説明

流体輸送用チューブ及びその製造方法

【課題】熱可塑性エラストマーを基材とし、その表面に炭素膜を成膜した、炭素膜との密着性が高く、耐湿性、ガスバリア性、屈曲性及び柔軟性に優れた、流体輸送用チューブ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】(A)ソフトセグメントの主鎖が飽和結合からなるポリスチレン系熱可塑性エラストマー又はそれを含む組成物からなる流体輸送用のチューブであって、その表面に改質処理を行い、該表面に炭素膜が成膜されている流体輸送用チューブである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体輸送用チューブ、さらに詳しくは、熱可塑性エラストマーを基材とし、その表面に炭素膜を成膜し、炭素膜との密着性が高く、耐湿性、ガスバリア性、屈曲性及び柔軟性に優れた流体輸送用チューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性に優れた材料は環境保全、品質保持等の観点より多くの産業分野において求められている。例えば、空調システムの冷媒輸送用チューブにおいては、環境問題の観点から、冷媒ガスの透過の抑制が重要である。その他、ガス輸送用、化学薬品用、医療用、飲料輸送用等に用いられる輸送用チューブは、安全性等の観点から、同様に高いガスバリア性が求められる。その他、耐湿性、耐ガス性、耐腐食性、耐薬品性が求められる上、これらの輸送用チューブは耐屈曲性等の柔軟性が要求され、振動吸収性や組み付け作業性にも優れた高性能のものが求められている。
こうしたチューブ体の素材としては、これまで塩化ビニル樹脂系やシリコーン樹脂系などが用いられてきたが、これらは、いずれもなんらかの欠点を有しており、必ずしも充分に満足し得るものではない。例えば、塩化ビニル樹脂系チューブでは、可塑剤がブリードする問題があり、また耐久性が低いという問題があった。また、シリコーン樹脂系のチューブは、耐久性や耐薬品性等の性能は優れているものの、機械的強度(特に引き裂き強度)が低く、また価格が高いという問題があった。
【0003】
近年、スチレン−エチレン/プロピレン−ブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)に代表されるポリスチレン系熱可塑性エラストマーが、チューブ材料として開発されている。
しかしながら、これらは、機械的強度、柔軟性に優れるが、耐水蒸気透過性及び耐ガス透過性については、必ずしも十分ではないという問題があった。
一方、ゴムホースの耐ガス透過性を向上させる方法として、例えば(1)ゴムホース内面にナイロン膜をコーティングする方法(例えば、特許文献1参照)、(2)ナイロン製の内管にゴムを被せてホースを形成する方法(例えば、特許文献2参照)などが開示されている。
しかしながら、これらの方法は、いずれも耐ガス透過性が十分ではなく、特に(1)の方法ではゴムホースを連続的に製造することは困難であるなどの問題があった。
また、ゴムホースではないが、プラスチックフィルムの耐ガス透過性を向上させるため、オルガノシランのコーティング膜をガスバリア膜として利用する方法(例えば、特許文献3及び4参照)が知られている。
しかしながら、この方法は、オルガノシランコーティング膜をガスバリア膜として、大きな変形を伴うホース用途などに応用することは困難であった。
【0004】
他方、高分子、特に包装用フィルム材料の分野において、バリア性向上を図る方法として、高分子の分子構造の改良、接着剤を使用するドライラミネーション及び溶融接着法による押出ラミネーション等の多層化、高分子中に無機化合物をナノオーダーで微細分散するナノコンポジット化、樹脂コーティング(エマルジョン法、レジン法)及び無機材料コーティング(蒸着)等の表面改質法などが知られている。
しかしながら、この多層化やナノコンポジット化の手法を、例えば、前述のポリスチレン系熱可塑性エラストマー基材に適用する場合、該熱可塑性エラストマーが有する柔軟性が損なわれてしまうこと、樹脂コーティングでは、塗布しようとする樹脂が、該熱可塑性エラストマー基材表面に定着しにくいことが判明した。
【0005】
また、液体インクを安定供給することを目的に、内面にガスバリア性の高いダイヤモンドライクカーボン(DLC)を成膜した液体供給チューブが提案されている(特許文献5、請求項7参照)。また、液体供給チューブの材質として熱可塑性合成樹脂を用いることも開示されている(特許文献5、請求項9参照)。
しかしながら、ここでは熱可塑性樹脂について具体的な開示がないため、DLC膜の密着性については不明であり、DLC膜が剥離する可能性がある。しかも、DLC膜が液体供給チューブの内面に用いられているために、液体供給チューブ内での圧力変化によって、DLC膜が剥離し、流体内に流入する可能性がある。
【0006】
【特許文献1】特開昭59−123661号公報
【特許文献2】特開昭60−11388号公報
【特許文献3】特開昭62−112635号公報
【特許文献4】特開平2−286331号公報
