。符号202は測定位置をX軸移動するためのステッピングモータ内蔵のスライダーであり、符号203は測定位置をY軸移動するためのステッピングモータ内蔵のスライダーである。
【0033】
調液部103を挟んでコの字型の移動機構部材201が設置されている。移動機構部材201には、投光側光ファイバー9の出射端面9bと受光側光ファイバー10の入射端面10aとそれに関係する凸レンズ523,525が取り付けられている。移動機構部材201はスライダー202,203によってX軸、Y軸に任意に動き、チップ111への照射位置を変えることができる。投光側光ファイバー9の出射端面9bは、移動機構部材201の出射側部分522に接続されている。出射側部分522には、凸レンズ523が設置されていて、出射端面9bからの光を集光させて、チップ111に照射する。それを通過した光は、移動機構部材201の受光側部分524に設置された凸レンズ525に照射され、集光して、受光側光ファイバー10の入射端面10aに集光される。
【0034】
投光側光ファイバー9及び凸レンズ523は本発明の流体濃度計の光照射部を構成する。受光側光ファイバー10及び凸レンズ525は本発明の流体濃度計の受光部を構成する。移動機構部材201及びスライダー202,203は本発明の流体濃度計の移動機構を構成する。
【0035】
図3に示すように、受光側光ファイバー10の出射端面10bは分光部1に設置されている。受光側光ファイバー10の入射端面10aに入射した光は、受光側光ファイバー10の出射端面10bから凸レンズ11に入射して、集光して、受光素子12に入射される。受光素子12は、入射された光を、その強度に対応する光電流に変換する。データ処理部3は、受光素子12が受光した光強度データに基づいて測定位置の流体の物性を算出する。
【0036】
回転円板7は、8枚の干渉フィルタ6を、円周方向に等角度間隔で保持し、駆動モータ13により所定の回転数、例えば1200rpm(Revolutions Per Minute)で回転駆動される。各干渉フィルタ6は、2000〜2600nmの範囲内で、測定対象に応じた、互いに異なる所定の透過波長を有している。ここで、回転円板7が回転すると、各干渉フィルタ6が、凸レンズ5,8の光軸に順次挿入される。そして、タングステンランプ4から放射された光が、干渉フィルタ7によって分光された後、投光側光ファイバー9、凸レンズ523を介して、チップ111の所定位置に照射される。チップ111を通過した光は、凸レンズ525を通過して集光され、受光側光ファイバー10に入り、凸レンズ11を通過して集光され、受光素子12に入射される。これにより、受光素子12から、各波長の光の吸光度に応じた電気信号が出力される。
【0037】
ところで、燃料電池で、携帯機器向けの小型のものとして、直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)が注目されている。DMFC型燃料電池の燃料供給には、メタノール濃度3〜5%の濃度のメタノール水溶液が用いられる。メタノール濃度が高いと、メタノールが燃料極で未反応なものが、電解質膜を透過して空気極へ到達するクロスオーバー現象が発生して、発電効率が低下するという問題が発生する。メタノール濃度が低くても、発電効率が落ちる。したがって、常に最適なメタノール濃度を供給することが望まれる。また、濃度の濃いメタノールを、水で最適な濃度に希釈して使用することができれば、DMFC型燃料電池内に収容しておくメタノール燃料の体積を減少することができ、DMFC型燃料電池をより小型にすることができる。希釈に必要な水は、空気極側で発生する水を用いてもよいし、空気中の湿度分を捕集してもよい。この実施例ではメタノール水溶液を所定の濃度に調整する場合について説明する。
【0038】
図4は、この実施例で用いた送液機構の構成を説明するための概略図である。
濃度が30%のメタノールの入った容器101と、水の入った容器102が設けられている。
メタノールの入った容器101にチューブ104の一端が接続されている。チューブ104の他端は調液部103に接続されている。水の入った容器102にチューブ105の一端が接続されている。チューブ105の他端は調液部103に接続されている。調液部103には、チューブ104,105からのメタノール及び水が混合された希釈メタノールを流すためのチューブ108も接続されている。チューブ108はポンプ109に接続されている。
【0039】
図5は図4に示した装置の調液部の平面図と側面図を示す図である。
調液部103は、ガラスのエッチングで内部に流路が形成されたチップ111と、チップ111を支持するための金属製の枠部110と、チューブ104,105,108をチップ111に接続するための継ぎ手112,113,114を備えている。チップ111はマイクロ流体デバイスである。
【0040】
チップ111の平面サイズは12.5mm×39mm、厚みは2.2mmである。枠部110の外周平面サイズは19mm×46mm、内周平面サイズは13mm×40mm、厚みは4.2mmである。枠部110には、ネジで継手112,113,114が差し込まれている。枠部110の内側に配置されたチップ111は継手112,113,114によって押さえ込まれることによって固定されている。チップ111は、側面に継手112,113,114に対応する位置に、チップ111内部の流路につながるテーパー形状の凹部を備えている。継手112,113,114の先端がチップ111側面の凹部に差し込まれることによって流路がシールされて液漏れを防止している。
【0041】
図6は、チップ111の流路パターンを示す平面図である。
図5に示すチューブ104,105が接続される2つの流路125,126にそれぞれ流量制御部115が設けられている。流量制御部115は直列に接続された4つの渦巻状の流路を備えている。流量制御部115の流路幅、すなわち断面積は、チップ111の他の流路部分に比べて小さく形成されている。
【0042】
流路125,126には、流量制御部115よりも上流側にセンサー部134,135が設けられている。センサー部134はメタノールの濃度監視用に用いられる小空間である。センサー部135は、水の濃度監視用に用いられる小空間であり、メタノール等不純物が含まれていないかどうかが監視される。
【0043】
流路125と流路126は流量制御部115よりも下流側で合流されて流路127に接続されている。流路127の下流側にミキシング部116が設けられている。流路127には、ミキシング部116よりも下流側にセンサー部136が設けられている。センサー部136は、混合後のメタノール濃度の測定に用いられる小空間である。
【0044】
センサー部134,135,136は、図1及び図2を参照して説明した測定部2により光が照射される箇所である。測定部2においてスライダー202,203を制御して、チップ111のセンサー部134,135,136のいずれかに光が照射されるように移動機構部材201を移動させる。また、スライダー202,203を適宜操作することにより、流量制御部115、ミキシング部116、その他の流路における流体濃度も計測可能である。
【0045】
図7は、ミキシング部116内における液体の流れを矢印で示す平面図である。
ミキシング部116は2つの広い箇所123,124を備えている。上流側の広い箇所123と下流側の広い箇所124は2本の流路128,129で接続されている。
【0046】
上流側の広い箇所123には流路127が接続されている。広い箇所123の近傍で流路127に流路の細い箇所120が設けられている。広い箇所123と124を接続する2本の流路128,129の上流側の端部は、細い箇所120の両隣の箇所で広い箇所123に接続されている。
【0047】
下流側の広い箇所124には下流側の流路130が接続されている。広い箇所123と124を接続する2本の流路128,129の下流側の端部は、流路130の両隣の箇所で広い箇所124に接続されている。広い箇所124の近傍で流路128,129に流路の細い箇所121,122が設けられている。
【0048】
流路127から細い箇所120を介して広い箇所123に導入された液体は、細い箇所120で流速が早くなるので、広い箇所123内で渦を発生する(矢印を参照)。広い箇所123から、広い箇所123と124を接続する2本の流路128,129及び流路の細い箇所121,122を介して広い箇所124に導入された液体は、細い箇所121,122で流速が速くなるので、広い箇所124内で渦を発生する(矢印を参照)。これらの渦により、液体の混合が促進される。
図6に示すように、ミキシング部116は2段に設けられているので、図7に示した混合パターンを2段繰り返すことにより、液体は完全に混合される。
【0049】
図8は、チップ111におけるペルチェ素子及び測温体の配置を説明するための平面図と側面図を示す図である。
チップ111の上面に2つのペルチェ素子118,119が貼り付けられている。ペルチェ素子118はメタノールが流される流量制御部115の上に配置されている。ペルチェ素子119は水が流される流量制御部115の上に配置されている。
チップ111の下面に2つの測温体132,133が貼り付けられている。測温体132,133は例えば白金からなる。測温体132はメタノールが流される流量制御部115の下に配置されている。測温体133は水が流される流量制御部115の下に配置されている。
図1、図2、図5ではペルチェ素子118,119及び測温体132,133の図示は省略されている。
【0050】
チップ111は、流路を形成するための貫通溝が形成された厚みの均一なガラス間仕切り板を2枚のガラス平面板で挟み込んだ3層構造になっている。
図9はガラス間仕切り板を示す平面図である。図10はガラス板を示す平面図である。図11は、接合前のガラス間仕切り板及び2枚のガラス板を示す側面図である。図12は、ガラス間仕切り板及び2枚のガラス板を接合してチップを形成した状態を示す側面図である。
【0051】
図9に示すように、ガラス間仕切り板137は符号137a〜137eで示す5つのガラス板によって構成されている。各ガラス板137a〜137eの厚みは0.2mmで均一である。
