説明

液体紙容器形成用積層部材

【課題】液状物質を収納する液体紙容器を形成するために用いられる積層部材であって、アルミニウム層やアルミニウム箔などを積層しないでも高いバリア性を示し、かつそのガスバリア性が劣化し難いようにした液体紙容器形成用積層部材の提供を目的とする。
【解決手段】紙基材の一方の面には熱可塑性樹脂層が、他方の面にはバリア性プラスチックフィルムが積層され、さらに最内層となる側にはシーラント層が積層されている積層部材であって、前記バリア性プラスチックフィルムは、プラスチックフィルム基材上のプラズマ処理面を介して酸化アルミニウムの蒸着薄膜層と、Si(OR14およびR2Si(OR33(OR1、OR3は加水分解性基、R2は有機官能基)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物と、水酸基を有する水溶性高分子とが混合されているコーティング溶液からなる薄膜の加熱乾燥被膜であるガスバリア性被膜層とがこの順序で積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料を始めとする液状物質を収納する液体紙容器を形成するために用いられる液体紙容器形成用積層部材であって、特にアルミニウム層やアルミニウム箔などを積層しないでも高いバリア性を示し、かつそのガスバリア性が劣化し難いようにした液体紙容器形成用積層部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、酒、ジュース、乳飲料などの飲料や液状の調味料、洗剤、化粧品、シャンプーなどの生活用品を収納するための液体容器としては、缶や瓶に代わって紙容器やペットボトルが広く用いられるようになってきている。
【0003】
そのような中、ペットボトルは、様々な改良によって所期のガスバリア性が付与されるようになっており、ガスバリア性が必要とされる容器としても盛んに利用されている。これに対し、紙容器は、もともとガスバリア性のない紙を基材を主体として構成される容器形成用の積層部材で作成されているため、ガスバリア性の付与が難しい。
【0004】
紙容器を構成する容器形成用の積層部材として、紙基材とプラスチック層との複層構成になるものがある。このような構成の容器形成用の積層部材は、紙基材をポリエチレンからなる層で挟み込んだ構成のものが一般的であるが、そのような構造のものでは十分なガスバリア性を付与することは難しいので、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着層を積層し、所期のガスバリア性が確保できるようにしている。
【0005】
しかし、このような、金属箔や金属蒸着層が紙基材と共に積層されてなる容器形成用の積層部材は、紙基材と金属箔等を貼り合わせたままの状態で廃棄したりリサイクルすることが難しいため、これらの代替として、酸化アルミニウムやシリカといった金属酸化物からなる蒸着薄膜層を紙基材上に設けてなる蒸着積層部材が用いられるようになってきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属酸化物の蒸着層を紙基材上に設けてなるこれらの積層部材には欠点がある。すなわち、このような構成の紙系の積層部材は、高いガスバリア性を有し、廃棄性にも優れているために容器形成用部材として種々の形態で用いられているが、長期もしくは高温環境下での収納が強いられる液体容器の構成部材としての使用は不向きだある。要するに、叙述のような状態で使用されると、ガスバリア性が劣化して、液体容器内に収納されている内容物の品質を劣化させ、内容物の蒸散に伴う重量・容量減などを招いてしまう。
【0007】
金属酸化物の蒸着層を有する紙系の積層部材の中で、酸化アルミニウムからなる蒸着層を有するものは、酸化アルミニウムの蒸着層が水に弱いという認識から、液体の収納を目的とする紙製容器の形成用積層部材としては不向きであり、紙製の液体容器形成用の積層部材としてはシリカの蒸着層を有する積層部材を用いることが一般的である。
【0008】
しかし、シリカからなる蒸着層には、種々の問題点が存在する。その一つとしてシリカの蒸着層が呈する色相の問題がある。シリカの蒸着層により発現されるガスバリア性を高くするためにその層厚を厚くすると層の色相が黄褐色を帯びてくるが、この黄褐色は収納物の見栄えを悪くするということで包装用材料としての使用が制限されてしまうという問
題である。これに対処するため、蒸着条件を変更したり蒸着層に添加物を添加して黄褐色にならないようにすることも考えられるが、このようにすると今度はガスバリア性が低下し、所期のガスバリア性を確保することが難しくなってしまう。
【0009】
