説明

流水式洗浄方法及び流水式洗浄装置

【課題】基板の表面に付着した塵埃などを効率良く除去すると共に、洗浄後にこれらが基板の表面に再付着することを防止した流水式洗浄方法及び流水式洗浄装置を提供する。
【解決手段】洗浄槽2内で洗浄液Lを横方向に流し、この洗浄液Lに被洗浄物Wを浸漬させた状態で、洗浄液Lに超音波振動を印加しながら、被洗浄物Wの洗浄を行う流水式洗浄方法であって、洗浄槽2に洗浄液Lを供給する複数の供給口3と、洗浄槽2から洗浄液Lを排出する複数の排出口5とのうち、何れかの供給口3及び/又は排出口5を流れる洗浄液Lの流量を調整することによって、洗浄槽2内の洗浄液Lが層流の状態で流れるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被洗浄物として、例えば磁気記録媒体用基板や磁気記録媒体、磁気記録媒体の製造装置に用いられる部品、スパッタ装置のシールド板などの洗浄を行う際に好適に用いられる流水式洗浄方法及び流水式洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハードディスクドライブなどに用いられる磁気記録媒体用の基板には、中心孔が形成された円盤状のアルミニウム基板やガラス基板などが用いられている。このような磁気記録媒体用基板は、表面に研磨加工などの様々な表面処理工程を経て作製されるため、表面処理工程等の後には、基板の表面に付着した塵埃などを除去する基板洗浄工程が行われている。
【0003】
また、磁気記録媒体の更なる高記録密度化が要求に伴って、磁気記録媒体の高い平坦度が求められる一方で、磁気記録媒体用基板の表面に付着した塵埃などを除去する以外にも、磁気記録媒体の製造装置に用いられる部品やスパッタ装置のシールド板などに付着した塵埃などを除去するための高度な洗浄技術が求められている。さらに、最近では、磁気記録媒体用基板への成膜プロセスにおいて、基板表面に対して湿式の洗浄工程を設ける場合がある。
【0004】
このような磁気記録媒体用基板等の洗浄装置としては、例えば、磁気ディスク基板などをワークとし、この表面に研磨加工などの表面処理を行った後、ワークの表面に付着している異物などを除去するために、複数の洗浄槽を用いてワークをコンベアにより順次複数の洗浄槽に搬送しながら、各洗浄槽にて液体を用いて洗浄する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、この特許文献1に記載される洗浄装置では、洗浄槽に回転ブラシやシャワーなどを複数設け、基板の1枚1枚に洗浄液を供給しながら、回転ブラシを用いてスクラブ洗浄することになるが、回転ブラシが基板の表面に接触する構成のため、この基板表面に擦傷痕が生じてしまう虞がある。
【0006】
このため、回転ブラシを用いない洗浄方法として、例えば、洗浄槽の底部から洗浄液を供給し、この洗浄液を洗浄槽の上部からオーバーフローさせながら、洗浄槽内の洗浄液に基板を保持したホルダを浸漬させて基板の洗浄を行う方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、洗浄槽の下方から上方に向かって洗浄液を流す洗浄方法では、基板の表面から剥離した塵埃等を含む汚染物質が洗浄槽の上部から洗浄液と共に排出されずに一部が洗浄槽内に滞留してしまうことがあり、この洗浄槽内に洗浄液の淀みを生じさせることがあった。この場合、ホルダを洗浄槽から引き上げる際に、洗浄液内に滞留した汚染物質が基板の表面に再付着することがある。
【0008】
一方、洗浄槽内に洗浄液を層流の状態で横方向に流しながら、この洗浄槽内の洗浄液に基板を保持したホルダを浸漬させることによって、基板の洗浄を行う流水式洗浄装置が提案されている(例えば、特許文献2などを参照。)。
【0009】
このような洗浄液を層流の状態で横方向に流す洗浄方法では、汚染物質を含む洗浄液を浸漬槽の外へと速やかに排出することができるため、基板の表面に汚染物質が再付着することを防止することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−96245号公報
【特許文献2】特開平9−206708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述した特許文献2に記載された流水式洗浄装置では、被洗浄物から剥離した汚染物質が洗浄液の乱流に乗って被洗浄物に再付着することを防止するため、多孔状の整流板を流路内に設置し、この整流板を通すことによって洗浄液の流れを乱れのない一様な流れ(層流)となるように洗浄液の流れを調整している。
