説明

浮上式塗布装置

【課題】基板の姿勢を安定に保ちつつ浮上搬送のゆらぎやうねりを補償して塗布膜の膜厚均一性を改善する。
【解決手段】このレジスト塗布装置では、浮上ステージ上で基板の左右両側の縁部を保持する各吸着パッド42から見てパッド支持部材40の反対側つまり外側の面に、各吸着パッド42と同じ形状および同じ材質を有する被測定部材としてのダミーパッド46を同じ高さ位置に取り付けている。そして、搬送方向(X方向)においてレジストノズル18の吐出口18a付近に監視点が設けられ、この監視点を通過する吸着パッド42の吸着面高さ位置のプロファイルを光学的に監視するための監視部48が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板をステージ上で浮上搬送しながら基板上に処理液を塗布する浮上方式の塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)の製造プロセスにおけるフォトリソグラフィー工程には、スリット状の吐出口を有する長尺形のレジストノズルを相対的に走査して被処理基板上にレジスト液を塗布するスピンレスの塗布法が多用されている。
【0003】
このようなスピンレス塗布法の一形式として、たとえば特許文献1に開示されるように、FPD用の矩形の被処理基板(たとえばガラス基板)を長めの浮上ステージ上で空中に浮かして水平な一方向(ステージ長手方向)に搬送し、搬送途中の塗布処理位置でステージ上方に設置した長尺形のレジストノズルよりレジスト液を帯状に吐出させることにより、基板上の一端から他端までレジスト液を塗布するようにした浮上方式が知られている。
【0004】
この種の浮上式レジスト塗布装置は、浮上ステージの上面から垂直上方に高圧の気体(通常はエア)を噴き出し、その高圧エアの圧力によって基板を水平姿勢で浮かすようにしている。そして、浮上ステージ上で空中に浮く基板を搬送するために、ステージの左右両側に配置された一対のガイドレールと、それらのガイドレールに沿って直進移動する左右一対のスライダと、基板の左右両辺部に一定間隔で着脱可能に吸着する左右一列の吸着パッドと、それら左右一列の吸着パッドを左右のスライダにそれぞれ連結する連結部とを備える。
【0005】
当初、連結部は板ばねからなり、基板の浮上高の変動に追従して上下に変位するように構成されていた(たとえば特許文献1)。しかしながら、浮上搬送中に基板の前端部と後端部が上下に振動してばたついたり、あるいは基板が搬送方向と直交する方向で山形に撓んだりした際に、基板を保持する吸着パッドや連結部も基板と一体に振動したり上下に変位する。このため、基板を塗布処理に適した一定の姿勢に保持または矯正することが難しく、レジスト塗布膜の膜厚が変動し、塗布斑が生じやすかった。
【0006】
近年は、連結部に実質的にたわまない部材を用いて、浮上搬送される基板(特に基板の前端部および後端部)の姿勢をリジッドな拘束力によって安定化するようにしている(たとえば特許文献2,3)。もっとも、一辺が数mを超えるほど基板が大型化してくると、基板の前端部と後端部だけをリジッドに支持しても中間部が重力で垂れ下がりやすくなる。そこで、最近は、大型の基板向けには、基板の前端から後端まで基板の左右の各縁部に多数の吸着パッドを一列に下から当てている。もちろん、それらの吸着パッドは、たわまない連結部材を介してスライダに連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−244155
【特許文献2】特開2008−132422
【特許文献3】特開2009−117571
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のように基板をたわまない連結部でリジッドに保持しながら浮上搬送する方式においては、基板の姿勢を安定に保つことはできても、レジスト塗布膜の膜厚が変動することがある。本発明者が原因を究明したところ、それはガイドレール上をスライダが走行する際のゆらぎまたはうねりに関係することがわかった。すなわち、吸着パッドが板バネのような可撓性の連結部を介してスライダに連結されている構造であれば、連結部がたわんでスライダ機構のゆらぎやうねりを吸収できる。しかし、連結部がたわまない場合は、浮上搬送中にスライダ機構のゆらぎやうねりに応じて吸着パッドの吸着面が上下に変位し、これによってレジストノズルと基板との間のギャップが変動し、ひいてはレジスト塗布膜の膜厚が変動する、ということがわかった。
