説明

減速装置

【課題】低コストで高減速比を達成でき、出力軸の回転回数に制約のない減速装置を提供する。
【解決手段】モータの回転を減速して出力する減速装置において、出力軸に連結されたタイミングプーリを含む複数のタイミングプーリ間にタイミングベルトを張り、該タイミングベルトと噛み合う位置にタイミングベルトの歯のピッチと異なるピッチの歯を有するラックを固定的に設け、タイミングベルトを挟んでラックと対峙する位置に複数の偏心カムを設け、該複数の偏心カムをモータに連結する。 また、モータの回転を減速して出力する減速装置において、出力軸に連結されたタイミングプーリを含む複数のタイミングプーリ間にタイミングベルトを張り、該タイミングベルトと噛み合う位置にタイミングベルトの歯のピッチと異なるピッチの歯を有する内歯歯車を固定的に設け、タイミングベルトを挟んで内歯歯車と対峙する位置に偏心カムを設け、該偏心カムをモータに連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転を歯車列等を用いることなく減速して出力する減速装置に関し、例えば、サーボモータの回転を減速して適切な速度とトルクでロボットの腕や脚を駆動するために用いる減速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ほとんどのロボットにおいては、高速低トルクのサーボモータの回転を適切な速度とトルクに変換するために1/50〜1/300程度の高い減速比をもつ減速器が必要となる。このための減速装置としては、通常ハーモニックドライブ(商品名)や遊星歯車減速器などが用いられる。しかしこれらは特殊な材料と高精度の加工を要する部品で構成されており一般に高価であるため、ロボットの低価格化と普及を妨げている。
この問題を解決する手段の一つとして、特開2000−65175号公報に開示された減速装置は、サーボモータでねじ棒を回転させて得られるナットの直線運動を金属平ベルトで取り出し、さらに平プーリによって回転運動に変換するものである(以下、「従来技術」という。)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−65175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術に係る減速装置は安価な部品を使いながら高い減速比を確保できる点で優れているが、回転角を大きく取ろうとすると長いねじ棒を用いる必要があり、高速回転部の慣性モーメントが増大してしまう。これによって可減速特性が低下するため、急加速、急減速の必要なロボットには適さないという問題をもつ。また、出力段で金属平ベルトの端を平プーリに固定しているため有限回数の回転しか行えず、出力に無限回数の回転が必要な場合には用いることができない。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は低コストで高減速比を達成でき、さらに出力軸の回転回数に制約のない減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の減速装置は、モータの回転を減速して出力する減速装置において、出力軸に連結されたタイミングプーリを含む複数のタイミングプーリ間にタイミングベルトを張り渡し、該タイミングベルトの歯と噛み合う位置にタイミングベルトの歯のピッチと異なるピッチの歯を有するラックを固定的に設け、タイミングベルトを挟んでラックと対峙する位置に複数の偏心カムを設け、該複数の偏心カムをモータに連結してなることを特徴としている。
また、本発明の減速装置は、モータの回転を減速して出力する減速装置において、出力軸に連結されたタイミングプーリを含む複数のタイミングプーリ間にタイミングベルトを張り渡し、該タイミングベルトの歯と噛み合う位置にタイミングベルトの歯のピッチと異なるピッチの歯を有する内歯歯車を固定的に設け、タイミングベルトを挟んで内歯歯車と対峙する位置に偏心カムを設け、該偏心カムをモータに連結してなることを特徴としている。
また、本発明の減速装置は、モータの回転を減速して出力する減速装置において、モータに連結された偏心カムと平プーリとの間にタイミングベルト1を歯面を外側にして張り渡し、タイミングベルトを挟んで偏心カムと対峙する位置に内歯歯車を固定的に設け、スライダをタイミングベルトに固定してなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)本発明は、ハーモニックドライブ(商品名)や遊星歯車減速器などの特殊な材料と高精度の加工を要する部品で構成する必要がないことから、低コストで高減速比を達成できる減速装置を売ることができる。また、例えば、ロボットの減速機として本発明に係る減速装置を採用することによりロボットの低価格化と普及を計ることができる。