【0012】
しかしながら、このような流水式洗浄装置において、洗浄槽内を流れる洗浄液が層流となるのは、この洗浄槽内に被洗浄物を浸漬しない場合である。一方、洗浄槽内に被洗浄物を浸漬した場合は、この洗浄槽内を流れる洗浄液が被洗浄物に乱されて乱流となり、この乱流によって被洗浄物に対する洗浄能力が低下してしまうことがあった。
【0013】
また、流水式洗浄装置の洗浄能力を高めるため、洗浄槽内に超音波振動を印加する場合がある。しかしながら、この超音波振動により洗浄槽内の層流が乱されることがある。
【0014】
さらに、上記特許文献2に記載された流水式洗浄装置では、使用済みの洗浄液をリザーバータンクに蓄積し、この蓄積した洗浄液を循環使用する構造を有する。しかしながら、このような構造の場合、洗浄液が大気に触れ易くなり、洗浄液に気泡が入り込んで、この気泡が被洗浄物の表面に吸着して洗浄能力が低下してしまうことがある。
【0015】
そこで、本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、被洗浄物の表面に付着した塵埃などを効率良く除去すると共に、洗浄後にこれらが被洗浄物の表面に再付着することを防止した流水式洗浄方法及び流水式洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、洗浄槽内で洗浄液を層流の状態で横方向に流し、この洗浄液に被洗浄物を浸漬させた状態で、洗浄液に超音波振動を印加しながら、被洗浄物の洗浄を行う際に、洗浄液に印加した超音波振動や、洗浄槽内に浸漬した被洗浄物により乱流が発生し、この乱流によって洗浄槽内の特に上層において、被洗浄物の表面から離脱した塵埃や異物などの汚染物質が滞留し、この滞留した汚染物質が被洗浄物に再付着することで、被洗浄物に対する洗浄能力が低下することを解明した。
【0017】
そこで、本発明者は、この洗浄槽に洗浄液を供給する複数の供給口と、この洗浄槽から洗浄液を排出する複数の排出口とのうち、何れかの供給口及び/又は排出口を流れる洗浄液の流量を調整することによって、洗浄槽内の洗浄液を層流の状態で安定して流せること、また、このような洗浄方法を採用することにより、洗浄液と大気との接触が減り、洗浄液への気泡の混入が減少すること、特に、洗浄槽に超音波振動を印加すると、水面の変位により乱流が生ずるが、この乱流を乱れのない一様な流れ(層流)にすることが可能であること、さらに、層流を安定させるため、従来では洗浄槽内の被洗浄物と洗浄槽の内面との間に空間を設けることが好ましいとされていたが、洗浄槽内での被洗浄物の有無による水流抵抗の差で乱流が生じ易くなるため、むしろ被洗浄物を洗浄槽内に密に配置した方が好ましいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 洗浄槽内で洗浄液を横方向に流し、この洗浄液に被洗浄物を浸漬させた状態で、洗浄液に超音波振動を印加しながら、被洗浄物の洗浄を行う流水式洗浄方法であって、
前記洗浄槽に洗浄液を供給する複数の供給口と、前記洗浄槽から洗浄液を排出する複数の排出口とのうち、何れかの供給口及び/又は排出口を流れる洗浄液の流量を調整することによって、前記洗浄槽内の洗浄液が層流の状態で流れるようにすることを特徴とする流水式洗浄方法。
(2) 前記洗浄槽の底面側から超音波振動を印加することを特徴とする前項(1)に記載の流水式洗浄方法。
(3) 前記被洗浄物として、ホルダに保持された基板の洗浄を行う際に、この基板の主面が前記洗浄液の流れる方向と平行となるように前記ホルダを前記浸漬槽内に配置することを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の流水式洗浄方法。
(4) 前記ホルダに互いに平行な状態で複数並んで保持された基板に対して洗浄を行うと共に、前記ホルダに保持された複数の基板の間隔を、その間を流れる洗浄液の流水抵抗が増加する範囲まで密とすることを特徴とする前項(3)に記載の流水式洗浄方法。
(5)
前記洗浄槽の内面と前記基板との最短距離を当該基板の直径の1倍以下とすることを特徴とする前項(3)又は(4)に記載の流水式洗浄方法。
(6)
前記基板として、磁気記録媒体用基板又は磁気記録媒体を洗浄することを特徴とする前項(1)〜(5)の何れか一項に記載の流水式洗浄方法。
