説明

溝切り装置

【課題】 左右二条一対の作溝器が互いに干渉し合うことがなく、地面の状況に追従して上下動し、したがって、地面の状況が異なる場合に、一方の作溝器による溝の深さが他方の作溝器による溝の深さに影響を与えることのない、構成も簡素化された溝切り装置を提供する。
【解決手段】 走行機体1の左右後輪位置後部に、それぞれ一端部4a,4aが前記走行機体1に枢支され他端部4b,4bが上下動自在とされた上側平行リンク4,4と、該上側平行リンク4,4の前記他端部4b,4b間に枢支連結された昇降リンク5と、該昇降リンク5の下部5aに枢支連結され上下方向に伸縮するパンタグラフリンク7と、該パンタグラフリンク7の下部に支持された作溝器13と、からなり、好ましくは、前記パンタグラフリンク7を形成する内側平行リンクの上端延長部と前記昇降リンク5との間に引っ張り力調整自在のスプリング9を設けた溝切り装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田の水抜き用溝、その他、施肥溝、播種溝等を形成する溝切り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水田の水抜き用等の溝形成には、一条自走手押し式、あるいは、乗用管理機や田植え機等の後部に装着し、左右後輪の後に溝を形成する二条式の溝切り機が用いられている。
【0003】
前記従来の二条式の溝切り機は、左右二つの作溝器間が一体に連結され、単一の昇降リンクによって左右同時に上下動する跳ね上げ方式のものであり、走行地面の形状、硬さ等の状況による左右両輪の沈下量の変化への適応性が悪く、溝形状が崩れてしまうという問題が残されていた。
【0004】
したがって、同一圃場内で車輪の沈下量が変化してしまう様な条件下でも一定深さの溝切りを行えるようにするには、前記二条の作溝器の上下動、地面への進入角度を、走行中に自動的に調整する必要があり、そのための各種調整装置を必要とするなど、装置の複雑化を招くものであった。これらは播種装置においても同様であった。
【特許文献1】特公平4−52089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記事情に鑑み、二条一対の作溝器が走行中に互いに干渉し合うことなく地面の状況変化に追従して互いに独立に上下動し、したがって、地面の状況が変化しても、一方の作溝器による溝の深さが、他方の作溝器による溝の深さに影響をあたえることがなく、構成の簡素化された溝切り装置を提供することを目的とする。また、前記作溝器の地面に対する押圧力とともに、走行中に状況が変化しても自動的に一定に維持できる溝切り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的達成のために、走行機体の左右後輪位置後部に、それぞれ一端部が前記走行機体に枢支され他端部が上下動自在とされた左右一対の上側平行リンクと、該上側平行リンクの前記他端部間に枢支された昇降リンクと、該昇降リンクの下部に枢支連結されて上下方向に伸縮するパンタグラフリンクと、該パンタグラフリンクの下部に支持された作溝器と、からなることを特徴とする(請求項1)。
【0007】
前記構成によれば、従来の跳ね上げ方式とは異なり、前記パンタグラフリンクが、走行中に地面に対して前記左右それぞれの作溝器を相互に独立して上下動させるため、該作溝器の進入角度は常に一定であり、さらに地面の状況に追従して垂直に上下動し、溝切り器に加えられる押圧力(土中へ押し込もうとする付勢力)の自動調整が行われる。該自動調整は、走行機体左右の車輪の沈下量の差等により傾いても有効である。
【0008】
本発明の実施の一形態は、前記パングラフリンクを形成する内側平行リンクの上端延長部と前記昇降リンクとの間に、引っ張り力調整自在のスプリングを設けたことを特徴とする。(請求項2)。
【0009】
前記実施の一形態によれば、地面に対する前記作溝器の押圧力を容易且つ自由に調整できる。すなわち、前記スプリングの引っ張り力を強くすれば、前記パンタグラフリンクを形成する前記下側平行リンクの下端部が前記後輪方向に向けて回動させられ、前記パンタグラフリンクの下部に支持された前記作溝器の押圧力が高められる。したがって、所望の深さの溝を形成することができる。
【0010】
本発明の実施の一形態は、前記作溝器が、前記パンタグラフリンクの下部に、前記走行機体の左右方向に首振り自在に支持されてなることを特徴とする(請求項3)。
【0011】
前記実施の一形態によれば、走行機体の左右後輪にそって前記作溝器が無理なく追従し、左右後輪の跡を消して溝を形成することができる。
【0012】
本発明の実施の一形態は、前記左右両輪位置にそれぞれある左右一対の前記上側平行リンクを単一のフレームに取着したことを特徴とする(請求項4)。
【0013】
