説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】衝撃が加わったことによるメニスカスの破壊に起因する噴射不良を抑制することが可能な液体噴射ヘッド、および液体噴射装置を提供すること。
【解決手段】インク供給針26には、液体の流路となる貫通部28と、当該貫通部28よりも下流側であって、貫通部28よりも流路の内径が広くなるように設けられ、フィルター27が配置されるフィルター室31と、保持部材には、フィルター27よりも下流側に配置された拡大部24と、当該拡大部24よりも下流側に配置され、拡大部24よりも流路の内径が狭くなるように設けられた流路形成管25と、が設けられ、フィルター室31、拡大部24、及び流路形成管25の少なくとも一つの流路壁が可撓膜32からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液滴を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に、インクカートリッジからインクを供給してノズル開口からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドは、一般的に、インクが充填された液体貯留手段であるインクカートリッジを備えている。インクは、このインクカートリッジに着脱可能に挿入される液体供給針としてのインク供給針、インクカートリッジが保持される保持部材に形成された液体流路としてのインク供給路及び流路形成管を介してヘッド本体に供給される。そして、ヘッド本体に設けられた圧電素子等の圧力発生手段を駆動させることによりヘッド本体に供給されたインクがノズル開口から吐出される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−254211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット式記録ヘッドでは、インクジェット式記録装置及びインクカートリッジに外的作用(衝撃)が加わることにより、インクカートリッジとインクジェット式記録ヘッドとの間に相対変位が発生する。この相対変位により、インクが急激に、インク供給路及び流路形成管を介してインクジェット式記録ヘッド内へ流動する。インクの急激な流動とともに、インクジェット式記録ヘッド内を圧力が伝播してノズル開口まで達し、ノズル開口に形成されているメニスカスが壊れ、吐出不良が生じてしまう虞がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑み、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に加わった衝撃により引き起こされたメニスカスの破壊に起因する噴射不良を抑制することが可能な液体噴射ヘッド、および液体噴射装置を提供することを目的とする。
【0006】
なお、このような問題は、その他の液体噴射ヘッド、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等においても同様に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る液体噴射ヘッドは、液体をノズル開口から噴射させるための圧力発生素子が配置されたヘッド本体と、外部からの液体の導入を受ける液体供給針と、当該液体供給針からの液体をフィルターを介して前記ヘッド本体に供給する保持部材と、を備えた液体噴射ヘッドであって、前記液体供給針には、液体の流路となる貫通部と、当該貫通部よりも下流側であって、前記貫通部の流路の内径よりも流路の内径が広いフィルター室とが設けられ、前記フィルターは、前記フィルター室に配置され、前記保持部材には、前記フィルターよりも下流側に配置された拡大部と、当該拡大部よりも下流側に配置され、前記拡大部の流路の内径よりも流路の内径が狭い流路形成管とが設けられ、前記フィルター室、及び前記流路形成管の少なくとも一つの流路を形成する流路壁が、変形可能な可撓膜を備えている。
この構成によれば、液体噴射ヘッドに対して外的衝撃が加えられた時に、可撓膜が変形することにより、発生圧力を吸収し、ノズル開口側への圧力伝播が抑えられる。したがって、圧力伝播によるメニスカスの破壊に起因する吐出不良を抑制することができる。
【0009】
[適用例2]上記適用例に記載の液体噴射ヘッドであって、前記流路の前記可撓膜を挟んだ反対側には、前記可撓膜と空間を空けて配置された、前記可撓膜よりも剛性の大きい外壁が形成されている。
この構成によれば、可撓膜よりも剛性の大きい外壁を備えているため、外部から液体供給針内へ窒素ガスが透過し、浸入することを減少することができ、フィルター室内の気泡が成長することを抑制することができる。また、液体噴射ヘッドに対して外的衝撃が加えられた時に、可撓膜が変形しようとするが、外壁と可撓膜との間に空間を備えているため、当該可撓膜の変形を外壁が阻害しない。そのため、液体噴射ヘッドに対して外的衝撃が加えられても、十分に圧力を吸収し、ノズル開口側への圧力伝播を抑えることができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例に記載の液体噴射ヘッドであって、前記空間が、前記外壁に形成された開放孔によって大気に開放されている。
