説明

液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置

【課題】複雑な構造にすることなく、インクのカラー化及びチップサイズの小型化を両立させるとともに、リザーバ間の隔壁の剛性を確保した液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】液滴吐出ヘッド100は、ノズル列15が形成されたノズル基板1と、底壁が振動板32となる複数の圧力室31が形成されたキャビティ基板3と、複数の圧力室31の所定個数毎に液体を供給する開口形成された複数のリザーバ21、ノズル連通穴24、及び、リザーバ21の開口部外周の一部を圧力室31方向に延設させてリザーバ21と圧力室31とを連通させる供給口22が形成されたリザーバ基板2と、振動板31を駆動する個別電極42が凹部45内に形成された電極基板4と、を備え、供給口22は、リザーバ基板2の開口部の形成面に所定の深さの凹部により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクやその他の液体を吐出する液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関し、特にノズル列1列内においてインクのカラー化(液体の多種類化)を可能にした構造の液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための装置として、たとえばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。一般に、このインクジェットヘッドは、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル孔に連通する吐出室や、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、吐出室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。このようにインク滴を吐出させる方式としては、静電気力を利用する静電駆動方式や、圧電素子による圧電(PZT)方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標)方式等がある。
【0003】
このうち、静電駆動方式のインクジェットヘッドにおいては、吐出室の底部を振動板としたキャビティ基板と、この振動板に所定のギャップ(空隙)を介して対向する個別電極を形成した電極ガラス基板とを接合させた構成となっている。インク滴を吐出する際には、個別電極に駆動電圧を印加してプラスに帯電させ、対応する振動板に駆動電圧を印加してマイナスに帯電させる。そうすると、この時に生じる静電引力により振動板が個別電極側に弾性変形する。そして、この駆動電圧をオフにすると、振動板が復元する。このとき、吐出室の内部の圧力が急激に上昇し、吐出室内のインクの一部をインク滴としてノズル孔から吐出されることになる。
【0004】
このようなインクジェットヘッドでは、高解像度画像の高速印刷及び多色印刷(カラー化)を目的として、ノズル密度の高密度化及び多列化が進んでおり、それに伴って1列当たりのノズルの数及び吐出室の数が増加し、ノズル列の長尺化が進んでいる。また、同時に、チップサイズの小型化が要求されている。そこで、1列のノズル列に対して、複数色の領域に分割した複数のリザーバを設け、ノズル列1列から複数色のインクを吐出し、カラー化及び小型化を実現できるようにした構造のインクジェットヘッドが種々提案されている。このようなインクジェットヘッドは、色毎にリザーバを設け、圧力室及びノズルにインクを供給するようになっている。
【0005】
そのようなものとして、「紙送り方向に並び、かつキャリッジの移動方向に2列形成された複数の圧力発生室と、前記各圧力発生室を加圧する圧力発生手段とを備えたアクチュエータユニットを、紙送り方向に複数配列し、少なくとも一方の列に並ぶ圧力発生室を、前記紙送り方向に複数の領域に分割して連通するリザーバと、前記各圧力発生室に連通するノズル開口とを備えた流路ユニットからなるインクジェット式記録ヘッド」が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。このような構造とすることは、ノズル列1列内を複数色の領域で分割し、印刷を実行するような場合には、一般的な構造である。
【0006】
また、「異方性エッチングによって複数のチャネル部(圧力室)とインクリザーバ部とが形成された第1の基板と、前記チャネル部に対応した複数のヒーターを有する基板上に厚膜絶縁層を有し、該厚膜絶縁層にヒーターが配置された第1の凹部と前記チャネル部とインクリザーバ部とを連結する第2の凹部とが形成された第2の基板とを接合してなるインクジェット記録ヘッドにおいて、第2の凹部のチャネル側ないしは中間部の一部が互いに連結され、インクリザーバ側はそれぞれ分割されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド」が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、「液滴を吐出する複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、底面に振動板を形成し、前記液滴を溜めておく吐出室となる凹部が形成されたキャビティ基板と、前記振動板に対向し、前記振動板を駆動する個別電極が形成された電極基板と、前記吐出室に液滴を供給する共通液滴室となる凹部と、前記共通液滴室から前記吐出室へ液滴を移送するための貫通孔と、前記吐出室から前記ノズル孔へ液滴を移送するノズル連通孔とを有するリザーバ基板とを備え、前記リザーバ基板は、一方の面に前記ノズル基板が接合され、他方の面に前記キャビティ基板が接合されている液滴吐出ヘッド」が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平10−217452号公報(第3頁及び第1図)
【特許文献2】特開平6−143579号公報(第4頁及び第1図)
