説明

液状物吐出装置、液状物吐出方法及び有機EL素子の製造方法

【課題】 ダイコート方式で形成されるライン状の塗膜は、幅及び厚みの変動が大きく、かつ制御が難しいという問題があった。本発明はこの従来例の問題点を解決する。
【解決手段】 ノズル列をなす複数のノズル7を有する液滴吐出ヘッド1を備えた液状物吐出装置において、各ノズル7の先端吐出口8の内壁部に螺旋形状の溝10を設け、かつ前記先端吐出口8におけるノズル径dに対する液通過部長さLの倍率を4以上とし、前記先端吐出口8を囲むようにヒーター11を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状物吐出装置、液状物吐出方法及び有機EL素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のインターネットを中心とした高度映像情報化社会の進展は目覚しいものがあり、急速な技術革新によりライフスタイルは大きく変化しようとしている。その中でも携帯電話をはじめとした携帯情報機器市場が急速に拡大している。インターネット接続サービスの進化は、音声だけでなくデータ、画像配信に対する消費者のニーズが高いことを示しており、更には動画像配信サービスの開始により、こうしたニーズに応えるべく携帯電話は更なる進化を遂げている。現在は電子マネー化への対応として携帯電話に決済機能や電子認証機能、更にはGPSによる位置情報サービスなどの機能が盛り込まれている。このように携帯電話が音声だけでなくデータや画像配信、更には電子認証や決済まで機能拡大を実現した状況で、携帯電話は単なる電話ではなく、マルチメディア携帯端末として発展してきている。
【0003】
これに伴いより見やすく、より精細な画面で、より薄く軽いディスプレイが求められるようになり、現在までにそれに見合った表示方式が各種提案されている。
【0004】
その方式の一つとして、有機ELディスプレイ(以下OLED)を用いるものが提案されている。OLEDは、基板と封止を含めてもわずか2mmの厚さであり、大幅なダウンサイジングが可能となる。また、光の三原色を自発光かつ面発光させることにより広視野角が得られ、高コントラスト性や高速応答性も有すことから従来のディスプレイにない鮮明な画像が得られる。更に、バックライトが不要で低電圧駆動、低電力消費により電池でも作動する。
【0005】
有機EL素子は、2つの電極間に有機発光層を挟持した構造を有し、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させるものであるが、発光した光を取り出すために、どちらか一方の電極を透明にする必要がある。そして、透明電極としてインジウム・錫酸化物(ITO)からなる透明導電膜等を用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2、3)。
【0006】
有機EL素子の成膜法の一つとして、ダイコート法を用いることが提案されている。ダイコート法は、従来から厚膜塗布や高粘度塗布液を連続塗布する用途に広く採用されており、ダイコート法を用いて被塗布材塗布膜を形成する場合、カーテンフロー法、押し出し法、ビード法等の塗布方法が知られる。中でもビード法は、ダイコータの液滴吐出ヘッド先端に設けられたノズルから塗布液を吐出して、液滴吐出ヘッド先端と一定の間隔(ギャップ)を保って相対的に走行する被塗布材との間に塗布液ビードと呼ばれる塗布液溜まりを形成し、この状態で被塗布材の走行に伴って塗布液を引き出して塗布膜を形成する。そして、塗布膜形成により消費される量と同量の塗布液がノズルから供給されることにより、塗布膜を連続的に形成するビード法を採用すれば、形成塗布膜の膜厚均一性が高精度化される。また、塗布液の無駄が殆どなく、ノズルから吐出されるまで塗布液送液経路が密閉されているので、塗布液の変質、異物の混入を防止でき、得られる塗布膜の品質も高く維持できる。
【特許文献1】特開2001−250678号公報
【特許文献2】特許第2850906号公報
【特許文献3】特開2005−68501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、ダイコート方式では形成されるライン(ストライプ)幅及び厚みの変動が大きく、かつ制御が難しいという問題があった。ライン幅及び厚みの変動要因としては、塗布スピード、ポンピングレート(送液量)、インキ粘度、基材とノズルの間隔(実際には基材フィルムの厚みばらつき)等があり、それら各要因の僅かな変動に起因して、形成されるラインの膜質(厚み、モルフォロジー)均一性が損なわれていた。
