説明

液体噴射装置およびその駆動方法

【課題】液体の増粘を抑制しながら微振動駆動の頻度を低減させる。
【解決手段】液体噴射装置100が、液体が充填された圧力室50と、圧力室50内の液体の圧力を変動させる圧力発生素子45とを含み、圧力室50内の液体の圧力変動に応じて液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッド24と、圧力発生素子45を制御して、ノズル52から液体を噴射させる噴射駆動またはノズル52から液体が噴射しない程度にノズル52内の液面を微振動させる微振動駆動を駆動周期毎に実行させる制御手段60とを有する。制御手段60は、非噴射期間Sの時間長が閾値Thよりも長い場合に非噴射期間S内にて微振動駆動を実行させ、非噴射期間Sの時間長が閾値Thよりも短い場合に非噴射期間S内の各駆動周期Tにて微振動駆動を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子や発熱素子等の圧力発生素子により圧力室内を振動させることで圧力室内の液体(例えばインク)をノズルから噴射する液体噴射技術が従来から提案されている。液体噴射技術を採用したインクジェット方式の記録ヘッドは、ノズルに連通する複数の圧力室と、各圧力室に連通する共通の液体室であるリザーバーと、圧力室内の圧力を変化させてノズルから液滴を噴射させる圧力発生手段とを具備する。圧力発生手段としては、例えば、縦振動型の圧電素子や撓み振動型の圧電素子、静電気力を利用した素子、発熱素子等が採用される。
【0003】
インクジェット方式の記録ヘッドでは、ノズル内に露出するインクの自由表面(メニスカス)からインクの溶媒が蒸発してインクが増粘し、インクの噴射特性が変化して印字精度が低下するという問題がある。そこで、インクが噴射しない程度にメニスカスを微振動させる微振動駆動を記録周期(駆動波形の1周期)ごとに実行し、ノズルの近傍のインクを撹拌してインクを適切な粘度に維持する構成が採用される(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術では、全部の記録周期において微振動駆動を実行する。
【0004】
また、インクジェット方式の記録ヘッドでは、インクの増粘した成分(以下「増粘成分」という)をノズルから排出するフラッシング動作を定期的に実行することで、インクの増粘によるノズルの目詰まりやインク噴射量の低減といった問題を解消している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−280475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微振動駆動を実行すると、ノズルの近傍の増粘成分が圧力室内に拡散する。そのため、全部の記録周期において微振動駆動を実行する特許文献1の技術により、ノズル内のインク増粘を抑制することができる。しかしながら、特許文献1の技術では、増粘成分が圧力室内に拡散し、圧力室内に拡散した増粘成分をフラッシングで充分に排出するために必要なインクの噴射量が増加してしまうという問題がある。以上の事情に鑑み、本発明は、インクの増粘を抑制しながら微振動駆動の頻度を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、液体が充填された圧力室と、前記圧力室内の前記液体の圧力を変動させる圧力発生素子とを含み、前記圧力室内の前記液体の圧力変動に応じて前記液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドと、前記圧力発生素子を制御して、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動または前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を駆動周期毎に実行させる制御手段とを有する液体噴射装置であって、前記制御手段は、前記噴射駆動を実行させる第1駆動周期の終点から前記第1駆動周期の直後に前記噴射駆動を実行させる第2駆動周期の始点までの非噴射期間の時間長が閾値よりも長い場合に前記非噴射期間内にて前記微振動駆動を実行させ、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも短い場合に前記非噴射期間内の各駆動周期にて前記微振動駆動を停止させる。
以上の構成では、非噴射期間の時間長が閾値よりも短い場合に非噴射期間内の各駆動周期にて微振動駆動を停止させるので、微振動駆動の過剰な実行を抑制することが可能である。
本発明の液体噴射装置は、非噴射期間の時間長が閾値よりも長い場合に非噴射期間内にて微振動駆動を実行させ、非噴射期間の時間長が閾値以下である場合に非噴射期間内の各駆動周期にて微振動駆動を停止させる構成と、非噴射期間の時間長が閾値以上である場合に非噴射期間内にて微振動駆動を実行させ、非噴射期間の時間長が閾値未満である(閾値よりも短い)場合に非噴射期間内の各駆動周期にて微振動駆動を停止させる構成との双方を含む。
【0008】
本発明の好適な態様において、前記制御手段は、前記圧力発生素子を制御して、所定期間内での前記微振動駆動の実行回数に応じた量の前記液体を前記ノズルから噴射させるフラッシング駆動を実行させる。この構成においては、微振動駆動の実行回数、すなわち液体の増粘成分の圧力室内への拡散の程度に応じて、フラッシング動作によるインクの噴射量が適切に制御される。
【0009】
本発明の好適な態様において、前記制御手段は、前記圧力発生素子を制御する内容を指定するデータを解析し、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも長いか否かを判定する解析判定手段と、前記解析判定手段の判定に基づいて、微振動駆動を実行または停止させる駆動制御手段とを含む。以上の態様では、圧力発生素子を制御する内容を指定するデータから非噴射期間の時間長を得ることができるので、解析が容易かつ確実になるという利点がある。
【0010】
本発明の好適な態様において、前記制御手段は、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも長い場合に、前記非噴射期間のうち少なくとも前記第2駆動周期の直前の駆動周期にて微振動駆動を実行させる。以上の態様では、第2駆動周期の直前の駆動周期にて微振動駆動が実行されるから、液体の増粘を解消し噴射に好適な状態として第2駆動周期の噴射駆動に備えることが可能である。
