説明

減圧治療及び軟骨細胞を用いた軟骨形成の刺激

哺乳類の組織部位における軟骨形成を刺激する方法を提供する。また、生体適合性足場を提供する。さらに、組織部位における軟骨形成を刺激するためのシステムを提供する。さらに、哺乳類の組織部位の軟骨形成を刺激するためのマニホルド、軟骨細胞、及び減圧源を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年6月26日に出願されここに引用されている米国仮出願番号61/076,028の利益を主張する。
【0002】
本実施例は、一般に、組織治療システムに関し、特に、軟骨形成を刺激するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
臨床研究及び診察により、組織部位の近くに減圧を与えることが、組織部位での新たな組織の成長を増大且つ加速させることが分かっている。このような現象の適用例は多く存在するが、減圧の適用は創傷を治療する際に特に成功を収めている。このような治療(医学界で、しばしば「負圧治療」又は「真空治療」と称される)によって、迅速な治癒及び肉芽組織の形成の増大を含む、多くの利益をもたらす。一般に、減圧は、多孔質パッド又は他の吸い込み器具を介して組織に適用される。特に示さない限り、ここで使用される「又は」は、相互排他性を要しない。多孔質パッドは、多くの場合、オープンセルの発泡体であり、組織に減圧を供給し組織から引き出される流体を導き得るセル又は空孔を含んでいる。多孔質パッドは、一般に、存在する創傷に適合するような大きさであって、創傷に接触するよう配置され、創傷が治癒且つ小さくなり始めると、より小さな発泡体片と定期的に交換される。多孔質パッドは、多くの場合、治療を促進する他の成分を有する包帯剤に組み込まれる。減圧治療を用いて軟らかい組織の傷を治療されているが、それは、例えば軟骨再生を促進するよう使用されていない。
【0004】
加齢、負傷、摩耗及び代謝異常による骨関節炎といった軟骨へのダメージが、世界中で人々を患わせている。現在のところ、軟骨にダメージを与える日常の生活により、実に米国人の85%が変形性関節疾患にかかっているであろうと考えられている。関節軟骨の緩やかな変性及び破壊は、外傷、関節の構造的変形及び太り過ぎによるものである。このような過程が、一部にはプログラム細胞死又はアポトーシスを通して軟骨を薄くする。軟骨へのダメージ又は摩耗の臨床症状は、多くの場合、関節の腫れ、捻髪音を含み、痛みを伴い弱らせて機能的運動性を低下させる。状態が悪化すると、痛みが最低限の身体的努力さえも制限し安静時に持続して睡眠が困難となる可能性がある。矯正及び/又は治療せずにこのような状態が持続すると、関節全体が破壊される可能性があり、患者は関節置換術による深刻な置換手術を受け又は障害者になることになる。軟骨損傷の合併症は多種多様である。例えば、損傷した軟骨は、関節及び関節面にさらなるダメージを引き起こし易い。関節面へのダメージは、骨棘の進展に関係し、関節の動きをさらに制限する。
【0005】
さらに、軟骨は、耳及び鼻といった体の様々な部分の主要な構造支持体である。また、負傷による軟骨の欠損により美容上の欠陥をもたらす。すなわち、ダメージを受け劣化した軟骨は、生活の質を落としてしまう。
【0006】
しかしながら、体は、軟骨を完全に修復することはできない。軟骨は、主として、細胞外基質を形成するコラーゲン繊維、プロテオグリカン及びエラスチン繊維である。このような基質は、軟骨細胞と称される特別な細胞によって形成される。軟骨細胞は、最小限の血液供給で生き延び得る数少ない細胞タイプの1つである。しかしながら、軟骨がダメージを受ける場合、軟骨細胞への十分な血液供給の不足により、新たな軟骨細胞が再生できなくなり、栄養素の増加及び他の細胞及びタンパク質への血流を介したアクセスを要するプロセスとなる。全層の関節軟骨のダメージ又は骨軟骨病変により、通常の炎症反応をもたらすが、その後で機能的に劣った線維軟骨の形成によって修復されてしまう。
【0007】
関節軟骨の変性を抑制又は遅らせる現在の技術は、抗炎症剤、軟骨形成の刺激因子、抗リウマチ剤、浸透性薬剤、全身性薬剤、粘性保護、デポーステロイドの注射の使用を含んでいる。他の方法が、軟骨細胞又は合成基質の実施を含んでいる。軟骨のダメージの治療の1つの方法は、ダメージを受けた組織の再付着及び再構成による外科的介入である。上記の方法はいずれも全体として満足のいくものではなく、このような方法は、完全な機能を滅多に回復させず、本来の正常な状態に組織を戻さない。さらに、このような方法は、いずれもインサイチュで又は体内で軟骨を再生しないことが証明されている。
【0008】
さらに、靱帯及び腱といった密性結合組織構造の回復を促進するための実績のある方法が存在しない。靱帯及び腱の負傷は、ありふれており、治癒するのが困難である。即時手術により靱帯又は腱の完全断裂又は破断を修復して、ダメージを受けた組織を回復させそれを移植片と交換するのは、一般的ではない。手術前に、移植片の受容者は、リハビリ及び回復のための長期にわたる作業を行う必要がある。多くの場合、現在の方法によって靱帯及び腱を回復させるのは困難である。修復を選択する場合、靱帯及び腱に付いた関節及び筋肉は、多くの場合、組織が回復し得るよう固定される。
【0009】
結合組織が欠損し、ダメージを受け、又は摩耗した領域の結合組織を再生するための、安全、簡単、迅速、安価且つ効果的なシステム及び方法の深刻な必要性がある。
【発明の概要】
【0010】
既存の軟骨修復治療法によって呈される問題を、具体的な実施例によって説明する生体物質を使用して軟骨の成長を刺激する本システム及び方法によって解決する。
【0011】
一実施例では、組織部位に軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を適用し、十分な期間、組織部位に減圧を適用して組織部位において新たな軟骨の成長を誘発することを有する、哺乳類の組織部位における軟骨形成を刺激する方法が提供される。
【0012】
別の実施例では、軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を有する生体適合性材料の足場であって、それを通して減圧を伝えるよう十分に多孔質の足場を提供する。
【0013】
さらなる実施例では、軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体、減圧源、及び組織部位から減圧源に減圧を伝え得るマニホルドを有する、組織部位において軟骨形成を刺激するためのシステムを提供する。
【0014】
さらなる実施例では、哺乳類の組織部位に軟骨形成を刺激するために、マニホルド、軟骨細胞及び減圧源の使用を提供する。
【0015】
