説明

流体軸受装置、スピンドルモータおよび記録再生装置

【課題】気泡の混入を防止して、また万一気泡が混入しても気泡が抜けやすい形状とすることで潤滑流体の漏洩等を防ぎ、潤滑流体の充填状態を正確に管理することが可能な流体軸受装置、スピンドルモータおよび記録再生装置を提供する。
【解決手段】環状溝は、軸受シール部における、回転部または固定部の少なくとも一方に設けられ、断面が円弧で近似される形状を有する。環状溝は、軸受シール部を構成する表面に沿う方向の溝幅Wと前記軸受シール部を構成する表面に鉛直な方向の溝深さDgとの関係がDg/W<0.4となるように決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルモータ等に使用される流体軸受装置、スピンドルモータおよび記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク駆動装置(以下、HDD)等のディスク駆動装置に搭載されるスピンドルモータは、非接触回転によって低NRRO(Non−Repeatable RunOut)や低騒音が実現できる流体軸受装置(以下、流体軸受)が用いられている。流体軸受は、静止部と回転部の間に流体(以下、潤滑流体)を充填した構造であり、精度のよい動作を得るためには、潤滑流体の漏洩等を防ぎ、潤滑流体の充填状態を正確に管理することが必須である。
【0003】
一般に、軸受の開口端からの潤滑流体の漏洩を防ぐために、開口端にシール構造が設けられる。シール構造としては、回転部の軸方向上側等にテーパ構造を設けて、静止部と回転部との間の間隙の形状を、回転軸の中心から外側方向に大きくなるテーパ形状とするものがある。これは、潤滑流体の表面張力を利用して潤滑流体の漏洩を防ぐのみならず、潤滑流体を注入する際に毛細管現象を利用して潤滑流体を隙間に充填し易くする点でも有効である。
【0004】
ここで、潤滑流体の充填量の管理をするために、オートフォーカス式の顕微鏡と磁気スケールなどとを組み合わせた測定装置によって潤滑流体の液面高さを計測する方法がある(特許文献1参照)。また、潤滑流体の液面が規定値にあることが目視でわかるように、界面変形部を設ける方法がある(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−90733号公報(平成13年4月3日公開)
【特許文献2】特開2007−182946号公報(平成19年7月19日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の装置では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、特許文献1に開示された計測方法では、専用の測定装置を用意する必要がある。そのため出荷したモータの軸受が市場トラブルを生じたとき、専用装置が用意できない客先などではその原因と現象を評価推定することが不可能になる。また、特許文献2に開示された流体軸受の構成では、上記軸受シール部の内側空間は、シャフトの回転軸を中心とする半径方向に深い凹形状もしくは高い凸形状であるため、流体軸受の潤滑流体が少なくなった時に振動衝撃が加わったり、起動停止時に潤滑流体の液面変動等があったりすると、軸受シール部の内側空間部に気泡が入り込み易くなる。そして、一旦入り込んだ気泡は、自然に流体軸受の外部に抜け出ることが困難となる。この時、その状態で流体軸受が回転し続けると、気泡は流体軸受内にも入り込み易くなり、流体軸受内において潤滑油切れ状態による焼き付きが生じる。また、気泡自体が回転することで、軸受内部に1/2回転成分の振動が発生してNRROを引き起こしてしまう。さらに、減圧環境下になると、気泡が一挙に体積膨張し、潤滑流体が溢れ出ることになる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上記問題を解決して、気泡の混入を防止して、また万一気泡が混入しても気泡が抜けやすい形状とすることで潤滑流体の漏洩等を防ぎ、潤滑流体の充填状態を正確に管理することが可能な流体軸受装置、スピンドルモータおよび記録再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る流体軸受装置は、固定部と、回転部と、潤滑流体と、動圧軸受部と、軸受シール部と、少なくとも一つの環状溝とを備えている。回転部は、固定部に対して回転する。潤滑流体は、回転部と固定部との微少隙間に充填される。動圧軸受部は、潤滑流体を介して、固定部に対して回転部を回転自在に支持する。軸受シール部は、回転部と固定部との間であって、動圧軸受部の開口端部近傍に形成される。環状溝は、軸受シール部における、回転部または固定部の少なくとも一方に設けられ、断面が円弧または略多角形で近似される形状を有する。また、環状溝は、軸受シール部を構成する表面に沿う方向の溝幅Wと軸受シール部を構成する表面に鉛直な方向の溝深さDgとの関係が以下の関係式(1)に基づいて決定される。
Dg/W<0.4 ・・・(1)
【0008】
ここでは、流体軸受装置において、潤滑流体を管理(潤滑流体を所定の液面まで充填・保持)するために環状溝を流体軸受に設けて、その環状溝の形状に関して、気泡の混入を防ぎ易く、かつ気泡が入ったとしても気泡が抜け易いように規定した構成を示す。
【0009】
通常、潤滑流体は、テーパを形成している軸受シール部の所定の位置に液面がくるように、製造時において調整される。しかし、例えば、温度が上昇した場合、潤滑流体は膨張してその液面は上昇する。逆に、温度が低下したり、潤滑流体が蒸発して減少したりするとその液面は下降する。この液面の変化について、設計の想定範囲を超えて液面が上下すると、動圧軸受部に気泡が入り込んで軸受機能が低下する場合や、気泡が膨張することにより潤滑流体が軸受シール部から溢れ出してシール機能が果たせなくなる場合がある。
【0010】
そこで、気泡が排出され易い溝形状について規定する。具体的には、減圧環境下もしくは温度降下によって軸受内部に発生した気泡が、溝内部で滞留して成長することなしにスムーズに排出される溝幅Wと溝深さDgとの関係を、溝を円弧または略多角形で近似される形状(環状溝)として実験的に求めた。それが、関係式(1)である。
【0011】
これにより、動圧軸受装置における軸受シール部の環状溝の形状が関係式(1)を満たしていれば、環状溝から気泡を効果的に抜き出せることがわかった。この結果、気泡が環状溝に入り込んだとしても、気泡を軸受シール部外部に排出して、シール機能の信頼性を向上させることが可能となる。
【0012】
なお、本発明の流体軸受装置は、スリーブの一端が開放された流体軸受装置、スリーブの両端が開放された流体軸受装置のいずれに対しても適用することが可能である。また、環状溝は、液面の上端または下端近傍で少なくとも1本以上形成されていればよい。
【0013】
第2の発明に係る流体軸受装置は、第1の発明に係る流体軸受装置であって、環状溝の溝幅Wと溝深さDgとの関係が以下の関係式(2)に基づいて決定される。
Dg/W<0.3 ・・・(2)
これにより、溝幅Wに対して溝深さDgがより小さいので気泡が環状溝に滞留することをより確実に防止できる。
【0014】
第3の発明に係る流体軸受装置は、第1の発明に係る流体軸受装置であって、環状溝の溝幅Wと溝深さDgとの関係が以下の関係式(3)に基づいて決定される。
0.025<Dg/W ・・・(3)
ここで、環状溝の溝幅Wと溝深さDgとの関係を上記のように設定することで、環状溝の境界の光学的なコントラストが明確になり、20〜100倍程度の拡大率を有する光学顕微鏡で観察したときに環状溝の位置が把握し易くなる。その結果、軸受シール部における液面の上端側もしくは下端側近傍に環状溝を一つ以上配置しておくことにより、液面位置が組立当初からの変化を容易に把握することが出来るようになる。したがって、例えば、特開2002−250341号公報などに記載された、高価で複雑な液面測定装置を用意せずとも、潤滑流体の充填量の変化を容易に把握することができる。その結果、軸受寿命評価試験などで液面の変化を容易に把握することが可能になる。