【0009】
本発明は、上記のような知見を基に従来技術の問題点を解決するものであり、基板の姿勢を安定に保ちつつ浮上搬送のゆらぎやうねりを補償して塗布膜の膜厚均一性を改善する浮上式塗布装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の浮上式塗布装置は、矩形の被処理基板を気体の圧力で浮かせる浮上ステージと、前記浮上ステージ上で空中に浮く前記基板に対して搬送方向の左右片側または両側の基板縁部に下から吸着可能な吸着パッドを有する実質的にたわまない保持部と、前記保持部を搭載し、前記保持部に保持される前記基板を前記浮上ステージ上で搬送する搬送部と、前記浮上ステージの上方に配置される長尺型のノズルを有し、前記基板上に処理液の塗布膜を形成するために前記ノズルの下を通過する前記基板に向けて前記ノズルより処理液を供給する処理液供給部と、前記ノズルの直下を通過する際の前記吸着パッドの高さ位置のプロファイルを監視する監視部と、前記搬送部上の前記吸着パッドの高さ位置を調整するためのパッド高さ調整部とを有する。
【0011】
上記の装置構成においては、浮上ステージ上で空中に浮く基板を保持部が吸着パッドで保持し、搬送部が基板を浮上搬送してノズルの直下を通過させ、処理液供給部がノズルより処理液を基板に向けて吐出することにより、基板の前端から後端に向かって処理液の塗布膜が形成されていく。その際、監視部がノズルの直下を通過する際の吸着パッドの高さ位置のプロファイルを監視することにより、塗布処理中に基板(特にその左右片側または両側の縁部)とノズルとの間のギャップが一定に保たれているか否かがわかる。取得したプロファイルに許容値を超えるゆらぎやうねり等があれば、パッド高さ調整部により吸着パッドの高さ位置を調整することでプロファイルを補正し、それによって塗布膜の膜厚均一性を修正ないし改善することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の浮上式塗布装置によれば、上記のような構成および作用により、基板の姿勢を安定に保ちつつ浮上搬送のゆらぎやうねりを補償して、塗布膜の膜厚均一性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態におけるレジスト塗布装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】上記レジスト塗布装置の要部の構成を示す斜視図である。
【図3】上記レジスト塗布装置の要部の構成を示す一部断面側面図である。
【図4】上記レジスト塗布装置の要部の構成を示す略平面図である。
【図5】基板上にレジスト塗布膜が形成される様子を示す側面図である。
【図6】実施形態における監視部の構成および作用を示す図である。
【図7】実施形態において取得される吸着面高さ位置プロファイルの一例を示すプロット図である。
【図8】パッド高さ調整部により吸着面高さ位置プロファイルを補正して基準プロファイルを得る仕組みを説明するための図である。
【図9】現時の吸着面高さ位置プロファイルと基準プロファイルとの差異が小さい場合を示す図である。
【図10】現時の吸着面高さ位置プロファイルと基準プロファイルとの差異が大きい場合を示す図である。
【図11A】吸着パッドの吸着面の高さ位置を間接的に測定するための別の実施例を示す図である。
【図11B】吸着パッドの吸着面の高さ位置を間接的に測定するための他の実施例を示す図である。
【図11C】吸着パッドの吸着面の高さ位置を間接的に測定するための更に他の実施例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0015】
図1〜図10につき、本発明の一実施形態におけるレジスト塗布装置の構成および作用を説明する。図1は装置全体の斜視図、図2は装置要部の斜視図、図3は装置要部の一部断面側面図、図4は装置要部の平面図、図5は基板上にレジスト塗布膜が形成される様子を示す側面図、図6は監視部の構成および作用を示す図、および図7〜図10は吸着面高さ位置プロファイルの一例を示す図である。このレジスト塗布装置は、たとえばLCD(液晶ディスプレイ)用の矩形のガラス基板Gを被処理基板とする。
【0016】