【特許文献5】特開2005−319608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、熱可塑性エラストマーを基材とし、その表面に炭素膜を成膜した、炭素膜との密着性が高く、耐湿性、ガスバリア性、屈曲性及び柔軟性に優れた、流体輸送用チューブ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、基材としてソフトセグメントに二重結合を含まない熱可塑性エラストマー又はその組成物を用いて得られた流体輸送用チューブに、プラズマCVD法などの表面改質処理により、該表面に炭素膜を成膜した流体輸送用チューブが、その目的を達成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)(A)ソフトセグメントの主鎖が飽和結合からなるポリスチレン系熱可塑性エラストマー又はそれを含む組成物からなる流体輸送用のチューブであって、その表面に改質処理を行い、該表面に炭素膜が成膜されていることを特徴とする流体輸送用チューブ、
(2)表面改質処理が、プラズマCVD法によるものである上記(1)の流体輸送用チューブ、
(3)(A)成分のポリスチレン系熱可塑性エラストマーを含む組成物が、該熱可塑性エラストマー100質量部に対して、ポリオレフィン樹脂0.1〜50質量部を配合した組成物である上記(1)又は(2)の流体輸送用チューブ、
(4)(A)成分のポリスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)からなる群から選ばれる少なくとも一種である上記(1)〜(3)の流体輸送用チューブ、
(5)(A)成分のポリスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)である上記(4)に記載の流体輸送用チューブ、
(6)(A)成分の熱可塑性エラストマーの硬度が、JIS−A規格で80度以下である上記(1)〜(5)の流体輸送用チューブ、
(7)前記炭素膜が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)よりなる膜である上記(1)〜(6)の流体輸送用チューブ、
(8)炭素膜が流体輸送用チューブの外表面に成膜されていることを特徴とする上記(1)〜(7)に記載の流体輸送用チューブ。
(9)(A)ソフトセグメントの主鎖が飽和結合からなるポリスチレン系熱可塑性エラストマー又はこれを含む組成物からなる流体輸送用チューブの製造方法であって表面に改質処理を行い、該表面に炭素膜を成膜することを特徴とする流体輸送用チューブの製造方法、及び
(10)表面改質処理が、プラズマCVD法によるものである上記(9)の流体輸送用チューブの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭素膜との密着性が高く、耐湿性、ガスバリア性、屈曲性及び柔軟性に優れた、流体輸送用チューブを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いられる(A)成分のポリスチレン系熱可塑性エラストマー(以下(A)成分と称することがある。)は、ソフトセグメントに二重結合を含まないもの、すなわち、ソフトセグメントも主鎖が飽和結合からなるものを用いる。
(A)成分は、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)とゴムブロック(ソフトセグメント)とを有し、芳香族ビニル系重合体部分が物理架橋を形成して橋かけ点となり、一方、ゴムブロックが弾性を付与する。また、優れた耐劣化性を得るために、前記ゴムブロック中には二重結合を含んでいないことが重要である。
【0011】
芳香族ビニル系重合体ブロックを形成する芳香族ビニル系化合物の例としては、スチレン;α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、o−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−シクロヘキシルスチレン等の核アルキル置換スチレン;o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン等の核ハロゲン化スチレンなどが挙げられる。
これらの中で、スチレン、α−メチルスチレン、及びp−メチルスチレンが好ましく、特にスチレンが好適である。
これらの芳香族ビニル化合物は、一種を単独で用いてもよいし、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
この(A)成分は、その中のソフトセグメントの配列様式により、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−ブロック共重合体(SEPS)、ポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体などがある。
