説明

液体分離用カートリッジ

【課題】タンパク質などの溶質を含む溶液から、異物の混入無く、簡便・迅速に目的の溶質を分離する装置、更に言えば、MS分析を行うための試料を簡便・迅速に調製する分画装置を提供することにある。とりわけ本装置による分離処理中の進捗状況やトラブルの発生を目視確認できるカートリッジを提供する。
【解決手段】試料を投入するユニットと、分離、濃縮、精製を行うユニットと、分離された成分を回収するユニットを閉ループから成る回路とし、ポンプローターに対して着脱可能なカートリッジ14に収納し、更にはカートリッジ14の外殻を透明にすることにより、異物混入を防止できるだけでなく、分離処理中の進捗状況やトラブルの発生を目視確認できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体成分、特にヒトの血漿、尿等に代表される原液からタンパク質などの生体分子に代表される溶質を分離するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポストゲノム研究として、プロテオーム解析研究(プロテオミクス)が注目され始めた。遺伝子産物であるタンパク質は遺伝子よりも疾患の病態に直接リンクしていると考えられることから、タンパク質を網羅的に調べるプロテオーム解析の研究成果は診断と治療に広く応用できると期待されている。しかも、ゲノム解析では発見できなかった病因タンパク質や疾患関連因子を多く発見できる可能性が高い。
【0003】
プロテオーム解析の急速に進展しだしたのは、技術的には質量分析装置(mass spectrometer: MS)による高速構造分析が可能となってきたことが大きく、MALDI-ToF-MS (matrix assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry) 等の実用化によって、ポリペプチドのハイスループット超微量分析が可能となり、従来検出し得なかった微量タンパク質までが同定可能となり、疾患関連因子の探索に強力なツールとなってきている。
【0004】
プロテオーム解析の臨床応用の第一目的は、疾患によって誘導あるいは消失するバイオマーカータンパク質の発見である。バイオマーカーは、病態に関連して挙動するため、診断のマーカーとなり得るほか、創薬ターゲットとなる可能性も高い。すなわち、プロテオーム解析の成果は、特定遺伝子よりも診断マーカーや創薬ターゲットとなる可能性が高いため、ポストゲノム時代の診断と治療の切り札(エビデンス)技術となり、同定されたバイオマーカーは患者の薬剤応答性評価や副作用発現予測という直接的に患者が享受しえる利益につながることから、いわゆるテーラーメード医療(オーダーメード医療)の推進に大きな役割を果たすといえる。
【0005】
臨床研究にプロテオーム解析(臨床プロテオミクス)を導入する場合には、大量の検体を迅速、確実に解析することが求められており、しかも臨床検体は微量で貴重なために高分解能・高感度・高機能測定を迅速に行う必要がある。この大きな推進力となったのは質量分析(mass spectrometry)であり、質量分析装置のもつ超高感度でハイスループットの特性の貢献するところが大きい。しかしながら、その手法や機器が急速に改良されてきてはいるものの、プロテオーム解析が臨床現場で簡便かつ迅速に実施できる状況には、まだない。
【0006】
その原因のひとつに臨床検体の前処理が挙げられる。質量分析にかける前の処理として臨床検体のタンパク質を分画し精製することが必要で、この処理にはまだ数日かかるのが実態であり、さらに前処理の操作が煩雑で経験も必要とされることが、臨床への応用の大きな障害となっている。少量の血液や体液から全身の疾患の診断や病態管理ができれば、その有用性は極めて大きいものの、血漿中に含まれるタンパク質の多様性のために、多くの課題を生じている。
【0007】
ヒト・タンパク質は10万種以上とも推定されているが、血清中に含まれるタンパク質だけでも約1万種類にものぼるといわれ、総量としての血清中濃度は約60〜80mg/mLである。血清中の高含量のタンパク質は、アルブミン(分子量66kDa)、免疫グロブリン(150〜190kDa)、トランスフェリン(80kDa)、ハプトグロビン(>85kDa)、リポタンパク質(数100kDa)等であり、いずれも大量(>mg/mL)に存在する。一方、病態のバイオマーカーや病因関連因子と考えられているペプチドホルモン、インターロイキン、サイトカイン等の生理活性タンパク質の多くは、極微量 (<ng/mL)にしか存在せず。その含有量比は高分子の高含量成分に比べて、実にnanoからpicoレベルである。タンパク質の大きさという点では、タンパク質全種類の70%以下は分子量60kDa以下であり、上記の極微量なバイオマーカータンパク質はいずれもこの領域に含まれる場合がほとんどである(例えば非特許文献1)。これらのタンパク質は腎臓を通過して尿中に一部排泄されるため、血液のみならず尿を検体として測定することも可能である。