【0011】
本発明の好適な態様において、前記制御手段は、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも長い場合に、前記非噴射期間のうち前記第2駆動周期の直前の所定個の駆動周期にて微振動駆動を実行させ、前記非噴射期間のうち前記所定個の駆動周期以外の駆動周期にて微振動駆動を停止させる。以上の態様では、第2駆動周期の直前の所定個以外の駆動周期にて微振動駆動が停止されるから、微振動駆動の過剰な実行が更に抑制される。
【0012】
本発明の好適な態様において、前記制御手段は、前記閾値を変更可能である。以上の態様では、微振動駆動を制御するための閾値が変更可能だから、液体噴射装置の動作条件(内部温度等)に応じて閾値を変更することで微振動駆動を適切に制御することが可能である。
【0013】
本発明の好適な態様において、前記閾値は、噴射駆動により生じた前記ノズル内の前記液面に残留する振動の継続時間に応じて設定される。以上の態様では、残留振動が継続している駆動周期において微振動駆動を停止するので、不要な微振動駆動の実行が抑制される。特に、閾値を変更可能とした構成においては、液体の特性変化や周辺環境の変化等により残留振動の継続時間が変動した場合であっても、残留振動の継続時間に応じて閾値を変更することができるので、液体の増粘の解消、過剰な微振動の抑制、消費電力の削減、圧力発生素子の寿命の延長といった前述の効果がより一層顕著となる。
【0014】
本発明は、以上の各形態に係る液体噴射装置を制御する方法としても特定される。本発明の液体噴射装置の駆動方法は、液体が充填された圧力室と、前記圧力室内の前記液体の圧力を変動させる圧力発生素子とを含み、前記圧力室内の前記液体の圧力変動に応じて前記液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドと、前記圧力発生素子を制御して、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動または前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を駆動周期毎に実行させる制御手段とを有する液体噴射装置の駆動方法であって、前記噴射駆動を実行させる第1駆動周期の終点から前記第1駆動周期の直後に前記噴射駆動を実行させる第2駆動周期の始点までの非噴射期間の時間長が閾値よりも長い場合に前記非噴射期間内にて前記微振動駆動を実行させ、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも短い場合に前記非噴射期間内の各駆動周期にて前記微振動駆動を停止させる。以上の制御方法でも、本発明の液体噴射装置と同様の作用および効果が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の部分的な模式図である。
【図2】記録ヘッドの吐出面の平面図である。
【図3】記録ヘッドの構成図である。
【図4】印刷装置の電気的な構成のブロック図である。
【図5】駆動信号の波形図である。
【図6】印刷期間および待機期間の説明図である。
【図7】記録ヘッドの電気的な構成のブロック図である。
【図8】制御部が圧電素子に指示する動作の概要を示す図である。
【図9】噴射駆動により生じるメニスカスの残留振動の説明図である。
【図10】残留振動に応じて微振動駆動を停止させる構成の説明図である。
【図11】第1実施形態の制御部のうち微振動駆動の実行を制御する機能のブロック図である。
【図12】第1実施形態の制御部が制御データを生成する動作の説明図である。
【図13】第2実施形態の制御部のうち微振動駆動の実行を制御する機能のブロック図である。
【図14】噴射駆動により生じるメニスカスの残留振動の説明図である。
【図15】第2実施形態の制御部が制御データを生成する動作の説明図である。
【図16】第3実施形態の制御部が制御データを生成する動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、インクの液滴を記録紙200に噴射する液体噴射装置であり、キャリッジ12と移動機構14と用紙搬送機構16とを具備する。
【0017】
キャリッジ12には、インクカートリッジ22と記録ヘッド24とが搭載される。インクカートリッジ22は、記録紙200に噴射されるインク(液体)を貯留する容器である。記録ヘッド24は、インクカートリッジ22に貯留されたインクを記録紙200に噴射する液体噴射ヘッドとして機能する。なお、印刷装置100の筐体(図示略)にインクカートリッジ22を固定して記録ヘッド24にインクを供給する構成も採用され得る。
【0018】
図2は、記録ヘッド24のうち記録紙200に対向する吐出面26の平面図である。図2に示すように、記録ヘッド24の吐出面26には、相異なるインク色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))に対応する複数のノズル列28(28K,28Y,28M,28C)が形成される。各ノズル列28は、副走査方向に直線状に配列されたN個のノズル(吐出口)52の集合である(Nは自然数)。ノズル列28Kの各ノズル52からはブラック(K)のインクが吐出される。同様に、ノズル列28Yの各ノズル52からはイエロー(Y)のインクが吐出され、ノズル列28Mの各ノズル52からはマゼンタ(M)のインクが吐出され、ノズル列28Cの各ノズル52からはシアン(C)のインクが吐出される。なお、各ノズル52を千鳥状に配列した構成も好適である。
【0019】
図1の移動機構14は、キャリッジ12を主走査方向(記録紙200の幅方向)に往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダー等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。用紙搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200を副走査方向に移動させる。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド24が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。
