説明

液浸露光装置用撥液処理組成物、液浸露光装置の撥液処理方法、液浸露光装置用撥液処理組成物セット、およびそれを用いた液浸露光装置の撥液処理方法

【課題】密着性の良好な撥液処理層を形成するための液浸露光装置用撥液処理組成物、および撥液処理方法を提供する。
【解決手段】この組成物は、露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置の部材表面を撥液処理するための組成物であり、少なくとも下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と溶剤とを含有することを特徴とする。式中、Rは炭素数14〜30の1価の有機基、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基であり、R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液浸露光装置の各種センサ等の部材表面の撥液処理に用いられる撥液処理組成物、撥液処理組成物セット、およびそれを用いた液浸露光装置の撥液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の集積回路の製造においては、露光光源の光をマスクに照射して得られるマスクのパターン像を基板上の感光性レジストに投影し、前記パターン像を感光性レジストに転写するリソグラフィー法が用いられている。通常、マスクのパターン像は、感光性レジスト上を相対的に移動する投影レンズを介して、感光性レジストの所望の位置に投影される。
【0003】
近年では、液状媒体中で光の波長が液状媒体の屈折率の逆数倍となる現象を利用した液浸リソグラフィー法が検討されている。液浸リソグラフィー法は、投影レンズ下部と感光性レジストとの間を水等の液状媒体で満たした状態で、マスクのパターン像を投影レンズを介して感光性レジストに投影する露光方法である。
【0004】
液浸リソグラフィー法において、露光光源としてArFエキシマレーザー(波長193nm)が用いられる場合、投影レンズと感光性レジストの間は、屈折率が大きく光透過性の高い純水で常に満たされている。したがって、このような液浸リソグラフィー法を行う液浸露光装置では、周辺環境への水の浸入を防止するために、光学素子基材(レンズエレメント)の表面に撥水機能を有する膜(撥水膜)を形成することが行われている。そして、このような撥水膜には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系材料、アクリル系樹脂材料またはシリコーン系樹脂材料等が用いられている。特に、ArFエキシマレーザーに対する高い透過性を有する撥水膜を形成するために、環状パーフルオロ樹脂を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、このような液浸露光装置において、液状媒体である純水と接触する可能性のあるアライメント光学系の部材、例えば、基板を保持する基板ステージや光電センサを搭載した計測ステージに設けられた各種センサ等の部材の表面に、撥水膜を設けることも報告されている。
【0006】
一方、撥水膜を形成すべき部材の形状が複雑で撥水処理の方法が制限されるうえに、膜厚の均一性が求められるような場合には、撥水処理工程で均一な厚さの膜が形成できないと、撥水膜表面の平坦化工程が必要となる。そして、表面の平坦化を行う場合には、撥水膜の密着性が非常に重要になるが、従来からの樹脂材料を使用した撥水膜では、部材表面との密着性が不十分であるという問題があり、撥水性および密着性についての要求を十分に満足させる撥水材料は未だ知られていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−235088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、液浸露光装置において、密着性の良好な撥液処理層を形成するための撥液処理組成物、および撥液処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液浸露光装置用撥液処理組成物は、露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置の部材表面を撥液処理するための組成物であり、少なくとも下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と溶剤とを含有することを特徴とする。
【化1】

(式中、Rは炭素数14〜30の1価の有機基、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基であり、R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。)
【0010】
本発明の液浸露光装置の撥液処理方法は、露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置の部材表面を撥液処理する方法であり、少なくとも下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と溶剤とを含有する撥液処理組成物を用いることを特徴とする。
【化2】

(式中、Rは炭素数14〜30の1価の有機基、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基であり、R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。)
【0011】
本発明の液浸露光装置用撥液処理組成物セットは、露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置の部材表面を撥液処理するための撥液処理組成物セットであり、少なくとも下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と溶剤とを含む第1の液と、酸およびその塩、塩基およびその塩、ならびにオニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を含む第2の液とからなることを特徴とする。
【化3】

