説明

液体封入式防振装置

【課題】液体封入式防振装置における液室やオリフィス通路の構造にに工夫を凝らして、従来にない広い周波数域に亘って高い減衰作用を得る。
【解決手段】受圧室f1及び平衡室f2を連通する第1オリフィス通路P1と、受圧室f1及び中間液室f3を連通する第2オリフィス通路P2と、を備える。平衡室f2及び中間液室f3を区画するメンブラン42に所定寸法の連通孔42aを設ける。受圧室f1及び中間液室f3を区画するオリフィス盤4の内側部材41には、可動板43を配設する。相対的に低周波の振動に対しては、2つのオリフィス通路P1,P2を合わせた仮想のオリフィス通路による高い減衰作用が得られる。振動の周波数が高くなるに連れて徐々に第2オリフィス通路P2単独の減衰特性に移行する。よって、従来にない広い周波数域に亘って十分な減衰作用が得られる。可動板43により受圧室f1等の液圧変動が吸収され、所謂動ばねのジャンプが解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入した液体の流動抵抗によって振動を減衰させるようにした液体封入式の防振装置に関し、特に液室やオリフィス通路の構造に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の防振装置としては自動車用のエンジンマウントが良く知られている。その基本的な構造は、エンジン側(被支持側)の第1連結金具と車体側(支持側)の第2連結金具とをゴム弾性体により連結するとともに、このゴム弾性体の変形に伴い容積が変化するように両連結金具間に複数の液室を形成して、それらをオリフィス通路によって連通させている。このオリフィス通路を介して流動する液体の共振現象を利用して所定の周波数域のエンジン振動を効果的に吸収し、減衰させることができる。
【0003】
ここで一般に、自動車用のエンジンは広い運転領域に亘って使用されることから、エンジンマウントは、周波数や振幅の異なる振動入力に対しての防振効果を求められるものであるが、前記のようにオリフィス通路における液体の流動によって効果的に吸収、減衰される振動の周波数は、そのオリフィス通路の断面積や長さによって概ね決まってしまい、1つのオリフィス通路だけで数種類の振動入力に対して十分な防振効果を得ることはできない。
【0004】
そこで、例えば特許文献1、2には、互いに断面積や長さの異なる2つのオリフィス通路を設けて、それぞれ異なる周波数域にチューニングすることが開示されている。すなわち、同文献1に記載の防振装置は、主液室と第1の副液室とを仕切る隔壁部材の主液室側に第2の副液室を形成するとともに、それら主液室及び第1副液室を連通する第1のオリフィス通路を例えば周波数15Hz未満のシェイク振動に、また、第1及び第2の副液室同士を連通する第2のオリフィス通路は例えば周波数20〜40Hzのアイドル振動に、それぞれチューニングしている。
【0005】
さらに、例えば周波数40Hzを越える振動入力に対しては、主液室と第2副液室とを区画する弾性膜部材(メンブラン)の変形によって、当該主液室の液圧変動を吸収するようにしており、これにより車室内のこもり音を低減することができる。
【0006】
尚、特許文献2に記載の液体封入式防振装置では、主液室と第1副液室とを仕切る仕切部材において第2副液室が、前記特許文献1のものとは反対に第1副液室側に形成されていて、この第1副液室との間がゴム製の第2ダイヤフラムによって区画されている。そして、主液室と第1副液室とを連通する第1オリフィス通路が10Hz付近のシェイク振動に、また、主液室と第2副液室とを連通する第2オリフィス通路は20〜30Hz付近のアイドル振動に、それぞれチューニングされている。
【特許文献1】特許第3461913号公報
【特許文献2】特許第3563309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年では自動車の乗り心地をさらに改善するために、エンジンマウントにおいて従来のシェイク振動よりも高い周波数域でも減衰を高めたいという要求があるが、これに対し、例えば第1オリフィス通路のチューニングを少し高周波側にずらすとすれば、このことは単に減衰作用の高い周波数域を変更するだけであり、シェイク振動の減衰作用は低下することになるから、あまり効果的とは言えない。
【0008】
また、仮に第1及び第2オリフィス通路の中間の特性を持つ第3のオリフィス通路を設けるとすれば、ここでの液体の共振の影響によりアイドル振動の周波数域で動ばねが急上昇する(所謂動ばねのジャンプ)虞れがあるし、そもそもエンジンマウントの限られたスペースにおいて副液室やオリフィス通路を3つも設けることは、現実的とは言い難い。
【0009】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば自動車のエンジンマウント等に好適な液体封入式の防振装置において、従来にない広い周波数域に亘って高い減衰作用の得られる構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために本発明では、第1及び第2の2つのオリフィス通路を備え、入力振動の周波数によって両者が単純に切り替わるのではなく、以下に述べるような相互作用によって広い周波数域に亘って減衰作用が得られるようにしたものである。
【0011】
具体的に請求項1の発明では、被支持側の第1連結金具と、これにゴム弾性体によって連結された支持側の第2連結金具と、そのゴム弾性体の変形に伴い容積が変化するように両金具間に形成された主液室と、この主液室に第1のオリフィス通路によって連通された第1の副液室と、を備えた液体封入式の防振装置を対象とする。
【0012】