【0020】
移動機構14は、吐出面26が記録紙200に対向する範囲の外側の位置(以下「待避位置」という)まで記録ヘッド24を移動させることが可能である。待避位置にある記録ヘッド24の吐出面26に対向するようにキャップ18が配置される。キャップ18は、記録ヘッド24の吐出面26を封止する。キャップ18の近傍には吐出面26を払拭するワイパー(図示略)が配置される。記録ヘッド24は、増粘等により噴射に適さなくなったインクを排出するフラッシング動作を待避位置にて行う。
【0021】
図3は、第1実施形態の記録ヘッド24の構成図である。具体的には、図3の部分(A)は記録ヘッド24の平面図であり、図3の部分(B)は部分(A)におけるIIIb−IIIb線の断面図であり、図3の部分(C)は部分(A)におけるIIIc-IIIc線の断面図である。図3に示すように、記録ヘッド24は、概略的には、流路形成基板41とノズル形成基板42と弾性膜43と絶縁膜44と圧電素子45と保護基板46とを積層した構造である。
【0022】
流路形成基板41は、例えばステンレス鋼等の金属板材またはシリコン単結晶基板等で構成される板材である。図3の部分(A)および部分(C)に示すように、流路形成基板41には、長尺状の複数の圧力室50が各々の幅方向(ノズル52の配列方向)に並設される。相互に隣合う圧力室50は隔壁412で区画される。また、流路形成基板41のうち各圧力室50の長手方向の外側の領域には連通部414が形成される。連通部414と各圧力室50とは、圧力室50毎に形成されたインク供給路416を介して相互に連通する。インク供給路416は、圧力室50よりも狭い幅に形成され、連通部414から圧力室50に流入するインクに対して一定の流路抵抗を付与する。
【0023】
図3の部分(B)および部分(C)に示すように、流路形成基板41の表面(開口面)にはノズル形成基板42が例えば接着剤や熱溶着フィルム等で固定される。ノズル形成基板42には、各圧力室50のうちインク供給路416とは反対側の端部に連通するノズル(貫通孔)52が形成される。他方、流路形成基板41のうちノズル形成基板42とは反対側の表面には、弾性膜43が例えば二酸化シリコン(SiO2)で形成される。弾性膜43の表面には絶縁膜44が例えば酸化ジルコニウム(ZrO2)で形成され、絶縁膜44の表面には圧力室50毎に圧電素子45が形成される。
【0024】
図3の部分(B)および部分(C)に示すように、各圧電素子45は、下電極451と圧電体452と上電極453とを絶縁膜44側からこの順番に積層した構造体である。下電極451および上電極453の一方は、複数の圧力室50にわたって連続する共通電極であり、下電極451および上電極453の他方と圧電体452とは圧力室50毎に個別に形成(パターニング)される。下電極451および上電極453の何れを共通電極とするかは、例えば圧電体452の分極方向や配線の都合等に応じて適宜に決定される。各圧電素子45の上電極453には、例えば金(Au)等で形成されたリード電極47が接続される。リード電極47を介した駆動信号の供給で下電極451と上電極453との間に電界を付与すると、各圧電素子45および弾性膜43が変形(撓み変形)する。
【0025】
図3の部分(B)に示すように、流路形成基板41のうち各圧電素子45の設置面には保護基板46が固定される。保護基板46のうち各圧電素子45に対向する領域には、各圧電素子45を収容する圧電素子保持部461が形成される。圧電素子保持部461は、各圧電素子45の変位を阻害しない程度の大きさに成形されて各圧電素子45を保護する。また、保護基板46のうち流路形成基板41の連通部414に対応する領域には、保護基板46を貫通するリザーバー部462が形成される。リザーバー部462は、各圧力室50が配列する方向に沿う長尺状の空間である。流路形成基板41の連通部414と保護基板46のリザーバー部462とを連通させた空間が、各圧力室50の共通のインク室として機能するリザーバー54を構成する。
【0026】
保護基板46のうち圧電素子保持部461とリザーバー部462との間の領域には、保護基板46を厚さ方向に貫通する貫通孔463が形成される。圧電素子45の下電極451およびリード電極47が貫通孔463の内側に露出する。保護基板46の面上には、封止膜481と固定板482とを積層したコンプライアンス基板48が接合される。封止膜481は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えばポリフェニレンサルファイドフィルム)で構成され、保護基板46のリザーバー部462を封止する。固定板482は、金属等の硬質の材料(例えばステンレス鋼)で構成される。固定板482のうちリザーバー54(リザーバー部462)に対向する領域には開口部483が形成される。
【0027】
以上の構成の記録ヘッド24において、リザーバー54から各インク供給路416と各圧力室50とを介してノズル52に至る空間に、インクカートリッジ22から供給されるインクが充填される。駆動信号の供給により圧電素子45および弾性膜43が変形すると圧力室50内の圧力が変動する。圧力室50内の圧力変動を駆動信号に応じて制御することで、圧力室50内のインクをノズル52から噴射させる動作(以下「噴射駆動」という)または圧力室50内のインクが噴射されない程度にノズル52内のインクの液面(メニスカス)を微振動させる動作(以下「微振動駆動」という)を実行させることが可能である。
【0028】
図4は、印刷装置100の電気的な構成のブロック図である。図4に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104とを具備する。制御装置102は、印刷装置100の全体を制御する要素であり、制御部60と記憶部62と駆動信号発生部64と外部I/F(interface)66と内部I/F68とを含む。記録紙200に印刷される画像を示す印刷データDPが外部装置(例えばホストコンピューター)300から外部I/F66に供給され、内部I/F68には印刷処理部104が接続される。印刷処理部104は、制御装置102による制御のもとで記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の記録ヘッド24と移動機構14と用紙搬送機構16とを含む。