これらの中で、機械的強度、耐熱安定性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、柔軟性、加工性などの点から、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、及びスチレン−エチレン/プロピレン−ブロック共重合体(SEPS)が好ましく、中でも炭素膜との密着性に優れる、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)が特に好ましい。これらの(A)成分におけるスチレンブロックの含有量は、10〜70質量%であることが好ましく、さらには20〜40質量%の範囲が好ましい。
【0013】
上記(A)成分の硬度は、JIS−A規格で80度以下が好ましい。硬度が80度以下であると、成形体としての十分な柔軟性が得られる。以上の点から、硬度がJIS−A規格で70度以下がさらに好ましく、60度以下が特に好ましい。
また、上記(A)成分の重量平均分子量については特に制限はないが、ガスバリア性、機械的特性、及び成形性などの面から、40,000〜120,000の範囲であることが好ましく、さらには60,000〜100,000の範囲が好ましい。
【0014】
また、(A)成分を含む組成物(以下「エラストマー組成物」と称することがある。)としては、(A)成分以外の成分として、種々のものを配合することができるが、該エラストマー組成物の加工性、耐熱性の向上を図る点から、ポリオレフィン樹脂やポリスチレン樹脂などの樹脂成分(以下、単に「樹脂成分」という場合がある。)を好適に挙げることができ、特にポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、プロピレンと他の少量のα−オレフィンとの共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン/4−メチル−1−ペンテン共重合体)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリブテン−1などを挙げることができる。ポリオレフィン樹脂としてアイソタクティックポリプロピレン又はその共重合体を用いる場合、そのMFR(JIS K7210)が0.1〜50g/10分、特に0.5〜30g/10分の範囲のものが好適に使用できる。
なお、エラストマー組成物中に含まれる(A)成分は、一種単独で、また二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
次に、(A)成分以外の成分として配合し得るポリスチレン樹脂としては、従来公知の製造方法で得られたもの、例えば、ラジカル重合法、イオン重合法のいずれで得られたものも好適に使用できる。
ここで使用するポリスチレン樹脂の数平均分子量は、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜200,000の範囲から選択でき、分子量分布は5以下のものが好ましい。
ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン単位含有量60質量%以上のスチレン−ブタジエンブロック共重合体、ゴム補強ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレンなどが挙げられ、これらは一種または二種以上を併用してもよい。
更に、これらポリマーを構成するモノマーの混合物を重合して得られる共重合体も用いることができる。
また、上記ポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂とを併用することもできる。
例えば、エラストマー組成物にこれらの樹脂を添加する場合、ポリオレフィン樹脂単独を添加する場合に比較してポリスチレン樹脂を併用すると、得られる成形体の硬度が高くなる傾向にある。
従って、これらの配合比率を選択することにより、得られる成形体の硬度を調整することもできる。
この場合、ポリオレフィン樹脂/ポリスチレン樹脂の比率は95/5〜5/95(質量比)の範囲から選択することが好ましい。
【0016】
エラストマー組成物中の樹脂成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0〜100質量部程度であることが好ましく、例えば、ポリオレフィン樹脂の場合は、特に0.1〜50質量部がより好ましい。
樹脂成分の配合量が100質量部以下であると、得られる成形体の硬度が高くなり過ぎることがなく好ましい。
【0017】
上記エラストマー組成物中には、さらに軟化剤を添加することができる。軟化剤としては、通常、室温で液体又は液状のものが好適に用いられる。
このような性状を有する軟化剤としては、例えば、鉱物油系,合成系などの各種ゴム用又は樹脂用軟化剤の中から適宜選択することができる。
ここで、鉱物油系としては、ナフテン系、パラフィン系などのプロセス油が挙げられ、なかでも、非芳香族系オイル、特に鉱物油系のパラフィン系オイル、ナフテン系オイル又は合成系のポリイソブチレン系オイルから選択される一種又は二種以上であって、その数平均分子量が450〜5,000であるものが好ましい。
なお、これらの軟化剤は一種を単独で用いてもよく、互いの相溶性が良好であれば二種以上を混合して用いてもよい。
軟化剤の配合量は、特に制限はないが、(A)成分100質量部に対し、通常1〜1000質量部、好ましくは1〜500質量部の範囲で選ばれる。
