説明

減圧乾燥装置

【課題】簡易な構成および制御によって、チャンバ内部や排気管内部に結露の原因となり得る低温部が発生することを防止することにより処理時間を短縮することが可能な減圧乾燥装置を提供する。
【解決手段】減圧乾燥装置10は、チャンバ上・下部12,14、排気管32、減圧ポンプ28、仕切りシート材16、熱風発生器20、および熱風導入管34を備える。排気管32は、チャンバ上・下部12,14内部に連通するように構成される。減圧ポンプ28は、排気管32を介してチャンバ上・下部12,14内部を減圧するように構成される。仕切りシート材16は、少なくともチャンバ上・下部12,14における排気管32との接続箇所と排気管32とを囲んで閉空間を形成する。熱風発生器20および熱風導入管34は、仕切りシート材16によって閉じられた空間内に所定温度の熱風を供給させるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示パネル製造用大型ガラス基板など、塗布膜の成分と溶剤とを混ぜ合わせてなる塗布液を塗布された基板を減圧状態で乾燥することによって、塗布液から溶剤を除去するように構成された減圧乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に減圧乾燥装置では、減圧乾燥処理時には減圧ポンプによってチャンバの密閉容器を減圧しつつ基板を加熱する。そして処理されるべき基板に供給された塗布液中の溶剤が蒸発し、排気管を介して減圧ポンプに吸引される。
【0003】
排気管は、密閉容器よりも温度が低いクリーンルーム側の雰囲気の影響を受け易いため、加熱された塗布基板の表面温度より低い温度になる部分が排気管の内部に形成され、塗布基板から蒸発した溶剤が排気管の内部にて凝縮され結露が発生することがあった。
【0004】
このような結露への対策として、従来技術の中には、減圧乾燥時に、排気管の一部をテープヒータにて加熱しつつ、温度調整した窒素ガスを排気管内へ供給することによって、塗布液から乾燥する溶剤蒸気の温度コントロールを行うように構成された減圧乾燥装置が存在する(例えば、特許文献1参照。)。この減圧乾燥装置では、少ないコストで排気管内における溶剤蒸気の結露を抑え、かつ乾燥処理を迅速に行うことができる、とされている。
【特許文献1】特開2003−264184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、減圧乾燥処理時において、排気管だけではなく密閉容器内でも加熱された塗布基板の表面温度より低い温度の部分に塗布基板から蒸発した溶剤が凝縮され結露が発生し、その結果として結露を乾燥させる為の処理時間がさらに必要になることで、全体として乾燥処理時間が長くなるという不都合を生じることがあった。
【0006】
上述の特許文献1に係る技術では、例えばチャンバの外面に形成された補強リブや基板リフトアップピン等の可動部に対する加熱を効果的に行うことは困難であるため、チャンバの外面に形成された補強リブやリフトアップピン等の可動部からの放熱により、チャンバの内部の一部に結露の原因となり得る低温部が発生する虞が依然として存在することが明らかになった。
【0007】
また、チャンバの外面に形成された補強リブや基板リフトアップピン等の各部位は、特許文献1に記載のテープヒータを用いて加熱することが極めて困難であり、仮に加熱することができたとしてもテープヒータの施工やメンテナンスやその制御に膨大なコストがかかる虞がある。
【0008】
この発明の目的は、簡易な構成および制御によって、チャンバ内部や排気管内部に結露の原因となり得る低温部が発生することを防止することにより処理時間を短縮することが可能な減圧乾燥装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る減圧乾燥装置は、塗布膜の成分と溶剤とを含む塗布液が塗布された基板を減圧状態で乾燥することによって塗布液から溶剤を除去するように構成される。この減圧乾燥装置は、チャンバ、排気管、減圧手段、閉空間形成手段、および熱風供給手段を備える。
【0010】
チャンバは、基板を載置する載置部と基板を設定温度で加熱するヒータとを内部に備え、かつ、開閉可能に構成される。チャンバの例として、チャンバ上部およびチャンバ下部の少なくとも一方が移動自在に構成される例が挙げられる。排気管は、チャンバ内部に連通するように構成される。減圧手段は、排気管を介してチャンバ内部を減圧するように構成される。減圧手段の例として真空ポンプ等の減圧ポンプが挙げられる。
【0011】
