説明

液体塗布・剥離装置、記録媒体搬送装置及びインクジェット記録装置

【課題】一つの装置で、粘性を有する液体を一方向に沿って移動する塗布対象面の移動方向と直交する方向に亘って均一の厚みで塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有し、塗布厚みを自由且つ容易に調整することができる液体塗布・剥離装置の提供。
【解決手段】粘性を有する液体を均一厚みに塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有する液体塗布・剥離装置2であって、ステー部材20と、液体を均一厚みに塗布するための塗布ブレード24及び塗布された液体を掻き取り剥離するための剥離ブレード25と、塗布ブレード24の先端又は剥離ブレード25の先端の塗布対象面に対する高さ位置を切り替える切り替え機構と、ステー部材20を昇降させることで、塗布ブレード24および剥離ブレード25を一体に昇降させ、突出する塗布ブレード24の先端又は剥離ブレード25の先端を、塗布対象面に接離させる昇降機構と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体塗布・剥離装置、記録媒体搬送装置及びインクジェット記録装置に関し、詳しくは、粘性を有する液体を回転ローラもしくは無端ベルトの表面に均一厚みで塗布し、又は該塗布された液体を剥離するための液体塗布・剥離装置、これを備えた記録媒体搬送装置及びこれを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体として布帛を使用し、記録ヘッドからインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置(捺染装置)では、布帛を皺のないように搬送し、皺のない状態が維持された布帛に対して記録を行うことが重要である。このため、布帛を搬送するローラや無端ベルトの表面に、地張り剤を均一に塗布しておき、その上に布帛を張り付かせることで、搬送時及び記録時の布帛表面を皺のない状態に保持するようにしている。
【0003】
地張り剤は、糊状の粘性を有する液体であり、ローラや無端ベルトの表面に塗布されて膜を形成することで、布帛を粘性によって張り付かせて密着させる接着剤として機能する。この地張り剤が膜状に塗布されたローラや無端ベルトの表面に、布帛を展張させて密着させることで、布帛を皺のない状態のまま搬送することができる。
【0004】
特許文献1には、布帛がベルトから剥離する部位の下流側に、複数本のローラを連接した地張り剤の塗布装置を、そのうちの最終ローラがベルト表面に接するように配置させ、これら複数本のローラを介してベルト表面に地張り剤を塗布することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−302576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地張り剤は、布帛を粘性によってローラや無端ベルトの表面に張り付かせるため、記録媒体の幅方向に亘って均一の厚みに塗布しないと、布帛表面を記録ヘッドに対して均一高さに維持することができず、画像乱れを発生させる原因となる。また、使用される布帛の種類や厚み等に応じて、地張り剤の塗布厚みを変更できるようにすることも望まれる。
【0007】
しかし、特許文献1のように、複数本のローラを介して地張り剤を塗布するだけの構成では、幅方向に亘って均一な厚みで塗布することが難しく、また、布帛の種類や厚み等に応じて塗布厚みを変更することができないという問題があった。
【0008】
更に、装置の稼動終了後は、古くなった地張り剤をローラや無端ベルトの表面から剥離する必要があるが、そのための剥離装置を塗布装置とは別に用意しなくてはならず、搬送装置周囲の構造が複雑化する問題もあった。
【0009】
これら塗布装置や剥離装置は、いずれも装置の稼動開始前又は終了後に地張り剤を塗布又は剥離するためだけにしか使用しないため、これらを別体の装置としてそれぞれ装備しておくことは、スペース的にもコスト的にも無駄が多いものであった。
【0010】
そこで、本発明は、一つの装置で、粘性を有する液体を一方向に沿って移動する塗布対象面の移動方向と直交する方向に亘って均一の厚みで塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有し、しかも、塗布厚みを自由且つ容易に調整することができる液体塗布・剥離装置を提供することを課題とする。