具体的な実施例の他の目的、態様、及び利点が、図面及び以下の詳細な説明を参照することにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、組織を治療するための減圧治療システムの具体例である。
【図2】図2は、具体的な実施例に係る、軟骨再生を要する組織部位への減圧治療を管理する方法を示すフローチャートである。
【図3】図3は、具体的な実施例に係る、減圧治療を管理し易くして結合組織を誘発するための型の使用を示す。
【図4】図4A−4Cは、具体的な実施例に係る、軟骨再生のための減圧治療の結果を示す組織切片を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
具体的な実施例の以下の詳細な説明では、その一部を形成する添付図面を参照する。これらの実施例は、本発明を当業者が実施し得るよう十分詳細に説明されており、他の実施例を使用することができ、本発明の精神又は範囲から逸脱せずに、論理的構成、機械的、電気的、及び化学的変更をなし得ることが理解されよう。ここで説明する実施例を当業者が実施し得るのに必ずしも不必要な説明を避けるために、当業者に周知の特定の情報についての説明を省略する。このため、以下の詳細な説明は、限定的なものととらえるべきではなく、具体的な実施例の範囲は、添付の特許請求の範囲のみによって規定される。
【0018】
ここで使用する「減圧」という用語は、概して、治療を施される組織部位における周囲圧力よりも低い圧力に関するものである。大部分のケースでは、このような減圧は、患者が置かれる大気圧よりも低いであろう。代替的に、減圧を組織部位の組織に関連する静水圧よりも小さくし得る。「真空」及び「負圧」という用語を、組織部位に加えられる圧力を説明するよう使用し得るが、組織部位に加えられる実際の圧力低下を、完全真空に通常関連する圧力低下よりも下げることができる。減圧は、最初に、組織部位の領域の流体流れに発生する。組織部位の周囲の静水圧が所望の減圧に達すると、流れが弱まり、その後、減圧が保持される。それ以外を示さない限り、ここで言及する圧力の値は、ゲージ圧である。同様に、減圧の増大とは、一般に絶対圧力の減少に関する一方、減圧の減少とは、一般に絶対圧力の増加に関する。
【0019】
ここで使用する「組織部位」という用語は、骨組織、脂肪組織、筋肉組織、神経組織、皮膚組織、血管組織、結合組織、軟骨、腱、又は靱帯といった、ある組織の又はその中における、創傷又は欠陥の場所に関するが、これらに限定されない。「組織部位」という用語は、さらに、必ずしも傷ついていたり欠陥を有する組織の領域に関わけではないが、付加的組織の成長の付加又は促進が望ましい領域に関する。例えば、特定の組織領域に減圧組織治療を使用して、インキュべートされ別の組織の場所に移植され得る付加的組織を成長させ得る
【0020】
図1を参照すると、組織部位102に減圧治療を適用するためのシステム100の具体的な実施例を示す。システム100の具体的な実施例は、例えば、再生による修復を必要とする軟骨を含む組織部位102の創傷106に減圧治療を適用する。組織部位102は、骨組織、脂肪組織、筋肉組織、皮膚組織、血管組織、結合組織、軟骨、腱、靱帯、又は他の組織を含む、ヒト、動物、又は他の生物の体組織であることが理解されよう。組織部位102の治療は、例えば腹水又は滲出液といった流体の除去、例えば塩分又は成長因子といった物質を含む流体の送出、及び軟骨の成長を促進するための減圧の適用を含んでいる。組織部位102における軟骨の創傷106は、外傷、外科手術、摩耗、関節炎、ガン等といった様々な要因によるものであり、又は先天性の可能性もある。
【0021】
システム100は減圧包帯剤110を含んでおり、それは、組織部位102に減圧を適用するよう構成されたマニホルド111と、創傷106の近くに配置するよう構成された足場112と、減圧包帯剤110を少なくとも部分的に覆って、組織部位102の創傷106を覆うシールを与えるドレープ114とを含む。軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を、組織部位102に直接的に配置し、又は組織部位102に適用される足場112の中に収容し得る。システム100は、さらに、フィルタ(図示せず)を具えた容器115及び減圧源116を具えており、容器115が管路118を介して減圧包帯剤110と液通し、管路119を介して減圧源116とも液通する。減圧源116は、使用時に組織部位102に減圧を適用するマニホルド111及び足場112に減圧を適用するよう構成される。管路118は、管アダプタ120を通して減圧包帯剤110と流体連通し、マニホルド11にドレープ114を通して減圧を適用する。
【0022】
さらに別の実施例では、減圧包帯剤110が、マニホルド111、足場112、及びドレープ114に加えて又はそれらの代わりに複数の層又は材料から構成されている。これらの層のいくつかは生体吸収性である一方、他の層は生体吸収性ではない。例えば、マニホルド111は、(以下で用語を定義するように)よりゆっくりと分解する生体不活性材料又は生体吸収性材料に隣接する生体吸収性材料を含んでおり、創傷106からの組織の成長を支持する吸収性足場112を除去せずに減圧包帯剤110を除去又は交換し得る。
【0023】
容器115は、組織部位102から除去された滲出液及び他の流体をろ過又は保持する流体リザーバ又は収集部材とし得る。容器115は、圧力フィードバック装置、容量検出システム、血液検出システム、感染検出システム、流量監視システム、及び温度監視システムといった非限定的な例を含む他の装置(図示せず)を含んでいる。これらの装置のうちのいくつかを減圧源116と一体に形成し得る。例えば、減圧源116の減圧ポートは、例えば臭いフィルタといった1又はそれ以上のフィルタを有するフィルタ部材を有する。
【0024】
減圧源116は、真空ポンプ、壁面吸い込み又は他の供給源といった減圧を適用するための何らかの装置とし得る。組織部位に適用される減圧の量及び特性は、概して、適用例にしたがって変わるが、減圧は概して−5mmHg乃至−500mnHgの間であり、より一般的には、−100mmHg乃至−300mmHgの間である。減圧治療で使用される特定のプロトコルは、組織部位102の場所、減圧包帯剤110又は使用される薬剤に依存する。さらに減圧は、実質的に継続的又は周期的適用であり、長時間にわたって圧力を振動させる。減圧源116は、センサ、処理ユニット、アラーム表示器、メモリ、データベース、ソフトウェア、ディスプレイユニット、及び組織部位102に減圧治療を適用し易くするユーザインタフェースを含め得る。一例では、センサ又はスイッチ(図示せず)を減圧源116又はその近傍に配置して、減圧源116によって発生する減圧源の圧力を判断し得る。センサは、減圧を監視且つ制御し減圧源116によって適用される処理ユニットと通信する。
