説明

測定補助器具およびそれを用いた直径測定方法

【課題】 円形材料等の測定対象物に対し、レーザトラッカーから見て反対側の面の空間座標を測定すること、並びに外周面における任意の高さ位置の空間座標を測定することを可能にする測定補助器具を提供する。
【解決手段】 測定補助器具20は、ターゲットTgを設置するターゲット設置部材21と、その下側に位置固定で設けられ測定対象物Wの上端面に接触させる上端面接触部材22と、その下方に配置され測定対象物Wの周面に接触させる周面接触部材23と、上面接触部材22に対する周面接触部材の高さを調整する高さ調整機構24とを備える。レーザトラッカー1により、測定対象物Wに設けられたターゲットTgにレーザ光Lbを照射し、その反射光からターゲットTgの空間座標を求める。求められた空間座標から、測定対象物Wの外周面における周面接触部材23との接触箇所の空間座標を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、産業、計測分野において、生産物や建築物、自然物等の物体の空間的座標を測定する際に補助的に使用される測定補助器具、およびそれを用いた直径測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガイドとなるレーザ光の方向を、2軸のモータで制御し、移動するターゲットに追従させ、ターゲットの空間座標(3次元位置情報)を得るレーザトラッキング技術が古くから知られている。このレーザトラッキング技術では、それぞれモータに取付けられた2軸のエンコーダを用いて、移動するターゲットの空間的な方向(角度)を知ることができる。ターゲットは、レトロリフレクタあるいは単にリフレクタと呼ばれる、それぞれ直交する3枚の鏡を使用した反射鏡を用いるのが一般的である。このリフレクタは、どのような場合でも、入射した方向に光を返すことができる。
また、レーザで距離を測る技術は確立されており、例えばレーザ干渉計では、数メートルの距離を、ナノメートル単位の分解能で測定することができる。
【0003】
上記2つの技術を組み合わせた装置がレーザトラッカー(例えば特許文献1)であり、このレーザトラッカーは、その装置からターゲットまでの距離と空間的な角度とを、レーザ干渉計とエンコーダとでそれぞれ測定し、その測定値から、装置を基準としたターゲットの空間位置を特定する。このレーザトラッカーを用いて、軸受の内輪や外輪の直径等を測定することが試みられている。測定は、以下の手順で行う。
【0004】
(1)測定対象物(軸受の内輪、外輪等)の近傍にレーザトラッカーを設置する。
(2)ターゲットを測定対象物の外周面や内周面に接触させる。
(3)レーザトラッカーからレーザ光をターゲットに向け出射し、ターゲットで反射した光を再びレーザトラッカーで受け取る。このときのエンコーダの値とレーザ干渉計の値とから、ターゲットの空間座標(3次元位置情報)を得る。
(4)上記(2)、(3)の操作を最低3回繰り返し、3点以上の空間座標を求め、それらから測定対象物の直径を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−2728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の直径測定方法では、図8に示すように、ターゲットTgがレーザトラッカー1から見て測定対象物Wの反対側(裏側)にある場合、レーザトラッカー1から出射したレーザ光Lbが測定対象物Wに遮断され、ターゲットTgにレーザ光Lbが届かない。つまり、レーザトラッカー1から見て、測定対象物Wの手前側の面の空間座標は測定できるが、反対側の面の空間座標が測定できない。
【0007】
レーザ光Lbが遮断されないようにする方法として、測定対象物WとターゲットTg間に市販の測定補助器具(例えば、BRUNSON社製ターゲットアダプタ)を設ける方法がある。しかし、現在市販されている測定補助器具は、非常に簡単なものであり、測定する箇所が測定補助器具の寸法や形状で決まってしまい、任意に指定された箇所を測定することができない。例えば、測定対象物Wが軸受の内輪や外輪である場合、図4に示すように、内輪または外輪である測定対象物Wの上端面Waから定められた距離a(mm)だけ離れた位置の直径が図面に指定されるが、この位置の直径を測定することができないのである。
