説明

液滴吐出装置および方法

【課題】往復移動するプランジャー用いた液滴吐出装置において、微量かつ高精度に吐出する。
【解決手段】吐出口11を構成する吐出路12と、プランジャー30と、プランジャーが挿通される液室50と、プランジャーを進退動させるプランジャー駆動機構と、プランジャーの先端部の位置を規定するプランジャー位置決定機構とを備え、プランジャーの先端部31と液室の壁面53が非接触の状態でプランジャーを前進移動することで液材に慣性力を与えて液滴の状態に吐出する液滴吐出装置において、プランジャーを前進移動させることにより所望の液滴を形成するのに必要となる量の液材を吐出口から押し出し、続いてプランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断して微量の液滴を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、溶剤、試薬等の低粘性材料から、半田ペースト、銀ペースト、接着剤等の高粘性材料にいたる液体材料を、そのフィラーの含有に関わらず、微量に精度よく吐出する液滴吐出装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
往復移動するプランジャーを用いて少量の液体材料を吐出口から吐出させる液滴吐出装置としては、これまで種々の技術が提案されている。
プランジャーの先端を弁座に当てて吐出するタイプの液滴吐出装置としては、例えば、特許文献1に、液材をノズルから離間した後にワークに着弾させる液滴吐出装置として、ノズルにつながる出口付近に弁座を有する流路内に、プランジャーの側面が非接触に配設され、プランジャーの先端が弁座に向けて移動し弁座に当接することにより、ノズルから液材を液滴の状態で吐出させる装置が開示される。
【0003】
しかしながら、プランジャーを弁座に当接させると、プランジャーが磨耗して形状変化が生じるという問題や、摩耗粉や摩耗片を生じ液材を汚染したりプランジャーと弁座との間に挟まって良好な吐出を妨げたりするという問題があった。
そこで、出願人は、プランジャーの先端を弁座に当てないで吐出する液滴吐出装置として、プランジャーを進出移動および進出停止することで液材に慣性力を与えて液滴の状態に吐出する液滴吐出装置であって、進出停止時のプランジャーの先端部の位置を、その進出方向にある液室の内壁近傍に規定するプランジャー位置決定機構を備える液滴吐出装置を提案した(特許文献2)。
【0004】
また、特許文献3には、駆動装置によりロッド端面を室内部で極めて小さいストロークで且つ高い加速度及び大きい力で前後に変位させることにより形成される圧力波を室中の材料内を伝播させることにより、ノズル開口から材料を吐出させる流体の滴を配置する装置が開示される。
【0005】
ところで、近年、電子機器類の小型化・軽量化が図られる中、それに搭載される電子部品の小型化・軽量化が進んでいる。例えば、実装面積を大幅に削減できる「0402部品」と呼ばれる実装寸法400μm×200μmの部品が、2005年前後から搭載されるようになっている。0402部品は、現状はメタル版によるはんだ印刷で実装をおこなっているが、大型部品との混在においてはハーフエッチングなどの工夫が必要になるという課題がある。また、塗布量(塗布厚)の個別コントロールが求められるという課題もあった。このため、印刷による実装は、歩留まりが悪かった。さらには、印刷性を確保するために、部品配置に制約がでてくる場合もあった。
【0006】
往復移動するプランジャーを用いた液滴吐出装置においては、プランジャーの作動により液材を制御できるので、これらの課題は生じない。しかし、この種の装置において、プランジャーを弁座に当接させずに、小型部品で必要とされる半田ペースト等の液体を微量(例えば、着弾径が数十〜数百μm)かつ高精度に滴状吐出することはこれまで実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第98/10251号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/108097号パンフレット
【特許文献3】国際公開第98/16323号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、往復移動するプランジャーを用いた液滴吐出装置において、プランジャーを液室内壁(弁座)に当接させずに、微量の液滴を高精度に吐出することを課題とする。
【0009】