そして、上述した従来例(特許文献1、2)のように、前記主液室又は第1副液室のうちのいずれか一方の液室に第2のオリフィス通路によって連通された第2の副液室を備え、その第2オリフィス通路が、前記第1オリフィス通路よりも短いか断面積が大きいかの少なくとも一方とされている場合に、前記主液室又は第1副液室のうちの他方の液室と前記第2副液室との間を弾性膜部材によって区画し、この弾性膜部材には前記他方の液室と第2副液室とを連通するように所定寸法の連通孔を形成する。さらに、前記一方の液室と前記第2副液室との間の区画壁には、これらの液室の液圧を受けて移動して液圧変動を吸収するように可動板を配設している。
【0013】
斯かる構成により前記の防振装置では、まず、相対的に低周波の振動入力によってゴム弾性体が変形し、主液室の容積が周期的に変化するとき、これにより第1オリフィス通路を介して第1副液室との間を液体が流動するとともに、第2オリフィス通路及び第2副液室を介しても主液室と第1副液室との間で液体の流動が生じる。これは、低周波の振動入力によって生じる液体の流動速度が比較的低いからであり、このときには、弾性膜部材によって区画されている2つの液室同士が連通孔を介して実質的に連通されることになる。
【0014】
この状態は、第1及び第2オリフィス通路を合わせた1つの仮想的なオリフィス通路によって主液室と第1副液室とが連通されているものとみなすことができ、この仮想のオリフィス通路における液体の共振によって、図4に仮想線で示すように、第1及び第2オリフィス通路各々の単独のピーク(図に一点鎖線で示す)の中間の周波数域には、それらのいずれよりも高い減衰作用のピークが現れるようになる。
【0015】
すなわち、前記第1オリフィス通路の共振周波数付近では本来の減衰作用が得られないものの、そこから高周波側にかけての広い範囲で高い減衰作用が得られるようになる。但し、そうして周波数が高くなるに連れて、徐々に液体は第1オリフィス通路を流れ難くなる(所謂目詰まり)とともに、弾性膜部材の連通孔も流れ難くなってゆくから、前記仮想のオリフィス通路による減衰作用は徐々に失われてゆき、第2オリフィス通路における液体の共振による減衰作用が支配的になってゆく。
【0016】
そうして入力振動の周波数に応じて徐々に、第1及び第2のオリフィス通路を合わせた仮想のオリフィス通路の減衰特性から第2オリフィス通路単独の減衰特性に移行してゆくことから、本発明では、図4に実線や破線で示すように、第1オリフィス通路の共振周波数付近から第2オリフィス通路の共振周波数付近にかけての広い範囲に亘って、従来はオリフィス通路の共振周波数付近でしか得られなかったような高い減衰作用が得られるようになる。
【0017】
したがって、本発明の防振装置を自動車のエンジンマウントに適用する場合、第1オリフィス通路をシェイク振動よりも低い、例えば5Hz付近の周波数域にチューニングする一方、第2オリフィス通路は従来同様アイドル振動に合わせてチューニングすれば、シェイク振動からアイドル振動までをカバーする広い周波数域に亘って十分な振動減衰作用を得ることができる。
【0018】
それに加えて前記の構成によれば、前記主液室又は第1副液室のうちのいずれか一方の液室と第2副液室との間の区画壁に可動板が配設されており、この可動板の移動によって前記一方の液室ないし第2副液室の液圧変動が吸収されるようになるから、比較的振幅の小さな振動入力に対しては所謂動ばねのジャンプが生じないようにすることができる。
【0019】
よって、従来以上にシェイクやアイドル振動等を吸収、減衰しながら、それらの中間の周波数域の振動も効果的に吸収、減衰することが可能になり、車両の乗り心地を改善することができる。
【0020】
好ましいのは、前記主液室と前記第1副液室とを仕切る仕切部材を備え、この仕切部材に前記第1及び第2オリフィス通路を形成するとともに、前記可動板も配設し、さらに、仕切部材には前記第1副液室に臨んで開口する凹部を形成して、この開口を前記弾性膜部材によって覆うことにより、第2副液室を形成することである(請求項2)。
【0021】
こうして仕切部材に第1及び第2オリフィス通路と第2副液室とを形成するとともに、可動板を配設することで、構造の簡略化が図られる。また、仕切部材の第1副液室側に第2副液室を設けて、この両副液室間を弾性膜部材によって区画することは、キャビテーションの防止に効果がある。すなわち、仮に主液室と第2副液室との間を弾性膜部材によって区画した場合、この弾性膜部材の連通孔を介して主液室と第2副液室との間を液体が流動するときに強い乱流を生じ、これにより連通孔の付近で主液室に気泡が発生する虞れがあるからである。
【0022】
より具体的には、前記第1及び第2連結金具の一方が主荷重入力方向に延びる柱状とされ、他方は、該一方の連結金具の外周側に離間した筒状とされている防振装置において、前記仕切部材を前記他方の連結金具の内側に嵌め込んで、前記主荷重入力方向の一側に主液室を、また、他側に第1副室を区画する。そして、その仕切部材の凹部の開口を覆う前記弾性膜部材の略中央に連通孔を形成する一方、その凹部の底壁は、前記主液室と第2副液室とを区画する区画壁として、ここに可動板を配設すればよい(請求項3)。
【0023】
こうすれば、弾性膜部材の面積を比較的大きく確保しやすい上に、その略中央に形成した連通孔の断面積は、液圧の変動を受けて弾性膜部材が変形しても、あまり大きく変動しないから、上述した発明の作用を安定的に得る上で有利になる。
【0024】
すなわち、前記連通孔の断面積は、上述のような本発明に固有の減衰作用の現れ方に大きな影響を与えるものであり、具体的には、連通孔の断面積が大きいほど仮想のオリフィス通路による減衰特性に近づく一方、連通孔の断面積が小さいほど、第1及び第2オリフィス通路各々の特性に近づくようになる。本発明者は実験の結果、上述した発明の作用を得るためには、前記弾性膜部材の厚みが1.0〜5.0mmくらいの場合に、連通孔の直径は2.0〜10.0mmとすればよく、好ましくは3.0〜6.0mmくらいとするのがよいことを見出した(請求項4)。