【0011】
また、本発明は、一つの装置で、記録媒体を搬送するローラもしくは無端ベルトの表面に該無端ベルトの移動方向と直交する方向に亘って均一の厚みで粘性を有する液体を塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有し、しかも、塗布厚みを自由且つ容易に調整することができる液体塗布・剥離装置を備えた記録媒体搬送装置を提供することを課題とする。
【0012】
更に、本発明は、一つの装置で、記録媒体を搬送するローラもしくは無端ベルトの表面に該無端ベルトの移動方向と直交する方向に亘って均一の厚みで粘性を有する液体を塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有し、しかも、塗布厚みを自由且つ容易に調整することができる液体塗布・剥離装置を備えたインクジェット記録装置を提供することを課題とする。
【0013】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0015】
請求項1記載の発明は、一方向に沿って移動する塗布対象面に供給された粘性を有する液体を均一厚みに塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有する液体塗布・剥離装置であって、
前記塗布対象面の移動方向と直交する方向に沿って延びるステー部材と、
前記ステー部材に沿って設けられ、前記塗布対象面に液体を移動方向と直交する方向に均一厚みに塗布するための塗布ブレード及び前記塗布対象面に塗布された液体を掻き取って剥離するための剥離ブレードと、
前記塗布ブレードの先端と前記剥離ブレードの先端のいずれか一方が前記塗布対象面に向けて相対的に突出するように、前記塗布ブレードの先端又は前記剥離ブレードの先端の前記塗布対象面に対する高さ位置を切り替える切り替え機構と、
前記ステー部材を前記塗布対象面に対して昇降させることにより、前記塗布ブレードおよび剥離ブレードを一体に昇降させ、前記切り替え機構によって前記塗布対象面に向けて突出する前記塗布ブレードの先端又は前記剥離ブレードの先端を、前記塗布対象面に接離させる昇降機構と、
を備えることを特徴とする液体塗布・剥離装置である。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記塗布ブレードは板状の剛性体であり、前記剥離ブレードは板状の弾性体であることを特徴とする請求項1記載の液体塗布・剥離装置である。
【0017】
請求項3記載の発明は、前記昇降機構は、前記ステー部材の両端部近傍にそれぞれ設けられ、前記塗布対象面に対して垂直方向に延びる雄ねじ構造のガイド軸と、前記ガイド軸に回転可能に螺合する回転部材と、前記ステー部材の両端部にそれぞれ一体に取り付けられて前記ガイド軸を摺動可能に挿通させる開口部を有する支持部材とを有し、
前記支持部材が、前記開口部に前記ガイド軸を挿通させた状態で前記回転部材上に載置されており、前記回転部材が回転することにより、前記ステー部材が前記ガイド軸に沿って昇降する構成であることを特徴とする請求項1又は2記載の液体塗布・剥離装置である。
【0018】
請求項4記載の発明は、前記塗布ブレード及び前記剥離ブレードの幅方向の両端部に近接して、液体の塗布幅もしくは液体の剥離幅を規制して、塗布された液体もしくは剥離された液体が漏れ広がることを防止するための板状部材を着脱可能に設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の液体塗布・剥離装置である。
【0019】
請求項5記載の発明は、記録媒体を一方向に搬送すると共に表面が前記塗布対象面を構成する回転するローラもしくは無端ベルトと、
前記ローラもしくは前記無端ベルトの表面に前記記録媒体を粘性によって張り付けるための地張り剤を塗布し又は該塗布された地張り剤を剥離するための請求項1〜4のいずれかに記載の液体塗布・剥離装置と、
を備えることを特徴とする記録媒体搬送装置である。
【0020】
請求項6記載の発明は、記録媒体を一方向に搬送すると共に表面が前記塗布対象面を構成する回転するローラもしくは無端ベルトと、
前記ローラもしくは前記無端ベルトの表面に前記記録媒体を粘性によって張り付けるための地張り剤を塗布し又は該塗布された地張り剤を剥離するための請求項1〜4のいずれかに記載の液体塗布・剥離装置と、