【0025】
軟骨は、任意のタイプの軟骨である。例えば、硝子軟骨は、体内の最も一般的なタイプの軟骨であり、その細胞外基質にタイプII繊維のコラーゲンを特徴的に含んでいる。硝子軟骨は、関節、肋軟骨(肋骨)、鼻、咽頭、及び成長板に見られる。別のタイプの軟骨は、耳、気管及び喉頭蓋に見られる弾性軟骨である。軟骨組織の第3のタイプは、線維軟骨、恥骨結合、椎間板、関節の部分、半月板及び腱又は靱帯を骨に結合する部位に存在する。また、成長時の骨端軟骨又は軟骨板といった、これらのタイプの軟骨の様々な組み合わせ又は中間体が存在する。
【0026】
減圧包帯剤110のマニホルド111は、足場112又は組織部位102の部分に接触するよう構成されている。マニホルド111は、減圧包帯剤110によって治療される組織部位102に部分的又は全体的に接触し得る。組織部位102が創傷の場合には、マニホルド111が部分的又は全体的にこのような創傷を埋める。マニホルド111は、実施される治療方法又は組織部位102の特性及び大きさといった様々なファクタに応じて、任意の大きさ、形状、又は厚さとすることができる。例えば、使用者によってマニホルド111の大きさ及び形状をカスタマイズして、足場112及び/又は組織部位102特定の部分をカバーし得る。マニホルド111は例えば正方形とすることができ、又は円形、多角形、不規則な形状、又は他の形状とし得る。ある具体的な実施例では、マニホルド111が足場112に接触する場合又は近接する場合に、マニホルド111は足場112及び組織部位102に減圧を与える発泡材料である。発泡材料は疎水性又は親水性のいずれかである。非限定的な一例では、マニホルド111は、Kinetic Concepts,Inc.of San Antonio,Texasから市販されているGranuFoam(登録商標)包帯剤といった、オープンセルの発泡体である。
【0027】
ある実施例では、マニホルドとして足場112及び組織部位102に減圧を与える間、マニホルド111が組織部位102から流体を逃がすよう機能する場合に、マニホルド111が親水性材料でできている。特定の機構に制約されずに、マニホルド111のウィッキング特性は、毛細管流動又は他のウィッキング機構によって、足場112及び組織部位102から流体を引き出し得る。親水性発泡体の一例は、ポリビニルアルコール、Kinetic Concepts,Inc.of San Antonio,Texasから市販されているV.A.C. WhiteFoam(登録商標)包帯剤といった、オープンセルの発泡体である。他の親水性発泡体は、ポリエステルで作製されるものを含んでいる。親水性を呈する別の発泡体は、親水性を与えるよう処理又はコーティングされた疎水性発泡体を含んでいる。
【0028】
別の実施例では、マニホルド111が、減圧包帯剤110の使用後に組織部位102から取り除く必要のない天然又は合成の生体吸収性材料で構成されている。生体吸収性材料は、体内に吸収され得る又は吸収される前に排泄又は代謝機能によって体から除去され得る材料であり、生体吸収性材料は、化学的、酵素的、又はそうでなければ体内で分解され単純な化学種となる。適切な生体吸収性材料は、ポリ乳酸(PLA)及びポリグリコール酸(PGA)のポリマブレンドを含むが、これらに限定されない。また、ポリマブレンドは、ポリカーボネート、ポリフマル酸エステル、及びカプロラクタムを含んでいるが、これらに限定されない。マニホルド111は、さらに、新たな細胞成長の足場として機能し、又は足場112とともに使用して細胞成長を促進し得る。
【0029】
マニホルド111は、さらに、減圧包帯剤110を通して減圧を適用する場合に、組織部位102の肉芽化を促進する。例えば、マニホルド111の面の一部又は全部が、マニホルド111を通して減圧を適用する場合に、足場112及び組織部位102での微小歪み又は応力の原因となる凹凸のある経路、又はヒスイ(jaded)のような輪郭を有する。これらの微小歪み及び応力は新たな組織成長を増加させることが分かっている。
【0030】
組織部位102に隣接して、それに接触させて、又は実質的にその上方に足場112を配置し、創傷106における軟骨の成長を促進し得る。上述したように、組織部位102に減圧を伝える場合に、足場112はマニホルドとしての機能も有する。足場112は、創傷106内の軟骨108の細胞の成長のためにテンプレートを与える3次元の多孔質構造である。足場材料の非限定的な例は、リン酸カルシウム、コラーゲン、PLA/PGA、ヒドロキシアパタイト、炭酸塩、及び処理された同種移植片材料を含んでいる。また、足場112は、組織部位102に流体を送出するのを、又は組織部位102から流体を除去するのを補助する。さらに、足場112は、組織部位102に流体及び他の材料を移動させ又はそこから足場112の空孔に移動させるために、創傷106に隣接して位置して流体流動、軟骨細胞の移動等を促進する分配面122を具える。ある実施例では、足場112は、組織部位102の創傷106の形状又は凹凸に一致するよう柔軟性を有する。また、足場112の構造は、軟骨の異常増殖を防ぐよう機能し得る。治療される体内の軟骨の場所の治療される軟骨のタイプに応じて、過度の経験によらずに、足場112の形状及び柔軟性を選択し得る。
【0031】
軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を組織部位102又は足場112に移植又はそうでなければ適用して、軟骨108の成長を促進し得る。軟骨細胞の前駆体の一例は間充織幹細胞である。軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体の元となるものは、骨軟骨移植、患者への自己移植、又は同種移植片、異種移植片、又は人工的に作られた組織とし得る。一実施例では、組織の元となるものは、さらなる成長因子の有無にかかわらず、体外での細胞培養法を介して用意される軟骨細胞といった軟骨細胞培養又は幹細胞培養とし得る。細胞培養法の例として、例えば、米国特許第5,226,914号;第5,811,094号;第5,053,050号;第5,486,359号;第5,786,217号及び第5,723,331号を参照されたい。また、モザイク形成といった方法を用いた従来の非細胞の培養に基づく手段によって組織を採取することができ、Acufex7、COR System、又はArthrex7 Osteochondral Autograft Transfer Systemといった市販されている器具を用いて軟骨が採取される。さらに、採取される組織を足場112に直接的に適用することができ、又は予めインキュべートし得る。
【0032】
