説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】歩留まりを向上し得る液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】金属以外の材料からなる仮基板400上に絶縁体膜55を形成し、該絶縁体膜55上に圧電体層70を形成し、圧電体層70をパターニングし、圧電体層70上に下電極膜60を形成し、下電極膜60上に振動板を構成する弾性膜56及び保護膜57を順次積層し、圧力発生室12が形成された流路形成基板10に、圧電体層70が振動板を介して圧力発生室12に対向するよう仮基板400を接合し、仮基板400を除去することにより絶縁体膜55を露出させ、絶縁体膜55の圧力発生室12に対向する領域を除去して開口部を形成し、開口部を介して露出した圧電体層70に接続する上電極膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、液滴と
してインク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド等がある。
【0003】
このような圧電素子としては、電気機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層を、下電極と上電極との2つの電極で挟んで構成されたものがある。
【0004】
この圧電体層(圧電体膜)は、例えば次のように形成される。まず、下電極上にゾル−ゲル法により1層目の圧電体前駆体膜を形成すると共にこの圧電体前駆体膜を焼成して結晶化して圧電体膜を形成する。そして、この圧電体膜を順次積層することで所定の厚さの圧電体層が形成される(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−306709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、強誘電体材料からなる圧電体前駆体膜を結晶化させるための焼成工程においては、下電極を構成する金属が該下電極上の圧電体層に拡散することにより、圧電体層にひびやクラックが生じる虞がある。このため、インクジェット式記録ヘッドの製造においては、圧電体層に生じたひびやクラックによる不良の発生で歩留まりが低下するという問題がある。
【0007】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、歩留まりを向上し得る液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の態様は、液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の前記圧力発生室に相対向する領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、金属以外の材料からなる仮基板上に、強誘電体材料からなる圧電体前駆体膜を形成すると共に前記圧電体前駆体膜を結晶化させるための熱処理工程を行って圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層を所定形状にパターニングする工程と、前記圧電体層上に下電極を形成し、該下電極上に振動板を形成する工程と、前記圧力発生室が形成された前記流路形成基板に、パターニングされた前記圧電体層が前記振動板を介して前記圧力発生室に対向するように前記仮基板を接合する工程と、前記仮基板を除去することにより前記圧電体層を露出させる工程と、露出した前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、圧電体層を形成する工程では、金属以外の材料からなる仮基板上に圧電体層を形成するため、金属が圧電体層に拡散して圧電体層にひびやクラックが発生することを防止できる。これにより、液体噴射ヘッドの歩留まりを向上することができる。
【0010】
ここで、前記圧電体層を形成する工程の前に、前記仮基板上に絶縁体膜を形成する工程を具備し、前記圧電体層を露出させる工程では、前記仮基板を除去することにより前記絶縁体膜を露出させ、前記上電極を形成する工程では、露出した前記絶縁体膜の前記圧電体層に対向する領域を除去して開口部を形成し、該開口部を介して露出した前記圧電体層に接続する上電極を形成することが好ましい。これによれば、絶縁体膜により圧電体層を構成する上電極と下電極とを確実に絶縁することができる。
【0011】
また、前記絶縁体膜を形成する工程では、シリコン単結晶基板からなる前記仮基板上に酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜を形成することが好ましい。これによれば、圧電体層の形成工程において、圧電体層の成分がシリコン単結晶基板に拡散することが防止される。
【0012】
また、前記圧電体膜を形成する工程では、前記圧電体前駆体膜を700℃〜1000℃で焼成することにより前記圧電体膜を形成することが好ましい。これによれば、最良の圧電特性を有する圧電体層を形成できる。これにより、液体の吐出特性に優れた液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0013】
また、前記振動板を形成する工程では、前記下電極上に弾性膜を形成し、該弾性膜上に前記液体に対して耐性を有する保護膜を形成することにより前記保護膜及び前記弾性膜からなる振動板を形成することが好ましい。これによれば、液体に対する耐性を有する保護膜が形成されているので、圧力発生室内の液体により弾性膜が侵食されることを防止できる。
【0014】
また、前記仮基板を接合する工程では、前記圧力発生室と前記ノズル開口とが一体的に形成されたシリコン単結晶基板からなる前記流路形成基板に前記仮基板を接合することが好ましい。これによれば、圧力発生室とノズル開口とが予め一体形成されたシリコン単結晶基板を用いるので、液体噴射ヘッドの製造工程を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図、図2は、図1の平面図及びそのA−A´線断面図である。
【0016】
これらの図に示すように、流路形成基板10は、本実施形態では板厚方向の結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10には、液体流路を構成する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15と、ノズル開口21とが一体形成されている。詳言すると、流路形成基板10の一方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍には、流路形成基板10の他方面に開口するノズル開口21が設けられている。また、各列の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。すなわち、本実施形態では、流路形成基板10に液体流路として、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15が形成されている。