(7) 前記洗浄液を循環的に再使用することを特徴とする前項(1)〜(6)の何れか一項に記載の流水式洗浄方法。
(8) 被洗浄物の洗浄を行う洗浄槽と、
前記洗浄槽に洗浄液を供給する複数の供給口と、
前記洗浄槽から洗浄液を排出する複数の排出口と、
前記洗浄槽内の洗浄液に超音波振動を印加する振動発生手段とを備え、
前記洗浄槽内で洗浄液を横方向に流し、この洗浄液に被洗浄物を浸漬させた状態で、洗浄液に超音波振動を印加しながら、被洗浄物の洗浄を行う流水式洗浄装置であって、
前記何れかの供給口及び/又は排出口を流れる洗浄液の流量を調整する流量調整手段を備えることを特徴とする流水式洗浄装置。
(9) 前記振動発生手段が、前記洗浄槽の底面側に配置されていることを特徴とする前項(8)に記載の流水式洗浄装置。
(10) 前記洗浄液を循環させる機構を備えることを特徴とする前項(8)又は(9)に記載の流水式洗浄装置。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、被洗浄物の表面に付着した塵埃や異物などの汚染物質を効率良く除去すると共に、洗浄後にこれらの汚染物質が被洗浄物の表面に再付着するといったこと防止した洗浄能力の高い流水式洗浄方法及び流水式洗浄装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明を適用した流水式洗浄装置の構成を示す平面図である。
【図2】図2は、本発明を適用した流水式洗浄装置の構成を示す断面図である。
【図3】図3は、洗浄槽内に発生する乱流を説明するための断面図である。
【図4】図4は、洗浄槽内に発生する乱流を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した流水式洗浄方法及び流水式洗浄装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各部の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0022】
本実施形態では、例えば図1及び図2に示すような本発明を適用した流水式洗浄装置1を用いて、ハードディスクドライブに搭載される磁気記録媒体用の基板(被洗浄物)Wを洗浄する場合を例に挙げて説明する。
【0023】
なお、基板Wを洗浄する洗浄液Lとしては、基本的に純水が使用されるが、それ以外にも化学的な処理等が施された処理水などを使用することができる。具体的に、洗浄液Lとしては、例えば、純水や超純水の他に、イソプロピルアルコール等の有機溶剤、界面活性剤を含む薬液洗剤、アノード水、カソード水、純水で低濃度に希釈した酸性溶液やアルカリ性溶液、オゾン水や水素水などを挙げることができる。そして、これらの洗浄液Lは、洗浄対象となる基板(被洗浄物)Wに応じて適宜選択して使用することが可能である。
【0024】
本発明を適用した流水式洗浄装置1は、図1及び図2に示すように、基板Wを保持したホルダ50を洗浄液Lに浸漬させて基板Wの洗浄を行う洗浄槽2を備えている。
【0025】
ホルダ50には、中心孔が形成された円盤状の基板Wが互いに平行な状態で複数並んで保持されている。また、各基板Wは、ホルダ50に設けられた一対の支持プレート51a,51bによって、その中心孔を通る鉛直方向の中心線を挟んだ両側の外周部が支持されている。なお、これら一対の支持プレート51a,51bには、各基板Wの外周部が係合されるV字状の溝部(図示せず。)が設けられている。
【0026】
各基板Wは、これら一対の支持プレート51a,51bに支持されることによって、縦置き状態(基板Wの主面が鉛直方向と平行となる状態)でホルダ50に保持されている。そして、このホルダ50は、各基板Wの主面が洗浄液Lの流れる方向と平行となるようにして、洗浄槽2の底面上に配置されている。なお、本例では、直径3.5インチの基板Wを約5mm間隔で1列に50枚程度並べてホルダ50に保持している。
【0027】
洗浄槽2は、長方形を為す底壁2aと、底壁2aの周囲から立ち上がる4つの側壁2b,2c,2d,2eと、底壁2aと対向する上面の開口部2fとを有して、全体が略直方体状に形成されると共に、その内側に上記ホルダ50が浸漬される略直方体状の浸漬空間Sを形成している。
【0028】
