説明

流路開閉用の負荷体駆動装置

【課題】この流路開閉用の負荷体駆動装置は,非常時に自重降下レバーを手動で作動してシフタの揺動させ,ブレーキを解放し,負荷体を自重で降下させて流路を閉鎖する。
【解決手段】この負荷体駆動装置は,モータ1又は手動ハンドル7の回転を動力伝達装置14を介して負荷体20の上下移動として伝達し,流路を負荷体20で開閉する。自重降下レバー2で回転するクラッチシャフト11にカム突起51を設け,シフタ12の揺動支点8に緩衝用皿ばね30を配設する。非常時に自重降下レバー2を作動してカム突起17を介してシフタ12を揺動させ,アーマチュア45とブレーキディスク44とを離間させ,無励磁作動保持ブレーキ3のブレーキを解放し,負荷体20を自重降下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,水門,扉体,ゲート,バルブ等の負荷体を往復移動させ,水路,浄水場等の流路を負荷体で開閉する流路開閉用の負荷体駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,アクチュエータは,図8に示すように,水路,浄水場等の流路に建造された土台等のベース26にスタンド15を設置し,スタンド15で支持されたピンラック10に流路を開閉するゲート,水門,扉体,バルブ等の負荷体20を取り付け,ピンラック10に長手方向に沿って設けたラックピン16に噛み合うラックギヤ9をモータや手動ハンドルで回転駆動し,負荷体20を流路に対して上下方向に往復移動させて流路を開閉するものである。
【0003】
従来,左右に戸当たりを立設し,戸当たりの内側面に形成した案内溝に沿って昇降する扉体を設けた制水扉装置が知られている。該制水扉装置は,戸当たりの案内溝に上下方向に雄ねじ部を立設し,雄ねじ部の上部に接続して雄ねじ部を回転させるサーボモータを設けている。戸当たり内に位置する扉体の側部に雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を形成し,雄ねじ部と雌ねじ部との螺合によって扉体を昇降させるものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,主管路を流れる流体の流量調整を自動化し,これを短時間で行うことのできる流量調整バルブは知られている。該流量調整バルブは,流体を通過させる主管路に連通可能な穴を形成したバルブボディと,該バルブボディの穴の開度を調整可能な開度調節部材と,該開度調節部材を作動させるACサーボモータとを備えている(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,流路開閉用の負荷体駆動装置として,無励磁作動保持ブレーキを用いたものが知られている。該流路開閉用の負荷体駆動装置は,ゲート等の負荷体を往復移動させて流路を開閉するものであり,コンパクトで,安全性,信頼性に富んだ構造に構成されている。上記負荷体駆動装置は,ピンラックに設けた負荷体を往復移動させるモータ,回転を負荷体の往復移動に変換伝達する動力伝達装置を有する。動力伝達装置は,モータで回転する伝動軸に設けた無励磁作動保持ブレーキ,ウォームギヤを介して手動ハンドルが連結され且つ伝動軸に連結した一次減速機,一次減速機に連結した二次減速機に設けたピニオン軸,及びピニオン軸のピニオンに噛み合うラックピンを備えたピンラックから構成されている(例えば,特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平8−128027号公報
【特許文献2】特開2000−146002号公報
【特許文献3】特開2007−40067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,上記流路開閉用の負荷体駆動装置は,動力伝達装置に無励磁作動保持ブレーキを組み込んでおり,緊急時に自重降下レバーを手動で操作して,無励磁作動保持ブレーキを強制的に解放して自重で負荷体を降下させるタイプであり,このような動力伝達装置では,無励磁作動保持ブレーキとアーマチュアのストロークが極端に狭いため,自重降下レバーを操作してシフタを動かした時,自重降下レバーの回転領域の回転終端にストッパを設けていたとしてもアーマチュアと無励磁作動保持ブレーキとが接触し,自重降下レバーの負荷即ち操作力がシフタに作用し,シフタやシフタ関連部品の変形や破損に至る可能性があった。