【0029】
駆動信号発生部64は、駆動信号COMを生成する。駆動信号COMは、各圧電素子45を駆動する周期信号である。図5に示すように、駆動信号COMの1周期に相当する期間(以下「印字周期」という)T内には定電位要素PSと噴射パルスPDと微振動パルスPBとが配置される。噴射パルスPDは、所定の基準電位VREFから低位側(圧力室50を減圧させる方向)の電位まで電位が変化する区間d1と、電位が高位側(圧力室50を加圧させる方向)に変化する区間d2と、基準電位VREFに復帰する区間d3とを含む波形であり、圧電素子45に供給された場合に所定量のインクがノズル52から噴射するように圧電素子45および弾性膜43を変形させて圧力室50内のインクを加圧する。他方、微振動パルスPBは、所定の基準電位VREFから低位側の電位まで電位が変化する区間p1と、区間p1の終端の電位を維持する区間p2と、電位が高位側に変化して基準電位VREFに復帰する区間p3とを含む台形状の波形であり、圧電素子45に供給された場合に圧力室50内のインクがノズル52から噴射されない程度に圧力室50内の圧力を変化させてノズル52内のメニスカスを微振動(揺動)させる。また、定電位要素PSは、所定の基準電位VREFに維持される区間である。定電位要素PSの供給で圧電素子45は変位を停止して待機する。
【0030】
図4の記憶部62は、制御プログラム等を記憶するROMと、画像の印刷に必要な各種のデータ等を一時的に記憶するRAMとを含む。制御部60は、記憶部62に記憶された制御プログラムの実行で印刷装置100の各要素(例えば印刷処理部104)を統括的に制御する。具体的には、制御部60は、各印字周期Tでの圧電素子45の動作を指示する制御データDCを印刷データDPから生成する。制御データDCは、圧力室50内のインクをノズル52から噴射させる噴射駆動と、ノズル52内のインクのメニスカスを微振動させる微振動駆動と、圧電素子45の変位を停止させる待機状態(すなわち噴射駆動も微振動駆動も実行させない状態)とのいずれかを圧電素子45の動作として指定するデータである。制御データDCは印字周期T毎に繰返し生成される。
【0031】
図6に示すように、印刷装置100の動作期間は印刷期間RDRと待機期間RFLとに区分される。印刷期間RDRは各ノズル52からのインクの噴射で記録紙200に画像を形成する期間であり、複数の印字周期Tを含む。印刷期間RDRは、例えば記録ヘッド24によるインクの噴射に並行してキャリッジ12が主走査方向に1往復する期間である。他方、待機期間RFLは、相前後する印刷期間RDRの合間に期間に位置し、記録ヘッド24がフラッシング動作を行う期間である。フラッシング動作は、記録ヘッド24を待避位置(キャップ18上)に移動させた状態で、制御部60が圧電素子45を駆動してノズル52からインクを強制的に噴射させる動作である(フラッシング駆動)。以上のように、フラッシング駆動を周期的に実行することで各ノズル52の目詰まりや圧力室50内への気泡の侵入が解消される。
【0032】
図7は、記録ヘッド24の電気的な構成の模式図である。図7に示すように、記録ヘッド24は、相異なる圧電素子45に対応する複数の駆動回路32を含む。駆動信号発生部64が生成した駆動信号COMは、内部I/F68を介して複数の駆動回路32に共通に供給される。また、制御部60が生成した制御データDCは内部I/F68を介して各駆動回路32に供給される。
【0033】
各駆動回路32は、制御部60から供給される制御データDCに応じた区間を駆動信号COMから選択して圧電素子45に供給する。具体的には、制御データDCが噴射駆動を指示する場合、駆動回路32は、駆動信号COMの噴射パルスPDを選択して圧電素子45に供給する。したがって、圧力室50内のインクがノズル52から記録紙200に噴射される(噴射駆動)。他方、制御データDCが微振動駆動を指示する場合、駆動回路32は、駆動信号COMの微振動パルスPBを選択して圧電素子45に供給する。したがって、ノズル52内のメニスカスに微振動が付与され、圧力室50内のインクは噴射されずに適度に撹拌される(微振動駆動)。すなわち、微振動駆動によってノズル52の近傍のインクの増粘が解消される。また、制御データDCが待機状態を指示する場合、駆動回路32は、駆動信号COMの定電位要素PSを選択して圧電素子45に供給する。定電位要素PSが供給された場合、圧電素子45は、噴射駆動も微振動駆動も実行せずに待機するから、圧力室50内のインクは撹拌されない。
【0034】
図8は、制御部60が1個の圧電素子45について指示する動作の概要を示す図である。図8では左から右に進むに従って時間が進行する。図8の丸印は、1個の印字周期Tにおける駆動状態を示しており、黒丸は噴射駆動、網掛丸は微振動駆動、白丸は待機状態(噴射駆動も微振動駆動も実行しない状態)を意味する。
具体的には、図8に示すように、第1印字周期TAおよび第2印字周期TBの各々で噴射駆動が実行され、各印字周期T(第1印字周期TAおよび第2印字周期TB)内の所定の噴射タイミングにてノズル52からインクが噴射される。第2印字周期TBは、第1印字周期TAの直後に噴射駆動を実行させる印字周期T(第1印字周期TAの終了後にはじめて噴射駆動を実行させる印字周期T)であり、第1印字周期TAの終点から第2印字周期TBの始点までの期間(以下、非噴射期間Sという)では噴射駆動は実行されない。非噴射期間Sのうち第2印字周期TBの直前の1個の印字周期Tにて微振動駆動が実行され、それ以外の印字周期Tでは待機状態が指示される。
なお、非噴射期間Sには、上述のように2個の印字周期Tに挟まれた期間の他に、印字開始から第一回目に噴射駆動を実行する印字周期Tまでの期間も含まれる。
【0035】