もう一つの問題点としては、「スプラッシュ」と呼ばれる現象が挙げられる。すなわち、シリカを蒸着する時にシリカ粒子が突沸し、被蒸着基材であるプラスチックフィルム基材に塊として付着したり小さな穴が開けられてしまい、その結果、そのシリカの蒸着層が積層されたプラスチックフィルム基材を利用して得られる積層部材への印刷やガスバリア性の確保に支障をきたすことがある。
【0010】
これに対して、酸化アルミニウムの蒸着層は、無色透明であり、所謂スプラッシュの少ない蒸着薄膜層が形成でき、上述のような問題は起きない。
【0011】
このような状況のもと、発明者が鋭意研究の結果、紙基材の一方の面には熱可塑性樹脂層が、他方の面にはバリア性プラスチックフィルムが積層され、さらに最内層となる側にはシーラント層が積層されている液体紙容器形成用の積層部材において、バリア性プラスチックフィルムが、上記のような特性を有する、酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層を有していても、水蒸気バリア性などのガスバリア性や耐水性に優れ、かつそのガスバリア性や耐水性の劣化が起き難く、しかもデラミネーションが起き難く、かつ環境や廃棄性にも優れたものを提供できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のような状況のもとでなされ、請求項1に記載の発明は、紙基材の一方の面には熱可塑性樹脂層が、他方の面にはバリア性プラスチックフィルムが積層され、さらに最内層となる側にはシーラント層が積層されている液体紙容器形成用の積層部材であって、前記バリア性プラスチックフィルムは、プラスチックフィルム基材上のプラズマ処理面を介して酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層と、Si(OR14およびR2Si(OR33(OR1、OR3は加水分解性基、R2は有機官能基)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物と、水酸基を有する水溶性高分子とが混合されているコーティング溶液からなる薄膜の加熱乾燥被膜であるガスバリア性被膜層とがこの順序で少なくとも積層されてなるものであることを特徴とする液体紙容器形成用積層部材である。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記Si(OR14およびR2Si(OR33(OR1、OR3は加水分解性基、R2は有機官能基)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物の有機官能基(R2)が、ビニル、エポキシ、メタクリロキシ、ウレイド、イソシアネートのいずれかの非水性官能基を有することを特徴とする。
【0014】
さらにまた、請求項3記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記Si(OR14およびR2Si(OR33(OR1、OR3は加水分解性基、R2は有機官能基)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物の有機官能基(R2)が、イソシアネート基が重合したイソシアヌレートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液体紙容器形成用積層部材は、特にガスバリア性や耐水性に優れ、しかもそれらの特性が劣化し難いため、それを用いて液体紙容器を作製した場合、その容器内に長期間に渡って液体を収納したとしても、当初有していたのガスバリア性や耐水性の劣化を防ぐことができるようになり、延いては液体紙容器内に収納されている内容物の品質劣化や、内容物の蒸散に伴う重量・容量減を抑制することが可能となり、その実用的効果が多いに期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を図面を用いて詳細に説明する。図1と図2は本発明の液体紙容器形成用積層部材の概略の断面構成をそれぞれ示している。
【0017】
また、図3は、本発明の液体紙容器形成用積層部材を用いて作製された液体紙容器の概略の構成を示す説明図である。
【0018】
図1に示す液体紙容器形成用積層部材は、紙基材(2)の一方の面には熱可塑性樹脂層(1)が、他方の面にはバリア性プラスチックフィルム(3)が積層され、さらに最内層となる側にはシーラント層(4)が積層されている。そして、バリア性プラスチックフィルム(3)は、プラスチックフィルム基材(6)上のプラズマ処理面を介して酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層(7)と、Si(OR14およびR2Si(OR33(OR1、OR3は加水分解性基、R2は有機官能基)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物と、水酸基を有する水溶性高分子とが混合されているコーティング溶液からなる薄膜の加熱乾燥被膜であるガスバリア性被膜層(8)とがこの順序で少なくとも積層されてなるものである。