【0007】
この発明の目的は,上記の問題を解決するために,例えば,水門,扉体,バルブ,ゲート等の負荷体を駆動するため,サーボモータ等のモータ駆動軸や手動ハンドルの駆動力を最終段の出力軸に伝達する動力伝達装置に,少なくとも負荷体を所定の位置に保持する無励磁作動保持ブレーキ,差動歯車減速機及び自重降下レバーを設け,緊急時に自重降下レバーの操作で回転するクラッチシャフトにカム突起を設け,カム突起を回動させることによってシフタを揺動させ,シフタの揺動で無励磁作動保持ブレーキのアーマチュアとブレーキディスクとを離間させてブレーキを解放し,自重で負荷体を降下させて負荷体で流路を閉鎖させることであり,特に,シフタ及びシフタ関連部品の変形や損傷を避けるため,シフタの支点間に緩衝用皿ばね等のばねを介在させ,自重降下レバーの負荷即ち操作力を上記ばねで吸収し,ブレーキ解放機構の強度をアップすると共に自重降下レバーの操作を簡単な構造でスムーズに且つ的確に達成する流路開閉用の負荷体駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は,流路を開閉するゲート,水門,バルブ等の負荷体,前記負荷体を往復移動させて前記流路を開閉するため回転駆動されるモータと手動で回転される手動ハンドル,及び前記モータ又は前記手動ハンドルの回転を前記負荷体の往復移動に変換伝達する動力伝達装置を有し,前記動力伝達装置には,前記負荷体を所定の位置に保持する無励磁作動保持ブレーキ及び非常時に前記無励磁作動保持ブレーキを解放して前記負荷体を自重降下させる自重降下レバーを備えたブレーキ解放機構が設けられていることから成る流路開閉用の負荷体駆動装置において,
前記ブレーキ解放機構は,前記自重降下レバーの作動で回転するクラッチシャフト,及び一方の端部が前記クラッチシャフトに当接し且つ前記無励磁作動保持ブレーキのアーマチュアとブレーキディスクとを接離させるシフタを有し,前記シフタは前記クラッチシャフトに設けたカム突起に係合して前記クラッチシャフトの回転によって揺動して前記アーマチュアと前記ブレーキディスクとを離間させて前記無励磁作動保持ブレーキを解放することを特徴とする流路開閉用の負荷体駆動装置に関する。
【0009】
また,前記シフタは,前記クラッチシャフトを挟んで対向して配設され,前記シフタの他方の端部におけるシフタ揺動の支点間には,前記シフタの揺動運動を緩衝するための緩衝用ばねが介在されている。
【0010】
この流路開閉用の負荷体駆動装置において,前記シフタは,環状のプレートから構成され,前記プレートの中間縁部には一対のシフタピンが設けられ,前記シフタピンが前記無励磁作動保持ブレーキの前記アーマチュアに接して前記アーマチュアを前記ブレーキディスクから離間させるものである。
【0011】
また,前記カム突起は,前記シフタの前記一方の端部内側に対向して前記クラッチシャフトの外周面に一対設けられ,前記クラッチシャフトの回転に応じて,前記緩衝用ばねを支点として前記シフタを揺動させて前記アーマチュアと前記ブレーキディスクとを離間させるものである。
【0012】
また,前記緩衝用ばねは,複数枚重ねられた皿ばねから構成され,前記シフタの前記他方の端部のねじ孔に螺入された調整用ボルトによってばね力が調整される。
【0013】
また,この流路開閉用の負荷体駆動装置は,前記クラッチシャフトを支持するブラケットには,前記自重降下レバーの回転範囲を規制する調整可能なストッパが設けられているものである。
【0014】
また,この流路開閉用の負荷体駆動装置は,前記クラッチシャフトには,前記自重降下レバーの回転を元に戻すリターンスプリングが設けられている。
【0015】
また,前記動力伝達装置は,前記モータのモータ出力軸に連結された伝動軸,前記伝動軸に前記無励磁作動保持ブレーキを介して第1入力軸が連結された一次減速機,前記一次減速機の第1出力軸に第2入力軸が連結された二次減速機,前記手動ハンドルを前記一次減速機のケースを介して前記第1出力軸に連結するウォームギヤ,前記二次減速機の第2出力軸と一体に構成された第3出力軸,及び前記第3出力軸からの出力によって駆動され且つ前記負荷体が取り付けられた負荷体支持手段から構成されているものである。更に,前記一次減速機と前記二次減速機は,差動歯車減速機で構成されているものである。