一時的又は安定的に細胞、軟骨細胞、又は軟骨細胞の前駆体に核酸を導入し、組み換え核酸をさらに含め得る。このような核酸の非限定的な例は、サイトカイン、酵素、又は調節タンパク質といったタンパク質をコードするもの;天然タンパク質を過剰発現させ又は抑える(例えば、癌の開始又は成長を抑制する)促進剤といった調節核酸;ミクロRNA(miRNA)又は別のRNA干渉分子;アンチセンス分子;組織形成をモニタリングするのを補助するマーカー等を含んでいる。熟練者は、過度の経験によらずに、特定の適用例のための適切な組み換え核酸を含む軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を判断且つ調整し得る。
【0033】
また、他の細胞を足場112に播種し及び/又は組織部位102に又はその中に配置して軟骨細胞の成長を刺激し得る。非限定的な例が、線維芽細胞、免疫細胞、軟骨細胞の前駆体ではない幹細胞等を含んでいる。ある実施例では、足場112への細胞の付着を、基底膜成分、寒天、アガロース、ゼラチン、アラビアゴム、I,II,III,IV,及びV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、ポリビニルアルコール、それらの混合物、及び細胞培養の分野の当業者に知られた他の親水性ペプチド付着物質といった化合物で、足場112をコーティングすることによって促進し得る。他の実施例では、細胞が足場112に播種され、足場112が組織部位102に適用される前に足場112がインキュべートされる。
【0034】
上述のように、組織部位102又は足場112にサイトカインを適用し得る。ここで使用するように、サイトカインは、成長因子及びホルモンを含む、細胞の成長、増殖又は分化に影響を及ぼすタンパク質である。ある実施例では、サイトカインは軟骨の成長を促進し得るものである。非限定的な例が、骨形態形成タンパク質(BMP)−2、BMP−6、BMP−7、形質転換成長因子β(TGF−β)、インスリン様成長因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、又は軟骨由来レチノイン酸感受性タンパク質(CD−RAP)を含んでいる。サイトカインは合成的又は自然に作られるものであり、又は組織部位102又は足場112に有る細胞によって自然に又は遺伝子導入で生成される。
【0035】
足場112は、リン酸カルシウム、コラーゲン、PLA/PGA,ヒドロキシアパタイト、炭酸塩、及び/又は処理された同種移植片材料を含んでいるが、これに限定されない。別の実施例では、足場112を使用して、足場112の表面に治療薬又は予防薬のうちの少なくとも一方を結合させることによって、組織部位102に治療薬又は予防薬のうちの少なくとも一方を放出する。
【0036】
ある実施例では、足場112が、流路によって接続された複数の開いたチャンバ又は「空孔」を含む多孔質であり、流体が空孔の間を流通し得る。空孔の大きさ、形状、又は相互結合性を、一様に、ランダムに、又はパターン化するようにしてもよく、軟骨形成、反応、修復、又は宿主組み込みを促進又は制御するよう変更してもよい。さらに、組織部位102を囲む健常組織で新たに形成される軟骨108の組み込みを促進又は制御するよう、足場112の空孔の大きさ、形状、又は相互結合性を変更してもよい。様々な実施例では、足場112が高い空孔率(すなわち、高い空気量)を有する。ある実施例では、浸潤細胞の付着により新たな軟骨形成を誘発し得るよう空孔を構成するのが望ましい。上記のように、軟骨形成を促すのに先立って空孔及び流れチャンバを軟骨細胞又は他の細胞タイプで播種し得る。また、足場112の流路が、組織部位102への減圧の移動を含む、組織部位102に供給されそこから除去される流体の分布を促進する。
【0037】
一実施例では、足場112が、隣接する空孔に流体接続された複数の空孔を有する主にオープンポア材料ででできており、材料のオープンポアによって且つそれらの間によって複数の流路が形成されている。空孔の大きさ及び形状のバリエーションにより、流路が変化し、それを用いて材料を通る流体の流れ特性を変えることができる。ある実施例では、足場112の空孔の大きさが25μmと500μmとの間の範囲である。他の実施例では、空孔の大きさが50μmと250μmとの間である。さらなる実施例では、空孔の大きさが50μmと150μmとの間である。
【0038】
生体適合性材料、すなわち、望ましくない局所的又は全身的作用を体内で引き起こさない材料で足場112を形成し得る。また、生体適合性材料でできた足場112は、機械的且つ生物化学的特性を有しており、組織の成長及び増殖に対して十分なサポートを与える。インストロン試験機を用いた引張強度といった機械的特性、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)による分子量、示差走査熱量測定法(DSC)によるガラス転移温度及び赤外線(IR)分光学法による結合構造に関連して材料を特徴付けることができる。また、例えば、エイムズ試験又は催奇形性試験を含む変異原性試験による毒性、免疫原性、炎症、放出又は分解に関する動物における生化学、細胞、又は移植研究に関連して材料を特徴付けることができる。
【0039】
一実施例では、生物学的に不活性な材料、すなわち、体内で何らかの反応を引き起こさず体内で生体吸収又はそうでなければ分解しない材料で足場112を形成し得る。他の実施例では、上で定義したような用語としての生体吸収性材料で足場112が形成されている。足場112が生体吸収性又は生物学的に不活性な材料であるか否かにかかわらず、それが組織部位102に接触する場合に、足場112もまた生体適合性材料である。足場112が生体吸収性材料でできている場合、所望の期間内で分解するよう材料を構成し得る。一実施例では、所望の分解期間は6乃至12週である。別の実施例では、所望の分解期間は3ヵ月と1年との間である。さらに別の実施例では、所望の分解期間が1年よりも長い。さらに、ある実施例では、生体吸収性材料でできた足場112が、足場112を作るよう使用される材料の分子量に関係した方法で分解し得る。これらの実施例では、高い分子量の材料を具える足場112が、低い分子量の材料を具える足場112よりも長期間にわたって構造的完全性を保持する。
【0040】
メルトスピニング法、押出法、鋳造、又はポリマの加工の分野で周知の他の方法で足場112を形成し得る。好適な溶媒は、使用する場合、処理によって除去されるもの、又は処理の後に残る量の生体適合性材料である。足場112を形成するよう使用し得るポリマの例は、天然及び合成ポリマを含む。使用し得る合成ポリマは、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLAGA)、ポリエチレングリコール−PLAGA共重合体のほかに、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸グリコール酸重合体(PLGA)、及び他のポリヒドロキシ酸、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、分解性ポリシアノアクリレートといった生体吸収性ポリマであるが、これらに限定されない。天然ポリマの例は、アルブミン、コラーゲン、フィブリン、及び合成ポリアミノ酸といった、及びタンパク質、アルギン酸塩、ヘパリン、及び他の糖単位の天然由来の生分解性高分子を含むが、これらに限定されない。また、ポリマブレンドがポリカーボネート、ポリフマル酸エステル、及びカプロラクトンを含んでいるが、これらに限定されない。