【発明の効果】
【0025】
以上、説明したように本発明に係る液体封入式の防振装置によると、第1及び第2の2つのオリフィス通路の相互作用により、入力振動の周波数が相対的に低いときには両者を合わせた仮想のオリフィス通路による減衰作用が得られるとともに、入力振動の周波数が高くなるに連れて徐々に第2オリフィス通路単独の減衰作用に移行するようになるから、従来にない広い周波数域に亘って十分な減衰作用を得ることができる。
【0026】
また、比較的小さな振幅の振動入力に対しては、これによる液圧の変動を可動板により吸収し、所謂動ばねのジャンプを解消することができる。
【0027】
よって、例えば自動車のエンジンマウントとして用いれば、シェイクからアイドル振動等の広い周波数域に亘ってエンジン等の振動を効果的に吸収、減衰することができ、車両の乗り心地を大幅に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
(実施形態1)
図1は、本発明に係る液体封入式の防振装置を自動車用エンジンマウントAに適用した実施形態を示し、このエンジンマウントAは、図示しない自動車のエンジン及び変速機(以下、両者をまとめてパワープラントという)と車体との間に介在されて、それらの静荷重を支えるとともに、当該パワープラントからの振動を吸収し或いは減衰させて、車体への伝達を抑制するためのものである。
【0030】
また、実施形態1のエンジンマウントAは、図示しないブラケット等を介してパワープラントに取り付けられる概略柱状のインナ金具1(第1連結金具)と、これをゴム弾性体2を介して下方から支持する円筒状のアウタ金具3(第2連結金具)とを備え、このアウタ金具3の下側外周における自動車の前側及び後側にそれぞれ溶接された一対の脚部30(図には一つのみ示す)によって、自動車の車体サイドフレーム等に固定されるようになっている。
【0031】
前記インナ金具1は、柱軸線Z方向の中間部に厚肉のつば部10を有し、その下側には下方に向かって窄んだテーパ部11が、また上側には軸部12が、それぞれ形成されている。図の例では、つば部10の上面及び外周面に各々、後述のストッパ金具6と協働するようにストッパゴム層13,14が設けられている。また、軸部12にはパワープラント側のブラケットが取り付けられ、これを締結するためのボルトがボルト穴12aに螺入されるようになっている。
【0032】
尚、図の例では軸線Zがパワープラントの静荷重の入力する方向(主荷重入力方向)に延びていて、この軸線Zに沿ってインナ金具1のボルト穴12aの下端からさらに下方に延びるように、縦孔15が穿孔されている。この縦孔15は、インナ金具1の下端に開口しており、後述する液室Fに液体を封入するために用いられる。液体の封入後に縦孔15は鋼球16によって封止される。
【0033】
前記ゴム弾性体2は、その上部がインナ金具1下側のテーパ部11を覆って加硫接着され、そこから放射状に拡がりながら斜め下に向かって延びる傘状の主ばね部20と、この主ばね部20の下端に連続して下方に延びる円筒状の延出部21とからなり、この延出部21においてアウタ金具3の内周に連結されている。すなわち、図の例ではアウタ金具3は、内筒31と外筒32とからなる二重構造のものであり、その内筒31がゴム弾性体2の延出部21に埋め込まれて一体化されるとともに、この延出部21の外周面が外筒32の内周面に接着固定されている。
【0034】
また、ゴム弾性体2の延出部21の内周は下側で拡径されて、環状の段部が形成されており、この段部を受け部として下方からオリフィス盤4が嵌め込まれるとともに、このオリフィス盤4を下方から覆うようにしてゴム製のダイヤフラム5が取り付けられている。ダイヤフラム5の外周部には補強金具が埋め込まれていて、アウタ金具3の内筒31の下端に形成されたフランジによって、下方からかしめられている。
【0035】
そうしてダイヤフラム5によりアウタ金具3の下端開口が閉塞されて、液室Fが形成される。この液室Fは、オリフィス盤4(仕切部材)によって上下に仕切られていて、その上側、即ち主荷重入力方向の一側が受圧室f1(主液室)に、また、下側が平衡室f2(第1副液室)になっている。オリフィス盤4の構造について詳しくは後述するが、図の例ではその外周に上下二重構造の第1オリフィス通路P1が形成されて、受圧室f1と平衡室f2とを連通させている。
【0036】
また、オリフィス盤4の内周側における下側には中間液室f3(第2の副液室)が形成されて、平衡室f2との間をメンブラン42(弾性膜部材)によって区画されている一方、この中間液室f3を上側の受圧室f1と区画する区画壁には可動板43が収容されるとともに、この可動板43の収容室を囲んで円環状の第2オリフィス通路P2が形成されて、中間液室f3を前記受圧室f1に連通させている。
【0037】
後述するように、前記の第1及び第2オリフィス通路P1,P2を介して液体が受圧室f1と平衡室f2及び中間液室f3との間を流動することによって、パワートレインからの振動が効果的に吸収、減衰される。また、可動板43の移動によって、受圧室f1や中間液室f3の液圧変動が吸収されるようになる。
【0038】
一方、マウントAの上部には、ゴム弾性体2の主ばね部20等を覆うように逆カップ状のストッパ金具6が配設され、その下端部がアウタ金具3の上端部にかしめて固定されている。このストッパ金具6の周壁は、インナ金具1のつば部10のストッパゴム層14と協働して車両の前後方向のストッパ機構を構成し、同様にストッパ金具6の上端壁は、ストッパゴム層13と協働して上下方向のストッパ機構を構成する。