【発明の効果】
【0016】
この流路開閉用の負荷体駆動装置は,上記のように構成されているので,緊急時に自重降下レバーの操作によってクラッチシャフトを回転させ,クラッチシャフトに設けたカム突起がシフタの一端部に作用してシフタを他端部の支点を中心に揺動させ,シフタが無励磁作動保持ブレーキのアーマチュアに作用し,アーマチュアをブレーキディスクからスムーズに且つ的確に離間させ,無励磁作動保持ブレーキのブレーキ状態が解放され,負荷体が自重で降下することができる。また,シフタの支点には,緩衝用ばねを介在させているので,緩衝用ばねの作用によって無励磁作動保持ブレーキの解放時に,自重降下レバーの過負荷が吸収され,シフタ及びシフタ関連部品に対する変形や破損を避けることができる。この流路開閉用の負荷体駆動装置では,自重降下レバーを手動で作動すると,無励磁作動保持ブレーキの解放開始時まで,シフタは支点中心で揺動し,無励磁作動保持ブレーキのアーマチュアとブレーキディスクとが接触すると,それ以降はシフタに設けたシフタピンが中心になってアーマチュアをブレーキディスクから離間する方向に動かし,その時,シフタの支点が緩衝用ばねを押し込んでいき,無励磁作動保持ブレーキのアーマチュアがブレーキディスクからスムーズに且つ的確に離間され,無励磁作動保持ブレーキが解放され,負荷体が自重でスムーズに且つ的確に降下し,解放動作がシフタ等を損傷させることなく簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,図面を参照して,この発明による流路開閉用の負荷体駆動装置の一実施例を説明する。この流路開閉用の負荷体駆動装置は,流路を開閉するゲート,水門,バルブ等の負荷体20を駆動するアクチュエータに適用されて好ましいものである。この流路開閉用の負荷体駆動装置の基本的な構成は,例えば,本出願人が先に出願した特開2007−40067号公報に開示されているものと同様な構成を有するものである。
【0018】
この発明による流路開閉用の負荷体駆動装置は,特に,緊急時に,手動レバーである自重降下レバー2を手動で操作して2個の無励磁作動保持ブレーキ3A,3B(総称は3)のブレーキ状態をシフタ12の作動によって解放して負荷体20(図8参照)を自重降下させる機構を備えたことを特徴とし,更に,ブレーキ解放時に自重降下レバー2の過負荷を吸収するためシフタ12の揺動の支点8におけるシフタ12間に緩衝用のばね,図では皿ばね30を介在させたことである。この流路開閉用の負荷体駆動装置は,図1に示すように,動力伝達装置14の最終出力軸となる第3出力軸はラックギヤ9を備えたピニオン軸11であり,また,負荷体支持手段はラックギヤ9に噛み合うラックピン16を備えたピンラック10で構成したピンラック式駆動装置に構成されている。しかしながら,この流路開閉用の負荷体駆動装置は,ピンラック式駆動装置に限らず,ギヤラックやワイヤロープ式の各種の負荷体駆動装置にも適用できるものである。
【0019】
この流路開閉用の負荷体駆動装置は,例えば,図1に示すように,水路,浄水場等の流路を開閉するため配設されたゲート,水門,扉体,バルブ等の負荷体20,負荷体20を往復移動させて流路を開閉するため回転駆動されるモータ1と手動で作動される手動ハンドル7,及びモータ1又は手動ハンドル7の回転駆動を負荷体20の上下往復移動に変換して伝達する動力伝達装置14を有している。また,この流路開閉用の負荷体駆動装置は,図8に示すように,負荷体20を取り付け且つベース26に設置されたスタンド15に上下移動可能に支持された負荷体支持手段のピンラック10,ピンラック10に設けられたラックピン16に螺合するラックギヤ9を備えたピニオン軸11(第3出力軸),ラックギヤ9を回転駆動してピンラック10を上下移動させるために駆動されるモータ1又は手動ハンドル7,及びモータ1又は手動ハンドル7の駆動力をピンラック10に伝達する動力伝達装置14を有する。モータ1は,負荷体20の位置を調整可能に作動するACサーボモータ等のサーボモータで構成されている。動力伝達装置14は,ピンラック10を上下移動させるため,モータ1のモータ出力軸22からの駆動力を,伝動軸4,一対の差動歯車減速機5(一次減速機)及び差動歯車減速機6(二次減速機)を介して最終減速段の出力軸と一体のピニオン軸11に伝達する。シーケンサ(図示せず)は,モータ1の駆動を制御し,負荷体20の保持位置表示,トルク表示,動作範囲表示等の情報を表示することができる。また,この負荷体駆動装置では,ピニオン軸11は,差動歯車減速機5,6を介してモータ1のモータ出力軸22に対して実質的に同一軸心上に配設されており,装置全体がコンパクトに簡素化された構造に構成されている。差動歯車減速機5は,ケース39,及びケース39に組み込み支持された入力軸31(第1入力軸)と出力軸32(第1出力軸)から構成されている。