図10に示すように、ガラス平面板138,139は継ぎ手との接触部だけがテーパー形状になるように加工されている。ガラス平面板138,139の厚みは1mmである。
【0052】
ガラス間仕切り板137及びガラス平面板138,139の接合面は平坦に研磨されている。図11に示すように、ガラス平面板138,139の間にガラス間仕切り板137を配置する。具体的には、ガラス平面板139の上にガラス間仕切り板137を構成するガラス板137a〜137eを配置し、その上に
ガラス平面板138を配置する。ガラス間仕切り板137及びガラス平面板138,139を重ねて配置した状態で熱をかけ、オプティカルコンタクトさせると、接着剤なしでも、ガラス間仕切り板137及びガラス平面板138,139は接着する。そして図12に示すようにチップ111が形成される。
【0053】
図4,図5及び図8を参照してメタノールを希釈する動作について説明する。
ポンプ109を作動させると、容器101内のメタノールがチューブ104内に吸引され、容器102内の水がチューブ105内に吸引される。チューブ104内に吸引されたメタノール及びチューブ105内に吸引された水は調液部103に導かれる。調液部103に導かれたメタノール及び水はそれぞれチップ111の流量制御部115を通過した後に合流し、ミキシング部116に導かれて混合されて希釈メタノールとなる。希釈メタノールはチップ111からチューブ108に導かれ、ポンプ109を介して吐出される。
【0054】
図3において、回転円板7に保持された干渉フィルタ6は、メタノールと水の近赤外線スペクトルの差異がある2260nmを通過させるバンドパスフィルターと、その近辺の波長、2000nm、2100nm、2150nm、2200nm、2300nm、2350nm、2400nmの8枚を取り付けている。2260nmにメタノールのCH基に関する吸収がある。メタノール濃度はランベルト・ベールの法則から求めることができる。チップ111のセンサー部134は、メタノール濃度が30%であることを確認するための計測に用いる。センサー部134におけるメタノール濃度測定結果が30%でないならば、間違った濃度のメタノールを供給したことになるため、警報信号を出す。同じように、チップ111のセンサー部135は、水であることを確認するための計測に用いる。センサー部135における測定結果が水でないことを示すならば、水でない液を供給したことになるため、警報信号を出す。
【0055】
希釈されたメタノールの濃度が4%よりも濃い場合は、水側の流量を増加させ、メタノール側の流量を減少させるように制御する。具体的には、水側のペルチェ素子119の温度を上昇させることによって、水の粘度を低下させて流量を増加させる。さらに、メタノール側のペルチェ素子118の温度を下降させることによって、メタノールの粘度を上昇させ、流量を減少させる。それぞれのペルチェ素子118,119の温度は測温体132,133で計測している。
【0056】
測定位置は、チップ111のセンサー部136に主に設定しておき、混合後のメタノール濃度の計測は、例えば1秒間に20回計測する。そのたびに、流量制御を行ない、ほぼリアルタイムに連続的に、混合後のメタノール濃度を一定になるように制御する。また、10分に一回程度、センサー部134,135にスライダー202,203を駆動させて測定位置を移動させ、メタノール30%と水の確認を実行する。
この方法により得られる、メタノール温度と水温度とメタノール濃度の関係を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
メタノール温度はメタノール側ペルチェ素子118の測温体132の計測値と近く、水温度は水側ペルチェ素子119の測温体133の計測値と近いので、表3のメタノール温度と水温度は、測温体132,133の計測値で代用できる。
これにより、水側ペルチェ素子119と、メタノール側ペルチェ素子118の各温度を調整することにより、混合後のメタノール濃度を4%に制御することができる。
【0059】
この実施例では、液温度を変化させる材料としてペルチェ素子を用いたが、ヒーターを用いてもよい。その場合は、チップ111の流量制御部115上にそれぞれに独立した温度制御可能な面ヒーターが貼り付けられる。チップ111の下面にはヒートシンクに設置する。ヒーターのONとともに流量制御部115の温度が上昇して、流量制御部115を流れる液の温度も上昇する。面ヒーター近辺には測温体を設置しておき、測温体からの温度情報に基づいてヒーターをフィードバック制御する。ヒーターに流す電流を下げれば、放熱により、ヒートシンク温度になじむように温度が下がる。サイズがミリオーダーになると、物体の表面積と体積の比率で表面積側が圧倒的に大きくなるため、放熱スピードは日常レベルと比較して非常に早い。そのため、ヒーターによる加温素子のみでも、十分に温度制御が可能である。
【0060】
この実施例では、ミキシング部116は、迷路のようなパターンを通過させることにより行なったが、ミキシング方法として、流路に障害物を配置する方法や超音波素子による超音波を液に照射して混合する方法などもある。
【0061】
[実施例2]
図13は、他の実施例の測定部を説明するための側面図である。図14は測定部の平面図である。図15は、この実施例の全体の構成を概略的に示す図である。図1〜図3と同じ機能を果たす部分には同じ符号を付す。
【0062】
この実施例では、測定部の光照射光学系と受光部光学系について、光の逆進性を利用して投光側光ファイバーと受光側光ファイバーを1つのものとした。図15に示すように、この実施例の基本的な構造は図1〜図3を参照して説明した実施例1と同じである。この実施例では、分光部1で干渉フィルタ6を通過した光は、凸レンズ8で集光され、ミラー601で反射し、凸レンズ602で集光され、半透明なビームスプリッタ603に照射される。ビームスプリッタ603で反射した光は、光ファイバー604の端面604aを通じて、測定部2に行く。ビームスプリッタ603を透過した光は、適宜トラップして、後では使用しない。図3での受光側光ファイバー10を投光側光ファイバーとして用いていることになる。
【0063】
図13に示すように、光ファイバー604の端面604bから射出された光は凸レンズ606を通ってチップ111の流路に照射される。チップ111のガラス平面板139の面139aが鏡面になっており、照射した光が面139aで反射して、逆進して、再度端面604bから光ファイバー604へ戻る。
【0064】
図15を参照して説明すると、光ファイバー604の端面604bから入射した光は光ファイバー604を通って分光部1へ導かれ、光ファイバー604の端面604aから射出され、ビームスプリッタ603を透過して、凸レンズ11で集光されて受光素子12に入る。
【0065】
図13及び図14を参照して測定部2について説明する。この実施例の測定部2における調液部103は、チップ111のガラス平面板139の面139aが鏡面になっている点を除いて実施例1の調液部103と同じ構造をもっている。この実施例では、図1及び図2に示した移動機構部材201に換えて移動機構部材605を備えている。移動機構部材605には光ファイバー604の端面604bと凸レンズ605が取り付けられている。移動機構部材605はスライダー202,203によってX軸、Y軸に任意に動き、チップ111への照射位置を変えることができる。
【0066】
チップ111のガラス平面板139の面139aを鏡面にする方法は、図11も参照して説明すると、平行板139のガラス間仕切り板137側の面139aに、例えば金属蒸着処理によってアルミニウム蒸着膜を形成する方法が挙げられる。また、平行板139そのものを金属体で作製してもよいし、測定対象液の屈折率と大きく変わる材質で平行板139を作製してもよい。そのようにすれば、平面板139の面139a、すなわち間仕切り板137と平面板139の境界面で光の反射率が向上する。
【0067】
[実施例3]
図16は、さらに他の実施例の測定部を説明するための平面図と側面図を示す図である。図17は、図16のセンサー部135近傍の拡大図である。図18は、この実施例の全体の構成を概略的に示す図である。図1〜図3と同じ機能を果たす部分には同じ符号を付す。
【0068】
図18に示すように、この実施例の流体物性測定計は、実質的に分光部1と、測定部2と、データ処理部3とで構成されている。
まず、分光部1の具体的な構成を説明する。
【0069】
分光部1には、光源であるタングステンランプ4と、凸レンズ5と、4個の干渉フィルタ6を備えた回転円板7と、凸レンズ810とが設けられている。タングステンランプ4から放射された光は、凸レンズ5によって集光され、干渉フィルタ6を通過する。ここで、回転円板7に保持された4枚の干渉フィルタ6は、620nmの光を通過させるバンドパスフィルターと、800nmの光を通過させるバンドパスフィルターと、1300nmの光を通過させるバンドパスフィルターと、1450nmの光を通過させるバンドパスフィルターである。
干渉フィルタ6によって分光された光は、凸レンズ810によって平行光814にされ、測定部2に照射される。
【0070】
図16及び図17を参照して測定部について説明する。
測定部2のチップ111は、図8を参照して説明したチップと基本的に同じである。この実施例のチップ111には、センサー部134,135,136の箇所に、マスク801,802,803と、集光レンズ804,805,806と、受光素子807,808,809が付加されている。その他は、図8のチップと同じである。マスク801,802,803の設置の目的は、受光素子807,808,809への迷光の進入を防ぐためである。
【0071】
図18の分光部から照射された平行光814は、測定部2内に設置された、図16に示すチップ111の全面に均質に照射される。平行光814は、図16,17のマスク801,802,803にも照射され、マスク801,802,803の貫通穴811,812,813を通過する。貫通穴811,812,813を通過した光は、チップ111の平面板138、間仕切り板137、平面板139を通過する。間仕切り板137の空隙には、測定対象の流体が存在する。チップ111を通過した光は集光レンズ804,805,806により集光されて、受光素子807,808,809に入り、光の強度を電気信号に変換する。受光素子807,808,809の電気信号は、データ処理部3に向かう。