図9は、噴射駆動によるノズル52内のメニスカスの変位の例を示す図である。図9に示す例では、印字周期T(n)にて噴射パルスPDが圧電素子45に供給されて噴射駆動が実行され、その直後の印字周期T(n+1)および印字周期T(n+2)では基準電位VREFが圧電素子45に供給されて待機状態(噴射駆動も微振動駆動も実行しない状態)となる。噴射駆動により圧力室50内のインクがノズル52から噴射される際に、ノズル52内のメニスカスが変位する。すなわち、区間d1の供給により圧力室50内のインクが減圧されて、ノズル52内のメニスカスが吐出面26に対して凹状(圧力室50の内側へ向かう方向)に変位した後、区間d2の供給により圧力室50内のインクが加圧されて、ノズル52内のメニスカスが吐出面26に対して凸状(圧力室50の外側へ向かう方向)に変位してインクが噴射される。インクの噴射後、区間d3の供給後に圧電素子45が待機状態となるが、ノズル52内のメニスカスの変位(振動)は直ちには収まらず印字周期T(n+1)の開始後にも残留振動Rvとして残存する。図9の例では、メニスカスの残留振動Rvは噴射駆動を実行した印字周期T(n)内だけでなく印字周期T(n+1)および印字周期T(n+2)まで継続し、この残留振動Rvにより圧力室50内のインクが撹拌される。つまり、残留振動Rvが継続している印字周期T(n+1) および印字周期T(n+2)においては、微振動駆動が実行されないにも関わらず圧力室50内のインクが撹拌されるので、微振動駆動の実行を省略することが可能であると理解できる。
【0036】
そこで、第1実施形態では、図8を参照して説明したように、非噴射期間S内にて微振動駆動を実行することを原則とした上で、非噴射期間Sの時間長(印字周期Tの個数)が閾値Th以下である場合には、その非噴射期間S内の各印字周期Tにて微振動駆動を停止させる。図10に示すように、閾値Thはメニスカスの残留振動Rvの継続時間に応じて選定される。以下の例示では、残留振動Rvが印字周期Tの2個分にわたって継続する場合を想定して、印字周期Tの2個分を閾値Thとした場合が説明される。
【0037】
なお、残留振動Rvの継続時間は、インクの粘度や噴射駆動時のメニスカスの変動の大きさ等に応じて変化し得ることは言うまでもない。すなわち、残留振動Rvの継続時間が印字周期Tの2個分に等しく、閾値Thが印字周期Tの2個分と等しく定められる本実施形態の構成は、あくまで説明のための例示に過ぎないことは当然に理解される。実際には、噴射駆動により生じるメニスカスの残留振動Rvの継続時間は、インクの特性(粘度等)、噴射パルスPDの波形等に基づいて実験的にまたは統計的に求めることが可能である。そして、求められた残留振動Rvの継続時間に応じて閾値Thを設定することが可能である。
【0038】
以下、具体的に本実施形態の微振動駆動の制御について説明する。図11は、制御部60のうち微振動駆動の実行を制御する機能のブロック図である。図11に示すように、制御部60は解析判定部72および駆動制御部74として機能する。図11の各要素は、記憶部62に記憶された制御プログラムの実行で実現される。解析判定部72は、印刷データDPを解析することで、印字周期T毎の噴射駆動の要否を各圧電素子45について決定し、噴射駆動を実行させる2個の印字周期Tに挟まれた非噴射期間S毎に、その非噴射期間Sの時間長が閾値Thよりも長いか否かを判定する。閾値Thは記憶部62に記憶され、解析判定部72によって読み出される。駆動制御部74は、解析判定部72による判定の結果に基づいて制御データDCを生成して記録ヘッド24に出力する。
【0039】
図12を参照して、制御部60の動作を説明する。図12は、N個(図12は便宜的に5個を例示)のノズル52(圧電素子45)について、印刷データDPに基づいて、印刷期間RDR中の印字周期T(図12の印字周期T(1)〜T(14))の各々で生成される制御データDCの内容を示す模式図である。図12の黒丸は制御データDCにおいて噴射駆動が指示されていることを意味し、網掛丸は制御データDCにおいて微振動駆動が指示されていることを意味し、白丸および二重丸は制御データDCにおいて待機状態(噴射駆動も微振動駆動も実行しない状態)が指示されていることを意味する。
【0040】
図12の例においては、印刷期間RDRのうち印字周期T(1)から印字周期T(14)までの期間において、各ノズル52(#1〜#5)についてそれぞれ2回のインクの噴射(噴射駆動)が指示される。上述の例(図8および図10)と同様に、第1印字周期TAおよび第2印字周期TBにおいて噴射駆動が指示される。例えば、第1番のノズル52(#1)では、第1印字周期TAは印字周期T(3)であり、第2印字周期TBは印字周期T(5)である。また、第2番のノズル52(#2)では、第1印字周期TAは印字周期T(4)であり、第2印字周期TBは印字周期T(7)である。
【0041】
インクの噴射が必要であると解析判定部72が判定した印字周期T(第1印字周期TAおよび第2印字周期TB)の各々(例えば、第1番のノズル52(#1)の印字周期T(3)および印字周期T(5))については、噴射駆動を指示する制御データDCを駆動制御部74が生成する。
【0042】
非噴射期間Sの時間長が閾値Thよりも長いと解析判定部72が判定した場合には、駆動制御部74が、その非噴射期間Sのうち第2印字周期TBの直前の印字周期Tについて微振動駆動を指示する制御データDCを生成し、その非噴射期間S内のその他の印字周期Tについて待機状態を指示する制御データDCを生成する。例えば、第3番のノズル52(#3)については、第1印字周期TA(印字周期T(5))の終点から第2印字周期TB(印字周期T(9))の始点までの非噴射期間S(印字周期T(6)〜印字周期T(8))の時間長は印字周期Tの3個分であるから、閾値Th(印字周期Tの2個分)よりも長いと解析判定部72が判定する。したがって、駆動制御部74は、その非噴射期間Sのうち第2印字周期TB(印字周期T(9))の直前の印字周期T(8)については微振動駆動を指示する制御データDCを生成し、その他の印字周期T(6)および印字周期T(7)については待機状態を指示する制御データDCを生成する。
【0043】
他方、非噴射期間Sの時間長が閾値Th以下であると解析判定部72が判定した場合、その非噴射期間S内の各印字周期Tについて待機状態を指示する制御データDCを駆動制御部74が生成する。例えば、第2番のノズル52(#2)については、非噴射期間S(印字周期T(5)〜印字周期T(6))の時間長は印字周期Tの2個分であるから閾値Th以下であると解析判定部72が判定する。したがって、非噴射期間S内の印字周期T(5)および印字周期T(6)につて待機状態を指示する制御データDCを駆動制御部74が生成する。すなわち、印字周期T(5)および印字周期T(6)では微振動駆動は実行されない。