また、同一の液滴吐出装置で、低粘度から高粘度にわたる様々な液体を吐出することも本発明が解決すべき課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、先端が吐出口を構成する吐出路と、プランジャーと、プランジャーが挿通される液室と、プランジャーを進退動させるプランジャー駆動機構と、プランジャーの先端部の位置を規定するプランジャー位置決定機構とを備え、プランジャーの先端部と液室の内壁が非接触の状態でプランジャーを前進移動することで液材に慣性力を与えて液滴の状態に吐出する液滴吐出装置において、プランジャーを前進移動させることにより所望の液滴を形成するのに必要となる量の液材を吐出口から押し出し、続いてプランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断して微量の液滴を形成することを特徴とする液滴吐出装置である。
第2の発明は、第1の発明において、吐出路が、先端が吐出口を構成する第1流路と、第1流路および液室と連通し、第1流路よりも大径の第2流路からなることを特徴とする。
第3の発明は、第2の発明において、プランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断した後、さらにプランジャーを後退移動させて吐出路の第1流路内または第2流路内に気液界面を形成し、プランジャーの移動を停止させることを特徴とする。
第4の発明は、第1の発明において、プランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断した後、さらにプランジャーを後退移動させて吐出路内に気液界面を形成し、プランジャーの移動を停止させることを特徴とする。
第5の発明は、第3または4の発明において、吐出路内に気液界面を形成し、移動を停止した際のプラジャーの位置から、プランジャーを前進移動させることにより所望の液滴を形成するのに必要となる量の液材を吐出口から押し出し、続いてプランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断して微量の液滴を連続形成することを特徴とする。
第6の発明は、第1ないし5のいずれかの発明において、吐出口の内径が、数十μm以下であることを特徴とする。
【0011】
第7の発明は、先端が吐出口を構成する吐出路と、プランジャーと、プランジャーが挿通される液室と、プランジャーを進退動させるプランジャー駆動機構と、プランジャーの先端部の位置を規定するプランジャー位置決定機構とを備える液滴吐出装置を用いて、プランジャーの先端部と液室の内壁が非接触の状態でプランジャーを前進移動することで液材に慣性力を与えて液滴の状態に吐出する液滴吐出方法において、
プランジャーを前進移動させることにより所望の液滴を形成するのに必要となる量の液材を吐出口から押し出す押出工程、プランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断して微量の液滴を形成する分断工程を有することを特徴とする液滴吐出方法である。
第8の発明は、第7の発明において、分断工程の後、さらにプランジャーを後退移動させて吐出路内に気液界面を形成し、プランジャーの移動を停止させる吸入工程を有することを特徴とする。
第9の発明は、第7または8の発明において、液材が固形物を含有する液材であり、押出工程におけるプランジャーの先端部と液室の内壁の距離を固形物よりも大きく設定したことを特徴とする。
第10の発明は、第7ないし9のいずれかの発明において、吐出口の内径が、数十μm以下であることを特徴とする。
第11の発明は、第7ないし10のいずれかの発明において、液材が粘度10000mPa・s以上であることを特徴とする。
第12の発明は、第7ないし11のいずれかの発明において、押出工程におけるプランジャーの前進移動距離が、同工程直後のプランジャーの先端部と液室の内壁の距離よりも大きいことを特徴とする。ここで、押出工程におけるプランジャーの前進移動距離は、同工程直後のプランジャーの先端部と液室の内壁の距離の3倍以上とすることが好ましく、6倍以上とすることがより好ましく、10倍以上とすることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来、プランジャー(弁体)を液室内壁(弁座)に当接させずに吐出することができなかった微量の液滴を高精度に吐出することが可能となる。
また、弁体と弁座が接触するようなこともないから、擦れ片やパーティクルの発生がなく、これらが材料中に混入する心配もなく、コンタミレスな微量吐出を行うことが可能となる。
また、液材がフィラー等の固形物を含有する場合であっても、固形物の潰れや破損による吐出精度の低下を防ぎ、液材の機能、性質を損なうことなく吐出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プランジャーの位置と液材の状態の関係を説明するための、液滴吐出装置の要部の側面断面図。(a)は第1の段階、(b)は第2の段階、(c)は第3の段階、(d)は第4の段階、(e)は第5の段階、(f)は第6の段階、(g)は第7の段階、(h)は第8の段階を示す。