【0072】
分光部1から照射される平行光814は、回転円板7の回転により、バンドパスフィルターである干渉フィルタ6の中心波長が、それぞれ620nm、800nm、1300nm、1450nmの光を、時分割で照射することになる。どこの波長光が照射されているかは、回転円板7に設置されたフォトインタラプタの信号により、データ処理部3内のマイクロコンピューターにより判断できる。データ処理部3は、受光素子807,808,809の3つの電気信号と、回転円板7からのフォトインタラプタの信号を基に、それぞれの受光素子807,808,809に相当するセンサー部134,135,136の小空間内の各波長の吸光度データを算出することができる。
【0073】
回転円板7は、4枚の干渉フィルタ6を、円周方向に等角度間隔で保持し、駆動モータ13により所定の回転数、例えば1200rpmで回転駆動される。各干渉フィルタ6は、それぞれ620nm、800nm、1300nm、1450nmの光を通過させるバンドパスフィルターである。ここで、回転円板7が回転すると、各干渉フィルタ6が、凸レンズ5,810の光軸に順次挿入される。そして、タングステンランプ4から放射された光が、干渉フィルタ6によって分光された後、凸レンズ810で平行光814とされ、測定部2のチップ全面に均質に照射される。
【0074】
ところで、環境保全を目的とした、工場排水試験方法で、排水中のフッ化物イオンの計測の要求がある。この測定には、JIS K0102 34.1記載のランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法が用いられる。この測定方法では、試薬を測定対象液に混ぜ合わせて、その後、分光測定を行ない、定量する操作は繁雑であることが知られている。この方法を、本発明により効率よく行なった例を示す。
【0075】
本発明によりこの測定を行なう際、図4を参照して説明した送液機構を用いることができる。また、図16に示したチップ111を、図5に示した調液部103と同様にして測定部に配置する。
【0076】
ランタン−アリザリンコンプレキソン溶液(JIS K0102 34.1 a)6)記載)が容器101と、測定対象液の入った容器102が設けられている。測定対象液は、JISK0102記載の蒸留操作後の液である。
【0077】
容器101にチューブ104の一端が接続されている。チューブ104の他端は調液部103に接続されている。容器102にチューブ105の一端が接続されている。チューブ105の他端は調液部103に接続されている。調液部103には、チューブ104,105からのランタン−アリザリンコンプレキソン溶液と測定対象液が混合された液を流すためのチューブ108も接続されている。チューブ108はポンプ109に接続されている。ポンプ109は、データ処理部3から、その動作を制御されている。ポンプ109を動かして、容器101,102から液を吸引する。液は、チップ111内の小空間からなるセンサー部134,135に入る。その後、センサー部136の小空間にも液が満たされる。センサー部134,135,136の小空間が所定の液で満たされたかどうかは、それぞれの受光素子807,808,809からのデータにより判断できる。センサー部136が液で満たされた後、5秒程度余分にポンプ109で吸引し続け、その後、ポンプ109を停止させ、液の流れを停止させる。
【0078】
センサー部134はランタン−アリザリンコンプレキソン溶液監視用に用いられる小空間である。センサー部135は、測定対象液監視用に用いられる小空間であり、それぞれの小空間に液が所定通り存在するかどうかを監視する。その方法は、どちらも水溶液であるため、水のOH基の近赤外線吸収が存在するかどうかを確認することと、濁り、泡、不純物の存在がないかも確認する。具体的には、1450nmのOH基の特性吸収の吸光度と、その近傍でOH基の吸収の少ない1300nmの吸光度を求めることにより確認できる。測定対象液がセンサー部134,135内に存在しない場合は、センサー部134,135内の流体が空気になっているため、1450nmの光強度が高くなる。また、ミクロな泡や、濁り、不純物がある場合は、光の散乱、吸収が大きくなり、1450nmと、1300nmの両方で、光強度が減少し、それの検知ができる。正常に測定対象液がある場合は、1300nmと1450nmが所定の吸光度を示し、あらかじめ正常な状態のときの吸光度値をデータ処理部3内のマイクロコンピューターのメモリに記憶させておいて、それと比較することにより確認できる。
【0079】
ランタン−アリザリンコンプレキソン溶液と測定対象液は、所定体積で混合される。混合比を制御する方法は、実施例1と同じである。
【0080】
混合された液をセンサー部136で停止させる。その後、すぐに測定を開始する。620nmの吸光度から、フッ化物イオン濃度を求めることができる。吸光度データを安定させるため、フッ化物イオン濃度にあまり関係しない波長である800nmの吸光度との差吸光度を用いると、光源ふらつき、受光素子の感度変動などの誤差を除去できる。
フッ化物イオン濃度の定量は、JIS K0102 34.1 a)7)8)記載の複数のフッ化物イオン濃度既知の標準液を同一手順で測定しておき、その濃度と620nmと800nmの差吸光度データ間で検量線を作成しておく。そのデータは、データ処理部3のマイクロコンピューターメモリ内に格納しておく。その検量線に濃度未知の測定対象液の620nmと800nmの差吸光度データを照らし合わせることにより、フッ化物イオン濃度を算出する。
【0081】
以上、本発明の実施例を説明したが、材料、形状、配置等は一例であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0082】
例えば、上記実施例では、チップ111を形成するための間仕切り板137及びガラス平面板138,139としてガラス材を用いているが、チップを形成するための間仕切り板及びガラス平面板は他の材料、例えば石英、サファイア、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)によって形成されていてもよい。
【0083】
また、上記実施例では、チップ111に対して光照射部及び受光部を移動させる移動機構部材201及びスライダー202,203からなる移動機構を備えているが、位置固定された光照射部及び受光部に対してチップを移動させる移動機構を備えているようにしてもよい。
【0084】
また、上記実施例では、流路の温度を変化させる熱源として、ペルチェ素子やヒーターを用いているが、流路に光を照射することによって流路の温度を変化させてもよい。流路に光を照射するための光源として、例えばLEDや半導体レーザーを挙げることができる。また、光源と光ファイバーを用い、光源から光ファイバーの入射端に入れた光を光ファイバーの出射端から出射させて流路に光を照射して流路の温度を変化させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】一実施例の測定部を説明するための平面図である。
【図2】同実施例の測定部の側面図である。
【図3】同実施例の全体の構成を概略的に示す図である。
【図4】同実施例で用いた送液機構の構成を説明するための概略図である。
【図5】調液部の平面図と側面図を示す図である。
【図6】調液部のチップの流路パターンを示す平面図である。
【図7】チップのミキシング部内における液体の流れを矢印で示す平面図である。
【図8】チップにおけるペルチェ素子及び測温体の配置を説明するための平面図と側面図を示す図である。
【図9】チップの一部分を構成するガラス間仕切り板を示す平面図である。
【図10】チップの一部分を構成するガラス板を示す平面図である。
【図11】接合前のガラス間仕切り板及び2枚のガラス板を示す側面図である。
【図12】ガラス間仕切り板及び2枚のガラス板を接合してチップを形成した状態を示す側面図である。
【図13】他の実施例の測定部を説明するための側面図である。
【図14】同実施例の測定部の平面図である。
【図15】同実施例の全体の構成を概略的に示す図である。
【図16】さらに他の実施例の測定部を説明するための平面図と側面図を示す図である。
【図17】図16のセンサー部135近傍の拡大図である。
【図18】同実施例の全体の構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1 分光部
2 測定部
3 データ処理部
9,10,604 光ファイバー
103 調液部
111 チップ
134,135,136 センサー部(流路)
137 間仕切り板
138,139 平面板
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体物性測定計に関し、特に、マイクロアレイ、微小アナリシスシステム、DNAチップ、マイクロ流体システム、統合型小型分析システム(μTAS)などのチップの流路内の流体の物性を測定するための流体物性測定計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体システムなどのチップ内の流路は、基板にエッチング技術等で形成された溝を他の基板で覆うことによって形成される(例えば特許文献1を参照。)。マイクロ流体システムにおいて、流体のプロセスが予定通り進行しているかどうかの確認は、マイクロ流体システム設計時又は試作段階で行なうのが一般的である。目的のプロセスに応じて、流体の流量、流速、設置温度、バルブ開閉時間などの条件を決定する。その後、できるかぎり同じ物を大量生産して、当初決められた条件で、システムを運用することとなる。
【特許文献1】特表2001−509260号公報