【特許文献3】特開2006−103167号公報(第6頁及び第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載のインクジェット記録ヘッドは、インクリザーバ部とチャネル部とを同一基板(第1の基板)に異方性エッチングにより形成するものである。一般的に、異方性ウエットエッチングは、バッチ処理による大量生産が可能であり生産性が高い。しかしながら、高密度なノズル列を形成する場合、色毎に分割したリザーバの隔壁が必然と細くなるために、隔壁を形成できない、または隔壁の剛性が低いということになり、各リザーバ間で圧力干渉(クロストーク)が発生し、印刷に影響がでてしまうといった課題があった。また、ウエットエッチングのみでリザーバを形成した場合、異方性エッチングによる(111)面の特異形状により最も端の供給口からリザーバまでの流路が狭く形成されてしまい、インク充填不良などが発生しやすいという課題もあった。
【0010】
特許文献3に記載の液滴吐出ヘッドは、ノズル基板、リザーバ基板、キャビティ基板及び電極基板の4層構造により、キャビティ基板を薄くしてもリザーバの高さを確保し、リザーバの流路抵抗を低くして良好な印刷をできるようにしたものである。しかしながら、リザーバ基板をドライエッチングプロセスのみで製造しており、製造に多くのコストを要することになってしまう。また、リザーバ基板を両面から加工する必要があり、両面位置合わせ精度や基板の薄板化の点で不利であるという課題もあった。したがって、特許文献1〜特許文献3の技術内容を単純に組み合わせたとしても、各課題を解決することにはならず、更なる工夫が要求されることになる。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、複雑な構造にすることなく、インクのカラー化及びチップサイズの小型化を両立させるとともに、共通インク室(リザーバ)間の隔壁の剛性を確保した液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、ノズル孔のそれぞれに連通し、底壁が振動板となる複数の圧力室が形成されたキャビティ基板と、複数の圧力室の所定個数毎に液体を供給する開口形成された複数のリザーバ、圧力室とノズル孔とを連通させるノズル連通穴、及び、リザーバの開口部外周の一部を圧力室方向に延設させてリザーバと圧力室とを連通させる供給口が形成されたリザーバ基板と、振動板を駆動する個別電極が凹部内に形成された電極基板と、を備え、供給口は、リザーバ基板の開口部の形成面に所定の深さの凹部により構成されていることを特徴とする。
【0013】
したがって、複数のノズル孔を所定のピッチで配列して構成されるノズル列1列に複数色(あるいは複数種類の液体)を配置できるので、チップサイズの小型化を実現することができる。また、リザーバ基板において、供給口及びリザーバを同一面上に全てのパターンを形成するため、各パターン同士のアライメント精度を向上することができる。
【0014】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、リザーバの開口部内周側の一部を供給口を構成する凹部の深さと同じとしたことを特徴とする。したがって、リザーバ基板において、供給口及びリザーバの開口部内周側の一部を同一プロセスで形成することができるため、製造に要するプロセス数及びコストを低減することができる。
【0015】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、供給口及びリザーバの開口部内周側の一部をドライエッチングで加工したことを特徴とする。したがって、上記の効果に加え、ドライエッチング加工で供給口を形成しているため、寸法精度が高く、吐出特性に優れた液滴吐出ヘッドを提供することができる。また、隣接するリザーバ間の隔壁を垂直に加工できるため、高密度なノズル密度でも複数のリザーバが形成できる。さらに、リザーバ端での狭形状を回避できるためリザーバ端のノズルにインク充填が確実に可能となる。
【0016】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、リザーバ基板には結晶方位面が(100)のシリコン基板を用いたことを特徴とする。したがって、リザーバの開口部内周側の一部以外のリザーバを結晶方位面が(100)のシリコン基板の化学的な性質を利用して形成することができる。
【0017】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、リザーバの開口部内周側の一部以外の部分をウエットエッチングで加工したことを特徴とする。したがって、エッチング量の多いリザーバを、ドライエッチング加工する部分とウエットエッチングする部分とで分割形成することで、バッチ処理により作製でき、製造に要するコストを低減することが可能となる。
【0018】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、ノズル孔のそれぞれに連通し、底壁が振動板となる複数の圧力室、及び、圧力室の一端を長手方向に延設させた供給口が形成されたキャビティ基板と、複数の圧力室の所定個数毎に液体を供給する開口形成された複数のリザーバ、及び、圧力室とノズル孔とを連通させるノズル連通穴が形成されたリザーバ基板と、振動板を駆動する個別電極が凹部内に形成された電極基板と、を備え、圧力室とリザーバとは、供給口を介して連通しており、供給口は、キャビティ基板の圧力室の形成面に所定の深さの凹部により構成されていることを特徴とする。
【0019】
したがって、複数のノズル孔を所定のピッチで配列して構成されるノズル列1列に複数色(あるいは複数種類の液体)を配置できるので、チップサイズの小型化を実現することができる。また、キャビティ基板において、供給口及び圧力室を同一面上に全てのパターンを形成するため、各パターン同士のアライメント精度を向上することができる。
【0020】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、供給口の流路幅を圧力室の流路幅よりも狭くしたことを特徴とする。したがって、供給口を圧力室と同時工程でパターニング形状により形成可能であり、寸法精度の高い供給口を形成でき、吐出特性が優れた液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0021】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする。したがって、上述の液滴吐出ヘッドの効果をすべて有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100が組み立てられた状態の縦断面構成を示す縦断面図である。図1に基づいて、液滴吐出ヘッド100の構成及び動作について説明する。この液滴吐出ヘッド100は、静電駆動方式の静電アクチュエータの代表として、ノズル基板1の表面側に設けられたノズル孔11からインク等の液体を液滴として吐出するフェイスイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドを表している。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0023】