閉空間形成手段は、少なくともチャンバにおける排気管との接続箇所、補強リブ、または基板リフトアップピンと排気管とを囲んで閉空間を形成する。ここで、閉空間とは、気密性を有する程に閉じていることを要せず、配管のための小窓または切り込みが仕切り部材に設けられていても良い。また、必ずしも排気管の全部が閉空間内に位置する必要はなく、排気管の一部が閉空間の外部に位置することがあっても良い。
【0012】
なお、閉空間形成手段は可撓性を有する仕切り部材によって閉空間を画定することが好ましい。チャンバの開閉動作に追従させることを考慮すると、仕切り部材としてはシート材を用いることが好ましいが、可撓性を有する板材や伸縮自在に構成された複数の板材を用いることも可能である。
【0013】
熱風供給手段は、閉空間形成手段によって閉じられた空間内に熱風を供給させるように構成される。熱風供給手段の構成の例として、熱風を発生させる熱風発生器と熱風発生器にて発生した熱風をチャンバにおける排気管が接続された面の縁部に吹き付けるように構成された熱風導入管とを有する構成が挙げられる。
【0014】
熱風供給手段が閉空間に所定温度の熱風を供給させることにより、閉空間内部が略均一に加熱されるとともに、チャンバにおける閉空間内に配置された部位や排気管に対して熱風が吹き付けられる。特に、補強リブ、リフトアップピン、およびその他の可動箇所のように、構造が複雑であるため均一に加熱するのが困難な箇所にも熱風が吹き付けられるため、それらの箇所を均一に加熱し易くなる。その結果、結露の原因となり得る低温部が発生することが防止される。
【0015】
なお、熱風供給手段は、チャンバの内壁や排気管内壁を、除去すべき溶剤の蒸発温度と結露温度との間の温度に保つことが好ましい。その理由は、一般に、結露温度は蒸発温度よりも低いためである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構成および制御によって、チャンバ内部や排気管内部に結露の原因となり得る低温部が発生することを防止することが可能となり、処理時間を大幅に短縮することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を用いて、本発明の実施形態に係る減圧乾燥装置10を説明する。ここでは減圧乾燥装置10は、液晶ディスプレイの製造工程において用いられ、クリーンルーム内に設けられる。減圧乾燥装置10は、密封容器を形成するチャンバ上部12およびチャンバ下部14を備える。チャンバ上部12およびチャンバ下部14は、いずれか一方が移動することによって開閉自在になるように構成される。この実施形態では、チャンバ下部14がチャンバ上部12に対して移動するように例を説明するが、チャンバ上部12がチャンバ下部14に対して移動する構成であっても本発明を適用することは可能である。
【0018】
チャンバ上部12は、内部に上プレートヒータ36を備える。上プレートヒータ36は、設定された温度で密閉容器内部を加熱するように構成される。
【0019】
チャンバ下部14は、内部に基板支持ピン42および下プレートヒータ38を備える。基板支持ピン42は、乾燥処理時に基板40を支持するように構成される。この実施形態では、基板40は、塗布液が供給され顔料レジストの膜が形成されたガラス基板である。下プレートヒータ38は、設定された温度で密閉容器内部を加熱するように構成される。チャンバ下部14の底部には、複数のリフトアップピン44が設けられる。リフトアップピン44は伸縮自在に構成されており、基板40の移動時に基板40を昇降させるように構成される。この実施形態では、リフトアップピン44を16本用いているが、リフトアップピン44の本数はこれに限定されるものではない。
【0020】
チャンバ下部14は、エアシリンダ30によって昇降自在に支持されている。チャンバ下部14の底部には、減圧ポンプ28に接続された排気管32につながる開口部が設けられる。排気管32は、チャンバ下部14の昇降動作に対応するために、垂直方向に延びる部位にはフレキシブルな配管が施されている。
【0021】
この実施形態に係る減圧乾燥装置10はさらに、仕切りシート材16、熱風発生器20、および熱風導入管34を備える。仕切りシート材16は、チャンバ下部14の外周面、リフトアップピン44、排気管32、その他の部品を覆うように配置される。仕切りシート材16は、図2に示すように、チャンバ下部14の外周面に複数のシート材固定板162およびボルト164を介して取り付けられる。この実施形態では、仕切りシート材16、シート材固定板162、およびボルト164が本発明の閉空間形成手段に対応する。