【図2】プランジャーおよび吐出路の形状の変形構成例。(a)は第1の構成例、(b)は第2の構成例、(c)は第3の構成例、(d)は第4の構成例、(e)は第5の構成例、(f)は第6の構成例、(g)は第7の構成例、(h)は第8の構成例を示す。
【図3】プランジャー位置決定機構を備える液滴吐出装置の側面断面図。(a)は移動部材を進出させた状態、(b)は移動部材を後退させた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、液室と連通する挿通孔に挿通され、先端が液室内の内壁に非接触で進退移動するプランジャーの進退移動により、プランジャーの進出方向に形成された吐出路の先端の吐出口から液材を吐出する技術に関する。本発明の技術を使うと、低粘性から高粘性にわたる液体材料を、そのフィラーの含有に関わらず、微量に精度よく、吐出口より液滴の状態で吐出することができる。
本発明によれば、水、溶剤、試薬等の低粘性材料から、半田ペースト、銀ペースト、接着剤等の高粘性材料にいたる液体材料を、微量吐出することができる。本発明は、クリーム半田のようなインクジェットでの吐出に適さない高粘度の液体にも適用できる点に特徴を有する。ここで、高粘度の液体とは、例えば、粘度10000〜500000mPa・sの液体をいう。特に、粘度20000mPa・s〜500000mPa・sの液体、さらにいえば粘度30000mPa・s〜500000mPa・sの液体を、プランジャー(弁体)を液室内壁(弁座)に当接させずに、滴状に微量吐出することは、従来、工業レベルでは実現されていなかった。
本発明における微量吐出とは、例えば、着弾径が数十〜数百μmの液滴、或いは、体積が1nl以下(好ましくは、0.1〜0.5nl以下)の液滴の吐出のことをいう。本発明は数十μm以下(好ましくは30μm以下)の吐出口径でも、液滴を形成できる点に特徴を有する。
【0015】
以下では、図1に基づき本発明を実施するための形態の一例を説明する。
図1は、液滴吐出装置(ディスペンサ)の要部断面図である。まず、液滴吐出装置の要部(吐出部)の構造について説明する。
図1に図示された吐出部は、プランジャー30と、液室50と、挿通孔51と、液送路52と、吐出路12とを備える。
液室50は、プランジャーの先端部31が位置する液材が満たされた空間である。図1に図示された液室50は、上面、側面および底面を有し円筒形状に構成されている。
液室50の上面には挿通孔51が設けられている。挿通孔51にはプランジャー30が挿通されており、プランジャー30の先端が液室50内に位置する。液室50の幅(径)は、プランジャー30の幅(径)よりも広く、プランジャー30の外周と液室50の側面は常に非接触の状態にある。プランジャー30は、図示されないプランジャー駆動機構に接続されており、吐出路12に対し近づくようにまたは遠ざかるように直進運動する。図1では、先端部31の形状を平面としているがこれに限定されず、例えば、球状としたり、凹状としたり、先細り形状としたり、吐出路12と対向する位置に突起を設けたりしてもよい。図2(a)〜(g)に、プランジャーの先端部31の形状例を示す。
液室50の側面には液送路52が設けられている。液室50には、この液送路52を介して、図示されない液材貯留容器等の液材供給部から液材が供給される。
【0016】
液室50の底面には外部と連通する吐出路12が設けられている。プランジャーの進出移動により、液材は、吐出路12先端の吐出口11から、外部に吐出される。吐出口11の内径は、例えば、10〜100μmである。吐出路12の形状は円柱状に限定されず、先細りとなるようテーパーを設けた形状としてもよい(図2(e)(g)参照)。また、吐出口を有する第1流路21と第1流路よりも大径の第2流路22から構成してもよく(図2(f)参照)、この際、第2流路22を円錐台形状に形成したりしてもよい(図2(a)〜(d)参照)。吐出路の吐出口側と比べ液室側を大径とした場合には、吐出路に流入した液材が加速されるという効果が奏される。
吐出路の長さが長すぎる場合、液滴の分断が良好に行われないことがあり、特に高粘度の液材においてこの問題が生じやすい。このため、吐出路12は液室内の壁面53に孔を設けたオリフィスにより形成することが好ましい。吐出路の長さは、例えば100μm〜1000μmとする。また、液室内の壁面53にプランジャー30より大径のくぼみを設け、プランジャーの先端部31と対向する面を、より吐出口に近い位置に形成させてもよい。このとき、プランジャーの先端部31と対向するくぼみ内の面から吐出口11までが吐出路12となる(図2(f)参照)。また、壁面53を、吐出路12が位置する中央部分が肉薄となる曲面としてもよい(図2(g)参照)。