この構成によれば、液体噴射ヘッドに外的衝撃が加えられた時に、可撓膜が変形することにより、発生した圧力を吸収し、ノズル開口側への圧力伝播を抑えることができると同時に、可撓膜を露出することにより、可撓膜が外壁等の障害物に接触することなく自由に変形することができ、圧力伝播の抑制効果を上げることができる。また、可撓膜を露出させることで、可撓膜の自由変形を誘引しているため、可撓膜の配置面積を小さくすることで液体噴射ヘッドの小型化に寄与し、且つ、発生した圧力を十分に吸収できる。
【0011】
[適用例4]本適用例に係る液体噴射装置は、上記に記載の液体噴射ヘッドと、前記ヘッド本体の前記ノズル開口が形成された面に当接する当接部材と、前記当接部材に接続して、前記ノズル開口から液体を吸引させる吸引ポンプとを有する。
この構成によれば、液体供給針の気泡を排出するクリーニング動作時に可撓膜が変形して、可撓膜が形成された流路の容積を減らすことができ、クリーニング動作後の流路内の残気泡を減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態1に係るインクジェット式記録装置の概略斜視図。
【図2】実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図。
【図3】実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図。
【図4】実施形態1に係るカートリッジケースを下側から見た斜視図。
【図5】実施形態1に係るインク供給針周辺部分の拡大断面図。
【図6】インクジェット式記録ヘッドのヘッド本体の概略断面図。
【図7】実施形態2に係るインク供給針周辺部分の拡大断面図。
【図8】実施形態3に係るインク供給針周辺部分の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施形態に基づいて説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例としてのインクジェット式記録ヘッドを有する液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置10の概略斜視図である。また、図2は、図1に示すインクジェット式記録ヘッド11の分解斜視図、図3はその断面図、図4はカートリッジケース21を下側から見た斜視図、図5はインク供給針周辺部分の拡大断面図である。
【0014】
インクジェット式記録装置10は、図1に示すように、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドと呼ぶ)11がキャリッジ12に固定され、この記録ヘッド11には、ブラック(B)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)等の複数の異なる色のインクが貯留された液体供給手段であるインクカートリッジ13がそれぞれ着脱可能に固定されている。
【0015】
記録ヘッド11が搭載されたキャリッジ12は、装置本体14に取り付けられたキャリッジ軸15に軸方向移動自在に設けられている。そして、駆動モーター16の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト17を介してキャリッジ12に伝達されることで、キャリッジ12はキャリッジ軸15に沿って移動される。一方、装置本体14にはキャリッジ軸15に沿ってプラテン18が設けられており、図示しない給紙装置等により給紙された紙等の被記録媒体Sがプラテン18上を搬送されるようになっている。
【0016】
また、インクジェット式記録装置10は、正常に印刷可能なようにメンテナンスを行うメンテナンス機構1を備えている。
メンテナンス機構1は、印字領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設けられており、記録ヘッド11の表面を払拭するワイパーブレード2、記録ヘッド11の底面側に設けられ、インクの吐出面に押しつけられて記録ヘッド11との間に空間を形成する当接部材としてのキャップ部材の一種であるキャッピングユニット3、空間に接続された吸引ポンプ4などから構成されている。
【0017】
図2に示すように、インクジェット式記録ヘッド11を構成する保持部材であるカートリッジケース21は、上述したインクカートリッジ13がそれぞれ装着されるカートリッジ装着部22を有する。また、カートリッジケース21の底面には、図3及び図4に示すように、一端が各カートリッジ装着部22に開口し、他端が後述するヘッドケース側に開口するインク供給路である複数の管状の流路形成管25(25A〜25D)が突設されている。流路形成管25は流路を形成する。
【0018】
また、図1、図2及び図3に示すように、カートリッジケース21の上面側、すなわち、各カートリッジ装着部22の流路形成管25の開口部分には、インクカートリッジ13に着脱可能に挿入される複数の液体供給針としてのインク供給針26がほぼ垂直方向に配列され、インク内の気泡や異物を除去するためのフィルター27を介して固定されている。
インク供給針26は、インクカートリッジ13に挿入されるため、剛性の大きい材料で外壁が構成される。
【0019】
これらの各インク供給針26は、図5に示すように、カートリッジケース21の各流路形成管25に連通する流路としての貫通部28をそれぞれ有する。なお、これらインク供給針26の貫通部28及びカートリッジケース21の流路形成管25は図1に示したインクカートリッジ13と後述するヘッド本体とを繋ぐインク供給路を構成するものである。
