説明

湿紙剥離性改善剤およびプレスロールからの湿紙の剥離性改善方法

【課題】 抄紙機のプレスパートにおいて湿紙が直接接触するプレスロールからの湿紙の剥離性を向上させるための湿紙剥離性改善剤およびこれを用いた湿紙の剥離性改善方法を提供する。
【解決手段】 不飽和カルボン酸および不飽和スルホン酸のうち少なくとも一方のアニオン性単量体を含む単量体成分を重合して得られるアニオン性重合体またはそのアルカリ塩を含有する湿紙剥離性改善剤を、抄紙機のプレスパートにおける湿紙が直接接触するプレスロール(プレンロール11、12)に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパートにおいて用いる湿紙剥離性改善剤および湿紙が直接接触するプレスロールにおける湿紙の剥離性改善方法に関する。詳しくは、抄紙機のプレスパートにおいて、湿紙が直接接触するプレスロール(例えば、プレンロール等からなるセンターロールやトップロール)に適用することにより、該ロールからの湿紙の剥離性を改善するための湿紙剥離性改善剤および湿紙の剥離性改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製紙工程は、パルプ調成、抄造(脱水、乾燥)、必要に応じて、塗工等の工程からなり、紙料は脱水工程において湿紙となる。詳しくは、まずワイヤーパートにおいて紙料から大部分の水が除去されて湿紙が形成される。このようにして得られた湿紙は、なお多くの水を含んでおり、そのまま加熱乾燥すれば、多量の蒸気を必要として経済的に不利である。このため、ワイヤーパートで形成された湿紙は、次いでプレスパート(搾水部)に送られ、機械的なプレスにより脱水した後、ドライヤーパート(乾燥部)に送られる。
【0003】
ところが、近年、製紙工場においては、生産性の向上を目的として抄紙速度の高速化が進められてきている。その結果、断紙が頻発したり、紙製品に傷が生じる等の問題が発生しており、これに対する適切な対策が求められている。
【0004】
抄紙機の高速運転時にこのような断紙等のトラブルが発生するのは、抄紙機のプレスパートにおいて、湿紙が直接接触するプレスロール(例えば、プレンロール等からなるセンターロールやトップロール)を高速で回転させると、湿紙が該プレスロールに取られて剥離の遅れが生じやすくなり、その結果、オープンドロー状態にある湿紙に過剰な張力がかかることによるものと考えられている。
【0005】
加えて、近年の白水の再利用率向上等による白水系のクローズド化、古紙配合割合の増加および抄造条件の変化(酸性抄造から中性抄造へ)に伴って、プレスパートでの汚れの付着度合いが増加してきており、この汚れ成分が前記プレスロールからの湿紙の剥離を妨げ、紙離れの悪化、ひいては断紙等のトラブルに拍車をかけている。このような前記プレスロールからの湿紙の剥離を妨げる汚れは、有機系汚れと無機系汚れに大きく分けることができる。有機系汚れには、紙由来の樹脂分、脱墨されずに抄紙工程に導かれたインキ、その他塗工用に使用されるラテックス(接着剤、バインダー)等があり、無機系汚れには、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどの炭酸塩や硫酸塩、水酸化アルミニウム等があり、通常はこれらの汚れ成分が複合して含まれている。
【0006】
そこで、前記プレスロールからの湿紙の剥離性を改善するために、前記プレスロールに薬剤を適用する様々な方法が提案されている。例えば、高級アルキルアミンエトキシレート、非イオン性界面活性剤およびキレート作用のある有機ホスホン酸を配合した組成物を前記プレスロールに適用する方法(特許文献1)や、特定のカチオン性ポリマーと、界面活性剤、有機ホスホン酸等とを配合した組成物を前記プレスロールに適用する方法(特許文献2)が提案されている。また、これらをさらに改良した方法として、特定のカチオン性ポリマーもしくは両性ポリマーと非イオン性界面活性剤等とを配合した組成物を前記プレスロールに適用する方法(特許文献3)も提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3の方法では、ある程度の紙離れ性の改善は認められるものの、その効果は必ずしも充分とはいえず、湿紙が直接接触するプレスロールからの湿紙の剥離性をさらに効率よく改善する方法の開発が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開平7−279081号公報
【特許文献2】特開2000−96488号公報
【特許文献3】特開2007−197885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、抄紙機のプレスパートにおいて湿紙が直接接触するプレスロールからの湿紙の剥離性を向上させるための湿紙剥離性改善剤およびこれを用いた湿紙の剥離性改善方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、不飽和カルボン酸および不飽和スルホン酸のうち少なくとも一方のアニオン性単量体を含む単量体成分を重合して得られるアニオン性重合体またはそのアルカリ塩を必須成分として含む湿紙剥離性改善剤を、抄紙機のプレスパートにおける前記プレスロールの表面に付着させることにより、前記プレスロールからの湿紙の剥離性を著しく改善できることを見出し、この知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)不飽和カルボン酸および不飽和スルホン酸のうち少なくとも一方のアニオン性単量体を含む単量体成分を重合して得られるアニオン性重合体またはそのアルカリ塩を含有することを特徴とする湿紙剥離性改善剤。
(2)前記単量体成分が非イオン性単量体をも含有する、前記(1)に記載の湿紙剥離性改善剤。
(3)前記非イオン性単量体が下記式(1)で表されるグリコール誘導体である、前記(2)に記載の湿紙剥離性改善剤。
【化3】

(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。R3は水素原子または炭素数1〜6の炭化水素基を表す。R2Oは同一または異なる炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。R2Oの平均付加モル数を表わすnは2〜300の整数である。)