(2)また、本発明は、低コストで高減速比を達成できる減速装置において出力軸の回転回数に制約のない減速装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る減速装置の最良の形態を実施例に基づいて図面を参照して以下に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の減速装置に係る実施例1の全体を概略説明する斜視図である。
タイミングベルト1は、内面に歯25が形成された歯付きベルトから形成されたものであって、タイミングプーリ2と3の間に渡されてタイミングプーリ2、3の周面の歯26、26と噛み合いながら駆動されるようになっている。タイミングベルト1は、ゴム、ウレタン等から形成されている。
タイミングベルト1の直線部の外面に近接するように、且つ、タイミングベルト1の外面と平行で、かつ、その移動方向と直交する方向に回転軸を有するようにして複数の偏心カム4、5、6、7、8が設けられている。また、タイミングベルト1の直線部の内側に近接し、タイミングベルト1を挟んで前記偏心カム4、5、6、7、8と対峙する位置に、装置に固定されたラック9が設けられている。前記複数の偏心カム4、5、6、7、8は、偏心カム4を基準として、その突出部が順に反時計回りに90度づつずれた形に構成されている。このため、複数の偏心カム4、5、6、7、8が回転することにより、タイミングベルト1の外面が順次ラック9側に押圧され、タイミングベルト1の歯25とラック9の歯27とが順次噛み合うように設定されている。
【0010】
10はサーボモータであって、その出力軸が偏心カム4の回転軸と連結され、偏心カム4を回転駆動するようになっている。偏心カム4及び他の偏心カム5、6、7、8は、クランクロッド11により連結され、偏心カム4の回転駆動力は他の偏心カム5、6、7、8に伝達される。
【0011】
今、サーボモータ10が偏心カム4を回転させると、その回転はクランクロッド11を経由して他の偏心カム5、6、7、8にも伝わる。5つの偏心カム4、5、6、7、8の回転によって、タイミングベルト1を装置に固定されたラック9に端から順に押し付けてゆく。ラック9の歯27とタイミングベルト1の歯25とは歯ピッチ(隣り合う歯の間隔)すなわち単位距離における歯数が異なるため、偏心カム4の1回転につきタイミングベルト1は異なる歯数分だけ進む。タイミングベルト1の運動はタイミングプーリ2に伝わり旋回軸12を介してアーム13を回転させる。
【0012】
図2(1)〜(5)は、図1の減速装置においてその核心をなすタイミングベルト1、偏心カム4〜8、ラック9の位置関係を時間を追って順に示したものである。
まず、図2の(1)で基本構成を説明する。
偏心カム4〜8は、図1で示したクランクロッド11によって結合されているため同じ速さで同方向に回転する。ここで、偏心カム4〜8は矢印で示すように時計回りの回転とする。5つの偏心カム4〜8は、タイミングベルト1をラック9へ順序良く押し付けるように、偏心位置が、例えば図2(1)で示すように、偏心カム4を基準として、偏心カム5〜8はその突出部が順に反時計回りに90度づつずれた形に構成されている。
その結果、図2(1)の状態では偏心カム4と偏心カム8によってタイミングベルト1がラック9に押し付けられている。
【0013】
ここで、ラック9の歯27の歯ピッチはタイミングベルト1の歯25の歯ピッチと一致しておらず、この図の例では、ラック9の歯数が24枚であるのに対し、ラック9と同じ長さに設けられたタイミングベルト1の歯数は25枚である。このため、ラック9とタイミングベルト1はその全長にわたって噛み合うことが出来ない。噛み合う位置は、図2(1)の状態では偏心カム4と8、同(2)の状態では偏心カム5、同(3)の状態では偏心カム6、同(4)の状態では偏心カム7、同(5)の状態では再び偏心カム4と8となる。
(1)から(5)に至ったとき,タイミングベルト1はラック9に対して丁度歯ピッチ(歯ピッチとは、隣り合う歯の間隔を意味する。)1つだけずれた状態になることが、タイミングベルト1につけた印14によってわかる。
以上説明したように、偏心カム4が1回転するとタイミングベルト1がラック9の歯27の1つの歯ピッチ分だけずれる運動が発生する。この運動は図1のタイミングプーリ2によって回転運動に変換され、軸12を介してアーム13を回転する。