【0008】
この発明の目的は、円形等の測定対象物に対し、レーザトラッカーから見て反対側の面の空間座標を測定すること、並びに外周面における任意の高さ位置の空間座標を測定することを可能にする測定補助器具を提供することである。
この発明の他の目的は、円形である測定対象物の直径を容易にかつ精度良く測定できる直径測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の測定補助器具は、測定対象物に設けられたターゲットにレーザ光を照射し、その反射光からターゲットの空間座標を求めるレーザトラッカーの補助として用いられるものであって、前記ターゲットを設置するターゲット設置部材と、このターゲット設置部材の下側に位置固定で設けられ測定対象物の上端面に接触させる上端面接触部材と、この上端面接触部材の下方に配置され測定対象物の周面に接触させる周面接触部材と、前記上面接触部材に対する前記周面接触部材の高さを調整する高さ調整機構とを備えることを特徴とする。
【0010】
この構成の測定補助器具は、ターゲット設置部材にターゲットを設置した状態で、上端面接触部材を測定対象物の上端面に接触させ、かつ周面接触部材を測定対象物の周面における定められた高さ位置に接触させる。そして、測定対象物の近傍に設置したレーザトラッカーから前記ターゲットにレーザ光を照射し、その反射光からターゲットの空間座標を求める。ターゲットと周面接触部材との位置関係は予め分かっているので、ターゲットの空間座標から、測定対象物の周面における周面接触部材の接触箇所の空間座標が導き出される。
【0011】
測定対象物の上端面に接触されられる部材である上端面接触部材よりも上に位置するターゲット設置部材にターゲットが設置されるため、レーザトラッカーから見て反対側に測定補助器具が位置する場合でも、レーザトラッカーから出射されるレーザ光が、測定対象物によって遮断されることなく、ターゲットに当たる。そのため、レーザトラッカーにより、このレーザトラッカーから見て手前側の面だけでなく反対側の面の空間座標も測定することができる。
【0012】
また、高さ調整機構により、上端面接触部材に対する周面接触部材の高さを調整可能であるため、周面接触部材を、測定対象物の周面における上端面から任意の距離にある高さ位置に接触させることができる。そのため、任意の高さ位置の空間座標を測定することが可能である。
【0013】
この発明において、前記ターゲット設置部材は、前記ターゲットを載せる円すい状の凹部を上面に有していても良い。
この構成の場合、前記凹部にターゲットを載せるだけで、ターゲットを正確に位置決めして設置できる。
【0014】
この発明において、前記高さ調整機構は、前記上端面接触部材から下方に延びる上下移動ガイドと、この上下移動ガイドに沿って上下移動可能な上下移動体とを有し、前記上下移動体に前記周面接触部材を一体に設けたものであって良い。
この構成であると、上下移動ガイドに沿って上下移動体を上下移動させることにより、上端面接触部材に対する周面接触部材の高さを容易に調整することができる。
【0015】
前記高さ調整機構は、電動モータと、この電動モータの回転を直線運動に変換して前記上下移動ガイドに沿う前記上下移動体の上下移動を行わせる回転・直線運動変換機構とを有する構成であっても良い。
電動モータを用いると、上端面接触部材に対して周面接触部材を、指定された高さに自動的に位置決めすることができる。
【0016】
この発明において、測定対象物が磁性体である場合、前記上端面接触部材における測定対象物の上端面に接触させる面に磁石を設けても良い。
上記面に磁石が設けられていると、この磁石が測定対象物の上端面に吸着され、測定補助器具が測定対象物にしっかりと固定される。そのため、安定した測定を実現できる。
【0017】
この発明において、前記周面接触部材は円板状であり、その中心軸が上下方向に沿い、かつ前記ターゲット設置部材のターゲット設置位置を通るように配置しても良い。
この構成であると、周面接触部材の外周面のどの円周方向箇所を測定対象物の周面に接触させてもよいので、測定対象物に対する測定補助器具の設置が容易である。
【0018】
前記周面接触部材が円板状である場合、前記周面接触部材の外周面を、前記中心軸を通る平面で切断した断面において外側に凸となる曲線形状としても良い。
