説明

液体噴射装置のメンテナンス方法

【課題】目詰まりを効率的に検出可能な液体噴射装置のメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】液体噴射ヘッド3のノズル47から液体を吸引し、排出管127を介して排出させる工程を有する。排出管に導入した液体をポンプ装置16の駆動により加圧して、排出管の一端側に送出する第1工程と、液体噴射ヘッドのノズル開口面43aと非接触状態で対向配置されるとともに、排出管の他端側に接続され、ノズルから液体が噴射される液体受部15と、ノズル開口面との間に電界を付与する第2工程と、ポンプ装置による排出管内の液体への加圧を解除したときの静電誘導に基づく電圧変化を検出する第3工程と、電圧変化の検出結果に基づいて、排出管からの液体の排出状態を検出する第4工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置のメンテナンス方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット式記録装置は、記録用紙等にインクを吐出するためのインクジェット式記録ヘッドを有している。このインクジェット式記録ヘッドは、ノズルを介してインクを記録用紙等に吐出するため、ノズル近傍においてインクが増粘したり、ノズル内に気泡が混入したりして、インクの吐出が良好に行えなくなるおそれがあった。
このため、インクジェット式記録装置には、これらの現象を回避するためヘッドクリーニング装置が備えられている。
【0003】
ヘッドクリーニング装置は、ノズルを覆うように配置されるキャッピング部と、このキャッピング部内を負圧にするためのポンプとを有し、ノズル近傍等のインクをポンプで吸引することで、クリーニングしてメンテナンスを行う構成となっている。
この種のポンプとしては、比較的構造が簡単で、且つ小型化が図り易いチューブポンプが用いられている。そして、特許文献1には、インク等の液体の過吸引や逆流等を生じさせないチューブポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−258051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来技術には、以下のような問題が存在する。
ポンプの下流側(インク排出側)において、固まったインク等に起因して目詰まりが生じると、インクの送出が滞り圧力が高まることになる。この場合、ポンプとチューブとの接続部等が外れてインク漏れ出す虞があり、目詰まりを効率的に検出する方法の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、目詰まりを効率的に検出可能な液体噴射装置のメンテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明は、以下の構成を採用している。
本発明の液体噴射装置のメンテナンス方法は、液体噴射ヘッドのノズルから液体を吸引し、排出管を介して排出させる工程を有する液体噴射装置のメンテナンス方法において、前記排出管に導入した前記液体をポンプ装置の駆動により加圧して、前記排出管の一端側に送出する第1工程と、前記液体噴射ヘッドのノズル開口面と非接触状態で対向配置されるとともに、前記排出管の他端側に接続され、前記ノズルから液体が噴射される液体受部と、前記ノズル開口面との間に電界を付与する第2工程と、前記ポンプ装置による前記排出管内の前記液体への加圧を解除したときの静電誘導に基づく電圧変化を検出する第3工程と、前記電圧変化の検出結果に基づいて、前記排出管からの前記液体の排出状態を検出する第4工程とを有することを特徴とするものである。
【0008】
従って、本発明の液体噴射装置のメンテナンス方法では、ポンプ装置の下流側(液体排出側)で液体排出状態に目詰まり等の異常が生じている場合には、第1工程で液体を前記排出管の一端側に送出すると、液体が排出されずに液圧が高まることになる。そのため、第3工程で排出管の一端側への液体の送出を解除すると、液圧により液体が排出管を他端側へ液体受部に向けて逆流する。逆流した液体は、液圧が低下して生じたキャビテーションや、排出管内に含まれていた気体とともに液体受部に吹出し、液体受部に残留していた液体に気泡を生じさせる。この気泡がノズル開口面に到達して接触すると、ノズル開口面と液体受部とを電気的に接続させるため、ノズル開口面と液体受部との間の電圧変化として検出することができる。そのため、この電圧変化が検出された場合には、ポンプ装置の下流側で液体の排出状態に目詰まり等の異常があることを効率的に検出できる。
【0009】
また、上記の液体噴射装置のメンテナンス方法においては、前記第4工程で前記ノズルから前記液体受部に向けて液体を噴射したときの静電誘導に基づく電圧変化を検出する手順も好適に採用できる。
これにより、本発明では、例えば上述した気泡が少量でノズル開口面と液体受部とを電気的に接続させない場合でも、逆流による気泡が存在する場合と存在しない場合とで、液体を噴射したときの静電誘導に基づく電圧変化の差を検出することにより、ポンプ装置の下流側で液体の排出状態に目詰まり等の異常があることを検出できる。
【0010】
また、本発明の液体噴射装置のメンテナンス方法では、前記排出管からの前記液体の排出状態に異常を検出したときに、前記第1工程、前記第3工程及び前記第4工程を繰り返して行う手順も好適に採用できる。
これにより、本発明では、ポンプ装置の下流側の液体に対して加圧・減圧を繰り返して付与することが可能になるため、その衝撃により目詰まり等の異常を解消して排出状態を正常に回復させることが可能になる。
【0011】
また、上記の液体噴射装置のメンテナンス方法においては、前記液体受部は、前記ノズル開口面に当接して、前記ポンプ装置の駆動により前記ノズルに対して負圧吸引を行うキャップ部材に設けられる構成も好適に採用できる。