例えば、タイミングプーリ2の歯数が100であれば,偏心カム4が100回転するとタイミングプーリ2が1回転することとなり、1/100の減速が実現される。
なお、偏心カム4〜8とタイミングベルト1の間に発生する剪断力を低減するため、偏心カム4〜8の外周には図示しない薄肉ベアリングを取り付ける等の摩擦低減手段を施すことが望ましい。
【0014】
図2では一例としてラック9の歯数を24としたが、一般的なラック9の歯数とピッチの設定について以下に述べる。まず、タイミングベルト1の歯ピッチ(隣り合う歯の間隔)をp(単位mm)とし、ラックの長さL(単位mm)を次式できめる。
L = Np
ここでNは適当な整数であり,望ましいラックの長さに応じて決定する。一方、ラックの歯数はN-1または、N+1に設定する。ラックの歯ピッチp’(単位mm)は次式となる。
p’ = L/(N-1) または p’=L/(N+1)
また、上記実施例1の減速器の減速比(回転軸12の回転速度/サーボモータ1の回転速度)は、タイミングプーリ2の歯数をMとすると1/Mとなる。
【0015】
なお、実施例1においてサーボモータ10と偏心カム4の間に歯車や別のタイミングベルトによる伝達手段を設けることにより、初段の減速を行ったり、サーボモータ10の配置の変更を行ってもよい。また、偏心カムの個数は5個に限るものではなく、3個以上の任意の個数であってよい。この場合、Cを偏心カムの個数として隣り合う偏心カムの間の回転角のずれ量を360°/(C−1)に設定すればよい。また、隣り合う偏心カムの動力伝達手段はクランクロッド11に限るものではなく、別のタイミングベルトや歯車等、任意の公知の手法を用いても良い。さらに出力軸における剛性をあげるため、タイミングベルト1に変わり金属製の歯付きベルトを用いてもよい。この場合、上記の特許文献1に示されているようにタイミングプーリ2に対して金属ベルトを固定することにより剛性向上を図ってもよい。ただし、無限回転は不可能となる。
【実施例2】
【0016】
次に、本発明の実施例2を図3に基づいて説明する。
なお、図1に付したと同じ符号は、特にことわらない限り、同じものを示している。
内面に歯25を持つタイミングベルト1は、3つのタイミングプーリ2、15、16によって張られており、180°位相のずれた偏心カム17と18によって内歯歯車19に交互に押し付けられるようになっている。サーボモータ10に直結された偏心カム17、18がサーボモータ10により回転させられると、タイミングベルト1の上半分と下半分を交互に内歯歯車19に押し付ける。2つの偏心カム17、18の外周に沿ったタイミングベルト1内面の歯数と内歯歯車19の歯数が1つ食い違っているため、偏心カム17、18半回転につきタイミングベルト1が内歯歯車19の歯28の歯ピッチ1つ分だけ進められる。タイミングベルト1の運動はタイミングプーリ2によって回転運動に変換され、軸12を介してアーム13を回転する。
【0017】
図4(1)〜(3)は、図3において減速装置の核心をなすタイミングベルト1、偏心カム17、18、内歯歯車19およびタイミングプーリ15、16の位置関係を時間を追って順に示したものである。
まず図4(1)で基本構成を説明する。
タイミングプーリ15、16の間でタイミングベルト1が偏心カム17、18によって内歯歯車19の内部に沿うように変形させられている。ここで図を簡単にするため、タイミングベルト1、偏心カム17、18、タイミングプーリ15、16を一点鎖線によって示している。
この例では内歯歯車19の歯数は26であるのに対し、内歯歯車19の内部に入りこんでいるタイミングベルト1の歯数は25と1つだけ不足するように設計されている。 図4(1)の状態では、偏心カム17、18によってタイミングベルト1は内歯歯車19の入り口に押し付けられ噛み合っている。
図4(2)では、サーボモータ10によって偏心カム17、18が時計回りに90度回転した状態を示している。この状態ではタイミングベルト1は内歯歯車19の奥に押し付けられて噛み合う。
図4(3)では、偏心カム17、18がさらに時計回りに90度回転し、噛み合い位置が図4(1)と同じ位置に戻る。この過程でタイミングベルト1と内歯歯車19の歯数差によってタイミングベルト1は白抜きの矢印の方向へ歯ピッチ1つ分だけ送られることが図のタイミングベルトの歯に示した印20によってわかる。
【0018】
上記のようにしてタイミングベルト1の運動はタイミングプーリ2によって回転運動に変換される。ここでタイミングプーリ2の歯数が100であれば、偏心カムが50回転するとタイミングプーリ2が1回転することとなり,1/50の減速が実現される。