前記ローラもしくは前記無端ベルトの表面に張り付いた前記記録媒体にインクを吐出することによって画像の記録を行う記録ヘッドと、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、一つの装置で、粘性を有する液体を一方向に沿って移動する塗布対象面に移動方向と直交する方向に亘って均一の厚みで塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有し、しかも、塗布厚みを自由且つ容易に調整することができる液体塗布・剥離装置を提供することができる。
【0022】
また、本発明によれば、一つの装置で、記録媒体を搬送するローラもしくは無端ベルトの表面に該無端ベルトの移動方向と直交する方向に亘って均一の厚みで粘性を有する液体を塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有し、しかも、塗布厚みを自由且つ容易に調整することができる液体の塗布・剥離装置を備えた記録媒体搬送装置を提供することができる。
【0023】
更に、本発明によれば、一つの装置で、記録媒体を搬送するローラもしくは無端ベルトの表面に該無端ベルトの移動方向と直交する方向に亘って均一の厚みで粘性を有する液体を塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有し、しかも、塗布厚みを自由且つ容易に調整することができる液体塗布・剥離装置を備えたインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る液体塗布・剥離装置を備えた記録媒体搬送装置の斜視図
【図2】本発明に係る液体塗布・剥離装置の一部断面で示す側面図
【図3】本発明に係る液体塗布・剥離装置の塗布ブレード及び剥離ブレードの構造を示す説明図
【図4】塗布ブレードによって地張り剤を塗布する様子を示す説明図
【図5】剥離ブレードによって地張り剤を剥離する様子を示す説明図
【図6】塗布ブレードと剥離ブレードの他の態様を示す説明図
【図7】本発明に係るインクジェット記録装置の一例を示す構成図
【図8】本発明に係る記録媒体搬送装置及びインクジェット記録装置の他の例を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る液体塗布・剥離装置を備えた記録媒体搬送装置の斜視図、図2は、液体塗布・剥離装置の一部断面で示す側面図、図3は、液体塗布・剥離装置の塗布ブレード及び剥離ブレードの構造を示す説明図、図4は、塗布ブレードによって地張り剤を塗布する様子を示す説明図、図5は、剥離ブレードによって地張り剤を剥離する様子を示す説明図である。
【0027】
ここでは無端ベルトの表面に、粘性を有する液体として地張り剤を塗布し、記録媒体として布帛を使用して地張り剤によってベルト表面に張り付かせて搬送するものについて説明する。
【0028】
記録媒体搬送装置1は、所定間隔をおいて平行に配置された一対のローラ10(図1では一方のみが図示されている。)に亘って無端ベルト11が架け渡されている。一対のローラ10のうちの一方は駆動源に連結された駆動ローラ、他方は従動ローラであり、駆動ローラが回転駆動することによって、無端ベルト11を図中A方向に沿って回転移動させる。
【0029】
一対のローラ10間の無端ベルト11の上面は布帛(図示せず)の載置面11aであり、この載置面11aに、後述する液体塗布・剥離装置2を使用して塗布された地張り剤の膜によって布帛を密着させ、無端ベルト11の回転移動に伴って皺のない状態で搬送するようになっている。
【0030】
液体塗布・剥離装置2は、無端ベルト11の載置面11aの上方に、無端ベルト11の載置面11aの移動方向Aと直交する方向(以下、幅方向という。)に沿って延びるように架け渡されたステー部材20と、このステー部材20の両端部にそれぞれ一体に取り付けられた支持部材21を有している。
【0031】
ステー部材20は、無端ベルト11の幅よりも長く、該無端ベルト11の両側にそれぞれ張り出す長さを有する1本の角柱状の棒状体によって形成されている。
【0032】
各支持部材21は、矩形状のブロック体からなり、無端ベルト11の両側からそれぞれ張り出したステー部材20の両端部において、それぞれ載置面11aの移動方向Aと反対方向に延び、且つ、該載置面11aと平行に突出するように設けられている。その突出側には、上下に貫通する1つの貫通孔21aがそれぞれ開設されている。