これにより、本発明では、キャップ部材をノズル開口面に当接させてノズルに対する負圧吸引を行った後に、引き続き上記第1工程から第4工程を実施でき、効率的にメンテナンスを実施できる。
【0012】
また、上記の液体噴射装置のメンテナンス方法においては、前記第1工程で液体を前記排出管の一端側に送出する液量を、前記キャップ部材により前記ノズルに対して負圧吸引を行う際に液体を送出する液量よりも小さくする手順を好適に採用できる。
これにより、本発明では、ポンプ装置の下流側(液体排出側)で液体排出状態に目詰まり等の異常が生じている場合に、第1工程でのポンプ装置の駆動による液圧で排出管とポンプ装置との接続部が外れる等の不具合を回避することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るプリンタ1の概略構成を示す一部分解図である。
【図2】記録ヘッド3の構成を説明する断面図である。
【図3】記録ヘッド3の要部断面図である。
【図4】記録ヘッド3、インクカートリッジ6及びインク滴センサ7の構成を説明する模式図である。
【図5】キャップ部材15に連結された吸引ポンプ16の構成を示す図である。
【図6】プリンタ1の電気的な構成を示すブロック図である。
【図7】インク滴センサ7を用いたメンテナンス処理を説明するフローチャートである。
【図8】静電誘導によって誘導電圧が生じる原理を説明する模式図であり、(a)はインク滴Dが吐出された直後の状態を示す図、(b)はインク滴Dがキャップ部材15の検査領域74に着弾した状態を示す図である。
【図9】インク滴センサ7から出力される検出信号(インク1滴分)の波形例を示す図である。
【図10】インクの排出状態の検出処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の液体噴射装置のメンテナンス方法の実施の形態を、図1ないし図10を参照して説明する。
本実施形態においては、本発明に係る液体受部をキャップ部材に設ける場合について説明する。また、本実施形態では、本発明に係る液体噴射装置として、インクジェット式プリンタ(以下、プリンタ1という)を例示する。
【0015】
なお、以下の実施の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせている。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るプリンタ1の概略構成を示す一部分解図である。
プリンタ1は、サブタンク2及び記録ヘッド(液体噴射ヘッド)3を搭載したキャリッジ4と、プリンタ本体5とから概略構成される。
【0017】
プリンタ本体5には、キャリッジ4を往復移動させるキャリッジ移動機構65(図6参照)と、不図示の記録紙(液体噴射対象)を搬送する紙送り機構66(図6参照)と、記録ヘッド3の各ノズルから増粘したインクLを吸引するクリーニング動作等に用いられるキャッピング機構14と、記録ヘッド3に供給するインクLを貯留したインクカートリッジ6とが設けられている。
【0018】
また、プリンタ1は、記録ヘッド3から吐出されるインク滴Dを検出可能なインク滴センサ7(図4,6参照)を備えている。このインク滴センサ7は、記録ヘッド3から吐出されるインク滴Dを帯電させ、この帯電したインク滴Dが飛翔する際の静電誘導に基づく電圧変化を検出信号として出力するように構成されたものである。
このインク滴センサ7の詳細については、後述する。
【0019】
キャリッジ移動機構65は、プリンタ本体5の幅方向に架設されたガイド軸8と、パルスモータ9と、パルスモータ9の回転軸に接続されてこのパルスモータ9によって回転駆動される駆動プーリー10と、駆動プーリー10とはプリンタ本体5の幅方向の反対側に設けられた遊転プーリー11と、駆動プーリー10と遊転プーリー11との間に掛け渡されてキャリッジ4に接続されたタイミングベルト12と、から構成されている。
そして、パルスモータ9を駆動することで、キャリッジ4がガイド軸8に沿って主走査方向に往復移動するように構成されている。
【0020】
また、紙送り機構66は、紙送りモータMやこの紙送りモータMによって回転駆動される紙送りローラ(いずれ不図示)等から構成され、記録紙を記録(印字・印刷)動作に連動させてプラテン13の上に順次送り出す。
【0021】
図4に示すように、キャッピング機構14は、キャップ部材15、吸引ポンプ(ポンプ装置)16等から構成されている。
キャップ部材15は、ゴム等の弾性材をトレイ形状に成型した部材によって構成してあり、ホームポジションに配設されている。このホームポジションは、キャリッジ4の移動範囲内であって記録領域よりも外側の端部領域に設定され、電源オフ時や長時間に亘って記録(液体噴射処理)が行われなかった場合にキャリッジ4が位置する場所である。
【0022】
ホームポジションにキャリッジ4が位置する場合には、キャップ部材15が記録ヘッド3のノズル基板43(図3参照)の表面(即ち、ノズル開口面43a)に当接して封止する。この封止状態で吸引ポンプ16を作動させると、キャップ部材15の内部(封止空部)が減圧されて、記録ヘッド3内のインクLがノズル47から強制的に排出される。
【0023】
また、キャップ部材15は、記録ヘッド3による記録動作前や記録動作中等において、増粘したインクLや気泡等を排出するためにインク滴Dを吐出するフラッシング処理においてインク滴Dを受ける。
【0024】
図2は記録ヘッド3の構成を説明する断面図、図3は記録ヘッド3の要部断面図である。図4は、記録ヘッド3、インクカートリッジ6及びインク滴センサ7の構成を説明する模式図である。
【0025】
本実施形態における記録ヘッド3は、導入針ユニット17、ヘッドケース18、流路ユニット19及びアクチュエータユニット20を主な構成要素としている。