また、洗浄槽2の上流側の側壁2bには、洗浄液Lを供給する複数の供給口3が設けられている。これら複数の供給口3は、側壁2bの幅方向と高さ方向とに所定の間隔で並んで配置されている。また、各供給口3には、流量調整バルブ(流量調整手段)4が接続されており、この流量調整バルブ4の開度を調整することによって、各供給口3から供給される洗浄液Lの流量を個別に調整することが可能となっている。
【0029】
また、洗浄槽2の下流側の側壁2dには、洗浄液Lを排出する複数の排出口5が設けられている。これら複数の排出口5は、側壁2dの幅方向と高さ方向とに所定の間隔で並んで配置されている。また、各排出口5には、流量調整バルブ(流量調整手段)6が接続されており、この流量調整バルブ6の開度を調整することによって、各供給口3から排出される洗浄液Lの流量を個別に調整することが可能となっている。
【0030】
なお、本実施形態において、上記供給口3と上記排出口5とは、それぞれ側壁2b,2dの相対向する位置に、幅方向に5cm間隔で7列、高さ方向に5cm間隔で6列並んで計42つ配置されているが、これら供給口3及び排出口5の配置や数、間隔等については、適宜変更して実施することが可能である。
【0031】
また、洗浄槽2の底壁2aには、基板Wに対する洗浄能力を高めるため、浸漬空間S2内の洗浄液Lに超音波振動を印加する超音波発振器(超音波発生手段)7が設けられている。この超音波発振器7は、洗浄槽2の底壁2a側から洗浄槽2の洗浄液Lに対して、例えば200kHzで500W程度の超音波振動を印加する。
【0032】
さらに、この流水式洗浄装置1には、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lを循環的に再使用するための機構として、排出口5から排出された洗浄液Lを吸引し、再び供給口3に圧送するポンプ8と、このポンプ8により圧送された洗浄液Lを浄化するフィルタ9とが設けられている。
【0033】
本発明を適用した流水式洗浄方法は、以上のような構造を有する流水式洗浄装置1を用いて、ホルダ50に保持された複数の基板Wに対する洗浄を行う。具体的に、この流水式洗浄装置1を用いた流水式洗浄方法では、洗浄槽2の浸漬空間S内で洗浄液Lを層流の状態で横方向(水平方向)に流し、洗浄液Lに超音波振動を印加しながら、この浸漬空間S内の洗浄液Lに複数の基板Wを保持したホルダ50を浸漬させる。
【0034】
このとき、洗浄槽2内では、ホルダ50に保持された各基板Wの主面が洗浄液Lの流れる方向と平行とされて、これら各基板Wの間を層流状態の洗浄液Lが流れることになる。これにより、各基板Wの表面が洗浄液Lにより洗浄されて、これら各基板Wの表面に付着した塵埃や異物などの汚染物質が除去される。
【0035】
ところで、洗浄槽2の底面側から超音波振動を印加した場合には、洗浄槽2内の洗浄液Lの液面が盛り上がり、これによって洗浄槽2内を流れる洗浄液Lが乱流となり、基板Wに対する洗浄能力が低下することが本発明者の解析によって明らかになった。
【0036】
具体的に、本発明者の解析によると、超音波振動を印加しない状態で洗浄槽槽2内に洗浄液Lを層流の状態で流し、その後、超音波振動を印加した場合、洗浄液Lの流れは、図3中の矢印の方向で示すように、洗浄槽2の底面側から超音波振動を印加することによって、洗浄槽2内の洗浄液Lの液面が盛り上がり、この盛り上がった洗浄液Lが四方に分散するものの、この洗浄液Lの流れに層流が加わるため、洗浄槽2内に複雑な流れ(乱流)が生じることになる。さらに、図4に示すように、洗浄槽2内に基板Wを浸漬した場合には、この洗浄槽2内を流れる洗浄液Lが基板Wに乱されて乱流となり、この乱流によって基板Wに対する洗浄能力が低下することになる。
【0037】
なお、図3は、洗浄槽2を側面側から見たときに、洗浄槽2内に超音波振動を加えた場合の洗浄液Lの流れを表したものである。一方、図4は、洗浄槽2を上面側から見たときに、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lのうち、上層の流れを破線で表し、中層の流れを一点鎖線で表し、下層の流れを二点鎖線で表したものである。
【0038】
そこで、本発明では、図1及び図2に示すように、上述した流量調整バルブ4,6を制御しながら、何れかの供給口3及び/又は排出口5を流れる洗浄液Lの流量を調整し、洗浄液Lの流れを乱れのない一様な流れ(層流)となるように、洗浄槽2内における洗浄液Lの流れを調整する。
【0039】