配合量が、1質量部以上であると低硬度化することができ、流体輸送用チューブの成形体とした場合に十分な柔軟性が得られる。一方、1,000質量部以下であると軟化剤のブリードが抑えられ、また、成形体の十分な機械的強度が得られる。
なお、この軟化剤の配合量は、熱可塑性エラストマーの分子量及び該熱可塑性エラストマーに添加される他の成分の種類に応じて、上記範囲で適宜選定することができる。
【0018】
また、当該エラストマー組成物には、得られる成形体の圧縮永久歪みを改善するなどの目的で、所望によりポリフェニレンエーテル樹脂を配合することができる。
ポリフェニレンエーテル樹脂としては、公知のものを用いることができ、具体的には、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられ、又、2,6−ジメチルフェノールと1価のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体の如きポリフェニレンエーテル共重合体も用いることができる。
なかでも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)や2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、更に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量は、(A)成分100質量部に対して10〜250質量部の範囲で好適に選択することができる。
この配合量が250質量部以下であると得られる成形体の硬度が高くなりすぎず適度のものとなり、10質量部以上であると得られる成形体の圧縮永久歪みの改善効果が十分となる。
【0019】
また、本発明のエラストマー組成物には、クレー、珪藻土、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウムなどのりん片状無機系添加剤、各種の金属粉、ガラス粉、セラミックス粉、粒状あるいは粉末ポリマー等の粒状あるいは粉末状固体充填剤、その他の各種の天然または人工の短繊維、長繊維(各種のポリマーファイバー等)などを配合することができる。
また、中空フィラー、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーンなどの無機中空フィラー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体などからなる有機中空フィラーを配合することにより、軽量化を図ることができる。
更に、軽量化などの各種物性の改善のために、各種発泡剤を混入することも可能であり、また、混合時等に機械的に気体を混ぜ込むことも可能である。
【0020】
また、本発明のエラストマー組成物には、他の添加剤として、必要に応じて、難燃剤、抗菌剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、シリコーンオイル、シリコーンポリマー、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、フェノールテルペン樹脂、石油系炭化水素、ロジン誘導体などの各種粘着付与剤(タッキファイヤー)、レオストマーB(商品名:リケンテクノス(株)製)などの各種接着性エラストマー、ハイブラー(商品名:(株)クラレ製、ビニル−ポリイソプレンブロックの両末端にポリスチレンブロックが連結したブロック共重合体)、ノーレックス(商品名:日本ゼオン(株)製、ノルボルネンを開環重合して得られるポリノルボルネン)などの他の熱可塑性エラストマー又は樹脂などを併用することができる。
【0021】
上記シリコーンポリマーは、重量平均分子量が10,000以上、好ましくは100,000以上であるものが望ましい。上記シリコーンポリマーは、当該エラストマー組成物を用いた成形体の表面粘着性を改善する。
該シリコーンポリマーは、取扱い性を良くするために、汎用の熱可塑性ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどに高濃度で配合されたものを用いることができる。
特に、ポリプロピレンとの配合品が作業性、物性ともに良好である。
このような材料は、例えば、東レダウコーニングシリコーン(株)より市販されている、シリコーンコンセントレートBY27シリーズ汎用タイプとして容易に入手できるものを使用してもよい。
【0022】
当該エラストマー組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
例えば、上記の各成分及び所望により用いられる添加剤成分を加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、プラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサーなどを用いて溶融混練し、更に、所望により有機パーオキサイドなどの架橋剤、架橋助剤などを添加したり、又はこれらの必要な成分を同時に混合し、加熱溶融混練することにより、容易に製造することができる。