【0022】
仕切りシート材16は、約150μmの厚みを有しており透明性のある素材によって構成される。仕切りシート材16は、仕切り材に適した柔軟な物性を有する中間層(例えば、メタロセンポリエチレン)と、中間層を覆うように配置され帯電防止特性を有する表層(導電剤配合ポリエチレン)とからなる。ただし、仕切りシート材16の構成はこれに限定されるものではなく、他の物質からなる仕切り材を適用することが可能である。また、仕切りシート材16は、熱風導入管34や排気管32が貫通可能な窓孔または切り込みを備える。
【0023】
熱風発生器20は、設定された温度および風量の熱風を発生させるように構成される。熱風発生器20の吹き出し口の近くには、熱風の温度を検出する熱電対を含む温度センサ22が配置される。この実施形態では、熱風発生器20の設定温度は、上プレートヒータ36の設定温度(例えば、68℃)よりも5〜6℃程度低くなるように温度設定が為されているが、この温度設定に限定されることはない。
【0024】
熱風導入管34は、熱風発生器20にて発生した熱風を仕切りシート材16により囲まれる空間内に均等に送り込むように構成される。熱風導入管34には、熱風の清浄度を保つためのエアフィルタ24が設けられる。この実施形態では、エアフィルタ24としてHEPAフィルタを用いているが、エアフィルタ24はこれに限定されるものではない。さらに、熱風導入管34には、微差圧計18が設けられる。微差圧計18は、空気の流れを監視および制御するように構成される。ここでは、微差圧計18は、汚れた空気の侵入を遮断する目的で設けられる。
【0025】
図3を用いて熱風導入管34の構成を説明する。熱風導入管34は、熱風ダクト346および熱風噴出部342を備える。熱風ダクト346は、熱風発生器20からの熱風を分岐させつつ、複数の経路を介して熱風噴出部342まで導くように構成される。チャンバ下部14の昇降動作に対応させるため、熱風ダクト346における垂直に延びる部位にはフレキシブルな配管が施されている。また、複数の経路における熱風の流量の偏りを防ぐ観点から、各経路を構成する熱風ダクト長は均一であることが好ましい。
【0026】
熱風噴出部342は、複数の熱風噴出孔344を備える。熱風噴出部342は、チャンバ下部14の外周に沿って環状に構成されており、チャンバ下部14の底面の外面の縁部に対して熱風を吹き付ける。熱風噴出部342をこのように構成した理由は、チャンバ下部14の外周からの放熱が最も大きいことを考慮したからである。
【0027】
熱風噴出部342からチャンバ下部14に吹き付けられた熱風は、閉空間内を流通した後、下部に設けられた排気口26から排気される。ここでは、熱風の洗浄度を重視して熱風の循環はさせていないが、熱風を循環させる構成を採用することも可能である。この実施形態では、熱風発生器20および熱風導入管34が本発明の熱風供給手段に対応する。
【0028】
上述の構成において、減圧乾燥装置10は、減圧乾燥処理時には減圧ポンプ28によってチャンバ上部12およびチャンバ下部14で構成される密閉容器内を減圧する。この実施形態では、上プレートヒータ36が68℃に設定され、下プレートヒータ38がオフの状態で、真空引きを行う。この結果、基板40に供給された塗布液中の溶剤が蒸発し、排気管32を介して減圧ポンプ28側に吸引される。
【0029】
また、減圧乾燥処理時には、熱風発生器20を動作させ仕切りシート材16内に熱風を行き渡らせる。仕切りシート材16内に熱風を流通させることにより、排気管32およびチャンバ下部14の外面が加熱されるため、チャンバ下部14の内表面温度や排気管32内の温度が66〜68℃の範囲に抑えられる。このため、基板40の表面温度とチャンバ下部14の内表面温度や排気管32内の温度との間に差がほとんど生じないため、チャンバ下部14や排気管32の内部に結露が生じにくくなる。
【0030】
さらに、図4に示すように、チャンバ下部14の昇降動作に対応して仕切りシート材16が撓むため、チャンバ下部14の下方に閉空間を形成したことによって、チャンバ下部14の昇降動作に支障を来たすことがない。
【0031】
なお、上述の構成において、熱風発生器20によって密閉容器の外表面の加熱を行わなかった場合には塗布基板1枚当たりの乾燥処理に約800秒かかっていたのに対して、熱風発生器20によって密閉容器の外表面の加熱を行った場合には塗布基板1枚当たりの乾燥処理時間を約600秒程度にまで短縮されている。
【0032】