【0033】
各貫通孔21aには、記録媒体搬送装置1における無端ベルト11の両側方において、載置面11aに対して垂直方向に延びるように上方に向けて立設されたガイド軸22の先端が摺動可能に挿入されている。ここでは、ガイド軸22は記録媒体搬送装置1の両側部にそれぞれ設けられた支持基台12に固定されており、その外周には雄ねじ22aが刻設されている。
【0034】
支持部材21は、貫通孔21aがこのガイド軸22に沿って上下に移動することにより上下に移動可能となっている。この上下の移動をより円滑にするため、貫通孔21aの内面には、例えば金属系無給油軸受等の潤滑材を含むすべり性の良い材質からなる筒状の潤滑部材21bが設けられている。
【0035】
ガイド軸22の外周の雄ねじ22aには、昇降用回転部材23がそれぞれ回転可能に螺合している。各支持部材21は、貫通孔21aにガイド軸22の先端を挿入させた状態で、この昇降用回転部材23の上面にそれぞれ載置されることにより、ステー部材20を無端ベルト11の載置面11a上方に、その幅方向に亘って架け渡すように配置している。
【0036】
ステー部材20における載置面11aの移動方向Aと反対方向に面する側面には、地張り剤を無端ベルト11の表面に均一厚みで塗布するための塗布ブレード24と、該塗布ブレード24によって塗布された地張り剤を無端ベルト11の表面から剥離するための剥離ブレード25とが設けられている。
【0037】
塗布ブレード24は、例えばステンレス等の金属板や硬質合成樹脂等からなる板状の剛性体であり、無端ベルト11と同程度の幅(無端ベルト11の幅方向に沿う長さ)を有している。板状の剛性体であることにより、塗布される地張り剤の厚みを精密に規定することができる。
【0038】
塗布ブレード24の先端(無端ベルト11の載置面11aに近接する端)は、載置面11aの移動方向Aの下流側の側面がテーパー面24aとなっている。この塗布ブレード24は、テーパー面24aを有する先端側が載置面11a側となり、ステー部材20から載置面11aに向けて突出するように、例えばビス止め等の固定手段によって該ステー部材20の側面に対して固定されている。
【0039】
剥離ブレード25は、例えばウレタン樹脂等からなる板状の弾性体であり、塗布ブレード24の幅(無端ベルト11の幅方向に沿う長さ)と同幅に形成されている。この剥離ブレード25は、塗布ブレード24におけるステー部材20との固定面と反対面に配置された支持プレート26の下端側に、該塗布ブレード24に沿うように取り付けられている。剥離ブレード25の先端(無端ベルト11の載置面11aに近接する端)は、支持プレート26の下端よりも載置面11a側に突出しており、適宜数のビス25aと押さえ板25bとによって、支持プレート26における塗布ブレード24と反対面に固定されている。
【0040】
支持プレート26は、幅方向に所定間隔をおいて、それぞれ縦方向に延びる複数の長孔26aを有しており、塗布ブレード24の側面に突設された複数のガイドピン24bが嵌合することによって、塗布ブレード24の側面に、長孔26aの長さのストロークで上下方向に沿って塗布ブレード24に対して平行移動可能に支持されている。
【0041】
複数の長孔26aのうちのいずれか(ここでは2つ)には、支持プレート26を塗布ブレード24の側面に対して所定位置で不動となるように固定するための固定ノブ26bが挿入されている。この固定ノブ26bが挿入された長孔26aに対応する塗布ブレード24の側面には、固定ノブ26bの先端のねじ部が螺合する雌ねじが刻設されており、固定ノブ26bを締め付けることによって、支持プレート26を塗布ブレード24との間で挟着してその位置で固定し、固定ノブ26bを弛めることによって、支持プレート26を塗布ブレード24に対して、長孔26aの長さのストロークで上下に移動可能としている。
【0042】
ガイドピン24bが長孔26aの上端に位置するように支持プレート26を下降させた際、支持プレート26の上端は塗布ブレード24の上端に一致した状態となる(図3(a))。この状態では、支持プレート26に取り付けられた剥離ブレード25の先端の方が、塗布ブレード24の先端よりも下方に突出する。一方、ガイドピン24bが長孔26aの下端に位置するように支持プレート26を上昇させた際、支持プレート26の上端は塗布ブレード24の上端よりも上方に突出した状態となる(図3(b))。この状態では、塗布ブレード24の先端の方が、剥離ブレード25の先端よりも上方に突出する。