【0041】
ある実施例では、生体吸収性の足場112が、PLA、PGA又はPLA/PGA共重合体でできている。乳酸の環状エステルでPLAポリマを調整し得る。D(−)及びL(+)乳酸の混合物である光学不活性なDL−乳酸のほかに、乳酸のL(+)及びD(−)形式を使用して、PLAポリマを調整し得る。PGAは、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)のホモポリマである。一般に、グリコール酸のポリグリコール酸への転換では、グリコール酸自身が初めに反応して、熱及び触媒の存在下で高分子の直鎖ポリマに変換するグリコール酸の環状エステルを形成する。また、足場112が、フェルト状のマット、液体、ゲル、発泡体、又は複数の流路を介して3次元で流体連通する他の生体適合性材料であることが考えられる。
【0042】
ドレープ114は減圧包帯剤110を覆っており、液体、空気、及び気体といった流体を通すための半浸透性バリヤとして機能する。減圧包帯剤110のための構造的支持を与えるある実施例では、接着剤を介した方法を含む方法を用いて、ドレープ114を減圧包帯剤110又はマニホルド111に結合し得る。ここで使用するように、「結合される」という用語は、別の物体を介した結合及び直接的な結合を含んでいる。また、「結合される」という用語は、各要素が材料の同じ部分を形成することによって、互いに連続する2又はそれ以上の要素を含んでいる。また、「結合される」という用語は、化学的結合、機械的、熱的、又は電気的結合を介した化学物質を含んでいる。ドレープ114にマニホルド111を結合する方法の特定の非限定的な例は、溶接、接合、接着、セメント等を含んでいる。代替的な実施例では、ドレープ114が別々の付着構造ではなく、その代わりにマニホルド111自身がドレープ114と同じように機能する不透水性材料の内膜を含んでいる。
【0043】
ドレープは、空気又は流体シールを与える材料である。例えば、ドレープは不透水性又は半透水性のエラストマー材料である。「エラストマー」とは、エラストマーの特性を有することを意味する。それは、概して、ゴム状の特性を有する高分子材料に関する。特に、大部分のエラストマーは、100%よりも大きい伸び率及び顕著な復元力を有する。材料の復元力は、弾性変形から回復するための材料の能力に関する。エラストマーの非限定的な例は、天然ゴム、ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリブタジエン、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマー、クロロスルホン化ポリエチレン、多硫化ゴム、ポリウレタン、EVAフィルム、コポリエステル、及びシリコーンを含んでいる。ドレープ材料の特定例は、シリコーンドレープ、3MTegaderm(登録商標)ドレープ、Avery Dennisonによって市販されているアクリルドレープ、切開用ドレープを含んでいる。
【0044】
使用時に、システム100を使用して、組織部位102における軟骨形成を判断する。介護者は、軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を組織部位102又は減圧包帯剤110に適用し、その後でマニホルド111及び足場112を介して、組織部位102に新たな軟骨形成を引き起こすのに十分な時間、組織部位102に減圧を適用し得る。減圧の適用により、空気をドレープ114と組織部位102との間の空間から抜くと、組織部位102を圧縮しこれに適合する柔軟性のあるドレープ114となる。ある適用例では、システム100を使用して、鼻又は耳といった軟骨を有する組織を外見上変え得る。また、ある哺乳類で軟骨をインキュべートし、その後で別の哺乳類に移植できるが、例えば、マウスの鼻又は耳をヒトへの移植のために成長させる。また、システム100を軟骨の創傷106に適用して、創傷106を少なくとも部分的に埋めるよう使用し得る。
【0045】
また、システム100によって、固着、温度、圧力(それに関連して酸素といった不可欠な気体の勾配)、浸透圧、膠質浸透圧、及び様々な栄養素及び医薬品の添加又は除去の効果的な制御が可能となる。さらに、当システム及び方法で減圧を適用するための装置は、プログラムされた協調的な流入及び排出サイクルによって、気体及び液体の流路の操作のための要素を移動させ得る。このようなサイクルは、システムの所望の整合性及び安定性を保持するよう構成される一方、許容範囲内の複合力、流れ、及び濃度で変化し得る。
【0046】
また、システム100は、組織部位102に、流体、液体又は気体を送出するよう構成し得る。本実施例では、組織部位102に流体125を送出するための流体供給部124が、管路126によって減圧包帯剤110に流体連通し、管路126が、減圧包帯剤110(図示せず)に直接的に、又は減圧源116からの減圧及び/又は流体供給部124からの流体125の送出をそれぞれ制御するためのバルブ127及び128の使用を要する管路118を介して間接的に結合する。流体供給部124は減圧源116とは別体であり、又はこれに取り付けられ、又はその中に組み込まれている。流体供給部124により、流体を組織部位102に浸出させて、不純物を洗い流し、感染を防止し、創傷106における組織の成長を促す治療方法が可能となる。このように、流体供給部124を使用して、様々な洗浄流体、成長因子、抗生物質、麻酔薬、抗菌剤、抗ウイルス剤、細胞生長促進剤、又は化学的に活性な化学物質を組織部位102に送出し得る。また、流体供給部124を使用して、例えば、保持される減圧の有る無しに拘わらず、組織部位102での治療効果の促進且つ維持のための少量の無菌空気の送出を含む同じような目的のために、組織部位102にガス流体を送出し得る。
【0047】
図2を参照すると、軟骨再生を要する組織部位に減圧治療を施す方法又は減圧システムの使用によって治療する方法の具体例のアウトラインであるフローチャートを示す。まず、例えば、介護者が関心のある組織領域を特定する(ステップ201)。組織部位が患者の皮膚の下側にある場合、すなわち肉眼で見えない場合、介護者は、MRI画像装置といった画像装置及び画像技術の使用によって組織部位を識別する。このとき、介護者は、患者の体内を通って健常な正常組織へのダメージが最小となるような組織領域に至る最適な経路を判断する。