【0015】
第4の発明に係る流体軸受装置は、第3の発明に係る流体軸受装置であって、環状溝の溝幅Wと溝深さDgとの関係が以下の関係式(4)に基づいて決定される。
0.05<Dg/W ・・・(4)
これにより環状溝の境界の光学的なコントラストがより明確になり、熟練を要さずに容易に環状溝を判別することが可能になる。これによって、より再現性高く液面の変化量を明確に把握することが可能になる。
【0016】
第5の発明に係る流体軸受装置は、第1から第4の発明に係る流体軸受装置であって、環状溝は、溝深さDgと最大高さ粗さRzとが、以下の関係式(5)に基づいて決定される。なお、これ以下において、最大高さ粗さRzは、JIS B 0601,2001により定義されるものとする。
【0017】
Dg≧2Rz ・・・(5)
ここでは、環状溝の溝深さDgと最大高さ粗さRzとの関係から環状溝の形状を規定した構成を示す。
【0018】
環状溝は、潤滑流体の充填状態の管理を行うために、潤滑流体の液面高さの目印としても用いられる。そのため、簡易な低倍率の顕微鏡で環状溝を特定できることが望ましい。そうすれば、潤滑流体の液面が環状溝に対してどの位置にあるかを判断できる。しかし、環状溝の溝深さは、軸受シール部における表面粗さよりも大きくないと、明確に環状溝を区別することはできない。
【0019】
そこで、環状溝の形状を特定するために、溝深さDgについて、関係式(5)によって規定した。
これにより、顕微鏡を用いて観察した際に、環状溝の特定が容易にできる。以下その説明を行う。軸受シール部は、シール性能を確保するために表面粗さを極力小さくすることが求められる。通常、その加工は、ラジアル軸受等の軸受面加工と同時に行われる事が多く、最大高さ粗さRzも軸受面と同等程度に仕上げられることが多い。
【0020】
ここで、環状溝とシール部の表面粗さによる凹凸とを明確に区別するためには、環状溝の溝深さDgは、最大高さ粗さRzの2倍以上あれば良いことがわかった。その一例を図11(a)(b)に示す。同図に示すように、実際の表面の断面形状から破線で示す加工プログラム曲線を差し引いたものが粗さ曲線になる。この粗さ曲線から最大高さ粗さRzが得られるが、環状溝位置を判読するには溝深さDgが最大高さ粗さRzよりも数倍大きい必要がある。図11(b)に示すように、加工プログラム(破線で表示)で溝深さDgを3μmとしても、最大高さ粗さRzが2.84μmと大きく、溝深さDgと最大高さ粗さRzとがほぼ同等になってしまうと環状溝の判読が困難になる。一方、最大高さ粗さRzが1.45と溝深さDgの半分であれば明瞭に判読することが出来、低倍率の顕微鏡でその位置を読み取ることが容易である。このように、溝深さDgを最大高さ粗さRzの2倍以上にすることによって光の当たり方や観察者の習熟度などにも左右されずに、潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0021】
第6の発明に係る流体軸受装置は、第5の発明に係る流体軸受装置であって、溝深さは、3μm以上で、かつ、環状溝が配置された位置における固定部と回転部との隙間の1/2以下である。
【0022】
ここでは、環状溝の溝深さについて、具体的な数値を挙げて規定する。
通常、軸受シール部において、最大高さ粗さRzも軸受面と同等程度に仕上げられ、最大高さ粗さRzは、1〜1.5程度である。
【0023】
ここで、環状溝とシール部の表面粗さによる凹凸とを明確に区別するためには、環状溝の溝深さDgは、最大高さ粗さRzの2倍以上の値である、3μm以上であることが好ましい。
【0024】
これにより、顕微鏡を用いて観察した際に、環状溝より明瞭に特定できる。従って、潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0025】
また、溝深さDgは、大きくなりすぎると環状溝内での気泡が大きくなりすぎてしまう。HDD用の流体軸受スピンドルモータにおいては、軸受シール部の回転部と固定部との隙間は通常、200〜300μm程度であることが多い。ここで、気泡が動圧軸受部の開口端部から抜け出るには、気泡の直径が軸受シール部の隙間よりも小さいことが必要である。ところで、円弧形状の開角が180度以上であると、気泡は円弧部から抜けることが出来なくなる。この時、溝深さDgが、例えば、100μmであると、半径100μmすなわち直径200μmの気泡が出来る。したがって、軸受シール部の隙間は200μm以上であることが必要になる。換言すると、溝深さDgを軸受シール部の隙間の1/2以下にすることで、気泡の排出を妨げることが無くなる。
【0026】
第7の発明に係る流体軸受装置は、第1から第6の発明に係る流体軸受装置であって、円弧または略多角形で近似される形状の面と環状溝が配置された面との接触点における交差角は、5度以上である。
【0027】
第8の発明に係る流体軸受装置は、第7の発明に係る流体軸受装置であって、円弧または略多角形で近似される形状の面と環状溝を有する面との接触点における交差角は、10度以上である。
【0028】
ここでは、溝形状の好ましい交差角を、異なる値を用いて各々規定した構成を示す。
上記のように、溝深さを規定しても、環状溝の円弧または略多角形で近似される形状について、軸方向の幅が大きすぎると、円弧または略多角形で近似される形状の面と環状溝を有する面との接触点における交差角が小さくなり、軸受シール部と環状溝との区別が不明瞭になる。
【0029】
そこで、交差角の面からも、環状溝の形状を規定した。具体的には、顕微鏡を用いて観察した際に、交差角は経験上5度以上が好ましく、さらには10度以上であることが好ましい。
【0030】
これにより、20〜100倍程度の拡大率を有する光学顕微鏡を用いて観察した際に、環状溝の位置をより明瞭に特定できる。従って、環状溝に対する潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0031】
第9の発明に係る流体軸受装置は、第1から第8の発明のいずれか1つに係る流体軸受装置であって、環状溝における円弧または略多角形で近似される形状の曲率半径は、50μm以上である。
【0032】
ここでは、溝形状について、円弧または略多角形形状の最小曲率半径の具体的な数値を挙げて規定した構成について示す。
さらにこの条件を加えることによって、本発明の効果をより確実に引き出すことができる。従って、気泡が環状溝に入り込んだとしても、気泡を軸受シール部外部により確実に排出して、シール機能の信頼性を向上させることが可能となる。また、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0033】
ここで、円弧または略多角形にて近似される形状の曲率半径の下限値(50μm)は、高温環境下などで使用されるときの潤滑流体の突沸現象(後述)を防止する条件によって与えられる。なお、上限側は、第2,5,6の発明のいずれかによって与えられる。
【0034】
第10の発明に係る流体軸受装置は、固定部と、回転部と、潤滑流体と、動圧軸受部と、軸受シール部と、少なくとも一つの環状溝とを備えている。回転部は、固定部に対して回転する。潤滑流体は、回転部と固定部との間の微少隙間に充填される。動圧軸受部は、潤滑流体を介して、固定部に対して回転部を回転自在に支持する。軸受シール部は、回転部と固定部との間であって、動圧軸受部の開口端部近傍に形成される。環状溝は、軸受シール部における、回転部または固定部の少なくとも一方に設けられ、断面が円弧または略多角形で近似される形状を有する。そして、円弧または略多角形で近似される形状の面と環状溝を有する面との接触点における交差角は、5度以上である。