【0017】
プランジャー駆動機構としては、モータ、ピエゾ素子、スプリング等の弾性体、エア圧等を利用したアクチュエータが例示される。プランジャー駆動機構は、用途に応じて適宜の手段を採用できるが、低粘度から高粘度にわたる様々な液体を吐出したい場合には、プランジャーのストロークを一定範囲で調整可能な手段(ピエゾ素子以外の駆動手段)を用いることが好ましい。微量吐出を行う際のプランジャーのストロークは、例えば5〜1000μmであるが、高粘度の液体を吐出する際はストロークを長くすることが好ましく、例えば、50〜1000μmとする。
【0018】
最進出位置におけるプランジャーの先端部の位置は、プランジャー位置決定機構により規定される。プランジャーの進出方向にある液材に十分な慣性力を与えるためには、プランジャーの端面およびプランジャーの先端部31と対向する液室の壁面53の距離は、十分に狭く設定することが好ましい。吐出路(ノズル)の内径が小さくなるにつれ、プランジャーが液材に与える力を大きくする必要があるので、これに伴いプランジャーの端面と液室の壁面の距離(クリアランス)も小さくする必要がある。
例えば、高粘度の液体で着弾径300μm以下の液滴を形成するためには、クリアランスは、1〜50μmの範囲で設定することが好ましく、1〜30μmの範囲で設定することがより好ましい。但し、液材にフィラー等の固形物が含有される場合には、クリアランスが固形物よりも大きくなるように最進出位置を設定する。例えば、液材が平均粒径10μmの粒子を有するクリーム半田の場合、クリアランスは10μmよりも大きなものとする必要がある(好ましくはクリアランスを固形物の大きさ(粒径)の1.5倍以上とする。)。半田の粒子が潰され、吐出路の流入口近傍に積層されることにより、吐出精度が著しく低下するという問題が生じるからである。
【0019】
プランジャー位置決定機構は、最後退位置におけるプランジャーの先端部の位置も規定する。低粘度の液材を吐出する場合、プランジャーをある程度の速度で移動させれば液滴を形成するのに必要な慣性力を与えることができるが、高粘度の液材を吐出する場合、プランジャーをより高速に移動させるためにストロークをより長く設定する必要があるからである。一般に、粘度の高い液体(例えば、粘度10000mPa・s以上の液体)を微量吐出する際には、ストロークはクリアランスと比べ十分に大きく設定する必要がある。プランジャーのストロークは、その最進出位置におけるクリアランスの3倍以上とすることが好ましく、6倍以上とすることがより好ましく、10倍以上とすることがさらに好ましい。
【0020】
図3を参照しながらプランジャー位置決定機構の一例を説明する。ここで説明するプランジャー位置決定機構は、特許文献2に開示されるものである。
プランジャーの最進出位置の決定は、次の手順で行う。
まず、電磁切換弁72を、前方ピストン室43と外部が連通する状態に切換え、移動部材40を回転して、移動部材40が最前方に移動した状態とする。前方ピストン室43が外部に開放されているので、コイルバネ45の作用によりピストン33は本体71に対して前方に移動し、前方当接部32が前方ストッパー41に当接して停止する。続いて、マイクロメータ69を回転して後方ストッパー42を前進させ、後方当接部34に接触させることで、プランジャー30と本体71を固定する。
本体71を前方に移動し、後方ストッパー42と後方当接部34が接触する状態で固定する。プランジャー30の先端部31が液室50の内壁に接触する接触位置13で固定する。移動部材40を回転して、移動部材40のみを後方に移動して最進出位置を規定し、駆動ユニット70をベース部材73に固定する。
以上の作業により、プランジャー30の進出時停止位置を、プランジャー30の先端部31が液室50に接触しない所望の位置に調整することが可能である。
【0021】
プランジャーの最後退位置の決定は、次の手順で行う。
マイクロメータ46を回転して、後方ストッパー42を後退させて、吐出時のプランジャー30の後退時移動量を決定する。プランジャー30の後退時移動量が決定したら、マイクロメータ46が回転しないように、図示されない固定ネジでなどの回転ロック部材にてマイクロメータ46を固定する。以上の作業により、プランジャー30の最後退位置の設定作業が完了する。
【0022】
本発明の液滴吐出装置は、代表的には、ワークと吐出口を相対移動させながら、液材を吐出する態様で使用される。液滴吐出装置は、XYZ駆動機構に取りつけられ、ワークを載置したワークテーブルと相対移動される。本発明は、液体が液滴となって吐出口から分離され、ワークに着弾するので、吐出口を一定の高さに保持して水平移動することが可能である。