(4)前記アニオン性重合体が、前記アニオン性単量体を下記式(2)で表されるポリエーテル化合物にグラフト重合させてなるアニオン性グラフト重合体である、前記(1)に記載の湿紙剥離性改善剤。
【化4】

(式(2)中、R4、R5は、水素原子、炭素数1〜22のアルキル基または無置換もしくは炭素数1〜10のアルキル基で置換されたフェニル基を表し、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。R2Oは同一または異なる炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。R2Oの平均付加モル数を表わすnは2〜300の整数である。)
(5)前記不飽和カルボン酸が、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸およびイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の湿紙剥離性改善剤。
(6)前記不飽和スルホン酸が、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびイソブチレンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の湿紙剥離性改善剤。
(7)前記アニオン性重合体またはそのアルカリ塩とともに、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリエチレンイミンアルコキシレートおよび有機ホスホン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分をも含む、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の湿紙剥離性改善剤。
【0012】
(8)製紙工程のプレスパートにおいて、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の湿紙剥離性改善剤を湿紙が直接接触するプレスロールに適用することを特徴とするプレスロールからの湿紙の剥離性改善方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、抄紙機のプレスパートにおいて湿紙が直接接触するプレスロールからの湿紙の剥離性を大幅に改善することができ、これにより、抄紙機を高速運転したときに起きやすい断紙等のトラブルを著しく減少させるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の湿紙剥離性改善剤およびこれを用いた湿紙の剥離性改善方法について詳細に説明する。
本発明の湿紙剥離性改善剤は、アニオン性単量体を含む単量体成分を重合して得られるアニオン性重合体またはそのアルカリ塩を必須成分として含有する水性混合物である。
【0015】
前記アニオン性重合体を構成する単量体成分において必須とするアニオン性単量体は、不飽和カルボン酸および不飽和スルホン酸のうち少なくとも一方であればよい。アニオン性重合体のアルカリ塩を構成するアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられ、これらの中でも、価格の面からはナトリウムが好ましい。
【0016】
前記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、フマル酸、ムコン酸およびシトラコン酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸およびイタコン酸が好ましく、さらに好ましくはアクリル酸がよい。これら不飽和カルボン酸は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0017】
前記不飽和スルホン酸としては、例えば、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イソブチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−メタリルオキシ−1−プロパンスルホン酸、イソプレンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イソブチレンスルホン酸が好ましい。これら不飽和スルホン酸は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
前記アニオン性重合体を構成する単量体成分は、非イオン性単量体をも含有することができる。この場合、前記アニオン性重合体はアニオン性/非イオン性共重合体となる。
前記非イオン性単量体としては、下記式(1)で表されるグリコール誘導体が、共重合体に充分な水溶性を付与することができる点で好ましい。
【化5】

(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。R3は水素原子または炭素数1〜6の炭化水素基を表す。R2Oは同一または異なる炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。R2Oの平均付加モル数を表わすnは2〜300の整数である。)
前記式(1)で表されるグリコール誘導体の具体例としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ヘキシルオキシモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート等が挙げられる。
【0019】
前記非イオン性単量体としては、前記式(1)で表されるグリコール誘導体のほか、例えば、マレイン酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、イソプレン、イソブチレン、プロピレン、脂肪酸のビニルエステル等を用いることもできる。ここで、マレイン酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1〜4のアルキルエステルであることが好ましく、脂肪酸のビニルエステルとしては、炭素数1〜4の脂肪酸のエステルであることが好ましい。前記非イオン性単量体は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0020】