【0019】
図2に示す液体紙容器形成用積層部材は、大略的には図1に示すものと同じであるが、バリア性プラスチックフィルム(3)を構成するプラスチックフィルム基材(6)と酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層(7)とガスバリア性被膜層(8)の積層順序が違っている点で異なっている。
【0020】
紙基材(2)の一方の面に積層されている熱可塑性樹脂層(1)を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ナイロン−6やナイロン−66といったポリアミド、ポリイミドなど、あるいはこれらの高分子共重合体などが用いられる。
【0021】
このような熱可塑性樹脂で構成される熱可塑性樹脂層(1)の厚さは特に限定されないが、紙基材(2)の保護や後述するその他の層を積層する際の加工性などを考慮して10〜30μm程度にすることが好ましい。
【0022】
紙基材(2)は、その種類を特に限定するものではなく、本発明の液体紙容器形成用積層体で作製しようとする液体紙容器の形状や容量などによって異なってくるが、液体紙容器の成形性、保型性、強度などを保持できるものから適宜選択すればよい。具体的には、坪量200〜500g/m2程度の板紙を使用することができる。
【0023】
この紙基材(2)には、図にも示すように印刷層(5)を形成することが一般的である。この印刷層(5)は、本発明に係る液体紙容器形成用積層体が液体紙容器を形成するための包装材料として実用に供せられるように設けるものであり、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系などの従来から用いられているインキバインダー樹脂に各種顔料、体質顔料、可塑剤、乾燥剤、安定剤などが添加されているインキにより構成される層であり、文字、絵柄、図柄、数字、記号などを表示する部分である。この印刷層(5)の形成には、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法などの印刷方法や、ロールコート、ナイフエッジコート、グラビアコートなどの塗布方法を用いることができる。厚さは、通常は0.1〜2.0μm程度である。
【0024】
上記した熱可塑性樹脂層(1)と紙基材(2)を積層する方法は特に限定されるもので
はなく、例えば公知のラミネート方法を用いることができる。
【0025】
一方、バリア性プラスチックフィルム(3)は、プラスチックフィルム基材(6)と、酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層(7)と、ガスバリア性被膜層(8)とがこの順序で少なくとも積層されてなるものである(図1、図2参照)。
【0026】
プラスチックフィルム基材(6)は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレートなどからなるポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどからなるポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸フィルムなどの生分解性プラスチックフィルムなどからなるものである。これらのフィルム基材は、延伸されていても、未延伸であってもよいが、機械的強度や寸法安定性に優れるものが好ましい。これらの中では、特に耐熱性などの面から二軸方向に任意に延伸されたポリエチレンテレフタレートからなるフィルム基材が好ましく用いられる。
【0027】
プラスチックフィルム基材(6)の厚さは1μm程度以上とし、包装用材料としての適性や、他の層を積層すること、さらには酸化アルミニウムよりなる蒸着薄膜層(7)やガスバリア性被膜層(8)を順次積層する場合の加工性などを考慮すると、実用的には3〜200μm程度の範囲、用途によって6〜30μm程度とすることが好ましい。
【0028】
また、量産性を考慮すれば、連続的に上述のような層を形成できるように長尺フィルムとすることが望ましい。
【0029】