【0044】
以上のように生成された制御データDCに基づいて、印刷期間RDR中の印字周期T毎に、駆動回路32が各ノズル52に対応する圧電素子45を駆動する。図12の例示においては、噴射駆動を指示する黒丸の制御データDCに対応する印字周期T(例えば第1番のノズル52(#1)の印字周期T(3))では、噴射パルスPDが圧電素子45に供給されノズル52からインクが噴射される。微振動駆動を指示する網掛丸の制御データDCに対応するノズル52および印字周期T(例えば第1番のノズル52(#1)の印字周期T(2))では、微振動パルスPBが圧電素子45に供給されノズル52内のメニスカスに微振動が付与される。待機状態を指示する白丸および二重丸の制御データDCに対応する印字周期T(例えば第1番のノズル52(#1)の印字周期T(6)および印字周期T(4))では、定電位要素PSが供給され圧電素子45は待機状態となる。
【0045】
印刷期間RDRが終了すると、直後の待機期間RFLにてフラッシング動作が行われる。制御部60は、各ノズル52について、待機期間RFLの直前の印刷期間RDRでの微振動駆動の回数に応じて、フラッシング駆動により噴射されるインクの量(フラッシング噴射量)を変動させる。例えば、各ノズル52について、微振動駆動の実行回数が少ない程フラッシング噴射量が低減されるように、制御部60がフラッシング駆動を実行させる。
【0046】
以上に説明した第1実施形態では、非噴射期間Sの時間長が閾値Th以下である場合に、その非噴射期間S内の各印字周期Tにて微振動駆動が停止されるから、非噴射期間Sの時間長に関わらずその非噴射期間Sにて微振動駆動を実行する構成(すなわち、残留振動Rvが継続している印字周期Tにおいても微振動駆動を実行する構成)と比較して、微振動駆動の所期の効果(液体の増粘の抑制)を充分に維持しながら、不要な微振動駆動の実行を抑制することが可能である。
更に、噴射駆動を実行させる印字周期Tの直前の非噴射の印字周期Tにて微振動駆動を実行し、他の非噴射の印字周期Tでは微振動駆動を実行しないので、全ての非噴射の印字周期Tにて微振動駆動を実行する構成と比較して、ノズル52内のメニスカスの過剰な微振動が更に抑制される。したがって、微振動駆動に必要な消費電力が低減されると共に、圧電素子45の寿命が延長される。また、微振動駆動を実行するとインクの増粘成分が圧力室50内に拡散するので、増粘成分をフラッシングで排出するための噴射量が増大するが、以上の構成によれば、微振動駆動が抑制されるので、フラッシングによるインクの噴射量を低減することが可能である。
【0047】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各態様において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0048】
第1実施形態では、微振動駆動の実行の要否判定に用いられる閾値Thは固定されていた。しかしながら、前述の通り、噴射駆動により生じた残留振動Rvの継続時間は、インクの粘度や噴射駆動時のメニスカスの変動の大きさ等に応じて変化し得る。そこで、第2実施形態では、閾値Thを変更可能とする。
【0049】
図13は、第2実施形態の制御部60のうち微振動駆動の実行を制御する機能のブロック図である。第2実施形態の制御部60は、解析判定部72と駆動制御部74とに加えて閾値制御部76を備える。閾値制御部76は、インクの特性(粘度等)、印刷装置100の内部温度、噴射パルスPDの波形(電位の変動幅や電位変動の傾き)等の動作条件に基づいて閾値Thを設定し記憶部62に記憶する。例えば、閾値Thは印刷装置100の動作条件に応じた残留振動Rvの継続時間に基づいて定めることができる。なお、閾値Thは、印刷装置100のユーザーの操作に応じて定めてもよい。
【0050】
図14は、印刷装置100の内部温度の上昇等に起因して、図9と比較してインクの粘度が相対的に低下した場合のメニスカスの変位(残留振動)の例を示す図である。図9の例では、メニスカスの残留振動Rvは印字周期T(n+2)までしか継続しなかったが、図14の例では、インクの粘度の低下によりメニスカスの残留振動Rvが収まりにくくなり印字周期T(n+4)まで継続する。残留振動Rvの継続時間が延長するのに合わせて、制御部60は、閾値Thを印字周期Tの2個分から4個分へと変更して記憶部62に記憶する。
【0051】
図15は、閾値Thの変更後において、各ノズル52について印字周期T毎に生成される制御データDCの内容を前掲の図12と同様の方法で図示した模式図である。制御部60は、第1実施形態と同様に、印刷データDPを解析して制御データDCを生成する。閾値Thが印字周期Tの2個分から4個分へと変更されているので、非噴射期間Sの時間長が印字周期Tの4個分以下であるノズル52(すなわち、第1番のノズル52(#1)〜第4番のノズル52(#4))については、各非噴射期間S内の各印字周期Tにて待機状態を指示する制御データDCが生成されて微振動駆動が停止される。
【0052】
閾値Thが一定値に固定される構成では、インクの特性変化や周辺環境の変化等により残留振動Rvの継続時間が変動した場合に、微振動駆動の制御が適切でなくなる可能性がある。例えば、周辺温度の低下等によりインクの粘度が増大し残留振動Rvの継続時間が短縮した場合には、残留振動Rvが生じていない印字周期Tでも微振動駆動が停止されて増粘成分が充分に拡散されない可能性がある。また、粘度の低いインクに変更された等により残留振動Rvの継続時間が延長した場合には、残留振動Rvが生じている印字周期Tでも微振動駆動が実行されて増粘成分が過剰に拡散される可能性がある。第2実施形態の構成によれば、印刷装置100の動作条件に応じて微振動駆動が適切に制御される。例えば、残留振動Rvの継続時間に応じて閾値Thが変更されることにより、残留振動Rvが継続している印字周期Tのみにて微振動駆動が停止される。したがって、インクの増粘を抑制する効果が高く維持されながら、微振動駆動頻度の低減による消費電力の低減や圧電素子の寿命延長といった効果も奏される。
【0053】
<C:第3実施形態>