周面接触部材の外周面が円筒状、すなわち中心軸を通る平面で切断した断面において直線形状であると、直角度等の精度が良くない場合、周面接触部材の外周面と測定対象物の周面との接触が不安定となり、測定結果に誤差が生じる可能性がある。しかし、周面接触部材の外周面の断面が外側に凸となる曲線形状であると、周面接触部材の外周面と測定対象物の周面とが常に安定して接触し、測定結果の誤差を抑えることができる。
【0019】
この発明において、測定対象物は円柱形状または内周面が円筒状のリング形状であって良い。より具体的には、測定対象物は軸受または軸受の軌道輪であって良い。
この発明の測定補助器具は、円柱形状または内周面が円筒状のリング形状である測定対象物に好適に用いられる。
【0020】
この発明の直径測定方法は、前記レーザトラッカーと請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の測定補助器具とを用いて、外周または内周に円筒面状の測定対象周面を有する測定対象物の前記測定対象周面の直径を測定する方法であって、前記レーザトラッカーを測定対象物の近傍に設置した状態で、前記測定補助器具を、前記上端面接触部材が測定対象物の上端面に接触し、かつ前記周面接触部材が測定対象物の前記測定対象周面に接触するように設置する過程と、前記周面接触部材が前記測定対象周面における上端から定められた高さ位置に接触するように、前記上端面接触部材に対する前記周面接触部材の高さを調整する過程と、前記ターゲット設置部材に前記ターゲットを設置する過程と、前記レーザトラッカーにより前記ターゲットの空間座標を取得する過程とを行い、これら各過程を、測定対象物に対する測定補助器具の円周方向位置を変えて3回以上繰り返し、取得した3点以上の空間座標から前記測定対象周面の直径を演算することを特徴とする。
【0021】
先に説明したように、測定補助器具を用いることにより、レーザトラッカーによって、円形である測定対象物に対し、レーザトラッカーから見て反対側の面の空間座標を測定すること、並びに外周面における任意の高さ位置の空間座標を測定することが可能である。そのため、測定対象物に対する測定補助器具の円周方向位置を変えても、対象物の外周面における任意の高さの空間座標を取得することが可能で、外周または内周に円筒面状の測定対象周面を有する測定対象物の前記測定対象周面の直径を容易にかつ精度良く測定できる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の測定補助器具は、測定対象物に設けられたターゲットにレーザ光を照射し、その反射光からターゲットの空間座標を求めるレーザトラッカーの補助として用いられるものであって、前記ターゲットを設置するターゲット設置部材と、このターゲット設置部材の下側に位置固定で設けられ測定対象物の上端面に接触させる上端面接触部材と、この上端面接触部材の下方に配置され測定対象物の周面に接触させる周面接触部材と、前記上面接触部材に対する前記周面接触部材の高さを調整する高さ調整機構とを備えるため、円形等の測定対象物に対し、レーザトラッカーから見て反対側の面の空間座標を測定すること、並びに外周面における任意の高さ位置の空間座標を測定することが可能である。
【0023】
この発明の直径測定方法は、前記レーザトラッカーと請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の測定補助器具とを用いて、外周または内周に円筒面状の測定対象周面を有する測定対象物の前記測定対象周面の直径を測定する方法であって、前記レーザトラッカーを測定対象物の近傍に設置した状態で、前記測定補助器具を、前記上端面接触部材が測定対象物の上端面に接触し、かつ前記周面接触部材が測定対象物の前記測定対象周面に接触するように設置する過程と、前記周面接触部材が前記測定対象周面における上端から定められた高さ位置に接触するように、前記上端面接触部材に対する前記周面接触部材の高さを調整する過程と、前記ターゲット設置部材に前記ターゲットを設置する過程と、前記レーザトラッカーにより前記ターゲットの空間座標を取得する過程とを行い、これら各過程を、測定対象物に対する測定補助器具の円周方向位置を変えて3回以上繰り返し、取得した3点以上の空間座標から前記測定対象周面の直径を演算するため、円形である測定対象物の直径を容易にかつ精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる測定補助器具の使用状態を示す図である。