【0008】
また、複数のノズルからなるノズル列を有する複数の液滴吐出ヘッドを用いて高精細なラインパターンを形成する場合、ノズル径及び隣接ノズルとのピッチ間隔を微細にする必要があり、低沸点の有機溶媒からなるインキを使用した際には、液詰まりや各ノズルからの液滴吐出角度が変化する懸念があり、これにより、形成ラインパターンのピッチずれ、各ノズルにおけるポンピングレートとステージ送り速度のマッチングがとれないことから生じる不連続ライン(途切れ)が形成される。
【0009】
また、高精細なラインパターンを形成するためには、ポンピングレートを下げる、即ち微小量吐出を行う必要があり、小径ノズルからディスペンサー等により空圧制御にて吐出を行うダイコート塗布方式では微小量吐出に限界がある。更に吐出安定性、膜厚安定性の観点からも不利に作用する。
【0010】
また、高濃度(高粘度)のインキを用いた場合、所定乾燥膜厚を得るためにバンクで仕切られた画素領域に充填するインキ吐出量は、低濃度(低粘度)のインキを用いた場合に比べ、極めて少なくする必要があり、更に高濃度化によって、溶媒揮発によりインキのゲル化物が生成され易く、ノズル先端吐出部の付着も抑制する必要がある。よって、ライン形成可能なプロセスマージン(粘濃度マージン)拡大の観点からも、微小量吐出を安定的に行える機構が不可欠となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明の液状物吐出装置は、ノズル列をなす複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドを備えた液状物吐出装置において、各ノズルの先端吐出口の内壁部に螺旋形状の溝を設け、かつ前記先端吐出口におけるノズル径に対する液通過部長さの倍率を4以上とし、前記先端吐出口を囲むようにヒーターを設けたことを特徴とする。なお前記ノズル径とは、前記先端吐出口の液通過部における螺旋形状の溝を含まない部分の直径を云う。
【0012】
また、本発明の液状物吐出方法は、上記液状物吐出装置を用い、各ヒーターを加熱しながら、各ノズルから液状物を吐出させ、これを基材に対して塗布することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る第1の有機EL素子の製造方法は、第一電極が形成された基材に仕切部材であるバンクを形成し、バンクで囲まれた領域に有機発光層と第二電極を少なくともこの順に備え、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機EL素子の製造方法において、液状の有機発光層形成材料を、上記液状物吐出装置により塗布して、前記有機発光層をラインパターン形成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る第2の有機EL素子の製造方法は、反射電極が形成された基材に仕切部材であるバンクを形成し、バンクで囲まれた領域に有機発光層と透明電極を少なくともこの順に備え、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させるトップエミッション型の有機EL素子の製造方法において、液状の有機発光層形成材料を、上記液状物吐出装置により塗布して、前記有機発光層をラインパターン形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液状物吐出装置及び液状物吐出方法によれば、各ノズルの先端吐出口の内壁部に螺旋形状の溝を設け、かつ前記先端吐出口におけるノズル径に対する液通過部長さの倍率(アスペクト比)を4以上として、そのアスペクト比を大きく設定することにより、吐出抵抗を高めることができる。しかも、先端吐出口を囲むようにヒーターを設けることで、ノズルの先端吐出口の液詰まりを抑制することができる。
【0016】
すなわち、ノズル径を変えることなく、ノズル先端吐出口の内壁形状を変更し、かつ前記アスペクト比を大きくすることで、液状物(インキ)の通過における吐出抵抗が増大(前記内壁とインキの接触面積の増大)し、結果として低圧制御を行うことなく微小量液滴吐出が可能となる。これにより、初期のノズル先端部液溜まり(メニスカス)が小さくなり、ラインパターン形成(連続吐出)を行うための被塗布物(基材)−ノズル間隔(ギャップ)のプロセスマージンが拡大する。また、溶媒揮発によるインキ濃度上昇に伴う液詰まり現象(インキゲル化物の内壁付着)も、ヒーターによる加熱で改善され、安定吐出(等ピッチ間隔、連続吐出)、即ちラインパターンの形状安定性も大幅に向上することが期待できる。