【0035】
第11の発明に係る流体軸受装置は、第10の発明に係る流体軸受装置であって、円弧または略多角形で近似される形状の面と環状溝を有する面との接触点における交差角は、10度以上である。
【0036】
ここでは、溝形状を、交差角のみを用いて各々規定した構成を示す。
環状溝の円弧または略多角形で近似される形状について、軸方向の幅が大きすぎると、円弧または略多角形で近似される形状の面と環状溝を有する面との接触点における交差角が小さくなり、軸受シール部を構成する面と環状溝との区別が不明瞭になる。
【0037】
そこで、交差角を用いて環状溝の形状を規定した。具体的には、20〜100倍程度の拡大率を有する光学顕微鏡を用いて観察するために、交差角は経験上5度以上が好ましく、さらには10度以上であることが好ましい。
【0038】
これにより、顕微鏡を用いて観察した際に、環状溝の位置をより明瞭に特定できる。従って、潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0039】
第12の発明に係る流体軸受装置は、第1または第11の発明に係る流体軸受装置であって、環状溝は、潤滑流体の液面の位置の許容範囲に合わせて形成されている。
ここでは、潤滑流体の液面の位置の許容範囲を基にして、環状溝の位置を規定した構成について示す。
【0040】
ここで、許容範囲とは、流体軸受装置が通常の動作を行うために許容される、潤滑流体の液面の位置の変動範囲をいう。例えば、軸受シール部における軸方向上側に環状溝が形成されていれば、潤滑流体の液面の上限はその環状溝よりも軸方向下側に位置し、逆に、軸受シール部における軸方向下側に環状溝が形成されていれば、潤滑流体の液面の下限はその環状溝よりも軸方向下側に位置するように設定することが望ましい。ただし、環状溝の位置はこれに限定されず、任意に設定することが出来る。
【0041】
軸受シール部に充填される潤滑流体の量は、流体軸受装置の構成および形状によって決定される。また、環状溝の位置も、軸方向上側あるいは下側に少なくとも1つ適宜形成されている。それに伴って、潤滑流体の液面の位置が環状溝よりも軸方向上側あるいは下側にあることを基準にして、潤滑流体の充填管理を行えばよい。
【0042】
これにより、潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。また、製造工程時に限らず、市場に出荷された後に蒸発による液面低下や軸受内への気泡混入による液面上昇等といった潤滑流体の量の変動が生じた場合であっても、専用の計測装置を使用することなく潤滑流体の量を評価することが可能になる。
【0043】
第13の発明に係るスピンドルモータは、第1から第12の発明に係る流体軸受装置を備えている。
ここでは、スピンドルモータが前述の流体軸受装置を備えている。
【0044】
これにより、潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。また、製造工程時に限らず、市場に出荷された後に蒸発による液面低下や軸受内への気泡混入による液面上昇等といった潤滑流体の量の変動が生じた場合であっても、専用の計測装置を使用することなく潤滑流体の量を評価することが可能なスピンドルモータを提供することが可能となる。
【0045】
第14の発明に係る記録再生装置は、記録媒体と、ヘッドと、スピンドルモータと、を備えている。ヘッドは、記録媒体に対して情報の記録および再生を行う。スピンドルモータは、第13の発明に係るスピンドルモータであって、記録媒体またはヘッドを回転駆動する。
【0046】
ここでは、記録再生装置が、前述のスピンドルモータを備えている。
これにより、潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。また、製造工程時に限らず、市場に出荷された後に蒸発による液面低下や軸受内への気泡混入による液面上昇等といった潤滑流体の量の変動が生じた場合であっても、専用の計測装置を使用することなく潤滑流体の量を評価することが可能な記録再生装置を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0047】
第1および第2の発明に係る流体軸受装置によれば、気泡が環状溝に入り込んだとしても、気泡を軸受シール部の外部に排出して、シール機能の信頼性を向上させることが可能となる。
【0048】
第3および第4の発明に係る流体軸受装置によれば、環状溝の位置を明瞭に確定することが容易になり、潤滑流体の液面の位置を容易に判断できるので、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0049】
第5の発明に係る流体軸受装置によれば、環状溝の位置を明瞭に確定することが容易になり、潤滑流体の液面の位置を容易に判断できるので、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0050】
第6の発明に係る流体軸受装置によれば、環状溝の位置を明瞭に確定することが容易になると共に、環状溝から離脱した気泡を軸受シール部から容易に排出することが可能になる。その結果、潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となると共に、万一気泡が軸受シール部内に発生してしまっても確実に気泡を排出できるのでNRROの発生を抑制し、軸受の回転精度を向上することが可能になる。
【0051】
第7および第8の発明に係る流体軸受装置によれば、潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
第9の発明に係る流体軸受装置によれば、シール機能の信頼性を向上させることが可能となり、また、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0052】
第10および第11の発明に係る流体軸受装置によれば、潤滑流体の液面の位置を判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
第12の発明に係る流体軸受装置によれば、潤滑流体の液面の位置を容易に判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0053】
第13の発明に係るスピンドルモータによれば、潤滑流体の液面の位置を容易に判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
第14の発明に係る記録再生装置によれば、潤滑流体の液面の位置を容易に判断でき、潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
本発明の一実施形態に係る流体軸受装置4を備えたスピンドルモータ1について、図1〜図12を用いて説明すれば以下の通りである。
なお、本実施形態では、説明の便宜上、図面の上下方向を「軸方向上側」、「軸方向下側」等と表現するが、スピンドルモータ1の実際の取り付け状態を限定するものではない。
【0055】
[スピンドルモータ1の全体構成]
スピンドルモータ1は、図1に示すように、主に、ベースプレート2と、ステータ5と、ロータ3と、流体軸受装置4とを備えている。なお、図1に示すO−Oは、スピンドルモータ1の回転軸線である。
【0056】
ベースプレート2は、スピンドルモータ1の静止側の部分を構成しており、例えば、記録ディスク装置のハウジング(図示せず)に固定されている(ハウジングとベースプレート2は一体の部品であっても良い)。また、ベースプレート2は、筒状部21を有しており、筒状部21の内周側には、流体軸受装置4のシャフト41(図2参照)の一端が固定されている。