(式中、Rは炭素数14〜30の1価の有機基、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基であり、R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。)
【0012】
本発明の液浸露光装置の撥液処理方法は、露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置の部材表面を撥液処理する方法であり、前記本発明の撥液処理組成物セットを使用し、使用直前に前記第1の液と前記第2の液を混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液浸露光装置の部材の表面に高い撥液性、特に高い動的撥液性を付与することができる。また、液浸露光装置の部材の中でも形状が複雑で撥液化する方法が制限されるうえに、膜厚の均一性が求められるような場合に、本発明の撥液処理組成物を用いることにより撥液処理を施すことが可能となり、部材との密着性が高い撥液膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の液浸露光装置用撥液処理組成物は、少なくとも下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と溶剤とを含むものである。
【化4】

【0015】
以下、各成分、およびこの撥液処理組成物を用いる撥液処理について詳述する。
【0016】
(有機ケイ素化合物)
有機ケイ素化合物を表す上記一般式(1)において、Rは炭素数14〜30の1価の有機基、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基であり、R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。
【0017】
ここで、R、R、R、Rが有機基であるとは、この基のケイ素原子と結合する末端の原子が炭素原子であることをいう。加水分解性基とは、水と反応してケイ素原子に結合した水酸基を生じる基や原子をいい、ヒドロキシ化合物の水酸基における水素原子がアルキル基、置換アルキル基またはアリール基で置換された基(例えば、アルコキシ基)、アシル基、アミノ基、アミノアルキル基、塩素原子などをいう。好ましくはアルコキシ基である。以下、加水分解性基がアルコキシ基であるものを例として、有機ケイ素化合物を説明する。R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基であるが、R、R、Rの2つまたは3つが加水分解性基であることが好ましく、R、R、Rのすべてが加水分解性基であることが特に好ましい。
【0018】
は炭素数14〜30の1価の有機基である。有機基としては鎖状のアルキル基が好ましい。炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。鎖状のアルキル基は、分岐を有していても分岐を有さない直鎖状であってもよいが、より優れた撥水性能を得るために直鎖状が好ましい。その理由は、Rが直鎖状のアルキル基である方が、より良好な撥水性の表面を形成すると推定されるためである。Rにおける炭素数は、好ましくは14〜30であり、より好ましくは16〜24である。
【0019】
また、R、R、Rのうちの有機基の数は多くとも2つである。R、R、Rが有機基である場合、その有機基は炭素数1〜10の1価の有機基である。その有機基としては、アルキル基やフェニル基などのアリール基が例示できる。より好ましい有機基は、炭素数1〜5、さらに好ましくは1〜3のアルキル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが例示でき、好ましくはメチル基、エチル基およびプロピル基である。
【0020】
高い撥水性を得るために好ましい加水分解性基は、ヒドロキシ化合物の水酸基の水素原子がアルキル基、置換アルキル基またはアリール基で置換された基であり、アルコキシ基、アルコキシ置換アルコキシ基、アリールオキシ基などが例示できる。その炭素数は10以下が好ましい。より好ましい加水分解性基はアルコキシ基またはアルコキシ置換アルコキシ基であり、それらの炭素数は5以下が好ましく、特に3以下が好ましい。加水分解性基は、加水分解を受けてシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)となり、そのシラノール基が部材表面の水酸基と反応してシロキシ結合(Si−O−Si)を生成し、撥水性を発現する。
【0021】
ヒドロキシ化合物の水酸基の水素原子がアルキル基、置換アルキル基またはアリール基で置換された基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、2−メトキシエトキシ基などのアルコキシ置換アルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基が例示できる。これらのうちで、炭素数5以下のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基およびプロポシキ基が特に好ましい。
【0022】
有機ケイ素化合物の具体例としては、C1633Si(OMe)3、C1837Si(OMe)3、C2041Si(OMe)3、C2449Si(OMe)3、C1837Si(OEt)3、C1837Si(OPr)3、C1837Si(OPh)3、C1837Si(OMe)(OEt)2、C1837Si(Me)(OEt)2、C1837Si(Me)(OMe)2などを挙げることができる。なお、前記化学式において、Meはメチル基、Etはエチル基、Prはプロピル基、Phはフェニル基をそれぞれ示している。これらの有機ケイ素化合物は一種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(溶剤)