一般的に包装用材料のプラスチックフィルム基材としてはポリエステルフィルムを用いることが多いが、プラスチックフィルム基材(6)としてポリエステルフィルムを使用する場合は、例えば、それを構成するジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ナフタレンカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキシンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、シュウ酸、琥珀酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸などのオキシカルボン酸などが挙げられる。また、アルコール成分としては、エチレングリコール、プロパンジオール、1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4シクロヘキサンジメタノール等のポリオキシアルキレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族グリコールおよびそれらの誘導体などが挙げられる。
【0030】
これらポリエステルの中では、二軸延伸特性などの製膜性、湿度特性、耐熱性、耐薬品性などを考慮すると、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを主体としたものが好ましく用いられる。また、ポリエチレンテレフタレートの優れた諸物性を保てる範囲内で、他のアルコール成分を重合段階で主鎖に取り込むように制御して共重合させることにより、分子鎖内に回転障害の小さいセグメント(ソフトセグメント)が形成され、外部からの衝撃や折り曲げによる力を分子鎖内のソフトセグメントにより吸収し、耐衝撃性、屈曲性に優れるようにしたものを用いてもよい。カルボン酸成分およびアルコール成分の各々の50モル%以上がテレフタル酸、エチレングリコール、およびそれらの誘導体である共重合ポリエステルからなるものも好ましく用いられる。
【0031】
このようなプラスチックフィルム基材(6)と酸化アルミニウムからなる透明な蒸着薄
膜層(7)との密着を向上するために、プラスチックフィルム基材(6)の表面にはプラズマ処理を施す。この処理を施すことで、処理中に発生したラジカルやイオンを利用してプラスチックフィルム基材(6)の表面に官能基を持たせることができると共に、表面をイオンエッチングして不純物などを飛散させて平滑化することが可能となる。従って、このプラズマ処理面上には酸化アルミニウムの緻密な薄膜を形成させることができる。その結果、プラスチックフィルム基材(6)と酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層(7)との密着性をより強化させることができ、ガスバリア性や防湿性を向上させ、蒸着薄膜層(7)におけるクラックの発生を防止することができるようになる。
【0032】
このプラズマ処理方法には制限ないが、巻き取り式蒸着装置を用いインラインでプラズマ処理器により処理を行う方法が効果的である。
【0033】
酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層(7)を形成する方法としては、通常の真空蒸着法や、その他の薄膜形成方法であるスパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを用いることができる。但し生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法による真空蒸着装置を使用して薄膜を製膜する際の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式などが好ましく用いられる。また、蒸着薄膜とプラスチックフィルム基材(6)の密着成及び薄膜の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いることも可能である。
【0034】
より具体的には、アルミニウムを熱で蒸発させ、プラスチックフィルム基材(6)に蒸着させる際に酸素ガスを導入して酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層(7)を製膜すればよい。この時の酸素ガス導入量は水蒸気バリア性の向上及び薄膜の透明性の度合に関係し、その適宜な導入量は使用する蒸着装置の排気能力によって異なるため、要求されるガスバリア性や透明性の度合に応じて適宜その量を決定すればよい。
【0035】
酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層(7)の厚さは、本発明の液体紙容器形成用積層部材によって作製される液体紙容器の用途や構成などにより最適条件が異なるが、一般的には5〜300nm程度の範囲にあることが望ましい。厚さが5nm未満であると均一な膜が得られ難く、膜厚が不十分となることがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また膜厚が300nmを越える場合は薄膜にフレキシビリティを保持させることが難しくなり、製膜後に折り曲げ、引っ張りなどの力が外部から加わることにより、薄膜に亀裂を生じるおそれがある。好ましくは、5〜100nm程度の範囲にあればよい。