図1に示すように、この液滴吐出ヘッド100は、複数のノズル孔11が所定のピッチで配列されてノズル列を構成しているノズル基板1と、各ノズル孔11から吐出する液滴を貯留するリザーバ(共通液体室)21が設けられたリザーバ基板2と、リザーバ21に連通し、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路(供給口22及び圧力室(キャビティ)31)が設けられたキャビティ基板3と、キャビティ基板3の圧力室31の底壁を形成する振動板32に対向して個別電極42が配設された電極基板4とが順に積層されて構成されている。
【0024】
つまり、液滴吐出ヘッド100は、リザーバ基板2の一方の面にはノズル基板1が、リザーバ基板2の他方の面にはキャビティ基板3が接合されており、キャビティ基板3のリザーバ基板2が接合された面の反対面には、電極基板4が接合されて構成されている。なお、この実施の形態1では、液滴吐出ヘッド100が4層構造となっている場合を一例として説明するが、これに限定するものではない。以下に詳述するが、本発明は、リザーバ21と、圧力室31とが、それぞれ異なる基板に形成されていれば実施することができる。また、ノズル基板1を上面、電極基板4を下面としている場合を図示しているが、実際に用いられる場合には、ノズル基板1の方が電極基板4よりも下面となることが多い。
【0025】
[ノズル基板1]
ノズル基板1は、たとえば厚さ50μm(マイクロメートル)のシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板という)を主要な材料として構成されている。ノズル基板1には、所定のピッチでノズル孔11が複数形成されている。そして、所定のピッチで並んでいる複数のノズル孔11でノズル列が構成されている(図2参照)。各ノズル孔11は、後述する各ノズル連通穴24から移送されたインク等の液体を液滴として外部に吐出する機能を有している。なお、ノズル孔11を複数段(たとえば、図1に示すような2段)で形成したり、テーパ形状で形成したりすると、液滴を吐出する際の直進性の向上が期待できる。
【0026】
[リザーバ基板2]
リザーバ基板2は、たとえば厚さ180μmで結晶方位面(100)を有するシリコン基板を主要な材料として構成されている。このリザーバ基板2には、リザーバ基板2に垂直に貫通し、各ノズル孔11に独立して連通するノズル連通穴24が複数形成されている。このノズル連通穴24は、ノズル孔11の径よりも少し大きい径で形成するとよい。また、リザーバ基板2には、各圧力室31に液体を供給するための複数のリザーバ21が分割形成されている。リザーバ21のそれぞれは、所定個数の圧力室31に共通している。このリザーバ21は、深さの異なる2段構造(段A、段B)となっている。
【0027】
また、リザーバ基板2の底面(キャビティ基板3との接合面)には、リザーバ21から圧力室31へ液体を移送するための供給口22が各圧力室31の位置に合わせて形成されている。すなわち、リザーバ21は、各供給口22を介して各圧力室31、各ノズル連通穴24及び各ノズル孔11と連通するようになっている。この供給口22は、圧力室31の個数と同数形成されている。また、各リザーバ21は、キャビティ基板3に形成するインク取入孔33aと連通するようになっている。なお、リザーバ21の形状については、図2で詳細に説明するものとする。
【0028】
[キャビティ基板3]
キャビティ基板3は、たとえば厚さ約50μmで結晶方位面(110)を有するシリコン基板を主要な材料として構成されている。このシリコン基板にドライエッチングまたは異方性ウエットエッチングのいずれかあるいは双方を行い、底壁が可撓性を有する振動板32となる圧力室(液体圧力室や吐出室、キャビティ等とも称される)31が複数形成されている。この圧力室31は、個別電極42の電極列に対応して形成されており、液体が保持されて吐出圧が加えられるようになっている。また、圧力室31は、紙面手前側から奥側にかけて平行に並んで形成されているものとする。
【0029】
この振動板32は、高濃度のボロンドープ層で形成するようにしてもよい。KOH等のアルカリ溶液による単結晶シリコンのエッチングにおけるエッチングレートは、ドーパントがボロンの場合、約5×1019atoms/cm3 以上の高濃度の領域において、非常に小さくなる。このため、振動板32の部分を高濃度のボロンドープ層とし、アルカリ溶液による異方性エッチングによって圧力室31を形成する際に、ボロンドープ層が露出してエッチングレートが極端に小さくなる、いわゆるエッチングストップ技術を用いることにより、振動板32を所望の厚さに形成することができる。
【0030】
各圧力室31は、リザーバ基板2のノズル連通穴24それぞれに独立して連通するように形成されている。圧力室31は、上述したように、所定個数を1単位として供給口22を介してリザーバ21と連通するようになっている。また、キャビティ基板3には、キャビティ基板3を垂直に貫通し、リザーバ基板2のリザーバ21と連通するインク取入孔33aが形成されている。なお、キャビティ基板3には、図示省略の電力供給手段から電荷を供給する際の端子となる共通電極端子(図示省略)が形成されているものとする。つまり、キャビティ基板3には、共通電極端子を介して駆動制御回路(図示省略)から個別電極42に供給される電荷と反対の極性の電荷が振動板32に供給されるようになっているのである。
【0031】
さらに、キャビティ基板3の下面(電極基板4と対向する面)には、振動板32と個別電極42との間を電気的に絶縁するためのTEOS膜(ここでは、Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン(珪酸エチル)を用いてできるSiO2 膜をいう)である絶縁膜(図示省略)をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:TEOS−pCVDともいう)法を用いて、0.1μm形成するとよい。
【0032】