前記単量体成分が前記非イオン性単量体をも含む場合、単量体成分における前記アニオン性単量体と前記非イオン性単量体との含有割合は、アニオン性単量体:非イオン性単量体(モル比)=100:0〜10:90であることが好ましい。
【0021】
前記単量体成分を重合させる際の重合方法は、特に制限されるものではなく、例えば溶液重合や乳化重合など従来公知の重合方法を採用することができる。なお、例えばポリアクリル酸やポリマレイン酸等のように重合体が市販品として容易に入手可能な場合には、市販の重合体を使用できることは勿論である。
【0022】
前記アニオン性重合体は、前記アニオン性単量体を下記式(2)で表されるポリエーテル化合物にグラフト重合させてなるアニオン性グラフト重合体であってもよい。前記アニオン性重合体がこのようなアニオン性グラフト重合体である場合は、少量の添加で高い湿紙剥離性改善効果を得ることができる。
【化6】

(式(2)中、R4、R5は、水素原子、炭素数1〜22のアルキル基または無置換もしくは炭素数1〜10のアルキル基で置換されたフェニル基を表し、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。R2Oは同一または異なる炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。R2Oの平均付加モル数を表わすnは2〜300の整数である。)
【0023】
前記式(2)で表されるポリエーテル化合物の具体例としては、例えば、フェノキシポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール等が挙げられる。これらポリエーテル化合物は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
前記ポリエーテル化合物に前記アニオン性単量体をグラフト重合させる際の重合方法は、特に制限されるものではなく、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどの重合開始剤存在下にグラフト重合させる方法(例えば、特開2007−246916号公報で開示された方法等)により得ることができる。
前記アニオン性グラフト重合体の具体例としては、例えば、フェノキシポリエチレングリコールへのアクリル酸のグラフト共重合物、メトキシポリエチレングリコールへのアクリル酸・マレイン酸のグラフト共重合物、メトキシポリエチレングリコールへのメタクリル酸のグラフト共重合物等が挙げられる。
【0024】
以上のように、本発明にかかるアニオン性重合体またはそのアルカリ塩は、前記アニオン性単量体を単量体成分として重合させたものであればよく、該アニオン性単量体のホモポリマーであってもよいし、前記アニオン性/非イオン性共重合体であってもよいし、前記アニオン性グラフト重合体であってもよい。なお、本発明の湿紙剥離性改善剤がこれらの複数を必須成分として含有するものであってもよいことは言うまでもない。
【0025】
前記アニオン性重合体またはそのアルカリ塩の数平均分子量は、500〜150000であることが好ましく、より好ましくは1000〜20000であるのがよい。数平均分子量が500未満であると、充分な湿紙剥離性改善効果が得られなくなる恐れがあり、一方、数平均分子量が150000を超えると、該重合体が粘着性を有するようになり、逆に湿紙剥離性が低下する恐れがある。
【0026】
本発明の湿紙剥離性改善剤は、前記アニオン性重合体またはそのアルカリ塩とともに、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリエチレンイミンアルコキシレートおよび有機ホスホン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分(以下、「成分X」と称することもある)をも含有することが好ましい。これにより、プレスロールからの湿紙の剥離性を向上させることができるだけでなく、プレスロール表面の汚れを著しく低減させることが可能になる。
【0027】
前記ポリオキシアルキレンアルキルアミンとしては、例えば、下記一般式(3)で表されるものが好ましく挙げられる。
【化7】

(式(3)中、R6は炭素数8〜22のアルキル基またはアルケニル基を表す。R2Oは同一または異なる炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。R2Oの平均付加モル数を表わすnおよびmはその合計(n+m)が2〜50となる整数である。)
【0028】
前記式(3)において、R2Oで表されるオキシアルキレン基は、炭素数2〜4のオキシアルキレン基(オキシエチレン基、オキシプロピレン基およびオキシブチレン基)の中でも、オキシエチレン基であることが好ましい。また、その付加モル数は、平均付加モル数を表わすnおよびmの合計(n+m)が10〜25モルの範囲であることが好適である。なお、前記オキシアルキレン基は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよいが、2種以上のアルキレンオキサイドを併用する場合、ブロックまたはランダムのいずれの重合形態であってもよい。
【0029】
前記ポリオキシアルキレンアルキルアミンは、例えば、炭素数8〜22の飽和または不飽和脂肪族アルキルアミンにアルキレンオキサイドを付加モル数が2〜50モルとなるように付加させることによって得ることができる。ここで、前記脂肪族アルキルアミンとしては、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベヘニルアミン等の1種または2種以上が挙げられ、これらの中でも、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンが特に好ましく用いられる。
【0030】
前記ポリエチレンイミンアルコキシレートは、ポリエチレンイミン中のアミノ基にアルキレンオキサイドを特定のモル数で付加することにより得られる化合物である。ここで、前記ポリエチレンイミンは、直鎖状あるいは分岐状のいずれのものであってもよく、その数平均分子量は好ましくは100〜100000、より好ましくは300〜10000であるのがよい。また、前記ポリエチレンイミンのアミノ基に付加させるアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが好ましく、特にエチレンオキサイドがより好ましい。付加させるアルキレンオキサイドは、1種のみであってもよいし2種以上であってもよいが、2種以上を併用する場合は、エチレンオキサイドがアルキレンオキサイド総量に対して60重量%以上であるのが好ましい。なお、2種以上のアルキレンオキサイドを併用する場合、ブロックまたはランダムのいずれの重合形態であってもよい。