【0039】
尚、図1においてはマウントAにパワープラントの静荷重が作用していない状態を示しており、ストッパゴム層13とストッパ金具6の上端壁との隙間は小さいが、エンジンマウントAが自動車に取り付けられてパワープラントを支持し、その静荷重が加わる1G状態では、ゴム弾性体2が撓んでインナ金具1が下方に変位するので、前記の隙間は拡大される。
【0040】
−オリフィス盤の構造−
次に、前記したオリフィス盤4の構造について詳しく説明すると、この実施形態のオリフィス盤4は、図2に拡大して示すように、アウタ金具3に嵌め込まれるドーナツ状の外側部材40と、その内側に嵌め込まれる内側部材41とを組み合わせてなり、全体としては厚肉の円盤状とされている。こうして組み合わされたオリフィス盤本体には下方の平衡室f2に臨んで開口する凹所が形成され、この凹所の下端開口がメンブラン42により覆われて、中間液室f3が形成されるようになっている。
【0041】
前記外側部材40は例えば金属製(樹脂製でもよい)であって、円筒状の本体部40aの外周面における上端、下端及びその中間部位からそれぞれ鍔部40b〜dが突出して、それらの間に上下二段の環状溝40e,40fが各々外側に開口するように形成されている。そして、図2の手前に示す周方向部位において、上段の環状溝40eの一端が鍔部40bを貫通する長穴40gに連通し、一方、環状溝40eの他端は傾斜溝部40hによって下段の環状溝40fの一端に連通されている。また、その下段環状溝40fの他端は、鍔部40dの内周寄りの部位を貫通する幅狭の長穴40iに連通している。
【0042】
また、前記オリフィス盤4の内側部材41は、概略円板状の底板部41aの上面にそれよりも小径の円筒状壁部41bが立設され、その内方には上方に向かって開口する断面円形の凹所41cが形成されている。この凹所41cに可動板43を収容し、その上方を覆うように蓋部材44を取り付けれることで、凹所41c内が可動板43の収容室となる。そして、この収容室の床部である内側部材41の底板部41aの中央寄りの部位に、図2にのみ符号を付して示すが、厚み方向の貫通穴41h,41h,…が形成され、一方、収容室の天井部になる蓋部材44にも同様に貫通穴44a,44a,…が形成されている。
【0043】
さらに、前記内側部材41の円筒状壁部41bの外周面の上端には鍔部41dが突出していて、底板部41aの外周寄りの部位との間に概ね全周に亘って、外側に開口する環状溝41eが形成されている。この環状溝41eの一端は、図2の手前に示す周方向部位において鍔部41dに設けられた切欠部41fに連通して、上方に開口する一方、環状溝41eの他端は、底板部41aに設けられた切欠部41gに連通して下方に開口している。
【0044】
そして、図示のように可動板43及び蓋部材44を取り付けた内側部材41を、上方から外側部材40に嵌め込んで、該内側部材41の鍔部41dの上面が外側部材40の上端の鍔部40bの上面と略面一になるように組み付けた後に、これらをアウタ金具3に嵌め込めば、図1に示すように外側部材40の環状溝40e,40fの開口がゴム弾性体2の延出部21により覆われて、上下二重になった螺旋状の第1オリフィス通路P1が形成される。
【0045】
こうして形成される第1オリフィス通路P1の上端は、オリフィス盤4の外側部材40の鍔部40bの上面において受圧室f1に臨んで開口し(図1にも示す長穴40g)、一方、下端は鍔部40dの下面の内周寄りの部位において平衡室f2に臨んで開口している(長穴40i)。この第1オリフィス通路P1は、オリフィス盤4の外周を2回周回するもので、かなり長いことから、これを介して受圧室f1及び平衡室f2の間を液体が流動するときには、かなり低い第1の設定周波数(例えば5Hzくらい)において液体の共振が発生するようになる。
【0046】
同様に、前記内側部材41の第2オリフィス通路P2も、その上端が内側部材41の鍔部41d上面において受圧室f1に臨んで開口する(図1にも示す切欠部41f)一方、下端は底板部41a下面において中間液室f3に臨んで開口しており(切欠部41g)、この第2オリフィス通路P2の長さは前記第1オリフィス通路P1に比べて短いので、これを介して受圧室f1及び中間液室f3の間を相互に液体が流動するときには、前記第1設定周波数よりも高い第2の設定周波数(例えば20〜25Hzくらい)において液体の共振が発生するようになる。
【0047】
つまり、この実施形態のマウントAは、基本的には第1及び第2の2つのオリフィス通路P1,P2を備えたダブル・オリフィス型のものであり、その一方が相対的に低周波域に、また、他方は相対的に高周波域にチューニングされている。それに加えて、この実施形態では平衡室f2と中間液室f3とを区画するメンブラン42に所定寸法の連通孔42aが設けられており、液体の流動速度が比較的低い周波数域においては実質的に両室f2,f3同士が連通されるようになっている。
【0048】
具体的にメンブラン42は、例えばNR、NR/BR、IIRやシリコーンゴム等、種々のゴム材料を用いて直径が30〜60mmくらい、厚みが1.5〜3.0mmくらいの円板状に成形したものであり(この範囲に限定されない)、ゴムの硬度は概略40〜80度くらい(JIS K6253 A)に設定されている。メンブラン42の外周縁部は前記オリフィス盤本体(外側部材40及び内側部材41)の凹所の下端の開口周縁部に接着等されていて、好ましくはその中央付近を貫通するように円形断面の連通孔42aが形成されており、その直径は一例として約4.0mmに設定されている。
【0049】