【0036】
このようにして設けられた酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層(7)の上に積層されるガスバリア性被膜層(8)は、本発明の液体紙容器形成用積層部材にさらに高度なガスバリア性を付与するために、また蒸着薄膜層(7)を物理的に保護するために設けられるものである。
【0037】
そのような目的を達成するため、このガスバリア性被膜層(8)は、Si(OR14およびR2Si(OR33(R1、R3はCH3,C25,C24OCH3などの加水分解性基、R2は有機官能基)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物と、水酸基を有する水溶性高分子が混合されているコーティング溶液からなる薄膜の加熱乾燥被膜であるガスバリア性の被膜である必要がある。以下、コーティング液に含まれる各成分について記述する。
【0038】
2Si(OR33は、R3はCH3,C25,C24OCH3などの加水分解性基、R2は有機官能基発明であり、一般的にはシランカップリング剤として有機層と無機層との密
着を向上させるために使用されている。本発明でも酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層(7)とガスバリア性被膜層(8)との密着向上のために必要である。なかでも有機官能基(R2)がビニル基、エポキシ基、ウレイド機、イソシアネート基などの非水性官能基を有するものは、非水性であるため熱水に対する耐性が高く、さらにイソシアネート基が重合したイソシアヌレートは、コーティング溶液中での取り扱いが容易で、コーティング溶液のゲル化も遅く、シランカップリング剤を添加することによるバリア性の低下を起こさずに密着性を向上させることができるため特に好ましい。
【0039】
上述した加水分解性基とは、酸性、塩基性もしくは中性条件で、水と反応させることにより、ヒドロキシル基に変換することが可能な基を表し、例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、アセトキシ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基などを挙げることができる。これらの中では、コーティング溶液の安定性などの観点から、アルコキシ基が好ましい。なかでも、炭素数1〜5の低級アルコキシ基が好ましいが、これらのアルコキシ基は鎖状でも、分岐していてもよく、さらに水素原子がフッ素原子などに置換されていてもよい。またメトキシ基やエトキシ基も好ましい。
【0040】
またイソシアヌレートとは、3つのイソシアネート基が重合し環状になったものであって、イソシアネート基含有シランが3つ環状に重合したものがより好ましく用いられる。
【0041】
一方、水酸基を有する水溶性高分子とは、ポリビニルアルコール、でんぷん、セルロース類などを指す。特にポリビニルアルコール(以下PVA)を前記したコーティング溶液の一成分に用いた場合はガスバリア性が最も優れるようになる。ここで言うPVAとは、一般にポリ酢酸ビニルをケン化して得られるもので、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分ケン化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全ケン化PVAまでを含むものである。
【0042】
ガスバリア性被膜層を構成するコーティング溶液の混合方法は特に制限されないが、バリア効果の発現、SiO2の微分散およびSi(OR14の加水分解効率などを考慮して行うことが望ましい。
【0043】
また、コーティング溶液へ、インキ、接着剤などとの密着性や濡れ性の向上、さらには収縮によるクラック発生の防止を目的として、イソシアネート化合物、コロイダルシリカやスメクタイトなどの粘土鉱物、安定化剤、着色剤、粘度調整剤の公知の添加剤を、ガスバリア性や耐水性を阻害しない範囲で添加することができる。
【0044】
コーティング溶液からなる薄膜の形成方法としては、通常のコーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法などである。これらの塗工方式を用いて蒸着薄膜上に薄膜を塗布すればよい。
【0045】
コーティング溶液からなる薄膜の乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射乾燥、赤外線照射乾燥、UV照射乾燥などの、コーティング溶液からなる薄膜に熱をかけて、水分子をとばして乾燥する方法が適用される。また、上述した方法を2つ以上組み合わせてもかまわない。
【0046】