図1に示すように、浮上ステージ10の上面または浮上面には、高圧の気体(たとえばエア)を噴出する多数の噴出口12が一面に形成されている。浮上ステージ10の左右両側には直進運動型の一対の搬送部16L,16Rが配置されている。これらの搬送部16L,16Rは、各々単独で、あるいは両者協働して、ステージ10上で浮いている基板Gを着脱可能に保持してステージ長手方向(X方向)に基板Gを搬送するようになっている。浮上ステージ10上で基板Gは、その一対の辺が搬送方向(X方向)と平行で、他の一対の辺が搬送方向と直交するような水平姿勢をとって、浮上搬送される。
【0017】
浮上ステージ10は、その長手方向(X方向)に沿って複数たとえば3つの領域MIN,MCT,MOUTに分割されている。一端の領域MINは搬入領域であり、レジスト塗布処理を受けるべき新規の基板Gはたとえば搬送方向上流側で浮上ステージ10に隣接する第1のソーターユニット(図示せず)から平流しでこの搬入領域MINに搬入される。
【0018】
搬入領域MINは基板Gの浮上搬送が開始される領域でもあり、この領域の浮上面には基板Gを搬入の浮上搬送に適した浮上高で浮かせるために多数の噴出口12が一面に設けられている。この搬入領域MINにおける基板Gの浮上高は、特に高い精度を必要とせず、たとえば200〜2000μmの範囲内に保たれればよい。また、搬送方向(X方向)において、搬入領域MINのサイズは基板Gのサイズを上回っているのが好ましい。さらに、搬入領域MINには、基板Gをステージ10上で位置合わせするためのアライメント部(図示せず)も設けられてよい。
【0019】
浮上ステージ10の長手方向中心部に設定された領域MCTはレジスト液供給領域または塗布領域であり、基板Gはこの塗布領域MCTを通過する際に上方のレジストノズル18からレジスト液Rの供給を受ける。この塗布領域MCTの浮上面には、基板Gを浮上剛性の大きな精密浮上高Hα(標準値:30〜60μm)で安定に浮かせるために、高圧エアを噴き出す噴出口12と負圧で周囲のエアを吸い込む吸引口14とを一定の密度または配置パターンで混在させて設けている。
【0020】
搬送方向(X方向)における塗布領域MCTのサイズは、レジストノズル18の直下付近に上記のような浮上剛性の大きな精密浮上高Hαを保持できるほどのスペース的な余裕があればよいので、通常は基板Gのサイズよりも小さくてよく、たとえば1/3〜1/10程度でよい。
【0021】
塗布領域MCTの下流側に位置する浮上ステージ10の他端の領域MOUTは搬出領域である。このレジスト塗布装置で塗布処理を受けた基板Gは、この搬出領域MOUTからたとえば搬送方向下流側で浮上ステージ10に隣接する第2のソーターユニット(図示せず)を経由して次工程の基板処理装置たとえば減圧乾燥装置(図示せず)へ平流しで移送される。この搬出領域MOUTの浮上面には、基板Gを搬出の浮上搬送に適した浮上高(たとえば200〜2000μm)で浮かせるために多数の噴出口12が一面に設けられている。
【0022】
レジストノズル18は、その長手方向(Y方向)で浮上ステージ10上の基板Gを一端から他端までカバーできるスリット状の吐出口18aを有し、架台52(図3)に固定された門形または逆さコ字形のフレーム(図示せず)20に水平な棒状または板状のノズル支持梁部22を介して取り付けられ(図2、図4)、たとえばボールネジ機構を有するノズル昇降部(図示せず)の駆動によって昇降移動可能であり、レジスト液供給部(図示せず)からのレジスト液供給管24に接続されている。
【0023】
両搬送部16L,16Rは、浮上ステージ10の左右両側に平行に配置された一対のガイドレール26L,26Rと、これらのガイドレール26L,26R上で搬送方向(X方向)に移動可能に取り付けられた一対のスライダ28L,28Rと、両ガイドレール26L,26R上で両スライダ28L,28Rを同時または個別に直進移動させる一対の搬送駆動部(図示せず)と、基板Gを着脱可能に保持するために両スライダ28L,28Rに搭載されている一対の保持部30L,30Rとをそれぞれ有している。各搬送駆動部は、直進型の駆動機構たとえばリニアモータによって構成されている。
【0024】
各々の保持部30L(30R)は、スライダ28L(28R)に複数の昇降アクチエータ32を介して昇降可能に結合される搬送方向(X方向)に延びる棒状または板状の昇降支持部材34と、この昇降支持部材34にパッド高さ調整部36および断面L形のジョイント部材38を介して結合される搬送方向に延びる棒状または板状のパッド支持部材40とを有し、このパッド支持部材40の内側面に一定の間隔を置いて複数個の吸着パッド42を取り付けている。吸着パッド42は、たとえばステンレス鋼(SUS)からなる直方体形状のパッド本体の上面に複数個の吸引口42aを設けている。それらの吸引口42aは、パッド本体内のバキューム通路42b、パッド支持部材40内のバキューム通路40aおよび外部のバキューム管44を介してバキューム装置(図示せず)に通じている。