詳しくは以下に述べるが、連通孔42aが大きいほど、また、メンブラン42のゴムの硬度が高いほど、液体は連通孔42aを流通しやすい。また、メンブラン42自体が大きければ、平衡室f2や中間液室f3の液圧の変動によってメンブラン42が弾性変形するときに、連通孔42aの大きさ(断面積)はあまり大きくは変動しないので、この連通孔42aを介しての液体の流動状態が安定する。この点については、メンブラン42の略中央に連通孔42aを形成することも有利に働く。
【0050】
−第1及び第2オリフィス通路による減衰作用−
斯かる構成の第1及び第2オリフィス通路P1,P2による減衰作用について、以下に詳細に説明する。まず、エンジンマウントAの構造を模式的に示すと、図3のように受圧室f1は、第1及び第2オリフィス通路P1,P2によってそれぞれ平衡室f2及び中間液室f3に連通されていて、その両室間f2、f3のメンブラン42には連通孔42aが形成されている。
【0051】
前記第1オリフィス通路P1は、シェイク振動よりも低い例えば5Hzくらいの周波数にチューニングされ、第2オリフィス通路P2はアイドル振動に合わせて、例えば20〜25Hzくらいにチューニングされている。また、第2オリフィス通路P2と並列に可動板43が設けられていることから、第2オリフィス通路P2による振動の減衰作用は、周波数によっては低下することになる。
【0052】
説明の都合上、まずは可動板43による影響を無視して、2つのオリフィス通路P1,P2による作用を説明する。最初に、前記メンブラン42の連通孔42aが設けられていないと仮定すると、これは一般的なダブル・オリフィス型の構造であるから、マウントAの減衰作用の周波数特性(以下、単に減衰特性ともいう)は、図4に一点鎖線で示すように、単純に2つのオリフィス通路P1,P2における液体の共振によって、それぞれの共振周波数付近(図の例では5Hz及び23Hz)に独立して減衰のピークが現れるようになる。
【0053】
一方で仮にメンブラン42がないとすれれば、第1及び第2オリフィス通路P1,P2を合わせた仮想的な1つのオリフィス通路によって受圧室f1及び平衡室f2が連通されているとみなすことができる。この仮想のオリフィス通路における液体の共振による減衰特性は図4に仮想線(二点差線)で示すようになり、第1及び第2オリフィス通路P1,P2各々のピークの中間の周波数域(図では15〜20Hzくらい)に、それらのいずれよりも高い減衰のピークが現れる。
【0054】
そして、この実施形態のようにメンブラン42に連通孔42aを設けた場合は、図に実線や破線で示すように、あたかも前記2つの特性が合わさったかのようになり、その連通孔42aの大きさ(断面積)に応じて両者の中間的な特性を示すようになる。すなわち、同図に実線aで示すグラフは、この実施形態と同じく連通孔42aの直径を4.0mmとした場合であり、破線b1は直径6.0mmの、一方、破線b2は直径2.5mmのそれぞれの場合を示している。
【0055】
同図から全体的な傾向として、連通孔42aの孔径が小さいほど前記のダブル・オリフィス型の特性に近くなり、反対に大きいほど前記の仮想のオリフィス通路の特性に近くなることが分かる。また、グラフa、b1を対比すると、孔径の増大に応じて低周波側(図の例では10〜20Hz)での減衰作用が高まる一方で、高周波側(同20Hz以上)では減衰作用が低下することも分かる。
【0056】
より具体的に、図示のグラフa,b1のような特性を有するマウントAに概略15Hz未満の相対的に低周波の振動が入力すると、受圧室f1の容積が周期的に変化して、図3に実線の矢印で示すように第1オリフィス通路P1を介して平衡室f2との間を液体が流動するとともに、破線の矢印で示すように第2オリフィス通路P2及び中間液室f3を介しても平衡室f2との間での液体の流動が生じる。すなわち、低周波の振動入力によって生じる液体の流動速度が比較的低いことから、この液体が連通孔42aを問題なく流れ、実質的に平衡室f2と中間液室f3とは実質的に連通されているようになる。
【0057】
この状態では、より短い第2オリフィス通路P2を介しても液体が流れることから、第1オリフィス通路P1の液体の共振による減衰作用は低くなるものの、そこから高周波側にかけて前記した仮想のオリフィス通路による高い減衰作用が得られるとともに、この減衰作用は周波数が高いほど高くなってゆく。図示の実線のグラフaでは20Hzくらいまで、また、破線のグラフb1では15Hzくらいまで、減衰作用は周波数の高まりに応じて強くなっている。
【0058】
但し、そうして入力振動の周波数が高くなるのに連れて、徐々に液体は第1オリフィス通路P1を流れ難くなるとともに(所謂目詰まり)、メンブラン42の連通孔42aも流れ難くなってゆくから、実線のグラフaでは10Hzくらいから、また、破線のグラフb1では13Hzくらいから、徐々に仮想のオリフィス通路による高い減衰作用が失われてゆき、各グラフa,b1は、それぞれ仮想線のグラフから離れてゆく。
【0059】
そして、図の例では20Hzを越える相対的に高い周波数域ではメンブラン42の連通孔42aが実質的に塞がったかのようになって、液体の流動は主に第2オリフィス通路P2を介して受圧室f1と中間液室f3との間でのみ生じるようになるから、この第2オリフィス通路P2による減衰作用(一点鎖線で示す)が支配的になると考えられる。
【0060】
つまり、第1及び第2の2つのオリフィス通路P1,P2の相互作用によって、入力振動の周波数が相対的に低いときには、仮想的な1つのオリフィス通路による減衰作用が得られるとともに、その振動の周波数が高くなるに連れて徐々に第2オリフィス通路P2単独の減衰作用に移行してゆくようになり、図の例では概略10〜30Hzという広い周波数域に亘って高い減衰作用を得ることができる。
【0061】