【0020】
また,動力伝達装置14は,モータ1のモータ出力軸22に連結された伝動軸4,伝動軸4に無励磁作動保持ブレーキ3を介して入力軸31が連結された差動歯車減速機5,差動歯車減速機5の出力軸32に入力軸(第2入力軸)33が連結された差動歯車減速機6,手動ハンドル7を差動歯車減速機5のケース39を介して出力軸32に連結するウォームギヤ35,差動歯車減速機6の出力軸34(第2出力軸)に一体に構成されたピニオン軸11,及びピニオン軸11に設けたピニオンでなるラックギヤ9に噛み合うラックピン16を備え且つ負荷体20が取り付けられたピンラック10から構成されている。手動ハンドル7は,ウォームギヤ35を介して動力伝達装置14に作動連結されている。
【0021】
また,差動歯車減速機5のケース39は軸受41によってスタンド15に回転自在に支持されている。差動歯車減速機5は,入力軸31の回転を減速して出力軸の連結シャフト32の回転へと伝達される。また,差動歯車減速機6は,入力軸33の回転を減速して出力軸34の回転へと伝達される。この負荷体駆動装置は,図示していないが,出力軸34に位置検出器を設けることができる。位置検出器は,必ずしも上記最終減速段の位置に設けなければならないものではなく,駆動系における何れの位置に設けても良い。また,手動ハンドル7に対して設けられたウォームギヤ35は,ウォーム軸38に設けたウォーム36とそれに噛み合うウォームホイール37から構成されている。ウォーム36の回転はウォームホイール37に減速伝達されて回転するが,ウォームホイール37からは,その回転がウォーム36には伝達されない構造である。従って,手動ハンドル7によってウォーム36が回転する時には,ウォームホイール37が回転し,ウォームホイール37の回転が差動歯車減速機5のケース39を介して出力軸32に伝達されることになるので,手動ハンドル7の回転の減速比は差動歯車減速機5では減速されずに,手動ハンドル7の回転はウォームギヤ35で減速されるように構成されている。
【0022】
また,無励磁作動保持ブレーキ3は,動力伝達装置14を通じて負荷体20を所定の位置に保持し,非常時には自重降下機構即ちブレーキ解放機構を構成する自重降下レバー2の作動によって負荷体20を自重降下させると共に,サーボモータ1によりダイナミックブレーキで負荷体20の降下を制御し,流路を負荷体20で閉鎖する機能を有している。この実施例では,負荷体20の降下時に負荷体20にブレーキをかける場合に,モータ1を発電機モードとして機能させて制動トルクを得るダイナミックブレーキとして働かせる。ブレーキ力は,熱エネルギとして放熱したり,電力として回生することができる。
【0023】
また,無励磁作動保持ブレーキ3は,モータ出力軸に連結した伝動軸4に安全性を考慮して一対の無励磁作動保持ブレーキ3A,3Bが平行して設けられている。無励磁作動保持ブレーキ3A,3Bの作動機能は,前掲特開2007−40067号公報に開示されたとおりである。無励磁作動保持ブレーキ3は,ケース42に取り付けられている。シフタ12は,手動による自重降下レバー2の作動によって無励磁作動保持ブレーキ3を解放するように構成されている。アーマチュア45と電機子コイル(図示せず)には,磁路を形成するフィールド46が設けられている。図2では,フィールド46は,電機子コイルを収容した状態であり,アーマチュア45が電機子コイルに対向して位置している。プレート43は,フィールド46のケースにねじ等で所定の距離だけ隔置して取り付けられており,プレート43にはブレーキディスク44が固定されている。ブレーキディスク44は,差動歯車減速機の入力軸31に設けたインナドライバ48に摺動可能にスプライン嵌合して取り付けられている。ブレーキディスク44には,電機子即ちアーマチュア45が対向して配設され,また,伝動軸4には,インナドライバ48が取り付けられ,インナドライバ48にブレーキディスク44が取り付けられている。無励磁作動保持ブレーキ3は,電源がONすると,電機子コイルが通電され,アーマチュア45とフィールド46との間に磁界が発生し,アーマチュア45がフィールド46に吸引され,アーマチュア45がブレーキディスク44から離れて解放され,それによってモータ1が回転可能になり,差動歯車減速機5の入力軸31が回転するように構成されている。無励磁作動保持ブレーキ3は,電源がOFFの時には,アーマチュア45がブレーキディスク44に接し,ブレーキが掛かった状態になり,従って,負荷体20が無励磁作動保持状態になる。