【0020】
また、各インク供給針26は、円環状の溶着部70により、インク内の気泡や異物を除去するためのフィルター27を介してカートリッジケース21に固定されている。
【0021】
また、インク供給針26の貫通部28の流路形成管25側の接続領域には、他の領域よりも内径の広い空間であるフィルター室31が設けられている。このフィルター室31は、例えば、本実施形態では、フィルター27側ほど内径が広くなるように形成されている。なお、このフィルター室31は、フィルター27の面積を大きくしてインクが通過する際の抵抗をできるだけ小さくするために、貫通部28の他の領域よりも広い内径で形成されている。また、フィルター27と流路形成管25との間には拡大部24が形成されている。
【0022】
そして、図2に示すように、カートリッジケース21の下面側には、複数の圧力発生素子としての圧電素子34を有する圧電素子ユニット35A,35Bを保持すると共に、カートリッジケース21とは反対側の端面に圧電素子34の駆動によって後述のノズル開口111からインク滴を吐出するヘッド本体100が固定されるヘッドケース37を有し、これらカートリッジケース21とヘッドケース37との間には、シール部材38及び回路基板39が挟持されている。
【0023】
図6は、インクジェット式記録ヘッド11のヘッド本体100の概略断面図を示している。
図6において、ヘッド本体100は、流路基板120を間に挟んで、複数のノズル開口111を備えたノズルプレート110と振動プレート130とを両側に積層することにより構成されている。
流路基板120には、ノズル開口111にそれぞれ連通して圧力室隔壁124を隔てて列設された複数の圧力室121と、各圧力室121に供給するインクを貯蔵するマニホールド122と、マニホールド122とそれぞれの圧力室121との間を連通するインク供給路123などが隔壁部によって区画することにより形成されている。
圧力室121、マニホールド122およびインク供給路123には、インク200が充填されている。マニホールド122には、インク200を導入するインク導入口125が、振動プレート130に形成されている。
図2に示した圧電素子34は、ヘッド本体100に形成された圧力室121に振動プレート130を挟んで対向するように配置されている。
圧電素子34は、電圧が印加されると振動プレート130に向かって伸縮し、圧力室121の容積を変化させる。
【0024】
振動プレート130は、弾性体膜140とステンレス板150との2層構造である。弾性体膜140は、PPS(ポリフェニレンサルファイト)やポリイミドなどの高分子膜を用いることができるが、可撓部材であれば高分子膜に限らない。例えば、ガラスファイバー、カーボンファイバー等と高分子との複合物や可撓性を有する無機物であってもよい。
振動プレート130の圧力室121に対応する部分は、ステンレス板150をエッチング加工して得られる圧電素子34を当接固定するための島部151と島部151の形成されていない弾性体膜140からなる薄膜部141とを備えている。
圧電素子34の伸縮によって島部151が変位して、弾性体膜140からなる薄膜部141が変形し、圧力室121の容積が変化する。
もちろん、ステンレス板150の一部をエッチングなどで薄膜化して、その薄膜化した領域を薄膜部141として用いてもよい。
【0025】
図2において、シール部材38は、カートリッジケース21に形成された流路形成管25とヘッドケース37に設けられる複数のインク導入路40(40A〜40D)が開口する突出部41との間に挟持されることにより、図3及び図4に示した流路形成管25とインク導入路40との接続部分を密封してこの接続部分からのインクの漏れを防止している。ここで、流路形成管25は流路を形成する流路壁としての役割を果たす。
回路基板39は、圧電素子34を駆動するための信号を供給するためのものであり、回路基板39の一端部には、外部配線(図示なし)を接続するためのコネクター43が固定されている。また、回路基板39には、圧電素子34に接続されたFPC等の接続配線44が挿通される挿通孔45が設けられており、この挿通孔45を介して回路基板39とチップオンフィルム(COF)、テープキャリアパッケージ(TCP)、又はフレキシブルプリント基板(FPC)などの接続配線44とが接続される。さらに、この挿通孔45の両側には各インク導入路40に対応して、各インク導入路40が開口する突出部41が係合する突出部用貫通孔46が設けられている。
【0026】
なお、図2及び図4に示すように、カートリッジケース21の一方の側面、すなわち、回路基板39のコネクター43が配置される側の側面には、回路基板39のコネクター43が露出される露出口47を有し、この露出口47を介して外部配線(図示なし)がコネクター43に接続されるようになっている。
【0027】
また、図2に示すように、回路基板39及びシール部材38を介してカートリッジケース21の下面側に固定されるヘッドケース37には、複数の圧電素子34を有する圧電素子ユニット35(35A,35B)を収容して圧電素子34を位置決め固定するための収容室48が並設されている。例えば、本実施形態の記録ヘッド11は、ブラックインクを吐出するための圧電素子ユニット35Aと、カラーインクを吐出するための圧電素子ユニット35Bとを有するため、ヘッドケース37には、これらの圧電素子ユニット35A,35Bを収容する2つの収容室48が並設されている。