【図2】レーザトラッカーおよび測定対象物の斜視図である。
【図3】同測定補助器具の斜視図である。
【図4】測定対象物の一例である軸受の内輪または外輪の斜視図である。
【図5】この発明の第2の実施形態にかかる測定補助器具の斜視図である。
【図6】この発明の第3の実施形態にかかる測定補助器具の一部破断側面図および測定対象物の一部分の断面図である。
【図7】この発明の第4の実施形態にかかる測定補助器具の一部破断側面図および測定対象物の一部分の断面図である。
【図8】図2とは異なる状態におけるレーザトラッカーおよび測定対象物の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1はこの発明の第1の実施形態にかかる測定補助器具の使用状態を示す図である。この測定補助器具20は、測定対象物Wの空間座標を測定するレーザトラッカー1の補助として用いられる器具であり、特に測定対象物Wが円形である場合に、その測定対象物Wの直径を測定するのに好適である。
【0026】
まず、図2と共にレーザトラッカー1について説明する。
レーザトラッカー1は、測定対象物Wに設置されたターゲットTgの動きに追従し、測定対象物Wの空間座標を求める装置である。ターゲットTgは、測定対象物Wまたはこの測定対象物Wに位置固定された測定補助器具20(図1)の一箇所に、静止した状態で設置される。図2では、ターゲットTgが測定対象物Wに直接設置されている。ターゲットTgとしては、例えば球状のレトロリフレクタが用いられる。ただし、球状のレトロリフレクタに限定されるものではない。
【0027】
レーザトラッカー1は、主に、レーザ光源2a、測長器2b、受光部3、角度調整手段4、制御手段5、および演算手段6を有する。
【0028】
レーザ光源2aは、ターゲットTgにレーザ光Lbを照射させるものであり、測長器2bは、前記ターゲットTgで反射したレーザ光Lbを用いて前記ターゲットTgまでの距離を測定するものである。測長器2bとして、例えば、干渉計または絶対距離計等からなる測長器が使用される。この例では、レーザ光源2aと測長器2bとが一体化されて、レーザ測長器2として構成されている。このレーザ測長器2は、筒状のケーシング7の内部に収容されている。
【0029】
受光部3は、レーザ光Lbの反射光の位置情報を認識するものであり、例えば、半導体位置検出素子(略称PSD)または4分割フォトダイオード等により構成される。この受光部3も、ケーシング7の内部に収容されている。
【0030】
角度調整手段4は、ハーフミラー8、θ軸モータ9、θ軸エンコーダ10、ψ軸モータ11、ψ軸エンコーダ12、およびミラー13を有する。θ軸モータ9におけるθ軸、およびψ軸モータ11におけるψ軸は互いに直交する軸である。θ軸は、前記ケーシング7の軸心と平行に配置される。
【0031】
ケーシング7の上端部には、回転体14がθ軸回りに角変位可能に支持されている。この回転体14は、前記θ軸モータ9により回転駆動される。回転体14の角変位は、前記θ軸エンコーダ10に検出される。また、回転体14の上部に、凹形状のフレーム15を介して前記ψ軸モータ11およびψ軸エンコーダ12が支持されている。そして、ψ軸モータ11で回転させられる回転軸11aに、前記ミラー13が支持されている。ψ軸モータ11の回転駆動により、ミラー13が角変位される。ミラー13の角変位は、ψ軸エンコーダ12により検出される。なお、ケーシング7の上端部、回転体14、およびフレーム15には、レーザ光(反射光も含む)Lbを通す孔hが形成されている。
【0032】
レーザ光源2aから発せられたレーザ光Lbは、ハーフミラー8を透過し、ミラー13で反射した後、前記ターゲットTgに到達する。このターゲットTgで反射したレーザ光Lbつまり反射光は、略同じ経路を通り照射元のレーザトラッカー1に戻り、ケーシング7内の前記ハーフミラー8で反射されて、受光部3に到達する。
【0033】