これにより、洗浄槽2内の洗浄液Lを乱流の状態から層流の状態で流すことが可能である。特に、本発明では、洗浄液Lの供給口3からの供給に加え、洗浄液Lの排出口5からの排出も、流量調整バルブ4,6によって流量の制御を行うため、洗浄槽2内の層流の形成をより高い制御性で行うことが可能であり、層流が超音波振動や被洗浄物Wの配置によって乱されることを防ぐことが可能である。
【0040】
また、本発明では、上記流水式洗浄装置1のように、洗浄槽2内に流れる洗浄液Lを循環的に再使用することが好ましい。これより、洗浄槽2に供給される洗浄液Lと、洗浄槽2から排出される洗浄液Lとを量的にバランスさせることが容易となり、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lを層流の状態でより安定して流すことが可能となる。
【0041】
なお、上記流水式洗浄装置1の場合、洗浄槽2の開口部2fからの洗浄液Lの蒸発等により、洗浄液Lが僅かに減少するため、その減少した量の洗浄液Lを適宜補充することが好ましい。また、上記流水式洗浄装置1では、洗浄液Lと空気との接触によって洗浄液L中に気泡が混入することを防ぐため、洗浄槽2の開口部2fに蓋を設けることも可能である。
【0042】
また、本発明では、上述したホルダ50に互いに平行な状態で複数並んで保持された基板Wに対して洗浄を行う際に、このホルダ50に保持された複数の基板Wの間隔を、その間を流れる洗浄液Lの流水抵抗が増加する範囲まで密とすることが好ましい。
【0043】
例えば、洗浄液Lとして純水を用い、基板Wとして、直径3.5インチ、板厚1.27mmの円盤状の磁気記録媒体用基板を洗浄する場合には、基板面の間隔が10mm以下となるあたりから、洗浄液の流水抵抗が顕著に増加し始める。
【0044】
一方、従来の流水式洗浄方法では、洗浄槽2内を流れる洗浄液の層流を安定化させるため、洗浄槽2内に配置する被洗浄物を、各々の間隔を空けて疎に配置し、また洗浄槽内に配置された被洗浄物の周辺に空間を設けることが一般的であった。これは、洗浄槽内での被洗浄物の有無による水流抵抗分布を減らし、洗浄槽内を流れる洗浄液Lの層流を安定化させるためである。
【0045】
これに対して、本発明の流水式洗浄方法では、基板(被洗浄物)Wを洗浄槽2内に密に配置することによって、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lの水流抵抗を高め、且つその状態を均一化する。これにより、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lの層流を安定化させると共に、この洗浄槽2による洗浄能力を高めることが可能である。
【0046】
また、本発明では、洗浄槽2の内面と基板Wとの最短距離を当該基板Wの直径の1倍以下とすることが好ましい。特に、本発明では、被洗浄物として、円盤状を為す磁気記録媒体用の基板Wを洗浄する場合に、この基板Wの主面が洗浄液Lの流れる方向と平行となるように基板Wを洗浄槽2内に配置し、この洗浄槽2の内面と基板Wとの最短距離を当該基板Wの直径の1倍以下とすることで、基板Wを高精度に効率良く洗浄することが可能となる。
【0047】
以上のようにして、本発明では、基板の表面に付着した塵埃などを効率良く除去すると共に、洗浄後にこれらが基板の表面に再付着することを防止した高度な基板洗浄を行うことが可能である。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0049】
例えば、上記ホルダ50は、一対の支持プレート51a,51bにより各基板Wの外周部を2点で支持する構成となっているが、このような構成に限らず、各基板Wを支持する外周部の位置や点数などについては、適宜変更して実施することが可能であり、例えば各基板Wの外周部を3点で支持したり、4点で支持したりすることが可能である。
【0050】
また、各基板Wの外周部を支持する部材についても、上記支持プレート51a,51bのようなものに限定されるものではなく、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lの流れを乱さないものであれば、その形状等については適宜変更して実施することが可能である。
【0051】
また、本発明は、上述した磁気記録媒体用の基板Wについて、表面処理工程等の後に表面に付着した塵埃や異物などを除去する工程とは別に、例えば磁性膜等を成膜した後や、潤滑剤を塗布する前の磁気記録媒体の洗浄にも適用することが可能である。
【0052】