【0031】
このようなポリエチレンイミンアルコキシレートは、公知の方法(例えば特開2003−193385号公報に開示された方法)により合成することができる。前記ポリエチレンイミンアルコキシレート中に占めるオキシアルキレン基の割合は、30〜98重量%であることが好ましく、50〜96重量%であることがより好ましい。
【0032】
前記有機ホスホン酸としては、例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸、1−アミノプロパン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等が挙げられる。これらの中でも、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸が好ましい。
【0033】
本発明の湿紙剥離性改善剤において前記成分Xをも含有する場合、必須成分である前記アニオン性重合体またはその塩と該成分Xとの含有割合は、用いる成分Xの種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、成分Xが前記ポリオキシアルキレンアルキルアミンまたは前記ポリエチレンイミンアルコキシレートである場合には、アニオン性重合体またはその塩:成分X(重量比)が100:0〜10:90であることが好ましく、より好ましくは100:0〜20:80であるのがよい。他方、成分Xが前記有機ホスホン酸である場合には、アニオン性重合体またはその塩:成分X(重量比)が100:0〜30:70であることが好ましく、より好ましくは100:0〜50:50であるのがよい。
【0034】
本発明の湿紙剥離性改善剤は、必要に応じて、前記アニオン性重合体またはその塩や前記成分Xを溶解させうる溶媒を含有していてもよい。溶媒としては、通常、水が好ましく用いられ、これに必要に応じて有機溶媒を添加することもできる。溶媒を含有させる場合、湿紙剥離性改善剤中の有効成分(前記アニオン性重合体またはその塩と前記成分X)の濃度は、特に限定されないが、輸送コスト面および剤の粘度など取扱いやすさを考慮すると、アニオン性重合体またはその塩と成分Xの合計濃度は、1〜50重量%が好適である。
【0035】
本発明の湿紙剥離性改善剤は、必要に応じて、前記アニオン性重合体またはその塩や前記成分Xのほかに、各種界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルアミンを除く)、各種両性ポリマー、消泡剤、防腐剤、殺菌剤、防錆剤、増粘剤、保湿剤(例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール等)、無機酸(例えば、塩酸、硝酸等)、有機酸(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酢酸等)、キレート剤(例えば、EDTA、DTPA等)、アルカリ(水酸化ナトリウム等)、酵素剤(α−アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等)などの添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることもできる。
【0036】
本発明のプレスロールからの湿紙の剥離性改善方法は、製紙工程のプレスパートにおいて、前述した本発明の湿紙剥離性改善剤を湿紙が直接接触するプレスロールに適用するものである。ここで、「適用する」とは、前記プレスロール表面に湿紙剥離性改善剤を付着させることを意味するものであり、詳しくは、湿紙剥離性改善剤を前記プレスロール表面に、例えば注いだり、噴霧したり、散布したり、塗布したりすることによって、付着させるものである。具体的には、例えば、前記プレスロール表面や前記プレスロールに設けられたドクターブレードに誘導されるシャワー水系に湿紙剥離性改善剤を添加するなどの手段によって実施される。また、「プレスロール」とは、一般には、プレスパートにおいて湿紙の搾水に関与するあらゆるロール(例えば、プレンロール、サクションロール、溝付ロールなどの各種ロール)を意味するものであるが、それらのうち、本発明の適用対象(すなわち、湿紙剥離性を改善しようとするプレスロール)となるのは、湿紙が直接接触するプレスロールである。湿紙が直接接触するプレスロールとしては、例えば、表面が平滑なプレンロールが適している。
【0037】
以下、本発明の湿紙の剥離性改善方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、抄紙機におけるプレスパートのロール構成の一例として、トランスファーツインバープレスのロール構成を示した概略図であり、図2は、図1に示すロール構成における要部(湿紙が直接接触するプレスロール(下記実施形態においては、プレンロール11およびプレンロール12)ならびにその周辺)を拡大して示す概略図である。
【0038】
図1および図2に示されるプレスパートのロール構成において、ピックアップロール1、サクションロール2および溝付ロール3等には、これらロールの外側を走行するようにピックアップフェルト4が張設されており、同様に、溝付ロール5等には第一プレスフェルト6が、溝付ロール7等には第三プレスフェルト8が、溝付ロール9等には第四プレスフェルト10が、それぞれ張設されている。
前記サクションロール2(トップロール)と前記溝付ロール5(ボトムロール)とは互いに近接して(具体的には、ロール間に湿紙を通過させた際に適度に搾水される程度の間隔で)配されており、この両ロールが第一プレス部を構成する。前記溝付ロール3および前記溝付ロール7は、各々、プレンロール11(センターロール)と近接して(具体的には、ロール間に湿紙を通過させた際に適度に搾水される程度の間隔で)配されており、溝付ロール3(ボトムロール)とプレンロール11(トップロール/センターロール)とが第二プレス部を構成し、溝付ロール7(トップロール)とプレンロール11(ボトムロール/センターロール)とが第三プレス部を構成する。さらに、同様に、前記溝付ロール9(ボトムロール)と、該ロールに近接して配されたプレンロール12(トップロール)とが第四プレス部を構成している。なお、前記サクションロールは、湿紙13から搾られた水分を吸引するための吸引装置(不図示)を備えており、前記溝付ロールは、搾水された排水を排出するための細い溝がロール表面に多数設けられている(不図示)。また、第三プレス部のプレンロール11と第四プレス部のプレンロール12との間には、湿紙の走行方向を変えるためのペーパーロール14が設けられている。