【0043】
支持プレート26には、2つの位置決め孔26c、26dが、上下方向に長孔26aの上下方向の長さに相当する間隔をおいて貫通形成され、そのうちの一方に位置決めピン26eが挿入されている。位置決めピン26eは、位置決め孔26c、26dのうちのいずれかに挿入されることにより、塗布ブレード24の側面に形成された1つの係合孔24c(図4、図5)と係合し、支持プレート26を、ガイドピン24aが長孔26aの上端又は下端のいずれかの位置まで上昇又は下降した高さ位置で位置決めし、支持プレート26の高さ位置、すなわち、剥離ブレード25の載置面11aに対する高さ位置を切り替えるようになっている。
【0044】
本実施形態におけるガイドピン24b、係合孔24c、長孔26a、固定ノブ26b、位置決め孔26c、26d及び位置決めピン26eは、本発明における切り替え機構を構成している。
【0045】
支持プレート26は、この位置決めピン26eによって上下方向位置が位置決めされた状態で、固定ノブ26bをそれぞれ締め付けることによって、その位置で固定され、これによって剥離ブレード25の上下方向位置が決定される。
【0046】
これら塗布ブレード24及び剥離ブレード25の幅方向の両端部に近接する部位には、それぞれ塗布時の地張り剤の塗布幅又は剥離時の地張り剤の剥離幅を規制するための漏れ止め部材27がそれぞれ着脱可能に設けられている。
【0047】
漏れ止め部材27は、例えば矩形状のウレタン樹脂等からなる板状の弾性体である。塗布ブレード24及び剥離ブレード25の幅方向の両端部に対応するステー部材20には、それぞれ一対の板状部を有する取付け板部27aが取り付けられており、この漏れ止め部材27は、該取付け板部27aの一対の板状部間に挟み付けられ、ステー部材20における塗布ブレード24と同一側面に、その先端(無端ベルト11の載置面11aに近接する端)が載置面11aの移動方向Aと平行に配置されるように装着されている。従って、塗布ブレード24及び剥離ブレード25は、2枚の漏れ止め部材27の間に挟まれるように配置されている。
【0048】
なお、この漏れ止め部材27の装着態様は、地張り剤の塗布時は、先端が塗布ブレード24の先端と同位置となるように取付け板部27aに装着され、地張り剤の剥離時は、先端が剥離ブレード25の先端と同位置となるように取付け板部27aに装着される。
【0049】
また、図1における符号28は各支持部材28に設けられた把手であり、符号29は支持プレート26に設けられた把手である。
【0050】
次に、この液体塗布・剥離装置2によって無端ベルト11の表面に地張り剤を塗布する方法及び剥離する方法についてそれぞれ説明する。
【0051】
無端ベルト11の表面に地張り剤を塗布する際、使用するブレードは塗布ブレード24となるため、まず、ガイドピン24bが長孔26aの下端位置となるように、把手29を持って支持プレート26を上昇させ、位置決めピン26eを下側の位置決め孔26dに挿入して塗布ブレード24の係合孔24cに係合させた後、固定ノブ26bを締め付けることにより、支持プレート26をその位置で固定する。これにより、塗布ブレード24の先端の方が剥離ブレード25の先端よりも下方に突出する(図3(b)、図4)。
【0052】
このとき、各取付け板部27aには、先端が塗布ブレード24の先端と同位置となるように漏れ止め部材27がそれぞれ装着される。
【0053】
次いで、昇降用回転部材23をそれぞれ所定の方向に回転させることにより、該昇降用回転部材23をそれぞれガイド軸22に沿って下降させる。支持部材21は、この昇降用回転部材23の上面に載置されているため、昇降用回転部材23の下降に伴って下降し、これによって、この支持部材21と一体のステー部材20が載置面11aに向けて下降する。
【0054】
塗布ブレード24は、このステー部材20に固定されているため、ステー部材20と共に下降するため、その先端が載置面11aに対して幅方向に均一に当接するまで昇降用回転部材23を回転させてそれぞれ下降させる。このとき、各漏れ止め部材27の先端も載置面11aに当接する。
【0055】