尚、図の例では20Hz以上の周波数域においてグラフa,b1のいずれもが一点鎖線のグラフに比べてやや低い減衰を示しており、特に連通孔42aの大きな破線のグラフb1の方が減衰が低くなっている。これは、比較的高い周波数域でも連通孔42aを介しての液体の流動は完全にはなくならず、このことによって第2オリフィス通路P2による減衰作用が低下するからである。
【0062】
−可動板による振動吸収作用−
前記のような2つのオリフィス通路P1,P2による減衰作用に加えて、この実施形態では受圧室f1と中間液室f3とを区画するオリフィス盤4の内側部材41(区画壁)に可動板43が配設されており、その移動によって受圧室f1や中間液室f3の液圧変動を吸収することができる。
【0063】
すなわち、図2を参照して上述したように、オリフィス盤4の内側部材41には可動板43の収容室が形成されていて、蓋部材44の貫通穴44a,44a,…を介して上方から受圧室f1の液圧が作用する一方、底板部41aの貫通穴41h,41h,…を介して下方から中間液室f3の液圧が作用し、各液室f1,f3の液圧が変動すれば可動板43が上下に移動するようになっている。
【0064】
そのため、例えばアイドル振動のような比較的振幅の小さな振動が入力するときには、これによる受圧室f1の液圧変動が可動板43の上下動によって吸収されるようになり、所謂動ばねのジャンプを解消することができる。但し、オリフィス通路P1,P2による減衰作用を十分に確保するために、可動板43の移動量はあまり大きくはできないので、入力振動の振幅が大きいときには前記可動板43の作用は限定的なものとなる。
【0065】
以上より、この実施形態に係るエンジンマウントA(防振装置)によれば、第1オリフィス通路P1を所定の低周波数(例えば5Hz)にチューニングし、第2オリフィス通路P2はアイドル振動に合わせて20〜25Hzくらいにチューニングしたことで、それら2つのオリフィス通路P1,P2の相互作用によって、所謂シェイク振動からアイドル振動までをカバーする広い周波数域に亘って十分な振動減衰作用を得ることができる。
【0066】
また、例えばアイドル振動のような比較的小さな振幅の振動入力に対しては、これによる液圧の変動を可動板43の移動により吸収し、所謂動ばねのジャンプを解消することができる。よって、シェイクからアイドル振動等の広い周波数域に亘ってエンジン等の振動を効果的に吸収、減衰することができ、車両の乗り心地を大幅に改善できる。
【0067】
具体的に図5は、シェイク振動のように車両の乗り心地に相関のある比較的振幅の大きな振動入力(図の例では、963Nの予荷重を付与した上で±0.5mmの振幅で加振)を対象として、この実施形態のマウントAの動ばね及び減衰について調べた結果を、従来一般的なシングル・オリフィス型の液封マウントと対比して示したものである。
【0068】
まず、同図(b)に示す実線のグラフは、スケールは異なるものの前記図4の実線のグラフaと同じであり、2つのオリフィス通路P1,P2の相互作用によって、図に破線で示す従来型の液封マウントに比べて遙かに広い周波数範囲で高い減衰効果が得られることが分かる。このことで、シェイク振動のみならずピッチング等による車体振動も十分に抑制でき、乗り心地が向上する。
【0069】
また、同図に一点鎖線で示すのは、この実施形態のように可動板43を追加した場合であり、可動板43の影響でオリフィス通路P1,P2による振動の減衰作用がやや低下しているものの、その低下幅は小さく、実線のグラフと同様に広い周波数範囲で高い減衰効果が得られることが分かる。
【0070】
その一方で、前記のようにオリフィス通路P1,P2が10〜30Hzの広い周波数域に亘って機能することから、図(a)に実線及び一点鎖線のグラフで示すように、従来までのような動ばねのジャンプ(破線で示す)は生じない。特に一点鎖線で示すグラフでは、可動板43の移動によって液圧変動が吸収されることも相俟って、動ばねの上昇はより穏やかなものになっている。
【0071】
尚、こうした比較的大きな振幅の振動入力に対しては、仮に従来例(破線のグラフ)のように動ばねが落ち込むと、パワートレイン全体のぐらぐら感が現れる心配があるが、実線及び一点鎖線のグラフには落ち込みがなく、そのような心配はない。
【0072】
さらに、図6には、アイドル振動に相当する比較的小さな振幅(±0.05mm)で加振したときの特性を示す。このような比較的小さな振幅に対しては可動板43の移動によって振動が吸収されることにより、同図(a)に一点鎖線で示すように低周波から高周波まで動ばねが低くかつフラットな特性を示すようになる。よって、アイドル振動等を効果的に吸収し、車体への振動伝達を抑制することができる。
【0073】
尚、図に実線のグラフで示すように、可動板43を設けなければ20Hzくらいに動ばねのボトムが生じるので、これを利用してアイドル振動を可及的に軽減することもできるが、この場合には30〜40Hz以上で動ばねが上昇しており、これによる悪影響が懸念される。また、可動板43の影響で同図(b)のように第2オリフィス通路P2による振動の減衰作用は低下するが、それでも従来例(破線で示す)に比べて高い減衰が得られている。
【0074】
−変形例−
図7には実施形態1の変形例を示す。この変形例は、オリフィス盤4の具体的な構造が前記の実施形態と異なるのみであり、具体的には、概略円盤状の本体部材45と、これに組み付けられる円形の天板部材46とによって、オリフィス盤4を構成している。本体部材45は、前記実施形態における外側部材40から鍔部40bを取り除くとともに、同様に内側部材41からは鍔部41dを取り除いて、両者を例えば金属材(樹脂材でもよい)によって一体成形したかのような構造である。
【0075】