【0025】
昇降アクチエータ32は、たとえばボールネジ機構からなり、スライダ28L(28R)の上面から垂直上方に延びるガイド部材31に沿って昇降支持部材34を比較的大きなストローク(たとえば数mm〜数cm)で昇降移動させるようになっている。パッド高さ調整部36は、たとえば垂直精密ステージからなり、回転式の手動つまみ36aを工具等で回すことにより、その設置位置付近において昇降支持部材34に対するパッド支持部材40および吸着パッド42の相対的な高さ位置をたとえば数μm以下の精度で可変調整できるようになっている。
【0026】
この実施形態では、各々の吸着パッド42から見てパッド支持部材40の反対側つまり外側の面に、各吸着パッド42と同じ形状(たとえば直方体形状)および同じ材質(たとえば樹脂)を有する被測定部材としてのダミーパッド46を同じ高さ位置に、つまり各吸着パッド42の上面(吸着面)とダミーパッド46の上面(被測定面)とがパッド支持部材40の上面より僅かに突出して面一になるように、取り付けている。パッド支持部材40の材質は、通常金属たとえばアルミニウムである。このようにパッド支持部材40を挟んで吸着パッド42およびダミーパッド46の上面を面一に揃えるために、たとえばフライス加工を好適に用いることができる。かかる構成により、各ダミーパッド46の上面の高さ位置はパッド支持部材40を挟んでそれと対向する吸着パッド42の上面(吸着面)の高さ位置と同じであるとみなすことができる。
【0027】
図3および図4に示すように、搬送方向と直交する水平方向(Y方向)において、各吸着パッド42はレジストノズル18の端よりも内側(図3では左側)を搬送方向(X方向)に移動し、各ダミーパッド46はレジストノズル18の端よりも外側(図3では右側)を搬送方向(X方向)に移動するようになっている。
【0028】
この実施形態では、搬送方向(X方向)においてレジストノズル18の吐出口18a付近に監視点が設けられ、この監視点を通過する吸着パッド42の吸着面高さ位置のプロファイルを光学的に監視するための監視部48が備えられている。この監視部48は、搬送方向(X方向)においてレジストノズル18の吐出口18aと重なる位置で直下を通過する各ダミーパッド46の上面高さ位置を測定する測定部50と、この測定部50より得られる距離測定値を基に監視点での基板Gの全長にわたる吸着パッド42の吸着面高さ位置プロファイルを求めるモニタ演算処理部52とを有している。
【0029】
測定部50は、たとえば光学式距離センサからなり、図2に示すようにノズル支持梁部22に取り付けられている。この光学式距離センサは、垂直下方に光ビームLBを投光する投光部と、該ビームの当たった物体から垂直上方に反射してくる光を測定距離に応じた受光位置で受光する受光部とを含んでおり、直下を通過する各ダミーパッド46の上面との距離を測定する。モニタ演算処理部52は、たとえばマイクロコンピュータからなり、演算処理により、測定部50で得られる距離測定値を高さ位置に換算して、監視点での基板Gの全長にわたるダミーパッド46の上面高さ位置のプロファイル(つまり吸着パッド42の吸着面の高さ位置のプロファイル)をたとえば図7に示すようなプロットのグラフとして求める。
【0030】
図7において、横軸の「X軸上の保持位置」は、基板Gを保持する吸着パッド42の吸着面の搬送方向(X方向)の位置を表わし、ダミーパッド46における各距離測定点の搬送方向(X方向)の位置に対応する。プロファイルの精度を高めるためには、搬送方向(X方向)において各ダミーパッド46(吸着パッド42)上に多数の距離測定点を設定するのが好ましい。
【0031】
浮上ステージ10は、架台52の上に多数の支柱54を介して取り付けられている。各支柱54の下端部には、手動式のアジャスタ56が設けられている。浮上ステージ10の裏面(下面)には、高圧エア導入口58とバキューム導入口60が取り付けられている。高圧エア導入口58は高圧エア供給管62を介して高圧エア供給部(図示せず)に接続される。バキューム導入口60は、バキューム管64を介してバキューム装置(図示せず)に接続される。浮上ステージ10の内部には、高圧エア供給部より供給される高圧エアを搬入領域MIN、塗布領域MCTおよび搬出領域MOU内の各噴出口12に所定の圧力で分配するためのマニホールドおよびガス通路(図示せず)等と、バキューム源より供給される負圧吸引力を塗布領域MCT内の各吸引口14に所定の圧力で分配するためのマニホールドおよびガス通路(図示せず)等が設けられている。