【0024】
この流路開閉用の負荷体駆動装置は,特に,動力伝達装置14における無励磁作動保持ブレーキ3を非常時に解放して負荷体20を自重降下させる自重降下レバー2を備えたブレーキ解放機構が設けられていることを特徴としている。ブレーキ解放機構は,自重降下レバー2の手動による作動によって回転するクラッチシャフト13,及び一方の端部18がクラッチシャフト13に当接し且つ無励磁作動保持ブレーキ3のアーマチュア45とブレーキディスク44とを接離させるシフタ12を有している。シフタ12は,クラッチシャフト13に設けたカム突起17に係合しており,クラッチシャフト13の回転によって揺動してアーマチュア45とブレーキディスク44とを離間させて無励磁作動保持ブレーキ3を解放するものである。
【0025】
この流路開閉用の負荷体駆動装置において,特に,シフタ12は,その一方の端部18がクラッチシャフト13を挟んで対向して配設され,シフタ12の他方の端部19におけるシフタ揺動の支点8間には,シフタ12の揺動運動を緩衝するための複数枚の緩衝用皿ばね30が介在されている。緩衝用皿ばね30は,例えば,シフタ12間に2枚1組で6組積層した配設されている。シフタ12の端部19には,互いに対向する揺動支点8の位置にねじ孔49が形成されている。シフタ12に設けたねじ孔49には,調整用ボルト47が対向状態にそれぞれねじ込まれている。調整用ボルト47は,シフタ12の間隔が位置設定されると,シフタ12に固定ナット54で位置決め固定される。調整用ボルト47の先端部51は,収容ケース50に収容された緩衝用皿ばね30に当て板52を介して当接するように,収容ケース50内へと延びている。収容ケース50は,例えば,図3に示すように,スタンド15に設けたフレーム25に取り付けられている。緩衝用皿ばね30は,収容ケース50の一端に内向きに延びるように設けられた係止フランジ部に係止した当て板52と,他端が固定リング53で係止した当て板52との間に位置して収容ケース50内に配設されている。
【0026】
シフタ12は,図4に示すように,環状のプレートから構成され,該プレートの中間縁部には一対のシフタピン29がバランスして対向位置に設けられている。シフタピン29は,シフタ12の揺動に伴って無励磁作動保持ブレーキ3のアーマチュア45をフィールド46内へと押し込んで,アーマチュア45をブレーキディスク44から離間させる作用点である。シフタ12の内径は,ブレーキディスク44を固定しているプレート43の外径即ち直径に対して0.5mm程度の隙間を持つほぼ同一長さに形成されている。また,カム突起17は,図7に示すように,シフタ12の一方の端部18内側に対向してクラッチシャフト13の外周面40に一対設けられ,クラッチシャフト13の回転に伴って,緩衝用皿ばね30を支点8としてシフタ12を揺動させてアーマチュア45とブレーキディスク44とを離間させるものである。
【0027】
また,緩衝用皿ばね30は,シフタ12の他方の端部19のねじ孔49に螺入された調整用ボルト47によってばね力が調整される。また,この流路開閉用の負荷体駆動装置は,クラッチシャフト13を支持するブラケット24には,自重降下レバー2の回転範囲を規制する調整可能なストッパ23が設けられている。ストッパ23は,一種の調整ボルトであり,クラッチシャフト13に設けたカム突起17の周方向サイズによって自重降下レバー2の回転範囲を規制するものである。また,この流路開閉用の負荷体駆動装置は,クラッチシャフト13には,自重降下レバー2の回転を元に戻すリターンスプリング21がねじ28等で取り付けられている。
【0028】