【0057】
ロータ3は、スピンドルモータ1の回転側の部材であって、磁気回路で発生する回転力により回転駆動される。なお、ロータ3の構成については、後段にて詳述する。
流体軸受装置4は、図2に示すように、ベースプレート2およびステータ5に対して相対回転可能な状態で支持するための装置である。なお、流体軸受装置4については後段にて詳述する。
【0058】
ステータ5は、後述するバックヨーク33およびロータマグネット34とともに磁気回路を構成しており、筒状部21の外周側に固定されている。そして、この磁気回路により発生した回転方向の駆動力により、ベースプレート2およびステータ5に対してロータ3が回転駆動される。
【0059】
[ロータ3の構成]
ロータ3は、図1に示すように、バックヨーク33と、ロータマグネット34と、ロータハブ31と、を有している。
【0060】
バックヨーク33は、ロータハブ31の軸方向下側に設けられた環状の部材であり、圧入等により固定されている。また、バックヨーク33は、磁性体によって構成されている。
【0061】
ロータマグネット34は、ステータ5の半径方向における外周側において対向するように配置された環状の部材であって、バックヨーク33の内周側に固定されている。
ロータハブ31は、記録ディスクMが装着される部材であり、後述するスリーブ42(図2参照)の外周側に接着等により固定されている。また、ロータハブ31は、図1に示すように、ロータハブ本体35と、ディスク載置部36とを有している。
【0062】
ロータハブ本体35は、記録ディスクMを半径方向に支持する筒状の部分であって、スリーブ42の外周側に固定されている。ロータハブ本体35の外周側には、例えば、3枚の記録ディスクMが挿嵌される。
【0063】
ディスク載置部36は、記録ディスクMを載置するための環状の部分であり、ロータハブ本体35の軸方向における下端部の外周側に形成されている。
なお、記録ディスクMとしては、例えば、情報アクセス手段(図示せず)によって情報を読み書きできる磁気ディスク等が含まれる。また、記録ディスクMは、クランパ39によってロータハブ本体35の側方に固定配置される。複数の記録ディスクMを固定する場合には、スペーサ40によって各記録ディスクMを一定の距離を隔てて、各記録ディスクMを挟持固定する。
【0064】
[流体軸受装置4の構成]
流体軸受装置4は、図2に示すように、スリーブ42の両端が開放された両端開放型の流体軸受装置であって、シャフト41とスリーブ42とを有している。また、この流体軸受装置4は、固定されたシャフト41の周りを回転体が回転するシャフト固定型の流体軸受装置である。
【0065】
(シャフト41)
シャフト41は、流体軸受装置4の固定側の部材であって、軸方向における下端部がベースプレート2の筒状部21に固定されている。また、シャフト41は、シャフト本体41aと、第1スラストフランジ41bと、第2スラストフランジ41cとを有している。
【0066】
シャフト本体41aは、シャフト41の主要部を構成する円柱状の部材であって、スリーブ42の内周側にスリーブ42との間に微小隙間を介して配置されている。
第1スラストフランジ41bは、例えば、シャフト本体41aと一体成形された環状の部材であって、軸方向においてスリーブ42の軸方向下側端面と微小隙間を介して対向するように第1筒状突出部42bの内周側に配置されている。
【0067】
第2スラストフランジ41cは、スリーブ42に対して軸方向の第1スラストフランジ41bと反対側に配置された環状の部材であって、例えば、シャフト本体41aに対してレーザ溶接や接着、圧入等によって固定されている。また、第2スラストフランジ41cは、スリーブ42の軸方向上側端面と軸方向に微小隙間を介して対向するように第2筒状突出部42cの内周側に配置されている。
【0068】
また、第1・第2スラストフランジ41b・41cには、スリーブ42の一部と対向する側の面に、第1・第2スラスト動圧発生溝72a・73aが形成されている。
第1・第2スラスト動圧発生溝72a・73aは、図示しないヘリングボーン形状またはスパイラル形状に形成されている。なお、第1・第2スラストフランジ41b・41cに形成された第1・第2スラスト動圧発生溝72a・73aについては、後段にて詳述する。
【0069】
第1・第2スラストフランジ41b・41cは、外周部に約6度のテーパ形状を有している。具体的には、第1・第2スラストフランジ41b・41cの外周面は、軸方向下側および上側に向かって第1・第2筒状突出部42b・42cの内周面と離れる方向に傾斜している。
【0070】
(スリーブ42)
スリーブ42は、流体軸受装置4に含まれるほぼ上下対称な回転側の筒状部材であって、シャフト41に対して相対回転可能な状態で配置された筒状の部材である。そして、スリーブ42は、例えば、外周面に複数のDカット部分が形成されたインナースリーブ43を、アウタースリーブ44に接着剤を併用し軽圧入(嵌挿)して組み立てることによって、後述する連通孔42eを有する筒状の部分を形成している。具体的には、スリーブ42は、前述したように、インナースリーブ43と、アウタースリーブ44とによって構成され、複数のラジアル動圧発生溝71a・71bと、凹部42aと、第1筒状突出部42bと、第2筒状突出部42cと、固定部42dと、複数の連通孔42eと、クランパ内接部42fと、ロータハブ内接部42gと、環状凸部42hと、環状溝49a・49bと、を有している。
【0071】
ラジアル動圧発生溝71a・71bは、スリーブ42の内周面に形成された円周方向に均等に配置された溝であって、図示しないヘリングボーン形状に形成されている。
凹部42aは、スリーブ42の内周側に形成された環状の凹み部分であり、軸方向におけるラジアル動圧発生溝71a・71b間に配置されている。
【0072】
第1・第2筒状突出部42b・42cは、スリーブ42の両端部の外周部が軸方向外側に突出する筒状の部分である。第1・第2筒状突出部42b・42cの内周部には、第1・第2スラストフランジ41b・41cが配置されており、そのため第1・第2筒状突出部42b・42cの内径は、スリーブ42の内径よりも大きく設定されている。
【0073】
固定部42dは、第2筒状突出部42cの端部から軸方向上側へさらに突出するスリーブ42の筒状部分である。そして、固定部42dの内径は、第2筒状突出部42cの内径よりも大きく設定されており、固定部42dの内周側にはカバー45が接着等によって固定されている。
【0074】
連通孔42eは、インナースリーブ43とアウタースリーブ44との間に形成されており、スリーブ42を軸方向に貫通するように、例えば、円周方向に均等に配置されている。
【0075】
クランパ内接部42fは、記録ディスクMをロータハブ31に固定するためのクランパ39が、スリーブ42に内接する部分であって、第2筒状突出部42cの端部から軸方向上側へさらに突出する筒状部分である。なお、本実施形態では、固定部42dと、クランパ内接部42fとは、同じ部分を指している。
【0076】
ロータハブ内接部42gは、スリーブ42にロータハブ31(図1参照)が内接するようにして取り付けられる部分である。
環状凸部42hは、軸方向におけるスリーブ42のほぼ中央近傍に形成される環状の凸部分である。
【0077】
環状溝49a・49bは、図3に示すように、第2スラストフランジ41cに対向するように、アウタースリーブ44の内周面における軸方向上側と下側とに各々形成されている。なお、環状溝49a・49bは、さらに第1スラストフランジ41bに対向するように形成されていても良い。これらの環状溝については、後段にて詳述する。
【0078】
(シャフト41およびスリーブ42の間の軸受部71・72・73の構成)