1つの作業位置に1つの滴が吐出される場合もあれば、複数の滴を同じ場所に吐出することにより、所望量を確保する場合もある。1ショット当たりの吐出量を増やすと着弾径が広がるため、着弾径を広げたくない場合には、数ショットで所望量を確保することが好ましい。本発明の液滴吐出装置は、微量の液体を高速で連続的に吐出することができ、例えば、毎秒100ショット以上の高速タクトで作動させることが可能である。
【0023】
次に、プランジャーの位置と液材の状態の関係を説明する。
図1(a)は、吐出動作開始時の初期状態を示す。この初期状態において、プランジャー30の先端部31は、一連の吐出動作の中で、吐出路12に対し最も遠くに位置する作動開始位置にある。また、液室50およびおよび吐出路12は液材で満たされた状態にある。この際、吐出路12の吐出口11側は、微量の外気(空気)を吸い込んだ状態であってもよい。
【0024】
図1(b)は、図1(a)のプランジャーの作動開始位置からプランジャーを前進移動させて、吐出路12内の液材を吐出口(吐出路12の吐出口側端面)まで到達させた状態を示す。
このとき、プランジャー30の前進移動により、液室50内の液材は、吐出路12内に送り込まれて、吐出路12内の液材が吐出路12先端の吐出口11に至る。これにより、吐出路12内に存在していた外気(空気)は外に吐き出される。
【0025】
図1(c)は、図1(b)のプランジャーの位置から、さらにプランジャーを前進移動させた状態を示す。この状態では、吐出口に到達した液材は、吐出口の外方へ分断さられることなく押し出される。
【0026】
図1(d)は、図1(c)のプランジャーの位置から、さらにプランジャーを前進移動させた後、プランジャーの前進移動を停止させた状態を示す。
このとき、液材は、液室50から最先端までの間で分断されることなく、吐出路12の先端である吐出口11からさらに外方へ押し出される。
なお、ここまでのプランジャー30の前進移動は勢いよく行い、プランジャー30の停止は急峻に停止させることが好ましい。
【0027】
この状態において、プランジャー30の先端部31は、一連の吐出動作の中で、吐出路12に対し最も近くに位置する最進出位置にある。プランジャー30が最進出位置に移動することで、所望の大きさの滴を形成するのに必要な量の液材が、吐出口11の外方へ押し出される。最進出位置は、液材の種類や形成する滴の大きさにより異なるものとなるが、いかなる場合でもプランジャー30の先端部31が液室内面に接触することはない。
【0028】
図1(e)は、図1(d)のプランジャーの位置(最進出位置)から、プランジャーを僅かに後退移動させた状態を示す。
プランジャー30が後退移動すると、液室50内を占めるプランジャーの容積の割合が減少し、吐出路12内の液材には、液室50内に向かう方向へ力が作用する。これに伴い、吐出口11の外方に存在する液材(吐出路12内の液材とつながる押し出された液材)にも、吐出路12内へ引き戻す力が作用する。このため、吐出口から押し出された液材には、プランジャーの前進方向への慣性力が働くと共に、プランジャーの後退方向への力が作用し、滴を形成しはじめる。すなわち、吐出路12内の液材とつながる吐出口11から押し出された液材は、吐出口近傍の部分で切断作用を受ける。
【0029】
図1(f)は、図1(e)のプランジャーの位置から、プランジャーをさらに後退移動させた状態を示す。
プランジャー30をさらに後退移動すると、吐出口11から押し出された液材に対する切断作用がさらに強まる。これにより、吐出路12から連続する吐出口11から押し出された液材は、吐出口近傍の部分で分断され、液滴を形成する。
図1(f)では、吐出路12から連続する側の液材の分断位置付近と、分断された側の液材の分断位置付近のいずれもが、細い糸状に描写されている。一般に、高粘性材料ではこのような糸状になることが多いが、材料の特性や温度や湿度などの環境条件などにも依存するものであり、高粘性材料であるからといって必ずこのような糸状の態様を示すわけではない。
【0030】
図1(g)は、図1(f)のプランジャーの位置から、プランジャーをさらに後退移動させた状態を示す。吐出口11から押し出された液材のうち、吐出路12側に残った液材は、プランジャー30の後退移動により、吐出路12内へ吸入される。
【0031】
次の吐出に備え、好ましくは、 吐出路12の吐出口11側は、微量の外気(空気)を吸い込んだ状態とする。すなわち、吐出路12内に気液界面が存在する状態とすることが好ましい。こうすることで、液材の乾燥を防止することができ、また、吐出作業待機時に周辺環境を液だれにより汚染することを防ぐことができる。ここで、留意すべきは、吐出路12を越えて、液室50にまで外気(空気)を吸い込まないようにすることである。液室50にまで外気(空気)を吸い込むと吐出精度に悪影響を与えるからである。