コーティング溶液からなる薄膜にかかる熱が200℃程度以上の高温であると、バリア性はさらに向上し、また耐湿性、耐水性も向上する。200℃程度以上の加熱乾燥処理を行うことにより、液体内容物や高温保存環境にさらされてもガスバリア性被膜層が劣化することなく高いバリア性および密着性を維持することができる。これは、高温処理により
、コーティング溶液からなる薄膜中に含まれる加水分解金属アルコキシドの縮合が進み、水溶性高分子の脱水が十分に行われるためである。
【0047】
200℃程度以上の高温による加熱乾燥処理の方法としては、上述したように、一般的な熱風乾燥法、熱ロール乾燥法を用いることができるが、コーティング溶液からなる薄膜の表面を数千度の炎で加熱処理するフレーム処理法でも同様の効果が得られる。また、フィルム延伸時にコーティング溶液を塗工する延伸塗工法でも、延伸フィルムの熱固定温度が200℃以上であれば効果がある。
【0048】
コーティング溶液からなる薄膜の加熱乾燥後の厚さは特に限定されるものではないが、厚さが50μmを越えるとクラックが生じやすくなる可能性があるため、0.01〜50μm程度とすることが望ましい。
【0049】
このようにして得られたバリア性プラスチックフィルム(3)と紙基材(2)と熱可塑性樹脂層(1)は、紙基材(2)を中心に熱可塑性樹脂層(1)とバリア性プラスチックフィルム(3)とがその両面に位置するようにして積層される。
【0050】
この際の積層方法としては、例えば公知のラミネート方法が用いられる。ラミネートの順序は特に制限はないが、まず熱可塑性樹脂層(1)と紙基材(2)をラミネートした後にバリア性プラスチックフィルム(3)をラミネートする方法が、バリア性プラスチックフィルム(3)へのストレス(加熱やテンション)が少ないので好ましい。
【0051】
また、紙基材(2)と接するバリア性プラスチックフィルム(3)の面はどちらでも構わない。
【0052】
本発明の液体紙容器形成用積層部材は、図1、2にも示すように、紙基材(2)の一方の面には熱可塑性樹脂層(1)が、他方の面にはバリア性プラスチックフィルム(3)が積層され、さらに最内層となる側にはシーラント層(4)が積層されている。
【0053】
このシーラント層(4)は、紙容器を形成するために接着層として働くように積層される層であり、熱によって溶融し、相互に融着し得る層であれば良く、その構成材料を限定するものではない。具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリエチレンもしくはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂などの樹脂を使用することができる。厚さは用途によって適宜決められるが、好ましくは15〜70μm程度である。
【0054】
また、リモネンなどの薬効成分や香料成分の吸着を抑制・防止する目的で、低吸着性シーラント材によりこのシーラント層(4)を形成するようにしてもよい。低吸着性シーラント材としては、ポリエステル系シーラント材やエチレン−ビニルアルコール(EVOH)共重合樹脂シーラント材が適している。
【0055】
上記ポリエステル系シーラント材を構成するポリエステル系樹脂としては、テレフタル酸を主体とするジカルボン酸成分、エチレングリコールを主体とするグリコール成分及び3官能以上のポリカルボン酸及び/またはポリオールを共重合したポリエステル樹脂と、このポリエステル樹脂の融点より低い融点を有し分岐鎖を有するポリエステル樹脂とを含有するポリエステル樹脂組成物が挙げられる。
【0056】
またポリエステル系樹脂が、テレフタル酸を主体とする芳香族ジカルボン酸、エチレングリコールを主体とするグリコール成分からなり、かつ全酸成分もしくは全グリコール成分に対し3官能以上のポリカルボン酸またはポリオールを含有する分岐鎖を有するポリエステル樹脂と、テレフタル酸を主体とする芳香族ジカルボン酸、エチレングリコールを主体とするグリコール成分からなる分岐鎖を有しないポリエステル樹脂を混合してなるポリエステル樹脂混合物、さらにはエチレン系重合体が含有されているポリエステル樹脂組成物も挙げられる。
【0057】
上記したような構成になる本発明の液体紙容器形成用積層部材を用いて作成される液体紙容器には、図3に示すようなゲーベルトップ型(屋根型)の液体紙容器や、ブリック型(レンガ型)の液体紙容器などがあるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0058】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例】
【0059】
まず、ガスバリア性被膜層を構成するコーティング溶液の成分溶液A〜Fを調整した。(成分溶液A)
テトラエトキシシラン(Si(OC254;以下TEOSとする)20gとメタノール10gに塩酸(0.1N)70gを加え、30分間攪拌し加水分解させた加水分解溶液。
(成分溶液B)