制御手段5は、受光部3からの信号に基づき、前記受光部3に到達した反射光が常に同受光部3の中心に戻るように、θ軸モータ9およびψ軸モータ11の各ドライバ(図示せず)に指令を出す。この指令に基づき、θ軸モータ9およびψ軸モータ11が、ミラー13を互いに直交するθ軸、ψ軸回りに角変位させる。これにより、ミラー13を常に適切な方向に向ける。
【0034】
レーザトラッカー1に戻ったレーザ光Lbの一部は、ハーフミラー8で反射されずに測長器2bに入る。測長器2bは、レーザ光Lbの反射光を受光し、レーザ光源2aの投光するレーザ光Lbと受光した反射光とから、ターゲットTbまでの距離を測定する。
【0035】
演算手段6は、前記測長器2bにより測定された距離の測定値と、θ軸エンコーダ10およびψ軸エンコーダ12の測定値とより、ターゲットTgの空間座標(3次元位置情報)を求める。
【0036】
次に、図3と共に測定補助器具20について説明する。測定補助器具20は、ターゲット設置部材21と、上端面接触部材22と、周面接触部材23と、高さ調整機構24とを備える。
【0037】
ターゲット設置部材21は、前記ターゲットTgを設置するための部材であり、ターゲットTgを載せる円すい状の凹部21aを上面に有する。凹部21aにターゲットTgを載せるだけで、ターゲットTgを正確に位置決めして設置できる。
【0038】
上端面接触部材22は、その底面22aを測定対象物Wの上端面に接触させる部材であり、前記ターゲット設置部材21の下側に位置固定で設けられる。この例では、上端面接触部材22は円板状とされている。
【0039】
周面接触部材23は、その外周面23aを測定対象物Wの周面に接触させる部材であり、前記上端面接触部材22の下方に位置する。周面接触部材23は、上端面接触部材22よりも小径の円板状である。周面接触部材23の中心軸Oは、上下方向に沿い、かつターゲット設置部材21のターゲット設置位置である前記凹部21aの中心を通るように配置されている。
【0040】
高さ調整機構24は、上端面接触部材22に対する周面接触部材23の高さを調整するものであり、上端面接触部材22から下方に延びる上下移動ガイド25と、この上下移動ガイド25に沿って上下移動可能な上下移動体26とを備え、上下移動体26に周面接触部材23が一体に取付けられている。例えば手動操作により、上下移動ガイド25に沿って上下移動体26を移動させることで、周面接触部材23の高さを調整する。この例では、前記上下移動ガイド25は角柱状とされている。そのため、上下移動ガイド25の軸心回りの上下移動体26の回転を規制できる。上下移動ガイド25と上下移動体26とは、互いに別体とせずに、一体物としても良い。なお、上下移動体26は、上下移動ガイド25の略半周を囲む形状としてあるが、全周を囲む形状であってもよい。
【0041】
上記レーザトラッカー1と測定補助部材20とを使用した、円形である測定対象物Wの直径を測定する直径測定方法を共に説明する。図4に示すように、測定対象物Wは例えば軸受、または軸受の軌道輪である内輪や外輪であり、上端面Waからa(mm)の高さ位置における外周の直径ΦD2を測定するものとする。測定は、以下の方法で行う(図1参照)。
【0042】
(1)レーザトラッカー1を測定対象物Wの近傍に設置する
(2)測定補助器具20を、上端面接触部材22の底面22aが測定対象物Wの上端面Waに接触し、かつ周面接触部材23の外周面23aが測定対象物Wの外周面Wbに接触するように設置する。
(3)上下移動ガイド25に沿って上下移動体26を上下動させて、周面接触部材23の上下中心が測定対象物Wの外周面Wbにおける上端からa(mm)の高さになるように調整する。
(4)測定補助器具20のターゲット設置部材21にターゲットTgを設置する。
(5)レーザトラッカー1からレーザ光LbをターゲットTgに出射させて、ターゲットTgの空間座標(3次元位置情報)を取得する。
(6)測定対象物Wに対する測定補助器具20の円周方向位置を変えて、(2)〜(5)の操作を3回以上行う。
(7)取得した3点以上の空間座標から、ターゲットTgの位置での直径ΦD1を演算する。
(8)(7)で求めた直径ΦD1から、測定対象物Wに対するターゲットTgの径方向のオフセット量Lを引いて、測定対象物Wの直径ΦD2を求める(式1)。
ΦD2=ΦD1−(2×L)・・・式1
【0043】