また、シャフト41およびスリーブ42の間には、作動流体としての潤滑流体46が充填されている。なお、潤滑流体としてはエステル系オイル、フッ素系潤滑流体、イオン性液体などが挙げられる。そして、第1スラストフランジ41bと第1筒状突出部42bとの間および第2スラストフランジ41cと第2筒状突出部42cとの間には、テーパシール部(軸受シール部)48a・48bが形成されている。
【0079】
そして、この流体軸受装置4では、ロータ3を半径方向に支持するラジアル軸受部(動圧軸受部)71が、ラジアル動圧発生溝71a,71bを有するスリーブ42、シャフト41およびその間に介在する潤滑流体46によって構成される。また、ロータ3を軸方向に支持する第1スラスト軸受部(動圧軸受部)72は、第1スラスト動圧発生溝72aを有する第1スラストフランジ41b、スリーブ42およびその間に介在する潤滑流体46によって構成される。さらに、ロータ3を軸方向に支持する第2スラスト軸受部(動圧軸受部)73は、第2スラスト動圧発生溝73aを有する第2スラストフランジ41c、スリーブ42およびその間に介在する潤滑流体46によって構成される。
【0080】
ここで、回転側の部材(スリーブ42等)が固定側の部材(シャフト41等)に対して相対回転すると、各軸受部71・72・73においてシャフト41の半径方向および軸方向において、それぞれ回転側の部材と所定の隙間を空けた状態で支持する力(動圧)が発生する。これにより、回転側の部材と固定側の部材とを非接触状態として効率よくスピンドルモータ1における回転を開始することができる。
【0081】
(環状溝49a・49b)
環状溝49a・49bは、テーパシール部48bにおいて、図3に示すように、第2スラストフランジ41cに対向するように、アウタースリーブ44における第2筒状突出部42cの内周面142cにおける軸方向上側と下側とに、各々断面が円弧状に形成されている。これらの環状溝は、流体軸受装置4が通常の動作を行うために許容される、潤滑流体46の液面位置の変動範囲に基づいて配置される。ここでは、潤滑流体46の液面の最大高さ位置は、環状溝49aの位置を越えることはない。また、通常動作を行う状態における液面の最小高さ位置は、環状溝49bの位置を下回ることはないように設定されている。
【0082】
以下、これらの環状溝について、様々な条件からパラメータを定めて規定する。なお、以下の説明では、環状溝49aを用いて説明するが、49bについても断りがない限り、その形状は同様である。
【0083】
(1)顕微鏡で、軸方向上側からテーパシール部48bの環状溝49aを観察した時に環状溝49aが明瞭に見える条件
環状溝49aは、第2筒状突出部42cの内周面142cに設けられるため、環状溝49aの溝深さDg2(図3参照)が内周面142cの表面粗さよりも十分深くないと、環状溝49aの存在を明瞭に識別することはできない。一方、テーパシール部48bのシール機能を確保するために、内周面142cの表面粗さは極力小さくすることが求められる。通常、この加工は、軸受部の面加工と同時に行われ、内周面142cの表面粗さの最大高さRz(JIS B 0601,2001)は、軸受面の表面粗さと略同程度に仕上げられる。この時、表面粗さの最大高さRzは、1〜1.5程度である。この場合、溝深さDgが、Rzの2倍以上(Dg≧2Rz)である3μm以上であれば、環状溝49aは軸方向上側から顕微鏡で十分に識別可能である。なお、溝深さDgの上限値は、環状溝49aから離脱した気泡が環状溝49aの位置におけるテーパシール部48bの隙間を通過できる条件から定める。すなわち、テーパシール部48bにおける隙間ΔRの1/2が環状溝49aの最大値となる。
【0084】
一方、溝深さDgが十分に深くても、環状溝49aの軸方向の幅Wg2が大きすぎると、図4に示す環状溝49aの円弧面と内周面142cの内周面との接触点における交差角BgおよびCgが小さくなり、内周面142cと環状溝49aとの区別が不明瞭になる。顕微鏡で両者の区別を明確にするためには、交差角Bg,Cgは、5度以上、より好ましくは10度以上が必要である。また、別の見方をすると、溝幅Wに対して溝深さDgは一定以上の大きさがあることが好ましい。具体的には、Dg/Wは0.025より大きく、より好ましくは0.05よりも大きいことが望ましい。更には、0.1以上であることがより望ましい。このような関係を満たすために、スリーブに旋盤加工を施す際にはバイトのノーズRは200以下または300μm以下にする事が望ましい。なお、ここで交差角Bg,Cgを定める際、軸方向における幅50μm以下の微少なC面取りやR面取りは除外して評価している。
【0085】
(2)環状溝49aに気泡が滞留しない条件
環状溝49aの溝深さDgが深いと、より明瞭に環状溝49aが識別可能になることは上記の通りである。しかし、環状溝49a内部に気泡が入り込む、あるいは気泡が環状溝49a内部に留まるといった状態になると、流体軸受装置4のシール機能が果たされなくなる点にも留意が必要である。すなわち、気泡が環状溝49a内部に入り込んだ状態で、例えば、減圧環境になると、気泡が膨張してテーパシール部48bの隙間を塞いでしまう。さらに減圧状態が進行すると、潤滑流体46がテーパシール部48bから溢れ出したり、気泡が破裂したりしてその衝撃で潤滑流体46がテーパシール部48bから離れたところにまで飛散してしまう。そこで、この問題を防ぐために、環状溝49aのさらなる規定を試みる。
【0086】
気泡が環状溝49aに滞留する条件は、溝深さDg以外に、内周面142cの最大高さ粗さRz、環状溝49aと内周面142cとの接触点における交差角BgおよびCg、環状溝49aの隅肉Rの寸法、テーパシール部48bの回転軸に対する半径方向の開口距離等に依存する。
ここで、気泡滞留条件を検討する前に、まず気泡発生原因を明らかにする。以下、気泡発生原因を、第1〜第3の原因に分けて説明する。
【0087】
a)第1の原因
潤滑流体46が常温で空気中の水分を吸収した後に、流体軸受装置4が急速に高温(例えば、約100℃)になると、吸収した水分は蒸発する過程で気泡になる。
水分蒸発による気泡の発生は、大気に曝されるテーパシール部48b(特に内周面142c)および環状溝49aの最大高さ粗さRz、隅肉R寸法、さらにテーパシール部48bを構成する金属の熱伝導性に強く依存する。流体軸受装置4の温度が上昇する時、流体軸受装置4の温度は全体に一様ではなく、ミクロ的な視点で見ると、より伝熱性が大きい金属表面近傍でもっとも温度が高くなる。水蒸気の気泡は、この金属表面で発生する。気泡は、一旦発生すると、気泡表面から潤滑流体46中の水蒸気を吸収し、かつ金属表面からの熱エネルギーの供給を受けて、体積が急速に大きくなる。
【0088】
テーパシール部48bが重力方向に対して上向きに開口していれば、成長した気泡は、気泡自身の浮力によって内周面142cおよび環状溝49aの表面から離れ、潤滑流体46の液面にゆっくりと出て行くため、環状溝49a内部に滞留しない。ところが、内周面142cのおよび環状溝49aの最大高さ粗さRzが大きい場合や、隅肉コーナRが小さい場合、あるいはテーパシール部48bの回転軸に対する半径方向の開口距離が小さい場合は、気泡は表面張力によって環状溝49a内部に留まってしまう。そして、気泡の体積が大きくなり、気泡にかかる浮力がその表面張力を上回った時に初めて、環状溝49a内部から離れようとする。ここで、気泡がスムーズに離れない場合、大きく成長した気泡が潤滑流体46の液面まで出ようとして、潤滑流体46をテーパシール部48bから溢れさせ、飛散させてしまうのである。これは、突沸現象による気泡の爆発ともいえる。
【0089】
b)第2の原因
流体軸受装置4を組み立てる際や、流体軸受装置4を含むモータなどの部品を設置する際等に衝撃的な荷重が加わり、シャフト41とスリーブ42(共に図2を参照)とが相対的に移動する。これにより、潤滑流体46の液面が、所定の位置よりも軸方向下側に下がった場合、環状溝49a内部に気泡が入り込み易くなる。