この実施形態では、チャンバ下部14がチャンバ上部12に対して移動する構成を採用しているが、チャンバ上部12がチャンバ下部14に対して移動する構成や、シャッタによってチャンバを開閉する構成にも本願発明を適用することが可能である。チャンバ上部12の上に閉空間を形成する際には、仕切りシート材16を支持するためのフレーム部材をチャンバ上部12の上に設けると良い。
【0033】
また、上述の実施形態では、液晶ディスプレイの製造工程におけるガラス基板に対する乾燥処理について説明したが、この発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、半導体デバイス分野で用いる減圧乾燥装置の密閉容器や真空管の保温加熱、半導体デバイス分野でのCVD装置の密閉容器や管の保温加熱、およびFPD分野でのスパッタリング装置の密閉容器の保温加熱に対しても本発明を適用することが可能である。
【0034】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る減圧乾燥装置の概略を示す図である。
【図2】仕切りシート材の設置例を示す図である。
【図3】熱風導入管の概略を示す図である。
【図4】基板移載時における減圧乾燥装置を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10−減圧乾燥装置
12−チャンバ上部
14−チャンバ下部
16−仕切りシート材
20−熱風発生器
34−熱風導入管
40−基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布膜の成分と溶剤とを含む塗布液が塗布された基板を減圧状態で乾燥することによって前記塗布液から前記溶剤を除去するように構成された減圧乾燥装置であって、
前記基板を載置する載置部と、前記基板を設定温度で加熱するヒータとを内部に備えた開閉可能なチャンバと、
前記チャンバ内部に連通するように構成された排気管と、
前記排気管を介して前記チャンバ内部を減圧するように構成された減圧手段と、
少なくとも前記チャンバにおける前記排気管との接続箇所と前記排気管とを囲んで閉空間を形成する閉空間形成手段と、
前記閉空間形成手段によって閉じられた空間内に所定温度の熱風を供給するように構成された熱風供給手段と、
を備えた減圧乾燥装置。
【請求項2】
塗布膜の成分と溶剤とを含む塗布液が塗布された基板を減圧状態で乾燥することによって前記塗布液から前記溶剤を除去するように構成された減圧乾燥装置であって、
前記基板を載置する載置部と、前記基板を設定温度で加熱するヒータとを内部に備えた開閉可能なチャンバと、
前記チャンバ内部に連通するように構成された排気管と、
前記排気管を介して前記チャンバ内部を減圧するように構成された減圧手段と、
少なくとも前記チャンバにおける基板リフトアップピンを囲んで閉空間を形成する閉空間形成手段と、
前記閉空間形成手段によって閉じられた空間内に所定温度の熱風を供給させるように構成された熱風供給手段と、
を備えた減圧乾燥装置。
【請求項3】
塗布膜の成分と溶剤とを含む塗布液が塗布された基板を減圧状態で乾燥することによって前記塗布液から前記溶剤を除去するように構成された減圧乾燥装置であって、
前記基板を載置する載置部と、前記基板を設定温度で加熱するヒータとを内部に備えた開閉可能なチャンバと、
前記チャンバ内部に連通するように構成された排気管と、
前記排気管を介して前記チャンバ内部を減圧するように構成された減圧手段と、
少なくとも前記チャンバにおける補強リブを囲んで閉空間を形成する閉空間形成手段と、
前記閉空間形成手段によって閉じられた空間内に所定温度の熱風を供給させるように構成された熱風供給手段と、
を備えた減圧乾燥装置。
【請求項4】
前記閉空間形成手段は、可撓性を有する仕切り部材を備えた請求項1〜3のいずれか1項に記載の減圧乾燥装置。
【請求項5】
前記熱風供給手段は、
所定温度の熱風を発生させる熱風発生器と、
前記熱風発生器にて発生した熱風を前記チャンバにおける前記排気管が接続された面の縁部に吹き付けるように構成された熱風導入管と、
を備えた請求項1〜4のいずれか1項に記載の減圧乾燥装置。
【請求項6】
前記仕切り部材が透明部材である請求項4または5に記載の減圧乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−189896(P2009−189896A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29892(P2008−29892)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】