説明

溶接品質の評価方法

【課題】 溶接部にスパッタなどの付着物が存在する場合に、溶接部の溶接品質を正しく評価できる溶接品質の評価方法を提供する。
【解決手段】 光照射式の凹凸測定器により取得した溶接部の表面の凹凸情報を、溶接ビードに平行な方向にローパスフィルタ処理して溶接部に存在するスパッタなどの付着物によるノイズを除去し(ステップ2)、このフィルタ処理済みの凹凸データを用いて、溶接ビードに垂直な面内における左右に位置する母材の接線をそれぞれ求め(ステップ3)、溶接ビードに垂直な方向の凹凸情報と左右の各母材の接線とから、溶接ビード全長にわたって該溶接ビードのビード端を算出し(ステップ4)、前記算出したビード端,母材の接線,凹凸情報のうち、少なくともビード端を用いて求めた溶接部の外観形状の特徴量に基づいて、溶接部の溶接品質を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は溶接品質の評価方法、詳しくは平面部材からなる母材を平行に接合する溶接部の溶接品質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接部の溶接品質の評価方法としては、溶接部を構成する溶接ビードおよびその周辺の母材部に光を照射して光切断線を撮像することにより、あるいはレーザスキャン式の2次元変位センサにより、溶接部の表面の凹凸情報を得て、この凹凸情報から溶接ビードの幅や高さ,アンダカットなどを求めて、予め設定された評価基準によりこれら外観形状値の評価をおこなう溶接品質の評価方法が知られている(たとえば、特許文献1および2および非特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平5−87539号公報
【特許文献2】特開2005−14026号公報
【非特許文献1】鹿児島県工業技術センター研究報告、鹿児島県工業技術センター、2002年10月1日、第15号、P.43−46
【0003】
ところが上記各文献記載の評価方法においては、溶接時に発生し溶接部に付着したスパッタや母材表面に付着したスケールなどの付着物は、凸部データとして溶接部の表面形状の凹凸情報にそのまま取込まれてしまうので、たとえば溶接ビードの幅が実際の幅より大きく算出されるなど、外観形状値に誤差を生じ、溶接品質を正しく評価できないという問題点があり、さらにスパッタなどの付着物の有無やその量などは、溶接品質の評価事項として採用されておらず、スパッタなどの付着物に関して溶接品質の正しい評価がおこなわれていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は上記の点にかんがみてなされたもので、溶接部にスパッタなどの付着物が存在する場合に、溶接部の溶接品質を正しく評価できる溶接品質の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の溶接品質の評価方法は、平面部材からなる母材を平行に接合する溶接部の溶接品質の評価方法であって、前記溶接部を構成する溶接ビードおよび該溶接ビードを挟んで左右に位置する前記母材の所定領域について、光照射式の凹凸測定器により溶接部の表面の凹凸情報を取得し、前記取得した凹凸情報を、前記溶接ビードに平行な方向にローパスフィルタ処理して前記溶接部に存在するスパッタなどの付着物によるノイズを除去し、このフィルタ処理済みの凹凸データを用いて、前記溶接ビードに垂直な面内における前記左右に位置する前記母材の接線をそれぞれ求め、前記溶接ビードに垂直な方向の前記凹凸情報と前記左右の各母材の接線とから、前記溶接ビード全長にわたって該溶接ビードのビード端を算出し、前記算出したビード端,母材の接線,凹凸情報のうち、少なくともビード端を用いて求めた前記溶接部の外観形状の特徴量に基づいて、前記溶接部の溶接品質を評価することを特徴とする。
【0006】
この請求項1に記載の発明によれば、溶接部の表面の凹凸情報をローパスフィルタ処理して得たスパッタなどの付着物によるノイズを除去した凹凸データをもとに、溶接部の外観形状の特徴量を求めて、この特徴量に基づいて溶接部の溶接品質を評価するので、スパッタなどの付着物による影響を殆ど受けることなく外観形状の特徴量を精度よく算出でき、溶接部にスパッタなどの付着物が存在する場合に、溶接部の溶接品質を正しく評価できるのである。
【0007】
また請求項2に記載の溶接品質の評価方法は、請求項1に記載の溶接品質の評価方法であって、前記溶接部の外観形状の特徴量は、溶接ビードの幅,アンダーカット,溶接ビードの高さ,溶接ビードの直進性,溶接ビードの波目の周期性の少なくともいずれか一つであることを特徴とするものである。