このような絶縁膜を形成することで、振動板32の駆動時における絶縁破壊及びショートを防止できるとともに、液体によるキャビティ基板3のエッチングを防止できる。なお、絶縁膜をTEOS膜に限定するものではなく、絶縁性能が向上する物質、たとえばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))等を用いてもよい。また、キャビティ基板3の上面には、図示省略の液体保護膜となるSiO2 膜(TEOS膜を含む)を、プラズマCVD法又はスパッタリング法により成膜するとよい。この液体保護膜を成膜することで、インク滴で流路が腐食されるのを防止できる。また、この液体保護膜の応力と絶縁膜の応力とを相殺させ、振動板32の反りを小さくできるという効果もある。
【0033】
[電極基板4]
電極基板4は、たとえば、厚さ1[mm]のガラス材を主要な材料として形成するとよい。中でも、キャビティ基板3を構成するシリコン材と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスで形成するのが好ましい。この硼珪酸系の耐熱硬質ガラスで電極基板4を形成すれば、電極基板4とキャビティ基板3とを陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板4とキャビティ基板3との間に生じる応力を低減することができ、その結果、剥離等の問題を生じることなく、電極基板4とキャビティ基板3とを強固に接合することができる。なお、電極基板4がガラス材で形成されている場合を例に示すが、単結晶シリコンで形成してもよい。
【0034】
この電極基板4の表面には、キャビティ基板3の各圧力室31の形状に応じた凹部(ガラス溝)45が形成されている。この凹部45は、たとえばエッチングにより深さ0.3μm程度で形成するとよい。この凹部45の内部(特に底部)には、固定電極となる個別電極42が、一定の間隔を有してキャビティ基板3の各圧力室31の底面を形成する振動板32と対向するように作製されている。つまり、凹部45は、その一部に個別電極42を装着できるように、これらの形状に類似したやや大きめの形状にパターン形成されている。
【0035】
個別電極42は、たとえばITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を0.1μmの厚さでスパッタして作製することができる。このようにITOで個別電極42を作製すると、透明なので放電したかどうかの確認が行いやすいという利点がある。なお、個別電極42をITOで作製した場合を例に示したが、これに限定するものではなく、IZO(Indium Zinc Oxide)あるいは金、銅、クロム等の金属等で作製してもよい。また、個別電極42は、リード部及び端子部が一体となって作製されている。そして、個別電極42の一端(端子部)が電力供給手段である駆動制御回路(図示省略)と接続されており、その駆動制御回路から個別電極42に駆動信号(パルス電圧)が供給されるようになっている。
【0036】
以上のように構成された電極基板4とキャビティ基板3とを陽極接合により接合して積層体を形成すると、振動板32と個別電極42との間には、振動板32を撓ませる(変位させる)ことができる一定のエアギャップ(空隙)41が、電極基板4の凹部45により形成されるようになっている。ここでは、エアギャップ41が0.2μmとなっている。このエアギャップ41は、凹部45の深さ、個別電極42及び振動板32の厚さにより決まることになる。このエアギャップ41は、液滴吐出ヘッド100の吐出特性に大きく影響するため、厳格な精度管理が要求される。
【0037】
また、このエアギャップ41の開放端部に、たとえばエポキシ接着剤等からなる封止部43を形成し、エアギャップ41内に異物や湿気等が侵入するのを防止するとよい。なお、封止部43に使用する材料を特に限定するものではなく、エアギャップ41を気密に封止できるものであればよい。たとえば、水分透過性の低い酸化シリコン(SiO2 )や、酸化アルミニウム(Al23)、酸窒化シリコン(SiON)、窒化シリコン(SiN)、ポリパラキシリレン等で封止部43を形成するとよい。なお、エアギャップ41は、電極基板4に凹部45を形成する他に、キャビティ基板3となるシリコン基板に凹部を形成したり、スペーサを挟むことによって設けたりすることも可能である。
【0038】
なお、電極基板4には、図示省略の外部のインクタンクから供給される液体を取り入れ、この液体をリザーバ基板2に形成されているリザーバ21に供給する流路となるインク取入孔33b(キャビティ基板3に形成されているインク取入孔33aと連通する)が電極基板4を貫通するように形成されている。つまり、キャビティ基板3のインク取入孔33a及び電極基板4のインク取入孔33bが連通することでインク取入孔33を構成し、リザーバ21に液体を供給可能になっているのである。このインク取入孔33は、リザーバ21のそれぞれに形成されている。
【0039】
そして、キャビティ基板3の電極基板4の接合面とは反対側の面にリザーバ基板2を接着剤を用いて直接接合し、リザーバ基板2のキャビティ基板3の接合面とは反対側の面にノズル基板1を接着剤を用いて直接接合することによって、液滴吐出ヘッド100が作製される。なお、個別電極42にパルス電圧を供給する駆動制御回路を備えたドライバIC等を実装するとよい。また、電極基板4には、FPCを実装するためのFPC実装部を形成するとよい。さらに、ここで示した凹部45の深さやエアギャップ41の長さ、個別電極42の厚さは一例であり、ここで示す値に限定するものではない。
【0040】
ここで、液滴吐出ヘッド100の動作について説明する。リザーバ基板2のリザーバ21には、インク取入孔33を介して外部から液体が供給されている。また、圧力室31には、供給口22を介してリザーバ21から液体が供給されている。圧力室31内の液体は、ノズル連通穴24を介してノズル孔11の先端まで満たされている。そして、各個別電極42と共通電極端子との間に接続された駆動制御回路によって選択された個別電極42には0[V]〜40[V]程度のパルス電圧が印加され、その個別電極42を正に帯電させる。
【0041】
このとき、対応するキャビティ基板3の振動板32には共通電極端子を介して負の極性を有する電荷が印加され、正に帯電された個別電極42に対応する振動板32を相対的に負に帯電させる。そのため、選択された個別電極42と振動板32との間では静電気力(クーロン力)が発生することになる。そうすると、振動板32は、静電気力によって個別電極42側に引き寄せられて撓み、個別電極42に当接することになる。これによって圧力室31の容積が増大し、リザーバ21の内部に溜まっていた液体が圧力室31に流れ込む。
【0042】