【0039】
また、前記プレンロール11および前記プレンロール12の近傍には、図2に示すように、これらプレンロールの表面に付着した微細物や滓等の汚れを掻きとってロール表面を清浄に保つためのドクターブレード15が、それぞれプレンロールに接するように設けられている。さらに、前記プレンロール11、12およびドクターブレード15の近傍(具体的には、ロールの回転方向においてドクターブレード15よりも上流側)には、ドクターブレード15で掻きとった汚れを洗い流すとともにプレンロールの表面に湿紙剥離性改善剤を注ぐための滴下装置(不図示)を備えたシャワーパイプ16が設けられている。なお、ドクターブレード15およびシャワーパイプ16の数は、図2においては、プレンロール11にはそれぞれ2個、プレンロール12にはそれぞれ1個となっているが、これに限定されるものではなく、ロールの大きさ等に応じて適宜設定すればよい。
【0040】
このようなロール構成において、前述した各ロールはそれぞれ図に矢印で示す向きに回転しており、ワイヤーパート(不図示)からプレスパートに送られてきた湿紙13は、まずピックアップロール1上にてピックアップフェルト4に重ねられた後、図1に示すように、前記第一プレス部、前記第二プレス部、前記第三プレス部および前記第四プレス部を順に通過するように送られることで搾水され、ドライヤーパート(不図示)に送られる。このとき、湿紙13は、プレンロール11からペーパーロール14までの間でオープンドロー状態となる。
【0041】
このようなロール構成を有するプレスパートにおいて、本発明の湿紙剥離性改善剤は、薬液タンク(不図示)から定量ポンプ(不図示)によって送液され、各ドクターブレード15に注ぐ温水を送液するためのシャワー水配管(不図示)に注入(圧入)されることで、希釈された薬液に調製される。このように温水で希釈された湿紙剥離性改善剤の薬液は、シャワーパイプ16を通じて噴霧装置(不図示)から、ロールの回転に対して各ドクターブレード15よりも上流側に位置するプレンロール表面に吹き付けられる。そして、吹き付けられた薬液は、各ドクターブレード15によってプレンロール11、12の表面全域に均一に引き伸ばされる。このように、プレンロール11、12表面の広範囲にわたって本発明の湿紙剥離性改善剤を適用することによって、より効率よく剥離性改善効果を向上させることができる。また、薬液をプレンロール11、12の表面に直接吹き付ける際の水流によって、湿紙の剥離を阻害する要因となるロール表面における汚れの堆積を抑制することができる。なお、湿紙剥離性改善剤の薬液は、プレンロール11、12の表面に吹き付けるとともに、もしくはこれに代えて、ドクターブレード15に直接吹き付けるようにしてもよい。また、ドクターブレード15を備えていないプレンロールの場合には、薬液が該ロール全体に均一に適用されるように吹き付けるようにすればよい。
【0042】
前記湿紙剥離性改善剤は、シャワー水配管に注入してプレンロール11、12やドクターブレード15に吹き付ける時点において、前記アニオン性重合体またはその塩と前記成分Xとの合計濃度(固形分)が0.01〜1重量%の薬液となるように、シャワー水量と湿紙剥離性改善剤における前記各成分の含有量(固形分)を考慮して、希釈されることが好ましい。また、湿紙剥離性改善剤の薬液をプレンロール11、12やドクターブレード15に吹き付ける際の使用量(噴霧量)は、装置の寸法、紙匹の駆動速度等に応じて適宜設定されるものであり、特に限定されないが、通常、噴霧する薬液中の湿紙剥離性改善剤量が固形分として0.03〜15g/分・m、好ましくは0.3〜8g/分・mとなるように設定するのがよい。なお、湿紙剥離性改善剤は、連続的に吹き付けられるように温水中に注入するのが好ましいが、本発明の効果を損なわない程度であれば間歇的に温水中に注入するようにしてもよい。
【0043】
上記実施形態では、湿紙剥離性改善剤を抄紙機におけるプレスパートの前記プレスロール(前記プレンロール11、12)の表面に適用する手段として、シャワーパイプを用いた形態について説明したが、本発明の湿紙の剥離性改善方法において採用しうる前記適用手段は、湿紙が直接接するプレスロール(前記プレンロール11、12)に湿紙剥離性改善剤を付着させることができる手段であれば、特に限定はされない。
なお、本発明の湿紙の剥離性改善方法においては、本発明の効果を損なわない範囲において、前述した本発明の湿紙剥離性改善剤の適用と同時に、同じプレスパートにて、各種フェルト洗浄剤、ピッチコントロール剤、スケールコントロール剤等の別の薬剤を使用することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[湿紙剥離性改善剤]
(実施例1)
ポリアクリル酸(数平均分子量:2000)10重量部(固形分)を水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0045】
(実施例2)
ポリアクリル酸(数平均分子量:4000)10重量部(固形分)を水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0046】
(実施例3)
ポリアクリル酸ナトリウム(数平均分子量:1500)10重量部(固形分)を水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0047】
(実施例4)
ポリアクリル酸ナトリウム(数平均分子量:8000)10重量部(固形分)を水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0048】
(実施例5)
ポリアクリル酸ナトリウム(数平均分子量:100000)10重量部(固形分)を水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0049】
(実施例6)