【0008】
この請求項2に記載の発明によれば、請求項2に列挙した溶接部の外観形状の各特徴量を、スパッタなどの付着物による影響を殆ど受けることなく精度よく算出でき、溶接部にスパッタなどの付着物が存在する場合に、溶接部の溶接品質を正しく評価できるのである。
【0009】
また請求項3に記載の溶接品質の評価方法は、平面部材からなる母材を平行に接合する溶接部の溶接品質の評価方法であって、前記溶接部を構成する溶接ビードおよび該溶接ビードを挟んで左右に位置する前記母材の所定領域について、光照射式の凹凸測定器により溶接部の表面の凹凸情報を取得し、前記取得した凹凸情報を、前記溶接ビードに平行な方向にローパスフィルタ処理して前記溶接部に存在するスパッタなどの付着物によるノイズを除去し、このフィルタ処理済みの凹凸データを用いて、前記溶接ビードに垂直な面内における前記左右に位置する前記母材の接線をそれぞれ求め、前記左右の各母材の接線から母材の角変形を算出し、前記算出した母材の角変形に基づいて、前記溶接部の溶接品質を評価することを特徴とする。
【0010】
この請求項3に記載の発明によれば、溶接部の表面の凹凸情報をローパスフィルタ処理して得たスパッタなどの付着物によるノイズを除去した凹凸データをもとに、母材の角変形を算出し、この角変形に基づいて溶接部の溶接品質を評価するので、スパッタなどの付着物による影響を殆ど受けることなく母材の角変形を精度よく算出でき、溶接部にスパッタなどの付着物が存在する場合に、溶接部の溶接品質を正しく評価できるのである。
【0011】
また請求項4に記載の溶接品質の評価方法は、平面部材からなる母材を平行に接合する溶接部の溶接品質の評価方法であって、前記溶接部を構成する溶接ビードおよび該溶接ビードを挟んで左右に位置する前記母材の所定領域について、光照射式の凹凸測定器により表面の凹凸情報を取得し、前記取得した凹凸情報を、前記溶接ビードに平行な方向にハイパスフィルタ処理して前記溶接部に存在するスパッタなどの付着物の凸部データを取得し、前記凸部データから前記溶接ビード全長にわたって求めた凸部画像に基づいて、前記溶接部の付着物の評価をおこなうことを特徴とする。
【0012】
この請求項4に記載の発明によれば、溶接部の表面の凹凸情報をハイパスフィルタ処理して得た凸部データをもとに、凸部画像を求めてこの凸部画像に基づいて付着物の評価をおこなうので、精度よく検出・算出した前記凸部画像により、付着物を品質評価の対象として溶接品質の評価をおこなうことができ、溶接部にスパッタなどの付着物が存在する場合に、溶接部の溶接品質を正しく評価できるのである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したようにこの発明によれば、溶接部にスパッタなどの付着物が存在する場合に、溶接部の溶接品質を正しく評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下図1〜図23により、この発明の実施の形態の一例を説明する。先ず図1は溶接品質の評価方法の全体を示すフローチャートで、ステップ1の凹凸情報取得は、図2に示すように、平板状の母材11,12の突合せ溶接により得られた溶接品Wの溶接部、すなわち溶接ビード13およびこの左右に位置する母材11,12の所定領域について、光照射式の凹凸測定器14により、溶接部の表面の凹凸情報を取得する。なお図中、座標軸として、溶接ビード13に垂直な方向にX軸を、同じく平行な方向にY軸を、XY面に垂直な方向にH軸を、それぞれ設定してある。また18はスパッタなどの付着物である。
【0015】
上記凹凸測定器14としてこの例ではレーザスキャン式2次元変位センサを用いて、X方向の所定範囲についてH方向の凹凸量を測定し、凹凸測定器14の出力信号はアンプ15を経てコンピュータ16へ導入し、コンピュータ16内に備えたメモリに記憶させると共に、コンピュータ16は走査制御器17および図示しない駆動機構を介して、凹凸測定器14をY方向に走査し、この凹凸測定器14により所定領域にわたって凹凸量の測定をおこなう。これによって図3に示すようにm×n個の高さデータh11〜hmnからなる凹凸情報が取得される。
【0016】
このようにして得た凹凸情報を、ステップ2(図1)において、溶接ビードに平行な方向(Y方向)にローパスフィルタ処理する。図4はこのステップ2の詳細な処理手順を示し、ステップ1で取得した凹凸情報から、Y方向のデータ列を処理対象とし、X座標j=1のデータ列、すなわち図3における左端のh11〜h1nのデータ列に対してローパスフィルタ処理してメモリに格納し、以下これをm個の各データ列に対しておこなう(ステップ22〜25)。これらのデータ処理はコンピュータ16内のCPUによりおこなうものであり、以下他のステップも同様である。