次いで、地張り剤を貯留する容器100から、液体塗布・剥離装置2よりも無端ベルト11の移動方向上流側に地張り剤Xを、該無端ベルト11の幅方向にほぼ均等になるように適量注ぎ、無端ベルト11を移動方向Aに向けて何周も回転駆動させる。これにより、地張り剤は塗布ブレード24の先端によってならされ、無端ベルト11の表面に地張り剤の膜Xaを形成する(図4)。
【0056】
地張り剤は無端ベルト11の幅方向にも広がるが、漏れ止め部材27がそれぞれ地張り剤の幅方向の広がりを規制するため、これら漏れ止め部材27によって規定される所定の幅内に膜Xaが形成される。
【0057】
その後、地張り剤の塗布状況を見て、必要により地張り剤を追加しながら、昇降用回転部材23をそれぞれ今度は反対方向に回転させて徐々に上昇させ、これによって塗布ブレード24の先端を載置面11aから徐々に離していく。
【0058】
塗布ブレード24の先端が載置面11aから離れるに従って、塗布ブレード24の先端でならされる地張り剤が減っていき、やがて地張り剤の膜Xaは塗布ブレード24の先端に接触しなくなる。これによって無端ベルト11の表面に所定の厚みの地張り剤の膜Xaが塗布形成される。
【0059】
この膜Xaの厚みは、地張り剤の量と塗布ブレード24の先端の位置で決まるため、地張り剤の量と塗布ブレード24の先端の位置を調整することによって自由且つ容易に制御することができる。しかも、塗布された地張り剤は、塗布ブレード24によって無端ベルト11の幅方向に亘って均一にならされるため、幅方向に亘って均一厚みの膜Xaを形成することができる。
【0060】
地張り剤を塗布し終えたら、漏れ止め部材27を取り外し、昇降用回転部材23を更に上昇させ、塗布ブレード24の先端と載置面11aとの間を大きく離間させておく。
【0061】
塗布ブレード24の先端が載置面11aから大きく離間すれば、布帛の搬送経路は確保されるため、その後、布帛を載置面11aに張り付かせて搬送することができるが、布帛の搬送開始後は液体塗布・剥離装置2は不要となるため、把手28を持って各支持部材21をガイド軸22からそれぞれ取り外すことにより、記録媒体搬送装置1から取り外してもよい。液体塗布・剥離装置2を取り外すことにより、布帛の搬送状態の目視確認が容易となる。
【0062】
一方、無端ベルト11の表面に塗布された地張り剤を剥離する際、使用するブレードは剥離ブレード25となるため、まず、ガイドピン24bが長孔26aの上端位置となるように、把手29を持って支持プレート26を下降させ、位置決めピン26eを上側の位置決め孔26cに挿入して塗布ブレード24の係合孔24cに係合させた後、固定ノブ26bを締め付けることにより、支持プレート26をその位置で固定する。これにより、剥離ブレード25の先端の方が塗布ブレード24の先端よりも下方に突出する(図3(a)、図5)。
【0063】
このとき、各取付け板部27aには、先端が剥離ブレード25の先端と同位置となるように漏れ止め部材27がそれぞれ装着される。
【0064】
次いで、昇降用回転部材23をそれぞれ所定の方向に回転させることにより、該昇降用回転部材23をそれぞれガイド軸22に沿って下降させ、ステー部材20を載置面11aに向けて下降させる。
【0065】
剥離ブレード25は、塗布ブレード24を介してステー部材20に固定され、ステー部材20と共に下降するため、その先端が載置面11aに対して幅方向に均一に当接するまで昇降用回転部材23を回転させて下降させる。このとき、各漏れ止め部材27の先端も載置面11aに当接する。
【0066】
次いで、地張り剤を融解させるための剥離剤を貯留する容器200から、液体塗布・剥離装置2よりも無端ベルト11の移動方向上流側に剥離剤Yを、該無端ベルト11の幅方向にほぼ均等になるように適量注ぎ、無端ベルト11を移動方向Aに向けて何周も回転駆動させる。これにより、地張り剤の膜Xaは剥離剤Yによって融解しながら、剥離ブレード25の先端によって掻き取られていく(図5)。
【0067】
剥離ブレード25によって掻き取られる地張り剤は無端ベルト11の幅方向にも広がるが、漏れ止め部材27がそれぞれ掻き取られた地張り剤の幅方向の広がりを規制する。
【0068】
その後、地張り剤の膜Xaが除去されたら、昇降用回転部材23をそれぞれ今度は反対方向に回転させて徐々に上昇させ、これによって剥離ブレード25の先端を載置面11aから離す。
【0069】
地張り剤を剥離し終えたら、昇降用回転部材23を更に上昇させ、塗布ブレード24の先端と載置面11aとの間を大きく離間させておくか、又は、把手28を持って各支持部材21をガイド軸22からそれぞれ取り外すことにより、記録媒体搬送装置1から取り外す。