ポリアクリル酸(数平均分子量:2000)10重量部(固形分)、ポリオキシエチレンステアリルアミン(エチレンオキサイド付加モル数:20)20重量部(固形分)および1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3重量部(固形分)を、水67重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0050】
(実施例7)
ポリアクリル酸(数平均分子量:2000)10重量部(固形分)、ポリエチレンイミンエトキシレート(ポリエチレンイミンの数平均分子量:600、分子中に占めるオキシエチレン基の割合:78重量%)10重量部(固形分)および1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3重量部(固形分)を、水77重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0051】
(実施例8)
ポリアクリル酸ナトリウム(数平均分子量:1500)10重量部(固形分)、ポリオキシエチレンステアリルアミン(エチレンオキサイド付加モル数:20)20重量部(固形分)および1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3重量部(固形分)を、水67重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0052】
(実施例9)
ポリアクリル酸(数平均分子量:1500)10重量部(固形分)、ポリエチレンイミンエトキシレート(ポリエチレンイミンの数平均分子量:600、分子中に占めるオキシエチレン基の割合:78重量%)10重量部(固形分)および1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3重量部(固形分)を、水77重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0053】
(実施例10)
ポリマレイン酸(数平均分子量:5000)10重量部(固形分)を水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0054】
(実施例11)
アクリル酸とマレイン酸とからなる単量体成分(アクリル酸:マレイン酸=50:50(重量比))を重合してなる共重合物(数平均分子量:5000)10重量部(固形分)を、水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0055】
(実施例12)
ポリスチレンスルホン酸(数平均分子量:5000)10重量部(固形分)を水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0056】
(実施例13)
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイド付加モル数:9)とメタクリル酸ナトリウムとからなる単量体成分(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート:メタクリル酸ナトリウム=70:30(モル比))を重合してなる共重合物(数平均分子量:15000)10重量部(固形分)を、水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0057】
(実施例14)
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイド付加モル数:9)とメタクリル酸ナトリウムとからなる単量体成分(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート:メタクリル酸ナトリウム=70:30(モル比))を重合してなる共重合物(数平均分子量:5000)10重量部(固形分)を、水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0058】
(実施例15)
マレイン酸とイソプレンとからなる単量体成分(マレイン酸:イソプレン=70:30(モル比))を重合してなる共重合物(数平均分子量:12000)10重量部(固形分)を、水90重量部に溶解して、湿紙剥離性改善剤を得た。
【0059】
(実施例16)
フェノールにエチレンオキサイドを平均19モル付加させて得られたフェノキシポリエチレングリコール100重量部、マレイン酸40重量部およびp−トルエンスルホン酸5重量部からなる混合物を、窒素雰囲気下にて125℃まで加温して溶解させた。この混合物を約125℃に保ちながら、アクリル酸40重量部とt−ブチルパーオキシベンゾエート5重量部とを別々に1時間かけて滴下し、その後、同温度で1時間攪拌を続けて、アニオン性グラフト重合体を得た。このアニオン性グラフト重合体の数平均分子量は、約7500であった(GPC法)。このアニオン性グラフト重合体に、固形分濃度10重量%となる量の水を添加して、湿紙剥離改善剤を得た。
【0060】
(比較例1)
ポリエチレンイミンエトキシレート(ポリエチレンイミンの数平均分子量:600、分子中に占めるオキシエチレン基の割合:78重量%)10重量部(固形分)を、水90重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0061】
(比較例2)
ポリオキシエチレンステアリルアミン(エチレンオキサイド付加モル数:10)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0062】
(比較例3)
ポリオキシエチレンステアリルアミン(エチレンオキサイド付加モル数:20)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0063】
(比較例4)
ポリオキシエチレンステアリルアミン(エチレンオキサイド付加モル数:30)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0064】
(比較例5)
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3重量部(固形分)を水97重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0065】
(比較例6)