【0017】
連通部13は、後述する保護基板30のリザーバ部31と連通して圧力発生室12の列毎に共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。本実施形態では、インク供給路14は、圧力発生室12及び連通路15の一方の幅を狭めることで形成されているが、特にこれに限定されず、例えば圧力発生室12及び連通路15の両側の幅を狭めることでインク供給路14を形成するようにしてもよく、厚さ方向に絞ることでインク供給路14を形成してもよい。
【0018】
一方、流路形成基板10のノズル開口21とは反対側の面には、後述するプロセスにより予め積層形成された保護膜57、弾性膜56、下電極膜60、圧電体層70、上電極膜80、及び絶縁体膜55が設けられている。この保護膜57は、液体、例えば、インクに対して耐性を有し、その保護膜57によって覆われる基板や膜が液体で侵食されることを抑制するために用いられる膜である。この保護膜57上には、二酸化シリコン(SiO)等からなる弾性膜56が形成されている。また、弾性膜56上には、所定形状にパターニングされた下電極膜60が形成され、下電極膜60上には、各圧力発生室12に対向するように圧電体膜の一例であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70が形成されている。さらに、弾性膜56、下電極膜60、及び圧電体層70上には、各圧電体層70に対向する領域に開口部55aを有する絶縁体膜55が形成され、開口部55aに露出した圧電体層70上に上電極膜80が形成されている。そして、流路形成基板10のノズル開口21とは反対側の面が、接着剤16を介して保護膜57に接合されることで、保護膜57、弾性膜56、下電極膜60、圧電体層70、上電極膜80、及び絶縁体膜55は流路形成基板10に固定されている。
【0019】
なお、保護膜57は、弾性膜56が圧力発生室12内のインクにより侵食されることを抑制するものであり、具体的には、保護膜57は酸化アルミニウムからなるが、他にも酸化タンタル(TaO)からなるものでもよく、この具体例は例示的列挙に過ぎない。また、絶縁体膜55は、下電極膜60と上電極膜80との短絡を防止している。
【0020】
ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0021】
また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。上述した例では、保護膜57、及び弾性膜56が振動板として作用する。
【0022】
圧電体層70は、下電極膜60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でもペロブスカイト構造の強誘電体材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜を用いるのが好ましく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができるが本件の課題の対象となる材料がこれらの材料に限定されるものではないことを付言する。
【0023】
また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、アルミニウム(Al)等からなるリード電極90が接続されている。なお、絶縁体膜55には、下電極膜60の一部に対向する領域にも開口部55bが設けられており、開口部55bに露出した下電極膜60の一部には、開口部55bから引き出され絶縁体膜55上にまで延設されるリード電極90が接続されている。
【0024】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、保護膜57、弾性膜56、絶縁体膜55)にリザーバと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0025】
保護基板30には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。なお、圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0026】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0027】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、貫通孔33を挿通させたボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0028】
保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料の面方位(110)のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0029】
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルムからなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料、例えば、ステンレス鋼(SUS)等で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0030】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、保護膜57及び弾性膜56をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出される。
【0031】
ここで、インクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図6を参照して説明する。なお、図3〜図6は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0032】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハからなる仮基板400の表面に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。具体的には、仮基板400上に、例えば、スパッタリング法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。酸化ジルコニウムを形成することで、次の工程で形成される圧電体層の成分が仮基板400に拡散することが防止される。