導入針ユニット17の上面にはフィルタ21を介在させた状態で2本のインク導入針22が横並びで取り付けられている。これらのインク導入針22には、サブタンク2がそれぞれ装着される。また、導入針ユニット17の内部には、各インク導入針22に対応したインク導入路23が形成されている。
【0026】
このインク導入路23の上端はフィルタ21を介してインク導入針22に連通し、下端はパッキン24を介してヘッドケース18内部に形成されたケース流路25と連通する。
なお、本実施形態は、2種類のインクを使用する構成であるため、サブタンク2を2つ配設しているが、本実施形態は3種類以上のインクを使用する構成にも当然に適用されるものである。
【0027】
サブタンク2は、ポリプロピレン等の樹脂製材料によって成型されている。このサブタンク2には、インク室27となる凹部が形成され、この凹部の開口面に透明な弾性シート26を貼設してインク室27が区画されている。
また、サブタンク2の下部にはインク導入針22が挿入される針接続部28が下方に向けて突設されている。サブタンク2におけるインク室27は、底の浅いすり鉢形状をしており、その側面における上下中央よりも少し下の位置には、針接続部28との間を連通する接続流路29の上流側開口が臨んでおり、この上流側開口にはインクLを濾過するタンク部フィルタ30が取り付けられている。
針接続部28の内部空間にはインク導入針22が液密に嵌入されるシール部材31が嵌め込まれている。このサブタンク2には、図4に示すように、インク室27に連通する連通溝部32′を有する延出部32が形成されており、この延出部32の上面にはインク流入口33が突設されている。
【0028】
インク流入口33には、インクカートリッジ6に貯留されたインクLを供給するインク供給チューブ34が接続される。従って、インク供給チューブ34を通ってきたインクLは、このインク流入口33から連通溝部32′を通ってインク室27に流入する。
上記の弾性シート26は、インク室27を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形可能である。そして、この弾性シート26の変形によるダンパ機能によって、インクLの圧力変動が吸収される。すなわち、弾性シート26の作用によってサブタンク2が圧力ダンパとして機能する。従って、インクLは、サブタンク2内で圧力変動が吸収された状態で記録ヘッド3側に供給される。
【0029】
ヘッドケース18は、合成樹脂製の中空箱体状部材であり、下端面に流路ユニット19を接合し、内部に形成された収容空部37(図3参照)内にアクチュエータユニット20を収容し、流路ユニット19側とは反対側の上端面にパッキン24を介在した状態で導入針ユニット17を取り付けるようになっている。
このヘッドケース18の内部には、高さ方向を貫通してケース流路25が設けられている。このケース流路25の上端は、パッキン24を介して導入針ユニット17のインク導入路23と連通するようになっている。
また、ケース流路25の下端は、流路ユニット19内の共通インク室44に連通するようになっている。したがって、インク導入針22から導入されたインクLは、インク導入路23及びケース流路25を通じて共通インク室44側に供給される。
【0030】
ヘッドケース18の収容空部37内に収容されるアクチュエータユニット20は、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子38と、この圧電振動子38が接合される固定板39と、プリンタ本体側からの駆動信号を圧電振動子38に供給する配線部材としてのフレキシブルケーブル40とから構成される。各圧電振動子38は、固定端部側が固定板39上に接合され、自由端部側が固定板39の先端面よりも外側に突出している。即ち、各圧電振動子38は、所謂片持ち梁の状態で固定板39上に取り付けられている。
また、各圧電振動子38を支持する固定板39は、例えば厚さ1mm程度のステンレス鋼によって構成されている。そして、アクチュエータユニット20は、固定板39の背面を、収容空部37を区画するケース内壁面に接着することで収容空部37内に収納・固定されている。
【0031】
流路ユニット19は、振動板(封止板)41、流路基板42及びノズル基板43からなる流路ユニット構成部材を積層した状態で接着剤で接合して一体化することにより作製されており、共通インク室44からインク供給口45及び圧力室46を通りノズル47に至るまでの一連のインク流路(液体流路)を形成する部材である。圧力室46は、ノズル47の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成されている。
また、共通インク室44は、ケース流路25と連通し、インク導入針22側からのインクLが導入される室である。
そして、この共通インク室44に導入されたインクLは、インク供給口45を通じて各圧力室46に分配供給される。
【0032】
流路ユニット19の底部に配置されるノズル基板43は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル47を列状に開設した金属製の薄い板材である。本実施形態のノズル基板43は、ステンレス鋼の板材によって作製され、本実施形態においてはノズル47の列(即ち、ノズル列)が、各サブタンク2に対応して合計22列並設されている。そして、1つのノズル列は、例えば、180個のノズル47によって構成される。
ノズル基板43と振動板41との間に配置される流路基板42は、インク流路となる流路部、具体的には、共通インク室44、インク供給口45及び圧力室46となる空部が区画形成された板状の部材である。
【0033】