【0008】
一般的な血清学的検査でプロテオーム解析するには、病因関連の微量成分検出の妨害となる分子量6万以上の高分子成分を除外することがまず必須となる。
【0009】
この高分子量タンパク質の分離手段として、現状では高速液体クロマトグラフィー (liquid chromatography: LC) や二次元電気泳動 (2 dimensional-polyacrylamide gel electrophoresis: 2D-PAGE) が用いられているが、LCや2D-PAGEの作業だけでも1〜2日を要している。この所要時間は、MALDI-TOF-MSやESI-MS (electrospray ionization mass spectrometry) 等の数分という分析時間に比べて非常に長く、MSのもつハイスループットという大きな利点が臨床プロテオーム解析では十分発揮できずにいる。このため、医療現場で診断や治療のためにできるだけ短時間に分析結果がほしいという目的には、現時点では実用性に極めて乏しいといわざるを得ず、日常の臨床検査にMSが利用しにくいひとつの大きな原因になっている。
【0010】
この点が解決されると、臨床プロテオーム解析による臨床検査の診断の迅速性は飛躍的に向上すると期待できる。具体的には、LCや2D-PAGEの代替となるような、微量の検体で高速に目的タンパク質群を分画・分離できるデバイス・装置があればよい。
【0011】
アルブミンを主な対象物質として、すでに実用化されている製品あるいは開示されている技術としては、ブルー色素などのアフィニティーリガンドを固定化した担体(たとえば、日本ミリポア社:Montage Albumin Deplete Kit(登録商標)、日本バイオ・ラッド社:AffiGel Blueゲル(登録商標))、高分子量成分を遠心分離ろ過によって分画する遠心管形式の装置(たとえば、日本ミリポア社:アミコンウルトラ(登録商標))、電気泳動原理によって分画する方法(たとえば、グラディポア社:Gradiflow(登録商標)システム)、Cohnのエタノール沈澱などの伝統的な沈殿法やクロマトグラフィーによって分画する方法(例えば非特許文献2)などがある。しかしこれらは、いずれも分離分画性能が十分ではなかったり、微量サンプルには不適当であったり、サンプルが希釈されてしまったり、あるいは質量分析等に障害となる薬剤が混入したりするなどの問題点がある。
【0012】
2D-PAGEや液体クロマトグラフィーなどの高分離能ではあるが、煩雑で時間がかかる手法よりも、簡便で短時間に高い分離能を有するデバイスが求められている。ごく最近でも、Affi-Gel Blueゲルを用いた方法(N. Ahmed et al., Proteomics, On-line版, 2003/06/23)やGradiflowシステムを用いた方法(D. L. Rothemund et al. (2003), Proteomics, vol. 3, pp279-287)などが有効な改良されたアルブミン除去法として発表されているままで、新たに簡便にして高分離能を有する手法は報告されていない。
【0013】
また、極微量のタンパク質を精度良く検知するためには異物の混入を防ぐ必要がある。
ここでいう異物とはタンパク質以外のものはいうまでもなく、目的以外の細胞や微生物も含まれる。さらに、例えばある患者の血清中のタンパク質の分析において、別の患者の血清中のタンパク質が異物となる。異物混入に対する対策が施されている装置は無い。
【0014】
蛋白質溶液から分離膜を使って蛋白質を分離・回収する方法については、例えば、特許文献1、2に開示されているが、これらの例では前者は方法のみの記載であって蛋白質分離に必須の構造を有する具体的装置を発想するまでに至っておらず、また後者は、「装置」と記載されている必須構成部分を全て備えてなる1台の分離装置については言及されておらず、更には紫外線照射による殺菌装置について記載されているものの、このような装置では細胞や微生物以外の異物には対処できない。