【0070】
以上のように、液体塗布・剥離装置2は、これ一台で、無端ベルト11の表面に対する地張り剤の塗布と剥離とを行うことができるため、二つの機能を有する装置を一台分の設置スペースだけで設置することができる。このため、記録媒体搬送装置1の構造が複雑化することがない。
【0071】
しかも、この液体塗布・剥離装置2は、ガイド軸22から取り外すだけで容易に取り外し可能であるため、使用時のみ装着することができので、記録媒体搬送装置1の稼働時に邪魔になるようなこともない。
【0072】
以上の態様では、ステー部材20側に塗布ブレード24を固定し、この塗布ブレード24に支持プレート26を介して剥離ブレード25を取り付けた構成とした。このようにすると、地張り剤の剥離時に、剥離ブレード25で掻き取られて該剥離ブレード25の先端に次第に蓄積していく古い地張り剤が塗布ブレード24に付着する心配がないために好ましい構成である。
【0073】
しかし、上下に平行移動させるストロークを大きくとることができれば、図6に示すように、ステー部材20に剥離ブレード25(支持プレート26)側を固定し、支持プレート26に対して塗布ブレード24を取り付けるようにしてもよい。
【0074】
図6(a)は塗布ブレード24の先端を剥離ブレード25の先端よりも下方に突出させた状態を示し、図6(b)は剥離ブレード25の先端を塗布ブレード24の先端よりも下方に突出させた状態を示している。この場合、塗布ブレード24に長孔24dを形成し、支持プレート26の側面から突出するガイドピン26fに係合させ、この支持プレート26に対して上下方向に平行移動可能に構成すると共に、塗布ブレード24に上下に2つの位置決め孔24e、24fを設け、これに選択的に位置決めピン24gを挿入して、支持プレート26に設けた係合孔26gに係合させることによって、塗布ブレード24の支持プレート26に対する高さ位置を切り替えることができる。塗布ブレード24の固定は、固定ノブ26bと同様の不図示の固定ノブを用いて固定すればよい。
【0075】
図7に示すように、インクジェット記録装置P1は、以上説明した液体塗布・剥離装置2が装着された、又は、装着可能な記録媒体搬送装置1の無端ベルト11の載置面11aの上方に、記録ヘッド3が配置される。記録ヘッド3は、載置面11aに対向するノズル面に形成された多数のノズルからインクを吐出することにより、液体塗布・剥離装置2によって載置面11aに塗布された地張り剤によって密着しながら搬送される不図示の布帛等の記録媒体の表面に所定の画像を記録する。
【0076】
また、記録媒体を搬送する手段は、図8に示すように、無端ベルト以外にも回転ローラ40を使用した記録媒体搬送装置4とすることもできる。回転ローラ40は、その表面40aが記録媒体の載置面とされ、該表面40aに布帛等の記録媒体を巻き付かせ、自身の回転によって記録媒体をA方向に搬送する。
【0077】
液体塗布・剥離装置2は、この回転ローラ40の表面40aに近接するように装着可能とされ、上述と同様の方法によって回転ローラ40の表面40aに地張り剤を塗布し、又は、塗布された地張り剤を剥離する。
【0078】
図8に示すように、回転ローラを使用したインクジェット記録装置P2は、この記録媒体搬送装置4の回転ローラ40の表面40aに近接するように、記録ヘッド3が配置される。記録ヘッド3は、回転ローラ40の表面40aに対向するノズル面に形成された多数のノズルからインクを吐出することにより、液体塗布・剥離装置2によって表面40aに塗布された地張り剤によって密着しながら搬送される不図示の布帛等の記録媒体の表面に所定の画像を記録する。
【0079】
このようなインクジェット記録装置P1、P2では、液体塗布・剥離装置2の昇降機構を構成するガイド軸22を、無端ベルト11又は回転ローラ40の両側方に位置する記録装置の機体側に固定するようにしてもよい。
【0080】
以上、粘性を有する液体として記録媒体を張り付かせる地張り剤を使用する例について説明したが、本発明に係る液体塗布・剥離装置は、例えば一方向に移動する基材上に粘性を有する液体をコーティングして膜を形成すると共に、コーティングされた膜を剥離する場合等に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1:記録媒体搬送装置
10:ローラ
11:無端ベルト
11a:載置面
12:支持基台