その後、個別電極42への電荷の供給を止めると、振動板32と個別電極42との間の静電気力がなくなり、振動板32はその弾性力により元の状態に復元する。このとき、圧力室31の容積が急激に減少するため、圧力室31内部の圧力が急激に上昇する。これにより、圧力室31内の液体の一部が液滴としてノズル孔11より吐出されることになる。この液滴が、たとえば記録紙等のワークに着弾することによって印刷等が行われるようになっている。その後、液体がリザーバ21から供給口22を通じて圧力室31内に補給され、初期状態に戻る。このような方法は、引き打ちと呼ばれるものであるが、バネ等を用いて液滴を吐出する押し打ちと呼ばれる方法もある。
【0043】
図2は、リザーバ21を説明するための説明図である。図2に基づいて、この実施の形態1の特徴部分であるリザーバ21について詳細に説明する。また、図2(a)が液滴吐出ヘッド100の一部を透視して上から見た状態を示した平面図であり、図2(b)が液滴吐出ヘッド100の概略横断面構成を示した断面図である。なお、図2では、リザーバ基板2に2個のリザーバ21が形成されている場合を例に示している。そして、各リザーバ21は、供給口22を介して、たとえば5個以上の圧力室31と連通している場合を例に示している。なお、リザーバ21の個数及び各リザーバ21に連通させる圧力室31の1単位当たりの個数を特に限定するものではない。
【0044】
リザーバ21は、上述したように、深さの異なる2段構造となっている。このリザーバ21は、段Aに対応する部分(供給口22を含む)をドライエッチングで加工し、段Bに対応する部分をウエットエッチングで加工するようにして形成されている。すなわち、リザーバ基板2となる結晶方位面(100)を有するシリコン基板のキャビティ基板3との接合面のリザーバ21となる部分(開口部内周側の一部)をA段の深さとなるようにドライエッチングし、その後、B段の深さとなるようにウエットエッチングしてリザーバ21を形成しているのである。
【0045】
供給口22は、リザーバ基板2のリザーバ21の開口部の形成面にドライエッチングで形成する所定の深さ(段A)の凹部により構成されている。この凹部は、リザーバ21の開口部内周側の一部を形成する際に同時に形成されるようになっている。つまり、図2(a)に示すように、供給口22は、リザーバ21の開口部外周(圧力室31側)の一部を液体の流路方向に延設するように構成されている。したがって、供給口22は、深さが段Aと同じになっており、リザーバ21に連通するように形成されている。
【0046】
また、リザーバ基板2には、複数のリザーバ21が分割形成されているが、リザーバ21の開口部周辺をドライエッチングで形成しているので、隣接するリザーバ21間に所定の厚みの隔壁を形成できる。したがって、各リザーバ21間で圧力干渉(クロストーク)が発生することがなく、液滴の吐出性能に影響を与えることがない。また、リザーバ21のB段の部分は、ウエットエッチングによって形成され、結晶方位面が(100)のシリコン基板の化学的な性質を利用して形成されている。したがって、図1及び図2(b)に示すように、各リザーバ21のB段の部分の平面形状は、等脚台形のような平面形状となっている。つまり、リザーバ21は、キャビティ基板3との接合面側に拡径した断面形状となっている。
【0047】
さらに、供給口22の深さをリザーバ21の開口部内周側の一部の段Aの深さと同程度にしているので、供給口22をリザーバ21の開口部周辺を形成するプロセスと同一のプロセスで形成することができる。したがって、製造プロセスを低減できるとともに、製造に要するコストを低減することもできる。供給口22は、ドライエッチングで形成するようになっているので、寸法精度の高いものとすることができる。リザーバ基板2の同一面状に全てのパターンを形成することで、供給口22を含めたリザーバ21を形成することができ、各パターン同士のアライメント精度を向上することができるという効果も有している。
【0048】
複数のノズル孔11は、所定のピッチでノズル列を形成している。図2(a)では、1つのノズル列(ノズル列15)が形成されている場合を例に示している。この1列のノズル列15に対して、複数のリザーバ21が分割形成されている。そして、各リザーバ21には、たとえば色の異なるインク等を貯留させることが可能になっている。このように、1つのノズル列15に複数色を配置し、液体の多色化を実現するようにしている。したがって、液滴吐出ヘッド100は、リザーバ21に貯留する配色を種々変更することで、用途に応じた印刷を容易に実現することができる。また、液滴吐出ヘッド100は、1つのノズル列15に複数の色を配置できるので、チップサイズの小型化を実現することができる。
【0049】
上述したように、液滴吐出ヘッド100では、リザーバ21が、圧力室31が形成されるキャビティ基板3とは別のリザーバ基板2に形成されており、容積確保(コンプライアンス確保)及び流路抵抗低減を可能にしている。図2(a)では、ノズル列15を同一面内で略直線上に配置する場合を例に示しているが、ノズル列15を構成するノズル孔11が多少ずれて形成されたことにより、ノズル列15が厳密に直線上に配置されていない場合もノズル列15として含むものとする。
【0050】
なお、液滴吐出ヘッド100は、図2(a)に示すように、複数の個別電極42が長辺及び短辺を有する長方形状に形成されており、この個別電極42が、互いの長辺が平行になるように配置されている。そして、図2(a)では、個別電極42の短辺方向に伸びる2つの電極列を示している。また、個別電極42の短辺が長辺に対して斜めに形成されており、個別電極42が細長い平行四辺形状になっている場合には、長辺方向に直角方向に伸びる電極列を形成するようにすればよい。
【0051】
次に、液滴吐出ヘッド100の製造工程について説明する。
図3及び図4は、リザーバ基板2の製造工程の一例を示す縦断面図である。図3及び図4に基づいて、この実施の形態の特徴事項であるリザーバ基板2の製造工程について説明する。なお、以下に示す基板の厚さやエッチング深さ、温度、圧力等の値はあくまでも一例であり、本発明はこれらの値によって限定されるものではない。なお、実際には、シリコンウエハから複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するのが一般的であるが、図3及び図4ではその一部分だけを簡略化して示している。
【0052】