【0015】
また、体液中に病原体が含まれる場合に処理捜査中に病原体が漏出して作業者が感染する恐れもあるため、このような危険性も防ぐことが必要だが、上記の引用例も含めてそのような対策が採られている装置はない。
【0016】
これらを解決する方法や装置の開発により、医学研究ならびに臨床現場でプロテオーム解析が広く行われるようになり、より迅速で高精度な検査や診断が可能となって、有用な治療法がない難治性の疾患の原因究明や早期の診断法の開発には強力なツールとなると期待できる。
【非特許文献1】アンダーソン・NL(Anderson NL),アンダーソン・NG( Anderson, NG)著,「ザ・ヒューマン・プラズマ・プロテオーム:ヒストリー・キャラクター・アンド・ダイアグノスティック・プロスペクツ (The human plasma proteome: history, character, and diagnostic prospects)」,モレキュラー・アンド・セルラー・プロテオミクス(Molecular & Cellular Proteomics),(米国),ザ・アメリカン・ソサエティー・フォー・バイオケミストリー・アンド・モレキュラー・バイオロジー・インコーポレーテッド(The American Society for Biochemistry and Molecular Biology, Inc.),2002年,第1巻,p845-867.
【非特許文献2】日本生化学会編,「新生化学実験講座(第1巻)タンパク質(1)分離・精製・性質」, 東京化学同人, 1990年
【特許文献1】特開昭59-116223
【特許文献2】特許第3261875号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、タンパク質などの溶質を含む溶液から、異物の混入無く、簡便・迅速に目的の溶質を分離する装置、更に言えば、MS分析を行うための試料を簡便・迅速に調製する分画装置を提供することにある。とりわけ本装置による分離処理中の進捗状況やトラブルの発生を目視確認できるカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本発明は以下の構成からなる。
(1)体液、または生体成分を含有する液の生体成分の一部又は全部を分離する液体分離用カートリッジであって、
1)試料を供給するための供給部と、
2)供給部から供給された液に対し、分離、濃縮および精製から選ばれる1種以上の操作を行う1以上のユニットと、
3)2)のユニットを経て得られた成分を回収する回収部と
の少なくとも一部が、少なくとも一部が透明な収納容器に収納されていることを特徴とする液体分離用カートリッジ。
(2)前記カートリッジが、カートリッジの外に配置されるロータリー型チューブポンプのローターに対峙するための圧搾部を外壁に有する(1)記載の液体分離用カートリッジ。
(3)1)〜3)を接続するチューブの一部が前記圧搾部の外側に配設されていることを特徴とする(2)載の液体分離用カートリッジ。
(4)1)〜3)およびこれらを接続する回路が閉鎖回路であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかの液体分離用カートリッジ。
(5)2)のユニットが分離膜を含むものである(1)〜(4)いずれかの液体分離用カートリッジ。
(6)膜が中空糸膜であることを特徴とする(5)の液体分離用カートリッジ。
(7)装置本体上に、ロータリー式チューブポンプおよび(1)〜(6)いずれかの液体分離用カートリッジを有する液体分離装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明による閉鎖回路を収納した透明カートリッジを備えた装置を使うことによって、検体のコンタミネーションおよびバイオハザードの防止しながら、体液から異物の混入無く、簡便・迅速に必要な成分を効率よく分離、濃縮、精製することができる。本発明の装置はディスポーザブルカートリッジにすることができ、検体からの汚染の回避や分析の再現性の確保の点からも大きな利点である。とりわけカートリッジ外殻を透明にすることにより、本装置による分離処理中の進捗状況やトラブルの発生を目視確認でき、より安全、確実に操作することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明でいう分画とは溶液中の溶質を分離することであり、溶質が複数含まれている場合には、その全部または一部を分離することを指す。特に体液のMSによるプロテオーム分析の前処理の場合には、回収目的のタンパク質と廃棄目的のタンパク質を弁別することをいう。