また、高分子有機材料と軟化剤とを混練した熱可塑性材料を予め用意し、この材料を、ここに用いたものと同種か若しくは種類の異なる一種以上の高分子有機材料に更に混ぜ合わせて製造することもできる。
更に、当該エラストマー組成物においては、有機パーオキサイドなどの架橋剤、架橋助剤などを添加して架橋することも可能である。
【0023】
本発明の流体輸送用チューブは、該チューブの表面改質処理を行い、表面に炭素膜を成膜することが必要である。
炭素膜を成膜する方法としては、基材である(A)成分の熱可塑性エラストマーに熱的損傷を与えない温度範囲で膜形成できる方法として、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、特にプラズマCVD法を用いることが好ましい。
通常は、炭素膜の成膜に先立ち、前処理として前記基材の膜形成面を前処理用ガス、例えばフッ素(F)含有ガス、水素(H2 )ガス及び酸素(O2 )ガスから選ばれた少なくとも1種の前処理用ガスのプラズマに曝す。この操作によって基材表面が清浄化され、又はさらに基体表面粗度が向上する。これらは、炭素膜の密着性向上に寄与し、高密着性炭素膜を得ることができるが、プラズマCVD法を用いる場合は、被成膜基材のプラズマによる前処理と炭素膜成膜とを同一の装置で行うことができ、炭素膜と基材との間に優れた密着性を得ることができる。
特に基材として(A)成分の熱可塑性エラストマーとの組み合わせによってその効果が顕著に現れる。
【0024】
前記プラズマCVD法は、真空容器中で高周波電力等を用いて発生させたプラズマのエネルギーを利用して、低圧環境下で原料ガスの分解及び結合などの化学反応を起こさせることにより基材に熱的損傷を与えない温度範囲(例えば、45〜65℃)で基材上に炭素膜を形成させる方法である。
プラズマCVD法により炭素膜を形成する場合のプラズマ原料ガスとしては、炭素膜形成に一般に用いられるメタン(CH4 )、エタン(C26 )、プロパン(C38 )、ブタン(C410)、アセチレン(C22 )、ベンゼン(C66 )、4フッ化炭素(CF4 )、6フッ化2炭素(C26 )等の炭素化合物ガス、及び必要に応じて、これらの炭素化合物ガスにキャリアガスとして水素ガス、不活性ガス等を混合したものを用いることができる。
成膜された炭素膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)であることが好ましい。DLCは、天然ダイヤモンドと同じ炭素のSP3結合とグラファイトと同じ炭素のSP2結合それに水素結合を含むアモルファス構造となっている。
DLC膜は、潤滑性が良好であり、また、他物品との摩擦により摩耗し難く、かつ、その厚さを調整することにより、該膜で被覆された基材が柔軟性を有するものである場合にも該基材本来の柔軟性を損なわない程度の適度な硬度を有するものにすることができる。また、撥水性、ガスバリア性及び電気絶縁性が良好である。さらに、前述のように比較的低温で形成できる等、成膜を容易に行うことができる。
また、前記炭素膜の膜厚は、基材上に密着性を良好に形成でき、さらに基材の保護膜として本発明の目的を十分機能できるとともに、基材が柔軟性を有するものである場合には、該基体本来の柔軟性を損なわない範囲内であればよい。具体的には0.3〜1.5μmの範囲が好ましい。
【0025】
本発明の流体輸送用チューブは、前述の(A)成分又はそれを含む組成物を用い、従来公知の方法、例えば、押出成形、射出成形、インフレーションなどによりチューブ状の成形体を作製し、該表面にプラズマCVD法などによって炭素膜を成膜することによって得ることができる。
また、チューブ状の基材に炭素膜を成膜させる場合はチューブの外側(外表面)にも、また内側(内表面)にも成膜することができるが、流体輸送用チューブ内での圧力変化が大きく、炭素膜が一部剥離し、流体内に流入する可能性がある場合には、チューブの外側に炭素膜を成膜することが好ましい。また、チューブに十分なガスバリア性を付与するとの観点からは、チューブの外側及び内側の両者に成膜することもできる。チューブ状の基材の外側に成膜させる場合は、例えば回転駆動手段にて基材を回転させ、基材の外表面にほぼ均一に成膜が行われるようにすることができる。またチューブ内に成膜する場合にはチューブ内にプラズマ発生源を挿入することで容易に成膜することができる。
【0026】
このようにして得られた本発明の流体輸送用チューブは、空気透過度[JIS K7126;A法(差圧法)、40℃に準拠]が、通常、200×10-5cm3/m2・24hr・Pa以下であり、優れたガスバリア性を有している。該空気透過度は、好ましくは100×10-5cm3/m3・24hr・Pa以下、より好ましくは5×10-5cm3/m2・24hr・Pa以下、更に好ましくは1×10-5cm3/m2・24hr・Pa以下である。
さらに、水蒸気透過度〔JIS Z0208;40℃、90%RHに準拠〕が、通常、2.0g/m2・24hr以下であり、水蒸気に対するバリア性にも優れている。該水蒸気透過度は、好ましくは1.5g/m2・24hr以下、より好ましくは1.2g/m2・24hr以下、更に好ましくは1.0g/m2・24hr以下である。