【特許文献2】特開2007−155494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが現実には、マイクロ流体システムの流路寸法はエッチング条件で大きく変化する。もともと、マイクロ流体システムの流路はミクロン領域のサイズであるため、エッチング誤差がミクロンオーダーでも誤差比としてはかなり大きくなる。そのため、流体の流速や流量は製作ロットにより大きく変わる。製作者が同じ物を作製したつもりでも、同一条件で運用しても得られる結果は大きく変わるときがある。
【0004】
また、流体の物理的特性が刻々と変化する場合もある。具体的には液体の粘度変化によって流量が顕著に変わる場合である。液体の粘度は温度に依存するので、マイクロ流体システムが設置されている環境温度変化や流体そのものの温度変化によって液体の粘度、ひいては液体の流量が変化する。また、流体が揮発性液体の場合などは、刻々と溶剤が揮発して濃度が濃くなり、粘度が増加するという場合もある。
【0005】
そのような理由で、マイクロ流体システムで、プロセス最終点で、プロセスが正常に進行しているかどうかの確認としてセンサーを設けている場合もある。しかし、ミクロン化できる精度の良いセンサーというのは限られていることや、それを設置するにはマイクロ流体システム製作工程が複雑になりコストが高価になること、複雑化により故障頻度が上がるなどの信頼性が低下すること、などの問題があった。
【0006】
また、互いに隔離された第1の空間と第2の空間をもつフローセルを用い、光源から発生された光をフローセルに入射し、フローセルを透過した光を受光素子に導く光路の一部である第1端部と第2端部の位置を、フローセルの第1の空間と第2の空間の一方に光を透過する位置から他方に光を透過する位置に移動可能な分光光度計が開示されている(特許文献2参照。)。
【0007】
本発明は、マイクロアレイ、微小アナリシスシステム、DNAチップ、マイクロ流体システム、統合型小型分析システムなど、内部に微小寸法の流路が形成されたチップの流路内の流体物性測定計、特に液体の濃度を効率よく、精度よく、安定して測定できる液体濃度計を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる流体物性測定計は、少なくとも一方が光を透過する2枚の平面板で厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップと、上記チップの上記流路に光を照射するための光照射部と、上記流路を透過した光を受光するための受光部と、受光部が受光した光強度データに基づいて上記流路内の流体の物性を算出するデータ処理部と、を備えている。
【0009】
本発明の流体物性測定計では、2枚の平面板と、それに挟まれた間仕切り板とから構成されるチップを用いる。チップ内での流体のプロセスを、そのプロセスが進行している流路箇所に光を入射し、流体を通過させ、それを受光し、その光の強度を計測することにより、その点でのプロセス状況を把握する。そのためには、チップの流路における光の通過する距離、すなわち流路の深さ寸法がどこの流路でも同じであることが好ましい。それは、流体の透過光の減衰と流体の濃度または物性と、光通過距離の関係として、ランベルト・ベールの法則が成り立ち、光通過距離(セル長)が一定ならば、透過強度の対数値と流体濃度(下記の媒質のモル濃度に相当)あるいは、流体物性(下記の媒質のモル吸光係数に相当)に比例関係が成り立ち、光の透過強度計測から、その流体の濃度あるいは吸光係数に関連する物性を求めることができるためである。
【0010】
ランベルト・ベールの法則
−log10(I1/I0)=a・b・c
I0:媒質への光の入射強度
I1:媒質からの光の透過強度
a:媒質のモル吸光係数
b:媒質の光通過距離
c:媒質のモル濃度
【0011】
しかし、従来のチップでは、特許文献1のように、エッチング技術により、流体が流れる溝や滞留する空間などを作る。そのため、エッチング処理のばらつきが、溝の深さ、空間の高さ方向のばらつきとなり、正確な距離(セル長)を設けることが難しいという問題があった。さらに、フッ酸(HF)などの薬液を用いたエッチング処理では、表面が粗面になり、光の透過を損なわせるという問題もあった。
【0012】
そこで、セル長を決定する、厚みの均一な間仕切り板を作製して、それを2枚の平面板でサンドイッチのように挟み込むことでチップを作製する。間仕切り板は、正確な平行平面板を用いて作製する。流路や空間になる箇所は、間仕切り板としての複数の平行平面板の組み合わせでその平面形状が流路形状を形成するように配置したり、間仕切り板に貫通溝や貫通穴を設けたりすることによって作製する。そのため、チップのどの箇所でも高さ(セル長)は同じであることが保証される。このようにチップのどの箇所でもよいし、光で測定する箇所だけでもよいが、複数箇所で流体物性、特に流体濃度の光計測を行ない、チップ内のプロセスを精度よく、安定して監視することができる。
【0013】
光を照射及び受光する方法として、光計測したい流路位置に照射光を当て、照射光が流路を通過した光を、その近くに設置している受光素子に集光させる方法がまずある。この場合、複数箇所計測するときは、その数だけの照射部と受光部の機能が必要になり、チップが複雑になる短所がある。照射部機能をひとつにまとめて、受光部だけを個別に設置すれば、複雑化を低減できる。
また、光ファイバーを用いて照射部と受光部をチップから離れたところに設置するようにしてもよい。この方法もチップ近辺を簡素化でき、複雑化を低減できる。
【0014】
光ファイバーを使用する場合、光ファイバーをそれぞれの測定箇所に設置することで複数の測定箇所で測定可能になるが、チップ内の数十点又は数百点の箇所に測定箇所を設ける場合は、光照射側と受光側とで測定箇所の2倍の光ファイバーの設置が必要になり、現実的ではなくなる。
【0015】
そこで、本発明の流体物性測定計において、上記光照射部及び上記受光部と上記チップとを相対的に移動させるための移動機構を備えているようにしてもよい。これにより、任意の箇所に光照射部及び受光部を移動させて効率よく計測できる。複数点の測定を同時にはできないが、流体プロセス時間と、光照射部及び受光部の移動時間で後者の方が高速である場合は、十分な対応ができる。
【0016】
上記移動機構を備えた形態の本発明の流体物性測定計において、上記移動機構は、上記チップの上記平面板の平面に対して平行な平面内で、上記光照射部及び上記受光部と上記チップとを相対的に移動させる例を挙げることができる。
さらに、上記移動機構は、上記平面板の平面に対して平行な平面内で互いに交差する2方向に独立に、上記光照射部及び上記受光部と上記チップとを相対的に移動させる例を挙げることができる。
【0017】
また、本発明の流体物性測定計において、上記チップの2枚の上記平面板はともに光を透過するものであり、上記光照射部と上記受光部は上記チップを挟んで配置されている例を挙げることができる。
さらに、上記受光部への光束軸が上記チップの上記平面板の平面に対して垂直である例を挙げることができる。
また、上記光照射部の上記チップに光を照射する部分と上記受光部の上記チップから光を受光する部分の一方又は両方は光ファイバーを備えている例を挙げることができる。
【0018】
また、上記チップの2枚の上記平面板のうち、一方は光を透過するものであり、他方は光を反射するものであり、上記光照射部と上記受光部は上記チップに対して同じ側の位置に配置されているようにしてもよい。
この場合、上記光照射部の上記チップに光を照射する部分と、上記受光部の上記チップから光を受光する部分は1つの光学系で形成されている例を挙げることができる。さらにその光学系の一例は光ファイバーを備えている。
【0019】
また、上記チップの構成材料である上記平面板と上記間仕切り板は、ガラス材、石英、サファイア、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のいずれか又はそれらの組合せからなる例を挙げることができる。
本発明の流体物性測定計において、測定する流体の物性は、流体の吸光度又濃度である例を挙げることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の流体物性測定計では、少なくとも一方が光を透過する2枚の平面板で厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップと、そのチップの流路に光を照射するための光照射部と、流路を透過した光を受光するための受光部と、光受光部が受光した光強度データに基づいて流路内の流体の物性を算出するデータ処理部と、を備えているようにした。
2枚の平面板で厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップを用いるようにしたので、チップにおける流路の深さ寸法、すなわち光路長を均一にすることができ、チップの流路内の流体の物性、例えば吸光度や濃度の測定を精度よく、かつ安定して行なうことができる。
【0021】
本発明の流体物性測定計において、光照射部及び受光部とチップとを相対的に移動させるための移動機構を備えているようにすれば、1組の光照射部及び受光部のみによってチップの複数個所で流路内の流体の物性、例えば吸光度や濃度の測定を効率よく行なうことができる。
【0022】
移動機構を備えた形態の本発明の流体物性測定計において、移動機構は、チップの平面板の平面に対して平行な平面内で、光照射部及び受光部とチップとを相対的に移動させるようにすれば、安定した測定を行なうことができる。
さらに、移動機構は、平面板の平面に対して平行な平面内で互いに交差する2方向に独立に、光照射部及び受光部とチップとを相対的に移動させるようにすれば、チップのどの箇所においても測定を行なうことができるようになる。
【0023】
また、チップの2枚の平面板はともに光を透過するものであり、光照射部と受光部はチップを挟んで配置されているようにすれば、光照射部の光を無駄なく、受光部に集光できる。
さらに、受光部への光束軸がチップの平面板の平面に対して垂直であるようにすれば、チップ内を通過する光の透過距離を最小にすることができるの。これにより、光照射部と受光部を含めたチップサイズを小さくすることができる。
【0024】