【0021】
本発明において、上述の1)〜3)の少なくとも一部が、少なくとも一部が透明な収納容器に内蔵されてカートリッジとなっていることが必要である。
【0022】
本発明のカートリッジは試料を供給するための供給部を備えている。試料を投入する方法は特に限定されるものではないが、注射器に採取した試料を手動あるいはシリンジポンプ等を用いて、三方活栓あるいはゴムボタンを通してに投入する方法や、試料の入ったバックに接続された送管を、三方活栓に接続してローラーポンプで投入する方法が密閉性が高く、投入速度を制御できる点で好ましい。
【0023】
本発明のカートリッジでは、供給部から供給された液に対し、分離、濃縮および精製から選ばれるする少なくとも1種の操作を行うユニット を備えている。これらの手段は膜を内蔵するものであることが好ましい。本発明において使用される膜は、セルロース、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアミドナイロン、ポリ沸化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より1種類以上選択される素材を含むフィルターあるいは中空糸を用いることにより一層効率的に目的とする溶質成分を分離することができる。平面フィルター、カートリッジ式フィルター等の平膜型分離膜(フィルター)、中空糸等の中空状分離膜(中空糸)のいずれも用いることができる。これらのフィルターあるいは中空糸に、抗体やそのフラグメント、ポリエチレンイミン、アミノメチルピリジン、ポリフェノール、ブルー色素、2価金属イオン(Zn2+, Ni2+, Co2+, Cu2+等)および疎水性化合物(メチル基、ベンジル基、フェニル基、クロロメチル基、オクチル基、ラウリル基等)からなる群より1種類以上選択される物質(リガンド)を固定化することにより、フィルターあるい中空糸に溶質への親和性を付与できる。MS分析用の試料の前処理に使用する場合には、アルブミンをはじめとする、MS分析に不要なタンパク質を吸着除去する機能を付与することができる。本発明では、処理液量あたりの表面積が大きく、操作上の圧損が少ないという理由で、特に中空糸が好ましく用いられる。膜の分子分画性能に関しては、回収したい溶質の分子量と除去したい溶質の分子量を考慮して、分子分画能(カットオフ値)を適宜選択できる。この回路に送液ポンプが設置されていることが好ましく、ポンプによってモジュール内の中空糸の中を処理液が循環出来る構造になっている。
【0024】
さらに、2)のユニットを経て得られた成分を回収する回収部としては通常の回収用容器が使用できる。
【0025】
本発明のカートリッジにおいては、装着の利便性と安定性の確保のために、供給部と、分離、濃縮または精製を行うユニットと、回収部とが構成する回路が、大気に開放されていない、すなわち閉鎖回路となしていることが好ましい。圧搾部カートリッジはチューブポンプのに直接着脱可能か、チューブポンプを支持する部位に対して着脱可能なものであることが好ましい。またカートリッジはディスポーザブルであることがより好ましい。さらにカートリッジの外壁の一部が、カートリッジの外に配置されるロータリーチューブポンプのローターに対峙することができる圧搾部となっていることが好ましい。さらには各ユニットを接続するチューブの一部が圧搾部の外壁の近傍に配設されていることが好ましい。その結果、本発明のカートリッジとロータリーチューブポンプとを簡単に連結することができ、簡便に分離操作を開始することができる。
【0026】
カートリッジの圧搾面にチューブを取り付ける方向は、カラムのポートの方向と一致させる。また、カートリッジの圧搾を受ける面にはカラムと同数の溝が形成されており、この溝にチューブを埋めることによってチューブの位置がしっかりと固定出来る。複数の溝に配置された複数のチューブを一つのローターで同時に圧搾する場合、ローター駆動部から遠ざかるにつれて回転ぶれが大きくなるために圧搾精度は悪くなる。圧搾の精度を維持するためには、ローター駆動部(反操作側)のより近くにチューブが配置されるようにカートリッジを設置することが好ましい。精度が狂うとチューブが押さえつけられなくなり定量送りができなくなる。カートリッジを本体に簡便かつ正確に装着させるために、圧搾部にガイド穴を備えることが好ましい。チューブポンプ側にもガイド軸を設けておけば、前記ガイド穴にガイド軸を貫通させることで容易に装着が行われる。続いて、圧搾部カートリッジを固定させることによってチューブが蠕動ローラーポンプの回転ローターと適正な距離を保持させ、チューブポンプを作動させることによってカートリッジ内の回路の中で試料を含む溶液が送液される。