前述の実施形態では、噴射駆動を実行する印字周期Tの直前の1つの印字周期Tにて微振動駆動を実行した。第3実施形態では、噴射駆動を実行する印字周期Tの直前のn個の印字周期Tにて微振動駆動を実行する。以下では、噴射駆動を実行する印字周期Tの直前の2個の印字周期Tで微振動駆動を実行する構成を例示するが、微振動駆動を実行する印字周期Tの個数は任意に変更され得る。
【0054】
図16は、各ノズル52について印字周期T毎に生成される制御データDCの内容を前掲の図12と同様の方法で図示した模式図である。制御部60は、第1実施形態と同様に、印刷データDPを解析して制御データDCを生成する。
非噴射期間Sの時間長が閾値Thよりも長いと解析判定部72が判定した場合には、駆動制御部74が、その非噴射期間Sのうち第2印字周期TBの直前の2個の印字周期T(例えば、第4番のノズル52(#4)の印字周期T(9)および印字周期T(10))について微振動駆動を指示する制御データDCを生成し、その非噴射期間S内のその他の印字周期T(例えば、第4番のノズル52(#4)の印字周期T(7)および印字周期T(8))について待機状態を指示する制御データDCを生成する。他方、非噴射期間Sの時間長が閾値Th以下であると解析判定部72が判定した場合には、その非噴射期間S内の各印字周期Tについて待機状態を指示する制御データDCを駆動制御部74が生成する。
また、第1印字周期TAの直前の2個の印字周期Tであると解析判定部72が判定した印字周期Tの各々(例えば、第1番のノズル52(#1)の印字周期T(1)および印字周期T(2))については、微振動駆動を指示する制御データDCを駆動制御部74が生成する。
【0055】
非噴射期間Sの時間長が閾値Thよりも長い場合において、微振動駆動を実行すべき一部の印字周期Tに残留振動Rvの継続時間が及ぶとき(すなわち、非噴射期間Sの時間長が微振動駆動を実行させる印字周期Tの個数nと閾値Thとを合計した値を下回るとき)には、n個を下回る個数の印字周期Tにて微振動駆動を実行させてもよい。例えば、図16の例示では、第3番のノズル52(#3)の非噴射期間Sの時間長(印字周期Tの3個分)は、微振動駆動を実行させる2個の印字周期Tと閾値Th(印字周期Tの2個分)との合計値である印字周期Tの4個分を下回るので、1個の印字周期T(8)のみにて微振動駆動を実行させる。
【0056】
以上の構成によれば、噴射駆動を実行する印字周期Tの直前の所定個以外の印字周期Tにて微振動駆動を停止するので、微振動駆動の過剰な実行が更に抑制される。また、微振動駆動を実行すべき印字周期Tの一部のみに残留振動Rvの継続時間が及ぶときに、所定個(n個)を下回る個数の印字周期Tにて微振動駆動を実行する構成を採用する場合には、インクの増粘抑制効果を維持しつつ、過剰な微振動駆動の実行を更に抑制することが可能である。
【0057】
<D:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0058】
(1)変形例1
インクの特性変化や周辺環境の変化等に応じて、制御部60が微振動駆動を実行する印字周期Tの個数を変更可能としてもよい。メニスカスに微振動を付与する期間の時間長を可変とすることで、インクの増粘の抑制効果をより一層高めることが可能である。
【0059】
(2)変形例2
前述の各形態では1系統の駆動信号COMを記録ヘッド24に供給したが、複数系統の駆動信号を各圧電素子45の駆動に使用する構成(例えば噴射パルスPDと微振動パルスPBとを別個の駆動信号に設定した構成)も採用され得る。また、前述の各形態では1個の印字周期Tにてインクを1回だけ噴射したが、1個の印字周期T内に複数回のインクの噴射を実行することも可能である。また、駆動信号の各パルス(PD,PB)の波形は任意である。
【0060】
(3)変形例3
前述の各形態では、非噴射期間Sの時間長が閾値Thより大きいか閾値Th以下であるかを制御部60(解析判定部72)が判定したが、非噴射期間Sの時間長が閾値Th以上であるか閾値Th未満であるかを制御部60(解析判定部72)が判定してもよい。すなわち、非噴射期間Sの時間長が閾値Thよりも長い場合にその非噴射期間S内にて微振動駆動を実行させ、非噴射期間Sの時間長が閾値Thよりも短い場合にその非噴射期間S内の各印字周期Tにて微振動駆動を停止させる構成であれば、非噴射期間Sの時間長が閾値Thと等しい場合に微振動駆動を実行させる構成とするか微振動駆動を停止させる構成とするかは任意に選択され得る。
【0061】
(4)変形例4
前述の各形態では、閾値Thは、残留振動Rvの継続時間と等しく設定されたが、残留振動Rvの継続時間に所定の時間を加算または減算した値に閾値Thが設定されてもよい。
【0062】
(5)変形例5
以上の第2実施形態では、閾値制御部76により設定された閾値Thが記憶部62に記憶され、記憶部62に記憶された閾値Thを解析判定部72が参照したが、閾値制御部76により設定された閾値Thが直接に解析判定部72に供給される構成も採用しうる。
【0063】
(6)変形例6
以上の各形態では、各待機期間RFLにてフラッシング駆動が実行されたが、フラッシング駆動の実行周期は任意である。例えば、待機期間RFLの所定個おきにフラッシング駆動が実行されてもよい。
また、以上の各形態では、待機期間RFLの直前の1つの印刷期間RDRにおける微振動駆動の実行回数に応じてフラッシング噴射量を変動させたが、フラッシング噴射量の決定に用いられる微振動駆動の実行回数の算出対象となる期間は任意である。例えば、待機期間RFLの直前の2つ以上の印刷期間RDRにおける微振動駆動の実行回数に応じてフラッシング噴射量を変動させてもよいし、待機期間RFLの直前の1つの印刷期間RDRのうち後半の期間における微振動駆動の実行回数に応じてフラッシング噴射量を変動させてもよい。
【0064】
(7)変形例7
以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12を移動させるシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙200の幅方向の全域に対向するように複数のノズル52が配列されたライン型の印刷装置100にも本発明を適用することが可能である。ライン型の印刷装置100では記録ヘッド24が固定され、記録紙200を搬送させながら各ノズル52からインクの液滴を噴射することで記録紙200に画像が記録される。以上の説明から理解されるように、記録ヘッド24自体の可動/固定は本発明において不問である。