まず、結晶方位面(100)、厚さ180μmのシリコン基板2’を用意し、このシリコン基板2’に酸化膜61を形成する。一連のフォトリソグラフィー法により、キャビティ基板3と接合する側の面に、ノズル連通穴24になる部分24’、供給口22及びリザーバ21になる部分26をパターニングする。そして、ノズル連通穴24になる部分24’の酸化膜61をエッチングして除去し、供給口22及びリザーバ21になる部分26の酸化膜61をハーフエッチングして所定の膜厚分を残すように除去する(図3(a))。次に、ノズル連通穴24になる部分24’を、たとえばICP(Inductively Coupled Plasma)によって所望の深さとなるまでドライエッチングする(図3(b))。
【0053】
それから、酸化膜61をハーフエッチングして、供給口22及びリザーバ21になる部分26を開口させ、たとえばICPで所望の深さ(A段に相当する深さ)となるまでドライエッチングする(図3(c))。その後、酸化膜61を除去し、再度、酸化膜62を形成する。それから、シリコンマスク等を利用してリザーバ21になる部分21’を開口させるようにレジスト63をパターニングする。その後、レジスト63のパターニングに応じて、リザーバ21になる部分21’の酸化膜62をパターニングする。そして、リザーバ21になる部分21’の酸化膜62をエッチングして除去する(図3(d))。
【0054】
レジスト63を剥離した後、KOH(水酸化カリウム水溶液)で所望の深さ(B段に相当する深さ)となるまでウエットエッチングする(図4(e))。酸化膜62を剥離した後、シリコン基板2’のノズル基板1と接合する側の面(リザーバ21を形成した方の面とは反対側の面)から所望の厚さとなるまで薄板化する(図4(f))。最後に、ドライ酸化でインク保護膜(図示省略)を形成する。以上のように、リザーバ基板2が作製される。その後、電極基板4とキャビティ基板3とを陽極接合した接合基板のキャビティ基板3にリザーバ基板2を、このリザーバ基板2にノズル基板1をエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合することにより液滴吐出ヘッド100が作製される。
【0055】
したがって、供給口22をリザーバ21の開口部周辺を形成するプロセスと同一のプロセスで形成することができ、製造プロセスを低減できるとともに、製造に要するコストを低減することもできる。供給口22は、ドライエッチングで形成するようになっているので、寸法精度の高いものとすることができる。また、リザーバ基板2の同一面状に全てのパターンを形成することで、供給口22を含めたリザーバ21を形成することができ、各パターン同士のアライメント精度を向上することができるという効果も有している。
【0056】
液滴吐出ヘッド100は、リザーバ21の開口部周辺をドライエッチングで形成しているので、1列のノズル列15内に対して隣接するリザーバ21間に所定の厚みの隔壁を形成でき、各リザーバ21間で圧力干渉が発生することがない。また、隣接するリザーバ21間の隔壁を垂直に加工できるため、ノズル密度を高密度としても、リザーバ21の分割が可能となる。さらに、リザーバ21の端での狭形状を回避できるため、リザーバ21の端のノズル孔11にインク充填が確実に可能となる。
【0057】
リザーバ基板2に形成するリザーバ21は、エッチング量が多いため、ドライエッチングする部分(A段)及び、ウエットエッチングする部分(B段)の2段構造とすることにより、バッチ処理により作製可能なため製造に要するコストを低減することができる。また、リザーバ21を作製する際のウエットエッチング工程において、リザーバ21の上底(ノズル基板1側の底面)の形状がV字構造となるため、リザーバ21の淀み点が発生しなくなり、インク充填の再にリザーバ21内の気泡排出を確実に行なうことでき、良好な印字品質を得ることができる。
【0058】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド100aが組み立てられた状態の縦断面構成を示す断面図である。図5に基づいて、液滴吐出ヘッド100aの構成について説明する。この液滴吐出ヘッド100aは、静電駆動方式の静電アクチュエータの代表として、ノズル基板1の表面側に設けられたノズル孔11からインク等の液体を液滴として吐出するフェイスイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドを表している。なお、この実施の形態2では上述した実施の形態1との相違点を中心に説明するものとし、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
【0059】
図5に示すように、この液滴吐出ヘッド100aは、ノズル基板1と、各ノズル孔11から吐出する液滴を貯留するリザーバ(共通液体室)21aが設けられたリザーバ基板2aと、リザーバ21aに連通し、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路(供給口22a及び圧力室(キャビティ)31a)が設けられたキャビティ基板3aと、キャビティ基板3aの圧力室31aの底壁を形成する振動板32に対向して個別電極42が配設された電極基板4とが順に積層されて構成されている。
【0060】
つまり、液滴吐出ヘッド100aは、リザーバ基板2aの一方の面にはノズル基板1が、リザーバ基板2aの他方の面にはキャビティ基板3aが接合されており、キャビティ基板3aのリザーバ基板2aが接合された面の反対面には、電極基板4が接合されて構成されている。なお、この実施の形態2では、液滴吐出ヘッド100aが4層構造となっている場合を一例として説明するが、これに限定するものではない。以下に詳述するが、本発明は、リザーバ21aと、圧力室31aとが、それぞれ異なる基板に形成されていれば実施することができる。また、ノズル基板1を上面、電極基板4を下面としている場合を図示しているが、実際に用いられる場合には、ノズル基板1の方が電極基板4よりも下面となることが多い。
【0061】
この実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド100aは、リザーバ基板2a及びキャビティ基板3aが、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100のリザーバ基板2及びキャビティ基板3と相違している。すなわち、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100では、供給口22をリザーバ基板2に形成し、リザーバ21と圧力室31とを連通するようにしていたが、実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド100aでは、供給口22aをキャビティ基板3aに形成し、リザーバ21aと圧力室31aとを連通するようにしている。以下、リザーバ基板2a及びキャビティ基板3aについて説明する。