前記実施例の一形態によれば、走行機体の左右後輪位置後部に設けられたそれぞれの前記溝切り装置に、それぞれアクチュエータを設ける必要がない。すなわち、溝切り作業終了時及び移動時、さらに作業開始時において、前記左右の両溝切り装置を単一のアクチュエータによって同時一体に昇降させることができ、構成の簡素化が図られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、左右二条一対の作溝器が互いに干渉し合うことなく、走行中の地面の状況変化に追従して自在に上下動し、前記作溝器の進入角度を常に一定に維持し、作溝の自動調整が行われる。さらに、地面に対する作溝器の押圧力及び進入角度の調整が容易且つ自由であり、したがって、形成する溝の深さの調整が容易である。また、左右後輪の跡を消して溝を形成することができ、その他、装置の簡素化を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための一形態を説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る溝切り装置を搭載した走行機体の左側面図、図2は、同平面図、図3は、本発明の一実施の形態に係る溝切り装置の収納状態を示す左側面部分図、図4は、引っ張り力調整自在のスプリング及び作溝器部の拡大斜視図である。
【0016】
図中、1は、ステアリングハンドル等の操縦装置30を備えた乗用四輪形の走行機体であり、本発明の溝切り装置40は、前記走行機体1の左右後輪2,2位置の後部の前記走行機体1に取着自在な単一フレーム23に取着搭載される。図面実施例では、該単一のフレーム23の前記左右後輪2,2位置に、それぞれ支柱3,3が起立固定させられ、該支柱3,3にそれぞれ前記溝切り装置40,40が左右で一対をなして支持されている。なお、前記両支柱3,3に取着される構成はそれぞれ同一であるので、以下にその一方の構成を説明する。
【0017】
前記支柱3には、上側平行リンク4,4のそれぞれ一端部4a,4aが枢支され他端部4b,4bが上下動自在に構成される。該他端部4b,4b間に上下方向に伸びる昇降リンク5が枢支連結され、前記走行機体1と前記平行リンク4,4の一方との間に設けられた油圧あるいは電動シリンダ等のアクチュエータ6によって、前記昇降リンク5が昇降作動される。
【0018】
つぎに、該昇降リンク5の下部に、上下方向に伸縮するパンタグラフリンク7が枢支連結される。図面実施例では、前記昇降リンク5の下部が、内側、すなわち、前記左右後輪2方向に所定角度に折り曲げられた折曲片部5aに、前記パンタグラフリンク7を構成する外側平行リンク7a及び内側平行リンク7bの上端部8,8が枢支されている。
【0019】
さらに、前記パンタグラフリンク7を構成する前記内側平行リンク7bの前記上端部8が枢着点8aを越えて上方へ延長された上端該延長部7cの上端7dと前記昇降リンク5の中間点5aとの間に、引っ張り力調整自在のスプリング9が設けられる。
【0020】
なお、該スプリング9の引っ張り力調整は、例えば、図4に示すように、前記スプリング9の一端9aにねじ杆10を連結し、前記内側平行リンク7bの前記上端7dに透孔11を設け、該透孔11に前記ねじ杆10を挿通し、前記透孔11から突出した前記ねじ杆10に調整ナット12を螺合し、該調整ナット12を回して締付ける等して行うことができる。
【0021】
つぎに、前記パンタグラフリンク7の下部に、作溝器13が支持される。該作溝器13は、略船形に構成され、実施例では、前記パンタグラフリンク7の下部に、前記走行機体1の左右方向に首振り自在に支持されている。
【0022】
すなわち、前記パンタグラフリンク7を構成する前記外側平行リンク7aと前記内側平行リンク7bの下端部14,14間に、前記垂直昇降リンク5の折曲部5aと平行を保って上下動リンク15が枢支され、該上下動リンクの15の下方延長部15aに垂直軸16を下向きに連結し、該垂直軸16を、前記作溝器13側に設けた軸受部17に嵌合し、抜け落ちることが無く、左右方向に所定角度(例えば、左右へそれぞれ35°程度)で首振り自在であり、且つ着脱自在に取り付けられている。
【0023】
さらに、実施例では、前記作溝器13は、地面Gに対する進入角度が調整自在に構成されている。すなわち、図4に示すように、前記軸受部17に固着されたブラケット18に、前記作溝器13の本体側に設けたブラケット19が重合させられ、両ブラケット18,19の前方適位置に支軸20が貫通保持され、前記本体側ブラケット19に後側に複数の調整孔21が前記支軸20を中心とする円弧状に形成されている。また、該複数の調整孔21が対応する前記軸受部側ブラケット18には、図示されていないが、貫通孔が一個設けられている。図中、22は調整ピンである。
【0024】