【0017】
このステップ2のローパスフィルタ処理により、ステップ1で取得した凹凸情報から、凹凸が急激に変化する成分(高周波成分)であるスパッタや表面上のスケールなどの付着物18によるノイズが除去されるので、後述する各データ処理における誤差誘発要因が除去されるのである。なお、以下、溶接ビードの凹凸の情報を全て「凹凸データ」と呼び、特にフィルタ処理後のデータについては、「フィルタ処理ずみの凹凸データ」と呼ぶ。
【0018】
次にステップ3(図1)において、ステップ2によるローパスフィルタ処理ずみの凹凸データから、溶接ビードに垂直な面(XH面)内における母材11,12の接線を求める。
【0019】
図5および図6はこのステップ3の詳細な処理手順を示し、図6に示すように母材11に対してX=a〜bにわたる左側接線検出領域を、母材12に対してX=c〜dにわたる右側接線領域を、それぞれ設定してコンピュータ16に入力し(ステップ31)、先ずX=a〜bの範囲のX方向の各データ列から近似直線、すなわち左側母材接線LLを算出し、この近似直線のデータ列をメモリに格納する処理を、Y座標k=1〜nにわたって繰返し(ステップ33〜36)、次にX=c〜dの範囲のX方向の各データ列に対して同様な処理、すなわち右側母材接線LRの算出とそのデータ列のメモリへの格納とをおこなう(ステップ38〜41)。
【0020】
上記の近似直線の算出は、最小自乗法により行ない、求めた直線式に基づいて、各X値に対応したH方向の値のデータ列を、直線データ列として記憶する。求めた左側母材接線LL,右側母材接線LRの一例を、図8に図示してある。これら各母材接線は、前述のようにステップ2によるローパスフィルタ処理ずみの凹凸データから求めたものであるので、スパッタなどの付着物による影響を殆ど受けることなく正確な接線として算出されるのである。なお、母材接線を求める所定領域(X=a〜b,c〜dの範囲)は、予め設定されている。
【0021】
次にステップ4(図1)において、溶接ビードに垂直な方向の凹凸データと、ステップ3で得た母材接線から、溶接ビードのビード端を算出する。図7および図8はこのステップ4の詳細な処理手順を示し、ビード上に暫定的に設定した基準点(X=e)より左側の範囲において、X方向のデータ列(前記ステップ2によるローパスフィルタ処理前の凹凸データ列)と左側母材近似直線(接線)LLのデータ列との交点の検出と、その交点の最大X座標XLおよび該座標位置におけるH方向値HLのメモリへの格納処理を、Y座標k=1〜nにわたって繰返す(ステップ52〜55)。次に上記基準点より右側の範囲において、X方向の上記と同じデータ列と右側母材近似直線(接線)LRとの交点の検出と、その交点の最小X座標および該座標位置におけるH方向値のメモリへの格納処理を、同様に繰返す(ステップ57〜60)。ここでの交点は、2つのデータ列の差が所定閾値範囲内のものを言う。つまり、凹凸データのうち、母材部分にあたるデータのほとんどは、上述の処理で求めた母材接線上に乗るため、ここで言う交点となる。これに対し、凹凸データのうち、溶接部分にあたるデータは、母材接線上には乗らない。よって、溶接ビードから左側部分に対しては、X=1〜eの範囲における交点のうち、X座標最大のものが左側ビード端となる。なお、凹凸データ内に、スパッタなどの凸部分データがあっても、複数交点の最大値を検出するため、正確なビード端を算出することができる。溶接ビードから右側部分に対しても、同様に考え、X座標最小のものが右側ビード端となる。なお、基準点(X=e)は、溶接ビード幅内(略中央)に暫定的に設定している。
【0022】
このようにして得たy=1〜nの各データ列における左側ビード端および右側ビード端の各交点座標値は、ステップ3で得た正確な母材近似直線(接線)のデータをもとにして算出されたものであり、前記ローパスフィルタ処理前の凹凸データを用いてもビード端は正確な座標値として算出され、後続の各ステップでの溶接部の外観形状特徴量の正確な算出を可能とするものである。
【0023】
次にステップ5(図1)において、前記各ステップで算出したビード端,凹凸データ,母材接線を用いて、溶接ビードのビード幅,アンダーカット,溶接ビードの高さ,溶接ビードの直進性に関するデータの算出と、その評価をおこなう。また、各列(ライン)毎に、母材の接線と凹凸データとからビード端を求めるため、母材全体の面の方程式からビード端を求める場合に比べて、より一層正確な外観特徴量を算出することができる。
【0024】