本発明の組成物に用いる溶剤としては、組成物の塗工がし易いという点で、1気圧での沸点が70〜200℃であるものが好ましい。さらに好ましい沸点の範囲は100〜150℃である。溶剤の種類としては、エーテル系溶剤、エーテルアルコール系溶剤、エーテルエステル系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤およびアミド系溶剤が好ましい。より好ましくは、エーテル系溶剤、エーテルアルコール系溶剤、エーテルエステル系溶剤、アルコール溶剤、エステル系溶剤である。これらの溶剤は化学的に安定な組成物を与えることができる。また、これらの溶剤は、前記有機ケイ素化合物と後述する助剤である酸に対する溶解性が大きい。さらに、組成物をゲル化させにくく、組成物の塗工がし易いという利点がある。なお、これらの溶剤は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
エーテル系溶剤としては、1,4−ジオキサン、ビス(2−エチルヘキシル)エーテル、ジイソアミルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0025】
エーテルアルコール系溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。
【0026】
エーテルエステル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、酢酸2−エトキシエチル、カルビトールアセテート、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチルなどを挙げることができる。
【0027】
アルコール系溶剤としては、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−プロパノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−オクタノール、ジアセトンアルコールなどを挙げることができる。
【0028】
エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酪酸エチル、酪酸プロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチルラクトンなどを挙げることができる。
【0029】
ケトン系溶剤としては、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン、N−メチルピロリドンなどを挙げることができる。
【0030】
アミド系溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどを挙げることができる。
【0031】
(助剤)
本発明の組成物は、さらに、酸およびその塩、塩基およびその塩、並びにオニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を含むことができる。この助剤は、有機ケイ素化合物の加水分解反応や部材の表面との脱水縮合反応に関与するものである。そのため、助剤の種類や濃度を制御することにより、組成物の撥液性能や密着性能を制御することができる。助剤としては、酸またはオニウム化合物を用いることが好ましい。組成物に化学的安定性と撥水性をよりいっそう付与することができるためである。なお、本発明においては、塩などのうちでオニウムの構造を有する化合物は、オニウム化合物として区別するものとする。
【0032】
酸は、遊離酸であってもその塩であってもよい。塩の場合、半導体製造プロセスにおける汚染を低減するために、後述するオニウム塩であることが好ましい。また酸の種類は、鉱酸であっても有機酸であってもよい。鉱酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などを例示することができる。有機酸としては、カルボン酸、有機基を有するスルホン酸、有機基を有するリン酸などを例示することができる。半導体製造プロセスにおける汚染の低減に有効な有機酸を用いることが好ましい。
【0033】
酸としては、特にカルボン酸が好ましい。カルボン酸を使用したものは、組成物の安定性と、塗工後の撥水特性のバランスに優れるからである。酸の組成物への溶解性、組成物の化学的安定性の点から、カルボン酸としては炭素数1〜10のものが好ましい。また、モノカルボン酸またはジカルボン酸が好ましく、組成物の化学安定性の点からモノカルボン酸がより好ましい。カルボン酸の炭素数は1〜10、より好ましくは2〜8である。カルボン酸としては、置換基を有していないもの、ハロゲン原子で置換されたもの、水酸基等の官能基で置換されたものを使用することができる。一般式C2m+1COOH(mは1〜10の整数であり、アルキル鎖は分岐を有していてもよい。)で表される、置換基を有しないモノカルボン酸の使用が好ましい。
【0034】
酸の具体例としては、酢酸、プロパン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、乳酸、トリフルオロ酢酸、マロン酸、マレイン酸などを例示することができる。これらの酸は1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
塩基は、遊離塩基であってもよくその塩であってもよい。塩の場合、半導体製造プロセスにおける汚染を低減するために、後述するオニウム塩であることが好ましい。有機塩基、がより好ましく、有機アミンがさらに好ましい。有機アミンの具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、アニリン等の1級アミンや、ジメチルアミン、ジエチルアミン等の2級アミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ピリジン等の3級アミンを挙げることができる。
【0036】
オニウム化合物とは、窒素のような孤立電子対を持つ元素を含む化合物において、孤立電子対に陽イオン形の試薬などが配位結合して生ずる化合物である。オニウム化合物としては、半導体製造プロセスの安定性の観点から、アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物が好ましく、アンモニウム化合物がより好ましい。オニウム化合物は、オニウムヒドロキシドであってもよく、オニウム塩であってもよい。オニウム塩としては、上述の酸の塩であることが好ましく、カルボン酸塩であることが特に好ましい。オニウムヒドロキシドとしては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどを挙げることができる。