本実施形態において、流路基板42は、結晶性を有する基材であるシリコンウェハーを異方性エッチング処理することによって作製されている。振動板41は、ステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工した二重構造の複合板材である。この振動板41の圧力室46に対応する部分には、エッチングなどによって支持板を環状に除去することで、圧電振動子38の先端面が接合される島部48が形成されており、この部分はダイヤフラム部として機能する。即ち、この振動板41は、圧電振動子38の作動に応じて島部48の周囲の弾性フィルムが弾性変形するように構成されている。また、振動板41は、流路基板42の一方の開口面を封止し、コンプライアンス部49としても機能する。このコンプライアンス部49に相当する部分についてはダイヤフラム部と同様にエッチングなどにより支持板を除去して弾性フィルムだけにしている。
【0034】
そして、上記の記録ヘッド3において、フレキシブルケーブル40を通じて駆動信号が圧電振動子38に供給されると、この圧電振動子38が素子長手方向に伸縮し、これに伴い島部48が圧力室46に近接する方向或いは離隔する方向に移動する。これにより、圧力室46の容積が変化し、圧力室46内のインクLに圧力変動が生じる。この圧力変動によってノズル47からインク滴Dが吐出される。
【0035】
インクカートリッジ6は、図4に示すように、中空箱形状に形成されたケース部材51と、可塑性材料によって形成されたインクパック52とから構成されており、ケース部材51内の収容室にインクパック52を収容している。
このインクカートリッジ6は、インク供給チューブ34の一端部と連通しており、記録ヘッド3のノズル開口面43aとの水頭差によってインクパック52内のインクLを記録ヘッド3側に供給するように構成されている。具体的には、インクカートリッジ6と記録ヘッド3との重量方向の相対的な位置関係がノズル47のメニスカスに対して極く僅かに負圧がかかるような状態に設定されている。
そして、圧電振動子38を駆動することによる圧力変化によって、圧力室46へのインクLの供給と、この圧力室46内のインクLの吐出を行う。
【0036】
インク滴センサ7は、図4に示すように、ホームポジションに配置された液滴受部としてのキャップ部材15と、このキャップ部材15の内部に設けられた検査領域74と、この検査領域74と記録ヘッド3のノズル基板43との間に電圧を印加する電圧印加回路75と、検査領域74の電圧を検出する電圧検出回路76とから構成される。
【0037】
キャップ部材15は、上面が開放されたトレイ状の部材であり、エラストマー等の弾性部材により作製されている。このキャップ部材15の内部にはインク吸収体77が配設されている。インク吸収体77は、インクLの保持力が高いものであり、例えば、フェルトなどの不織布によって作製されている。
【0038】
そして、インク吸収体77の上面には、メッシュ状の電極部材78が配設されている。
この電極部材78の表面が検査領域74に相当する。電極部材78は、ステンレス鋼等の金属からなる格子状のメッシュとして形成されている。このため、電極部材78上に着弾したインク滴Dは、格子状の電極部材78の隙間を通って下側に配置された吸収体77に吸収・保持されるようになっている。
なお、キャップ部材15の上面に配置された弾性部材は絶縁体であり、後述するようにキャップ部材15を記録ヘッド3のノズル開口面43aに密着したとしても、電極部材78と記録ヘッド3とが導通しないようになっている。
【0039】
電圧印加回路75は、電極部材78が正極となり、記録ヘッド3のノズル基板43が負極となるように直流電源(例えば400V)と抵抗素子(例えば1MΩ)とを介して両者を電気的に接続している。
電圧検出回路76は、電極部材78の電圧信号を増幅して出力する増幅回路81と、この増幅回路81から出力された信号をA/D変換してプリンタコントローラ55(図6参照)側へ出力するA/D変換回路82とを備えている。増幅回路81は、所定の増幅率で電極部材78の電圧信号を増幅して出力するものである。A/D変換回路82は、増幅回路81から出力されたアナログ信号をディジタル信号に変換して、検出信号としてプリンタコントローラ55側に出力するようになっている。
【0040】
図5は、キャップ部材15に連結された吸引ポンプ16の構成を示す図である。
キャップ部材15の底壁には、キャップ部材15内に溜まったインクLを排出する排出部126が下方に向かって突設されており、その内部には排出通路126aが形成されている。排出部126には、可撓性材料等からなる排出チューブ(排出管)127の一端部が接続されており、排出チューブ127の他端部は、廃インクタンク128内に挿入されている。
【0041】
なお、廃インクタンク128内には、多孔質部材からなる廃インク吸収材129が収容されており、この廃インク吸収材129により回収されたインクLが吸収されるようになっている。なお、この廃インクタンク128は、プラテン13の下方に配設されている。
【0042】
キャップ部材15と廃インクタンク128との間には、チューブポンプ式吸引ポンプ16が配設されている。吸引ポンプ16は、円筒状のケース130を有しており、このケース130内には平面視で円形状をなすポンプホイル132がケース130の軸心に設けられたホイル軸131を中心に回動可能に収容されている。そして、このケース130内に、排出チューブ127の中間部127aがケース130の内周壁130aに沿うようにして収容されている。
【0043】
ポンプホイル132には、一対の外側に膨らむ円弧状をなすローラ案内溝133,134がホイル軸131を挟んで対向するように形成されている。各ローラ案内溝133,134は、一端がポンプホイル132の外周側に位置しており、他端がポンプホイル132の内周側に位置している。すなわち、両ローラ案内溝133,134は、それらの一端から他端に向かうほど、徐々にポンプホイル132の外周部から遠ざかるように延びている。両ローラ案内溝133,134内には、押圧手段としての一対のローラ135,136が、それぞれ回動軸135a,136aを介して挿通支持されている。なお、両回動軸135a,136aは、それぞれ両ローラ案内溝133,134内を摺動自在になっている。