一方、天板部材46は、そうして外側部材40から取り除いた鍔部40bと、内側部材41から取り除いた鍔部41dとに蓋部材44を取り付けて、例えば金属材(樹脂材でもよい)によって一体成形したかのような構造である。この天板部材46を図示のように本体部材45に上方から組み付けることで、第1、第2オリフィス通路P1,P2及び可動板43の収容室が形成される。
【0076】
尚、天板部材46はダイキャスト等の成形品としてもよいが、板金加工によって制作することもできる。また、図の例ではメンブラン42の外周縁に金属製(又は樹脂製)のリング部材42bを設けて、本体部材45に嵌入しているが、これに限ることなく、例えば上述した実施形態1のようにメンブラン42を接着等することもできる。
【0077】
(実施形態2)
図8には、本発明の実施形態2に係るエンジンマウントAを示し、このマウントAは、構造上は前記した実施形態1においてオリフィス盤4を上下に反転させたものであるから、同じ部材には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0078】
すなわち、この実施形態2のマウントAでは、前記実施形態1のオリフィス盤4を構成する外側部材40の内側に、内側部材41を上下に反転させて下方から嵌め込み、該内側部材41の鍔部41dの下面が外側部材40の下端の鍔部40dの下面と略面一になるように組み付けている。こうして組み合わされたオリフィス盤本体には、上方の平衡室f2に臨んで開口する凹所が形成され、この凹所の上端開口がメンブラン42により覆われて中間液室f3が形成されている。
【0079】
前記のオリフィス盤4において第2オリフィス通路P2は、実施形態1のように受圧室f1と中間液室f3とを連通させるのではなく、平衡室f2と中間液室f3とを連通させている。また、中間液室f3はオリフィス盤4において受圧室f1側に設けられ、この受圧室f1との間がメンブラン42によって区画されている。一方、中間液室f3と平衡室f2とを区画する内側部材41には可動板43が収容され、両室f2,f3の液圧変動を受けて移動するようになっている。
【0080】
そして、この実施形態2のエンジンマウントAにおいても、上述した実施形態1と同じく第1及び第2オリフィス通路P1,P2の相互作用によって、広い周波数域に亘って高い減衰作用が得られるとともに、比較的小さな振幅の振動は可動板43の移動によって効果的に吸収され、所謂動ばねのジャンプが解消される。
【0081】
但し、この実施形態2のようにメンブラン42の連通孔42aが受圧室f1に臨んで開口していると、振幅の大きな振動の入力によって受圧室f1の液圧が大きく変動し、連通孔42aを介して中間液室f3との間で液体が流動するときに、受圧室f1強い乱流が生じて、特に連通孔42aの付近で気泡が発生する(キャビテーション)虞れがある。この点を考慮すれば実施形態1のような構造とする方が好ましいと言える。
【0082】
尚、図示は省略するが、前記した実施形態1の変形例(図7参照)のようなオリフィス盤4を用い、これを上下に反転させて配設することも可能である。
【0083】
(実施形態3とその変形例)
次に図9には、本発明の実施形態3及びその変形例に係るエンジンマウントA’の縦断面図を示す。このマウントA’は、概略的には前記した実施形態1、2等のマウントAを倒立させたような構造であるから、形状等は異なっていても同様の機能を有する部材には同一の符号を付する。
【0084】
同図(a)に示すマウントA’は、インナ金具1が車体側(支持側)に連結される一方、鋳物のアウタ金具3はパワートレイン側(被支持側)に連結されるようになり、それらを連結するゴム弾性体2の主バネ部20は、上方に向かって拡径する摺り鉢状をなしている。そして、その主バネ部20に上方からオリフィス盤4及びダイヤフラム5が組み付けられて、液室F、即ち下部の受圧室f1と上部の平衡室f2とをそれぞれ区画している。
【0085】
オリフィス盤4の構造は、図2を参照して上述した実施形態1のものと同じであり、それが上下反転して配設されている。すなわち、オリフィス盤4は、外側部材40、内側部材41及びメンブラン42によって構成され、その外周には上下二重構造の第1オリフィス通路P1が、また、その内周側には中間液室f3とこれを囲む円環状の第2オリフィス通路P2とが、それぞれ形成されている。
【0086】
前記第1オリフィス通路P1は受圧室f1及び平衡室f2を連通させ、第2オリフィス通路P2は受圧室f1及び中間液室f3を連通させている。平衡室f2及び中間液室f3の間のメンブラン42には連通孔42aが形成されて、低周波の振動入力に対しては実質的に平衡室f2と中間液室f3とを連通させるようになっている。この中間液室f3と受圧室f1とを区画する内側部材41の内部には可動板43が収容されており、受圧室f1等の液圧変動を吸収するようになっている。
【0087】
そして、この実施形態3に係るエンジンマウントA’によっても、前記した実施形態1、2等と同様の作用効果が得られ、シェイク振動からアイドル振動までをカバーする広い周波数域の振動を吸収、減衰して、車両の乗り心地を改善することができる。
【0088】
尚、同図(b)に示す変形例は、同図(a)に示すマウントA’においてオリフィス盤4を上下に反転させ、その受圧室f1側に中間液室f3を設けたものである。
【0089】
(他の実施形態)
本発明に係る防振装置の構成は前記した実施形態1〜3等に限定されることなく、その以外の種々の構成をも包含する。例えば前記の各実施形態等においては、第1及び第2オリフィス通路P1,P2のうち、第2オリフィス通路P2が相対的に長く形成されているが、これに限らずその断面積が相対的に大きくてもよく、要するに第2オリフィス通路P2がより高周波側にチューニングされていればよい。
【0090】