【0048】
そして、組織部位にマニホルドを送出する(ステップ202)。さらに、実施例に応じて、減圧、流体、気体、又は空気を送出するための管路を、マニホルドを組織部位に送出する前後に結合させる。組織部位が患者の皮膚の下方にある場合、患者の皮膚を通して且つ間質組織を通して体内に挿入することによって、マニホルドを組織部位に送出する。
【0049】
ある実施例では、組織部位がマニホルドを挿入するのに不十分なスペースを有するものと考えられる。これらの実施例では、空洞を形成する器具を挿入する。例えば、このような器具は、膨張式器具とすることができる。空洞を形成してからマニホルドを送出する。
【0050】
そして、マニホルドの主送出面を組織部位の近くに配置する(ステップ203)。そして、減圧を組織部位に適用する(ステップ204)。減圧を連続的又は断続的な方法で適用する。さらに、流体、空気、又は上述したような回復又は再生を促進する化学物質の送出によって減圧を変えることが考えられる。
【0051】
減圧治療の長さ及び力は、過去の経験、結合組織の回復率等といった、介護者によって適切であると判断される様々な要因に依存する。軟骨の部分的又は完全な再生の後、マニホルドを除去する(ステップ205)。
【0052】
ある実施例では、足場のオープンポア又は流路を、特定の3次元の形状の特定の結合組織の成長を促進するよう構成し得る。ある実施例では、例えば、耳といった体表面での軟骨の成長を促進するよう足場を構成し得る。特に図3を参照すると、耳301の上部の組織部位302において耳301に減圧治療を適用するためのシステム300の具体例を示す。システム300のこのような具体例は、耳301の欠損部分、又は軟骨創傷306に適用して欠損した軟骨を再生させる。組織部位302の軟骨創傷306は、例えば、外傷、手術、又はガンを含むものを原因とするものである。システム300は、組織部位302及び足場312に減圧を送出するよう構成され、軟骨創傷306の近くに配置するよう構成されたマニホルド311を含む減圧包帯剤303、及び減圧包帯剤303を少なくとも部分的に覆って組織部位302の軟骨創傷306を覆う気密シールを与えるドレープ314を含んでいる。システム300の残りの部品は、例えば、減圧包帯剤303に管路118を流体結合させるチューブアダプタ120を含む、上述のシステム100と同じ部品を含んでいる。上述のシステム300の全ての部品は、システム100の部品と同じ方法で動作する。
【0053】
上述のように、足場312を、組織部位302の近くに、又はそれに接触させて、又は実質的にその上方に配置させて、軟骨創傷306における軟骨の成長を促進し得る。足場312は、創傷306内の軟骨の細胞成長のためのテンプレートを与える3次元のポーラス構造である。減圧包帯剤303の点線で示すように、耳301の所望の形状に基づいて、足場312の形状及び柔軟性を選択し得る。一実施例では、型(図示せず)を使用して、足場312を所望の形状に形成し得る。耳301の欠損部の組織部位302にフィットするよう型を形成すると、軟骨創傷306を修復するのに望ましい3次元形状に足場312を形成するよう使用し得る。上述のように、足場312は軟骨細胞を含んでおり、又は軟骨創傷306に直接的に対処を適用する。軟骨創傷306の空洞の中に足場312を含む減圧包帯剤303を配置する場合、上述のようにドレープ314を配置して減圧包帯剤303をカバーする。そして、減圧包帯剤303に流体結合した管路118を介した減圧源(図示せず)の使用によって減圧治療を適用し得る。
【0054】
別の実施例では、管路118を介した流体供給部(図示せず)によって又は他の独立した流体供給部によって送出される軟骨細胞を含む流体で満たされる空洞を形成する軟骨創傷306の上方に型を配置し得る。型と軟骨創傷306との間の空洞を流体で満たした後、流体が硬化して、組織部位302の再生軟骨のための所望の形状を取る3次元足場312を形成する。また、硬化の後に足場を軟骨細胞とともに播種し得る。
【0055】
ここで開示された本発明の明細又は実施例を考慮することにより、本発明の特許請求の範囲内の他の実施例が当業者に明らかとなろう。実施例とともに明細は、単なる具体例であると見なされ、本発明の範囲及び精神は本例の後に記載された特許請求の範囲によって示される。具体例な実施例を以下の例で説明する。
【0056】
具体例:軟骨組織の形成の誘発
無傷の頭蓋骨の膜面への減圧治療の適用に応じて軟骨形成が観察された。これらの観察結果は、治療に応じた軟骨形成がユニークで再生医療の分野で非常に関心が高いという点で重要である。これらの形成は、足場材料がなく、減圧の適用のみで観察された。減圧を適用しなかった対照には軟骨形成が観察されなかった。
【0057】
先天性異常又は疾患及び外傷を原因とする軟骨変性は大きな臨床的帰結である。血液の供給及びそれに続く創傷治癒反応の不足のために、軟骨へのダメージは、一般に、不完全な修復をもたらす。全層関節軟骨のダメージ又は骨軟骨病変により、通常の炎症反応となるが、下位の線維軟骨をもたらす。外科的介入が多くの場合唯一の選択肢である。軟骨の損傷の修復のための治療は多くの場合満足のいくものではなく、完全な機能を回復し本来の正常な状態に組織を回復させることはまれである。このような例は、GranuFoam(登録商標)及び減圧治療を用いた骨膜からの新たな軟骨の誘導を示す。
【0058】
発泡体マニホルド及び減圧は、その能力によって骨膜に対して新たな軟骨を誘導するものとみなされる。無傷な、損傷を受けていないウサギの頭蓋骨を示した。GranuFoam(登録商標)(KCI Licensing,Inc.,San Antonio TX)発泡体包帯剤を骨に適用した。いくつかの治療により、発泡体で覆った骨もまた減圧を適用した。治療の後、治療した骨に対してパラフィン包埋、セクショニング、及び染色を施して、新たな骨形成に関する治療の効果を評価した。
【0059】
図4Aは、ウサギの頭蓋骨における損傷していない未治療の骨膜を示す。ドットは、頭蓋骨と骨膜の薄い層との間の境界を示す。一方、図4B及び4Cは、GranuFoam(登録商標)及び減圧の使用により、骨膜を覆う広範囲の軟骨組織が誘導されたことを示す。
【0060】
上述を考慮すると、本発明のいくつかの利点及び他の利点が分かるであろう。本発明の範囲から逸脱せずに、上記の方法及び構成に対して様々な変更が可能であるため、上記の説明及び図示する添付図面に含まれる全ての内容は具体例であり、限定的なものとして考えるべきではない。
【0061】