【0037】
本発明で用いるに好適なオニウム塩のカチオン部のみを例示すると、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンなどのテトラアルキルアンモニウムイオンや、テトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオンなどのテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。
【0038】
また、本発明で使用するに好適なアンモニウム塩の具体例としては、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、トリフルオロ酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、トリフルオロメタンスルホン酸アンモニウムなどを挙げることができる。組成物の安定性が高い点から、トリフルオロメタンスルホン酸アンモニウムが特に好適である。また、トリフルオロメタンスルホン酸アンモニムを用いることにより、組成物の撥水性や密着性を低下させることなく、前記一般式(1)の有機ケイ素化合物を低濃度(例えば0.1質量%程度)でも使用することができる。
【0039】
本発明の組成物は、少なくとも前記有機ケイ素化合物と前記溶剤を含み、さらに必要に応じて前記助剤を含むものである。保存時における有機ケイ素化合物の加水分解を抑制するため、組成物中の水分は、組成物全体の10〜30,000ppmの範囲にすることが好ましい。また、必要に応じて、蒸留処理や脱水処理により水分量を50ppm以下とした溶剤を用いることもできる。
【0040】
組成物中の有機ケイ素化合物の含有割合(濃度)は、組成物全体を100質量%としたとき、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。この範囲であればゲル化しにくく、かつ撥水特性に優れるからである。
【0041】
組成物中の助剤の含有割合(濃度)は、組成物全体を100質量%としたとき、好ましくは0.0001〜0.5質量%、より好ましくは0.001〜0.2質量%である。助剤が遊離酸または遊離塩基である場合には、好ましくは0.01〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.2質量%である。また、助剤がオニウム化合物の場合には、好ましくは0.0001〜0.05質量%、より好ましくは0.003〜0.03質量%である。助剤としてアンモニウム塩を用いる場合には、0.0001〜0.05質量%が好ましく、より好ましくは0.001〜0.03質量%である。
【0042】
有機ケイ素化合物と助剤との割合は、有機ケイ素化合物の1質量部に対して、助剤が好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.01〜5質量部である。この範囲であればゲル化しにくく、かつ撥水特性に優れる。助剤が遊離酸または遊離塩基の場合には、有機ケイ素化合物の1質量部に対して、助剤が好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.01〜5質量部である。助剤がオニウム化合物の場合には、有機ケイ素化合物の1質量部に対して、助剤が好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0043】
有機ケイ素化合物と助剤とは、予め混合して用いることも(一液型)、あるいは液浸露光装置の部材の表面を処理する直前に混合して用いることもできる(二液型)が、保存安定性を確保するため、処理する直前に混合することが好ましい。なお、二液型として用いる場合、前記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と助剤とを別々に用意することもできるが、少なくとも一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と溶剤とを含む第1の液(A液)と、助剤を含む第2の液(B液)とからなる撥水処理組成物セットを用いることが好ましい。また、そのような撥水処理組成物セットを用いて液浸露光装置の撥水処理を行う場合には、使用直前に、所定の混合比となるようにA液とB液とを混合して用いることが好ましい。ここで混合から使用までの時間としては、24時間以内が好ましく、1.5時間以内がより好ましく、10分〜1時間がさらに好ましい。
【0044】
(添加剤)
本発明の組成物には、有機ケイ素化合物の加水分解反応を進行させるため、必要に応じて水を添加することができる。
【0045】
また、本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記助剤以外の添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、界面活性剤、レベリング剤などを挙げることができる。
【0046】
シランカップリング剤は、密着性をさらに向上させるために添加するものであり、その目的に応じて適宜選択することができる。シランカップリング剤の官能基としては、アミノ基、ウレイド基、エポキシ基、スルフィド基、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基を挙げることができる。なお、シランカップリング剤は、上記の一液型および二液型のいずれにも用いることができるが、二液型に用いることが好ましい。その場合、有機ケイ素化合物を含む第1の液(A液)に予め添加しておくか、あるいは有機ケイ素化合物を含む第1の液(A液)と助剤を含む第2の液(B液)とを混合する際に添加することができる。
【0047】
シランカップリング剤としては、例えば、一般式(2)
【化5】