トリデシルアルコールエトキシレート(エチレンオキサイド付加モル数:20)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0066】
(比較例7)
トリデシルアルコールエトキシレート(エチレンオキサイド付加モル数:40)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0067】
(比較例8)
ステアリルアルコールエトキシレート(エチレンオキサイド付加モル数:30)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0068】
(比較例9)
ステアリルアルコールエトキシレート(エチレンオキサイド付加モル数:60)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0069】
(比較例10)
オレイルアルコールエトキシレート(エチレンオキサイド付加モル数:30)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0070】
(比較例11)
ポリグリセリンステアリン酸エステル(グリセリン付加モル数:10)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0071】
(比較例12)
ポリプロピレングリコール(数平均分子量:1750)のエチレンオキサイド付加物(総分子中のエチレンオキサイド:40%)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0072】
(比較例13)
塩化ベンジルジメチルラウリルアンモニウム20重量部(固形分)を水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0073】
(比較例14)
塩化ベンジルビス(2−ヒドロキシエチル)オレイルアンモニウム20重量部(固形分)を水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0074】
(比較例15)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム(エチレンオキサイド付加モル数:10)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0075】
(比較例16)
ポリエチレングリコール(数平均分子量:4000)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0076】
(比較例17)
ポリエチレングリコール(数平均分子量:20000)20重量部(固形分)を、水80重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0077】
(比較例18)
ジメチルアミン/エピクロロヒドリン重縮合物(数平均分子量:240000)10重量部(固形分)を、水90重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0078】
(比較例19)
ポリメタクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルベンジルクロリド塩(数平均分子量:10000)10重量部(固形分)を、水90重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0079】
(比較例20)
メタクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルベンジルクロリド塩/メタクリル酸/ポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイド付加モル数:10)が5/2/3(重量比)からなる単量体成分を重合してなる共重合物(数平均分子量:10000)10重量部(固形分)を、水90重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0080】
(比較例21)
ポリプロピレングリコール(数平均分子量:1750)のエチレンオキサイド付加物(総分子中のエチレンオキサイド:40%)20重量部(固形分)、メタクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルベンジルクロリド塩/メタクリル酸/ポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイド付加モル数:10)の5/2/3(重量比)からなる単量体成分を重合してなる共重合物(数平均分子量:10000)10重量部(固形分)を、水70重量部に溶解して、比較用薬剤を得た。
【0081】
[湿紙剥離試験]
上記実施例で得た本発明の湿紙剥離性改善剤および上記比較例で得た比較用薬剤の性能を評価するために、湿紙が直接接触するプレスロールで汎用されているセラミック溶射板を用いて下記(1)〜(4)の手順で湿紙の剥離試験を実施した。そして、下記方法で湿紙剥離性および汚れ付着性をそれぞれ評価した。なお、下記湿紙剥離試験には、図3に示す剥離性試験機を用いた。
【0082】
(1)某社製紙工場の新聞抄紙機のインレットから採取されたパルプ原料を用い、日本工業規格JIS−P−8222で規定された抄紙方法に従い、半径8cmの円形ワイヤー上で抄紙して、湿紙サンプル(坪量:100g/m2)30を調製した。
(2)湿紙剥離性改善剤または比較用薬剤を水で1000ppm(薬剤有姿)の濃度に希釈した薬液5mLを、幅5cm×長さ10cmのセラミック溶射板31の上面の全面に均一に塗布した。
(3)湿紙サンプル30をセラミック溶射板31の上面に貼り付けた後、100kgf/cm2で1分間プレスした。これにより、湿紙サンプル30中の水分率は約55%となった。
(4)湿紙サンプル30の片端に釣り糸32を取り付け、定置ロール33を介して、釣り糸のもう一方の片端にフォースゲージ34を取り付けた。そして、フォースゲージ34およびセラミック溶射板31を、それぞれ逆の方向へ10cm/分の一定速度で引っ張り、湿紙30を剥離させる釣り糸32が常に鉛直方向を維持できるように(セラミック溶射板31に対して90°の角度を保つように)して、湿紙サンプル30をセラミック溶射板31から剥離させた。
【0083】
<湿紙剥離性>