【0062】
[リザーバ基板2a]
リザーバ基板2aは、たとえば厚さ180μmで結晶方位面(100)を有するシリコン基板を主要な材料として構成されている。このリザーバ基板2aには、リザーバ基板2と同様にノズル連通穴24が複数形成されている。また、リザーバ基板2aには、各圧力室31aに液体を供給するための複数のリザーバ21aが分割形成されている。リザーバ21aのそれぞれは、所定個数の圧力室31aに共通している。このリザーバ21aは、実施の形態1のリザーバ21と同様に、深さの異なる2段構造(段A、段B)となっている。
【0063】
ただし、リザーバ基板2aには、リザーバ基板2のような供給口22が形成されていない。すなわち、リザーバ21aは、キャビティ基板3aに形成する各供給口22aを介して各圧力室31a、各ノズル連通穴24及び各ノズル孔11と連通するようになっている。また、各リザーバ21aは、キャビティ基板3aに形成するインク取入孔33aと連通するようになっている。なお、リザーバ21aの形状については、図6で詳細に説明するものとする。
【0064】
[キャビティ基板3a]
キャビティ基板3aは、たとえば厚さ約50μmで結晶方位面(110)を有するシリコン基板を主要な材料として構成されている。このシリコン基板にドライエッチングまたは異方性ウエットエッチングのいずれかあるいは双方を行い、底壁が可撓性を有する振動板32となる圧力室(液体圧力室や吐出室、キャビティ等とも称される)31aが複数形成されている。この圧力室31aは、個別電極42の電極列に対応して形成されており、液体が保持されて吐出圧が加えられるようになっている。また、圧力室31aは、紙面手前側から奥側にかけて平行に並んで形成されているものとする。
【0065】
また、キャビティ基板3aには、圧力室31aの形成面と同一面に、圧力室31aの流路幅(圧力室31aの短手方向の幅)よりも狭い流路幅であって、圧力室31aとリザーバ21aとを連通させる供給口22aが形成されている。すなわち、供給口22aは、圧力室31aの長手方向を、この圧力室31aの幅よりも狭くして延設することによって形成されている。この供給口22aの端部(圧力室31aとは反対側の端部)は、リザーバ21aのB段の部分にまで延設されている。また、この供給口22は、圧力室31aの個数と同数形成されている。
【0066】
したがって、各リザーバ21aと所定個数を1単位とした圧力室31aとは、圧力室31aのそれぞれに連通し、延設されている供給口22aを介して連通するようになっている。また、各圧力室31aは、リザーバ基板2aのノズル連通穴24それぞれに独立して連通するように形成されている。以上のように、この実施の形態2では、供給口22aをキャビティ基板3a側に形成することで、リザーバ21aと圧力室31aとの連通を図るようにしている。なお、キャビティ基板3aには、キャビティ基板3と同様に、インク取入孔33a、絶縁膜及び共通電極端子が形成されているものとする。また、その他の構成及び動作については実施の形態1と同様である。
【0067】
図6は、リザーバ21a及び供給口22aを説明するための説明図である。図6に基づいて、この実施の形態2の特徴部分であるリザーバ21a及び供給口22aについて詳細に説明する。また、図6(a)が液滴吐出ヘッド100aの一部を透視して上から見た状態を示した平面図であり、図6(b)が液滴吐出ヘッド100aの概略横断面構成を示した断面図である。なお、図6では、リザーバ基板2aに2個のリザーバ21aが形成されている場合を例に示している。そして、各リザーバ21aは、供給口22aを介して、たとえば5個以上の圧力室31aと連通している場合を例に示している。なお、リザーバ21aの個数及び各リザーバ21aに連通させる圧力室31aの1単位当たりの個数を特に限定するものではない。
【0068】
リザーバ21aは、上述したように、深さの異なる2段構造となっている。このリザーバ21aは、段Aに対応する部分をドライエッチングで加工し、段Bに対応する部分をウエットエッチングで加工するようにして形成されている。すなわち、リザーバ基板2aとなる結晶方位面(100)を有するシリコン基板のキャビティ基板3aとの接合面のリザーバ21aとなる部分(開口部内周側の一部)をA段の深さとなるようにドライエッチングし、その後、B段の深さとなるようにウエットエッチングしてリザーバ21aを形成しているのである。
【0069】
供給口22aは、キャビティ基板3aの圧力室31aの形成面に形成する所定の深さの凹部により構成されている。この凹部は、キャビティ基板3aの圧力室31aを形成する際に同時に形成されるようになっている。つまり、図6(a)に示すように、供給口22aは、圧力室31aの端部(リザーバ21a側の端部)をリザーバ21aの方向(圧力室31aの長手方向)に延設するように構成されている。したがって、供給口22aは、深さが圧力室31aと同じになっており、リザーバ21aに連通するように形成されている。
【0070】
また、リザーバ基板2aには、複数のリザーバ21aが分割形成されているが、リザーバ21aの開口部周辺をドライエッチングで形成しているので、隣接するリザーバ21a間に所定の厚みの隔壁を形成できる。したがって、各リザーバ21a間で圧力干渉が発生することがなく、液滴の吐出性能に影響を与えることがない。また、リザーバ21aのB段の部分は、ウエットエッチングによって形成され、結晶方位面が(100)のシリコン基板の化学的な性質を利用して形成されている。したがって、図5及び図6(b)に示すように、各リザーバ21aのB段の部分の平面形状は、等脚台形のような平面形状となっている。つまり、リザーバ21aは、キャビティ基板3aとの接合面側に拡径した断面形状となっている。
【0071】
さらに、供給口22aを圧力室31aの長手方向を延設することで形成しているので、供給口22aをキャビティ基板3aの圧力室31aを形成するプロセスと同一のプロセスで形成することができる。したがって、製造プロセスを低減できるとともに、製造に要するコストを低減することもできる。キャビティ基板3aの同一面状に全てのパターンを形成することで、供給口22aを含めた圧力室31aを形成することができ、各パターン同士のアライメント精度を向上することができるという効果も有している。なお、液滴吐出ヘッド100aは、液滴吐出ヘッド100の有する効果も同様に有している。
【0072】
実施の形態3.