【0028】
また、各収容室48の外側には、流路形成管25と連通してブラックインクをヘッド本体100に供給するインク導入路40Aと、複数の流路形成管25とそれぞれ連通して各カラーインクをそれぞれヘッド本体100に供給するための複数のインク導入路40B〜40Dとが設けられ、各インク導入路40A〜40Dは、カートリッジケース21側に設けられた突出部41でそれぞれ開口している。
【0029】
ここで、各インク導入路40A〜40Dは、ヘッドケース37の中央部のヘッド本体100に対向する領域にそれぞれ近接して設けられ、図6に示したインク導入口125と連通している。
また、カラーインクをヘッド本体100に供給する各インク導入路40B〜40Dは、インク供給路のインクカートリッジ13側の開口の並び方向に対して略直交する方向に一列に配置されている。すなわち、インク導入路40A〜40Dの開口位置と、各インク供給路のインクカートリッジ13側の開口位置とが対応していないものがある。このため、本実施形態では、複数の流路形成管25のうちいくつかの流路形成管を3次元的に傾斜させることによって、すなわち、流路形成管25A,25B,25Dを傾斜させることによって、各インク導入路40A,40B,40Dとを連通させている。
【0030】
具体的には、図4に示すように、カートリッジケース21の下面側には、インク供給路がそれぞれ形成された管状の流路形成管25A〜25Dが突設されている。そして、カラーインクに対応する流路形成管25B〜25Dのうち、流路形成管25Cのみがカートリッジケース21の下面に対して略直交する方向に立設され、他の流路形成管25A,25B,25Dが互いに干渉しないように3次元的に傾斜して設けられ、各流路形成管とインク導入路40A〜40Dとがそれぞれ連通されている。
【0031】
なお、このような記録ヘッド11は、カートリッジケース21の下面側に、シール部材38、回路基板39、ヘッドケース37及びヘッド本体100の順で積層され、その外側にヘッド本体100の図6に示したノズル開口111を露出する窓部50を有する枠体51を填め込み、ネジ52によってカートリッジケース21に固定することで形成される(図2参照)。尚、枠体51は、ネジ52によって固定されるのではなく、接着剤やカシメなどの固定方法を採用しても構わない。この枠体51は図1に示したワイパーブレード2でヘッド本体100の吐出面を払拭する際に、ワイパーブレード2がヘッド本体100の側面に接触した際に削られてしまう可能性がある。その劣化を抑制するためのものである。
ヘッド本体100には、枠体51が備え付けられているが、枠体51は必ずしも要する部材ではない。
【0032】
このような記録ヘッド11では、インク200は、インクカートリッジ13から図2に示したインク供給針26の貫通部28、カートリッジケース21の流路形成管25及びインク導入路40を経て、図6に示したインク導入口125からマニホールド122、インク供給路123、圧力室121及びノズル開口111まで充填され、ノズル開口111において、図6に示すようにメニスカス210を形成している。破線211は、インク200がノズル開口111の奥に引き込まれ、メニスカスが壊れた状態を表している。
ここで、ヘッド本体100に設けられた圧電素子34を駆動させることによりヘッド本体100に供給されたインク200がノズル開口111から吐出される。
【0033】
本実施形態では、図5に示すように、インク供給針26に設けられたフィルター室31内に可撓膜32を設け、可撓膜32と外壁の間に空間33を配置する。可撓膜32の上端は貫通部28に当接され、可撓膜32の下端はフィルター室31下端或いはフィルター27端部に当接され、空間33にはインクが入り込まない形態となっている。
ここで、フィルター27よりも上流に当たるフィルター室31に可撓膜32を設けることで、フィルター27上に溜まって肥大化した気泡が、外部からの衝撃によって発生した圧力を受けた結果、フィルター27を透過し、下流側に流れてしまうことを抑制できる。つまり、衝撃によって発生した圧力はフィルター室31内の気泡に圧力を加えようとするが、フィルター室31の流路壁が可撓膜32になっているため、フィルター室31内に加えられる圧力の一部を可撓膜32が吸収する。結果的に溜まった気泡が受ける力は減少する。したがって、気泡は圧力を受けた後でも、フィルター室31内に留まることができる。よって、気泡が下流側に移動してしまうことで発生する可能性のある吐出不良を防止することができる。
また、可撓膜32が設けられたインク供給針26の外壁に開放孔261を形成し、空間33と外部とを連通してもよい。この場合、衝撃により可撓膜32が変形し易くなる。
【0034】
可撓膜32の材質は、例えば樹脂や金属等の薄膜形状で外力に対して変形量が大きいものの方が衝撃発生時の圧力吸収ができる。インク供給針26の外壁と比較して剛性の小さいものを用いる。
また、同じ材質においては、肉厚がより薄く、表面積が大きいほど衝撃発生時の圧力吸収が可能となる。
【0035】
また、図1において、メンテナンス機構1のキャッピングユニット3は、ノズル開口111のインク200の乾燥を防止する蓋として機能するだけでなく、ノズル開口111に目詰まりが生じた場合には、キャッピングユニット3によりノズルプレート110のノズル開口111の周りを封止し、吸引ポンプ4からの負圧により、ノズル開口111からインク200を吸引してノズル開口111の目詰まりを解消する、いわゆるクリーニング機能をも備えている。