で示される有機ケイ素化合物を使用することができる。式中、Rは、官能基含有有機基、または炭素数1〜13の1価の有機基であり、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基である。R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。
【0048】
式中、Rは、官能基含有有機基、または炭素数1〜13の1価の有機基である。ここで、官能基含有有機基としては、アミノ基、ウレイド基、エポキシ基、スルフィド基、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基などの官能基を有する有機基を挙げることができる。炭素数1〜13の1価の有機基は、炭素数以外、前記一般式(1)におけるRで説明した有機基と同義である。また、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基であり、R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。ここで、炭素数1〜10の1価の有機基は、一般式(1)におけるR〜Rで説明した有機基と同義である。また、加水分解性基は、一般式(1)におけるR〜Rで説明した加水分解性基と同義である。
【0049】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を挙げることができる。また、シリコーン系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、含フッ素界面活性剤などを挙げることができる。
【0050】
レベリング剤としては、アクリル系レベリング剤、ビニル系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤などを挙げることができる。
【0051】
(撥液および密着性向上処理)
露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置において、液体と接触する可能性のある部材表面に塗布することにより、撥液および密着性向上処理を行うことができる。ここで、液体としては純水の使用が好ましく、以下撥液および密着性向上処理を撥水処理という。露光ビーム光源としては、g線(波長436nm)、i線(波長365nm)、KrFエキシマレーザー光(波長248nm)、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)、Fエキシマレーザー光(波長157nm)などが挙げられる。ArFエキシマレーザー光またはFエキシマレーザー光が好ましく、ArFエキシマレーザー光が特に好ましい。
【0052】
本発明の組成物は、液浸露光装置においてあらゆる形状および材質の部材表面の撥水処理に適用することができる。本発明の組成物の液浸露光装置の部材表面への塗布方法としては、スピンコート法、スプレー法、ディップ法、ポッティング法、刷毛塗り法などが挙げられる。膜(撥水処理層)厚の均一性が求められる場合には、スピンコート法やディップ法が有効であるが、部材の形状が複雑でスピンコート法やディップ法を用いることができない場合には、ポッティング法や刷毛塗り法で塗布した後、表面を擦るなどの方法で表面の平坦化を行うことにより、層厚の均一性を得ることが可能である。本発明の組成物を用いた場合には、ポッティング法や刷毛塗り法で塗布した後、表面を擦るなどの平坦化作業を行っても、密着性が高いため、撥水性が低下することがない。
【0053】
本発明の組成物においては、一般式(1)で表される有機ケイ素化合物が加水分解を起こしてシラノール基を生成し、このシラノール基が液浸露光装置の部材の表面の水酸基と反応し、化学結合を形成する。そして、部材の表面に、高い撥水性、特に高い動的撥水性を付与することができる。そのため、撥水処理される部材表面の材質は、表面に水酸基を有するものであれば何でもよく、石英やガラス等のガラス類、鉄、SUS、銅、アルミニウム、クロム、金などの金属類、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリスルフォン(PSF)などの樹脂類などが挙げられる。石英やガラス等のガラス類が特に好ましい。
【0054】
本発明の組成物と液浸露光装置の部材表面との反応は、常温時に反応するように選択することが好ましいが、反応性が低い撥液処理組成物の場合には、組成物を表面に接触させた後、ホットプレート(熱板)などにより60℃〜180℃の温度で1〜60分程度、より好ましくは1〜10分程度、熱処理を施すこともできる。本発明の組成物を用いた撥水処理により、撥水処理された液浸露光装置の部材と水の後退接触角は、75度以上より好ましくは90度以上を得ることができる。
【実施例】
【0055】
本発明を以下の実施例により詳細に説明する。
【0056】
(組成物の調製)
表1および表2に示す有機ケイ素化合物、助剤および溶剤を、同表に示す割合で混合した。濃度は、組成物全体を100質量%とした場合の含有割合(単位:質量%)である。有機ケイ素化合物と助剤以外は溶剤である。但し、表中で水添加量と表示した欄は、水を所定量添加して組成物とした際の添加した水の割合(単位:質量%)を示すものである。
【0057】
さらに、表中の水分量とは、表中の組成物と同じ割合で溶剤と助剤を混合し、測定した水分量(単位:質量%)であり、いわゆる持ち込みの水分量である。なお水分量の測定には、京都電子工業社製のカールフィッシャー水分計(MKC−500)を用いた。溶剤と助剤を混合した試料の約0.3mL(別途秤量)を用い、電量滴定法により測定した。
【0058】
助剤および溶剤の略号は以下の通りである。
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
TMAH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド
TMAA:テトラメチルアンモニウム酢酸塩
AA:酢酸アンモニウム
AF:ギ酸アンモニウム
ATS:トリフルオロメタンスルホン酸アンモニウム
【0059】
なお、TMAHについては、含有量が2.38質量%の水溶液を用い、水溶液の含有割合を濃度として記載した。また、溶剤の略号の後ろの数字は混合比(質量比)である。混合後、公称孔径0.5μmのPTFE製フィルターを用いてろ過を行い、組成物1〜40、比較組成物1〜6をそれぞれ調製した。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
実施例1〜21、比較例1〜6(撥水性測定)
組成物1〜9、19〜30、比較組成物1〜6を用いて撥水性の測定を行った。撥水処理方法は以下のとおりである。4cm角に切断した合成石英ガラス基板に対して、組成物を約0.25mL用い、毎分1500回転で60秒間の条件で前記基板の表面にスピンコートした。これを110℃のホットプレートを用いて60秒間ベークした。以上の操作により表面を処理した基板を得た。
【0063】
撥水性の測定としては、純水に対する接触角(単位:度)、転落角(単位:度)、後退接触角(単位:度)をそれぞれ測定した。測定には、協和界面科学社製接触角計DM−700を使用した。使用した水滴の体積は、接触角の測定については2μLであり、転落角および後退角の測定については50μLであった。これらの測定結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
本発明の組成物である組成物1〜9、19〜30を用いた場合には、75度以上の接触角を得ることができた。また、十分に小さい転落角と、大きい後退接触角を得ることができた。なお、撥水性の点で、転落角は小さい方が好ましく、後退接触角は大きい方が好ましい。
【0066】
実施例22〜30(安定性評価1)
助剤の添加量(濃度)が組成物の貯蔵安定性に与える影響を確認した。組成物10〜14、26〜28、および31について、状態を目視で観察して評価するとともに、撥水性の測定・評価を行った。調製直後の液(組成物)は無色透明であった。その後室温で9日間保管し、安定性を確認した。安定性が悪い場合はゲル化が起こり、液は白濁した。白濁した場合は、表中に白濁と記載した。目視で異常のないものについては、実施例1〜21と同様にして接触角を測定した。測定結果を表4に示す。表中の数字は接触角(単位:度)である。
【0067】
【表4】