図9および図10はこのうちのビード幅に関する詳細な処理手順を示し、ステップ4で求めた右側および左側のビード端のX座標の差としてビード幅BWを算出しメモリに格納する処理を、Y座標k=1〜nにわたって繰返し(ステップ62〜65)、得られた全ビード幅データBWの平均と分散によりビード幅を評価する(ステップ66)。
【0025】
この評価は、予め定めた評価基準によりおこなうものであり、たとえばビード幅BWの平均値が所定の範囲内にあるときは良、分散値が所定の閾値より大のときはばらつきが大として不良とする、などの評価を、図示しない判定ルーチンなどを利用しておこなうものである。なおこの平均と分散による評価は、一方のみについておこなってもよく、以下他のステップにおいても同様とする。
【0026】
また図11および図12は、ステップ5におけるアンダーカットに関する詳細な処理手順を示し、X方向のデータ列と左側母材近似直線(接線)LLのデータ列との差を計算し、左側ビード端以下の範囲(X=1〜XL)におけるその最大値UCLを左側アンダーカットとしてメモリに格納する処理を、Y座標k=1〜nにわたって繰返し(ステップ72〜75)、次にX方向のデータ列と右側母材近似直線(接線)LRのデータ列との差を計算し、右側ビード端以上の範囲(X=XR〜m)におけるその最大値UCRを右側アンダーカットとしてメモリに格納する処理を、Y座標k=1〜nにわたって繰返す(ステップ77〜80)。具体的には直線データ列LL,LRの値から対応するX方向のデータ列の値を差し引く処理を行なう。差し引いた値の最大値をアンダーカットと判断する。例えば溶接ビード部分に関しては、差し引いた値は“マイナス”となり、アンダーカットとは判断されない。そして得られた左側アンダーカットUCLと、右側アンダーカットUCRに対して、それぞれ平均と分散により、前記ステップ66と同様にしてアンダーカットの評価をおこなう(ステップ81)。
【0027】
また図13および図14は、ステップ5におけるビード高さに関する詳細な処理手順を示し、ビード幅内の凹凸データの最大値HMを検出し、この最大値HMと左側ビード端の高さHLと右側ビード端の高さHRとからビード高さBHを算出しメモリに格納する処理を、Y座標k=1〜nにわたって繰返し(ステップ92〜96)、得られた全ビード高さBHの平均と分散により、前記ステップ66と同様にしてビード高さを評価する(ステップ97)。
【0028】
また図15および図16は、ステップ5におけるビードの直進性に関する詳細な処理手順を示し、右側および左側のビード端のX座標の平均値としてビードセンター(ビード中心)BSを算出し、メモリに格納する処理を、Y座標k=1〜nにわたって繰返し(ステップ102〜105)、得られた全ビードセンター値BSの分散値が、所定の閾値より大のとき、ビードセンターの蛇行が大きく直進性不良と評価する。
【0029】
次にステップ6(図1)においては、溶接ビードの凹凸データをフーリエ変換し、そのパワースペクトル情報より溶接ビードの波目の均一性の数値化とその評価をおこなう。
【0030】
図17および図18は、このステップ6の詳細な処理手順を示し、前記ステップ103,104で求めたビード中心BSにおけるビード高さを凹凸データから取得して、Y座標k=1〜nに対するこの凹凸データ列を離散フーリエ変換し(ステップ111,112)そのパワースペクトルにより波目の周期性の有無を評価する(ステップ113)。
【0031】
図18は、上記のフーリエ変換により得たパワースペクトルの例を示し、図18(a)のように閾値Thを越える単独ピーク有りの場合は、ビードの周期性有りと評価し、同図(b)のように閾値Thを越える単独ピークなしの場合は、ビードの周期性なしと評価するものである。例えば、周波数A(Hz)がB(mm)ごとの周期に対応する場合であれば、その周波数A(Hz)にピークが出ることは、B(mm)ごとの一定周期で溶接が行なわれていることを表す。こうした所定周期を設定することで、溶接品質を評価することもできる。
【0032】
次にステップ3から分岐したステップ7(図1)においては、ステップ3で得た母材接線から、母材の角変形を算出し評価する。図19および図20はこのステップ7の詳細な処理手順を示し、前記ステップ34,35で得た左側母材近似直線(接線)LLのデータ列の傾きALを計算しメモリに格納する処理を、Y座標k=1〜nにわたって繰返し(ステップ122〜125)、得られた全傾きデータの平均傾きALavを計算する(ステップ126)。次いで同様に前記ステップ39,40で得た右側母材近似直線(接線)LRのデータ列の傾きARを計算してメモリに格納する処理を、Y座標k=1〜nにわたって繰返し(ステップ128〜131)、得られた全傾きデータの平均傾きARavを計算する(ステップ132)。そしてこれら平均傾きALavとARavの差と閾値との対比により母材の角変形の評価をおこなう(ステップ133)。