【0090】
c)第3の原因
高温条件下において、潤滑流体46が空気中の酸素および窒素を吸収した後、低温条件下に移行すると、潤滑流体46中に溶解した酸素および窒素が飽和状態に達して気泡になる。
【0091】
通常、多くの液体は、気体を溶解させた状態で平衡状態にある。潤滑流体46も例外ではなく、空気成分がその気体成分の分圧や温度に依存して、所定量溶け込んでいる。ただし、その溶解度は、テーパシール部48bの奥部分よりも開口部近傍が最も高くなる。これは、組み立て前に潤滑流体46中の気体成分を除去するために、流体軸受装置4の製造時に、10^(−5)Pa程度にまで脱気して所定時間放置してから注油することによる。一方、テーパシール部48bの開口部近傍は、組み立て後は常に大気に曝されることになり、大気圧がかかるので、組み立て後数時間程度で飽和状態に達する。
【0092】
ここで、上記の現象について、一般論を用いて詳述する。
気体の溶解度は、気体と液体との組み合わせが決まれば、あとは温度、蒸気分圧に応じて変化する。例えば、水にO2やCO2が溶解する場合は、温度が低いほど溶解度は高くなり、逆に温度が高いと溶解度は低下する。また、いずれの気体もその蒸気分圧が高いほど、溶解度はほぼそれに比例して高くなる。
【0093】
しかし、水の場合とは異なり、潤滑流体の場合はその傾向が異なる。例えば、図5に示すように、流体軸受装置に広く用いられるエステル系潤滑流体の場合は、温度上昇と共に空気の溶解度が上昇する。エステル系潤滑流体に限らず、通常、軸受装置に用いられる可能性がある潤滑流体の多くは、温度が高いほど空気を溶解させやすいと考えられる。
【0094】
ところが、流体軸受装置の中でシャフトがスリーブに対して相対的に回転すると、動圧発生溝が形成されているため、流体軸受装置内部に圧力の高い部分と低い部分とが生ずる。流体軸受装置の仕様によっては、大気圧よりも圧力が低い部分、いわゆるキャビティが回転中に発生する。このキャビティにおいて、潤滑流体中に溶解した気体成分が飽和状態に達してそれ以上溶解することが不可能になると、軸受内部で気泡となってしまう。このような気泡発生は、気体が溶け込みやすいテーパシール部の開口部に近い部分で発生しやすいと考えられる。しかし、流体軸受装置の回転が進行するにつれて、軸受装置内部まで潤滑流体が循環するため、開放端近傍にあった潤滑流体も軸受装置の奥深くまで達する。その結果、軸受装置内部でも気泡を発生することがある。これを防ぐために、内部にまで気泡が進入しないように流体軸受装置内部の圧力分布を設定する必要がある。
【0095】
これらの気泡は、回転中は軸受装置内部の動圧発生溝近傍に留まろうとする。しかし、回転中、モータの回転に伴う磁気的な振動等が原因で、スリーブ内でシャフトが微振動する。その結果、気泡も非定常で振動し、また軸受装置の微小隙間部を潤滑流体と共に移動しようとするために、気泡の体積変動によって一般に1/2回転成分のNRROが発生してしまう。なお、1/2回転成分とは、回転周波数の1/2の周波数を持つ振動成分である。回転が停止すると、気泡は軸受内部のより広い空間に溜まっていく。
【0096】
また、空気は高温状態において潤滑流体に溶け込み易いため、流体軸受装置が高温状態で運転中は、大気成分が潤滑流体にさらに大量に溶け込むことになる。このような環境で運転した軸受装置を低温環境下に持ち込むと、潤滑流体内部において酸素および窒素が過飽和状態となって、気泡が発生してしまう。なお、CO2は高温になると溶解しにくいのは水の場合と同様であるが、もともと空気中におけるCO2の分圧は低く溶解量が小さいため、上記気泡発生メカニズムにおける影響は無視しうる。
【0097】
以上述べたように、潤滑流体46内部に溶け込んだ大気成分は、流体軸受装置4の回転に伴うキャビティの発生、減圧環境、および温度降下によって気泡になる。この気泡が流体軸受装置4の外へ排出されるためには、テーパシール部48bでスムーズに排出される必要がある。ところが環状溝49aが深すぎると、それを阻害してしまう。
【0098】
上記a)〜c)の要因に関して、その対策としては、a)については、I)突沸を抑制することと、b),c)については、II)生成した気泡を排出することが必要である。そこで、次に、これらの検討を行う。
【0099】
I)突沸現象による気泡の爆発の抑制
テーパシール部48b(の内周面142c)を構成する金属が、銅やアルミニウムに比較して熱伝導性が悪いステンレス等であると、金属表面の温度も不均一になりやすい。そのため、急速に周囲の温度が上昇すると、突沸現象を生じ、気泡が大量に発生して潤滑流体46を飛散させてしまう。
【0100】
ここでまず、突沸現象を裏付ける実験を行った。図6に示すように、ステンレス製の小さな容器81に潤滑流体46を1μリットル注入し、容器81を厚さ1mm弱、直径約90mmのガラスディスク82上に載せて、120℃に加熱したオーブン内に入れ、24時間後に潤滑流体46の状態を確認した。容器81の底面コーナ83は、隅肉Rが20μm以下のシャープな隅肉になっており、また容器81の内面の最大高さ粗さRzは約20である。
この結果、潤滑流体46は、図7に示すように、その大半が容器81の上端面やガラスディスク82上に飛散していた。同じ実験を3回繰り返しても同様の現象が見られた。
上記実験例と他の比較例についてさらに示す。
【0101】
潤滑流体46の飛散の原因は、容器81内部の最大高さ粗さRzおよび容器81の底面コーナ83の隅肉R寸法のパラメータ、さらに容器81の材質に依存するものとして、様々なパラメータを用いた追加実験を各3回行った。その結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
表1より、潤滑流体46が飛散(突沸)しない条件は、容器81に関して、1)最大高さ粗さRzが3以下、2)底面コーナ83の隅肉Rが50μm以上、3)材質が銅製容器、あるいは、4)材質がアルミニウム製容器のいずれか一つを満足すればよいことがわかる。流体軸受装置を構成する金属は、銅系金属、アルミニウム系金属、または、ステンレス製金属の中から選択することが多いため、加工性等の観点から、2)底面コーナ83が50μm以上の条件を選択することが最も適切である。もちろん、最大高さ粗さRzを小さくしても(3以下)効果は大きいが、焼結金属で軸受部材を作る場合を考慮すると最大高さ粗さRzよりも底面形状の方が制御しやすい。
【0104】
このような突沸現象の生ずる環境は、従来の流体軸受装置が搭載されているPC環境では極めて稀と考えられがちであるが、例えば、HDDが今後携帯電話やビデオカメラ等のモバイル機器等に広く用いられていくことを考慮すると、無視してはならないものと考える。特に、真夏の炎天下で高温になった車のボディやダッシュボードの上に放置した場合、容易に高温環境状態になるため、より苛酷な条件下で性能信頼性を維持することが必要になるのである。
【0105】
II)環状溝49aから気泡が排出される条件
ここでは、減圧環境下もしくは温度降下によって、流体軸受装置4内部で発生した気泡が環状溝49a内部で滞留・成長せずにスムーズに排出される条件に関して記述する。
【0106】
気泡が排出されるには次の条件が必要となる。
i)気泡が膨張する時に、環状溝に留まろうとする力よりもテーパシール部を抜けようとする力の方が大きいこと
ii)発生した気泡が、強い変形を受けることなくテーパシール部を通過可能であること
上記条件を求めるために、実験的アプローチによって臨界点を探った。
【0107】
i)について