【0017】
従来のダイコート法による有機発光層の形成技術では、バンクで囲まれた画素領域にインキ(液状有機発光層形成材料)を充填しつつ、ラインパターンを形成するためには、ノズル先端吐出口付近に介在するインキゲル化物もしくはパーティクルをインキで溶解させ除去するか、加圧除去する必要があった。これにより、インキをチューニング(捨打ち)という形で大量消費するという問題が生じていた。本発明はチューニングを行うことなく、ヒーターによる加熱効果で、瞬時に吐出角度の安定化を図ることができる。またヒーターによる加熱で、高粘度のインキを用いた場合でも液流動性を変化させることで、吐出量がコントロールでき、インキ原体の溶媒溶解性を熱付加により上昇させることで、インキゲル化物生成や凝集(相分離)も抑制できる。これにより、ライン形成可能なプロセスマージン(粘濃度マージン)が大幅に拡大できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて、具体的に説明する。但し、かかる実施形態は本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。
【0019】
本実施形態の液状物吐出装置を図1、図2に示す。図において、1は液滴吐出ヘッドで、ヘッド本体2とマニホールドプレート3とを備えている。ヘッド本体2とマニホールドプレート3との間にマイクロポアフィルター4(図2にのみ示す。)が介在されている。5はインキ供給シリンジ、6はディスペンサーユニット空圧調整配管である。
【0020】
液滴吐出ヘッド1は、ノズル列をなす複数のノズル7を有している。各ノズル7の下部は先端吐出口8、上部はインキ溜り部9となっていて、これらは前記ヘッド本体2に穿設されている。各インキ溜り部9は、前記マニホールドプレート3内に形成した連通空間部12に連通し、この連通空間部12は前記インキ供給シリンジ5に連通している。各先端吐出口8の内壁には螺旋形状の溝10が設けられている。更に各先端吐出口8の周囲にはこれを囲むようにヒーター11が配設されている。
【0021】
前記先端吐出口8の液通過部長さLは280μm(200〜350μmが好ましい。)、前記先端吐出口8の前記溝10部を含まない部分の直径(ノズル径)d は40μm(30〜50μmが好ましい。)、前記先端吐出口8の前記溝10部を含む部分の直径Dは120μm(100〜150μmが好ましい。)、ノズル7間のピッチPは300μmである。上記のように先端吐出口8の液通過部長さLの前記ノズル径dに対する倍率(アスペクト比)が7と大きく設定されていることで、吐出抵抗が同一ノズル径のものに対し、大きくなる。なお、前記アスペクト比は4〜12、望ましくは6〜9の範囲に設定されていることが好ましい。これにより、同一吐出圧力に対する液吐出量は大幅に低減される。
【0022】
本実施形態の液状物吐出装置は、有機EL素子の有機発光層をラインパターン形成するために用いるものであって、液状の有機発光層形成材料(インキと称する。)が、上記液滴吐出ヘッド1と対向する位置にあるステージ14上に置かれた基材13に塗布される。前記インキはインキ供給シリンジ5に貯留されている。
【0023】
上記液滴吐出ヘッド1の上記基材13へのインキの吐出挙動を図2に示す。前記ディスペンサーユニット空圧調整配管6を介しての窒素ガスによる加圧を行い、前記インキを、前記インキ供給シリンジ5から、前記連通空間部12、前記マイクロポアフィルター4を介して各ノズル7のインキ溜り部9に送り、このインキを液滴として前記基材13に対し、先端吐出口8から吐出する。吐出されたインキは、ステージ14の移動に伴って、基材13上のバンクで囲まれた各画素領域を充填しながら、ラインパターンに形成される。なお、前記マイクロポアフィルター4は、インキゲル化物や流入パーティクルのインキへの混入を防止するためのものである。
【0024】
前記各ヒーター11は、PID制御によって局所昇降温調整されており、これによって、ノズル7の先端吐出口8の内壁部を通過する液の流動性を変化させることができ、各ヒーター11の局所昇降温動作をそれぞれ独立制御することで、選択的にノズル内部に滞留した液状物や固形物(ゲル)を吐出除去し、各ノズル7からの吐出方向(角度)を均一化させることが可能になる。
【0025】
PID制御とは、現在値(PV)と設定値(SP)の偏差に比例した出力を出す比例動作(P動作)と、その偏差の積分に比例する出力を出す(I動作)と、偏差の微分に比例した出力を出す微分動作(D動作)の和を出力し、目標値に向かって制御することをいう。