次に,この流路開閉用の負荷体駆動装置は,自重降下レバー2を手動で回転させることによってクラッチシャフト13が回転し,それによってシフタ12が揺動するものであり,一対のシフタ12の間隔は調整用ボルト47で行うことができることを,図7を参照して説明する。図7の(a)に示すように,調整用ボルト47の先端部51が緩衝用皿ばね30に当接するまでシフタ12のねじ孔49にねじ込み即ち締め込む。調整用ボルト47の先端部51が緩衝用皿ばね30に当接した状態から調整用ボルト47を1回転半だけ回転を戻す。調整用ボルト47の回転を戻すことにより,調整用ボルト47の先端部51と緩衝用皿ばね30との間に,例えば,1mm程度の隙間ができる。この状態では,シフタピン29とアーマチュア45との間には0.5mm程度の隙間ができている。この設定操作によって,ブレーキ解放機構における一対のシフタ12間が予め決められた隙間に設定されることになる。シフタピン29とアーマチュア45との間に隙間が存在するように,シフタ12間の間隔を設定するのは,隙間が無いと,ブレーキディスク44の摩耗等でブレーキが働いた場合に,アーマチュア45がブレーキディスク44と接触する時に,シフタピン29がアーマチュア45に当たり,ブレーキが働かない状態になるからである。
【0029】
ブレーキ解放機構におけるシフタ12の設定が完了すると,シフタ12を機能させることができるようになる。まず,図7の(b)に示すように,自重降下レバー2を手動によって回転させると,クラッチシャフト13が,例えば,13.1°程度回転し,カム突起17がシフタ12を揺動させ,シフタ12に設けたシフタピン29がアーマチュア45と当接して無励磁作動保持ブレーキ3のブレーキ解放開始状態になる。次いで,図7の(c)に示すように,自重降下レバー2を更に回転させると,クラッチシャフト13が回転し,例えば,クラッチシャフト13が2.1°程度回転し,カム突起17がシフタ12を離間させ,それに伴ってシフタピン29がアーマチュア45をフィールド46内へと押し込み,即ち,アーマチュア45をブレーキディスク44との間に隙間が0.1mm程度できるようにフィールド46内へ押し込むことによって,アーマチュア45とブレーキディスク44とが離間してブレーキが解放状態になる。更に,自重降下レバー2を回転させると,クラッチシャフト13が回転し,例えば,クラッチシャフト13を9.8°程度回転し,シフタ12の端部19に設けた調整用ボルト47が緩衝用皿ばね30を押し込むことになり,アーマチュア45とブレーキディスク44とが完全に離間してブレーキが解放状態になる。そして,自重降下レバー2は,クラッチシャフト13の回転が,例えば,25°の回転範囲でストッパ23に当接して,それ以上の回転が停止されるように設定されている。
【0030】
この流路開閉用の負荷体駆動装置は,上記のように構成されており,次のように作動される。この流路開閉用の負荷体駆動装置は,モータ1による自動作動の場合には,先ず,無励磁作動保持ブレーキ3の電源がONされると,ブレーキディスク44が解放され,モータ1が回転駆動される。モータ1の出力軸22からの駆動力は,差動歯車減速機5の入力軸31が回転し,この時,差動歯車減速機5のケース39はウォームギヤ35が回転していないので,固定状態になっている。差動歯車減速機5の入力軸31が回転すると,減速されて差動歯車減速機5の出力軸32が回転する。差動歯車減速機5の出力軸32が回転すると,差動歯車減速機6の入力軸33が回転し,次いで差動歯車減速機6の出力軸34が回転する。差動歯車減速機6の出力軸34が回転すると,出力軸34と一体のピニオン軸11が回転してピニオンであるラックギヤ9が回転し,次いで,ラックギヤ9に噛み合っているラックピン16を形成したピンラック10が上下移動することになり,負荷体20が上下移動することになる。
【0031】
次に,この流路開閉用の負荷体駆動装置について,手動ハンドル7による手動作動の場合には,無励磁作動保持ブレーキ3は電源がOFFされており,ブレーキディスク44がアーマチュア45に接触状態になって閉状態であり,モータ1の駆動は停止して差動歯車減速機5の入力軸31の回転が停止している。手動ハンドル7を回転作動すると,ウォームギヤ35のウォーム36が回転してウォームホイール37が回転する。ウォームホイール37は差動歯車減速機5のケース39に固定されているので,差動歯車減速機5は軸受41を介して全体的に回転して差動歯車減速機5の出力軸32が回転する。従って,手動ハンドル7の回転は,ウォームギヤ35で減速されるが,差動歯車減速機5では減速されずにケース39を介して出力軸32へと伝達される。差動歯車減速機5の出力軸32が回転すると,差動歯車減速機6の入力軸33が回転し,次いで差動歯車減速機6の出力軸34が回転する。差動歯車減速機6の出力軸34が回転すると,出力軸34と一体のピニオン軸11が回転してラックギヤ9が回転し,次いで,ラックギヤ9に噛み合っているラックピン16を形成したピンラック10が上下移動することになり,負荷体20が上下移動することになる。