また、メンブラン42に形成する連通孔42aの大きさは、上述したようにエンジンマウントの特性を左右する重要なものであるから、メンブラン42の大きさや厚み、ゴム硬度等も考慮した上で、マウントに要求される特性に応じて実験等により設定すべきであるが、例えばメンブラン42の厚みが1.0〜5.0mmくらいの場合に、連通孔42aの直径は2.0〜10.0mmの範囲に設定すればよいと考えられ、図4の例からは概略3.0〜6.0mmの範囲が特に好ましいと言える。連通孔42aは必ずしもメンブラン42の中央に設けなくてもよい。
【0091】
また、前記の各実施形態等では、受圧室f1と平衡室f2とをオリフィス盤4によって仕切っていて、このオリフィス盤4に中間液室f3を設けているが、これに限らず、両室f1,f2を仕切る仕切部材とは別にオリフィス通路P1,P2や中間液室f3を設けてもよい。
【0092】
さらに、前記の各実施形態等では、本発明の防振装置をいわゆる縦置きのエンジンマウントA,A’に適用しているが、これに限らず、横置きのエンジンマウントにも適用することもできるし、エンジンマウントに限らずサスペンションブッシュ等に適用することも可能であり、そればかりか自動車用以外の防振装置にも適用可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上、説明したように本発明に係る防振装置は、2つのオリフィス通路の相互作用によって、従来になく広い周波数域に亘り高い減衰作用を得ることができるので、自動車用のエンジンマウントに適用すれば乗り心地の向上に極めて効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施形態1に係るエンジンマウントの構造を一部分、断面で示す斜視図である。
【図2】同オリフィス盤の構造を示す分解斜視図である。
【図3】オリフィス通路の相互作用を説明するためのマウントの模式図である。
【図4】メンブランの連通孔の大きさを変えて、減衰特性の変化を示すグラフ図である。
【図5】相対的に振幅が大きいときの動ばね及び減衰の特性を示すグラフ図である。
【図6】相対的に振幅が小さなときについての図5相当図である。
【図7】実施形態1の変形例に係る図1相当図である。
【図8】実施形態2に係る図1相当図である。
【図9】実施形態3及びその変形例に係るマウントの構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0095】
A,A’ エンジンマウント(液体封入式防振装置)
F 液室
f1 受圧室(主液室)
f2 平衡室(第1副液室)
f3 中間液室(第2副液室)
P1 第1オリフィス通路
P2 第2オリフィス通路
Z 軸線(主振動入力方向)
1 インナ金具(連結金具)
2 ゴム弾性体
3 アウタ金具(連結金具)
4 オリフィス盤(仕切部材)
40 外側部材
41 内側部材(区画壁)
42 メンブラン(弾性膜部材)
42a 連通孔
43 可動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被支持側の第1連結金具と、これにゴム弾性体によって連結された支持側の第2連結金具と、そのゴム弾性体の変形に伴い容積が変化するように両金具間に形成された主液室と、この主液室に第1のオリフィス通路によって連通された第1の副液室と、を備えた液体封入式の防振装置であって、
前記主液室又は第1副液室のうちのいずれか一方の液室に、第2のオリフィス通路によって連通された第2の副液室を備え、その第2オリフィス通路は、前記第1オリフィス通路よりも短いか断面積が大きいかの少なくとも一方とされており、
前記主液室又は第1副液室のうちの他方の液室と前記第2副液室との間が弾性膜部材によって区画されるとともに、この弾性膜部材には前記他方の液室と第2副液室とを連通するように所定寸法の連通孔が形成され、
さらに、前記一方の液室と前記第2副液室との間には区画壁が設けられるとともに、この区画壁には前記一方の液室及び第2副液室の液圧を受けて移動し、該両室の液圧変動を吸収するように可動板が配設されている
ことを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項2】
前記主液室と前記第1副液室とを仕切る仕切部材を備え、この仕切部材に前記第1及び第2オリフィス通路が形成されるとともに、前記可動板も配設され、
さらに、前記仕切部材には、前記第1副液室に臨んで開口する凹部が形成され、この開口が前記弾性膜部材によって覆われることで第2副液室が形成されている、請求項1に記載の液体封入式防振装置。
【請求項3】
前記第1及び第2連結金具の一方が主荷重入力方向に延びる柱状とされ、他方は、該一方の連結金具の外周側に離間した筒状とされ、
前記仕切部材は前記他方の連結金具の内側に嵌め込まれて、前記主荷重入力方向の一側に主液室を、また、他側に第1副液室を区画するものであり、
前記仕切部材の凹部の開口を覆う前記弾性膜部材の略中央に連通孔が形成される一方、その凹部の底壁が前記主液室と第2副液室とを区画する区画壁とされ、この区画壁に可動板が配設されている、請求項2に記載の液体封入式防振装置。
【請求項4】
前記弾性膜部材の厚みが1.0〜5.0mmであり、連通孔の直径は2.0〜10.0mmである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の液体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−203547(P2010−203547A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50924(P2009−50924)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】