周面接触部材23は円板状であり、その中心軸Oが上下方向に沿い、かつターゲット設置部材21のターゲット設置位置を通るように配置されているため、周面接触部材23の外周面23aのどの円周方向箇所を測定対象物Wの外周面Wbに接触させても良い。そのため、測定対象物Wに対する測定補助器具20の設置が容易である。
【0044】
上端面接触部材22よりも上に位置するターゲット設置部材21にターゲットTgが設置されるため、レーザトラッカー1から見て反対側に測定補助器具20が位置する場合でも、レーザトラッカー1から出射されるレーザ光Lbが、測定対象物Wによって遮断されることなく、ターゲットTgに当たる。そのため、レーザトラッカー1により、このレーザトラッカー1から見て手前側の面だけでなく反対側の面の空間座標も測定することができる。
【0045】
また、上下移動ガイド25と上下移動体26とでなる高さ調整機構24により、上端面接触部材22に対して周面接触部材23を上下移動可能であるため、周面接触部材23を、測定対象物Wの外周面Wbにおける上端から任意の距離a(mm)にある高さ位置に接触させることができる。そのため、任意の高さ位置の空間座標を測定することが可能である。
【0046】
上記測定例では、リング形状である測定対象物Wの測定対象周面が外周面Wbであり外周直径を測定する場合を示すが、測定対象周面を内周面Wcとして内周直径を測定することもできる。その場合、測定補助器具20を、周面接触部材23の外周面23aが測定対象物Wの内周面Wcに接触するように設置する。他は、外周直径を測定する場合と同じである。つまり、円柱形状やリング形状等の円形である測定対象物Wの外周直径や内周直径を測定する場合、本発明の測定補助器具20を使用することで、測定対象物Wの端面から指定された任意の位置での直径を測定することができる。
【0047】
図5は、この発明の第2の実施形態を示す。この測定補助器具20の高さ調整機構24は、電動モータ27と、この電動モータ27の回転を直線運動に変換して上下移動ガイド25に沿う上下移動体26の上下移動を行わせる回転・直線運動変換機構28とを有する。電動モータ27は、取付部材29を介して上下移動ガイド25に位置固定状態に取付けられる。回転・直線運動変換機構28は、上下移動体26を上下に貫通して設けられ、前記電動モータ27により回転駆動されるねじ軸28aと、このねじ軸28aが螺合するナット28bとでなるボールねじからなる。ナット28bは、上下移動体26の内部に設けられている。回転・直線運動変換機構28は、他の機構、例えばラックとピニオンを組み合わせた機構、ウォームとウォームホイールとを組み合わせた機構としても良い。
【0048】
図5の例の場合、電動モータ27の駆動でねじ軸28aを回転させると、ナット28bが設けられた上下移動体26が上下動し、上端面接触部材22に対する周面接触部材23の高さが調整される。電動モータ27を制御装置(図示せず)で制御すれば、周面接触部材23を、測定外対象物Wの上端から指定された任意の位置に自動的に位置決めすることができる。
【0049】
図6は、この発明の第3の実施形態を示す。この測定補助器具20は、上端面接触部材22における測定対象物Wの上端面Waに接触させる面である底面22aに磁石30を埋め込み状態に設けてある。測定対象物Wが磁性体である場合、磁石30が測定対象物Wの上端面Waに吸着され、測定補助器具20が測定対象物Wにしっかりと固定される。それにより、安定した測定を実現できる。
【0050】
図7は、この発明の第4の実施形態を示す。この測定補助器具20は、周面接触部材23の外周面23aが、中心軸Oを通る平面で切断した断面において外側に凸となる曲線形状とされている。図の例では、曲線は円弧であるが、円弧以外の曲線であっても良い。周面接触部材23の外周面23aが、第1ないし第3の実施形態のような円筒状、すなわち中心軸Oを通る平面で切断した断面において直線形状であると、直角度等の精度が良くない場合、周面接触部材23の外周面23aと測定対象物Wの周面との接触が不安定となり、測定結果に誤差が生じる可能性がある。しかし、周面接触部材23の外周面23aの断面が、この実施形態のように外側に凸となる曲線形状であると、周面接触部材23の外周面23aと測定対象物Wの周面とが常に安定して接触し、測定結果の誤差を抑えることができる。
【符号の説明】
【0051】
1…レーザトラッカー
20…測定補助器具
21…ターゲット設置部材
21a…凹部(ターゲット設置位置)