【0068】
組成物28、31については、21日後においても白濁は認められず、接触角の変化もほとんど見られなかった。
【0069】
実施例31〜34(有機ケイ素化合物の濃度の影響1)
有機ケイ素化合物の濃度の影響を確認した。組成物15〜18を使用し、実施例1〜21と同様にして接触角(単位:度)、転落角(単位:度)、後退転落角(単位:度)を測定した。測定結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
実施例35(安定性評価2)
組成物を調製してから塗布するまでの経過時間が撥水性に与える影響を確認した。組成物11について、所定時間経過後に塗布したサンプルの接触角(単位:度)を実施例1〜21と同様にして測定し、撥水性を評価した。測定結果を表6に示す。
【表6】

【0072】
実施例36〜46(ベーク温度、ベーク時間の影響)
4cm角に切断した合成石英ガラス基板の表面に、組成物31および34を実施例1〜21と同様にしてスピンコートした。次いで、ホットプレートの設定温度、時間をかえてベークし、前記組成物により表面を処理した基板を得た。この基板表面の接触角(単位:度)、転落角(単位:度)、後退転落角(単位:度)を、実施例1〜21と同様にして測定した。測定結果を表7に示す。
【0073】
【表7】

【0074】
実施例47〜51(有機ケイ素化合物の濃度の影響2)
4cm角に切断した合成石英ガラス基板の表面に、組成物31〜33、35、36を実施例1〜22と同様にしてスピンコートした。ベーク条件は110℃で60秒間とした。こうして表面を処理した基板の接触角(単位:度)、転落角(単位:度)、後退転落角(単位:度)を、実施例1〜21と同様にして測定した。測定結果を表8に示す。
【0075】
【表8】