前記構成において、前記調整ピン22を抜き取ると、前記作溝器13の本体は、前記支軸20を中心に、その後方が上下動する。その後、前記複数の調整孔21の一つを選択して、前記調整ピン22を前記軸受部側ブラケット18の前記貫通孔に挿通し、固定することによって、図示例の場合には、三段階に前記作溝器13の地面Gに対する進入角度を調整することができる構成になっている。なお、24は、前記作溝器13を中央位置に固定する首振り固定ピンである。
【0025】
前記構成において、格納あるいは移動時には、図3に示すように、前記アクチュエータ6が伸長させられ、その結果、前記上側平行リンク4,4の前記他端部4b,4bが上昇させられ、該他端部4b,4bの上昇に伴って、前記パンタグラフリンク7が引き上げられて、前記作溝器13が作業時形態を保ったままの状態(水平状態)で地面Gから十分に離れた位置まで上昇させられている。
【0026】
つぎに、作溝開始時には、図1に示すように、前記アクチュエータ6が収縮させられ、前記作溝器13が接地される。さらに、溝切りを行う地面Gの形状、硬さ等の状況に合わせて、前記スプリング9の引っ張り力が調整され、さらに、必要に応じて前記作溝器13の地面Gに対する進入角度が調整され、前記走行機体1を走行させて所望の形態の溝Dの溝切りが行われる。
【0027】
前記溝切り作業において、本発明では、左右二条一対の前記作溝器13,13が個別に作動するので、互いに干渉することがない。すなわち、それぞれの作溝器13が、前記パンタグラフ7の作用によって地面Gの状況に追従して垂直に上下動する。したがって、地面Gの状況が異なる場合に、一方の作溝器13による溝Dの深さが他方の前記作溝器13による溝Dの深さ等に影響を与えることがなく、さらに、地面Gに対する進入角度を一定に保って、均一深さの作溝が自動調整のもとに行われる。また、左右いずれか一方のみでの作溝もできる。
【0028】
なお、例えば、前記左右の昇降リンク5,5を適宜の手段で連結せしめれば、単一のアクチュエータ6で、左右の作溝器13,13を同時に昇降させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態に係る溝切り装置を搭載した走行機体の左側面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る溝切り装置を搭載した走行機体の平面図である
【図3】本発明の一実施の形態に係る溝切り装置の収納状態を示す左側面部分図である。
【図4】引っ張り力調整自在のスプリング及び作溝器部の拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 走行機体
2,2 左右後輪
4,4 上側平行リンク
4a,4a (上側平行リンクの)一端部
4b,4b (上側平行リンクの)他端部
5 昇降リンク
5a (昇降リンクの)下部
7 パンタグラフリンク
7b (パンタグラフリンクの)内側平行リンク
7c (内側平行リンクの)上端延長部
9 スプリング
13 作溝器
23 単一フレーム
G 地面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(1)の左右後輪(2,2)位置後部に、それぞれ一端部(4a,4a)が前記走行機体(1)に枢支され他端部(4b,4b)が上下動自在とされた左右一対の上側平行リンク(4,4)と、該上側平行リンク(4,4)の前記他端部(4b,4b)間に枢支連結された昇降リンク(5)と、該昇降リンク(5)の下部(5a)に枢支連結されて上下方向に伸縮するパンタグラフリンク(7)と、該パンタグラフリンク(7)の下部に支持された作溝器(13)と、からなることを特徴とする溝切り装置。
【請求項2】
前記パンタグラフリンク(7)を形成する内側平行リンク(7b)の上端延長部(7c)と前記昇降リンク(5)との間に引っ張り力調整自在のスプリング(9)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の溝切り装置。
【請求項3】
前記作溝器(13)が、前記パンタグラフリンク(7)の下部に、前記走行機体(1)の左右方向に首振り自在に支持されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の溝切り装置。
【請求項4】
前記左右後輪(2,2)位置にそれぞれある左右一対の前記上側平行リンク(4,4)を単一のフレーム23に取着したことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の溝切り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−143531(P2007−143531A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345749(P2005−345749)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000141990)株式会社共立 (110)
【Fターム(参考)】