また、光照射部のチップに光を照射する部分と受光部のチップから光を受光する部分の一方又は両方は光ファイバーを備えているようにすれば、光ファイバーの先端部と必要な集光光学系だけをチップに近接したところに設置すればよいので、小型化した光の照射部と受光部を構築できる。分光された光を照射する分光部と、受光部での光強度を電気信号に変換するセンサー部とは、チップ側とは反対側の光ファイバー端部に設置すればよいので、チップ部周辺の小型化が可能となる。
【0025】
また、チップの2枚の平面板のうち、一方は光を透過するものであり、他方は光を反射するものであり、光照射部と受光部はチップに対して同じ側の位置に配置されているようにすれば、チップ面の片方側に光照射部と受光部の両方を配置することができ、よりチップサイズを小型化できる。
【0026】
また、光照射部のチップに光を照射する部分と、受光部のチップから光を受光する部分は1つの光学系で形成されているようにすれば、さらに小型化が可能となる。光の逆進性を利用すれば、照射光学系と受光光学系を1つにできる。光照射のための光源の部分と、受光素子の部分の光路を分けるために、半透明なビームスプリッタなどを用いる必要がある。それらの部分の光学系に光ファイバーを備えている場合は、照射側の光ファイバー及び受光側の光ファイバーとして1つの光ファイバーを使用でき、部品点数の削減によるコスト低減と、装置のサイズ小型化が可能となる。
【0027】
また、チップの平面板と間仕切り板の材料は、例えばガラス材、石英、サファイア、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から選べる。
種々なガラス材ならば、透過させる光に対して透明な材質を適宜選択することが可能である。また、ガラス材の中でも特に石英を使用することは、その材質が限定されることから、酸やアルカリの流体に腐食されないことや、腐食されたとしても、溶け出す材質が限定されているため、金属汚染を嫌う、半導体プロセスで用いることができる。
また、石英はフッ酸に侵されるが、フッ酸を含む流体に関しては、それに対する耐食性のあるサファイアを用いることが好ましい。
PMMAで代表されるアクリル樹脂は、透明性が高いことと、熱可塑性をもつこと、アセトンなどの有機溶媒に可溶なことなどから、鋳型による大量生産と、無機ガラスではできない複雑な形状の加工が可能となる。チップの平面板又は間仕切り板に合わせて、複雑な加工をする場合などに特に有効である。
PDMSは、無色透明で、弾力性に富み、耐熱性と形状転写性に優れているので、マイクロ流体システムでは多用されている。樹脂表面を疎水性にしたり親水性にしたりするなど、用途に応じた表面処理が可能であり、複雑な形状加工も可能である。PDMSを用いる場合も鋳型による大量生産が可能であり、チップの平面板又は間仕切り板に合わせて、複雑な加工をする場合などに特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[実施例1]
図1は、一実施例の測定部を説明するための平面図である。図2は測定部の側面図である。図3は、この実施例の全体の構成を概略的に示す図である。
【0029】
図3に示すように、この実施例の流体物性測定計は、実質的に分光部1と、測定部2と、データ処理部3とで構成されている。
まず、分光部1の具体的な構成を説明する。
【0030】
分光部1には、光源であるタングステンランプ4と、凸レンズ5と、8個の干渉フィルタ6を備えた回転円板7と、凸レンズ8と、凸レンズ11と、受光素子12とが設けられている。タングステンランプ4から放射された光は、凸レンズ5によって集光され、干渉フィルタ6を通過する。ここで、回転円板7に保持された干渉フィルタ6は、光を、2000〜2600nm(ナノメートル)の範囲内の所定の波長の光に分光する。
干渉フィルタ6によって分光された光は、凸レンズ8によって集光され、投光側光ファイバー9の入射端面9aに照射される。投光側光ファイバー9は測定部2につながっている。
【0031】
図1及び図2を参照して測定部について説明する。
測定部2の符号103は調液部である。調液部103は、内部に流路が形成されたチップ111と、チップ111を支持するための金属製の枠部110と、チューブ104,105,108をチップ111に接続するための継ぎ手112,113,114を備えている。チューブ104,105,108は例えばPTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)やPFA(tetra fluoro ethylene-PerFluoro Alkylvinyl ether copolymer)などの樹脂によって形成されている。調液部103及び送液機構についての詳細な説明は後述する。
【0032】
測定部2は、測定位置を移動させるための移動機構を備え、図1に示したX軸とY軸方向に独立に測定位置を移動できる。符号202は測定位置をX軸移動するためのステッピングモータ内蔵のスライダーであり、符号203は測定位置をY軸移動するためのステッピングモータ内蔵のスライダーである。
【0033】
調液部103を挟んでコの字型の移動機構部材201が設置されている。移動機構部材201には、投光側光ファイバー9の出射端面9bと受光側光ファイバー10の入射端面10aとそれに関係する凸レンズ523,525が取り付けられている。移動機構部材201はスライダー202,203によってX軸、Y軸に任意に動き、チップ111への照射位置を変えることができる。投光側光ファイバー9の出射端面9bは、移動機構部材201の出射側部分522に接続されている。出射側部分522には、凸レンズ523が設置されていて、出射端面9bからの光を集光させて、チップ111に照射する。それを通過した光は、移動機構部材201の受光側部分524に設置された凸レンズ525に照射され、集光して、受光側光ファイバー10の入射端面10aに集光される。
【0034】
投光側光ファイバー9及び凸レンズ523は本発明の流体濃度計の光照射部を構成する。受光側光ファイバー10及び凸レンズ525は本発明の流体濃度計の受光部を構成する。移動機構部材201及びスライダー202,203は本発明の流体濃度計の移動機構を構成する。
【0035】
図3に示すように、受光側光ファイバー10の出射端面10bは分光部1に設置されている。受光側光ファイバー10の入射端面10aに入射した光は、受光側光ファイバー10の出射端面10bから凸レンズ11に入射して、集光して、受光素子12に入射される。受光素子12は、入射された光を、その強度に対応する光電流に変換する。データ処理部3は、受光素子12が受光した光強度データに基づいて測定位置の流体の物性を算出する。
【0036】
回転円板7は、8枚の干渉フィルタ6を、円周方向に等角度間隔で保持し、駆動モータ13により所定の回転数、例えば1200rpm(Revolutions Per Minute)で回転駆動される。各干渉フィルタ6は、2000〜2600nmの範囲内で、測定対象に応じた、互いに異なる所定の透過波長を有している。ここで、回転円板7が回転すると、各干渉フィルタ6が、凸レンズ5,8の光軸に順次挿入される。そして、タングステンランプ4から放射された光が、干渉フィルタ7によって分光された後、投光側光ファイバー9、凸レンズ523を介して、チップ111の所定位置に照射される。チップ111を通過した光は、凸レンズ525を通過して集光され、受光側光ファイバー10に入り、凸レンズ11を通過して集光され、受光素子12に入射される。これにより、受光素子12から、各波長の光の吸光度に応じた電気信号が出力される。
【0037】
ところで、燃料電池で、携帯機器向けの小型のものとして、直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)が注目されている。DMFC型燃料電池の燃料供給には、メタノール濃度3〜5%の濃度のメタノール水溶液が用いられる。メタノール濃度が高いと、メタノールが燃料極で未反応なものが、電解質膜を透過して空気極へ到達するクロスオーバー現象が発生して、発電効率が低下するという問題が発生する。メタノール濃度が低くても、発電効率が落ちる。したがって、常に最適なメタノール濃度を供給することが望まれる。また、濃度の濃いメタノールを、水で最適な濃度に希釈して使用することができれば、DMFC型燃料電池内に収容しておくメタノール燃料の体積を減少することができ、DMFC型燃料電池をより小型にすることができる。希釈に必要な水は、空気極側で発生する水を用いてもよいし、空気中の湿度分を捕集してもよい。この実施例ではメタノール水溶液を所定の濃度に調整する場合について説明する。
【0038】
図4は、この実施例で用いた送液機構の構成を説明するための概略図である。
濃度が30%のメタノールの入った容器101と、水の入った容器102が設けられている。
メタノールの入った容器101にチューブ104の一端が接続されている。チューブ104の他端は調液部103に接続されている。水の入った容器102にチューブ105の一端が接続されている。チューブ105の他端は調液部103に接続されている。調液部103には、チューブ104,105からのメタノール及び水が混合された希釈メタノールを流すためのチューブ108も接続されている。チューブ108はポンプ109に接続されている。
【0039】
図5は図4に示した装置の調液部の平面図と側面図を示す図である。
調液部103は、ガラスのエッチングで内部に流路が形成されたチップ111と、チップ111を支持するための金属製の枠部110と、チューブ104,105,108をチップ111に接続するための継ぎ手112,113,114を備えている。チップ111はマイクロ流体デバイスである。
【0040】
チップ111の平面サイズは12.5mm×39mm、厚みは2.2mmである。枠部110の外周平面サイズは19mm×46mm、内周平面サイズは13mm×40mm、厚みは4.2mmである。枠部110には、ネジで継手112,113,114が差し込まれている。枠部110の内側に配置されたチップ111は継手112,113,114によって押さえ込まれることによって固定されている。チップ111は、側面に継手112,113,114に対応する位置に、チップ111内部の流路につながるテーパー形状の凹部を備えている。継手112,113,114の先端がチップ111側面の凹部に差し込まれることによって流路がシールされて液漏れを防止している。