【0044】
そして、ポンプホイル132を、正方向(矢印方向)に回動させると、両ローラ135,136が両ローラ案内溝133,134の一端側(ポンプホイル132の外周側)に移動し、排出チューブ127の中間部127aを上流側から下流側へ順次押し潰しながら(押圧しながら)回動するようになっている。この回動により、チューブポンプ16より上流側の排出チューブ127の内部が減圧され、チューブポンプ16より下流側の排出チューブ127の内部が加圧されるようになっている。
これにより、キャップ部材15内に溜まったインクLは、ポンプホイル132の正方向の回動動作により吸引され、徐々に廃インクタンク128方向へ排出されるようになっている。
【0045】
また、ポンプホイル132を逆方向(矢印方向とは反対方向)に回動させると、両ローラ135,136が両ローラ案内溝133,134の他端側(ポンプホイル132の内周側)に移動するようになっている。この移動により、両ローラ135,136がそれぞれ排出チューブ127の中間部127aに軽く接した状態となり、上流側の排出チューブ127の内部の減圧状態が解消される(下流側の排出チューブ127の内部の加圧状態が解消される)ようになっている。
なお、ポンプホイル132は、紙送り機構66の紙送りモータMによって回転駆動されるようになっている。
【0046】
図6はプリンタ1の電気的な構成を示すブロック図である。
本実施形態におけるプリンタ1は、プリンタコントローラ55と、プリントエンジン56と、インク滴センサ7とで概略構成されている。
プリンタコントローラ55は、ホストコンピュータ等の外部装置からの印刷データ等が入力される外部インタフェース(外部I/F)57と、各種データ等を記憶するRAM58と、各種制御のための制御プログラム等を記憶したROM59と、ROM59に記憶されている制御プログラムに従って各部の統括的な制御を行う制御部60と、クロック信号を発生する発振回路61と、記録ヘッド3へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路62と、印刷データをドット毎に展開することで得られた吐出データや駆動信号等を記録ヘッド3に出力するための内部インタフェース(内部I/F)63と、を備えている。
【0047】
プリントエンジン56は、記録ヘッド3と、キャリッジ移動機構65と、紙送り機構66とから構成されている。
記録ヘッド3は、吐出データがセットされるシフトレジスタ67と、シフトレジスタ67にセットされた吐出データをラッチするラッチ回路68と、ラッチ回路68からの吐出データを翻訳してパルス選択データを生成するデコーダ69と、電圧増幅器として機能するレベルシフタ70と、圧電振動子38に対する駆動信号の供給を制御するスイッチ回路71と、圧電振動子38とを備えている。
【0048】
制御部60は、外部装置から送信された印刷データをドットパターンに対応した吐出データに展開して記録ヘッド3に送信する。そして、記録ヘッド3では、受信した吐出データに基づき、インク滴Dの吐出が行われるようになっている。
【0049】
また、制御部60は、記録ヘッド3のノズル開口面43aのクリーニング(メンテナンス)処理を実施するクリーニング処理部としても機能する。
クリーニング処理は、記録ヘッド3の全ノズル47からインクLを強制排出させる吸引処理と、ノズル開口面43aに付着したインクLを拭き払うワイピング処理と、記録ヘッド3の全ノズル47からインク滴Dを連続吐出させるフラッシング処理とからなっている。
【0050】
吸引処理は、記録ヘッド3のノズル開口面43aにキャップ部材15を密着し、ノズル開口面43aをキャップ部材15で覆い被せた状態で吸引ポンプ16を駆動して、キャップ部材15で覆われた空間(以下、キャップ内空間Sという)を負圧状態にすることで、各ノズル47から強制的にインクLをキャップ部材15に向けて排出されるものである。
この吸引処理により、ノズル47内の増粘インクや気泡を強制排出させる。
吸引処理は、ノズル47内の増粘インクや気泡を協力に排出させることができる一方で、ワイピング処理やフラッシング処理に比べて時間を要するので、長時間に亘って記録処理が行われなかった等の印刷(記録)不良が発生する虞が高い場合や、印刷不良が発生して使用者からの要求があった場合等に行われるようになっている。
なお、制御部60は、吸引処理の際に、記録ヘッド3に対してキャップ部材15を密着させたり離間させたりすると共に、吸引ポンプ16を所定時間駆動する。
【0051】
ワイピング処理は、ノズル開口面43aに付着したインクLを拭き払うことで、ノズル開口面43aにおけるインクLの混色や、インク滴Dの飛行曲がりを防止する。
フラッシング処理は、記録ヘッド3の各ノズル47内から増粘したインクLや気泡を排出することでノズル詰まりを防止する処理であって、各ノズル47からキャップ部材15に向けてインク滴Dを、例えば、数十〜数百回程度、吐出する。
ワイピング処理やフラッシング処理は、印刷開始の前後や、印刷処理中に定期的に行われるようになっている。
【0052】
駆動信号発生回路62は、記録ヘッド3の圧電振動子38に供給する吐出パルスの電圧値の変化量を示すデータと吐出パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号とが入力され、これらのデータ及びタイミング信号に基づいて、駆動信号(吐出パルス)を発生する。
【0053】
上記吐出パルスを圧電振動子38に印加すると、次のようにしてインク滴Dが吐出される。即ち、吐出パルスが供給されると、まず、圧電振動子38が収縮して圧力室46が膨張する。この圧力室46の膨張状態が極く短い間維持された後、圧電振動子38が急激に伸長する。これに伴って、圧力室46の容積が基準容積以下に収縮し、ノズル47に露出したメニスカスが外側に向けて急激に加圧される。これにより、所定の液量のインク滴Dがノズル47から吐出される。その後、インク滴Dの吐出に伴うメニスカスの振動を短時間で収束させるべく、圧力室46が基準容積に復帰する。