上記試験において、湿紙サンプル30を剥離中にフォースゲージに表示される最大荷重値(N)を読み取り、これを薬剤を使用したときの剥離抵抗値とした。他方、上記(1)〜(4)の操作のうち(2)を省略した(つまり、薬剤を使用しない)こと以外は、同様の試験を行い、湿紙サンプル30を剥離中にフォースゲージに表示される最大荷重値(N)を読み取り、これを薬剤を使用しないときの剥離抵抗値とした。そして、下記式に基づき剥離性向上率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0084】
【数1】

【0085】
<汚れ付着性>
上記試験を1枚のセラミック溶射板を用いて4回繰り返して行い(すなわち、上記(1)〜(4)の操作を行い、上記(4)の操作で湿紙サンプル30を剥がした後のセラミック溶射板31を用いて、再び上記(1)〜(4)を3回行う)、その後、4回目の上記(4)の操作で湿紙サンプル30を剥がした後のセラミック溶射板をイメージスキャナーで読み取り、画像解析することにより、該セラミック溶射板上に占める汚れ部分の面積の割合(汚れ面積率)を求め、下記基準で表した。結果を表1に示す。
−:汚れ面積率1%未満
±:汚れ面積率1%以上3%未満
+:汚れ面積率3%以上6未満%
++:汚れ面積率6%以上10%未満
+++:汚れ面積率10%以上
【0086】
【表1】

【0087】
表1の結果より、実施例1〜16で得た本発明の湿紙剥離性改善剤を使用した場合には、比較例1〜21で得た薬剤を使用した場合に比べて、湿紙のセラミック溶射板からの剥離性が格段に向上することがわかる。特に、実施例1〜9および実施例13〜15で得た湿紙剥離性改善剤を使用した場合は、剥離時の汚れ付着性についても、比較例1〜21で得た薬剤を使用した場合に比べて抑制されることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】抄紙機におけるプレスパートのロール構成の一例を示す概略図である。
【図2】図1におけるプレンロール11(センターロール)およびプレンロール12(トップロール)、ならびにその周辺を示す要部拡大図である。
【図3】湿紙剥離性試験で用いた剥離試験機を示す模式図である。
【符号の説明】
【0089】
1:ピックアップロール、2:サクションロール/第一プレス部、3:溝付ロール/第二プレス部、4:ピックアップフェルト、5:溝付ロール/第一プレス部、6:第一プレスフェルト、7:溝付ロール/第三プレス部、8:第三プレスフェルト、9:溝付ロール/第四プレス部、10:第四プレスフェルト、11:プレンロール/第二および第三プレス部、12:プレンロール/第四プレス部、13:湿紙、14:ペーパーロール、15:ドクターブレード、16:シャワーパイプ
30:湿紙サンプル、31:セラミック溶射板、32:釣り糸、33:定置ロール、34:フォースゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸および不飽和スルホン酸のうち少なくとも一方のアニオン性単量体を含む単量体成分を重合して得られるアニオン性重合体またはそのアルカリ塩を含有することを特徴とする湿紙剥離性改善剤。
【請求項2】
前記単量体成分が非イオン性単量体をも含有する、請求項1に記載の湿紙剥離性改善剤。
【請求項3】
前記非イオン性単量体が下記式(1)で表されるグリコール誘導体である、請求項2に記載の湿紙剥離性改善剤。
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。R3は水素原子または炭素数1〜6の炭化水素基を表す。R2Oは同一または異なる炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。R2Oの平均付加モル数を表わすnは2〜300の整数である。)
【請求項4】
前記アニオン性重合体が、前記アニオン性単量体を下記式(2)で表されるポリエーテル化合物にグラフト重合させてなるアニオン性グラフト重合体である、請求項1に記載の湿紙剥離性改善剤。
【化2】

(式(2)中、R4、R5は、水素原子、炭素数1〜22のアルキル基または無置換もしくは炭素数1〜10のアルキル基で置換されたフェニル基を表し、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。R2Oは同一または異なる炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。R2Oの平均付加モル数を表わすnは2〜300の整数である。)
【請求項5】
前記不飽和カルボン酸が、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸およびイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれかに記載の湿紙剥離性改善剤。
【請求項6】
前記不飽和スルホン酸が、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびイソブチレンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜5のいずれかに記載の湿紙剥離性改善剤。
【請求項7】
前記アニオン性重合体またはそのアルカリ塩とともに、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリエチレンイミンアルコキシレートおよび有機ホスホン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分をも含む、請求項1〜6のいずれかに記載の湿紙剥離性改善剤。
【請求項8】
製紙工程のプレスパートにおいて、請求項1〜7のいずれかに記載の湿紙剥離性改善剤を湿紙が直接接触するプレスロールに適用することを特徴とするプレスロールからの湿紙の剥離性改善方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−209481(P2009−209481A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53608(P2008−53608)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(502264991)株式会社日新化学研究所 (11)
【Fターム(参考)】