本明細書で引用されている参考文献は、参照することによりここに盛り込まれている。参考文献の説明は、著者によってなされた主張を単にまとめるものであり、従来技術を構成することを認めるものではない。本出願人は、引用文献の正確さ及び適切性に異議を申し立てる権利を留保する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の組織部位における軟骨形成の刺激方法であって、前記方法が:
前記組織部位に軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を適用するステップと;
前記組織部位に新たな軟骨形成を引き起こすのに十分な時間、前記組織部位に減圧を適用するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、前記組織部位に適用される生体適合性の足場にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織部位が、軟骨欠損を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記欠損が、先天性又は関節炎、ガン又は負傷によるものであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記減圧が、減圧源に結合されたマニホルドを介して前記組織部位に適用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記マニホルドが、前記組織部位に適用される生体適合性の足場であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、軟骨細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、間葉幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生体適合性の足場が、生体吸収性であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記生体適合性の足場が、ポリヒドロキシ酸、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、分解性ポリシアノアクリレート又は分解性ポリウレタンを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記生体適合性の足場が、ポリラクチド−co−グリコリド(PLAGA)ポリマ、またはポリエチレングリコール−PLAGAコポリマであることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
さらに、前記組織部位にサイトカインを適用するステップを具えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記サイトカインが、生体適合性足場の中にあることを特徴とする請求項12に記載の請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記サイトカインが、骨形成タンパク質(BMP)−2、BMP−6、BMP−7、トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)、インスリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、又は軟骨由来レチノイン酸感受性タンパク質(CD−RAP)であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
細胞が前記足場の上に播種され、
前記足場が移植の前にインキュベートされることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記組織部位に抗生物質を適用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記抗生物質が、前記組織部位に適用される生体適合性の足場に適用されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳類がヒトであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
新たな軟骨が、レシピエント組織部位に移植されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
足場が、軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を含んでおり、
前記足場が、それを通して減圧を伝えるよう十分に多孔質であることを特徴とする生体適合性の足場。
【請求項21】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、軟骨細胞であることを特徴とする請求項20に記載の足場。
【請求項22】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、間葉幹細胞であることを特徴とする請求項20に記載の足場。
【請求項23】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、組み換え核酸を含むことを特徴とする請求項20に記載の足場。
【請求項24】
前記組み換え核酸が、タンパク質をコードすることを特徴とする請求項23に記載の足場。
【請求項25】
前記組み換え核酸が、miRNA又はアンチセンス分子をコードすることを特徴とする請求項23に記載の足場。
【請求項26】
前記足場が、生体吸収性であることを特徴とする請求項20に記載の足場。
【請求項27】
ポリヒドロキシ酸、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、分解性ポリシアノアクリレート又は分解性ポリウレタンを含むことを特徴とする請求項20に記載の足場。
【請求項28】
ポリラクチド−co−グリコリド(PLAGA)ポリマ又はポリエチレングリコール−PLAGAコポリマを含むことを特徴とする請求項20に記載の足場。
【請求項29】
さらに、サイトカインを含むことを特徴とする請求項20に記載の足場。
【請求項30】
前記サイトカインが、骨形成タンパク質(BMP)−2、BMP−6、BMP−7、トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)、インスリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、又は軟骨由来レチノイン酸感受性タンパク質(CD−RAP)であることを特徴とする請求項29に記載の足場。
【請求項31】
さらに、抗生物質を含むことを特徴とする請求項20に記載の足場。
【請求項32】