【0054】
以上の構成を備えるプリンタ1は、電源投入後や、長時間に亘ってインク吐出が行われなかった後、あるいは使用者からの要求があったとき等、所定の条件を満たした場合に、インク滴センサ7を用いたメンテナンス(クリーニング)処理を行って、インク吐出不良(いわゆるドット抜け)を防止・解消するように制御される。
【0055】
図7は、インク滴センサ7を用いたメンテナンス処理を説明するフローチャートである。
図8は、静電誘導によって誘導電圧が生じる原理を説明する模式図であり、(a)はインク滴Dが吐出された直後の状態を示す図、(b)はインク滴Dがキャップ部材15の検査領域74に着弾した状態を示す図である。
図9は、インク滴センサ7から出力される検出信号(インク1滴分)の波形例を示す図である。
【0056】
プリンタ1に電源が投入される前(電源断時)には、キャリッジ4はホームポジションに位置し、記録ヘッド3のノズル基板43の表面にキャップ部材15が当接して封止されている。これは、記録ヘッド3の各ノズル47内のインクLが空気に触れて乾燥しないようにするためである。しかし、プリンタ1の電源断の状態が長時間に亘ると、インクLは徐々に乾燥して増粘してしまう。
このため、プリンタ1に電源が投入された際には、必ず印字開始前フラッシングが実施される(ステップS0)。
【0057】
印字開始前フラッシングでは、まず、不図示の昇降機構によってキャップ部材15が下降して、記録ヘッド3がキャップ部材15の上方に位置付けられ、記録ヘッド3のノズル開口面43aと検査領域74(電極部材78)とが非接触状態で対向する(ステップS1)。
そして、電圧印加回路75によって、ノズル基板43と電極部材78との間に電圧が印加される(ステップS2)。
次いで、ノズル基板43と電極部材78との間に電圧が印加した状態で、圧電振動子38を駆動させて、任意の一つノズル47からインク滴Dを吐出する(ステップS3)。
【0058】
この際、ノズル基板43は負極となっているため、図8(a)に示すように、ノズル基板43の一部の負電荷がインク滴Dに移動し、吐出されたインク滴Dは負に帯電する。そして、このインク滴Dがキャップ部材15の検査領域74に対して近づくに連れ、静電誘導によって検査領域74(電極部材78の表面)では正電荷が増加する。
これにより、ノズル基板43と電極部材78との間の電圧は、静電誘導によって生じる誘導電圧により、インク滴Dを吐出しない状態における当初の電圧値よりも高くなる。
その後、図8(b)に示すように、インク滴Dが電極部材78に着弾すると、インク滴Dの負電荷により電極部材78の正電荷が中和される。このため、ノズル基板43と電極部材78との間の電圧は当初の電圧値を下回る。
そして、その後に、ノズル基板43と電極部材78との間の電圧は当初の電圧値に戻る。
【0059】
したがって、図9に示すように、インク滴センサ7から出力される検出波形は、基準電圧Sから一旦電圧が上昇した後に、当初の電圧値を下回るまで下降し、その後当初の電圧値に戻る波形となる。
このようにして、インク滴センサ7により各ノズル47からインク滴Dを吐出した際の電圧変化が検出される(ステップS4)。
【0060】
ところが、インク滴Dが増粘している場合には、同一の吐出パルスを用いたとしても、吐出量(液量)が正常時に比べて減少する。このため、図9において、実線で示すように、インク滴センサ7から出力される検出信号(検出波形Z)の振幅Aは、正常時の検出信号(理想波形Z0:図9の破線)の振幅A0に比べて小さくなる(振幅差ΔA)。また、吐出パルスDPを印加してからインク滴Dがノズル基板43から離間するまでの時間も、正常時に比べて遅くなる(電圧上昇するタイミングが時間差ΔTだけずれる。)。
したがって、インク滴センサ7から出力される検出波形Zの振幅Aや電圧上昇のタイミングを理想波形Z0のそれらと比較(ΔA,ΔTを検出)することで、記録ヘッド3の各ノズル47内におけるインクLの増粘状態を求めることができる(ステップS5)。
【0061】
そして、フラッシング処理の際に、任意の一つのノズル47に関して、このノズル47から吐出されるインク滴Dにより得られるインク滴センサ7の検出信号(検出波形Z)が所定の状態(基準値以内)であるか否かを判定する(ステップS6)。そして、所定の状態に達していない場合にはこのノズル47からのインク滴Dの吐出を続行し、検出信号が所定の状態となったらフラッシング処理を終了(完了)する(ステップS7)。
【0062】
このようにして、制御部60は、記録ヘッド3の全てのノズル47の各々について、印字開始前フラッシングを実施する。
そして、印字開始前フラッシングが完了すると、紙送り機構66により記録紙が搬送(給紙)され、記録ヘッド3の各ノズル47から記録紙に向けてインク滴Dを吐出する記録(印字・印刷)処理に移行する(ステップS7)。
【0063】
上記のメンテナンス(クリーニング)処理は、停止時間が比較的短い場合や、固まりづらいインクを使用する場合等、廃インクタンク128へのインクの排出が円滑に行われる場合には問題が生じないが、粘度が大きなインクを用いる場合や顔料等の固まりやすいインクを用いる場合には、排出チューブ127内で目詰まりを起こす場合があり、特に吸引ポンプ16の下流側で目詰まりが生じた場合には、吸引ポンプ16によりインクが送出されるため液圧が高まり液漏れ等の不具合を起こす可能性がある。そのため、本実施形態では、停止時間が所定値を超えた場合や、固まりやすいインクを用いる場合等、目詰まりを発生が想定される場合には、上述したメンテナンス(クリーニング)処理に先だって、排出チューブ127からのインクの排出状態を検出する工程を設けている。
【0064】