【0033】
次いで、図3(b)に示すように、圧電体層70を形成し、所定形状にパターニングする。ここで、本実施形態では、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。
【0034】
ゾル−ゲル法、MOD法を用いた圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、絶縁体膜55上に圧電体前駆体膜を成膜する。すなわち、絶縁体膜55上にペロブスカイト構造の強誘電体材料を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜に含まれる有機成分を、例えば、NO、CO、HO等として離脱させることである。
【0035】
そして、圧電体前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、1層目の圧電体膜を形成する(焼成工程)。本実施形態の焼成工程では、圧電体前駆体膜を700℃〜1000℃で焼成する。かかる範囲の焼成温度は、最良の圧電特性を有する圧電体層を形成し得るものである。以降、これらの塗布工程、乾燥工程、脱脂工程、焼成工程を複数回繰り返して所望の厚さの圧電体層70を形成する。なお、このような乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
【0036】
このように、本発明に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、金属以外の材料からなり下電極膜が形成されていない仮基板400上に圧電体層70を形成するので、従来技術の如く下電極膜から圧電体層に金属が拡散することはない。これにより、圧電体層70に、金属の拡散に起因するひびやクラックが発生することを防止できる。
【0037】
次に、図3(c)に示すように、絶縁体膜55及び圧電体層70上に、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを積層することにより下電極膜60を形成し、その後、下電極膜60を所定形状にパターニングする。下電極膜60は、例えばスパッタリング法により形成できる。なお、下電極膜60は、白金とイリジウムとを積層したものに限定されず、これらを合金化させたものを用いるようにしてもよい。また、下電極膜60として、白金とイリジウムの何れか一方の単層として用いるようにしてもよい。さらに、これらの材料以外の金属又は金属酸化物等を用いるようにしてもよく、例えば、チタン(Ti)を用いることもできる。
【0038】
次に、図4(a)に示すように、下電極膜60上に弾性膜56及び保護膜57を順次積層形成する。弾性膜56は、例えば二酸化シリコン(SiO)からなり、CVD法により形成できる。また、保護膜57は、例えば酸化アルミニウム(AlO)からなり、CVD法、スパッタリング法等によって形成できる。なお、保護膜57は、圧力発生室12内のインクに対して耐性を有する材料から形成されていればよく、他にも酸化タンタル(TaO)でもよい。
【0039】
次に、流体流路を構成する圧力発生室12、インク供給路14、連通路15、及び連通部13と、ノズル開口21とが予め一体的に形成されたシリコン単結晶基板からなる流路形成基板用ウェハ110と、仮基板400とを接合する。
【0040】
詳言すると、図4(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の一方面側に設けられた圧力発生室12に、仮基板400に形成された圧電体層70を相対向させ、図4(c)に示すように、仮基板400の保護膜57側に流路形成基板用ウェハ110を接着剤16を介して接合する。これにより、圧電体層70が保護膜57及び弾性膜56(振動板)を介して圧力発生室12に相対向して配置される。このとき、保護膜57の圧電体層70に対向する領域は、流路形成基板10の保護膜57側の上面よりも圧力発生室12側に突出する。
【0041】
次に、図5(a)に示すように、仮基板400を除去する。例えばKOH溶液を用いてウェットエッチングを行うことにより仮基板400を除去する。これにより、絶縁体膜55が露出する。
【0042】
次に、図5(b)に示すように、所定形状のレジスト等のマスクパターン(図示せず)を絶縁体膜55上に形成し、絶縁体膜55の圧電体層70に対向する領域をドライエッチングにより除去する。このドライエッチングにより、絶縁体膜55に開口部55aが形成され、開口部55aに圧電体層70が露出する。なお、このとき、下電極膜60の一部に対向する領域もドライエッチングにより除去しておく。このドライエッチングにより、絶縁体膜55に開口部55bが形成され、開口部55bに下電極膜60の一部が露出する。
【0043】
次に、図5(c)に示すように、開口部55aに露出した圧電体層70上に、例えば、イリジウム(Ir)からなる上電極膜80をスパッタリング法により形成し、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80からなる圧電素子300を形成する。なお上電極膜80はイリジウムに限定されず、例えば、チタン(Ti)を用いることもできる。
【0044】
次に、図6(a)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って例えばスパッタリング法によりアルミニウム膜を形成し、その後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。また、このとき、開口部55bに露出した下電極膜60からリード電極90が延設されるようにパターニングする。なお、リード電極90はアルミニウムに限定されず、ニッケル、クロム、金、銅、白金又はイリジウムでもよく、複数種の金属としてもよい。
【0045】
次に、図6(b)に示すように、保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35を介して接着する。ここで、この保護基板用ウェハ130は、保護基板30が複数一体的に形成されたものであり、保護基板用ウェハ130には、リザーバ部31及び圧電素子保持部32が予め形成されている。
【0046】
その後は、流路形成基板10の連通部13と保護基板用ウェハ130のリザーバ部31とに介在する保護膜57、弾性膜56、及び絶縁体膜55とを除去してリザーバ100を形成する。更に、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0047】