【0032】
また,この流路開閉用の負荷体駆動装置は,緊急の場合には,負荷体20の自重によって負荷体20を降下させることができる。この緊急の場合には,自重降下レバー2を操作し,シフタ12によって無励磁作動保持ブレーキ3のアーマチュア45をシフタ12によって強制的に動かしてブレーキディスク44を解放する。この時,一対の無励磁作動保持ブレーキ3が設けられているので,シフタ12によってアーマチュア45を押し込んでそれぞれのブレーキディスク44を解放する。これによって,負荷体20はその保持状態が解放され,負荷体20とピンラック10の自重により,負荷体20とピンラック10とが流路へと下降し,その時にサーボモータ1をダイナミックブレーキとして機能させて負荷体20に制動をかけつつ降下させ,負荷体20で流路を閉鎖するように作動する。この時,負荷体20とピンラック10の降下によってラックギヤ9が回転し,ラックギヤ9の回転は差動歯車減速機6の出力軸34を回転させる。出力軸34の回転は差動歯車減速機6の入力軸33を回転させ,次いで,差動歯車減速機5の出力軸32が回転して差動歯車減速機5の入力軸31が回転する。差動歯車減速機5の入力軸31の回転は,モータ1を空回りさせることになる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明による流路開閉用の負荷体駆動装置は,例えば,流路を開閉するのに設けられた水門,扉体,ゲート,弁体等の負荷体を上下移動させるアクチュエータに適用され,モータ又は手動ハンドルからの駆動力を伝達する差動歯車減速機等を設けた動力伝達装置に無励磁作動保持ブレーキを組み込み,緊急時に自重降下レバーを手動で操作してシフタを介して無励磁作動保持ブレーキのブレーキを解放するブレーキ解放機構に適用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明による流路開閉用の負荷体駆動装置の一実施例を示す概略図である。
【図2】図1の流路開閉用の負荷体駆動装置におけるブレーキ解放機構の細部を示す断面図である。
【図3】図2のブレーキ解放機構における緩衝用皿ばねの領域を示す拡大断面図である。
【図4】図2のブレーキ解放機構におけるシフタとクラッチシャフトとの関係を示す側面図である。
【図5】図2のブレーキ解放機構における自重降下レバーの回転領域を示す側面図である。
【図6】図1の流路開閉用の負荷体駆動装置の外観を示す概略図である。
【図7】図2のブレーキ解放機構におけるクラッチシャフトとシフタとの作動原理を示す説明図である。
【図8】従来のアクチュエータにおけるピンラックと負荷体との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 モータ(ACサーボモータ)
2 自重降下レバー
3,3A,3B 無励磁作動保持ブレーキ
4 伝動軸(モータ出力軸)
5 差動歯車減速機(一次減速機)
6 差動歯車減速機(二次減速機)
7 手動ハンドル
8 支点(シフタの揺動支点)
10 ピンラック(負荷体支持手段) 11 ピニオン軸(第3出力軸)
12 シフタ
13 クラッチシャフト
14 動力伝達装置
17 カム突起
18,19 端部
20 負荷体
21 リターンスプリング
22 モータ出力軸
23 ストッパ
24 ブラケット
29 シフタピン
30 緩衝用皿ばね
31 入力軸(第1入力軸)
32 出力軸(第1出力軸)
33 入力軸(第2入力軸)
34 出力軸(第2出力軸)
35 ウォームギヤ
42 ケース
44 ブレーキディスク
45 アーマチュア
46 フィールド
47 調整用ボルト