以下、図10に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、排出状態の検出処理の開始指令があると、制御部60は、キャリッジ4を駆動して、記録ヘッド3をホームポジションに移動させて、キャップ部材15の上方に位置づける。そして、不図示の昇降機構によってキャップ部材15を上昇させて、記録ヘッド3のノズル開口面43aとキャップ部材15の上端を密着させる。これにより、ノズル開口面43aとキャップ部材15の検査領域74(電極部材78)とは、非接触状態で近接対向する(ステップS11)。
なお、電源投入直後等では、すでに記録ヘッド3のノズル開口面43aとキャップ部材15が(保湿のため)密着状態で維持されているので、そのままステップS2に移行する。
【0065】
次に、吸引ポンプ16を予め設定された時間(数秒間、例えば2秒間)だけ駆動して、ノズル開口面43aとキャップ部材15の間の空間(キャップ内空間S)を負圧状態にする。
キャップ内空間Sが負圧状態となると、記録ヘッド3の各ノズル47からインクLがキャップ内空間S側に吸引されて、強制的に排出されるようになる。これにより、ノズル47内で増粘したインクLや、記録ヘッド3内の気泡がキャップ部材15に向けて排出され、さらに排出チューブ127内に導入される(ステップS12)。
【0066】
続いて、昇降機構によってキャップ部材15を下降させて、記録ヘッド3のノズル開口面43aとキャップ部材15とを離間させ、キャップ部材15内を大気開放する(ステップS13)。
【0067】
この後、再度、吸引ポンプ16を数秒間(例えば、5秒間)駆動して、排出チューブ127内に導入されたインクを下流側に送出する(ステップS14)。このときのインク送出量は、上述した吸引処理によりノズル47から強制的にインクLを吸引し、排出チューブ127を介して送出する際の送出量よりも小さくすることが好ましい。このようにすることで、吸引ポンプ16よりも下流側で目詰まりが生じていた場合でも、液圧が大きくなりすぎて吸引ポンプ16や排出チューブ127に大きな負荷がかかることを回避できる。
【0068】
次に、電圧印加回路75によって、ノズル基板43と電極部材78との間に電圧が印加される(ステップS15)。なお、ステップS14とステップS15とは、順序が逆であってもよい。
【0069】
続いて、ノズル基板43と電極部材78との間に電圧が印加されている状態で、吸引ポンプ16による下流側へのインクの送出(インク加圧)を解除(レリース)する(ステップS16)。より詳細には、ポンプホイル132を逆方向(矢印方向とは反対方向;図5中、反時計回り方向)に回動させ、下流側の排出チューブ127の内部の加圧状態を解消させる。
【0070】
ここで、排出チューブ127内に目詰まりが生じていない場合には、単にインクの送出が停止されるだけだが、排出チューブ127内に目詰まりが生じてた場合には、ステップS14でのインク送出により、吸引ポンプ16と目詰まり部との間のインクの液圧が大きくなって蓄圧された状態となっているため、吸引ポンプ16をレリースすることにより、蓄圧されたインクは排出チューブ127をキャップ部材15へ向けて逆流する。
【0071】
逆流したインクは、液圧が低下して生じたキャビテーションや、排出チューブ127内に含まれていた気体とともにキャップ部材15に吹出し、キャップ部材15に残留していたインクに気泡を生じさせる。この気泡がノズル開口面43aに到達して接触すると、ノズル開口面43aとキャップ部材15とを電気的に接続させるため、インク滴センサ7ではノズル開口面43aとキャップ部材15との間でゼロ電位が検出される(ステップS17)。
【0072】
制御部60は、インク滴センサ7の検出値に基づき、インクの排出状態に異常があるかを判断し(ステップS18)、上記のように、ノズル開口面43aとキャップ部材15との間の電圧差がなくなった場合には、異常が生じているものとしてエラーを出力する(ステップS19)、または装置の稼働を停止する。
【0073】
一方、排出チューブ127内に目詰まりが生じていない場合には、インクの逆流が生じないため、インク滴センサ7の検出値は図9に示す基準電圧Sを示すことから、制御部60は、ステップS18でインクの排出状態に異常が生じていないと判断する。
【0074】
なお、ステップS18でインクの排出状態に異常が生じていないと判断した場合でも、ノズル開口面43aに到達しない小さな気泡が生じている可能性がある。そのため、本実施形態では、ステップS20において、ノズル47からキャップ部材15に向けてインク滴を吐出し、インク滴センサ7を用いて上述したステップS3〜S6を行う。
【0075】
そして、インク滴センサ7の検出値を判断し(ステップS21)、図9に示した検出信号(検出波形Z、Z0)と同様の信号が得られた場合には、排出異常検出処理を終了させ、検出信号(検出波形Z、Z0)と異なる信号が得られた場合には、インクの排出状態に異常が生じているものとしてエラーを出力する(ステップS19)、または装置の稼働を停止する。
【0076】
以上説明したように、本実施形態では、吸引ポンプ16による排出チューブ127内のインクへの加圧を解除した後の、キャップ部材15における静電誘導に基づく電圧変化を検出することにより、別途目詰まり検出用の装置を別途設けることなく、効率的に排出チューブ127内の目詰まりを検出することが可能になる。
また、本実施形態では、さらにノズル47からインク滴を吐出させた場合の電圧変化も検出するため、小さな目詰まりが生じた場合でも、より高精度に検出することが可能になる。
【0077】
また、本実施形態では、吸引ポンプ16による蓄圧時のインク送出量を、吸引処理によりノズル47から強制的にインクLを吸引し、排出チューブ127を介して送出する際の送出量よりも小さくしているため、吸引ポンプ16よりも下流側で目詰まりが生じていた場合でも、液圧が大きくなりすぎて吸引ポンプ16や排出チューブ127に大きな負荷がかかることを回避して安全性を高めることができる。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0079】