組織部位において軟骨形成を刺激するためのシステムであって、前記システムが:
軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体と;
減圧源と;
前記組織部位から前記減圧源に減圧を伝え得るマニホルドと;
を具えることを特徴とするシステム。
【請求項33】
前記マニホルドが、生体適合性の足場であることを特徴とする請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記足場が、軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を具えることを特徴とする請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、軟骨細胞であることを特徴とする請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、間葉幹細胞であることを特徴とする請求項34に記載のシステム。
【請求項37】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、組み換え核酸を含むことを特徴とする請求項34に記載のシステム。
【請求項38】
前記生体適合性の足場が、生体吸収性であることを特徴とする請求項33に記載のシステム。
【請求項39】
前記足場が、ポリヒドロキシ酸、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、分解性ポリシアノアクリレート又は分解性ポリウレタンを含むことを特徴とする請求項33に記載のシステム。
【請求項40】
前記足場が、ポリラクチド−co−グリコリド(PLAGA)ポリマ又はポリエチレングリコール−PLAGAコポリマを含むことを特徴とする請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
さらに、サイトカインを含むことを特徴とする請求項32に記載のシステム。
【請求項42】
前記サイトカインが、骨形成タンパク質(BMP)−2、BMP−6、BMP−7、トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)、インスリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、又は軟骨由来レチノイン酸感受性タンパク質(CD−RAP)であることを特徴とする請求項41に記載のシステム。
【請求項43】
さらに、抗生物質を含むことを特徴とする請求項32に記載のシステム。
【請求項44】
哺乳類の組織部位において軟骨形成を刺激するための請求項32に記載のシステムの使用。
【請求項45】
組織部位において軟骨形成を刺激するためのシステムであって、前記システムが:
前記組織部位に減圧を適用するための減圧源と;
前記組織部位に隣接して配置され、軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体を有する足場と;
前記減圧に流体接続するよう前記足場に隣接して配置され、前記組織部位に前記減圧を供給するマニホルドと;
前記組織部位の中の前記マニホルド及び前記足場を覆って実質的にシールするよう構成され、適用されたときに前記組織部位における前記減圧を保持するドレープと;
を具えており、
これによって、前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体及び減圧が、前記組織部位における新たな軟骨の形成を刺激することを特徴とするシステム。
【請求項46】
前記足場が、生体適合性であることを特徴とする請求項45に記載のシステム。
【請求項47】
前記足場が、軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体であることを特徴とする請求項46に記載のシステム。
【請求項48】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、軟骨細胞であることを特徴とする請求項47に記載のシステム。
【請求項49】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、軟骨細胞であることを特徴とする請求項47に記載のシステム。
【請求項50】
前記軟骨細胞又は軟骨細胞の前駆体が、組み換え核酸を含むことを特徴とする請求項47に記載のシステム。
【請求項51】
前記生体適合性の足場が、生体吸収性であることを特徴とする請求項46に記載のシステム。
【請求項52】
前記足場が、ポリヒドロキシ酸、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、分解性ポリシアノアクリレート又は分解性ポリウレタンを含むことを特徴とする請求項46に記載のシステム。
【請求項53】
前記足場が、ポリラクチド−co−グリコリド(PLAGA)ポリマ又はポリエチレングリコール−PLAGAコポリマを含むことを特徴とする請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
さらに、サイトカインを含むことを特徴とする請求項55に記載のシステム。
【請求項55】
前記サイトカインが、骨形成タンパク質(BMP)−2、BMP−6、BMP−7、トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)、インスリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、又は軟骨由来レチノイン酸感受性タンパク質(CD−RAP)であることを特徴とする請求項54に記載のシステム。
【請求項56】
さらに、抗生物質を含むことを特徴とする請求項55に記載のシステム。
【請求項57】
哺乳類の組織部位における軟骨形成を刺激するための請求項55に記載のシステムの使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−526185(P2011−526185A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516652(P2011−516652)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/048628
【国際公開番号】WO2009/158480
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(508268713)ケーシーアイ ライセンシング インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】