図7は、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100を搭載した液滴吐出装置150の一例を示した斜視図である。また、図8は、液滴吐出装置150の主要な構成手段の一例を表す図である。図7及び図8に基づいて、実施の形態3に係る液滴吐出装置150について説明する。この液滴吐出装置150は、液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする、いわゆる一般的なシリアル型のインクジェットプリンタである。搭載される液滴吐出ヘッド100は、上述したように小型化及び低コスト化を実現したものであるので、液滴吐出装置150も小型化及び低コスト化に優れたものとなる。
【0073】
液滴吐出装置150は、被印刷物であるプリント紙210が支持されるドラム201と、プリント紙210にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド100とで主に構成される。また、液滴吐出ヘッド100にインクを供給するための図示省略のインク供給手段がある。プリント紙210は、ドラム201の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ203により、ドラム201に圧着して保持されるようになっている。このドラム201の軸方向に平行に設けられている送りネジ204によって液滴吐出ヘッド100が保持されるようになっている。
【0074】
そして、この送りネジ204が回転することによって液滴吐出ヘッド100がドラム201の軸方向に移動する。一方、ドラム201は、ベルト205等を介してモータ206により回転駆動されるようになっている。また、プリント制御手段207は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ204及びモータ206を駆動させるようになっている。さらに、プリント制御手段207は、図示省略の発振駆動回路を駆動させて振動板32を制御しながらプリント紙210に印刷を行わせるようになっている。
【0075】
ここでは、液体をインクとしてプリント紙210に吐出するようにしている場合を例に説明したが、これに限定するものではなく、インク以外の液体を吐出する工業用途での液体吐出装置にも応用が可能である。たとえば、カラーフィルタとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルタ用の顔料を含む液体であってもよい。また、有機化合物等の電界発光素子を用いた表示パネル(OLED等)の基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体であってもよい。さらに、基板上に配線する用途においては、導電性金属を含む液体であってもよい。
【0076】
一方、液滴吐出ヘッド100をディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids:デオキシリボ核酸)や、RNA(Ribo Nucleic Acid:リボ核酸)、PNA(Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸)等のタンパク質プローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。また、液滴受容物としては、プリント紙210等の記録用紙の他、フィルムや織布、不織物等の他のメディア、ガラス基板、シリコン基板等の各種基板のようなワークであってもよい。
【0077】
本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び液滴吐出ヘッドの製造方法は、上述の実施の形態で説明した内容に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において変更することができる。実施の形態3では、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド100を搭載した場合を例に説明したが、実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド100aを搭載しても同様の効果を得ることができる。また、液滴吐出ヘッド100及び液滴吐出ヘッド100aの構成基板の積層数を3層や4層に限定するものではない。さらに、液滴吐出ヘッド100の製造工程においても、上述した製造工程に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドが組み立てられた状態の縦断面構成を示す縦断面図である。
【図2】リザーバを説明するための説明図である。
【図3】リザーバ基板の製造工程の一例を示す縦断面図である。
【図4】リザーバ基板の製造工程の一例を示す縦断面図である。
【図5】実施の形態2に係る液滴吐出ヘッドが組み立てられた状態の縦断面構成を示す断面図である。
【図6】リザーバ及び供給口を説明するための説明図である。
【図7】液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一例を示した斜視図である。
【図8】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 ノズル基板、2’ シリコン基板、2 リザーバ基板、2a リザーバ基板、 3 キャビティ基板、3a キャビティ基板、4 電極基板、11 ノズル孔、15 ノズル列、21 リザーバ、21’ リザーバになる部分、21a リザーバ、22 供給口、22a 供給口、24 ノズル連通穴、24’ ノズル連通穴になる部分、26 供給口及びリザーバになる部分、31 圧力室、31a 圧力室、32 振動板、33 インク取入孔、33a インク取入孔、33b インク取入孔、41 エアギャップ、42 個別電極、43 封止部、45 凹部、61 酸化膜、62 酸化膜、63 レジスト、100 液滴吐出ヘッド、100a 液滴吐出ヘッド、150 液滴吐出装置、201 ドラム、203 紙圧着ローラ、204 ネジ、205 ベルト、206 モータ、207 プリント制御手段、210 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、
前記ノズル孔のそれぞれに連通し、底壁が振動板となる複数の圧力室が形成されたキャビティ基板と、
前記複数の圧力室の所定個数毎に液体を供給する開口形成された複数のリザーバ、前記圧力室と前記ノズル孔とを連通させるノズル連通穴、及び、前記リザーバの開口部外周の一部を前記圧力室方向に延設させて前記リザーバと前記圧力室とを連通させる供給口が形成されたリザーバ基板と、
前記振動板を駆動する個別電極が凹部内に形成された電極基板と、を備え、
前記供給口は、
前記リザーバ基板の前記開口部の形成面に所定の深さの凹部により構成されている
ことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記リザーバの前記開口部内周側の一部を前記供給口を構成する前記凹部の深さと同じとした
ことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記供給口及び前記リザーバの前記開口部内周側の一部をドライエッチングで加工した ことを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記リザーバ基板には結晶方位面が(100)のシリコン基板を用いた
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記リザーバの前記開口部内周側の一部以外の部分をウエットエッチングで加工した
ことを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、
前記ノズル孔のそれぞれに連通し、底壁が振動板となる複数の圧力室、及び、前記圧力室の一端を長手方向に延設させた供給口が形成されたキャビティ基板と、
前記複数の圧力室の所定個数毎に液体を供給する開口形成された複数のリザーバ、及び、前記圧力室と前記ノズル孔とを連通させるノズル連通穴が形成されたリザーバ基板と、
前記振動板を駆動する個別電極が凹部内に形成された電極基板と、を備え、
前記圧力室と前記リザーバとは、前記供給口を介して連通しており、
前記供給口は、
前記キャビティ基板の前記圧力室の形成面に所定の深さの凹部により構成されている
ことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記供給口の流路幅を前記圧力室の流路幅よりも狭くした
ことを特徴とする請求項6に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを搭載した
ことを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−285931(P2009−285931A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139482(P2008−139482)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】