例えば、上記実施形態では、インク滴センサ7をキャップ部材15に設ける構成としたが、これに限定されるものではなく、例えば上述したフラッシング処理を行う際に用いられるフラッシングボックスを、キャップ部材15との間で吸引ポンプ16への接続を切替可能に設けた場合には、インク滴センサ7を当該フラッシングボックスに設ければよい。この場合には、上記ステップS11〜S13を行う際には、キャップ部材15と吸引ポンプ16とを接続し、ステップS14以降を行う際にはフラッシングボックスと吸引ポンプ16とを接続すればよい。
【0080】
また、上記実施の形態では、インク滴センサ7の検出結果からインクの排出状態に異常を検出した場合に直ちにエラーを出力する手順としたが、これに限られるものではなく、例えばステップS11〜S17を繰り返し、吸引ポンプ16の下流側のインクに対して加圧・減圧を繰り返して付与し、その衝撃により目詰まり等の異常を解消して排出状態を正常に回復させる回復処理を行い、その処理後にも異常が検出された場合にエラーを出力する手順としてもよい。
これにより、自動的に目詰まりを解消することが可能になり、エラーにより装置の稼働が停止して、生産性が低下してしまうことを防止できる。
【0081】
なお、上述した実施形態においては、流体噴射装置がインクジェットプリンターである場合を例にして説明したが、インクジェットプリンターに限られず、複写機及びファクシミリ等の装置であってもよい。
また、上述の実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の液体を流体として噴射する流体噴射装置である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な液体としては、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体が含まれる。
【0082】
また、上述した実施形態において、流体噴射装置から噴射される液体としては、インクのみならず、特定の用途に対応する液体を適用可能である。流体噴射装置に、その特定の用途に対応する液体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する液体を噴射して、その液体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、本発明の流体噴射装置は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した液体(液状体)を噴射する流体噴射装置に適用可能である。
【0083】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1…液体噴射装置(プリンタ)、 3…記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 15…キャップ部材(液体受部)、 16…吸引ポンプ(ポンプ装置)、 43a…ノズル開口面、 47…ノズル、 127…排出チューブ(排出管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドのノズルから液体を吸引し、排出管を介して排出させる工程を有する液体噴射装置のメンテナンス方法において、
前記排出管に導入した前記液体をポンプ装置の駆動により加圧して、前記排出管の一端側に送出する第1工程と、
前記液体噴射ヘッドのノズル開口面と非接触状態で対向配置されるとともに、前記排出管の他端側に接続され、前記ノズルから液体が噴射される液体受部と、前記ノズル開口面との間に電界を付与する第2工程と、
前記ポンプ装置による前記排出管内の前記液体への加圧を解除したときの静電誘導に基づく電圧変化を検出する第3工程と、
前記電圧変化の検出結果に基づいて、前記排出管からの前記液体の排出状態を検出する第4工程とを有することを特徴とする液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項2】
請求項1記載の液体噴射装置のメンテナンス方法において、
前記第4工程では、前記ノズルから前記液体受部に向けて液体を噴射したときの静電誘導に基づく電圧変化を検出することを特徴とする液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の液体噴射装置のメンテナンス方法において、
前記排出管からの前記液体の排出状態に異常を検出したときに、前記第1工程、前記第3工程及び前記第4工程を繰り返して行うことを特徴とする液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の液体噴射装置のメンテナンス方法において、
前記液体受部は、前記ノズル開口面に当接して、前記ポンプ装置の駆動により前記ノズルに対して負圧吸引を行うキャップ部材に設けられることを特徴とする液体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項5】
請求項4記載の液体噴射装置のメンテナンス方法において、
前記第1工程で液体を前記排出管の一端側に送出する液量は、前記キャップ部材により前記ノズルに対して負圧吸引を行う際に液体を送出する液量よりも小さいことを特徴とする液体噴射装置のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−156753(P2011−156753A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20221(P2010−20221)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】