【0032】
このレジスト塗布装置におけるレジスト塗布処理では、搬入領域MINで基板Gのアライメントが完了すると、その直後に左側の搬送部16Lにおいて昇降アクチエータ32が作動し、昇降支持部材34およびそれに支持されている全ての部材(特に吸着パッド42)を原位置(退避位置)から往動位置(結合位置)へ上昇(UP)させる。各吸着パッド42は、その前からバキュームがオンしており、浮上状態の基板Gの左右片側(左側)の縁部に接触するや否や真空吸着力で結合する。
【0033】
次に、左側の搬送部16Lは、保持部30Lで基板Gの左側縁部を保持したままスライダ28Lを搬送始点位置から基板搬送方向(X方向)へ比較的高速の一定速度で直進移動させ、ステージ10上の塗布開始位置に対応する上流側の搬送停止位置に着くと、そこで一時停止させる。この塗布開始位置では、基板G上のレジスト塗布領域の前端(塗布開始ライン)がレジストノズル18の直下に位置する。
【0034】
上記のようにして左側の搬送部16Lのスライダ28Lが上流側搬送停止位置に着くと、そこで待機していた右側の搬送部16R上では保持部30Rが昇降アクチエータ32を作動させて、昇降支持部材34およびそれに支持されている全ての部材(特に吸着パッド42)を原位置(退避位置)から往動位置(結合位置)へ上昇(UP)させる。各吸着パッド42は、バキュームがオンしているので、基板Gの右側の縁部に接触するや否や真空吸着力で結合する。こうして、ステージ10上の塗布開始位置に対応する搬送停止位置で、左右両側の搬送部16L,16Rが浮上状態の基板Gを挟んで互いに向き合い、基板Gの左右両縁部をそれぞれ保持した状態となる。一方、ノズル昇降部が作動してレジストノズル18を降ろし、レジストノズル18の吐出口18aと基板Gとの間のギャップを設定値(たとえば200μm)に合わせる。
【0035】
次に、左右両側の搬送部16L,16Rは、同時にそれぞれのスライダ28L,28Rを搬送停止位置から搬送方向(X方向)に比較的低速の一定速度で直進移動させる。一方、レジスト液供給部がレジストノズル18よりレジスト液Rの吐出を開始する。こうして、レジストノズル18直下を搬送方向(X方向)に一定速度で通過する基板Gの上面に向けて、長尺型レジストノズル18より帯状のレジスト液Rが一定の流量で吐出されることで、図5に示すように基板Gの前端から後端に向かってレジスト液の塗布膜RMが形成されていく。このレジスト塗布膜RMは、図3に示すように、搬送方向(X方向)と直交する水平方向(Y方向)において基板Gの端から端まで延びており、吸着パッド42で保持されている基板Gの両側縁部にも形成される。
【0036】
基板Gの後端部(塗布終了ライン)がレジストノズル18直下のレジスト液供給位置に着くと、このタイミングで塗布処理が終了し、レジスト液供給部がレジストノズル18からのレジスト液Rの吐出を終了させると同時に、左右両側の搬送部16L,16Rがそれぞれのスライダ28L,28Rを搬送終点位置の手前の位置(下流側搬送停止位置)で同時に停止させる。
【0037】
左側の搬送部16Lにおいては、スライダ28Lが搬送停止位置に着くや否や、パッド吸着制御部が吸着パッド42に対するバキュームの供給を止め、これと同時に昇降アクチエータ32が各吸着パッド42を往動位置(結合位置)から原位置(退避位置)へ下ろし、基板Gの左側縁部から各吸着パッド42を分離させる。次いで、スライダ28Lを基板搬送方向と反対の方向に高速度で移動させ、搬送始点位置まで引き返させる。
【0038】
一方、右側の搬送部16Rにおいては、保持部30Rで基板Gの右側縁部を保持したままスライダ28Rを下流側基板停止位置から搬送終点位置まで比較的高速の一定速度で基板搬送方向(X方向)に移動させる。そして、スライダ28Rが搬送終点位置に着くや否や、パッド吸着制御部が各吸着パッド42に対するバキュームの供給を止め、これと同時に昇降アクチエータ32が各吸着パッド42を往動位置(結合位置)から原位置(退避位置)へ下ろし、基板Gの右側縁部から各吸着パッド42を分離させる。
【0039】
この実施形態では、基板Gの左右両縁部を保持する保持部30L,30Rをたわまない部材または部品で構成しているので、保持部30L,30Rのリジッドな保持力または拘束力によって浮上搬送中の基板Gの姿勢を安定に保つことができる。