【0027】
本発明は生体成分、特にヒトの血漿、血清、尿、唾液、涙液、脳脊髄液、腹水、胸水、羊水、リンパ液等からの生体分子の分離に適する。このようにして得られた分析検体は、液体クロマトグラフ、電気泳動、MS等の各種のタンパク質分析に有用であるが、特に好ましくは電気泳動やMSを用いたプロテオーム解析に有用である。
【0028】
本装置の後に直接あるいは間接的に適用できるMSは特に限定されないが、イオン化部分として、電子スプレーイオン化型、大気圧イオン化型、高速原子衝突型、四重極型、サイクロトロン共鳴型、磁気セクター型、マトリックス支援レーザー破壊イオン化型などが、イオン補足型、飛行時間型、フーリエ変換型などの質量分析部と適宜組み合わせて用いられる。この場合、MS/MS、MSなどのタンデムMSやFT-MSとして用いることもできる。タンデムMSの場合は、全てのタイプのMSが適用可能であるが、特にイオン捕捉型、四重極−飛行時間(Q-TOF)型、FT-MSなどの組合せで使用することが効率がよい。
【0029】
本装置との組み合わせによる分析により、各種微量タンパク質成分の構造情報を集めることができるが、それらはペプチド・マスフィンガープリント(peptide-mass fingerprint: PMF)のみならず、各ペプチドの一次構造情報(アミノ酸配列)も含まれる。
【0030】
以下、本発明の水溶液中タンパク質成分を分離する方法およびタンパク質分画装置の一態様例について図を用いながら説明するが、本発明はこれに規定されるものではない。
【実施例】
【0031】
(実施例)
図1、2、3は、本発明の分画装置の図である。図1は分離部が3段階のユニットによって構成されているもものである。回路の組み立ては以下のとおりとした。
【0032】
ゴムボタン2bに3方継手2aと継手2cを接続した。フレキシブルなチューブを用いて継手2cと中空糸膜モジュール5aの下ノズル6aを多チャンネル式圧搾部8の曲面に這うようにして接続した。更に、3方継手2aをチューブ付きバック12を接続した。分離部を構成する中空糸膜モジュール5a、5b、5cと、濃縮部を構成する中空糸膜モジュール5dと多チャンネル式圧搾部8とを一体化し、各中空糸膜モジュール5a、5b、5c、5dの上端に備えた上ノズル4a、4b、4c、4dにフレキシブルなチューブを接続し、多チャンネル式圧搾部8の曲面に這うようにして各々のチューブを設置し、下ノズル6a、6b、6c、6dに各々接続した。次に、中空糸膜モジュール5aの胴体ノズル7aと中空糸膜モジュール5bの下ノズル6bとを、中空糸膜モジュール5bの胴体下ノズル7bと中空糸膜モジュール5cの下ノズル6cとを、中空糸膜モジュール5cの胴体下ノズル7cと中空糸膜モジュール5dの下ノズル6dとを各々配管接続した。中空糸膜モジュール5dの胴体下ノズル7dと3方継ぎ手2aとを配管接続した。更に中空糸膜モジュール5dの下ノズル6dと回収容器キャップ12とを、中空糸膜モジュール5dの上ノズル4dと回収容器キャップ12とを接続した。透明であって回収部となる回収容器11に回収容器キャップ12を密閉した。上記に記した全ての中空糸膜モジュール、ノズル、チューブ、継手、チューブ付きバック13、回収容器11、回収容器キャップ12を閉鎖回路とした。この閉鎖回路内には移動相である水系の緩衝液が充填された。
【0033】
図2に示すように、上記回路を一部が透明なプラスチックからなる窓15を有する収納容器13に収納しカートリッジ14とした。
【0034】
そして図3に示す装置を組み立てた。液体分離装置Mには多チャンネル式のロータリー型チューブポンプのローター9が装備されている。さらに各ローターの周囲には回転自在なローラーが装着されている。カートリッジに存在する圧搾部8のガイド穴8a、8bにガイド軸8a、8bが貫通するかたちで、カートリッジを押し込むことによって、カートリッジを固定した。固定されたカートリッジ14はチューブポンプのローター9の側に平行移動し、チューブポンプのローターの周囲に回転自在に配設されたローラーと圧搾部8と圧搾部8の外壁曲面に設置された7本のチューブとにより送液システムを形成した。