【0041】
図6は、チップ111の流路パターンを示す平面図である。
図5に示すチューブ104,105が接続される2つの流路125,126にそれぞれ流量制御部115が設けられている。流量制御部115は直列に接続された4つの渦巻状の流路を備えている。流量制御部115の流路幅、すなわち断面積は、チップ111の他の流路部分に比べて小さく形成されている。
【0042】
流路125,126には、流量制御部115よりも上流側にセンサー部134,135が設けられている。センサー部134はメタノールの濃度監視用に用いられる小空間である。センサー部135は、水の濃度監視用に用いられる小空間であり、メタノール等不純物が含まれていないかどうかが監視される。
【0043】
流路125と流路126は流量制御部115よりも下流側で合流されて流路127に接続されている。流路127の下流側にミキシング部116が設けられている。流路127には、ミキシング部116よりも下流側にセンサー部136が設けられている。センサー部136は、混合後のメタノール濃度の測定に用いられる小空間である。
【0044】
センサー部134,135,136は、図1及び図2を参照して説明した測定部2により光が照射される箇所である。測定部2においてスライダー202,203を制御して、チップ111のセンサー部134,135,136のいずれかに光が照射されるように移動機構部材201を移動させる。また、スライダー202,203を適宜操作することにより、流量制御部115、ミキシング部116、その他の流路における流体濃度も計測可能である。
【0045】
図7は、ミキシング部116内における液体の流れを矢印で示す平面図である。
ミキシング部116は2つの広い箇所123,124を備えている。上流側の広い箇所123と下流側の広い箇所124は2本の流路128,129で接続されている。
【0046】
上流側の広い箇所123には流路127が接続されている。広い箇所123の近傍で流路127に流路の細い箇所120が設けられている。広い箇所123と124を接続する2本の流路128,129の上流側の端部は、細い箇所120の両隣の箇所で広い箇所123に接続されている。
【0047】
下流側の広い箇所124には下流側の流路130が接続されている。広い箇所123と124を接続する2本の流路128,129の下流側の端部は、流路130の両隣の箇所で広い箇所124に接続されている。広い箇所124の近傍で流路128,129に流路の細い箇所121,122が設けられている。
【0048】
流路127から細い箇所120を介して広い箇所123に導入された液体は、細い箇所120で流速が早くなるので、広い箇所123内で渦を発生する(矢印を参照)。広い箇所123から、広い箇所123と124を接続する2本の流路128,129及び流路の細い箇所121,122を介して広い箇所124に導入された液体は、細い箇所121,122で流速が速くなるので、広い箇所124内で渦を発生する(矢印を参照)。これらの渦により、液体の混合が促進される。
図6に示すように、ミキシング部116は2段に設けられているので、図7に示した混合パターンを2段繰り返すことにより、液体は完全に混合される。
【0049】
図8は、チップ111におけるペルチェ素子及び測温体の配置を説明するための平面図と側面図を示す図である。
チップ111の上面に2つのペルチェ素子118,119が貼り付けられている。ペルチェ素子118はメタノールが流される流量制御部115の上に配置されている。ペルチェ素子119は水が流される流量制御部115の上に配置されている。
チップ111の下面に2つの測温体132,133が貼り付けられている。測温体132,133は例えば白金からなる。測温体132はメタノールが流される流量制御部115の下に配置されている。測温体133は水が流される流量制御部115の下に配置されている。
図1、図2、図5ではペルチェ素子118,119及び測温体132,133の図示は省略されている。
【0050】
チップ111は、流路を形成するための貫通溝が形成された厚みの均一なガラス間仕切り板を2枚のガラス平面板で挟み込んだ3層構造になっている。
図9はガラス間仕切り板を示す平面図である。図10はガラス板を示す平面図である。図11は、接合前のガラス間仕切り板及び2枚のガラス板を示す側面図である。図12は、ガラス間仕切り板及び2枚のガラス板を接合してチップを形成した状態を示す側面図である。
【0051】
図9に示すように、ガラス間仕切り板137は符号137a〜137eで示す5つのガラス板によって構成されている。各ガラス板137a〜137eの厚みは0.2mmで均一である。
図10に示すように、ガラス平面板138,139は継ぎ手との接触部だけがテーパー形状になるように加工されている。ガラス平面板138,139の厚みは1mmである。
【0052】
ガラス間仕切り板137及びガラス平面板138,139の接合面は平坦に研磨されている。図11に示すように、ガラス平面板138,139の間にガラス間仕切り板137を配置する。具体的には、ガラス平面板139の上にガラス間仕切り板137を構成するガラス板137a〜137eを配置し、その上に
ガラス平面板138を配置する。ガラス間仕切り板137及びガラス平面板138,139を重ねて配置した状態で熱をかけ、オプティカルコンタクトさせると、接着剤なしでも、ガラス間仕切り板137及びガラス平面板138,139は接着する。そして図12に示すようにチップ111が形成される。
【0053】
図4,図5及び図8を参照してメタノールを希釈する動作について説明する。
ポンプ109を作動させると、容器101内のメタノールがチューブ104内に吸引され、容器102内の水がチューブ105内に吸引される。チューブ104内に吸引されたメタノール及びチューブ105内に吸引された水は調液部103に導かれる。調液部103に導かれたメタノール及び水はそれぞれチップ111の流量制御部115を通過した後に合流し、ミキシング部116に導かれて混合されて希釈メタノールとなる。希釈メタノールはチップ111からチューブ108に導かれ、ポンプ109を介して吐出される。
【0054】
図3において、回転円板7に保持された干渉フィルタ6は、メタノールと水の近赤外線スペクトルの差異がある2260nmを通過させるバンドパスフィルターと、その近辺の波長、2000nm、2100nm、2150nm、2200nm、2300nm、2350nm、2400nmの8枚を取り付けている。2260nmにメタノールのCH基に関する吸収がある。メタノール濃度はランベルト・ベールの法則から求めることができる。チップ111のセンサー部134は、メタノール濃度が30%であることを確認するための計測に用いる。センサー部134におけるメタノール濃度測定結果が30%でないならば、間違った濃度のメタノールを供給したことになるため、警報信号を出す。同じように、チップ111のセンサー部135は、水であることを確認するための計測に用いる。センサー部135における測定結果が水でないことを示すならば、水でない液を供給したことになるため、警報信号を出す。
【0055】
希釈されたメタノールの濃度が4%よりも濃い場合は、水側の流量を増加させ、メタノール側の流量を減少させるように制御する。具体的には、水側のペルチェ素子119の温度を上昇させることによって、水の粘度を低下させて流量を増加させる。さらに、メタノール側のペルチェ素子118の温度を下降させることによって、メタノールの粘度を上昇させ、流量を減少させる。それぞれのペルチェ素子118,119の温度は測温体132,133で計測している。
【0056】
測定位置は、チップ111のセンサー部136に主に設定しておき、混合後のメタノール濃度の計測は、例えば1秒間に20回計測する。そのたびに、流量制御を行ない、ほぼリアルタイムに連続的に、混合後のメタノール濃度を一定になるように制御する。また、10分に一回程度、センサー部134,135にスライダー202,203を駆動させて測定位置を移動させ、メタノール30%と水の確認を実行する。
この方法により得られる、メタノール温度と水温度とメタノール濃度の関係を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
メタノール温度はメタノール側ペルチェ素子118の測温体132の計測値と近く、水温度は水側ペルチェ素子119の測温体133の計測値と近いので、表3のメタノール温度と水温度は、測温体132,133の計測値で代用できる。
これにより、水側ペルチェ素子119と、メタノール側ペルチェ素子118の各温度を調整することにより、混合後のメタノール濃度を4%に制御することができる。
【0059】
この実施例では、液温度を変化させる材料としてペルチェ素子を用いたが、ヒーターを用いてもよい。その場合は、チップ111の流量制御部115上にそれぞれに独立した温度制御可能な面ヒーターが貼り付けられる。チップ111の下面にはヒートシンクに設置する。ヒーターのONとともに流量制御部115の温度が上昇して、流量制御部115を流れる液の温度も上昇する。面ヒーター近辺には測温体を設置しておき、測温体からの温度情報に基づいてヒーターをフィードバック制御する。ヒーターに流す電流を下げれば、放熱により、ヒートシンク温度になじむように温度が下がる。サイズがミリオーダーになると、物体の表面積と体積の比率で表面積側が圧倒的に大きくなるため、放熱スピードは日常レベルと比較して非常に早い。そのため、ヒーターによる加温素子のみでも、十分に温度制御が可能である。
【0060】
この実施例では、ミキシング部116は、迷路のようなパターンを通過させることにより行なったが、ミキシング方法として、流路に障害物を配置する方法や超音波素子による超音波を液に照射して混合する方法などもある。
【0061】
[実施例2]
図13は、他の実施例の測定部を説明するための側面図である。図14は測定部の平面図である。図15は、この実施例の全体の構成を概略的に示す図である。図1〜図3と同じ機能を果たす部分には同じ符号を付す。
【0062】