また、吐出路12が第1流路21と第2流路22を有してなる場合において、第1流路21と第2流路22との境界が段を構成しない場合は、気液界面が第1流路21、第2流路22またはこれらの境界のいずれに存在してもよい(例えば、図2(a)(b)のような流路形状の場合)。また、図2(f)に示すように、第1流路21と第2流路22の境界が段を構成する場合であっても、気泡を形成することがなければ、第2流路22まで外気(空気)を吸い込むことができる。なお、円柱形状の第1流路21と円柱形状の第2流路22の境界をテーパーで滑らかにつないで構成してもよい。
【0032】
図1(h)は、図1(g)のプランジャーの位置から、プランジャーをさらに後退移動させ、作動終了位置とした状態を示す。図1(a)〜(h)が1つの滴を形成するための一連の動作である。1回の吐出を終わった際のプランジャーの位置は、最進出位置よりも後退した位置となる。この状態では、吐出路12の吐出口11側は、微量の外気(空気)を吸い込んでいる。吐出路12内に外気(空気)を吸い込んでも、液室50まで空気が到達しない限り、気泡の問題は生じない。液室50内に外気が流入すると、吐出量のばらつきなどの原因となるため、回避する必要がある。次の吐出動作を連続して行うためには、プランジャーの作動終了位置を作動開始位置とすることが好ましい。
吐出動作を完全に終了する場合には、プランジャー30の先端部31で吐出路12を塞ぎ、吐出口11から液材が流出するのを防ぐことが好ましい。
【0033】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
図1に示す液滴吐出装置を用いて、液滴の形成を行った。実施例1で用いた液材は、ソルダペースト(粘度45000mPa・s)であり、平均粒子6μmのフィラーが含有されている。本実施例で吐出する1つの液滴の量は0.2nlであり、着弾径は120μmである。ワークと吐出口を相対移動させながら、毎秒100ショットのタクトで、数十個の液滴をワーク上に形成し、測定器で測定したところ、均一な形状のドットが形成されていることが確認できた。
【実施例2】
【0035】
図1に示す液滴吐出装置を用いて、液滴の形成を行った。実施例2で用いた液材は、Agペースト(粘度28000mPa・s)であり、1〜10μmのフレーク状のフィラーが含有されている。本実施例で吐出する1つの液滴の量は0.17nlであり、着弾径は100μmである。ワークと吐出口を相対移動させながら、毎秒250ショットのタクトで、数十個の液滴をワーク上に形成し、測定器で測定したところ、均一な形状のドットが形成されていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、電子・半導体の市場で困難とされていた材料を、プランジャー(弁体)を液室内壁(弁座)に当接させずに、微量に精度良く吐出することが可能となる。例えば、半田ペースのような柔らかい金属材料を含むペースト材を潰すことなく、かつ、吐出装置内での詰まりなく連続的に吐出することができる。基板上への小型部品の搭載工程や太陽電池の製造工程への適用など、本発明の適用範囲は広い。
また、弁体と弁座が接触しないことから、擦れ片やパーティクルの発生がなく、これらが材料中に混入する心配もないので(すなわち、コンタミレス)、食品や薬品業界等での利用にも好適である。
【0037】
また、フィラーなどの粒子、固形物、ゲル体、構造体などを、その構造を不要な破壊なしに飛翔吐出するので、それらの破壊物によるノズル詰まりを効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0038】
11 吐出口
12 吐出路
13 接触位置
21 第1流路
22 第2流路
30 プランジャー
31 先端部
32 前方当接部
33 ピストン
34 後方当接部
40 移動部材
41 前方ストッパー
42 後方ストッパー
43 前方ピストン室
44 後方ピストン室
45 コイルバネ
46 マイクロメータ
50 液室
51 挿通孔
52 液送路
53 プランジャーと対向する液室の壁面
71 本体
72 電磁切換弁
73 ベース部材
74 吐出ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が吐出口を構成する吐出路と、プランジャーと、プランジャーが挿通される液室と、プランジャーを進退動させるプランジャー駆動機構と、プランジャーの先端部の位置を規定するプランジャー位置決定機構とを備え、プランジャーの先端部と液室の内壁が非接触の状態でプランジャーを前進移動することで液材に慣性力を与えて液滴の状態に吐出する液滴吐出装置において、