【0065】
(8)変形例8
圧力室50内の圧力を変化させる要素(圧力発生素子)の構成は以上の例示に限定されない。例えば、静電アクチュエーター等の振動体を利用することも可能である。また、本発明の圧力発生素子は、圧力室50に機械的な振動を付与する要素に限定されない。例えば、圧力室50の加熱で気泡を発生させて圧力室50内の圧力を変化させる発熱素子(ヒーター)を圧力発生素子として利用することも可能である。すなわち、本発明の圧力発生素子は、圧力室50内の圧力を変化させる要素として包括され、圧力を変化させる方法(ピエゾ方式/サーマル方式)や構成の如何は不問である。
【0066】
(9)変形例9
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物化学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0067】
100……印刷装置、12……キャリッジ、14……移動機構、16……用紙搬送機構、18……キャップ、22……インクカートリッジ、24……記録ヘッド、26……吐出面、28……ノズル列、32……駆動回路、41……流路形成基板、42……ノズル形成基板、43……弾性膜、44……絶縁膜、45……圧電素子、46……保護基板、50……圧力室、52……ノズル、54……リザーバー、102……制御装置、104……印刷処理部、60……制御部、62……記憶部、64……駆動信号発生部、66……外部I/F、68……内部I/F、72……解析判定部、74……駆動制御部、76……閾値制御部、200……記録紙、300……外部装置、COM……駆動信号、DC……制御データ、DP……印刷データ、PD……噴射パルス、PB……微振動パルス、PS……定電位要素、Rv……残留振動、T……印字周期、Th……閾値。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が充填された圧力室と、前記圧力室内の前記液体の圧力を変動させる圧力発生素子とを含み、前記圧力室内の前記液体の圧力変動に応じて前記液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生素子を制御して、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動または前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を駆動周期毎に実行させる制御手段とを有する液体噴射装置であって、
前記制御手段は、
前記噴射駆動を実行させる第1駆動周期の終点から前記第1駆動周期の直後に前記噴射駆動を実行させる第2駆動周期の始点までの非噴射期間の時間長が閾値よりも長い場合に前記非噴射期間内にて前記微振動駆動を実行させ、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも短い場合に前記非噴射期間内の各駆動周期にて前記微振動駆動を停止させる
液体噴射装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記圧力発生素子を制御して、所定期間内での前記微振動駆動の実行回数に応じた量の前記液体を前記ノズルから噴射させるフラッシング駆動を実行させる
請求項1の液体噴射装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記圧力発生素子を制御する内容を指定するデータを解析し、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも長いか否かを判定する解析判定手段と、
前記解析判定手段の判定に基づいて、微振動駆動を実行または停止させる駆動制御手段とを含む
請求項2の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも長い場合に、前記非噴射期間のうち少なくとも前記第2駆動周期の直前の駆動周期にて微振動駆動を実行させる
請求項2または3の液体噴射装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも長い場合に、前記非噴射期間のうち前記第2駆動周期の直前の所定個の駆動周期にて微振動駆動を実行させ、前記非噴射期間のうち前記所定個の駆動周期以外の駆動周期にて微振動駆動を停止させる
請求項4の液体噴射装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記閾値を変更可能である
請求項1から5のいずれか1項の液体噴射装置。
【請求項7】
前記閾値は、噴射駆動により生じた前記ノズル内の前記液面に残留する振動の継続時間に応じて設定される
請求項1から6のいずれか1項の液体噴射装置。
【請求項8】
液体が充填された圧力室と、前記圧力室内の前記液体の圧力を変動させる圧力発生素子とを含み、前記圧力室内の前記液体の圧力変動に応じて前記液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生素子を制御して、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動または前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を駆動周期毎に実行させる制御手段とを有する液体噴射装置の駆動方法であって、
前記噴射駆動を実行させる第1駆動周期の終点から前記第1駆動周期の直後に前記噴射駆動を実行させる第2駆動周期の始点までの非噴射期間の時間長が閾値よりも長い場合に前記非噴射期間内にて前記微振動駆動を実行させ、前記非噴射期間の時間長が前記閾値よりも短い場合に前記非噴射期間内の各駆動周期にて前記微振動駆動を停止させる
液体噴射装置の駆動方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−171308(P2012−171308A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37964(P2011−37964)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】