この実施例では、測定部の光照射光学系と受光部光学系について、光の逆進性を利用して投光側光ファイバーと受光側光ファイバーを1つのものとした。図15に示すように、この実施例の基本的な構造は図1〜図3を参照して説明した実施例1と同じである。この実施例では、分光部1で干渉フィルタ6を通過した光は、凸レンズ8で集光され、ミラー601で反射し、凸レンズ602で集光され、半透明なビームスプリッタ603に照射される。ビームスプリッタ603で反射した光は、光ファイバー604の端面604aを通じて、測定部2に行く。ビームスプリッタ603を透過した光は、適宜トラップして、後では使用しない。図3での受光側光ファイバー10を投光側光ファイバーとして用いていることになる。
【0063】
図13に示すように、光ファイバー604の端面604bから射出された光は凸レンズ606を通ってチップ111の流路に照射される。チップ111のガラス平面板139の面139aが鏡面になっており、照射した光が面139aで反射して、逆進して、再度端面604bから光ファイバー604へ戻る。
【0064】
図15を参照して説明すると、光ファイバー604の端面604bから入射した光は光ファイバー604を通って分光部1へ導かれ、光ファイバー604の端面604aから射出され、ビームスプリッタ603を透過して、凸レンズ11で集光されて受光素子12に入る。
【0065】
図13及び図14を参照して測定部2について説明する。この実施例の測定部2における調液部103は、チップ111のガラス平面板139の面139aが鏡面になっている点を除いて実施例1の調液部103と同じ構造をもっている。この実施例では、図1及び図2に示した移動機構部材201に換えて移動機構部材605を備えている。移動機構部材605には光ファイバー604の端面604bと凸レンズ605が取り付けられている。移動機構部材605はスライダー202,203によってX軸、Y軸に任意に動き、チップ111への照射位置を変えることができる。
【0066】
チップ111のガラス平面板139の面139aを鏡面にする方法は、図11も参照して説明すると、平行板139のガラス間仕切り板137側の面139aに、例えば金属蒸着処理によってアルミニウム蒸着膜を形成する方法が挙げられる。また、平行板139そのものを金属体で作製してもよいし、測定対象液の屈折率と大きく変わる材質で平行板139を作製してもよい。そのようにすれば、平面板139の面139a、すなわち間仕切り板137と平面板139の境界面で光の反射率が向上する。
【0067】
[実施例3]
図16は、さらに他の実施例の測定部を説明するための平面図と側面図を示す図である。図17は、図16のセンサー部135近傍の拡大図である。図18は、この実施例の全体の構成を概略的に示す図である。図1〜図3と同じ機能を果たす部分には同じ符号を付す。
【0068】
図18に示すように、この実施例の流体物性測定計は、実質的に分光部1と、測定部2と、データ処理部3とで構成されている。
まず、分光部1の具体的な構成を説明する。
【0069】
分光部1には、光源であるタングステンランプ4と、凸レンズ5と、4個の干渉フィルタ6を備えた回転円板7と、凸レンズ810とが設けられている。タングステンランプ4から放射された光は、凸レンズ5によって集光され、干渉フィルタ6を通過する。ここで、回転円板7に保持された4枚の干渉フィルタ6は、620nmの光を通過させるバンドパスフィルターと、800nmの光を通過させるバンドパスフィルターと、1300nmの光を通過させるバンドパスフィルターと、1450nmの光を通過させるバンドパスフィルターである。
干渉フィルタ6によって分光された光は、凸レンズ810によって平行光814にされ、測定部2に照射される。
【0070】
図16及び図17を参照して測定部について説明する。
測定部2のチップ111は、図8を参照して説明したチップと基本的に同じである。この実施例のチップ111には、センサー部134,135,136の箇所に、マスク801,802,803と、集光レンズ804,805,806と、受光素子807,808,809が付加されている。その他は、図8のチップと同じである。マスク801,802,803の設置の目的は、受光素子807,808,809への迷光の進入を防ぐためである。
【0071】
図18の分光部から照射された平行光814は、測定部2内に設置された、図16に示すチップ111の全面に均質に照射される。平行光814は、図16,17のマスク801,802,803にも照射され、マスク801,802,803の貫通穴811,812,813を通過する。貫通穴811,812,813を通過した光は、チップ111の平面板138、間仕切り板137、平面板139を通過する。間仕切り板137の空隙には、測定対象の流体が存在する。チップ111を通過した光は集光レンズ804,805,806により集光されて、受光素子807,808,809に入り、光の強度を電気信号に変換する。受光素子807,808,809の電気信号は、データ処理部3に向かう。
【0072】
分光部1から照射される平行光814は、回転円板7の回転により、バンドパスフィルターである干渉フィルタ6の中心波長が、それぞれ620nm、800nm、1300nm、1450nmの光を、時分割で照射することになる。どこの波長光が照射されているかは、回転円板7に設置されたフォトインタラプタの信号により、データ処理部3内のマイクロコンピューターにより判断できる。データ処理部3は、受光素子807,808,809の3つの電気信号と、回転円板7からのフォトインタラプタの信号を基に、それぞれの受光素子807,808,809に相当するセンサー部134,135,136の小空間内の各波長の吸光度データを算出することができる。
【0073】
回転円板7は、4枚の干渉フィルタ6を、円周方向に等角度間隔で保持し、駆動モータ13により所定の回転数、例えば1200rpmで回転駆動される。各干渉フィルタ6は、それぞれ620nm、800nm、1300nm、1450nmの光を通過させるバンドパスフィルターである。ここで、回転円板7が回転すると、各干渉フィルタ6が、凸レンズ5,810の光軸に順次挿入される。そして、タングステンランプ4から放射された光が、干渉フィルタ6によって分光された後、凸レンズ810で平行光814とされ、測定部2のチップ全面に均質に照射される。
【0074】
ところで、環境保全を目的とした、工場排水試験方法で、排水中のフッ化物イオンの計測の要求がある。この測定には、JIS K0102 34.1記載のランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法が用いられる。この測定方法では、試薬を測定対象液に混ぜ合わせて、その後、分光測定を行ない、定量する操作は繁雑であることが知られている。この方法を、本発明により効率よく行なった例を示す。
【0075】
本発明によりこの測定を行なう際、図4を参照して説明した送液機構を用いることができる。また、図16に示したチップ111を、図5に示した調液部103と同様にして測定部に配置する。
【0076】
ランタン−アリザリンコンプレキソン溶液(JIS K0102 34.1 a)6)記載)が容器101と、測定対象液の入った容器102が設けられている。測定対象液は、JISK0102記載の蒸留操作後の液である。
【0077】
容器101にチューブ104の一端が接続されている。チューブ104の他端は調液部103に接続されている。容器102にチューブ105の一端が接続されている。チューブ105の他端は調液部103に接続されている。調液部103には、チューブ104,105からのランタン−アリザリンコンプレキソン溶液と測定対象液が混合された液を流すためのチューブ108も接続されている。チューブ108はポンプ109に接続されている。ポンプ109は、データ処理部3から、その動作を制御されている。ポンプ109を動かして、容器101,102から液を吸引する。液は、チップ111内の小空間からなるセンサー部134,135に入る。その後、センサー部136の小空間にも液が満たされる。センサー部134,135,136の小空間が所定の液で満たされたかどうかは、それぞれの受光素子807,808,809からのデータにより判断できる。センサー部136が液で満たされた後、5秒程度余分にポンプ109で吸引し続け、その後、ポンプ109を停止させ、液の流れを停止させる。
【0078】
センサー部134はランタン−アリザリンコンプレキソン溶液監視用に用いられる小空間である。センサー部135は、測定対象液監視用に用いられる小空間であり、それぞれの小空間に液が所定通り存在するかどうかを監視する。その方法は、どちらも水溶液であるため、水のOH基の近赤外線吸収が存在するかどうかを確認することと、濁り、泡、不純物の存在がないかも確認する。具体的には、1450nmのOH基の特性吸収の吸光度と、その近傍でOH基の吸収の少ない1300nmの吸光度を求めることにより確認できる。測定対象液がセンサー部134,135内に存在しない場合は、センサー部134,135内の流体が空気になっているため、1450nmの光強度が高くなる。また、ミクロな泡や、濁り、不純物がある場合は、光の散乱、吸収が大きくなり、1450nmと、1300nmの両方で、光強度が減少し、それの検知ができる。正常に測定対象液がある場合は、1300nmと1450nmが所定の吸光度を示し、あらかじめ正常な状態のときの吸光度値をデータ処理部3内のマイクロコンピューターのメモリに記憶させておいて、それと比較することにより確認できる。
【0079】
ランタン−アリザリンコンプレキソン溶液と測定対象液は、所定体積で混合される。混合比を制御する方法は、実施例1と同じである。
【0080】
混合された液をセンサー部136で停止させる。その後、すぐに測定を開始する。620nmの吸光度から、フッ化物イオン濃度を求めることができる。吸光度データを安定させるため、フッ化物イオン濃度にあまり関係しない波長である800nmの吸光度との差吸光度を用いると、光源ふらつき、受光素子の感度変動などの誤差を除去できる。