【0026】
比例動作(P動作)とは、比例帯内で現在値と設定値の偏差に比例した操作量を動かす動作をいい、比例帯の目安は装置によって異なるが2〜10%となる。しかしながら、P動作だけでは、オフセット(残留偏差:設定値と現在値のずれ(偏差)が一定の値で、永続的に続くものである)が生じるため、I動作を加え、設定値との偏差をなくすような制御を行うことが一般的である。
【0027】
積分動作(I動作)とは、オフセットが現れた場合に操作量を変えて、オフセットをなくすように働く動作である。
【0028】
微分動作(D動作)とは、外乱などにより、検出値が変化し始めると、その変化の度合いに応じて偏差の少ないうちに大きな修正動作を加えて、制御結果が大きく変動するのを防ぐ動作である。
【0029】
上記先端吐出口8の内壁に形成される螺旋状の溝10の断面形状は、図3の(a)〜(j)に示すように種々の態様とすることができる。図3において、(a)に示す螺旋溝10aは、三角形断面溝を有する比較的ピッチの小さなものであり、(b)に示す螺旋溝10bは、三角形断面溝を有する比較的ピッチの大きなものである。(c)に示す螺旋溝10cは、半円形断面溝を有する比較的ピッチの小さなものであり、(d)に示す螺旋溝10dは、半円形断面溝を有する比較的ピッチの大きなものである。(e)に示す螺旋溝10eは、傾斜矩形断面溝を有するものである。
【0030】
上記(a)〜(e)に示すものは、先端吐出口8の液通過部のみに溝を設けたものであるが、(f)〜(j)に示すように、その上部のインキ溜り部9との境界部である漏斗部16にも溝を設けることができる。(f)〜(j)に示すものは、それぞれ液通過部に(a)〜(e)に示すものに対応する螺旋溝10a〜10eを有し、かつ漏斗部16にも半円形断面の溝10fを有するものである。このように、上記液通過部に螺旋溝を設けることによって、ノズル径や前記アスペクト比の変更なく、インキとノズル内壁の単位時間当たりの接触面積を大きくし、吐出抵抗を大きくすることができるのである。また 液通過部に溝を設けることで吐出抵抗が大きくなるだけでなく、溝が螺旋形状化することで、吐出の際、インキが旋回しながら放出され、液の指向性、即ち吐出角度(方向)も安定化する。更にインキが旋回することで、インキ内の原体と溶媒の相分離(凝集)が抑制され、ノズル目詰まりなどの吐出不安定化要因が低減される。
【0031】
液通過部に三角形断面の螺旋溝を設けたもの(a、b、f、g)は加工性が容易、かつ溝間ピッチを微細化できるメリットがある。また、液通過部に半円形断面の螺旋溝を設けたもの(c、d、h、i)は三角形断面の螺旋溝を設けたものよりも、液通過部内壁とインキとの接触面積がより大きくなることから、単位時間当たりの吐出量を更に小さくすることが可能となる。液通過部に傾斜矩形断面の螺旋溝を設けたもの(e、j)については、溝に傾斜角を持たせることで、ゲル化した固形物や高濃度化したインキ成分をノズル先端部から効率良く排出させる効果を持つ。
【0032】
図4は、トップエミッション型有機EL素子の構造を示している。基板25及びTFT26からなる基材21上には、平坦化膜27、第一電極である反射陽極30がそれぞれ形成され、更に画素仕切部材としてバンク29がフォトリソグラフィー法により形成されている。バンクで仕切られた画素領域には、正孔注入層31、インターレイヤ(電子ブロッキング層)32、有機発光層(RGB)33、電子注入層34、第二電極である透明電極35がこの順に設けられている。また、基材21上に設けられた反射陽極30、有機発光層33、透明電極35は、両電極及び有機発光層等を環境中の水分等から保護することを目的として封止される。封止としては、薄膜封止層(SiNx)36と樹脂封止層37とを透明電極35上に形成し、この上に色補正用カラーフィルター38、39、40を貼り合わせる。前記基板25としては、具体的には板厚0.7mmのガラス基板を用いると好適である。
【0033】
第一電極である反射電極30は、陽極として、Mg、Al、Mo、CrやAg合金等の高反射率の金属材料を蒸着法やスパッタリング法といった真空成膜法により形成することができる。また、反射電極30としては、Mg、Al、Mo、Cr等の金属膜とITO等の導電性透明酸化物との2層構成としても良い。このとき、ITOはキャッピング層(ヒロック防止)、正孔注入性向上のための陽極界面層として設けられる。
【0034】