さらに、本発明は、上述した磁気記録媒体用の基板Wを洗浄する場合に限らず、平板状の被洗浄物を洗浄する場合に好適に用いることが可能であるが、上記流水式洗浄装置1を用いて洗浄可能なものであれば、被洗浄物については特に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0054】
[第1の実施例]
第1の実施例では、上記図3に示すように、洗浄槽2の底面側から超音波振動を印加することによって、洗浄槽2内に複雑な流れ(乱流)が生じた場合に、実際に流量調整バルブ4,6によって供給口3及び排出口5を流れる洗浄液Lの流量を調整し、洗浄槽2内における洗浄液Lの流れを層流とする試験を行った。
【0055】
具体的には、長さ40cm、幅40cm、深さ35cmのSUS304製の洗浄槽2を用い、この洗浄槽2の側壁2b,2dには、それぞれ直径15mmの供給口3及び排出口5が相対向しながら、高さ方向に55mm間隔で3つ並ぶ列と、高さ方向に60mm間隔で2つ並ぶ列とが、幅方向に145mm間隔で交互に9列、計23(=3×5+2×4)つが千鳥状に並んで配置されて、各々に流量調整バルブ4,6が接続されている。また、洗浄槽2の底面の外側には、周波数950kHz、出力600Wの超音波発信器7が配置されている。フィルタ9には、0.5ミクロンフィルタを1段で使用し、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lを循環的に再使用した。また、洗浄液Lには、純水を使用し、水温を23±3℃とした。
【0056】
そして、洗浄槽2内で洗浄液Lを層流の状態で横方向に流し、この洗浄液Lに超音波振動を印加しながら、供給口3及び排出口5からは40リットル/分で洗浄液Lが流れるように、各流量調整バルブ4,6の調整を行った。
【0057】
ここで、洗浄槽2の下流側の側壁2dからは、オーバーフローによって5リットル/分の洗浄液Lが循環されずに廃棄される。なお、このとき洗浄槽2内を流れる洗浄液Lの流速は約14mm/秒であった。これに合わせて、上部の排出口5から排出される洗浄液Lの流量を20リットル/分とし、上部の供給口3からは5リットル/分の洗浄液Lが新たに供給されるように、それぞれの流量調整バルブ4,6の調整を行った。
【0058】
これにより、上述した洗浄槽2内の洗浄液Lの液面が盛り上がることによる逆流を防ぐことができた。すなわち、洗浄槽2の上部に発生した乱流を、洗浄槽2の上部に設けられた供給口3からの洗浄液Lの供給、並びに排出口5からの洗浄液Lの排出を調整することによって、効率的に緩和できることを確認した。
【0059】
[第2の実施例]
第2の実施例では、上記図1,2に示す流水式洗浄装置1を用いて、実際に基板Wの洗浄を行った。
具体的には、長さ40cm、幅40cm、深さ35cmのSUS304製の洗浄槽2を用い、この洗浄槽2の側壁2b,2dには、それぞれ直径15mmの供給口3及び排出口5が相対向しながら、幅方向に5cm間隔で7列、高さ方向に5cm間隔で6列、計42(=7×6)つが格子状に並んで配置されて、各々に流量調整バルブ4,6が接続されている。また、洗浄槽2の底面の外側には、周波数950kHz、出力600Wの超音波発信器7が配置されている。フィルタ9には、0.5ミクロンフィルタを1段で使用し、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lを循環的に再使用した。
【0060】
また、被洗浄物Wとして、1ミクロンから50ミクロンの粉体が付着した洗浄力評価用のテストピース(外径50mm、厚み3mmの円盤状の基板)を用意し、これを10mm間隔で主面と直交する方向に1列当たり39枚として5列(計395枚)並べてホルダ50に保持した後、このホルダ50を各基板Wの主面が洗浄液Lの流れる方向と平行となるように洗浄槽2の底面上に配置した。そして、洗浄槽2内の洗浄液Lにホルダ50を浸漬させた状態で、洗浄液Lを層流の状態で横方向に流し、この洗浄液Lに超音波振動を印加しながら、10分間の洗浄を行った。また、洗浄液Lには、純水を使用し、水温を23±3℃とした。
【0061】
(実施例1)
実施例1では、洗浄槽2内を層流の状態で流れる洗浄液Lの平均流速(被洗浄物を浸漬し、超音波振動を印加した状態での流速)が3m/分となるように、各供給口3及び排出口5に接続された流量調整バルブ4,6の開度を調整しながら、各供給口3及び排出口5を流れる洗浄液Lの流量を調整した。