プランジャーを前進移動させることにより所望の液滴を形成するのに必要となる量の液材を吐出口から押し出し、続いてプランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断して微量の液滴を形成することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
吐出路が、先端が吐出口を構成する第1流路と、第1流路および液室と連通し、第1流路よりも大径の第2流路からなることを特徴とする請求項1記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
プランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断した後、さらにプランジャーを後退移動させて吐出路の第1流路内または第2流路内に気液界面を形成し、プランジャーの移動を停止させることを特徴とする請求項2記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
プランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断した後、さらにプランジャーを後退移動させて吐出路内に気液界面を形成し、プランジャーの移動を停止させることを特徴とする請求項1記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
吐出路内に気液界面を形成し、移動を停止した際のプラジャーの位置から、プランジャーを前進移動させることにより所望の液滴を形成するのに必要となる量の液材を吐出口から押し出し、続いてプランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断して微量の液滴を連続形成することを特徴とする請求項3または4記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
吐出口の内径が、数十μm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
先端が吐出口を構成する吐出路と、プランジャーと、プランジャーが挿通される液室と、プランジャーを進退動させるプランジャー駆動機構と、プランジャーの先端部の位置を規定するプランジャー位置決定機構とを備える液滴吐出装置を用いて、プランジャーの先端部と液室の内壁が非接触の状態でプランジャーを前進移動することで液材に慣性力を与えて液滴の状態に吐出する液滴吐出方法において、
プランジャーを前進移動させることにより所望の液滴を形成するのに必要となる量の液材を吐出口から押し出す押出工程、
プランジャーを後退移動させることにより吐出口から押し出された液材を分断して微量の液滴を形成する分断工程を有することを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項8】
分断工程の後、さらにプランジャーを後退移動させて吐出路内に気液界面を形成し、プランジャーの移動を停止させる吸入工程を有することを特徴とする請求項7記載の液滴吐出方法。
【請求項9】
液材が固形物を含有する液材であり、押出工程におけるプランジャーの先端部と液室の内壁の距離を固形物よりも大きく設定したことを特徴とする請求項7または8記載の液滴吐出方法。
【請求項10】
吐出口の内径が、数十μm以下であることを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の液滴吐出方法。
【請求項11】
液材が粘度10000mPa・s以上であることを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載の液滴吐出方法。
【請求項12】
押出工程におけるプランジャーの前進移動距離が、同工程直後のプランジャーの先端部と液室の内壁の距離よりも大きいことを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載の液滴吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−17945(P2013−17945A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152594(P2011−152594)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(390026387)武蔵エンジニアリング株式会社 (56)
【Fターム(参考)】