ポリビニルアルコールの5%、水/メタノール=95/5水溶液。
(成分溶液C)
1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートを水/IPA=1/1溶液で調整した加水分解溶液。
(成分溶液D)
β−(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランとイソプロピルアルコール(IPA)溶液に塩酸(1N)を徐々に加え、30分間攪拌し、加水分解させた後、水/IPA=1/1溶液で加水分解を行い調整した加水分解溶液。
(成分溶液E)
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとIPA溶液に塩酸(1N)を徐々に加え、30分間攪拌し、加水分解させた後、水/IPA=1/1溶液で加水分解を行い調整した加水分解溶液。
(成分溶液F)
ビニルトリメトキシシランとIPA溶液に塩酸(1N)を徐々に加え、30分間攪拌し、加水分解させた後、水/IPA=1/1溶液で加水分解を行い調整した加水分解溶液。
【0060】
次に、上記のようにして調整された成分溶液を使用して、ガスバリア性被膜層形成用のコーティング溶液1〜4を調整した。
(コーティング溶液1)
成分溶液A、B、CをA/B/C=70/20/10(重量%)の割合で混合し、ガスバリア性被膜層形成用のコーティング溶液1とした。
【0061】
(コーティング溶液2)
成分溶液A、B、DをA/B/D=70/20/10(重量%)の割合で混合し、ガスバリア性被膜層形成用のコーティング溶液2とした。
(コーティング溶液3)
成分溶液A、B、EをA/B/E=70/20/10(重量%)の割合で混合し、ガスバリア性被膜層形成用のコーティング溶液3とした。
(コーティング溶液4)
成分溶液A、B、FをA/B/F=70/20/10(重量%)の割合で混合し、ガスバリア性被膜層形成用のコーティング溶液4とし得た。
【0062】
続いて、紙基材として坪量300g/m2の板紙を用い、その片面に熱溶融押し出しコーティング法により低密度ポリエチレン(LDPE)からなる厚さが厚さ20μmの熱可塑性樹脂層を積層した。
【0063】
一方、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面に、プラズマ処理器を用いてプラズマ前処理を施し、続いてインラインでそのプラズマ処理面上に、電子線加熱方式による真空蒸着装置によって、酸化アルミニウムからなる厚さが15nmの蒸着薄膜層を積層し、蒸着フィルムを得た。この際、電極には高周波電源を用い、アルゴン/酸素混合ガス雰囲気下で酸素ガスを導入しながら蒸着を行った。
【0064】
そして、前記工程で得られた蒸着フィルムの蒸着薄膜層の上に、上記したコーティング溶液1〜4のそれぞれで薄膜をグラビアコート法により形成し、その後120℃で2分間加熱乾燥させて厚さが0.5μmのガスバリア性被膜層を形成し、バリア性プラスチックフィルムa〜dを得た。
【0065】
また、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にプラズマ処理を行わなかったこと以外は、バリア性プラスチックフィルムaを製造したのと同様な方法で、バリア性プラスチックフィルムeを得た。
【0066】
さらに、ガスバリア性被膜層を設けなかったこと以外は、バリア性プラスチックフィルムaを製造したのと同様な方法で、バリア性プラスチックフィルムfを得た。
【0067】
そしてさらに、酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層の代わりに厚さが7μmのアルミニウム箔を用いたこと以外は、バリア性プラスチックフィルムaを製造したのと同様な方法で、バリア性プラスチックフィルムgを得た。
【0068】
以上のようにして得られたバリア性プラスチックフィルムa〜gを、前記の工程で得られた、熱可塑性樹脂層を積層した紙基材の熱可塑性樹脂層を形成しなかった面にそのプラスチック基材が位置するようにして、溶融押し出しラミネート法によりラミネートした。
【0069】
そして、ラミネートされたバリア性プラスチックフィルムa〜gのガスバリア性被膜層の上に、熱溶融押し出しラミネート法により低密度ポリエチレン(LDPE)からなるシーラント層(厚さ20μm)を積層し、本発明の実施例1に係る液体紙容器用積層材料A(バリア性プラスチックフィルムa使用)、実施例2に係る液体紙容器用積層材料B(バリア性プラスチックフィルムb使用)、実施例3に係る液体紙容器用積層材料C(バリア性プラスチックフィルムc使用)、実施例4に係る液体紙容器用積層材料D(バリア性プラスチックフィルムd使用)と、比較のための、実施例5に係る液体紙容器用積層材料E(バリア性プラスチックフィルムe使用)、実施例6に係る液体紙容器用積層材料F(バリア性プラスチックフィルムf使用)をそれぞれ得た。