また、本発明の流体輸送用チューブの内径は、用途により適宜選択されるが、通常0.1〜3mm程度、好ましくは0.5〜2mmである。また、その肉厚は、内径にもよるが、通常0.1〜2mm程度、好ましくは0.5〜1.5mmである。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)耐屈曲性;表面を炭素膜で改質したチューブ(長さ約30cm)を繰り返し屈曲させた際の挙動にて評価した。評価は以下の基準で行った。
○ ; 炭素膜が剥離しなかった
△ ; わずかではあるが炭素膜が剥離した。
× ; 炭素膜が剥離した
(2)耐湿性;JIS Z0208に準じ、チューブについて40℃、90%RHの条件で測定した。
(3)耐ガス透過性;JIS K7126 A法(差圧法)40℃に準じ、チューブについて測定した。
【0028】
実施例1
スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体〔SIBS:(株)カネカ製「SIBSTAR073T」重量平均分子量Mw=約70,000、スチレンブロック含有量30質量%〕100質量部に対してポリプロピレン〔出光興産(株)製「H−700」〕5質量部を配合した配合物を用い、金型温度80℃、樹脂温度180℃の製造条件にて、第1表に示すチユーブを加熱プレス法によって、また、厚さ0.5mm×100mm×100mmのシートを押出成形によって作製した。チューブ外表面及び内表面に第1表に示す成膜条件で炭素膜を成膜した。なお、耐湿性、耐空気透過性についてはシートを用い、耐屈曲性についてはチューブを用いて測定した。結果を第1表に示す。
【0029】
比較例1
炭素膜を成膜しなかったこと以外は、実施例1と同様におこなった。耐湿性、耐空気透過性、耐屈曲性の測定結果を第1表に示す。
【0030】
比較例2
SIBSの替わりにスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体〔SBS:重量平均分子量Mw=約70000、スチレンブロック含有量30質量%〕を使用した以外は実施例1と同様におこなった。耐湿性、耐空気透過性、耐屈曲性の測定結果を第1表に示す。
【0031】
比較例3
炭素膜の替わりに金をスパッタリング(厚さ300nm)したこと以外は実施例1と同様におこなった。耐湿性、耐空気透過性、耐屈曲性の測定結果を第1表に示す。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の流体輸送用チューブは、炭素膜との密着性が高く、優れた耐湿性、ガスバリア性(耐空気透過性)、及び良好な屈曲性をもち、冷媒輸送用・ガス輸送用・化学薬品用・医療用・飲料輸送用、インク搬送用等の流体輸送用チューブなどの用途に好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ソフトセグメントの主鎖が飽和結合からなるポリスチレン系熱可塑性エラストマー又はそれを含む組成物からなる流体輸送用のチューブであって、その表面に改質処理を行い、該表面に炭素膜が成膜されていることを特徴とする流体輸送用チューブ。
【請求項2】
表面改質処理が、プラズマCVD法によるものである請求項1に記載の流体輸送用チューブ。
【請求項3】
(A)成分のポリスチレン系熱可塑性エラストマーを含む組成物が、該熱可塑性エラストマー100質量部に対して、ポリオレフィン樹脂0.1〜50質量部を配合した組成物である請求項1又は2に記載の流体輸送用チューブ。
【請求項4】
(A)成分のポリスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の流体輸送用チューブ。
【請求項5】
(A)成分のポリスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)である請求項4に記載の流体輸送用チューブ。
【請求項6】
(A)成分のポリスチレン系熱可塑性エラストマーの硬度が、JIS−A規格で80度以下である請求項1〜5のいずれかに記載の流体輸送用チューブ。
【請求項7】
炭素膜が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)よりなる膜である請求項1〜6のいずれかに記載の流体輸送用チューブ。
【請求項8】
炭素膜が流体輸送用チューブの外表面に成膜されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の流体輸送用チューブ。
【請求項9】
(A)ソフトセグメントの主鎖が飽和結合からなるポリスチレン系熱可塑性エラストマー又はこれを含む組成物からなる流体輸送用チューブの製造方法であってその表面に改質処理を行い、該表面に炭素膜を成膜することを特徴とする流体輸送用チューブの製造方法。
【請求項10】
表面改質処理が、プラズマCVD法によるものである請求項9に記載の流体輸送用チューブの製造方法。



【公開番号】特開2007−278358(P2007−278358A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103575(P2006−103575)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】