バンク29は絶縁性かつインキ形状保持のため撥水性を有す必要があり、感光性材料等を用いることができる。感光性材料としてはポジ型であってもネガ型であっても良く、DNQ(ジアゾナフソキノン)とバラスト化合物をエステル化させたものや、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができ、フォトリソグラフィー法による露光工程、現像工程を経て形成される。具体的には、ポリイミド樹脂を用い、フォトリソグラフィー法により、ピッチ60μm、バンク幅40μm、バンク高さ1μmのテーパー形状バンクを形成した。
【0035】
そして、反射電極30上には、正孔注入層31が設けられる。正孔注入層形成材料としては、PEDOT/PSS(3、4−エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)やMo、W等の金属酸化物(MoOx、WOx)を用いることができる。PEDOT/PSSは水に溶解させ塗工液とし、スピンコート法等により基板上に塗工され、乾燥される。
【0036】
正孔注入層31上には、インターレイヤ(電子ブロッキング層)32が設けられる。インターレイヤ(電子ブロッキング層)32上には、有機発光層(RGB)33が設けられる。有機EL素子をフルカラー表示させる場合には、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)、それぞれの発光色を有する有機発光層を画素毎にパターニングする必要がある。有機発光層形成材料としてはポリパラフェニレンビニレン(PPV)やポリフルオレン(PF)等を用いることができる。これらの有機発光材料は、トルエン等の芳香族系有機溶媒に溶解させインキとし、本発明に係るダイコート法を用いることにより、3色にパターニングされる。具体例については後述する。
【0037】
有機発光層(RGB)33上には、電子注入層34が設けられる。電子注入層形成材料としては、CaやBa等の希土類元素を用いることができ、これらの希土類元素を真空蒸着法により成膜し、電子注入層を形成する。 電子注入層34上には、陰極として透明電極35が設けられる。透明電極35の形成にあっては、スパッタリング法による成膜を用いる。
【0038】
次に、平坦化膜27、反射電極30、バンク29、正孔注入層31、インターレイヤ32、有機発光層33、電子注入層34、透明電極35が形成された基材21に対し、封止を行う。まず、基材21全体に薄膜封止層36を形成する。 薄膜封止層36としては、窒化珪素膜、酸化珪素膜、窒化酸化珪素膜等を用いることができる。薄膜封止層36はCVD法により形成される。CVD法は膜にしたい元素を含む気化させた化合物(ソースガス)をそのまま、あるいは水素・窒素などのキャリアガスと混ぜ、高温加熱した基板表面にできるだけ均一になるように送り込み、基板表面で分解、還元、酸化、置換などの化学反応を起こさせ、基材上に薄膜を作る方法である。
【0039】
更に、薄膜封止層36が設けられた基材21は、樹脂封止層37を介して、色補正用カラーフィルター38、39、40と貼り合わされる。カラーフィルター基板40としては、透明性を有していれば良く、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラスを用いることができる。樹脂封止層37としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることもできる。
【0040】
次に、上記有機発光層33をストライプ状ラインパターンに形成する方法の具体例を説明する。先ず、ポリフルオレン(PF)からなる有機発光層形成材料を用い、これをメトキシトルエンもしくはフェノキシトルエンに溶解して固形分比0.7のインキとする。次いで、30穴のノズル7が液滴吐出ヘッド1に設けられた液状物吐出装置を用い、上記吐出方法により、バンク29で仕切られた各画素領域にインキを充填しつつ、ストライプ状ラインパターンの有機発光層33を形成した。
【0041】
上記装置及び吐出方法により形成したストライプ状ラインパターンの有機発光層33は、ライン内(測定数10点)、ライン間(測定数30点)の膜厚バラツキが、目標膜厚中心値に対し、5%以下であった。このことは、ノズル形状を改良し加熱機構(ヒーター)を付与することで、各ノズルから液詰まりを生じることなく、微小量安定吐出がなされたことを示すものである。 また、液詰まり問題が改善したのに伴い、従来実施していたノズル安定状態(固形物除去)を確保するためのチューニング(捨打ち)も行う必要がなくなり、材料利用効率が大幅に向上(従来比50%アップ)した。更に各ノズルにおける吐出方向が均一化されたことから、隣接ノズル吐出液との干渉によるバンクで囲まれた領域からインキがあふれる混色現象、ポンピングレート(送液量)とステージ送り速度の不均衡により生じるライン切れなど、従来発生していた問題も解消した。