実験を行うための擬似軸受装置204は、図8に示すように、スリーブ243を透明アクリルで作成して、その開口部に幅Wと深さDgとを様々に変えた環状溝249aを設けたテーパシール部248bを備えている。ここで、図8に示すように、シャフト241を挿入して更に潤滑流体46を、環状溝249aを越える程度まで注入する。そして、シャフト241に振動を加えて潤滑流体46を攪拌することで気泡290を環状溝249aに入り込ませる。次に、気泡290が入り込んでいることを目視で確認して、図示しない真空チャンバー内に擬似軸受装置204を設置する。この状態で真空チャンバー内の気圧をゆっくり下げていくと、環状溝249a内の気泡290は膨張していく。ここで、図8に示すように、気泡290が環状溝249aから離脱して行くことが確認出来れば、気泡290が環状溝249a内に留まることはないと考えて良い。すなわち、環状溝249aに留まろうとする力よりもテーパシール部248bを抜けようとする力の方が大きいと判断して良い。
【0108】
それぞれのパラメータ(溝幅Wと溝深さDg)の組み合わせに関して各5回ずつ実験を繰り返した結果を表2に示す。表中、溝幅Wと溝深さDgの単位はmmである。なお、真空チャンバーの気圧は、ゲージ圧で−0.8気圧程度までとした。これは、通常の航空機で輸送または使用する時を想定して40,000ftを飛行する場合に相当する。表中、各セルの上段はDg/Wの比率であり、下段カッコ内数字は5回中、気泡290が環状溝249a内に留まった回数である。
【0109】
【表2】

【0110】
この結果、Dg/Wが0.4以上では、気泡290が環状溝249a内に留まる回数は2回以上であるが、0.4未満であるとほぼゼロになることがわかった。さらに0.3以下であれば、気泡290が環状溝249a内に留まる回数は完全にゼロになり、より好ましい。
【0111】
ii)について
発生した気泡が、強い変形を受けることなくテーパシール部248bを通過可能である条件は、図9に示すように、発生した気泡290の直径が、テーパシール部248bの半径隙間ΔRよりも小さいことである。
【0112】
溝深さDgは、大きくなりすぎると環状溝249a内での気泡290が大きくなりすぎてしまう。HDD用の流体軸受スピンドルモータにおいては、テーパシール部248bのシャフト241とスリーブ243との隙間は、通常、200〜300μm程度であることが多い。ここで、気泡290がテーパシール部248bから抜け出るには、気泡290の直径が、テーパシール部248bの隙間ΔRよりも小さいことが必要である。ところで、円弧形状の開角が180度以上であると、気泡は円弧部から抜けることが出来なくなる。この時、溝深さDgが、例えば、100μmであると、半径100μmすなわち直径200μmの気泡が出来る。したがって、テーパシール部248bの隙間ΔRは、200μm以上であることが必要になる。換言すると、溝深さDgをテーパシール部248bの隙間ΔRの1/2以下にすることで、気泡290の排出を妨げることが無くなる。
【0113】
以上、(1)顕微鏡で、シャフト41方向上側からテーパシール部48bの環状溝49aを観察した時に、環状溝49aが明瞭に見える条件および(2)気泡が、環状溝49a内に滞留しない条件の検討を行って、環状溝49aの規定を行った。この規定に従えば、環状溝49a内に気泡が留まることなく、テーパシール部48bからの潤滑流体の漏れ出しを防ぐことが可能である。さらに、簡易な低倍率の顕微鏡を用いるだけで明瞭に環状溝49aを識別可能であり、潤滑流体の液面が環状溝49aに対してどの位置にあるかを容易に判断できる。
【0114】
なお、上記実施形態において環状溝49aは、アウタースリーブ44の内周面側に設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、シャフトもしくはスラストフランジの外周側に設けても良い。ただし、スリーブの内周面側に設けることがより望ましい。これは次の理由による。
【0115】
軸固定型の場合、外周側に位置するスリーブが回転するため、遠心力によって回転中の液面は外周側が上がり、内周側は液面が下がる。そのため、起動停止を繰り返すと環状溝内に気泡を噛み込みやすくなる。一方、スリーブの内周面側に環状溝があって、仮に起動停止のたびに一時的に環状溝を挟んで液面が上下しても、外周側は遠心力が働くために液面内の圧力が高くなるため、気泡は圧力が低い内周側に寄せられる。従って、環状溝内に気泡が滞留することが抑制される。
【0116】
また、軸回転の場合はシャフト側が回転するが、液面は軸固定と同様に外周側の方が高くなり、内周側は液面が下がってしまう。これは、内周側の方が、より圧力が低いことを意味する。そのため、シャフト外周に環状溝があると、環状溝内部に気泡がより溜まりやすくなってしまう。したがって、軸回転の場合もシャフトやスラストフランジの外周に環状溝を設けるよりもスリーブ内周に設けることがより望ましい。
【0117】
また、環状溝は、必ずしも円弧状でなくとも良く、図10に示すように、テーパシール部(軸受シール部)348bにおける環状溝350は、溝底部350aが略円弧状で、その上下部350b,350cは、直線である略多角形形状でもよい。ここで、溝底部350aの曲率半径は、50μm以上にするのが望ましい。
【0118】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(A)
上記実施形態では、流体軸受装置4が倒立状態で使用され、そのテーパシール部48bが、軸方向上側に向かって開口している例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0119】
例えば、流体軸受装置4が軸水平および斜め姿勢等の状態で使用される場合であっても、本発明を適用することは可能である。
これにより、環状溝49aに気泡が留まることなく、テーパシール部48bからの潤滑流体46の漏れ出しも防ぐことが可能である。さらに、簡易な低倍率の顕微鏡を用いるだけで明瞭に環状溝49aを識別可能であり、潤滑流体46の液面が環状溝49aに対してどの位置にあるかを容易に判断できる。
【0120】
(B)
上記実施形態では、図1に示すようなスリーブ42の両端が開放された両端開放型の流体軸受装置4を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0121】
例えば、図12に示すような、軸回転型で、スリーブ142の片側が開放された片側開放型の流体軸受装置104であっても、本発明を適用可能である。
流体軸受装置104では、環状溝149は、固定部であるスリーブ142の軸方向上側に形成され、スリーブ142と回転部であるシャフト141との間にテーパシール部(軸受シール部)148が形成されている。ここでは、スリーブ142は、アウターおよびインナースリーブのように分離した構成は取っておらず、第2スラストフランジも構成されていない。この場合であっても、テーパシール部148からの潤滑流体146の漏洩を防ぎ、潤滑流体146の充填状態を正確に管理する必要がある。
そこで、環状溝149の構成に本発明を適用することで、上記効果を得ることが可能となる。
【0122】
(C)
上記実施形態では、流体軸受装置4のテーパシール部48bにおいて、環状溝49a・49bが、第2スラストフランジ41cに対向するように、アウタースリーブ44の内周面における軸方向上側と下側とに各々形成されている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0123】
例えば、流体軸受装置4の構成等に応じて、環状溝の本数は上側または下側の1本だけであってもよい。この場合であっても、本発明の環状溝の規定を適用することで、潤滑流体46の漏洩等を防ぎ、潤滑流体の充填状態を正確に管理することが可能である。
【0124】
(D)
上記実施形態では、環状溝49aの断面が、単一の略円弧で近似される形状からなる例を挙げ、その仮定のもとに様々なパラメータを計算して環状溝49aの規定をした。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0125】