【0033】
以上のように、上記各ステップ5〜7における溶接ビードの幅,アンダーカット,溶接ビードの高さ,溶接ビードの直進性,溶接ビードの波目の周期性,母材の角変形などの各種の溶接部の外観形状の特徴量の算出および評価は、ステップ2によるローパスフィルタ処理によりスパッタなどの付着物によるノイズを除去したフィルタ処理ずみの凹凸データより求めた母材接線をもとにしておこなうものであるので、スパッタなどの付着物による影響を殆ど受けることなく外観形状の特徴量を精度良く算出し溶接品質を正しく評価できるのである。
【0034】
一方、図1におけるステップ8においては、ステップ1で取得した凹凸情報を、溶接ビードに平行な方向(Y方向)にハイパスフィルタ処理し、スパッタなどの付着物を検出しその評価をおこなう。
【0035】
図21および図22はこのステップ8の詳細な処理手順を示し、ステップ1で得た凹凸情報から、Y方向のデータ列を処理対象とし、前記ステップ2と同様に、X座標j=1〜mの各データ列に対してハイパスフィルタ処理をおこない、このハイパスフィルタ処理後のデータ列をメモリに格納する(ステップ142〜145)。
【0036】
そしてステップ146において、上記各ステップで得られたフィルタ処理ずみのデータ列を二値化(一定閾値を超えるデータを検出)することによりスパッタなどの付着物の凸部データを取得し、この凸部データから溶接ビード全長にわたって求めた図22に示す各凸部画像19の塊個数と総面積の閾値等の評価基準との対比により良否を判定することにより、スパッタなどの付着物18に起因する溶接品質の評価をおこなう。
【0037】
これによって、スパッタなどの付着物を評価対象として、溶接部の溶接品質を正しく評価することができるのである。
【0038】
以上は、溶接品Wの表面側についてその溶接部の溶接品質の評価をおこなう場合を説明したが、溶接品Wの裏面側についても、その突合せ溶接の溶け込みの良否等に関し溶接品質の評価おこなうことができ、図23はこの場合の評価方法の全体を示すフローチャートである。
【0039】
この裏面側について溶接品質の評価をおこなう場合は、図23に示すように、前記の例の図1に示すフローチャートと同じステップ1〜4により情報処理をおこない、ステップ5においてはビード高さのみを求めて評価する。このビード高さが負の値として検出された場合は、溶け込み不良と評価される。
【0040】
またこの発明は、上記の突合せ溶接により得られた溶接品の溶接部の溶接品質の評価の他に、重ね溶接により得られた溶接品(重ね継手)の溶接部の溶接品質の評価にも適用できるものである。図24はその一例を示し、図中、前記各図と同一または相当部分には、同一符号を示してある。図24(a)に示すように母材11,12の重ね合せ溶接して溶接ビード13を形成した溶接品Wに対して、図2と同様な装置により取得した凹凸情報を前記と同様にローパスフィルタ処理後、各母材接線と凹凸情報(凹凸データ)とから、図24(b)に例示するように、たとえば左右の各ビード端,ビード幅,ビード高さ,アンダーカットなどの外観形状の各特徴量を前記の例と同様に精度よく算出することができ、これらの特徴量に基づいて溶接部の溶接品質を正しく評価できるのである。
【0041】
この発明は上記の例に限定されるものではなく、たとえば凹凸測定器としては、光切断線を撮像して凹凸情報を得る光切断方式の凹凸測定器を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の実施の形態の一例を示す溶接品質の評価方法の全体を示すフローチャートである。
【図2】図1の方法に用いられる測定装置の斜視図である。
【図3】図2の装置において凹凸測定器により得た凹凸情報の説明図である。
【図4】図1のステップ2の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図1のステップ3の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図5のステップ31における検出領域を示す斜視図である。
【図7】図1のステップ4の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】図7の処理手順による算出値を示すX方向のビード凹凸線図である。
【図9】図1のステップ5におけるビード幅に関する処理手順を示すフローチャートである。
【図10】図9の処理手順による算出値を示すX方向のビード凹凸線図である。