【0036】
クリーニング機能を使用する場合、吸引ポンプ4からの負圧によって可撓膜32が変形して、フィルター室31の容積を減らすことができ、クリーニング機能を使用した後のフィルター室31内の気泡を減少させることができる。
【0037】
また、可撓膜32よりも剛性の大きい外壁を形成したことにより、インク供給針26内へのガスの浸入を減少することができ、フィルター室31内の残気泡の気泡成長を抑制することが可能となる。この場合、上述した開放孔261は必要最低限の開口面積を有していれば良く、大きな面積を有する必要は無いため、ガスの浸入には影響を与えにくい。
【0038】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係るインク供給針26周辺部分の拡大断面図である。本実施形態では、実施形態1と構成の異なることを特別述べていない構成については、実施形態1の構成をそのまま採用し得るものとする。
本実施形態では、外壁の一部が可撓膜32で形成され、可撓膜32が、外部に露出している。実施形態1と同様にプリンター装置及びインクカートリッジに外的作用(衝撃)が与えられた際に、可撓膜32により圧力を吸収し、記録ヘッド内の圧力上昇を抑えることができる。また、可撓膜32を露出させることで、可撓膜32の自由変形を誘引しているため、可撓膜32の配置面積を小さくすることが出来るため液体噴射ヘッドの小型化に寄与する。
可撓膜32の形状は、図7に示すような形状や円形等の様々な形状を用いることができる。
【0039】
(実施形態3)
図8は、実施形態3に係るインク供給針26周辺部分の拡大断面図である。本実施形態では、実施形態1と構成の異なることを特別述べていない構成については、実施形態1の構成をそのまま採用し得るものとする。
本実施形態では、流路形成管25の流路壁としての外壁の一部が、可撓膜32で形成されている。可撓膜32は、別素材で形成してもよいし、流路形成管25の外壁と同じ部材を薄くして形成してもよい。
流路形成管25の外壁は、図3及び図4に示すように、カートリッジケース21の外壁に囲まれているので、外界からの固形物の接触が殆どない。したがって、可撓膜32が外部からの接触によって破壊される可能性が低くなる。
【0040】
可撓膜32は、インク供給針26の外壁と流路形成管25の外壁とに設けられていてもよいし、実施形態1〜実施形態3で設けられる可撓膜32の場所のいずれかを組み合わせた場所に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0041】
3…当接部材(キャップ)としてのキャッピングユニット、4…吸引ポンプ、10…液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置、11…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、21…保持部材としてのカートリッジケース、25…流路形成管、26…液体供給針としてのインク供給針、27…フィルター、28…貫通部、31…フィルター室、32…可撓膜、33…空間、34…圧力発生素子としての圧電素子、100…ヘッド本体、111…ノズル開口、121…圧力室、200…液体としてのインク、261…開放孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体をノズル開口から噴射させるための圧力発生素子が配置されたヘッド本体と、外部からの液体の導入を受ける液体供給針と、当該液体供給針からの液体をフィルターを介して前記ヘッド本体に供給する保持部材と、を備えた液体噴射ヘッドであって、
前記液体供給針には、
液体の流路となる貫通部と、
当該貫通部よりも下流側であって、前記貫通部の流路の内径よりも流路の内径が広いフィルター室とが設けられ、
前記フィルターは、前記フィルター室に配置され、
前記保持部材には、
前記フィルターよりも下流側に配置された拡大部と、
当該拡大部よりも下流側に配置され、前記拡大部の流路の内径よりも流路の内径が狭い流路形成管とが設けられ、
前記フィルター室、及び前記流路形成管の少なくとも一つの流路を形成する流路壁が、変形可能な可撓膜を備えている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記流路の前記可撓膜を挟んだ反対側には、前記可撓膜と空間を空けて配置された、前記可撓膜よりも剛性の大きい外壁が形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記空間が、前記外壁に形成された開放孔によって大気に開放されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記ヘッド本体の前記ノズル開口が形成された面に当接する当接部材と、
前記当接部材に接続して、前記ノズル開口から液体を吸引させる吸引ポンプとを有する
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−144002(P2012−144002A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5579(P2011−5579)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】