49 ねじ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を開閉するゲート,水門,バルブ等の負荷体,前記負荷体を往復移動させて前記流路を開閉するため回転駆動されるモータと手動で回転される手動ハンドル,及び前記モータ又は前記手動ハンドルの回転を前記負荷体の往復移動に変換伝達する動力伝達装置を有し,前記動力伝達装置には,前記負荷体を所定の位置に保持する無励磁作動保持ブレーキ及び非常時に前記無励磁作動保持ブレーキを解放して前記負荷体を自重降下させる自重降下レバーを備えたブレーキ解放機構が設けられていることから成る流路開閉用の負荷体駆動装置において,
前記ブレーキ解放機構は,前記自重降下レバーの作動で回転するクラッチシャフト,及び一方の端部が前記クラッチシャフトに当接し且つ前記無励磁作動保持ブレーキのアーマチュアとブレーキディスクとを接離させるシフタを有し,前記シフタは前記クラッチシャフトに設けたカム突起に係合して前記クラッチシャフトの回転によって揺動して前記アーマチュアと前記ブレーキディスクとを離間させて前記無励磁作動保持ブレーキを解放することを特徴とする流路開閉用の負荷体駆動装置。
【請求項2】
前記シフタは,前記クラッチシャフトを挟んで対向して配設され,前記シフタの他方の端部におけるシフタ揺動の支点間には,前記シフタの揺動運動を緩衝するための緩衝用ばねが介在されていることを特徴とする請求項1に記載の流路開閉用の負荷体駆動装置。
【請求項3】
前記シフタには,環状のプレートから構成され,前記プレートの中間縁部には一対のシフタピンが設けられ,前記シフタピンが前記無励磁作動保持ブレーキの前記アーマチュアに接して前記アーマチュアを前記ブレーキディスクから離間させることを特徴とする請求項1又は2に記載の流路開閉用の負荷体駆動装置。
【請求項4】
前記カム突起は,前記シフタの前記一方の端部内側に対向して前記クラッチシャフトの外周面に一対設けられ,前記クラッチシャフトの回転に応じて,前記緩衝用ばねを支点として前記シフタを揺動させて前記アーマチュアと前記ブレーキディスクとを離間させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の流路開閉用の負荷体駆動装置。
【請求項5】
前記緩衝用ばねは,複数枚重ねられた皿ばねから構成され,前記シフタの前記他方の端部のねじ孔に螺入された調整用ボルトによってばね力が調整されることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の流路開閉用の負荷体駆動装置。
【請求項6】
前記クラッチシャフトを支持するブラケットには,前記自重降下レバーの回転範囲を規制する調整可能なストッパが設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の流路開閉用の負荷体駆動装置。
【請求項7】
前記クラッチシャフトには,前記自重降下レバーの回転を元に戻すリターンスプリングが設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の流路開閉用の負荷体駆動装置。
【請求項8】
前記動力伝達装置は,前記モータのモータ出力軸に連結された伝動軸,前記伝動軸に前記無励磁作動保持ブレーキを介して第1入力軸が連結された一次減速機,前記一次減速機の第1出力軸に第2入力軸が連結された二次減速機,前記手動ハンドルを前記一次減速機のケースを介して前記第1出力軸に連結するウォームギヤ,前記二次減速機の第2出力軸と一体に構成された第3出力軸,及び前記第3出力軸からの出力によって駆動され且つ前記負荷体が取り付けられた負荷体支持手段から構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の流路開閉用の負荷体駆動装置。
【請求項9】
前記一次減速機と前記二次減速機は,差動歯車減速機であることを特徴とする請求項8に記載の流路開閉用の負荷体駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−208626(P2008−208626A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46641(P2007−46641)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000196705)西部電機株式会社 (80)
【Fターム(参考)】