【図11】図1のステップ5におけるアンダーカットに関する処理手順を示すフローチャートである。
【図12】図11の処理手順による算出値を示すX方向のビード凹凸線図である。
【図13】図1のステップ5におけるビード高さに関する処理手順を示すフローチャートである。
【図14】図13の処理手順による算出値を示すX方向のビード凹凸線図である。
【図15】図1のステップ5におけるビードの直進性に関する処理手順を示すフローチャートである。
【図16】図15の処理手順による算出値を示すX方向のビード凹凸線図である。
【図17】図1のステップ6の処理手順を示すフローチャートである。
【図18】図17の処理手順によるパワースペクトルを示す線図である。
【図19】図1のステップ7の処理手順を示すフローチャートである。
【図20】図19の処理手順により算出した母材の傾斜角を示す断面図である。
【図21】図1のステップ8の処理手順を示すフローチャートである。
【図22】図21の処理手順で得た凸部画像の説明図である。
【図23】この発明の実施の形態の他の例を示す図1相当図である。
【図24】この発明の実施の形態のさらに他の例を示す溶接品の斜視図(a)、および溶接部のX方向のビード凹凸線図(b)である。
【符号の説明】
【0043】
11…母材、12…母材、13…溶接ビード、14…凹凸測定器、16…コンピュータ、18…付着物、19…凸部画像、W…溶接品。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面部材からなる母材を平行に接合する溶接部の溶接品質の評価方法であって、
前記溶接部を構成する溶接ビードおよび該溶接ビードを挟んで左右に位置する前記母材の所定領域について、光照射式の凹凸測定器により溶接部の表面の凹凸情報を取得し、
前記取得した凹凸情報を、前記溶接ビードに平行な方向にローパスフィルタ処理して前記溶接部に存在するスパッタなどの付着物によるノイズを除去し、
このフィルタ処理済みの凹凸データを用いて、前記溶接ビードに垂直な面内における前記左右に位置する前記母材の接線をそれぞれ求め、
前記溶接ビードに垂直な方向の前記凹凸情報と前記左右の各母材の接線とから、前記溶接ビード全長にわたって該溶接ビードのビード端を算出し、
前記算出したビード端,母材の接線,凹凸情報のうち、少なくともビード端を用いて求めた前記溶接部の外観形状の特徴量に基づいて、前記溶接部の溶接品質を評価することを特徴とする溶接品質の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接品質の評価方法であって、
前記溶接部の外観形状の特徴量は、溶接ビードの幅,アンダーカット,溶接ビードの高さ,溶接ビードの直進性,溶接ビードの波目の周期性の少なくともいずれか一つである、溶接品質の評価方法。
【請求項3】
平面部材からなる母材を平行に接合する溶接部の溶接品質の評価方法であって、
前記溶接部を構成する溶接ビードおよび該溶接ビードを挟んで左右に位置する前記母材の所定領域について、光照射式の凹凸測定器により溶接部の表面の凹凸情報を取得し、
前記取得した凹凸情報を、前記溶接ビードに平行な方向にローパスフィルタ処理して前記溶接部に存在するスパッタなどの付着物によるノイズを除去し、
このフィルタ処理済みの凹凸データを用いて、前記溶接ビードに垂直な面内における前記左右に位置する前記母材の接線をそれぞれ求め、
前記左右の各母材の接線から母材の角変形を算出し、
前記算出した母材の角変形に基づいて、前記溶接部の溶接品質を評価することを特徴とする溶接品質の評価方法。
【請求項4】
平面部材からなる母材を平行に接合する溶接部の溶接品質の評価方法であって、
前記溶接部を構成する溶接ビードおよび該溶接ビードを挟んで左右に位置する前記母材の所定領域について、光照射式の凹凸測定器により表面の凹凸情報を取得し、
前記取得した凹凸情報を、前記溶接ビードに平行な方向にハイパスフィルタ処理して前記溶接部に存在するスパッタなどの付着物の凸部データを取得し、
前記凸部データから前記溶接ビード全長にわたって求めた凸部画像に基づいて、前記溶接部の付着物の評価をおこなうことを特徴とする溶接品質の評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−164482(P2008−164482A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355421(P2006−355421)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】