【0062】
具体的に、実施例1では、表1に示すように、各供給口3及び排出口5に接続された流量調整バルブ4,6の開度を調整した。なお、表1は、上流側及び下流側の側壁2b,2dをそれぞれ洗浄槽2の内側から見たときに、幅方向及び高さ方向に並ぶ42つの供給口3及び排出口5側のバルブ開度(%)を示したものである(以下に示す表2についても同様。)。
【0063】
【表1】

【0064】
(比較例1)
比較例1では、表2に示すように、供給口3及び排出口5側のバルブ開度の調整を行わなかった以外は、実施例1と同様にテストピースWの洗浄を行った。
【0065】
【表2】

【0066】
そして、これら実施例1及び比較例1について、洗浄後にテストピースWに残存する粉体の割合を評価した。その結果、比較例1では、粉体の平均除去率が約96.5%であった。これに対して、実施例1では、粉体の平均除去率が約99.7%であり、比較例1の場合よりも洗浄能力に優れていることがわかった。
【符号の説明】
【0067】
1…流水式洗浄装置 2…洗浄槽 3…供給口 4…流量調整バルブ(流量調整手段) 5…排出口 6…流量調整バルブ(流量調整手段) 7…超音波発振器(振動発生手段) 8…ポンプ 9…フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽内で洗浄液を横方向に流し、この洗浄液に被洗浄物を浸漬させた状態で、洗浄液に超音波振動を印加しながら、被洗浄物の洗浄を行う流水式洗浄方法であって、
前記洗浄槽に洗浄液を供給する複数の供給口と、前記洗浄槽から洗浄液を排出する複数の排出口とのうち、何れかの供給口及び/又は排出口を流れる洗浄液の流量を調整することによって、前記洗浄槽内の洗浄液が層流の状態で流れるようにすることを特徴とする流水式洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄槽の底面側から超音波振動を印加することを特徴とする請求項1に記載の流水式洗浄方法。
【請求項3】
前記被洗浄物として、ホルダに保持された基板の洗浄を行う際に、この基板の主面が前記洗浄液の流れる方向と平行となるように前記ホルダを前記浸漬槽内に配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の流水式洗浄方法。
【請求項4】
前記ホルダに互いに平行な状態で複数並んで保持された基板に対して洗浄を行うと共に、前記ホルダに保持された複数の基板の間隔を、その間を流れる洗浄液の流水抵抗が増加する範囲まで密とすることを特徴とする請求項3に記載の流水式洗浄方法。
【請求項5】
前記洗浄槽の内面と前記基板との最短距離を当該基板の直径の1倍以下とすることを特徴とする請求項3又は4に記載の流水式洗浄方法。
【請求項6】
前記基板として、磁気記録媒体用基板又は磁気記録媒体を洗浄することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の流水式洗浄方法。
【請求項7】
前記洗浄液を循環的に再使用することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の流水式洗浄方法。
【請求項8】
被洗浄物の洗浄を行う洗浄槽と、
前記洗浄槽に洗浄液を供給する複数の供給口と、
前記洗浄槽から洗浄液を排出する複数の排出口と、
前記洗浄槽内の洗浄液に超音波振動を印加する振動発生手段とを備え、
前記洗浄槽内で洗浄液を横方向に流し、この洗浄液に被洗浄物を浸漬させた状態で、洗浄液に超音波振動を印加しながら、被洗浄物の洗浄を行う流水式洗浄装置であって、
前記何れかの供給口及び/又は排出口を流れる洗浄液の流量を調整する流量調整手段を備えることを特徴とする流水式洗浄装置。
【請求項9】
前記振動発生手段が、前記洗浄槽の底面側に配置されていることを特徴とする請求項8に記載の流水式洗浄装置。
【請求項10】
前記洗浄液を循環させる機構を備えることを特徴とする請求項8又は9に記載の流水式洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−267340(P2010−267340A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119003(P2009−119003)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】