【0042】
また、ラインパターン形成可能なインキの濃粘度マージンも、溶媒揮発や、インキ拡散原体の外部要因(主に加水分解による分子量変化)に伴う粘度変化にかかわらず、ヒーターによる液流動性調整が可能になったことから、大幅に拡大した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の液状物吐出装置及び液状物吐出方法は、有機EL素子作製に限定されるものではなく、PDPやFED(Field Emission Display)など様々な表示デバイスの作製に用いることができる他、レジスト塗布装置やカラーフィルター製造装置などにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る液状物吐出装置の要部を模式的に示す図であって、(a)はその縦断正面図,(b)はその底面図である。
【図2】上記装置の基材へのインキ吐出挙動を模式的に示す断面図である。
【図3】ノズル先端吐出口の内壁部を示し、(a)〜(j)はそれぞれ各種形状の溝を示す断面模式図である。
【図4】トップエミッション型有機EL素子の説明断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 液滴吐出ヘッド
7 ノズル
8 先端吐出口
10 溝
11 ヒーター
13、21 基材
29 バンク
30 第一電極
33 有機発光層
35 透明電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル列をなす複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドを備えた液状物吐出装置において、各ノズルの先端吐出口の内壁部に螺旋形状の溝を設け、かつ前記先端吐出口におけるノズル径に対する液通過部長さの倍率を4以上とし、前記先端吐出口を囲むようにヒーターを設けたことを特徴とする液状物吐出装置。
【請求項2】
請求項1記載の液状物吐出装置を用い、各ヒーターを加熱しながら、各ノズルから液状物を吐出させ、これを基材に対して塗布することを特徴とする液状物吐出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の液状物吐出方法において、ヒーターをPID制御によって局所昇降温調整することを特徴とする液状物吐出方法。
【請求項4】
請求項3に記載の液状物吐出方法において、各ヒーターの局所昇降温調整を独立制御することを特徴とする液状物吐出方法。
【請求項5】
第一電極が形成された基材に仕切部材であるバンクを形成し、バンクで囲まれた領域に有機発光層と第二電極を少なくともこの順に備え、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機EL素子の製造方法において、液状の有機発光層形成材料を、請求項1に記載の液状物吐出装置により塗布して、前記有機発光層をラインパターン形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
反射電極が形成された基材に仕切部材であるバンクを形成し、バンクで囲まれた領域に有機発光層と透明電極を少なくともこの順に備え、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させるトップエミッション型の有機EL素子の製造方法において、液状の有機発光層形成材料を、請求項1に記載の液状物吐出装置により塗布して、前記有機発光層をラインパターン形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の有機EL素子の製造方法において、有機発光層を形成する工程の前に、非液状の有機発光層形成材料を溶媒に溶解または分散させて液状の有機発光層形成材料とする工程を備えることを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−283374(P2009−283374A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136053(P2008−136053)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】