22…上端面接触部材
23…周面接触部材
23a…外周面
24…高さ調整機構
25…上下移動ガイド
26…上下移動体
27…電動モータ
28…回転・直線運動変換機構
30…磁石
Lb…レーザ光
O…中心軸
Tg…ターゲット
W…測定対象物
Wa…上端面
Wb…外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に設けられたターゲットにレーザ光を照射し、その反射光からターゲットの空間座標を求めるレーザトラッカーの補助として用いられる測定補助器具であって、
前記ターゲットを設置するターゲット設置部材と、このターゲット設置部材の下側に位置固定で設けられ測定対象物の上端面に接触させる上端面接触部材と、この上端面接触部材の下方に配置され測定対象物の周面に接触させる周面接触部材と、前記上面接触部材に対する前記周面接触部材の高さを調整する高さ調整機構とを備えることを特徴とする測定補助器具。
【請求項2】
請求項1において、前記ターゲット設置部材は、前記ターゲットを載せる円すい状の凹部を上面に有する測定補助器具。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記高さ調整機構は、前記上端面接触部材から下方に延びる上下移動ガイドと、この上下移動ガイドに沿って上下移動可能な上下移動体とを有し、前記上下移動体に前記周面接触部材を一体に設けた測定補助器具。
【請求項4】
請求項3において、前記高さ調整機構は、電動モータと、この電動モータの回転を直線運動に変換して前記上下移動ガイドに沿う前記上下移動体の上下移動を行わせる回転・直線運動変換機構とを有する測定補助器具。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、測定対象物は磁性体であり、前記上端面接触部材における測定対象物の上端面に接触させる面に磁石を設けた測定補助器具。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記周面接触部材は円板状であり、この周面接触部材を、その中心軸が上下方向に沿い、かつ前記ターゲット設置部材のターゲット設置位置を通るように配置した測定補助器具。
【請求項7】
請求項6において、前記周面接触部材の外周面を、前記中心軸を通る平面で切断した断面において外側に凸となる曲線形状とした測定補助器具。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、測定対象物は円柱形状または内周面が円筒状のリング形状である測定補助器具。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、測定対象物は軸受または軸受の軌道輪である測定補助器具。
【請求項10】
前記レーザトラッカーと請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の測定補助器具とを用いて、外周または内周に円筒面状の測定対象周面を有する測定対象物の前記測定対象周面の直径を測定する直径測定方法であって、
前記レーザトラッカーを測定対象物の近傍に設置した状態で、前記測定補助器具を、前記上端面接触部材が測定対象物の上端面に接触し、かつ前記周面接触部材が測定対象物の前記測定対象周面に接触するように設置する過程と、前記周面接触部材が前記測定対象周面における上端から定められた高さ位置に接触するように、前記上端面接触部材に対する前記周面接触部材の高さを調整する過程と、前記ターゲット設置部材に前記ターゲットを設置する過程と、前記レーザトラッカーにより前記ターゲットの空間座標を取得する過程とを行い、これら各過程を、測定対象物に対する測定補助器具の円周方向位置を変えて3回以上繰り返し、取得した3点以上の空間座標から前記測定対象周面の直径を演算することを特徴とする直径測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−173257(P2012−173257A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38367(P2011−38367)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】