【0040】
さらに、この実施形態では、上記のようなレジスト塗布処理において、基板Gがレジストノズル18の直下を通過する際に、監視部48が、上記のような構成および作用により、レジストノズル18の近傍に設定された監視点を通過するときの吸着パッド42の吸着面高さ位置プロファイルを取得し、その取得したプロファイル情報を表示出力する。その際に、好ましくは、予め設定した監視値に基づいてプロファイルの良否判定を行い、その判定結果を出力する。
【0041】
監視部48において取得される吸着パッド42の吸着面の高さ位置のプロファイルは、一定のレベルを保つのが理想的ではあるが、通常は図7に誇張して示すように多少のゆらぎやうねりがある。このように浮上搬送中に吸着パッド42の吸着面の高さ位置がゆらいだりうねるのは、搬送部16L,16Rにおいてガイドレール26L,26R上を走行するスライダ28L,28Rが鉛直方向でゆらいだりうねったりするためであり、ガイドレール26L,26R上の各走行位置で同じというわけではなく、通常は各走行位置によって変わる。
【0042】
浮上方式のレジスト塗布処理においては、レジストノズル18の吐出口18aと基板Gの被処理面との間の距離(ギャップ)Sがレジスト塗布膜の膜厚を左右する重要なパラメータであり、一定に保持されなければならない。ここで、レジストノズル18は静止した状態でノズル支持梁部22およびフレーム20に支持されるため、塗布処理中にその吐出口18aの高さ位置は一定に保たれる。一方、基板Gの浮上高は、基板Gの浮上ステージ10の上を通過する基板上の領域では、噴出口12からの垂直上向きの圧力と吸引口14からの垂直下向きの圧力とが同時に作用して浮上剛性が非常に大きいため、一定に保持される。しかし、基板Gの浮上ステージ10の外にはみ出る部分(左右両側縁部)では、そのような浮上剛性が働かず、専ら吸着パッド42の吸着面の高さ位置に左右される。したがって、基板Gがレジストノズル18の直下を通過する時に、スライダ28L,28Rのゆらぎやうねりよって吸着パッド42の吸着面の高さ位置が変動したならば、基板G上に形成されるレジスト塗布膜の膜厚が吸着面高さ位置プロファルに対応するプロファイルで変動する。
【0043】
この点に関して、この実施形態では、上記のように、監視部48によって、基板Gがレジストノズル18近傍の監視点を通過するときの吸着面高さ位置プロファイルが提供される。したがって、現場関係者は、たとえば図7に示すように吸着面高さ位置プロファイルにゆらぎやうねり等の変動が見られる場合は、保持部30L,30Rに取り付けられている各パッド高さ調整部36を手動操作することにより、パッド支持部40の長手方向(X方向)における各部の高さ位置を調整し、図8に示すように吸着面高さ位置プロファイルをフラットな特性に補正することができる。
【0044】
さらに、この実施形態では、監視部48において、このパッド高さ調整部36を通じて補正された吸着面高さ位置プロファイルを爾後の基準プロファイルとする。そして、爾後に実施されるレジスト塗布処理で得られる(△で示す)吸着面高さ位置プロファイルを(●で示す)基準プロファイルと比較して、その比較誤差または差分を求める。その結果、図9に示すように差分量が小さいときは(所定の許容範囲内にあれば)、現時の吸着面高さ位置プロファイルは正常であると判定する。しかし、図10に示すように差分量が大きいときは(許容範囲を超えていれば)、現時の吸着面高さ位置プロファイルは不良であると判定し、現場関係者に再度のパッド高さ位置調整を促す。
【0045】
上記のように、この実施形態におけるレジスト塗布装置は、浮上ステージ10上で基板Gを浮上搬送するための搬送部16L,16R上にパッド支持部40を介して吸着パッド42の吸着面の高さ位置を調整するためのパッド高さ調整部36を備えるとともに、レジスト塗布処理において基板Gがレジストノズル18近傍の監視点を通過するときの吸着パッド42の吸着面高さ位置プロファイルをモニタする監視部48を備えることにより、基板G上の全塗布領域でレジストノズル18の吐出口18aとのギャップSを一定に保ち、基板G上のレジスト塗布膜RMの膜厚均一性を向上させることができる。

[他の実施形態または変形例]
【0046】
以上、本発明の好適な一実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種種の変形が可能である。
【0047】