フッ化物イオン濃度の定量は、JIS K0102 34.1 a)7)8)記載の複数のフッ化物イオン濃度既知の標準液を同一手順で測定しておき、その濃度と620nmと800nmの差吸光度データ間で検量線を作成しておく。そのデータは、データ処理部3のマイクロコンピューターメモリ内に格納しておく。その検量線に濃度未知の測定対象液の620nmと800nmの差吸光度データを照らし合わせることにより、フッ化物イオン濃度を算出する。
【0081】
以上、本発明の実施例を説明したが、材料、形状、配置等は一例であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0082】
例えば、上記実施例では、チップ111を形成するための間仕切り板137及びガラス平面板138,139としてガラス材を用いているが、チップを形成するための間仕切り板及びガラス平面板は他の材料、例えば石英、サファイア、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)によって形成されていてもよい。
【0083】
また、上記実施例では、チップ111に対して光照射部及び受光部を移動させる移動機構部材201及びスライダー202,203からなる移動機構を備えているが、位置固定された光照射部及び受光部に対してチップを移動させる移動機構を備えているようにしてもよい。
【0084】
また、上記実施例では、流路の温度を変化させる熱源として、ペルチェ素子やヒーターを用いているが、流路に光を照射することによって流路の温度を変化させてもよい。流路に光を照射するための光源として、例えばLEDや半導体レーザーを挙げることができる。また、光源と光ファイバーを用い、光源から光ファイバーの入射端に入れた光を光ファイバーの出射端から出射させて流路に光を照射して流路の温度を変化させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】一実施例の測定部を説明するための平面図である。
【図2】同実施例の測定部の側面図である。
【図3】同実施例の全体の構成を概略的に示す図である。
【図4】同実施例で用いた送液機構の構成を説明するための概略図である。
【図5】調液部の平面図と側面図を示す図である。
【図6】調液部のチップの流路パターンを示す平面図である。
【図7】チップのミキシング部内における液体の流れを矢印で示す平面図である。
【図8】チップにおけるペルチェ素子及び測温体の配置を説明するための平面図と側面図を示す図である。
【図9】チップの一部分を構成するガラス間仕切り板を示す平面図である。
【図10】チップの一部分を構成するガラス板を示す平面図である。
【図11】接合前のガラス間仕切り板及び2枚のガラス板を示す側面図である。
【図12】ガラス間仕切り板及び2枚のガラス板を接合してチップを形成した状態を示す側面図である。
【図13】他の実施例の測定部を説明するための側面図である。
【図14】同実施例の測定部の平面図である。
【図15】同実施例の全体の構成を概略的に示す図である。
【図16】さらに他の実施例の測定部を説明するための平面図と側面図を示す図である。
【図17】図16のセンサー部135近傍の拡大図である。
【図18】同実施例の全体の構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1 分光部
2 測定部
3 データ処理部
9,10,604 光ファイバー
103 調液部
111 チップ
134,135,136 センサー部(流路)
137 間仕切り板
138,139 平面板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が光を透過する2枚の平面板で厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップと、前記チップの前記流路に光を照射するための光照射部と、前記流路を透過した光を受光するための受光部と、前記光受光部が受光した光強度データに基づいて前記流路内の流体の物性を算出するデータ処理部と、を備えた流体物性測定計。
【請求項2】
前記光照射部及び前記受光部と前記チップとを相対的に移動させるための移動機構をさらに備えている請求項1に記載の流体物性測定計。
【請求項3】
前記移動機構は、前記チップの前記平面板の平面に対して平行な平面内で、前記光照射部及び前記受光部と前記チップとを相対的に移動させる請求項2に記載の流体物性測定計。
【請求項4】
前記移動機構は、前記平面板の平面に対して平行な平面内で互いに交差する2方向に独立に、前記光照射部及び前記受光部と前記チップとを相対的に移動させる請求項3に記載の流体物性測定計。
【請求項5】
前記チップの2枚の前記平面板はともに光を透過するものであり、
前記光照射部と前記受光部は前記チップを挟んで配置されている請求項1から4のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項6】
前記受光部への光束軸が前記チップの前記平面板の平面に対して垂直である請求項5に記載の流体物性測定計。
【請求項7】
前記光照射部の前記チップに光を照射する部分と前記受光部の前記チップから光を受光する部分の一方又は両方は光ファイバーを備えている請求項1から6のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項8】
前記チップの2枚の前記平面板のうち、一方は光を透過するものであり、他方は光を反射するものであり、
前記光照射部と前記受光部は前記チップに対して同じ側の位置に配置されている請求項1から4のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項9】
前記光照射部の前記チップに光を照射する部分と、前記受光部の前記チップから光を受光する部分は1つの光学系で形成されている請求項8に記載の流体物性測定計。
【請求項10】
前記光学系は光ファイバーを備えている請求項9に記載の流体物性測定計。
【請求項11】
前記チップの構成材料は、ガラス材、石英、サファイア、ポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサンのいずれか又はそれらの組合せである請求項1から10のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項12】
前記物性が流体の吸光度である請求項1から11のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項13】
前記物性が流体の濃度である請求項1から11のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項1】
少なくとも一方が光を透過する2枚の平面板で厚みの均一な間仕切り板を挟み込むことによって内部に流路が形成されたチップと、前記チップの前記流路に光を照射するための光照射部と、前記流路を透過した光を受光するための受光部と、前記光受光部が受光した光強度データに基づいて前記流路内の流体の物性を算出するデータ処理部と、を備えた流体物性測定計。
【請求項2】
前記光照射部及び前記受光部と前記チップとを相対的に移動させるための移動機構をさらに備えている請求項1に記載の流体物性測定計。
【請求項3】
前記移動機構は、前記チップの前記平面板の平面に対して平行な平面内で、前記光照射部及び前記受光部と前記チップとを相対的に移動させる請求項2に記載の流体物性測定計。
【請求項4】
前記移動機構は、前記平面板の平面に対して平行な平面内で互いに交差する2方向に独立に、前記光照射部及び前記受光部と前記チップとを相対的に移動させる請求項3に記載の流体物性測定計。
【請求項5】
前記チップの2枚の前記平面板はともに光を透過するものであり、
前記光照射部と前記受光部は前記チップを挟んで配置されている請求項1から4のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項6】
前記受光部への光束軸が前記チップの前記平面板の平面に対して垂直である請求項5に記載の流体物性測定計。
【請求項7】
前記光照射部の前記チップに光を照射する部分と前記受光部の前記チップから光を受光する部分の一方又は両方は光ファイバーを備えている請求項1から6のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項8】
前記チップの2枚の前記平面板のうち、一方は光を透過するものであり、他方は光を反射するものであり、
前記光照射部と前記受光部は前記チップに対して同じ側の位置に配置されている請求項1から4のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項9】
前記光照射部の前記チップに光を照射する部分と、前記受光部の前記チップから光を受光する部分は1つの光学系で形成されている請求項8に記載の流体物性測定計。
【請求項10】
前記光学系は光ファイバーを備えている請求項9に記載の流体物性測定計。
【請求項11】
前記チップの構成材料は、ガラス材、石英、サファイア、ポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサンのいずれか又はそれらの組合せである請求項1から10のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項12】
前記物性が流体の吸光度である請求項1から11のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【請求項13】
前記物性が流体の濃度である請求項1から11のいずれか一項に記載の流体物性測定計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−175407(P2010−175407A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18811(P2009−18811)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】
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