【0070】
次に、上記したバリア性プラスチックフィルムa〜gと積層材料A〜Gに対し、以下のようにして評価をした。
<評価1>
バリア性プラスチックフィルムa〜gの酸素透過率(cm3/m2・day・atm)及び水蒸気透過率(g/m2・day)を測定した。測定結果を表1に示す。
<評価2>
各実施例に係る積層材料A〜Gを用いて一辺が10cmの四方のパウチを作り、そこに内容物として水道水約20gを充填した。このパウチを40℃−20%RH及び60℃−Freeの環境下に6ヶ月間保存し、期間換算した水道水の重量変化率を求め、各積層部材の良否{(変化率少)◎、×(変化率大)}を判定、内容物適性の評価をした。判定結果を表1に示す。
<評価3>
各実施例に係る積層材料A〜Gの加工適性の良否{(加工易)◎>○>△(加工難)}を判定した。判定結果を表1に示す。
<評価4>
各実施例に係る積層材料A〜Gの環境適性の良否{(適)◎、×(不適)}を判定した。判定結果を表1に示す。
<評価5>
各実施例に係る積層材料A〜Gを用いてゲーベルトップ型(屋根型)容器を成形し、そこに加熱殺菌したオレンジ果汁を充填した後、室内に1ヶ月間放置した。この際、充填直後及び放置後のオレンジ果汁の風味の変化について官能評価を行い、良否{(変化小)◎>○>×(変化大)}を判定した。判定結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

表からも明らかなように、本発明の実施例1〜4に係る液体紙容器形成用積層部材は、高度なガスバリア性を有しながらも水保存に係る経時での重量減少を抑えることができ、なおかつ、環境適性や内容物適性も兼ね備えている。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の液体紙容器形成用積層部材の概略の断面構成を示す説明図である。
【図2】本発明の他の液体紙容器形成用積層部材の概略の断面構成を示す説明図である。
【図3】本発明の他の液体紙容器形成用積層部材を用いて作製された液体紙容器を示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
(1) 熱可塑性樹脂層
(2) 紙基材
(3) バリア性プラスチックフィルム
(4) シーラント層
(5) 印刷層
(6) プラスチックフィルム基材
(7) 酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層
(8) ガスバリア性被膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の一方の面には熱可塑性樹脂層が、他方の面にはバリア性プラスチックフィルムが積層され、さらに最内層となる側にはシーラント層が積層されている液体紙容器形成用の積層部材であって、前記バリア性プラスチックフィルムは、プラスチックフィルム基材上のプラズマ処理面を介して酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層と、Si(OR14およびR2Si(OR33(OR1、OR3は加水分解性基、R2は有機官能基)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物と、水酸基を有する水溶性高分子とが混合されているコーティング溶液からなる薄膜の加熱乾燥被膜であるガスバリア性被膜層とがこの順序で少なくとも積層されてなるものであることを特徴とする液体紙容器形成用積層部材。
【請求項2】
前記Si(OR14およびR2Si(OR33(OR1、OR3は加水分解性基、R2は有機官能基)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物の有機官能基(R2)が、ビニル、エポキシ、メタクリロキシ、ウレイド、イソシアネートのいずれかの非水性官能基を有することを特徴とする請求項1記載の液体紙容器形成用積層部材。
【請求項3】
前記Si(OR14およびR2Si(OR33(OR1、OR3は加水分解性基、R2は有機官能基)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物の有機官能基(R2)が、イソシアネート基が重合したイソシアヌレートであることを特徴とする請求項1記載の液体紙容器形成用積層部材。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−220275(P2009−220275A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63903(P2008−63903)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】