たとえば、上記実施形態では、各々の吸着パッド42から見てパッド支持部材40の反対側つまり外側の面に、各吸着パッド42と同じ形状(たとえば直方体形状)および同じ材質(たとえば樹脂)を有するダミーパッド46を同じ高さ位置に取り付けて、吸着パッド42の代わりにダミーパッド46の高さ位置を測定した。このような技法によれば、ダミーパッド46は周囲温度に対して吸着パッド42と同じ膨張係数で同じ寸法だけ変形(または変位)するので、ダミーパッド46の上面の高さ位置は常に吸着パッド42の吸着面と同じ高さ位置を維持する。したがって、吸着パッド42の吸着面の高さ位置を可及的に高い精度で間接的に測定することが可能であり、信頼性の高い吸着面高さ位置プロファイルを取得することができる。
【0048】
別の実施例として、図11Aに示すように、吸着パッド42を浮上ステージ10の外側に延ばして、吸着パッド42の吸着面以外の部位の高さ位置を測定することも可能である。この間接測定法は、搬送方向と直交する水平方向(Y方向)において装置全体のサイズを大きくすることと、吸着パッド42の水平度を保つのが難しくなる不利点はあるが、実用的な精度で擬似的な吸着面高さ位置プロファイルを取得することができる。
【0049】
さらに別の実施例として、図11Bに示すように、パッド支持部材40の所定の部位(好ましくは上面)の高さ位置を測定することも可能である。一般に、吸着パッド42とパッド支持部材40の材質は異なり、したがってそれらの熱膨張率は異なるため、吸着パッド42の吸着面の高さ位置とパッド支持部材40の上面の高さ位置との間の相関性は、吸着パッド42の吸着面の高さ位置とダミーパッド46の上面の高さ位置との間の相関性よりも低い。しかし、この間接測定法によっても、実用的な精度で擬似的な吸着面高さ位置プロファイルを取得することができる。なお、監視部48の測定部(光学式距離センサ)50をレジストノズル18に取り付けることも可能である。
【0050】
さらに別の実施例として、図11Cに示すように、吸着パッド42の吸着面以外の部位たとえば下面の高さ位置を測定することも可能である。一般に、吸着パッド42の上面(吸着面)と下面の表面状態は異なり、水平度や熱的変位量も厳密には同じではない。この間接測定法によっても、実用的な精度で擬似的な吸着面高さ位置プロファイルを取得することができる。
【0051】
また、上記実施例では、2個の測定部50をノズル支持梁部22の左右両端部に取り付けて、左右両側のダミーパッド46の上面、吸着パッド42の吸着面以外の部位あるいはパッド支持部材40の所定の部位の高さ位置を測定するようにした。しかし、本発明はそのような実施例に限定されるものではなく、たとえば1個の測定部50を用いてそれらの被測定部の高さ位置を測定することも可能である。その具体例として、たとえば、1つの測定部50をレジストノズル18の長手方向に直進移動させる搬送駆動部をノズル支持梁部22に取り付けることができる。そして、該搬送駆動部により測定部50を左右に移動させることにより、左右両側の被測定部(ダミーパッド46の上面、吸着パッド42の吸着面以外の部位、パッド支持部材40の所定の部位)の高さ位置を所定のタイミングで測定することができる。あるいは、所定の期間だけ左右両側の被測定部のいずれか一方の高さ位置を測定することも可能である。
【0052】
また、上記実施形態においては、搬入領域MINにおける浮上搬送は主に左側の搬送部16Lが担当し、搬出領域MOUTにおける浮上搬送は主に右側の搬送部16Rが担当し、塗布領域MCTにおける浮上搬送は双方の搬送部16L,16Rが協働した。しかし、本発明はそのような搬送形態に限定されるものではなく、種種の変形が可能である。たとえば、浮上ステージ10の全区間で、双方の搬送部16L,16Rが協働してもよく、あるいは搬送部16L,16Rの片方だけで済ますことも可能である。
【0053】
上記した実施形態はLCD製造用のレジスト塗布装置に係るものであったが、本発明は被処理基板上に処理液を塗布する任意の塗布装置に適用可能である。したがって、本発明における処理液としては、レジスト液以外にも、たとえば層間絶縁材料、誘電体材料、配線材料等の塗布液も可能であり、現像液やリンス液等も可能である。本発明における被処理基板はLCD基板に限らず、他のフラットパネルディスプレイ用基板、半導体ウエハ、CD基板、ガラス基板、フォトマスク、プリント基板等も可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 浮上ステージ
12 噴出口
14 吸引口