【0035】
さらに多チャンネル式のチューブポンプのローター9の上方にはシリンジポンプ1が取り付けられている。各ローター9にはモーター(図示していない)が各々取り付けられた。
【0036】
図1に戻り実際の操作を説明する。液の流れを矢印で示してある。血清などの原液を封入したシリンジ1の針を供給部のゴムボタン2bに刺した後、試料はシリンジポンプによって制御された速度で投入された。投与された原液は移動相と混じり合いながら、モーターによって駆動されるローター9aのローラー(図示していない)によって搬送されながら分離部の中空糸膜モジュール5aに送液された。モーターによって駆動されるローター9bのローラー(図示していない)によって中空糸膜モジュール5aを循環する間に生成した濾液は胴体ノズル7aから出て、後段の中空糸膜モジュール5bにローター9bのローラー(図示していない)によって搬送された。中空糸膜モジュール5bの濾液は、更に後段の中空糸膜モジュール5cに搬送された。このように原液の溶質は分離部を形成中空糸膜モジュール5a、5b、5cで分画された。中空糸膜モジュール7cの濾液は、濃縮部の中空糸膜モジュール7dに搬送された。中空糸膜モジュール7dを循環する間に生成した濾液は胴体ノズル7aから出て継手2aを介して供給部に返送された。中空糸膜モジュール7cの濾液は、濃縮部の中空糸膜7dに搬送された。分離部と濃縮部における液の循環と送液はローター9bのローラー(図示していない)によって行われた。指定された時間が経過した後、回転ローター9a、9bは停止し、モーターによって駆動される回転ローター9cが始動した。これにより回収容器10内にある空気が濃縮部内の回路にある濃縮液を押し出し、得られた成分である濃縮液は下ノズル6dを通り回収容器11に回収された。
【0037】
カートリッジを構成する収納容器が透明であったため、操作に異常がないことを確認できるとともに、回収部に所望の成分が蓄積していることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】供給部、液体操作を行うユニット、回収ユニットより成るシステムおよび圧搾部の外観図。
【図2】図1の装置を収納容器に収納した状態のカートリッジの外観図。
【図3】本発明のカートリッジが装着された液体分離装置。(A)は平面図、(B)は左側面図。
【符号の説明】
【0039】
5a,5b、5c:中空糸膜モジュール
8:圧搾部
8a、8b:ガイド穴
9:チューブポンプのローター
11:回収容器
14:カートリッジ
15:窓
M:液体分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液、または生体成分を含有する液の生体成分の一部又は全部を分離する液体分離用カートリッジであって、
1)試料を供給するための供給部と、
2)供給部から供給された液に対し、分離、濃縮および精製から選ばれる1種以上の操作を行う1以上のユニットと、
3)2)のユニットを経て得られた成分を回収する回収部と
の少なくとも一部が、少なくとも一部が透明な収納容器に収納されていることを特徴とする液体分離用カートリッジ。
【請求項2】
前記カートリッジが、カートリッジの外に配置されるロータリー型チューブポンプのローターに対峙するための圧搾部を外壁に有する請求項1に記載の液体分離用カートリッジ。
【請求項3】
1)〜3)を接続するチューブの一部が前記圧搾部の外側に配設されていることを特徴とする請求項2に記載の液体分離用カートリッジ。
【請求項4】
1)〜3)およびこれらを接続する回路が閉鎖回路であることを特徴とする請求項1〜3いずれかの液体分離用カートリッジ。
【請求項5】
2)のユニットが分離膜を含むものである請求項1〜4いずれかの液体分離用カートリッジ。
【請求項6】
膜が中空糸膜であることを特徴とする請求項5記載の液体分離用カートリッジ。
【請求項7】
装置本体上に、ロータリー式チューブポンプおよび請求項1〜6いずれかの液体分離用カートリッジを有する液体分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−234607(P2006−234607A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50284(P2005−50284)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】