以上に説明したように、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、圧電体層70を結晶化させるための熱処理工程では、金属以外の材料からなる仮基板400上に圧電体層70を形成するため、金属が圧電体層70に拡散してしまうことによって圧電体層70にひびやクラックが発生することを防止できる。これにより、インクジェット式記録ヘッドの歩留まりを向上することができる。
【0048】
また、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、下電極膜等の金属上ではなく絶縁体膜上において、700℃〜1000℃の焼成温度で圧電体層を形成するので、金属の拡散により圧電特性を低下させることなく、最良の圧電特性を有する圧電体層を形成できる。これにより、インクの吐出特性に優れたインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。上述の実施形態では、仮基板400上に絶縁体膜55を形成した後、絶縁体膜55上に圧電体層70を形成したが、特にこれに限定されない。例えば、圧電体層に上電極膜を形成する前に、絶縁体膜を形成してもよい。すなわち、まず、仮基板上に圧電体層を形成して所定形状にパターニングし、圧電体層上に下電極膜、振動板を順次積層形成し、流路形成基板に仮基板を接合し、次いで、仮基板を除去することにより露出した圧電体層に絶縁体膜を形成し、該絶縁体膜の圧電体層に対向する領域を除去して開口部を形成し、該開口部に露出した圧電体層に接続する上電極膜を形成してもよい。さらに、下電極膜と上電極膜とが短絡しないように下電極膜及び上電極膜を適宜パターニングすれば、絶縁体膜を必ずしも設ける必要はない。
【0050】
また、例えば、流路形成基板としてシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス基板、MgO基板等においても本発明は有効である。同様に、保護基板用ウェハとしてシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス基板、MgO基板等であってもよい。
【0051】
また、上述の実施形態では、流路形成基板10には、液体流路である圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15とノズル開口21とが、一つのシリコン単結晶基板に形成されているが、これらは別々の部材に形成されたものであってもよい。例えば、圧力発生室等の液体流路が設けられた流路形成基板の一方面に、圧力発生室に連通するノズル開口が設けられたノズルプレートを接合してもよい。
【0052】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図4】実施形態に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】実施形態に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】実施形態に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 55 絶縁体膜、 56 弾性膜、 57 保護膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 120 駆動回路、 300 圧電素子、 400 仮基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の前記圧力発生室に相対向する領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
金属以外の材料からなる仮基板上に、強誘電体材料からなる圧電体前駆体膜を形成すると共に前記圧電体前駆体膜を結晶化させるための熱処理工程を行って圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層を所定形状にパターニングする工程と、
前記圧電体層上に下電極を形成し、該下電極上に振動板を形成する工程と、
前記圧力発生室が形成された前記流路形成基板に、パターニングされた前記圧電体層が前記振動板を介して前記圧力発生室に対向するように前記仮基板を接合する工程と、
前記仮基板を除去することにより前記圧電体層を露出させる工程と、
露出した前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記圧電体層を形成する工程の前に、前記仮基板上に絶縁体膜を形成する工程を具備し、
前記圧電体層を露出させる工程では、前記仮基板を除去することにより前記絶縁体膜を露出させ、
前記上電極を形成する工程では、露出した前記絶縁体膜の前記圧電体層に対向する領域を除去して開口部を形成し、該開口部を介して露出した前記圧電体層に接続する上電極を形成する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記絶縁体膜を形成する工程では、シリコン単結晶基板からなる前記仮基板上に酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜を形成する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記圧電体膜を形成する工程では、前記圧電体前駆体膜を700℃〜1000℃で焼成することにより前記圧電体膜を形成する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記振動板を形成する工程では、前記下電極上に弾性膜を形成し、該弾性膜上に前記液体に対して耐性を有する保護膜を形成することにより前記保護膜及び前記弾性膜からなる振動板を形成する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記仮基板を接合する工程では、前記圧力発生室と前記ノズル開口とが一体的に形成されたシリコン単結晶基板からなる前記流路形成基板に前記仮基板を接合する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−208411(P2009−208411A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55633(P2008−55633)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】