18 長尺型レジストノズル
16L,16R 搬送部
26L,26R ガイドレール
28L,28R スライダ
30L,30R 保持部
32 昇降アクチエータ
34 昇降支持部材
36 パッド高さ調整部
40 パッド支持部材
42 吸着パッド
46 ダミーパッド(被測定部材)
48 監視部
50 測定部
51 モニタ演算処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の被処理基板を気体の圧力で浮かせる浮上ステージと、
前記浮上ステージ上で空中に浮く前記基板に対して搬送方向の左右片側または両側の基板縁部に下から吸着可能な吸着パッドを有する実質的にたわまない保持部と、
前記保持部を搭載し、前記保持部に保持される前記基板を前記浮上ステージ上で搬送する搬送部と、
前記浮上ステージの上方に配置される長尺型のノズルを有し、前記基板上に処理液の塗布膜を形成するために前記ノズルの下を通過する前記基板に向けて前記ノズルより処理液を供給する処理液供給部と、
前記ノズルの直下を通過する際の前記吸着パッドの高さ位置のプロファイルを監視する監視部と、
前記搬送部上の前記吸着パッドの高さ位置を調整するためのパッド高さ調整部と
を有する浮上式塗布装置。
【請求項2】
前記搬送部が、
前記ステージの左右片側または両側で搬送方向に延びるガイドレールと、
前記保持部を支持し、前記ガイドレールに沿って移動する板状または棒状のスライダと、
前記スライダを前記ガイドレールに沿って直進駆動する搬送駆動部と
を有する、請求項1に記載の浮上式塗布装置。
【請求項3】
前記保持部が、前記スライダに昇降可能に結合される搬送方向に延びる棒状または板状の第1の支持部材と、前記第1の支持部材に前記パッド高さ調整部を介して結合される搬送方向に延びる棒状または板状の第2の支持部材とを有し、前記第2の支持部材に前記吸着パッド取り付ける、請求項2に記載の浮上式塗布装置。
【請求項4】
前記保持部が、前記基板の左右片側または両側の基板縁部に対応させて、前記基板の全長に亘り前記第2の支持部材に前記吸着パッドを一列に複数並べて取り付ける、請求項3に記載の浮上式塗布装置。
【請求項5】
前記パッド高さ調整部が、搬送方向に間隔を空けて前記第1の支持部材と前記第2の支持部材との間に取り付けられる複数の垂直精密ステージを有する、請求項4に記載の浮上式塗布装置。
【請求項6】
前記保持部が、前記第1の支持部材を昇降駆動するために前記スライダに取り付けられるアクチエータを有する、請求項3〜5のいずれか一項に記載の浮上式塗布装置。
【請求項7】
前記監視部は、
前記吸着パッドの代わりに高さ位置の測定を受けるために前記第2の支持部材に取り付けられる被測定部材と、
前記ノズルの吐出口に近接する所定の監視点にてそこを通過するときの前記被測定部材の高さ位置を光学的に測定する測定部と
を有する、請求項3〜6のいずれか一項に記載の浮上式塗布装置。
【請求項8】
前記測定部は、前記吸着パッドの吸着面に対応する前記被測定部材の上面の高さ位置を測定する、請求項7に記載の浮上式塗布装置。
【請求項9】
前記被測定部材は、前記吸着パッドと同じ形状および同じ材質を有し、前記吸着パッドから見て前記第2の支持部材の外側の面に前記吸着パッドと同じ数だけ取り付けられる、請求項8に記載の浮上式塗布装置。
【請求項10】
各々の前記被測定部材は、前記第2の支持部材に取り付けられた状態で、その上面がそれと対向する前記吸着パッドの上面と面一になるように加工される、請求項9に記載の浮上式塗布装置。
【請求項11】
前記監視部は、前記ノズルの吐出口に近接する所定の監視点にてそこを通過するときの前記第2の支持部材の上面の高さ位置を上方から光学的に測定する測定部を有する、請求項3〜6のいずれか一項に記載の浮上式塗布装置。
【請求項12】
前記監視部は、前記ノズルの吐出口に近接する所定の監視点にてそこを通過するときの前記吸着パッドの下面の高さ位置を下方から光学的に測定する測定部を有する、請求項3〜6のいずれか一項に記載の浮上式塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【公開番号】特開2012−204500(P2012−204500A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66247(P2011−66247)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】