例えば、環状溝49aは、その断面が、複数の略円弧もしくは直線で近似される形状を接続して一つの溝を形成しているような形状であっても構わない。
この場合であっても、上記と同様の効果を得ることができる。ただし、互いに接している円弧または直線どうしが、互いの接続点における接線を共有しないような形状の場合は、接続点ごとに上記実施形態の条件を判断する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の装置は、シール機能の信頼性を向上させ、また潤滑流体の充填管理の信頼性を向上させるという効果を奏することから、流体を有するモータ等に広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の一実施形態に係る流体軸受装置を搭載したスピンドルモータの構成を示す断面図。
【図2】図1のスピンドルモータに含まれる流体軸受装置の構成を示す拡大図。
【図3】図2の流体軸受装置に含まれるテーパシール部近傍の構成を示す拡大図。
【図4】図3のテーパシール部に含まれる環状溝近傍の拡大図。
【図5】エステル系潤滑流体における気体溶解度の温度特性を示すグラフ。
【図6】突沸現象を確認する実験の様子を示す図。
【図7】突沸現象を確認する実験の様子を示す図。
【図8】図4に含まれる環状溝に気泡が入り込んだ状態を示す断面図。
【図9】環状溝に気泡が入り込んだ状態を示す断面図。
【図10】本発明の他の実施形態における環状溝の断面図。
【図11】図2の流体軸受装置に含まれるテーパシール部近傍の状態を示す拡大図。
【図12】本発明の他の実施形態に係る流体軸受装置の構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0128】
1 スピンドルモータ
2 ベースプレート
3 ロータ
4 流体軸受装置
5 ステータ
21 筒状部
31 ロータハブ
33 バックヨーク
34 ロータマグネット
35 ロータハブ本体
36 ディスク載置部
39 クランパ
40 スペーサ
41 シャフト
41a シャフト本体
41b 第1スラストフランジ
41c 第2スラストフランジ
42 スリーブ
42a 凹部
42b 第1筒状突出部
42c 第2筒状突出部
42d 固定部
42e 連通孔
42f クランパ内接部
42g ロータハブ内接部
42h 環状凸部
43 インナースリーブ
44 アウタースリーブ
45 カバー
46 潤滑流体
48a,48b テーパシール部(軸受シール部)
49a,49b 環状溝
71 ラジアル軸受部(動圧軸受部)
71a,71b ラジアル動圧発生溝
72 第1スラスト軸受部(動圧軸受部)
72a 第1スラスト動圧発生溝
73 第2スラスト軸受部(動圧軸受部)
73a 第1スラスト動圧発生溝
81 容器
82 ガラスディスク
83 底面コーナ
104 流体軸受装置
141 シャフト
142 スリーブ
142c 内周面
146 潤滑流体
148 テーパシール部
149 環状溝
204 擬似軸受装置
241 シャフト
243 スリーブ
248b テーパシール部(軸受シール部)
249a 環状溝
290 気泡
348b テーパシール部(軸受シール部)
350 環状溝
350a 溝底部
350b,350c 上下部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、
前記固定部に対して回転する回転部と、
前記回転部と前記固定部との間の微小隙間に充填される潤滑流体と、
前記潤滑流体を介して、前記固定部に対して前記回転部を回転自在に支持する動圧軸受部と、
前記回転部と前記固定部との間であって、前記動圧軸受部の開口端部近傍に形成される軸受シール部と、
前記軸受シール部における、前記回転部または前記固定部の少なくとも一方に設けられ、前記軸受シール部を構成する表面に沿う方向の溝幅Wと前記軸受シール部を構成する表面に鉛直な方向の溝深さDgとの関係が以下の関係式(1)に基づいて決定され、断面が円弧または略多角形で近似される形状を有する少なくとも一つの環状溝と、
を備えている流体軸受装置。
Dg/W<0.4 ・・・(1)
【請求項2】
前記溝幅Wと前記溝深さDgとの関係が、以下の関係式(2)に基づいて決定される、
請求項1に記載の流体軸受装置。
Dg/W<0.3 ・・・(2)
【請求項3】
前記溝幅Wと前記溝深さDgとの関係が、以下の関係式(3)に基づいて決定される、
請求項1または2に記載の流体軸受装置。
0.025<Dg/W ・・・(3)
【請求項4】
前記溝幅Wと前記溝深さDgとの関係が、以下の関係式(4)に基づいて決定される、
請求項3に記載の流体軸受装置。
0.05<Dg/W ・・・(4)
【請求項5】
前記環状溝は、前記溝深さDgと最大高さ粗さRzとの関係が、以下の関係式(5)に基づいて決定される、
請求項1から4のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
Dg≧2Rz ・・・(5)
【請求項6】
前記溝深さDgは、3μm以上であり、かつ、前記軸受シール部上で、前記環状溝の位置における前記固定部と前記回転部との隙間の大きさの1/2以下である、
請求項5に記載の流体軸受装置。
【請求項7】
前記環状溝の前記円弧または略多角形で近似される形状の面と前記軸受シール部上で前記環状溝が配置された面との接触点における交差角は、5度以上である、
請求項1から6のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項8】
前記円弧形状の円弧面と前記環状溝を有する面との接触点における交差角は、10度以上である、
請求項7に記載の流体軸受装置。
【請求項9】
前記環状溝の前記円弧または略多角形で近似される形状の面の曲率半径は、50μm以上である、
請求項1から8のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項10】
固定部と、
前記固定部に対して回転する回転部と、
前記回転部と前記固定部との間の微小隙間に充填される潤滑流体と、
前記潤滑流体を介して、前記固定部に対して前記回転部を回転自在に支持する動圧軸受部と、
前記回転部と前記固定部との間であって、前記動圧軸受部の開口端部近傍に形成される軸受シール部と、
前記軸受シール部における、前記回転部または前記固定部の少なくとも一方に設けられ、断面が円弧または略多角形で近似される形状を有し、前記円弧または略多角形で近似される形状の面と前記軸受シール部を構成する表面との接触点における交差角は、5度以上である少なくとも一つの環状溝と、
を備えている流体軸受装置。
【請求項11】
前記円弧または略多角形で近似される形状の面と前記環状溝を有する面との接触点における交差角は、10度以上である、
請求項10に記載の流体軸受装置。
【請求項12】
前記環状溝は、前記潤滑流体の液面の位置の許容範囲に合わせて形成されている、
請求項10または11に記載の流体軸受装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の流体軸受装置を備えている、
スピンドルモータ。
【請求項14】
記録媒体と、
前記記録媒体に対して情報の記録および再生を行うヘッドと、
前記記録媒体または前記ヘッドを回転駆動する請求項13に記載のスピンドルモータと、
を備えている、記録再生装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−162246(P2009−162246A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339264(P2007−339264)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】