【0076】
有機ケイ素化合物の濃度を小さくした場合には、撥水性を発現するのに適当な単分子膜のような構造が、基板表面に形成されていると考えられる。また、濃度を上げた場合には撥水処理層が積層されるが、加熱により、有機ケイ素化合物どうしが縮合しオリゴマー化が進行するか、もしくは積層された余剰な有機ケイ素化合物が揮発し、撥水基が表面に現れることにより適当な撥水性が発現していると考えられる。
【0077】
実施例52〜56(溶剤の影響)
4cm角に切断した合成石英ガラス基板の表面に、組成物31、37〜40を実施例1〜21と同様にしてスピンコートした。ベーク条件は110℃で60秒間とした。こうして表面を処理した基板の接触角(単位:度)を、実施例1〜21と同様にして測定した。測定結果を表9に示す。
【0078】
【表9】

【0079】
実施例57〜60(助剤の濃度の影響)
4cm角に切断した合成石英ガラス基板の表面に、組成物29、30、33、34を実施例1〜21と同様にしてスピンコートした。ベーク条件は110℃で60秒間とした。こうして表面を処理した基板の接触角(単位:度)、転落角(単位:度)、後退転落角(単位:度)を、実施例1〜21と同様にして測定した。測定結果を表10に示す。
【0080】
【表10】

【0081】
実施例61〜63(塗布方法の影響)
4cm角に切断した合成石英ガラス基板の表面に、組成物30をスピンコート法、ディップ法、ポッティング法によりそれぞれ塗布した。ベーク条件は110℃で60秒間とした。ポッティング法で塗布したものは、ベーク後布拭きで表面を平坦化した。こうして得られた基板の接触角(単位:度)、転落角(単位:度)、後退転落角(単位:度)を、実施例1〜21と同様にして測定した。測定結果を表11に示す。
【0082】
【表11】

【0083】
本発明の組成物を用いた場合には、スピンコート法、ディップ法、ポッティング法のいずれの塗布方法によっても75度以上の接触角が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、液浸露光装置の部材の表面に高い撥液性、特に高い動的撥液性を付与することができる。また、液浸露光装置の部材の中でも形状が複雑で撥液化する方法が制限されるうえに膜厚の均一性が求められるような場合に、本発明の撥液処理組成物を用いることにより撥液処理を施すことが可能となり、部材との密着性が高い撥液膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置の部材表面を撥液処理するための組成物であり、
少なくとも下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と溶剤とを含有することを特徴とする液浸露光装置用撥液処理組成物。
【化1】

(式中、Rは炭素数14〜30の1価の有機基、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基であり、R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。)
【請求項2】
さらに、酸およびその塩、塩基およびその塩、ならびにオニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を含むことを特徴とする請求項1記載の液浸露光装置用撥液処理組成物。
【請求項3】
前記助剤が、トリフルオロメタンスルホン酸アンモニムを含むことを特徴とする請求項2記載の液浸露光装置用撥液処理組成物。
【請求項4】
組成物中の前記有機ケイ素化合物の濃度が、0.1〜5質量%であることを特徴とする請求項1記載の液浸露光装置用撥液処理組成物。
【請求項5】
前記溶剤は70〜200℃の沸点を有することを特徴とする請求項1記載の液浸露光装置用撥液処理組成物。
【請求項6】
前記液体が水であり、前記撥液処理は撥水処理であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の液浸露光装置用撥液処理組成物。
【請求項7】
前記露光ビームが波長193nmのArFエキシマレーザーであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液浸露光装置用撥液処理組成物。
【請求項8】
露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置の部材表面を撥液処理する方法であり、
少なくとも下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と溶剤とを含有する撥液処理組成物を用いることを特徴とする液浸露光装置の撥液処理方法。
【化2】

(式中、Rは炭素数14〜30の1価の有機基、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基であり、R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。)
【請求項9】
露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置の部材表面を撥液処理するための撥液処理組成物セットであり、
少なくとも下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物と溶剤とを含む第1の液と、酸およびその塩、塩基およびその塩、ならびにオニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を含む第2の液とからなることを特徴とする液浸露光装置用撥液処理組成物セット。
【化3】

(式中、Rは炭素数14〜30の1価の有機基、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の1価の有機基または加水分解性基であり、R、R、Rの少なくとも1つは加水分解性基である。)
【請求項10】
露光ビームを照射し液体を介して基材を露光する液浸露光装置の部材表面を撥液処理する方法であり、
請求項9記載の撥液処理組成物セットを使用し、使用直前に前記第1の液と前記第2の液を混合することを特徴とする液浸露光装置の撥液処理方法。

【公開番号】特開2012−124346(P2012−124346A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274229(P2010−274229)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】