なお、偏心カム17、18とタイミングベルト1の間に発生する剪断力を低減するため、偏心カム17、18の外周には薄肉ベアリングを取り付ける等の摩擦低減手段を施すことが望ましい。
【0019】
また、実施例2においてサーボモータ10と偏心カム17、18の間に歯車や別のタイミングベルトによる伝達手段を設けることにより、初段の減速を行ったり、サーボモータの配置の変更を行ってもよい。また、偏心カムの形状は偏心カムに限るものではなく、タイミングベルトに適切な変形を与えるものであればよい。さらに出力軸における剛性をあげるため,タイミングベルトに変わり金属製の歯付きベルトを用いてもよい。この場合、上記特許文献1に示されているようにタイミングプーリ2に対して金属ベルトを固定して剛性向上を図ってもよい。ただし、無限回転は不可能となる。
【実施例3】
【0020】
次に、本発明の実施例3を図5を用いて説明する。
なお、図3に付したと同じ符号は、特にことわらない限り、同じものを示している。
この例では、実施例2と同様のメカニズムを用いるが、出力を直線運動として取り出す点が異なる。タイミングベルト1は歯面を外側にして、偏心カム17、18および平プーリ21の間に張り渡される。スライダ22はタイミングベルト1に固定され案内レール23の上を摺動する。実施例2において説明したようにサーボモータ10、偏心カム17、18、内歯歯車19によってサーボモータ10の1回転あたり内歯歯車19の歯28の2ピッチづずタイミングベルト1が変位し、これをスライダ22によって減速された直線運動として取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の減速装置に係る実施例1の全体を概略説明する斜視図である。
【図2】図1の減速装置においてその核心をなすタイミングベルト、偏心カム、ラックの位置関係を時間を追って順に示した説明図である。
【図3】本発明の減速装置に係る実施例2の全体を概略説明する斜視図である。
【図4】図3において減速装置の核心をなすタイミングベルト、偏心カム、内歯歯車およびタイミングプーリの位置関係を時間を追って順に示した説明図である。
【図5】本発明の減速装置に係る実施例3の全体を概略説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 タイミングベルト
2、3 タイミングプーリ
4〜8 偏心カム
9 ラック
10 サーボモータ
11 クランクロッド
12 軸
13 アーム
15、16 タイミングプーリ
17、18 偏心カム
19 内歯歯車
21 平プーリ
22 スライダ
23 案内レール
25〜28 歯



【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転を減速して出力する減速装置において、出力軸に連結されたタイミングプーリを含む複数のタイミングプーリ間にタイミングベルトを張り渡し、該タイミングベルトの歯と噛み合う位置にタイミングベルトの歯の歯ピッチと異なる歯ピッチの歯を有するラックを固定的に設け、タイミングベルトを挟んでラックと対峙する位置に複数の偏心カムを設け、該複数の偏心カムをモータに連結してなることを特徴とする減速装置。
【請求項2】
モータの回転を減速して出力する減速装置において、出力軸に連結されたタイミングプーリを含む複数のタイミングプーリ間にタイミングベルトを張り渡し、該タイミングベルトの歯と噛み合う位置にタイミングベルトの歯の歯ピッチと異なる歯ピッチの歯を有する内歯歯車を固定的に設け、タイミングベルトを挟んで内歯歯車と対峙する位置に偏心カムを設け、該偏心カムをモータに連結してなることを特徴とする減速装置。
【請求項3】
モータの回転を減速して出力する減速装置において、モータに連結された偏心カムと平プーリとの間にタイミングベルト1を歯面を外側にして張り渡し、タイミングベルトを挟んで偏心カムと対峙する位置にタイミングベルトの歯の歯ピッチと異なる歯ピッチの歯を有する内歯歯車を固定的に設け、スライダをタイミングベルトに固定してなることを特徴とする減速装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−239938(P2007−239938A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65764(P2006−65764)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】