2:液体塗布・剥離装置
20:ステー部材
21:支持部材
21a:貫通孔
21b:潤滑部材
22:ガイド軸
22a:雄ねじ部
23:昇降用回転部材
24:塗布ブレード
24a:テーパー面
24b:ガイドピン
24c:係合孔
24d:長孔
24e:位置決め孔
24f:位置決め孔
24g:位置決めピン
25:剥離ブレード
25a:ビス
25b:押さえ板
26:支持プレート
26a:長孔
26b:固定ノブ
26c:位置決め孔
26d:位置決め孔
26e:位置決めピン
26f:ガイドピン
27:漏れ止め部材
27a:取付け板部
28:把手
29:把手
3:記録ヘッド
4:記録媒体搬送装置
40:回転ローラ
40a:表面
P1、P2:インクジェット記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に沿って移動する塗布対象面に供給された粘性を有する液体を均一厚みに塗布する機能と、該塗布された液体を剥離する機能とを有する液体塗布・剥離装置であって、
前記塗布対象面の移動方向と直交する方向に沿って延びるステー部材と、
前記ステー部材に沿って設けられ、前記塗布対象面に液体を移動方向と直交する方向に均一厚みに塗布するための塗布ブレード及び前記塗布対象面に塗布された液体を掻き取って剥離するための剥離ブレードと、
前記塗布ブレードの先端と前記剥離ブレードの先端のいずれか一方が前記塗布対象面に向けて相対的に突出するように、前記塗布ブレードの先端又は前記剥離ブレードの先端の前記塗布対象面に対する高さ位置を切り替える切り替え機構と、
前記ステー部材を前記塗布対象面に対して昇降させることにより、前記塗布ブレードおよび剥離ブレードを一体に昇降させ、前記切り替え機構によって前記塗布対象面に向けて突出する前記塗布ブレードの先端又は前記剥離ブレードの先端を、前記塗布対象面に接離させる昇降機構と、
を備えることを特徴とする液体塗布・剥離装置。
【請求項2】
前記塗布ブレードは板状の剛性体であり、前記剥離ブレードは板状の弾性体であることを特徴とする請求項1記載の液体塗布・剥離装置。
【請求項3】
前記昇降機構は、前記ステー部材の両端部近傍にそれぞれ設けられ、前記塗布対象面に対して垂直方向に延びる雄ねじ構造のガイド軸と、前記ガイド軸に回転可能に螺合する回転部材と、前記ステー部材の両端部にそれぞれ一体に取り付けられて前記ガイド軸を摺動可能に挿通させる開口部を有する支持部材とを有し、
前記支持部材が、前記開口部に前記ガイド軸を挿通させた状態で前記回転部材上に載置されており、前記回転部材が回転することにより、前記ステー部材が前記ガイド軸に沿って昇降する構成であることを特徴とする請求項1又は2記載の液体塗布・剥離装置。
【請求項4】
前記塗布ブレード及び前記剥離ブレードの幅方向の両端部に近接して、液体の塗布幅もしくは液体の剥離幅を規制して、塗布された液体もしくは剥離された液体が漏れ広がることを防止するための板状部材を着脱可能に設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の液体塗布・剥離装置。
【請求項5】
記録媒体を一方向に搬送すると共に表面が前記塗布対象面を構成する回転するローラもしくは無端ベルトと、
前記ローラもしくは前記無端ベルトの表面に前記記録媒体を粘性によって張り付けるための地張り剤を塗布し又は該塗布された地張り剤を剥離するための請求項1〜4のいずれかに記載の液体塗布・剥離装置と、
を備えることを特徴とする記録媒体搬送装置。
【請求項6】
記録媒体を一方向に搬送すると共に表面が前記塗布対象面を構成する回転するローラもしくは無端ベルトと、
前記ローラもしくは前記無端ベルトの表面に前記記録媒体を粘性によって張り付けるための地張り剤を塗布し又は該塗布された地張り剤を剥離するための請求項1〜4のいずれかに記載の液体塗布・剥離装置と、
前記ローラもしくは前記無端ベルトの表面に張り付いた前記記録媒体にインクを吐出することによって画像の記録を行う記録ヘッドと、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−116092(P2012−116092A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267869(P2010−267869)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】